(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】モータ駆動装置およびモータ駆動方法
(51)【国際特許分類】
H02P 6/15 20160101AFI20241028BHJP
【FI】
H02P6/15
(21)【出願番号】P 2020195725
(22)【出願日】2020-11-26
【審査請求日】2023-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】片山 圭一
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-182836(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータのトルクを指示するトルク指令信号と前記モータの回転に応じて生成される信号とに基づいて、前記モータを駆動させるための駆動信号を出力する駆動信号生成回路と、
前記駆動信号生成回路から出力された前記駆動信号に基づいて、前記モータを駆動するモータ駆動回路とを備え、
前記駆動信号生成回路は、
前記モータの回転が安定しているか否かを判定する判定部と、
前記判定部が前記モータの回転が安定していると判定した場合に、前記モータの回転速度の値を
計測し、計測した前記回転速度の値を一定値として取得する回転速度取得部と、
前記回転速度取得部で取得した
前記一定値に基づいて、前記モータの理論上の回転位置に対応する第1ベース信号を生成する第1ベース信号生成部と、
前記判定部が前記モータの回転が安定していると判定した場合に、前記第1ベース信号と前記トルク指令信号とに基づいて、前記駆動信号を生成する信号生成部と、を有する
モータ駆動装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ駆動装置において、
前記判定部は、所定の期間毎に、前記回転速度を計測し、前記回転速度の計測値に基づいて前記モータの回転が安定しているか否かを判定するとともに、前記モータの回転が安定している状態であることを示す値、または前記モータの回転が安定していない状態であることを示す値を示す判定結果信号を出力し、
前記回転速度取得部は、前記判定結果信号が
前記モータの回転が安定していない状態であることを示す値から前記モータの回転が安定している状態であることを示す値に切り替わったことに応じて、前
記回転速度の値を
計測し、計測した前記回転速度の値を前記一定値として取得する
モータ駆動装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のモータ駆動装置において、
前記判定部は、所定の期間における前
記回転速度の変動が所定の範囲内である場合に、前記モータの回転が安定していると判定する
モータ駆動装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載のモータ駆動装置において、
前記駆動信号生成回路は、
前記モータの回転に応じて生成される回転位置検出信号に基づいて、前記モータの回転位置に対応する第2ベース信号を生成する第2ベース信号生成部を更に有し、
前記信号生成部は、前記判定部が前記モータの回転が安定していないと判定した場合に、前記第2ベース信号と前記トルク指令信号とに基づいて、前記駆動信号を生成する
モータ駆動装置。
【請求項5】
請求項4に記載のモータ駆動装置において、
前記信号生成部は、
前記判定部が前記モータの回転が安定していると判定した場合に、前記第1ベース信号を選択して出力し、前記判定部が前記モータの回転が安定していないと判定した場合に、前記第2ベース信号を選択して出力するセレクタと、
前記セレクタから出力された前記第1ベース信号または前記第2ベース信号と前記トルク指令信号とに基づいて、前記モータを正弦波駆動するための信号を生成し、前記駆動信号として出力する正弦波駆動部とを含む
モータ駆動装置。
【請求項6】
モータの回転が安定しているか否かを判定する第1ステップと、
前記第1ステップにおいて前記モータの回転が安定していると判定した場合に、前記モータの回転速度の値を
計測し、計測した前記回転速度の値を一定値として取得する第2ステップと、
前記第2ステップにおいて取得した前記
一定値に基づいて、前記モータの理論上の回転位置に対応する第1ベース信号を生成する第3ステップと、
前記第2ステップにおいて前記モータの回転が安定していると判定した場合に、前記第3ステップで生成した前記第1ベース信号と前記モータのトルクを指示するトルク指令信号とに基づいて、前記モータを駆動させるための駆動信号を生成する第4ステップと、を含む
モータ駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動装置及びモータ駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばカラー複写機等に使用されるモータには、回転むら(Wow flutter)を低減させることが厳しく要求されている。例えばカラー複写機において、モータの回転むらがあると、印刷時に色むらが発生する原因になる。
【0003】
上記のような課題に対して、例えば、下記特許文献1には、ホール素子の特性のばらつきに基づいて決定された進角情報を記憶する記憶手段を備え、制御手段が、記憶手段に記憶された情報に基づいてブラシレスモータを制御するブラシレスモータの駆動制御装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、モータの回転むらには、1回転成分(回転1次成分)と複数の高調波成分が含まれている。例えば、カラー複写機の場合、回転1次成分と回転n次成分(nはモータの極数/2で決まる自然数)が、色むらに大きな影響を与える。
【0006】
1回転成分、すなわち回転1次成分(W1)は、モータが1回転する毎に発生する周期的な斑(むら)であり、モータの組立精度等の影響により発生する。回転n次成分(を含む高調波成分)は、モータの磁極数に起因する成分であり、ホール素子等の位置検出素子の取り付け精度や、磁石の着磁の影響により発生する。
