(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】試験装置および試験方法
(51)【国際特許分類】
E02D 1/00 20060101AFI20241028BHJP
E21D 9/04 20060101ALI20241028BHJP
G01N 33/24 20060101ALI20241028BHJP
【FI】
E02D1/00
E21D9/04 A
G01N33/24 B
(21)【出願番号】P 2021106499
(22)【出願日】2021-06-28
【審査請求日】2024-05-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000195971
【氏名又は名称】西松建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000420
【氏名又は名称】弁理士法人MIP
(72)【発明者】
【氏名】三戸 憲二
(72)【発明者】
【氏名】吉野 修
(72)【発明者】
【氏名】坪井 広美
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-163393(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108508159(CN,A)
【文献】特開2007-254996(JP,A)
【文献】米国特許第5645375(US,A)
【文献】特開2006-070618(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 1/00 - 1/08
E21D 9/04
G01N 33/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料土に気泡を混合した気泡混合土の気泡特性を試験するための試験装置であって、
所定の圧力下で試料土を収容するための試料室と、
前記試料室を満たすものとは異なる特定のガスで起泡剤を発泡して得られた気泡を、前記試料土に注入する気泡注入手段と、
前記試料室内で試料土および気泡を攪拌する攪拌手段と、
前記試料室から採取された気体中の前記特定のガスの濃度を測定する測定手段と
を備える、試験装置。
【請求項2】
前記試料室は、空気で満たされた状態にあり、前記特定のガスは、アルゴンを主成分として含む、請求項1に記載の試験装置。
【請求項3】
前記試料室は、加圧下に置かれる、請求項1または2に記載の試験装置。
【請求項4】
前記試験装置は、
前記測定手段により測定された前記特定のガスの濃度に基づいて、気泡混合土の気泡特性として、破泡率、破泡量またはこれらの両方を演算する演算手段
をさらに備える、請求項1~3のいずれか1項に記載の試験装置。
【請求項5】
試料土に気泡を混合した気泡混合土の気泡特性を試験する試験方法であって、
所定の圧力下で試料土を試料室に収容する工程と、
前記試料室を満たすものとは異なる特定のガスで起泡剤を発泡し、発生した気泡を前記試料土に注入する工程と、
前記試料室内で試料土および気泡を攪拌する工程と、
前記試料室からの気体中の前記特定のガスの濃度を測定する工程と
を含む、試験方法。
【請求項6】
前記試料室は、空気で満たされた状態にあり、前記特定のガスは、アルゴンを主成分として含む、請求項5に記載の試験方法。
【請求項7】
前記気泡を注入する工程の前に前記試料土に加水および混合し、前記試料土の含水比を調整する工程を含む、請求項5または6に記載の試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気泡シールド工法等の気泡を用いる工法に関する気泡特性試験に関し、より詳細には、試料土および気泡を混練した気泡混合土の気泡特性を試験するための試験装置および試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
気泡シールド工法では、カッターヘッドから気泡を添加し、切羽で気泡と切削土と混練および攪拌することにより、泥土の塑性流動化を促進している。これまで、起泡剤による流動特性や気泡破泡特性は、スランプ測定やテーブルフロー測定、大気圧下での体積変化などにより行われている。
【0003】
JIS A1101は、スランプ試験を規定する。スランプ試験では、スランプコーンを引き抜いた際の形状の変化を確認するが、ポンプ圧送時の土砂の性状は、塑性流動性を持ち、お椀型の性状を有するのが好ましいといわれている。JIS R5201は、テーブルフロー試験を規定する。テーブルフロー試験では、フローテーブルの中央にフローコーンを置き、土砂を詰めた後、15秒間に15回落下運動が行われる。土砂が最も広がった方向の長さと、この方向に直角な部分の長さの平均値とがミリメール単位で測定される。
【0004】
気泡混合土破泡試験では、重量および湿潤密度を測定した各試料に気泡(起泡剤と水と空気)を添加し、混合攪拌して気泡混合土を作成する。その後、容器内で、破泡した空気が土に残らないように突き固める。気泡混合土の重量を測定し、比重から気泡混合土の破泡率が求められる。
【0005】
また、非特許文献1は、試料土、水および気泡が混合した気泡混合土について、気泡の存在量を算定する方法として、フレッシュな気泡混合軽量土の空気率試験方法(試験法128-2015)を開示する。大気圧下では、この空気率試験方法により気泡量を測定できる。しかしながら、加圧下ではこの試験の実施は困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】NEXCO試験方法、第1編、土質関係試験方法、東日本高速道路株式会社,中日本高速道路株式会社,西日本高速道路株式会社編著、高速道路総合技術研究所,平成29年7月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これまで、試料土と気泡を混練した際の破泡率を測定する手法が確立されていない中、混練後の気泡泥土の比重と、その気泡泥土を締め固めて気泡を排除した状態の比重を計測し、気泡が破泡していない初期状態の比重計算値との関係から、破泡率を算出する方法が用いられている。しかしながら、従来技術の破泡率の測定方法は、各段階の体積測定精度が低く、圧力下での計測が難しいことから、定量評価に利用するには充分なものではなかった。
