(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】船舶
(51)【国際特許分類】
B63H 21/38 20060101AFI20241028BHJP
B63B 25/16 20060101ALI20241028BHJP
B63B 11/04 20060101ALI20241028BHJP
F17C 13/00 20060101ALI20241028BHJP
F02M 37/00 20060101ALI20241028BHJP
F02M 21/02 20060101ALI20241028BHJP
F02B 43/00 20060101ALI20241028BHJP
【FI】
B63H21/38 B
B63B25/16 D
B63B11/04 B
F17C13/00 302A
F02M37/00 341D
F02M21/02 N
F02B43/00 A
(21)【出願番号】P 2021063611
(22)【出願日】2021-04-02
【審査請求日】2024-01-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野崎 拓海
(72)【発明者】
【氏名】奥村 英晃
(72)【発明者】
【氏名】赤星 顕悟
【審査官】高瀬 智史
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-177013(JP,A)
【文献】特開2018-177012(JP,A)
【文献】特表2007-514597(JP,A)
【文献】特開2015-063288(JP,A)
【文献】特開2018-127137(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0215930(US,A1)
【文献】韓国登録特許第10-1751858(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 21/38
B63B 25/16
B63B 11/04
F17C 13/00
F02M 37/00
F02M 21/02
F02B 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船体と、
前記船体に設けられた主機と、
前記船体に支持されて前記主機の燃料としてのLPGを貯溜する燃料タンクと、
前記船体に支持されて貨物としてのLPGを貯溜する貨物タンクと、
前記船体の外部と接続される貨物用外部接続口を有し、前記貨物タンクと接続されて前記貨物用外部接続口と前記貨物タンクの間でLPGを搬送する荷役ラインと、
前記荷役ラインから独立しており、前記船体の外部と接続される燃料用外部接続口を有し、前記燃料用外部接続口から前記燃料タンク内へLPGを搬送する燃料供給ラインと、
前記貨物タンク及び前記燃料タンクと接続されて前記貨物タンクから前記燃料タンクへ液体状のLPGを移送する貨物移送ライン、及び、前記燃料タンク及び前記貨物タンクと接続されて前記燃料タンクから前記貨物タンクへ液体状のLPGを移送する燃料移送ラインのうち少なくとも一方と、を備える、
船舶。
【請求項2】
前記貨物移送ライン及び前記燃料移送ラインが、前記荷役ラインから独立している、
請求項1に記載の船舶。
【請求項3】
前記貨物移送ライン及び前記燃料移送ラインが、前記燃料供給ラインから独立している、
請求項1又は2に記載の船舶。
【請求項4】
前記貨物タンクに貯溜されているLPGの圧力は前記燃料タンクに貯溜されているLPGの圧力よりも低く、
前記燃料タンクへ送られるLPG
の圧力を前記燃料タンクに貯溜されているLPGの圧力
まで高めるポンプが前記貨物移送ラインに設けられている、
請求項1~3のいずれか一項に記載の船舶。
【請求項5】
前記貨物タンクに貯溜されているLPGの温度は前記燃料タンクに貯溜されているLPGの温度よりも低く、
前記燃料タンクへ送られるLPG
の温度を前記燃料タンクに貯溜されているLPGの温度
まで高めるヒータが前記貨物移送ラインに設けられている、
請求項1~4のいずれか一項に記載の船舶。
【請求項6】
気体状のLPGを液化する再液化装置と、
前記貨物タンク内で気化したLPGを前記貨物タンクから前記再液化装置へ送る貨物気化ガスラインと、
前記燃料タンク内で気化したLPGを前記燃料タンクから前記再液化装置へ送る燃料気化ガスラインと、
前記再液化装置で液化されたLPGを前記再液化装置から前記貨物タンクへ送る液化ガス戻しラインとを、更に備える、
