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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】有機電界発光素子
(51)【国際特許分類】
   H10K 50/16 20230101AFI20241028BHJP
   H05B 33/12 20060101ALI20241028BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20241028BHJP
【FI】
H05B33/22 B
H05B33/12 C
H05B33/14 B
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020519408
(86)(22)【出願日】2020-02-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-14
(86)【国際出願番号】 KR2020002339
(87)【国際公開番号】W WO2021132800
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2020-04-03
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-20
(31)【優先権主張番号】10-2019-0174501
(32)【優先日】2019-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520069590
【氏名又は名称】ソリュース先端素材株式会社
【氏名又は名称原語表記】SOLUS ADVANCED MATERIALS CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ムン、ジョンフン
(72)【発明者】
【氏名】キム、テヒョン
(72)【発明者】
【氏名】パク、ホチョル
(72)【発明者】
【氏名】ハン、ソンイ
【合議体】
【審判長】里村 利光
【審判官】廣田 健介
【審判官】本田 博幸
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0179418(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0071892(KR,A)
【文献】特開2009-182288(JP,A)
【文献】特表2018-516455(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0075674(KR,A)
【文献】特表2018-507174(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L51/50
H05B33/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極、正孔輸送領域、発光層、電子輸送領域、及び陰極が順次積層された構造を備え、
前記発光層は、ホストを含み、
前記電子輸送領域は、有機物からなる少なくとも2層を含み、
前記少なくとも2層のうち、前記発光層に接する1つの層は、励起子閉じ込め層であり、他の1つの層は電子輸送層であり、
前記励起子閉じ込め層は、基底状態の結合解離エネルギーBDEのうち最も低いエネルギーレベルが1.50eV以上であり、
前記励起子閉じ込め層のHOMOエネルギー準位と、前記励起子閉じ込め層と隣接した電子輸送層のHOMOエネルギー準位との絶対値の差ΔHOMOは、2.0eV以下であり、
前記励起子閉じ込め層のLUMO状態密度DOSLUMO ECLは、下記の(i)及び(ii)の条件を全て満たす有機電界発光素子。
(i)前記ホストのLUMO状態密度DOSLUMO Hostと0%超で重畳された状態密度DOSを有する励起子閉じ込め層のLUMO状態密度DOSLUMO ECL
(ii)前記電子輸送領域のうち、励起子閉じ込め層を除いた残りの層のLUMO状態密度DOSLUMO ETと0%超で重畳された状態密度DOSを有する励起子閉じ込め層のLUMO状態密度DOSLUMO ECL
【請求項2】
前記電子輸送領域は、
励起子閉じ込め層と、電子注入層をさらに含む、請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項3】
前記電子輸送領域は、当該発光層を基準にして、
励起子閉じ込め層、及び電子輸送層が配置されるか、又は、
励起子閉じ込め層、電子輸送層、及び電子注入層が配置される構造を有する、請求項2に記載の有機電界発光素子。
【請求項4】
前記励起子閉じ込め層の三重項エネルギーT1ECLは、1.5eV以上である、請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項5】
前記励起子閉じ込め層の一重項エネルギーS1ECLは、2.0eV以上である、請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項6】
前記励起子閉じ込め層のHOMOの絶対値の大きさが、5.0eV以上である、請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項7】
前記励起子閉じ込め層のバンドギャップエネルギーの大きさは、2.0eV以上である、請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項8】
前記励起子閉じ込め層のLUMOエネルギー準位と、前記ホストのLUMOエネルギー準位との絶対値の差ΔLUMOは、2.0eV以下である、請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項9】
前記励起子閉じ込め層のLUMOエネルギー準位と、前記励起子閉じ込め層と隣接した電子輸送領域の層のLUMOエネルギー準位との絶対値の差ΔLUMOは、2.0eV以下である、請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項10】
前記励起子閉じ込め層のHOMOエネルギー準位と、前記ホストのHOMOエネルギー準位との絶対値の差ΔHOMOは、2.0eV以下である、請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項11】
前記励起子閉じ込め層の電子親和度EAは、0.5eV以上である、請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項12】
前記励起子閉じ込め層は、400~470nmの青色波長領域で0.7以上の屈折率nを有する、請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項13】
前記励起子閉じ込め層の双極子モーメントは、0を超過する、請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項14】
前記励起子閉じ込め層は、少なくとも1×10-8cm/Vs以上の電子移動度μを有する、請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項15】
前記発光層は、ホストとドーパントとを含み、前記ホストとドーパントとの混合比率は、70-99.5:0.5-30重量比である、請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項16】
前記有機電界発光素子は、少なくとも1つの発光層を含む複数の発光層スタックを備える、請求項1に記載の有機電界発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2層を備える電子輸送領域のうちの発光層と隣接した領域に所定の物性に制御された励起子閉じ込め層(Exciton Confinement Layer、「ECL」)を備えることにより、低い駆動電圧、高い発光効率、及び長寿命などの特性が向上した有機電界発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
