(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】把持装置及び弾性体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B25J 15/08 20060101AFI20241028BHJP
【FI】
B25J15/08 S
(21)【出願番号】P 2020523587
(86)(22)【出願日】2019-05-15
(86)【国際出願番号】 JP2019019362
(87)【国際公開番号】W WO2019235151
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-12-24
【審判番号】
【審判請求日】2023-05-22
(31)【優先権主張番号】P 2018109122
(32)【優先日】2018-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石谷 拓也
(72)【発明者】
【氏名】松岡 正浩
(72)【発明者】
【氏名】鷲巣 貴志
【合議体】
【審判長】刈間 宏信
【審判官】鈴木 貴雄
【審判官】菊地 牧子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-115972(JP,A)
【文献】国際公開第2017/208979(WO,A1)
【文献】中国実用新案第206296921(CN,U)
【文献】特開2013-240855(JP,A)
【文献】特開2017-12751(JP,A)
【文献】国際公開第2017/154335(WO,A1)
【文献】特開平7-328979(JP,A)
【文献】特開2015-217439(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 15/00 - 15/12
B29C 67/00 - 67/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部と、前記基部の先端に設けられた弾性体と、を複数備えて対象物を把持する把持部を含んで構成されており、
前記弾性体は、ラティス構造の本体部を有し、
複数の前記弾性体は、前記対象物側の面が向かい合うようにして配置され、
前記把持部は、複数の前記基部の直線移動の拡縮動作によって前記対象物を把持し、
前記弾性体は、異方性があり、拡縮動作方向には弾性変形しやすく、拡縮動作方向と垂直方向には弾性変形しにくくなるように設定され
、
前記本体部における前記対象物側の前記面に設けられて前記対象物に接触する表面層と、
前記本体部における前記対象物側とは反対側の面に隣接して設けられ、前記弾性体を前記基部に装着させるための装着部と、を有し、
前記本体部と前記表面層と前記装着部は一体形成されている把持装置。
【請求項2】
基部と、前記基部の先端に設けられた弾性体と、を備えた一対の把持部により対象物を把持するように構成されており、
前記弾性体は、ラティス構造の本体部を有し、
複数の前記弾性体は、前記対象物側の面が向かい合うようにして配置され、
前記一対の把持部は、二つの前記基部の直線移動の拡縮動作によって前記対象物を把持し、
前記弾性体は、異方性があり、拡縮動作方向には弾性変形しやすく、拡縮動作方向と垂直方向には弾性変形しにくくなるように設定され
、
前記本体部における前記対象物側の前記面に設けられて前記対象物に接触する表面層と、
前記本体部における前記対象物側とは反対側の面に隣接して設けられ、前記弾性体を前記基部に装着させるための装着部と、を有し、
前記本体部と前記表面層と前記装着部は一体形成されている把持装置。
【請求項3】
前記弾性体は、直方体形状を有する請求項1又は2記載の把持装置。
【請求項4】
前記表面層には凹凸パターンが形成されている請求項1~3のいずれか一項に記載の把持装置。
【請求項5】
前記弾性体は、前記対象物の外形に沿った形状に形成されている請求項1~4のいずれか一項に記載の把持装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の弾性体を、積層造形法によって製造する弾性体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、把持装置及び弾性体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用ロボットやサービスロボット、ドローン等を始めとする各種のロボットには、その重要な機能として、対象物を把持する把持装置が備えられている。従来、このような把持装置としては、例えばチャック型の把持部を備える把持装置や、リンク機構を有する多指型の把持装置などが知られている。
