(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】インフルエンザウイルス複製の阻害剤の組み合わせ
(51)【国際特許分類】
A61K 31/519 20060101AFI20241028BHJP
A61K 31/5383 20060101ALI20241028BHJP
A61K 31/4965 20060101ALI20241028BHJP
A61K 31/215 20060101ALI20241028BHJP
A61K 31/19 20060101ALI20241028BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20241028BHJP
C07D 519/00 20060101ALN20241028BHJP
【FI】
A61K31/519
A61K31/5383
A61K31/4965
A61K31/215
A61K31/19
A61P31/16
C07D519/00 301
(21)【出願番号】P 2021521129
(86)(22)【出願日】2019-10-17
(86)【国際出願番号】 US2019056632
(87)【国際公開番号】W WO2020081751
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2022-10-13
(32)【優先日】2018-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517333222
【氏名又は名称】コクリスタル ファーマ,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】COCRYSTAL PHARMA,INC.
【住所又は居所原語表記】19805 North Creek Parkway,Bothell,WA 98011 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】ジェイコブソン,イリーナ,シー.
(72)【発明者】
【氏名】リン,ビイン,ユアン
(72)【発明者】
【氏名】リー,サム,エスケー
【審査官】新留 素子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/200425(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/104691(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
C07D 519/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3-(2-(5-クロロ-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-イル)-5-フルオロ-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-7-イル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物と、バロキサビル、バロキサビルマルボキシル、オセルタミビル、オセルタミビル酸およびファビピラビル、ならびにそれらの薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物からなる群から選択される第2の抗ウイルス剤とを含む、
インフルエンザウイルスの感染または複製の治療または予防に使用するための組み合わせ医薬。
【請求項2】
前記第2の抗ウイルス剤が、ノイラミニダーゼ阻害剤、ポリメラーゼ阻害剤またはエンドヌクレアーゼ阻害剤である、請求項1に記載の組み合わせ医薬。
【請求項3】
前記第2の抗ウイルス剤が、オセルタミビルおよびオセルタミビル酸、ならびにそれらの薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物から選択されるノイラミニダーゼ阻害剤である、請求項1に記載の組み合わせ医薬。
【請求項4】
前記第2の抗ウイルス剤が、バロキサビルマルボキシルおよびバロキサビル、ならびにそれらの薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物から選択されるエンドヌクレアーゼ阻害剤である、請求項1に記載の組み合わせ医薬。
【請求項5】
前記第2の抗ウイルス剤が、ファビピラビルおよびその薬学的に許容される塩または溶媒和物から選択されるポリメラーゼ阻害剤である、請求項1に記載の組み合わせ医薬。
【請求項6】
前記第2の抗ウイルス剤が、インフルエンザワクチンをさらに含む、請求項1に記載の組み合わせ医薬。
【請求項7】
前記3-(2-(5-クロロ-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-イル)-5-フルオロ-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-7-イル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物と、前記第2の抗ウイルス剤とが、共製剤化されている、請求項
1に記載の組み合わせ医薬。
【請求項8】
前記3-(2-(5-クロロ-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-イル)-5-フルオロ-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-7-イル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物と、前記第2の抗ウイルス剤とが、別々の製剤に含まれている、請求項
1に記載の組み合わせ医薬。
【請求項9】
前記インフルエンザウイルスが、パンデミックインフルエンザウイルスまたは薬剤耐性のパンデミック/季節性インフルエンザウイルスである、請求項
1~
8のいずれか1項に記載の組み合わせ医薬。
【請求項10】
宿主におけるA型インフルエンザまたはB型インフルエンザの感染の治療または予防に使用するための、請求項1~6のいずれか1項に記載の組み合わせ医薬。
【請求項11】
前記治療が、治療有効量の第3の抗ウイルス剤をさらに含む、請求項
10に記載の組み合わせ医薬。
【請求項12】
a)3-(2-(5-クロロ-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-イル)-5-フルオロ-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-7-イル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物、b)バロキサビル、バロキサビルマルボキシル、またはそれらの薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物、およびc)ノイラミニダーゼ阻害剤を含む、
インフルエンザウイルスの感染または複製の治療または予防に使用するための組み合わせ医薬。
【請求項13】
前記ノイラミニダーゼ阻害剤が、オセルタミビル、オセルタミビル酸、ザナミビル、ラニナミビル、ペラミビル、またはそれらの薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物である、請求項
12に記載の組み合わせ医薬。
【請求項14】
宿主におけるA型インフルエンザまたはB型インフルエンザの感染の治療または予防に使用するための、請求項
12または1
3に記載の組み合わせ医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に、インフルエンザウイルス複製の阻害剤の組み合わせ、およびその組み合わせをその処置の必要のある患者に投与することによるインフルエンザ感染または複製の処置または予防方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザは季節的流行で世界中に広がり、その結果、毎年数十万人、パンデミックの年には数百万人が死亡する。例えば、20世紀には3つのインフルエンザパンデミックが発生し、数千万人が死亡し、これらのパンデミックはそれぞれ、ヒトでの新しいウイルス株の出現によって引き起こされている。しばしば、これらの新しい株は、既存のインフルエンザウイルスが他の動物種からヒトに広がったことに起因する。
【0003】
インフルエンザは主に、感染者が咳またはくしゃみをしたときに生じる大きなウイルスを含んだ液滴を介して人から人へと伝染される。次いで、これらの大きな液滴は、感染者の近くの(例えば、約6フィート以内の)感染を受けやすい個人の上気道粘膜表面に定着することができる。伝染は、インフルエンザウイルスで汚染された表面に触れ、次いで目、鼻、または口に触れるなど、気道分泌物との直接的な接触または間接的な接触によっても発生し得る。成人は、症状が出る1日前から症状が始まってから約5日後までにインフルエンザを他人に広めることが可能となり得る。小児および免疫系が弱っている人は、症状の発症後10日以上感染し得る。
【0004】
インフルエンザウイルスは、A型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、C型インフルエンザウイルス、イサウイルス、およびトゴトウイルスの5つの属を含む、オルトミクソウイルス科(Orthomyxoviridae)のRNAウイルスである。
【0005】
A型インフルエンザウイルス属は、季節性インフルエンザおよびパンデミックなインフルエンザ流行の原因である。A型インフルエンザウイルス属は、A型インフルエンザウイルスという1つの種を有しており、野生の水鳥は非常に様々なA型インフルエンザの自然宿主である。時には、ウイルスは他の種に伝染し、次いで家禽において壊滅的発生を引き起こし得、またはヒトインフルエンザパンデミックを引き起こし得る。A型ウイルスは、3つのインフルエンザ型の中で最も伝染性の高いヒト病原体であり、最も重篤な疾患を引き起こす。A型インフルエンザウイルスは、これらのウイルスに対する抗体応答に基づいて様々な血清型に細分化されることができる。既知のヒトパンデミック死者数によって順番が付けられたヒトで確認されている血清型は、H1N1(1918年にスペイン風邪(Spanish influenza)を引き起こした)、H2N2(1957年にアジア風邪(Asian Influenza)を引き起こした)、H3N2(1968年に香港風邪(Hong Kong Flu)を引き起こした)、H5N1(2007~2008年のインフルエンザ流行期におけるパンデミックの脅威)、H7N7(潜在的なパンデミックの脅威)、H1N2(ヒトおよびブタにおける風土病)、H9N2、H7N2、H7N3ならびにH10N7である。
【0006】
B型インフルエンザウイルス属は、季節性インフルエンザの原因であり、B型インフルエンザウイルスという1つの種を有する。B型インフルエンザはほぼ例外なくヒトに感染し、A型インフルエンザよりも一般的ではない。B型インフルエンザ感染を受けやすいことが既知である他の動物はアザラシのみである。この型のインフルエンザは、A型より2~3倍遅い速度で変異し、その結果、遺伝的な多様性が低く、B型インフルエンザ血清型は1つだけである。抗原多様性の欠如のために、B型インフルエンザに対するある程度の免疫は、通常、幼時期に獲得される。しかしながら、B型インフルエンザは、持続的な免疫が不可能になるほど十分に変異する。その宿主範囲が限定されていること(これは種間抗原シフトを妨げる)と組み合わせて、この低い抗原変化率により、B型インフルエンザのパンデミックが発生しないことが確保される。
【0007】
C型インフルエンザウイルス属は、C型インフルエンザウイルスという1つの種を有し、これはヒトおよびブタに感染し、重篤な病気および局所的な流行を引き起こし得る。しかしながら、C型インフルエンザは他の型よりも一般的ではなく、通常、小児において軽度の疾患を引き起こすものと思われる。
【0008】
インフルエンザウイルスは、血清型および属にわたって構造が非常に類似している。インフルエンザウイルスゲノムは、リボ核タンパク質複合体(RNP)として既知である、様々なサイズの棒状構造にパッケージングされた8つの一本鎖RNAからなる。各RNPは、固有のウイルスRNA、足場核タンパク質の複数コピー、ならびにウイルスゲノムの転写および複製を触媒するPA、PB1、およびPB2サブユニットからなるヘテロ三量体ウイルスポリメラーゼを含む。インフルエンザポリメラーゼ複合体の最近の生化学的および構造的研究は、インフルエンザポリメラーゼによるキャップスナッチング(cap-snatching)およびRNA合成の機構の理解についての洞察を提供している。簡単に述べると、PB2キャップ結合ドメインは、最初に、5’キャップに結合することによって宿主のプレ-mRNAを隔離する。次いで、エンドヌクレアーゼサブユニットであるPAが、キャップ下流にある捕捉されたプレ-mRNAの10~13個のヌクレオチドを切断する。その後、PB2サブユニットは約700回廻旋し(rotate)、キャップされたプライマーをPB1ポリメラーゼ活性部位へと方向付ける。PB1サブユニットは、PB2およびPAサブユニットの両方と直接相互作用する。これらのサブユニットは、異なるインフルエンザ株間で高度に保存されたドメインを含み、魅力的な抗インフルエンザ薬標的として注目されている。ポリメラーゼ複合体に加えて、インフルエンザゲノムは、その独自のノイラミニダーゼ(NA)、ヘマグルチニン(HA)、核タンパク質(NP)、マトリックスタンパク質M1およびM2、ならびに非構造タンパク質NS1およびNS2をコードする。NAは、抗ウイルス薬であるオセルタミビル(タミフル(登録商標))、ラニナミビル(イナビル(登録商標))、ペラミビル、およびザナミビル(リレンザ(登録商標))の標的である。これらの薬物は、NAの酵素活性を阻害し、したがって感染細胞からの子孫ウイルスの放出を遅延させる。
【0009】
インフルエンザにより、生産性の低下およびそれに伴う医学的処置に起因する直接的な費用、ならびに予防手段の間接的な費用が生じる。米国では、インフルエンザは年間100億ドル超の総費用の原因となっているが、将来のパンデミックにより直接および間接的な費用が数千億ドルになり得ると推定されている。予防の費用も高い。世界中の政府は、潜在的なH5N1鳥インフルエンザパンデミックについての準備および計画に数十億ドルを費やしており、薬およびワクチンの購入、ならびに災害訓練および国境管理の改善のための戦略の進展に関連する費用を伴う。
【0010】
インフルエンザについての現在の処置の選択肢には、ワクチン接種、および抗ウイルス医薬による化学療法または化学予防が含まれる。インフルエンザワクチンを用いたインフルエンザに対するワクチン接種はしばしば、小児および高齢者などのリスクの高い群、または喘息、糖尿病、もしくは心臓疾患を有する人に対して推奨される。しかしながら、ワクチン接種を受けてもまだインフルエンザに感染する可能性がある。ワクチンは、いくつかの特定のインフルエンザ株について各流行期に再び製剤化されるが、その流行期において世界中の人々に活発に感染しているすべての株を含めることはできない。季節的流行に対処するために必要となる数百万の用量を製剤化および製造するのに、製造業者が約6ヶ月かかる。時には、新しいまたは見過ごされていた株がその期間中に顕著になり、ワクチン接種を受けたにもかかわらず人々に感染する(2003~2004年のインフルエンザ流行期におけるH3N2福建省インフルエンザによるものなど)。ワクチンは効果が発揮されるまでに約2週間かかるので、ワクチン接種の直前に感染し、ワクチンによって予防されるはずのまさにその株によって病気になる可能性もある。
【0011】
さらに、これらのインフルエンザワクチンの有効性は変動的である。ウイルスの変異率が高いために、特定のインフルエンザワクチンによっては、通常、数年しか防御されない。インフルエンザウイルスは時間とともに急速に変化し、異なる株が優勢になるので、ある年について製剤化されたワクチンは翌年には有効ではなくなり得る。