1965年のアントラセン単結晶を利用した青色電気発光に続いた有機電界発光(Electroluminescent、「EL」)素子(以下、「有機EL素子」と略する)に関する研究が続けられ、1987年には、Tangらによって正孔層(NPB)と発光層(Alq)とから構成された2層積層構造の有機EL素子が提示された。以後、有機EL素子は、商用化のために必要な高効率、長寿命の特性を具現するため、素子内に、正孔の注入及び輸送を担当する有機層、電子の注入及び輸送を担当する有機層、正孔と電子との結合によって電界発光が生じるように誘導する有機層などのように、それぞれの特徴的かつ細分化した機能を付与した多層積層構造の形態が提案された。多層積層構造が導入されることにより、有機EL素子の性能が商用化のための特性まで向上し、1977年の車載用ラジオディスプレイ製品をはじめとして、携帯用情報表示機器及びテレビ用ディスプレイ素子にまでその適用範囲を拡大させようとしている。
【0003】
ディスプレイの大型化、高精細化の要求によって有機EL素子の高効率化、長寿命化の課題が課されている。特に、同面積でより多い画素を形成することで実現される高精細化の場合は、有機EL画素の発光面積を減少させる結果を招来し、これによって寿命の減少が生じ、これは、有機EL素子が克服すべき最も重要な課題となっている。
【0004】
有機EL素子では、両電極に電流又は電圧を印加すると、陽極からは正孔が有機物層に注入され、陰極からは電子が有機物層に注入される。注入された正孔と電子とが結合して励起子(Exciton)が形成され、この励起子が基底状態に落ちる際に発光する。なお、有機EL素子は、形成された励起子の電子スピンの種類によって、一重項励起子が発光に寄与する蛍光EL素子と、三重項励起子が発光に寄与する燐光EL素子とに区分される。
【0005】
電子と正孔との再結合によって形成される励起子の電子スピンは、一重項励起子と三重項励起子とが、25%:75%の比率で生成される。一重項励起子によって発光がなされる蛍光EL素子は、生成比率に応じて理論的に内部量子効率が25%を超えることができず、外部量子効率は、5%が限界であるといわれている。三重項励起子によって発光がなわれる燐光EL素子では、Ir、Ptのような遷移金属重原子(Heavy atoms)が含まれた金属錯体化合物を燐光ドーパントとして使用する場合、蛍光に比べて、最高4倍も発光効率を向上させることができる。
【0006】
上記のような燐光EL素子は、理論的事実からみて、発光効率の面で蛍光より高い効率を示すが、緑色と赤色を除外した青色燐光素子においては、濃青色の色純度と高効率の燐光ドーパント、及びこれを満足させる広いエネルギーギャップを有するホストの開発が充分な水準に至っていないため、青色燐光素子が商用化されておらず、青色蛍光素子が製品に使用されている現状である。
【0007】
上述した有機EL素子の特性を向上させるため、正孔の電子伝達層への拡散を防止し、素子の安定性を増大させるための研究の結果が報告されている。しかし、満足する結果が得られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の問題点を解決するために案出されたものであって、少なくとも2層を備える電子輸送領域のうちの発光層と隣接した領域に状態密度(Density Of States、「DOS」)などの所定の物性が特定の範囲に制御された励起子閉じ込め層(Exciton Confinement Layer、「ECL」)を備えることにより、高効率、低電圧、及び長寿命を同時に発揮する有機EL素子を提供することを目的としている。
【0009】
本発明の他の目的及び利点は、後述の詳細な説明および請求範囲によって明確に説明される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の技術的な目的を達成するため、本発明は、陽極、正孔輸送領域、発光層、電子輸送領域、及び陰極が順次積層された構造を備え、前記発光層は、ホストを含み、前記電子輸送領域は、少なくとも2層を含み、前記少なくとも2層のうち、前記発光層に接する1つの層は、励起子閉じ込め層(ECL)であり、前記励起子閉じ込め層のLUMO状態密度DOSLUMO ECLは、下記の(i)及び(ii)のうちの少なくとも1つ以上の条件を満たす有機電界発光素子を提供する。
(i)前記ホストのLUMO状態密度DOSLUMO Hostと0%超で重畳された状態密度DOSを有する励起子閉じ込め層のLUMO状態密度DOSLUMO ECL
(ii)前記電子輸送領域のうち、励起子閉じ込め層を除いた残りの層のLUMO状態密度DOSLUMO ETと0%超で重畳された状態密度DOSを有する励起子閉じ込め層のLUMO状態密度DOSLUMO ECL
【0011】
本発明の一実施例では、前記電子輸送領域は、励起子閉じ込め層と、電子輸送層及び電子注入層のうちの少なくとも1つとを含むことができる。
【0012】
本発明の一実施例では、前記電子輸送領域は、当該発光層を基準にして、励起子閉じ込め層、及び電子注入層が配置されるか、又は、励起子閉じ込め層、電子輸送層、及び電子注入層が配置される構造を有することができる。
【0013】
本発明の一実施例では、前記励起子閉じ込め層の三重項エネルギーT1ECLは、1.5eV以上であることができる。
【0014】
本発明の一実施例では、前記励起子閉じ込め層の一重項エネルギーS1ECLは、2.0eV以上であることができる。
【0015】
本発明の一実施例では、前記励起子閉じ込め層のHOMOの絶対値の大きさは、5.0eV以上であることができる。
【0016】
本発明の一実施例では、前記励起子閉じ込め層のバンドギャップエネルギーの大きさは、2.0eV以上であることができる。
【0017】
本発明の一実施例では、前記励起子閉じ込め層は、基底状態(Ground state)の結合解離エネルギー(Bonding Dissociation Energy、「BDE」)のうち最も低いエネルギーレベルが、1.50eV以上であることができる。
【0018】
本発明の一実施例では、前記励起子閉じ込め層のLUMOエネルギー準位と、前記ホストのLUMOエネルギー準位との絶対値の差ΔLUMOは、2.0eV以下であることができる。
【0019】
本発明の一実施例では、前記励起子閉じ込め層のLUMOエネルギー準位と、前記励起子閉じ込め層と隣接した他の電子輸送領域の層のLUMOエネルギー準位との絶対値の差ΔLUMOは、2.0eV以下であることができる。
【0020】
本発明の一実施例では、前記励起子閉じ込め層のHOMOエネルギー準位と、前記ホストのHOMOエネルギー準位との絶対値の差ΔHOMOは、2.0eV以下であることができる。
【0021】
本発明の一実施例では、前記励起子閉じ込め層のHOMOエネルギー準位と、前記励起子閉じ込め層と隣接した電子輸送領域の他の層のHOMOエネルギー準位との絶対値の差ΔHOMOは、2.0eV以下であることができる。
【0022】
本発明の一実施例では、前記励起子閉じ込め層の電子親和度(Electronic Affinity、「EA」)は、0.5eV以上であることができる。
【0023】
本発明の一実施例では、前記励起子閉じ込め層は、400~470nmの青色波長領域で0.7以上の屈折率nを有することができる。
【0024】
本発明の一実施例では、前記励起子閉じ込め層の双極子モーメント(dipole moment)の値は、0を超える値を有することができる。
【0025】
本発明の一実施例では、前記励起子閉じ込め層は、常温で少なくとも1×10-8cm/Vs以上の電子移動度μを有することができる。
【0026】
本発明の一実施例では、前記発光層は、ホストとドーパントとを含み、前記ホストとドーパントとの混合比率は、70-99.5:0.5-30重量比であることができる。
【0027】
本発明の一実施例では、前記有機電界発光素子は、少なくとも1つの発光層を含む複数の発光層スタックを備えることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の一実施例によれば、状態密度DOSなどが所定の範囲に調節された物質を採択し、少なくとも2層を備えた電子輸送領域のうち、発光層に隣接するように配置することにより、低い駆動電圧及び高い発光効率を有する有機電界発光素子を提供することができる。
【0029】
本発明による効果は、上記に例示した内容により制限されることなく、より種々の効果が本明細書中に含まれている。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】本発明の一実施例に係る有機電界発光素子の構造を示す断面図である。
図2】本発明の他の一実施例に係る有機電界発光素子の構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0031】
