(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】光学走査装置
(51)【国際特許分類】
G02B 26/12 20060101AFI20241028BHJP
G02B 26/10 20060101ALI20241028BHJP
B41J 2/47 20060101ALI20241028BHJP
H04N 1/113 20060101ALI20241028BHJP
【FI】
G02B26/12
G02B26/10 F
B41J2/47 101D
H04N1/113
(21)【出願番号】P 2020209701
(22)【出願日】2020-12-17
【審査請求日】2023-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123559
【氏名又は名称】梶 俊和
(74)【代理人】
【識別番号】100177437
【氏名又は名称】中村 英子
(72)【発明者】
【氏名】白川 智尋
【審査官】鈴木 俊光
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-048563(JP,A)
【文献】特開2008-268239(JP,A)
【文献】特開2013-080023(JP,A)
【文献】特開2004-334174(JP,A)
【文献】特開2004-253080(JP,A)
【文献】特開2007-003594(JP,A)
【文献】特開2016-009069(JP,A)
【文献】特開2017-194570(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 26/10 - 26/12
B41J 2/47
H04N 1/113
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光線を出射する複数の発光点を有する光源と、レンズ面の外周部にゲート部を有し前記光源から出射され
た複数の光線が透過する樹脂製のコリメータレンズと、前記光源と前記コリメータレンズを保持する筒状の保持部と、を有する4つのレーザユニットと、
前記4つのレーザユニットから出射する光線を偏向するための回転多面鏡と、
を有する光学走査装置において、
前記4つのレーザユニットは、前記回転多面鏡の回転軸方向及び前記回転軸方向に対して直交する方向に夫々二列になるように配置されており、
前記コリメータレンズを通過する前記複数の光線の軸線方向に前記コリメータレンズを見た時、一の前記レーザユニットの前記コリメータレンズを透過する前記複数の光線の中心を結んだ第1の直線と、前記一のレーザユニットに対し
て前記回転軸方向に対して直交する方向に隣接する前記レーザユニットの前記コリメータレンズを透過する前記複数の光線の中心を結んだ第2の直線とは、互いに交差する角度を有し、
前記一のレーザユニットの前記コリメータレンズの中央と前記ゲート部を結ぶ直線が、前記第1の直線と前記第2の直線とが交差して成す角度の二等分線に対して略平行又は略直交するように、前記一のレーザユニットの前記コリメータレンズが前記一のレーザユニットの前記保持部に保持されていることを特徴とする光学走査装置。
【請求項2】
前記一の保持部は、前記ゲート部が保持される位置を規制するリブを有していることを特徴とする請求項
1に記載の光学走査装置。
【請求項3】
光線を出射する複数の発光点を有する光源と、前記光源を保持する筒状の保持部と、を有する4つのレーザユニットと、
レンズ面の外周部にゲート部を有し、前記光源から出射され
た複数の光線が透過する樹脂製の4つのコリメータレンズと、
前記4つのレーザユニットから出射する光線を偏向するための回転多面鏡と、
前記4つのレーザユニットと、前記4つのコリメータレンズと、前記回転多面鏡を保持する光学箱と、
を有する光学走査装置において、
前記4つのレーザユニット及び4つのコリメータレンズは、前記前記回転多面鏡の回転軸方向及び前記回転軸方向に対して直交する方向に夫々二列になるように配置されており、
前記コリメータレンズを通過する前記複数の光線の軸線方向に前記コリメータレンズを見た時、一の前記コリメータレンズを透過する前記複数の光線の中心を結んだ第1の直線と、前記一のコリメータレンズに対し
て前記回転軸方向に対して直交する方向に隣接する前記コリメータレンズを透過する前記複数の光線の中心を結んだ第2の直線とは、互いに交差する角度を有し、
