(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】レーザ加工装置、及び、レーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/53 20140101AFI20241028BHJP
B23K 26/064 20140101ALI20241028BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20241028BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20241028BHJP
【FI】
B23K26/53
B23K26/064 A
H01L21/78 B
H01L21/304 601Z
(21)【出願番号】P 2021109420
(22)【出願日】2021-06-30
【審査請求日】2024-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】坂本 剛志
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-87974(JP,A)
【文献】特開2021-090990(JP,A)
【文献】特開2013-128008(JP,A)
【文献】特開2020-89920(JP,A)
【文献】特開2020-186157(JP,A)
【文献】特開2016-54207(JP,A)
【文献】国際公開第2015/152156(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
H01L 21/301
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を支持する支持部と、
レーザ光を出力する光源と、
前記光源から出力された前記レーザ光を変調パターンに応じて変調して出力するための空間光変調器と、
前記空間光変調器から出力された前記レーザ光を前記対象物に向けて集光し、前記対象物に前記レーザ光の集光スポットを形成するための集光レンズと、
前記集光スポットを前記対象物に対して相対移動させるための移動部と、
少なくとも、前記光源、前記空間光変調器、及び前記移動部を制御する制御部と、
を備え、
前記対象物は、前記レーザ光の入射面となる第1面と、前記第1面の反対側の第2面と、前記第2面において配列された第1領域及び第2領域と、を含み、前記第1領域と前記第2領域との間を通るように前記集光スポットを相対移動させるラインが設定され、
前記第1領域及び前記第2領域の少なくとも前記ライン側の一部分は、互いに異なる構造を有しており、
前記制御部は、前記光源、前記空間光変調器、及び前記移動部を制御することにより、前記第1面及び前記第2面に交差するZ方向について前記集光スポットを前記第1面よりも前記第2面側の第1Z位置に位置させた状態で前記集光スポットを前記ラインに沿って相対移動させながら前記レーザ光を前記対象物に照射する第1照射処理を実行し、
前記第1照射処理では、前記制御部は、前記ライン及び前記Z方向に交差するY方向とZ方向とを含むYZ面内での前記集光スポットのビーム形状が、少なくとも前記集光スポットの中心よりも前記第1面側において、前記Z方向に対して傾斜した傾斜形状となるように、前記空間光変調器に表示させる前記変調パターンを制御する、
レーザ加工装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記光源、前記空間光変調器、及び前記移動部を制御することにより、前記Z方向について前記集光スポットを前記第1Z位置よりも前記第2面から離れた第2Z位置に位置させた状態で前記集光スポットを前記ラインに沿って相対移動させながら前記レーザ光を前記対象物に照射する第2照射処理を実行し、
前記第2照射処理では、前記制御部は、前記空間光変調器の制御により、前記YZ面内での前記集光スポットのビーム形状が前記Z方向に沿う非傾斜形状とする、
請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記第1領域及び前記第2領域は、それぞれ半導体デバイスであり、
前記第2領域は、前記一部分において配線部が設けられており、
前記第1照射処理では、前記制御部は、前記YZ面内での前記集光スポットのビーム形状が、少なくとも前記集光スポットの中心よりも前記第1面側において、前記第1面から前記第2面に向かうにつれて前記第2領域から前記第1領域に向かう傾斜形状となるように、前記空間光変調器に表示させる前記変調パターンを制御する、
請求項1又は2に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記第2領域は、アクティブ領域であり、
前記第1領域は、前記アクティブ領域と異なる領域であり、
前記第1照射処理では、前記制御部は、前記YZ面内での前記集光スポットのビーム形状が、少なくとも前記集光スポットの中心よりも前記第1面側において、前記第1面から前記第2面に向かうにつれて前記第2領域から前記第1領域に向かう傾斜形状となるように、前記空間光変調器に表示させる前記変調パターンを制御する、
請求項1又は2に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記変調パターンは、前記レーザ光に対してコマ収差を付与するためのコマ収差パターンを含み、
前記第1照射処理では、前記制御部は、前記コマ収差パターンによる前記コマ収差を制御することにより、前記ビーム形状を前記傾斜形状とする、
請求項1~4のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
第1面と、前記第1面の反対側の第2面と、前記第2面に沿って配列された第1領域及び第2領域と、を含み、前記第1領域と前記第2領域との間を通るようにラインが設定された対象物にレーザ光を照射するレーザ加工方法であって、
前記第1面及び前記第2面に交差するZ方向について、前記レーザ光の集光スポットを前記第1面よりも前記第2面側の第1Z位置に位置させた状態で、前記集光スポットを前記ラインに沿って相対移動させながら前記レーザ光を前記対象物に照射する第1照射工程、を備え、
前記第1領域及び前記第2領域の少なくとも前記ライン側の一部分は、互いに異なる構造を有しており、
前記第1照射工程では、前記ライン及び前記Z方向に交差するY方向と前記Z方向とを含むYZ面内での前記集光スポットのビーム形状が、少なくとも前記集光スポットの中心よりも前記第1面側において、前記Z方向に対して傾斜した傾斜形状となるように前記レーザ光を変調する、
レーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ加工装置、及び、レーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、レーザダイシング装置が記載されている。このレーザダイシング装置は、ウェハを移動させるステージと、ウェハにレーザ光を照射するレーザヘッドと、各部の制御を行う制御部と、を備えている。レーザヘッドは、ウェハの内部に改質領域を形成するための加工用レーザ光を出射するレーザ光源と、加工用レーザ光の光路上に順に配置されたダイクロイックミラー及び集光レンズと、AF装置と、を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ウェハにレーザ光を照射してウェハの内部に改質領域を形成する場合、ウェハのレーザ光入射面と反対側の面から、レーザ光の一部が抜け出る場合がある(いわゆる抜け光が発生する場合がある)。この抜け光は、ウェハのレーザ光入射面と反対側の面に形成されたデバイス等のダメージの原因となるおそれがある。
【0005】
そこで、本開示は、抜け光によるダメージの影響を低減可能なレーザ加工装置、及び、レーザ加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係るレーザ加工装置は、対象物を支持する支持部と、レーザ光を出力する光源と、光源から出力されたレーザ光を変調パターンに応じて変調して出力するための空間光変調器と、空間光変調器から出力されたレーザ光を対象物に向けて集光し、対象物にレーザ光の集光スポットを形成するための集光レンズと、集光スポットを対象物に対して相対移動させるための移動部と、少なくとも、光源、空間光変調器、及び移動部を制御する制御部と、を備え、対象物は、レーザ光の入射面となる第1面と、第1面の反対側の第2面と、第2面において配列された第1領域及び第2領域と、を含み、第1領域と第2領域との間を通るように集光スポットを相対移動させるラインが設定され、第1領域及び第2領域の少なくともライン側の一部分は、互いに異なる構造を有しており、制御部は、光源、空間光変調器、及び移動部を制御することにより、第1面及び第2面に交差するZ方向について集光スポットを第1面よりも第2面側の第1Z位置に位置させた状態で集光スポットをラインに沿って相対移動させながらレーザ光を対象物に照射する第1照射処理を実行し、第1照射処理では、制御部は、ライン及びZ方向に交差するY方向とZ方向とを含むYZ面内での集光スポットのビーム形状が、少なくとも集光スポットの中心よりも第1面側において、Z方向に対して傾斜した傾斜形状となるように、空間光変調器に表示させる変調パターンを制御する。
