(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】安全装置、および、安全装置を備えた飛行体
(51)【国際特許分類】
F15B 15/19 20060101AFI20241028BHJP
B64D 17/62 20060101ALI20241028BHJP
【FI】
F15B15/19
B64D17/62
(21)【出願番号】P 2020178468
(22)【出願日】2020-10-23
【審査請求日】2023-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127203
【氏名又は名称】奈良 泰宏
(72)【発明者】
【氏名】芦田 祥一
(72)【発明者】
【氏名】福元 麻衣子
(72)【発明者】
【氏名】大坪 秀礎
(72)【発明者】
【氏名】中村 博
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-011079(JP,A)
【文献】特開2009-236313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 15/19
B64D 17/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛行体用安全装置に使用されるアクチュエータであって、
本体部と、前記本体部と接続されているとともに前記本体部より幅が小さい棒状部と、を有した摺動部材と、
前記本体部に一端部が接触した状態で、前記棒状部の一部の周囲に設けられた管状部材と、
前記摺動部材および前記管状部材を摺動可能に内部に収容するシリンダと、
前記シリンダの一端部に設けられ、作動時に当該摺動部材を前記内部から外方に突出させる孔部を有し、前記作動時に前記管状部材の移動を前記シリンダ内に制限するストッパー部材と、
前記シリンダの他端に設けられ、前記摺動部材を摺動させる動力を発生する動力源と、
を備え、
前記管状部材は、塑性変形する材料であるとともに、引張強度が前記摺動部材および前記ストッパー部材よりも低い材料からなるものであることを特徴とするアクチュエータ
と、
少なくとも前記シリンダの一部を覆うように配置された有底筒状部と、前記有底筒状部の開口部または側面の途中部分から外部に向けて突出するように形成された鍔状部とを有し、前記摺動部材により一方向に押し上げられる押し上げ部材と、
前記押し上げ部材の前記鍔状部により支持されつつ押し上げられる射出物と、
を備えていることを特徴とする安全装置。
【請求項2】
前記作動時において、前記管状部材が前記ストッパー部材に衝突し、前記管状部材が塑性変形した際、前記管状部材が、前記シリンダの内壁部に接触しないように、前記管状部材と前記シリンダの内壁部とが所定距離以上離間していることを特徴とする請求項1に記載の
安全装置。
【請求項3】
前記管状部材の前記ストッパー部材と衝突する側の開口部内部に、テーパ部が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の
安全装置。
【請求項4】
本体部と、前記本体部と一体化しているとともに前記本体部より幅が小さい棒状部と、前記棒状部の一部の周囲に固定された少なくとも1つの突出部と、を有した摺動部材と、
前記摺動部材を摺動可能に内部に収容するシリンダと、
前記シリンダの一端に設けられ、作動時に当該摺動部材が前記内部から外方に突出するための孔部を有し、前記作動時に前記突出部が衝突するストッパー部材と、
前記シリンダの他端に設けられ、前記摺動部材を摺動させる動力を発生する動力源と、
を備え、
前記突出部は、作動時に前記ストッパー部材と衝突した際、前記棒状部に固定された箇所がせん断破壊される強度で前記棒状部に固定されているものであることを特徴とするアクチュエータ
と、
少なくとも前記シリンダの一部を覆うように配置された有底筒状部と、前記有底筒状部の開口部または側面の途中部分から外部に向けて突出するように形成された鍔状部とを有し、前記摺動部材により一方向に押し上げられる押し上げ部材と、
前記押し上げ部材の前記鍔状部により支持されつつ押し上げられる射出物と、
を備えていることを特徴とする安全装置。
【請求項5】
前記摺動部材の少なくとも一部と当接するリング状のシール部材が前記孔部の内壁面の一部に設けられており、
前記摺動部材の外部表面のうち、少なくとも、前記摺動部材を組み付ける際に前記シール部材と接触して擦れる部分が、滑らかな形状に形成されていることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の
安全装置。
【請求項6】
請求項