【0012】
RNA校正酵素が存在しないために、インフルエンザvRNAのRNA依存RNAポリメラーゼは、インフルエンザvRNAのおおよその長さである約1万個のヌクレオチドごとに1つのヌクレオチド挿入エラーを生じる。したがって、新しく作り出されるすべてのインフルエンザウイルスは、変異抗原ドリフト(mutant-antigenic drift)である。ゲノムをvRNAの8つの別々のセグメントに分離することにより、2つ以上のウイルス系統が単一の細胞に感染した場合にはvRNAを混合または再分類することが可能となる。結果として生じるウイルス遺伝の急速な変化により、抗原シフトが生じ、ウイルスが新しい宿主種に感染し、防御免疫を迅速に克服することが可能となる。
【0013】
抗ウイルス薬はインフルエンザの処置にも使用でき、NA阻害剤が特に有効であるが、ウイルスは承認されたNA抗ウイルス薬に対する耐性を発現し得る。多剤耐性パンデミックA型インフルエンザウイルスが出現することも十分に実証されている。薬剤耐性パンデミックA型インフルエンザは、公衆衛生上の大きな脅威になる。薬剤耐性A型インフルエンザウイルスに加えて、NA阻害剤は、早期の(インフルエンザ症状発症から48時間以内の)インフルエンザ感染の処置用に承認されている。
【0014】
したがって、処置枠の拡大および/またはウイルス力価に対する感受性の減少を伴う薬物など、インフルエンザ感染を処置するための薬物が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0015】
本開示は、一般に、インフルエンザを処置する方法、インフルエンザウイルスの複製を阻害する方法、インフルエンザウイルスの量を減少させる方法、ならびにそのような方法に使用し得る化合物および組成物に関する。
【0016】
本明細書で提供されるのは、必要とする対象におけるインフルエンザ感染または複製を処置または予防する方法であって、治療有効量の(1)3-(2-(5-クロロ-1H-ピロロ[2,3-b]]ピリジン-3-イル)-5-フルオロ-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-7-イル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物、および(2)バロキサビルマルボキシル、バロキサビル、ノイラミニダーゼ阻害剤、およびファビピラビル、またはそれらの薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物からなる群から選択される第2のインフルエンザ治療剤を、それを必要とする対象に投与することを含む、方法である。
【0017】
さらに、本開示は、(1)3-(2-(5-クロロ-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-イル)-5-フルオロ-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-7-イル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物、および(2)バロキサビルもしくはバロキサビルマルボキシル、またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物;(3)オセルタミビル、オセルタミビル酸、ザナミビル、ラニナミビル、ペラミビル、またはそれらの薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物などのノイラミニダーゼ阻害剤を含む組み合わせを提供する。
【0018】
安全かつ有効な量の本明細書に開示される組み合わせを、生体試料または患者に投与する方法がさらに提供される。
【0019】
安全かつ有効な量の本明細書に開示される組み合わせを、生体試料または患者に投与することによって、生体試料または患者におけるインフルエンザウイルスの量を減少させる方法も本明細書に提供される。
【0020】
本明細書に開示される安全かつ有効な量の組み合わせを患者に投与することを含む、患者におけるA型インフルエンザまたはB型インフルエンザ感染を処置または予防する方法がさらに提供される。
【0021】
生体試料もしくは患者におけるインフルエンザウイルスの複製を阻害または減少させるための、生体試料もしくは患者におけるインフルエンザウイルスの量を減少させるための、または患者におけるインフルエンザを処置するための本明細書に記載の組み合わせの使用も提供される。
【0022】
患者におけるインフルエンザを処置するための、生体試料もしくは患者におけるインフルエンザウイルスの量を減少させるための、または生体試料もしくは患者におけるインフルエンザウイルスの複製を阻害するための医薬の製造のための、本明細書に記載の組み合わせの使用も本明細書でさらに提供される。
【0023】
本明細書に開示される組み合わせは、共製剤化することができるか、または対象、患者、もしくは宿主に別々に投与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】MDCK細胞におけるインフルエンザウイルスA/PR/8/34(H1N1)の複製のアッセイにおける化合物1とバロキサビルの組み合わせの効果を示すMacSynergy(商標)IIグラフである。相乗性/拮抗性は、95%の信頼区間と比較して示される。全体を通して、化合物1は3-(2-(5-クロロ-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-イル)-5-フルオロ-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-7-イル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸を指す。
【
図2】MDCK細胞におけるインフルエンザウイルスA/PR/8/34(H1N1)の複製アッセイにおける化合物1とオセルタミビル酸の組み合わせの効果を示すMacSynergy(商標)IIグラフである。相乗性/拮抗性は、95%の信頼区間と比較して示される。
【
図3】MDCK細胞におけるインフルエンザウイルスA/PR/8/34(H1N1)の複製のアッセイにおける化合物1とファビピラビルの組み合わせの効果を示すMacSynergy(商標)IIグラフ。相乗性/拮抗性は、95%の信頼区間と比較して示される。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明細書に開示されるのは、インフルエンザウイルス活性を阻害する際の抗インフルエンザ化合物(抗ウイルス剤)の組み合わせ、およびこれらの組み合わせの使用である。いくつかの態様において、本開示は全般に、生体試料または患者におけるインフルエンザウイルスの複製を阻害するため、生体試料または患者におけるインフルエンザウイルスの量を減少させる(ウイルス力価を減少させる)ため、および患者におけるインフルエンザを処置または予防するための、本明細書に記載の組み合わせの使用に関する。本明細書に開示される組み合わせは、共製剤化することができるか、または対象、患者、もしくは宿主に別々に投与することができる。
【0026】
組み合わせは、とりわけ、あるいは本明細書では「化合物1」と呼ばれる、3-(2-(5-クロロ-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-イル)-5-フルオロ-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-7-イル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を、有効成分として含む。この化合物は、CAP結合PB2ドメイン阻害剤であると考えられる。
【0027】
様々な実施形態において、化合物1は、インフルエンザに対する、例えば、インフルエンザウイルス複製または感染に対する予防薬または治療薬としての第2の抗ウイルス剤と組み合わせて使用される。インフルエンザは、パンデミックまたは薬剤耐性のパンデミック/季節性インフルエンザウイルスであることができる。いくつかの場合において、インフルエンザはA型インフルエンザまたはB型インフルエンザである。第2の抗ウイルス剤は、ポリメラーゼ阻害剤、エンドヌクレアーゼ阻害剤、もしくはノイラミニダーゼ阻害剤、またはインフルエンザワクチンであることができる。化合物1および第2の抗ウイルス剤の投与のタイミングに関するさらなる議論は、以下に提供される。
【0028】
いくつかの態様において、3-(2-(5-クロロ-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-イル)-5-フルオロ-7H-ピロロ[2,3-d]]ピリミジン-7-イル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物および第2の抗ウイルス剤を含む組み合わせが提供され、いくつかの場合において、第2の抗ウイルス剤は、バロキサビル、バロキサビルマルボキシル、ノイラミニダーゼ阻害剤、およびファビピラビル、またはそれらの薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物からなる群から選択される。
【0029】
別々に投与される場合、化合物1および第2の抗ウイルス剤の投与は、同時であるか(例えば、互いに約5~10分以内に)、または1時間以上(例えば、1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間、24時間、26時間、48時間、もしくは72時間)分けられることができる。いくつかの場合において、化合物1を第2の抗ウイルス剤の前に投与することができる。他のいくつかの場合において、化合物1は、第2の抗ウイルス剤の後に投与することができる。化合物1および第2の抗ウイルス剤の投与のタイミングに関するさらなる議論は、以下に提供される。
【0030】
他の態様において、a)治療有効量の3-(2-(5-クロロ-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-イル)-5-フルオロ-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-7-イル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物、およびb)治療有効量の第2の抗ウイルス剤を含む組み合わせが提供され、いくつかの場合において、第2の抗ウイルス剤は、バロキサビル、バロキサビルマルボキシル、ノイラミニダーゼ阻害剤、およびファビピラビルからなる群、またはそれらの薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物から選択される。
【0031】
他の態様において、ヒト患者におけるインフルエンザウイルス感染または複製の処置または予防のために、本明細書に開示される治療有効量の組み合わせの使用が提供される。例えば、インフルエンザウイルスは、パンデミックまたは薬剤耐性のパンデミック/季節性インフルエンザウイルスであることができる。いくつかの場合において、インフルエンザウイルスはA型インフルエンザまたはB型インフルエンザであることができる。その他のインフルエンザウイルスについては、以下で説明する。
【0032】
他の態様において、3-(2-(5-クロロ-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-イル)-5-フルオロ-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-7-イル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を、第2の抗ウイルス剤と組み合わせた使用が提供され、いくつかの場合において、第2の抗ウイルス剤は、インフルエンザウイルス感染または複製の処置または予防のための医薬の製造において、バロキサビル、バロキサビルマルボキシル、ノイラミニダーゼ阻害剤、およびファビプラビル、またはそれらの薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物からなる群から選択される。
【0033】
他の態様において、3-(2-(5-クロロ-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-イル)-5-フルオロ-7H-ピロロ[2,3-d]ピリジン-7-イル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物の、第2の抗ウイルス剤と組み合わせた使用が提供され、いくつかの場合において、第2の抗ウイルス剤は、インフルエンザウイルス感染もしくは複製を阻害するための、バロキサビル、バロキサビルマルボキシル、ノイラミニダーゼ阻害剤、およびファビピラビル、または薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物からなる群から選択される。
【0034】
他の態様において、インフルエンザウイルス感染または複製の処置または予防のための方法であって、a)治療有効量の3-(2-(5-クロロ-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-イル)-5-フルオロ-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-7-イル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物、およびb)いくつかの場合において、バロキサビル、バロキサビルマルボキシル、ノイラミニダーゼ阻害剤、およびファビプラビル、またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物からなる群から選択される、治療有効量の第2の抗ウイルス剤の組み合わせを、インフルエンザウイルス感染を有するまたはそのリスクのあるヒト患者に投与することを含む、方法が提供される。
【0035】
他の態様において、インフルエンザウイルス感染または複製を処置または予防するための方法であって、3-(2-(5-クロロ-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-イル)-5-フルオロ-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-7-イル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を、約10~1,000mg/kgの用量で、ならびにいくつかの場合において、バロキサビル、バロキサビルマルボキシル、ノイラミニダーゼ阻害剤、およびファビピラビル、またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物からなる群から選択される、治療有効量の第2の抗ウイルス剤を、インフルエンザ感染を有するまたはそのリスクのあるヒト患者に投与することを含む、方法が提供される。
【0036】
他の態様において、患者におけるインフルエンザウイルス感染または複製の処置または予防のための医薬組成物であって、3-(2-(5-クロロ-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-イル))-5-フルオロ-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-7-イル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物を有効成分として含む組成物が提供され、組成物は、第2の抗ウイルス剤と組み合わせて投与され、いくつかの場合において、第2の抗ウイルス剤は、バロキサビル、バロキサビルマルボキシル、ノイラミニダーゼ阻害剤、およびファビプラビル、またはそれらの薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物からなる群から選択される。