【0008】
本開示は、上記点を鑑みてなされたものであり、加圧下においても、試料土および気泡を混練した気泡混合土の気泡特性を精度良く評価することができる試験装置および試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示では、上記課題を解決するために、下記特徴を有する、試料土に気泡を混合した気泡混合土の気泡特性を試験するための試験装置が提供される。試験装置は、所定の圧力下で試料土を収容するための試料室を備える。試験装置は、また、試料室を満たすものとは異なる特定のガスで起泡剤を発泡して得られた気泡を、試料土に注入する気泡注入手段と、試料室内で試料土および気泡を攪拌する攪拌手段とを備える。試験装置は、さらに、試料室から採取された気体中の特定のガスの濃度を測定する測定手段を備える。
【発明の効果】
【0010】
上記構成により、加圧下であっても、試料土と気泡を混練した気泡混合土の気泡特性を精度高く評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本実施形態による気泡特性試験装置を構成する圧力容器およびその周辺の構造を示す側面図である。
【
図2】
図2は、本実施形態による気泡特性試験装置を構成する圧力容器の斜視図である。
【
図3】
図3は、本実施形態による気泡特性試験装置の全体構成を示す図である。
【
図4】
図4は、本実施形態による気泡特性試験装置において採用され得る攪拌翼を変形例とともに示す図である。
【
図5】
図5は、
図1および
図3に示した気泡特性試験装置において実行される、本実施形態による気泡特性試験方法を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、本実施形態による気泡特性試験方法において、含水比、破泡率および破泡量を求める方法を説明する概略図である。
【
図7】
図7は、(A)気泡単独の性状および特性および(B)気泡混合土の性状および特性を確認する試験方法を説明する図である。
【
図8】
図8は、気泡単独の性状および特性を確認した実験結果を示す図である。
【
図9】
図9は、気泡混合土の性状および特性を確認した実験結果を示す図である。
【
図10】
図10は、気泡混合土の性状および特性を確認した実験結果を示す図である。
【
図11】
図11は、気泡混合土の性状および特性を確認した実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
気泡シールド工法は、トンネル掘削の最先端箇所にある切羽またはチャンバ内に、起泡剤を発泡して得られた気泡を注入しながら掘進する工法である。気泡シールド工法では、注入される微細な気泡が掘削土の流動性および止水性を向上させている。この気泡シールド工法は、土質の影響を受けるため、所定の試料土を用いた試験を実施して、気泡の効果を確認して最適な起泡剤の添加量などを検討することが望まれる。特に、気泡シールド工法において、掘削は、加圧下で行われるため、大気圧下ではなく、加圧下での気泡特性を評価することが可能な試験装置および試験方法が求められる。
【0013】
以下、試料土に気泡を混合した気泡混合土の気泡特性を加圧下で試験することを可能とする試験装置および試験方法について、図面を参照しながら、具体的に説明する。
【0014】
まず、
図1~
図3を参照しながら、本実施形態による気泡混合土の気泡特性を試験するための気泡特性試験装置について説明する。
【0015】
図1は、本実施形態による気泡特性試験装置を構成する圧力容器100およびその周辺の構造を示す側面図である。
図2は、本実施形態による気泡特性試験装置を構成する圧力容器100の斜視図である。
図3は、本実施形態による気泡特性試験装置の全体構成を示す図である。
【0016】
図1に示すように、気泡特性試験装置を構成する圧力容器100は、底部104と、蓋部106と、底部104および蓋部106に挟まれた側部108とを含み構成され、底部104、側部108および蓋部106によって密閉容器としての試料室110が構成されている。試料室110は、所定の圧力下、より好ましくは、加圧下で試料土を収容するための空間である。なお、説明する実施形態では、加圧下で試験を行うものとして説明するが、大気圧下での試験を妨げるものではない。
【0017】
説明する実施形態において、試料室110は、所定の直径(例えば15cm)および所定の高さ(例えば15cm)を有する円筒形状とされている。内容物の均一な攪拌を容易とする観点からは、試料室110は、好ましくは、円筒形状を有するものとするが、必ずしも円筒形状に限定されるものではない。また、試料室の寸法も、特に限定されるものではなく、所定の性質(粒径や大きさ)を有する試料土を評価できる限り、特に限定されるものではない。また、底部104および蓋部106は、特に限定されるものではないが、適切な厚み(例えば1cm)の厚みの鋼製の円形板を用いることができ、側部108も、特に限定されるものではないが、内部の状態を視認できるようにアクリル樹脂で作製された所定の厚さ(約1cm)の中空円筒状のものを用いることができる。
【0018】
試料室110を構成する底部104、蓋部106および側部108は、
図2の斜視図で示すように、ナット105、両ネジシャフト107およびナット103で締結および固定されている。試料室110を構成する蓋部106は、取り外し可能に構成されており、試験前に、蓋部106が取り外されて、試料室110内に試験対象の試料土150が投入される。
【0019】
試料土150としては、適切なサイズを有する土を用いることができ、気泡シールド工法による切削土を模擬する観点からは、より粒径の大きなものとすることが好ましく、より好ましくは、9.5mmのサイズを有するものを用いることができる。試料土150の土粒子のサイズの上限としては、試料室110の大きさにも依存し、試料室110内で攪拌可能な程度の大きさにとすることが望ましく、好ましくは、15cmの円筒の試料室であるとして19mm未満とすることができる。
