(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】カラーエンハンシングを施したレンズ
(51)【国際特許分類】
G02C 7/10 20060101AFI20241028BHJP
G02B 5/22 20060101ALI20241028BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20241028BHJP
G02C 7/00 20060101ALI20241028BHJP
G02C 7/12 20060101ALI20241028BHJP
【FI】
G02C7/10
G02B5/22
G02B5/30
G02C7/00
G02C7/12
(21)【出願番号】P 2020568799
(86)(22)【出願日】2019-06-11
(86)【国際出願番号】 EP2019065162
(87)【国際公開番号】W WO2019238650
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2022-04-15
【審判番号】
【審判請求日】2024-01-11
(32)【優先日】2018-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518007555
【氏名又は名称】エシロール・アンテルナシオナル
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】エリオット・フレンチ
(72)【発明者】
【氏名】スリニヴァサン・バラスブラマニアン
【合議体】
【審判長】神谷 健一
【審判官】廣田 健介
【審判官】清水 康司
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-524300(JP,A)
【文献】特表2014-513315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C7/00-7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼科レンズにおいて、
少なくとも1種のポリマを含む重合レンズと、
複数の波長領域にわたり低減光透過率を付与するように構成され、
485ナノメートル~510ナノメートルの間にある中心を持つ第一の低減光透過率領域を付与するように構成された第一の光透過率低減色素と、
570ナノメートル~600ナノメートルの間にある中心を持つ第二の低減光透過率領域を付与するように構成された第二の光透過率低減色素と、
685ナノメートル~715ナノメートルの間にある中心を持つ第三の低減光透過率領域を付与するように構成された第三の光透過率低減色素と、
を含むレンズコンポーネントと、
を含み、
低減光透過率は、低減光透過率領域外の領域と比較して、%単位の透過率における少なくとも50%の低減であり、前記外の領域は局所的透過率最大値を有する低減されていない波長範囲であり、400ナノメートル~680ナノメートルの間にあり、
前記眼科レンズは偏光ウェハ構造を含み、
低減光透過率を付与するように構成された前記レンズコンポーネントは前記重合レンズであり、前記重合レンズは、少なくとも1種のポリマと前記光透過率低減色素の混合物を含
み、
低減光透過率を付与するように構成された前記レンズコンポーネントは多層干渉膜スタックであり、
前記多層干渉膜スタックは、前記眼科レンズの凸面上にある膜ラミネートである、眼科レンズ。
【請求項2】
前記偏光ウェハ構造は、2つの外側層間にある内側ポリビニルアルコール偏光層を含み、各外側層はそれぞれポリカーボネート、セルローストリアセテート、ポリアミド、熱可塑性ポリウレタン、又はポリ(メチルメタクリレート)から製作される、請求項1の眼科レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の光減衰色素を有する眼科レンズに関する。複数の光減衰色素を含めることで、特定の光波長範囲を選択的にフィルタリングすることによって強調されたカラーコントラストが提供される。
【背景技術】
【0002】
