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特許7577559弾性波デバイス、ウエハ、フィルタおよびマルチプレクサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】弾性波デバイス、ウエハ、フィルタおよびマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/25 20060101AFI20241028BHJP
   H03H 9/64 20060101ALI20241028BHJP
   H03H 9/72 20060101ALI20241028BHJP
【FI】
H03H9/25 C
H03H9/64 Z
H03H9/72
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021022002
(22)【出願日】2021-02-15
(65)【公開番号】P2022124310
(43)【公開日】2022-08-25
【審査請求日】2024-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004370
【氏名又は名称】弁理士法人片山特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 慎二
【審査官】福田 正悟
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/111893(WO,A1)
【文献】特開2001-170487(JP,A)
【文献】特開2020-136783(JP,A)
【文献】特開2018-195936(JP,A)
【文献】特開2020-205621(JP,A)
【文献】特開平03-049312(JP,A)
【文献】特開2009-55625(JP,A)
【文献】特開2008-54277(JP,A)
【文献】特開2008-54276(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/25
H03H 9/64
H03H 9/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と、
前記支持基板上に設けられた圧電層と、
前記圧電層上に設けられ、弾性波を励振する複数の電極指を備える少なくとも一対の櫛型電極と、
前記支持基板と前記圧電層との間に設けられ、酸化シリコンを主成分とする第2の中間層と、
前記支持基板と前記第2の中間層との間に設けられ、前記圧電層より厚く、バルク波の音速が前記第2の中間層におけるバルク波の音速より速い、多孔質である中間層と、
を備え
前記中間層の空隙率は0.1%以上かつ20%以下である弾性波デバイス。
【請求項2】
前記第2の中間層は前記中間層より空隙率低い請求項1に記載の弾性波デバイス。
【請求項3】
前記中間層は柱状構造を有し、多孔質の細孔は結晶粒の粒界に設けられている請求項1または2に記載の弾性波デバイス。
【請求項4】
支持基板と、
前記支持基板上に設けられた圧電層と、
前記圧電層上に設けられ、弾性波を励振する複数の電極指を備える少なくとも一対の櫛型電極と、
前記支持基板と前記圧電層との間に設けられ、前記圧電層より厚い中間層と、
前記中間層と前記圧電層との間に設けられ、前記中間層と同じく酸化シリコンを主成分有し、バルク波の音速が前記中間層におけるバルク波の音速より遅く、前記中間層の密度より大きい密度を有する第2の中間層と、
を備え
前記中間層の空隙率は0.1%以上かつ20%以下である弾性波デバイス。
【請求項5】
前記支持基板は、サファイア基板、スピネル基板、石英基板、水晶基板、又はアルミナ基板である請求項1から4のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項6】
前記中間層は前記第2の中間層より厚い請求項1から5のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項7】
前記圧電層の厚さは、前記一対の櫛型電極の一方の櫛型電極が有する電極指の平均のピッチより小さい請求項1から6のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項8】
前記第2の中間層の前記支持基板側の面と前記圧電層の前記一対の櫛型電極側の面との間の距離は、前記複数の電極指の平均ピッチの4倍以下である請求項1から7のいずれか一項に記載の弾性波デバイス。
【請求項9】
支持基板と、
前記支持基板上に設けられた圧電層と、