100:有機電界発光素子、A:有機層、10:陽極、20:陰極、30:正孔輸送領域、31:正孔注入層、32:正孔輸送層、40:発光層、50:電子輸送領域、51:励起子閉じ込め層、52:電子注入層、53:電子輸送層
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の利点及び特徴、並びにその達成方法は、添付の図面とともに詳述される下記の実施例の参照によって明確になるだろう。しかし、本発明は、以下に開示される実施例に限定されるものではなく、種々の形態に実施することができ、但し、本実施例は、本発明が完全に開示されるように、また、本発明の属する技術分野で通常の知識を有する者に発明の範疇を完全に理解させることができるように提供されるものであり、本発明は、請求の範囲によって定義される。それで、幾つかの実施例において、周知の工程ステップ、周知の素子構造、及び周知の技術については、本発明の不明瞭な解釈を回避するため、具体的に説明されていない。明細書全般にわたって同一の参照符号は同一の構成要素を指称する。
【0033】
特に定義されない限り、本発明において使用される全ての用語(技術及び科学用語を含む)は、本発明の属する技術分野で通常の知識を有する者が共通して理解できる意味として使用される。また、一般に使用される辞書に定義されている用語は、特に定義されない限り、理想的に又は過度に解釈してはならない。
【0034】
また、明細書全般にわたって、ある部分がある構成要素を「含む」ということは、特に断りのない限り、他の構成要素を除外する意味ではなく、他の構成要素をさらに含むことができるという意味である。また、明細書中、「上に」又は「上方に」ということは、対象部分の上に又は上方に位置する場合だけでなく、その中間部にまた他の部分が存在する場合も含む意味であり、必ず重力方向を基準に上方に位置するという意味ではない。さらに、本明細書中、「第1の」、「第2の」などの用語は、任意の手順又は重要度を示すものではなく、構成要素を互いに区別するために使用されている。
【0035】
<有機電界発光素子>
本発明に係る有機電界発光素子は、陽極;前記陽極と対向配置された陰極;及び、前記陽極と陰極との間に介在し、正孔輸送領域、発光層及び電子輸送領域を含む1層以上の有機物層;を備え、状態密度DOSなどの特定の物性が所定の範囲に調節された励起子閉じ込め層(ECL)を、前記発光層と接触する電子輸送領域の一領域に配置する。
【0036】
以下、添付の図面を参照して、本発明に係る有機電界発光素子の好適な実施形態を説明する。しかし、本発明の実施形態は、種々に変更して実施することができ、本発明の範囲は、後述の実施形態に限定されるものではない。
【0037】
図1は、本発明の第1の実施例に係る有機電界発光素子100の構造を概略的に示す断面図である。
【0038】
図1を参照して説明すると、前記有機電界発光素子100は、陽極10;陰極20;前記陽極10と陰極20との間に位置した発光層40;前記陽極10と前記発光層40との間に位置した正孔輸送領域30;及び、前記発光層40と前記陰極20との間に位置した電子輸送領域50;を含み、前記電子輸送領域50は、少なくとも2層を含むが、前記少なくとも2層51、52のうち、前記発光層40と接する1層に励起子閉じ込め層51が配置されている構造を有する。
【0039】
前記少なくとも2層を含む電子輸送領域50は、励起子閉じ込め層51と、電子輸送層及び電子注入層52のうちの少なくとも1つとを含むことができる。
【0040】
陽極
本発明に係る有機電界発光素子100において、陽極10は、正孔を有機物層Aに注入する役割を果たす。
【0041】
前記陽極10の構成物質は、特に限定されず、当業界で周知のものを使用することができる。例えば、バナジウム、クロム、銅、亜鉛、金などの金属;これらの合金;亜鉛酸化物;インジウム酸化物、インジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)などの金属酸化物;ZnO:Al、SnO:Sbなどの金属と酸化物との組み合わせ;ポリチオフェン、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリ[3,4-(エチレン-1,2-ジオキシ)チオフェン](PEDT)、ポリピロール、ポリアニリンなどの電導性高分子;及び、カーボンブラックなどが挙げられるが、これらに制限されない。
【0042】
前記陽極10を製造する方法は、特に限定されず、当業界で周知の常法で製造することができる。例えば、シリコンウェハ、石英、ガラス板、金属板、又はプラスチックフィルムからなる基板上に陽極物質をコーティングする方法が挙げられる。
【0043】
陰極
本発明に係る有機電界発光素子100において、陰極20は、電子を有機物層Aに注入する役割を果たす。
【0044】
前記陰極20の構成物質は、特に限定されず、当業界で周知のものを使用することができる。例えば、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、カリウム、チタニウム、インジウム、イットリウム、リチウム、ガドリウム、アルミニウム、銀、錫、鉛などの金属;これらの合金;及び、LiF/Al、LiO/Alなどの多層構造物質が挙げられるが、これらに制限されない。
【0045】
また、前記陰極20を製造する方法は、特に限定されず、当業界で周知の常法で製造することができる。
【0046】
有機物層
本発明に係る有機電界発光素子に含まれる有機物層Aは、既存の有機EL素子の有機物層として使用される通常の構成を制限なく使用することができ、例えば、正孔輸送領域30、発光層40、電子輸送領域50からなる群から選択される1種以上を含むことができる。なお、有機電界発光素子の特性を考慮して、上述の有機物層をいずれも含むことが好ましい。
【0047】
正孔輸送領域
本発明の有機物層Aに含まれる正孔輸送領域30は、陽極10から注入された正孔を発光層40に移動させる役割を果たす。このような正孔輸送領域30は、正孔注入層31及び正孔輸送層32からなる群から選択される1種以上を含むことができる。なお、有機電界発光素子の特性を考慮して、上述の正孔注入層31と正孔輸送層32とをいずれも含むことが好ましい。
【0048】
上述の正孔注入層31及び正孔輸送層32の構成物質は、正孔注入障壁が小さく、かつ正孔移動度が大きい物質であれば、特に限定されず、当業界で使用される正孔注入層/輸送層物質を制限なく使用することができる。なお、前記正孔注入層31及び正孔輸送層32の構成物質は、互いに同一又は異なることができる。
【0049】
前記正孔注入物質は、当該分野で公知のものを制限なく使用することができる。使用可能な正孔注入物質としては、例えば、銅フタロシアニン(copper phthalocyanine)などのフタロシアニン(phthalocyanie)化合物;DNTPD(N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス-[4-(フェニル-m-トリル-アミノ)-フェニル]-ビフェニル-4,4’-ジアミン:N,N’-diphenyl-N,N’-bis-[4-(phenyl-m-tolyl-amino)-phenyl]-biphenyl-4,4’-diamine)、m-MTDATA(4,4’,4”-トリス(3-メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン:4,4’,4”-tris(3-methylphenylphenylamino)triphenylamine)、TDATA(4,4’,4”-トリス(N,N-ジフェニルアミノ)トリフェニルアミン:4,4’,4”-Tris(N,N-diphenylamino)triphenylamine)、2TNATA(4,4’,4”-トリス{N,-(2-ナフチル)-N-フェニルアミノ}-トリフェニルアミン:4,4’,4”-tris{N,-(2-naphtyl)-N-phenylamino}-triphenylamine)、PEDOT/PSS(ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4-スチレンスルホナート):Poly(3,4-ethylenedioxythiophene)/Poly(4-styrenesulfonate))、PANI/DBSA(ポリアニリン/ドデシルベンゼンスルホン酸:Polyaniline/Dodecylbenzenesulfonic acid)、PANI/CSA(ポリアニリン/カンファースルホン酸:Polyaniline/Camphor sulfonic acid)、PANI/PSS((ポリアニリン)/ポリ(4-スチレンスルホナート):(Polyaniline)/Poly(4-styrenesulfonate))などが挙げられるが、これらに制限されない。これは、それぞれ単独で使用、又は2種以上を混用することができる。