請求項1~5のいずれか一項に記載の船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LPG(liquefied petroleum gas)を貨物として貯蔵する貨物タンク及びLPGを燃料として貯蔵する燃料タンクを備える船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素等の船舶からの排出物による環境負荷低減を目的として、LPG運搬船では、従来の重油等に代えてLPGを推進用燃料とする方式への切り替えが進んでいる。
【0003】
LPG運搬船には、LPGを低温常圧状態で運搬する方式のものがある。このようなLPG運搬船では、航海中に貨物タンク内のLPGが気化して発生したボイルオフガスを冷却により再液化して貨物タンクへ戻すことにより、LPGの積荷量を保持したまま揚地へ輸送することができる。一方で、燃料としてのLPGは、主機にて常温で用いられることから、常温高圧の自然蒸発が抑制された状態で貯蔵されることが望ましい。このような理由から、貨物としてのLPGと燃料としてのLPGを区別して管理することが要求される。
【0004】
特許文献1,2では、船体内に設けられて貨物としてのLPGを貯蔵する貨物タンクと、甲板上に設けられた燃料としてのLPGを貯蔵する燃料タンクとを備える船舶が開示されている。この船舶では、貨物タンクは船体内のホールドスペースに配置され、燃料タンクは甲板の上に配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-177013号公報
【文献】特開2018-177012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2のように甲板の上に配置された燃料タンクは、設置場所の確保や船舶の復原性の確保、船橋からの視界の確保等の理由から、大きさが制限されることがある。従って、燃料タンクの容量が、配船を計画する目的地への航続距離に対して不足するという事態が起こりうる。つまり、LPG運搬船には、燃料タンクの容量不足の解消の要求がある。
【0007】
また、LPG運搬船の業界では従来からスポット取引が盛んであり、LPG基地との整合性が重要視される中で、経済性を考慮してLPG運搬船の貨物容積の増量に対する潜在的な要求がある。ところが、船体の大きさはLPG基地によって定められた入港制限内に収める必要があり、LPG運搬船の船体を大型化するといった余地がないことが多い。つまり、LPG運搬船には、貨物タンクの容積の増量の要求がある。
【0008】
本開示は以上の事情に鑑みてされたものであり、LPGを貨物及び推進用燃料とする船舶において、燃料タンクの容量不足の解消及び/又は貨物タンクの容積の増量を実現可能な技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様に係る船舶は、
船体と、
前記船体に設けられた主機と、
前記船体に支持されて前記主機の燃料としてのLPGを貯溜する燃料タンクと、
前記船体に支持されて貨物としてのLPGを貯溜する貨物タンクと、
前記船体の外部と接続される貨物用外部接続口を有し、前記貨物タンクと接続されて前記貨物用外部接続口と前記貨物タンクの間でLPGを搬送する荷役ラインと、
前記荷役ラインから独立しており、前記船体の外部と接続される燃料用外部接続口を有し、前記燃料用外部接続口から前記燃料タンク内へLPGを搬送する燃料供給ラインと、
前記貨物タンク及び前記燃料タンクと接続されて前記貨物タンクから前記燃料タンクへ液体状のLPGを移送する貨物移送ライン、及び、前記燃料タンク及び前記貨物タンクと接続されて前記燃料タンクから前記貨物タンクへ液体状のLPGを移送する燃料移送ラインのうち少なくとも一方と、を備えることを特徴としている。
【0010】
上記構成の船舶では、貨物移送ラインを備えることにより、貨物タンクに貯溜されている液体状のLPGが燃料タンクへ送られて、燃料タンクで燃料として使用されることが可能となる。つまり、貨物タンクを燃料タンクとして使用することができる。これにより、船舶は、燃料タンクの大きさ(容量)よりも多くの燃料を搭載していることとなり、長い航続距離にも途中でLPG燃料を補給することなくLPG燃料のみで対応することができる。このような船舶は、搭載可能な燃料タンクの容積の制限、目的地先変更による航続距離の増加、寄港地にLPG燃料を供給する設備が存在しない等の、事前に想定されたLPG燃料の積載量では不足する様な事態にも対応することができ、外部環境によらない燃料タンクへの燃料の再充填が可能となる。