【0007】
本開示に係るレーザ加工方法は、第1面と、第1面の反対側の第2面と、第2面に沿って配列された第1領域及び第2領域と、を含み、第1領域と第2領域との間を通るようにラインが設定された対象物にレーザ光を照射するレーザ加工方法であって、第1面及び第2面に交差するZ方向について、レーザ光の集光スポットを第1面よりも第2面側の第1Z位置に位置させた状態で、集光スポットをラインに沿って相対移動させながらレーザ光を対象物に照射する第1照射工程、を備え、第1領域及び第2領域の少なくともライン側の一部分は、互いに異なる構造を有しており、第1照射工程では、ライン及びZ方向に交差するY方向とZ方向とを含むYZ面内での集光スポットのビーム形状が、少なくとも集光スポットの中心よりも第1面側において、Z方向に対して傾斜した傾斜形状となるようにレーザ光を変調する。
【0008】
この装置及び方法では、対象物に設定されたラインに沿ってレーザ光の集光スポットを相対移動させることにより、対象物へのレーザ光の照射を行う。対象物は、レーザ光の入射面となる第1面と、第1面の反対側の第2面と、第2面に沿って配列された第1領域及び第2領域と、を含む。集光スポットを相対移動させるラインは、第1領域と第2領域との間を通るように設定されている。そして、レーザ光の照射の際には、YZ面内における集光スポットのビーム形状が、少なくとも集光スポットの中心よりも第1面側においてZ方向に対して傾斜形状となるようにする。本発明者の知見によれば、このようにビーム形状を傾斜形状とすると、抜け光によるダメージを傾斜方向に応じて偏在させることが可能である。
【0009】
つまり、YZ面内における集光スポットの傾斜形状を、第1面から第2面に向かうにつれて第2領域から第1領域に向かうようにした場合には、抜け光によるダメージを第1領域側に偏在させることができる。一方で、YZ面内における集光スポットの傾斜形状を、第1面から第2面に向かうにつれて第1領域から第2領域に向かうようにした場合には、抜け光によるダメージを第2領域側に偏在させることができる。ここで、対象物の第1領域と第2領域とは、少なくともライン側の一部分において互いに異なる構造を有している。したがって、この装置及び方法によれば、集光スポットの傾斜方向を制御することにより、第1領域及び第2領域のうち、当該一部分が相対的に抜け光に対して脆弱な構造である領域とは反対の領域に抜け光のダメージを偏在させることが可能となる。これにより、この装置及び方法によれば、抜け光によるダメージの影響を低減可能となる。
【0010】
本開示に係るレーザ加工装置では、制御部は、光源、空間光変調器、及び移動部を制御することにより、Z方向について集光スポットを第1Z位置よりも第2面から離れた第2Z位置に位置させた状態で集光スポットをラインに沿って相対移動させながらレーザ光を対象物に照射する第2照射処理を実行し、第2照射処理では、制御部は、空間光変調器の制御により、YZ面内での集光スポットのビーム形状がZ方向に沿う非傾斜形状としてもよい。この場合、第1領域及び第2領域が配列された第2面からより遠く、第2面側への抜け光の影響が小さい第2Z位置では、レーザ光の集光スポットのビーム形状がZ方向に沿った非傾斜形状とされることにより、当該第2Z位置付近で形成される改質領域からZ方向に好適に亀裂を伸展させることが可能となる。
【0011】
本開示に係るレーザ加工装置では、第1領域及び第2領域は、それぞれ半導体デバイスであり、第2領域は、一部分において配線部が設けられており、第1照射処理では、制御部は、YZ面内での集光スポットのビーム形状が、少なくとも集光スポットの中心よりも第1面側において、第1面から第2面に向かうにつれて第2領域から第1領域に向かう傾斜形状となるように、空間光変調器に表示させる変調パターンを制御してもよい。一般に、半導体デバイスにあっては、配線部分が抜け光によりダメージを受けやすい。したがって、上記のように傾斜形状を制御することにより、配線部が設けられた第2領域とは反対の第1領域側に抜け光によるダメージを偏在させれば、抜け光によるダメージの影響を確実に低減可能である。
【0012】
本開示に係るレーザ加工装置では、第2領域は、アクティブ領域であり、第1領域は、アクティブ領域と異なる領域であり、第1照射処理では、制御部は、YZ面内での集光スポットのビーム形状が、少なくとも集光スポットの中心よりも第1面側において、第1面から第2面に向かうにつれて第2領域から第1領域に向かう傾斜形状となるように、空間光変調器に表示させる変調パターンを制御してもよい。この場合、上記のように傾斜形状を制御することにより、アクティブエリアである第2領域とは反対の第1領域側に抜け光によるダメージを偏在させれば、抜け光によるダメージの影響を確実に低減可能である。
【0013】
本開示に係るレーザ加工装置では、変調パターンは、レーザ光に対してコマ収差を付与するためのコマ収差パターンを含み、第1照射処理では、制御部は、コマ収差パターンによるコマ収差を制御することにより、ビーム形状を傾斜形状としてもよい。このように、レーザ光に付与するコマ収差を制御することにより、集光スポットの傾斜形状を制御可能である。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、抜け光によるダメージの影響を低減可能なレーザ加工装置、及び、レーザ加工方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、一実施形態に係るレーザ加工装置の構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、
図1に示されたレーザ照射部の構成を示す模式図である。
【
図3】
図3は、
図2に示された4fレンズユニット等を示す模式図である。
【
図4】
図4は、
図2に示された空間光変調器の断面を示す模式図である。
【
図6】
図6は、一実施形態に係るレーザ加工方法の一工程を示す図である。
【
図7】
図7は、一実施形態に係るレーザ加工方法の別の一工程を示す図である。
【
図8】
図8は、集光スポットの形状及び抜け光の影響を示す図である。
【
図9】
図9は、球面収差補正パターンをオフセットさせる様子を示す図である。
【
図10】
図10は、球面収差補正パターンのオフセット量又はコマ収差パターンのコマ収差のレベルを複数段階で変化させたときのビーム形状の変化を示す図である。
【
図11】
図11は、各集光スポットのXY面内でのプロファイルを示す。
【
図12】
図12は、コマ収差のレベルに応じた加工結果の一例を示す写真である。
【
図14】
図14は、集光レンズの入射瞳面における強度分布、及び、集光スポットのビーム形状を示す図である。
【
図15】
図15は、集光スポットのビーム形状、及び、集光スポットの強度分布の観測結果を示す図である。
【
図17】
図17は、非対称な変調パターンの別の例を示す図である。
【
図18】
図18は、集光レンズの入射瞳面における強度分布、及び、集光スポットのビーム形状を示す図である。
【
図19】
図19は、変形例に係る集光スポットを示す模式的な断面図である。
【
図22】
図22は、集光スポットのビーム形状を示す図である。
【
図23】
図23は、集光スポットのビーム形状を示す図である。
【
図25】
図25は、さらに別の変形例に係る対象物を示す図である。
【
図26】
図26は、斜め亀裂を形成する方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において、同一又は相当する部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する場合がある。また、各図には、X軸、Y軸、及びZ軸によって規定される直交座標系を示す場合がある。
【0017】
図1は、一実施形態に係るレーザ加工装置の構成を示す模式図である。