【0050】
また、前記正孔輸送物質は、当該分野で公知のものを制限なく使用することができる。使用可能な正孔輸送物質としては、例えば、フェニルカルバゾール、ポリビニルカルバゾールなどのカルバゾール系誘導体、フルオレン(fluorene)系誘導体、TPD(N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-N,N’-ジフェニル-[1,1-ビフェニル]4,4’-ジアミン:N,N’-bis(3-methylphenyl)-N,N’-diphenyl-[1,1-biphenyl]-4,4’-diamine)、TCTA(4,4’,4”-トリス(N-カルバゾリル)トリフェニルアミン:4,4’,4”-tris(N-carbazolyl)triphenylamine)などのようなトリフェニルアミン系誘導体、NPB(N,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニルベンジジン:N,N’-di(1-naphthyl)-N,N’-diphenylbenzidine)、TAPC(4,4’-シクロヘキシリデン ビス[N,N-ビス(4-メチルフェニル)ベンゼンアミン]:4,4’-Cyclohexylidene bis[N,N-bis(4-methylphenyl)benzenamine])などが挙げられるが、これらに制限されない。これは、単独で使用、又は2種以上を混用することができる。
【0051】
前記正孔輸送領域30は、当該技術分野で周知の常法で製造することができる。例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB(Langmuir-Blodgett)法、インクジェット印刷法、レーザー印刷法、レーザー熱転写(Laser Induced Thermal Imaging、「LITI」)法などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0052】
発光層
本発明の有機物層Aに含まれる発光層40は、正孔と電子とが結合して励起子が形成される層であって、発光層40の構成物質によって、有機電界発光素子が発する光の色が変化される。
【0053】
このような発光層40は、ホストとドーパントとを含むことができるが、その混合比率は、当該分野で公知の範囲内で適切に調節可能である。例えば、発光層40は、当該発光層40の全重量を基準に、70~99.9重量部のホストと、0.1~30重量部のドーパントとを含むことができる。より具体的に、前記発光層40が青色蛍光、緑色蛍光、又は赤色蛍光である場合、80~99.9重量部のホストと、0.1~20重量部のドーパントとを含むことができる。また、前記発光層40が青色蛍光、緑色蛍光、又は赤色燐光である場合、70~90重量部のホストと、1~30重量部のドーパントとを含むことができる。
【0054】
前記発光層40に含まれるホストは、当業界で公知のものであれば、特に限定されることなく、例えば、アルカリ金属錯化合物;アルカリ土類金属錯化合物;又は、縮合芳香族環誘導体などが挙げられるが、これらに制限されない。
【0055】
より具体的に、前記ホスト材料としては、有機電界発光素子の発光効率及び寿命を向上させることができる、アルミニウム錯化合物、ベリリウム錯化合物、アントラセン誘導体、ピレン誘導体、トリフェニレン誘導体、カルバゾール誘導体、ジベンゾフラン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、又はこれらの1種以上の組み合わせを使用することが好ましい。
【0056】
また、本発明の発光層40に含まれるドーパントとしては、当業界で公知のものであれば、特に限定されることなく、例えば、アントラセン誘導体、ピレン誘導体、アリールアミン誘導体、イリジウム(Ir)又は白金(Pt)を含む金属錯体化合物などが挙げられるが、これらに制限されない。
【0057】
前記ドーパントは、赤色ドーパント、緑色ドーパント、及び青色ドーパントに分類されるが、当該技術分野で周知の赤色ドーパント、緑色ドーパント、及び青色ドーパントであれば、特に制限されることなく使用することができる。
【0058】
具体的に、赤色ドーパントとしては、例えば、PtOEP(Pt(II)オクタエチルポルフィン:Pt(II)octaethylporhphine)、Ir(piq)3(トリス(2-フェニルイソキノリン)イリジウム:tris(2-phenylisoquinoline)iridium)、Btp2Ir(acac)(ビス(2-(2’-ベンゾチエニル)-ピリジナト-N,C3’)イリジウム(アセチルアセトネート):bis(2-(2’-benzothienyl)-pyridinato-N,C3’)iridium(acetylacetonate))、又はこれらの2種以上の混合物などが挙げられるが、これらに制限されない。
【0059】
また、緑色ドーパントとしては、例えば、Ir(ppy)3(トリス(2-フェニルピリジン)イリジウム:tris(2-phenylpyridine)iridium)、Ir(ppy)2(acac)(ビス(2-フェニルピリジン)(アセチルアセトナト)イリジウム(III):Bis(2-phenylpyridine)(Acetylacetonato)iridium(III))、Ir(mppy)3(トリス(2-(4-トリル)フェニルピリジン)イリジウム:tris(2-(4-tolyl)phenylpridine)iridium)、C545T(10-(2-ベンゾチアゾリル)-1,1,7,7,-テトラメチル-2,3,6,7-テトラヒドロ-1H,5H,11H-[1]ベンゾピラノ[6,7,8-ij]-キノリジン-11-オン:10-(2-benzothiazolyl)-1,1,7,7-tetramethyl-2,3,6,7-tetrahydro-1H,5h,11H-[1]benzopyrano[6,7,8-ij]-quinolizine-11-one)、又はこれらの2種以上の混合物などが挙げられるが、これらに制限されない。
【0060】
また、青色ドーパントとしては、例えば、F2Irpic(ビス[3,5-ジフルオロ-2-(2-ピリジル)フェニル](ピコリナト)イリジウム(III):Bis[3,5-difluoro-2-(2-pyridyl)phenyl](picolinato)iridium(III))、(F2ppy)2Ir(tmd)、Ir(dfppz)3、DPVBi(4,4’-ビス(2,2’-ジフェノリエテン-1-イル)ビフェニル:4,4’-bis(2,2’-diphenylethen-1-yl)biphenyl)、DPAVBi(4,4’-ビス[4-(ジフェニルアミノ)スチリル]ビフェニル:4,4’-Bis[4-(diphenylamino)styryl]biphenyl)、TBPe(2,5,8,11-テトラ-tert-ブチルペリレン:2,5,8,11-tetra-tert-butyl perylene)、又はこれらの2種以上の混合物などが挙げられるが、これらに制限されない。
【0061】
本発明に係る発光層40は、赤色系燐光材料を含む赤色発光層;緑色系燐光材料を含む緑色発光層;又は、青色系燐光材料又は青色系蛍光物質を含む青色発光層であることができる。好ましくは、青色系蛍光材料を含む発光層であることができる。
【0062】
上述の発光層40は、1種の物質からなる単層、互いに異なる複数の物質からなる単層、又は各層が互いに異なる物質からなる2種以上の複数層からなることができる。ここで、発光層40が複数個の層である場合、有機電界発光素子は、様々な色の光を発することができる。具体的に、本発明は、異種の材料からなる発光層を直列に複数個備えることで混合色を発する有機電界発光素子を提供することができる。なお、複数個の発光層を含む場合、素子の駆動電圧は大きくなる反面、有機電界発光素子内の電流値は一定であるため、発光層数分だけ発光効率が向上した有機電界発光素子を提供することができる。
【0063】
図示してはいないが、前記有機電界発光素子100は、少なくとも1つの発光層を含む複数の発光スタック(図示せず)を具備することができる。
【0064】