前記一のコリメータレンズの中央と前記ゲート部を結ぶ直線が、前記第1の直線と前記第2の直線とが交差して成す角度の二等分線に対して略平行又は略直交するように、前記一のコリメータレンズが前記光学箱に保持されていることを特徴とする光学走査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザビームプリンタやデジタル複写機等の画像形成装置が備える光学走査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザビームプリンタや複写機などの画像形成装置に用いられる光学走査装置は、例えばレーザ光などを出射する光源部や、光源部からのレーザ光を平行光線に変換するコリメータレンズ、fθ特性を有する走査レンズなどのレンズを備えている。近年、光学走査装置では、高速化及び高画質化の要求に応えるべく、光源部に複数の発光点を設け、複数の光ビームを出射するマルチビーム化が進んでいる。また、光学走査装置の低コスト化も求められており、レンズ材料のコスト低減を目的にコリメータレンズの樹脂化が進んでいる。
【0003】
例えば特許文献1では、光軸に対して回転対称なレンズ面形状を有する回転対称レンズであるコリメータレンズの外形を略円筒形状とすることで、必要な有効径を確保しつつ、レンズの体積を極力抑えてレンズ材料のコストを低減している。しかしながら、特許文献1のコリメータレンズは、次のような課題を有している。すなわち、樹脂製のコリメータレンズは、一般的に製品単価が安く量産にも適したモールド成形により製造される。コリメータレンズは、レンズ成形用金型のゲートから樹脂を流し込み、射出成形される。このとき、金型に樹脂を流し込む方向、すなわちレンズ外周部から延びるゲート部の方向に依存して分布する複屈折が樹脂製のコリメータレンズに生じる。複屈折は、レンズを透過する光線の光学特性を低下させてしまうため、樹脂製のコリメータレンズを光学走査装置に用いる場合は、回転対称形状のレンズであっても、ゲート部の方向を考慮する必要がある。特に、光学走査装置の光源部が、マルチビームレーザ半導体のように複数の発光点を有する場合には、複数の発光点から出射されたレーザ光線それぞれが複屈折の影響を受けることになる。そのため、レーザ光線それぞれが透過する複屈折分布の位置の違いによって、各レーザ光線が受ける光学特性への影響度合いに差が生じる可能性がある。その結果、複数のレーザ光線間でスポット径やレーザ光量などに相対的な差が生じてしまい、所望の結像性能が得られず、画像劣化が発生してしまう。
【0004】
そこで、上述した課題を解決するために、例えば、特許文献2では、コリメータレンズの側面から延びるコバ部にゲート部を設け、レンズ成形時に生じる複屈折の影響がレンズ上の光線透過領域に及ばないようにした光学走査装置が開示されている。コバ部にゲート部を設けることにより、レーザ光線のスポット径肥大を低減し、高画質化が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-64802号公報
【文献】特許第5031485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献2の光学走査装置には、以下のような課題がある。すなわち、レンズ成形時に生じる複屈折の影響がレンズ上の光線透過領域に達しないようにするために、コリメータレンズの側面にコバ部を設けることで、コリメータレンズは必要なレンズ外形よりもコバ部の分だけ大径化してしまうことになる。そのため、特許文献1の光学走査装置のコリメータレンズのように、必要な有効径を確保しつつ、レンズの体積を極力抑えた略円筒形状のレンズと比較すると、レンズの材料コスト及び成形コストが高くなってしまうという課題がある。
【0007】
本発明は、このような状況のもとでなされたもので、樹脂性コリメータレンズを用いて、低コストでレーザ光線のスポット径肥大を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明では、以下の構成を備える。
【0009】
(1)光線を出射する複数の発光点を有する光源と、レンズ面の外周部にゲート部を有し前記光源から出射された複数の光線が透過する樹脂製のコリメータレンズと、前記光源と前記コリメータレンズを保持する筒状の保持部と、を有する4つのレーザユニットと、前記4つのレーザユニットから出射する光線を偏向するための回転多面鏡と、を有する光学走査装置において、前記4つのレーザユニットは、前記回転多面鏡の回転軸方向及び前記回転軸方向に対して直交する方向に夫々二列になるように配置されており、前記コリメータレンズを通過する前記複数の光線の軸線方向に前記コリメータレンズを見た時、一の前記レーザユニットの前記コリメータレンズを透過する前記複数の光線の中心を結んだ第1の直線と、前記一のレーザユニットに対して前記回転軸方向に対して直交する方向に隣接する前記レーザユニットの前記コリメータレンズを透過する前記複数の光線の中心を結んだ第2の直線とは、互いに交差する角度を有し、前記一のレーザユニットの前記コリメータレンズの中央と前記ゲート部を結ぶ直線が、前記第1の直線と前記第2の直線とが交差して成す角度の二等分線に対して略平行又は略直交するように、前記一のレーザユニットの前記コリメータレンズが前記一のレーザユニットの前記保持部に保持されていることを特徴とする光学走査装置。