電子ディスプレイには伝統的に、閲覧者の選好に合わせて画像をチューニングするためのコントラスト調節制御手段が含められている。実世界の視覚的認識において、コントラストの変調は比較的新しい技術である。
【0003】
コントラストとは、1つの物体を他の物体と区別できるようにする色の違いである。コントラストは、同じ視野内の異なる物体間の色及び明るさの違いにより特定される。実世界の色認識のためのコントラストを調節するために、レンズはレンズを透過する可視光の特定の周波数範囲を調整できなければならない。例えば、緑と赤の光の透過を低減させることにより、青と黄の光の認識が強調される。
【0004】
コントラストエンハンシングはレンズ装用者の個人的選好に基づく主観的なものであるが、特定のコントラストエンハンシング特徴を組み合わせて、原色の認識を改善することができる。例えば、原色と重複する波長領域の光透過を減らすことによって、原色が強調される。
【0005】
コントラストエンハンシング特徴はまた、コントラストエンハンシングをさらに改善するために偏光フィルタと組み合わせることもできる。屋外条件下で観察されるグレアは、鏡面反射した日光であるが、多くの場合、部分的に偏光された白色光であり、着色された表面からの反射光を複合させる。グレアは典型的に、自然の表面色の色相を飽和させる。色相飽和グレアをブロックすることは、色コントラストを強調する追加的な方法である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
今日、視覚の物理学の理解が深まった結果として、レンズを通る光を選択的にフィルタリングすることによって使用者の眼をUV光、IR光、及びグレアから保護するレンズを製造できる。しかしながら、業界では、原色の認識を改善し、色コントラストを強調することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、特許請求項1に記載の眼科レンズに関する。この眼科レンズのその他の有利で非限定的な特徴は、請求項2~15に記載されている。本願では、色コントラストを改善するために色低減色素の特定の組合せをレンズに組み込む方法が開示される。透過率低減色素は、特定の波長領域にわたり光の透過率が低減させられる局所的領域、すなわち局所的透過率最小値を提供する。特定の領域にわたる光透過率を低減させる色素を組み込むことにより、低減されていない波長範囲は比較的高い透過率の領域、すなわち局所的透過率最大値として見える。特定の色素をレンズに含めることで、局所的最小値及び最大値を調整して所望の透過スペクトルを実現することによって色コントラストが向上する。
【0008】
透過率減衰色素は、所望の波長範囲にわたる透過率を低減させるように選択できる。色素濃度は、透過率低減程度を調節するように選択できる。色素の総数は、透過スペクトルをカスタマイズするように調節できる。複数の色素を組み合わせることによって、様々な透過率プロファイルを個々の用途に合わせてカスタマイズすることができる。
【0009】
幾つかの態様において、少なくとも1種のポリマを含む重合レンズと、複数の波長範囲にわたり低減光透過率を付与するように構成されたレンズコンポーネントと、を含む眼科レンズを製造する方法が提供される。複数の波長領域にわたり低減光透過率を付与するように構成されたレンズコンポーネントは、少なくとも2種の色素を含んでいてよく、その各々は光透過率低減領域を付与する。幾つかの実施形態において、レンズポリマはポリカーボネート(PC)樹脂である。
【0010】
1つの実施形態において、第一の光透過率低減色素は、約485ナノメートル~510ナノメートルの間にある中心を持つ第一の低減光透過率領域を付与するように選択されてよい。幾つかの態様において、第二の光透過率低減色素は、約570ナノメートル~600ナノメートルの間にある低減光透過率の中心を持つ第二の低減光透過率領域を付与するように選択されてよい。幾つかの態様において、第二の光透過率低減色素は、約685ナノメートル~715ナノメートルの間にある中心を持つ第二の低減光透過率領域を付与するように選択されてよい。幾つかの実施形態において、約570ナノメートル~600ナノメートルの間にある中心を持つ低減光透過率領域を付与するように選択される光透過率低減色素は、第三の任意選択による光透過率低減色素として採用される。幾つかの実施形態において、約685ナノメートル~715ナノメートルの間にある中心を持つ低減光透過率領域を付与するように選択された光透過率低減色素は、第三の任意選択による光透過率低減色素として採用される。幾つかの実施形態において、低減光透過率とは、低減光透過率領域外の且つ400ナノメートル~680ナノメートルの領域と比較して、%単位の透過率における少なくとも50%の低減として定義される。
