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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】駆動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 19/02 20060101AFI20241028BHJP
   B25J 15/08 20060101ALI20241028BHJP
   F16D 41/067 20060101ALI20241028BHJP
【FI】
F16H19/02 G
B25J15/08 Z
F16D41/067
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021173279
(22)【出願日】2021-10-22
(65)【公開番号】P2023063032
(43)【公開日】2023-05-09
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片桐 健一
(72)【発明者】
【氏名】竹村 佳也
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-135974(JP,A)
【文献】特開2012-145151(JP,A)
【文献】国際公開第2017/033885(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/037785(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0080533(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 19/02
B25J 15/08
F16D 41/067
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、前記基体に可動に支持された指部を構成する可動体と、を有するロボットハンドに設けられ、前記基体に対して伸展した伸展方向と、前記基体に対して屈曲した屈曲方向とのそれぞれに前記可動体を移動させるための駆動装置であって、
前記可動体が前記屈曲方向に変位すると弛み、前記可動体が前記伸展方向に変位すると引っ張られるように前記可動体に連結された第1ワイヤと、
前記可動体が前記屈曲方向に変位すると引っ張られ、前記可動体が前記伸展方向に変位すると弛むように前記可動体に連結された第2ワイヤと、
前記第1ワイヤが巻き取り及び送り出し可能に巻回された第1プーリと、
前記第2ワイヤが巻き取り及び送り出し可能に巻回された第2プーリと、
前記第1プーリを巻き取り方向及び送り出し方向に選択的に回転させる駆動源と、
前記第2ワイヤに張力を与える弛み取り機構と、
前記第2プーリの回転を前記第1プーリに伝達することなく、前記第1ワイヤを巻き取る方向の前記第1プーリの回転を前記第2プーリに伝達することなく、前記第2プーリを前記第1プーリに対して空転させ、且つ、前記第1ワイヤを送り出す方向の前記第1プーリの回転を前記第2プーリに伝達するように構成されたトルク伝達機構と
前記第1ワイヤに張力を与える張力付与機構と、を有する駆動装置。
【請求項2】
前記第1プーリ及び前記第2プーリの間には、前記第2プーリを前記第1プーリに対して回転付勢する付勢装置が設けられ、
前記付勢装置により、前記第2ワイヤに張力を与える前記弛み取り機構が構成されている請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
前記第1プーリ及び前記第2プーリは同軸に配置され、
前記弛み取り機構はねじりばねを含む請求項2に記載の駆動装置。
【請求項4】
前記弛み取り機構は、前記第2プーリと前記基体との間に設けられ、前記第2プーリを巻き取り方向に付勢する請求項1に記載の駆動装置。
【請求項5】
前記トルク伝達機構は、前記第1プーリに所定値以上のトルクが加えられていないときに、前記第2プーリの回転を許容する、請求項1~請求項4のいずれか1つの項に記載の駆動装置。
【請求項6】
前記トルク伝達機構は、
円柱状の受容空間を画定するとともに、同軸をなすように前記第1プーリに連結された外輪と、
円筒状の外周面を備え、前記受容空間に受容され、且つ、前記第2プーリに同軸をなすように連結された内輪と、
前記外輪の内周面に設けられ、前記外周面との間で周方向に沿って径方向の幅が狭くなるくさび隙間を形成するカム面と、
前記カム面と前記外周面との間に配置された円柱状のローラと、
前記ローラを前記くさび隙間に保持する保持器と、を備え、
前記第1プーリが前記第1ワイヤを送り出す方向に回転したときに、前記ローラが前記カム面と前記外周面との間に挟み込まれることによって、前記外輪と前記内輪とが連結され、
前記第1プーリが前記第1ワイヤを巻き取る方向に回転したときに、前記ローラは前記カム面及び前記外周面に対して相対回転可能となり、前記外輪と前記内輪とが相対回転可能となる請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ロボットに設けられる駆動装置であって、特に、ワイヤ駆動型のロボットに用いられる駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロボット等に用いられるワイヤ駆動型の多関節マニピュレータが知られている。特許文献1には、従来例として、ワイヤ・プーリ系で構成された関節を複数連結したマニピュレータが開示されている。