【0011】
また、上記構成の船舶では、燃料移送ラインを備えることにより、燃料タンクに貯溜されている(残留している)液体状のLPGは、貨物タンクへ送られて、貨物タンクで用途が貨物に変更される。つまり、燃料タンクに残留しているLPGを貨物として扱うことが可能となる。このように燃料タンクを、荷揚げ時において一時的に貨物タンクの一部として使用することができ、船舶の貨物タンクの実質的な容量を増加させることができる。船舶は、例えば、荷主からの要求によって、貨物としてのLPGを少しでも多く積載しなければならないというような事態にも対応することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、LPGを貨物及び推進用燃料とする船舶において、燃料タンクの容量不足の解消及び/又は貨物タンクの容積の増量を実現可能な技術を提案することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る船舶の概略側面図である。
【
図3】
図3は、LPG流通系統の概略構成図である。
【
図4】
図4は、変形例1に係る船舶のLPG流通系統の概略構成図である。
【
図5】
図5は、変形例2に係る船舶のLPG流通系統の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本実施形態に係る船舶1の概略側面図である。船舶1は、液化石油ガス(LPG;liquefied petroleum gas)を推進用燃料として用い、LPGを貨物として輸送するLPG運搬船である。
【0015】
〔船舶1の概略構成〕
図1に示す船舶1は、船体10、居住区20、貨物タンク3、主機16、及び、燃料タンク5を備える。
【0016】
船体10は、左右の舷側11、船底12、及び上甲板13を有する。船体10の船尾側の部分には、機関室14が設けられている。船体10の機関室14よりも船首側の部分には、機関室14と隔壁によって区画されたホールドスペース15が設けられている。機関室14の上方には居住区20が設けられている。居住区20の上層には、船舶1を操縦するための操縦室21が設けられている。
【0017】
ホールドスペース15には、通常複数の貨物タンク3が設けられている。
図1に示す貨物タンク3は方形タンクであるが、貨物タンク3の形状はこれに限定されない。貨物タンク3には、貨物としてのLPGが常圧低温状態で貯蔵される。なお、常圧低温状態のLPGは、加圧されることなく低温とされることで液化状態が維持されている。
【0018】
図2は、船舶1の再液化系統101の構成図である。
図2に示すように、船舶1には、貨物タンク3内で生じたLPGの気化ガスを、貨物タンク3の外部で冷却して再度液化させる再液化装置81が搭載されている。貨物タンク3内の上部の気相部と再液化装置81とは貨物気化ガスライン84で接続されている。再液化装置81と貨物タンク3内の底部の液相部とは液化ガス戻しライン83で接続されている。貨物タンク3で生じた気化ガスは、貨物気化ガスライン84を通って貨物タンク3の外部の再液化装置81へ送られ、再液化装置81で液化されたのち、液化ガス戻しライン83を通って貨物タンク3へ戻される。このように、貨物タンク3の気化ガスが液化されたのち貨物タンク3へ戻されることによって、貨物のLPGは低温液化状態(例えば-46℃以下の温度)に維持される。
【0019】
本実施形態に係る船舶1では、燃料タンク5の気化ガスも再液化される。燃料タンク5内の上部の気相部と再液化装置81とが燃料気化ガスライン82で接続されている。燃料タンク5で生じた気化ガスは、燃料気化ガスライン82を通って再液化装置81へ送られ、再液化装置81で液化されたのち、液化ガス戻しライン83を通って貨物タンク3へ送られる。なお、燃料気化ガスライン82と貨物気化ガスライン84は別々に再液化装置81へ送られる、あるいは、途中で結合して再液化装置81へ送られてもよい。
【0020】
図1に戻って、機関室14には、LPGを燃料とする主機16が設けられている。主機16は、LPGのみを燃料とするものであってもよいし、LPGを燃料の一部として使用するものであってもよい。主機16の稼働によって、船体10の船尾の下方に設けられた推進器17が駆動される。
【0021】