(2)光線を出射する複数の発光点を有する光源と、前記光源を保持する筒状の保持部と、を有する4つのレーザユニットと、レンズ面の外周部にゲート部を有し、前記光源から出射された複数の光線が透過する樹脂製の4つのコリメータレンズと、前記4つのレーザユニットから出射する光線を偏向するための回転多面鏡と、前記4つのレーザユニットと、前記4つのコリメータレンズと、前記回転多面鏡を保持する光学箱と、を有する光学走査装置において、前記4つのレーザユニット及び4つのコリメータレンズは、前記前記回転多面鏡の回転軸方向及び前記回転軸方向に対して直交する方向に夫々二列になるように配置されており、前記コリメータレンズを通過する前記複数の光線の軸線方向に前記コリメータレンズを見た時、一の前記コリメータレンズを透過する前記複数の光線の中心を結んだ第1の直線と、前記一のコリメータレンズに対して前記回転軸方向に対して直交する方向に隣接する前記コリメータレンズを透過する前記複数の光線の中心を結んだ第2の直線とは、互いに交差する角度を有し、前記一のコリメータレンズの中央と前記ゲート部を結ぶ直線が、前記第1の直線と前記第2の直線とが交差して成す角度の二等分線に対して略平行又は略直交するように、前記一のコリメータレンズが前記光学箱に保持されていることを特徴とする光学走査装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、樹脂性コリメータレンズを用いて、低コストでレーザ光線のスポット径肥大を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】実施例1のコリメータレンズの外径形状を説明する図
【
図3】実施例1のコリメータレンズ上の複屈折分布を説明する図
【
図4】実施例1のレーザ光線に生じる複屈折の差を説明する図
【
図5】実施例1のレーザユニットの構成を説明する図
【
図6】実施例1のコリメータレンズのゲート部とレーザ光線の発光点を結ぶ直線の位置関係を説明する図
【
図8】実施例2のレーザユニットの構成を説明する図
【
図9】実施例2のコリメータレンズのゲート部とレーザ光線の発光点を結ぶ直線の位置関係を説明する図
【
図10】実施例2のコリメータレンズ上の複屈折分布とレーザ光線の発光点を結ぶ直線の位置関係を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【実施例1】
【0014】
[光学走査装置の構成]
図1は、実施例1の光学走査装置101の構成を示す概略図である。また、
図1には、画像形成装置に搭載される光学走査装置101と画像形成装置との対応関係を説明するため、光学走査装置101から出射されたレーザ光が照射される感光ドラム112を示している。画像形成装置は、感光ドラム112を有した画像形成部を備えている。画像形成部は、光学走査装置101から出射されたレーザ光線が照射されることにより、感光ドラム112上に形成された静電潜像にトナーを付着させてトナー像を形成する。そして、画像形成装置は、画像形成部の感光ドラム112上に形成されたトナー像を記録媒体である記録材に転写することにより、画像形成を行う。
【0015】
図1において、レーザユニット102は、光源部114(
図1には不図示。
図5参照)と、樹脂製のコリメータレンズ103と、光源部114及びコリメータレンズ103を保持するホルダ113を有している。光学走査装置101は、シリンドリカルレンズ104、シリンドリカルレンズ104を透過した光源部114から出射された光ビームを絞る開口絞り105、開口絞り105を通過した光ビームが入射する反射面107を有する回転多面鏡106を有している。更に、光学走査装置101は、回転多面鏡106を回転駆動するスキャナモータ108、レーザユニット102に保持された光源部114の発光制御を行う基板109、走査レンズ110を有している。光学走査装置101の筐体である光学箱111には、上述した光学部材が収容されている。また、シリンドリカルレンズ104は光学箱111に固定され、スキャナモータ108は光学箱111にネジ締結により固定され、結像手段である走査レンズ110は、接着材により光学箱111に固定されている。