【0037】
他の態様において、A型インフルエンザまたはBウイルスにおけるインフルエンザポリメラーゼのエンドヌクレアーゼ活性を阻害する方法であって、ウイルスを、本明細書に開示される化合物1および第2の抗ウイルス剤の組み合わせと接触させることを含む方法が提供される。
【0038】
他の態様において、宿主におけるA型インフルエンザまたはB型インフルエンザ感染を処置または予防するための方法であって、本明細書に開示される化合物1および第2の抗ウイルス剤の組み合わせの治療量を、宿主に投与することを含む方法が提供される。
【0039】
他の態様において、宿主におけるA型インフルエンザまたはBウイルスにおけるインフルエンザポリメラーゼのエンドヌクレアーゼ活性を減少させるための方法であって、本明細書に開示される化合物1および第2の抗ウイルス剤の組み合わせの治療量を、宿主に投与することを含む方法が提供される。
【0040】
他の態様において、本明細書に開示される化合物1および第2の抗ウイルス剤の組み合わせの治療量を、宿主に投与することを含む、宿主におけるインフルエンザウイルス複製を減少させるための方法が提供される。
【0041】
いくつかの実施形態において、開示される化合物1および第2の抗ウイルス剤の組み合わせの使用方法であって、インフルエンザウイルスを、治療有効量の第3の抗ウイルス剤に接触させるか、または治療有効量の第3の抗ウイルス剤を、宿主に投与することをさらに含む方法が提供される。例えば、いくつかの実施形態において、方法は、組み合わせの前、後、または同時にインフルエンザワクチンを宿主に投与することをさらに含むことができる。いくつかの場合において、開示された方法は、化合物1および別の抗ウイルス剤なしでインフルエンザワクチンを投与することを含む(すなわち、ワクチンは第2の抗ウイルス剤である)。いくつかの場合において、化合物1はインフルエンザワクチンと同時に投与される。いくつかの場合において、化合物1はインフルエンザワクチンと共製剤化される。
【0042】
他の態様において、A型インフルエンザまたはB型インフルエンザウイルス感染の処置における、本明細書に開示される化合物1および第2の抗ウイルス剤の組み合わせの使用が提供される。
【0043】
他の態様において、A型インフルエンザまたはB型インフルエンザウイルス感染の処置のための医薬の製造における、本明細書に開示される化合物1および第2の抗ウイルス剤の組み合わせの使用が提供される。
【0044】
他の態様において、a)3-(2-(5-クロロ-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-イル)-5-フルオロ-7H-ピロロ[2,3]-d]ピリミジン-7-イル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物、b)バロキサビル、バロキサビルマルボキシル、またはそれらの薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物、およびc)aノイラミニダーゼ阻害剤を含む組み合わせが提供される。
【0045】
本明細書に開示される方法で使用するためのノイラミニダーゼ阻害剤は、オセルタミビル、オセルタミビル酸、ザナミビル(Relenza(登録商標))、ラニナミビル(Inavir(登録商標))、もしくはペラミビル、またはそれらの薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物であることができる。エンドヌクレアーゼ阻害剤は、本明細書に開示される方法で使用することができ、いくつかの場合において、エンドヌクレアーゼ阻害剤は「PA」阻害剤と呼ばれる。様々な実施形態において、エンドヌクレアーゼ阻害剤は、バロキサビルもしくはバロキサビルマルボキシル、またはそれらの薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物であり得る。ポリメラーゼ阻害剤は、本明細書に開示される方法で使用することができ、いくつかの場合において、ポリメラーゼ阻害剤は、「PB1」阻害剤と呼ばれる。様々な実施形態において、ポリメラーゼ阻害剤は、ファビピラビル、またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物であることができる。インフルエンザワクチンは、本明細書に開示される方法で使用することができる。
【0046】
本明細書に開示される態様の様々な実施形態において、第2の抗ウイルス剤は、バロキサビル、バロキサビルマルボキシル、またはそれらの薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物である。本明細書に開示される態様の他の実施形態において、第2の抗ウイルス剤は、ノイラミニダーゼ阻害剤(例えば、より具体的には、オセルタミビル、オセルタミビル酸、またはそれらの薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物)である。本明細書に開示される態様の他の実施形態において、第2の抗ウイルス剤は、ファビピラビル、またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物である。
【0047】
使用方法
本明細書に記載の組み合わせは、生体試料(例えば、感染細胞培養物)またはヒト(例えば、患者の肺ウイルス力価)におけるウイルス力価を減少させるために使用することができる。
【0048】
本明細書で使用される「インフルエンザウイルス媒介状態」、「インフルエンザ感染」、または「インフルエンザ」という用語は、インフルエンザウイルスによる感染によって引き起こされる疾患を意味するために交換可能に使用される。
【0049】
インフルエンザは、インフルエンザウイルスによって引き起こされる鳥類および哺乳類に罹患する感染である。インフルエンザウイルスは、A型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルス、C型インフルエンザウイルス、イサウイルス、およびトゴトウイルスの5つの属を含む、オルトミクソウイルス科(Orthomyxoviridae)のRNAウイルスである。A型インフルエンザウイルス属は、A型インフルエンザウイルスという1つの種を有し、これは、これらのウイルスに対する抗体応答に基づいて、異なる血清型:H1N1、H2N2、H3N2、H5N1、H7N7、H1N2、H9N2、H7N2、H7N3H7N9、およびH10N7に分類し得る。B型インフルエンザウイルス属は、B型インフルエンザウイルスという1つの種を有する。B型インフルエンザは、ほぼ例外なくヒトに感染し、A型インフルエンザよりも一般的ではない。C型インフルエンザウイルス属は、C型インフルエンザウイルスウイルス(influenza virus C virus)という1つの種を有し、これはヒトおよびブタに感染し、重篤な病気および局所的流行を引き起こし得る。しかしながら、C型インフルエンザは他の型よりも一般的ではなく、通常、小児において軽度の疾患を引き起こすものと思われる。
【0050】
いくつかの実施形態において、インフルエンザまたはインフルエンザウイルスは、A型またはB型インフルエンザウイルスに関連している。いくつかの実施形態において、インフルエンザまたはインフルエンザウイルスは、A型インフルエンザウイルスに関連している。いくつかの特定の実施形態において、A型インフルエンザウイルスは、H1N1、H2N2、H3N2、H7N9、またはH5N1である。いくつかの実施形態において、開示された組み合わせは、パンデミックまたは薬剤耐性のパンデミック/季節性インフルエンザウイルスの増殖または複製を阻害するのに有効である。
【0051】
ヒトでは、インフルエンザの一般的な症状は、悪寒、発熱、咽頭炎、筋肉痛、激しい頭痛、咳、衰弱、一般的な不快感である。より深刻な場合では、インフルエンザは肺炎を引き起こし、これは特に小児および高齢者では致命的となり得る。インフルエンザはしばしば風邪と混同されるが、インフルエンザははるかに重篤な疾患であり、異なる型のウイルスによって引き起こされる。インフルエンザは、特に子供において悪心および嘔吐を生じさせ得るが、これらの症状は、「胃のインフルエンザ(stomach flu)」または「24時間インフルエンザ」と呼ばれることもある関連のない胃腸炎により特徴的である。
【0052】
インフルエンザの症状は、感染後1~2日で非常に突然に発生することができる。通常、最初の症状は悪寒または肌寒い感覚であるが、発熱も感染初期には一般的であり、体温は38~39℃(約100~103°F)の範囲である。多くの人々は非常に具合が悪くなるので、体全体に痛みおよび疼痛を伴って数日間寝たきりになり、これにより背中および脚が悪化する。インフルエンザの症状には、体の痛み、特に関節および喉、極度の寒さおよび発熱、疲労感、頭痛、炎症を起こした目、赤くなった目、皮膚(特に顔)、口、喉および鼻、腹痛(B型インフルエンザを有する子供で)が含まれ得る。インフルエンザの症状は非特異的であり、多くの病原体と重複する(「インフルエンザ様疾患)。通常、診断を確認するには実験室のデータ(laboratory data)が必要である。
【0053】
「疾患」、「障害」、および「状態」という用語は、ここでは交換可能に使用され得、インフルエンザウイルス媒介性の医学的または病的状態を指す。
【0054】
「対象」、「宿主」および「患者」という用語は交換可能に使用される。「対象」、「宿主」および「患者」という用語は、動物(例えば、ニワトリ、ウズラ、もしくはシチメンチョウなどの鳥類、もしくは哺乳類)、具体的には、非霊長類(例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ウサギ、モルモット、ラット、ネコ、イヌ、もしくはマウス)、または霊長類(例えば、サル、チンパンジー、もしくはヒト)などの哺乳類、より具体的にはヒトを指し得る。いくつかの実施形態において、対象は、家畜(例えば、ウマ、ウシ、ブタ、もしくはヒツジ)またはペット(例えば、イヌ、ネコ、モルモット、もしくはウサギ)などの非ヒト動物である。好ましい実施形態において、対象は「ヒト」である。
【0055】
本明細書で使用される「生体試料」という用語には、限定されないが、細胞培養物またはその抽出物;哺乳類またはその抽出物から得られた生検材料;血液、唾液、尿、糞便、精液、涙、または他の体液もしくはその抽出物が含まれる。
【0056】
本明細書で使用される場合、「インフルエンザウイルスの複製の阻害」という用語には、ウイルス複製量の減少(例えば、少なくとも10%の減少)および最大でウイルス複製の完全な停止(すなわち、ウイルスの複製量の100%の減少)(それを含む)の両方が含まれる。いくつかの実施形態において、インフルエンザウイルスの複製は、少なくとも50%、少なくとも65%、少なくとも75%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%阻害される。
【0057】
インフルエンザウイルスの複製は、当該技術分野で既知の任意の好適な方法によって測定されることができる。例えば、生体試料(例えば、感染細胞培養物)またはヒト(例えば、患者における肺のウイルス力価)におけるインフルエンザウイルス力価が測定されることができる。より具体的には、細胞ベースのアッセイについて、それぞれの場合で、細胞をインビトロで培養し、試験薬剤の存在下または非存在下でウイルスを培養物に添加し、好適な長さの時間後にウイルス依存性評価項目を評価する。典型的なアッセイでは、Madin-Darbyイヌ腎細胞(MDCK)および標準的な組織培養物に適合したインフルエンザ株A/Puerto Rico/8/34が使用されることができる。本開示で使用されることができる第1のタイプの細胞アッセイは、細胞変性効果(CPE)と呼ばれるプロセスである、感染標的細胞の死に依存し、ウイルス感染は、細胞供給源の枯渇および最終的な細胞溶解を引き起こす。第1のタイプの細胞アッセイでは、マイクロタイタープレートのウェル中の低い割合(通常1/10~1/1000)の細胞が感染し、ウイルスは48~72時間にわたって数回の複製を行うことが可能となり、次いで、細胞死の量は、感染していない対象と比較した細胞ATP含有量の減少を用いて測定される。本開示で使用されることができる第2のタイプの細胞アッセイは、感染細胞におけるウイルス特異的RNA分子の増殖に依存し、RNAレベルは、分枝鎖DNAハイブリダイゼーション法(bDNA)を使用して直接測定される。第2のタイプの細胞アッセイでは、最初に少数の細胞をマイクロタイタープレートのウェル中で感染させ、ウイルスを感染細胞中で複製し、さらに細胞の追加のラウンドに広げ、次いで細胞を溶解し、ウイルスRNA含有量を測定する。このアッセイは、早期に、通常は18~36時間後に停止するが、すべての標的細胞はいまだ生存している。ウイルスRNAは、アッセイプレートのウェルに固定された特定のオリゴヌクレオチドプローブへのハイブリダイゼーション、次いで、レポーター酵素に結合された追加のプローブとのハイブリダイゼーションによるシグナルの増幅によって定量化される。
【0058】
本明細書で使用される場合、「ウイルス力価」または「力価」は、ウイルス濃度の尺度である。力価試験は、連続希釈を使用して、本質的に正または負としてのみ評価される分析手順からおおよその定量情報を取得し得る。力価は、なおも正の読み取り値をもたらす最高希釈係数に対応する。例えば、最初の8つの連続2倍希釈での正の読み取り値は1:256の力価に変換される。具体例は、ウイルス力価である。力価を決定するために、いくつかの希釈物は10-1、10-2、10-3、・・・、10-8のように調製されるであろう。なおも細胞に感染するウイルスの最低濃度がウイルス力価である。
【0059】
本明細書で使用される場合、「処置する(treat)」、「処置(treatment)」、および「処置する(treating)」という用語は、治療的(therapeutic)処置および予防的処置の両方を指す。例えば、治療的処置には、1つ以上の療法(例えば、本明細書に記載の化合物または組成物などの1つ以上の治療剤)の投与によって生じる、インフルエンザウイルスが媒介する状態の進行、重症度、および/もしくは持続期間の減少もしくは改善、またはインフルエンザウイルスが媒介する状態の1つ以上の症状(具体的には、1つ以上の認識可能な症状)の改善が含まれる。特定の実施形態において、治療的処置には、インフルエンザウイルスが媒介する状態の少なくとも1つの測定可能な物理的パラメーターの改善が含まれる。他の実施形態において、治療的処置には、例えば、認識可能な症状の安定化によって物理的に、例えば物理的パラメーターの安定化によって生理学的に、またはその両方で、インフルエンザウイルスが媒介する状態の進行を阻害することが含まれる。他の実施形態において、治療的処置には、インフルエンザウイルスが媒介する感染の減少または安定化が含まれる。抗ウイルス薬は、症状の重症度を軽減し、人々が病気にかかっている日数を減らすために、すでにインフルエンザを有する人々を処置するために、共同体環境で使用されることができる。
【0060】
本明細書で使用される「予防(prophylaxis)」、「予防的(prophylactic)」、「予防的使用」および「予防的処置」という用語は、疾患を処置または治癒するのではなく予防する(prevent)ことを目的とする任意の医学的または公衆衛生手順を指す。本明細書で使用する場合、「予防する(prevent)」、「予防(prevention)」、および「予防する(preventing)」という用語は、病気ではないが疾患を有している人の近くにあり得るか、またはその人の近くにいたことがある対象における、所与の状態を獲得もしくは発症するリスクの減少または上記状態の軽減もしくは再発の阻害を指す。「化学的予防」という用語は、障害または疾患の予防のためのワクチンではなく、医薬、例えば低分子薬物の使用を指す。