【0011】
幾つかの態様において、低減光透過率を付与するように構成されたレンズコンポーネントは重合レンズである。重合レンズは、少なくとも1種のポリマと光透過率低減色素の混合物を含んでいてよい。レンズは任意選択により、1つ又は複数の重合層が設けられて、カスタマイズされた透過率低減領域を有するサングラス応用を創出してもよい。局所的減衰透過率領域を有する処方及びプラノレンズの両方が製造されてよい。各種のレンズの実施形態は、全体的なカラーエンハンシング特徴、運転用グラス、霧のかかった状況のためのレンズ、雪/スキー用レンズ、釣り、飛行、ハンティング、及びその他、特定の色領域にわたる透過率低減を利用して色認識と色の区別を改善できる環境を含む、特定のレンズ環境に合わせてカスタマイズし、製造できる。
【0012】
光透過率低減色素が偏光ウェハ構造に組み込まれると、このウェハ構造はレンズに低減光透過率特性を付与する。偏光ウェハ構造は、光透過率低減色素を含む少なくとも1つの(at last)層を含んでいてよい。幾つかの実施形態において、光透過率低減色素を含む少なくとも1つの層は、ポリマと色素の混合物を含む射出成型層であってよい。他の実施形態において、光透過率低減色素を含む少なくとも1つの層は、偏光ウェハ構造に接着された膜層である。
【0013】
幾つかの実施形態において、低減光透過率を付与するように構成されたレンズコンポーネントはコーティングマトリクスである。幾つかの実施形態において、高屈折率コーティングマトリクスは、屈折率を高めるために提供されてよい。耐久性増強コーティングマトリクスは、耐熱水性、耐候性、耐光性、耐擦性、耐摩耗性、及び/又は耐衝撃性をレンズに付与するために提供されてよい。コーティングマトリクスは、レンズ凹面にも凸面にも提供されてよい。コーティングマトリクスの非限定的な例としては、ポリウレタン及びエポキシ系コーティングマトリクスが含まれる。
【0014】
幾つかの実施形態において、低減光透過率を付与するように構成されたレンズコンポーネントは、多層干渉膜スタックである。複数の透過率減衰色素を干渉スタックの中に組み込むことができ、これは干渉スタックを透過する光を干渉し、又はその特性を変調させる。干渉スタックの一例は、複数の干渉薄層を含む。高屈折率の誘電材料と低屈折率の誘電材料の交互の層をレンズ母材に提供して、その光反射を低減させ、したがって、その光透過を増大させてよい。幾つかの態様において、干渉スタックは金属有機構造体を含む。幾つかの態様において、多層干渉膜スタックは、眼科レンズの表面上にある膜ラミネートである。眼科レンズの表面は、凹面であっても凸面であってもよい。幾つかの実施形態において、多層干渉膜スタックは、偏光ウェハ構造の上又はその中にある。
【0015】
幾つかの実施形態において、複数の光透過率低減色素は接着剤の中に組み込まれてよい。接着剤はしたがって、レンズに組み込まれて2つの層を相互に接着させてよい。幾つかの実施形態において、複数の光透過率低減色素を含む接着剤は、偏光ウェハ構造の中の接着剤層である。幾つかの実施形態において、複数の光透過率低減色素を含む接着剤は、偏光ウェハ構造と重合レンズとの間にある。幾つかの実施形態において、複数の光透過率低減色素を備える染色層が提供されてよい。光透過率低減色素はすると、当業者の間で知られている従来の染色方法によってレンズの中又は上に組み込まれてよい。
【0016】
幾つかの実施形態において、偏光ウェハ構造は、2つの外側層間にある内側ポリビニルアルコール偏光層を含み、各外側層は独立してポリカーボネート、セルローストリアセテート、ポリアミド、熱可塑性ポリウレタン、又はポリ(メチルメタクリレート)から製作される。幾つかの実施形態において、重合レンズ母材には、UV及び/又は短波長ブルーライトの透過を削減するための追加のコンポーネントが提供されてもよい。
【0017】