ところで、把持装置のうち対象物に接触する把持部には、金属や硬質樹脂が採用される場合があるが、その場合、摩擦係数が低く、ある程度の力をかけて把持する必要がある。一方、力を過剰にかけてしまうと対象物が破損するため、適度な力での把持が求められる。つまり、把持部に対して十分な摩擦力を持たせつつ、対象物を破損させない範囲で把持力を制御する必要がある。ところが、対象物の形状のばらつきや、把持部の位置制御のばらつきが大きい場合は、把持力の制御が困難であった。
リンク機構を有する多指型の把持装置の場合は、対象物との接触面積を増やして把持することで、対象物の形状のばらつきや、把持部の位置制御のばらつきに対応できるが、機構が複雑であり、メンテナンス性や重量増が課題となる場合があった。
そこで、近年、チャック型の把持部に対して弾性体を被覆させることで、対象物の形状のばらつきや、把持部の位置制御のばらつきを吸収することが提案されている(例えば特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
対象物の形状のばらつきや、把持部の位置制御のばらつきを吸収するために、把持部を被覆する弾性体には適度な柔軟性と、適度な厚みを持たせる必要がある。ところが、弾性体はそもそも加工性が低いし、弾性体を構成する材料の物性を対象物ごとにカスタマイズするのも現実的ではない。
【0005】
本発明の課題は、対象物の形状のばらつきや、把持部の位置制御のばらつきを吸収するとともに十分な摩擦力を有し、対象物を安定的に把持できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、
基部と、前記基部の先端に設けられた弾性体と、を複数備えて対象物を把持する把持部を含んで構成されており、
前記弾性体は、ラティス構造の本体部を有し、
複数の前記弾性体は、前記対象物側の面が向かい合うようにして配置され、
前記把持部は、複数の前記基部の直線移動の拡縮動作によって前記対象物を把持し、
前記弾性体は、異方性があり、拡縮動作方向には弾性変形しやすく、拡縮動作方向と垂直方向には弾性変形しにくくなるように設定され、
前記本体部における前記対象物側の前記面に設けられて前記対象物に接触する表面層と、前記本体部における前記対象物側とは反対側の面に隣接して設けられ、前記弾性体を前記基部に装着させる装着部と、を有し、
前記本体部と前記表面層と前記装着部は一体形成されている把持装置である。
また、上記課題を解決するため、請求項2に記載の発明は、
基部と、前記基部の先端に設けられた弾性体と、を備えた一対の把持部により対象物を把持するように構成されており、
前記弾性体は、ラティス構造の本体部を有し、
複数の前記弾性体は、前記対象物側の面が向かい合うようにして配置され、
前記一対の把持部は、二つの前記基部の直線移動の拡縮動作によって前記対象物を把持し、
前記弾性体は、異方性があり、拡縮動作方向には弾性変形しやすく、拡縮動作方向と垂直方向には弾性変形しにくくなるように設定され、
前記本体部における前記対象物側の前記面に設けられて前記対象物に接触する表面層と、前記本体部における前記対象物側とは反対側の面に隣接して設けられ、前記弾性体を前記基部に装着させる装着部と、を有し、
前記本体部と前記表面層と前記装着部は一体形成されている把持装置である。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の把持装置において、前記弾性体は、直方体形状を有する。
【0008】
請求項4に記載の発明は、請求項1~3のいずれか一項に記載の把持装置において、前記表面層には凹凸パターンが形成されている。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項1~4のいずれか一項に記載の把持装置において、前記弾性体は、前記対象物の外形に沿った形状に形成されている。
【0013】
請求項6に記載の発明は、請求項1~5のいずれか一項に記載の弾性体を、積層造形法によって製造する弾性体の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、対象物の形状のばらつきや、把持部の位置制御のばらつきを吸収するとともに十分な摩擦力を有し、対象物を安定的に把持できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図4】本体部における単位構成を示す斜視図である。