【0061】
予防的使用には、重篤なインフルエンザ合併症のリスクが高い多くの人々が互いに密接して住んでいる場所(例えば、病棟、デイケアセンター、刑務所、養護施設など)での感染の伝染または拡散を防ぐために、発生が検出された状況での使用が含まれる。予防的使用はまた、インフルエンザからの保護を必要とするがワクチン接種後に保護が得られない集団(例えば、免疫系が弱いことなどによる)、ワクチンがその集団に利用可能でない集団、または副作用のためにワクチンを受けることできない集団内での使用も含まれる。ワクチン接種後2週間、またはワクチン接種後であるがワクチンが有効である前の任意の期間の使用も含まれる。予防的使用には、インフルエンザを有するが病気ではない人または合併症のリスクが高いと考えられていない人を処置して、インフルエンザに感染し、彼らに密接に接触するリスクの高い人(例えば、医療従事者、養護施設の労働者など)にインフルエンザを移す機会を減少させることも含まれ得る。
【0062】
本明細書で使用される場合、かつthe United States Centers for Disease Control and Prevention (US CDC)の用法と一致して、インフルエンザの「発生(outbreak)」は、通常のバックグラウンド率(background rate)を超えて、または集団の任意の対象が、インフルエンザについて試験が陽性であると分析されるときに、互いに近接している人々の群(例えば、介護施設の同じエリア、同じ世帯など)において、48~72時間以内に発生する急性熱性呼吸器疾患(AFRI)の突然の増加と定義されている。
【0063】
いくつかの実施形態において、組み合わせは、インフルエンザウイルスによる感染に起因する合併症の素因を有する患者、具体的にはヒトに対する予防的(preventative)または予防的(prophylactic)手段として有用である。組み合わせは、共同体または人口群の残りにおける感染の拡大を予防するために、初発症例または発生が確認された状況での予防方法において有用であることができる。
【0064】
本明細書で使用される場合、「有効量」とは、所望の生物学的応答を誘発するのに十分な量を指す。本開示において、所望の生物学的応答は、インフルエンザウイルスの複製を阻害すること、インフルエンザウイルスの量を減少させること、またはインフルエンザウイルス感染の重症度、持続期間、進行、もしくは発症を減少もしくは改善すること、インフルエンザウイルス感染の進行を予防すること、インフルエンザウイルス感染に関連する症状の再発、発生、発症、もしくは進行を予防すること、またはインフルエンザ感染に対して使用される別の療法の予防もしくは治療効果(複数可)を増強もしくは改善することである。対象に投与される化合物の正確な量は、投与様式、感染の種類および重症度、ならびに全身の健康状態、年齢、性別、体重、および薬物に対する耐性などの対象の特性に依存する。当業者は、これらおよび他の要因に依存して適切な投与量を決定し得るであろう。
【0065】
したがって、3-(2-(5-クロロ-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-イル))-5-フルオロ-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-7-イル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸が他の抗ウイルス剤と共投与される場合、例えば、抗インフルエンザ医薬と共投与される場合、第2の薬剤の有効量は、使用される薬物の種類に依存する。安全な量は、当業者によって容易に決定されることができるように、最小限または許容される数および重度の副作用を伴うものである。好適な用量は、承認された薬剤については既知であり、対象の状態、処置される状態(複数可)の種類、および使用される本明細書に記載の化合物の量に応じて当業者によって調整されることができる。量が明記されていない場合は、安全かつ有効な量が想定されるべきである。例えば、3-(2-(5-クロロ-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-イル))-5-フルオロ-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-7-イル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物は、治療的または予防的処置のために約0.01~100mg/kg体重/日の投与量範囲で対象に投与されることができる。
【0066】
本明細書で使用される場合、本明細書に記載の化合物または組成物の「安全かつ有効な量」は、患者において過度または有害な副作用を引き起こさない化合物または組成物の有効量である。
【0067】
一般的に、投与レジメンは、処置される障害および障害の重症度;使用される特定の化合物の活性;使用される特定の組成;患者の年齢、体重、全身の健康状態、性別、および食事;使用される特定の化合物の投与時間、投与経路、および排泄速度;対象の腎および肝機能;ならびに使用される特定の化合物またはその塩、処置の期間;使用される特定の化合物と組み合わせてまたは同時に使用される薬物、ならびに医療分野で周知の同様の要因を含む、様々な要因に従って選択されることができる。当業者は、疾患の進行を処置、予防、阻害(完全もしくは部分的に)、または停止するのに必要な本明細書に記載の化合物の有効量を容易に決定および処方し得る。
【0068】
本明細書に記載の化合物の投与量は、約0.01~約100mg/kg体重/日、約0.01~約50mg/kg体重/日、約0.1~約50mg/kg体重/日、または約1~約25mg/kg体重/日の範囲であることができる。1日あたりの総量は、単回投与で投与されることができるか、または1日2回(例えば12時間ごと)、1日3回(例えば8時間ごと)、または1日4回(6時間ごとなど)などの複数回投与で投与されることができると理解される。
【0069】
治療的処置のために、本明細書に記載の化合物は、例えば、症状(例えば、鼻づまり、喉の痛み、咳、痛み、疲労、頭痛、および悪寒/汗)の発症の48時間以内(もしくは40時間以内、もしくは2日未満以内、もしくは1.5日未満以内、または24時間以内)に患者に投与されることができる。治療的処置は、例えば5日間、7日間、10日間、14日間などの任意の好適な期間、継続されることができる。共同体での発生の際の予防的処置のためには、本明細書に記載の化合物は、例えば、初発症例では症状の発症の2日以内に患者に投与され得、任意の好適な期間、例えば、7日間、10日間、14日間、20日間、28日間、35日間、42日間など継続されることができる。
【0070】
併用療法
本明細書に記載の組み合わせは、単独で、または追加の好適な治療剤、例えば、第3の抗ウイルス剤またはワクチンとさらに組み合わせて投与することができる。併用療法を採用する場合、第1の量の化合物1、すなわち3-(2-(5-クロロ-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-イル)-5-フルオロ-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-7-イル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸、またはその薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物、第2の抗ウイルス剤、および1つ以上の第3の抗ウイルス剤のある量を使用して、安全で有効な量を達成することができる。いくつかの場合において、第3の抗ウイルス剤はピラジンカルボキサミド抗ウイルス化合物、インフルエンザノイラミニダーゼ阻害剤、またはインフルエンザPB1ポリメラーゼドメイン阻害剤である。さらなる治療の組み合わせは、追加の好適な治療剤(例えば、抗ウイルス剤またはワクチン)で達成し得る。
【0071】
これらの組み合わせでの使用に好適な第2の抗ウイルス剤の中には、バロキサビル(CAS No.1985605-59-1)があり、これは、日本の製薬企業Shionogi Co.によってA型インフルエンザとB型インフルエンザの処置のためのマルボキシルプロドラッグ(CAS No.1985606-14-1;商品名Xofluza(登録商標))として開発中である。
【0072】
また、これらの組み合わせでの使用に好適な第2の抗ウイルス剤には、リン酸オセルタミビル(CAS No.204255-11-8;商品名(タミフル(登録商標)))があり、これは、Roche製薬企業がインフルエンザ感染の処置または予防のための医薬として開発しているノイラミニダーゼ阻害剤である。
【0073】
また、これらの組み合わせでの使用に好適な第2の抗ウイルス剤には、日本の製薬企業Toyama Chemical Co.,Ltd.がA型インフルエンザ型およびB型インフルエンザ型を含むRNAウイルスの処置のために開発中のピラジンカルボキサミド誘導体であるファビピラビル(CAS No.259793-96-9;T-705;商品名Avigan(登録商標))がある。インフルエンザの処置のための200mg錠の使用は日本で承認される。成人の場合、ファビピラビルは1日あたり10mgから10,000mgの量で経口投与することができる。いくつかの実施形態において、ファビピラビルは、1日あたり100mgから4000mgの量で経口投与されることができる。いくつかの実施形態において、ファビピラビルは、1日目に1日2回1,600mgの量で、そして2日目から5日目まで1日2回、600mgのファビピラビルを経口投与されることができ、全投与期間は5日間である。
【0074】
Kitanoらは、バロキサビルとノイラミニダーゼ阻害剤の組み合わせが、MDCK細胞におけるA型インフルエンザ/H1N1ウイルスの複製を相乗的に阻害したことを報告する((Open Forum Infectious Diseases,4,Issue suppl_1,1 October 2017,Pages S371)。したがって、いくつかの実施形態において、3-(2-(5-クロロ-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-イル)-5-フルオロ-7H-ピロロ[2,3--d]ピリミジン-7-イル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸およびバロキサビルまたはバロキサビルマルボキシルおよびノイラミニダーゼ阻害剤を含む組み合わせが提供される。そのような組み合わせでの使用に好適なノイラミニダーゼ阻害剤には、例えば、オセルタミビル、オセルタミビル酸、ザナミビル、ラニナミビル、およびペラミビル、またはより具体的には、リン酸オセルタミビル、オセルタミビル酸、ザナミビル水和物、ラニナミビル、およびペラミビル三水和物が含まれる。
【0075】
本開示のいくつかの実施形態において、化合物1、またはその薬学的に許容される塩、および第2の抗ウイルス剤は、それぞれ、安全かつ有効な量で(すなわち、それぞれ、単独で投与した場合に治療上有効であろう量で)投与される。いくつかの実施形態において、化合物1、および第2の抗ウイルス剤はそれぞれ、単独では治療効果を提供しない量(治療量以下の用量)で投与される。いくつかの実施形態において、化合物1は、安全かつ有効な量で投与することができ、一方、第2の抗ウイルス剤は、治療用量以下で投与される。いくつかの実施形態において、化合物1は、治療用量以下で投与することができ、一方、第2の抗ウイルス剤は、安全かつ有効な量で投与される。
【0076】
本明細書で使用される場合、「併用療法」、「組み合わせて」、および「共投与(co-administration)」または「共投与(coadministration)」という用語は、2つ以上の療法(例えば、1つ以上の予防剤および/または治療剤)の使用を指すために交換可能に使用することができる。この用語の使用は、療法(例えば、予防剤および/または治療剤)が対象に対して投与される順序を制限しない。
【0077】
共投与は、例えば、単一の医薬組成物、例えば、固定比の第1の量および第2の量を有するカプセル剤もしくは錠剤において、またはそれぞれについて複数の別々のカプセル剤もしくは錠剤において、本質的に同時形式での、組み合わせの第1の量および第2の量の化合物の投与を包含することができる。さらに、そのような共投与はまた、組み合わせの各化合物をいずれの順序による逐次形式で使用することも含むことができる。
【0078】
いくつかの実施形態において、本開示は、生体試料もしくは患者におけるインフルエンザウイルス複製を阻害するための、または本開示の化合物もしくは医薬組成物を使用して患者におけるインフルエンザウイルス感染を処置もしくは予防するための併用療法の方法に関する。したがって、本明細書に記載の医薬組成物には、3-(2-(5-クロロ-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-イル)-5-フルオロ-7H-ピロロ[2,3-d]]ピリミジン-7-イル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸を、抗インフルエンザウイルス活性を示す第2の抗ウイルス剤と組み合わせて含む組成物も含まれる。
【0079】
使用方法はまた、別の抗ウイルス剤および/またはインフルエンザワクチンによるワクチン接種とさらに組み合わせて、化合物1および第2の抗ウイルス剤の組み合わせを含む。
【0080】
共投与が第1の量の3-(2-(5-クロロ-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-イル)-5-フルオロ-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-7-イル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸および第2の量の第2の抗ウイルス剤の別個の投与を含むとき、3-(2-(5-クロロ-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-イル)-5-フルオロ-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-7-イル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸および第2の抗ウイルス剤は、望ましい治療効果を得るために時間的に十分に近接して投与される。例えば、各投与間の期間は、数分~数時間の範囲であることができ、所望の治療効果をもたらす効力、溶解性、生物学的利用能、血漿半減期、および動態プロファイルなどの各化合物の特性を考慮して選択することができる。例えば、3-(2-(5-クロロ-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-イル)-5-フルオロ-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-7-イル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸および第2の抗ウイルス剤は、互いの約24時間以内、互いの約16時間以内、互いの約8時間以内、互いの約4時間以内、互いの約1時間以内、または互いの約30分以内に任意の順序で投与されることができる。
【0081】