【0007】
また、近年では、回転むらの1回転成分や高調波成分が、目標回転速度に対するモータの回転速度の安定性を低下させる要因の一つと考えられており、モータの高精度な駆動を実現するためにも、回転むらを低減することが重要である。
【0008】
上述した特許文献1の技術では、ホール素子の特性のばらつきに基づく進角情報を用いてブラシレスモータを制御しているため、ホール素子の特性のばらつきに基づく回転むらを低減することができたとしても、モータの組立精度等の他の要因によって発生する回転むらを低減することはできない。
【0009】
本発明は、上述した課題を解消するためのものであり、モータの回転むらを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の代表的な実施の形態に係るモータ駆動装置は、モータのトルクを指示するトルク指令信号と前記モータの回転に応じて生成される信号とに基づいて、前記モータを駆動させるための駆動信号を出力する駆動信号生成回路と、前記駆動信号生成回路から出力された前記駆動信号に基づいて、前記モータを駆動するモータ駆動回路とを備え、前記駆動信号生成回路は、前記モータの回転が安定しているか否かを判定する判定部と、前記判定部が前記モータの回転が安定していると判定した場合に、前記モータの回転速度の値を取得する回転速度取得部と、前記回転速度取得部で取得した前記回転速度の値に基づいて、前記モータの理論上の回転位置に対応する第1ベース信号を生成する第1ベース信号生成部と、前記判定部が前記モータの回転が安定していると判定した場合に、前記第1ベース信号と前記トルク指令信号とに基づいて、前記駆動信号を生成する信号生成部と、を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態に係るモータ駆動装置の構成を示す図である。
【
図2】駆動信号生成回路の内部構成を示すブロック図である。
【
図3】モータの回転速度の時間的変化の一例を示す図である。
【
図4】駆動信号生成回路において生成される信号の一例を示す図である。
【
図5】本実施の形態に係るモータ駆動装置による、モータの回転速度が変化したときのモータの駆動方法を説明するための図である。
【
図6】本実施の形態に係るモータ駆動装置による処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.実施の形態の概要
先ず、本願において開示される発明の代表的な実施の形態について概要を説明する。なお、以下の説明では、一例として、発明の構成要素に対応する図面上の参照符号を、括弧を付して記載している。
【0013】
〔1〕本発明の代表的な実施の形態に係るモータ駆動装置(1)は、モータ(20)のトルクを指示するトルク指令信号(St)と前記モータの回転に応じて生成される信号(Hu,Hv,Hw,Sr)とに基づいて、前記モータを駆動させるための駆動信号(Sd)を出力する駆動信号生成回路(3)と、前記駆動信号生成回路から出力された前記駆動信号(Sd)に基づいて、前記モータを駆動するモータ駆動回路(2)とを備え、前記駆動信号生成回路(3)は、前記モータの回転が安定しているか否かを判定する判定部(32)と、前記判定部が前記モータの回転が安定していると判定した場合に、前記モータの回転速度の値を取得する回転速度取得部(33)と、前記回転速度取得部で取得した前記回転速度の値に基づいて、前記モータの理論上の回転位置に対応する第1ベース信号(Sb1)を生成する第1ベース信号生成部(34)と、前記判定部が前記モータの回転が安定していると判定した場合に、前記第1ベース信号と前記トルク指令信号とに基づいて、前記駆動信号を生成する信号生成部(30(31,38,39))と、を有することを特徴とする。
【0014】
〔2〕上記〔1〕に記載のモータ駆動装置において、前記回転速度取得部(33)は、前記モータの回転が安定していない状態から前記モータの回転が安定した状態になったことを前記判定部(32)が検出した場合に、前記モータの回転速度の値を取得してもよい。
【0015】
〔3〕上記〔1〕または〔2〕に記載のモータ駆動装置において、前記判定部(32)は、所定の期間における前記モータ(20)の回転速度の変動が所定の範囲(R)内である場合に、前記モータの回転が安定していると判定してもよい。
【0016】
〔4〕上記〔1〕乃至〔3〕の何れかに記載のモータ駆動装置において、前記駆動信号生成回路(3)は、前記モータの回転に応じて生成される回転位置検出信号(Hu,Hv,Hw)に基づいて、前記モータの回転位置に対応する第2ベース信号(Sb2)を生成する第2ベース信号生成部(37)を更に有し、前記信号生成部(30(31,38,39))は、前記判定部が前記モータの回転が安定していないと判定した場合に、前記第2ベース信号と前記トルク指令信号(St)とに基づいて、前記駆動信号(Sd)を生成してもよい。
【0017】
〔5〕上記〔4〕に記載のモータ駆動装置において、前記信号生成部(30(31,38,39))は、前記判定部が前記モータの回転が安定していると判定した場合に、前記第1ベース信号(Sb1)を選択して出力し、前記判定部が前記モータの回転が安定していないと判定した場合に、前記第2ベース信号(Sb2)を選択して出力するセレクタ(38)と、前記セレクタから出力された前記第1ベース信号または前記第2ベース信号と前記トルク指令信号(St)とに基づいて、前記モータを正弦波駆動するための信号を生成し、前記駆動信号(Sd)として出力する正弦波駆動部(39)とを含んでもよい。
【0018】
〔6〕本発明の代表的な実施の形態に係るモータ駆動方法は、モータ(20)の回転が安定しているか否かを判定する第1ステップ(S13)と、前記第1ステップにおいて前記モータの回転が安定していると判定した場合に、前記モータの回転速度の値を取得する第2ステップ(S14)と、前記第2ステップにおいて取得した前記回転速度の値に基づいて、前記モータの理論上の回転位置に対応する第1ベース信号(Sb1)を生成する第3ステップ(S15)と、前記第2ステップにおいて前記モータの回転が安定していると判定した場合に、前記第3ステップで生成した前記第1ベース信号と前記モータのトルクを指示するトルク指令信号(St)とに基づいて、前記モータを駆動させるための駆動信号を生成する第4ステップ(S15)と、を含んでもよい。
