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  • 特許-ピニオンシャフト 図1
  • 特許-ピニオンシャフト 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】ピニオンシャフト
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/08 20060101AFI20241028BHJP
【FI】
F16H57/08
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021049534
(22)【出願日】2021-03-24
(65)【公開番号】P2022148022
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2024-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山内 清茂
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】実開平05-075548(JP,U)
【文献】実開平07-022159(JP,U)
【文献】特開2009-192072(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0258528(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2021-0014867(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピニオンギヤの中心孔に設けられる軸受に通されて前記ピニオンギヤを回転自在に支持するピニオンシャフトと、
前記ピニオンシャフトの内部に形成されて前記ピニオンシャフトの一端から他端に向かって延びる縦孔と、
前記ピニオンシャフトの内部に形成されて前記縦孔と接続する入口孔と、
前記ピニオンシャフトの内部に形成されて前記縦孔と接続し、前記縦孔および前記軸受を連通する出口孔と、
前記縦孔の一端に圧入されて当該縦孔を閉塞する止め栓とを備える構造において、
前記止め栓は、中実であり、銅の含有量が55質量%以上、且つ亜鉛の含有量が45質量%以下の合金製であり、表面硬さがビッカース硬さで80HV以上200HV以下であり、前記止め栓の軸心に対して10°以上30°以下の範囲に含まれる所定の勾配のテーパ面を両端部外周に有することを特徴とする、ピニオンシャフト構造。
【請求項2】
前記止め栓の外径寸法の公差範囲が、0.040[mm]以下に設定される、請求項1に記載のピニオンシャフト構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピニオンを回転自在に支持するピニオンシャフトに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のトランスミッションの遊星歯車機構において、遊星歯車(ピニオンギヤ)の中心孔には、ピニオンシャフトが通され、ピニオンシャフトは転がり軸受を介して遊星歯車を回転自在に支持する構造が広く知られている。ピニオンシャフト外周の転がり軸受に潤滑油を供給するために、ピニオンシャフトの軸心には、潤滑油が流れる経路(軸方向に延びる中心孔)が設けられる。またピニオンシャフトは、加工上避けられない中心孔の端部開口を閉塞するための止め栓を有する。
【0003】
このようなピニオンシャフトとして、例えば実用新案登録第2604564号公報(特許文献1)の図面に示されるように、シャフトの軸心に潤滑油が流れる中心孔を穿設し、中心孔の端を止め栓で閉塞する構造が知られている。従来の止め栓は断面U字状または断面略コ字状の略お椀形であり、ピニオンシャフトの中心孔に圧入される。止め栓は、SPCC材等の低炭素鋼の平板から略お椀形にプレス成形され、次に、浸炭窒化処理や焼入等の熱処理により強度を高められることが一般的である。
【0004】
かかる一般的な止め栓の場合、止め栓に必要な強度を確保するべく熱処理を施されるため、寸法精度のばらつきが大きくなり、中心孔から止め栓が抜けてしまう恐れがある。そして中心孔から止め栓が抜けないように、止め栓の寸法のばらつきを小さくするための管理コストや、上述した熱処理をすること自体がコストアップの原因にもなる。そこで、特許第4911062号公報(特許文献2)に詳細に記載されるような熱処理をしない止め栓が提案されている。これにより止め栓は、後述のように寸法精度のばらつきを小さくされ、中心孔端の開口から抜け難くされ、安価になるというものである。
