(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】有機溶媒の精製方法
(51)【国際特許分類】
C07C 41/36 20060101AFI20241028BHJP
B01J 39/05 20170101ALI20241028BHJP
B01J 41/05 20170101ALI20241028BHJP
B01J 45/00 20060101ALI20241028BHJP
B01J 47/026 20170101ALI20241028BHJP
B01J 47/04 20060101ALI20241028BHJP
C07C 41/42 20060101ALI20241028BHJP
C07C 43/13 20060101ALI20241028BHJP
【FI】
C07C41/36
B01J39/05
B01J41/05
B01J45/00
B01J47/026
B01J47/04
C07C41/42
C07C43/13 A
(21)【出願番号】P 2020179724
(22)【出願日】2020-10-27
【審査請求日】2023-06-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 智子
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-055120(JP,A)
【文献】特開平09-057069(JP,A)
【文献】特開2005-232093(JP,A)
【文献】特開平07-208166(JP,A)
【文献】特開昭54-013495(JP,A)
【文献】特開2016-036038(JP,A)
【文献】特開平11-171508(JP,A)
【文献】特開2019-141800(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 41/36
B01J 39/05
B01J 41/05
B01J 45/00
B01J 47/026
B01J 47/04
C07C 41/42
C07C 43/13
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1価のイオン性金属不純物及び2価のイオン性金属不純物を含有する被処理有機溶媒を、
H形キレート交換体(1)に、2~30h
-1
の通液速度(SV)で接触させる第一処理工程と、
該第一処理工程の処理液を、アニオン交換体(2)及びH形強酸性カチオン交換体(3)に、2~50h
-1
の通液速度(SV)で接触させる第二処理工程と、
を有するイオン交換処理工程と、
該イオン交換処理工程の処理液を、蒸留する蒸留工程と、
を有することを特徴とする有機溶媒の精製方法。
【請求項2】
1価のイオン性金属不純物及び2価のイオン性金属不純物を含有する被処理有機溶媒を、
H形キレート交換体とアニオン交換体とH形強酸性カチオン交換体の混床に、2~30h
-1
の通液速度(SV)で接触させるイオン交換処理工程と、
該イオン交換処理工程の処理液を、蒸留する蒸留工程と、
を有することを特徴とする有機溶媒の精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属不純物含有量が低減された高純度の有機溶媒を得るための有機溶媒の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機溶媒中の微量金属分析には、ICP-MSが用いられる。ICP-MSで、測定対象の有機溶媒中の金属を分析する場合、金属が既知濃度で添加された標準液を、測定対象と同種の有機溶媒のブランク液で数段階に希釈し、検量線を作成する。このとき、測定対象の有機溶媒中の金属濃度が、検量線濃度範囲に含まれるように設定する。このような方法は、絶対検量線法と呼ばれ、ブランク液中に測定対象の金属が含まれないことが重要である。ブランク液中の金属濃度が高いと、バックグラウンド濃度が高くなってしまい、定量下限値が上がってしまうためである。
【0003】
このようなことから、ICP-MSによる有機溶媒中の微量金属分析に用いられるブランク液中の金属不純物含有量は、1ppt以下であることが求められる。
【0004】
また、半導体製造工程では、洗浄に使用されるイソプロピルアルコール(IPA)に含まれている金属不純物は、ウェハー上で悪影響を及ぼす可能性が高いため、IPA中の不純物含有量をpptレベル又は1ppt以下まで低減する必要がある。
【0005】
有機溶媒を精製する方法としては、例えば、特許文献1に、加水分解性有機溶媒からイオン性汚染物質を除去するための方法であって、前記加水分解性有機溶媒を、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂を含むイオン交換樹脂の混床と接触させることを含み、前記陰イオン交換樹脂が、弱塩基性陰イオン交換樹脂から選択される方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、親水性有機溶媒からイオン性汚染物質を除去するための方法であって、前記方法が、前記親水性有機溶媒を、陽イオン性イオン交換樹脂及び陰イオン性イオン交換樹脂を含むイオン交換樹脂の混床と接触させることを含み、(a)前記陽イオン性イオン交換樹脂が、40~55重量%の保水力を有する水素(H)型強酸陽イオン性イオン交換樹脂であり、(b)前記陽イオン性イオン交換樹脂及び前記陰イオン性イオン交換樹脂の両方が、0.001~0.1cm3/gの多孔性、0.001~1.7nmの平均孔径、及び0.001~10m2/gのBET表面積を有する方法が開示されている。
【0007】
特許文献1及び特許文献2では、有機溶媒を、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂を含むイオン交換樹脂の混床と接触させることにより、有機溶媒の精製が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2019-509165号公報
【文献】特表2019-509882号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、特許文献1及び特許文献2に記載の方法では、有機溶媒中の金属不純物の除去が行えるものの、更なる高純度が求められる場合がある。つまり、更に、金属不純物の除去性に優れる有機溶媒の精製方法が求められている。
