IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ミズノ テクニクス株式会社の特許一覧

特許7577552トウプリプレグ製造装置、及びトウプリプレグ製造方法
<>
  • 特許-トウプリプレグ製造装置、及びトウプリプレグ製造方法 図1
  • 特許-トウプリプレグ製造装置、及びトウプリプレグ製造方法 図2
  • 特許-トウプリプレグ製造装置、及びトウプリプレグ製造方法 図3
  • 特許-トウプリプレグ製造装置、及びトウプリプレグ製造方法 図4
  • 特許-トウプリプレグ製造装置、及びトウプリプレグ製造方法 図5
  • 特許-トウプリプレグ製造装置、及びトウプリプレグ製造方法 図6
  • 特許-トウプリプレグ製造装置、及びトウプリプレグ製造方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】トウプリプレグ製造装置、及びトウプリプレグ製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/54 20060101AFI20241028BHJP
   B29C 70/16 20060101ALI20241028BHJP
   B29C 70/40 20060101ALI20241028BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20241028BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20241028BHJP
【FI】
B29C70/54
B29C70/16
B29C70/40
C08J5/24
B29K105:08
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021015764
(22)【出願日】2021-02-03
(65)【公開番号】P2022118925
(43)【公開日】2022-08-16
【審査請求日】2023-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】302019599
【氏名又は名称】ミズノ テクニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】内海 陽吉
(72)【発明者】
【氏名】玉置 勝紀
【審査官】岩▲崎▼ 則昌
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-117333(JP,A)
【文献】特開2012-184279(JP,A)
【文献】特開2004-168466(JP,A)
【文献】特開2000-079614(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/54
B29C 70/16
B29C 70/40
C08J 5/24
B29K 105/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維束に樹脂を含浸する樹脂含浸部と、前記強化繊維束に樹脂が含浸されてなるトウプリプレグをその周面に沿わせながら搬送する搬送ローラと、前記トウプリプレグを巻き取る巻取りボビンを備えたトウプリプレグ製造装置であって、
前記巻取りボビンは、前記トウプリプレグの搬送方向と直交する方向に延びる回転軸の周りに回転可能、かつ、前記搬送方向と直交する方向に往復移動可能に設けられており、
前記巻取りボビンは、前記搬送方向と直交する方向への移動ストロークが変動するように調整されていることを特徴とするトウプリプレグ製造装置。
【請求項2】
強化繊維束の一方の面に樹脂を塗布する樹脂含浸部と、前記強化繊維束に樹脂が含浸されてなるトウプリプレグをその周面に沿わせながら搬送する搬送ローラと、前記トウプリプレグを巻き取る巻取りボビンを備えたトウプリプレグ製造装置であって、
前記巻取りボビンは、前記トウプリプレグの搬送方向と直交する方向に延びる回転軸の周りに回転可能、かつ、前記搬送方向と直交する方向に往復移動可能に設けられており、
前記樹脂含浸部より下流側には、前記搬送ローラとして、それぞれの回転軸が互いに非平行に延びる一対の回転ローラで構成されたネルソンローラが配置され、
前記ネルソンローラは、前記トウプリプレグにおける前記強化繊維束の他方の面に対応する面が、該ネルソンローラの周面に沿うように配置されていることを特徴とするトウプリプレグ製造装置。
【請求項3】
前記巻取りボビンの上流側には、前記トウプリプレグをその周面に沿わせながら搬送するとともに、前記搬送方向と直交する方向への前記トウプリプレグの移動を規制する横振り抑制ローラが設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のトウプリプレグ製造装置。
【請求項4】
強化繊維束を搬送しながら樹脂を含浸してトウプリプレグを製造するトウプリプレグ製造方法であって、
前記強化繊維束に樹脂を含浸して前記トウプリプレグを得る含浸工程と、
前記トウプリプレグを搬送ローラに沿って搬送する搬送工程と、
搬送されてきた前記トウプリプレグを巻取りボビンに巻き取る巻取り工程と
を備え、
前記巻取り工程では、前記トウプリプレグの搬送方向と直交する方向に前記巻取りボビンを往復移動させるとともに、前記搬送方向と直交する方向への前記巻取りボビンの移動ストロークが変動するように調整することを特徴とするトウプリプレグ製造方法。
【請求項5】
強化繊維束を搬送しながら樹脂を含浸してトウプリプレグを製造するトウプリプレグ製造方法であって、
前記強化繊維束の一方の面に樹脂を塗布して前記トウプリプレグを得る含浸工程と、
前記トウプリプレグを搬送ローラの周面に沿って搬送する搬送工程と、
搬送されてきた前記トウプリプレグを巻取りボビンに巻き取る巻取り工程と
を備え、
前記巻取り工程では、前記トウプリプレグの搬送方向と直交する方向に前記巻取りボビンを往復移動させ、