前記支持基板と前記圧電層との間に設けられ、酸化シリコンを主成分とする第2の中間層と、
前記支持基板と前記第2の中間層との間に設けられ、酸化アルミニウム膜、シリコン膜、窒化アルミニウム膜、窒化シリコン膜、または炭化シリコン膜であり、前記圧電層より厚く、多孔質である中間層と、
を備え、
前記中間層の空隙率は0.1%以上かつ20%以下であるウエハ。
【請求項10】
請求項1からのいずれか一項に記載の弾性波デバイスを備えるフィルタ。
【請求項11】
請求項10に記載のフィルタを備えるマルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波デバイス、ウエハ、フィルタおよびマルチプレクサに関し、例えば基板と圧電層との間に中間層を有する弾性波デバイス、ウエハ、フィルタおよびマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン等の通信機器に用いられる弾性波共振器として、弾性表面波共振器が知られている。圧電層の厚さを弾性表面波の波長以下とすることが知られている(例えば特許文献1)。圧電層と支持基板との間に温度補償膜や低音速膜等の中間層を設けることが知られている(例えば特許文献2~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-034363号公報
【文献】特開2015-115870号公報
【文献】米国特許第10020796号明細書
【文献】国際公開第2017/043427号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
中間層を設けることで、弾性波デバイスの特性が向上する。しかしながら、中間層が圧電層より厚くなると、中間層の内部応力により支持基板等のウエハが反る。これにより、弾性波デバイスを製造するプロセスにおいて、様々な問題が生じる。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、支持基板の反りを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、支持基板と、前記支持基板上に設けられた圧電層と、前記圧電層上に設けられ、弾性波を励振する複数の電極指を備える少なくとも一対の櫛型電極と、前記支持基板と前記圧電層との間に設けられ、酸化シリコンを主成分とする第2の中間層と、前記支持基板と前記第2の中間層との間に設けられ、前記圧電層より厚く、バルク波の音速が前記第2の中間層におけるバルク波の音速より速い、多孔質である中間層と、を備え、前記中間層の空隙率は0.1%以上かつ20%以下である弾性波デバイスである。。
【0007】
上記構成において、前記第2の中間層は前記中間層より空隙率低い構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記中間層は柱状構造を有し、多孔質の細孔は結晶粒の粒界に設けられている構成とすることができる。
【0010】
本発明は、支持基板と、前記支持基板上に設けられた圧電層と、前記圧電層上に設けられ、弾性波を励振する複数の電極指を備える少なくとも一対の櫛型電極と、前記支持基板と前記圧電層との間に設けられ、前記圧電層より厚い中間層と、前記中間層と前記圧電層との間に設けられ、前記中間層と同じく酸化シリコンを主成分有し、バルク波の音速が前記中間層におけるバルク波の音速より遅く、前記中間層の密度より大きい密度を有する第2の中間層と、を備え、前記中間層の空隙率は0.1%以上かつ20%以下である弾性波デバイスである。
【0011】
上記構成において、前記支持基板は、サファイア基板、スピネル基板、石英基板、水晶基板、又はアルミナ基板である構成とすることができる。上記構成において、前記中間層は前記第2の中間層より厚い構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記圧電層の厚さは、前記一対の櫛型電極の一方の櫛型電極が有する電極指の平均のピッチより小さい構成とすることができる。上記構成において、前記第2の中間層の前記支持基板側の面と前記圧電層の前記一対の櫛型電極側の面との間の距離は、前記複数の電極指の平均ピッチの4倍以下である構成とすることができる。
【0013】
本発明は、支持基板と、前記支持基板上に設けられた圧電層と、前記支持基板と前記圧電層との間に設けられ、酸化シリコンを主成分とする第2の中間層と、前記支持基板と前記第2の中間層との間に設けられ、酸化アルミニウム膜、シリコン膜、窒化アルミニウム膜、窒化シリコン膜、または炭化シリコン膜であり、前記圧電層より厚く、多孔質である中間層と、を備え、前記中間層の空隙率は0.1%以上かつ20%以下であるウエハである。