【0010】
また、イオン交換樹脂は、水分を含んでいるため、イオン交換樹脂を用いて、有機溶媒の精製を行っても、得られる処理液中に水分が混入してしまう。高純度の有機溶媒が求められる場合には、微量の水分でも、不純物としての混入の問題が生じる。
【0011】
また、不純物除去とは別に、有機溶媒中では金属不純物の拡散速度が小さく、またイオン交換樹脂とのイオン交換反応の反応速度も小さいため、有機溶媒中のイオン性金属不純物の除去を、イオン交換樹脂を用いて行う場合においては、水溶液中のイオン性金属不純物を除去する場合に比べ、イオン交換樹脂に対する通液速度を小さく設定する必要がある。例えば、強酸性カチオン交換樹脂を用いた処理の場合、水中と同じ流速で同じ金属除去率を得ることは難しい。
【0012】
そのため、有機溶媒中のイオン性金属不純物を、イオン交換樹脂を用いて精製するために、イオン交換樹脂への通液速度を小さく設定しなければならないため、精製効率が低いという問題があった。
【0013】
従って、本発明の第一の目的は、有機溶媒中の金属不純物及び水分の除去性に優れる有機溶媒の精製方法を提供することにある。また、本発明の第二の目的は、有機溶媒中の金属不純物及び水分の除去性に優れ、且つ、精製効率が高い有機溶媒の精製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような技術背景のもと、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、被処理有機溶媒を、イオン交換樹脂に接触させるイオン交換処理工程を行った後、イオン交換処理工程の処理液を、蒸留する蒸留工程を行うことにより、イオン性金属不純物の除去性が高まると共に、イオン交換樹脂では除去できなかった金属微粒子及び水分の除去も可能となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明(1)は、1価のイオン性金属不純物及び2価のイオン性金属不純物を含有する被処理有機溶媒を、H形キレート交換体(1)に、2~30h
-1
の通液速度(SV)で接触させる第一処理工程と、
該第一処理工程の処理液を、アニオン交換体(2)及びH形強酸性カチオン交換体(3)に、2~50h
-1
の通液速度(SV)で接触させる第二処理工程と、
を有するイオン交換処理工程と、
該イオン交換処理工程の処理液を、蒸留する蒸留工程と、
を有することを特徴とする有機溶媒の精製方法を提供するものである。
また、本発明(2)は、1価のイオン性金属不純物及び2価のイオン性金属不純物を含有する被処理有機溶媒を、H形キレート交換体とアニオン交換体とH形強酸性カチオン交換体の混床に、2~30h
-1
の通液速度(SV)で接触させるイオン交換処理工程と、
該イオン交換処理工程の処理液を、蒸留する蒸留工程と、
を有することを特徴とする有機溶媒の精製方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、有機溶媒中の金属不純物及び水分の除去性に優れる有機溶媒の精製方法を提供することができる。また、本発明によれば、有機溶媒中の金属不純物及び水分の除去性に優れ、且つ、精製効率が高い有機溶媒の精製方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の有機溶媒の精製方法は、被処理有機溶媒を、イオン交換体に接触させるイオン交換処理工程と、
該イオン交換処理工程の処理液を、蒸留する蒸留工程と、
を有することを特徴とする有機溶媒の精製方法である。
【0026】
本発明の有機溶媒の精製方法は、少なくとも、イオン交換処理工程と、蒸留工程と、を有する。
【0027】
イオン交換処理工程は、被処理有機溶媒をイオン交換体に接触させる工程である。
【0028】
本発明の有機溶媒の精製方法に係る被処理有機溶媒としては、特に制限されないが、例えば、イソプロピルアルコール、メタノール、エタノール等のアルコール類、シクロヘキサンノン、メチルイソブチルケトン、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、2-フェニル-1-プロペン等のアルケン系有機溶媒、N-メチルピロリドン及びこれらの混合有機溶媒が挙げられる。被処理有機溶媒としては、極性有機溶媒及び非極性有機溶媒のいずれであってもよく、極性有機溶媒が好ましい。また、極性有機溶媒としては、プロトン性の極性有機溶媒であっても、非プロトン性の極性有機溶媒であってもよい。
【0029】
被処理有機溶媒は、金属不純物として、Na、K、Li等の1価のイオン性金属不純物と、Cr、As、Ca、Cu、Fe、Mg、Mn、Ni、Pb、Zn等の2価以上のイオン性金属不純物と、を含有する。
【0030】
被処理有機溶媒中の各金属不純物の含有量は、特に制限されないが、通常、100質量ppb~20質量ppt程度である。
【0031】
本発明の有機溶媒の精製方法に係るイオン交換体としては、H形カチオン交換体、アニオン交換体が挙げられる。H形カチオン交換体としては、H形キレート交換体、H形強酸性カチオン交換体が挙げられる。アニオン交換体としては、強塩基性アニオン交換体、弱塩基性アニオン交換体が挙げられる。
【0032】
H形キレート交換体は、Na形、Ca形、Mg形等の金属イオン形のキレート交換体を、鉱酸と接触させることにより、酸処理されて、H形に変換されたものである。つまり、H形キレート交換体は、金属イオン形のキレート交換体の鉱酸接触処理物である。
【0033】
H形キレート交換体が有する官能基は、金属イオンに配位してキレートを形成することができるものであれば、特に制限されず、例えば、イミノジ酢酸基、アミノメチルリン酸基、イミノプロピオン酸基等のアミノ基を有する官能基、チオール基等が挙げられる。これらのうち、キレート交換体の官能基としては、多数の多価金属イオンの除去性が高くなる点で、アミノ基を有する官能基が好ましく、イミノジ酢酸基、アミノメチルリン酸基、イミノプロピオン酸基が特に好ましい。
【0034】
