(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】タイヤ成形用金型及びタイヤ製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/02 20060101AFI20241028BHJP
B29C 35/02 20060101ALI20241028BHJP
B29L 30/00 20060101ALN20241028BHJP
【FI】
B29C33/02
B29C35/02
B29L30:00
(21)【出願番号】P 2021103646
(22)【出願日】2021-06-22
【審査請求日】2023-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100154003
【氏名又は名称】片岡 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】石原 泰之
【審査官】浅野 弘一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2003/008169(WO,A1)
【文献】特開2006-021357(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/02
B29C 35/02
B29L 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円周方向に並ぶ複数のセグメントに分割されるとともにそれぞれの前記セグメントが径方向に移動することで開閉するように構成された円環状のトレッド成形部を備え、未加硫の生タイヤをタイヤに加硫成形するタイヤ成形用金型であって、
それぞれの前記セグメントが、
前記トレッド成形部が開かれるときに径方向外側に向けて駆動されるホルダと、
それぞれ前記タイヤのトレッドを成形するトレッド意匠面を備え、前記ホルダの径方向内側に円周方向に並べて配置され
て前記ホルダに支持された複数の意匠面分割金型部と、
前記ホルダと複数の前記意匠面分割金型部との間に配置され、複数の前記意匠面分割金型部が固定されるとともに円周方向の両端部
が前記ホルダに固定された板バネ部材と、を有し、
前記タイヤの加硫成形後に前記トレッド成形部が開かれるときに、前記板バネ部材が径方向内側に向けて弾性変形することで、複数の前記意匠面分割金型部が、前記トレッド成形部の軸線と平行な軸を中心として回動しながら前記ホルダから離間する方向に移動するように構成されていることを特徴とするタイヤ成形用金型。
【請求項2】
前記板バネ部材の円周方向の一端部が、前記ホルダの円周方向の一方側の端面に固定され、前記板バネ部材の円周方向の他端部が、前記ホルダの円周方向の他方側の端面に固定されている、請求項1に記載のタイヤ成形用金型。
【請求項3】
前記トレッド成形部の軸線と平行な方向に間隔を空けて配置された複数の前記板バネ部材を備えている、請求項1または2に記載のタイヤ成形用金型。
【請求項4】
円周方向に並ぶ複数のセグメントに分割されるとともにそれぞれの前記セグメントが径方向に移動することで開閉するように構成された円環状のトレッド成形部を備えたタイヤ成形用金型を用いて、未加硫の生タイヤを加硫成形してタイヤを製造するタイヤ製造方法であって、
前記トレッド成形部に、それぞれ板バネ部材に固定されるとともに円周方向に並べて設けられた複数の意匠面分割金型部を設け、
それぞれの前記セグメントを径方向外側に移動させて前記トレッド成形部を開くときに、前記板バネ部材を径方向内側に向けて弾性変形させつつ複数の前記意匠面分割金型部を前記トレッド成形部の軸線と平行な軸を中心として回動させながら、前記タイヤを前記トレッド成形部から離型させることを特徴とするタイヤ製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ成形用金型及びタイヤ製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、未加硫の生タイヤを加硫成形してタイヤを製造する際に用いられるタイヤ成形用金型として、タイヤのトレッドを成形する円環状のトレッド成形部(トレッドモールド)が、円周方向に並ぶ複数のセグメントに分割されるとともに、それぞれのセグメントが径方向に移動することで開閉するように構成されたものが知られている(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-326332号公報