1~5のいずれか1項に記載の安全装置を備えており、
前記射出物は、パラシュートまたはパラグライダーであることを特徴とする飛行体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータ、当該アクチュエータを備え、パラシュート又はパラグライダー等の射出物を射出する安全装置、および、当該安全装置を備えた飛行体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自律制御技術および飛行制御技術の発展に伴って、例えばドローンと呼ばれる複数の回転翼を備えた飛行体の産業上における利用が加速しつつある。ドローンは、例えば複数の回転翼を同時にバランスよく回転させることによって飛行し、上昇および下降は回転翼の回転数の増減によって行い、前進および後進は回転翼の回転数の増減を介して機体を傾けることによって成し得る。このような飛行体は今後世界的に拡大することが見込まれている。
【0003】
一方で、上記のような飛行体の落下事故のリスクが危険視されており、飛行体の普及の妨げとなっている。こうした落下事故のリスクを低減するために、安全装置として飛行体用パラシュート装置が製品化されつつある。
【0004】
たとえば、上記パラシュート安全装置の一例として、出願人は、下記特許文献1に係る出願を行っている。この特許文献1の安全装置は、下記特許文献1の
図1に示されるように、ピストン部材(摺動部材)と、ピストン部材を収容し、作動時に当該ピストン部材が外方に突出するための孔部が設けられたシリンダと、ピストン部材により一方向に押し上げられる押し上げ部材と、押し上げ部材により支持されつつ押し上げられる射出物と、ピストン部材をシリンダ内で移動させるガス発生器と、を備え、押し上げ部材は、ピストン部材の移動方向における当該ピストン部材の先端を基準としてピストン部材の末端側に配置された支持部を有している。また、押し上げ部材の底部は、ピストン部材の先端部に固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のような安全装置の場合、アクチュエータの作動の際の衝撃に対する強度を考慮する必要があるので、比較的強度の高い部品を採用する必要がある。しかしながら、比較的強度の高い部品は、厚みなどを大きくする必要があり、重くなりやすいため、特許文献1のような安全装置の重量は比較的大きくなってしまいやすい。このような安全装置の場合、飛行体へ取り付ける場合の重量に関する影響(たとえば、エネルギー消費が早くなり、連続航行時間が短縮されるなど)が出てしまうことがあった。
【0007】
そこで、本発明は、作動の際の衝撃を緩和させつつ、従来よりも軽量化が可能なアクチュエータ、当該アクチュエータを備え、パラシュート又はパラグライダー等の射出物を射出する安全装置、および、当該安全装置を備えた飛行体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 本発明に係る安全装置は、飛行体用安全装置に使用されるアクチュエータであって、本体部と、前記本体部と接続されているとともに前記本体部より幅が小さい棒状部と、を有した摺動部材と、前記本体部に一端部が接触した状態で、前記棒状部の一部の周囲に設けられた管状部材と、前記摺動部材および前記管状部材を摺動可能に内部に収容するシリンダと、前記シリンダの一端部に設けられ、作動時に当該摺動部材を前記内部から外方に突出させる孔部を有し、前記作動時に前記管状部材の移動を前記シリンダ内に制限するストッパー部材と、前記シリンダの他端に設けられ、前記摺動部材を摺動させる動力を発生する動力源と、を備え、前記管状部材は、塑性変形する材料であるとともに、引張強度が前記摺動部材および前記ストッパー部材よりも低い材料からなるものであることを特徴とするアクチュエータと、少なくとも前記シリンダの一部を覆うように配置された有底筒状部と、前記有底筒状部の開口部または側面の途中部分から外部に向けて突出するように形成された鍔状部とを有し、前記摺動部材により一方向に押し上げられる押し上げ部材と、前記押し上げ部材の前記鍔状部により支持されつつ押し上げられる射出物と、を備えていることを特徴とする。
【0009】
(2) 上記(1)の安全装置においては、前記作動時において、前記管状部材が前記ストッパー部材に衝突し、前記管状部材が塑性変形した際、前記管状部材が、前記シリンダの内壁部に接触しないように、前記管状部材と前記シリンダの内壁部とが所定距離以上離間していることが好ましい。
【0010】
(3) 上記(1)または(2)の安全装置においては、前記管状部材の前記ストッパー部材と衝突する側の開口部内部に、テーパ部が形成されていることが好ましい。