このような発光スタックに含まれた複数の発光層は、それぞれ互いに異なる色相の光を発する発光層であるか、又は、同じ色相の光を発する発光層であることができる。即ち、発光層を構成する物質によって、発光色が変化することができる。例えば、複数の発光スタックは、青色、緑色、赤色、黄色、白色などを発光する物質を含むことができ、燐光又は蛍光物質を用いて形成することができる。なお、各発光層が示す色相は、互いに補色の関係にあることができる。その他、白色を発光し得る色の組み合わせで色相を選択することができる。このような各発光層は、選択された色相に対応する燐光ドーパント又は蛍光ドーパントをそれぞれ含むことができる。
【0065】
図示してはいないが、前記有機電界発光素子100は、複数の発光スタックのうち、隣接したスタックの間に配置され、これらを連結する電荷生成層(図示せず)をさらに含むことができる。
【0066】
電荷生成層(Charge Generation Layer、「CGL」)とは、複数個の発光スタックを備える有機電界発光素子において、両電極(例えば、陽極、陰極)と直接に接触せず、かつ隣接して配置された発光スタックを分離する層を意味する。このような電荷生成層は、互いに隣接した2つの発光スタックの間に配置され、1つの発光スタックに対しては電子を生成してカソード(cathode)役割を果たし、他の1つの発光スタックに対しては正孔を生成してアノード(anode)役割を果たす。前記電荷生成層(CGL)は、当該分野で公知の電荷生成層材料として使用可能な物質を制限なく使用することができる。また、前記電荷生成層用途の物質に、当該分野で公知の通常のn型物質及び/又はp型物質をドーピングして形成することもできる。
【0067】
電子輸送領域
本発明に係る有機電界発光素子100において、有機物層Aに含まれる電子輸送領域50は、陰極20から注入された電子を発光層40に移動させる役割を果たす。
【0068】
このような電子輸送領域50は、励起子閉じ込め層51と、電子輸送層53及び電子注入層52のうちの少なくとも1つとを含む2層以上であることができ、必要に応じて電子輸送補助層(図示せず)をさらに含むことができる。
【0069】
本発明では、少なくとも2層のうち、前記発光層40に接する電子輸送領域50の一領域に、特定の物性(例えば、DOS重畳率)が所定の範囲に調節された励起子閉じ込め層51(ECL)が配置される。
【0070】
このような励起子閉じ込め層51は、隣接した2層の材料、例えば、発光層40のホスト材料、並びに前記少なくとも2層のうち他の電子輸送領域の層、例えば、電子輸送層53及び電子注入層52材料のうちの少なくとも1つの状態密度DOSと一部がオーバーラップした状態密度DOSを有する。
【0071】
本発明において、状態密度DOSとは、特定のエネルギー準位で占有許容された電子状態の個数として定義され、これに基づいて、シミュレーション-デポジション方法を用いてLUMO状態密度DOSの調査を行った。
【0072】
一具体例を挙げると、前記励起子閉じ込め層51のLUMO状態密度DOSLUMO ECLは、下記の(i)及び(ii)のうちの少なくとも1つ以上の条件を満たすことができる。
(i)前記ホストのLUMO状態密度DOSLUMO Hostと0%超で重畳された状態密度DOSを有する励起子閉じ込め層のLUMO状態密度DOSLUMO ECL
(ii)前記電子輸送領域の2層のうち、励起子閉じ込め層を除いた残りの層のLUMO状態密度DOSLUMO ETと0%超で重畳された状態密度DOSを有する励起子閉じ込め層のLUMO状態密度DOSLUMO ECL
【0073】
一例を挙げると、前記励起子閉じ込め層51のLUMO状態密度DOSLUMO ECLは、前記ホストのLUMO状態密度DOSLUMO Hostと0%超で重畳された状態密度DOSを有することができる。
【0074】
他の例を挙げると、前記励起子閉じ込め層51のLUMO状態密度DOSLUMO ECLは、前記電子輸送領域50のうち、励起子閉じ込め層(ECL)を除いた残りの電子輸送領域50を構成する層のLUMO状態密度DOSLUMO ETと0%超で重畳された状態密度DOSを有することができる。
【0075】
また他の例を挙げると、前記励起子閉じ込め層51のLUMO状態密度DOSLUMO ECLは、前記ホストのLUMO状態密度DOSLUMO Host、及び前記電子輸送領域50のうち励起子閉じ込め層(ECL)を除いた残りの層のLUMO状態密度DOSLUMO ETのうちの少なくとも1つと0%超で重畳された状態密度を有することができる。
【0076】
さらに他の例を挙げると、前記励起子閉じ込め層51のLUMO状態密度DOSLUMO ECLは、前記ホストのLUMO状態密度DOSLUMO Host、及び前記電子輸送領域50のうち励起子閉じ込め層(ECL)を除いた残りの層のLUMO状態密度DOSLUMO ETといずれも0%超で重畳された状態密度を有することができる。
【0077】
なお、電子輸送領域50において、励起子閉じ込め層(ECL)を除いた残りの電子輸送領域50を構成する層が多層構造を有する場合、励起子閉じ込め層51と重畳された状態密度を有する電子輸送領域50は、励起子閉じ込め層(ECL)と隣接した電子輸送領域50の一領域、具体的には、励起子閉じ込め層(ECL)と接する層、例えば、電子注入層52及び/又は電子輸送層53を意味することができる。
【0078】
上述のように、励起子閉じ込め層51のLUMO状態密度DOSが、ホストのLUMO状態密度、又は電子輸送領域50のうち前記励起子閉じ込め層と隣接した層(例えば、52)材料のLUMO状態密度のうちの少なくとも1つ以上の状態密度DOSと0%超で、即ち、少なくとも一部が重畳される場合、発光層40のホストから電子輸送領域50までの電子移動が円滑に行われるので、素子の効率増大が図れる。特に、上述した効果は、励起子閉じ込め層51とホストとの間の状態密度DOS重畳率が高くなるほど、ホストのキャリア移動性の面でより有利になるため、シナジー効果(Synery effect)を発揮することができる。また、励起子閉じ込め層51と前記電子輸送領域のうち隣接した材料52との重畳率が高くなるほど、電子輸送領域でのキャリア移動が上昇し、シナジー効果を発揮することができる。これによって、励起子閉じ込め層51のLUMO状態密度DOSLUMO ECLは、前記ホストのLUMO状態密度DOSLUMO Host、及び前記少なくとも2層のうち励起子閉じ込め層51を除いた他の電子輸送領域の層52のLUMO状態密度DOSLUMO ETと、それぞれ少なくとも一部重畳された状態密度を有することが好ましい。このような励起子閉じ込め層51と隣接した2層の材料、例えば、ホスト材料及び/又は他の電子輸送領域材料の間のLUMO状態密度重畳率は、特に制限されず、上述のキャリア移動性を考慮して適宜調節することができる。例えば、0%超であることができ、具体的に、0%超、95%以下であり、より具体的に、1~85%であることができる。
【0079】
前記励起子閉じ込め層51は、1層の単層であるか、又は2層以上の多層構造であることができる。励起子閉じ込め層51が2層以上の多層構造を有する場合、多層構造のうち、状態密度DOS重畳率などが調節された1つの励起子閉じ込め層51が、発光層40及び/又は他の電子輸送領域52と直接に接するように配置されることが好ましい。
【0080】
本発明に係る励起子閉じ込め層51は、上述した状態密度DOS重畳によるキャリア移動性増大効果とともに、低駆動電圧、高効率の効果を発揮するため、後述の物性のうちの少なくとも1つをさらに満たすことができる。
【0081】
一具体例を挙げると、前記励起子閉じ込め層51の一重項エネルギーS1ECLは、2.0eV以上であることができ、具体的に、2.0~4.5eV、より具体的に、2.5~4.0eVであることができる。これは、一重項励起子の隣接した界面及び/又は他の層への拡散、又は、界面で発光が起こる現象を阻止し、一重項励起子を効率的に閉じ込めるようになる。これによって、励起子量が増加し、有機電界発光素子の発光効率が改善される。これは、結果的に、有機電界発光素子のスペクトル混色を防止し、安定性を向上させ、有機電界発光素子の効率及び寿命を向上させることができる。
【0082】
他の具体例を挙げると、前記励起子閉じ込め層51の三重項エネルギーT1ECLは、1.5eV以上であることができ、具体的に、1.5~4.5eV、より具体的に、2.0~4.0eVであることができる。これは、励起子の他の層への移動を防止するため、有機電界発光素子の効率が有意に向上する効果を図ることができる。
【0083】