【0016】
レーザユニット102には、光源部114として、2つの発光点を有するマルチビームレーザ半導体が搭載されており、マルチビームレーザ半導体は、2つのレーザ光線L1、L2を出射する。なお、レーザ光線L1の光路は、図中実線で表示し、レーザ光線L2の光路は、図中破線で表示している。光源部114から出射されたレーザ光線L1、L2は、コリメータレンズ103、シリンドリカルレンズ104を透過し、回転多面鏡106の反射面107に入射する。回転多面鏡106は、スキャナモータ108によって回転駆動され、回転多面鏡106の反射面107に入射したレーザ光線L1、L2を偏向する。その後、回転多面鏡106により偏向されたレーザ光線L1、L2は、走査レンズ110を透過し、感光ドラム112の表面に照射され、感光ドラム112上に静電潜像が形成される。
【0017】
上述したように、本実施例のレーザユニット102の光源部114には、マルチビームレーザ半導体が搭載されているため、1つの発光点しか有しないシングルビームレーザ半導体に比べ、一度に感光ドラム112の表面を複数列、走査することができる。そのため、マルチビームレーザ半導体は、シングルレーザビーム半導体よりも短い時間で感光ドラム112の表面を走査することが可能である。なお、回転多面鏡106により偏向されたレーザ光線L1、L2が感光ドラム112の表面を走査する方向(図中矢印方向)を主走査方向とし、主走査方向に直交する感光ドラム112の回転方向を副走査方向とする。
【0018】
ここで、レーザユニット102の光学箱111への組み付け調整の方法について説明する。光源部114であるマルチビームレーザ半導体は、レーザユニット102のホルダ113の一端に圧入固定される。また、コリメータレンズ103は、後述するようにレーザユニット102のホルダ113の他端に固定される。そして、光源部114、及びコリメータレンズ103が固定されたレーザユニット102は、レーザ光線L1、L2の印字間隔(感光ドラム112上の副走査方向の間隔)の位置精度を出すために、レーザ光線L1、L2の印字間隔の調整が行われる。印字間隔の調整は、レーザユニット102をホルダ113の円筒軸回りに回転させることで行われる。印字間隔の調整が終了した後に、レーザユニット102は、光学箱111に組み付けられ、接着剤などにより固定される。
【0019】
[コリメータレンズ]
次に、本実施例の樹脂製のコリメータレンズ103について説明する。
図2は、本実施例の樹脂製のコリメータレンズ103の外形形状を示した図である。
図2(a)はコリメータレンズ103をレーザ光線L1、L2が出射される方向(出射側)から見たときの外形形状を示す正面図、
図2(b)は、
図2(a)に示すコリメータレンズ103を図中右方向から見たときの外形形状を示す側面図である。また、
図2(c)は、
図2(a)に示すコリメータレンズ103をレーザ光線L1、L2が入射される方向(入射側)から見たときの外形形状を示す背面図である。
【0020】
図2(a)、(c)に示すように、コリメータレンズ103は、光学面が光軸(図中、一点鎖線で表示)に対して回転対称な形状で構成されている。そのため、ガラスを研磨して作られるガラスレンズに比べて、コリメータレンズ103は樹脂で成形されていることにより、材料コスト及び成形コストが安い。また、コリメータレンズ103の外形形状を円筒形状とすることにより、必要な有効径を確保しつつ、体積を極力抑えることによりレンズ材料のコストを低減させることができる。
【0021】
樹脂製のコリメータレンズ103は、レンズ成形用金型(不図示)のゲートから樹脂を流し込み、射出成形により製造される。そのため、成形されたコリメータレンズ103において、樹脂が流し込まれる金型のゲートと直結する部分には、ゲート内で固化した突起部であるゲート部201(
図2(a)、(b)、(c))が少なからず残ってしまう。そして、このようにして製造された樹脂製のコリメータレンズ103は、成形する際に金型に樹脂を流し込む方向、即ちゲート部201の方向や位置に依存して分布する複屈折が生じるエリアを有している。複屈折は、コリメータレンズ103を透過するレーザ光線L1、L2の光学特性を低下させてしまうため、樹脂製のコリメータレンズ103を光学走査装置101に用いる場合は、回転対称形状のレンズであっても、ゲート部201の方向を考慮する必要がある。特に、光学走査装置101の光源部114が、本実施例のマルチビームレーザ半導体のように複数の発光点を有する素子の場合には、複数の発光点から出射されたレーザ光線L1、L2それぞれが複屈折の影響を受けるおそれがある。そのため、レーザ光線それぞれが透過する複屈折分布の位置の違いによって、レーザ光線の偏光成分に位相差が生じ、各レーザ光線が受ける光学特性(例えばスポット径やレーザ光量)への影響度合いに差が生じる。その結果、所望の結像性能が得られず、画像品質が低下する可能性がある。