前記搬送工程では、前記トウプリプレグにおける前記強化繊維束の他方の面に対応する面を、それぞれの回転軸が互いに非平行に延びる一対の回転ローラで構成された前記搬送ローラとしてのネルソンローラの周面に沿って搬送することを特徴とするトウプリプレグ製造方法。
【請求項6】
前記搬送工程では、前記搬送ローラとして、前記搬送方向と直交する方向への前記トウプリプレグの移動を規制する横振り抑制ローラに沿って前記トウプリプレグを搬送することを特徴とする請求項4又は5に記載のトウプリプレグ製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トウプリプレグ製造装置、及びトウプリプレグ製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂材料からなる成形品は、軽量でありながら強度に優れていることから様々な分野で広く利用されている。こうした成形品は、通常、強化繊維にマトリックス樹脂を塗布して含浸させたいわゆるプリプレグと呼ばれるシート状基材を積層し、加圧及び加熱により樹脂を熱硬化させて賦形することにより製造される。プリプレグとしては、複数本の強化繊維を一方向に並行して配列させたものにマトリックス樹脂を含浸させたシート状のシートプリプレグや、複数本の強化繊維束にマトリックス樹脂を含浸させた、より細幅のトウプリプレグが知られている。
【0003】
特許文献1には、トウプリプレグを製造するためのトウプリプレグ製造装置に係る発明が記載されている。特許文献1に記載されるトウプリプレグ製造装置は、外周面に樹脂が塗布されたオイリングローラに沿って強化繊維束を搬送することでトウプリプレグを得た後、複数の搬送ローラに沿って搬送されたトウプリプレグを巻取りボビンに巻き取っている。
【0004】
図5(a)に示すように、こうしたトウプリプレグ製造装置では、通常、巻取りボビン101の近傍に、巻取りボビン101の回転軸101aに沿う方向に所定幅でトウプリプレグTを往復移動するトラバースガイド102を備えたトラバース機構が設けられている。トラバースガイド102上には、一対の支持ローラ103が対向配置されており、搬送されるトウプリプレグTは、一対の支持ローラ103によって支持される。これにより、トウプリプレグTは、トラバースガイド102とともに巻取りボビン101の回転軸101aに沿う方向に往復移動しつつ、所定の綾角をもって巻取りボビン101に巻き取られる。
【0005】
また、巻取りボビン101とトラバースガイド102との間には、タッチローラ104が設けられている。タッチローラ104が巻取りボビン101に対して所定の圧力を掛けて回転することで、トウプリプレグTは、平滑な状態となるようにして巻取りボビン101に巻き取られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-74699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、トウプリプレグTは、複数本(例えば約36000本)の強化繊維が引き揃えられた状態で樹脂が含浸されており、厚みの薄い帯状(例えば幅約10mm、厚み約0.15mm)である。そのため、トウプリプレグTが巻取りボビン101の回転軸に沿う方向に往復移動させられると、トラバースガイド102上では、支持ローラ103からの力がトウプリプレグTの幅方向端縁を押圧するように作用する。これにより、トウプリプレグTが幅方向に変形しやすく、その品質が安定しない場合がある。
【0008】
これに対して、図5(b)に示すように、トウプリプレグTの主面が支持ローラ103の外周面に接触するような状態で搬送するために、トラバース機構の上流のガイドローラ106を、その回転軸の向きを90゜捩った状態で配置することが考えられる。これにより、トウプリプレグTが幅方向に変形することが抑制される。しかし、この場合には、支持ローラ103とタッチローラ104との間で、トウプリプレグTの向きを90゜捩り戻す必要があり、そのためのガイドローラ107をトラバースガイド102上に取り付ける必要がある。その結果、トウプリプレグTを搬送するための搬送ローラの数が増えることになる。
【0009】
ここで、トウプリプレグTとして、強化繊維束に熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂を含浸したものを搬送する場合について説明する。エポキシ樹脂は粘稠であることから、トウプリプレグTの搬送中に、搬送ローラ(ガイドローラ106や支持ローラ103等)の外周面にエポキシ樹脂が付着し易い。
【0010】
そのため、図6に示すように、トウプリプレグTがガイドローラ106の外周面から離れる際には、トウプリプレグT中のエポキシ樹脂の一部が引き剥がされた状態となる場合がある。そして、引き剥がされてガイドローラ106の外周面に付着した粘稠なエポキシ樹脂は、搬送されるトウプリプレグTとの間で糸を引いたような状態で引き伸ばされて糸引き状樹脂Pfとなる。ガイドローラ106がさらに回転して糸引き状樹脂Pfがその伸びの限界を超えると、糸引き状樹脂Pfは千切れて空中に飛散して飛散樹脂Psとなったり落下したりすることになる。また、ガイドローラ106が高速で回転すると、トウプリプレグT中の一部の樹脂がガイドローラ106の周囲に撒き散らされて飛散樹脂Psとなる場合がある。こうした飛散樹脂Psは、支持ローラ103や他の搬送ローラでも同様に発生し得る。さらに、搬送中のトウプリプレグTが、トラバースガイド102とともに巻取りボビン101の回転軸101aに沿う方向に往復移動させられると、トウプリプレグTに掛かる振動によって飛散樹脂Psが発生する場合もある。
【0011】
図6に示すように、発生した飛散樹脂Psは、例えば、ガイドローラ106を支持するアーム108や、トウプリプレグ製造装置を構成するフレーム109等の構造部材、或いはガイドローラ106の側面等に付着して硬化することにより硬化樹脂Pcとなる。硬化樹脂Pcは、トウプリプレグTの搬送中の振動等によって落下する場合があり、巻取りボビン101に落下するとトウプリプレグT中に異物として混入してしまう。