主機16の燃料となるLPGは、燃料タンク5に高圧常温状態で貯溜される。高圧常温状態のLPGは、冷却されることなく加圧されることのみで液化状態が維持されている。燃料タンク5は上甲板13の上に設けられている。
【0022】
〔LPG流通系統100の構成〕
ここで、船舶1におけるLPG流通系統100について詳細に説明する。
図3は、LPG流通系統100の概略構成図である。
図3に示すLPG流通系統100は、荷役ライン30と、燃料供給ライン50と、燃料移送ライン60と、貨物移送ライン70とを備える。
【0023】
荷役ライン30は、貨物タンク3へLPGを荷積みしたり、貨物タンク3からLPGを荷揚げしたりするための配管系統である。荷役ライン30によって、船舶1の外部と接続される貨物用外部接続口41から導入されたLPGが、貨物タンク3へ送られる。また、荷役ライン30によって、貨物タンク3に貯溜されているLPGが、貨物用外部接続口41を通じて船舶1の外部に設けられたLPG貯留施設へ送られる。このLPG貯留施設は、LPGを常圧低温状態又は高圧常温状態で貯留するLPG基地、LPG船等である。
【0024】
荷役ライン30は、貨物用外部接続口41から貨物タンク3内まで延びている。荷役ライン30において、貨物用外部接続口41の近傍には緊急遮断弁42が設けられている。この緊急遮断弁42は、荷揚げ及び荷積み時には開状態が維持されることで、荷役ライン30のLPGの流通を許容する。一方で、緊急遮断弁42は、緊急時に開状態から閉状態に切り替わることで、荷役ライン30のLPGの流通を禁止する。緊急遮断弁42は、例えばオペレータから入力された緊急信号によって開状態から閉状態に切り替わる構成であってもよい。
【0025】
荷役ライン30の途中には分岐部31が設けられている。この分岐部31において荷役ライン30が荷積みライン32と荷揚げライン33とに分かれている。荷積みライン32は、貨物タンク3内の底部近傍まで延びている。荷積みライン32には、荷積み弁47が設けられている。また、荷揚げライン33は、貨物タンク3内に配置された荷揚げポンプ46と接続されている。荷揚げライン33には、荷揚げ弁45が設けられている。荷積み弁47はノーマルクローズの開閉弁であり、荷積み時に荷積み弁47が開放される。荷揚げ弁45は、荷揚げポンプ46と連係動作する吐出弁であり、荷揚げ時に荷揚げ弁45が開放される。荷揚げ弁45は、閉止時には荷揚げライン33へのLPGの流入を阻止する逆止弁として機能する。
【0026】
荷役ライン30の緊急遮断弁42と分岐部31との間には、貨物調整ライン34が接続されている。貨物調整ライン34は、荷揚げされるLPGの温度及び圧力の少なくとも一方を、LPG貯留施設での貯溜仕様に調整するためのものである。貨物調整ライン34には、ヒータ43と少なくとも一段のポンプ44とが設けられている。貨物調整ライン34の両端が荷役ライン30と接続されており、貨物調整ライン34を経由する流路と、貨物調整ライン34を経由しない流路とを切り替え可能である。
【0027】
上記構成の荷役ライン30では、荷積み時に、緊急遮断弁42及び荷積み弁47が開放され、荷揚げ弁45は閉止される。これにより、貨物用外部接続口41から流入したLPGは荷積みライン32を含む荷役ライン30を通って貨物タンク3へ送られる。また、上記構成の荷役ライン30では、荷揚げ時に、緊急遮断弁42及び荷揚げ弁45が開放され、荷積み弁47は閉止され、荷揚げポンプ46が稼働される。これにより、貨物タンク3内のLPGは、荷揚げライン33を含む荷役ライン30を通って貨物用外部接続口41へ送られる。ここで、貨物タンク3内に貯溜されているLPGの温度及び/又は圧力が、貨物用外部接続口41と接続されたLPG貯留施設での貯溜仕様と相違する場合には、貨物タンク3内のLPGは、荷揚げライン33から貨物調整ライン34を経由する荷役ライン30を通って、貨物用外部接続口41へ送られる。
【0028】
燃料供給ライン50は、荷役ライン30から独立した配管系統であって、燃料タンク5へ燃料としてのLPGを供給するために用いられる。燃料供給ライン50によって、船舶1の外部に設けられたLPG貯留施設と接続される燃料用外部接続口51から導入されたLPGが、燃料タンク5へ送られる。LPG貯留施設では、LPGが常圧低温状態又は高圧常温状態で貯留されている。
【0029】