他の具体例を挙げると、前記励起子閉じ込め層51のHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)の絶対値の大きさは、5.0以上であることができ、具体的に、5.0~7.0eV、より具体的に、5.0~6.5eVであることができる。このようなHOMOエネルギー値を有することにより、発光層40に伝達された正孔が、他の電子輸送領域、例えば、電子輸送層53に拡散又は超える現象を遮断することができる。これによって、発光層40内で正孔と電子とが再結合(recombination)する確率が増加し、有機電界発光素子の発光効率を一層向上させることができる。また、正孔が発光層40を超えて電子輸送層53に拡散又は移動する場合に発生する酸化による非可逆的分解反応、及びこれによる有機電界発光素子の寿命低下を解決することで、素子の寿命特性を改善することができる。また、高効率の効率的な発生のため、前記励起子閉じ込め層51のバンドギャップエネルギーの大きさは、2.5eV以上であることができ、具体的に、2.5~4.5eVであることができる。
【0084】
他の具体例を挙げると、前記励起子閉じ込め層51は、基底状態で結合解離エネルギー(Bond Dissociation Energy、「BDE」)のうち最も低い結合解離エネルギーが、少なくとも1.50eV以上であることができ、具体的に、1.5~6.0eVであることができる。なお、結合解離エネルギーBDEは、特定の化学結合を切る時に必要なエネルギーと解釈され得る。一般に、結合解離エネルギーBDEは、結合が強いほど、分子の安定性と関連性があり、寿命に影響を与える要素として作用することもある。
【0085】
他の具体例を挙げると、前記励起子閉じ込め層51のLUMOエネルギー準位と、これに隣接した2つの有機物層、例えば、発光層40に含まれるホスト又は電子輸送領域の隣接層52のLUMOエネルギー準位との絶対値の差ΔLUMOは、それぞれ2.0eV以下であることができ、具体的に、0を超過し、2.0eVであることができる。
【0086】
他の具体例を挙げると、前記励起子閉じ込め層51のHOMOエネルギー準位と、これに隣接した2つの有機物層、例えば、発光層40に含まれるホスト又は電子輸送領域の隣接層52のHOMOエネルギー準位との絶対値の差ΔHOMOは、それぞれ2.0eV以下であることができ、具体的に、0を超過し、2.0eVであることができる。
【0087】
例えば、本発明に係る励起子閉じ込め層51のLUMO/HOMOエネルギー準位は、それぞれ隣接した2つの有機物層、具体的に、発光層40と他の電子輸送領域の層52との間に存在するように調節することができる。例えば、励起子閉じ込め層51のHOMOエネルギー準位は、発光層40のHOMOエネルギー準位より深く、隣接した他の電子輸送領域の層52のHOMOエネルギー準位と等しいか、より浅いことができる。上述のHOMO/LUMOエネルギー準位を満たす場合、発光層40、励起子閉じ込め層51、電子輸送領域のHOMO/LUMOエネルギー準位が階段状に配列され得る。これにより、陽極10を介して伝達される正孔と、陰極20を介して伝達される電子とが、有機物層Aの階段状配列によって、発光層40により円滑に伝達されることで、励起子形成増加及び素子効率増大を図ることができる。
【0088】
他の具体例を挙げると、前記励起子閉じ込め層51の電子親和度EAは、少なくとも0.5eV以上であることができ、具体的に、0.5~3.0eVであることができる。このような電子親和度を有する場合、高い電子注入効率が得られる。
【0089】
他の具体例を挙げると、前記発光層40が、蛍光性青色系発光材料を含む青色発光層である場合、励起子閉じ込め層51は、400~470nmの青色波長領域において、少なくも0.7以上の屈折率nを有することができ、具体的に、0.7~3.5であることができる。
【0090】
なお、陽極10から注入された正孔の数と、陰極20から注入された電子の数との差によって電子と正孔とのつり合いが取れない場合、再結合によって励起子を形成していない電子又は正孔は、発光層40に溜まる。前記発光層40に溜まった電子又は正孔によって、発光層40において酸化と還元とが円滑に行われず、又は、隣接層に影響を及ぼし、有機電界発光素子の寿命が減少するようになる。これに対して、前記励起子閉じ込め層51は、常温で少なくとも1×10-8cm/Vs以上の電子移動度μを有することにより、陽極10から注入された正孔の数に比べて、電子の注入が遅延されるのを防止し、発光層40への電子注入が円滑に行われるため、発光層40において励起子の形成効率が上昇し、有機電界発光素子の寿命を改善することができる。
【0091】
本発明に係る励起子閉じ込め層51は、上述したDOS重畳率パラメータ及び当該数値を満たしていれば、励起子閉じ込め層51を構成する化合物の詳細な構成、例えば、当該化合物に含まれたモイエティの種類(例えば、EDG基、EWG基)、及びその結合位置、リンカーの導入位置などと、その組成などに特に制限されない。
【0092】
一具体例を挙げると、前記励起子閉じ込め層51材料として含まれる化合物は、電子吸収性の高い電子求引性基(EWG)特性を有するモイエティと、電子供与性の高い電子供与性基(EDG)特性を有するモイエティとを同時に含む双極性(bipolar)化合物であることができる。
【0093】
一具体例を挙げると、前記励起子閉じ込め層51材料として含まれる化合物は、当該分野で公知の電子吸収性の高い電子求引性基(EWG)特性を有するモイエティが、少なくとも2つ以上結合された化合物であることができる。
【0094】
より具体的に、前記励起子閉じ込め層51を構成する化合物(材料)は、下記化1で示される6員モイエティ、下記化2で示される5員モイエティ、及び前記6員モイエティと5員モイエティとが縮合した多環モイエティのうちの少なくとも1つの電子求引性基(EWG)モイエティを含むことができる。
【化1】
【化2】
式中、
乃至X、及びY乃至Yは、互いに同一もしくは異なり、それぞれ独立に、N又はC(R)であり、但し、前記X乃至X、及びY乃至Yのうちの少なくとも1つは、Nであり、
前記C(R)が複数個である場合、複数のRは、互いに同一もしくは異なり、それぞれ独立に、水素、重水素、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、C~C40のアルキル基、C~C40のアルケニル基、C~C40のアルキニル基、C~C40のシクロアルキル基、核原子数3~40のヘテロシクロアルキル基、C~C60のアリール基、核原子数5~60のヘテロアリール基、C~C40のアルキルオキシ基、C~C60のアリールオキシ基、C~C40のアルキルシリル基、C~C60のアリールシリル基、C~C40のアルキルボロン基、C~C60のアリールボロン基、C~C60のアリールホスフィン基、C~C60のアリールホスフィンオキサイド基、及びC~C60のアリールアミン基からなる群から選択されるか、又は、これらは、隣接した基と結合して縮合環を形成することができ、
前記Rの、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールオキシ基、アルキルオキシ基、シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、アリールアミン基、アルキルシリル基、アルキルボロン基、アリールボロン基、アリールホスフィン基、アリールホスフィンオキサイド基、及びアリールアミン基は、それぞれ独立に、水素、重水素(D)、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基、C~C40のアルキル基、C~C40のアルケニル基、C~C40のアルキニル基、C~C40のシクロアルキル基、核原子数3~40のヘテロシクロアルキル基、C~C60のアリール基、核原子数5~60のヘテロアリール基、C~C40のアルキルオキシ基、C~C60のアリールオキシ基、C~C40のアルキルシリル基、C~C60のアリールシリル基、C~C40のアルキルボロン基、C~C60のアリールボロン基、C~C60のアリールホスフィン基、C~C60のアリールホスフィンオキサイド基、及びC~C60のアリールアミン基からなる群から選択された1種以上の置換基で置換されることができ、この時、前記置換基が複数個である場合、これらは、互いに同一もしくは異なることができる。
【0095】
前記励起子閉じ込め層51を構成する化合物(材料)は、少なくとも1つの窒素(N)を含有する含窒素ヘテロ芳香族環、即ち、電子求引性基(EWG)を1つ以上含むことにより、優れた電子特性を示すようになる。これにより、上述の化1乃至化2で示される6員又は5員のモイエティ、又はこれらが縮合された多環モイエティを有する化合物を、励起子閉じ込め層51材料として適用する時、素子100の駆動電圧を低くし、高効率及び長寿命を誘導することができる。