【
図5A】基部に対する弾性体の装着状態を説明する図である。
【
図5B】基部に対する弾性体の装着状態を説明する図である。
【
図6】本体部が持つ弾性について説明する図である。
【
図7A】第三フレーム材のない本体部の例を説明する図である。
【
図7B】第三フレーム材のない本体部の例を説明する図である。
【
図9A】表面層に形成された凹凸パターンの例を示す図である。
【
図9B】表面層に形成された凹凸パターンの例を示す図である。
【
図10A】表面層に形成された凹凸パターンの例を示す図である。
【
図10B】表面層に形成された凹凸パターンの例を示す図である。
【
図11A】表面層に形成された凹凸パターンの例を示す図である。
【
図11B】表面層に形成された凹凸パターンの例を示す図である。
【
図12A】表面層に形成された凹凸パターンの例を示す図である。
【
図12B】表面層に形成された凹凸パターンの例を示す図である。
【
図15A】基部に対する弾性体の装着状態の他の例を説明する図である。
【
図15B】基部に対する弾性体の装着状態の他の例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の技術的範囲を以下の実施形態および図示例に限定するものではない。
【0017】
図1に、本実施形態におけるロボットのアームにおける先端部に装備される把持装置1の全体構成を示す。
図1に示すように、把持装置1は、駆動部2と、この駆動部2によって拡縮動作を行うように構成された複数の把持部3と、を含んで構成されており、複数の把持部3によって、把持の対象となる物品(以下、対象物A)を挟み込んで把持するように構成されている。
なお、本実施形態における複数の把持部3の数は、二つ(一対)とされているが、三つ以上であってもよい。
【0018】
駆動部2としては、複数の把持部3を互いに接近させたり離間させたりすることが可能な公知の適宜の拡縮機構が用いられる。また、駆動部2は、拡縮機構によって拡縮動作(
図1における左右方向への移動動作)を行い、かつ、把持部3が取り付けられる被取付部2a,2bを備えている。被取付部2a,2bの数は、複数の把持部3の数に対応しているものとする。
本実施形態においては、例えば、エア駆動形のロータリアクチュエータを使用して、一対の円弧状のカム溝を形成した回転カムを正転及び逆転駆動し得るように構成し、それらのカム溝に係合したそれぞれの係合ピンを拡縮動作方向に形成した直線状のガイド溝に沿って誘導することにより、それぞれの係合ピンに連係した被取付部2a,2bを介して把持部3を拡縮駆動するように構成することができる。ただし、これに限られるものではなく、複数の把持部3を拡縮駆動できるものであればよいものとする。
【0019】
把持部3は、基部4と、基部4の先端(
図1中では下端)に設けられた弾性体5と、を備えている。
なお、把持装置1に設けられる各把持部3は同様に構成されており、取り付けられる対象(被取付部2a,2b)だけが異なるものとする。
【0020】
基部4は、駆動部2における被取付部2a,2bに対し、例えばネジやビスなどの取付材(図示せず)によって取り付けられて固定される取付部4aと、弾性体5が装着される被装着部4bと、を有している。
取付部4aは、被装着部4bに比して厚さ寸法が長く設定されている。すなわち、被装着部4bよりも取付部4aの方が厚みがある状態になっている。
そして、複数の基部4は、駆動部2における被取付部2a,2bに取り付けられることによって被取付部2a,2bと共に拡縮動作し、このような複数の基部4の拡縮動作によって対象物Aを把持できるようになっている。
なお、本実施形態においては、被取付部2a,2bと基部4を別々のものとしたが、一体形成されるものとしてもよい。
【0021】
弾性体5は、把持装置1によって対象物Aを把持するときに、実際に対象物Aに接触する部分であり、基部4における被装着部4bに装着されている。また、弾性体5は、例えばポリウレタンエラストマーなどの樹脂によって積層造形されており、対象物Aに対する摩擦力を発揮できるようになっている。
【0022】
