(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】補助共振回路を備えたDC-DCコンバータ
(51)【国際特許分類】
H02M 3/155 20060101AFI20241028BHJP
【FI】
H02M3/155 Q
(21)【出願番号】P 2021106918
(22)【出願日】2021-06-28
【審査請求日】2023-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000004606
【氏名又は名称】ニチコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片山 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】炭村 浩之
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-114931(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0163163(US,A1)
【文献】特開2011-055580(JP,A)
【文献】特開2013-258859(JP,A)
【文献】特開2021-048694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンバータ主回路部、補助共振回路部およびこれらを制御する制御部を備えた、低電圧ノードと高電圧ノードとの間で直流電力変換を行うDC-DCコンバータであって、
前記コンバータ主回路部は、
前記低電圧ノードと第1中間ノードとの間に設けられた主インダクタと、
前記第1中間ノードと前記高電圧ノードとの間、および前記第1中間ノードと基準ノードとの間のそれぞれに設けられた主スイッチ素子と
を有し、
前記補助共振回路部は、
前記第1中間ノードと第2中間ノードとの間に設けられた補助インダクタと、
前記第2中間ノードと前記高電圧ノードとの間、および前記第2中間ノードと前記基準ノードとの間の少なくとも一方に設けられた補助スイッチ素子と、
前記補助インダクタの周辺温度を検出する温度センサと
を有し、
前記制御部は、
前記主スイッチ素子のオン/オフのデューティを設定するデューティ設定部と、
予め定められたスイッチング周期における前記補助スイッチ素子のオン時間に関する規則と、前記オン時間の上限値とを記憶する記憶部と、
前記規則に基づいて、前記オン時間の仮の値である第1オン時間を設定する第1オン時間設定部と、
前記補助インダクタの周辺温度に基づいて前記上限値を補正することにより補正後上限値を求める温度補正部と、
前記第1オン時間が前記補正後上限値以下であるか否かを判定し、前記補正後上限値以下であると判定した場合は、前記オン時間となる第2オン時間を前記第1オン時間とし、前記補正後上限値を超えていると判定した場合は、前記第2オン時間をゼロとする第2オン時間設定部と、
前記デューティと前記第2オン時間とに基づいて、前記主スイッチ素子および前記補助スイッチ素子のための駆動信号を生成する駆動信号生成部と
を有する
ことを特徴とするDC-DCコンバータ。
【請求項2】
前記記憶部は、前記上限値に相当する第1上限値と、前記第1上限値よりも小さい第2上限値とを記憶し、
前記温度補正部は、前記補助インダクタの周辺温度に基づいて、前記第1上限値を補正することにより第1補正後上限値を求めるとともに、前記第2上限値を補正することにより第2補正後上限値を求め、
前記第2オン時間設定部は、前記第1オン時間が一旦前記第1補正後上限値を超えると、前記第1オン時間が前記第2補正後上限値以下となるまでの間は、前記第2オン時間をゼロにし続け、前記第1オン時間が一旦前記第2補正後上限値以下となると、前記第1オン時間が前記第1補正後上限値を超えるまでの間は、前記第2オン時間を前記第1オン時間にし続ける
ことを特徴とする請求項1に記載のDC-DCコンバータ。
【請求項3】
前記コンバータ主回路部は、
前記主インダクタと、
前記第1中間ノードと前記高電圧ノードとの間に設けられた第1主スイッチ素子と、
前記第1中間ノードと基準ノードとの間に設けられた第2主スイッチ素子と、
前記第1主スイッチ素子に逆並列接続された第1主ダイオードと、
前記第2主スイッチ素子に逆並列接続された第2主ダイオードと
を有する
ことを特徴とする請求項1または2に記載のDC-DCコンバータ。