【0019】
2.実施の形態の具体例
以下、本発明の実施の形態の具体例について図を参照して説明する。なお、以下の説明において、各実施の形態において共通する構成要素には同一の参照符号を付し、繰り返しの説明を省略する。
【0020】
≪実施の形態≫
【0021】
図1は、本発明の実施の形態に係るモータ駆動装置1の構成を示す図である。
【0022】
図1に示されるモータユニット100は、モータ20と、モータ20の駆動を行うモータ駆動装置1とを備えている。モータユニット100は、例えば、複写機(例えばカラー複写機)等に搭載される。
【0023】
モータ20は、例えば、ブラシレスモータである。本実施の形態において、モータ20は、3相のブラシレスモータである。
【0024】
モータ駆動装置1は、モータ20を例えば正弦波駆動により駆動させるように構成されている。モータ駆動装置1は、モータ20の電機子コイルLu,Lv,Lwに周期的に正弦波状の駆動電流を流すことで、モータ20を回転させる。
【0025】
モータ駆動装置1は、モータ駆動回路2と、駆動信号生成回路3とを有している。なお、
図1に示されているモータ駆動装置1の構成要素は、全体の一部であり、モータ駆動装置1は、
図1に示されたものに加えて、他の構成要素を有していてもよい。
【0026】
モータ駆動回路2は、後述する、駆動信号生成回路3から出力される駆動信号Sdに基づいて、モータ20に駆動信号を出力してモータ20を駆動する。モータ駆動回路2は、インバータ回路2a及びプリドライブ回路2bを有する。
【0027】
インバータ回路2aは、プリドライブ回路2bから出力された出力信号に基づいてモータ20に駆動信号を出力し、モータ20が備える電機子コイルLu,Lv,Lwに通電する。インバータ回路2aは、例えば、直流電源Vccの両端に設けられた2つのスイッチ素子の直列回路の対が、電機子コイルLu,Lv,Lwの各相(U相、V相、W相)に対してそれぞれ配置されて構成されている。2つのスイッチ素子の各対において、スイッチ素子同士の接続点に、モータ20の各相の端子が接続されている。
【0028】
プリドライブ回路2bは、駆動信号生成回路3からの駆動信号Sdに基づいて、インバータ回路2aを駆動するための出力信号を生成し、インバータ回路2aに出力する。
【0029】
駆動信号Sdは、例えばPWM(Pulse Width Modulation)信号である。具体的には、駆動信号Sdは、インバータ回路2aの各スイッチ素子に対応する6種類のPWM信号を含む。
【0030】
プリドライブ回路2bは、例えば、駆動信号Sdに基づいて、インバータ回路2aの各スイッチ素子を駆動する6種類の駆動信号Vuu,Vul,Vvu,Vvl,Vwu,Vwlを生成して出力する。これらの駆動信号がインバータ回路2aに入力されることにより、インバータ回路2aを構成するスイッチ素子がオン、オフ動作を行う。これにより、モータ20の各相に電力が供給される。
【0031】
駆動信号生成回路3は、例えば、オープンループ方式のモータ駆動方式によってモータ20を駆動する。
【0032】
ここで、オープンループ方式とは、実回転速度と目標回転速度との誤差が小さくなるようにする制御を行わず、入力されたトルク指令信号と回転位置検出信号とに基づいて駆動信号を生成し、生成した駆動信号に基づいてモータの駆動を行う方式である。
【0033】
駆動信号生成回路3は、例えば、モータ20の回転速度の目標値である目標回転速度を指示する目標回転速度信号が入力される代わりにモータ20のトルクを指定するトルク指令信号Stが入力され、入力されたトルク指令信号Stに基づいてモータ20を駆動する。
【0034】
トルク指令信号Stは、例えば、目標とするトルクの値に対応するデューティ比を指示する信号であり、例えばPWM信号である。
【0035】
本実施の形態において、駆動信号生成回路3は、例えば、CPU等のプロセッサと、RAM,ROM等の各種記憶装置と、カウンタ(タイマ)、A/D変換回路、D/A変換回路、クロック発生回路、および入出力I/F回路等の周辺回路とがバス等を介して互いに接続された構成を有するプログラム処理装置(例えば、マイクロコントローラ)である。
【0036】
なお、モータ駆動装置1は、駆動信号生成回路3とモータ駆動回路2とが一つの集積回路装置(IC)としてパッケージ化された構成であってもよいし、駆動信号生成回路3とモータ駆動回路2とが個別の集積回路装置として夫々パッケージ化された構成であってもよい。
【0037】
駆動信号生成回路3には、モータ20に取り付けられた位置検出装置から出力された、モータ20の回転に応じた回転位置検出信号が入力される。回転位置検出装置は、例えばホール(HALL)素子である。例えば、モータ20には、回転位置検出装置として、モータ20の各相(U相、V相、W相)にそれぞれ対応した3つのホール素子25u,25v,25wが設けられている。
【0038】
3つのホール素子25u,25v,25wは、例えば、互いに略等間隔(例えば、隣り合うものと120度の間隔で)でモータ20のロータ(回転子)の周囲に配置されている。以下の説明において、ホール素子25u,25v,25wを総称する場合には、「ホール素子25」と表記する場合がある。
【0039】
ホール素子25u,25v,25wは、それぞれ、ロータの磁極を検出し、ロータの回転に応じて電圧が変化するホール信号Hu,Hv,Hwを出力する。ホール信号Hu,Hv,Hwは、それぞれ回転位置検出信号として駆動信号生成回路3に入力される。
【0040】
なお、駆動信号生成回路3には、このようなホール信号Hu,Hv,Hwに代えて、モータ20のロータの回転位置に対応する他の信号が回転位置検出信号として入力されるように構成されていてもよい。例えば、エンコーダやレゾルバ、モータ電流検出回路などを設け、その検出信号が入力されるようにしてもよい。
【0041】