【0096】
本発明の一実施例によれば、前記励起子閉じ込め層51を構成する化合物が含む電子求引性基(EWG)モイエティは、下記の構造式群から選択されるいずれか1により具体化可能である。しかし、これらに制限されない。
式中、
*は、励起子閉じ込め層を構成する化合物との結合がなされる部分を意味する。
【0097】
前記構造式中、具体的に示されてはいないが、当該分野で公知の置換基(例えば、Rの定義部と同様)が、少なくとも1つ以上置換されることができる。また、前記構造式中、励起子閉じ込め層を構成する化合物と連結される部分*は、1つだけ示されているが、2つが含まれる場合も本発明の範疇に属する。
【0098】
本発明に係る一実施例では、励起子閉じ込め層51を構成する化合物は、上述の電子求引性基(EWG)と異なり、前記電子求引性基(EWG)より電子供与性の高い、当該分野で公知の電子供与性基(EDG)モイエティを、少なくとも1つ含むことができる。
【0099】
上述した本発明の励起子閉じ込め層51材料として使用可能な化合物は、後述の例示化合物により具体化可能である。しかし、本発明に係る励起子閉じ込め層51を構成する化合物が後述の例示化合物に限定されることはない。特に、状態密度DOS重畳率などの物性を満たしていれば、化合物に含まれたモイエティの種類(例えば、EDG基、EWG基)及びその結合位置、リンカーの導入位置は、特に制限されず、その化学構造が種々に変形された化合物も本発明の範疇に含まれる。
【0100】
本発明に係る励起子閉じ込め層51は、当該技術分野で周知のように真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法、インクジェット印刷法、レーザー印刷法、レーザー熱転写(LITI)法で形成することができるが、これらに制限されない。
【0101】
本発明に係る電子輸送領域50において、電子注入層52は、電子注入が容易で、かつ電子移動度が高い電子注入物質を制限なく使用することができる。使用可能な電子注入物質としては、例えば、前記双極性化合物、アントラセン誘導体、ヘテロ芳香族化合物、アルカリ金属錯化合物などが挙げられるが、これらに制限されない。具体的に、LiF、LiO、BaO、NaCl、CsF;Ybなどのようなランタン族金属;又は、RbCl、RbIなどのようなハロゲン化金属などが挙げられるが、これらは、単独で使用又は2種以上を混合して使用することができる。
【0102】
本発明に係る電子輸送領域50、具体的に電子注入層52は、陰極から電子の注入が容易に行われるように、n型ドーパントと共蒸着されたものを使用することもできる。なお、n型ドーパントとしては、当該分野で公知のアルカリ金属錯化合物を制限なく使用することができ、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又は希土類金属などが挙げられる。
【0103】
前記電子輸送領域50は、当該技術分野で周知の常法で製造することができる。例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法、インクジェット印刷法、レーザー印刷法、レーザー熱転写(LITI)法などが挙げられるが、これらに制限されない。
【0104】
発光補助層
選択的に、本発明の有機発光素子100は、前記正孔輸送領域30と発光層40との間に配置された発光補助層(図示せず)をさらに含むことができる。
【0105】
発光補助層は、正孔輸送領域30から移動される正孔を発光層40に輸送する役割を果たすとともに有機物層Aの厚さを調節する役割を果たす。このような発光補助層は、高いLUMO値を有し、電子の正孔輸送層32への移動を防止し、高い三重項エネルギーを有し、発光層40の励起子の正孔輸送層32への拡散を防止する。
【0106】
このような発光補助層は、正孔輸送物質を含むことができ、正孔輸送領域と同じ物質から製造され得る。なお、赤色、緑色、及び青色の有機発光素子の発光補助層は、互いに同じ材料で製造することができる。
【0107】
発光補助層材料としては、特に制限されず、例えば、カルバゾール誘導体又はアリールアミン誘導体などが挙げられる。使用可能な発光補助層としては、例えば、NPD(N,N-ジナフチル-N,N’-ジフェニルベンジジン:N,N-dinaphtyl-N,N’-diphenyl benzidine)、TPD(N,N’-ビス-(3-メチルフェニル)-N,N’-ビス(フェニル)-ベンジジン:N,N’-bis-(3-methylphenyl)-N,N’-bis(phenyl)-benzidine)、s-TAD、MTDATA(4,4’,4”-トリス(N-3-メチルフェニル-Nフェニル-アミノ)-トリフェニルアミン:4,4’,4”-Tris(N-3-methylphenyl-Nphenyl-amino)-triphenylamine)などが挙げられるが、これらに制限されない。これらは、単独で使用、又は2種以上を混合して使用することができる。また、前記発光補助層は、上述した材料のほかに、p型ドーパントを含むことができる。前記p型ドーパントとしては、当該技術分野で使用される公知のp型ドーパントを使用することができる。
【0108】
キャッピング層
選択的に、本発明の有機電界発光素子100は、前記陰極20上に配置されるキャッピング層(図示せず)をさらに含むことができる。前記キャッピング層は、有機発光素子を保護しながら、有機物層から発生した光の外部への効率的な放出を助ける役割を果たす。
【0109】
前記キャッピング層は、トリス-8-ヒドロキシキノリンアルミニウム(Alq3)、ZnSe、2,5-ビス(6’-(2’,2”-ビピリジル))-1,1-ジメチル-3,4-ジフェニルシロール、4’-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニル-アミノ]ビフェニル(α-NPD)、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD)、1,1’-ビス(ジ-4-トリルアミノフェニル)シクロヘキサン(TAPC)からなる群から選択される少なくとも1つを含むことができる。このようなキャッピング層を形成する物質は、有機発光素子の他の層の材料に比べて低価格である。
【0110】
このようなキャッピング層は、単層であることができ、互いに異なる屈折率を有する2以上の層を含み、前記2以上の層を通過しながら段々変化するようにすることができる。
【0111】
前記キャッピング層は、当該技術分野で周知の常法で製造することができ、例えば、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、又はLB法などのような種々の方法を使用することができる。
【0112】
上述した構成を含む本発明の有機発光素子は、当該分野で周知の常法で製造することができる。例えば、基板上に陽極物質を真空蒸着した後、前記陽極上に正孔輸送領域物質、発光層物質、電子輸送領域物質、及び陰極物質の材料を順次真空蒸着することで有機発光素子を製造することができる。
【0113】
図2は、本発明の他の実施例に係る有機電界発光素子200の構造を示す断面図である。図2中、図1と同じ参照符号は、同じ部材を指称する。
【0114】
以下、図2の説明においては、図1と重複する内容はその説明を省略し、相違点についてのみ説明する。図2に示されるように、本発明の第2の実施例に係る有機電界発光素子200は、発光層40に隣接して配置された電子輸送領域50が励起子閉じ込め層51と電子注入層52とから構成される図1の実施例とは異なり、励起子閉じ込め層53、電子輸送層53、及び電子注入層52を含む電子輸送領域50を備える。
【0115】
具体的に、図2の電子輸送領域50は、発光層40と陰極20との間に配置されるが、当該発光層40を基準にして、励起子閉じ込め層51、電子輸送層53、及び電子注入層52が配置された構造を有する。必要に応じて電子輸送補助層(図示せず)をさらに含むこともできる。
【0116】
前記電子輸送層53は、励起子閉じ込め層51と電子注入層52との間に配置され、この時、励起子閉じ込め層51は、隣接する2つの層として発光層40のホスト材料及び電子輸送層53材料のうちの少なくとも1つと0%超で重畳された状態密度DOSを有することができる。このような状態密度DOS重畳率パラメータ及びその数値調節による効果は、第1の実施例と同様に適用される。
【0117】