【請求項4】
前記補助共振回路部は、
前記補助インダクタと、
前記温度センサと、
前記第1中間ノードと前記高電圧ノードとの間、および前記第1中間ノードと前記基準ノードとの間にそれぞれ設けられた補助キャパシタと、
前記第2中間ノードに中間タップが接続された第1巻線と、
前記第1巻線の一端と前記高電圧ノードとの間に設けられた第1補助スイッチ
素子と、
前記第1巻線の他端と前記基準ノードとの間に設けられた第2補助スイッチ
素子と、
前記第1補助スイッチ素子に逆並列接続された第1補助ダイオードと、
前記第2補助スイッチ素子に逆並列接続された第2補助ダイオードと、
前記第1巻線とともにトランスを形成する第2巻線と、
前記第2巻線の一端および他端に接続されたダイオードブリッジと
を有する
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のDC-DCコンバータ。
【請求項5】
前記補助インダクタの周辺温度は、前記トランスの周辺温度でもあり、前記補助インダクタの温度だけでなく前記トランスの温度の影響も受ける
ことを特徴とする請求
項4に記載のDC-DCコンバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低電圧ノードと高電圧ノードとの間で直流電力変換を行う、補助共振回路を備えたDC-DCコンバータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、補助共振転流ポール(Auxiliary Resonant Commutated Pole,ARCP)型のDC-DCコンバータが知られている。このタイプのDC-DCコンバータは、スイッチ素子等からなるコンバータ主回路に並列接続された補助共振回路を該コンバータ主回路に先立って短期間に限り作動させることにより、ソフトスイッチングを実現している(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
また、このタイプのDC-DCコンバータについては、コンバータ主回路を構成するスイッチ素子のデューティとデューティ限界値との比較によりソフトスイッチングを維持することができるかどうかを判定し、維持できない場合には補助共振回路の作動を停止させたり、コンバータ主回路を構成するスイッチ素子のスイッチング周期を変更したりすることも検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
なお、補助共振回路を構成する補助インダクタは、補助共振回路の作動中に飽和しないことが好ましい。このため、補助共振回路の作動時間には、飽和を防ぐための上限値が設定されていることが多い。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】小池直希,外3名、“高効率・双方向絶縁型DCDCコンバータ”、[online]、ポニー電機株式会社、[令和3年5月19日検索]、インターネット<URL:http://pony-e.jp/High_efficiency_bi-directional_insulated_DCDCconverter.pdf>
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、補助インダクタの特性はその温度によって少なからず変化するため、予め設定した上限値に従って画一的に補助共振回路の作動時間を制限するだけでは、例えば、補助インダクタの温度が比較的高い場合に該補助インダクタの飽和を防ぎきれない場合がある。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、補助共振回路を構成する補助インダクタの飽和を確実に防ぐことが可能なDC-DCコンバータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係るDC-DCコンバータは、コンバータ主回路部、補助共振回路部およびこれらを制御する制御部を備えた、低電圧ノードと高電圧ノードとの間で直流電力変換を行うものであって、(1)コンバータ主回路部は、低電圧ノードと第1中間ノードとの間に設けられた主インダクタと、第1中間ノードと高電圧ノードとの間、および第1中間ノードと基準ノードとの間のそれぞれに設けられた主スイッチ素子とを有し、(2)補助共振回路部は、第1中間ノードと第2中間ノードとの間に設けられた補助インダクタと、第2中間ノードと高電圧ノードとの間、および第2中間ノードと基準ノードとの間の少なくとも一方に設けられた補助スイッチ素子と、補助インダクタの周辺温度を検出する温度センサとを有し、(3)制御部は、主スイッチ素子のオン/オフのデューティを設定するデューティ設定部と、予め定められたスイッチング周期における補助スイッチ素子のオン時間に関する規則と、上記オン時間の上限値とを記憶する記憶部と、上記規則に基づいて、上記オン時間の仮の値である第1オン時間を設定する第1オン時間設定部と、補助インダクタの周辺温度に基づいて上限値を補正することにより補正後上限値を求める温度補正部と、第1オン時間が補正後上限値以下であるか否かを判定し、補正後上限値以下であると判定した場合は、上記オン時間となる第2オン時間を第1オン時間とし、補正後上限値を超えていると判定した場合は、第2オン時間をゼロとする第2オン時間設定部と、デューティと第2オン時間とに基づいて、主スイッチ素子および補助スイッチ素子のための駆動信号を生成する駆動信号生成部とを有する、ことを特徴としている。
【0010】
この構成では、記憶部に記憶された上限値をそのまま使用するのではなく、補助インダクタの周辺温度に基づいて補正した上限値(補正後上限値)を使用して第2オン時間をゼロとするか否か、すなわち、補助共振回路部を作動停止させるか否かを判定する。このため、この構成によれば、例えば、補助インダクタが高温時に飽和しやすくなる傾向を有している場合は、高温になるにしたがって上限値が下がるような補正を行うことで、飽和を確実に防ぐことができる。
【0011】
上記記憶部が、上記上限値に相当する第1上限値と、第1上限値よりも小さい第2上限値とを記憶している場合、温度補正部は、補助インダクタの周辺温度に基づいて、第1上限値を補正することにより第1補正後上限値を求めるとともに、第2上限値を補正することにより第2補正後上限値を求め、第2オン時間設定部は、第1オン時間が一旦第1補正後上限値を超えると、第1オン時間が第2補正後上限値以下となるまでの間は、第2オン時間をゼロにし続け、第1オン時間が一旦第2補正後上限値以下となると、第1オン時間が第1補正後上限値を超えるまでの間は、第2オン時間を前記第1オン時間にし続けることが好ましい。
【0012】
この構成によれば、補助共振回路部が頻繁に作動停止および作動再開を繰り返すのを防ぐことができる。
【0013】
コンバータ主回路部の具体的な構成としては、例えば、主インダクタと、第1中間ノードと高電圧ノードとの間に設けられた第1主スイッチ素子と、第1中間ノードと基準ノードとの間に設けられた第2主スイッチ素子と、第1主スイッチ素子に逆並列接続された第1主ダイオードと、第2主スイッチ素子に逆並列接続された第2主ダイオードとを有した構成が考えられる。
【0014】
補助共振回路部の具体的な構成としては、補助インダクタと、温度センサと、第1中間ノードと高電圧ノードとの間、および第1中間ノードと基準ノードとの間にそれぞれ設けられた補助キャパシタと、第2中間ノードに中間タップが接続された第1巻線と、第1巻線の一端と高電圧ノードとの間に設けられた第1補助スイッチ素子と、第1巻線の他端と基準ノードとの間に設けられた第2補助スイッチ素子と、第1補助スイッチ素子に逆並列接続された第1補助ダイオードと、第2補助スイッチ素子に逆並列接続された第2補助ダイオードと、第1巻線とともにトランスを形成する第2巻線と、第2巻線の一端および他端に接続されたダイオードブリッジとを有した構成が考えられる。
【0015】
補助インダクタの周辺温度は、トランスの周辺温度でもあり、補助インダクタの温度だけでなくトランスの温度の影響も受けることが好ましい。
【0016】
この構成によれば、補助インダクタだけでなくトランスの飽和も考慮して、補助共振回路部を作動停止させるか否かを判定することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、補助共振回路を構成する補助インダクタの飽和を確実に防ぐことが可能なDC-DCコンバータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の第1実施例に係るDC-DCコンバータの回路図である。
【
図2】第1実施例に係るDC-DCコンバータの昇圧時の動作波形図である。
【
図3】第1実施例に係るDC-DCコンバータの降圧時の動作波形図である。
【