【0003】
特許文献1に記載のマニピュレータの各関節は、回転軸と、該回転軸に設けられて自由に回転可能な2個のプーリ(締め込みプーリ及び緩めプーリ)とで構成されている。各締め込みプーリのそれぞれには、締め込みワイヤが一巻きずつ巻かれており、この締め込みワイヤの先端は、指の先端位置に固定され、また、末端はモータ(駆動源)に巻かれている。このようにして、指の先端からモータまでの間が、各締め込みプーリを介して締め込みワイヤで連結されている。
【0004】
各緩めプーリのそれぞれは、締め込みワイヤとは逆方向に巻かれた緩めワイヤによって指の先端からばねまで連結されている。そして、締め込みワイヤをモータで巻き取ることにより、各関節が回転してマニピュレータが曲がるようになっている。緩めワイヤとばねは、曲がったマニピュレータを元の状態に復帰させる際に利用される。
【0005】
ワイヤ・プーリ系において、ワイヤ(ベルト)に適切な張力を付与するためのテンショナが公知である(例えば、特許文献2)。特許文献2のベルトテンショナはトーションばねによってベルトに向かって付勢されたピボットアームを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003―211383号公報
【文献】特開2005―507063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されたマニピュレータは、ばねの復元力によって関節が曲がった状態から真直な元の状態に戻されるため、関節が元の状態に戻りきらない虞がある。また、ばねによる復元力によって元に戻るため、マニピュレータの応答性が低いという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、基体に双方向に変位可能に接続された可動体を、一方向に変位させた後、的確かつ迅速に元の位置に戻すことができる駆動装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような課題を解決するために、本発明のある実施形態は、基体(2)に対して負の方向と、前記負の方向と逆向きの正の方向とに可動に支持された可動体(3)を、前記負の方向及び前記正の方向それぞれに移動させるための駆動装置(1、101)であって、前記可動体が前記負の方向に変位すると弛み、前記可動体が前記正の方向に変位すると引っ張られるように前記可動体に連結された第1ワイヤ(7)と、前記可動体が前記負の方向に変位すると引っ張られ、前記可動体が前記正の方向に変位すると弛むように前記可動体に連結された第2ワイヤ(8)と、前記第1ワイヤが巻き取り及び送り出し可能に巻回された第1プーリ(14)と、前記第2ワイヤが巻き取り及び送り出し可能に巻回された第2プーリ(16)と、前記第1プーリを巻き取り方向及び送り出し方向に選択的に回転させる駆動源(5)と、前記第2ワイヤに張力を与える弛み取り機構(46、146)と、前記第2プーリの回転を前記第1プーリに伝達することなく、前記第1ワイヤを巻き取る方向の前記第1プーリの回転を前記第2プーリに伝達することなく、前記第2プーリを前記第1プーリに対して空転させ、且つ、前記第1ワイヤを送り出す方向の前記第1プーリの回転を前記第2プーリに伝達するように構成されたトルク伝達機構(20)と、を有する。
【0010】
この構成によれば、駆動源が第1ワイヤを巻き取る方向に第1プーリを回転させると、第1ワイヤが引っ張られて、可動体が負の方向に変位する。その後、駆動源が第1ワイヤを送り出す方向に第1プーリを回転させると、第2プーリが回転し、第2ワイヤが引っ張られて、可動体が正の方向に変位する。このように、駆動源による駆動によって第2ワイヤが引っ張られて可動体が元の位置に戻されるため、ばねによる復元力によって元の状態に戻す場合に比べて、可動体をより的確かつ迅速に元の位置に戻すことができる。
【0011】
上記構成において、好ましくは、前記第1ワイヤに張力を与える張力付与機構(48)を含む。
【0012】
この構成によれば、第1ワイヤの弛みが防止できる。これにより、第1ワイヤに加わる張力の発振が防止できる。
【0013】
上記構成において、好ましくは、前記弛み取り機構(46)は前記第1プーリ及び前記第2プーリの間に設けられ、前記第2プーリを前記第1プーリに対して回転付勢する。
【0014】
この構成によれば、駆動機構の小型化を図ることができる。
【0015】
上記構成において、好ましくは、前記第1プーリ及び前記第2プーリは同軸に配置され、前記弛み取り機構はねじりばねを含む。
【0016】
この構成によれば、弛み取り機構を簡素に構成することができる。
【0017】
上記構成において、好ましくは、前記弛み取り機構(146)は、前記第2プーリと前記基体との間に設けられ、前記第2プーリを巻き取り方向に付勢する。
【0018】
この構成によれば、駆動機構を簡素に構成することができる。
【0019】
上記構成において、好ましくは、前記トルク伝達機構は、前記第1プーリに所定値以上のトルクが加えられていないときに、前記第2プーリの回転を許容する。