本実施の形態では、一例として、ホール信号Hu,Hv,Hwが回転位置検出信号として駆動信号生成回路3に入力されるものとし、以下の説明においては、「ホール信号Hu,Hv,Hw」を「回転位置検出信号Hu,Hv,Hw」とも称する。
【0042】
また、駆動信号生成回路3には、モータ20(ロータ)の回転速度の情報を含む回転速度検出信号Srが入力される。回転速度検出信号Srは、例えば、ロータの回転速度(回転数)に対応する周期(周波数)を有する周期信号(FG(Frequency Generator)信号)である。
【0043】
本実施の形態において、回転速度検出信号SrとしてのFG信号は回転速度検出装置26によって生成される。回転速度検出装置26は、例えば、モータ基板上に配置されたFGパタンである。回転速度検出装置26としてのFGパタンは、モータ20の回転速度に対応する周期信号(FG信号)を発生させる。このFG信号は、回転速度検出信号Srとして駆動信号生成回路3に入力される。
【0044】
ここで、回転速度検出信号Srは、モータ20の回転速度を示す情報を含む信号であればよく、FG信号に限定されない。例えば、本実施の形態では、回転速度検出装置26としてのFGパタンを用いて回転速度検出信号Srを生成する場合を説明するが、これに限らず、エンコーダやレゾルバ等その他の回転速度検出装置を用いて回転速度検出信号Srを生成してもよいし、駆動信号生成回路3自身が、ホール信号Hu,Hv,Hwに基づいて回転速度検出信号Srを生成してもよい。
【0045】
また、駆動信号生成回路3がホール素子25u,25v,25wを用いないセンサレスの駆動制御を行う場合には、駆動信号生成回路3が公知のセンサレス駆動制御に係る演算を実行することにより、モータ20の回転速度を算出して回転速度検出信号Sr(回転速度情報)を生成してもよい。
【0046】
上述したように、駆動信号生成回路3には、目標回転速度信号が入力される代わりに、トルク指令信号Stが入力される。例えば、モータ駆動装置1の外部に設けられた上位装置(複写機の制御ユニット等)から出力されたトルク指令信号Stが、駆動信号生成回路3に入力される。
【0047】
駆動信号生成回路3は、トルク指令信号Stと、モータ20の回転に応じて生成される信号(Hu,Hv,Hw,Sr)とに基づいて、モータ20を駆動させるための駆動信号Sdを生成して出力する。詳細は後述するが、駆動信号生成回路3は、モータ20の回転が安定している場合において、モータ20の回転速度を取得(計測)し、取得した安定回転時の回転速度の値に基づいてモータ20(ロータ)の理論上の回転位置に対応するベース信号を生成し、生成したベース信号とトルク指令信号Stとに基づいて駆動信号Sdを生成する。
以下、駆動信号生成回路3の内部構成について、説明する。
【0048】
図2は、駆動信号生成回路3の内部構成を示すブロック図である。
【0049】
図2に示されるように、駆動信号生成回路3は、モータの正弦波駆動を実現するための機能ブロックとして、判定部32、回転速度取得部33、第1ベース信号生成部34、回転位置検出部36、および第2ベース信号生成部37と、信号生成部30としてのトルク指令値取得部31、セレクタ38、および正弦波駆動部39とを含んでいる。これらの機能ブロックは、上述したMCU内のCPUが各種演算を実行するとともに、入出力I/F回路等の周辺回路を制御することによって、実現される。
【0050】
なお、
図2において、各回路間での信号や情報等の送受は、駆動信号Sdの生成に関する説明に係るもののみが一例として示されている。
【0051】
トルク指令値取得部31は、例えば上位装置から駆動信号生成回路3に入力されたトルク指令信号Stからトルクの指令値(目標値)を取得する機能部である。例えば、トルク指令信号Stが、トルクの指令値をデューティ比で示すPWM信号である場合、トルク指令値取得部31は、トルク指令信号StとしてのPWM信号のデューティ比を解析して、解析した値をトルク指令値として正弦波駆動部39に与える。
【0052】
判定部32は、モータ20の回転が安定しているか否かを判定する機能部である。判定部32は、回転速度検出信号Srに基づいてモータ20の回転速度を監視し、回転速度が安定回転判定条件を満たしているか否かを判定することにより、モータ20の回転が安定しているか否かを示す判定結果信号Seを出力する。
【0053】
図3は、モータ20の回転速度の時間的変化の一例を示す図である。
図3において、横軸は時間を表し、縦軸はモータ20の回転速度を表している。また、
図3における参照符号300は、時刻t0に上位装置からトルク指令信号Stが入力されてモータ駆動装置1がモータ20の駆動を開始した場合における、モータ20の回転速度の時間的変化を示すグラフである。
【0054】
判定部32は、モータ20の回転が安定しているか否かを判定する判定処理を行う。例えば、判定部32は、定期的に(所定の期間T1で)判定処理を逐次実行する。所定の期間T1は、例えば、FGパタンの1周期(回転速度検出信号Srの1周期)である。例えば、判定部32は、FGパタンの1周期の出力ごと(回転速度検出信号Srの1周期ごと)に、判定処理を実行する。
【0055】
判定部32は、判定処理において、回転速度検出信号Srに基づいて、モータ20の回転速度を逐次計測する。例えば、判定部32は、回転速度検出信号Srの周期(周波数)を計測することにより、モータ20の回転速度を計測する。
【0056】
次に、判定部32は、回転速度の変動が所定の範囲R(以下、「許容変動範囲R」とも称する)内にあるか否かを判定する。具体的には、判定部32は、計測したモータ20の回転速度の値と前回の計測時のモータ20の回転速度と比較した時の回転速度の変動(例えば、変動率、または変動量)が許容変動範囲R内にあるか否かを判定する。例えば、判定部32は、回転速度の計測値の変動率が許容変動範囲R内(例えば、±3%以内)であるか否かを判定する。
【0057】
そして、判定部32は、所定の期間T1で判定した複数の回転速度の計測値の変動率が所定の回数以上、許容変動範囲R内である場合には、モータ20の回転が安定している状態(以下、「安定回転状態」とも称する。)であることを示す判定結果信号Seを出力し、複数の回転速度の計測値の変動率が許容変動範囲R内で所定の回数以上継続しない場合には、モータ20の回転が安定していない状態(以下、「不安定回転状態」とも称する。)であることを示す判定結果信号Seを出力する。