【0011】
(4) 別の観点として、本発明の安全装置においては、本体部と、前記本体部と一体化しているとともに前記本体部より幅が小さい棒状部と、前記棒状部の一部の周囲に固定された少なくとも1つの突出部と、を有した摺動部材と、前記摺動部材を摺動可能に内部に収容するシリンダと、前記シリンダの一端に設けられ、作動時に当該摺動部材が前記内部から外方に突出するための孔部を有し、前記作動時に前記突出部が衝突するストッパー部材と、前記シリンダの他端に設けられ、前記摺動部材を摺動させる動力を発生する動力源と、を備え、前記突出部は、作動時に前記ストッパー部材と衝突した際、前記棒状部に固定された箇所がせん断破壊される強度で前記棒状部に固定されているアクチュエータと、少なくとも前記シリンダの一部を覆うように配置された有底筒状部と、前記有底筒状部の開口部または側面の途中部分から外部に向けて突出するように形成された鍔状部とを有し、前記摺動部材により一方向に押し上げられる押し上げ部材と、前記押し上げ部材の前記鍔状部により支持されつつ押し上げられる射出物と、を備えているものであってもよい。
【0012】
(5) 上記(1)~(4)の安全装置においては、前記摺動部材の少なくとも一部と当接するリング状のシール部材が前記孔部の内壁面の一部に設けられており、前記摺動部材の外部表面のうち、少なくとも、前記摺動部材を組み付ける際に前記シール部材と接触して擦れる部分が、滑らかな形状に形成されていることが好ましい。
【0014】
(6) 本発明に係る飛行体は、上記(1)~(5)のいずれかの安全装置を備えており、前記射出物は、パラシュートまたはパラグライダーであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、作動の際の衝撃を緩和させつつ、従来よりも軽量化が可能なアクチュエータ、当該アクチュエータを備え、パラシュート又はパラグライダー等の射出物を射出する安全装置、および、当該安全装置を備えた飛行体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る安全装置を示す断面図である。
【
図2】
図1の安全装置におけるアクチュエータを示す断面図である。
【
図3】
図2のアクチュエータにおけるピストン部材の先端部の一部拡大図である。
【
図4】(a)が
図1の安全装置の作動前の
図2のアクチュエータにおける管状部材の断面図、(b)が
図1の安全装置の作動後の
図2のアクチュエータにおける管状部材の断面図である。
【
図5】
図1の安全装置が適用される飛行体を示す図である。
【
図6】
図2のアクチュエータの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係るアクチュエータを備えた安全装置について、
図1~
図5を参照しながら説明する。
【0018】
図1に示すように、安全装置100は、アクチュエータ1と、アクチュエータ1により一方向(
図1では上方向)に押し上げられる押し上げ部材15と、当該押し上げ部材15により支持されつつ押し上げられる射出物16と、アクチュエータ1、押し上げ部材15、および射出物16を収容する有底円筒状の収容器18と、収容器18の開口端部を閉塞する蓋部21と、を備えている。なお、本実施形態において、射出物16はパラシュート又はパラグライダーである。
【0019】
アクチュエータ1は、摺動部材であるピストン部材10と、当該ピストン部材10を収容し、作動時に当該ピストン部材10が外方(
図1、
図2では上方向)に突出するための孔部13が設けられたシリンダ14と、シリンダ14の一端部がかしめ固定され、収容器18内部の底部中央に取り付けられる基台2(スクイブホルダ)と、ピストン部材10をシリンダ14内で移動させる動力源としてのガス発生器(マイクロガスジェネレータ等)17と、を備えている。
【0020】
ピストン部材10は、シリンダ14の内径とほぼ同じ外径の部分を備える本体部10aと、この本体部10aに接続され、上方に延びかつ本体部10aよりも小径の棒状部10bと、本体部10aおよび棒状部10bの内部に設けられた穴部10cと、棒状部10bの上端部に設けられた雌ねじ部10dと、本体部10aの周方向に設けられた溝部10eと、棒状部10bよりも小径の縮径部10fと、棒状部10bと縮径部10fとの間に形成されているテーパ部10gと、を有している。
【0021】