【0020】
この構成によれば、駆動源が駆動していないときに、弛み取り機構によって、第2プーリを回転させることができる。これにより、第2ワイヤに弛みが生じることや、第2ワイヤに過度な張力が加わることを防止することができる。
【0021】
上記構成において、好ましくは、前記トルク伝達機構は、円柱状の受容空間(37)を画定するとともに、同軸をなすように前記第1プーリに連結された外輪(26)と、円筒状の外周面(28B)を備え、前記受容空間に受容され、且つ、前記第2プーリに同軸をなすように連結された内輪(28)と、前記外輪の内周面(26B)に設けられ、前記外周面との間で周方向に沿って径方向の幅が狭くなるくさび隙間(40)を形成するカム面(39)と、前記カム面と前記外周面との間に配置された円柱状のローラ(30)と、前記ローラを前記くさび隙間に保持する保持器(32)と、を備え、前記第1プーリが前記第1ワイヤを送り出す方向に回転したときに、前記ローラが前記カム面と前記外周面との間に挟み込まれることによって、前記外輪と前記内輪とが連結され、前記第1プーリが前記第1ワイヤを巻き取る方向に回転したときに、前記ローラは前記カム面及び前記外周面に対して相対回転可能となり、前記外輪と前記内輪とが相対回転可能となる。
【0022】
この構成によれば、トルク伝達機構を、第1ワイヤを巻き取る方向の第1プーリの回転を第2プーリに伝達することなく、第2プーリを第1プーリに対して空転させ、且つ、第1ワイヤを送り出す方向の第1プーリの回転を前記第2プーリに伝達するように構成できる。
【発明の効果】
【0023】
このように本発明によれば、基体に双方向に変位可能に接続された可動体を、一方向に変位させた後、的確かつ迅速に元の位置に戻すことができる駆動装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】第1実施形態に係る駆動装置が設けられたロボットハンドの模式図
図2】第1実施形態に係る駆動装置のプーリモジュールの斜視図
図3図2のIII-III断面図
図4図3のIV―IV断面図
図5】ロールが(A)ロール逃げ部に位置しているときと、(B)ローラ噛み込み部に位置しているときの図4の二点鎖線で囲まれた部分の拡大図
図6】可動リンクが伸展位置にあるときの駆動装置の状態を説明するための模式図
図7】屈曲側テンショナの縦断面図
図8】屈曲側テンショナの伸長による屈曲側ワイヤへの張力付与を説明するための説明図
図9】屈曲側テンショナの伸長による屈曲側ワイヤへの張力付与を説明するための説明図
図10】可動リンクを伸展位置から屈曲位置に向けて変位させるときの駆動装置の状態を説明するための模式図
図11】可動リンクを屈曲位置から伸展位置に向けて変位させるときに、屈曲ワイヤに弛みが生じた場合の駆動装置の状態を説明するための模式図
図12】可動リンクを伸展位置から伸展方向に変位させるときに、屈曲ワイヤに弛みが生じた場合の駆動装置の状態を説明するための模式図
図13】可動リンクが伸展位置にあるときに、伸展ワイヤが伸びるように塑性変形した場合の駆動装置の状態を説明するための模式図
図14】第2実施形態に係る駆動装置が設けられたロボットハンドの模式図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明の2つの実施形態について詳細に説明する。
【0026】
<<第1実施形態>>
本発明に係る駆動装置1は、図1に示すように、所定の方向に延びる基体2と、基体2に対して回転可能に接続された可動リンク3(可動体)とを含むロボットハンドHに設けられる。本実施形態では、基体2は前腕部分及び掌の一部を形成している。可動リンク3は指の付け根から第1関節までの部分(基節)を構成している。基体2と可動リンク3との接続部分は指の付け根部分に相当する。駆動装置1は可動リンク3を基体2に対して回転駆動させるために用いられる。以下、説明の便宜上、手首部分は伸びた状態に保持されるものとして、基体2の延在方向(前腕及び掌の延びる方向)を前後方向、基体2に対する可動リンク3の回転軸線Zの方向を左右方向(横方向)と規定する。
【0027】
駆動装置1は図1に示すように、可動リンク3を基体2の延在方向に沿って前方に延びる伸展位置(図1の二点鎖線参照)から回転軸線Zを中心として下方に向かって回転する屈曲位置(図1の実線参照)に回転駆動させることができる。また、駆動装置1は可動リンク3を屈曲位置から伸展位置に、すなわち、回転軸線Zを中心として上方に回転駆動させることができる。以下、回転軸線Zを中心とする伸展位置から屈曲位置への回転方向を屈曲方向(図1における反時計回り。負の方向ともいう)とし、回転軸線Zを中心とする屈曲位置から伸展位置への回転方向を伸展方向(図1における時計回り。正の方向ともいう)とする。図1に示すように、伸展方向は屈曲方向の逆向きであり、可動リンク3は基体2に対して回転軸線Zを中心とする双方向に回転可能となっている。
【0028】
このような駆動を行うため、図1及び図2に示すように、駆動装置1は、駆動源5と、プーリモジュール6と、屈曲ワイヤ7(第1ワイヤ)と、伸展ワイヤ8(第2ワイヤ)と、を備える。
【0029】
駆動源5は円柱状の回転軸10(図3を参照)を有するモータによって構成されている。駆動源5は基体2に結合されて支持されている。駆動源5は回転軸10をその軸線を中心とした右回り及び左回りのいずれか一方に選択的に回転させる。