図4】第1実施例に係るDC-DCコンバータにおける制御部の動作を示すフロー図である。
【
図5】
図4中のステップS2で参照される規則の一例を示す図である。
【
図6】
図4中のステップS4,S5a,S5bを説明するための図である。
【
図7】本発明の第2実施例に係るDC-DCコンバータの回路図である。
【
図8】第2実施例に係るDC-DCコンバータにおける制御部(特に、第2オン時間設定部)の動作を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係るDC-DCコンバータの実施例について説明する。
【0020】
[第1実施例]
図1に、本発明の第1実施例に係るDC-DCコンバータ10Aを示す。同図に示すように、DC-DCコンバータ10Aは、コンバータ主回路部11と、補助共振回路部12と、低電圧側入出力端13,13と、高電圧側入出力端14,14と、制御部20Aと、キャパシタC2とを備えている。
【0021】
本実施例に係るDC-DCコンバータ10Aは、低電圧側入出力端13,13に接続された直流電源(例えば、蓄電池)30が出力する電圧V1を昇圧し、これにより得られた電圧V2を高電圧側入出力端14,14から各種負荷回路に供給することができる。また、DC-DCコンバータ10Aは、各種負荷回路からもたらされる電圧V2を降圧し、これにより得られた電圧V1で蓄電池30を充電することもできる。すなわち、DC-DCコンバータ10Aは、低電圧ノードNLと高電圧ノードNHとの間で双方向に直流電力変換を行うことができる。
【0022】
コンバータ主回路部11は、低電圧ノードNLと第1中間ノードNM1との間に設けられた主インダクタLmと、第1中間ノードNM1と高電圧ノードNHとの間に設けられた第1主スイッチ素子Qm1と、第1中間ノードNM1と基準ノードNBとの間に設けられた第2主スイッチ素子Qm2と、第1主スイッチ素子Qm1に逆並列接続された第1主ダイオードDm1と、第2主スイッチ素子Qm2に逆並列接続された第2主ダイオードDm2と、低電圧ノードNLと基準ノードNBとの間に設けられたコンデンサC1とを有している。なお、低電圧ノードNLは低電圧側入出力端13,13の一方に接続され、高電圧ノードNHは高電圧側入出力端14,14の一方に接続され、基準ノードNBは低電圧側入出力端13,13の他方および高電圧側入出力端14,14の他方に接続されている。
【0023】
第1主スイッチ素子Qm1は、制御部20Aが出力する駆動信号Sm1によってオン/オフが切り替えられる。同様に、第2主スイッチ素子Qm2は、制御部20Aが出力する駆動信号Sm2によってオン/オフが切り替えられる。
【0024】
補助共振回路部12は、第1中間ノードNM1と第2中間ノードNM2との間に設けられた補助インダクタLsと、第1中間ノードNM1と高電圧ノードNHとの間に設けられた第1補助キャパシタCs1と、第1中間ノードNM1と基準ノードNBとの間に設けられた第2補助キャパシタCs2と、第2中間ノードNM2に中間タップが接続された第1巻線Tr1と、第1巻線Tr1の一端と高電圧ノードNHとの間に設けられた第1補助スイッチ素子Qs1と、第1巻線Tr1の他端と基準ノードNBとの間に設けられた第2補助スイッチ素子Qs2と、第1補助スイッチ素子Qs1に逆並列接続された第1補助ダイオードDs1と、第2補助スイッチ素子Qs2に逆並列接続された第2補助ダイオードDs2と、第1巻線Tr1とともにトランスTrを形成する第2巻線Tr2と、第2巻線Tr2の一端および他端に接続されたダイオードDb1,Db2,Db3,Db4と、温度センサ15とを有している。ダイオードDb1,Db2,Db3,Db4は、ダイオードブリッジを構成している。
【0025】
第1補助スイッチ素子Qs1は、制御部20Aが出力する駆動信号Ss1によってオン/オフが切り替えられる。同様に、第2補助スイッチ素子Qs2は、制御部20Aが出力する駆動信号Ss2によってオン/オフが切り替えられる。
【0026】
予め定められたスイッチング周期(以下、単に「周期」ともいう)をT[s]、周期Tにおける主スイッチ素子Qm1,Qm2のデューティをD[%]、周期Tにおける補助スイッチ素子Qs1,Qs2のオン時間(後述する第2オン時間)をTon2[s]としたとき、制御部20Aは、昇圧(V1→V2)時に各スイッチ素子Qm1,Qm2,Qs1,Qs2を次のように動作させる(
図2参照)。
・周期Tにつき、第2主スイッチ素子Qm2をT×D/100だけオンさせる。