【0015】
本発明は、上記弾性波デバイスを備えるフィルタである。
【0016】
本発明は、上記フィルタを備えるマルチプレクサである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、支持基板の反りを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1(a)および図1(b)は、実施例1における弾性波共振器の平面図および断面図である。
図2図2(a)から図2(c)は、比較例および実施例における中間層の断面模式図である。
図3図3(a)から図3(c)は、比較例および実施例における中間層の断面模式図である。
図4図4(a)から図4(d)は、実施例1における弾性波共振器の製造方法を示す断面図である。
図5図5は、実験における各サンプルの接合前後におけるウエハ反り量(BOW)を示す図である。
図6図6(a)および図6(b)は、それぞれ実施例1の変形例1および2における弾性波共振器の断面図である。
図7図7(a)および図7(b)は、それぞれ実施例1の変形例3および4における弾性波共振器の断面図である。
図8図8(a)は、実施例2に係るフィルタの回路図、図8(b)は、実施例2の変形例1に係るデュプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照し本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0020】
実施例1では弾性波デバイスが弾性波共振器を有する例を説明する。図1(a)および図1(b)は、実施例1における弾性波共振器の平面図および断面図である。電極指の配列方向をX方向、電極指の延伸方向をY方向、支持基板および圧電層の積層方向をZ方向とする。X方向、Y方向およびZ方向は、圧電層の結晶方位のX軸方向およびY軸方向とは必ずしも対応しない。圧電層が回転YカットX伝搬基板の場合、X方向は結晶方位のX軸方向となる。
【0021】
図1(a)および図1(b)に示すように、支持基板10上に圧電層14が設けられている。支持基板10と圧電層14との間に中間層12が設けられている。中間層12と支持基板10との間に中間層11が設けられている。中間層12と圧電層14との間に接合層13が設けられている。中間層11、12および接合層13は、積層膜15を形成する。積層膜15の下面および上面はそれぞれ支持基板10および圧電層14に接する。中間層11、12、接合層13、圧電層14および積層膜15の厚さはそれぞれT1、T2、T3、T4およびT5である。
【0022】
圧電層14上に弾性波共振器26が設けられている。弾性波共振器26はIDT22および反射器24を有する。反射器24はIDT22のX方向の両側に設けられている。IDT22および反射器24は、圧電層14上の金属膜16により形成される。
【0023】
IDT22は、対向する一対の櫛型電極20を備える。櫛型電極20は、複数の電極指18と、複数の電極指18が接続されたバスバー19と、を備える。一対の櫛型電極20の電極指18が交差する領域が交差領域25である。交差領域25のY方向の長さが開口長である。一対の櫛型電極20は、交差領域25の少なくとも一部において電極指18がほぼ互い違いとなるように、対向して設けられている。交差領域25において複数の電極指18が励振する弾性波は、主にX方向に伝搬する。一対の櫛型電極20のうち一方の櫛型電極20の電極指18のピッチがほぼ弾性波の波長λとなる。複数の電極指18のピッチ(電極指18の中心間のピッチ)をDとすると、一方の櫛型電極20の電極指18のピッチは電極指18の2本分のピッチDとなる。反射器24は、IDT22の電極指18が励振した弾性波(弾性表面波)を反射する。これにより弾性波はIDT22の交差領域25内に閉じ込められる。
【0024】
圧電層14は、例えば単結晶タンタル酸リチウム(LiTaO)層または単結晶ニオブ酸リチウム(LiNbO)層であり、例えば回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム層または回転YカットX伝搬ニオブ酸リチウム層である。
【0025】
支持基板10は、例えばサファイア基板、シリコン基板、スピネル基板、石英基板、水晶基板、アルミナ基板または炭化シリコン基板である。サファイア基板は単結晶Al基板であり、シリコン基板は単結晶または多結晶のシリコン基板であり、スピネル基板は多結晶MgAl基板であり、石英基板はアモルファスSiO基板であり、水晶基板は単結晶SiO基板であり、炭化シリコン基板は多結晶または単結晶のSiC基板である。支持基板10のX方向の線膨張係数は圧電層14のX方向の線膨張係数より小さい。これにより、弾性波共振器の周波数温度依存性を小さくできる。