燃料供給ライン50は、燃料用外部接続口51から燃料タンク5内まで延びている。燃料供給ライン50において、燃料用外部接続口51の近傍には緊急遮断弁52が設けられている。この緊急遮断弁52は、燃料供給時には開状態が維持されることで、燃料供給ライン50のLPGの流通を許容する。一方で、緊急遮断弁52は、緊急時に開状態から閉状態に切り替わることで、燃料供給ライン50のLPGの流通を禁止する。緊急遮断弁52は、例えばオペレータから入力された緊急信号によって開状態から閉状態に切り替わる構成であってもよい。緊急遮断弁52は1弁でもよいし、2弁設けてもよい。
【0030】
燃料供給ライン50の途中には燃料調整ライン55が接続されている。燃料調整ライン55は、燃料タンク5へ送られるLPGを燃料タンク5に貯溜されるLPGの高圧常温の仕様に調整するために、そのラインを流れるLPGの温度及び圧力の少なくとも一方を調整するものである。燃料調整ライン55には、ヒータ54と少なくとも一段のポンプ53とが設けられている。燃料調整ライン55の両端が燃料供給ライン50と接続されており、燃料調整ライン55を経由する流路と、燃料調整ライン55を経由しない流路とを切り替え可能である。
【0031】
上記構成の燃料供給ライン50では、燃料供給時に、緊急遮断弁52が開放される。これにより、燃料用外部接続口51から流入したLPGは燃料供給ライン50を通って燃料タンク5へ送られる。ここで、燃料用外部接続口51から流入するLPGと、燃料タンク5に貯溜されているLPGとの温度及び/又は圧力が相違する場合には、LPGは燃料調整ライン55を経由する燃料供給ライン50を通って燃料タンク5へ送られる。
【0032】
燃料移送ライン60は、荷役ライン30から独立した配管系統である。燃料移送ライン60によって、燃料タンク5に貯溜されている液体のLPGが貨物タンク3へ移送される。
【0033】
燃料移送ライン60は、燃料タンク5内の底部から貨物タンク3内まで延びている。燃料移送ライン60の燃料タンク5内に配置された端部には、燃料移送ポンプ71が設けられている。燃料移送ライン60には、燃料タンク5側に燃料吐出弁72が設けられ、貨物タンク3側に燃料移送弁76が設けられている。燃料移送弁76は、ノーマルクローズの開閉弁である。燃料吐出弁72は、燃料移送ポンプ71と連係動作する。燃料吐出弁72は、閉止時には燃料移送ライン60のLPGの流通を阻止する逆止弁として機能する。
【0034】
上記構成の燃料移送ライン60では、燃料移送時に、燃料吐出弁72及び燃料移送弁76が開放され、燃料移送ポンプ71が稼働される。これにより、燃料タンク5内の液体のLPGは、燃料移送ライン60を通って貨物タンク3へ送られる。
【0035】
貨物移送ライン70は、荷役ライン30から独立した配管系統である。貨物移送ライン70によって、貨物タンク3に貯溜されている液体のLPGが燃料タンク5へ移送される。
【0036】
貨物移送ライン70は、貨物タンク3内の底部から燃料タンク5内まで延びている。貨物移送ライン70の貨物タンク3内に設けられた端部には貨物移送ポンプ78が設けられている。貨物移送ライン70には、燃料タンク5側に貨物移送弁73が設けられ、貨物タンク3側に貨物吐出弁77が設けられている。貨物移送弁73は、ノーマルクローズの開閉弁である。貨物吐出弁77は、貨物移送ポンプ78と連係動作する。貨物吐出弁77は、閉止時には貨物移送ライン70のLPGの流通を阻止する逆止弁として機能する。
【0037】
本実施形態に係る貨物移送ライン70は、燃料移送ライン60と配管の一部を共用している。具体的には、貨物移送ライン70の貨物吐出弁77と燃料タンク5側の貨物移送弁73との間と、燃料移送ライン60の燃料タンク5側の燃料吐出弁72と貨物タンク3側の燃料移送弁76との間とが、共通の配管で形成されている。但し、貨物移送ライン70は燃料移送ライン60から独立して(即ち、配管を共用せずに)構成されていてもよい。また、燃料移送ライン60には移送するLPGを冷却させるクーラー87が設けられてもよい。
【0038】
貨物移送ライン70において、貨物移送弁73と貨物吐出弁77との間には、第2貨物調整ライン79が接続されている。第2貨物調整ライン79は、貨物タンク3から燃料タンク5へ送られるLPGを燃料タンク5に貯溜されるLPGの高圧常温の仕様に調整するために、そのラインを流れるLPGの温度及び圧力の少なくとも一方を調整するものである。第2貨物調整ライン79には、ヒータ74と少なくとも一段のポンプ75とが設けられている。第2貨物調整ライン79の両端が貨物移送ライン70と接続されており、第2貨物調整ライン79を経由する流路と、第2貨物調整ライン79を経由しない流路とを切り替え可能である。
【0039】