複数の把持部3のそれぞれにおける弾性体5は、対象物A側の面(後述する表面層7の表面)が向かい合うようにして配置される。より平易に説明すると、例えば対象物Aが球体であって当該対象物Aを把持した場合に、平面視において、弾性体5の対象物A側の面が対象物Aの中心(軸心)に向かい、かつ隣り合う弾性体5との間隔が略等しくなるように配置される。しかしながら、対象物Aの形状は球体には限られないため、どのような形状の対象物Aであってもバランスよく把持できるように、複数の弾性体5は、見当違いな向きに配置されるのではなく、各弾性体5における対象物A側の面が、対象物Aが有る方向に確実に向かうようにして配置される。また、高さ方向における弾性体5の位置は、図示しない位置制御装置によって適宜制御されるものとする。すなわち、高さ方向における弾性体5の位置は、対象物Aを把持したときに対象物Aが落下しないような位置取りで配置される。
そして、このような弾性体5は、
図2~
図6に示すように、本体部6と、表面層7と、装着部8と、を有している。また、これら本体部6と表面層7と装着部8は一体形成されている。
【0023】
本体部6は、
図2,
図3に示すようにラティス構造とされている。本体部6は、対象物Aを把持した際に弾性変形する(
図6参照。)。
ラティス構造である本体部6は、複数のフレーム材からなる立方体フレーム状(又は直方体フレーム状)の単位構成要素が、弾性体5が基部4に装着された場合の厚み方向(厚)と幅方向(幅)と高さ方向(高)に複数並べられたような構成となっている。
なお、このような本体部6における単位構成要素の形状は、いわゆる体心立方格子構造に近いものとなっている。ただし、これに限られるものではなく、トラス構造をベースとしたその他の単位構成要素を採用してもよい。
【0024】
単位構成要素を構成する複数のフレーム材には、
図4に示すように、四本の第一フレーム材6aと、八本の第二フレーム材6bと、四本の第三フレーム材6cと、が含まれる。
第一フレーム材6aは、X方向及びY方向に間隔を空けて配置されてZ方向に延びるフレーム材である。
第二フレーム材6bは、X方向及びY方向に配置され、四本の第一フレーム材6aの一端部間と他端部間をそれぞれ接続するフレーム材である。
第三フレーム材6cは、第一フレーム材6aと第二フレーム材6bからなる角部同士の対角線に沿って配置されるとともに当該角部同士を接続し、中心で互いに交差するフレーム材である。
このような単位構成要素が、厚み方向と幅方向と高さ方向に複数並べられて本体部6が形成される場合、隣接する単位構成要素における第一フレーム材6aと第二フレーム材6bは、隣接する単位構成要素同士で共有されるものとする。
【0025】
なお、本実施形態における本体部6は、上記のようなラティス構造とされているが、ラティス構造に替えて、ハニカムやフォーム等のようなラティス構造以外のセル構造を採用してもよいものとする。
つまり、本実施形態における本体部6は、上記のようなラティス構造とされているが、広義に解釈すれば、本体部6を構成する材(本実施形態においては各フレーム材6a,6b,6cを指す。)間が空いていて「疎」の状態になっているものを好適に採用することができる。要するに、本体部を構成する材と材との間に隙間を形成できる構造を有した単位構成要素からなる本体部が好適に採用され、反対に、いわゆる中実な状態で、「密(ソリッド)」な状態とされた本体部は採用されないものとする。
より詳細に説明すると、本体部を構成する単位構成要素間や単位構成要素そのものに隙間を形成でき(上記のような中実な状態「密(ソリッド)」ではなく)、これによって弾性体5が十分な柔軟性と摩擦力を発揮し、安定的な対象物Aの把持を実現可能なものであれば、本実施形態における弾性体5の本体部として好適に採用することができる。そのため、本実施形態の本体部6は、ラティス構造(トラス構造)やハニカム構造でもよいし、フォーム(泡)状でもよいし、隣り合う単位構成要素間に隙間を形成可能な表面構造を有する単位構成要素からなる構造でもよい。また、隣り合う単位構成要素の形状には規則性があってもよいし、不規則性があってもよい。
【0026】
表面層7は、
図1,
図2等に示すように、本体部6における対象物A側の面(本体部6の厚さ方向一端面)に設けられて対象物Aに接触する部位を指している。
本実施形態における表面層7は、薄板状に形成されており、本体部6における対象物A側の面の略全面を被覆した状態となっている。
このような表面層7は、例えば
図6に示すように、対象物Aを把持した際に本体部6と共に弾性変形する。すなわち、本体部6及び表面層7は、柔軟性を持っている。
【0027】
装着部8は、
図5A,