棒状部10bの少なくとも上端部側は、図示しないが、断面が非円形状に形成されている。ここで、非円形状とは、たとえば、多角形状、楕円形状、星型形状、または、歯車形状、などのことであるが、非円形状であれば、どのような形状のものでも含まれる。また、棒状部10bの下部において、本体部10aに一端部が接触した状態で、管状部材4が嵌設または遊嵌されている。なお、管状部材4の内壁と棒状部10bの外壁との間は、隙間があってもよいが、その隙間としては、後述する衝突時の略均一な圧縮による塑性変形を妨げない程度以内のものであればよい。
【0022】
管状部材4は、
図2に示したように、保持部材5によって、棒状部10bの下部に、一端部が本体部10aに接触した状態で保持されている。また、管状部材4は、塑性変形する材料であるとともに、引張強度がピストン部材10および後述のストッパー部材23(たとえば、鉄、アルミニウム、真鍮、銅などの金属、ステンレス、などの合金、樹脂、など)よりも低い材料(たとえば、アルミニウム、真鍮、などの金属、ステンレスなどの合金、モノマーキャストナイロン、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン4,6などのポリアミド合成樹脂などの樹脂、など)からなる。ここで、保持部材5は、ゴムなどの弾性部材であってもよいし、管状部材4と同様の材料からなるものであってもよく、また、形状はリング状でもよいし、クリップ状であってもよい。
【0023】
また、
図4(a)に示したように、管状部材4の両開口部の内側には、テーパ部4a、4bが形成されている。また、管状部材4が、シリンダ14の内壁部に接触しないように、管状部材4とシリンダ14の内壁部とが所定距離(たとえば、ストッパー部材23に衝突した際に略均一な圧縮によって塑性変形した管状部材4が、シリンダ14の内壁部に接触しない距離)以上離間している。これらにより、管状部材4は、ストッパー部材23に衝突して塑性変形しても、シリンダ14の内壁部に阻害されることなく変形し、ピストン部材10の衝撃を十分に緩和する。
【0024】
穴部10cは、本体部10aの下端部から棒状部10bの途中まで、中心軸に沿って形成されている。これにより、穴部10cが形成されていない場合に比べて、ピストン部材10は軽量化されている。
【0025】
雌ねじ部10dは、棒状部10bの先端部から中心軸に沿って途中まで形成されている。また、雌ねじ部10dには、後述するボルト部材50の雄ねじ部50bを螺合することができる。
【0026】
溝部10eには、周方向にO-リングなどのシール部材11が設けられている。
【0027】
テーパ部10gは、
図3に示したように、棒状部10bと縮径部10fとの間において、滑らかな形状(たとえば、角部がない、丸みのある形状など)となるように形成されている。これにより、後述するO-リングなどのシール部材12への引っ掛かりを抑制でき、シール部材12が傷ついて、性能が低下することを防止できる。また、装置組立時の怪我の抑制にもつながる。
【0028】
シリンダ14内の上部には、ピストン部材10の棒状部10bの一部を取り囲むように配置された略筒状のストッパー部材23が設けられている。すなわち、棒状部10bはストッパー部材23の孔部13に挿通された状態で配されている。また、シリンダ14には、作動時に、空間6内にある空気を外部に放出するための貫通孔14aが設けられている。なお、
図1および
図2において、貫通孔14aは1つしか設けていないが、周方向に複数設けられていてもよい。
【0029】
ストッパー部材23は、管状部材4の移動をシリンダ14内に制限するものであり、外周に沿って設けられた溝部23aと、内周に沿って設けられた溝部23bと、有している。溝部23aは、シリンダ14の他端部をストッパー部材23にかしめ固定するために用いられている。また、溝部23bには、周方向にO-リングなどのシール部材12が設けられている。
【0030】
シリンダ14は、アクチュエータ1のピストン部材10が何かしらの原因で不動となってしまった場合、且つ、アクチュエータ1の初期燃焼容積を小さくした場合に火薬が燃焼し、シリンダ14の耐圧値以上の燃焼圧力が生じた場合(異常事態時)において、シリンダ14の径方向に塑性変形できるように、材料の選定および外周部の肉厚の適宜調整がなされていてもよい。シリンダ14を構成する材料としては、たとえば、鉄、アルミニウム、真鍮、銅などの金属、ステンレス、などの合金が挙げられる。これにより、上記異常事態時において、シリンダ14が径方向に塑性変形するので、O-リングなどのシール部材12のシール性能が低下(緩和)し、シール部材12とシリンダ14の内壁との間に、発生したガスが通過可能な隙間ができる。したがって、この隙間から、上記異常事態時に発生したガスを漏れ出させることで、当該ガスは、貫通孔14aからシリンダ14外部に放出された後、シリンダ14外壁と有底筒状部19内壁との隙間から収容器18内部を経て、通気孔24、25から収容器18外部に放出されることになるので、シリンダ14を破断しないようにすることができる(フェールセーフ機能)。なお、このフェールセーフ機能を有する場合、シリンダ14外壁と有底筒状部19内壁との間には、シリンダ14が径方向に十分に塑性変形できるような空間(隙間)が設けられている。