【0012】
図7に示すように、硬化樹脂Pcが混入したトウプリプレグTでは、その幅方向の一部が硬化樹脂Pc上に乗り上げる場合がある。硬化樹脂Pcに乗り上げた部分では、強化繊維束や樹脂がない部分に応力集中が発生してトウプリプレグTに空隙が生じることになる。また、硬化樹脂Pcに乗り上げなかった部分では、強化繊維束にたるみが生じることになる。その結果、硬化樹脂Pcが混入したトウプリプレグTを使用して成形品を成形すると、成形品内にボイドが発生する等の原因となり、成形品の製品品質の低下の要因となり得る。
【0013】
こうした問題は、エポキシ樹脂に限らず、ある程度の粘性を持った他の熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂が含浸されたトウプリプレグの搬送時にも発生する共通の事情である。
本発明は、従来のこうした問題を解決するためになされたものであり、その目的は、トウプリプレグ搬送中の飛散樹脂の発生を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、本発明のトウプリプレグ製造装置は、強化繊維束に樹脂を含浸する樹脂含浸部と、前記強化繊維束に樹脂が含浸されてなるトウプリプレグをその周面に沿わせながら搬送する搬送ローラと、前記トウプリプレグを巻き取る巻取りボビンを備え、前記巻取りボビンは、前記トウプリプレグの搬送方向と直交する方向に延びる回転軸の周りに回転可能、かつ、前記搬送方向と直交する方向に往復移動可能に設けられている。
【0015】
上記の構成によれば、巻取りボビンがトウプリプレグの搬送方向と直交する方向に往復移動可能に設けられているため、従来のトウプリプレグ製造装置のように、トウプリプレグを自身の搬送方向と直交する方向に移動させる必要がない。そのため、トウプリプレグを往復移動させるためのトラバースガイドを備えたトラバース機構が不要となる。これにより、トウプリプレグを搬送するための搬送ローラの数を減らすことが可能である。
【0016】
そして、搬送ローラの数が減る分、トウプリプレグから引き剥がされて空気中に飛散する樹脂の発生を抑制することができる。また、飛散樹脂の発生が抑制されることにより、硬化樹脂の発生が抑制され、トウプリプレグ中への異物の混入を抑制することができる。さらに、トウプリプレグからの逸失樹脂を減らすことができるため、所定量の樹脂を含浸させたトウプリプレグの樹脂含有率Rc(%)を安定させることができる。
【0017】
上記の課題を解決する為に、本発明のトウプリプレグの製造方法は、強化繊維束を搬送しながら樹脂を含浸してトウプリプレグを製造するトウプリプレグ製造方法であって、前記強化繊維束に樹脂を含浸してトウプリプレグを得る含浸工程と、前記トウプリプレグを搬送ローラに沿って搬送する搬送工程と、搬送されてきた前記トウプリプレグを巻取りボビンに巻き取る巻取り工程とを備え、前記巻取り工程では、前記トウプリプレグの搬送方向と直交する方向に前記巻取りボビンを往復移動させる。
【0018】
上記の構成によれば、トウプリプレグを自身の搬送方向と直交する方向に移動させる従来のトウプリプレグ製造方法と比べて、搬送工程での搬送ローラの数を少なくすることができる。そのため、トウプリプレグから引き剥がされて空気中に飛散する飛散樹脂の発生を抑制することができる。また、飛散樹脂の発生が抑制されることにより、硬化樹脂の発生が抑制され、トウプリプレグ中への異物の混入を抑制することができる。さらに、トウプリプレグからの逸失樹脂を減らすことができるため、所定量の樹脂を含浸させたトウプリプレグの樹脂含有率Rc(%)を安定させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、トウプリプレグ搬送中の飛散樹脂の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態のトウプリプレグ製造装置の概略部分模式図であり、(a)は側面図、(b)は上面図。
図2】ネルソンローラの上面図。
図3】巻取りボビンのターン位置について説明する図。
図4】(a)、(b)は巻取りボビンの断面形状について説明する図。
図5】(a)、(b)は、従来のトウプリプレグ製造装置におけるトウプリプレグを巻き取る部分の概略部分模式図。
図6】従来の搬送ローラの下流側の糸引き状樹脂、飛散樹脂の発生の状態及び支持部材への硬化樹脂の付着について説明する図。
図7】トウプリプレグ中に硬化樹脂が混入した状態について説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を具体化したトウプリプレグ製造装置10について、図1及び図2に従って説明する。トウプリプレグ製造装置10は、強化繊維束を搬送しながら樹脂を含浸してトウプリプレグを製造するための装置である。
【0022】
トウプリプレグを構成する強化繊維束の種類は特に限定されるものではなく、従来公知の強化繊維を使用することができる。強化繊維としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等を挙げることができる。また、強化繊維束に含浸させる樹脂は、従来公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂を使用することができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等を挙げることができる。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等を挙げることができる。ここでは、炭素繊維にエポキシ樹脂を含浸させたトウプリプレグを製造する場合について説明する。
【0023】
図1(a)及び(b)に示すように、トウプリプレグ製造装置10(以下では、装置10という。)は、巻出し部1、樹脂含浸部2、搬送部3、巻取り部4を備えている。