図1に示されるように、レーザ加工装置1は、ステージ(支持部)2と、レーザ照射部3と、駆動部(移動部)4,5と、制御部6と、を備えている。レーザ加工装置1は、対象物11にレーザ光Lを照射することにより、対象物11に改質領域12を形成するための装置である。
【0018】
ステージ2は、例えば対象物11に貼り付けられたフィルムを保持することにより、対象物11を支持する。ステージ2は、Z方向に平行な軸線を回転軸として回転可能である。ステージ2は、X方向及びY方向のそれぞれに沿って移動可能とされてもよい。なお、X方向及びY方向は、互いに交差(直交)する第1水平方向及び第2水平方向であり、Z方向は鉛直方向である。
【0019】
レーザ照射部3は、対象物11に対して透過性を有するレーザ光Lを集光して対象物11に照射する。ステージ2に支持された対象物11の内部にレーザ光Lが集光されると、レーザ光Lの集光スポットC(例えば後述する中心Ca)に対応する部分においてレーザ光Lが特に吸収され、対象物11の内部に改質領域12が形成される。なお、集光スポットCは、詳細な説明は後述するが、レーザ光Lのビーム強度が最も高くなる位置又はビーム強度の重心位置から所定範囲の領域である。
【0020】
改質領域12は、密度、屈折率、機械的強度、その他の物理的特性が周囲の非改質領域とは異なる領域である。改質領域12としては、例えば、溶融処理領域、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等がある。改質領域12は、改質領域12からレーザ光Lの入射側及びその反対側に亀裂が延びるように形成され得る。そのような改質領域12及び亀裂は、例えば対象物11の切断に利用される。
【0021】
一例として、ステージ2をX方向に沿って移動させ、対象物11に対して集光スポットCをX方向に沿って相対的に移動させると、複数の改質スポット12sがX方向に沿って1列に並ぶように形成される。1つの改質スポット12sは、1パルスのレーザ光Lの照射によって形成される。1列の改質領域12は、1列に並んだ複数の改質スポット12sの集合である。隣り合う改質スポット12sは、対象物11に対する集光スポットCの相対的な移動速度及びレーザ光Lの繰り返し周波数によって、互いに繋がる場合も、互いに離れる場合もある。
【0022】
駆動部4は、ステージ2をZ方向に交差(直交)する面内の一方向に移動させる第1移動部41と、ステージ2をZ方向に交差(直交)する面内の別方向に移動させる第2移動部42と、を含む。一例として、第1移動部41は、ステージ2をX方向に沿って移動させ、第2移動部42は、ステージ2をY方向に沿って移動させる。また、駆動部4は、ステージ2をZ方向に平行な軸線を回転軸として回転させる。駆動部5は、レーザ照射部3を支持している。駆動部5は、レーザ照射部3をX方向、Y方向、及びZ方向に沿って移動させる。レーザ光Lの集光スポットCが形成されている状態においてステージ2及び/又はレーザ照射部3が移動させられることにより、集光スポットCが対象物11に対して相対移動させられる。すなわち、駆動部4,5は、対象物11に対してレーザ光Lの集光スポットCが相対移動するように、ステージ2及びレーザ照射部3の少なくとも一方を移動させる移動部である。
【0023】
制御部6は、ステージ2、レーザ照射部3、及び駆動部4,5の動作を制御する。制御部6は、処理部、記憶部、及び入力受付部を有している(不図示)。処理部は、プロセッサ、メモリ、ストレージ及び通信デバイス等を含むコンピュータ装置として構成されている。処理部では、プロセッサが、メモリ等に読み込まれたソフトウェア(プログラム)を実行し、メモリ及びストレージにおけるデータの読み出し及び書き込み、並びに、通信デバイスによる通信を制御する。記憶部は、例えばハードディスク等であり、各種データを記憶する。入力受付部は、各種情報を表示すると共に、ユーザから各種情報の入力を受け付けるインターフェース部である。入力受付部は、GUI(Graphical User Interface)を構成している。
【0024】
図2は、
図1に示されたレーザ照射部の構成を示す模式図である。
図2には、レーザ加工の予定を示す仮想的なラインAを示している。
図2に示されるように、レーザ照射部3は、光源31と、空間光変調器7と、集光レンズ33と、4fレンズユニット34と、を有している。光源31は、例えばパルス発振方式によって、レーザ光Lを出力する。なお、レーザ照射部3は、光源31を有さず、レーザ照射部3の外部からレーザ光Lを導入するように構成されてもよい。空間光変調器7は、光源31から出力されたレーザ光Lを変調する。集光レンズ33は、空間光変調器7によって変調されて空間光変調器7から出力されたレーザ光Lを対象物11に向けて集光する。
【0025】
図3に示されるように、4fレンズユニット34は、空間光変調器7から集光レンズ33に向かうレーザ光Lの光路上に配列された一対のレンズ34A,34Bを有している。一対のレンズ34A,34Bは、空間光変調器7の変調面7aと集光レンズ33の入射瞳面(瞳面)33aとが結像関係にある両側テレセントリック光学系を構成している。これにより、空間光変調器7の変調面7aでのレーザ光Lの像(空間光変調器7において変調されたレーザ光Lの像)が、集光レンズ33の入射瞳面33aに転像(結像)される。なお、図中のFsはフーリエ面を示す。
【0026】
図4に示されるように、空間光変調器7は、反射型液晶(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)の空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)である。空間光変調器7は、半導体基板71上に、駆動回路層72、画素電極層73、反射膜74、配向膜75、液晶層76、配向膜77、透明導電膜78及び透明基板79がこの順序で積層されることで、構成されている。
【0027】
半導体基板71は、例えば、シリコン基板である。駆動回路層72は、半導体基板71上において、アクティブ・マトリクス回路を構成している。画素電極層73は、半導体基板71の表面に沿ってマトリックス状に配列された複数の画素電極73aを含んでいる。各画素電極73aは、例えば、アルミニウム等の金属材料によって形成されている。各画素電極73aには、駆動回路層72によって電圧が印加される。
【0028】
反射膜74は、例えば、誘電体多層膜である。配向膜75は、液晶層76における反射膜74側の表面に設けられており、配向膜77は、液晶層76における反射膜74とは反対側の表面に設けられている。各配向膜75,77は、例えば、ポリイミド等の高分子材料によって形成されており、各配向膜75,77における液晶層76との接触面には、例えば、ラビング処理が施されている。配向膜75,77は、液晶層76に含まれる液晶分子76aを一定方向に配列させる。
【0029】
透明導電膜78は、透明基板79における配向膜77側の表面に設けられており、液晶層76等を挟んで画素電極層73と向かい合っている。透明基板79は、例えば、ガラス基板である。透明導電膜78は、例えば、ITO等の光透過性且つ導電性材料によって形成されている。透明基板79及び透明導電膜78は、レーザ光Lを透過させる。
【0030】
以上のように構成された空間光変調器7では、変調パターンを示す信号が制御部6から駆動回路層72に入力されると、当該信号に応じた電圧が各画素電極73aに印加され、各画素電極73aと透明導電膜78との間に電界が形成される。当該電界が形成されると、液晶層76において、各画素電極73aに対応する領域ごとに液晶分子76aの配列方向が変化し、各画素電極73aに対応する領域ごとに屈折率が変化する。この状態が、液晶層76に変調パターンが表示された状態である。変調パターンは、レーザ光Lを変調するためのものである。
【0031】
すなわち、液晶層76に変調パターンが表示された状態で、レーザ光Lが、外部から透明基板79及び透明導電膜78を介して液晶層76に入射し、反射膜74で反射されて、液晶層76から透明導電膜78及び透明基板79を介して外部に出射させられると、液晶層76に表示された変調パターンに応じて、レーザ光Lが変調される。このように、空間光変調器7によれば、液晶層76に表示する変調パターンを適宜設定することで、レーザ光Lの変調(例えば、レーザ光Lの強度、振幅、位相、偏光等の変調)が可能である。なお、
図3に示された変調面7aは、例えば液晶層76である。
【0032】
以上のように、光源31から出力されたレーザ光Lが、空間光変調器7及び4fレンズユニット34を介して集光レンズ33に入射され、集光レンズ33によって対象物11内に集光されることにより、その集光スポットCにおいて対象物11に改質領域12及び改質領域12から延びる亀裂が形成される。さらに、制御部6が駆動部4,5を制御することにより、集光スポットCを対象物11に対して相対移動させることにより、集光スポットCの移動方向に沿って改質領域12及び亀裂が形成されることとなる。