・周期Tにつき、第2補助スイッチ素子Qs2をTon2だけオンさせる。
・Ton2の中央(時刻t1,t5)で第2主スイッチ素子Qm2をオンさせる。
・第2主スイッチ素子Qm2に対して概ね相補的となるように第1主スイッチ素子Qm1をオン/オフさせる。
・第1補助スイッチ
素子Qs1をオフのままとする。
【0027】
上記の制御によれば、第2主スイッチ素子Qm2の両端電圧Vm2がゼロになった時刻t1,t5に該第2主スイッチ素子Qm2がオンするゼロ電圧スイッチング(Zero Voltage Switching,ZVS)を実現することができる。また、上記の制御によれば、第2主スイッチ素子Qm2のオンをきっかけとして下がり始めた補助インダクタ電流Isがゼロになった時刻t2,t6に第2補助スイッチ素子Qs2がオフするので、トランスTrの不必要な励磁を防ぐこともできる。
【0028】
一方、制御部20Aは、降圧(V2→V1)時に各スイッチ素子Qm1,Qm2,Qs1,Qs2を次のように動作させる(
図3参照)。
・周期Tにつき、第1主スイッチ素子Qm1をT×D/100だけオンさせる。
・周期Tにつき、第1補助スイッチ素子Qs1をTon2だけオンさせる。
・Ton2の中央(時刻t1,t5)で第1主スイッチ素子Qm1をオンさせる。
・第1主スイッチ素子Qm1に対して概ね相補的となるように第2主スイッチ素子Qm2をオン/オフさせる。
・第2補助スイッチ
素子Qs2をオフのままとする。
【0029】
上記の制御によれば、第1主スイッチ素子Qm1の両端電圧Vm1がゼロになった時刻t1,t5に該第1主スイッチ素子Qm1がオンするZVSを実現することができる。また、上記の制御によれば、第1主スイッチ素子Qm1のオンをきっかけとして上がり始めた補助インダクタ電流Isがゼロになった時刻t2,t6に第1補助スイッチ素子Qs1がオフするので、トランスTrの不必要な励磁を防ぐこともできる。
【0030】
なお、後で詳細に説明するが、第2オン時間Ton2は、典型的には制御部20Aの第1オン時間設定部22によって設定された第1オン時間Ton1に等しい。また、制御部20Aは、同期整流が不要の場合は、昇圧時の第1主スイッチ素子Qm1、および降圧時の第2主スイッチ素子Qm2をオフのままとしてもよい。
【0031】
温度センサ15は、補助インダクタLsの周辺に配置され、補助インダクタLsの周辺温度(TMP)を検出する。補助インダクタ電流Isの通流により補助インダクタLsの温度が上昇すると、補助インダクタLsの周辺温度も上昇する。逆の場合も同様である。このため、温度センサ15は、補助インダクタLsの温度を間接的に検出していると言える。
【0032】
続いて、
図1,4~6を参照しながら、制御部20Aの特徴的な構成および動作について説明する。
【0033】
図1に示すように、制御部20Aは、デューティ設定部21と、第1オン時間設定部22と、記憶部23Aと、温度補正部24Aと、第2オン時間設定部25Aと、駆動信号生成部26とを有している。
【0034】
デューティ設定部21は、周期Tにおける主スイッチ素子Qm1,Qm2のデューティDを設定する。例えば、デューティ設定部21は、不図示のセンサによって検出した電圧V1と目標とする電圧V2との差に基づいて昇圧時のデューティDを設定する。あるいは、デューティ設定部21は、不図示のセンサによって検出した電圧V2と目標とする電圧V1との差に基づいて降圧時のデューティDを設定する。
【0035】
このデューティ設定部21の動作は、
図4に示したステップS1に相当する。
【0036】
第1オン時間設定部22は、不図示のセンサによって検出した電圧V2および主インダクタ電流Imと、記憶部23Aに記憶された規則(V2/Imと第1オン時間Ton1との関係)とに基づいて、周期Tにおける補助スイッチ素子Qs1,Qs2のオン時間の仮の値である第1オン時間Ton1を設定する。本実施例では、
図5に示した規則が記憶部23Aに記憶されている。第1オン時間設定部22は、この規則を参照することにより、現時点の電圧V2および主インダクタ電流Imに対応する好適な第1オン時間Ton1を一義的に求めることができる。なお、この規則は、DC-DCコンバータ10Aの昇圧/降圧動作が最も効率的となるように(すなわち、ソフトスイッチングが最も効果的に行われるように)、予め定めておいたものである。
【0037】
この第1オン時間設定部22の動作は、