【0005】
具体的には、特許文献2記載の止め栓では、その材質がJIS規格で規定されるSPCC材に加え、SCM415、S30Cが例示されており、炭素の含有量が0.3質量%以下の鋼板から成形され、焼入硬化されておらず、表面硬さがHV(ビッカース硬さ)で100以上300以下とされている。特許文献2記載の止め栓は、プレス成形等の成形法により製造され、断面略U字状の略お椀型か、断面略コ字状の略お椀型にされる。止め栓の外径(直径)および中心孔開口部の内径(直径)は基準寸法6[mm]とされる。
【0006】
また特許文献2では、止め栓の外径(直径)と中心孔開口部の内径(直径)とによって、止め栓が中心孔開口部から抜けるために必要な力、抜け荷重、を制御する。具体的には、止め栓の外径(直径)が6[mm]の場合は、止め栓の外径(直径)の公差範囲は最小-0.01[mm]、最大+0.05[mm]に設定される。これに対し、中心孔開口部の内径(直径)の公差範囲は、最小-0.02[mm]、最大+0.01[mm]に設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】実用新案登録第2604564号公報
【文献】特許第4911062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
熱処理をしない場合であっても、そもそも略お椀形の止め栓は、成形加工の特性上、外径寸法のばらつきが大きい。このため、抜け荷重のばらつきを小さくするには、止め栓が圧入される中心孔の端部開口の内径(直径)公差を小さくする(例えば、内径の公差範囲を0.03[mm]以下に管理する)必要がある。一方で、内径(直径)寸法を0.03[mm]以下に管理する精度の内径加工では、穴あけ加工および仕上げ加工が必要とされる事情により、中心孔の内径の公差範囲を0.03[mm]以下に管理することは、中心孔に要する加工工数の増加や管理工数の増加によるコストアップや不良率が増加することによる廃棄金額の増加、歩留まりの低下を招いていた。
【0009】
また特許文献2の止め栓には熱処理が施されておらず、その形状が断面略コ字状の略お椀形であるため、ピニオンシャフトの中心孔に止め栓を圧入する際に当該止め栓が座屈変形して抜け荷重が低下し、ひいては潤滑油の漏れを招く懸念がある。
【0010】
本発明は、上述の実情に鑑み、寸法精度のばらつきが大きい従来の止め栓よりも寸法精度が良く、ピニオンシャフトの孔から抜け難い止め栓を提供することを第1の目的とする。また、従来よりも孔の加工工数および管理工数を軽減することができる技術を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的のため本発明によるピニオンシャフト構造は、ピニオンギヤの中心孔に設けられる軸受に通されてピニオンギヤを回転自在に支持するピニオンシャフトと、ピニオンシャフトの内部に形成されてピニオンシャフトの一端から他端に向かって延びる縦孔と、ピニオンシャフトの内部に形成されて縦孔と接続する入口孔と、ピニオンシャフトの内部に形成されて縦孔と接続し、縦孔および軸受を連通する出口孔と、縦孔の一端に圧入されて当該縦孔を閉塞する止め栓とを備える構造において、止め栓は、中実であり、銅の含有量が55質量%以上、且つ亜鉛の含有量が45質量%以下の合金製であり、表面硬さがビッカース硬さで80HV~200HVであり、止め栓の軸心に対して10°~30°の範囲に含まれる所定の勾配のテーパ面を両端部外周に有することを特徴とする。
【0012】
かかる本発明によれば、止め栓が略お椀形ではなく中実であることから、止め栓の座屈変形を防止することができる。そして、止め栓外径の公差範囲が従来の略お椀形よりも小さくされて、止め栓の寸法精度が従来よりも改善される。その結果、止め栓が圧入される縦孔の端部開口の内径寸法の公差範囲を従来よりも大きくし得て、縦孔の内径寸法の管理が従来よりも軽減される。本発明によれば、従来よりも止め栓の抜けおよび潤滑油の漏れが改善される。また、ピニオンシャフト構造の廃棄率が従来よりも低下し、歩留まりが良くなる。また止め栓の表面硬さ(ビッカース硬さ)がピニオンシャフトよりも柔らかくされ、止め栓が端部開口に弾性変形しながら圧入されることによって、止め栓の表面が端部開口に馴染み、端部開口を閉塞して抜けを防止する。また止め栓の熱処理が不要になり、コストダウンを図ることができる。