【0030】
プーリモジュール6は、図1に示すように、基体2に支持されている。プーリモジュール6は図2に示すように、ハウジング12と、ハウジング12に支持された屈曲側プーリ14(第1プーリ)及び伸展側プーリ16(第2プーリ)と、カバー部材18と、屈曲側プーリ14と伸展側プーリ16との間のトルク伝達を行うトルク伝達機構20(図4も参照)とを含む。
【0031】
ハウジング12は略方形をなす板状部材であり、基体2の左側面に結合されている。ハウジング12には左右方向に貫通する円形の貫通孔12Aが設けられている。本実施形態では、図3に示すように、ハウジング12の右側面には回転軸10が貫通孔12Aを通過し、左方向に突出するように駆動源5が結合されている。基体2には左右方向に貫通する受容孔2Aが設けられ、駆動源5が受容孔2Aに受容されるように、ハウジング12は基体2に固定されている。駆動源5は、ハウジング12が基体2の左側面に結合されることによって、ハウジング12を介して基体2に結合されて支持されている。
【0032】
図2に示すように、屈曲側プーリ14は有底な円筒状をなしている。図3に示すように、屈曲側プーリ14は軸線Xに沿って円柱状に凹む受容凹部14Aを備えている。屈曲側プーリ14はその軸線Xが左右方向に延び、且つ、駆動源5の回転軸10から離れる方向に向けて開口するように配置されている。本実施形態では、屈曲側プーリ14は軸線Xが駆動源5の回転軸10の回転軸線に重なるように配置され、その底壁14Bにおいて直接、駆動源5の回転軸10に連結されている。これにより、屈曲側プーリ14は軸線Xを中心に回転可能にハウジング12に支持されている。屈曲側プーリ14の外周面には径方向内側に凹む第1溝部14Cが設けられている。図2に示すように、第1溝部14Cは屈曲側プーリ14の外周面に沿って周方向全周に渡って延在している。
【0033】
本実施形態では、図3に示すように、屈曲側プーリ14は駆動源5の回転軸10に連結されていたが、この態様には限定されない。屈曲側プーリ14が軸線Xを中心として回転可能にハウジング12に支持され、駆動源5が軸線Xを中心として双方向に選択的に屈曲側プーリ14を回転駆動する態様であればいかなる態様であってもよい。例えば、屈曲側プーリ14が歯車等を介して駆動源5の回転軸10に接続されて、駆動源5が軸線Xを中心として双方向に選択的に歯車を回転させることによって、屈曲側プーリ14を双方向に選択的に回転駆動してもよい。本実施形態では、屈曲側プーリ14のハウジング12の側の端部外周面と、ハウジング12の貫通孔12Aの内周面との間には、ベアリング22が設けられている。
【0034】
図2に示すように、伸展側プーリ16は所定の軸線を中心とする筒状をなしている。図3に示すように、伸展側プーリ16は円筒状をなす主部16Aと、主部16Aから同軸をなして突出する円筒状の突出部16Bとを備えている。主部16Aの外径は屈曲側プーリ14の外径と概ね同一であり、伸展側プーリ16は屈曲側プーリ14と同軸をなすように配置されている。主部16Aの外周面には径方向内側に凹む第2溝部16Cが設けられている。図2に示すように、第2溝部16Cは伸展側プーリ16の外周面に沿って周方向全周に渡って延在している。
【0035】
図2に示すように、カバー部材18は屈曲側プーリ14及び伸展側プーリ16を左側から覆うように配置されて、ハウジング12の左側面に締結されている。これにより、カバー部材18は屈曲側プーリ14及び伸展側プーリ16の左方への離脱を防止している。図3に示すように、カバー部材18の右側面には左方向に円柱状に凹み、伸展側プーリ16の突出部16Bを受容する凹部18Aが設けられている。突出部16Bと凹部18Aの内周面との間にはベアリング24が設けられ、伸展側プーリ16はハウジング12(すなわち、可動リンク3)に軸線Xを中心とする回転可能に支持されている。
【0036】
トルク伝達機構20は屈曲側プーリ14を伸展側プーリ16に対して周方向一方向回り(図4における反時計回り。以下、順方向)に回転させるべく屈曲側プーリ14に加わる周方向一方向回りのトルクのみを伸展側プーリ16に伝達し、両者間のそれ以外のトルクの伝達を行わないように構成されている。トルク伝達機構20は、屈曲側プーリ14を伸展側プーリ16に対して周方向他方向回り(図4における時計回り。以下、逆方向)に回転させるべく屈曲側プーリ14に加わる周方向他方向回りのトルクの伸展側プーリ16に伝達しない。更に、トルク伝達機構20は、伸展側プーリ16を屈曲側プーリ14に対して回転させるべく、伸展側プーリ16に加わるいずれの方向のトルクを屈曲側プーリ14に伝達しない。すなわち、トルク伝達機構20は、入力軸(屈曲側プーリ14)に加わる順方向のトルクのみが出力軸(伸展側プーリ16)に伝達され、出力軸から入力軸にトルクが伝達されないワンウェイクラッチ(又は、トルクダイオード(登録商標)ともいう)に相当するものである。
【0037】
トルク伝達機構20の例が図4及び図5に詳細に示されている。但し、図4及び図5に示すトルク伝達機構20は例示に過ぎず、他の公知の方法によって実現されてもよい。
【0038】
本実施形態では、トルク伝達機構20は、図4に示すように、外輪26と、内輪28と、ローラ30と、保持器32と、センタリングばね34と、スイッチングばね36とを有している。