【0026】
中間層12は、例えば温度補償膜であり、圧電層14の弾性定数の温度係数の符号と反対の符号の弾性定数の温度係数を有する。例えば圧電層14の弾性定数の温度係数は負であり、中間層12の弾性定数の温度係数は正である。中間層12は、例えば無添加または弗素等の添加元素を含む酸化シリコン(SiO)膜等の絶縁層であり、例えばアモルファス層である。これにより、弾性波共振器の周波数温度係数を小さくできる。中間層12が酸化シリコン膜の場合、中間層12を伝搬するバルク波の音速は圧電層14を伝搬するバルク波の音速より遅くなる。
【0027】
中間層11は境界層または高音速層であり、中間層11を伝搬するバルク波の音速は、中間層12を伝搬するバルク波の音速より速い。これにより、圧電層14および中間層12内に弾性波が閉じ込められる。さらに、中間層11を伝搬するバルク波の音速は、支持基板10を伝搬するバルク波の音速より遅い。中間層11は、例えば多結晶または非晶質であり、例えば、酸化アルミニウム膜、シリコン膜、窒化アルミニウム膜、窒化シリコン膜または炭化シリコン膜等の絶縁層である。中間層11として材料の異なる複数の層が設けられていてもよい。
【0028】
接合層13を伝搬するバルク波の音速は、中間層12を伝搬するバルク波の音速より速い。接合層13は、例えば多結晶または非晶質であり、例えば、酸化アルミニウム膜、シリコン膜、窒化アルミニウム膜、窒化シリコン膜または炭化シリコン膜である。
【0029】
金属膜16は、例えばAl(アルミニウム)、Cu(銅)またはモリブデン(Mo)を主成分とする膜である。電極指18と圧電層14との間にTi(チタン)膜またはCr(クロム)膜等の密着膜が設けられていてもよい。密着膜は電極指18より薄い。電極指18を覆うように酸化シリコン膜または窒化シリコン膜等の絶縁膜が設けられていてもよい。絶縁膜は保護膜または温度補償膜として機能する。
【0030】
弾性波の波長λは例えば1μmから6μmである。2本の電極指18を1対としたときの対数は例えば20対から300対である。IDT22のデュティ比は、電極指18の太さ/電極指18のピッチであり、例えば30%から70%である。IDT22の開口長は例えば10λから50λである。
【0031】
IDT22は圧電層14内に主モードである弾性表面波を励振する。このとき、IDT22はバルク波等の不要波も励振する。弾性表面波のエネルギーが存在する範囲は圧電層14の上面から2λ(λは弾性波の波長)程度の深さまであり、特に圧電層14の上面からλまでの範囲に存在する。一方、バルク波等の不要波は圧電層14の上面から10λ以上まで存在する。不要波が下方に伝搬してゆくと、弾性波のエネルギーが漏洩し、損失が大きくなる。一方、支持基板10までの界面でバルク波が反射しIDT22に戻るとスプリアスの原因となる。
【0032】
図2(a)から図3(c)は、比較例および実施例における中間層11の断面模式図である。図2(a)および図3(a)は比較例に相当し、図2(b)、図2(c)、図3(b)および図3(c)は実施例に相当する。図2(a)に示すように、比較例における中間層11aは非多孔質あり、中間層11aには細孔はほとんど形成されていない。図2(b)に示すように、中間層11bは多孔質であり、中間層11bには細孔30が設けられている。図2(c)に示すように、中間層11cは多孔質であり、中間層11cには中間層11bより多く細孔30が設けられている。すなわち、中間層11cは11bより空隙率が大きい。なお、空隙率は、ポロシティ(porosity)であり、中間層11bおよび11cの全体の体積に対する細孔30の合計の体積の比である。
【0033】
図3(a)に示すように、中間層11dは柱状の結晶粒32を有する柱状構造である。結晶粒32の間は粒界34である。結晶粒32はZ方向に延伸する。すなわち結晶粒32のZ方向の幅はX方向の幅より大きい。結晶粒32の少なくとも1つは中間層11dの下面から上面まで設けられている。柱状構造は、スパッタリング法を用いることにより形成できる。図3(b)に示すように、中間層11eには、粒界34に細孔30が形成されている。細孔30は粒界34に沿って延伸する。このため、細孔30のZ方向の幅はX方向の幅より大きい。図3(c)に示すように、中間層11fには、中間層11eより大きな細孔30が形成されている。中間層11fは11eより空隙率が大きい。Thornton Zone Modelによれば、中間層11をスパッタリング法により成膜する場合、基板温度を低くし、かつガス圧を高くすると中間層11は中間層11eおよび11fのような多孔質の柱状構造となる。ガス圧が低い条件においてスパッタリング法により非多孔質である中間層11dを成膜することができる。ガス圧を高くすることで多孔質である中間層11eを成膜することができ、ガス圧をより高くすることで空隙率の大きい多孔質である中間層11fを成膜することができる。