より具体的には、3-(2-(5-クロロ-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-イル)-5-フルオロ-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-7-イル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸は、第2の抗ウイルス剤の対象への投与前(例えば、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、もしくは12週間前)、それと同時に、またはそれに続いて(例えば、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、もしくは12週間後)に投与されることができる。
【0082】
本明細書に記載のある量の3-(2-(5-クロロ-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-イル)-5-フルオロ-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-7-イル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸およびある量の第2の抗ウイルス剤の共投与は、増強されたまたは相乗的な治療効果をもたらすことができ、観察された組み合わせ効果はある量の化合物1およびある量の第2の抗ウイルス剤の別々の投与から生じると予想されたであろう相加的効果よりもより大きい。
【0083】
本明細書で使用される場合、「相乗的」という用語は、成分化合物の相加効果よりもより効果的である本開示の組み合わせを指す。療法の組み合わせ(例えば、予防剤もしくは治療剤の組み合わせ)の相乗効果によって、1つ以上の療法をより低い投与量で使用することおよび/または上記療法をより少ない頻度で対象に投与することが可能となる。より低い投与量の療法(例えば、予防剤もしくは治療剤)を利用できること、および/またはより少ない頻度で上記療法を投与できることによって、障害の予防、管理、もしくは処置における上記療法の有効性を減少させることなく、患者への上記療法の投与に関連する毒性を減少させることができる。さらに、相乗効果により、障害の予防、管理、または処置における薬剤の有効性が向上されることができる。最後に、療法の組み合わせ(例えば、予防剤または治療剤の組み合わせ)の相乗効果は、いずれかの療法単独の使用に伴う有害なまたは望ましくない副作用を回避または軽減し得る。
【0084】
さらに、本開示の併用療法を使用する場合、各投与間の期間をより長くすることができるように(例えば、数日、数週間、または数ヶ月)、成分治療剤を投与することができる。
【0085】
相乗効果の存在は、薬物相互作用を評価するための好適な方法を使用して決定されることができる。好適な方法には、例えば、Sigmoid-Emax式(Holford,N.H.G. and Scheiner,L.B.,Clin.Pharmacokinet.6:429-453(1981))、Loewe付加の式(Loewe,S,and Muischnek,H.,Arch.Exp.Pathol.Pharmacol.114:313-326(1926))およびメジアン効果式(median-effect equation)(Chou,T.C.and Talalay,P.,Adv.Enzyme Regul.22:27-55(1984))が含まれる。上で言及した各式を実験データに適用して、対応するグラフを生成し、薬物組み合わせの効果の評価に役立てることができる。上で言及した式に関連する対応するグラフは、それぞれ、濃度効果曲線、アイソボログラム曲線、および併用指数曲線(combination index curve)である。MacSynergy(商標)IIは、組み合わせ指数の計算に役立つ定評のあるグラフィックソフトウェアである(Prichard and Shipman,1990)。
【0086】
抗インフルエンザワクチン
本明細書に記載の化合物は、抗インフルエンザワクチンと組み合わせて予防的に投与されることができる。これらのワクチンは、例えば、皮下または鼻腔内投与により投与されることができる。皮下注射によるワクチン接種は、典型的には、血清中で中和活性を有するIgG抗体を誘導し、肺炎などのより重篤な状態への状態の進行を予防するのに非常に効果的である。しかしながら、感染部位である上気道粘膜では、IgAが主要な予防成分である。IgAは皮下投与では誘導されないので、鼻腔内経路でワクチンを投与することも有利であることができる。
【0087】
定義および一般的用語
本開示の化合物は、その化学構造および/または化学名によって本明細書で定義される。化合物が化学構造および化学名の両方で言及され、化学構造および化学名が矛盾する場合、化学構造が化合物の同一性(identity)を決定する。
【0088】
薬学的に許容される塩および溶媒和物
本明細書に記載の化合物は、遊離形態で、または適切な場合には塩として存在することができる。薬学的に許容されるそれらの塩は、医療目的用の記載される組み合わせの成分である化合物を投与するのに有用であるので、特に興味深い。薬学的に許容されない塩は、単離および精製目的のための製造プロセスにおいて有用であり、いくつかの場合では、本明細書に記載の化合物またはその中間体の立体異性体の分離での使用に有用である。
【0089】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される塩」との用語は、毒性、刺激、アレルギー反応などの過度の副作用なしに、健全な医学的判断の範囲内で、ヒトおよび下等動物の組織との接触での使用に好適であり、合理的な利益/リスク比に見合った、化合物の塩を指す。
【0090】
薬学的に許容される塩は、当該技術分野で周知されている。例えば、S.M.Bergeらは、参照により本明細書に組み込まれるJ.Pharmaceutical Sciences,1977,66,1-19において、薬学的に許容される塩を詳細に記載している。本明細書に記載の化合物の薬学的に許容される塩には、好適な無機および有機の酸および塩基に由来するものが含まれる。これらの塩は、化合物の最終単離および精製中にインサイチュで調製されることができる。
【0091】
本明細書に記載の化合物が塩基性基または十分に塩基性の生物学的等価体(bioisostere)を含む場合、1)遊離塩基形態の精製化合物を好適な有機酸または無機酸と反応させ、2)そのようにして形成された塩を単離することにより、酸付加塩を調製することができる。実際には、酸付加塩が、使用のためにより好都合な形態である場合があり、塩の使用は遊離塩基形態の使用に等しい。
【0092】
薬学的に許容される非毒性の酸付加塩の例は、塩酸、臭化水素酸、リン酸、硫酸、および過塩素酸などの無機酸、または酢酸、シュウ酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸、もしくはマロン酸などの有機酸で形成される、あるいはイオン交換などの当該技術分野で使用される他の方法を使用することによって形成される、アミノ基の塩である。他の薬学的に許容される塩には、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重硫酸塩、ホウ酸塩、酪酸塩、樟脳酸塩(camphorate)、樟脳スルホン酸塩(camphorsulfonate)、クエン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルコヘプトン酸塩、グリセロリン酸塩、グリコール酸塩、グルコン酸塩、グリコール酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒドロキシ-エタンスルホン酸塩、ラクトビオン酸塩、乳酸塩、ラウリン酸塩、ラウリル硫酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メタンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩(pamoate)、ペクチン酸塩(pectinate)、過硫酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、プロピオン酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、ウンデカン酸塩、吉草酸塩などが含まれる。
【0093】
本明細書に記載の化合物がカルボン酸基または十分に酸性の生物学的等価体を含む場合、1)酸形態の精製化合物を好適な有機塩基または無機塩基と反応させ、2)そのようにして形成された塩を単離することにより、塩基付加塩を調製することができる。実際には、塩基付加塩の使用がより好都合である場合があり、塩形態の使用は遊離酸形態の使用と本質的に等しい。適切な塩基に由来する塩には、アルカリ金属(例えば、ナトリウム、リチウム、およびカリウム)、アルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム)、アンモニウム、およびN+(C1-4アルキル)4塩が含まれる。本開示はまた、本明細書に開示される化合物の任意の塩基性窒素含有基の四級化も企図している。水溶性もしくは油溶性または分散性産生物は、かかる四級化によって得られ得る。
【0094】
塩基性付加塩には、薬学的に許容される金属塩およびアミン塩が含まれる。好適な金属塩には、ナトリウム、カリウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、マグネシウム、およびアルミニウムが含まれる。ナトリウムおよびカリウムの塩が通常は好ましい。さらなる薬学的に許容される塩には、適切な場合、非毒性のアンモニウム、第四級アンモニウム、および対イオンを使用して形成されるアミンカチオン、例えば、ハロゲン化物、水酸化物、カルボン酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、低級アルキルスルホン酸塩、およびアリールスルホン酸塩などが含まれる。好適な無機塩基付加塩は、水素化ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛などを含む金属塩基から調製される。好適なアミン塩基付加塩は、低毒性および医療用途に対する許容性のために、医薬品化学で頻繁に使用されるアミンから調製される。アンモニア、エチレンジアミン、N-メチル-グルカミン、リジン、アルギニン、オルニチン、コリン、N、N’-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、ジエタノールアミン、プロカイン、N-ベンジルフェネチルアミン、ジエチルアミン、ピペラジン、トリス(ヒドロキシメチル)-アミノメタン、水酸化テトラメチルアンモニウム、トリエチルアミン、ジベンジルアミン、エフェンアミン(ephenamine)、デヒドロアビエチルアミン、N-エチルピペリジン、ベンジルアミン、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、塩基性アミノ酸、ジシクロヘキシルアミンなど。
【0095】
他の酸および塩基は、それ自体は薬学的に許容されないが、本明細書に記載の化合物およびその薬学的に許容される酸または塩基付加塩を得るときの中間体として有用な塩の調製に使用され得る。
【0096】
組み合わせのこの成分は、異なる薬学的に許容される塩の混合物/組み合わせ、ならびに遊離形態の化合物および薬学的に許容される塩の混合物/組み合わせを含むことができる。
【0097】
組み合わせの成分は、溶媒和物の形で存在することができる。「溶媒和物」という用語は、化合物(その塩を含む)の、1つ以上の溶媒分子との分子複合体を指す。そのような溶媒分子は、レシピエントに無害であることが知られている製薬分野で一般的に使用されるもの、例えば、水、エタノール、ジメチルスルホキシド、アセトンおよび他の一般的な有機溶媒である。「水和物」という用語は、化合物および水を含む分子複合体を指す。
【0098】
医薬組成物
本明細書に記載の化合物は、薬学的に許容される担体、希釈剤、補助剤、またはビヒクルをさらに含む医薬組成物に製剤化されることができる。いくつかの実施形態において、本開示は、本明細書に記載の化合物、および薬学的に許容される担体、希釈剤、補助剤、またはビヒクルを含む医薬組成物に関する。いくつかの実施形態において、本開示は、安全かつ有効な量の本明細書に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩、および薬学的に許容される担体、希釈剤、補助剤、またはビヒクルを含む医薬組成物を含む。薬学的に許容される担体には、例えば、意図される投与形態に関して好適に選択され、従来の製薬慣行に合致する、薬学的な希釈剤、賦形剤、または担体が含まれる。
【0099】
「有効量」は、「治療有効量」および「予防有効量」を含む。「治療有効量」という用語は、患者におけるインフルエンザウイルス感染を処置および/または改善するのに有効な量を指す。「予防有効量」という用語は、インフルエンザウイルス感染の発生の機会もしくはサイズを予防および/または実質的に減少させるのに有効な量を指す。
【0100】
薬学的に許容される担体は、化合物の生物活性を過度に阻害しない不活性成分を含み得る。薬学的に許容される担体は、生体適合性、例えば、非毒性であり、非炎症性であり、非免疫原性であり、または対象に投与したときに他の望ましくない反応もしくは副作用がないものでなければならない。標準的な医薬製剤技術を使用することができる。
【0101】
本明細書で使用される薬学的に許容される担体、補助剤、またはビヒクルには、所望の特定の剤形に好適である、任意の溶媒、希釈剤、または他の液体ビヒクル、分散もしくは懸濁助剤、界面活性剤、等張剤、増粘剤もしくは乳化剤、防腐剤、固体結合剤、潤滑剤などが含まれる。Remington’s Pharmaceutical Sciences,16th ed.,E.W.Martin(Mack Publishing Co.,Easton,Pa.,1980)は、薬学的に許容される組成物の製剤化に使用される様々な担体およびその調製のための既知の技術を開示する。例えば、任意の望ましくない生物学的効果を生じるか、またはその他では、薬学的に許容される組成物の任意の他の成分(複数可)と有害的な様式で相互作用することにより、任意の従来の担体媒体が本明細書に記載の化合物と適合しない場合を除き、その使用は本開示の範囲内であることが企図される。
【0102】
本明細書で使用される場合、「副作用」という語句は、治療(例えば、予防薬または治療剤)の望ましくない有害な効果を包含する。副作用は常に望ましくないが、望ましくない効果は必ずしも有害ではない。療法(予防剤または治療剤など)由来の有害な効果は、害となる、もしくは不快である、または危険であり得る。副作用には、発熱、寒気、嗜眠(lethargy)、胃腸毒性(胃および腸の潰瘍および糜爛を含む)、悪心、嘔吐、神経毒性、腎毒性(nephrotoxicities)、腎毒性(renal toxicities)(乳頭壊死および慢性間質性腎炎などの症状を含む)、肝毒性(血清肝酵素レベルの上昇を含む)、骨髄毒性(白血球減少、骨髄抑制、血小板減少、および貧血を含む)、口内乾燥症、金属味、妊娠期間の延長、衰弱、傾眠、疼痛(筋肉痛、骨痛、および頭痛を含む)、脱毛、無力症)(asthenia)、めまい、錐体外路症状、静座不能、心血管障害、ならびに性機能障害が含まれるが、これらに限定されない。
【0103】