【0022】
[複屈折分布とレーザ光線への影響]
次に、本実施例の樹脂コリメータレンズに生じる複屈折分布とそれによるレーザ光線への影響について、
図3、
図4を用いて説明する。
図3(a)は、
図2(c)に示した樹脂製のコリメータレンズ103上の複屈折分布を表した図である。
図3(a)に示すように、複屈折分布は、ゲート部201の方向、すなわちゲート部201からコリメータレンズ103の中心へと向かう方向(以下、ゲート部201の方向という)に依存して生じている。複屈折は、レンズ成形時、又はレンズ冷却過程で生じる内部応力が原因で生じる。本実施例の樹脂製のコリメータレンズ103において、複屈折は、
図3(a)に示すように、次のような傾向を有している。すなわち、複屈折は、コリメータレンズ103の中心を通り、ゲート部201の方向と直交する直線に対して45°の位相で、かつコリメータレンズ103の外周側に行くほど、その影響が強くなる傾向がある。なお、
図3(a)に示す複屈折分布では、線の間隔の粗密により複屈折の大きさを示しており、線の間隔が密になるほど、複屈折の大きさの変化率が大きくなっていることを表している。
【0023】
図3(b)は、光源部114から出射され、コリメータレンズ103を透過するレーザ光線L1、L2の発光点L1o、L2oを結ぶ直線Pが、ゲート部201に対して45°傾いて入射している場合のレーザ光線L1、L2の範囲を示した図である。また、
図3(c)は、光源部114から出射され、コリメータレンズ103を透過するレーザ光線L1、L2の発光点L1o、L2oを結ぶ直線Qが、ゲート部201に対して直交している場合のレーザ光線L1、L2の範囲を示した図である。
図3(a)に示したように、複屈折分布はゲート部201の方向と直交する直線に対して45°の位相で、かつコリメータレンズ103の外周側に行くほど、その影響が強くなる傾向がある。したがって、
図3(b)に示すように、発光点L1o、L2oを結ぶ直線Pがゲート部201に対して45°傾いている場合には、レーザ光線L1、L2の一部は、コリメータレンズ103における複屈折の影響が大きい領域を透過することになる。一方、
図3(c)に示すように、発光点L1o、L2oを結ぶ直線Qは、ゲート部201の方向と直交しているため、レーザ光線L1、L2は、コリメータレンズ103における複屈折の影響が大きい領域から外れた領域を透過する。
【0024】
図4は、レーザ光線L1、L2の発光点L1o、L2oを結ぶ直線が、それぞれ
図3(b)に示す直線P、
図3(c)に示す直線Qの場合に、コリメータレンズ103における複屈折の大きさを曲線P’、Q’で示した概略図である。
図4において、縦軸は複屈折の大きさを示し、横軸は直線P、Qが通過するコリメータレンズ103の位置を示している。
図4において、曲線P’は実線で示し、曲線Q’は一点鎖線で示している。
図4において、曲線P’、Q’は、コリメータレンズ103の中心側に近い位置では、複屈折は小さい。ところが、コリメータレンズ103の外周側に移動するにつれ、直線Pは複屈折の影響が大きい領域に近づくため、曲線P’で示す直線Pの複屈折が大きくなる。一方、直線Qは複屈折の影響が大きい領域から外れた領域を通るため、曲線Q’で示す直線Qの複屈折は、直線Pに対する曲線P’に比べて小さい。
【0025】
なお、本実施例では、発光点L1o、L2oを結ぶ直線Qはゲート部201の方向に直交する方向の直線である。例えば、発光点L1o、L2oを結ぶ直線が、コリメータレンズ103の中心を通り、ゲート部201の方向に平行な直線であっても、上述した直線Qと同様に、複屈折の影響が最も少ない位置にレーザ光線L1、L2を透過させることができる。
【0026】
[レーザユニットの構成]
次に、本実施例のレーザユニット102について説明する。
図5は、レーザユニット102の外形形状を示す図(
図5(a)~(c))、及びレーザユニット102の構成を説明する断面図(
図5(d))である。
図5(b)は、レーザユニット102を側面から見たときのホルダ113の外形形状を示す側面図である。
図5(a)は、