【0020】
また、試料土150には、事前に加水されて、想定する原位置の土壌の含水比に調整されることが好ましい。また、試料土150には、先行して水または起泡剤水溶液が加水されてチャンバ内で均一に攪拌された切削土を模擬する観点からは、事前に水または起泡剤水溶液が加水されて、想定する加水後の原位置の含水比に調整されることが好ましい。
【0021】
試料室110を構成する蓋部106は、試験時は、側部108および底部104に取り付けられ、ナット105、両ネジシャフト107およびナット103で固定・締結されて、試料室110内に試料土150が密閉される。
【0022】
圧力容器100には、試料室110内で内容物を攪拌および混合するための攪拌手段120が蓋部106に設けられている。攪拌手段120は、蓋部106に設けられた穴に挿通され、回転可能な回転軸としての回転シャフト122と、試料室110内において回転シャフト122に接続する攪拌翼124と、回転シャフト122に手動で動力を伝達するためのハンドル126とを含み構成される。攪拌手段120は、圧力容器100の試料室110内の密閉性が維持される形で取り付けられることが望ましい。攪拌翼124は、それぞれ、回転時に側部108に接触しない範囲で充分に内容物を攪拌可能な長さを有するように設計される。攪拌混練は、好ましくは、1~60rpmの範囲で、気泡注入完了から開始し、0.1~1.0分間実施する。
【0023】
なお、説明する実施形態において、試料室110の内容物を攪拌は、簡便には手動で行われるものとする。つまり、説明する実施形態において、人が把持するハンドル126が動力伝達部を構成する。しかしながら、試料室110の内容物を攪拌のための動力は、これに限定されず、回転シャフト122は、動力伝達部として、モーターなどの動力源からの動力を回転シャフト122に伝達するギア、クランク、プーリーなどの機械部品に接続されていてもよい。
【0024】
なお、攪拌手段は、
図1では、棒状の攪拌翼124を備えるものが示されているが、
図2の斜視図では、板状の攪拌翼を複数備えるものであり、攪拌翼の形態が異なっている点に留意されたい。
【0025】
蓋部106には、加圧・注水口112が設けられている。加圧・注水口112から攪拌翼124による攪拌部位に近接した位置へ水または空気を送出するためのチューブなどの加圧・注水経路114が設けられている。加圧・注水経路114は、攪拌翼124と干渉しないように配置される。加圧・注水口112は、試料室110を加圧状態にするために空気を送り込むための孔であり、また、必要に応じて、試料室110内に注水するために用いることができる。
図3に示すように、加圧・注水口112は、コンプレッサ170に接続される。コンプレッサ170は、所定の空気圧を試料室110に印加するために用いられる。コンプレッサ170は、また、水道またはタンクなどからの水または起泡剤水溶液を空圧により試料室110に注入するために用いることができる。
【0026】
加圧・注水口112から試料室110内へ空気を送り込むことにより、試料室110内を加圧された空気で満たされた状態にすることができる。気泡シールド工法の掘削状況を模擬する観点からは、試料室110内の圧力は、想定するトンネル深度の「静水圧+切羽土圧+予備圧(0.02~0.05MPa)」相当とすることができる。切羽土圧は、軟弱地盤では全土被りに対する静止土圧、アーチアクションが発揮される良質地盤ではゆるみ高さに対する主働土圧、完全に自立する堅固な固結地盤では0が採用される。例えば、地表近くの高い地下水位の条件下において、完全に自立する固結地盤を対象として、30mのトンネル深度を想定した場合には、切羽土圧はほとんど作用しないが「静水圧+予備圧」として約0.3MPaが想定されるので、約0.3MPaの空気圧が印加され得る。
【0027】
なお、
図1に示す圧力容器100においては、加圧・注水口112から加水することが可能となっているが、これは実際のシールドの施工方法に即した形で、加水方法を取捨選択できるものである。シールド掘進中に切羽のカッターから加水および気泡注入を同時に行う場合には、加圧・注水口112から加水しながら、後述する気泡注入口116から気泡を同時に注入することで施工を模擬できる。一方、切羽のカッターからは加水、バルクヘッド側の固定棒から気泡を注入という施工法とする場合には、切羽から切削土に水分を十分に加えた後に遅れて気泡を注入・混練攪拌することになる。このため、この施工法を模擬した試験方法としては、上述したように、水または起泡剤水溶液の試料土150への加水は、試料室110内に収容する前に行うことで、試料土へ均等に加水する方法を選択することができる。
【0028】
蓋部106には、さらに、気泡注入口116が設けられている。また、気泡注入口116から攪拌翼124による攪拌部位に近接した位置へ気泡を送出するためのチューブなどの気泡注入路118が設けられる。気泡注入路118は、攪拌翼124と干渉しないように配置される。説明する実施形態において、底部104には、足部102が設けられ、底部104の略中央には、下方気泡注入口128がさらに設けられ、下方から気泡を試料室内に注入する可能に構成されている。気泡注入手段として、下方気泡注入口128と、上方にある気泡注入口116との両方を備えることにより、試料土150の性質に応じて、気泡の入れ方を変えることが可能となる。ひいては、攪拌手段120による、試料室110内での試料土および気泡の攪拌および混合をより確実に行うことが可能となる。
【0029】
また、圧力容器100内の土は、撹拌翼の回転により遠心力が作用するところ、圧力容器100の中心側にある土とも適切に混合できるようにするため、加圧・注水経路114および気泡注入路118の先端(吐出口)の位置を、圧力容器100の中心に近い位置とすることが好ましい。
【0030】
気泡注入口116および下方気泡注入口128は、起泡剤を泡立たせて発生された気泡を試料室110に送り込むための孔である。説明する実施形態においては、気泡注入口116および下方気泡注入口128は、所定の圧力で、特定のガスで、所定濃度の起泡剤を所定の発泡倍率で発泡して気泡を発生する気泡発生装置160に接続されている。