【文献】特開2000-334740号公報
【文献】特開2009-149079号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のタイヤ成形用金型では、成形後のタイヤのトレッドに溝やサイプなどからなる凹凸のトレッドパターンを形成するために、それぞれのセグメントの径方向内側を向くトレッド意匠面に、当該トレッド意匠面から径方向内側に向けて突出するリブやブレード等の突起が設けられるのが一般的である。
【0005】
しかし、トレッド意匠面に突起が設けられた構成では、加硫成形後にセグメントを径方向外側に向けて移動させてタイヤをトレッド成形部から離型する際に、特にセグメントの円周方向の両端部側において、突起がトレッドに対して大きなアンダーカット抵抗を生じることになる。そのため、複雑なトレッドパターンを有するタイヤを成形する場合などにおいて、当該アンダーカット抵抗が過度に大きくなって、離型後にタイヤのトレッドに永久変形が生じたり、突起が破損したりするなどの不具合が生じる虞があった。
【0006】
本発明は、上記課題を鑑みて成されたものであり、その目的は、タイヤを離型する際のトレッドに対する突起のアンダーカット抵抗を低減することができるタイヤ成形用金型及びタイヤ製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のタイヤ成形用金型は、円周方向に並ぶ複数のセグメントに分割されるとともにそれぞれの前記セグメントが径方向に移動することで開閉するように構成された円環状のトレッド成形部を備え、未加硫の生タイヤをタイヤに加硫成形するタイヤ成形用金型であって、それぞれの前記セグメントが、前記トレッド成形部が開かれるときに径方向外側に向けて駆動されるホルダと、それぞれ前記タイヤのトレッドを成形するトレッド意匠面を備え、前記ホルダの径方向内側に円周方向に並べて配置されて前記ホルダに支持された複数の意匠面分割金型部と、前記ホルダと複数の前記意匠面分割金型部との間に配置され、複数の前記意匠面分割金型部が固定されるとともに円周方向の両端部が前記ホルダに固定された板バネ部材と、を有し、前記タイヤの加硫成形後に前記トレッド成形部が開かれるときに、前記板バネ部材が径方向内側に向けて弾性変形することで、複数の前記意匠面分割金型部が、前記トレッド成形部の軸線と平行な軸を中心として回動しながら前記ホルダから離間する方向に移動するように構成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明のタイヤ成形用金型は、1つの実施形態として、前記板バネ部材の円周方向の一端部が、前記ホルダの円周方向の一方側の端面に固定され、前記板バネ部材の円周方向の他端部が、前記ホルダの円周方向の他方側の端面に固定されている構成とすることができる。
【0009】
本発明のタイヤ成形用金型は、1つの実施形態として、前記トレッド成形部の軸線と平行な方向に間隔を空けて配置された複数の前記板バネ部材を備えている構成とすることができる。
【0010】
本発明のタイヤ製造方法は、円周方向に並ぶ複数のセグメントに分割されるとともにそれぞれの前記セグメントが径方向に移動することで開閉するように構成された円環状のトレッド成形部を備えたタイヤ成形用金型を用いて、未加硫の生タイヤを加硫成形してタイヤを製造するタイヤ製造方法であって、前記トレッド成形部に、それぞれ板バネ部材に固定されるとともに円周方向に並べて設けられた複数の意匠面分割金型部を設け、それぞれの前記セグメントを径方向外側に移動させて前記トレッド成形部を開くときに、前記板バネ部材を径方向内側に向けて弾性変形させつつ複数の前記意匠面分割金型部を前記トレッド成形部の軸線と平行な軸を中心として回動させながら、前記タイヤを前記トレッド成形部から離型させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、タイヤを離型する際のトレッドに対する突起のアンダーカット抵抗を低減することができるタイヤ成形用金型及びタイヤ製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施の形態であるタイヤ成形用金型の正面視での断面図である。
【
図2】
図1に示すトレッド成形部の平面視での断面図である。
【
図3】
図1に示すタイヤ成形用金型の開かれた状態における正面視での断面図である。
【
図4】