図5Bに示すように、当該装着部8を有する弾性体5を、基部4の被装着部4bに装着させるための部位を指している。装着部8は、本体部6における対象物A側とは反対側の面(本体部6の厚さ方向他端面)に設けられている。
本実施形態における装着部8は、高さ方向に貫通する角筒状に形成されており、基部4の被装着部4bに対して外挿できるようになっている。換言すれば、基部4の被装着部4bを、角筒状に形成された装着部8の貫通孔に対して差し込むことができ、これにより、弾性体5を基部4に装着させることができる。
なお、
図5Aに示すように、装着部8の貫通孔内側面には、基部4側に突出する滑り止め部8aが形成されている。この滑り止め部8aは、基部4の被装着部4bにおける外側面に接して滑り止めとして機能し、装着部8(すなわち、弾性体5)を被装着部4bから外れにくくすることができる。基部4の被装着部4bにおける外側面には、滑り止め部8aに合致する凹部(図示せず)が形成されていてもよい。また、滑り止め部8aは、貫通孔内側面に複数形成されていてもよい。
【0028】
以上のように構成された弾性体5は、基部4の被装着部4bに装着され、被取付部2a,2bの動作に伴って複数の基部4が対象物Aを把持する方向に動作した際に対象物Aに接触して弾性変形し、十分な摩擦力を発揮する。
なお、本実施形態における把持装置1は、図示しない位置制御装置によって、対象物Aに対する弾性体5の位置を制御できるようになっている。また、対象物Aの位置や形状を検出するセンサーを適宜併用してもよい。
【0029】
なお、
図6に示すように、本体部6が持つ弾性には異方性があり、第一方向(
図6の矢印Y1で示す方向)には弾性変形しやすく、第一方向とは異なる第二方向(
図6の矢印Y2で示す方向)には弾性変形しにくくなるように設定されている。
ここで、第一方向とは、弾性体5が基部4に装着された状態における本体部6の厚み方向を指しており、第二方向とは、弾性体5が基部4に装着された状態における本体部6の高さ方向(上下方向又は対象物A側の面における面方向)を指している。つまり、対象物Aを把持した場合に、本体部6は厚み方向に弾性変形して潰れるようになっているが、高さ方向には弾性変形しにくくなっており、把持した対象物Aの落下を防ぐことができるようになっている(上記面方向の場合は、対象物Aが軸周りに回転することも防ぐことができる。)。
図7A,
図7Bには、第一フレーム材6aと第二フレーム材6bからなる単位構成要素が、厚み方向と幅方向と高さ方向に複数並べられて形成された本体部6Aが示されているが、このような本体部6Aは、せん断応力が弱い状態となっている。一方、本実施形態における本体部6は、
図7Bに示す本体部6Aに比して、せん断応力が強い状態となっている。
換言すれば、本実施形態における本体部6は、横弾性係数/縦弾性係数の比が大きく、
図7Bに示す本体部6Aは、横弾性係数/縦弾性係数の比が小さい。
本実施形態においては、本体部6が、以上のような特性を持っているため、対象物Aの安定的な把持が実現できるようになっている。
【0030】
本実施形態における本体部6は、上記のように、
図7Bに示す本体部6Aとは異なり、第三フレーム材6cが用いられている。そのため、せん断応力が強く、横弾性係数/縦弾性係数の比が大きい状態となっており、これにより、異方性のある弾性を持った状態となっている。裏を返せば、本体部6の弾性は、第三フレーム材6cの有無や用いられる数、配置の仕方等によって調節できることとなる。
【0031】
また、弾性体5には、対象物Aを把持したときに、摩擦が発生するとともに対象物Aが変形・破損しない把持力範囲がある。
ここで、セル構造体では圧縮変形時に、応力と歪みの関係がほぼ一定となるプラトー段階を持つことが知られている。まず、低応力時にフレーム材(フレーム材6a,6b,6c)の曲げ変形による線形弾性段階、次にフレーム材の座屈によるプラトー段階、最終的にはフレーム材同士が接触し、構成材料そのものを圧縮するために応力が急上昇する緻密化段階がある(参考文献1参照。)。
例えば上記のようなソリッド(「密」)な状態とされた本体部を採用した場合には、摩擦が発生するとともに対象物Aが変形・破損しない把持力範囲が狭く、対象物Aの安定的な把持が実現しにくい。
本実施形態においては、上記のようなプラトー段階を上記の把持力範囲に持たせた状態となっており、把持部3の位置制御ばらつきや対象物Aの形状ばらつきを吸収することができ、十分な摩擦を持ちつつ、対象物Aを破損させない範囲の力で安定した把持状態が得られるようになっている。また、弾性体5は、上記のようにポリウレタンエラストマーなどの樹脂によって積層造形されてなるものであるが、積層造形ではラティス構造(セル構造)の作製が容易であり、このラティス構造設計による圧縮応答特性の制御により、安定した把持を実現する把持部3を提案することができる。