【0058】
なお、判定部32による判定は、回転速度の計測値の変動率が許容変動範囲R内で持続的に変動していることを検知できればよく、具体的な判定方法は、上述した内容に限定されない。例えば、所定の期間T1を回転速度検出信号Srの複数の周期や一定の期間とし、判定部32は、所定の期間T1における回転速度の平均値を算出し、所定の期間T1よりも長い第二の所定の期間T2において上記平均値が許容変動範囲R内である場合に、安定回転状態と判定してもよい。
【0059】
図3に示す例の場合、時刻t0から時刻t1までモータ20の回転速度が上昇し続け、回転速度の変動率が許容変動範囲R(例えば、±3%)を超えている。このとき、判定部32は、モータ20の回転速度が安定していない状態(不安定回転状態)であることを示す判定結果信号Seを出力する。
【0060】
その後、モータ20の回転速度の上昇が停止し、一定の値に近づくことにより、回転速度の変動率が許容変動範囲R内に収束する。例えば、時刻t2において、回転速度の変動率が許容変動範囲R内にある状態が所定の期間T2継続した場合には、判定部32は、モータ20が安定回転状態であることを示す判定結果信号Seを出力する。
【0061】
回転速度取得部33は、判定部32がモータ20が安定回転状態であると判定した場合に、モータ20の回転速度の値を取得する機能部である。具体的に、回転速度取得部33は、モータ20が安定回転状態であることを示す判定結果信号Seが判定部32から出力されたことに応じて、回転速度検出信号Srに基づいてモータ20の回転速度を計測し、その計測値を取得する。例えば、
図3に示す例において、時刻t2において判定部32からモータ20が安定回転状態であることを示す判定結果信号Seが出力されたとき、回転速度取得部33は、回転速度検出信号Srに基づいてモータ20の回転速度を計測し、その計測値を、例えば一定値として、取得する。
【0062】
ここで、回転速度取得部33は、モータ20が安定回転状態である場合に、定期的に回転速度の値を取得するのではなく、モータ20の回転が安定していない状態(不安定回転状態)からモータ20の回転が安定した状態(安定回転状態)になったことを判定部32が検出した場合に、回転速度の値を取得することが好ましい。例えば、判定部32による各判定処理において、モータ20が安定回転状態であると判定される度にモータ20の回転速度の値を取得するのではなく、モータ20が不安定回転状態から安定回転状態に遷移したときのみ、モータ20の回転速度の値を一定値として取得することが好ましい。
【0063】
なお、回転速度取得部33が取得した回転速度の値は、例えば、所定の期間T2内に取得した回転速度の計測値の一つであってもよいし、所定の期間T2内に取得した複数の回転速度の計測値の平均値であってもよい。すなわち、回転速度取得部33が取得した回転速度の値は、安定回転状態におけるモータ20の回転速度の計測値に基づく値であればよい。
【0064】
回転位置検出部36は、回転位置検出信号Hu,Hv,Hwに基づいて、モータ20の回転位置を示す信号を生成する機能部である。例えば、回転位置検出部36は、3相のホール信号Hu,Hv,Hwを合成した3相合成信号Sfを生成する。例えば、3相合成信号は、電気角60°毎に信号レベルが切り替わる信号である。
【0065】
第1ベース信号生成部34および第2ベース信号生成部37は、後述する駆動信号Sdとしての正弦波駆動信号を生成するための基準(例えば144ステップの正弦波であれば、1ステップ幅=2.5°)となるベース信号を生成する機能部である。ここで、ベース信号は、モータ20(ロータ)の回転位置に対応する信号(パルス信号)であり、ベース信号の周期は、モータ20の回転速度に対応している。
【0066】
本実施の形態では、第1ベース信号生成部34によって生成されるベース信号を「第1ベース信号Sb1」、第2ベース信号生成部37によって生成されるベース信号を「第2ベース信号Sb2」と称する。
【0067】
図4は、駆動信号生成回路3において生成される信号の一例を示す図である。
【0068】
第2ベース信号生成部37は、
図4に示すように、モータ20の回転に応じて生成される回転位置検出信号(ホール信号)Hu,Hv,Hwを用いて、第2ベース信号Sb2を生成する。具体的には、第2ベース信号生成部37は、例えば、回転位置検出部36によって3相のホール信号Hu,Hv,Hwに基づいて生成された3相合成信号Sfを所定の数で分割することにより、第2ベース信号Sb2を生成する。
【0069】
例えば、第2ベース信号生成部37は、電気角360°の3相合成信号Sfを144ステップで分割して、1ステップ2.5°の第2ベース信号Sb2を生成する。この場合、第2ベース信号Sb2の1周期は、モータ20の電気角2.5°に対応している。
【0070】
ここで、第2ベース信号Sb2は、上述したように、モータ20の実際の回転に応じて生成される回転位置検出信号Hu,Hv,Hwを用いて生成されるので、ホール素子25u,25v,25wの特性のばらつきやモータ20の組立精度等の影響を受ける。
【0071】
第1ベース信号生成部34は、モータ20の回転が安定しているときのモータ20の回転速度に基づいて、第1ベース信号Sb1を生成する。具体的には、第1ベース信号生成部34は、回転速度取得部33が、例えば一定値として取得した回転速度の値に基づいて、生成すべき第1ベース信号Sb1の周期Tb1を算出し、算出した周期Tb1を有する周期信号を生成して、第1ベース信号Sb1として出力する。
【0072】
ここで、第1ベース信号Sb1の周期Tb1は、例えば、以下に示されるように、モータ20の安定回転状態における回転速度(周波数)と、モータ20が所定角度だけ回転する期間に対応する回転速度検出信号Sr(FG信号)のパルス数とに基づいて算出することができる。以下に、第1ベース信号Sb1の周期の算出方法の一例を示す。
【0073】