【0034】
図4(a)から図4(d)は、実施例1における弾性波共振器の製造方法を示す断面図である。図4(a)に示すように、支持基板10上に中間層11を形成する。スパッタリング法を用い中間層11を形成するときに、希ガス(例えばアルゴン)のガス圧を高くすると、図3(b)および図3(c)のように、中間層11内に細孔30が形成される。中間層11の形成には真空蒸着法またはCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いてもよい。図4(b)に示すように、中間層11上に中間層12を、中間層12上に接合層13を形成する。中間層12および接合層13の形成には、例えばスパッタリング法、真空蒸着法またはCVD法を用いる。中間層11、12および接合層13により積層膜15が形成される。
【0035】
図4(c)に示すように、接合層13上に圧電層14を接合する。圧電層14の接合には、例えば表面活性化法を用いる。図4(d)に示すように、圧電層14の上面を研磨または研削することにより圧電層14を薄膜化する。圧電層14の薄膜化には例えばCMP(Chemical Mechanical Polishing)法を用いる。これにより、ウエハが完成する。その後、圧電層14上に金属膜16を真空蒸着法およびリフトオフ法を用い形成する。これにより、圧電層14上に弾性波共振器26が形成される。金属膜16はスパッタリング法およびエッチング法を用い形成してもよい。
【0036】
[実験]
中間層11の成膜条件を変え、ウエハの反り量を測定した。ウエハの作製条件は以下である。
支持基板10:厚さが500μmのサファイア基板
中間層11:厚さT1が7.2λの酸化アルミニウム層
中間層12:厚さT2が0.2λの酸化シリコン層
圧電層14:厚さT4が0.3λの42°回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム層
弾性波の波長λ:1.5μm
ウエハサイズ:4インチ
なお、接合層13の厚さT3は10nm程度のため接合層13が起因の応力はほぼ無視できる。
【0037】
成膜条件の異なる中間層11を用いたサンプルA~Cを作製した。中間層11を成膜はアルゴンガスを用いたスパッタリング法を用い、アルゴンガスのガス圧はA<B<Cである。サンプルA~Cと同じ条件で成膜した中間層11の密度を測定した。各サンプルの中間層11の密度は以下である。
サンプルA:3.17g/cm
サンプルB:3.15g/cm
サンプルC:3.08g/cm
以上のように、中間層11の成膜時におけるガス圧を高くすると中間層11の密度が低くなる。サンプルAの中間層11は、図3(a)の中間層11dのように柱状構造を有し細孔がほとんど存在しない非多孔質と考えられる。サンプルBの中間層11は、図3(b)の中間層11eのように、柱状構造を有し多孔質と考えられる。サンプルCの中間層11は、図3(c)の中間層11fのように、柱状構造を有しサンプルBの中間層11より空隙率が高い多孔質と考えられる。サンプルAの中間層11が非多孔質であり、サンプルA~Cの密度の差が空隙率のみによって決まっていると仮定すると、サンプルA、BおよびCの空隙率は、それぞれ0%、約1%および約3%である。
【0038】
圧電層14を接合前(図4(b)において接合層13を形成する前)と、圧電層14を接合し、薄膜化した後(図4(d))におけるウエハの反り量を測定した。ウエハの反り量はBOWとした。BOWはウエハの中心の基準面からの距離に対応する。BOWが正のときウエハは凸に反り積層膜15の応力は圧縮応力である。BOWが負のときウエハは凹に反り積層膜15の応力は引張応力である。
【0039】
図5は、実験における各サンプルの接合前後におけるウエハ反り量(BOW)を示す図である。接合後のサンプルAではウエハの反りが大きすぎたため、圧電層14を接合することができなかった。図5に示すように、接合前では、サンプルBのBOWはサンプルAのBOWの約60%である。サンプルCのBOWはサンプルAのBOWの50%以下である。接合後では、サンプルCのBOWはサンプルBのBOWの約75%である。このように、中間層11を多孔質とすることにより、中間層11に起因する内部応力が緩和されウエハの反りが小さくなると考えられる。