【0039】
外輪26は略円筒状の部材であり、屈曲側プーリ14と同軸に配置され、屈曲側プーリ14の受容凹部14Aに収容されている。外輪26は屈曲側プーリ14に連結され、屈曲側プーリ14の回転に応じて、軸線Xを中心に回転する。第1本実施形態では、屈曲側プーリ14には受容凹部14Aの内周面から径方向外側に凹み、屈曲側プーリ14の外周面に達する係止孔14Dが設けられている。外輪26には径方向外側に突出し、係止孔14Dに嵌合する係止突部26Aが設けられている。係止孔14Dに係止突部26Aが嵌め合うことによって、屈曲側プーリ14と外輪26とが一体となって軸線Xを中心に回転する。
【0040】
内輪28もまた略円筒状の部材であり、伸展側プーリ16と同軸に配置されて、伸展側プーリ16に連結されている(図3参照)。内輪28の外径は外輪26の内径よりも小さく、内輪28は外輪26の内孔内部に位置している。換言すれば、外輪26はその内部に内輪28を受容する円柱状の受容空間37を画定し、内輪28はその受容空間37に受容されている。
【0041】
図4に示すように、外輪26の内周面26Bには径外方に凹む複数の凹部38が設けられている。凹部38は外輪26の内周面26Bの周方向複数箇所に設けられている。凹部38はそれぞれ同形状をなしている。図5(A)及び図5(B)に示すように、凹部38は周方向一方向(反時計回り。以下、順方向)に向かって内輪28の外周面28Bから離れるように傾斜するカム面39によって画定されている。カム面39と内輪28の外周面28Bとの間には、周方向他方向(時計回り。以下、逆方向)に向かって径方向の幅が狭くなるくさび隙間40が形成されている。
【0042】
ローラ30は円柱状をなしている。ローラ30はそれぞれ外輪26の内周面26B及び内輪28の外周面28Bの間に形成されたくさび隙間40において左右方向に延びるように配置されている。
【0043】
保持器32は円筒状をなしている。保持器32は外輪26の内周面26Bと内輪28の外周面28Bとの間に配置されている。図4に示すように、保持器32は外輪26及び内輪28と同軸をなしている。保持器32には、図5(A)及び図5(B)に示すように、左端端部の凹部38に対応する位置にそれぞれ、軸線方向に凹むポケット32Aが形成されている。保持器32はローラ30を所定のポケット32A内に保持する。
【0044】
くさび隙間40の周方向一方向側(反時計回り側)にはカム面39と内輪28の外周面28Bとが十分離れたローラ逃げ部40Aが設けられている。図5(A)に示すように、ローラ30がローラ逃げ部40Aに収容されると、ローラ30は各軸線を中心として回転自在となり、外輪26と内輪28とが相対回転自在となる。よって、屈曲側プーリ14と伸展側プーリ16とは相対回転自在となる。
【0045】
カム面39の周方向他方向側にはカム面39と内輪28の外周面28Bとが十分近接したローラ噛み込み部40Bが設けられている。図5(B)に示すように、ローラ30がローラ噛み込み部40Bに向かって移動し、カム面39と内輪28の外周面28Bとの間に噛み込まれると、外輪26と内輪28とが連結する。よって、屈曲側プーリ14及び伸展側プーリ16が連結する。
【0046】
センタリングばね34は、図4に示すように、外輪26(すなわち、屈曲側プーリ14)と保持器32とを接続するばねであり、ローラ30がローラ逃げ部40Aに収容されるように付勢する。スイッチングばね36は保持器32及びハウジング12の間に設けられた板バネによって構成され、保持器32に回転に抗する摺動抵抗を加える。本実施形態では、プーリモジュール6に4つのスイッチングばね36が設けられているが、図4にはそのうちの1つのみが図示されている。但し、本発明はスイッチングばね36の数には限定されない。
【0047】
屈曲側プーリ14にセンタリングばね34に抗するように周方向一方向(順方向)に向くトルクが加わり、屈曲側プーリ14が伸展側プーリ16に対して周方向一方向(順方向)に回転すると、外輪26が周方向一方向(順方向)に回転する、このとき、スイッチングばね36によって保持器32の位置が保持されて、ローラ30がローラ噛み込み部40Bに噛み込む。これにより、屈曲側プーリ14が伸展側プーリ16に連結し、屈曲側プーリ14に加わるトルクが伸展側プーリ16に伝達される。
【0048】
屈曲側プーリ14に加わるトルクが解除されると(すなわち、屈曲側プーリ14に所定値以上のトルクが加えられていないとき)、センタリングばね34の付勢力によって、屈曲側プーリ14と保持器32とが相対回転し、ローラ30はローラ逃げ部40Aに戻る。これにより、伸展側プーリ16は屈曲側プーリ14に対して相対回転可能となり、伸展側プーリ16の回転が許容される。
【0049】
屈曲側プーリ14に周方向他方向(逆方向)に向くトルクが加わると、屈曲側プーリ14が伸展側プーリ16に対して周方向他方向(逆方向)に回転する。このとき、スイッチングばね36による摺動抵抗により、保持器32の位置が保持されて、ローラ30がローラ逃げ部40Aに収容され、左右方向を軸線とする回転可能な状態となる。これにより、屈曲側プーリ14が伸展側プーリ16に対して相対回転自在となり、屈曲側プーリ14の周方向他方向(逆方向)回りのトルクの伸展側プーリ16への伝達が防止される。
【0050】