薬学的に許容される担体として機能し得る材料の例には、イオン交換体、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、血清タンパク質(ヒト血清アルブミンなど)、緩衝物質(twin80、リン酸塩、グリシン、ソルビン酸、もしくはソルビン酸カリウムなど)、飽和植物脂肪酸の部分グリセリド混合物、水、塩、または電解質(硫酸プロタミン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、もしくは亜鉛塩など)、コロイド状シリカ、三ケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、ポリアクリレート、ワックス、ポリエチレン-ポリオキシプロピレン-ブロックポリマー、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、羊毛脂肪、ラクトース、グルコース、およびスクロースなどの糖;トウモロコシデンプンおよびジャガイモデンプンなどのデンプン;セルロースおよびその誘導体、例えば、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、エチルセルロース、および酢酸セルロース;トラガカント粉末;麦芽;ゼラチン;タルク;ココアバターおよび坐剤ワックス(suppository waxes)などの賦形剤;落花生油、綿実油などの油;ベニバナ油;胡麻油;オリーブオイル;コーン油および大豆油;プロピレングリコールまたはポリエチレングリコールなどのグリコール;オレイン酸エチルおよびラウリン酸エチルなどのエステル;寒天;水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウムなどの緩衝剤;アルギン酸;発熱物質を含まない水;等張生理食塩水;リンガーの溶液;エチルアルコール、リン酸緩衝溶液が含まれるが、これらに限定されず、ならびにラウリル硫酸ナトリウムおよびステアリン酸マグネシウムなどの他の非毒性適合潤滑剤、ならびに着色剤、離型剤、コーティング剤、甘味剤、香味剤および芳香剤、防腐剤および酸化防止剤もまた、製剤製造者の判断に従って組成物中に存在することができる。
【0104】
肺送達のための製剤
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の医薬組成物は、吸入により気道を通して下気道(例えば、肺)に直接投与されるように適合される。吸入による投与のための組成物は、吸入可能な粉末組成物または液体もしくは粉末スプレーの形態をとり得、粉末吸入器またはエアロゾル分配デバイスを使用する標準形態で投与されることができる。そのようなデバイスは周知である。吸入による投与の場合、粉末製剤は、典型的には、ラクトースまたはデンプンなどの不活性固体粉末希釈剤とともに活性化合物を含む。吸入可能な乾燥粉末組成物は、ゼラチンまたは同様の材料のカプセルおよびカートリッジ、または吸入器または吹送器で使用するための積層アルミニウム箔のブリスター(blister)で提供され得る。各カプセルまたはカートリッジは、一般に、例えば、約10mg~約100gの各活性化合物を含み得る。あるいは、本記載の組成物は、賦形剤なしで提供され得る。
【0105】
吸入可能な組成物は、単位用量または複数回用量送達用に包装され得る。例えば、組成物は、GB2242134、米国特許第6,632,666号、同5,860,419号、同5,873,360号、および同5,590,645号(すべて「Diskus」デバイスを示す)、もしくはGB2i78965、GB2129691、GB2169265、米国特許第4,778,054号、同4,811,731号、および同5,035,237号(「Diskhaler」デバイスを示す)、もしくはEP69715(「Turbuhaler」デバイス)、またはGB2064336および米国特許第4,353,656号(「Rotahaler」デバイス)に記載されている方法と同様の様式で、複数回用量用に包装されることができる。
【0106】
吸入による肺への局所送達のためのスプレー組成物は、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、特に1,1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロ-n-プロパン、およびそれらの混合物などのヒドロフルオロアルカンを含む、好適な液化噴射剤を使用して、水溶液もしくは懸濁液として、または定量吸入器(MDI)などの加圧パック(pressurized pack)から送達されるエアロゾルとして製剤化され得る。吸入に好適なエアロゾル組成物は、懸濁液または溶液のいずれかとして提供されることができる。
【0107】
吸入による投与のための医薬は、典型的には、制御された粒子サイズを有する。気管支系への吸入に最適な粒子サイズは、通常は約1~約10μmであり、いくつかの実施形態において約2~約5μmである。約20μm超のサイズを有する粒子は、吸入時に小さな気道に到達するには一般的に大きすぎる。これらの粒子サイズを達成するために、活性成分の粒子を微粉化などのサイズ減少プロセスに供し得る。空気分級(air classification)または篩分け(sieving)によって所望のサイズ画分を分離し得る。好ましくは、粒子は結晶性である。
【0108】
鼻腔内スプレーは、増粘剤、pHを調整するための緩衝塩または酸もしくはアルカリ、等張調整剤または抗酸化剤などの剤を添加した水性または非水性ビヒクルを使用して製剤化し得る。
【0109】
噴霧による吸入のための溶液は、酸もしくはアルカリ、緩衝塩、等張調整剤、または抗菌剤などの剤を添加した水性ビヒクルを使用して製剤化し得る。それらは、濾過またはオートクレーブでの加熱によって滅菌されるか、または非滅菌製品として提供され得る。噴霧器は、水性製剤から生成されたミストとしてエアロゾルを供給する。
【0110】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の医薬組成物は、補助的な活性成分とともに製剤化されることができる。
【0111】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の医薬組成物は、乾燥粉末吸入器から投与される。
【0112】
他の実施形態において、本明細書に記載の医薬組成物は、任意選択により「Volumatic」(登録商標)吸入チャンバーなどの吸入チャンバーと組み合わせて、エアロゾル分配デバイスによって投与される。
【0113】
担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、それらの好適な混合物、および/または植物油を含有する溶媒または分散媒質であることができる。適切な流動性は、例えばレシチンなどのコーティング剤の使用によって、分散剤の場合には必要な粒子サイズの維持によって、および界面活性剤の使用によって維持されることができる。本明細書に記載の組成物における微生物の作用の防止は、抗菌剤および/または抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどを添加することにより達成される。多くの場合、等張剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを含むことが望ましい。注射用組成物の長時間の吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの組成物における使用によってもたらされることができる。
【0114】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の医薬組成物は、組成物の放出を制御するマトリックス内にあることができる。いくつかの実施形態において、マトリックスは、脂質、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリカプロラクトン、ポリ(グリコール)酸、ポリ(乳酸)酸、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリ無水物、ポリラクチド-co-グリコリド、ポリアミノ酸、ポリエチレンオキシド、アクリル末端(acrylic terminated)ポリエチレンオキシド、ポリアミド、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリホスファゼン、ポリ(オルトエステル)、スクロースアセテートイソブチレート(SAIB)、およびそれらの組み合わせ、ならびに例えば米国特許第6,667,371号、同6,613,355号、同6,596,296号、同6,413,536号、同5,968,543号、同4,079,038号、同4,093,709号、同4,131,648号、同4,138,344号、同4,180,646号、同4,304,767号、同4,946,931号に開示されているものなどの他のポリマーを含むことができ、それらの各々はそれらの全体が参照により本明細書に明示的に組み込まれる。これらの実施形態において、マトリックスは薬物を持続的に放出する。
【0115】
薬学的に許容される担体および/または希釈剤は、任意の溶媒、分散媒、コーティング剤、抗菌剤および/または抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などが含まれ得る。薬学的に活性な物質のためのそのような媒体および剤の使用は、当該技術分野で周知である。任意の従来の媒体または剤が活性成分と不適合である場合を除いて、医薬組成物でのその使用が企図される。
【0116】
本開示の医薬組成物は、従来の技術に従って投与用に製剤化されることができる。例えば、Remington、The Science and Practice of Pharmacy(20th Ed.2000)を参照のこと。例えば、本開示の鼻腔内医薬組成物は、エアロゾルとして製剤化されることができる(この用語には、液体エアロゾルおよび乾燥粉末エアロゾルの両方が含まれる)。液体粒子のエアロゾルは、当業者に既知であるような、圧力駆動エアロゾル噴霧器または超音波噴霧器などの任意の好適な手段によって生成されることができる。例えば、米国特許第4,501,729号を参照のこと。同様に、固体粒子のエアロゾル(例えば、凍結乾燥(lyophilized)、フリーズドライ(freeze dried)など)は、製薬業界で既知の技術により、任意の固体粒子医薬エアロゾル生成装置で生成されることができる。別の例として、本開示の医薬組成物は、医薬組成物の凍結乾燥部分および医薬組成物の溶解溶液部分を提供するオンデマンドの(on-demand)溶解可能な形態として製剤化されることができる。
【0117】
本開示のいくつかの実施形態において、医薬組成物は、溶液または懸濁液から調製されることができる、水性懸濁液の形態である。溶液または懸濁液に関して、剤形は、親油性物質、リポソーム(リン脂質小胞/膜)、および/または脂肪酸(例えばパルミチン酸)のミセルから構成されることができる。特定の実施形態において、医薬組成物は、該医薬組成物が投与、適用、および/または送達される組織の上皮粘膜によって分泌される液体に溶解することができる溶液または懸濁液であり、これは吸収を有利に高めることができる。
【0118】
医薬組成物は、水溶液、非水溶液、または水溶液と非水溶液との組み合わせであることができる。
【0119】
好適な水溶液には、水性ゲル、水性懸濁液、水性ミクロスフェア懸濁液、水性ミクロスフェア分散液、水性リポソーム分散液、リポソームの水性ミセル、水性マイクロエマルジョン、および上記の任意の組み合わせ、または鼻腔の粘膜から分泌される液体に溶解し得る任意の他の水溶液が含まれることができるが、これらに限定されない。例示的な非水性溶液には、非水性ゲル、非水性懸濁液、非水性ミクロスフェア懸濁液、非水性ミクロスフェア分散液、非水性リポソーム分散液、非水性エマルジョン、非水性マイクロエマルジョン、および前述の任意の組み合わせ、または粘膜から分泌された液体に混合もしくは溶解し得る任意の他の非水性溶液が含まれることができるが、これらに限定されない。
【0120】
粉末製剤の例には、単純な粉末混合物、微粉化粉末、フリーズドライ粉末、凍結乾燥粉末、粉末ミクロスフェア、コーティングした粉末ミクロスフェア、リポソーム分散液、および前述の任意の組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。粉末ミクロスフェアは、デンプン、メチルセルロース、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボマー、アルギン酸ポリビニルアルコール、アカシア、キトサン、およびそれらの任意の組み合わせを含むがこれらに限定されない、様々な多糖類およびセルロースから形成されることができる。
【0121】
特定の実施形態において、吸入可能な組成物は、吸収を促進するために、粘膜によって分泌される流体に少なくとも部分的に、またはさらに実質的に(例えば、少なくとも80%、90%、95%もしくはそれ以上)可溶性であるものである。組成物は、担体ならびに/または、脂肪酸(例えば、パルミチン酸)、ガングリオシド(例えば、GM-1)、リン脂質(例えば、ホスファチジルセリン)、および乳化剤(例えば、ポリソルベート80)を含むがこれらに限定されない、分泌物内での剤の溶解を促進する他の物質とともに製剤化されることができる。
【0122】
当業者は、鼻腔内投与または送達では、投与される医薬組成物の体積は一般に小さく、鼻腔内のpHの範囲は5~8と広範であることができるので、鼻分泌物が投与用量のpHを変化させ得ることを理解するであろう。そのような変化は、吸収に利用可能な非イオン化薬物の濃度に影響を与えることができる。したがって、代表的な実施形態において、医薬組成物は、pHをインサイチュで維持または調節するための緩衝液をさらに含む。典型的な緩衝液には、アスコルビン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、プロラミン、炭酸塩、およびリン酸塩緩衝液が含まれるが、これらに限定されない。
【0123】
いくつかの実施形態において、医薬組成物のpHは、投与後の粘膜組織の内部環境が中性または酸性となるように選択され、これは(1)吸収のために非イオン化形態の活性化合物を提供することができ、(2)アルカリ性環境で発生する可能性がより高い病原性細菌の増殖を阻害し、(3)粘膜の刺激の可能性を減少させる。
【0124】
液体および粉末スプレーまたはエアロゾルのために、医薬組成物は、任意の好適かつ望ましい粒子または液滴サイズを有するように製剤化されることができる。例示的な実施形態において、粒子または液滴の大部分および/または平均サイズは、約1、2.5、5、10、15、もしくは20ミクロン以上、および/または約25、30、40、45、50、60、75、100、125、150、175、200、225、250、275、300、325、350、375、400、もしくは425ミクロン以下(前述のすべての組み合わせを含む)の範囲である。大部分および/または平均の粒子または液滴サイズの好適な範囲の代表例には、約5~100ミクロン、約10~60ミクロン、約175~325ミクロン、および約220~300ミクロンが含まれるが、これらに限定されず、これらは例えば鼻腔内(例えば、嗅覚神経経路を標的とするため、鼻腔の上部3分の1、上鼻道、嗅覚領域、および/または副鼻腔領域)における安全かつ有効な量の活性化合物の沈着を促進する。一般に、約5ミクロンより小さい粒子または液滴は、気管またはさらに肺に沈着するが、約50ミクロン以上の粒子または液滴は一般に、鼻腔に到達せず、前鼻に沈着する。
【0125】
国際特許公開第WO2005/023335号は、本開示の代表的な実施形態の実施に好適な直径サイズを有する粒子および液滴を記載する。特定の実施形態において、粒子または液滴は、約5~30ミクロン、約10~20ミクロン、約10~17ミクロン、約10~15ミクロン、約12~17ミクロン、約10~15ミクロン、または約10~12ミクロンの平均直径を有する。粒子は、本明細書に記載の平均直径またはサイズを「実質的に」有することができ、すなわち、粒子の少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、もしくは95%、またはそれ以上が、示された直径またはサイズ範囲のものである。
【0126】
本明細書に記載の医薬組成物は、上記のような液滴サイズを有する噴霧化された液体または霧状の液体として送達されることができる。