図5(b)に示すレーザユニット102を光源部114から出射されたレーザ光線L1、L2が出射されるコリメータレンズ103側から見たときの図である。ゲート部201を有するコリメータレンズ103は、ホルダ113のレンズ固定部501に接着剤により固定されている。一方、
図5(c)は、
図5(b)に示すレーザユニット102を光源部114側から見たときの図であり、レーザユニット102に圧入固定された光源部114のマルチビームレーザ半導体の端子が4本出ている。
図5(d)は、
図5(b)に示すレーザユニット102を図中、A-Aで示す面で切断し、切断面を
図5(b)の図中下方向から見たときの断面図である。
図5(d)に示すように、ホルダ113の内部は中空状態であり、一方の端部には上述した光源部114のマルチビームレーザ半導体が圧入固定され、他方の端部にはコリメータレンズ103が仮置き座面502に固定されている。
【0027】
[ゲート部の位置決め]
次に、コリメータレンズ103のホルダ113への組み付け調整の方法について説明する。まず、コリメータレンズ103は、ホルダ113に設けたレンズ仮置き座面502(
図5(d))に仮置きされる。
図6は、本実施例のコリメータレンズ103を透過するレーザ光線L1、L2の位置、及びゲート部201のホルダ113に対する位置決め範囲を示す図である。コリメータレンズ103をレンズ仮置き座面502に仮置きすることにより、コリメータレンズ103のゲート部201は、次のように位置決めされる。すなわち、レンズ仮置き座面502に設けたレンズ位置規制とゲート位置規制を兼ねる位置規制リブ503(
図5(b))により、ゲート部201の方向が、レーザ光線L1、L2の発光点L1o、L2oを結ぶ直線Sに対して略直交するように位置決めされる。ここで、略直交とは、位置規制リブ503やコリメータレンズ103のレンズ形状などの誤差要因を含め、90°±10°程度の範囲であることを意味している。ホルダ113に対するゲート部201の位置決めがなされた後は、光源部114に対して3次元方向の位置調整が行われ、コリメータレンズ103は、ホルダ113のレンズ固定部501(
図5(a))に接着剤により固定される。
【0028】
コリメータレンズ103と光源部114を共にホルダ113に固定して保持することは、次のようなメリットを有する。すなわち、感光ドラム112上の印字間隔の調整を行うために、レーザユニット102をホルダ113の円筒軸回りに回転させても、コリメータレンズ103と発光点L1o、L2oを結ぶ直線Sの位置決め位相を保持することができるメリットを有している。
【0029】
[ゲート部の位置決めによる効果]
次に、ゲート部201の位置決めによる効果について説明する。
図3で説明したように、コリメータレンズ103に生じる複屈折は、ゲート部201の方向に依存して分布する性質を有している。本実施例のように、レーザ光線L1、L2の発光点を結ぶ直線Sの方向をゲート部201の方向と直交する方向に位置決めすることで、次のような効果を奏することができる。すなわち、レーザ光線L1、L2がコリメータレンズ103の複屈折の影響がより少ない領域を透過することで、複屈折によりレーザ光線L1、L2に生じるスポット径肥大や光量低下などの光学特性への影響を低減させることができる。
【0030】
以上説明したように、本実施例では、マルチビームレーザ半導体と樹脂製のコリメータレンズを用いた光学走査装置101において、画像劣化の発生を低減し、高画質化を低コストで実現することができる。なお、本実施例では、コリメータレンズ103と光源部114は同一の保持部材であるホルダ113に保持されているが、これに限るものではない。例えば、コリメータレンズ103は光学箱111に保持され、光源部114はホルダ113に固定されるなど、それぞれが異なる部材により保持されていてもよい。また、本実施例では、ゲート部201の位置決め方向は、レーザ光線L1、L2の発光点を結ぶ直線Sと直交する方向の場合について説明したが、これに限るものではない。例えば、ゲート部201の位置決め方向が、レーザ光線L1、L2の発光点を結ぶ直線Sと平行な方向であってもよい。
【0031】
以上説明したように、本実施例によれば、樹脂性コリメータレンズを用いて、低コストでレーザ光線のスポット径肥大を低減することができる。
【実施例2】
【0032】
実施例1では、光源部が1つの光学走査装置において、低コストの樹脂製のコリメータレンズの複屈折がレーザ光線の光学性能に与える影響を低減させた実施例について説明した。実施例2では、複数の光源部を有する光学走査装置において、コリメータレンズの複屈折の影響を均一化させることで、レーザ光線の光学性能に与える影響を低減させた実施例について説明する。なお、実施例1と同じ構成の部材については、同一符号を用いて説明することで、ここでの説明を省略する。