【0033】
図5は、対象物の一例を示す図である。
図5の(a)は平面図であり、
図5の(b)は
図5の(a)のVb-Vb線に沿っての断面図である。
図5の(b)では、ハッチングを省略している(以下、各断面図でも同様)。
図5に示されるように、対象物11は、第1面11aと、第1面11aの反対側の第2面11bと、を含む。対象物11は、第1面11a及び第2面11bがZ方向に交差(直交)するように、且つ、第1面11aがレーザ照射部3側に臨むようにステージ2に支持されている。したがって、対象物11では、第1面11aがレーザ光Lの入射面となる。
【0034】
対象物11は、第2面11bに沿って2次元状に配列された複数の半導体デバイス11Dを含む。半導体デバイス11Dは、例えば金属からなる配線部Wを含む。配線部Wは、平面視において1つの半導体デバイス11D内の一方側(ここではY方向正側)に配置されている。また、半導体デバイス11Dのそれぞれは、平面視において同じ向きで配列されている。したがって、Y方向に隣り合う一対の半導体デバイス11Dのうち、一方の半導体デバイス11Dは、他方の半導体デバイス11Dに対向する一部分P1において配線部Wが設けられておらず、他方の半導体デバイス11Dは、一方の半導体デバイス11Dに対向する一部分P2において配線部Wが設けられている。
【0035】
ここでは、一方の半導体デバイス11D及び第2面11bにおける当該半導体デバイス11Dが設けられたエリアを第1領域R1と称し、他方の半導体デバイス11D及び第2面11bにおける当該半導体デバイス11Dが設けられたエリアを第2領域R2と称する。また、第1領域R1と第2領域R2との間、すなわち、互いに隣り合う半導体デバイス11Dの間には、ストリート領域Rsが介在されている。ラインAは、第1領域R1と第2領域R2との間を通るようにストリート領域Rsに設定されている。したがって、第1領域R1及び第2領域R2のラインA側の一部分P1,P2は、少なくとも配線部Wを含むか否かにおいて、互いに異なる構造を有することとなる。
【0036】
このような対象物11に対して、以下のようにレーザ加工が実施される。
図6は、一実施形態に係るレーザ加工方法の一工程を示す図である。
図6の(a)は平面図であり、
図6の(b)は
図6の(a)のVIb-VIb線に沿っての断面図である。
図6に示されるように、まず、レーザ光Lを第1面11a側から対象物11内に入射させつつ、対象物11の内部において、Z方向の第1Z位置にレーザ光Lの集光スポットC1が形成されるようにする。第1Z位置は、第1面11aよりも第2面11b側の位置である。その状態において、レーザ光Lの集光スポットC1をラインAに沿ってX方向に相対移動させながら、レーザ光Lを対象物11に照射する(工程S101:第1照射工程)。
【0037】
レーザ加工装置1としては、この工程S101において、制御部6が、光源31、空間光変調器7、及び駆動部4,5を制御することにより、Z方向について集光スポットC1を第1面11aよりも第2面11b側の第1Z位置に位置させた状態で、集光スポットC1をラインAに沿って相対移動させながら、レーザ光Lを対象物11に照射する第1照射処理を実行することとなる。このように、ここでは、X方向が加工進行方向FDとされる。これにより、対象物11の内部に(第1Z位置において)、ラインAに沿って改質領域12aが形成される。この工程S101及び第1照射処理は、複数のラインAについて順次行われ得る。
【0038】
図7は、一実施形態に係るレーザ加工方法の別の一工程を示す図である。
図7の(a)は平面図であり、
図7の(b)は
図7の(a)のVIIb-VIIb線に沿っての断面図である。
図7に示されるように、引き続いて、レーザ光Lを第1面11a側から対象物11内に入射させつつ、対象物11の内部においてZ、方向の第2Z位置にレーザ光Lの集光スポットC2が形成されるようにする。第2Z位置は、第1Z位置よりも第1面11a側の位置である。その状態において、レーザ光Lの集光スポットC2をラインAに沿ってX方向に相対移動させながら、レーザ光Lを対象物11に照射する(工程S102)。
【0039】
レーザ加工装置1としては、この工程S102において、制御部6が、光源31、空間光変調器7、及び駆動部4,5を制御することにより、Z方向について集光スポットC2を第1Z位置よりも第2面11bから離れた第2Z位置に位置させた状態で、集光スポットC2をラインAに沿って相対移動させながらレーザ光Lを対象物11に照射する第2照射処理を実行することとなる。これにより、対象物11の内部(第2Z位置において)、ラインAに沿って改質領域12bが形成される。この工程S102及び第2照射処理は、複数のラインAについて順次行われ得る。
【0040】
なお、
図7の(b)の例では、第1Z位置近傍に形成された改質領域12aよりも第1面11a側に、2列の改質領域12bが形成される様子が示されている。いずれの改質領域12bも、第1Z位置よりも第1面11a側の第2Z位置近傍に形成されている。このように、改質領域12bは、レーザ光Lの集光スポットC2を2以上の複数の第2Z位置に位置させつつレーザ光Lの照射が行われることにより、任意の列数だけ形成され得る。換言すれば、第1Z位置は、Z方向に並ぶ複数列の改質領域12を形成するに際して、最も第2面11b側の改質領域12aを形成するときに、集光スポットC1が位置させられるZ方向の位置となる。
【0041】
したがって、工程S101及び第1照射処理では、複数回のレーザ加工の中で、最も第2面11b側に集光スポットC1を位置させての加工が行われることから、集光スポットC1から第2面11b側、すなわち半導体デバイス11D側への抜け光によるダメージを考慮する必要性が高い。そのため、本実施形態では、少なくとも工程S101及び第1照射処理において、集光スポットC1の形状を傾斜形状とする。引き続いて、この点について詳細に説明する。
【0042】
図8は、集光スポットの形状及び抜け光の影響を示す図である。
図8の(a)は、YZ面内での集光スポットC1のビーム形状を示している。Y方向は、加工進行方向FDであるX方向と、Z方向との両方に交差(直交)する方向である。
図8の(a)に示されるように、工程S101及び第1照射処理では、空間光変調器7を用いてレーザ光Lを変調することにより、集光スポットC1のYZ面内でのビーム形状を、少なくとも集光スポットC1の中心Caよりも第1面11a側において、Z方向に対して傾斜する傾斜形状とする。本発明者の知見によれば、このようにビーム形状を傾斜形状とすると、抜け光によるダメージを、傾斜方向に応じて偏在させることが可能である。
【0043】
本実施形態では、集光スポットC1のビーム形状は、中心Caよりも第1面11a側において、Z方向に対してY方向の負側に傾斜するように、すなわち、第1面11aから第2面11bに向かうにつれて(Z方向負側に向かうにつれて)、第2領域R2から第1領域R1に向かうように傾斜されている。また、本実施形態では、集光スポットC1のビーム形状は、中心Caよりも第2面11b側においても、Z方向に対してY方向の負側に傾斜するように、すなわち、第1面11aから第2面11bに向かうにつれて(Z方向負側に向かうにつれて)、第1領域R1から第2領域R2に向かうように傾斜されている。これにより、集光スポットC1のYZ面内でのビーム形状は、全体として、Y方向正側に凸となる弧形状とされている。なお、YZ面内における集光スポットC1のビーム形状とは、YZ面内における集光スポットC1でのレーザ光Lの強度分布である。
【0044】
図8の(b)に示されるように、以上のように集光スポットC1のビーム形状の傾斜形状を制御することにより、配線部Wが設けられた第2領域R2とは反対の第1領域R1側に抜け光Ltによるダメージを偏在させれば、抜け光Ltによるダメージを受けやすい配線部Wへの抜け光Ltの影響を確実に低減可能である。
【0045】
引き続いて、集光スポットC1のYZ面内でのビーム形状を傾斜形状とするための知見について説明する。まず、集光スポットC1(他の集光スポットも同様)の定義について具体的に説明する。ここでは、集光スポットC1とは、中心Caから所定範囲(例えばZ方向について中心Caから±25μmの範囲)の領域である。中心Caは、ビーム強度が最も高くなる位置、又は、ビーム強度の重心位置である。ビーム強度の重心位置は、例えば、レーザ光Lを分岐させるための変調パターンといったようなレーザ光Lの光軸をシフトさせる変調パターンによる変調が行われていない状態でのレーザ光Lの光軸上で、ビーム強度の重心が位置する位置である。