図1に示すトレッド成形部の開かれた状態における平面視での断面図である。
【
図5】
図1に示すタイヤ成形用金型の要部の詳細構造を拡大して示す正面視での断面図である。
【
図6】
図5に示す1つのセグメントの平面視での断面図である。
【
図7】
図5に示す1つのセグメントを径方向内側から見た図である。
【
図8】板バネ部材への意匠面分割金型部の固定構造を示す断面図である。
【
図9】
図5に示す1つのセグメントの、タイヤを離型する際の状態を示す平面視での断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態に係るタイヤ成形用金型及びタイヤ製造方法を、図面を参照しつつ詳細に例示説明する。なお、各図において共通する部材・部位には同一の符号を付している。
【0014】
図1に示す本発明の一実施の形態に係るタイヤ成形用金型1は、未加硫(加硫前)の合成ゴムを主体として形成された生タイヤを、加硫しつつ所定の形状に成形してタイヤ2を製造するために用いられるものである。
【0015】
なお、タイヤ2は、合成ゴムを主体として、一対のサイドウォール2a、2bとトレッド2cとを有し、内部に空気や窒素等の気体が充填される空間を備えた形状に形成された中空タイヤである。
【0016】
タイヤ成形用金型1は、サイドウォール成形部10とトレッド成形部20とを備えている。
【0017】
サイドウォール成形部10は、例えば、下側コンテナ3の上面に固定された円環状の下側サイドウォール成形部11と、上側コンテナ4の下面に固定された円環状の上側サイドウォール成形部12とを備えた構成とすることができる。
【0018】
サイドウォール成形部10は、下側サイドウォール成形部11と上側サイドウォール成形部12との間に、円環状のタイヤ2ないし生タイヤを、その中心軸がサイドウォール成形部10の中心軸Oと同軸となる姿勢で配置(収納)することができる。下側サイドウォール成形部11は、中心軸Oを中心とした円環状で上向きの下側サイドウォール意匠面11aを備えており、下側サイドウォール意匠面11aによりタイヤ2ないし生タイヤの一方(
図1において下方を向く側)のサイドウォール2aの外側面を成形することができる。同様に、上側サイドウォール成形部12は、中心軸Oを中心とした円環状で下向きの上側サイドウォール意匠面12aを備えており、上側サイドウォール意匠面12aによりタイヤ2ないし生タイヤの他方(
図1において上方を向く側)のサイドウォール2bの外側面を成形することができる。
図3に示すように、下側コンテナ3に対して上側コンテナ4が上方(タイヤ2の中心軸に沿って両者が離れる方向)に相対移動することで、サイドウォール成形部10は開かれ、タイヤ2はサイドウォール成形部10から離型される。一方、上側コンテナ4が
図1に示す元の位置にまで下方に移動することにより、サイドウォール成形部10は、開いた状態からタイヤ2ないし生タイヤの成形が可能な状態にまで閉じられる。
【0019】
なお、サイドウォール成形部10の構成は、例えば、上側コンテナ4に対して下側コンテナ3が下方に相対移動して開かれる構成とするなど、その構成は適宜変更可能である。
【0020】
トレッド成形部20は、サイドウォール成形部10と同軸の円環状となっており、下側サイドウォール成形部11及び上側サイドウォール成形部12の径方向外側に隣接して配置されている。トレッド成形部20の径方向内側を向く内周面は、タイヤ2のトレッド2cの外周面を成形するトレッド意匠面20aとなっている。
【0021】
図2に示すように、トレッド成形部20は、円周方向に並ぶ複数のセグメント21に分割されている。それぞれのセグメント21は平面視において円弧状となっており、円周方向に組み合わされて全体として円環状の金型となるトレッド成形部20を構成している。本実施の形態では、トレッド成形部20は、円周方向の長さが互いに同一の9つのセグメント21に分割された構成とされている。なお、トレッド成形部20の円周方向への分割数は、7~13とするのが好ましいが、これに限らず適宜変更可能である。
【0022】
図1に示すように、それぞれのセグメント21は、径方向外側を向く外周面において、対応する中間コンテナ5の内側に固定され、中間コンテナ5により駆動されてトレッド成形部20の軸心(中心軸O)を中心とした径方向に向けて移動するようになっている。トレッド成形部20は、それぞれのセグメント21が径方向に移動することで開閉することができる。
【0023】