【0127】
鼻腔内送達方法を含む特定の実施形態によれば、例えば吸収を高めるために、鼻腔における(例えば、鼻腔の上部3分の1、上鼻道、嗅覚領域における、および/または副鼻腔領域における)医薬組成物の滞留時間を延長することが望ましいものであることができる。したがって、医薬組成物は、任意選択により、鼻腔での滞留時間を延ばす剤である、生体接着性ポリマー、ガム(例えば、キサンタンガム)、キトサン(例えば、高度に精製されたカチオン性多糖)、ペクチン(もしくは鼻粘膜に適用されたときにゲルもしくは乳化剤のように増粘化する任意の炭水化物)、ミクロスフェア(例えば、デンプン、アルブミン、デキストラン、シクロデキストリン)、ゼラチン、リポソーム、カルバマー、ポリビニルアルコール、アルギン酸塩、アカシア、キトサン、および/またはセルロース(例えば、メチルもしくはプロピル、ヒドロキシルもしくはカルボキシ、カルボキシメチルもしくはヒドロキシルプロピル)とともに製剤化されることができる。さらなる手法として、製剤の粘度を増加させることによってもまた、剤と鼻上皮との接触を延長する手段が提供されることができる。医薬組成物は、鼻用エマルジョン、軟膏、またはゲルとして製剤化されることができ、これらは、その粘度により、局所適用に対する利点を提供する。
【0128】
湿った高度に血管新生された膜は、急速な吸収を促進することができる。結果として、医薬組成物は、十分な鼻腔内水分含量を確保するために、特にゲルベースの組成物の場合において、保湿剤を任意選択により含むことができる。好適な保湿剤の例には、グリセリンまたはグリセロール、鉱油、植物油、膜調整剤(membrane conditioners)、緩和剤(soothing agents)、および/または糖アルコール(例えば、キシリトール、ソルビトール、および/またはマンニトール)が含まれるが、これらに限定されない。医薬組成物中の保湿剤の濃度は、選択された薬剤および製剤に応じて変わる。
【0129】
医薬組成物はまた、酵素活性を阻害し、粘液の粘度もしくは弾性を減少させ、粘液線毛クリアランス効果を減少させ、タイトジャンクションを開かせ、および/または活性化合物を可溶化する剤などの吸収促進剤を任意選択により含むことができる。化学的増強剤は当該技術分野で既知であり、キレート剤(例えば、EDTA)、脂肪酸、胆汁酸塩、界面活性剤、および/または防腐剤が含まれる。浸透促進剤は、低い膜透過性、親油性の欠如を示し、および/またはアミノペプチダーゼにより分解される化合物を製剤化する場合に特に有用であることができる。医薬組成物中の吸収促進剤の濃度は、選択された薬剤および製剤に応じて変わる。
【0130】
貯蔵寿命を延長するために、防腐剤を医薬組成物に任意選択により添加することができる。好適な防腐剤には、ベンジルアルコール、パラベン、チメロサール、クロロブタノール、および塩化ベンザルコニウム、および前述の組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。防腐剤の濃度は、使用される防腐剤、製剤化される化合物、製剤などに応じて変わる。代表的な実施形態において、防腐剤は約2重量%以下の量で存在する。
【0131】
本明細書に記載の医薬組成物は、嗅覚領域への送達を促進し、および/または嗅覚神経細胞による輸送を引き起こすために、臭気を提供して組成物の吸入を助けるための例えば欧州特許第EP0504263B1に記載されるような付臭剤を任意選択により含むことができる。
【0132】
別の選択肢として、組成物は、例えば組成物の対象への味および/または受容性を高めるために香味剤を含むことができる。
【0133】
肺投与のための多孔質粒子
いくつかの実施形態において、粒子は、吸入器を介して投与されたときに咽喉の奥での沈着を避けるために適切な密度を有するような多孔性である。比較的大きな粒子サイズと比較的低い密度との組み合わせにより、肺での食作用が回避され、適切に標的化された送達が提供され、成分の全身送達が回避され、肺において高濃度の成分が提供される。
【0134】
そのような粒子を調製し、そのような粒子を送達するための代表的な方法は、例えば、米国特許第7,384,649号、米国特許第7,182,961号、米国特許第7,146,978号、米国特許第7,048,908号、米国特許第6,956,021号米国特許第6,766,799号、および米国特許第6,732,732号に記載されている。
【0135】
そのような粒子を開示する追加の特許には、米国特許第7,279,182号、米国特許第7,252,840号、米国特許第7,032,593号、米国特許第7,008,644号、米国特許第6,848,197号、および米国特許第6,749,835号が含まれる。
【0136】
米国特許第7,678,364号は、処置、予防、または診断を必要とする患者の気道に、a)治療剤、予防剤、または診断剤と複合体を形成している多価金属カチオン、b)薬学的に許容される担体、およびc)乾燥粉末が、噴霧乾燥され、かつ剤の全重量の約10%w/w以上である多価金属カチオンの総量、約0.4g/cm3以下のタップ密度、約5マイクロメートル~約30マイクロメートルの幾何学的直径中央値、および約1~約5ミクロンの空気動力学的直径を有する、多価金属カチオン含有成分を含む、安全かつ有効な量の乾燥粉末を投与することを含む、肺系に粒子を送達するための方法を開示している。
【0137】
粒子中に存在する本明細書に記載の化合物またはその塩の量は、約0.1重量%~約95重量%の範囲であることができるが、いくつかの場合では、100%の高さでもあることができる。例えば、約1~約50重量%、例えば約5~約30重量%。薬物が粒子全体に分布している粒子が好ましいものであることができる。
【0138】
いくつかの実施形態において、粒子は、上記のリン脂質以外の界面活性剤を含む。本明細書で使用する場合、「界面活性剤」という用語は、水と有機ポリマー溶液との間の界面、水/空気界面、または有機溶媒/空気界面などの2つの非混和性相の間の界面に優先的に吸収する任意の剤を指す。界面活性剤は一般に、親水性部分および親油性部分を有し、そのため、粒子に吸収すると、それらは同様にコーティングされた粒子を引き付けない部分を外部環境に提示する傾向があり、したがって粒子の凝集を減少させる。界面活性剤はまた、治療剤または診断剤の吸収を促進し、薬剤の生物学的利用能を増加させ得る。
【0139】
本明細書に記載の粒子の製造に使用されることができる好適な界面活性剤には、ヘキサデカノール;ポリエチレングリコール(PEG)などの脂肪アルコール;ポリオキシエチレン-9-ラウリルエーテル;パルミチン酸またはオレイン酸などの界面活性脂肪酸;グリココール酸塩;サーファクチン;ポロキサマー;ソルビタントリオレエート(Span85)などのソルビタン脂肪酸エステル;Tween(登録商標)80およびチロキサポールが含まれるが、これらに限定されない。
【0140】
界面活性剤は、約0~約5重量%の範囲の量で粒子中に存在することができる。好ましくは、界面活性剤は、約0.1~約1重量%の範囲の量、例えば1.0重量%で粒子中に存在することができる。
【0141】
約0.4g/cm3未満のタップ密度、少なくとも約5μmの直径中央値、および約1μm~約5μmまたは約1μm~約3μmの空気力学的直径を有する粒子は、中咽頭領域での慣性および重力沈着をより回避することができ、気道または肺深部に標的化される。より大きく、より多孔性の粒子の使用が有利であるが、その理由は、それらは、吸入療法のために現在使用されているものなどのより小さく、より密度の高い粒子よりもより効率的にエアロゾル化できるからである。
【0142】
リポソーム送達
本明細書に記載の組成物は、実際のまたは潜在的なインフルエンザ感染の部位で化合物を提供するように、肺に有利に送達される。これは、定量吸入器または他の肺送達デバイスによる肺送達により達成され得、肺の肺胞を取り囲む毛細血管床に粒子を収容することによっても達成されることができる。
【0143】
小さな単層小胞を含むリポソームなどのナノ担体は、薬物の長期放出および細胞特異的標的化薬物送達などの、薬物を肺に送達する他の従来の手法よりもいくつかの利点を示す。ナノサイズの薬物担体は難水溶性薬物の送達にも有利であることができ、本明細書に記載の特定の化合物は難水溶性である。追加の利点には、制御された放出を提供する能力、代謝および分解からの保護、薬物毒性の減少、および標的化能力が含まれる。
【0144】
リポソーム(好ましくは単層小胞)は、動的光散乱により測定される200nm未満のサイズを有し、化学的に純粋な合成リン脂質から構成されることを特徴とし、最も好ましくは少なくとも16個の炭素の長さの側鎖を含み、本明細書に記載の1つ以上の化合物またはその薬学的に許容される塩を含有し、肺胞を取り囲む毛細血管床にある量のその化合物を優先的に送達(すなわち、標的化)するのに十分である。小胞の直径は、例えば、ヘリウムネオン100mW NECガスレーザーおよびMalvern K7027相関器を使用して動的光散乱によって測定されることができ、理想的には、各サイズ決定のためにそれぞれにつき少なくとも2つまたは3つの測定を行う。
【0145】
「化学的に純粋なリン脂質」という表現は、有害な界面活性剤部分および不純物(これらは、それらから形成される小さな単層小胞(SUV)の凝集を引き起こす)を本質的に含まず、97%超の純粋である、リン脂質を定義することを意味する。好ましくは、リポソームは、主に約50~約160nmの直径を有し、本質的に電荷が中性であり、16~18個の炭素原子の側鎖長を有するリン脂質を組み込んでいる。より好ましくは、リポソームはジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)から調製され、小胞安定剤としてコレステロール(最も好ましくは総脂質の10~50%の量)を含む。
【0146】
リポソームが体温を超える(すなわち、37℃を超える)融点を有することも有利であることができる。この理由のために、純粋なリン脂質、好ましくは飽和であり、少なくとも16個の炭素、好ましくは16~18個の炭素の炭素鎖長を有するものを使用することが有利であることができる。ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)が好ましいリン脂質である。コレステロールはリポソームの安定化に役立ち、リポソームの安定性を提供するのに十分な量で添加することが好ましい。最も好ましくは、リポソームは、DSPEPEGなどのペグ化リン脂質をさらに含む。方法は、200nm未満のサイズであり、好ましくは化学的に純粋な合成リン脂質から構成されることを特徴とし、最も好ましくは少なくとも16個の炭素の長さの側鎖を含み、本明細書に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩もしくはプロドラッグを含む、ある量のリポソーム(好ましくは単層小胞)を患者の血流に導入することを含み、肺胞を取り囲む肺の毛細血管床にある量の化合物を優先的に送達(すなわち、標的化)するのに十分である。
【0147】
本明細書に記載の化合物は、本明細書に記載されるように他の抗インフルエンザ剤と組み合わせることができる。そのような追加の薬剤は、リポソーム中に存在し得、異なるリポソーム中にも存在することができ、または異なる経路を介して共投与されることができる。
【0148】
リポソームは、本明細書に記載の化合物のうちの1つ以上またはその薬学的に許容される塩を含み、他の抗インフルエンザ剤を任意選択により含むことができる。リポソームは、リン脂質およびコレステロールをクロロホルムなどの適切な有機溶媒に溶解し、溶媒を蒸発させて脂質フィルムを形成することにより調製されることができる。本明細書に記載の化合物をリポソームに充填するためにイオノフォアが使用される場合、イオノフォアは蒸発前に脂質溶液に添加され得る。次いで、乾燥された脂質フィルムは、リン酸緩衝生理食塩水または他の生理学的に好適な溶液などの適切な水相で再水和される。水溶性薬物または治療剤は水和溶液に含まれ得るが、遠隔充填が望ましい場合、上記のキレート剤などの充填剤を水和溶液に添加して、リポソームの内部水性空間内に封入し得る。
【0149】
水和溶液を添加したときに、様々なサイズのリポソームが自発的に形成され、水相の一部を封入する。その後、リポソームおよび懸濁水溶液を、米国特許第4,753,788号に記載されている方法に従って、押出、超音波処理、またはホモジナイザーによる処理などの剪断力に供し、特定のサイズの小胞を生成する。
【0150】
次いで、リポソームは、懸濁溶液から望ましくない化合物、例えば、封入されていない薬物を除去するように処理されることができ、これは、ゲルクロマトグラフィーまたは限外濾過などのプロセスによって達成し得る。
【0151】
標的化肺送達のための乾燥粉末エアロゾルにおけるリポソームの使用は、例えば、Willis et al.,Lung,June2012,190(3):251-262に記載されている。
【0152】
投与方法
上記の化合物および薬学的に許容される組成物は、ヒトおよび他の動物に、処置される感染の重症度に応じて経口、直腸、非経口、槽内、膣内、腹腔内、局所(粉剤、軟膏剤、または点滴剤など)、口腔、定量吸入器(MDI)などの吸入器を使用するなどによる肺系への経口または鼻スプレーとしてなどにより、投与されることができる。
【0153】
経口投与用の液体剤形には、薬学的に許容されるエマルジョン、マイクロエマルジョン、溶剤、懸濁剤、シロップ剤、およびエリキシル剤が含まれるが、これらに限定されない。活性化合物に加えて、液体剤形は、例えば水または他の溶媒、可溶化剤、および乳化剤、例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、EtOAc、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、油(特に、綿実油、落花生油、トウモロコシ油、胚芽油、オリーブ油、ヒマシ油、胡麻油)、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコール、およびソルビタンの脂肪酸エステル、ならびにそれらの混合物などの当該技術分野で一般的に使用される不活性希釈剤を含み得る。不活性希釈剤の他に、経口組成物は、湿潤剤、乳化剤および懸濁化剤、甘味剤、香味剤、および芳香剤などの補助剤も含むことができる。
【0154】
注射可能な製剤、例えば、注射可能な滅菌水性または油性懸濁液は、好適な分散剤または湿潤剤および懸濁化剤を使用して、既知の技術に従って製剤化されることができる。滅菌された注射可能な製剤はまた、例えば1,3-ブタンジオール中の溶液として、非毒性の非経口的に許容される希釈剤または溶媒中の注射可能な滅菌溶液、懸濁液またはエマルジョンであり得る。使用されることができる許容されるビヒクルおよび溶媒の中には、水、リンガー液、U.S.P.、および等張性塩化ナトリウム溶液がある。さらに、溶媒または懸濁化媒質として滅菌不揮発性油が慣習的に用いられる。この目的のために、合成モノグリセリドまたはジグリセリドを含む任意の無刺激の(bland)不揮発性油が使用することができる。さらに、オレイン酸などの脂肪酸は、注射剤の調製に使用される。
【0155】
注射可能な製剤は、例えば、細菌保持フィルターを通した濾過により、または使用前に滅菌水または他の注射可能な滅菌媒体に溶解もしくは分散されることができる滅菌固体組成物の形態で滅菌剤を導入することにより、滅菌されることができる。
【0156】
本明細書に記載される化合物の効果を延長するために、皮下注射または筋肉内注射からの化合物の吸収を遅延させることがしばしば望ましい。これは、難水溶性を有する結晶性またはアモルファス材料の液体懸濁液を使用することによって達成され得る。次いで、化合物の吸収速度はその溶解速度に依存し、次に該溶解速度は結晶サイズおよび結晶形に依存し得る。あるいは、非経口的に投与される化合物形態の吸収の遅延は、化合物を油性ビヒクルに溶解または懸濁することによって達成される。注射可能なデポー形態は、ポリラクチド-ポリグリコリドなどの生分解性ポリマー中に化合物のマイクロカプセルマトリックスを形成することによって作られる。薬物とポリマーとの比および使用される特定のポリマーの性質に応じて、薬物放出速度は制御されることができる。他の生分解性ポリマーの例として、ポリ(オルトエステル)およびポリ(無水物)が挙げられる。注射可能なデポー製剤は、体組織に適合性であるリポソームまたはマイクロエマルジョンに化合物を閉じ込めることによっても調製される。