【0031】
気泡シールド工法の掘削状況を模擬する観点からは、気泡の注入先圧力は、想定するトンネル深度の「静水圧+切羽土圧+予備圧」相当となる。例えば、地表近くの高い地下水位の条件下において、完全に自立する固結地盤を対象として、30mの深度でのトンネル掘削を想定した場合には、切羽土圧はほとんど作用しないが0.3MPaの「静水圧+予備圧」が想定されるため、気泡の注入先圧力は0.3MPaとなる。発泡倍率は、特に限定されるものではないが、5~20倍の範囲内の所定の値に設定することができ、より好ましくは、5~10倍の範囲内の所定の値に設定することができる。しかしながら、気泡を所定圧力下で所定の発泡倍率を実現するためには、大気圧下に比較してより多くのガスを注入する必要がある。例えば、0.3MPaの静水圧を想定した場合に、発泡倍率5倍を実現するためには、大気圧と比較して4倍のガスを注入する必要がある。使用する起泡剤水溶液の濃度は、0.1~5%、より好ましくは、0.5~1.0%の範囲内のものを使用することができる。なお、発泡倍率に応じて起泡剤水溶液の濃度を高くすることが好ましいが、限定されるものではない。なお、発泡倍率は、起泡溶液の体積に対する気泡の体積の割合(倍)を示し、例えば、起泡溶液の体積が5Lで、発生した気泡の体積が25Lの場合、5倍となる。
【0032】
気泡発生装置160内では、起泡剤供給ポンプを介して供給された起泡剤水溶液と、コンプレッサを介して供給された圧縮ガスとが混合された混合体が、所定の圧力によって発泡筒を通過させられることによって、気泡化する。
【0033】
使用する起泡剤は、特に限定されるものではなく、想定する工法において使用を予定している任意の起泡剤を用いることができるが、例示すると、アルキルエーテル硫酸エステル塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、アルファスルホ脂肪酸メチルエステル塩を主成分とする界面活性剤を用いることができる。また、起泡剤は、性能を損なわない範囲において、上述した、または他の界面活性剤を複数種類併用することも可能である。
【0034】
気泡シールド工法において、切削土に注入される気泡は、通常、空気を所定濃度の起泡剤水溶液を通して、一定の発泡倍率で泡立たせたものである。これに対して、説明する実施形態による試験装置および試験方法において、注入される気泡は、試料室110を満たすものとは異なる特定のガスで起泡剤を所定の発泡倍率で発泡して得られたものである。この特定ガスの気泡が、気泡注入口116および気泡注入路118、下方気泡注入口128から、試料室110内に収容された試料土150に注入され、攪拌手段120により混合・攪拌される。
【0035】
ここで、特定のガスは、少なくとも試料室110を満たす気体とはその組成において異なるものであり、好ましくは、空気により発泡された気泡と同等の性状を有する気泡を生ずるものである。特定ガスは、例示としては、希ガスまたは二酸化炭素を主成分として含むものを挙げることができる。より好ましい実施形態においては、特定のガスは、アルゴンを主成分として含むものである。特定のガスは、市販されている所定グレードのアルゴンガスボンベから供給することができる。
【0036】
空気中の多く存在する窒素や酸素では、これらを使った気泡の破泡の際の全体量から見ると僅かな変化量となり測定にはかなりの精度が必要となる。一方、空気中に存在しないか微量しか存在しないガスであればその変化量は前者より大きくなり、変化を捉え易い。アルゴンは、大気中に一定の存在量(0.934%)で含まれている気体であり、水に溶け難いため気泡が安定しており、反応性が低く安定しているため、広く産業で用いられており比較的入手が容易である。これらの観点から、アルゴンガスを用いることが好ましい。特に、空気を用いた気泡と同等な性状となるガスであるという観点からは、アルゴンガスを好適に採用することができる。
【0037】
気泡は、所定の気泡注入量で試料室内に注入される。圧力容器100が加圧されている状態で気泡が注入されることになるため、気泡注入量は、予め測定しておいた注入速度(単位時間当たりに気泡が注入される量)と設定時間により決定することができる。気泡は、所定圧力で加圧された試料室110内に注入するために、通常、試料室110内の圧力より高い圧力をかけて注入される。
【0038】
図1に示すように、説明する実施形態による圧力容器100には、蓋部106に、試料室110内の気体を測定するために取り出すためのサンプル孔130が設けられている。サンプル孔130は、分岐されており、圧力計132と、リリーフ弁134と、ガス濃度計への採取経路136とに接続されている。
【0039】
圧力計132は、試料室110内の圧力を確認するために設けられている。リリーフ弁134は、試料室110内の圧力を一定に維持するために設けられている。上述したように、気泡は、試料室110内の圧力より高い圧力で注入されるところ、リリーフ弁134は、気泡の注入によって試料室110内の圧力が過度に上昇しないように、設定圧(例えば、上記0.3MPa)以上で解放するように構成されている。
【0040】
採取経路136は、試料室110からサンプル孔130を介して取り出した気体をガス濃度計142に送出するために設けられている。
図3に示すように、採取経路136には、エアフィルタ138およびレギュレータ140を介して、ガス濃度計142が接続されている。ここで、エアフィルタ138は、採取される気体をろ過し、塵や水分を除去し、適切にガス濃度を測定するために設けられている。レギュレータ140は、ガス濃度計142に放出される気体の流量を調整するために設けられている。
【0041】
気泡を発泡させるために使用された特定のガスは、破泡することにより、試料室110内に放出され、試料室110を満たす空気と放出された特定ガスとの混合気体が、採取経路136からガス濃度計142に導入される。
【0042】
ガス濃度計142は、採取された気体中の特定のガスの濃度を計測するために設けられる。ガス濃度計142は、所定の測定方式で採取した気体中の特定ガスの濃度を測定する。ガス濃度計142としては、特に限定されるものではないが、超音波式ガス濃度計および熱伝導式ガス濃度計を用いることができる。超音波式は、ガス中を通過する音波の伝搬速度が、ガスの温度および組成に依存するところ、ガス温度および音速から、混合ガスの平均分子量を求め、平均分子量から濃度を求める方式である。