巻出し部1は、強化繊維束としての炭素繊維束Fが巻き付けられた給糸ボビン11と、給糸ボビン11から引き出された炭素繊維束Fを搬送する複数のガイドローラ12で構成されている。給糸ボビン11から引き出された炭素繊維束Fは、複数のガイドローラ12の外周面に沿って樹脂含浸部2に搬送される。炭素繊維束Fは、樹脂含浸部2に搬送されるまでに、ある程度開繊されて引き揃えられた状態とされている。ここで、装置10において、炭素繊維束Fが搬送される方向を搬送方向Aといい、搬送方向Aに基づいて装置10の上流側、下流側を規定する。つまり、図1(a)及び(b)の左側が装置10の上流側、右側が装置10の下流側に相当する。また、図1(a)の上下方向で、装置10の上下を規定する。
【0024】
樹脂含浸部2は、搬送された炭素繊維束Fにエポキシ樹脂P(以下、樹脂Pという。)を塗布するオイリングローラ13を備えている。オイリングローラ13の下部には樹脂タンク14が配置されている。樹脂タンク14はオイリングローラ13の下部に当接する箱状部材である。オイリングローラ13の外周面と樹脂タンク14の下壁及び側壁との間には、樹脂Pを貯留する貯留空間が形成されている。オイリングローラ13は、その外周面の回転軌跡の一部において、樹脂タンク14に貯留された樹脂Pを通過して外周面に樹脂Pを付着させることによって、樹脂タンク14からの樹脂Pの供給を受ける。
【0025】
また、樹脂含浸部2は、樹脂タンク14に樹脂Pを供給するための図示しない樹脂保温部及び液送ポンプを備えている。樹脂保温部内で一定温度に保温された樹脂Pは、液送ポンプを介して樹脂タンク14に供給される。これにより、樹脂タンク14内の樹脂Pは、一定の液面位置を保持して貯留されている。
【0026】
オイリングローラ13は、その外周面が搬送される炭素繊維束Fに接触する位置に配置されるとともに、炭素繊維束Fの搬送方向Aに沿って回転するように構成されている。オイリングローラ13の回転速度は、樹脂タンク14からの炭素繊維束Fへの樹脂Pの塗布量が所定の目標値となるように制御されている。また、オイリングローラ13の外周面に供給された樹脂Pは、オイリングローラ13の側部に配置された図示しないスクレーパによって所定厚みに調整されている。これにより、オイリングローラ13に送られた炭素繊維束Fは、オイリングローラ13上に供給された樹脂Pが塗布されて含浸し、所定の樹脂含有率Rc(%)を有するトウプリプレグTとなる。
【0027】
炭素繊維束Fは、複数本の炭素繊維が開繊状態で引き揃えられて帯状をなしている。そのため、オイリングローラ13の外周面に沿って搬送された炭素繊維束Fでは、オイリングローラ13側の面が、樹脂Pが塗布された塗布面Taとなる一方、オイリングローラ13とは反対側となる面が、樹脂Pが塗布されない非塗布面Tbとなる。樹脂Pは粘稠であるため、オイリングローラ13を通過した状態のトウプリプレグTでは、塗布面Taには粘稠な樹脂Pが塗布されており、塗布面Taは粘度の高い状態となっている。一方、樹脂Pは塗布面Taから非塗布面Tb側に浸み込んだ状態となって含浸されているが、非塗布面Tbからは樹脂Pが多くは染み出ておらず、非塗布面Tbは粘度の低い状態となっている。
【0028】
図1(a)及び(b)に示すように、オイリングローラ13の下流側の搬送部3には、トウプリプレグTを搬送するための複数の搬送ローラ20が配置されている。本実施形態の装置10では、搬送ローラ20は、上流側から順に、ネルソンローラ15、ダンサーローラ16、横振り抑制ローラ17で構成されている。
【0029】
図1(a)及び図2に示すように、ネルソンローラ15は、装置10において上下方向に並設された一対の回転ローラで構成されている。一対の回転ローラのうち上方に設けられたものは、図示しない駆動源に接続されて所定の回転トルクで駆動する駆動ローラ15aであり、下方に設けられたものは、駆動ローラ15aの回転に従動して回転する従動ローラ15bである。駆動ローラ15aの回転トルクを制御することにより、炭素繊維束F及びトウプリプレグTの搬送速度や張力を調整することができる。
【0030】
図2に示すように、駆動ローラ15a及び従動ローラ15bは、トウプリプレグTの搬送方向Aに延びる水平面と平行に配置されているとともに、それぞれの回転軸が互いに非平行に延びるように配置されている。従動ローラ15bは、その回転軸がトウプリプレグTの搬送方向Aと直交する方向Bに延びるように配置されている。駆動ローラ15aの回転軸及び従動ローラ15bの回転軸のなす角度θは、例えば、5~15゜程度となるように設定されている。
【0031】
図1(a)及び図2に示すように、樹脂含浸部2から搬送されたトウプリプレグTは、下方に設けられた従動ローラ15bの下方から供給されて、上方に設けられた駆動ローラ15aに向かって搬送される。トウプリプレグTは、従動ローラ15bと駆動ローラ15aとの間で複数回架け渡されるように搬送された後、下方に設けられた従動ローラ15bからダンサーローラ16に向かって搬送される。
【0032】
ダンサーローラ16は、その位置調整による張力制御機構によってトウプリプレグTに対する張力を調整する。ダンサーローラ16による張力の制御によって、横振り抑制ローラ17は、フリーの状態でトウプリプレグTとともに所定速度で回転する。これにより、炭素繊維束F及びトウプリプレグTの搬送速度や張力を調整することができる。なお、ネルソンローラ15の駆動ローラ15aによる回転トルクの制御、ダンサーローラ16による張力の制御のいずれか一方のみで、トウプリプレグTの搬送速度や張力を調整するようにしてもよい。
【0033】
横振り抑制ローラ17は、搬送部3の最下流、すなわち巻取り部4の直前の位置に設けられている。本実施形態の横振り抑制ローラ17は、その外周面に、径方向に凹む凹条17aが形成された形状を有している。前記搬送方向Aと直交する方向Bへの凹条17aの幅は、トウプリプレグTの幅より少し大きく形成されている。これにより、搬送されるトウプリプレグTは凹条17a内に配置されて、搬送方向Aと直交する方向BへのトウプリプレグTの移動(横振れ)が規制される。
【0034】
図1(a)及び(b)に示すように、巻取り部4は、横振り抑制ローラ17の下流に設けられたサポートローラ18、タッチローラ19、及び巻取りボビン21を有している。