【0031】
ガス発生器17は、シリンダ14の下方の開口端に圧入された状態で、ピストン部材10の後述の本体部10aの下方に配置されている。また、ガス発生器17のカップ体17aの周囲には、ピストン部材10との間に所定距離を形成するための筒状部材3が設けられている。
【0032】
押し上げ部材15は、金属製(アルミニウムまたは鉄などで、合金であってもよい)、樹脂製、または、樹脂と金属、CFRPもしくは繊維強化樹脂などとの複合材などからなり、
図1に示すように、シリンダ14の一部、つまり当該シリンダ14のうちガス発生器17が配されている側の開口端付近を除く外側の部分を覆うように配置された有底筒状部19と、当該有底筒状部19の開口部にフランジ(鍔状部)として設けられ射出物16を支持する円盤状の支持部20と、を有している。
【0033】
有底筒状部19は、略平板形状または略柱形状(本実施形態では略柱形状)の底部19aと、底部19aの蓋部21側に形成された穴部51と、穴部51よりも径の小さい穴部52(第2穴部)と、穴部52を介して穴部51と連通し、穴部52よりも径の大きい穴部53(第1穴部)と、を有している。穴部51は、ボルト部材50のヘッド部50aの径よりも大きい径を有している。穴部52は、ヘッド部50aの径よりも小さい径を有し、穴部51側から挿入されたボルト部材50の雄ねじ部50bを穴部53側へ案内することができる。穴部53は、棒状部10bの一端部(上端部)の形状と略同一であり、有底筒状部19の底部19aのシリンダ14側に設けられた挿入用開口部53aから棒状部10bの一端部が挿入されることによって、棒状部10bの一端部が嵌合する嵌合部となっている。
【0034】
ボルト部材50は、雄ねじ部50bを、穴部51側から穴部52に挿入し、穴部53の嵌合した棒状部10bの雌ねじ部10dに螺合することによって、棒状部10bと押し上げ部材15とを連結するものである。このとき、棒状部10bの一端部は、非円形状であり、略同一形状の穴部53に嵌合しているので、ボルト部材50を雌ねじ部12aに螺合する際、棒状部10bが共回りすることがない。具体的には、押し上げ部材15とピストン部材10の先端部が非円形で嵌め合いになっているため、ボルト部材50で締結する際に、押し上げ部材15を固定しながら回すことができ、ピストン部材10がガス発生器17の方向に向かって締り、共回りすることなく、締め付けることができる。
【0035】
支持部20は、初期状態で収容器18の底部内面と離間して設けられている。また、支持部20には、作動時において射出物16の底部と支持部20との間で発生する負圧の影響を軽減して射出物16が射出されやすくするための通気孔26を有している。また、支持部20の外周部は、収容器18の内側に接触しないように形成されている。また、支持部20の上面には、射出物16について有底筒状部19の周囲方向への移動を防止する移動防止部材27が少なくとも1つ(本実施形態では8部)設けられている。
【0036】
移動防止部材27は、樹脂製、または、樹脂と金属、CFRPもしくは繊維強化樹脂などとの複合材などからなる略三角形状の部材であり、有底筒状部19を中心として、回転対称となるように複数設けられている。また、これらの移動防止部材27の間ごとに貫通穴26が設けられている。
【0037】
図1に示すように、収容器18の底部には、収容器18内部と外部とを連通する複数の通気孔24が設けられている。また、収容器18の側壁部には、収容器18内部と外部とを連通する複数の通気孔25が設けられている。なお、押し上げ部材15が収容器18内において急速で移動する際には、当該押し上げ部材15と収容器18の底面との間の領域に負圧が生じる。そのため、押し上げ部材15を移動させ難くなる。そこで、上記通気孔24、25を設けることで、負圧現象を低減することができ、押し上げ部材15をスムーズに移動させることが可能となる。
【0038】
また、射出物16は、収容器18内において当該収容器18の内面と押し上げ部材15の有底筒状部19の外側面との間に、たとえば有底筒状部19の外側面を取り巻くように収容されている。また、射出物16は、その外側が収容器18の内側に接触しないように折り畳まれている。なお、射出物16は、たとえば紐(図示略)の一端に接続されており、当該紐の他端は収容器18内部又は後述する飛行体30の機体31に接続される。
【0039】