このような電子輸送層53は、当該分野で公知の電子輸送特性を有する物質を制限なく使用することができる。例えば、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体(例えば、BCP)、含窒素ヘテロ環誘導体などを含むことができる。
【0118】
本発明に係る電子輸送層53は、陰極からの電子注入が容易に行われるように、n型ドーパントと共蒸着されたものを使用することもできる。なお、n型ドーパントとしては、当該分野で公知のアルカリ金属錯化合物を制限なく使用することができ、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、又は希土類金属などが挙げられる。
【0119】
前記電子輸送層53は、当該技術分野で周知のように、真空蒸着法、スピンコート法、キャスト法、LB法、インクジェット印刷法、レーザー印刷法、レーザー熱転写(LITI)法などで形成することができるが、これらに限定されない。
【0120】
その他、図2の実施例において、各構成要素の材料と構造などに関する説明は、図1の第1の実施例に係る有機電界発光素子100の説明をそのまま適用可能であるため、個別説明は省略する。
【0121】
本発明に係る有機電界発光素子100、200は、陽極10、有機物層A、A’、及び陰極20が順次積層された構造を有するが、陽極10と有機物層A、A’との間、又は陰極20と有機物層A、A’との間に、絶縁層又は接着層をさらに含むこともできる。このような本発明の有機電界発光素子は、電圧、電流、又はこれらをいずれも印加する場合、最大発光効率を維持しながら、初期明るさの半減時間(Life time)が増加するため、優れた寿命特性が得られる。
【実施例
【0122】
以下、本発明を実施例に基づいて詳述するが、後述の実施例は、本発明の例示に過ぎず、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0123】
[準備例]
本発明に係る化合物を以下のように準備し、これらの物性を、当業界で公知の常法でそれぞれ測定し、下記表1に示す。
【0124】
なお、各化合物のHOMOエネルギー、LUMOエネルギー、一重項エネルギーS1、三重項エネルギーT1などは、材料の薄膜や溶液の光学測定により決定することができるが、量子計算法により決定することもできる。特に、状態密度DOSは、量子力学(Quantum Mechanics、「QM」)、分子動力学(Molecular Dynamics、「MD」)計算により算出することもできる。
【0125】
本発明において使用される材料のHOMOエネルギー、LUMOエネルギー、一重項エネルギーS1、三重項エネルギーT1などを、シュレディンガーのプログラム(Schrodinger software release 2019-3)を使用して計算し、その計算方法は、下記の通りである。
【0126】
具体的に、各物性の基本的な計算方法は、密度汎関数理論(Density Functional Theory、「DFT」)のうち最も汎用的に使用されているB3LYP(Becke、3-parameter、Lee-Yang-Parr)汎関数計算方法を使用し、basis setとしては、TZV(triple zeta)を使用して分子構造の最適化を行った。
【0127】
構造が最適化された基底状態(Ground state、S0)において、各化合物のHOMOエネルギーとLUMOエネルギーを計算し、また、S0/singlet(S1)、及びS0/triple(T1)の最適化されたエネルギー差によって、一重項エネルギーS1と三重項エネルギーT1のエネルギーをそれぞれ算出した。
【0128】
また、状態密度DOSは、数千個以上の原子をデポジションシミュレーションを行った後、これを量子計算によって、それぞれLUMOエネルギーを排除してDOSを求めた。デポジションによる実験と類似した条件によって、ホスト材料と励起子閉じ込め層とのDOS分布差を比較し、これらのDOS重畳率を百分率化した。
【0129】
さらに、結合解離エネルギーBDEは、上述の方法と同様に、B3LYP/TZV計算方法を用いて、分子の存在する特定の化学結合を切って所要のエネルギーを計算し、そのうちBDEが最も小さい値を選定した。
【0130】
そして、屈折率/電子親和度/双極子モーメント/電子移動度は、同じ条件を維持するため、密度汎関数理論であるB3lyp/tzv方法を用いて構造を最適化した後、それぞれの値をQM/MDによって算出し、特に、電子移動度は、電子の移動を記述したマーカス理論を利用した。全ての結果は、シュレディンガーのプログラムによって算出された。
【0131】
【表1】
【0132】
なお、本願の実施例1乃至16において使用された各化合物の構造は、下記の通りである。
【0133】
[実施例1~16]青色有機電界発光素子の製作
各化合物を常法で高純度昇華精製を行った後、下記の過程に従って青色有機電界発光素子を製作した。
【0134】
まず、ITO(Indium Tin Oxide)が1500Åの厚さで薄膜コーティングされたガラス基板を、蒸留水で超音波洗浄を行った。蒸留水洗浄完了後、イソプロピルアルコール、アセトン、メタノールなどの溶剤で超音波洗浄を行い、乾燥させた後、UV OZONE洗浄機(Power sonic 405、ファシンテック社製)に移送させた後、UVを用いて前記基板を5分間洗浄し、真空蒸着機に基板を移送した。
【0135】
上記のように準備されたITO透明電極の上に、DS-205((株)斗山電子製、80nm)/NPB(15nm)/ADN+5%DS-405((株)斗山電子製、30nm)/表2の各化合物(5nm)/Alq(25nm)/LiF(1nm)/Al(200nm)の順に積層し、有機電界発光素子を製造した。
【0136】
【表2】
【0137】
[比較例1]青色有機電界発光素子の製造
励起子閉じ込め層材料として使用された表1の各化合物の代わりに、化合物Aを使用した以外は、上述の実施例1と同様にして比較例1の青色有機電界発光素子を製作した。
【0138】
参考に、実施例1乃至16及び比較例1において使用された、NPB、ADN、TPBi、及び化合物Aの構造は、下記の通りである。
【0139】
[評価例1]
実施例1乃至16及び比較例1においてそれぞれ製造された有機電界発光素子について、電流密度10mA/cmでの駆動電圧、電流効率を測定し、その結果を表3に示す。
【0140】
【表3】
【0141】
表3に示されるように、発光層と電子輸送層との間に所定の物性に制御された励起子閉じ込め層を備える実施例1乃至16の有機電界発光素子は、励起子閉じ込め層を含まない比較例1の青色有機電界発光素子に比べて、電流効率、駆動電圧の面で優れた性能を示すことが確認された。
【0142】
[実施例17~32]青色有機電界発光素子の製作
各化合物を常法で高純度昇華精製を行った後、下記の過程に従って青色有機電界発光素子を製作した。
【0143】
まず、ITO(Indium Tin Oxide)が1500Åの厚さで薄膜コーティングされたガラス基板を、蒸留水で超音波洗浄を行った。蒸留水洗浄完了後、イソプロピルアルコール、アセトン、メタノールなどの溶剤で超音波洗浄を行い、乾燥させた後、UV OZONE洗浄機(Power sonic 405、ファシンテック社製)に移送させた後、UVを用いて前記基板を5分間洗浄し、真空蒸着機に基板を移送した。
【0144】
上記のように準備されたITO透明電極の上に、DS-205((株)斗山電子製、80nm)/NPB(15nm)/ADN+5%DS-405((株)斗山電子製、30nm)/表4の各化合物(30nm)/LiF(1nm)/Al(200nm)の順に積層し、有機電界発光素子を製造した。
【0145】
【表4】
【0146】
[比較例2]青色有機電界発光素子の製造
励起子閉じ込め層材料として使用された表1の各化合物の代わりに、化合物TPBiを使用した以外は、上述の実施例17と同様にして比較例2の青色有機電界発光素子を製作した。
【0147】
[評価例2]
実施例17乃至32及び比較例2においてそれぞれ製造された有機電界発光素子について、電流密度10mA/cmでの駆動電圧、電流効率を測定し、その結果を表5に示す。
【0148】
【表5】
【0149】
表5に示されるように、発光層に接する電子輸送領域の一領域に励起子閉じ込め層を備える実施例17乃至32の有機電界発光素子は、既存の材料であるTPBiを電子輸送層材料として使用した比較例2の青色有機電界発光素子に比べて、電流効率、駆動電圧の面で優れた性能を示すことが確認された。
図1
図2