上記構成の貨物移送ライン70では、貨物移送時に、貨物移送弁73及び貨物吐出弁77が開放され、貨物移送ポンプ78が稼働される。これにより、貨物タンク3内の液体のLPGは、貨物移送ライン70を通って燃料タンク5へ送られる。ここで、貨物タンク3に貯溜されているLPGと、燃料タンク5に貯溜されているLPGとの温度及び/又は圧力が乖離する場合には、LPGは第2貨物調整ライン79を経由する貨物移送ライン70を通って燃料タンク5へ送られる。
【0040】
〔小括〕
以上に説明した通り、本実施形態に係る船舶1は、
船体10と、
船体10に設けられた主機16と、
船体10に支持されて主機16の燃料としてのLPGを貯溜する燃料タンク5と、
船体10に支持されて貨物としてのLPGを貯溜する貨物タンク3と、
船体10の外部と接続される貨物用外部接続口41を有し、貨物タンク3と接続されて貨物用外部接続口41と貨物タンク3の間でLPGを搬送する荷役ライン30と、
荷役ライン30から独立しており、船体10の外部と接続される燃料用外部接続口51を有し、燃料用外部接続口51から燃料タンク5内へLPGを搬送する燃料供給ライン50と、
貨物タンク3及び燃料タンク5と接続されて貨物タンク3から燃料タンク5へ液体状のLPGを移送する貨物移送ライン70、及び、燃料タンク5及び貨物タンク3と接続されて燃料タンク5から貨物タンク3へ液体状のLPGを移送する燃料移送ライン60のうち少なくとも一方と、を備えることを特徴としている。
【0041】
上記構成の船舶1では、貨物移送ライン70を備えることにより、貨物タンク3に貯溜されている液体状のLPGが燃料タンク5へ送られて、燃料タンク5で燃料として使用されることが可能となる。つまり、貨物タンク3を燃料タンク5として使用することができる。これにより、船舶1は、燃料タンク5の大きさ(容量)よりも多くの燃料を搭載していることとなり、長い航続距離にも途中で給油することなくLPG燃料のみで対応することができる。このような船舶1は、搭載可能な燃料タンク5の容積の制限、目的地先変更による航続距離の増加、寄港地にLPG燃料を供給する設備が存在しない等の、事前に想定されたLPG燃料の積載量では不足する様な事態にも対応することができ、外部環境によらない燃料タンク5への燃料の再充填が可能となる。
【0042】
また、上記構成の船舶1では、燃料移送ライン60を備えることにより、燃料タンク5に貯溜されている(残留している)液体状のLPGは、貨物タンク3へ送られて、貨物タンク3で用途が貨物に変更される。つまり、燃料タンク5に残留しているLPGを貨物として扱うことが可能となる。このように燃料タンク5を、荷揚げ時において一時的に貨物タンク3の一部として使用することができ、船舶1の貨物タンク3の実質的な容量を増加させることができる。船舶1は、例えば、荷主からの要求によって、貨物としてのLPGを少しでも多く積載しなければならないというような事態にも対応することができる。
【0043】
また、上記構成の船舶1において、燃料移送ライン60と貨物移送ライン70の双方を備える場合には、貨物タンク3と燃料タンク5との相互利用を図り、様々な配船要求に対する運航上の柔軟性を確保しておくことができる。但し、船舶1は、燃料移送ライン60と貨物移送ライン70のうち一方を備えていてもよい。
【0044】
更に、上記構成の船舶1では、荷役ライン30と燃料供給ライン50とが独立しているので、荷役ライン30の使用時(即ち、荷揚げ時又は荷積み時)に、燃料供給ライン50を利用して燃料タンク5へ燃料を補給することができる。
【0045】
また、本実施形態に係る船舶1では、貨物移送ライン70及び燃料移送ライン60が、荷役ライン30から独立している。これにより、荷役ライン30の使用時(即ち、荷揚げ時又は荷積み時)に、貨物移送ライン70を利用して貨物タンク3から燃料タンク5へLPGを移送したり、燃料移送ライン60を利用して燃料タンク5から貨物タンク3へLPGを移送したりすることができる。例えば、船舶1が重油等のLPG以外の燃料も用いる場合や、目的地までの航続距離が短い場合などには、燃料としてのLPGの必要量が燃料タンク5の容積よりも少ない場合が生じる。このような場合には、燃料移送ライン60によってLPGが燃料タンク5から貨物タンク3へ送られることにより、燃料タンク5を貨物タンク3の一部として利用して貨物としてのLPGを少しでも多くすることが可能となる。
【0046】