【0046】
ビーム強度が最も高くなる位置やビーム強度の重心は、以下のように取得できる。すなわち、レーザ光Lの出力を対象物11に改質領域12が形成されない程度に(加工閾値よりも)低くした状態で、対象物11にレーザ光Lを照射する。これと共に、対象物11のレーザ光Lの入射面と反対側の面(ここでは第2面11b)からのレーザ光Lの反射光を、例えば
図15に示されるZ方向の複数の位置F1~F7についてカメラで撮像する。これにより、得られた画像に基づいてビーム強度の最も高くなる位置や重心を取得できる。なお、改質領域12は、この中心Ca付近で形成される。
【0047】
集光スポットC1でのビーム形状を傾斜形状とするためには、変調パターンをオフセットさせる方法がある。より具体的には、空間光変調器7には、波面の歪を補正するための歪補正パターン、レーザ光を分岐するためのグレーティングパターン、スリットパターン、非点収差パターン、コマ収差パターン、及び、球面収差補正パターン等の種々のパターンが表示される(これらが重畳されたパターンが表示される)。このうち、
図9に示されるように、球面収差補正パターンPsをオフセットさせることにより、集光スポットC1のビーム形状を調整可能である。
【0048】
図9の例では、変調面7aにおいて、球面収差補正パターンPsの中心Pcを、レーザ光Lの(ビームスポットの)中心Lcに対して、Y方向の負側にオフセット量Oy1だけオフセットさせている。上述したように、変調面7aは、4fレンズユニット34によって、集光レンズ33の入射瞳面33aに転像される。したがって、変調面7aにおけるオフセットは、入射瞳面33aでは、Y方向の正側へのオフセットになる。すなわち、入射瞳面33aでは、球面収差補正パターンPsの中心Pcは、レーザ光Lの中心Lc、及び入射瞳面33aの中心(ここでは、中心Lcと一致している)からY方向の正側にオフセット量Oy2だけオフセットされる。
【0049】
このように、球面収差補正パターンPsをオフセットさせることにより、レーザ光Lの集光スポットC1のビーム形状が、
図8の(a)に示されるように弧状の傾斜形状に変形される。以上のように球面収差補正パターンPsをオフセットさせることは、レーザ光Lに対してコマ収差を与えることに相当する。したがって、空間光変調器7の変調パターンに、レーザ光Lに対してコマ収差を付与するためのコマ収差パターンを含ませることにより、集光スポットC1のビーム形状を傾斜形状としてもよい。すなわち、変調パターンは、レーザ光Lに対してコマ収差を付与するためのコマ収差パターンを含み、工程S101及び第1照射処理では、制御部6が、コマ収差パターンによるコマ収差を制御することにより、ビーム形状を前記傾斜形状としてもよい。なお、コマ収差パターンとしては、Zernikeの多項式の9項(3次のコマ収差のY成分)に相当するパターンであって、Y方向にコマ収差が発生するパターンを使用することができる。
【0050】
図10は、球面収差補正パターンのオフセット量又はコマ収差パターンのコマ収差のレベルを複数段階で変化させたときのビーム形状の変化を示す図である。
図10における「オフセット[pixel]SLM平面」は、変調面7aでのオフセット量を示している。また、「(3次)コマ収差」は、球面収差補正パターンPsのオフセット量に対応する3次のコマ収差の大きさを示している。上述したように、ここでは、変調面7aでの球面収差補正パターンPsをオフセット量の符号と、入射瞳面33aでの球面収差補正パターンPsをオフセット量の符号とが逆になっている。
【0051】
また、「BE(μm)」は、球面収差補正パターンPsの補正量であり、「Z[μm]」はZ方向におけるレーザ光Lの集光位置であり、「CP[μm]」は集光補正量である。
図10に示されるように、球面収差補正パターンPsの(中心Pcの)オフセット量を段階的に変化させることにより、又は、コマ収差パターンのコマ収差のレベルを段階的に変化させることにより、集光スポットC1のビーム形状を段階的に変化させることができる。
【0052】
引き続いて、
図10に示される複数の集光スポットのうち、コマ収差のレベルが「4」である場合の集光スポットC1a、コマ収差のレベルが「1」である場合の集光スポットC1b、及び、コマ収差のレベルが「0」である場合(コマ収差が付与されない場合)の集光スポットC1cについて比較する。
図11は、各集光スポットの(位置Qaにおける)XY面内でのプロファイルを示す。
図11に示されるように、集光スポットC1cから集光スポットC1aにかけて、コマ収差のレベルが大きくなるにつれて、XY面内においてビーム強度分布が均一な状態から偏在した状態となる様子が理解される。
【0053】
図12は、コマ収差のレベルに応じた加工結果の一例を示す写真である。
図12の(a)は、コマ収差のレベルが「4」である場合(集光スポットC1a)での加工結果を示し、
図12の(b)は、コマ収差のレベルが「1」である場合(集光スポットC1b)での加工結果を示し、
図12の(c)は、コマ収差のレベルが「0」である場合(集光スポットC1c)での加工結果を示している。
図12の(a),(b)の例では、抜け光によるダメージDtが第1領域R1に確実に偏在されており、第2領域R2にはダメージDtが生じていない。
【0054】
一方、
図12の(c)の例では、抜け光LtによるダメージDtの偏在が見られず、第1領域R1及び第2領域R2の両方にダメージDtが生じている。この結果からも、上述したように集光スポットC1のビーム形状を傾斜形状とすることにより、抜け光LtによるダメージDtの影響をコントロール可能であることが理解される。なお、
図12の例では、対象物11の第2面11b上に、半導体デバイス11Dに代えて金属膜を成膜することによりダメージDtを可視化している。また、ダメージDtは、いわゆるスプラッシュであると考えられる。
【0055】
以上のように、少なくとも工程S101及び第1照射処理では、制御部6が、ラインA及びZ方向に交差するY方向とZ方向とを含むYZ面内での集光スポットC1のビーム形状が、少なくとも集光スポットC1の中心Caよりも第1面11a側において、Z方向に対して傾斜した傾斜形状となるように、空間光変調器7に表示させる変調パターンを制御する。より具体的には、工程S101及び第1照射処理では、制御部6が、YZ面内での集光スポットC1のビーム形状が、少なくとも集光スポットC1の中心Caよりも第1面11a側において、第1面11aから第2面11bに向かうにつれて第2領域R2から第1領域R1に向かう傾斜形状となるように、空間光変調器7に表示させる変調パターンを制御する。
【0056】
一方、工程S102及び第2照射処理についても、制御部6が工程S101及び第1照射処理と同様に、レーザ光Lの集光スポットC2のビーム形状が傾斜形状となるように空間光変調器7を制御してもよい。しかし、工程S102及び第2照射処理では、相対的に第2面11bから離れた第2Z位置に集光スポットC2を位置させての加工が行われることから、集光スポットC2から第2面11b側、すなわち半導体デバイス11D側への抜け光によるダメージを考慮する必要性が低い。そのため、本実施形態では、工程S102及び第2照射処理では、制御部6が、空間光変調器7の制御により、YZ面内での集光スポットC2のビーム形状がZ方向に沿う非傾斜形状とする。非傾斜形状の集光スポットC2は、一例として、空間光変調器7に表示する変調パターンのコマ収差のレベルを「0」とすることにより、集光スポットC1cのような形状に形成され得る。
【0057】
以上説明したように、本実施形態に係るレーザ加工装置1及びレーザ加工方法では、対象物11に設定されたラインAに沿ってレーザ光Lの集光スポットCを相対移動させることにより、対象物11へのレーザ光Lの照射を行う。対象物11は、レーザ光Lの入射面となる第1面11aと、第1面11aの反対側の第2面11bと、第2面11bに沿って配列された第1領域R1及び第2領域R2と、を含む。集光スポットCを相対移動させるラインAは、第1領域R1と第2領域R2との間を通るように設定されている。そして、レーザ光Lの照射の際には、YZ面内における集光スポットC1のビーム形状が、少なくとも集光スポットC1の中心Caよりも第1面11a側においてZ方向に対して傾斜形状となるようにする。このようにビーム形状を傾斜形状とすると、抜け光LtによるダメージDtを、傾斜方向に応じて偏在させることが可能なのである。
【0058】
つまり、YZ面内における集光スポットC1の傾斜形状を、第1面11aから第2面11bに向かうにつれて第2領域R2から第1領域R1に向かうようにした場合には、抜け光LtによるダメージDtを第1領域R1側に偏在させることができる。一方で、YZ面内における集光スポットC1の傾斜形状を、第1面11aから第2面11bに向かうにつれて第1領域R1から第2領域R2に向かうようにした場合には、抜け光LtによるダメージDtを第2領域R2側に偏在させることができる。