より具体的には、中間コンテナ5は、径方向外側を向く外周面に、上方に向けて徐々に外径が小さくなるように傾斜するテーパー面5aを備えている。一方、上側コンテナ4の下面には、中間コンテナ5の径方向外側に配置された円環状のアウターリング6が固定されている。アウターリング6は、径方向内側を向く内周面に、上方に向けて徐々に外径が小さくなるように傾斜するテーパー面6aを備えている。アウターリング6は、テーパー面6aが中間コンテナ5のテーパー面5aに沿って上下方向に摺動するように、図示しないガイド部材等により、それぞれの中間コンテナ5に連結されている。
【0024】
下側コンテナ3に対して上側コンテナ4が上方に相対移動すると、アウターリング6がテーパー面6aを中間コンテナ5のテーパー面5aに沿って摺動させながらそれぞれの中間コンテナ5に対して上方に移動し、これにより
図3に示すように、それぞれの中間コンテナ5がトレッド成形部20の軸心を中心とした径方向外側に向けて移動する。それぞれの中間コンテナ5がトレッド成形部20の軸心を中心とした径方向外側に向けて移動すると、
図3、
図4に示すように、それぞれのセグメント21が、対応する中間コンテナ5により駆動されて中間コンテナ5とともに径方向外側に向けて移動する。これにより、トレッド成形部20は、トレッド意匠面20aがタイヤ2ないし生タイヤのトレッド2cから離間する位置にまで開かれる。なお、トレッド成形部20は、上記のように開かれた後、アウターリング6に吊り下げられた状態で上側コンテナ4とともに成形後のタイヤ2を取り出し可能な位置(
図3に示す位置よりも上側位置)にまで上昇する構成とすることもできる。一方、上側コンテナ4が
図1に示す元の位置にまで下方に移動すると、トレッド成形部20は、下側サイドウォール成形部11に隣接する位置にまで下降し、次いでアウターリング6がそれぞれの中間コンテナ5に対して下方に移動し、それぞれの中間コンテナ5がトレッド成形部20の軸心を中心とした径方向内側に向けて移動する。これにより、
図1、
図2に示すように、それぞれのセグメント21が対応する中間コンテナ5に駆動されて中間コンテナ5とともに径方向内側に向けて移動し、トレッド成形部20は、タイヤ2ないし生タイヤの成形が可能な状態にまで閉じられる。
【0025】
このように、本実施の形態のタイヤ成形用金型1では、円環状のトレッド成形部20は、円周方向に並ぶ複数のセグメント21に分割されるとともに、それぞれのセグメント21が径方向に移動することで開閉するように構成されている。
【0026】
なお、トレッド成形部20の開閉機構は、アウターリング6を用いた構成に限らず、種々の構成を採用することができる。
【0027】
タイヤ成形用金型1は、生タイヤの内部に配置され、加圧蒸気が供給されることにより膨張するブラダー7を備えている。また、タイヤ成形用金型1は、サイドウォール成形部10及びトレッド成形部20を加熱するためのヒーター(不図示)を備えている。ヒーターの設置場所は適宜設定可能である。
【0028】
図5、
図6に示すように、本実施の形態のタイヤ成形用金型1では、トレッド成形部20を構成する複数のセグメント21は、それぞれホルダ22と、ホルダ22の径方向内側に円周方向に並べて配置された複数の意匠面分割金型部23と、を有している。本実施の形態では、複数のセグメント21は、それぞれ5つの意匠面分割金型部23を有している。
【0029】
ホルダ22は中間コンテナ5に固定され、トレッド成形部20が開かれるときに中間コンテナ5により径方向外側に向けて駆動される部分である。ホルダ22は、トレッド成形部20が閉じられるときには、中間コンテナ5により径方向内側に向けて駆動される。ホルダ22は、例えば低炭素鋼などの金属製のブロックを切削加工して形成されたものとすることができる。
【0030】
本実施の形態では、ホルダ22は、中間コンテナ5に着脱自在に固定された構成とされている。これにより、トレッド意匠面20aの形状が相違する複数種類のセグメント21を中間コンテナ5に選択的に装着することを可能として、タイヤ成形用金型1を、トレッドパターンが相違する多種類のタイヤ2の製造に適用可能なものとすることができる。
【0031】
5つの意匠面分割金型部23は、それぞれタイヤ2のトレッド2cを成形するトレッド意匠面20aを構成する部分である。
図6、