伸展側プーリ16(すなわち、内輪28)に周方向一方向又は周方向他方向のいずれかに向くトルクが加わった場合には、スイッチングばね36によって保持器32の位置が保持され、ローラ30は左右方向を軸線とする回転可能にローラ逃げ部40Aに収容された状態に維持される。そのため、伸展側プーリ16に加わるトルクの屈曲側プーリ14への伝達が防止される。
【0051】
図1に示すように、屈曲ワイヤ7は線状部材によって構成されている。屈曲ワイヤ7(第1ワイヤ)は一端側において、可動リンク3が屈曲方向(負の方向)に変位すると弛み、可動リンク3が伸展方向(正の方向)に変位すると引っ張られるように可動リンク3に連結されている。屈曲ワイヤ7は他端側において、巻き取り及び送り出し可能に屈曲側プーリ14に巻回されて、屈曲側プーリ14に固定されている。
【0052】
伸展ワイヤ8は線状部材によって構成されている。伸展ワイヤ8(第2ワイヤ)は一端側において、可動リンク3が屈曲方向(負の方向)に変位すると引っ張られ、可動リンク3が伸展方向(正の方向)に変位すると弛むように可動リンク3に連結されている。伸展ワイヤ8は他端側において巻き取り及び送り出し可能に伸展側プーリ16に巻回されて、伸展側プーリ16に固定されている。
【0053】
屈曲ワイヤ7の可動リンク3への固定位置P1は、伸展ワイヤ8の可動リンク3への固定位置P2に比べて、可動リンク3の回転軸線Zを中心として周方向に見て屈曲方向の側に位置している。
【0054】
トルク伝達機構20の順方向は屈曲側プーリ14の屈曲ワイヤ7を送り出す方向に設定されている。換言すれば、トルク伝達機構20は屈曲側プーリ14の屈曲ワイヤ7を送り出す方向のトルクを伸展側プーリ16に伝達し、伸展ワイヤ8を巻き取る方向に伸展側プーリ16を回転させる。トルク伝達機構20は屈曲側プーリ14の屈曲ワイヤ7を巻き取る方向のトルクを伸展側プーリ16に伝達せず、また、伸展側プーリ16を回転させる方向のトルクを屈曲側プーリ14に伝達しない。
【0055】
屈曲側プーリ14が屈曲ワイヤ7を巻き取る方向(以下、巻き取り方向)に回転し、屈曲ワイヤ7が引っ張られると、可動リンク3は基体2に対して屈曲方向に回転する。これにより、伸展ワイヤ8もまた、可動リンク3によって引っ張られる。一方、伸展側プーリ16が伸展ワイヤ8を巻き取る方向に回転し、伸展ワイヤ8が引っ張られると、可動リンク3は基体2に対して伸展方向に回転する。これにより、屈曲ワイヤ7もまた、可動リンク3によって引っ張られる。
【0056】
図6に示すように、伸展ワイヤ8には伸展側テンショナ46(弛み取り機構)が設けられている。伸展側テンショナ46は、伸展ワイヤ8を巻き取る方向に伸展側プーリ16を回転付勢する付勢装置であり、伸展ワイヤ8の弛みを除去する。本実施形態では、図3に示すように、伸展側テンショナ46は一端において屈曲側プーリ14に、他端において伸展側プーリ16にそれぞれ掛け止めされたねじりばねによって構成されている。このように、屈曲側プーリ14及び伸展側プーリ16が同軸をなすように配置されているため、伸展側テンショナ46は両者の間に設けられたねじりばねによって簡素に構成することが可能である。伸展側テンショナ46は屈曲側プーリ14と伸展側プーリ16との間に設けられた差動テンショナに相当する。伸展側テンショナ46はそのストロークによらず、伸展ワイヤ8に概ね一定の引き戻し力(張力)を加えるとよい。
【0057】
本実施形態では、可動リンク3が伸展位置にあるときにも、伸展側テンショナ46は伸展側プーリ16を回転させ、伸展ワイヤ8に張力を付与するよい。可動リンク3が伸展位置にあるときにも、伸展側テンショナ46は自然長よりも長く、伸展側プーリ16を巻き取り方向に付勢している。
【0058】
図1に示すように、屈曲ワイヤ7には屈曲側テンショナ48(張力付与機構)が設けられている。屈曲側テンショナ48は屈曲ワイヤ7に弛みが生じたときに、屈曲ワイヤ7が通過すべき部分の形状を変更して、屈曲ワイヤ7に張りを持たせる装置である。
【0059】
本実施形態では、図1に示すように、屈曲ワイヤ7にはケーシング50が設けられている。ケーシング50は2種類のチューブ50A、50Bからなる。チューブ50A、50Bはそれぞれ円筒状をなしている。チューブ50A、50Bは交互に列をなして並ぶように配置されている。屈曲ワイヤ7はそれぞれのチューブ50A、50Bの内部を通過している。屈曲側テンショナ48は筒状をなす部材であり、隣接するチューブ50Aの間に配置されている。屈曲ワイヤ7は屈曲側テンショナ48の内部を通過している。
【0060】
図7に示すように、屈曲側テンショナ48は、有底な円筒状の第1円筒部材48Aと、有底な円筒状の第2円筒部材48Bと、圧縮コイルばね48Cとを備えている。第1円筒部材48Aは開口側から第2円筒部材48Bの内孔に挿入されている。圧縮コイルばね48Cは、第2円筒部材48Bの内部に収容され、第1円筒部材48Aと第2円筒部材48Bとを互いに離反する方向に付勢している。第1円筒部材48A及び第2円筒部材48Bの底壁にはそれぞれ屈曲ワイヤ7を挿通させるための貫通孔が設けられている。屈曲ワイヤ7は第1円筒部材48A、第2円筒部材48B及び圧縮コイルばね48Cの内部を通過している。
【0061】