【0059】
ここで、対象物11の第1領域R1と第2領域R2とは、少なくともライン側の一部分P1,P2において互いに異なる構造を有している。したがって、本実施形態に係るレーザ加工装置1及びレーザ加工方法によれば、集光スポットC1の傾斜方向を制御することにより、第1領域R1及び第2領域R2のうち、当該一部分P1,P2が相対的に抜け光Ltに対して脆弱な構造である領域とは反対の領域に抜け光LtのダメージDtを偏在させることが可能となる。これにより、本実施形態に係るレーザ加工装置1及びレーザ加工方法によれば、抜け光LtによるダメージDtの影響を低減可能となる。
【0060】
また、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、制御部6は、光源31、空間光変調器7、及び駆動部4,5を制御することにより、Z方向について集光スポットC2を第1Z位置よりも第2面11bから離れた第2Z位置に位置させた状態で集光スポットC2をラインAに沿って相対移動させながらレーザ光Lを対象物11に照射する第2照射処理を実行する。第2照射処理では、制御部6は、空間光変調器7の制御により、YZ面内での集光スポットC2のビーム形状がZ方向に沿う非傾斜形状とする。このように、第1領域R1及び第2領域R2が配列された第2面11bからより遠く、第2面11b側への抜け光Ltの影響が小さい第2Z位置では、レーザ光Lの集光スポットC2のビーム形状がZ方向に沿った非傾斜形状とされることにより、当該第2Z位置付近で形成される改質領域12bからZ方向に好適に亀裂(垂直亀裂)を伸展させることが可能となる。
【0061】
また、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、第1領域R1及び第2領域R2は、それぞれ半導体デバイス11Dであり、第2領域R2は、一部分P2において配線部Wが設けられている。そして、第1照射処理では、制御部6は、YZ面内での集光スポットC1のビーム形状が、少なくとも集光スポットC1の中心Caよりも第1面11a側において、第1面11aから第2面11bに向かうにつれて第2領域R2から第1領域R1に向かう傾斜形状となるように、空間光変調器7に表示させる変調パターンを制御する。一般に、半導体デバイス11Dにあっては、配線部Wが抜け光Ltによりダメージを受けやすい。したがって、上記のように傾斜形状を制御することにより、配線部Wが設けられた第2領域R2とは反対の第1領域R1側に抜け光LtによるダメージDtを偏在させれば、抜け光LtによるダメージDtの影響を確実に低減可能である。
【0062】
さらに、本実施形態に係るレーザ加工装置1では、変調パターンは、レーザ光Lに対してコマ収差を付与するためのコマ収差パターンを含み、第1照射処理では、制御部6は、コマ収差パターンによるコマ収差を制御することにより、ビーム形状を傾斜形状としてもよい。このように、レーザ光Lに付与するコマ収差を制御することにより、集光スポットC1の傾斜形状を制御可能である。
[変形例]
【0063】
以上の実施形態は、本開示に係るレーザ加工装置及びレーザ加工方法の一例を説明したものである。したがって、本開示に係るレーザ加工装置及びレーザ加工方法は上記のものから変形され得る。
【0064】
上記実施形態では、レーザ光Lの集光スポットCのビーム形状を傾斜形状とするに際して、球面収差補正パターンPsのオフセットやコマ収差を利用した。しかし、ビーム形状のコントロールは上記の例に限定されない。引き続いて、ビーム形状を傾斜形状とするための別の例について説明する。
図13の(a)に示されるように、加工進行方向FDであるX方向に沿った軸線Axに対して非対称な変調パターンPG1によってレーザ光Lを変調し、集光スポットCのビーム形状を傾斜形状としてもよい。変調パターンPG1は、Y方向におけるレーザ光Lのビームスポットの中心Lcを通るX方向に沿った軸線AxよりもY方向の負側にグレーティングパターンGaを含むと共に、軸線AxよりもY方向の正側に非変調領域Baを含む。換言すれば、変調パターンPG1は、軸線AxよりもY方向の負側のみにグレーティングパターンGaが含まれる。なお、
図13の(b)は、
図13の(a)の変調パターンPG1を集光レンズ33の入射瞳面33aに対応するように反転させたものである。
【0065】
図14の(a)は、集光レンズ33の入射瞳面33aにおけるレーザ光Lの強度分布を示す。
図14の(a)に示されるように、このような変調パターンPG1を用いることにより、空間光変調器7に入射したレーザ光LのうちのグレーティングパターンGaにより変調された部分が集光レンズ33の入射瞳面33aに入射しなくなる。この結果、
図14の(b)及び
図15に示されるように、YZ面内における集光スポットCのビーム形状を、その全体がZ方向に対して一方向に傾斜した傾斜形状とすることができる。
【0066】
すなわち、この場合には、集光スポットCのビーム形状が、集光スポットCの中心Caよりも第1面11a側において、Z方向に対してY方向の負側に傾斜するようにされる。すなわち、中心Caよりも第1面11a側において、第1面11aから第2面11bに向かうにつれて(Z方向負側に向かうにつれて)、第2領域R2から第1領域R1に向かうように傾斜される。また、この場合には、集光スポットCの中心Caよりも第2面11b側において、Z方向に対してY方向の正側に傾斜することとなる。すなわち、中心Caよりも第2面11b側においても、第1面11aから第2面11bに向かうにつれて(Z方向負側に向かうにつれて)、第2領域R2から第1領域R1に向かうように傾斜される。
【0067】
なお、この場合には、抜け光LtによるダメージDtは、第1領域R1側に偏在されることとなる。これに対して、抜け光LtによるダメージDtを第2領域R2側に偏在させる場合には、変調パターンPG1において、グレーティングパターンGaと非変調領域Baとの位置を入れ替えればよい。また、
図15の(b)の各図は、
図15の(a)に示されたZ方向の各位置F1~F7におけるレーザ光LのXY面内の強度分布を示し、カメラによる実際の観測結果である。
【0068】
さらに、軸線Axに対して非対称な変調パターンとしては、
図16に示される変調パターンPG2,PG3,PG4を採用することもできる。変調パターンPG2は、軸線AxよりもY方向の負側において、軸線Axから離れる方向に順に配列された非変調領域Ba及びグレーティングパターンGaを含み、軸線AxよりもY方向の正側に非変調領域Baを含む。すなわち、変調パターンPG2は、軸線AxよりもY方向の負側の領域の一部にグレーティングパターンGaを含む。
【0069】
変調パターンPG3は、軸線AXよりもY方向の負側において、軸線Axから離れる方向に順に配列された非変調領域Ba及びグレーティングパターンGaを含むと共に、軸線AxよりもY方向の正側においても、軸線Axから離れる方向に順に配列された非変調領域Ba及びグレーティングパターンGaを含む。変調パターンPG3では、軸線AxよりもY方向の正側とY方向の負側とで、非変調領域Ba及びグレーティングパターンGaの割合を異ならせることで(Y方向の負側で相対的に非変調領域Baが狭くされることで)、軸線Axに対して非対称とされている。
【0070】
変調パターンPG4は、変調パターンPG2と同様に、軸線AxよりもY方向の負側の領域の一部にグレーティングパターンGaを含む。変調パターンPG4では、さらに、X方向についても、グレーティングパターンGaが設けられた領域が一部とされている。すなわち、変調パターンPG4では、軸線AxよりもY方向の負側の領域において、X方向に順に配列された非変調領域Ba、グレーティングパターンGa、及び、非変調領域Baを含む。ここでは、グレーティングパターンGaは、X方向におけるレーザ光Lのビームスポットの中心Lcを通るY方向に沿った軸線Ayを含む領域に配置されている。
【0071】
以上のいずれの変調パターンPG2~PG4によっても、集光スポットCのビーム形状を、少なくとも中心Caよりも第1面11a側において、第1面11aから第2面11bに向かうにつれて第2領域R2から第1領域R1に向かうような傾斜形状とすることができる。すなわち、集光スポットCのビーム形状を、少なくとも中心Caよりも第1面11a側において、第1面11aから第2面11bに向かうにつれて第2領域R2から第1領域R1に向かうように制御するためには、変調パターンPG1~PG4のように、或いは、変調パターンPG1~PG4に限らず、グレーティングパターンGaを含む非対称な変調パターンを用いることができる。そして、グレーティングパターンGaと非変調領域Baとの位置を入れ替えることにより、反対向きの傾斜形状を形成することもできる。