H形キレート交換体としては、粒状のH形キレート交換樹脂が挙げられる。H形キレート交換樹脂の基体としては、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体が挙げられる。H形キレート交換樹脂は、ゲル形構造、マクロポーラス形構造、ポーラス形構造のいずれの構造でもよい。H形キレート交換樹脂の交換容量は、好ましくは0.5~2.5eq/L-R、特に好ましくは1.0~2.5eq/L-Rである。H形キレート交換樹脂の平均粒径(調和平均径)は、特に制限されないが、好ましくは300~1000μm、特に好ましくは500~800μmである。なお、H形キレート交換樹脂の平均粒径は、レーザ回折式粒度分布測定装置により測定される値である。
【0035】
また、H形キレート交換体としては、H形の有機多孔質キレート交換体が挙げられる。H形の有機多孔質キレート交換体は、キレート能有する官能基、例えば、上記に挙げられているキレート能を有する官能基が導入されている有機多孔質体である。H形の有機多孔質キレート交換体中の交換容量は、好ましくは0.3~2mg当量/mL(水湿潤状態)、特に好ましくは1~2mg当量/mL(水湿潤状態)である。
【0036】
H形キレート交換体は、Na形、Ca形、Mg形等の金属イオン形のキレート交換体を鉱酸と接触させて酸処理することにより、得られる。金属イオン形のキレート交換体に接触させる鉱酸としては、塩酸、硫酸、硝酸が挙げられる。これらのうち、鉱酸としては、安全性の点で、塩酸、硫酸が好ましい。また、Ca形からの変換の場合は、硫酸カルシウムの析出の恐れがあるので塩酸が好ましい。鉱酸の濃度は、好ましくは0.1~6N、特に好ましくは1~4Nである。
【0037】
金属イオン形のキレート交換体に鉱酸を接触させる方法としては、特に制限されず、接触様式、接触温度、接触時間等は適宜選択される。
【0038】
金属イオン形のキレート交換体に鉱酸を接触させた後、H形に変換されたH形キレート交換体を水洗し、余分な鉱酸の除去を行うが、キレート交換体中の官能基が、鉱酸との水素結合等により結合しているため、水洗では余分な鉱酸を完全に除去することができない。そのため、H形キレート交換体中には、酸処理に用いた鉱酸が残留している。
【0039】
例えば、金属イオン形のキレート交換樹脂としては、三菱化学社製のCR-10、CR-11、住化ケムテックス社製のデュオライトC-467、住友化学社製のMC-700、ランクセス社製のレバチットTP207、レバチットTP208、レバチットTP260、ピュロライト社製のS930、S950、オルガノ製のDS-21、DS-22が挙げられる。
【0040】
H形強酸性カチオン交換体は、スルホン酸基等の強酸性カチオン交換基がH形に変換されたものである。
【0041】
H形強酸性カチオン交換体としては、粒状の強酸性カチオン交換樹脂が挙げられる。H形強酸性カチオン交換樹脂の基体は、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体である。H形強酸性カチオン交換樹脂は、ゲル形構造、マクロポーラス形構造、ポーラス形構造のいずれの構造でもよい。H形強酸性カチオン交換樹脂の湿潤状態のイオン交換容量は、好ましくは0.5(eq/L-R)以上、特に好ましくは1.0(eq/L-R)以上である。また、H形強酸性カチオン交換樹脂の湿潤状態のイオン交換容量は、高いほど好ましく、適宜選択される。H形強酸性カチオン交換樹脂の調和平均径は、好ましくは200~900μm、特に好ましくは300~600μmである。H形強酸性カチオン交換樹脂としては、例えば、ダウケミカル社製のアンバーライトIR120B、IR124、200CT252、アンバージェット1020、1024、1060、1220、三菱ケミカル社製のダイヤイオンSK104、SK1B、SK110、SK112、PK208、PK212L、PK216、PK218、PK220、PK228、UBK08、UBK10、UBK12、オルガノ製のDS-1、DS-4、ピュロライト社製のC100、C100E、C120E、C100x10、C100x12MB、C150、C160、SGC650、レバチット社製のモノプラスS108H、SP112、S1668等が挙げられる。
【0042】
また、H形強酸性カチオン交換体としては、H形の有機多孔質強酸性カチオン交換体が挙げられる。H形の有機多孔質強酸性カチオン交換体は、強酸性カチオン交換基、例えば、上記で挙げられている強酸性カチオン交換基が導入されている有機多孔質体である。H形の有機多孔質強酸性カチオン交換体中の交換容量は、好ましくは1~3mg当量/mL(乾燥状態)、特に好ましくは1.5~3mg当量/mL(乾燥状態)である。
【0043】
アニオン交換体は、アニオン交換基として強塩基性アニオン交換基を有する強塩基性アニオン交換体と、アニオン交換基として弱塩基性アニオン交換基を有する弱塩基性アニオン交換体とがある。
【0044】
強塩基性アニオン交換体に係る強塩基性アニオン交換基としては、OH形の四級アンモニウム基等が挙げられる。また、弱塩基性アニオン交換体に係る弱塩基性アニオン交換基としては、三級アミノ基、二級アミノ基、一級アミノ基、ポリアミン基等が挙げられる。他にも塩基度の高いOH形のアニオン交換体では、分解又は化学反応が起こるような溶媒には、塩基度が低い炭酸塩形又は重炭酸塩形のアニオン交換体を用いても良い。
【0045】
アニオン交換体としては、粒状のアニオン交換樹脂が挙げられる。アニオン交換樹脂の基体は、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体である。アニオン交換樹脂は、ゲル形構造、マクロポーラス形構造、ポーラス形構造のいずれの構造でもよい。アニオン交換樹脂の湿潤状態のイオン交換容量は、好ましくは0.5~2(eq/L-R)、特に好ましくは0.9~2(eq/L-R)である。アニオン交換樹脂の調和平均径は、好ましくは200~900μm、特に好ましくは300~800μmである。アニオン交換樹脂としては、例えば、ダウケミカル社製のアンバーライトIRA900、402、96SB、98、アンバージェット4400、4002、4010、三菱ケミカル社製のダイヤイオンUBA120、PA306S、PA308、PA312、PA316、PA318L、WA21J、WA30、オルガノ社製のDS-2、DS-5、DS-6、ピュロライト社製のA400、A600、SGA550、A500、A501P、A502PS、A503、A100、A103S、A110、A111S、A133S、レバチット社製のモノプラスM500、M800、MP62WS、MP64等が挙げられる。
【0046】