また、本実施形態に係る船舶1では、貨物タンク3に貯溜されているLPGの圧力は燃料タンク5に貯溜されているLPGの圧力よりも低く、LPGを燃料タンク5に貯溜されているLPGの圧力と実質的に同一まで高めるポンプ75が第2貨物調整ライン79に設けられている。更に、本実施形態に係る船舶1では、貨物タンク3に貯溜されているLPGの温度は燃料タンク5に貯溜されているLPGの温度よりも低く、LPGを燃料タンク5に貯溜されているLPGの温度と実質的に同一まで高めるヒータ74が第2貨物調整ライン79に設けられている。
【0047】
このように、本実施形態に係る船舶1では、貨物移送ライン70及び第2貨物調整ライン79を用いて貨物タンク3から燃料タンク5へ送られるLPGの温度及び/又は圧力を、燃料タンク5に貯溜されている燃料としてのLPGの温度及び/又は圧力に調整することができる。
【0048】
また、本実施形態に係る船舶1は、気体状のLPGを液化する再液化装置81と、貨物タンク3内で気化したLPGを貨物タンク3から再液化装置81へ送る貨物気化ガスライン84と、燃料タンク5内で気化したLPGを燃料タンク5から再液化装置81へ送る燃料気化ガスライン82と、再液化装置81で液化されたLPGを再液化装置81から貨物タンク3へ送る液化ガス戻しライン83とを、更に備えている。
【0049】
このように、燃料タンク5内で気化したLPGが液化されて貨物タンク3へ送られることにより、燃料タンク5内で気化したLPGを貨物の一部として有効利用することができる。
【0050】
〔変形例1〕
次に、上記実施形態の変形例1を説明する。
図4は、変形例1に係る船舶1のLPG流通系統100Aの概略構成図である。
図4に示すように、変形例1に係る船舶1のLPG流通系統100Aは、貨物移送ライン70Aが燃料供給ライン50の一部の配管を利用して形成されている点で、前述の実施形態に係る船舶1のLPG流通系統100と相違する。そこで、本変形例の説明においては、前述の実施形態と同一又は類似の部材には図面に同一の符号を付して説明を省略し、LPG流通系統100Aの貨物移送ライン70Aについて詳細に説明する。
【0051】
貨物移送ライン70Aは、貨物タンク3と燃料タンク5とを接続し、貨物タンク3に貯溜されている液体のLPGを燃料タンク5へ移送する。貨物移送ライン70Aは、第1部分61、第2部分62、及び第3部分63が連接されて成る。第1部分61は、貨物タンク3内の底部に配置された貨物移送ポンプ78と接続されており、貨物吐出弁77が設けられている。第2部分62の一方の端部は第1部分61に接続されており、第2部分62の他方の端部は燃料供給ライン50の緊急遮断弁52と燃料調整ライン55の接続部57との間に接続されている。第2部分62には、逆止開閉弁88が設けられている。第3部分63は、燃料供給ライン50の一部の配管等を利用して形成されている。具体的には、燃料供給ライン50の燃料調整ライン55の接続部57よりも下流側が第3部分63として利用されている。
【0052】
上記構成の貨物移送ライン70Aでは、貨物移送時に、貨物吐出弁77及び逆止開閉弁88が開放され、貨物移送ポンプ78が稼働される。これにより、貨物タンク3内の液体のLPGは、貨物移送ライン70Aを通って燃料タンク5へ送られる。ここで、貨物タンク3に貯溜されているLPGと、燃料タンク5に貯溜されているLPGとの温度及び/又は圧力が乖離する場合には、LPGは燃料調整ライン55を経由する貨物移送ライン70Aを通って燃料タンク5へ送られる。
【0053】
変形例1に係る船舶1では、貨物移送ライン70Aは燃料供給ライン50の配管の一部を利用して形成されていることから、前述の実施形態において第2貨物調整ライン79に設けられているポンプ75やヒータ74を省略することができる。
【0054】
〔変形例2〕
続いて、上記実施形態の変形例2を説明する。
図5は、変形例2に係る船舶1のLPG流通系統100Bの概略構成図である。
図5に示すように、変形例2に係る船舶1のLPG流通系統100Bは、貨物移送ライン70B及び燃料移送ライン60Aが、荷役ライン30及び燃料供給ライン50の一部の配管を利用して形成されている点で、前述の実施形態に係る船舶1のLPG流通系統100と相違する。そこで、本変形例の説明においては、前述の実施形態と同一又は類似の部材には図面に同一の符号を付して説明を省略し、LPG流通系統100Bの貨物移送ライン70B及び燃料移送ライン60Aについて詳細に説明する。
【0055】