【0072】
さらに、集光スポットCのビーム形状を傾斜形状とするための非対称な変調パターンとしては、グレーティングパターンGaを利用するものに限定されない。
図17は、非対称な変調パターンの別の例を示す図である。
図17の(a)に示されるように、変調パターンPEは、軸線AxよりもY方向の負側に楕円パターンEwを含むと共に、軸線AxよりもY方向の正側に楕円パターンEsを含む。なお、
図17の(b)は、
図17の(a)の変調パターンPEを集光レンズ33の入射瞳面33aに対応するように反転させたものである。
【0073】
図17の(c)に示されるように、楕円パターンEw,Esは、いずれも、X方向及びY方向を含むXY面における集光スポットCのビーム形状を、X方向を長手方向とする楕円形状とするためのパターンである。ただし、楕円パターンEwと楕円パターンEsとでは変調の強度が異なる。より具体的には、楕円パターンEsによる変調の強度が楕円パターンEwによる変調の強度よりも大きくされている。すなわち、楕円パターンEsによって変調されたレーザ光Lが形成する集光スポットCsが、楕円パターンEwによって変調されたレーザ光Lが形成する集光スポットCwよりもX方向に長い楕円形状となるようにされている。ここでは、軸線AxよりもY方向の負側に相対的に強い楕円パターンEsが配置されている。
【0074】
図18の(a)に示されるように、このような変調パターンPEを用いることにより、YZ面内における集光スポットCのビーム形状を、中心Caよりも第1面11a側においてZ方向に対してY方向の負側に傾斜する傾斜形状とする、すなわち、第1面11aから第2面11bに向かうにつれて第2領域R2から第1領域R1に向かうような傾斜形状とすることができる。特に、この場合には、YZ面内における集光スポットCのビーム形状が、中心Caよりも第1面11aと反対側においてもZ方向に対してY方向の負側に傾斜する、すなわち、第1面11aから第2面11bに向かうにつれて第1領域R1から第2領域R2に向かうような傾斜形状とすることとなり、全体として弧状となる。
【0075】
なお、変調パターンPEにおいて、楕円パターンEwと楕円パターンEsとを入れ替えることにより、反対向きの傾斜形状を形成することも可能である。また、
図18の(b)の各図は、
図18の(a)に示されたZ方向の各位置H1~F8におけるレーザ光LのXY面内の強度分布を示し、カメラによる実際の観測結果である。
【0076】
さらには、集光スポットCのビーム形状を傾斜形状とするための変調パターンは、以上の非対称なパターンに限定されない。一例として、そのような変調パターンとして、
図19に示されるように、YZ面E内において複数位置に集光点CIを形成して、複数の集光点CIの全体で(複数の集光点CIを含む)傾斜形状である集光スポットCを形成するように、レーザ光Lを変調するためのパターンが挙げられる。このような変調パターンは一例として、アキシコンレンズパターンに基づいて形成できる。このような変調パターンを用いた場合には、改質領域12自体もYZ面内において斜めに形成することができる。
【0077】
なお、ビーム形状の制御に際して、球面収差補正パターンのオフセットを利用する場合、コマ収差パターンを利用する場合、及び、楕円パターンを利用する場合には、回折格子パターンを利用してレーザ光の一部をカットする場合と比較して、高エネルギーでの加工が可能となる。また、これらの場合には、亀裂の形成を重視する場合に有効である。また、コマ収差パターンを利用する場合には、多焦点加工の場合に、一部の集光スポットのビーム形状のみを傾斜形状とすることが可能である。さらに、アキシコンレンズパターンを利用する場合は、他のパターンと比較して改質領域の形成を重視する場合に有効である。
【0078】
引き続いて、加工対象物の変形例について説明する。
図20は、変形例に係る対象物を示す図である。
図20の(a)は平面図であり、
図20の(b)は
図20の(a)のXXb-XXb線に沿っての断面図である。この例では、1つの対象物11に対して1つの大面積の半導体デバイス11E(例えばSiフォトダイオード)が形成されており、その半導体デバイス11Eを囲むように半導体デバイス11Eの外縁に沿ってラインAが設定されている。したがって、ラインAが設定されるストリート領域Rsを介して、半導体デバイス11Eを含む第2領域R2と、半導体デバイス11Eが形成されていない第1領域R1とが対向することとなる。この場合、第2領域R2がアクティブ領域であり、第1領域R1がアクティブ領域と異なる非アクティブ領域である。アクティブ領域とは、半導体デバイス11Eといった機能素子を含む領域である。また、非アクティブ領域とは、半導体デバイス11Eといった機能素子を含まない領域、或いは、一定の機能を有する素子を含むものの、当該素子がTEGといったテスト用の素子である領域である。
【0079】
よって、この場合にも、第1領域R1及び第2領域のラインA側の一部分は互いに異なる構造を有する。そして、この場合には、半導体デバイス11Eを含む第2領域R2でなく、第1領域R1側に抜け光LtによるダメージDtを偏在させることが望ましい。したがって、この場合でも、上記実施形態と同様に、少なくとも工程S101及び第1照射処理では、制御部6が、空間光変調器7を用いてレーザ光Lを変調することにより、集光スポットC1のYZ面内でのビーム形状を、少なくとも集光スポットC1の中心Caよりも第1面11a側において、Z方向に対して傾斜する傾斜形状とする。
【0080】
より具体的には、ここでも、工程S101及び第1照射処理では、制御部6が、YZ面内での集光スポットC1のビーム形状が、少なくとも集光スポットC1の中心Caよりも第1面11a側において、第1面11aから第2面11bに向かうにつれて第2領域R2から第1領域R1に向かう傾斜形状となるように、空間光変調器7に表示させる変調パターンを制御する。これにより、抜け光LtによるダメージDtが、半導体デバイス11Eが存在しない第1領域R1に偏在され、抜け光LtによるダメージDtの影響が低減される。なお、この例の対象物11では、半導体デバイス11Eの周囲に特性確認用のTEGセンサ11Gが形成されている場合がある。この場合、ラインAが、部分的に、半導体デバイス11EとTEGセンサ11Gとの間を通るように設定される場合がある。この場合にも、半導体デバイス11Eと反対側に抜け光LtのダメージDtが偏在するように集光スポットC1のビーム形状を傾斜させることもできる。
【0081】
図21は、別の変形例に係る対象物を示す図である。
図21の(a)は平面図であり、
図21の(b)は
図21の(a)のXXIb-XXIb線に沿っての断面図である。この例では、対象物11の第2面11bに沿って複数の半導体デバイス11Dが2次元状に配列される点は上記実施形態と同様であるが、隣り合う半導体デバイス11Dの間の間隔が広くとられている。このため、この例では、隣り合う半導体デバイス11Dの間の領域に、2つのラインAが設定される(Wライン加工が行われる)。それぞれのラインAは、隣り合う半導体デバイス11Dの間の領域の中心よりも一方の半導体デバイス11D側に偏って設定される。
【0082】
したがって、この例では、互いに隣り合う一対の半導体デバイス11Dを含む一対の第2領域R2の間に、一対のラインAのそれぞれが設定される一対のストリート領域Rsが介在されると共に、一対のストリート領域Rsの間に1つの第1領域R1(半導体デバイス11Dが形成されていない領域)が設けられる。したがって、この場合にも、1つのラインAに着目したときに、第1領域R1及び第2領域R2の当該ラインA側の一部分の構造が異なることとなる。この場合にも、第2領域R2がアクティブ領域であり、第1領域R1がアクティブ領域と異なる非アクティブ領域である。そして、この例では、いずれのラインAの加工時にも、半導体デバイス11Dが形成されていない第1領域R11側に抜け光LtのダメージDtを偏在させることが望ましい。
【0083】
そこで、工程S101及び第1照射処理では、一対のラインAのうちのY方向負側のラインAを加工する場合(すなわち、加工進行方向FD(X方向)からみて第2領域R2がY方向負側に位置する場合)には、
図22に示されるように、制御部6が、集光スポットC11を形成する。集光スポットC11では、その中心Caよりも第1面11a側において、第1面11aから第2面11bに向かうにつれて(Z方向負側に向かうにつれて)、第2領域R2から第1領域R1に向かうように傾斜されている。なお、集光スポットC11では中心Caよりも第2面11b側においては、第1面11aから第2面11bに向かうにつれて(Z方向負側に向かうにつれて)、第1領域R1から第2領域R2に向かうように傾斜されている。これにより、集光スポットC11のYZ面内でのビーム形状は、全体として、Y方向正側に凸となる弧形状とされている。