幾つかの実施形態において、光透過率低減色素はそれぞれ、1~100ppmの範囲の量で提供される。この範囲は、保証される場合はこの範囲外の値を含むように調節されてもよい。例えば、光透過率低減色素が溶けにくい組成物は、色素の1ppm未満であってよい。これに対して、光透過率低減線利用が非常に溶けやすい組成物は、色素の100ppmより多くを含んでいてよい。色素はアゾ色素、ポリメチン(polymethyne)色素、アリルメチン(arylmethyne)色素、ポリエン(polyene)色素、アントラセンジオン色素、ピラゾロン色素、アントラキノン色素、イソインドリノン色素、アウイノフタロン(auinophtalone)色素、ナフタレンジアミン色素、及びカルボニル色素から選択されてよい。
【0018】
色素は、染料及び有機顔料製造者生態学毒性学協会(Ecological and Toxicological Association of Dyes and Organic Pigment Manufacturers)により、選択的吸光によって基板に色を付与する染色又は蛍光有機分子として定義されている。染料は可溶性であり、及び/又は、吸収、溶解、及び機械的保持によって、又はイオン若しくは共有化学結合によって少なくとも一時的に何れかの結晶構造を破壊する塗布工程に付される。
【0019】
「透過率低減」、「透過率減衰」、「色吸収」という語句は、本明細書においては互換的に使用される。「眼科レンズ」は、本開示によれば、眼を保護する、及び/又は視力を矯正する機能を有する、適応型の、すなわち眼鏡に取り付けるためのレンズと定義される。このレンズは、アフォーカル、単焦点、二焦点、三焦点、又は累進レンズとすることができる。眼科レンズは矯正用であっても矯正用でなくてもよい。眼科レンズが取り付けられる眼鏡は、2枚の異なる眼科レンズ、すなわち右目用の1枚と左目用の1枚を含む従来のフレーム又は、1枚の眼科レンズが右目及び左目に同時に面するマスク、バイザ、ヘルメットサイト若しくはゴーグル様の何れとすることもできる。眼科レンズは、円として従来の形状で製造されてよく、又は所期のフレームにフィットするように製造されてもよい。眼科レンズには、偏光眼科レンズ、例えばサングラスを提供するために少なくとも1つの偏光コンポーネントが設けられてよい。
【0020】
「少なくとも1種のポリマを含む偏光レンズ」は、熱重合可能組成物、光重合可能組成物、又はそれらの混合物を含むことができる。熱重合可能組成物は、高温へのばく露により重合が起こる組成物である。光重合可能組成物は、例えばUV、可視光、IR、マイクロ波等を含むがこれらに限定されない化学線放射へのばく露により重合が起こる組成物である。本明細書で使用されるかぎり、重合とは、1種又は複数種のモノマ又はオリゴマが相互に結合してポリマを形成する結果につながる化学反応を指す。
【0021】
開示されたあらゆる組成物及び/又は方法の何れの実施形態も、記載されている要素及び/又は特徴及び/又はステップの何れかからなる(consist of)、又は基本的にそれらからなる(consist essentially of)ことができる(それらを含む(comprise/include/contain)/有する(have)のではない)。それゆえ、特許請求項の何れにおいても、「~からなる(consisting of)」又は「基本的に~からなる(consisting essentially of)」の用語は、ある請求項の範囲を、そうでなければその請求項がオープンエンド接続動詞を使用したであろう場合の範囲から変更するために、上述のオープンエンドの接続動詞の何れかを置換することができる。
【0022】
「実質的に」という用語及びその変化形は、当業者により理解されているように、ほとんど明示されているものであると定義され、必ずしもその全部であるとはかぎらず、1つの非限定的な実施形態において、実質的にとは10%以内、5%以内、1%以内、又は0.5%以内の範囲を指す。
【0023】