貨物移送ライン70Bは、貨物タンク3と燃料タンク5とを接続し、貨物タンク3に貯溜されている液体のLPGを燃料タンク5へ移送する。貨物移送ライン70Bは、第1部分65、第2部分66、及び第3部分67が連接されて成る。第1部分65は、荷役ライン30の荷揚げライン33の配管の一部を利用して形成されている。より詳細には、第1部分65は、荷揚げライン33の荷揚げポンプ46から荷揚げ弁45までの間を利用して形成されている。第2部分66の一方の端部は第1部分65(即ち、荷揚げライン33の荷揚げ弁45と荷揚げポンプ46との間)に接続されており、第2部分66の他方の端部は燃料供給ライン50の緊急遮断弁52と燃料調整ライン55の接続部57との間に接続されている。第2部分66には、貨物吐出弁77と逆止開閉弁68が設けられている。貨物吐出弁77は逆止開閉弁68と兼用することで省略してもよい。第3部分67は、燃料供給ライン50の一部の配管等を利用して形成されている。具体的には、燃料供給ライン50の燃料調整ライン55の接続部57よりも下流側が第3部分67として利用されている。
【0056】
上記構成の貨物移送ライン70Bでは、貨物移送時に、貨物吐出弁77及び逆止開閉弁68が開放され、荷揚げポンプ46が稼働される。これにより、貨物タンク3内の液体のLPGは、貨物移送ライン70Bを通って燃料タンク5へ送られる。ここで、貨物タンク3に貯溜されているLPGと、燃料タンク5に貯溜されているLPGとの温度及び/又は圧力が乖離する場合には、LPGは燃料調整ライン55を経由する貨物移送ライン70Bを通って燃料タンク5へ送られる。
【0057】
変形例2に係る船舶1では、貨物移送ライン70Bは荷役ライン30の荷揚げライン33及び燃料供給ライン50の配管の一部を利用して形成されていることから、前述の実施形態において第2貨物調整ライン79に設けられているポンプ75やヒータ74、並びに、貨物移送ポンプ78を省略することができる。
【0058】
また、燃料移送ライン60Aは、燃料タンク5と貨物タンク3とを接続し、燃料タンク5に貯蔵されている液体のLPGを貨物タンク3へ移送する。燃料移送ライン60Aは、荷役ライン30の配管の一部を利用して形成されている。燃料移送ライン60Aは、第1部分91と第2部分92とが連接されてなる。第1部分91の一方の端部は、燃料タンク5内において燃料移送ポンプ71と接続されており、第1部分91の他方の端部は荷役ライン30の分岐部31(又は荷積みライン32)と接続されている。第1部分91には、燃料吐出弁72が設けられている。第2部分92は、荷積みライン32を利用して形成されている。第2部分92の一方の端部は第1部分91に接続されており、第2部分92の他方の端部は貨物タンク3内に開口している。
【0059】
上記構成の燃料移送ライン60Aでは、燃料移送時に、燃料吐出弁72及び荷積み弁47が開放され、燃料移送ポンプ71が稼働される。これにより、燃料タンク5内の液体のLPGは、燃料移送ライン60Aを通って貨物タンク3へ送られる。
【0060】
変形例2に係る船舶1では、燃料移送ライン60Aは荷役ライン30の荷積みライン32の配管の一部を利用して形成されていることから、前述の実施形態において燃料移送ライン60に設けられている燃料移送弁76を省略することができる。
【0061】
以上に本発明の好適な実施の形態(及び変形例)を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記実施形態の具体的な構造及び/又は機能の詳細を変更したものも本発明に含まれ得る。上記の構成は、例えば、以下のように変更することができる。
【0062】
例えば、上記実施形態及びその変形例に係る船舶1では、一つの貨物タンク3と一つの燃料タンク5との間に設けられた貨物移送ライン70,70A,70B及び燃料移送ライン60,60Aについて説明したが、一つの燃料タンク5と複数の貨物タンク3の各々との間に貨物移送ライン70,70A,70B及び燃料移送ライン60,60Aが設けられていてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 :船舶
3 :貨物タンク
5 :燃料タンク
10 :船体
16 :主機
30 :荷役ライン
41 :貨物用外部接続口
43,54,74:ヒータ
44,53,75:ポンプ
50 :燃料供給ライン
51 :燃料用外部接続口
60,60A:燃料移送ライン
70,70A,70B:貨物移送ライン
81 :再液化装置
82 :燃料気化ガスライン
83 :液化ガス戻しライン
84 :貨物気化ガスライン
87 :クーラー
100,100A、100B:LPG流通系統
101 :LPG再液化系統