例えば、モータ20が安定回転状態にあるときに取得したモータ20の回転速度が500〔Hz〕であり、ロータの1回転当たりの回転速度検出信号Sr(FG信号)のパルス数が45〔pulse/rev〕であり、モータ20が10極モータである(N極とS極とが5組設けられている)場合について考える。
【0074】
このとき、モータ20の回転速度に対応する周期は、次式のようになる。
【0075】
1/500(Hz)=2(ms)
【0076】
また、電気角360度の期間、すなわちそれぞれのホール信号Hu,Hv,Hwの周期は、クロック信号の周期と、ロータの1回転当たりのFG信号のパルス数と、モータ20の磁極の数と基づいて求められる。具体的には、次式のようになる。
【0077】
2(ms)*45(pulse/rev)/5(組)=18(ms)
【0078】
ここで、モータ20に流れる正弦波電流の滑らかさを決定するステップ数が例えば144ステップである場合、第1ベース信号Sb1の周期Tb1は、次式から算出できる。
【0079】
Tb1=18(ms)/144(ステップ)=125(μs)
【0080】
この場合、第1ベース信号Sb1の1周期(Tb1)は、モータ20の電気角2.5°に対応している。
【0081】
第1ベース信号生成部34は、例えば、駆動信号生成回路3としてのプログラム処理装置が備えているカウンタ(不図示)を用いて、駆動信号生成回路3内の基準クロック信号から第1ベース信号Sb1を生成する。具体的には、第1ベース信号生成部34が、回転速度取得部33が、例えば一定値として取得したモータ20の安定回転時の回転速度の値を用いて、上述した手法により、周期Tb1を算出する。そして、第1ベース信号生成部34が、算出した周期Tb1に対応する指定カウント値を設定し、カウンタを用いて指定カウント値まで基準クロック信号をカウントすることにより、第1ベース信号Sb1としてのパルス信号を生成する。
【0082】
例えば、駆動信号生成回路3内部で生成されている基準クロック信号の周波数が10MHz(周期が100ns)であり、指定カウント値が“1250”である場合、第1ベース信号生成部34は、クロック信号を“1250回”カウントすることにより、周期Tb1が125μs(=100ns×1250)の周期信号(パルス信号)を生成し、第1ベース信号Sb1として出力する(
図4参照)。
【0083】
このように、第1ベース信号Sb1は、回転速度取得部33で取得した回転速度でモータ20が回転していると仮定した場合の、モータ20(ロータ)の理論上の回転位置に対応する信号であり、第2ベース信号Sb2のように、モータ20の実際の回転に応じて生成される回転位置検出信号Hu,Hv,Hwを用いて生成していないので、ホール素子25u,25v,25wの特性のばらつきやモータ20の組立精度等の影響を受けない。
【0084】
セレクタ38は、判定部32からの判定結果信号Seに基づいて、第1ベース信号生成部34から出力された第1ベース信号Sb1と第2ベース信号生成部37から出力された第2ベース信号Sb2のいずれか一方を選択して出力する機能部である。
【0085】
具体的に、セレクタ38は、判定部32による判定結果信号Seが、モータ20が不安定回転状態であることを示す値である場合に、第2ベース信号Sb2を選択して出力し、判定部32による判定結果信号Seが、モータ20が安定回転状態であることを示す値である場合に、第1ベース信号Sb1を選択して出力する。
【0086】
正弦波駆動部39は、トルク指令信号Stと、ベース信号としてのセレクタ38から出力された第1ベース信号Sb1または第2ベース信号Sb2とに基づいて、モータ駆動回路2を駆動させるための駆動信号Sdを生成する機能部である。
【0087】
具体的に、正弦波駆動部39は、トルク指令値取得部31から出力されたトルク指令値(トルク指令信号St)で指定されたトルクでモータ20が動作するように、セレクタ38から出力された第1ベース信号Sb1または第2ベース信号Sb2を用いて、パルス幅を調整した6種類のPWM信号を生成し、駆動信号Sdとして出力する。駆動信号Sdがモータ駆動回路2に入力されることにより、モータ駆動回路2は、モータ20を正弦波駆動する。
【0088】
図5は、本実施の形態に係るモータ駆動装置1による、モータの回転速度が変化したときのモータの駆動方法を説明するための図である。
【0089】
図5には、先に説明した
図3の時刻t2以降における、モータ20の回転速度の時間的変化が参照符号301で表されている。
【0090】
図5に示すように、時刻t2以降においてモータ20の回転速度が安定し、モータ20が安定回転状態であったとする。このとき、判定部32が、モータ20が安定回転状態であることを示す判定結果信号Seを出力しているため、セレクタ38は、時刻t2において取得したモータ20の回転速度の測定値に基づいて生成された第1ベース信号Sb1を選択して出力している。正弦波駆動部39は、セレクタ38から出力されている第1ベース信号Sb1を用いて駆動信号Sdを生成し、モータ20を駆動している。
【0091】
その後、例えば、モータユニット100を搭載している複写機内において紙詰まり等のモータ20の負荷が変動する事象が発生し、
図5における時刻t3から時刻t4までの期間においてモータ20の回転速度が大きく変動したとする。
【0092】
時刻t3から時刻t4までの期間では、回転速度の変動率が所定の範囲R(例えば、±3%)を超えるため、判定部32は、モータ20が不安定回転状態であると判定し、そのことを示す判定結果信号Seを出力する。セレクタ38は、モータ20が不安定回転状態であることを示す判定結果信号Seが判定部32から出力されたことに応じて、出力するベース信号を、第1ベース信号Sb1から、モータ20の実際の回転に応じた回転位置検出信号Hu,Hv,Hwに基づく第2ベース信号Sb2に切り替える。正弦波駆動部39は、セレクタ38から出力される第2ベース信号Sb2を用いて駆動信号Sdを生成し、モータ20を駆動する。
【0093】