また、アニオン交換体としては、有機多孔質アニオン交換体が挙げられる。有機多孔質アニオン交換体は、アニオン交換基、例えば、上記に挙げられている強塩基性アニオン交換基や弱塩基性アニオン交換基が導入されている有機多孔質体である。有機多孔質アニオン交換体中の交換容量は、好ましくは1~6mg当量/mL(乾燥状態)、特に好ましくは2~5mg当量/mL(乾燥状態)である。
【0047】
イオン交換処理工程では、被処理有機溶媒を、少なくともH形カチオン交換体、好ましくはH形強酸性カチオン交換体に接触させる。
【0048】
イオン交換処理工程に係るH形カチオン交換体、H形強酸性カチオン交換体は、上述したH形カチオン交換体、H形強酸性カチオン交換体である。
【0049】
第一の形態のイオン交換処理工程(以下、イオン交換処理工程(1)とも記載する。)は、被処理有機溶媒を、H形強酸性カチオン交換体及びアニオン交換体に接触させる処理工程を有する。イオン交換処理工程(1)に係るアニオン交換体は、強塩基性アニオン交換体であってもよいし、弱塩基性アニオン交換体であってもよい。
【0050】
イオン交換処理工程(1)に係るH形強酸性カチオン交換体、アニオン交換体、強塩基性アニオン交換体、弱塩基性アニオン交換体は、上述したH形強酸性カチオン交換体、アニオン交換体、強塩基性アニオン交換体、弱塩基性アニオン交換体である。
【0051】
イオン交換処理工程(1)において、被処理有機溶媒を、H形強酸性カチオン交換体及びアニオン交換体に接触させる方法としては、特に制限されず、例えば、(i)被処理有機溶媒を、H形強酸性カチオン交換体とアニオン交換体の混床に通液する方法、(ii)被処理有機溶媒を、前段側のH形強酸性カチオン交換体層と後段側のアニオン交換体層とからなる複床に通液する方法、(iii)先ず、被処理有機溶媒を、前段のH形強酸性カチオン交換体の単床に通液し、次いで、その処理液を、後段のアニオン交換体の単床に通液する方法、(iv)先ず、被処理有機溶媒を、前段のアニオン交換体の単床に通液し、次いで、その処理液を、後段のH形強酸性カチオン交換体の単床に通液する方法、(v)被処理有機溶媒を、前段のH形強酸性カチオン交換体の単床及び後段のアニオン交換体の単床の繰り返し単位が2組以上繰り返されている複床に通液する方法、(vi)被処理有機溶媒を、前段のアニオン交換体の単床及び後段のH形強酸性カチオン交換体の単床の繰り返し単位が2組以上繰り返されている複床に通液する方法が挙げられる。H形強酸性カチオン交換体とアニオン交換体の混床は、H形強酸性カチオン交換体とアニオン交換体の混合物からなる。H形強酸性カチオン交換体がH形強酸性有機多孔質カチオン交換体の場合任意の大きさに切り出された形状、例えば、一辺3mm程度から10mm程度の立方体のH形強酸性有機多孔質カチオン交換体を用いる。また、アニオン交換体が有機多孔質強酸性アニオン交換体の場合は、任意の大きさに切り出された形状、例えば、一辺3mm程度から10mm程度の立方体の有機多孔質アニオン交換体を用いる。
【0052】
イオン交換処理工程(1)において、H形強酸性カチオン交換体及びアニオン交換体に被処理有機溶媒を通液するときの通液速度(SV)は、特に制限されず、適宜選択されるが、好ましくは0.1~50h-1、特に好ましくは2~30h-1、更に好ましくは4~25h-1である。
【0053】
イオン交換処理工程(1)において、H形強酸性カチオン交換体及びアニオン交換体に被処理有機溶媒を通液するときの温度は、特に制限されず、適宜選択されるが、通常、0~50℃である。
【0054】
第二の形態のイオン交換処理工程(以下、イオン交換処理工程(2)とも記載する。)は、被処理有機溶媒を、H形キレート交換体(1a)に接触させる第一処理工程と、
該第一処理工程の処理液を、アニオン交換体(2)及びH形強酸性カチオン交換体(3)に接触させる第二処理工程と、
を有する。
【0055】
イオン交換処理工程(2)に係るH形キレート交換体、アニオン交換体、H形強酸性カチオン交換体は、上述したH形キレート交換体、アニオン交換体、H形強酸性カチオン交換体である。
【0056】
イオン交換処理工程(2)に係る第一処理工程は、被処理有機溶媒を、H形キレート交換体(1a)に接触させる工程である。
【0057】
イオン交換処理工程(2)に係る第一処理工程では、被処理有機溶媒を、H形キレート交換体(1a)に接触させることにより、被処理有機溶媒を、H形キレート交換体(1a)で処理し、被処理有機溶媒中の主に2価以上の金属と、1価の金属の一部を除去する。
【0058】
イオン交換処理工程(2)に係る第一処理工程において、H形キレート交換体(1a)に被処理有機溶媒を通液するときの通液速度(SV)は、特に制限されず、適宜選択されるが、好ましくは0.1~50h-1、特に好ましくは2~30h-1、更に好ましくは4~25h-1である。
【0059】
イオン交換処理工程(2)に係る第一処理工程において、H形キレート交換体(1a)に被処理有機溶媒を通液するときの温度は、特に制限されず、適宜選択されるが、通常、0~50℃である。また、被処理有機溶媒の種類によっては、第一処理工程において、0~80℃で、H形キレート交換体(1a)に被処理有機溶媒を通液することもある。
【0060】
イオン交換処理工程(2)に係る第二処理工程は、第一処理工程の処理液を、アニオン交換体(2)及びH形強酸性カチオン交換体(3)に接触させる工程である。
【0061】
イオン交換処理工程(2)に係る第二処理工程では、第一処理工程の処理液を、アニオン交換体(2)及びH形強酸性カチオン交換体(3)に接触させることにより、被処理有機溶媒を、アニオン交換体(2)及びH形強酸性カチオン交換体(3)で処理し、第一処理工程で、H形キレート交換体(1a)で除去しきれなかった1価の金属の残部と、H形キレート交換体(1a)から放出される鉱酸と、を除去する。また、アニオン交換体の再生には、再生剤としてNaOHが用いられるが、再生後十分に洗浄すれば、アニオン交換体中に、NaOHが残留するようなことはほとんどない。第二処理工程では、もし、アニオン交換体(2)の再生後の洗浄が悪く、再生剤に使用したNaOHの残留物が、アニオン交換体(2)から溶出するようなことがあったとしても、第二処理工程におけるH形強酸性カチオン交換体(3)が、Naを除去することができる。
【0062】