図4に示したステップS2に相当する。
【0038】
記憶部23Aは、上述の規則とともに、補助インダクタLsの温度が室温程度である場合の補助共振回路部12の作動時間に関する上限値Tth1を記憶している。補助インダクタLsの温度が室温程度である場合に補助共振回路部12の作動時間、すなわち、補助インダクタLsに補助インダクタ電流Isが通流する時間が上限値Tth1を超えると、補助インダクタLsは飽和する。なお、上限値Tth1は、実験的に、あるいは回路シミュレーションにより決定することができる。
【0039】
温度補正部24Aは、記憶部23Aから上限値Tth1を読み出すとともに、読み出した上限値Tth1を温度センサ15によって検出された補助インダクタLsの周辺温度に基づいて補正する。温度補正部24Aは、高温になればなるほど飽和が早まる傾向がある場合は、周辺温度が上昇するにつれて上限値Tth1を小さくしていく。反対に、温度補正部24Aは、低温になればなるほど飽和が早まる傾向がある場合は、周辺温度が上昇するにつれて上限値Tth1を大きくしていく。なお、以下の説明では、補正後の上限値Tth1を「補正後上限値Tth2」と呼ぶこととする。
【0040】
この温度補正部24Aの動作は、
図4に示したステップS3に相当する。
【0041】
第2オン時間設定部25Aは、
図6に示すように、第1オン時間Ton1が補正後上限値Tth2以下であるか否かを判定し、第1オン時間Ton1≦補正後上限値Tth2であれば最終的なオン時間となる第2オン時間Ton2を第1オン時間Ton1とし、第1オン時間Ton1>補正後上限値Tth2であれば第2オン時間Ton2をゼロとする。
【0042】
この第2オン時間設定部25Aの動作は、
図4に示したステップS4,S5a,S5bに相当する。
【0043】
駆動信号生成部26は、設定されたデューティDに基づき主スイッチ素子Qm1,Qm2のための駆動信号Sm1,Sm2を生成するとともに、設定された第2オン時間Ton2に基づき補助スイッチ素子Qs1,Qs2のための駆動信号Ss1,Ss2を生成し、これらを各スイッチ素子Qm1,Qm2,Qs1,Qs2に向けて出力する。
【0044】
この駆動信号生成部26の動作は、
図4に示したステップS6に相当する。
【0045】
このように、本実施例に係るDC-DCコンバータ10Aの制御部20Aは、補助インダクタLsの周辺温度に基づいて補正した上限値Tth1(=補正後上限値Tth2)に基づいて、補助共振回路部12を作動させるか否かを判定するよう構成されている。このため、本実施例に係るDC-DCコンバータ10Aによれば、ソフトスイッチングによって効率の改善を図りながら、補助インダクタLsの飽和を確実に防ぐことができる。
【0046】
[第2実施例]
図7に、本発明の第2実施例に係るDC-DCコンバータ10Bを示す。同図に示すように、DC-DCコンバータ10Bは、制御部20Aの代わりに制御部20Bを備えている点でDC-DCコンバータ10Aと相違しているが、他の点ではDC-DCコンバータ10Aと共通している。また、制御部20Bは、記憶部23Aの代わりに記憶部23Bを有している点と、温度補正部24Aの代わりに温度補正部24Bを有している点と、第2オン時間設定部25Aの代わりに第2オン時間設定部25Bを有している点とにおいて制御部20Aと相違しているが、他の点では制御部20Aと共通している。
【0047】
記憶部23Bは、
図5に示した規則および前述の上限値Tth1に相当する第1上限値Ttha1とともに、第1上限値Ttha1よりもやや小さい第2上限値Tthb1を記憶している。
【0048】
温度補正部24Bは、記憶部23Bから第1上限値Ttha1および第2上限値Tthb1を読み出すとともに、読み出した2つの上限値Ttha1,Tthb1を周辺温度に基づいて補正する。温度補正部24Aと同様、温度補正部24Bは、高温になればなるほど飽和が早まる傾向がある場合は、周辺温度が上昇するにつれて上限値Ttha1,Tthb1を小さくしていく。反対に、温度補正部24Bは、低温になればなるほど飽和が早まる傾向がある場合は、周辺温度が上昇するにつれて上限値Ttha1,Tthb1を大きくしていく。なお、以下の説明では、補正後の第1上限値Ttha1を「第1補正後上限値Ttha2」と呼ぶとともに、補正後の第2上限値Tthb1を「第2補正後上限値Tthb2」と呼ぶこととする。
【0049】