サポートローラ18は、横振り抑制ローラ17とタッチローラ19との間の隙間を埋めるような大きさに形成されている。また、サポートローラ18は、横振り抑制ローラ17とタッチローラ19との間の隙間を埋めるように位置している。これにより、搬送されるトウプリプレグTに遊びが生まれることが抑制される。横振り抑制ローラ17から搬送されたトウプリプレグTは、搬送方向Aと直交する方向Bへの移動が規制された状態を維持したまま、巻取りボビン21に向かって搬送される。これにより、トウプリプレグTは、巻取りボビン21において設定どおりの狙った位置に搬送される。
【0035】
タッチローラ19は、巻取りボビン21に近接した位置であって、トウプリプレグTを巻取りボビン21の外周面に向かって所定の圧力で押圧するような位置に配置されている。これにより、搬送されたトウプリプレグTは、巻取りボビン21の外周面に平滑な状態で巻き取られる。
【0036】
サポートローラ18及びタッチローラ19は、巻取りボビン21とともにトウプリプレグTの搬送方向Aと直交する方向Bに往復移動可能に構成されている。つまり、サポートローラ18、タッチローラ19、及び巻取りボビン21からなる巻取り部4は、搬送方向Aと直交する方向Bに往復移動するトラバース機構(ボビントラバース機構)を構成している。これにより、搬送されたトウプリプレグTは、巻取りボビン21の外周面に所定の綾角をもって巻き取られる。
【0037】
ボビントラバース機構を構成する巻取り部4には、巻取りボビン21の近傍に、図示しないボビン駆動部としてのモータが設けられている。ボビン駆動部は、巻取りボビン21を自身の回転軸21aの周りに所定の回転速度で回転させ、かつ、巻取り部4をトウプリプレグTの搬送方向Aと直交する方向Bに所定の移動ストロークで往復移動させるように駆動する。巻取りボビン21の回転速度、巻取り部4の移動ストローク(トラバース幅)、巻取りボビン21でのトウプリプレグTのターン位置等は、図示しない制御部からボビン駆動部の初期値として入力される。
【0038】
図3に実線で示すように、本実施形態の装置10に搭載されたボビントラバース機構では、搬送方向Aと直交する方向Bへの巻取りボビン21の移動ストロークが変動するように調整している。
【0039】
ここで、図1(b)に示すように、巻取りボビン21に巻き付けるトウプリプレグTの巻き付け幅を幅Wとする。図3には、トウプリプレグを自身の搬送方向Aと直交する方向Bに移動させながら巻取りボビンに巻き付ける従来のトウプリプレグ製造装置での、巻取りボビン上でのトウプリプレグの移動軌跡を一点鎖線で示している。従来のトウプリプレグ製造装置では、常に、あらかじめ設定された幅Wの全長に亘って、巻取りボビン上でトウプリプレグが往復移動する。つまり、幅Wの両端部にトウプリプレグのターン位置が存在している。
【0040】
これに対して、図3に実線で示すように、本実施形態の装置10では、巻取りボビン21上でのトウプリプレグTのターン位置が、あらかじめ設定された幅Wの中で変動している。具体的には、ボビン駆動部は、巻取りボビン21上でのトウプリプレグTのターン位置が、幅Wの中央位置Nから一方向側へストローク幅S1の位置、他方向側へストローク幅S2の位置、一方向側へストローク幅S3の位置、他方向側へストローク幅S4の位置、一方向側へストローク幅S5の位置、他方向側へストローク幅S6の位置、一方向側へストローク幅S7の位置、他方向側へストローク幅S8の位置、一方向側へストローク幅S9の位置、他方向側へストローク幅S10の位置となるように、巻取り部4を往復移動させる。
【0041】
これらストローク幅S1~S10は、巻取り部4の移動ストローク(トラバース幅)、巻取りボビン21でのトウプリプレグTのターン位置として、図示しない制御部からボビン駆動部に入力される。本実施形態では、ストローク幅S1、S6がW/2の50%、ストローク幅S2、S7がW/2の90%、ストローク幅S3、S8がW/2の80%、ストローク幅S4、S5、S9、S10がW/2の100%に設定されている。そして、巻取りボビン21へのトウプリプレグTの巻き付けは、ストローク幅S1~S10を順次繰り返すことで行われる。
【0042】
このように、装置10においては、給糸ボビン11から引き出された炭素繊維束Fは、ガイドローラ12によるガイドを受けながら搬送される。炭素繊維束Fには、オイリングローラ13の外周面に供給された所定量の樹脂Pが塗布されてトウプリプレグTとなる。ネルソンローラ15、ダンサーローラ16、横振り抑制ローラ17によって搬送された後、ボビントラバース機構で駆動する巻取りボビン21に巻き取られる。
【0043】
次に、上記実施形態の装置10の作用について説明する。
巻出し部1では、給糸ボビン11から所定の搬送速度で引き出された炭素繊維束Fは、所定の張力を掛けられた状態でガイドローラ12の外周面に沿って搬送される。炭素繊維束Fは、開繊されて引き揃えられた状態で給糸ボビン11に巻き付けられており、炭素繊維束Fは、オイリングローラ13までの搬送中に所定の張力が掛けられていることにより、開繊されて引き揃えられた状態を保持したまま搬送される。
【0044】
樹脂含浸部2では、オイリングローラ13の外周面に沿って搬送された炭素繊維束Fの一方の面に、オイリングローラ13の外周面に供給された樹脂Pが塗布されてトウプリプレグTとなる。オイリングローラ13は、樹脂タンク14からの炭素繊維束Fへの樹脂Pの含浸量が所定の目標値となるように制御されていることから、炭素繊維束Fは引き揃えられた状態で搬送された炭素繊維束Fには、一定量の樹脂Pが塗布されて、その樹脂含有率Rc(%)が所定の値に管理される。
【0045】
図2に示すように、搬送部3を構成する搬送ローラ20の1つは、ネルソンローラ15である。オイリングローラ13で樹脂Pが塗布されたトウプリプレグTは、下方に設けられた従動ローラ15bの下方から供給される。そのため、トウプリプレグTにおいて従動ローラ15bの外周面に接する面は、オイリングローラ13において樹脂Pが塗布されていない非塗布面Tbとなる。非塗布面Tbでは、塗布面Taに塗布された樹脂Pが多くは染み出ておらず、粘度の低い状態となっている。そのため、非塗布面Tbが従動ローラ15bの外周面に接触したとしても、従動ローラ15bの外周面に樹脂Pの付着が起こり難く、従動ローラ15bの外周面とトウプリプレグTとの間で樹脂Pによる糸引き状樹脂Pfの発生が起こり難い。