ガス発生器17は、点火器のみ用いても良いし、点火器およびガス発生剤を備えたガス発生器を用いても良い。また、火薬式の点火器により小型のガスボンベにおける封板を開裂させ、内部のガスを外部へと排出するハイブリッド型、ストアード型のガス発生器を用いてもよい。この場合、ガスボンベ内の加圧ガスとしては、アルゴン、ヘリウム、窒素、二酸化炭素などの不燃性のガスあるいはこれらの混合物を用いることができる。また、加圧ガスが放出される際に確実にピストンを推進させるために、ガス発生剤組成物またはテルミット組成物等からなる発熱体をガス発生器に具備させてもよい。
【0040】
なお、主に、ピストン部材10、シリンダ14、押し上げ部材15、ガス発生器17、などで、射出物16を射出する射出部を構成している。
【0041】
以上のような構成において、安全装置100が搭載されるたとえば飛行体などが落下する際にガス発生器17が作動すると、当該作動により発生するガスの圧力によってピストン部材10がシリンダ14内を上方に推進する。これにより、ピストン部材10の棒状部10bに接続された有底筒状部19を有する押し上げ部材15が収容器18内において上方に推進(突出)する。これによって、蓋部21が外れ、収容器18の開口端部が開放されると共に、射出物16が収容器18内から外方(
図1紙面の上方向)に射出される。このとき、ピストン部材10および管状部材4が上方に移動するが、管状部材4がストッパー部材23に衝突し、略均一な圧縮によって、
図4(a)に示した初期状態から上部の開口部側から開くように拡径して、
図4(b)に示した形状に塑性変形する。これにより、ピストン部材10の動作の安全装置100全体への影響を緩和する。特に、ピストン部材10と接続されている押し上げ部材15への影響を緩和する。そして、射出物16がパラシュート又はパラグライダーである場合には、射出物16は収容器18から射出された後、展開される。
【0042】
なお、安全装置100は、
図5に示したように、飛行体30の機体31に連結部材40を介して連結固定されている。このとき、
図5に示したように、連結部材40は、通気孔24を閉塞しない位置において、収容器18と機体31とを連結している。したがって、飛行体30は、機体31と、当該機体31に結合される安全装置100と、機体31に結合され、当該機体31を推進させる1つ以上の推進機構(たとえばプロペラ等)32と、機体31の下部に設けられた複数の脚部33と、を備えている。ここで、実際には、ガス発生器17の下部の電極に通電用のソケットが嵌合されているが、説明の便宜上、
図1および
図5においては省略して表現している。
【0043】
以上のように、本実施形態によれば、作動の際の衝撃を緩和させつつ、従来よりも軽量化が可能なアクチュエータ1を備えた安全装置100を提供できる。特に、アクチュエータ1内の押し上げ部材15への衝撃を緩和させることができるので、押し上げ部材15の部材の厚みをある程度薄く(たとえば、樹脂製で厚み2mmに)して軽量化しても、必要な強度を保持することができる。したがって、押し上げ部材15などに、比較的高い強度の材料を用いる必要がないので、コスト面でも優位性がある。
【0044】
また、管状部材4の両開口部の内側には、テーパ部4a、4bが形成されている。また、管状部材4が、シリンダ14の内壁部に接触しないように、ストッパー部材23に衝突した際に塑性変形した管状部材4が、シリンダ14の内壁部に接触しない距離離間している。これらにより、管状部材4は、ストッパー部材23に衝突して塑性変形しても、シリンダ14の内壁部に阻害されることなく変形し、ピストン部材10の衝撃を十分に緩和することができる。
【0045】
また、上述のような構成の安全装置100を備えた飛行体30を得ることができる。
【0046】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0047】
たとえば、本発明には、以下の変形例が含まれる。上記実施形態では、押し上げ部材15の支持部20は、押し上げ部材15の開口部の縁から延設されたものであったが、これに限られない。射出物16の大きさに合わせるなど設計によっては、押し上げ部材15の有底筒状部19の途中部分から延設されたものであってもよい。
【0048】
また、上記実施形態では動力源としてガス発生器を採用したが、摺動部材がシリンダ内を推進するための駆動力を当該摺動部材に付与することが可能なものであればその構成は限定されるものではなく、たとえばバネ等の弾性体を採用してもよい。
【0049】
また、上記実施形態では、収容器18を円筒状に形成したが、これに限定されるものではなく、たとえば四角筒のような他の形状に形成してもよい。