【0033】
[光学走査装置の構成]
図7は、実施例2の光学走査装置701の構成を示す概略図である。実施例1の光学走査装置101は、1つの光源部を有し、1つの感光ドラムにレーザ光線を照射する構成であった。一方、本実施例の光学走査装置701は、4つの光源部を有している。本実施例の光学走査装置701が搭載される画像形成装置は、トナーの色がイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)のトナー像を形成する4つの画像形成部を有している。そして、各画像形成部は、光学走査装置701から出射されたレーザ光線が照射されることにより、感光ドラム上に形成された静電潜像にトナーを付着させてトナー像を形成する。画像形成装置は、各画像形成部の感光ドラム上に形成されたトナー像を記録媒体である記録材に転写することにより、画像形成を行う。
【0034】
図7に示すように、光学走査装置701は、4つのレーザユニット、すなわち、2つのレーザユニット702(図中、左側上下)、2つのレーザユニット703(図中、右側上下)を有している。レーザユニット702、703は、それぞれ鉛直方向に2つずつ配置され、水平方向に隣接して二列で配置されている。各レーザユニット702、703は、それぞれマルチビームレーザ光源部114(以下、光源部114という)、コリメータレンズ103、光源部114及びコリメータレンズ103を保持するホルダ113から構成されている。2つのレーザユニット702は、上述したシアン(C)、ブラック(K)のトナー像を形成する画像形成部の感光ドラムにレーザ光線を照射する。一方、2つのレーザユニット703は、上述したイエロー(Y)、マゼンタ(M)のトナー像を形成する画像形成部の感光ドラムにレーザ光線を照射する。
【0035】
また、光学走査装置701は、シリンドリカルレンズ704、シリンドリカルレンズ704を透過した光源部114から出射された光ビームを絞る開口絞り705、開口絞り705を通過した光ビームが入射する回転多面鏡106を有している。更に、光学走査装置101は、回転多面鏡106を回転駆動するスキャナモータ108、レーザユニット102に保持された光源部114の発光制御を行う基板(不図示)を有している。光学走査装置101は、イエロー(Y)、マゼンタ(M)の画像形成部の感光ドラムへのレーザ光線が透過する第1走査レンズ710A、シアン(C)、ブラック(K)の画像形成部の感光ドラムへのレーザ光線が透過する第1走査レンズ710Bを有している。そして、光学走査装置101は、各画像形成部の感光ドラムを照射するレーザ光線を透過する第2走査レンズ711Y、711M、711C、711Kを有している。更に、光学走査装置101は、各画像形成部の感光ドラムを照射するレーザ光線を反射する反射ミラー712Y、712M1、712M2、712C1、721C2、712Kを有している。なお、第2走査レンズ、反射ミラーの符号に付されたY、M、C、Kは、それぞれトナーの色がイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの感光ドラムに照射されるレーザ光線が通過する光学部材であることを示している。光学走査装置701の筐体である光学箱713には、上述した光学部材が収容され、光学箱713に圧入、接着、ネジ締結などによって固定されている。レーザユニット702、703から出射された各レーザ光線は、樹脂製のコリメータレンズ103、シリンドリカルレンズ704、開口絞り705を通過して、回転多面鏡106によって偏向される。回転多面鏡106により偏向された各レーザ光線は、対応する第1走査レンズ710、第2走査レンズ711、反射ミラー712を経て、対応する画像形成部の感光ドラムに照射される。
【0036】
[レーザユニット]
図8は、
図7に示した4つのレーザユニットのうち、隣り合う1対のレーザユニット702、703の外形形状を示した図(
図8(a)~(c))である。
図8(b)は、レーザユニット702、703を
図7の図中上方向から見たときのホルダ113の外形形状を示す図である。
図8(a)は、
図8(b)に示すレーザユニット702、703を光源部114a、114bから出射されたレーザ光線L1、L2が出射されるコリメータレンズ103側から見たときの図である。ゲート部201を有するコリメータレンズ103は、ホルダ113のレンズ固定部に接着剤により固定されている。一方、
図8(c)は、