【0046】
また、ネルソンローラ15では、上下方向に駆動ローラ15aと従動ローラ15bが非平行状態で並設されているため、従動ローラ15bと駆動ローラ15aとの間にトウプリプレグTを複数回周回させながら搬送することができる。この際、トウプリプレグTは、上方の駆動ローラ15aの外周面においてもその非塗布面Tbが接触することになる。このように、ネルソンローラ15で搬送される際には、駆動ローラ15a及び従動ローラ15bの外周面のいずれにおいても、トウプリプレグTの非塗布面Tbが接触することから、トウプリプレグTの搬送中での糸引き状樹脂Pfの発生が抑制され、ひいては飛散樹脂Psの発生が抑制される。
【0047】
ネルソンローラ15では、駆動ローラ15aと従動ローラ15bのそれぞれの回転軸が互いに非平行に延びている。こうした形状のネルソンローラ15では、オイリングローラ13から搬送されて従動ローラ15bの一端部に到達したトウプリプレグTは、従動ローラ15bに対して直角となる方向から入る。また、従動ローラ15bから搬送されたトウプリプレグTは、駆動ローラ15aに対して直角となる方向から入る。このように、ネルソンローラ15を複数回周回するトウプリプレグTは、駆動ローラ15a及び従動ローラ15bに対して直角となる方向から入って、従動ローラ15bの他端部からダンサーローラ16に向かって搬送される。
【0048】
トウプリプレグTは、駆動ローラ15a及び従動ローラ15bに対して直角となるように入って複数回周回されるため、従動ローラ15bの他端部でトウプリプレグTの引き出される位置が左右にぶれたとしても、駆動ローラ15a及び従動ローラ15bの間での周回中にそのぶれが収束される。これにより、従動ローラ15bの一端部でのトウプリプレグTの入る位置が左右にぶれること(横振り)が抑制される。
【0049】
ネルソンローラ15から搬送されたトウプリプレグTは、ダンサーローラ16でも、その外周面に非塗布面Tbを接触させた状態で搬送される。そのため、ダンサーローラ16でも、糸引き状樹脂Pfの発生が抑制され、飛散樹脂Psの発生が抑制される。
【0050】
ダンサーローラ16から搬送されたトウプリプレグTは、横振り抑制ローラ17の凹条17a内に配置される。これにより、トウプリプレグTは、搬送方向Aと直交する方向Bへの移動(横振り)が規制されながら搬送される。
【0051】
ボビントラバース機構を構成する巻取り部4は、トウプリプレグTの搬送方向Aと直交する方向Bへ往復移動する。そのため、巻取り部4の直前のトウプリプレグTには、方向Bへの横振りが発生し易い。この点、ネルソンローラ15では、従動ローラ15bの一端部でのトウプリプレグTの入る位置での横振りが抑制され、横振り抑制ローラ17でも横振りが抑制される。これにより、飛散樹脂Psの発生が抑制される。
【0052】
巻取り部4では、タッチローラ19からの圧力を付与されながら巻取りボビン21の外周面に押し付けられつつ、巻取りボビン21に巻き取られる。タッチローラ19及び巻取りボビン21は、トウプリプレグTの搬送方向Aと直交する方向Bに往復移動することから、トウプリプレグTは所定の綾角で平滑な状態で巻取りボビン21に巻き取られる。
【0053】
本実施形態の装置10では、ボビントラバース機構を採用することにより、トウプリプレグTが巻き付けられた巻取りボビン21だけでなく、サポートローラ18及びタッチローラ19が搭載された巻取り部4全体を移動させている。また、巻取り部4には、ボビン駆動部としてのモータ等の装置構成部品も搭載されている。そのため、ボビントラバース機構を採用することで、移動させる部分の全体重量が重くなっている。また、トウプリプレグTの巻き付け量が多くなるに従い、巻取りボビン21自体の重量も重くなっていく。
【0054】
重量のある巻取り部4を移動させるボビントラバース機構では、その慣性が大きくなる。そのため、巻取り部4を往復移動させる際のターン部分に加減速領域を設けてやらないと、装置10に過剰な負荷が掛かることになる。しかし、ターン部分に加減速領域を設けると、図3の一点鎖線に示すような鋭角なターンができなくなる。その結果、図4(a)に示すように、トウプリプレグTが巻き付けられた巻取りボビン21の断面形状が鼓型となってしまう。こうした現象は、トウプリプレグTの搬送速度が高速化するほどより顕著になる。また、巻取り量の多い巻取りボビン21、幅方向の長さが大きい巻取りボビン21ほどより顕著になる。
【0055】
この点、本実施形態の装置10では、巻取りボビン21上でのトウプリプレグTのターン位置を、あらかじめ設定された幅Wの中で変動させて、ターン部分の位置を巻取りボビン21の回転軸21aに沿う方向にずらしている。そのため、ターン部分での巻き付け量の増加が抑制されて、巻取りボビン21の回転軸21aに沿う方向のどの位置でも一定量の巻き付け量となる。その結果、図4(b)に示すように、トウプリプレグTが巻き付けられた巻取りボビン21の断面形状が四角型となる。
【0056】
巻取りボビン21に巻き取られたトウプリプレグTは、塗布面Taと非塗布面Tbが互いに当接した状態で巻き付けられる。塗布面Taに塗布された粘稠な樹脂Pは、当接した非塗布面Tbにも付着してトウプリプレグTの内部に含浸されていく。このようにして、トウプリプレグTの両面に樹脂Pが塗布され、所定の樹脂含有率Rc(%)に調整されたトウプリプレグTが得られる。
【0057】
次に、上記実施形態のトウプリプレグ製造装置10の効果について説明する。
(1)装置10は、トウプリプレグTを巻き取る巻取りボビン21が、トウプリプレグTの搬送方向Aと直交する方向Bに延びる回転軸の周りに回転可能、かつ、搬送方向Aと直交する方向Bに移動可能に設けられている。
【0058】