ケーシング50の可動リンク3側の端部と屈曲側プーリ14の側の端部とはそれぞれ基体2に固定具50Cによって固定されている。図6に示すように、屈曲ワイヤ7に張力が加わっているときには、圧縮コイルばね48Cは可動リンク3側の端部と屈曲側プーリ14の側の端部によって圧縮されている。屈曲ワイヤ7に弛みが生じると、圧縮コイルばね48Cが伸びる。これにより、図8に示すように、屈曲ワイヤ7に張力が加わっているときに比べて、屈曲ワイヤ7が通過すべき部分の長さ(経路長)が長くなるようにケーシング50が屈曲変形し、屈曲ワイヤ7に張りが生じ、張力が付与される。
【0062】
本実施形態では、伸展ワイヤ8もまた一部においてケーシング52に収容されている。
【0063】
次に、このように構成した駆動装置1の動作について説明する。
【0064】
図6には可動リンク3が伸展位置にあるときの模式図が示されている。可動リンク3が伸展位置にあるときに、駆動源5が屈曲側プーリ14を巻き取り方向(時計回り)に回転させると、屈曲側プーリ14に接続された屈曲ワイヤ7が巻き取られ、屈曲ワイヤ7が引っ張られる。これにより、図9に示すように、可動リンク3が図1及び図7に示す屈曲方向(反時計回り)に回転し、屈曲位置となる。このとき、屈曲側プーリ14は駆動源5によって巻き取り方向に回転され、且つ、送り出し方向が順方向に設定されているため、トルク伝達機構20によって屈曲側プーリ14のトルクが伸展側プーリ16に伝達されない。
【0065】
可動リンク3が屈曲方向に回転すると、伸展ワイヤ8は可動リンク3によって引っ張られて、伸展側プーリ16は送り出し方向に(時計回り)に回転する。すなわち、屈曲側プーリ14は駆動源5の駆動力によって能動的に回転するのに対して、伸展側プーリ16は伸展ワイヤ8に引っ張られて、従動的に回転する。このとき、伸展側テンショナ46は、伸展側プーリ16の送り出し方向の回転に抗するように付勢し、伸展ワイヤ8に弛みが発生するのを防止するとともに、伸展ワイヤ8を張った状態に維持する。
【0066】
可動リンク3が屈曲位置にあるときに、駆動源5が屈曲側プーリ14を送り出し方向に回転させると、送り出し方向は順方向に相当するため、トルク伝達機構20を介して駆動源5から屈曲側プーリ14に加えられたトルクが伸展側プーリ16に伝達される。これにより、図10に示すように、伸展側プーリ16は巻き取り方向に回転し、伸展ワイヤ8を巻き取る。これにより、可動リンク3は伸展方向に回転し、図9に示す伸展位置となる。
【0067】
可動リンク3の伸展方向への回転によって、屈曲ワイヤ7の可動リンク3側の端部が可動リンク3の伸展によって引っ張られる。また、屈曲側プーリ14は駆動源5によって送り出し方向に回転しているため、屈曲ワイヤ7が屈曲側プーリ14から可動リンク3側に向けて送り出される。送り出される量が多くなると、屈曲ワイヤ7に弛みが生じる虞がある。
【0068】
屈曲ワイヤ7に弛みが生じると、図11に示すように、屈曲側テンショナ48が伸びて、ケーシング50が変形し、屈曲ワイヤ7の通過すべき経路の長さが長くなる。これにより、屈曲ワイヤ7が張った状態(張力が加わった状態)に維持される。
【0069】
本実施形態では、可動リンク3が伸展位置にあるときに、駆動源5が屈曲側プーリ14を送り出し方向に回転させると、トルク伝達機構20を介して駆動源5から屈曲側プーリ14に加えられたトルクが伸展側プーリ16に伝達される。これにより、図12に示すように、伸展側プーリ16は巻き取り方向に回転し、伸展ワイヤ8を巻き取る。すなわち、屈曲側プーリ14及び伸展側プーリ16は共に駆動源5からの駆動力によって能動的に回転する。これにより、可動リンク3はより伸展方向に回転する。このとき、可動リンク3に瞬時的に加わる荷重等によって、屈曲ワイヤ7に瞬時的な伸長(弾性伸び)が生じた場合には、屈曲側テンショナ48が伸長し、屈曲ワイヤ7が張った状態(張力が加わった状態)に維持される。
【0070】
次に、このように構成した駆動装置1の効果について説明する。
【0071】
屈曲側プーリ14が巻き取り方向に回転した後、屈曲側プーリ14を送り出し方向に回転すると、トルク伝達機構20によって伸展側プーリ16に巻き取り方向に回転するようにトルクが加わる。これにより、伸展ワイヤ8が駆動源5によって発生するトルクによって回転する伸展側プーリ16によって巻き取られる。そのため、付勢力によって伸展ワイヤ8を引っ張って、可動リンク3を伸展位置に戻す場合に比べて、可動リンク3がより迅速かつ的確に伸展位置に戻る。
【0072】
本実施形態では、屈曲ワイヤ7に屈曲側テンショナ48が設けられているため、屈曲ワイヤ7の弾性伸びによる弛みが防止される。これにより、ワイヤ伝達駆動系の伝達剛性を高めることができるため、張力の発振等の不安定性を抑えることができる。
【0073】
駆動源5が停止し、屈曲側プーリ14に巻き取り方向及び送り出し方向のいずれの方向のトルクが加わっていないときには、センタリングばね34の付勢力によって、屈曲側プーリ14と保持器32とが相対回転し、ローラ30はローラ逃げ部40Aに戻る。これにより、伸展側プーリ16は屈曲側プーリ14に対しての相対回転が許容される。
【0074】
このとき、伸展側テンショナ46は伸展ワイヤ8を伸ばすように、伸展側プーリ16を回転付勢している。そのため、伸展ワイヤ8が疲労伸びなどによって塑性変形し、その全長が変化した場合であっても、図13に示すように、伸展側テンショナ46の付勢力によって伸展側プーリ16が回転し、伸展ワイヤ8に生じる弛みを抑えることができる。これにより、ワイヤ伝達駆動系の伝達剛性を高めることができるため、張力の発振等の不安定性を抑えることができ、疲労伸びなどによる制御性の低下を防止することができる。