【0013】
本発明の一局面として、止め栓の外径寸法の公差範囲が0.040[mm]以下に設定される。かかる局面によれば、止め栓の外径寸法のばらつきが従来よりも小さくなることから、止め栓の寸法精度が従来よりも改善され、ピニオンシャフトの縦孔から止め栓が抜け難くされる。また止め栓が圧入される側であるピニオンシャフトの縦孔の内径寸法の公差範囲を従来よりも大きくすることができる。したがってピニオンシャフトの縦孔の加工工数および管理工数を従来よりも軽減することができ、ピニオンシャフトの歩留まりが向上し、ひいてはコストダウンを図ることができる。
【発明の効果】
【0014】
このように本発明によれば、止め栓の寸法精度が従来よりも改善され、ピニオンシャフトの縦孔から止め栓が抜け難くされる。また、止め栓の寸法精度が良くなることから、ピニオンシャフトの縦孔の加工工数および管理工数を従来よりも軽減することができ、ピニオンシャフトの歩留まりが向上し、ひいてはコストダウンを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態になるピニオンシャフト構造を示す縦断面図である。
図2】同実施形態の止め栓を取り出して示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態になるピニオンシャフト構造を示す縦断面図である。図2は、同実施形態の止め栓を取り出して示す側面図である。
【0017】
図1を参照して本実施形態のピニオンシャフト構造10は、自動車に設けられるトランスミッションの遊星歯車機構の一部であって、ピニオンギヤ11と、ピニオンシャフト21と、転がり軸受31を備える。ピニオンギヤ11は外歯歯車であり、中心孔12を有する。中心孔12は、ピニオンギヤ11の一端面から他端面までピニオンギヤ11を貫通して延びる。
【0018】
ピニオンギヤ11の中心孔12には、円柱状のピニオンシャフト21が通され、ピニオンギヤ11の内周面(中心孔12)とピニオンシャフト21の外周面によって区画される環状空間に転がり軸受31が設置される。
【0019】
転がり軸受31は、保持器32および複数のころ33を有する。複数のころ33は、ピニオンギヤ11の内周面(中心孔)を外側軌道面とし、ピニオンシャフト21外周面を内側軌道面とし、これらの軌道面上を転動する。保持器32は、周方向に間隔を空けて配置される複数のポケットを有し、各ポケットには各ころ33が設置されて、複数のころ33、33、・・・の間隔を保持する。転がり軸受31の外/内側軌道面を構成するピニオンギヤ11およびピニオンシャフト21は、強度の大きな材料、例えば軸受鋼、炭素鋼、肌焼鋼で構成される。
【0020】
ピニオンシャフト21の両端は、ピニオンギヤ11から突出する。これらの端部にはキャリア22が取付固定される。ピニオンギヤ11は遊星歯車を構成し、図示しないサンギヤおよびリングギヤと噛合して、サンギヤの周りを公転しながら自転する。キャリア22は、ピニオンギヤ11の公転を出入力するものであって、サンギヤおよびリングギヤと同軸に配置され、サンギヤの中心軸回りに回転する。ピニオンシャフト21を中心とするピニオンギヤ11の自転に際し、ピニオンシャフト21は転がり軸受31を介してピニオンギヤ11を回転自在に支持する。またピニオンシャフト21は、ピニオンギヤ11の中心孔12に設けられる転がり軸受31に潤滑油を供給する潤滑構造を具備する。
【0021】
かかる潤滑構造は、ピニオンシャフト21の内部に形成される入口孔23と、縦孔24と、出口孔25を有する。縦孔24は、ピニオンシャフト21の一端から穿設され、他端に向かって延びる。本実施形態では、縦孔24の軸心がピニオンシャフト21の中心軸線を表す直線(以下、軸線という)と一致する。
【0022】
ピニオンシャフト21の入口孔23および出口孔25はそれぞれ、ピニオンシャフト21の外周面から穿設されて、軸線に向かって延び、縦孔24と接続する。本実施形態では、ピニオンシャフト21の端部に入口孔23が配置され、ピニオンシャフト21の軸方向中央部に出口孔25が配置される。縦孔24はピニオンシャフト21の軸方向に真っ直ぐ延びるが、入口孔23および出口孔25は軸方向とは異なる方向に真っ直ぐ延び、縦孔24と交差する。具体的には、入口孔23および出口孔25はピニオンシャフト21の半径方向に延び、縦孔24と直交する。