第2オン時間設定部25Bは、第1オン時間Ton1と2つの補正後上限値Ttha1,Tthb1とを比較し、第1オン時間Ton1≦第2補正後上限値Tthb2であれば、最終的なオン時間となる第2オン時間Ton2を第1オン時間Ton1とし、第1オン時間Ton1>第1補正後上限値Ttha2であれば、第2オン時間Ton2をゼロとし、第2補正後上限値Tthb2<第1オン時間Ton1≦第1補正後上限値Ttha2であれば、第2オン時間Ton2を第1オン時間Ton1またはゼロとする。
【0050】
より詳しくは、第2オン時間設定部25Bは、
図8に示すように、第1オン時間Ton1が一旦第1補正後上限値Ttha2を超えると、第1オン時間Ton1が第2補正後上限値Tthb2以下となるまでの間は、第2オン時間Ton2をゼロにし続け、第1オン時間Ton1が一旦第2補正後上限値Tthb2以下となると、第1オン時間Ton1が第1補正後上限値Ttha2を超えるまでの間は、第2オン時間Ton2を第1オン時間Ton1にし続けるよう構成されている。
【0051】
本実施例に係るDC-DCコンバータ10Bによれば、補助共振回路部12が頻繁に作動停止および作動再開を繰り返すのを防ぐことができる。補助共振回路部12が頻繁に作動停止および作動再開を繰り返すと、出力側の電圧(昇圧時であれば電圧V2、降圧時であれば電圧V1)が変動し、高電圧側入出力端14,14に接続された各種負荷回路や低電圧側入出力端13,13に接続された蓄電池30の損耗を招くおそれがある。
【0052】
また、本実施例に係るDC-DCコンバータ10Bによれば、DC-DCコンバータ10Aと同様の作用効果も得られる。
【0053】
[変形例]
以上、本発明に係るDC-DCコンバータの第1実施例および第2実施例について説明してきたが、本発明の構成はこれらに限定されるものではない。
【0054】
例えば、コンバータ主回路部の構成は、
図1,7に示したものに限定されない。特に、主スイッチ素子Qm1,Qm2がボディダイオードを含んでいる場合は、主ダイオードDm1,Dm2を省略することができる。
【0055】
補助共振回路部の構成も、
図1,7に示したものに限定されない。特に、補助スイッチ素子Qs1,Qs2がボディダイオードを含んでいる場合は、補助ダイオードDs1,Ds2を省略することができる。また、昇圧時にのみ補助共振回路部を作動させる場合は、第1補助スイッチ素子Qs1、第1補助ダイオードDs1、第1補助キャパシタCs1および第1巻線Tr1の一部を省略することができ、降圧時にのみ補助共振回路部を作動させる場合は、第2補助スイッチ素子Qs2、第2補助ダイオードDs2、第1補助キャパシタCs1および第1巻線Tr1の別の一部を省略することができる。
【0056】
第1オン時間Ton1を設定する際に参照する規則も、
図5に示したものに限定されない。本発明では、昇圧/降圧動作が最も効率的となるような第1オン時間Ton1、すなわち、ソフトスイッチングが最も効果的に行われるような第1オン時間Ton1を一義的に求めることができるグラフ、数式、マップ、テーブル等を規則として使用することができる。
【0057】
温度センサ15が検出する補助インダクタLsの周辺温度は、トランスTrの周辺温度でもあることが好ましい。すなわち、温度センサ15が検出する周辺温度は、補助インダクタLsの温度だけでなくトランスTrの温度の影響も受けることが好ましい。この構成によれば、補助インダクタLsだけでなくトランスTrの飽和も考慮して、補助共振回路部12を作動停止させるか否かを判定することができる。
【符号の説明】
【0058】
10A,10B DC-DCコンバータ
11 コンバータ主回路部
12 補助共振回路部
13 低電圧側入出力端
14 高電圧側入出力端
15 温度センサ
20A,20B 制御部
21 デューティ設定部
22 第1オン時間設定部
23A,23B 記憶部
24A,24B 温度補正部
25A,25B 第2オン時間設定部
26 駆動信号生成部
30 直流電源(蓄電池)
C1,C2 キャパシタ
Cs1,Cs2 補助キャパシタ
Db1,Db2,Db3,Db4 ダイオード
Dm1,Dm2 主ダイオード
Ds1,Ds2 補助ダイオード
Lm 主インダクタ
Ls 補助インダクタ
NB 基準ノード
NH 高電圧ノード
NL 低電圧ノード
NM1 第1中間ノード
NM2 第2中間ノード
Qm1,Qm2 主スイッチ素子
Qs1,Qs2 補助スイッチ素子
Tr トランス
Tr1 第1巻線
Tr2 第2巻線