図8(b)に示すレーザユニット702、703を光源部114a、114b側から見たときの図である。
図8(c)に示すように、レーザユニット702、703に圧入固定された光源部114a、114bのマルチビームレーザ半導体の端子が4本出ている。
図8に示すように、レーザユニット702、703は、それぞれ互いに異なる位相で、光源部114a、114bをホルダ113の一端に保持している。
【0037】
[ゲート部の位置決め]
次に、本実施例の樹脂製のコリメータレンズ103のゲート部201の位置決め範囲について説明する。
図9は、本実施例のコリメータレンズ103を透過する光源部114aの発光点L1oa、L2oa、及び光源部114bの発光点L1ob、L2obの位置、及びゲート部201のホルダ113に対する位置決め範囲を説明する図である。
図9には、
図8に示すレーザユニット702の光源部114aの発光点L1oa、L2oaを結ぶ直線Sa(第1の直線)、レーザユニット703の光源部114bの発光点L1ob、L2obを結ぶ直線Sb(第2の直線)が示されている。また、
図9には、直線Sa、Sbが交差して成す角度(鋭角、鈍角)の二等分線(図中、一点鎖線で表示)が示されている。コリメータレンズ103のゲート部201は、直線Sa、Sbが成す角のうち、鈍角(角度θ)側の二等分線に略平行方向に位置決めされる。ここで、略平行とは、位置規制リブ503やレンズ形状などの誤差要因を含め、角度がθ/2±10°程度の範囲である。
【0038】
[ゲート部の位置決めによる効果]
次に、ゲート部201の位置決めによる効果について説明する。
図10は、コリメータレンズ103上の複屈折分布と、レーザユニット702、703のレーザ光線L1、L2との位置関係を示す図である。
図10において、直線Saは、レーザユニット702の光源部114aの発光点L1oa、L2oaを結んだ直線である。一方、直線Sbは、レーザユニット703の光源部114bの発光点L1ob、L2obを結んだ直線である。また、L1aは、光源部114aの発光点L1oaから出射されたレーザ光線L1aの範囲を示す図であり、L2aは、光源部114aの発光点L2oaから出射されたレーザ光線L2aの範囲を示す図である。同様に、L1bは、光源部114bの発光点L1obから出射されたレーザ光線L1bの範囲を示す図であり、L2bは、光源部114bの発光点L2obから出射されたレーザ光線L2bの範囲を示す図である。本実施例のように、レーザユニット702、703のそれぞれの光源部114の発光点を結ぶ直線Sa、Sbが交差して成す角度の二等分線に対して、略平行方向にゲート部201を位置決めすることで、次の効果を奏することができる。すなわち、レーザユニット702から出射されるレーザ光線L1a、L2a、レーザユニット703から出射されるレーザ光線L1b、L2bを、それぞれコリメータレンズ103上の複屈折分布が等しい領域を透過させることができる。これにより、光源部114の位置が異なるレーザユニット702とレーザユニット703との間に生じる複屈折の影響を均一化することができる。その結果、コリメータレンズ103の複屈折により生じる、トナーの色が異なる感光ドラムの間のレーザ光線の光学特性差を均一、かつ低減することができ、画像劣化の発生を低減することができる。
【0039】
以上説明したように、マルチビームレーザ半導体と樹脂製のコリメータレンズ103を用いた複数のレーザユニット702、703を有する光学走査装置701において、画質低下を低減し、低コストで高画質化を実現することができる。
【0040】
なお、本実施例では、コリメータレンズ103と光源部114は同一の保持部材であるホルダ113に保持されているが、これに限るものではない。例えば、コリメータレンズ103は光学箱713に保持され、光源部114はホルダ113に固定されるなど、それぞれが異なる部材により保持されていてもよい。また、ゲート部201の位置決め方向は、レーザユニット702、703のそれぞれの光源部114a、114bの発光点を結ぶ直線Sa、Sbが交差して成す角度のうち、鈍角側の角の二等分線に対して略平行な方向としたが、これに限るものではない。例えば、ゲート部201の位置決め方向は、直線Sa、Sbが交差して成す角度のうち、鋭角側の角の二等分線に対して略平行な方向(鈍角側の角の二等分線に対しては略直交する方向でもある)であってもよい。
【0041】
以上説明したように、本実施例によれば、樹脂性コリメータレンズを用いて、低コストでレーザ光線のスポット径肥大を低減することができる。
【符号の説明】
【0042】
114 光源
201 ゲート部
103 コリメータレンズ
113 ホルダ