そのため、従来のトウプリプレグ製造装置のように、トウプリプレグTを自身の搬送方向Aと直交する方向Bに移動させる必要がない。図5に示すようなトラバースガイド102を備えたトラバース機構が不要となり、トラバースガイド102上の複数の支持ローラ103や、トウプリプレグTの向きを変えるガイドローラ107等が不要となる。トウプリプレグTを搬送する搬送ローラの数を減らすことが可能となり、糸引き状樹脂Pfの発生個所を減らすことができる。これにより、飛散樹脂Psの発生を抑制することができる。
【0059】
(2)ボビントラバース機構では、トウプリプレグTを自身の搬送方向Aと直交する方向Bに移動させる従来のトラバース機構(繊維トラバース機構)に比べて、トウプリプレグTの横振りを抑制することができる。
【0060】
これによっても、トウプリプレグTの搬送中における飛散樹脂Psの発生を抑制することができる。
(3)巻取りボビン21は、トウプリプレグTの搬送方向Aと直交する方向Bへ移動するストローク幅S1~S10が変動するように調整されている。巻取りボビン21上でのトウプリプレグTのターン位置は、あらかじめ設定された幅Wの中で変動する。
【0061】
そのため、巻取りボビン21のターン位置でのトウプリプレグTの巻き付け量の増加が抑制される。巻取りボビン21の回転軸21aに沿う方向のどの位置でも一定量の巻き付け量とすることができる。巻取りボビン21の特定の箇所のみで繊維密度が上昇することが抑制され、巻取りボビン21全体での繊維密度を平均化させることができる。
【0062】
また、巻取りボビン21の往復移動速度(トラバース速度)が高速化しても、巻取りボビン21の回転軸21aに沿う方向のどの位置でも巻き付け量を平均化させることができる。
【0063】
(4)巻取りボビン21上でのトウプリプレグTのターン位置が変動して、巻取りボビン21の回転軸21aに沿う方向にトウプリプレグTの巻き付け量が均等となる、
そのため、巻取り量の大きな巻取りボビン21や回転軸21aに沿う方向の長さが長い巻取りボビン21を製造し易い。
【0064】
(5)装置10の樹脂含浸部2では、オイリングローラ13の外周面に供給された樹脂Pを、炭素繊維束Fの一方の面に塗布している。そして、ネルソンローラ15の駆動ローラ15a及び従動ローラ15bに対して、トウプリプレグTの非塗布面Tb側が接触するようにトウプリプレグTを搬送している。ネルソンローラ15の下流側のダンサーローラ16に対しても、トウプリプレグTの非塗布面Tb側が接触している。
【0065】
そのため、粘稠な樹脂Pが駆動ローラ15a及び従動ローラ15bの外周面に付着し難く、駆動ローラ15a及び従動ローラ15bの外周面との間に糸引き状樹脂Pfの発生が抑制される。また、ダンサーローラ16についても同様である。これにより、飛散樹脂Psの発生が抑制される。
【0066】
(6)巻取りボビン21の上流側には、トウプリプレグTの搬送方向Aと直交する方向BへのトウプリプレグTの移動を規制する横振り抑制ローラ17が設けられている。横振り抑制ローラ17には凹条17aが形成されている。搬送されるトウプリプレグTは凹条17a内に配置されて、搬送方向Aと直交する方向BへのトウプリプレグTの移動(横振れ)が規制される。
【0067】
そのため、巻取りボビン21に巻き付けられる際に、狙った位置にトウプリプレグTを搬送することができる。巻取りボビン21の回転軸21aに沿う方向の両端部からトウプリプレグTが脱落してしまう現象(綾落ち)の発生が抑制される。また、トウプリプレグTの横振りに起因する飛散樹脂Psの発生が抑制される。
【0068】
(7)装置10は、搬送部3での搬送ローラ20の一つとして、それぞれの回転軸が互いに非平行に延びる一対の駆動ローラ15a及び従動ローラ15bからなるネルソンローラ15を備えている。
【0069】
そのため、トウプリプレグTを巻き取る際に巻取りボビン21の上流側のトウプリプレグTに対して搬送方向Aと直交する方向Bに振られる力が作用したとしても、ネルソンローラ15の上流側にトウプリプレグTの動きが伝わることが抑制される。これにより、ネルソンローラの上流側では、トウプリプレグTが搬送方向Aと直交する方向Bに振られ難くなる。トウプリプレグTの横振りに起因する飛散樹脂Psの発生が抑制される。
【0070】
(8)トウプリプレグTからの飛散樹脂Psの発生が抑制されるため、装置10を構成する構造部材や搬送ローラ等に付着して硬化する硬化樹脂Pcの発生が抑制される。
そのため、トウプリプレグTへの硬化樹脂Pcの混入が抑制され、トウプリプレグTを使用して成形した成形品の製品品質の低下を抑制することができる。
【0071】
(9)飛散樹脂Psの発生が抑制されることから、トウプリプレグTの樹脂含有率Rc(%)の管理がし易い。狙った樹脂含有率Rc(%)のトウプリプレグTを生産でき、安定した製品品質の成形品を成形することができる。
【0072】
(10)トウプリプレグTから引き剥がされる樹脂Pの量が多くなると、樹脂Pの無駄が多くなり、その分を見越して、炭素繊維束Fに塗布する樹脂Pの塗布量を多くする必要がある。この点、上記実施形態の装置10では、樹脂Pの無駄を抑制することができるため、コスト的に有利である。
【0073】
(11)飛散樹脂Psの発生を抑制することができるため、装置10への飛散樹脂Psの付着や硬化樹脂Pcの発生を抑制することができる。
そのため、装置10に付着した飛散樹脂Psや硬化樹脂Pcを除去するための掃除の手間や頻度を減らすことができる。メンテナンスに掛かる作業性を向上させることができる。
【0074】
(12)上記実施形態の装置10では、樹脂含浸部2は、回転するオイリングローラ13の外周面に樹脂Pを供給し、炭素繊維束Fをオイリングローラ13の外周面に沿わせながら搬送することにより樹脂Pを含浸させるキスコート方式での樹脂含浸をしている。
【0075】
そのため、炭素繊維束Fに対して、均一な厚みで樹脂Pを塗布することができる。樹脂塗布量のムラを抑制することができる。
上記実施形態は、以下のように変更することができる。なお、上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて適用することができる。