「約」、又は「ほぼ」、又は「実質的に不変の」とは、当業者により理解されているものに近いものと定義され、1つの非限定的な実施形態において、これらの用語は10%以内、好ましくは5%以内、より好ましくは1%以内、最も好ましくは0.5%以内であると定義される。冠詞「1つの(a)又は(an)」の使用は、特許請求の範囲及び/又は明細書内で「~を含む(comprising)」という用語と共に使用される場合、「1つ」を意味し得るが、「1つ又は複数」、「少なくとも1つ」、及び「1つ又は2つ以上」の意味とも矛盾しない。本明細書及び特許請求の範囲で使用されるかぎり、語「~を含む(comprising)」(及びcomprisingのあらゆる形態、例えば『comprise』及び『comprises』)、「~を有する(having)」(及びhavingのあらゆる形態、例えば『have』、『has』)、「~を含む(including)」(及びincludingのあらゆる形態、例えば『includes』、『include』)、又は「~を含む(containing)」(及びcontainingのあらゆる形態、例えば『contains』、『contain』)は、包含的すなわちオープンエンドであり、追加の、記載されていない要素又は方法ステップを排除しない。
【0024】
組成物及び方法は、それらの使用のために明細書全体で開示される成分又はステップの何れかを「含む」、「基本的にそれらからなる」、又は「それらからなる」ことができる。1つの非限定的な態様における「基本的に~からなる」移行段階に関して、本明細書中で開示されている組成物及び方法の基本的且つ新規な特長は複数の波長領域について光透過率を低減させる組成物の能力を含む。
【0025】
本発明のその他の目的、特徴、及び利点は、以下の詳細な説明から明らかとなるであろう。しかしながら、詳細な説明と例は、本発明の具体的な実施形態を示しているが、例示を目的として与えられているにすぎないと理解すべきである。さらに、本発明の主旨と範囲内の変更と改良は、当業者にとって、この詳細な説明から明らかとなると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1A】レンズ母材と複数の透過率減衰色素を有する各種のレンズ実施形態の透過率スペクトルを示す複数がグラフである各種のレンズを示すグラフである。
【
図1B】レンズ母材と複数の透過率減衰色素を有する各種のレンズ実施形態の透過率スペクトルを示す複数がグラフである各種のレンズを示すグラフである。
【
図2】レンズ用樹脂材料への透過率減衰色素の組み込みを示す略図である。
【
図3A】偏光ウェハ構造への透過率減衰色素の射出成型による組み込みを示す略図である。
【
図3B】組み込み後の射出成型レンズ上への偏光ウェハ構造のオーバモールドを示す略図である。
【
図4】偏光ウェハ構造への透過率減衰色素を含む膜の組み込みを示す略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
各種の特徴及び有利な詳細事項を、添付の図面中に描かれ、以下の説明に詳しく記される非限定的な実施形態に関して、より十分に説明する。しかしながら、詳細な説明及び具体的な例は、実施形態を示してはいるものの、例示として与えられているにすぎず、限定によるものではないと理解すべきである。各種の置換、改良、追加、及び/又は再配置は、当業者にとって、この開示から明らかとなるであろう。
【0028】
以下の説明の中では、開示されている実施形態をよく理解できるようにするために、多くの具体的な詳細事項が提供されている。しかしながら、当業者であれば、本発明は具体的な詳細事項のうちの1つ又は複数がなくても、又はその他の方法、コンポーネント、材料等を用いても実施されてよいことがわかるであろう。他の例では、よく知られた構造、材料、又は動作は、本発明の態様を曖昧にしないように、詳しく図示又は説明されていない。
【0029】
本明細書で開示されるカラーエンハンシング特徴は、様々な製造方法を通じてレンズに提供されてよい。幾つかの実施形態において、カラーエンハンシング特徴は、1種又は複数種の透過率低減色素を少なくとも1つのレンズコンポーネントに組み込むことによって付与される。1種又は複数種の色素が提供される方法及びレンズ内での1種又は複数種の色素の位置は異なっていてよいが、同等の性能が実現される。
【実施例】
【0030】
方法1:レンズ用樹脂母材に事前に混合される色素