イオン交換処理工程(2)に係る第二処理工程において、アニオン交換体(2)及びH形強酸性カチオン交換体(3)に、第一処理工程の処理液を通液するときの通液速度(SV)は、特に制限されず、適宜選択されるが、好ましくは0.1~100h-1、特に好ましくは2~50h-1である。
【0063】
イオン交換処理工程(2)に係る第二処理工程において、アニオン交換体(2)及びH形強酸性カチオン交換体(3)に、第一処理工程の処理液を通液するときの温度は、特に制限されず、適宜選択されるが、通常、0~50℃である。また、被処理有機溶媒の種類によっては、第二処理工程において、0~80℃で、アニオン交換体(2)及びH形強酸性カチオン交換体(3)に、第一処理工程の処理液を通液することもある。第二処理工程において、60~80℃で、アニオン交換体(2)及びH形強酸性カチオン交換体(3)に、第一処理工程の処理液を通液する場合は、アニオン交換体(2)として、強塩基性アニオン交換体(2a)を用いると、強塩基性アニオン交換体(2a)が分解し易いため、アニオン交換体(2)として、弱塩基性アニオン交換体(2b)を用いる。
【0064】
イオン交換処理工程(2)において、第一工程の処理液を、アニオン交換体(2)及びH形強酸性カチオン交換体(3)に接触させる方法としては、特に制限されず、例えば、(i)被処理有機溶媒を、アニオン交換体(2)とH形強酸性カチオン交換体(3)の混床に通液する方法、(ii)被処理有機溶媒を、前段側のアニオン交換体(2)層と後段側のH形強酸性カチオン交換体(3)層とからなる複床に通液する方法、(iii)先ず、被処理有機溶媒を、前段のアニオン交換体(2)の単床に通液し、次いで、その処理液を、後段のH形強酸性カチオン交換体(3)の単床に通液する方法、(iv)先ず、被処理有機溶媒を、前段のH形強酸性カチオン交換体(3)の単床に通液し、次いで、その処理液を、後段のアニオン交換体(2)の単床に通液する方法、(v)被処理有機溶媒を、前段のアニオン交換体(2)の単床及び後段のH形強酸性カチオン交換体(3)の単床の繰り返し単位が2組以上繰り返されている複床に通液する方法、(vi)被処理有機溶媒を、前段のH形強酸性カチオン交換体(3)の単床及び後段のアニオン交換体(2)の単床の繰り返し単位が2組以上繰り返されている複床に通液する方法が挙げられる。アニオン交換体(2)とH形強酸性カチオン交換体(3)の混床は、アニオン交換体(2)とH形強酸性カチオン交換体(3)の混合物からなる。アニオン交換体(2)が有機多孔質アニオン交換体の場合は、任意の大きさに切り出された形状、例えば、一辺3mm程度から10mm程度の立方体の有機多孔質アニオン交換体を用いる。また、H形強酸性カチオン交換体(3)が有機多孔質強酸性カチオン交換体の場合は、任意の大きさに切り出された形状、例えば、一辺3mm程度から10mm程度の立方体の有機多孔質強酸性カチオン交換体を用いる。
【0065】
第三の形態のイオン交換処理工程(以下、イオン交換処理工程(3)とも記載する。)は、被処理有機溶媒を、H形強酸性カチオン交換体(1b)に接触させる第一処理工程と、
該第一処理工程の処理液を、アニオン交換体(2)及びH形強酸性カチオン交換体(3)に接触させる第二処理工程と、
を有する。
【0066】
イオン交換処理工程(3)に係るH形強酸性カチオン交換体、アニオン交換体は、上述したH形強酸性カチオン交換体、アニオン交換体である。
【0067】
イオン交換処理工程(3)に係る第一処理工程は、被処理有機溶媒を、H形強酸性カチオン交換体(1b)に接触させる工程である。
【0068】
イオン交換処理工程(3)に係る第一処理工程では、被処理有機溶媒を、H形強酸性カチオン交換体(1b)に接触させることにより、被処理有機溶媒を、H形強酸性カチオン交換体(1b)で処理し、被処理有機溶媒中の2価以上の金属の一部と、1価の金属の一部を除去する。
【0069】
イオン交換処理工程(3)に係る第一処理工程において、H形強酸性カチオン交換体(1b)に被処理有機溶媒を通液するときの通液速度(SV)は、特に制限されず、適宜選択されるが、好ましくは0.1~100h-1、特に好ましくは2~50h-1である。
【0070】
イオン交換処理工程(3)に係る第一処理工程において、H形強酸性カチオン交換体(1b)に被処理有機溶媒を通液するときの温度は、特に制限されず、適宜選択されるが、通常、0~50℃である。また、被処理有機溶媒の種類によっては、第一処理工程において、0~80℃で、H形強酸性カチオン交換体(1b)に被処理有機溶媒を通液することもある。
【0071】
イオン交換処理工程(3)に係る第二処理工程は、第一処理工程の処理液を、アニオン交換体(2)及びH形強酸性カチオン交換体(3)に接触させる工程である。
【0072】
イオン交換処理工程(3)では、第一処理工程で用いるH形強酸性カチオン交換体(1b)と、第二処理工程で用いるH形強酸性カチオン交換体(3)は、同じ種類のH形強酸性カチオン交換体であってもよいし、異なる種類のH形強酸性カチオン交換体であってもよい。
【0073】
イオン交換処理工程(3)に係る第二処理工程では、第一処理工程の処理液を、アニオン交換体(2)及びH形強酸性カチオン交換体(3)に接触させることにより、被処理有機溶媒を、アニオン交換体(2)及びH形強酸性カチオン交換体(3)で処理し、第一処理工程で、H形強酸性カチオン交換体(1b)で除去しきれなかった2価以上の金属の残部と1価の金属の残部とを除去する。また、第二処理工程において、アニオン交換体は、CrやAsなどのアニオン形態の金属イオンを有する可能性のある金属や、鉱酸や有機酸などの酸を除去する。
【0074】
そして、イオン交換処理工程(3)では、被処理有機溶媒を、一旦、H形強酸性カチオン交換体に接触させた後、再度、H形強酸性カチオン交換体に接触させるという2段階以上の接触を行うことにより、被処理有機溶媒を、同じ量のH形強酸性カチオン交換体に接触させた場合に比べ、2価以上の金属の除去率が高くなる。
【0075】
イオン交換処理工程(3)に係る第二処理工程において、アニオン交換体(2)及びH形強酸性カチオン交換体(3)に、第一処理工程の処理液を通液するときの通液速度(SV)は、特に制限されず、適宜選択されるが、好ましくは0.1~100h-1、特に好ましくは2~50h-1である。
【0076】