【0023】
縦孔24の一端部の開口(以下、一端開口29という)には止め栓26が圧入される。これによりピニオンシャフト21内部には、油供給路27と、入口孔23と、縦孔24と、出口孔25とが連なってクランク状に延びる油供給経路が形成される。
【0024】
入口孔23は、キャリア22に設けられる油供給路27と接続する。出口孔25は、転がり軸受31と接続する。油供給路27はキャリア22内部に穿設された孔である。
【0025】
油供給路27と、入口孔23と、縦孔24と、出口孔25には、この順序で潤滑油が流れる。そして潤滑油は、転がり軸受31に供給され、転がり軸受31を潤滑する。
【0026】
図2を参照して、円柱状の止め栓26の両端外縁には、環状のテーパ面28がそれぞれ形成される。一点鎖線で表される止め栓26の軸心に対し、テーパ面28の勾配θは、10°以上30°以下の範囲に含まれる所定値である。止め栓26の両端に10°~30°の角度を持った勾配があることにより、テーパ面28は止め栓26の芯出し作用を発揮して、止め栓26を中空穴になる一端開口29に正しい姿勢で圧入し易くなり、止め栓を斜めに圧入してこじることを防止でき、止め栓26の破損防止や潤滑油の漏れ防止を図ることができる。こじて圧入すると止め栓が破損する恐れがあり、さらにすきまが生じることで潤滑油の漏れにつながる恐れがある。また、止め栓26の両端が同じ角度の勾配なので、一端開口29に圧入する際の止め栓26の方向性がなくなり、圧入の作業性が向上し、低コスト化につながる。
【0027】
円柱形状になる一定外径の止め栓26の外径寸法、および一定内径の縦孔24の内径寸法は、2[mm]以上10[mm]以下の範囲に含まれる所定値であり、例えば4[mm]であったり、あるいは6[mm]であったりする。本実施形態では、設計段階の必要抜け荷重に基づき、止め栓26の直径公差と、止め栓26が圧入される一端開口29の直径公差を設定することが可能である。
【0028】
例えば、止め栓26の外径寸法および一端開口29の内径寸法がともに4[mm]で必要抜け荷重50[N]の場合、止め栓26の外径寸法公差は+0.03[mm]から+0.07[mm]に設定され、一端開口29の内径寸法公差は-0.07[mm]から+0.02[mm]に設定される。そうすると一端開口29の内径公差範囲は0.09[mm]に設定され、従来よりも内径公差範囲を広くすることができる。
【0029】
本実施形態の止め栓26は、所定の外径寸法になるよう切削加工によって製造される。止め栓26の材料は、切削加工が容易な材料から造られる。外径の切削加工によれば、内径の切削加工よりも寸法ばらつきが少なく、止め栓26の寸法精度が良くなり、公差範囲を狭くすることが可能になる。また止め栓26の材料に、被削性が高い材料を採用することで、加工面の寸法精度向上や切削加工時間の短縮が図れ、安価な生産につなげられる。あるいは本実施形態の止め栓26は、ヘッダ加工によって製造される。例えば、線材を切断して、圧力を加えながら塑性変形させることで形成される。
【0030】
本実施形態の止め栓26は寸法精度が良く、公差範囲が狭いので、止め栓26が圧入される一端開口29の寸法公差が広くても必要な抜け力を確保することができる。本実施形態によれば、一端開口29の加工生産性が向上し、ピニオンシャフト21を安価に生産することができる。
【0031】
止め栓26の表面硬さは、ビッカース硬さで80HV以上200HV以下の範囲に含まれる。本実施形態によれば、コストアップにつながる熱処理を止め栓26に施す必要がなく、破損したり抜け落ちたりする恐れがない止め栓とすることができる。
【0032】
止め栓の抜け落ちを防止するために抜け荷重のばらつきを小さくする必要があり、そのために止め栓の外径寸法のばらつきを小さくする。本実施形態では、外径寸法のばらつきを小さくするために、寸法ばらつきが大きくなるプレス成形や熱処理は採用しない。これらの加工や処理の替わりに、止め栓26の外径寸法のばらつきを小さく仕上げる目的で、銅の含有量が55質量%以上且つ亜鉛の含有量が45質量%以下の金属を切削加工して止め栓26を仕上げる。銅の含有量が55質量%以上且つ亜鉛の含有量が45質量%以下の金属は、適度な強度を確保しつつ展延性に優れるので、止め栓の圧入変形のし易さを確保でき、圧入時の穴への密着性が向上する。また切削加工が容易であるので、寸法ばらつきが少ない加工ができる。また特殊な合金成分を含まないので価格的にも高価な金属ではない。反対にかかる数値を外れてしまうと、引張強さとビッカース硬さと切削加工の容易性をすべて確保することができない。