【0040】
実施例1によれば、中間層11(第1中間層)は、支持基板10と圧電層14との間に設けられ、圧電層14より厚い。中間層11が厚い場合、中間層11の内部応力により、ウエハが反る。そこで、中間層11を多孔質とする。これにより、中間層11の内部応力が小さくなり、ウエハの反りを抑制できる。中間層11の厚さT1が圧電層14の厚さT4の1.5倍以上、2倍以上または3倍以上のとき、中間層11の内部応力によりウエハが反りやすくなる。よって、中間層11を多孔質とすることが好ましい。中間層11の内部応力を低減する観点から、中間層11の空隙率は0.1%以上が好ましく、0.5%以上がより好ましく、1.0%以上がさらに好ましい。中間層11の空隙率が大きすぎると中間層11としての機能(例えば高音速膜としての機能)が低下する。よって、中間層11の空隙率は20%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましい。
【0041】
中間層12は設けられていなくてもよいが、圧電層14の近くに中間層11が設けられていると、弾性波が細孔30により散乱され、損失が大きくなる。そこで、中間層12(第2の中間層)を中間層11と圧電層14との間に設け、中間層12の空隙率を中間層11の空隙率より低くする。これにより、弾性波が細孔30により散乱されにくくなり、損失を抑制できる。なお、中間層12が非多孔質のとき空隙率は0%である。損失の抑制の観点から、中間層12の空隙率は0.5%以下が好ましく、0.1%以下がより好ましく、中間層11の空隙率の1/2以下が好ましく、1/10以下がより好ましい。中間層12が薄すぎると、中間層12を設けても損失が低下してしまう。この観点から中間層12の厚さT2は圧電層14の厚さT4の1/10以上が好ましく、1/5以上がより好ましく、1/2以上がさらに好ましい。
【0042】
ウエハの反りを抑制する観点から、中間層11は厚いことが好ましい。この観点から、中間層11は中間層12より厚いことが好ましく、中間層11の厚さT1は中間層12の厚さT2の2倍以上がより好ましく、5倍以上がさらに好ましい。また、中間層11の厚さT1は積層膜15の厚さT5の1/4以上が好ましく、1/2以上がより好ましく、3/4以上がさらに好ましい。
【0043】
図3(b)および図3(c)のように、中間層11は柱状構造を有し、多孔質の細孔30は結晶粒32の粒界34に設けられている。これにより、多孔質の中間層11をスパッタリング法を用い形成できる。
【0044】
中間層12は、圧電層14の弾性定数の温度係数の符号と反対の弾性定数の温度係数の符号を有する。これにより、弾性波デバイスの周波数温度係数を小さくできる。このような材料として、中間層12は酸化シリコンを主成分とする。例えば、中間層12内のO濃度とSi濃度の合計が50原子%以上または80原子%以上である。O濃度およびSi濃度は例えば各々10原子%以上または20原子%以上である。中間層11におけるバルク波の音速は中間層12におけるバルク波の音速より速い。これにより、圧電層14および中間層12内に弾性波が閉じ込められる。中間層11を伝搬するバルク波の音速は、中間層12を伝搬するバルク波の音速の1.1倍以上が好ましく、1.2倍以上がより好ましい。また、中間層11を伝搬するバルク波の音速は中間層12を伝搬するバルク波の音速の2.0倍以下が好ましく、1.5倍以下がより好ましい。
【0045】
中間層12を伝搬するバルク波の音速は圧電層14を伝搬するバルク波の音速より速くてもよいが、中間層12を伝搬するバルク波の音速は圧電層14を伝搬するバルク波の音速より遅いことが好ましい。中間層12を伝搬するバルク波の音速は圧電層14を伝搬するバルク波の音速の0.99倍以下が好ましい。中間層12を伝搬するバルク波の音速が遅すぎると、圧電層14内に弾性波が存在しにくくなる。よって、中間層12を伝搬するバルク波の音速は圧電層14を伝搬するバルク波の音速の0.9倍以上が好ましい。
【0046】
弾性表面波のエネルギーが圧電層14の表面から2λまでの範囲にほとんど存在する場合には、主モードの弾性波のエネルギーを圧電層14および中間層12内に閉じ込め、かつスプリアス応答を抑制する観点から、中間層12の支持基板10側の面と圧電層14の櫛型電極20側の面との距離(T2+T3+T4)は複数の電極指18の平均ピッチDの4倍(2λ)以下が好ましく、3倍(1.5λ)以下がより好ましい。複数の電極指18の平均ピッチDは、IDT22のX方向の幅を電極指18の本数で除することで算出できる。
【0047】