図7に示すように、5つの意匠面分割金型部23は、それぞれ平面視において円弧状であるとともに、トレッド成形部20の軸線(中心軸O)方向(タイヤ2の幅方向)に向けて波状に延びる細長い棒形状となっている。5つの意匠面分割金型部23の形状は同一であり、隣り合う2つの意匠面分割金型部23は、円周方向の端面において互いに接している。5つの意匠面分割金型部23の径方向内側を向く面は、それぞれトレッド意匠面20aの円周方向に分割された一部を構成している。すなわち、トレッド成形部20のトレッド意匠面20aは、複数のセグメント21のそれぞれに設けられた意匠面分割金型部23に円周方向に分割して設けられている。したがって、トレッド成形部20が、円周方向に向けて9つに分割された構成であるのに対し、トレッド意匠面20aは、円周方向に向けて45個に分割された構成となっている。
【0032】
図5に示すように、意匠面分割金型部23に設けられるトレッド意匠面20aには、それぞれトレッド意匠面20aから径方向内側に向けて径方向に沿って突出する複数の突起24が設けられている。複数の突起24は、加硫成形の際に、タイヤ2のトレッド2cにトレッドパターンを形成する溝ないしサイプ等を成形するものである。複数の突起24は、タイヤ幅方向に延びるもの、タイヤ周方向に延びるものなど、トレッドパターンに対応した種々の形状ないし大きな(長さ)のものとすることができる。
【0033】
意匠面分割金型部23は、例えばアルミニウム合金などの熱伝導性の高い金属材料を鋳造して形成されたものとするのが好ましい。この場合、例えば、鋼材によりリブ状ないしブレード状に形成された突起24を、意匠面分割金型部23を鋳造する際に意匠面分割金型部23に一体化させて設けた構成とすることができる。
【0034】
図5~
図7に示されるように、ホルダ22とそれぞれの意匠面分割金型部23との間には、5つの意匠面分割金型部23が固定されるとともに円周方向の両端部においてホルダ22に固定された板バネ部材25が配置されている。これにより、セグメント21は、タイヤ2の加硫成形後にトレッド成形部20が開かれるときに、板バネ部材25が径方向内側に向けて弾性変形することで、複数の意匠面分割金型部23が、それぞれ板バネ部材25を径方向内側に向けて弾性変形させて、トレッド成形部20の軸線(中心軸O)と平行な軸を中心として回動しながらホルダ22から離間する方向に移動するように構成されている
【0035】
本実施の形態では、板バネ部材25は、板バネ本体25aと、板バネ本体25aの円周方向の両端部に一体に連なって板バネ部材25の円周方向の両端部を構成する一対の固定部25bとを備えた構成とされている。
【0036】
板バネ本体25aは平面視で円弧状となっており、ホルダ22の径方向内側の面に当接するとともに5つの意匠面分割金型部23の径方向外側面に当接するように、ホルダ22と5つの意匠面分割金型部23との間に挟み込まれた状態で配置されている。また、板バネ本体25aは、
図8に詳細を示すように、ホルダ22の穴部22aに径方向外側から挿通されたボルト26により、それぞれの意匠面分割金型部23の径方向外側面に固定されている。
【0037】
図6に示すように、一方の固定部25bは、板バネ本体25aの円周方向の端部から径方向外側に向けて折り曲げられた形態を有し、ホルダ22の円周方向の一方側の端面に、例えばネジ部材等の固定手段(不図視)を用いて固定されている。同様に、他方の固定部25bは、板バネ本体25aの円周方向の端部から径方向外側に向けて折り曲げられた形態を有し、ホルダ22の円周方向の他方側の端面に、例えばネジ部材等の固定手段(不図視)を用いて固定されている。
【0038】
板バネ部材25は、ホルダ22に固定された固定部25bを支点とし、板バネ本体25aが平面視で径方向外側に向けて凹む円弧状の形状から径方向内側に向けて凸となる形状に弾性変形することができる。板バネ本体25aが径方向内側に向けて凸となる形状に弾性変形すると、板バネ本体25aに固定されている5つの意匠面分割金型部23は、それぞれ規定位置から板バネ本体25aとともにホルダ22から離間する方向に移動する。なお、規定位置とは、それぞれの意匠面分割金型部23が、これらに設けられたトレッド意匠面20aが円周方向に沿って連続的に連なる姿勢となる位置である。
【0039】
セグメント21は、ホルダ22とそれぞれの意匠面分割金型部23との間に、トレッド成形部20の軸線(中心軸O)と平行な方向に間隔を空けて配置された複数の板バネ部材25を備えた構成とすることができる。本実施の形態では、
図5、
図7に示すように、ホルダ22とそれぞれの意匠面分割金型部23との間に、トレッド成形部20の軸線と平行な方向(タイヤ2の幅方向)に間隔を空けて、2つの板バネ部材25を設けるようにしている。なお、板バネ部材25の数は、1つでもよく、3つ以上でもよい。