【0050】
また、上記各実施形態において、射出物としてパラシュート又はパラグライダーを採用する場合、当該パラシュート又はパラグライダーがパッキングされていてもよい。なお、当該パッキングは作動時に破れるまたは剥がれるように構成されている。
【0051】
さらに、上記各実施形態では、射出物として、パラシュート又はパラグライダーを挙げたが、これに限らず、揚力発生部材を含むものを射出物として射出してもよい。揚力発生部材としては、たとえば、パラフォイル、ロガロ型パラシュート、シングルサーフェース型パラシュート、飛行機の翼、プロペラ、バルーン等が挙げられる。また、揚力発生部材がコントロールラインを有する場合、安全装置は、コントロールラインを利用して、射出した揚力発生部材の傾斜角度の変更などを行うことができる操舵機構を備えておくことが望ましい。この操舵機構は、たとえば、揚力発生部材に連結された複数のコントロールラインをそれぞれ巻き取る複数のリールと、これらのリールの動力となるモータと、を備えたものであり、モータの駆動により、コントロールラインを巻き取ったり、出したりすることで、適宜、揚力発生部材を引っ張ったり、引っ張りを緩めたりすることができる。
【0052】
また、上記実施形態では、シリンダ、動力源、および収容器は、機体にゴムバンド、ベルト、ひも、その他(機械的接合、ボルト、ファスナー、接着剤)等の手段により固定されていることが好ましい。
【0053】
また、上記実施形態のアクチュエータ1の代わりに、
図6に示す変形例のアクチュエータ101であってもよい。以下、具体的に、本変形例に係るアクチュエータ101について説明する。なお、特に説明しない限り、上記実施形態と同様の部位には、下二桁が同じ符号を用いて、説明を省略することがある。また、本変形例においては、特に説明がない限り、上記実施形態と同じ部品が用いられている。
【0054】
本変形例のアクチュエータ101は、ピストン部材10の代わりにピストン部材110を用いている点について、アクチュエータ1と異なっている。具体的には、管状部材4および保持部材5を用いずに、棒状部110bの一部の周囲に固定された少なくとも1つの鍔状部(
図6では2つの突出部110h、110i)を固定して設けている点で、アクチュエータ101は、アクチュエータ1と異なっている。
【0055】
突出部110h、110iは、作動時にストッパー部材123と衝突した際、棒状部110bに固定された箇所(突出部110h、110iと棒状部110bとの接続部分)が、せん断破壊される強度で棒状部110bに固定されている。また、突出部110h、110iの形状は、鍔状(フランジ状)でも、複数の棒状が径方向に突出しているような形状のものでもよい。なお、このときの固定方法としては、削り出し(切削加工)による一体成形、または、溶接による取り付けなどがある。
【0056】
上記構成のアクチュエータ101によれば、突出部110h、110iの棒状部110bに固定された箇所がせん断破壊された際に、突出部110h、110i(ピストン部材110)とストッパー部材123との衝突の衝撃を緩和させることができるので、アクチュエータ1と同様の効果を奏することができる。
【0057】
(実施例1)
上記実施形態と同構成の安全装置に係る樹脂(ここでは、GF(ガラスファイバー)33%配合のガラス繊維強化PA(ポリアミド)66(PA66+GF33%)で、ヤング率10GPaのもの)製と仮定した押し上げ部材を設計し、当該押し上げ部材の厚みによって、押し上げ部材の支持部(フランジ)の撓みがどのように変化するかについて調査するシミュレーション実験を行った。以下に実験方法を示す。
【0058】
押し上げ部材の支持部(フランジ)の撓みは、ピストンの断面式からピストンが破断する力(引張強度と断面積から破断荷重)を計算し、シミュレーションソフト(名:Auto desk Nastran In-CAD)を用いて測定した。測定条件としては、押し上げ部材の天面を固定して支持部の底面から荷重をかけて、押し上げ部材の各部位の変異を確認して、支持部の元の底面の位置からの最大変位を撓みとして、管状部材(材質A6063-0、内径10.1mm、外径12.1mm)が有る場合および無い場合について測定した。なお、押し上げ部材は、有底筒状部の外径が31mm、支持部の外径が105mmである。また、支持部の元の底面の位置からの変位については有限要素法で解析した。
【0059】
上記実験の結果を以下に示す。なお、管状部材を設けた場合、押し上げ部材の厚みを3mmから2mmに薄くしても、管状部材がない場合における押し上げ部材を厚み3mmにした場合と同様、押し上げ部材の支持部に曲げ破壊は発生しないという結果が出た。
【表1】
【0060】