その後、紙詰まり等が解消されて、モータ20の回転速度が安定し、時刻t5において、回転速度の変動率が所定の範囲R内にある状態が所定の期間T2経過したとする。このとき、判定部32は、判定結果信号Seを、モータ20が不安定回転状態であることを示す値からモータ20が安定回転状態であることを示す値に切り替える。
【0094】
回転速度取得部33は、判定結果信号Seがモータ20が不安定回転状態であることを示す値からモータ20が安定回転状態であることを示す値に切り替わったことに応じて、モータ20の回転速度の値を新たな一定値として取得する。これにより、第1ベース信号生成部34は、新たに取得された回転速度の値を用いて、第1ベース信号Sb1を生成する。
【0095】
また、セレクタ38は、モータ20が安定回転状態であることを示す判定結果信号Seが出力されたことに応じて、選択するベース信号を、第2ベース信号Sb2から第1ベース信号Sb1に切り替えて出力する。これにより、時刻t5以降において、正弦波駆動部39は、再び、第1ベース信号Sb1を用いて駆動信号Sdを生成し、モータ20を駆動する。
【0096】
次に、モータ駆動装置1における処理の流れについて説明する。
図6は、本実施の形態に係るモータ駆動装置1による処理の流れを示すフローチャートである。
【0097】
図6に示されるように、先ず、モータ20の駆動が行われていない状態において、モータ駆動装置1にトルク指令信号Stが入力されたとき、駆動信号生成回路3が、トルク指令信号Stを検知する(ステップS11)。駆動信号生成回路3は、トルク指令信号Stの検知に応じてモータ駆動を開始する。
【0098】
先ず、駆動信号生成回路3は、モータ20の実際の回転に応じた回転位置検出信号(ホール信号)Hu,Hv,Hwに基づいて第2ベース信号Sb2を生成し、第2ベース信号Sb2を用いて、モータ20の駆動を開始する(ステップS12)。
具体的には、例えば、モータ20の起動時にはモータ20の動作が停止している状態から回転を始めるため、モータ20は安定回転状態ではない。そのため、判定部32は、モータ20が不安定回転状態であることを示す判定結果信号Seを出力する。セレクタ38は、その判定結果信号Seに応じて、第2ベース信号生成部37が回転位置検出信号Hu,Hv,Hwに基づいて生成した第2ベース信号Sb2を選択して出力する。そして、正弦波駆動部39が第2ベース信号Sb2とトルク指令信号Stとに基づいて駆動信号Sdを生成して出力することにより、モータ20が回転を始める。
【0099】
次に、駆動信号生成回路3が、モータ20の回転が安定しているか否かを判定する(ステップS13)。具体的には、判定部32が、回転速度検出信号Srに基づいてモータの回転速度を計測し、上述した手法により、モータ20が安定回転状態であるか否かを定期的に判定する。
【0100】
モータ20が不安定回転状態である場合(ステップS13:NO)、駆動信号生成回路3は、モータ20の実際の回転に応じた回転位置検出信号Hu,Hv,Hwに基づく第2ベース信号Sb2を用いたモータ駆動を継続する(ステップS12)。
【0101】
一方、モータ20が安定回転状態である場合(ステップS13:YES)、駆動信号生成回路3は、安定回転状態にあるモータ20の回転速度の値を取得する(ステップS14)。例えば、判定部32から出力されている判定結果信号Seが、モータ20が不安定回転状態であることを示す値からモータ20が安定回転状態であることを示す値に切り替わったとき、回転速度取得部33が、上述の手法により、モータ20の回転速度の値を一定値として取得する。
【0102】
次に、駆動信号生成回路3は、ステップS14において取得した回転速度の値に基づく第1ベース信号Sb1を用いて、モータ20を駆動する(ステップS15)。具体的には、セレクタ38が、ステップS13において判定部32からモータ20が安定回転状態であることを示す判定結果信号Seが出力されたことに応じて、ステップS14で回転速度取得部33が取得した回転速度の値に基づく第1ベース信号Sb1を選択して出力する。そして、正弦波駆動部39が第1ベース信号Sb1とトルク指令信号Stとに基づいて駆動信号Sdを生成して出力することにより、モータ20が回転をする。
【0103】
次に、駆動信号生成回路3が、モータ20の安定回転状態が継続しているか否かを判定する(ステップS16)。モータ20が安定回転状態ではなく不安定状態である場合(ステップS16:NO)には、駆動信号生成回路3は、第1ベース信号Sb1を用いたモータ駆動から、第2ベース信号Sb2(ホール信号)を用いたモータ駆動に切り替える(ステップS12)。その後、駆動信号生成回路3は、上述したステップS13~ステップS16を再度実行する。
【0104】
モータ20の安定回転状態が継続している場合(ステップS16:YES)には、駆動信号生成回路3が、トルク指令信号Stの入力が停止したか否かを検知する(ステップS17)。
【0105】
トルク指令信号Stの入力が停止していない場合には(ステップS17:NO)、駆動信号生成回路3は、ステップS14で取得した回転速度に基づく第1ベース信号Sb1を用いたモータ駆動を継続する(ステップS15)。
【0106】
一方、トルク指令信号Stの入力の停止が検知された場合には(ステップS17:YES)、駆動信号生成回路3が、モータ20のフリーラン停止処理を開始する(ステップS18)。すなわち、駆動信号生成回路3が、モータ20の全相をオフするように駆動信号Sdを生成する。これにより、モータ20がフリーラン停止する。なお、停止する際、ショートブレーキ等を行うようにしてもよい。
【0107】
モータ20の回転むらの特徴として、モータ20の組立精度やマグネットの着磁むらによるばらつきは、モータ20が1回転する毎に周期的に生じる回転むらとなる。また、ホール素子25の取り付け精度によるばらつきは、モータ20が1回転する間に周期的に生じる高調波成分の回転むらとなる。
【0108】