中間層12に弾性波のエネルギーを存在させるため、圧電層14の厚さT4は、電極指18の平均ピッチDの2倍(λ)以下が好ましく、1.2倍(0.6λ)以下がより好ましい。圧電層14が薄すぎると、弾性波が励振されない。よって、圧電層14の厚さT4は、電極指18の平均ピッチDの0.2倍(0.1λ)以上が好ましい。
【0048】
中間層11の厚さT1が薄いと、スプリアスが大きくなる。この観点から、中間層11の厚さT1は電極指18の平均ピッチDの0.6倍(0.3λ)以上が好ましく、1.4倍(0.7λ)以上がより好ましく、2倍(λ)以上がさらに好ましく、4倍(2λ)以上がさらに好ましい。
【0049】
接合層13の厚さT3は、圧電層14および中間層12の機能を損なわない観点から、20nm以下が好ましく、10nm以下がより好ましい。接合層13としての機能を損なわない観点から、厚さT3は、1nm以上が好ましく、2nm以上がより好ましい。接合層13は設けなくてもよい。
【0050】
圧電層14は、タンタル酸リチウムまたはニオブ酸リチウムを主成分とする単結晶であり、中間層12は酸化シリコンを主成分とする多結晶または非晶質であり、中間層11および接合層13は酸化アルミニウムを主成分とする多結晶または非晶質であり、支持基板10はサファイア基板または炭化シリコン基板である。なお、ある膜または層がある材料を主成分とするとは、ある膜または層が意図的または意図せず不純物を含むことを許容し、例えばある材料を50原子%以上含むことであり、80原子%以上含むことである。
【0051】
一対の櫛型電極20が励振する弾性波が主にSH(Shear Horizontal)波であるとき、不要波としてバルク波が励振しやすい。圧電層14が36°以上かつ48°以下回転Yカットタンタル酸リチウム層のとき、SH波が励振される。一対の櫛型電極20が主に励振する弾性波は、SH波に限らず例えばLamb波であってもよい。
【0052】
[実施例1の変形例1]
図6(a)は、実施例1の変形例1における弾性波共振器の断面図である。図6(a)に示すように、実施例1の変形例1では、接合層13が設けられていない。中間層11は、中間層12より厚く、かつ圧電層14より厚い。中間層11は多孔質であり、中間層12は非多孔質である。一例として、中間層11は酸化アルミニウムを主成分とし中間層12は酸化シリコンを主成分とする。このように、中間層11と12の主成分は異なっていてもよい。他の一例として、中間層11および12は酸化シリコンを主成分としてもよい。このように、中間層11と12の主成分は同じでもよい。その他の構成は実施例1の図1(a)および図1(b)と同じであり説明を省略する。
【0053】
中間層12の主成分が中間層11の主成分と同じ場合、例えば、中間層11および12がいずれも酸化シリコンまたは酸化アルミニウムを主成分とする場合、中間層12の密度は中間層11の密度より大きい。これにより、中間層11の内部応力によりウエハが反ることを抑制できる。中間層11および12の密度をそれぞれρ12およびρ11としたとき、(ρ12-ρ11)/ρ11×100[%]は0.1%以上が好ましく、0.5%以上が好ましく1.0%以上がさらに好ましい。中間層11の密度が小さすぎると中間層11としての機能(例えば高音速膜としての機能)が低下する。よって、(ρ12-ρ11)/ρ11×100[%]は20%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましい。
【0054】
[実施例1の変形例2]
図6(b)は、実施例1の変形例2における弾性波共振器の断面図である。図6(b)に示すように、実施例1の変形例2では、中間層11は、中間層12より薄く、かつ圧電層14より厚い。中間層11は多孔質であり、中間層12は非多孔質である。その他の構成は実施例1の変形例1と同じであり説明を省略する。
【0055】
[実施例1の変形例3]
図7(a)は、実施例1の変形例3における弾性波共振器の断面図である。図7(a)に示すように、実施例1の変形例3では、中間層11と12との間に中間層17が設けられている。中間層12は非多孔質である。中間層17は、多孔質でもよく、非多孔質でもよい。中間層17が多孔質の場合、中間層11は多孔質でもよく、非多孔質でもよい。中間層11および17が多孔質の場合、中間層17の空隙率は、中間層11の空隙率と同じでもよいし、異なっていてもよい。例えば中間層17の空隙率は中間層11の空隙率より小さい。中間層17の主成分は、中間層11の主成分と同じでもよく、中間層12の主成分と同じでもよく、中間層11および12のいずれの主成分と異なっていてもよい。中間層17は中間層11より薄くてもよく厚くてもよい。