[参考文献1]Gibson LJ, Ashby MF. Cellular solids: structures and properties,2nd ed. Cambridge: Cambridge University Press, 1997
【0032】
ラティス構造(セル構造)の弾性体5は、上記のようにポリウレタンエラストマーなどの樹脂を用い、積層造形法によって製造されている。
ここで、積層造形法とは、立体モデルの3次元形状データをスライスして複数のスライスデータを生成し、各スライスデータを基に造形材料を順次積層することによって3次元物体(立体物)を作製する造形方法である。このような積層造形法には、光造形法、粉末焼結法、シート堆積法、樹脂押し出し法、インクジェット方式、電子写真方式等がある。本実施形態における弾性体5は、任意の積層造形法によって製造されている。
このような積層造形法によって弾性体5を製造すれば、本体部6と表面層7と装着部8の一体化が容易となる。
【0033】
以上説明したように、本実施の形態によれば、基部4の先端に設けられた弾性体5を構成する本体部6がラティス構造とされているので、例えば本体部6がソリッドの状態に形成される場合に比して十分な柔軟性を有し、弾性変形しやすい状態となる。このような本体部6を有する複数の弾性体5が、拡縮動作する基部4の先端に設けられ、対象物A側の面が向かい合うようにして配置されているので、対象物Aを把持したときに、対象物Aの形状や位置にばらつきがあっても、それを吸収して十分な摩擦力を発揮できるように弾性変形し、対象物Aを安定的に把持できる。
【0034】
また、弾性体5は、本体部6における対象物A側の面に設けられて対象物Aに接触する表面層7を有するので、本体部6における対象物A側の面を被覆して保護でき、本体部6の耐久性を高めることができる。
【0035】
また、弾性体5は、当該弾性体5を基部4に装着させるための装着部8を有するので、例えば装着部8がない弾性体5を基部4に装着させようとする場合に比して、弾性体5を基部4に装着させやすくなる。さらに、装着部8によって弾性体5を基部4に装着できるため、例えばネジやビス等を使用しないワンタッチでの容易な装着作業が可能となる。しかも、ネジやビス等によって装着部8を基部4に部分的に固定するのではなく、装着部8を基部4に対して全体的に固定することが可能となるため、弾性体5の基部4に対する装着安定性を向上させることができる。
【0036】
また、本体部6が持つ弾性には異方性があり、第一方向Y1には弾性変形しやすく、第一方向とは異なる第二方向Y2には弾性変形しにくくなるように設定されているので、対象物Aを把持したときに、対象物Aを把持しやすくなり、対象物Aの落下がしにくくなる。そのため、安定的な対象物Aの把持に貢献できる。
さらに、対象物Aを把持したときに本体部6が第一方向Y1に十分に弾性変形するので把持精度を向上させることができる。すなわち、対象物Aを狙いどおりに把持して、対象物Aを狙いどおりの位置に置くことができる。
【0037】
また、本体部6と表面層7と装着部8は一体形成されているので、それぞれ別に製造して一体化するよりも製造しやすい。さらに、本体部6と表面層7と装着部8とがそれぞれ別体である場合よりも取り扱いがしやすい。
【0038】
また、対象物Aを把持する把持装置1のうち対象物Aに接触する部位に設けられ、かつ、セル構造の本体部6を有する弾性体5を、積層造形法によって製造するので、対象物Aに適した形状の弾性体5を製造することができる。また、たとえ形状が複雑な弾性体5であったとしても、弾性体5をいっぺんに、しかも容易に製造できる。
【0039】
〔変形例〕
なお、本発明を適用可能な実施形態は、上述した実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。以下、変形例について説明する。以下に挙げる変形例は可能な限り組み合わせてもよい。
【0040】
〔変形例1〕
本変形例における本体部16は、
図8に示すように、六角形筒状体の単位構成要素16aが、弾性体5が基部4に装着された場合の厚み方向及び高さ方向に複数並べられたような構成となっている。
単位構成要素16aは、幅方向に延びる六つの板状体によって構成され、一つの内角が120度とされた一定な六角形の断面を有している。