【0040】
次に、上記構成を有するタイヤ成形用金型1を用いて、生タイヤを加硫成形して所定形状のタイヤ2を製造する方法、すなわち本発明の一実施の形態であるタイヤ製造方法について説明する。
【0041】
まず、サイドウォール成形部10及びトレッド成形部20を開いた状態として、タイヤ成形用金型1の内部に生タイヤを配置し、次いで、サイドウォール成形部10及びトレッド成形部20を閉じた状態とする。
【0042】
次に、生タイヤの内部に配置したブラダー7に加圧蒸気を供給して当該ブラダー7を膨張させ、生タイヤの両サイドウォールをそれぞれサイドウォール成形部10の下側サイドウォール意匠面11aないし上側サイドウォール意匠面12aに押し付けるとともに、トレッドをトレッド成形部20のトレッド意匠面20aに押し付ける。そして、この状態で、ヒーターによってサイドウォール成形部10及びトレッド成形部20を加熱し、当該熱により生タイヤを構成する合成ゴムを加硫して、所定形状のタイヤ2に成形する。
【0043】
タイヤ2の成形が完了した後、サイドウォール成形部10及びトレッド成形部20を開き、成形されたタイヤ2を取り出す。
【0044】
ここで、タイヤ2を加硫成形した後、トレッド成形部20を開くために、それぞれのセグメント21が径方向外側に向けて移動するとき、それぞれの意匠面分割金型部23には、ホルダ22を介して、タイヤ2のトレッド2cとトレッド意匠面20aの内周面との間に生じる密着力及びタイヤ2のトレッド2cと突起24との間に生じるアンダーカット抵抗に抗する駆動力が加えられることになる。そして、それぞれのセグメント21における5つの意匠面分割金型部23は、それぞれホルダ22に固定された板バネ部材25に固定されているので、径方向外側に移動するホルダ22に対して、タイヤ2のトレッド2cとトレッド意匠面20aの内周面との間に生じる密着力及びタイヤ2のトレッド2cと突起24との間に生じるアンダーカット抵抗により、ホルダ22から離間する方向に引かれることになる。これにより、トレッド成形部20が開かれるときには、
図9に示すように、板バネ部材25の板バネ本体25aが径方向内側に向けて凸となる方向に弾性変形して、それぞれの意匠面分割金型部23はホルダ22から離間する方向に自発的に移動(パーンアクション)する。このとき、ホルダ22の円周方向の中心位置に対して円周方向の両端部側にずれて配置された4つの意匠面分割金型部23は、タイヤ2のトレッド2cに対する姿勢が変化するように、トレッド成形部20の軸線(タイヤ2の幅方向)に平行な軸を中心として回動ないし旋回しながらホルダ22から離間するように移動する。したがって、これら4つの意匠面分割金型部23は、トレッド成形部20の軸線と平行な軸を中心としてタイヤ2のトレッド2cに対して回動しながらトレッド2cから離間する方向に移動することになる。
【0045】
このように、本実施の形態のタイヤ成形用金型1を用いたタイヤ製造方法では、タイヤ2を加硫成形した後、トレッド成形部20が開かれるとき、板バネ部材25の径方向内側に向けた弾性変形により、意匠面分割金型部23を、トレッド成形部20の軸線と平行な軸を中心としてタイヤ2のトレッド2cに対して回動させながら、タイヤ2をトレッド成形部20から離型させることができる。これにより、特に円周方向の両端部側に配置される意匠面分割金型部23を、突起24がタイヤ2のトレッド2cに対して生じるアンダーカット抵抗を低減する姿勢としつつ、タイヤ2のトレッド2cをトレッド成形部20から離型させることができるので、タイヤ2を離型するときのトレッド2cに対する突起24のアンダーカット抵抗を低減することができる。
【0046】
したがって、本実施の形態のタイヤ成形用金型1ないしタイヤ製造方法によれば、タイヤ2をトレッド成形部20から離型させる際に、アンダーカット抵抗が過度に大きくなって、成形後のタイヤ2のトレッド2cに永久変形が生じたり、突起24が破損したりするなどの不具合を抑制することができる。
【0047】
また、トレッド成形部20が開かれる際、板バネ部材25の径方向内側に向けた弾性変形により、円周方向の両端部側に配置される意匠面分割金型部23が、タイヤ2のトレッド2cに対して回動することで、タイヤ2のトレッド2cは、セグメント21の円周方向の両端部側から徐々に離型することになる。これにより、トレッド意匠面20aとトレッド2cとの間に、これらの円周方向両端側から徐々に外気が導入されて、トレッド意匠面20aに密着するタイヤ2のトレッド2cがより効果的にトレッド意匠面20aから剥がれるようにして、より容易にタイヤ2をトレッド成形部20から離型させることができる。