方法1を使用し、広帯域UV吸収色素を含むポリカーボネート(PC)樹脂を用いて実施例A~Dを製作した。幾つかの実施例では、%Tvをさらに低減させ、カラーエンハンシングを増大するために、追加の光減衰色素を含めた。本明細書で使用されるかぎり、カテゴリ2ウェハはその%Tvが19%~45%の範囲内であり、カテゴリ3ウェハはその%Tvが8%~18%である。異なる%Tvのレンズを提供するために、異なるカテゴリのウェハが使用される。
【0031】
図2に示される実施形態を参照すると、カラーエンハンシング色素を持たない偏光PCウェハが事前に混合されたPC樹脂上にオーバモールドされ、セミフィニッシュト(SF)レンズを得た。事前に混合されたPC樹脂には、2つ又は3つの減衰透過率スペクトル範囲をそれぞれ提供するために調合された2種又は3種の色素が含まれていた。
【0032】
実施例A及びBには、約495nm、585nm、及び700nmに中心を有する透過率最小値を提供するための3種の色素を含めた。実施例C及びDには、約495nm及び585nmに中心を有する透過率最小値を提供するための2種の色素を含めた。SFレンズをその後、中心厚さが2mmのプラノ(視力矯正力を持たない)の表面に付着させた。すべてのレンズは、運転用のISO規格(Q信号及び%Tmin)を満たすように設計した。
【0033】
【0034】
以下の実施例の中に示されている色素の濃度は、公称濃度である。実際の濃度は、タンブリング、混合、又はその他の製造工程中に生じ得る損失によって、公称濃度とはわずかに異なり得る。
【0035】
実施例A:事前に混合されたPC樹脂+カテゴリ2グレイウェハ(%Tv約34%、偏光効率>97%)
【0036】
【0037】
実施例B:事前に混合されたPC樹脂+カテゴリ3グレイウェハ(%Tv約17%、偏光効率>99%)
【0038】
【0039】
実施例C:事前に混合されたPC樹脂+カテゴリ2グレイウェハ(%Tv約34%、偏光効率>97%)
【0040】
【0041】
実施例D:事前に混合されたPC樹脂+カテゴリ3グレイウェハ(%Tv約17%、偏光効率>99%)
【0042】
【0043】
実施例E:事前に混合されたPC樹脂+カテゴリ2ウェハ(%Tv約35%、偏光効率>99%)
【0044】
【0045】
実施例F:事前に混合されたPC樹脂+カテゴリ2ウェハ(%Tv約35%、偏光効率>99%)
【0046】
【0047】
実施例A~Dのレンズの透過スペクトルは、標準カテゴリ3のグレイ偏光レンズ(カラーエンハンシングされていない)のそれと共に
図1Aに示されている。実施例Aは、事前に混合されたPC樹脂の中に3種の色素を含めたことにより、3つの局所的透過率減衰領域を含む。実施例Bでは、約700nmに中心を持つ透過率減衰領域を有する色素3の量は、実施例Aと比較して大幅に減らした。実施例Bの透過スペクトルは、約700nmの透過率減衰領域を示しており、透過率は実施例Aの、それに対応する領域より大きい。これら2つの実施例は、色素濃度を変化させて、所望の領域における透過率を選択的に調節できることを実証している。
【0048】
実施例C及びDに対応するレンズにおいて、2種の透過率減衰色素をそれぞれの事前に混合されたPC樹脂の中に含めた。
図1Aの実施例C及びDの透過スペクトルは、事前に混合されたPC樹脂に2種の色素を含めたことによる2つの局所的透過率減衰領域を示している。
【0049】
実施例E及びFに対応するレンズにおいて、レンズ用PC樹脂はほとんどの波長領域で同等に吸収し、全体的な透過の合計を低減させる色素の組合せ(Airwear Color Blue G11)を用いて事前に調合した。実施例Eについては、2種の追加の透過率減衰色素をPC樹脂に添加した。実施例Fについては、3種の追加の透過率減衰色素をPC樹脂に添加した。
図1Bにおける実施例E及びFの透過スペクトルは、それぞれ事前に混合されたPC樹脂に対応する数の色素を含めたことにより、2つ及び3つの局所的透過率減衰領域を示している。
【0050】
方法2:偏光ウェハに組み込まれた色素
透過率減衰色素は、様々なレンズコンポーネントに組み込むことができる。方法2に記載の実施形態では、色素は偏光ウェハ構造の1つ又は複数の層の中に組み込まれる。下の選択肢A及びBは、透過率減衰色素を偏光ウェハ構造に組み込むための2つの異なる方法を説明している。
【0051】