【0043】
ガス濃度計142には、情報処理装置144が接続されており、情報処理装置144は、ガス濃度計142の出力に基づいて、気泡混合土の気泡特性としての破泡量、破泡率およびその両方を演算する。情報処理装置144は、パーソナル・コンピュータやマイクロコンピュータ、FPGA(フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ)などの演算能力を有する装置である。破泡量および破泡率を演算するために、試料土の基本的な物性値が適宜事前に入力される。
【0044】
なお、説明する実施形態では、ガス濃度計142に情報処理装置144が(有線または無線で)接続されているものとして説明するが、ガス濃度計142と情報処理装置144とが直接接続されず、ガス濃度計142で表示される測定値を、情報処理装置144に人手で入力する方式であってもよい。破泡量および破泡率の演算方法については、詳細を後述する。
【0045】
攪拌手段120の攪拌翼については、
図1~
図2に例示したが、以下、
図4を参照しながら、本実施形態による気泡特性試験装置において採用され得る攪拌翼について、より詳細に説明する。
図4は、本実施形態による気泡特性試験装置において採用され得る攪拌翼を変形例とともに示す図である。
【0046】
図4(A)は、
図1および
図3に示した実施形態における攪拌翼の構造を示す。
図4(A)に示すように、攪拌手段120は、回転シャフト122と、回転シャフト122から外周方向に突出する4本(回転シャフト122を貫通するものとして1本と数える。)の攪拌棒とを含み構成される。攪拌翼124は、それぞれ、回転時に側部108に接触しない範囲で充分に内容物を攪拌可能な長さを有するように設計される。
【0047】
図4(A)に示す4本の攪拌棒124-1~124-4は、回転シャフト122周りで90度ずれながら周設されており、また、回転シャフト122の軸方向で隣接する攪拌棒(例えば、124-1と124-2と)は、軸方向で所定距離ずれて配置される。なお、
図4(A)に示す例では、90度ずれながら4本の攪拌棒124-1~124-4が並べられているが、本数は、4未満であってもよいし、5以上であってもよいし、回転シャフト122周りの角度のずれも90度に限定されるものではない。
【0048】
図4(A)に示すような、試料室110内において回転軸に接続する攪拌翼を備えることによって、シールドマシンにおいて、掘削された後の状態の試料土がチャンバ内で混練される状態を好適に模擬することが可能となる。なお、
図4(A)は、好ましい実施形態による攪拌手段の構成を例示するものに過ぎず、種々の変形例が企図される。
【0049】
図4(B)は、
図1および
図3に示した実施形態とは異なる変形例の攪拌翼の構造を示す。
図4(B)に示す変形例では、攪拌手段120Bは、回転シャフト122Bと、回転シャフト122Bから外周方向に突出する2枚(回転シャフト122Bを貫通するものとして1枚と数える)の板状攪拌翼124B-1,124B-2を含み構成される。板状攪拌翼124Bは、それぞれ、回転時に側部108に接触しない範囲で充分に内容物を攪拌可能な長手方向の長さを有するように設計される。
【0050】
図4(B)に示す2枚の板状攪拌翼124B-1,124B-2は、回転シャフト122B周りで90度ずれて設けられており、また、板状攪拌翼124B-1,124B-2間は、回転シャフト122Bの軸方向で所定距離ずれて、短手方向で重ならないように配置される。なお、
図4(B)に示す例では、90度ずれながら2枚の板状攪拌翼124B-1,124B-2が配置されているが、枚数は、1であってもよいし、3以上であってもよいし、回転シャフト122B周りの角度のずれも90度に限定されるものではない。
【0051】
図4(C)は、
図1および
図3に示した実施形態とは異なるさらに他の変形例の攪拌翼の構造を示す。
図4(C)に示す変形例では、攪拌手段120Cは、
図4(B)と同様に、回転シャフト122Cと、回転シャフト122Cから外周方向に突出する2枚の板状攪拌翼124C-1,124C-2を含み構成される。
図4(C)に示す板状攪拌翼124C-1,124C-2の下部には、山形の刃が設けられており、それ以外は、
図4(B)に示した攪拌翼と同様である。
【0052】
図4(A)~
図4(C)を参照しながら複数の攪拌翼の変形例について説明したが、
図4(A)~
図4(C)に示す中では、
図4(A)に示す試料室110内において回転軸から外周方向に突出する複数の攪拌棒を備える構成がより好ましい。
【0053】
以下、
図5を参照しながら、本実施形態による気泡特性試験方法について説明する。
図5は、
図1および
図3に示した気泡特性試験装置を用いて実行される、気泡特性試験方法を示すフローチャートである。
【0054】
図5に示す試験方法は、工程S100から開始され、工程S101では、原位置の含水比となるように試料土150の含水比が調整される。上述したように、試料土150としては、適切なサイズを有する土を用いることができ、気泡シールド工法による切削土を模擬する観点からは、より粒径の大きなものとすることが好ましく、より好ましくは、9.5mm~19mmのサイズを有するものを用いることができる。また、試料土150の含水比の調整では、模擬したい工法に応じて、原位置の含水比または加水後の含水比に調整される。例えば、気泡のみを注入する工法を想定する場合は、原位置の含水比に調整される。気泡に先行して水または起泡剤水溶液を注入する工法を想定する場合は、加水後の原位置の含水比に調整される。
【0055】