イオン交換処理工程(3)に係る第二処理工程において、アニオン交換体(2)及びH形強酸性カチオン交換体(3)に、第一処理工程の処理液を通液するときの温度は、特に制限されず、適宜選択されるが、通常、0~50℃である。また、被処理有機溶媒の種類によっては、第二処理工程において、0~80℃で、アニオン交換体(2)及びH形強酸性カチオン交換体(3)に、第一処理工程の処理液を通液することもある。第二処理工程において、0~80℃で、アニオン交換体(2)及びH形強酸性カチオン交換体(3)に、第一処理工程の処理液を通液する場合は、アニオン交換体(2)として、強塩基性アニオン交換体(2a)を用いると、強塩基性アニオン交換体(2a)が分解し易いため、アニオン交換体(2)として、弱塩基性アニオン交換体(2b)を用いる。
【0077】
イオン交換処理工程(3)において、第一工程の処理液を、アニオン交換体(2)及びH形強酸性カチオン交換体(3)に接触させる方法としては、特に制限されず、例えば、(i)被処理有機溶媒を、アニオン交換体(2)とH形強酸性カチオン交換体(3)の混床に通液する方法、(ii)被処理有機溶媒を、前段側のアニオン交換体(2)層と後段側のH形強酸性カチオン交換体(3)層とからなる複床に通液する方法、(iii)先ず、被処理有機溶媒を、前段のアニオン交換体(2)の単床に通液し、次いで、その処理液を、後段のH形強酸性カチオン交換体(3)の単床に通液する方法、(iv)先ず、被処理有機溶媒を、前段のH形強酸性カチオン交換体(3)の単床に通液し、次いで、その処理液を、後段のアニオン交換体(2)の単床に通液する方法、(v)被処理有機溶媒を、前段のアニオン交換体(2)の単床及び後段のH形強酸性カチオン交換体(3)の単床の繰り返し単位が2組以上繰り返されている複床に通液する方法、(vi)被処理有機溶媒を、前段のH形強酸性カチオン交換体(3)の単床及び後段のアニオン交換体(2)の単床の繰り返し単位が2組以上繰り返されている複床に通液する方法が挙げられる。アニオン交換体(2)とH形強酸性カチオン交換体(3)の混床は、アニオン交換体(2)とH形強酸性カチオン交換体(3)の混合物からなる。アニオン交換体(2)が有機多孔質アニオン交換体の場合は、任意の大きさに切り出された形状、例えば、一辺3mm程度から10mm程度の立方体の有機多孔質アニオン交換体を用いる。また、H形強酸性カチオン交換体(3)が有機多孔質強酸性カチオン交換体の場合は、任意の大きさに切り出された形状、例えば、一辺3mm程度から10mm程度の立方体の有機多孔質強酸性カチオン交換体を用いる。
【0078】
第四の形態のイオン交換処理工程(以下、イオン交換処理工程(4)とも記載する。)は、被処理有機溶媒を、H形キレート交換体(1a)とアニオン交換体(2)とH形強酸性カチオン交換体(3)の混床に接触させる処理工程(3)を有する。
【0079】
イオン交換処理工程(4)に係るH形キレート交換体、アニオン交換体、H形強酸性カチオン交換体は、上述したH形キレート交換体、アニオン交換体、H形強酸性カチオン交換体である。
【0080】
イオン交換処理工程(4)は、被処理有機溶媒を、H形キレート交換体(1a)とアニオン交換体(2)とH形強酸性カチオン交換体(3)の混床に接触させる工程である。
【0081】
イオン交換処理工程(4)に係るH形キレート交換体(1a)とアニオン交換体(2)とH形強酸性カチオン交換体(3)の混床は、H形キレート交換体(1a)とアニオン交換体(2)とH形強酸性カチオン交換体(3)の混合物からなる。なお、H形キレート交換体(1a)がH形の有機多孔質キレート交換体の場合は、任意の大きさに切り出された形状、例えば、一辺3mm程度から10mm程度の立方体のH形の有機多孔質強酸性キレート交換体を用いる。アニオン交換体(2)が有機多孔質アニオン交換体の場合は、任意の大きさに切り出された形状、例えば、一辺3mm程度から10mm程度の立方体の有機多孔質アニオン交換体を用いる。また、H形強酸性カチオン交換体(3)が有機多孔質強酸性カチオン交換体の場合は、任意の大きさに切り出された形状、例えば、一辺3mm程度から10mm程度の立方体の有機多孔質強酸性カチオン交換体を用いる。
【0082】
イオン交換処理工程(4)では、被処理有機溶媒を、H形キレート交換体(1a)とアニオン交換体(2)とH形強酸性カチオン交換体(3)の混床に接触させることにより、被処理有機溶媒を、H形キレート交換体(1a)とアニオン交換体(2)とH形強酸性カチオン交換体(3)の混床で処理し、被処理有機溶媒中の2価以上の金属と、1価の金属と、を除去する。また、処理工程(3)では、被処理有機溶媒に、H形キレート交換体(1a)から放出される鉱酸を、アニオン交換体(2)が除去する。
【0083】
イオン交換処理工程(4)において、H形キレート交換体(1a)とアニオン交換体(2)とH形強酸性カチオン交換体(3)の混床に、被処理有機溶媒を通液するときの通液速度(SV)は、特に制限されず、適宜選択されるが、好ましくは0.1~50h-1、特に好ましくは2~30h-1、更に好ましくは4~25h-1である。
【0084】
イオン交換処理工程(4)において、H形キレート交換体(1a)とアニオン交換体(2)とH形強酸性カチオン交換体(3)の混床(3)に、被処理有機溶媒を通液するときの温度は、特に制限されず、適宜選択されるが、通常、0~50℃である。また、被処理有機溶媒の種類によっては、イオン交換処理工程(4)において、0~80℃で、H形キレート交換体(1a)とアニオン交換体(2)とH形強酸性カチオン交換体(3)の混床に、被処理有機溶媒を通液することもある。イオン交換処理工程(4)において、0~80℃で、H形キレート交換体(1a)とアニオン交換体(2)とH形強酸性カチオン交換体(3)の混床に、被処理有機溶媒を通液する場合は、アニオン交換体(2)として、強塩基性アニオン交換体(2a)を用いると、強塩基性アニオン交換体(2a)が分解し易いため、アニオン交換体(2)として、弱塩基性アニオン交換体(2b)を用いる。
【0085】
イオン交換処理工程(2)又はイオン交換処理工程(4)では、H形キレート交換体(1a)の体積に対するアニオン交換体(2)の体積の割合((アニオン交換体(2)の体積/H形キレート交換体(1a)の体積)×100)は、好ましくは0.1~99.0体積%、より好ましくは0.1~70.0体積%、特に好ましくは0.1~50.0体積%である。
【0086】
イオン交換処理工程(2)又はイオン交換処理工程(4)では、H形キレート交換体(1a)の体積に対する強酸性カチオン交換体(3)の体積の割合((強酸性カチオン交換体(3)の体積/H形キレート交換体(1a)の体積)×100)は、好ましくは0.1~99.0体積%、より好ましくは0.1~70.0体積%、特に好ましくは0.1~50.0体積%である。