選択肢A:偏光ウェハ構造は、射出成型工程を用いて複数の色素を有する樹脂薄層にオーバモールドされてよい。
図3Aに関して、偏光ウェハ構造は、金型の中に挿入され、金型が、薄層注入のための適当なスペースを空けて閉じられる。その後、樹脂が金型に注入され、偏光ウェハ構造に溶融結合する。射出成型薄層は複数の透過率減衰色素を含み、そのカラーエンハンシング特徴のために「CE1」と指定される。
【0052】
図3Aに示される実施形態において、偏光ウェハ構造はPC/PVA/PC偏光ウェハ構造であり、注入される樹脂は複数の透過率減衰色素を有する熱可塑性樹脂である。この方法により製造される例示的なPC/PVA/PC/CE1偏光ウェハはその後、
図3Bに示される工程にしたがって、従来の透明樹脂を用いてセミフィニッシュトレンズにオーバモールドされる。
【0053】
選択肢B:複数の透過率減衰色素を有する光学品質膜(CE2)は偏光ラミネート、例えばPC/PVA偏光ラミネートの上に積層されてよく、それによってPC/PVA/CE2偏光ウェハ構造が提供される。
図4に示されるように、カラーエンハンシング偏光ウェハ構造は、熱可塑性樹脂の上にオーバモールドされてよい。その結果として得られるレンズは、偏光PVA層と母材の射出成型レンズとの間にあるCE2層の中に色素を含む。製造前の膜は射出成型層より薄くてよいため、選択肢B(膜組み込み)は選択肢A(射出成型)より好ましい。光学品質膜(CE2)は、PC、ナイロン、熱可塑性ポリウレタン(TPU)を含むがこれらに限定されない各種の光学グレードサーモプラスチックから選択される光学樹脂で製作されてよい。
【0054】
方法3:コーティングマトリクスに組み込まれる色素
透過率減衰色素はコーティングマトリクスに組み込まれてよく、それがその後レンズの上に堆積されてよい。屈折率を高めるために、高屈折率コーティングマトリクスが提供されてよい。耐熱水性、耐候性、耐光性、耐擦性、耐摩耗性、及び/又は耐衝撃性をレンズに付与するために、耐久性増強コーティングマトリクスが提供されてよい。コーティングマトリクスは、レンズ凹面にも凸面にも、又は最も外側のレンズ表面間の何れの場所にも提供されてよい。
【0055】
方法4:染色工程を通じて組み込まれる色素
透過率減衰色素は、染色工程によって眼科要素の中に、又はその上に組み込むことができる。透過率減衰色素は、レンズ母材若しくは染色対象の基板材料に接着されるように特に設計される透過率減衰色素を選択することによって、又はまず母材レンズ若しくはその他の基材を、レンズ又は基材に接着するだけでなく、色素に対する高い親和性を有する樹脂の薄い上張りでコーティングすることによって、レンズの中又は上に組み込むことができる。色素は、混合して色素の組合せとしてレンズに提供されても、又は色素ごとに別々に提供されてもよい。当業者の間で知られている標準的な染色工程が採用されてよく、これには浸漬染色及び熱転写染色(昇華転写)が含まれるが、これらに限定されない。
【0056】
方法5:干渉スタックを用いることによるスペクトル調整
特定の波長の光を選択的に反射させる透過率減衰は、干渉スタックを透過する光を干渉する、又はその特性を変調させる干渉スタックを使用することによって導入できる。干渉スタックは、複数の干渉薄層を含んでいてよい。高屈折率の誘電材料と低屈折率の誘電材料の交互の層がレンズ基板に提供されてよく、それによって特定の波長領域内のその光透過が低減する。追加的に、干渉スタックを通じた光の透過をさらに減衰させるために、複数の色素を干渉スタックの中に導入できる。
【0057】
方法6:接着剤に組み込まれる色素
複数の透過率減衰色素は、レンズ接着剤に組み込むことができる。色素補足接着剤はその後、層同士を接着するためにレンズ層間に組み込まれてよい。非限定的な実施形態において、1つ又は複数の透過率減衰色素は、後で偏光PC/PVA/PCラミネートの層を接着するために使用される接着剤の中に組み込まれてよい。偏光ラミネートはその後、前述の方法1に記したようにSF上にオーバモールドされてよい。
【0058】
特許請求の範囲は、ミーンズプラス又はステッププラスファンクションの限定を含むとは解釈されないものとするが、このような限定が特定の請求項の中にそれぞれ「~のための手段」又は「~のためのステップ」という語句を使って明記されている場合は除く。