【0048】
さらに、本実施の形態のタイヤ成形用金型1ないしタイヤ製造方法によれば、タイヤ2を離型する際のトレッド2cに対する突起24のアンダーカット抵抗を低減することができるとともにトレッド意匠面20aに密着するタイヤ2のトレッド2cがより効果的にトレッド意匠面20aから剥がれるようにすることができるので、タイヤ2を離型する際にセグメント21に加える駆動力を低減して、タイヤ成形用金型1を含む製造装置全体を小型化して、製造コストを低減することができる。
【0049】
さらに、本実施の形態のタイヤ成形用金型1ないしタイヤ製造方法によれば、タイヤ2を離型する際のトレッド2cに対する突起24のアンダーカット抵抗を低減することができるので、より複雑なトレッドパターンを有するタイヤ2を比較的簡易に製造することができる。これにより、複雑なトレッドパターンを有するタイヤ2の製造の自由度を高めることができる。
【0050】
本実施の形態のタイヤ成形用金型1では、板バネ部材25を、円周方向の一端部を構成する一方の固定部25bがホルダ22の円周方向の一方側の端面に固定され、板バネ部材25の円周方向の他端部を構成する他方の固定部25bがホルダ22の円周方向の他方側の端面に固定されている構成としたので、板バネ部材25が、これらの固定部25bの間の部分すなわち板バネ本体25aにおいて容易に径方向内側に向けて弾性変形することができるようにして、タイヤ2を離型する際のトレッド2cに対する突起24のアンダーカット抵抗をより効果的に低減することができる。
【0051】
また、本実施の形態のタイヤ成形用金型1では、トレッド成形部20の軸線と平行な方向に間隔を空けて配置された複数の板バネ部材25を備えた構成としたので、複数の意匠面分割金型部23を複数の板バネ部材25で支持する構成とすることができる。これにより、板バネ部材25が径方向外側に向けて凹む円弧状の形状から径方向内側に向けて凸となる形状に弾性変形するときに、複数の意匠面分割金型部23がより安定的に板バネ部材25の弾性変形により回動しつつホルダ22から離間する方向に移動するようにして、タイヤ2を離型する際のトレッド2cに対する突起24のアンダーカット抵抗ないし密着力をより効果的に低減することができる。
【実施例】
【0052】
実施例のタイヤ成形用金型として、上記構成を有し、意匠面分割金型部をアルミニウム合金(AC4C)製で最大内径と最小内径との差が35mmとなるものとし、ホルダを低炭素鋼(S45C相当材)製の機械加工法で製作されたものとし、板バネを100kgの負荷を印加したときに1mm程度変形するものとしたものを用い、内径が600mm、タイヤ幅が255mmのタイヤを成形し、これを離型する際に必要な外力(ホルダに付与する駆動力)を測定した。その結果、意匠面分割金型部がホルダに固定された構成の比較例のタイヤ成形用金型に対して、実施例のタイヤ成形用金型は、外力を22%程度低減できることが確認された。
【0053】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0054】
例えば、前記実施の形態では、複数のセグメント21は、それぞれ5つの意匠面分割金型部23を有する構成とされているが、複数の意匠面分割金型部23を有していれば、4つ以下の意匠面分割金型部23を有する構成としてもよく、6つ以上の意匠面分割金型部23を有する構成としてもよい。
【0055】
また、前記実施の形態では、セグメント21のホルダ22を中間コンテナ5に固定した構成としているが、ホルダ22を中間コンテナ5と一体とした構成としてもよい。
【符号の説明】
【0056】
1:タイヤ成形用金型、 2:タイヤ、 2a:サイドウォール、 2b:サイドウォール、 2c:トレッド、 3:下側コンテナ、 4:上側コンテナ、 5:中間コンテナ、 5a:テーパー面、 6:アウターリング、 6a:テーパー面、 7:ブラダー、 10:サイドウォール成形部、 11:下側サイドウォール成形部、 11a:下側サイドウォール意匠面、 12:上側サイドウォール成形部、 12a:上側サイドウォール意匠面、 20:トレッド成形部、 20a:トレッド意匠面、 21:セグメント、 22:ホルダ、 22a:穴部、 23:意匠面分割金型部、 24:突起、 25:板バネ部材、 25a:板バネ本体、 25b:固定部、 26:ボルト