図5に示す試験方法においては、工程S102では、含水比が調整された後の試料土150が圧力容器100の試料室110内に投入し密閉される。工程S103では、圧力容器100のに加圧・注水口112からコンプレッサ170を用いて所定の空気圧を印加し、試料室110内を加圧状態とし、所定の圧力下で試料土が試料室110に収容される。工程S104では、気泡および起泡剤水溶液または水が同時または順次される。工程S104において、試料室110を満たすものとは異なる特定のガス、好ましくはアルゴンガスで、起泡剤水溶液が発泡され、発生した気泡が、所定の気泡注入量となるように試料土150に注入される。事前に加水後の含水比に調整される場合は、ここでは、気泡のみが注入されてもよい。
【0056】
工程S105では、注入した所定量の気泡と試料土と、必要に応じて後から追加された起泡剤水溶液または水とを攪拌および混合する。工程S105においては、試料室110内において攪拌翼124で、試料土および気泡が混合攪拌される。混合攪拌は、好ましくは、1~60rpmの範囲で、気泡注入から0.1~1.0分間実施する。
【0057】
工程106では、ガス濃度計142により、試料室110から採取された気体中の特定のガスの濃度が計測される。工程107では、情報処理装置144により、得られたガス濃度に基づいて、破泡量または破泡率が演算される。破泡率または破泡量は、測定される特定のガスの濃度と、既知の基本量とに基づいて演算される。
【0058】
図6は、含水比、破泡率および破泡量の求め方を説明する概略図である。
図6に示すように、全く破泡していない初期状態では、試料土の体積と、気泡の体積と、必要に応じて加水分の体積V
wwと、試料室110内の空気で満たされた残りの体積V
aとの合計が密閉容器の容積となる。ここで、試料土の体積は、地盤の土粒子の体積V
ssと、地盤における間隙の体積V
saと、地盤における含水分の体積V
swとの合計である。これらの試料土に関する体積V
ss,V
sa,V
swは、基本的物性値として既知となる。気泡の体積は、気泡中のガスの体積V
baと、気泡中の起泡剤水溶液の体積V
bwとの合計である。これらの気泡に関する体積V
ba,V
bwは、気泡注入量および発泡倍率に基づいて既知であり、また気泡注入量も、注入速度および設定時間に基づいて既知である。
【0059】
一方、一定量の気泡が破泡した後は、試料土の体積(Vss+Vsa+Vsw)と、残存する気泡の体積(Vba+Vbw)と、加水分の体積Vwwと、破泡した気泡体積Varと、容器内の空気で満たされる残りの体積Vaとの合計が密閉容器の容積となる。
【0060】
図6に表す関係より、含水比wは、試料土の基本的な物性値として既知の地盤の含水分の体積V
swと、気泡注入量および発泡倍率から求められる気泡中の起泡剤水溶液の体積V
bwと、加水量から求められる加水分の体積V
wwと、試料土の基本的な物性値として既知の地盤の土粒子の体積V
ssと、水の比重ρ
wと、土の比重ρ
sとに基づいて、下記式(1)により算出することができる。
【0061】
【0062】
また、破泡率mは、測定されるガス濃度DGASと、試料室を満たす空気中の特定のガスの存在量α(%)と、試料土の基本的な物性値として既知の地盤の間隙の体積Vsaと、容器内の空気で満たされる残りの体積Vaと、気泡中のガスの体積Vbaとに基づいて、下記式(2)により算出することができる。
【0063】
【0064】
また、破泡量Varは、測定されるガス濃度DGASと、試料室110を満たす空気中の特定のガスの存在量αと、試料土の基本的な物性値として既知の地盤の間隙の体積Vsaと、容器内の空気で満たされる残りの体積Vaとに基づいて、上記式(3)により算出することができる。
【0065】
なお、説明する実施形態では、ガス濃度計によるガス濃度の測定値一点に基づいて破泡量または破泡率を一点計算するものとして説明した。しかしながら、ガス濃度計による測定値複数点に基づいてガス濃度の平均値を一度算出し、ガス濃度の平均値に基づいて破泡量または破泡率を一点計算するものとしてもよいし、ガス濃度計によるガス濃度の測定値の時系列に基づいて、破泡量または破泡率の時系列を算出することとしてもよい。
【0066】
工程S108では、気泡混合土の性状を表す指標として、必要に応じて攪拌トルクを計測する。測定した撹拌トルクからせん断強さが算出され、流動性を評価することができる。流動性は、例えばベーンせん断試験等により評価することができる。工程S109では、得られた気泡混合土の性状を視覚的に観察する。工程110では、本処理を終了する。
【0067】
以上、本実施形態による気泡混合土の気泡特性を試験するための試験装置および試験方法について説明した。以下、さらに、
図7~
図11を参照しながら、
図1~
図3を参照して説明した試験装置および
図5を参照して説明した試験方法により、気泡単独および気泡混合土の破泡特性を実際に測定した実験結果について説明する。
【0068】
以下の実験においては、使用する気泡の仕様は、以下の通りである。注入先圧力は、0.3MPa(現場静水圧相当)であり、起泡剤はKT-10c(株式会社タック社製のアルキルエーテル硫酸エステル塩、pH7~9で淡黄色透明、比重:1.01~1.05、凍結点-5℃)を用い、発泡倍率は、実験に応じて約5~10倍の範囲の値とし、溶液濃度も、発泡倍率に応じた0.5または1.0%とした。また、攪拌翼は、試料と気泡との混合が効率的にできる攪拌翼の形状・配置を実際に混合して検討した結果、
図4(B)および(C)よりも優れていた
図4(A)に示したものを使用した。さらに、気泡を発生させる特定のガスは、市販の一般工業用圧縮ガス(純度99.995%以上)のアルゴンガスボンベから供給した。
【0069】
まず、
図7(A)に示すように、気泡単独の性状および特性を確認する試験を実施した。気泡単独の性状および特性を確認するために、加圧下様々な条件下で、試料室110内に所定の気泡注入量で気泡を注入し、気泡のみで満たし、気泡の時間変化を観察した。ここで、破泡量および破泡率は、ガス濃度D
GASから計算可能であるが、
図7(A)に示すように気泡が破泡して起泡剤水溶液に戻った際の液面の高さhを測定することによっても、破泡量および破泡率を見積もることが可能であり、気泡単独の実験では、この対応関係を確認した。
【0070】
なお、破泡量(体積)は、高さh、断面積A、発泡倍率γに基づいて、下記式で算出することが可能である。
【0071】
【0072】