【0087】
H形カチオン交換体(H形キレート交換体(1a)、強酸性カチオン交換体(1b))、アニオン交換体(2)及びH形強酸性カチオン交換体(3)としては、イオン交換基が導入される基体が、有機多孔質体であってもよい。本発明に係る有機多孔質体を以下に説明する。
【0088】
有機多孔質イオン交換体には、H形キレート交換基、強酸性カチオン基又はアニオン交換基が導入されている。つまり、有機多孔質体にH形キレート交換基が導入されているものは、H形の有機多孔質キレート交換体(1a)であり、また、有機多孔質体にH形の強酸性カチオン交換基が導入されているものは、H形の有機多孔質強酸性カチオン交換体(1b)又は(3)であり、また、有機多孔質体にアニオン交換基が導入されているものは、有機多孔質アニオン交換体である。なお、有機多孔質イオン交換体に導入されている官能基は、上述したH形カチオン交換体(H形キレート交換体(1a)、強酸性カチオン交換体(1b))、アニオン交換体(2)又はH形強酸性カチオン交換体(3)に導入されている官能基と同様である。
【0089】
有機多孔質イオン交換体としては、例えば、連続骨格相と連続空孔相からなり、連続骨格の厚みは1~100μm、連続空孔の平均直径は1~1000μm、全細孔容積は0.5~50mL/gであり、イオン交換基(キレート交換基、H形強酸性カチオン交換基又はアニオン交換基)が導入されており、乾燥状態での重量当たりのイオン交換容量が1~6mg当量/gであり、イオン交換基が有機多孔質イオン交換体中に均一に分布している有機多孔質イオン交換体(以下、第一の形態の有機多孔質イオン交換体とも記載する。)が挙げられる。
【0090】
第一の形態の有機多孔質イオン交換体としては、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が平均直径1~1000μmの開口となる連続気泡構造を有し、全細孔容積が1~50mL/gであり、イオン交換基が導入されており、乾燥状態での重量当りのイオン交換容量が1~6mg当量/gであり、イオン交換基が有機多孔質イオン交換体中に均一に分布している有機多孔質イオン交換体が挙げられる。
【0091】
また、第一の形態の有機多孔質イオン交換体としては、気泡状のマクロポア同士が重なり合い、この重なる部分が平均直径30~300μmの開口となる連続マクロポア構造体であり、全細孔容積が0.5~10ml/g、カチオン交換基又はアニオン交換基が導入されており、乾燥状態での重量当りのイオン交換容量が1~6mg当量/gであり、イオン交換基が有機多孔質イオン交換体中に均一に分布しており、且つ、連続マクロポア構造体(乾燥体)の切断面のSEM画像において、断面に表れる骨格部面積が、画像領域中25~50%である有機多孔質イオン交換体が挙げられる。
【0092】
また、第一の形態の有機多孔質イオン交換体としては、前記有機多孔質イオン交換体が、イオン交換基(キレート交換基、H形強酸性カチオン交換基又はアニオン交換基)が導入された全構成単位中、架橋構造単位を0.1~5.0モル%含有する芳香族ビニルポリマーからなる平均太さが1~60μmの三次元的に連続した骨格と、その骨格間に平均直径が10~200μmの三次元的に連続した空孔とからなる共連続構造体であり、全細孔容積が0.5~10mL/gであり、カチオン交換基が導入されており、乾燥状態での重量当りのイオン交換容量が1~6mg当量/gであり、イオン交換基が有機多孔質イオン交換体中に均一に分布している有機多孔質イオン交換体が挙げられる。
【0093】
蒸留工程は、イオン交換処理工程を行い得られるイオン交換処理工程の処理液を、蒸留する工程である。
【0094】
蒸留工程において、イオン交換処理工程の処理液を蒸留する方法としては、特に制限されず、単蒸留であれば、沸騰型の蒸留装置を用いてイオン交換処理工程の処理液を蒸留する方法、非沸騰型の蒸留装置を用いてイオン交換処理工程の処理液を蒸留する方法が挙げられる。蒸留方法として、精密蒸留や減圧または真空蒸留を用いても良い。蒸留方法としては、分離精製の性能の高さから、精密蒸留が好ましい。
【0095】
蒸留装置の接液部は、金属溶出がない点で、テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルコキシエチレンとの共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂で形成又はコーティングされていることが好ましい。除去又は測定対象への金属溶出が無ければ、接液部の材質は石英等の鉱物で形成又はコーティングされても良い。
【0096】
蒸留工程における蒸留条件は、有機溶媒の種類、沸点、蒸留前の不純物濃度や蒸留後の不純物低減目標濃度等により、適宜選択される。
【0097】
熱による分解や変性が起きる可能性がある有機溶媒を用いる場合は、非沸騰型蒸留装置を用いて有機溶媒の沸点以下の低い温度で時間をかけて蒸留を行うことが望ましい。減圧蒸留を用いて、溶媒の沸点を下げて蒸留しても良い。
【0098】
本発明の有機溶媒の精製方法は、イオン交換処理工程の後に、蒸留工程を行うことにより、金属不純物の除去性が高くなる。また、本発明の有機溶媒の精製方法では、例え、イオン交換処理工程で用いたイオン交換体から、水が有機溶媒に混入したとしても、蒸留工程で、水を除去することができるので、水分の除去性に優れる。
【0099】
加えて、金属微粒子は、イオンではないために、イオン交換樹脂のみで精製を行う場合には、金属微粒子を除去することができない。それに対して、本発明の有機溶媒の精製方法では、蒸留工程で、金属微粒子を除去することができるので、金属不純物の除去性が高くなる。
【0100】
また、有機溶媒中には、その製造工程で生成又は残留した副生成物、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)の製造におけるプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)や、イソプロピルアルコール(IPA)の製造におけるアセトン等の副生成物、有機溶媒の製造装置又は精製装置で用いられている樹脂部材からの溶出物のような有機不純物が含まれることがある。本発明の有機溶媒の精製方法では、蒸留工程で、そのような有機不純物を除去することができるので、有機不純物の除去性が高くなる。