これに対して、本実施の形態に係るモータ駆動装置1においては、モータ20が安定して回転している状態において、正弦波駆動部39が駆動信号Sd(PWM信号)を生成するために用いるベース信号は、モータ20が安定回転状態にあるときに取得したモータ20の回転速度に基づく第1ベース信号Sb1である。すなわち、第1ベース信号Sb1は、実際のモータ20の回転に応じてばらつきが発生するホール信号Hu,Hv,Hwに基づいて生成される信号ではなく、モータ20が取得した一定の回転速度で変動することなく回転していると仮定し、その回転速度の値から理論的に算出した信号である。したがって、第1ベース信号Sb1には、モータ20のマグネットの着磁むらによるばらつき、ホール素子25の取り付け精度によるばらつき等に起因した変動が生じない。
【0109】
したがって、モータ20の安定回転時には、第1ベース信号Sb1に基づいて生成された駆動信号Sdによってモータ20を駆動するので、上記のような、モータ20の組立精度やマグネットの着磁むらや、ホール素子25の取り付け精度によるばらつきが要因となって生じる回転むらを抑制することができる。
【0110】
また、本実施の形態に係るモータ駆動装置1は、モータ20が安定回転状態にあるか否かを判定し、安定回転状態であるときのモータ20の回転速度を取得して、駆動信号Sdを生成するので、オープンループ方式のように上位装置から目標回転速度が指定されない場合のみならず、クローズドループ方式のように上位装置から指定される目標回転速度が変化する場合であっても、回転むらを抑制したモータ駆動が可能となる。
【0111】
ここで、クローズドループ方式とは、外部(例えば上位装置)からモータの目標の回転速度を指定する目標回転速度信号が入力される場合において、計測したモータの実回転速度と目標回転速度信号との誤差が小さくなるように駆動信号を生成し、生成した駆動信号に基づいてモータ駆動する方式を言う。
【0112】
また、本実施の形態に係るモータ駆動装置1は、モータ20の回転が安定していない状態からモータ20の回転が安定した状態になったことを検出した場合に、モータ20の回転速度の値を取得するので、回転むらを効果的に抑制することが可能となる。
【0113】
例えば、モータ20の回転速度が所定の範囲R内で変動している場合において、連続的にモータ20の回転速度を取得すると、取得した回転速度の値がばらつくため、それに基づいて生成される第1ベース信号Sb1にもばらつきが生じる。その結果、モータ20の回転むらを効果的に抑制できない可能性がある。
【0114】
これに対して、本実施の形態に係るモータ駆動装置1は、モータ20の回転が安定していない状態からモータ20の回転が安定した状態になったことを検出したことを契機としてモータ20の回転速度の値を取得し、その取得した値を例えば一定値として用いる。安定回転状態が継続している場合には、モータ駆動装置1は、取得した回転速度の値(一定値)を用いて、第1ベース信号Sb1を生成する。
これによれば、モータ20が安定回転状態ではあるが、モータ20の回転速度が所定の範囲R内で変動していた場合において、回転速度の微小な変動の影響を受けることなく、安定した第1ベース信号Sb1を生成することができるので、モータ20の回転むらを効果的に抑制することが可能となる。
【0115】
また、モータ駆動装置1は、モータ20の回転が安定している場合に、取得したモータ20の回転速度に基づく第1ベース信号Sb1を用いてモータ20を駆動し、モータ20の回転が安定していない場合に、モータ20の実際の回転に応じた回転位置検出信号(ホール信号)Hu,Hv,Hwに基づく第2ベース信号Sb2を用いてモータ20を駆動する。
【0116】
これによれば、モータ20の起動時や負荷が変動したとき等のモータ20の回転が安定していない状況において、モータ20の負荷に応じた適切なトルクでモータ20を回転させることができ、且つ、モータ20の回転が安定している状況では、モータ20の回転むらを抑制することができる。すなわち、負荷に応じた適切なモータ駆動と回転むらの抑制を両立することが可能となる。
【0117】
≪実施の形態の拡張≫
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。
【0118】
例えば、上記実施の形態において、駆動信号生成回路3は、上述に示されるような回路構成に限定されない。駆動信号生成回路3は、本発明の目的にあうように構成された、様々な回路構成を適用することができる。
【0119】
上述のフローチャートは具体例であって、このフローチャートに限定されるものではなく、例えば、各ステップ間に他の処理が挿入されていてもよいし、処理が並列化されていてもよい。
【0120】
上述の実施の形態のモータ駆動装置により駆動されるモータの相数は、3相に限られない。また、ホール素子の数は、3個に限られない。
【0121】
モータの回転位置および回転速度の検出方法は特に限定されない。例えば、ホール素子やFGパタンを用いず、その他の回転位置検出装置を用いて回転位置を検出してもよいし、その他の回転速度検出装置や、モータ電流やモータの逆起電力等に基づく演算によって回転速度を検出してもよい。
【0122】
モータの駆動方式は、正弦波駆動方式に限定されない。例えば、台形波、あるいは、正弦波に特殊な変調をかけた駆動方式に適用することもできる。
【0123】
上述の実施の形態における処理の一部又は全部が、ソフトウエアによって行われるようにしても、ハードウェア回路を用いて行われるようにしてもよい。すなわち、モータ駆動装置1の各構成要素は、少なくともその一部がハードウェアによる処理ではなく、ソフトウエアによる処理により実現されるように構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0124】
1…モータ駆動装置、2…モータ駆動回路、2a…インバータ回路、2b…プリドライブ回路、3…駆動信号生成回路、20…モータ、25u,25v,25w…ホール素子、26…回転速度検出装置、30…信号生成部、31…トルク指令値取得部、32…判定部、33…回転速度取得部、34…第1ベース信号生成部、36…回転位置検出部、37…第2ベース信号生成部、38…セレクタ、39…正弦波駆動部、100…モータユニット、Hu,Hv,Hw…回転位置検出信号(ホール信号)、Sb1…第1ベース信号、Sb2…第2ベース信号、Sd…駆動信号、Se…判定結果信号、Sr…回転速度検出信号、St…トルク指令信号。