そして、特定ガスを用いて作成した気泡を使用して、破泡した場合における試料室中の特定ガスのガス濃度の増加量ΔDGASを測定し、下記関係式を求めた。なお、ガス濃度の具体的な測定方法としては、まず、0~5秒間、採取経路内の空気を排出し、ガス濃度計を接続し、最初の30秒間での測定値と、次の45秒間の測定値との平均値を求めた。また、レギュレータの流量は、1.0L/min(at 0.005MPa)に調整した。また、アルゴン濃度の測定には、超音波式ポータブルガス濃度計US-IX(第一熱研株式会社)を使用した。
【0073】
【0074】
図8(A)~(D)は、気泡単独の性状および特性を確認した実験結果を示す。
図8は、横軸が気泡の注入が完了した後の経過時間を表し、縦軸が、各時点で算出される破泡率を示す。
図8に示すように、起泡剤水溶液濃度が同じ条件(0.5%同士および1.0%同士)で発泡倍率を5~12倍の間で変化させて比較した結果、発泡倍率が大きい方が泡持ちが良いことが判明した。
図8(A)および(B)に示すように、発泡倍率が大きい方が、注入直後の初期破泡率が小さく、経過時間に伴う破泡率の上昇傾向も同様に推移し、逆転することはなかった。起泡剤水溶液濃度0.5%で、発泡倍率5倍の例について、気泡注入直後の溶液が、破泡して溶液になったのではなく、最初から発泡に寄与していないと考え、初期の溶液分を除いて発泡倍率を補正すると7.3倍に相当し、
図8(C)は、この補正前後の時間経過を示している。
図8(D)は、起泡剤水溶液の濃度の違いによる破泡率の変化を示しており、発泡倍率が同じ条件で(ここでは10倍で固定した。)起泡剤水溶液濃度を変化させて(0.5%のものと1.0%のもの)比較した結果、泡持ちは同等であった。
図8(D)に示すように、注入直後の初期破泡率も、経過時間に伴う破泡率の変化も同等であった。
【0075】
引き続き、
図7(B)に示すように、気泡と試料土を混練した気泡混合土の性状および特性を確認する試験を実施した。気泡の仕様は、気泡単独の性状および特性を確認する試験と同一の条件とした。試料土としては、横浜泥岩、相模層群泥岩層(SLm層)を対象とした。気泡注入量は、試料土の20%(体積)とした。試料土として、サイズ2種類を実施した。1つは、大粒のもので、9.5~19mmのサイズで、もう1つは、小粒のもので9.5mm以下のものとした。ここでのサイズは、かけた篩のサイズである。気泡シールド工法においては、カッターの切込み深さ、泥岩の亀裂、実際の排土状況等から、気泡シールド切削模擬土としては、大粒の方が実態に近いと考えられるため、大粒の実験結果を採用した。実際の泥岩シールド切削土は、大粒よりもさらに大きな塊になるが、ここでは試験装置の攪拌翼で攪拌できる程度の土塊として大粒の大きさを設定した。
【0076】
特に実際の泥岩のシールド切削土は、以下の理由より、実際の泥岩のシールド切削土は大粒状であるためであり、大粒のものを使用する方が、より実施工法に即した形で試験を行うことができると考えられる。
(1)実際のシールド掘進では、カッター切込み深さ(掘進速度/カッターパス数/カッター回転数、カッターが地山を削り取る時の食い込み量)が15~25mmと大きいため、羊羹のような均質な泥岩であっても、15~25mm程度の大きさに切削されて取り込まれること
(2)自然界の泥岩には亀裂や薄い砂層が介在しているため、シールド切削土は、よりさらに大きくなること
(3)泥岩層の実際の排土を観察すると、拳大の土塊が多く含まれること
【0077】
気泡混合土の性状および特性を確認するために、加圧下様々な条件下で、試料室110内に含水比を調整した試料土を収容した後、所定の気泡注入量で気泡を注入し、気泡注入完了してから1分後のガス濃度DGASを測定し、上記式(2)から破泡率を計算した。なお、この1分の間に、気泡と試料土との混合および攪拌を完了させた。撹拌は、模擬で想定するシールドマシンの直径とカッター回転数の関係から、実験装置の直径に対する攪拌装置の回転数を求めて、約40rpmの回転数で30秒間行った。また、試料土に加水し、含水比を調整した際に水をなじませる養生時間を10分とった。
【0078】
図9(A)~(D)、
図10(A)~(C)および
図11は、気泡混合土の性状および特性を確認した実験結果を示す。なお、ここでは、上述したように大粒の実験結果を示している。小粒は試料の比表面積が大きいため、水分を容易に吸収して泥濘化し、気泡が破泡しやすい結果となったが省略する。
図9(A)は、横軸を加水率とし、縦軸を破泡率として、実験結果を整理したグラフである。
図9(B)は、縦軸を破泡率とし、一方で横軸は、加水した後の含水比で実験結果を整理したグラフである。
図9(B)においては、横軸は、地山の含水比28%に起泡剤水溶液で加水した後の含水比である。なお、加水率は、処理前の地山の体積に対して加えた水の体積の100分率である。
【0079】
図9(A)および(B)に示すように、横浜泥岩に気泡を添加し混練した結果、加水率が小さい(つまり含水比が低い)と破泡率は高く、加水率が大きくなるにつれて破泡率は低くなった。また、同一の起泡剤水溶液濃度(0.5%同士)で比較した場合、気泡の発泡倍率5倍より10倍の方が破泡率が小さかった。さらに、同一の発泡倍率(10倍同士)で比較した場合、起泡剤水溶液濃度が0.5%よりも1.0%の方が破泡率が小さかった。
【0080】
図9(C)は、横軸を加水率とし、縦軸を破泡率として、実験結果を整理したグラフである。
図9(D)は、縦軸を破泡率とし、一方で横軸は、起泡剤水溶液で加水した後の含水比で実験結果を整理したグラフである。
図9(A)および(B)は、起泡剤水溶液により加水したものであるが、
図9(C)および(D)は、起泡剤水溶液により加水したものと、水により加水したものとの両方を示している。
図9(C)および(D)に示すように、水および起泡溶液で試料に加水して比較した結果、水で加水するよりも。起泡剤水溶液で加水した方が破泡率が小さかった。
【0081】
図10は、起泡剤水溶液濃度1.0%、発泡倍率10%、大粒の試料土で、種々の加水率で起泡剤水溶液で事前に加水した実験結果を切り出したものであり、
図11は、実験前後の試料の性状を示した表である。