【0101】
また、有機溶媒中では金属不純物の拡散速度が小さく、イオン交換樹脂とのイオン交換反応の反応速度も小さいため、イオン交換樹脂のみで有機溶媒の精製を行う場合には、イオン性金属不純物の除去率を高くするには、イオン交換樹脂への有機溶媒の通液速度を遅くする必要がある。それに対して、本発明の有機溶媒の精製方法では、イオン交換処理工程の後に蒸留工程があるので、イオン交換処理工程で、イオン交換体への有機溶媒の通液速度を高くすることにより、イオン性金属不純物の除去性が低くなったとしても、イオン交換処理工程でイオン性金属不純物の除去量が低くなった分を、後の蒸留工程での蒸留で、イオン性金属不純物を除去することにより、イオン交換処理工程で、イオン交換体への有機溶媒の通液速度を高くしたために、イオン性金属不純物の除去性が低くなった分を、蒸留工程でカバーすることができる。そのため、本発明の有機溶媒の精製方法では、イオン交換体への有機溶媒の通液速度を高くすることにより、イオン性金属不純物の除去性が低くなった分を、蒸留工程でカバーできる範囲で、イオン交換処理工程におけるイオン交換体への有機溶媒の通液速度を高くすることができるため、本発明の有機溶媒の精製方法は、高純度の有機溶媒を高い精製効率で得ることができる。
【0102】
本発明の有機溶媒の精製方法のうち、イオン交換処理工程が、イオン交換処理工程(2)及び(4)の形態は、H形カチオン交換体として、H形キレート交換体を用いている。このH形キレート交換体は、強酸性カチオン交換樹脂では除去率が悪く、更に、一部は有機溶媒中で陰イオン形態を有している可能性があるCr等の2価以上の金属の除去性が高い。そのため、本発明の有機溶媒の精製方法のうち、イオン交換処理工程が、イオン交換処理工程(2)及び(4)の形態は、Cr等の2価以上の金属の除去性が高くなる。
【0103】
本発明の有機溶媒の精製方法を行い得られる精製有機溶媒中の各金属含有量は、精製後の有機溶媒の用途により適宜選択され、好ましくはいずれも10ng/L以下である。つまり、本発明の有機溶媒の精製方法を行い得られる精製有機溶媒中の2価以上の各金属の含有量は、精製後の有機溶媒の用途により適宜選択され、好ましくはいずれも10ng/L以下であり、且つ、1価の金属の含有量は、精製後の有機溶媒の用途により適宜選択され、好ましくはいずれも10ng/L以下である。
【0104】
更に、本発明の有機溶媒の精製方法によれば、1ng/L以下の不純物レベルの精製が可能となるので、本発明の有機溶媒の精製方法を行い得られる精製有機溶媒は、微量金属分析のための検量線調製のために用いる標準液の希釈用溶媒(検量線用ブランク液)、サンプルの希釈用溶媒、器具や分析装置の洗浄用溶媒として、好適に用いられる。本発明の有機溶媒の精製方法のうち、イオン交換処理工程が、イオン交換処理工程(1)、(2)、(3)及び(4)の形態は、カチオン交換体とアニオン交換体の組み合わせなので、イオン性金属不純物に加え、酸及びアニオン類を除去できるので、イオンクロマトグラフ法に用いられる検量線用ブランク液としても、好適に用いられる。本発明の有機溶媒の精製方法を行い得られる精製有機溶媒の用途としては、半導体製造工程における希釈用溶媒、溶解用溶媒、洗浄用溶媒、乾燥用溶媒などが挙げられる。
【実施例】
【0105】
以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に制限されるものではない。
【0106】
<被処理有機溶媒1>
被処理有機溶媒1として、市販のプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME ELグレード、昭和電工製)を金属製容器に密閉保管し、金属濃度を増加させたサンプルを用いた。各金属不純物含有量を表1に示す。
【0107】
(実施例1)
(イオン交換処理工程)
H形キレート交換樹脂(DS-21)と、OH形強塩基性アニオン交換樹脂(DS-2)と、H形強酸性カチオン交換樹脂(DS-1)を、体積割合で3:1:1で混合した混合物50mLを、内径16mm、高さ300mmのカラムに充填した(H形C/OH形A/H型K混床1)。
次いで、H形C/OH形A/H型K混床1に被処理有機溶媒1をSV5h-1で通液し、20BV(樹脂体積の20倍量)通液したところで、処理液を1000mL得た。
・H形キレート交換樹脂:H形のアミノリン酸形キレート樹脂、オルガノ社製、オルライトDS-21、カチオン交換容量1.8eq/L-樹脂、調和平均径500μm
・OH形強塩基性アニオン交換樹脂(DS-2):オルガノ社製、アニオン交換容量1.0eq/L-樹脂
・H形強酸性カチオン交換樹脂(DS-1):オルガノ社製、カチオン交換容量2.0eq/L-樹脂
【0108】
(蒸留工程)
次いで、イオン交換処理工程の処理液を、非沸騰型蒸留装置(Evapoclean、株式会社イアス社製)を用いて、70℃、18時間の条件で蒸留を行い、処理液を100mL得た。
【0109】
(分析)
次いで、得られた処理液の金属含有量を測定した。その結果を表1に示す。また、水分含有量を測定したところ、水分含有量は300ppmであった。
<水分測定>
Aquacounter AQ-2200(平沼産業株式会社製)を用いて、水分含有量を測定した。
【0110】
(比較例1)
実施例1と同様にして、イオン交換処理工程を行い、処理液を1000mL得た。
次いで、得られた処理液の金属含有量を測定した。その結果を表1に示す。また、水分含有量を測定したところ、水分含有量は320質量ppmであった。
つまり、比較例1では、イオン交換処理工程を行い、蒸留工程を行わなかった。
【0111】
(比較例2)
被処理有機溶媒1を、非沸騰型蒸留装置(Evapoclean、株式会社イアス社製)を用いて、80℃、18時間の条件で蒸留を行い、処理液を100mL得た。
次いで、得られた処理液の金属含有量を測定した。その結果を表1に示す。また、水分含有量を測定したところ、水分含有量は280ppmであった。
つまり、比較例2では、蒸留工程を行い、イオン交換処理工程を行わなかった。
【0112】
実施例1、比較例1及び2の結果から、イオン交換樹脂精製と蒸留を組み合わせることで、イオン交換樹脂精製、蒸留精製のそれぞれ単独の精製よりも、金属不純物濃度をより低濃度まで低減することができた。
【0113】