このように、管状部材を設けることで、ピストン部材の作動時の衝撃を緩和でき、樹脂製の押し上げ部材の厚みを3mmから2mmに薄くして軽量化しても、押し上げ部材に曲げ破壊が発生することなく、必要な強度を保持していることがわかった。
【0061】
(実施例2)
上記実施形態と同構成の安全装置に係るアルミニウム製の押し上げ部材、ピストン部材、基台(スクイブホルダ)、および、シリンダを作成し、緩衝材(フランジ状の突出部(上記変形例に対応)または管状部材(上記実施形態に対応))の材質を変化させることによって、アクチュエータの作動の際の衝撃を緩和できるか否かについて実験した。なお、各実験でのガス発生器およびガス発生器で使用するガス発生剤・薬量、押し上げ部材などは、すべて統一して実験を行った。下記表2に、実験に使用した各部材の仕様(一仕様について3つずつ試料を作成)を示す。なお、下記表2において、温度の「HT」とは摂氏85℃の高温環境下での試験、「ストローク」とはピストン部材のシリンダ内での移動距離(初期状態からストッパーに衝突するまでの距離)、緩衝材の材質の「樹脂」とはモノマーキャストナイロン、のことである。また、仕様A、Bは、2つのフランジ状の突出部(上記変形例に対応)からなる緩衝材であり、仕様C~Lは管状部材(上記実施形態に対応)からなる緩衝材である。また、仕様Aの緩衝材の厚みは1mm、仕様Bの緩衝材の厚みは0.5mmである。また、仕様C、E、Gの緩衝材の径方向のサイズは、内径10.1mm、外径12.1mm、仕様D、F、Hの緩衝材の径方向のサイズは、内径10.1mm、外径14.1mm、仕様I、Jの緩衝材の径方向のサイズは、内径10mm、外径16mm、仕様Kの緩衝材の径方向のサイズは、内径10mm、外径15mm、仕様Lの緩衝材の径方向のサイズは、内径10mm、外径15mm、である。ここで、仕様Kの緩衝材については、ピストン部材の軸方向に2つ嵌設して(2段重ねとして)実験した。また、仕様Lの緩衝材については、ピストン部材の軸方向に4つ嵌設して(4段重ねとして)実験した。
【0062】
【0063】
また、下記表3に、各仕様の各試料についての実験結果を示す。なお、表3において、「全高」とはピストン部材の軸方向長さ、「変形量」とはピストン部材の軸方向長さの変形量、「伸び」とは作動後のピストン部材の軸方向長さの初期状態からの伸び率を示している。なお、各仕様の1つ目の試料で、ピストン部材または基台(スクイブホルダ)に破断が生じた場合、他の2つの試料の実験は行わなかった。
【0064】
【0065】
表3から、仕様Aについては、せん断破壊されることによって作動時の衝撃力を吸収し、正常作動する(ピストン部材または基台(スクイブホルダ)の破断が発生しない)ことがわかった。これに対して、仕様Aより厚みが半分の仕様Bについては、せん断破壊されるものの十分に衝撃力を吸収できずに、ピストン部材が破断する場合があることがわかった。また、仕様C、E、G、Hについては、塑性変形することによって作動時の衝撃力を吸収し、正常作動する(ピストン部材または基台(スクイブホルダ)の破断が発生しない)ことがわかった。これに対して、仕様D、F、I、J、K、Lについては、衝撃力を吸収できずに、基台(スクイブホルダ)またはピストン部材が破断する場合があることがわかった。
【0066】
これらの結果から、せん断破壊または塑性変形によって適切に作動時の衝撃力を吸収するように設計した緩衝材(フランジ状の突出部(上記変形例に対応)または管状部材(上記実施形態に対応))を用いれば、ピストン部材または基台(スクイブホルダ)が破断しないようにできることがわかった。
【符号の説明】
【0067】
1、101 アクチュエータ
2、102 基台
3、103 筒状部材
4 管状部材
4a、4b、10g テーパ部
5 保持部材
6、106 空間
10、110 ピストン部材
10a、110a 本体部
10b、110b 棒状部
10c、110c 穴部
10d、12a、110d 雌ねじ部
10e、110e 溝部
10f、110f 縮径部
11、12、111、112 シール部材
13、113 孔部
14、114 シリンダ
14a、114a 貫通孔
15、115 押し上げ部材
16、116 射出物
17、117 ガス発生器
17a、117a カップ体
18 収容器
19 有底筒状部
19a 底部
20 支持部
21 蓋部
23、123 ストッパー部材
23a、23b、123a、123b 溝部
24、25、26 通気孔
27 移動防止部材
30 飛行体
31 機体
33 脚部
40 連結部材
50 ボルト部材
50a ヘッド部
50b 雄ねじ部
51、52、53 穴部
53a 挿入用開口部
100 安全装置
110h、110i 突出部