図11の表中の(A)は、試料に加水率10%で加水した後と、気泡を添加した後の大気圧下での性状を示し、表中の(B)は、加水率を15%とした場合の性状を示し、表中の(C)は、加水率を20%とした場合の性状を示し、表中の(D)は、加水率を25%とした場合の性状を示す。なお、溶液および気泡は、逐次添加とし、起泡剤水溶液を添加した後、10分間養生し、その後に加圧下で気泡を注入しながら試料と混練攪拌した。
図11の表のうち、左側は大気圧下で試料に水分を添加した後の状態を示し、右側は圧力下で気泡を注入~混練攪拌した後に圧力を開放して大気圧下に戻した状態を示す。これらの実験結果から、加水率(含水比)が高い方が、多くの気泡が破泡せず、残存することが確認できた。また、加圧下から大気圧下に戻した際に、気泡が膨らみ、泡が大きくなっているのが確認された。
【0082】
上記泥岩層を対象とする実験結果をまとめると、以下の通りである。
(1)発泡倍率5~12倍の間で気泡のみの泡持ちの実験を行った結果、同じ起泡剤水溶液濃度(0.5%または1.0%)であれば発泡倍率が大きい方が泡持ちが良かった。そして、発泡倍率が大きい方が、注入直後の破泡率が小さく、時間経過に伴う破泡率の低下も同様に推移して逆転することがなかった。
(2)泥岩層の切削模擬土として、試料のサイズ2種類(大粒:9.5~19mm,小粒:9.5mm以下)で泥岩に加水し気泡を混練する実験を実施した結果、小粒より大粒の方が明らかに破泡率が小さかった。これは大粒の方が比表面積が小さいため、気泡の水分を吸収しにくく、破泡しにくいためと考えられる。実験結果に基づけば、泥岩を大きな塊で切削しチャンバー内に取り込む施工法とすることで、破泡率を大きく抑制可能なことが示された。
(3)泥岩に気泡を添加し混練した結果、加水率が小さい(加水後の含水比が低い)と破泡率が高く、加水率が大きくなるにつれて破泡率が低くなった。
(4)気泡の発泡倍率が5倍より10倍の方が、起泡剤水溶液濃度0.5%よりも1.0%の方が、破泡率が小さかった。
(5)水および起泡溶液で泥岩に加水して比較した結果、水よりも起泡溶液の方が破泡率が小さかった。
【0083】
泥岩層を気泡シールド工法で掘進する際には、地山の含水比が低いため、気泡の水分が切削された泥岩に吸収されて破泡することが懸念されるところ、上記試験結果に基づけば、固定棒から切羽から遅れて気泡を添加し、混練攪拌する工法とすることで、気泡が破泡してしまうことを好適に抑制することが期待でき、塑性流動化を十分に確保でき、切削土による切羽の安定と切削土のスムーズな排土が可能となることが期待できる。そして、上記試験方法を実施し、
図9(A)および(B)に示す右肩下がりの傾向を示す加水後の含水率の結果から、破泡率が低くなる程良い加水率を狙えばよいことが理解できる。
【0084】
以上説明した実施形態によれば、加圧下であっても、試料土と気泡を混練した気泡混合土の気泡特性を精度高く評価することが可能な試験装置および試験方法を提供することができる。
【0085】
気泡は、通常、空気を用いて作成されるところ、本実施形態において、気泡は、試料室内を満たすものとは異なる特定のガスで気泡が作成される。これにより、破泡した際に試料室内の特定のガスの濃度が増加することを利用して、気泡の状態を検知することが可能となる。
【0086】
また、試料室が圧された空気で満たされた状態にあり、特定のガスが希ガスまたは二酸化炭素を主成分として含む、上述した好ましい実施形態では、一般的な空気とは識別可能な形で特定のガスの濃度が測定可能となる。
【0087】
試料室が加圧された空気で満たされた状態にあり、特定のガスがアルゴンを主成分として含むより好ましい実施形態においては、一般的な空気とは識別可能な形で特定のガスの濃度が測定可能となり、さらに、得られる気泡の性状も、空気を用いて起泡して得られる気泡と同等なものとなる。アルゴンガスは、空気に一定の存在量(0.934%)で自然界に存在するガスであり、水に溶け難いため、気泡の安定性が高い。またアルゴンガスは、反応性が低く安定しているため広く産業で用いられていることから入手も容易である。
【0088】
気泡注入手段が下方注入口と、上方注入口とを含む実施形態では、試料土の性質に応じて、気泡の入れ方を変えることが可能となり、攪拌手段による、試料室内での試料土および気泡の攪拌および混合を適切に行うことが可能となる。
【0089】
攪拌手段が試料室内において回転軸に接続する棒状の攪拌翼を備える好ましい実施形態においては、棒状の攪拌翼を用いることによって、シールドマシンにおいて、掘削された後の状態の試料土がチャンバ内で混練される状態を好適に模擬することが可能となる。
【0090】
試料室に収容される攪拌前の試料土を9.5mm以上のサイズを有するものとする実施形態において、実際の泥岩のシールド切削土の状態を好適に模擬することができ、実施工法に即した形で気泡特性を評価することができる。
【0091】
気泡を注入する工程の前に試料土を加水および混合する工程を含む実施形態においては、試料土に均質に加水することが可能となり、カッターヘッドから先行して切羽に水または起泡剤水溶液を、固定棒から切羽から遅れて気泡を添加し、混練攪拌する施工法における、チャンバ内で均質に水または起泡剤水溶液を加えた状態の試料土に気泡が添加される状態を好適に模擬することが可能となる。
【0092】
これまで本発明の試験装置および試験方法について図面に示した実施形態を参照しながら詳細に説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態や、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0093】
100…圧力容器、102…足部、104…底部、103,105…ナット、106…蓋部、107…両ネジシャフト、108…側部、109…ナット、110…試料室、112…加圧・注水口、114…加圧・注水経路、116…気泡注入口、118…気泡注入路120…攪拌手段、122…回転シャフト、124…攪拌翼、126…ハンドル、128…下方気泡注入口、130…サンプル孔、132…圧力計、134…リリーフ弁、136…採取経路、138…エアフィルタ、140…レギュレータ、142…ガス濃度計、144…情報処理装置、150…試料土、160…気泡発生装置、170…コンプレッサ