【0075】
トルク伝達機構20を、屈曲側プーリ14が送り出し方向に回転したときに、伸展側プーリ16と屈曲側プーリ14を連結させるロックタイプのワンウェイクラッチによって構成することも考えられる。この場合には、伸展側プーリ16に巻き取り方向のトルクが加わったときにも、伸展側プーリ16と屈曲側プーリ14とが連結(ロック)される。可動リンク3が屈曲位置から伸展位置に戻るときには、屈曲側テンショナ48の伸長により、屈曲ワイヤ7及び伸展ワイヤ8の塑性伸びや弾性変形による伸長が吸収される。そこで、屈曲側テンショナ48を伸長した状態から元の状態に戻すため、駆動源5により、屈曲側プーリ14を巻き取り方向に回転させ、屈曲ワイヤ7を巻き戻す場合がある。これにより、伸展ワイヤ8が可動リンク3により引っ張られて、過度な張力が加わることがある。
【0076】
そこで、本発明では、駆動源5が停止し、屈曲側プーリ14に巻き取り方向及び送り出し方向のいずれの方向のトルクが加わっていないときには、伸展側プーリ16が屈曲側プーリ14に対して相対回転自在となっている。これにより、伸展側テンショナ46の付勢力によって伸展側プーリ16が回転し、伸展ワイヤ8に過度な張力が加わることが防止できる。また、伸展側プーリ16は、逆向きにも回転自在であるため、弛みが生じることも防止される。よって、伸展ワイヤ8を適度に張った状態(すなわち、適度に張力が付与された状態)に維持することが可能である。
【0077】
<<第2実施形態>>
第2実施形態に係る駆動装置101は、伸展側テンショナ146の構成が第1実施形態と異なり、他の構成は第1実施形態と同様であるため、他の構成については説明を省略する。
【0078】
第2実施形態においても、伸展側テンショナ146は伸展ワイヤ8を巻き取るように伸展側プーリ16を付勢する付勢装置である。但し、伸展側テンショナ146は、図14に示すように、一端において伸展側プーリ16に、他端においてハウジング12に固定された付勢装置(ばね)によって構成されている。
【0079】
このように構成した駆動装置101の効果について説明する。伸展側テンショナ146は第1実施形態と同様に、伸展側プーリ16を伸展ワイヤ8が引っ張られる方向(すなわち、図14の反時計回り)に回転付勢する。そのため、伸展ワイヤ8を適度に張った状態に保つことができる。
【0080】
第2実施形態の駆動装置101は、伸展側テンショナ146を、伸展側プーリ16を伸展ワイヤ8が引っ張る方向に付勢するように簡素に構成することができる。一方、上記第1実施形態では、伸展側テンショナ146は屈曲側プーリ14及び前記伸展側プーリ16の間に設けられ、伸展側プーリ16を屈曲側プーリ14に対して回転付勢する。このように、伸展側テンショナ146の一端をハウジング12や基体2に固定する必要がなく、屈曲側プーリ14と伸展側プーリ16との間に収容することができるため、駆動装置101の小型化を図ることができる。
【0081】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。また、各部材や部位の具体的構成や配置、数量、所定の手順など、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更することができる。一方、上記実施形態に示した各構成要素は必ずしも全てが必須ではなく、適宜選択することができる。
【0082】
上記実施形態に記載したトルク伝達機構20は一例に過ぎない。屈曲側プーリ14から伸展側プーリ16に順方向のトルクのみが伝えられ、屈曲側プーリ14から伸展側プーリ16への逆方向のトルクと、伸展側プーリ16から屈曲側プーリ14へのトルクとの伝達が禁止される態様であれば、トルク伝達機構20はいかなる態様のものであってもよい。
【0083】
上記実施形態の駆動装置1、101は、伸展側テンショナ46、146と屈曲側テンショナ48とを備えていたが、屈曲側テンショナ48は必須ではなく、省略されてもよい。
【0084】
上記実施形態では駆動装置1、101がロボットハンドHに適用された例について記載したが、この態様には限定されない。駆動装置1、101は、基体2と、基体2に直線又は曲線に沿った双方向(正の方向、負の方向)とに変位可能に連結された可動体を駆動させるために用いられてもよい。
【符号の説明】
【0085】
1 :第1実施形態に係る駆動装置
2 :基体
3 :可動リンク(可動体)
5 :駆動源
6 :プーリモジュール
7 :屈曲ワイヤ(第1ワイヤ)
8 :伸展ワイヤ(第2ワイヤ)
14 :屈曲側プーリ(第1プーリ)
16 :伸展側プーリ(第2プーリ)
20 :トルク伝達機構
26 :外輪
26B :内周面
28 :内輪
28B :外周面
30 :ローラ
32 :保持器
37 :受容空間
39 :カム面
40 :くさび隙間
46 :伸展側テンショナ(弛み取り機構)
48 :屈曲側テンショナ(張力付与機構)
101 :第2実施形態に係る駆動装置
146 :伸展側テンショナ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14