【0056】
一例として、中間層11および17は酸化アルミニウムを主成分とし中間層12は酸化シリコンを主成分とする。中間層11および17は多孔質であり、中間層12は非多孔質であり、中間層17の空隙率は中間層11の空隙率より小さい。他の一例として、中間層11は酸化アルミニウムを主成分とし中間層17および12は酸化シリコンを主成分とする。中間層11は非多孔質または多孔質であり、中間層17は多孔質であり、中間層12は非多孔質である。その他の構成は実施例1の変形例1と同じであり説明を省略する。
【0057】
[実施例1の変形例4]
図7(b)は、実施例1の変形例4における弾性波共振器の断面図である。図7(b)に示すように、実施例1の変形例4では、中間層11と12との間に中間層17aおよび17bが設けられている。中間層12は非多孔質である。中間層17aおよび17bは、多孔質でもよく、非多孔質でもよい。中間層17aまたは17bが多孔質の場合、中間層11は多孔質でもよく、非多孔質でもよい。中間層11、17aおよび17bの少なくとも2層が多孔質の場合、少なくとも2層の多孔質の層の空隙率は、互いに同じでもよいし、異なっていてもよい。中間層17aおよび17bの主成分は中間層11の主成分と同じでもよく、中間層12の主成分と同じでもよく、中間層11および12のいずれの主成分と異なっていてもよい。中間層17aおよび17bは中間層11より薄くてもよく厚くてもよい。
【0058】
一例として、中間層11、17aおよび17bは酸化アルミニウムを主成分とし中間層12は酸化シリコンを主成分とする。中間層11および17aは多孔質であり、中間層17bおよび12は非多孔質であり、中間層17aの空隙率は中間層11の空隙率より小さい。他の一例として、中間層11および17aは酸化アルミニウムを主成分とし中間層17bおよび12は酸化シリコンを主成分とする。中間層11、17aおよび17bは多孔質であり、中間層17aの空隙率は中間層11の空隙率より小さい。中間層12は非多孔質である。その他の構成は実施例1の変形例1と同じであり説明を省略する。
【0059】
圧電層14に近い中間層の空隙率が大きいと弾性波が細孔により散乱され、損失が大きくなる。そこで、実施例1の変形例3および4のように、中間層が3層以上の場合、圧電層14に近い中間層の空隙率を小さくすることが好ましい。例えば実施例1の変形例4の図7(b)において、中間層11の空隙率>中間層17aの空隙率>中間層17bの空隙率>中間層12の空隙率である。
【実施例2】
【0060】
図8(a)は、実施例2に係るフィルタの回路図である。図8(a)に示すように、入力端子Tinと出力端子Toutとの間に、1または複数の直列共振器S1からS3が直列に接続されている。入力端子Tinと出力端子Toutとの間に、1または複数の並列共振器P1およびP2が並列に接続されている。1または複数の直列共振器S1からS3および1または複数の並列共振器P1およびP2の少なくとも1つに実施例1およびその変形例の弾性波共振器を用いることができる。ラダー型フィルタの共振器の個数等は適宜設定できる。フィルタは、一対の櫛型電極を2対以上有する多重モード型フィルタでもよい。
【0061】
[実施例2の変形例1]
図8(b)は、実施例2の変形例1に係るデュプレクサの回路図である。図8(b)に示すように、共通端子Antと送信端子Txとの間に送信フィルタ40が接続されている。共通端子Antと受信端子Rxとの間に受信フィルタ42が接続されている。送信フィルタ40は、送信端子Txから入力された高周波信号のうち送信帯域の信号を送信信号として共通端子Antに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。受信フィルタ42は、共通端子Antから入力された高周波信号のうち受信帯域の信号を受信信号として受信端子Rxに通過させ、他の周波数の信号を抑圧する。送信フィルタ40および受信フィルタ42の少なくとも一方を実施例2のフィルタとすることができる。
【0062】
マルチプレクサとしてデュプレクサを例に説明したがトリプレクサまたはクワッドプレクサでもよい。
【0063】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0064】
10 支持基板
11、12、17、17a、17b 中間層
13 接合層
15 積層膜
16 金属膜
18 電極指
20 櫛型電極
22 IDT
26 弾性波共振器
40 送信フィルタ
42 受信フィルタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8