【0084】
一方、工程S101及び第1照射処理では、一対のラインAのうちのY方向正側のラインAを加工する場合(すなわち、加工進行方向FD(X方向)からみて第2領域R2がY方向正側に位置する場合)には、
図23に示されるように、制御部6が、集光スポットC12を形成する。集光スポットC12では、その中心Caよりも第1面11a側において、第1面11aから第2面11bに向かうにつれて(Z方向負側に向かうにつれて)、第2領域R2から第1領域R1に向かうように傾斜されている。なお、集光スポットC12では中心Caよりも第2面11b側においては、第1面11aから第2面11bに向かうにつれて(Z方向負側に向かうにつれて)、第1領域R1から第2領域R2に向かうように傾斜されている。これにより、集光スポットC12のYZ面内でのビーム形状は、全体として、Y方向負側に凸となる弧形状とされている。集光スポットC11,C12の形成に際しては、例えばコマ収差を利用することが可能である。
【0085】
以上により、
図24に示されるように、一対のラインAのいずれの加工においても、抜け光LtのダメージDtを半導体デバイス11Dが形成されていない第1領域R1側に偏在させることにより、半導体デバイス11Dを含む第2領域R2側への抜け光LtのダメージDtの影響を低減可能である。なお、
図24の(b)に示されるように、この変形例に係る対象物11では、隣り合う半導体デバイス11Dの間にテスト用のチップやTEG等の構造体11Fが形成される場合がある。このような場合には、少なくとも、隣り合う半導体デバイス11Dの間に構造体11Fが介在する方向(ここではY方向)に交差する方向を加工進行方向FDとする場合に、構造体11Fを跨ぐように2つのラインAが設定され、Wライン加工が行われる。
【0086】
この場合にも、上記の例と同様に、構造体11Fを含む領域を第1領域R1として、当該第1領域R1側に抜け光LtのダメージDtが偏在するように集光スポットC11,C12のビーム形状を制御すればよい。一方、隣り合う半導体デバイス11Dの間に構造体11Fが介在しない方向(ここではX方向)に交差する方向を加工進行方向FDとする場合には、隣り合う半導体デバイス11Dの間隔が狭くされ、1つのラインAに沿った加工を行う場合がある。この場合には、当該方向については、隣り合う半導体デバイス11Dの構造を比較し、抜け光Ltに対して相対的に脆弱な構造を有する側と反対側に抜け光LtのダメージDtが偏在するように、集光スポットC1のビーム形状を制御すればよい。
【0087】
図25は、さらに別の変形例に係る対象物を示す図である。
図25の(a)は平面図であり、
図25の(b)は
図25の(a)のXXVb-XXVb線に沿っての断面図である。この例では、対象物11には、Z方向からみて円環状にラインAが設定されている。また、対象物11は、デバイス層11Qを介して別のウェハ11Zに接合されている。この対象物11に対して、トリミング加工を行う。トリミング加工では、ラインAに沿ってレーザ光Lを照射することにより、Z方向に並ぶように複数列の改質領域12a,12bと、改質領域12aから延びる亀裂(斜め亀裂13a)と、改質領域12bから延びる亀裂(垂直亀裂13b)と、を形成する。これにより、ラインAの外側の円環状の領域を対象物11から除去する。
【0088】
改質領域12aの形成に際して、工程S101及び第1照射処理が実施される。すなわち、ここでは、まず、レーザ光Lを第1面11a側から対象物11内に入射させつつ、対象物11の内部においてZ方向の第1Z位置にレーザ光Lの集光スポットC1が形成されるようにする(
図26参照)。第1Z位置は、第1面11aよりも第2面11b側の位置であって、最も第2面11b側の改質領域12aを形成する位置である。その状態において、レーザ光Lの集光スポットC1をラインAに沿って相対移動させながら、レーザ光Lを対象物11に照射する。
【0089】
このとき、制御部6が、ラインA及びZ方向に交差するY方向とZ方向とを含むYZ面内での集光スポットC1のビーム形状が、少なくとも集光スポットC1の中心Caよりも第1面11a側において、Z方向に対して傾斜した傾斜形状となるように、空間光変調器7に表示させる変調パターンを制御する。より具体的には、工程S101及び第1照射処理では、制御部6が、YZ面内での集光スポットC1のビーム形状が、少なくとも集光スポットC1の中心Caよりも第1面11a側において、第1面11aから第2面11bに向かうにつれて第2領域R2から第1領域R1に向かう傾斜形状となるように、空間光変調器7に表示させる変調パターンを制御する。
【0090】
ここでの第2領域R2は、デバイス層11Qの内側のアクティブエリアを含む。また、第1領域R1は、デバイス層11Qが形成されていない領域(デバイス層11Qの外部の領域)である。つまり、ここでも、第2領域R2がアクティブ領域であり、第1領域R1がアクティブ領域と異なる非アクティブ領域である。ここでのアクティブ領域とは、デバイス層11Qの内部の領域である。また、ここでの非アクティブ領域とは、デバイス層11Qの外部の領域である。第1領域R1と第2領域R2との間には、デバイス層11Qの外縁部の非アクティブエリアを含む第3領域R3が介在されている。少なくとも改質領域12aを形成するためのラインAは、Z方向からみてこの第3領域R3に位置する。したがって、この例でも、第1領域R1及び第2領域R2の当該ラインA側の一部分の構造が異なることとなる。そして、この例では、デバイス層11Qのアクティブエリアである第2領域R2と反対側の第1領域R1側に、抜け光LtのダメージDtを偏在させる。
【0091】
続いて、トリミング加工では、工程S102及び第2照射処理が実施される。すなわち、
図26に示されるように、レーザ光Lを第1面11a側から対象物11内に入射させつつ、対象物11の内部においてZ方向の第2Z位置にレーザ光Lの集光スポットC2が形成されるようにする。第2Z位置は、第1Z位置よりもシフト量Szだけ第1面11a側の位置であって、最も改質領域12a側に位置する改質領域12bを形成する位置である。さらに、ここでは、集光スポットC2が、集光スポットC1のY方向の位置である第1Y位置からY方向にシフト量Syだけシフトされた第2Y位置とされる。
【0092】
さらに、ここでは、工程S102及び第2照射処理において、集光スポットC2のビーム形状が、少なくとも集光スポットC2の中心より第1面11a側においてシフトの方向(ここではY方向負側)に傾斜する傾斜形状となるようにレーザ光L2を成形する。一例として、集光スポットC2のビーム形状は、集光スポットC1と同様とすることができる。これにより、YZ面内において集光スポットC2のシフトの方向に傾斜するように斜め亀裂13aが形成される。斜め亀裂13aは、第1面11aから第2面11bに向かうにつれて対象物11の外側に向かうように傾斜して形成される。これにより、改質領域12から第2面11b側に亀裂が垂直方向に延びて、デバイス層11Qや別のウェハ11Zに至ることが抑制される。
【0093】
なお、改質領域12bのうち、最も改質領域12a側の改質領域12b以外のものを形成する際には、Z方向に沿って延びる垂直亀裂13bが形成されるように、集光スポットC2のビーム形状をZ方向に沿った非傾斜形状とすることができる。
【0094】
以上のように、対象物11のトリミング加工についても、工程S101及び第1照射処理において集光スポットC1のビーム形状を制御することにより、抜け光LtのダメージDtの影響を低減可能であると共に、第2面11b側に向けて斜め亀裂13aを形成してデバイス層11Qや別のウェハ11Zに意図せずに亀裂が進展することが抑制される。
【0095】
なお、以上の例では、トリミング加工時の斜め亀裂13aの形成と、抜け光LtのダメージDtの影響低減を併用する場合について説明した。しかし、トリミング加工以外であっても、斜め亀裂13aを形成する要求がある。したがって、斜め亀裂13aを形成する任意の場合に、抜け光LtのダメージDtの影響を低減すべく、集光スポットC1のビーム形状を制御することができる。
【符号の説明】
【0096】
1…レーザ加工装置、2…ステージ(支持部)、4,5…駆動部(移動部)、6…制御部、7…空間光変調器、11…対象物、11a…第1面、11b…第2面、31…光源、33…集光レンズ、A…ライン、C,C1,C2…集光スポット、R1…第1領域、R2…第2領域、W…配線部。