【0033】
かかる金属材料として例えば、真鍮、C3604の快削黄銅(JIS,H3250:2015)であったり、あるいはJIS,H3250:2015に規定されるC3605,C3603,C3602,C3601,C3531,C2800,C2700,C2600であったりする。このような止め栓26の材料は、ピニオンシャフト21の材料よりも柔らかい。
【0034】
止め栓26の表面硬さを80HV以上200HV以下の範囲としている理由は、80HV未満の場合、潤滑油導入用の縦孔24に止め栓26を圧入する場合、止め栓自体が過大に変形して破損したり抜け落ちたりする恐れがあるからである。また、200HVを超える場合、熱処理を施す必要がある等によりコストアップにつながるからである。
【0035】
ここで附言すると、止め栓とする金属に鉛を含有することで被削性をさらに高めることができ、加工面である止め栓の外径の寸法精度が向上することで、止め栓の外径寸法公差を従来技術(プレス成形、熱処理)よりもますます狭く管理することができる。その結果、圧入される中空穴の開口部の直径公差を従来技術よりも広い範囲で設定しても(管理工数を省力化しても)、必要な抜け力を安定的に確保することができる。
【0036】
本実施形態の作用効果についての理解を容易にするため、従来例につき対比説明すると、特許文献2では、止め栓の外径(直径)の公差範囲は最小―0.01[mm]、最大+0.05[mm]というように、止め栓の公差範囲が0.06[mm]に広く設定される。これに対し、中心孔開口部の内径(直径)の公差範囲は、最小―0.02[mm]、最大+0.01[mm]というように、中心孔開口部の公差範囲が0.03[mm]に狭く設定される。かかる従来例の場合、ピニオンシャフトの中心孔開口部において、狭い公差範囲を管理するため、中心孔に要するドリル穴あけ加工、リーマ仕上げ加工や研削仕上げ加工といった加工工数の増加や管理工数の増加によるコストアップや不良率が高いことによる廃棄金額の増加を招く。
【0037】
また従来例において、止め栓の外径(直径)の公差範囲が最小―0.01[mm]となり、中心孔開口部の内径(直径)の公差範囲が最大+0.01[mm]となる場合、止め栓と中心孔開口部の間に正隙間が生じ、止め栓が容易に抜けてしまう。
【0038】
これに対し、本実施形態によれば、止め栓26の材料として快削黄銅のC3604を使用し、止め栓26の外径寸法公差は最小+0.03[mm]から最大+0.07[mm]に設定され、止め栓26の外径公差範囲を0.04[mm]というように狭くすることができるので、止め栓26が圧入される縦孔24の直径の内径公差範囲を、例えば上述したように0.09[mm]と広く設定できる、したがって従来例の0.03[mm]に比べて加工工数・管理工数を減少させることができ、ピニオンシャフトの製造過程で不良率が減少し、不良品の廃棄金額および管理コストを少なくすることができる。
【0039】
また本実施形態によれば、前述の公差の設定において、止め栓26の外径寸法公差が最小+0.03[mm]となり、一端開口29の内径寸法公差が最大+0.02[mm]となる場合であっても、止め栓26と一端開口29の間に負隙間が確保され、止め栓26が一端開口29から抜けない。
【0040】
以上、図面を参照して本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、本発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、機械構造および潤滑構造において有利に利用される。
【符号の説明】
【0042】
10 ピニオンシャフト構造、 11 ピニオンギヤ、 12 中心孔、
21 ピニオンシャフト、 22 キャリア、 23 入口孔、
24 縦孔(中空穴)、 25 出口孔、 26 止め栓、
27 油供給路、 28 テーパ面、 29 一端開口、
31 軸受、 32 保持器、 θ 止め栓の軸心に対するテーパ面の勾配。
図1
図2