このような単位構成要素16aが、厚み方向及び高さ方向に複数並べられて本体部16が形成される場合、隣接する単位構成要素16aにおける板状体は、隣接する単位構成要素16a同士で共有されるものとする。
すなわち、上記の実施形態における本体部6はラティス構造とされていたが、本変形例における本体部16は、ラティス構造とは異なるセル構造であるハニカム構造とされている。
【0041】
また、ハニカム構造の本体部16の場合、対象物A側の面が凹凸に形成されることになるが、このような凹凸は、摩擦係数を高めるために敢えてそのままの状態で弾性体5を形成するようにしてもよいし、凹凸を無くして表面層7を設けるようにしてもよい。
【0042】
本変形例によれば、例えば本体部16がソリッドの状態に形成される場合に比して十分な柔軟性を有し、弾性変形しやすい状態となる。このような本体部16を有する複数の弾性体5が、拡縮動作する基部4の先端に設けられ、対象物A側の面が向かい合うようにして配置されているので、対象物Aを把持したときに、対象物Aの形状や位置にばらつきがあっても、それを吸収して十分な摩擦力を発揮できるように弾性変形し、対象物Aを安定的に把持できる。
また、本変形例のようなハニカム構造の本体部16の場合、
図8中の幅方向(すなわち、単位構成要素16aの延在方向)には極めて弾性変形しにくい状態となっている。そのため、例えば
図8に示す方向とは異なる向きにするなどして、必要に応じて本体部16の向きを変更してもよいものとする。
【0043】
〔変形例2〕
上記の実施形態においては、表面層7は、表面(対象物A側の面を指す。)に凹凸がなく平滑な状態に形成されていたが、本変形例においては、表面層27,37,47,57に凹凸パターンが形成されている。
【0044】
図9A,
図9Bに示す表面層27の凹凸パターンは、表面層27の表面に形成された複数のスタッド27aである。これら複数のスタッド27aは、格子状に配列されている。
このような表面層27は、本体部26のうち対象物A側の面に設けられて弾性体25を構成している。
【0045】
図10A,
図10Bに示す表面層37の凹凸パターンは、表面層37の表面に形成された複数の凸条37aである。複数の凸条37aは、互いに間隔を空けて配置されており、隣り合う凸条37a間は凹溝37bとなっている。すなわち、凸条37aと凹溝37bとが連続して交互に表れるパターンとなっている。
このような表面層37は、本体部36のうち対象物A側の面に設けられて弾性体35を構成している。
【0046】
図11A,
図11Bに示す表面層47の凹凸パターンは、表面層47の表面に形成された複数の円形凸条47aである。複数の円形凸条47aは、互いに間隔を空けて、かつ同心円状に配置されており、隣り合う円形凸条47a間は円形凹溝47bとなっている。すなわち、円形凸条47aと円形凹溝47bとが連続して交互に表れるパターンとなっている。
このような表面層47は、本体部46のうち対象物A側の面に設けられて弾性体45を構成している。
【0047】
図12A,
図12Bに示す表面層57の凹凸パターンは、表面層57の表面に粗面化処理が施された状態である。すなわち、表面層57の表面は“ざらざら”な状態となっている。
このような表面層57は、本体部56のうち対象物A側の面に設けられて弾性体55を構成している。
【0048】
本変形例によれば、表面層27,37,47,57に凹凸パターンが形成されているので、本体部26,36,46,56における対象物A側の面を被覆して保護でき、本体部26,36,46,56の耐久性を高めることができるだけでなく、摩擦係数を高めることができるので、安定的な対象物Aの把持に貢献できる。
【0049】
〔変形例3〕
上記の実施形態においては、弾性体5が、全体的に直方体状に形成されていたが、本変形例においては、弾性体65,75が、対象物Aの外形に沿った形状に形成されている。
【0050】
図13A,
図13Bに示す弾性体65によって把持される対象物は、弾性体65に向かって突出する突出部(図示せず。)を備えており、弾性体65は、当該突出部の外形に沿って形成された凹部65aを備えた状態となっている。
より詳細に説明すると、弾性体65を構成する本体部66のうち対象物側の面が、突出部に対応して凹んだ状態に形成されている。すなわち、本体部66は、側面視した場合において凹字形となるように形成されている。
また、本体部66における対象物側の面に設けられる表面層67は、本体部66における対象物側の面の形状に対応して凹状に設けられており、本体部66における対象物側の面を被覆している。