【0076】
・上記実施形態のトウプリプレグ製造装置10では、炭素繊維束Fに樹脂を塗布する樹脂含浸部2としてオイリングローラ13を配置したが、樹脂含浸部2の構成はこれに限定されない。例えば、トウプリプレグTの搬送経路の上方に、樹脂タンクに連結された吐出ノズルを配置し、吐出ノズルから一定量の樹脂PをトウプリプレグTの一方の面に吐出するようにしてもよい。この場合、吐出ノズルから吐出された樹脂Pは、搬送されるトウプリプレグTの上面側に塗布されることになる。そのため、ネルソンローラ15は、トウプリプレグTの搬送経路の下方に配置し、上方に設けられた駆動ローラ15aの上方からトウプリプレグTを搬送するようにすればよい。こうすれば、樹脂Pの塗布面Taが駆動ローラ15a及び従動ローラ15bの外周面に接触しないようにすることができる。また、ダンサーローラ16も、その上側に接してトウプリプレグTが搬送されるように配置すればよい。
【0077】
・上記実施形態の装置10では、樹脂含浸部2は、いわゆるキスコート方式の樹脂Pを含浸している。樹脂含浸部2の構成はこれに限定されず、炭素繊維束Fを樹脂Pに浸漬させるバケット方式やディップ方式であってもよい。この場合、キスコート方式の場合と比べて、搬送ローラ20での飛散樹脂の抑制量は減少するが、ボビントラバース機構を採用している装置10では、繊維トラバース機構の装置に比べて飛散樹脂を抑制することができる。
【0078】
・ネルソンローラ15は省略することができる。ボビントラバース機構を採用することにより、繊維トラバース機構の装置に比べて、飛散樹脂を抑制することができる。
・ネルソンローラ15は、上方に従動ローラ15b、下方に駆動ローラ15aを配置してもよい。
【0079】
・ネルソンローラ15に沿って搬送するトウプリプレグTの周回数は特に限定されない。ネルソンローラ15の上流側でのトウプリプレグTの振れを抑制する観点から2回以上であることが好ましいが、2回以上であれば周回数は適宜設定することができる。
【0080】
・巻出し部1に設けられたガイドローラ12の数は特に限定されない。
・搬送部3の搬送ローラ20として、公知のフィードローラ、ニップローラ等を配置してもよい。例えば、フィードローラやニップローラによってトウプリプレグTの搬送速度の管理をするようにしてもよい。また、フィードローラやニップローラは、巻出し部1のガイドローラ12として配置してもよい。
【0081】
・装置10は、上記実施形態で説明した以外の他の構成を備えていてもよい。例えば、巻取り部4の上流側に、飛散樹脂Psの巻取りボビン21側への飛散を抑制する遮蔽板を設けてもよい。
【0082】
・巻取りボビン21上でのトウプリプレグTのターン位置は、上記実施形態のものに限定されない。あらかじめ設定された幅Wの中で変動していれば、適宜設定することができる。例えば、ストローク幅S1、S6がW/2の70%、ストローク幅S2、S7がW/2の40%、ストローク幅S3、S8がW/2の90%、ストローク幅S4、S5、S9、S10がW/2の100%に設定してもよい。また、ストローク幅は、ストローク幅S1~S10の10パターンの繰り返しでなく、6パターンの繰り返し、12パターンの繰り返し等、その繰り返し数は特に限定されない。さらに、定期パターンの繰り返しでなく、不定期パターンで設定してもよい。
【0083】
・上記実施形態では、ストローク幅S1~S10は、巻取り部4の移動ストローク(トラバース幅)、巻取りボビン21でのトウプリプレグTのターン位置として、制御部からボビン駆動部に入力している。ストローク幅S1~S10の設定方法はこれに限定されない。
【0084】
・装置10の巻出し部1、樹脂含浸部2、搬送部3、及び巻取り部4を駆動する構成は、特に限定されるものではなく、適宜設定することができる。
次に、上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想を以下に記載する。
【0085】
(イ)強化繊維束に樹脂を含浸する樹脂含浸部と、前記強化繊維束に樹脂が含浸されてなるトウプリプレグをその周面に沿わせながら搬送する搬送ローラと、前記トウプリプレグを巻き取る巻取りボビンを備えたトウプリプレグ製造装置であって、前記巻取りボビンは、前記トウプリプレグの搬送方向と直交する方向に延びる回転軸の周りに回転可能、かつ、前記搬送方向と直交する方向に移動可能に設けられており、前記搬送ローラは、それぞれの回転軸が互いに非平行に延びる一対の回転ローラからなるネルソンローラで構成されており、前記樹脂含浸部では、樹脂が塗布されたオイリングローラの外周面に沿って前記強化繊維束を搬送することを特徴とするトウプリプレグ製造装置。
【0086】
(ロ)強化繊維束に樹脂を含浸する樹脂含浸部と、前記強化繊維束に樹脂が含浸されてなるトウプリプレグをその周面に沿わせながら搬送する搬送ローラと、前記トウプリプレグを巻き取る巻取りボビンを備えたトウプリプレグ製造装置であって、前記巻取りボビンは、前記トウプリプレグの搬送方向と直交する方向に延びる回転軸の周りに回転可能、かつ、前記搬送方向と直交する方向に移動可能に設けられており、前記搬送ローラは、それぞれの回転軸が互いに非平行に延びる一対の回転ローラからなるネルソンローラで構成されており、前記樹脂含浸部では、樹脂を吐出する吐出ノズルから前記強化繊維束の一方の面に樹脂を塗布することを特徴とするトウプリプレグ製造装置。
【符号の説明】
【0087】
A…搬送方向
B…搬送方向と直交する方向
F…炭素繊維束(強化繊維束)
P…樹脂
S1~S10…ストローク幅(移動ストローク)
T…トウプリプレグ
Ta…塗布面
Tb…非塗布面
2…樹脂含浸部
10…トウプリプレグ製造装置
15…ネルソンローラ(搬送ローラ)
16…ダンサーローラ(搬送ローラ)
17…横振り抑制ローラ(搬送ローラ)
20…搬送ローラ
21…巻取りボビン
21a…回転軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7