【0051】
図14A,
図14Bに示す弾性体75によって把持される対象物は、弾性体75に向かって突出する球面部(図示せず。)を備えており、弾性体75は、当該球面部の外形に沿って形成された窪み部75aを備えた状態となっている。
より詳細に説明すると、弾性体75を構成する本体部76のうち対象物側の面が、対象物の球面部に対応して窪んだ状態に形成されている。
また、本体部76における対象物側の面に設けられる表面層77は、本体部76における対象物側の面の形状に対応して窪み状に設けられており、本体部76における対象物側の面を被覆している。
【0052】
本変形例によれば、弾性体65,75が、対象物の外形に沿った形状に形成されているので、対象物を把持したときに、弾性体65,75が対象物に適合し、対象物を安定的に把持することができる。
なお、対象物の形状が複雑であったとしても、弾性体65,75を積層造形法によって製造すれば、弾性体65,75を、対象物の外形に沿った形状に形成することができるので好ましい。
【0053】
〔変形例4〕
上記の実施形態においては、装着部8が、高さ方向に貫通する角筒状に形成され、基部4を差し込むことができるようになっていたが、本変形例における装着部88は、
図15A,
図15Bに示すように、ベース部88aと、このベース部88aから突出する複数の柱状部88bと、を備えた構成となっている。また、基部84における被装着部84bには、複数の柱状部88bが差し込まれる複数の貫通孔が形成されている。すなわち、被装着部84bに形成された複数の貫通孔に対し、装着部88が備える複数の柱状部88bを差し込むことによって、弾性体85を基部84に装着できるようになっている。
【0054】
基部84における取付部84aは、上記の実施形態における取付部4aと同様に構成されているが、被装着部84bは、段差部84cよりも先端側の部位における厚さ寸法が短く設定されている。そして、この厚さ寸法が短く設定された部位が、装着部88が装着される位置となっている。このように被装着部84bを薄く形成することによって把持部83全体の軽量化を図ることができるだけでなく、複数の柱状部88bの長さを抑えることができる利点がある。
【0055】
弾性体85における本体部86及び表面層87は、上記の実施形態における本体部6及び表面層7と同様に構成されている。
装着部88におけるベース部88aは、表面層87よりも厚みのある矩形板状体とされており、本体部86とは反対側の面に複数の柱状部88bが一体形成されている。
複数の柱状部88bは、本変形例においては四本であり、ベース部88aの四隅に対応して配置されている。また、複数の柱状部88bの突出方向先端には、抜け止め部88cが一体形成されている。
抜け止め部88cは、先端に向かうにつれて徐々に細くなるように形成されており、被装着部84bに形成された貫通孔に対して、差し込みやすく、抜けにくい状態になっている。
【0056】
本変形例によれば、装着部88における複数の柱状部88bを、被装着部84bにおける複数の貫通孔に差し込むことで弾性体85を基部84に装着できるので、弾性体85を左右方向(水平方向)に装着でき、弾性体85が基部84から脱落することを防ぐことができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係る把持装置及び弾性体の製造方法は、対象物の形状のばらつきや、把持部の位置制御のばらつきを吸収するとともに十分な摩擦力を有し、対象物を安定的に把持するものであるから、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0058】
1 把持装置
2 駆動部
2a 被取付部
2b 被取付部
3 把持部
4 基部
4a 取付部
4b 被装着部
5 弾性体
6 本体部
6A 本体部
6a 第一フレーム材
6b 第二フレーム材
6c 第三フレーム材
7 表面層
8 装着部
8a 滑り止め部
16 本体部
16a 単位構成要素
27 表面層
27a スタッド
37 表面層
37a 凸条
37b 凹溝
47 表面層
47a 円形凸条
47b 円形凹溝
57 表面層
65 弾性体
65a 凹部
66 本体部
67 表面層
75 弾性体
75a 窪み部
76 本体部
77 表面層
84 基部
84b 被装着部
84c 段差部
85 弾性体
88 装着部
88a ベース部
88b 柱状部
88c 抜け止め部
A 対象物
Y1 矢印
Y2 矢印