【0157】
直腸または膣投与用の組成物は、具体的には坐薬であり、これは、本明細書に記載の化合物を、周囲温度では固体であるが体温では液体であり、したがって直腸または膣腔で溶けて活性化合物を放出する、カカオバター、ポリエチレングリコールまたは坐薬ワックスなどの好適な非刺激性賦形剤または担体と混合することにより調製されることができる。
【0158】
経口投与用の固体剤形には、カプセル剤、錠剤、丸剤、粉剤、および顆粒剤が含まれる。そのような固体剤形では、活性化合物は、クエン酸ナトリウムまたはリン酸二カルシウムなどの少なくとも1つの不活性な薬学的に許容される賦形剤または担体、ならびに/あるいはa)デンプン、ラクトース、スクロース、グルコース、マンニトール、およびケイ酸などの充填剤または増量剤、b)例えば、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸塩、ゼラチン、ポリビニルピロリジノン、スクロース、およびアカシアなどの結合剤、c)グリセロールなどの保湿剤、d)寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモデンプンまたはタピオカデンプン、アルギン酸、特定のケイ酸塩、および炭酸ナトリウムなどの崩壊剤、e)パラフィンなどの溶解遅延剤、f)第四級アンモニウム化合物などの吸収促進剤、g)例えば、セチルアルコールおよびモノステアリン酸グリセロールなどの湿潤剤、h)カオリンおよびベントナイト粘土などの吸収剤、およびi)タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固体ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウムなどの潤滑剤、およびそれらの混合物と混合される。カプセル剤、錠剤、および丸剤の場合、剤形は緩衝剤を含み得る。
【0159】
同様のタイプの固体組成物は、賦形剤、例えば、ラクトースまたは乳糖、および高分子量ポリエチレングリコールなどを使用して、軟および硬充填ゼラチンカプセル剤の充填剤として使用し得る。錠剤、糖衣錠、カプセル剤、丸剤、および顆粒剤の固体剤形は、腸溶性コーティングなどのコーティングおよびシェル(shell)、ならびに医薬製剤の分野で周知の他のコーティングを使用して調製されることができる。それらは乳白剤を任意選択により含んでもよく、腸管の特定の部分において、任意選択により遅延様式で、活性成分のみまたは活性成分を優先的に放出する組成物でもあることができる。使用されることができる埋め込み(embedding)組成物の例には、高分子物質およびワックスが含まれる。同様のタイプの固体組成物は、賦形剤、例えば、ラクトースまたは乳糖、および高分子量ポリエチレングリコールなどを使用して、軟および硬充填ゼラチンカプセル剤の充填剤として使用し得る。
【0160】
活性化合物はまた、上記のように1つ以上の賦形剤を含むマイクロカプセル化形態であることができる。錠剤、糖衣錠、カプセル剤、丸剤、および顆粒剤の固体剤形は、腸溶性コーティング、放出制御コーティング、および医薬製剤の技術分野で周知の他のコーティングなどのコーティングおよびシェルを使用して調製されることができる。そのような固体剤形では、活性化合物は、スクロース、ラクトース、またはデンプンなどの少なくとも1つの不活性希釈剤と混合され得る。そのような剤形はまた、通常の慣行であるように、不活性希釈剤以外の追加の物質、例えば、錠剤化滑沢剤ならびにステアリン酸マグネシウムおよび微結晶セルロースなどの他の錠剤化助剤も含んでもよい。カプセル剤、錠剤、および丸剤の場合、剤形は緩衝剤も含んでもよい。それらは乳白剤を任意選択により含んでもよく、腸管の特定の部分において、任意選択により遅延様式で、活性成分のみまたは活性成分を優先的に放出する組成物でもあることができる。使用されることができる埋め込み(embedding)組成物の例には、高分子物質およびワックスが含まれる。
【0161】
本明細書に記載の化合物の局所または経皮投与用の剤形には、軟膏剤、ペースト剤、クリーム剤、ローション剤、ゲル剤、粉剤、溶剤、スプレー剤、吸入剤、またはパッチ剤が含まれる。活性成分は、滅菌条件下で、薬学的に許容される担体および必要に応じて任意の必要な防腐剤または緩衝剤と混合される。眼科製剤、点耳剤、および点眼剤もまた、本開示の範囲内であることが企図される。さらに、本開示は、身体への化合物の制御送達を提供する追加の利点を有する経皮パッチの使用を企図している。そのような剤形は、化合物を好適な媒体に溶解または分配することにより作成されることができる。吸収促進剤は、皮膚を通過する化合物の流れを増加させるために使用されることができる。速度は、速度制御膜を提供するか、または化合物をポリマーマトリックスまたはゲルに分散させることにより制御されることができる。
【0162】
本明細書に記載の組成物は、経口、非経口、吸入スプレー、局所、直腸、経鼻、口腔、膣投与し得るし、または埋め込み式リザーバーにより投与し得る。本明細書で使用される「非経口」という用語には、皮下、静脈内、筋肉内、関節内、滑膜内、胸骨内、髄腔内、肝臓内、病巣内、および頭蓋内注射または注入技術が含まれるが、これらに限定されない。具体的には、組成物は、経口、腹腔内、または静脈内投与される。
【0163】
本明細書に記載の組成物の注射可能な滅菌形態は、水性または油性懸濁液であり得る。これらの懸濁液は、好適な分散剤または湿潤剤および懸濁化剤を使用して、当該技術分野で既知の技術に従って製剤化されることができる。注射可能な滅菌製剤はまた、例えば1,3-ブタンジオール中の溶液として、非毒性の非経口的に許容される希釈剤または溶媒中の注射可能な滅菌溶液または懸濁液であっ得る。使用され得る許容されるビヒクルおよび溶媒の中には、水、リンガー液、および等張性塩化ナトリウム溶液がある。さらに、溶媒または懸濁化媒質として滅菌不揮発性油が慣習的に用いられる。この目的のために、合成モノグリセリドまたはジグリセリドを含む任意の無刺激の不揮発性油を使用し得る。オレイン酸およびそのグリセリド誘導体などの脂肪酸は、特にポリオキシエチル化型の、オリーブ油またはヒマシ油などの天然の薬学的に許容される油と同様に、注射剤の調製に有用である。これらの油性溶液または懸濁液はまた、カルボキシメチルセルロースなどの長鎖アルコール希釈剤または分散剤、またはエマルジョンおよび懸濁剤を含む薬学的に許容される剤形の製剤化に一般的に使用される同様の分散剤を含んでもよい。薬学的に許容される固体、液体、または他の剤形の製造に一般的に使用される、Tween、Span、および他の乳化剤または生物学的利用能増強剤などの他の一般的に使用される界面活性剤もまた、製剤化の目的のために使用し得る。
【0164】
本明細書に記載の医薬組成物は、カプセル剤、錠剤、水性懸濁剤または溶剤を含むがこれらに限定されない、任意の経口的に許容される剤形で経口投与され得る。経口使用のための錠剤の場合、一般的に使用される担体には、乳糖およびトウモロコシデンプンが含まれるが、これらに限定されない。ステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤も典型的には添加される。カプセル形態での経口投与の場合、有用な希釈剤にはラクトースおよび乾燥トウモロコシデンプンが含まれる。水性懸濁剤が経口使用に必要な場合、活性成分を乳化剤および懸濁化剤と組み合わせる。所望する場合、特定の甘味剤、香味剤、または着色剤をまた添加し得る。
【0165】
あるいは、本明細書に記載の医薬組成物は、直腸投与用の坐剤の形態で投与され得る。これらは、室温では固体であるが直腸温度では液体であり、したがって直腸で溶けて薬物を放出する、好適な非刺激性賦形剤と薬剤を混合することにより調製されることができる。そのような材料には、カカオバター、蜜蝋、およびポリエチレングリコールが含まれるが、これらに限定されない。
【0166】
本明細書に記載の医薬組成物はまた、特に、処置の標的が、眼、皮膚、または下部腸管の疾患を含む局所適用により容易にアクセス可能な領域または器官を含む場合に局所投与されることができる。好適な局所製剤は、これらの領域または器官のそれぞれについて容易に調製される。
【0167】
下部腸管用の局所適用は、直腸坐剤製剤(上記参照)または好適な浣腸製剤で行い得る。局所経皮パッチをまた使用し得る。
【0168】
局所適用用に、医薬組成物は、1つ以上の担体に懸濁または溶解された活性成分を含有する好適な軟膏剤に製剤化されることができる。本明細書に記載の化合物の局所投与用の担体には、鉱油、流動ワセリン、白色ワセリン、プロピレングリコール、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン化合物、乳化ワックス、および水が含まれるが、これらに限定されない。あるいは、医薬組成物は、1つ以上の薬学的に許容される担体に懸濁または溶解された活性成分を含む好適なローション剤またはクリーム剤に製剤化され得る。好適な担体には、鉱油、モノステアリン酸ソルビタン、ポリソルベート60、セチルエステルワックス、セテアリルアルコール、2-オクチルドデカノール、ベンジルアルコール、および水が含まれるが、これらに限定されない。
【0169】
眼科用途用では、医薬組成物は、等張性pH調整滅菌生理食塩水中の微細化懸濁液として、または具体的には、塩化ベンジルアルコニウムなどの防腐剤を含むもしくは含まない等張性pH調整滅菌生理食塩水中の溶液として製剤化され得る。あるいは、眼科用途用に、医薬組成物はワセリンなどの軟膏剤に製剤化され得る。
【0170】
本明細書に記載の方法で使用するための化合物は、単位剤形で製剤化されることができる。「単位剤形」という用語は、処置を受ける対象の単位と投与量として好適な物理的に別個の単位を指し、各単位は、任意選択により好適な医薬担体を伴って、所望の治療効果をもたらすように計算された所定量の活性材料を含有する。単位剤形は、1回の日用量または複数回の日用量(例えば、1日あたり約1~4回またはそれ以上)用であることができる。複数回の日用量が使用される場合、単位剤形は各用量で同じまたは異なり得る。
【0171】
本開示は、例示的な実施形態を詳述する以下の実施例を参照することによって、より完全に理解されるであろう。しかしながら、それらは開示の範囲を制限するものとして解釈されるべきではない。本開示全体にわたるすべての引用は、参照により明示的に本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0172】
実施例1-細胞変性効果アッセイ
研究を実施して、細胞変性効果(CPE)についてのインフルエンザウイルス細胞ベースのアッセイにおける、試験化合物3-(2-(5-クロロ-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-イル)-5-フルオロ-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-7-イル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸の、他のインフルエンザ抗ウイルス薬とのインビトロ組み合わせ効果を評価した。
【0173】
インフルエンザウイルスA/PR/8/34(H1N1)(ATCC VR-1469)はATCCから入手した。MDCK細胞(ATCC CCL-34)をATCCから入手し、10% ウシ胎児血清(Corning R35-076-CV)、1% L-グルタミン(Gibco 25030081)、1% 非必須アミノ酸(NEAA,Gibco 11140050)、および1% ペニシリン-ストレプトマイシン(PS,HycloneSV30010)を補充したMinimal Essential Medium Eagle(Sigma M2279)で維持した。
【0174】
MDCK細胞の試験培地は、1% L-グルタミン、1% NEAA、1% PSを補充したOptiPRO SFM培地(Gibco 12309019)であり、MDCK細胞の試験培地として2.5μg/mL トリプシンを使用した。
【0175】
384ウェルプレート中で、MDCK細胞をウェルあたり2,000細胞で播種し、37℃、5%CO2で一晩培養した。翌日、2つの薬物の組み合わせペアのそれぞれを、各化合物のみを含む各化合物の7つの薬物濃度のチェックボードクロスパターンを使用して、3反復のプレートで試験した。ピモディビル(VX-787)を、対照化合物として並行して評価した。化合物(DMSO中)をTecan HP D300デジタルディスペンサーでプレーティングした。次にウイルス(2 TCID90/ウェル)を加えた。化合物の試験濃度は、0.125、0.25、0.5、1、2、4、および8×EC50値であった。化合物の組み合わせを表4に示す。細胞培養培地中のDMSO(Sigma 34869)の最終濃度は0.5%であった。得られた培養物を、ウイルス対照におけるウイルス感染が有意なCPEを表示するまで(生存細胞数の減少によって評価されるように)、37℃および5%CO2で追加の5日間インキュベートした。次に、細胞の生存率を評価するために、CCK-8キット溶液(1ボトル比色システム、Biolite 35004)を各ウェルに添加し、細胞を37℃で3時間インキュベートした。吸光度(460nm)をSpectraMax 340PC384プレートリーダー(Molecular Devices)を使用して測定した。
化合物の組み合わせの抗ウイルス活性および細胞毒性を、それぞれ、%阻害および%生存率として表し、以下の式で計算した。
阻害(%)=(生データcpd-平均VC)/(平均CC-平均VC)*100
生存率(%)=(生データcpd-平均MC)/(平均CC-平均MC)*100
生データcpdは、化合物で処理したウェルの吸光度値を表す。平均VC、平均CC、および平均MCは、それぞれ、ウイルス対照(VC;ウイルスに感染した細胞、化合物なし)、細胞対照(CC;ウイルスまたは化合物なしの細胞)、および培地対照(MC、培地のみ)の平均吸光度値である。組み合わせ指数は、MacSynergy(商標)IIソフトウェアを使用して算出した(Prichard and Shipman,1990)。次に、相乗性量プロット(95%)を計算した。正の組み合わせ指数値は相乗性を示し、負の組み合わせ指数値は拮抗性を示す。
【0176】
以下の表に示すように、3-(2-(5-クロロ-1H-ピロロ[2,3-b]ピリジン-3-イル)-5-フルオロ-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-7-イル)ビシクロ[2.2.2]オクタン-2-カルボン酸は、IFV A/PR/8/34(H1N1)に対するインフルエンザ抗ウイルスCPEアッセイにおいて、バロキサビル(バロキサビルマルボキシルプロドラッグの遊離ヒドロキシル型)、オセルタミビル酸、およびファビピラビルを含むインフルエンザ抗ウイルス薬と強い相乗効果を示した。
【表1】
【0177】
25未満の絶対組み合わせインデックス値(つまり、相乗性量95%)は、相加効果を示す。25~50の絶対組み合わせインデックス値は、わずかな相乗性または拮抗性を示す。50~100の絶対組み合わせインデックス値は、中程度の相乗性または拮抗性を示す。100を超える絶対組み合わせインデックス値は、強い相乗性または拮抗性を示す。
【0178】
図1~3は、3つの試験の組み合わせについてそれぞれ計算されたプロットを視覚的に表したものである。
【0179】
化合物1とバロキサビル(バロキサビルマルボキシルプロドラッグの遊離ヒドロキシル型)、オセルタミビル酸、およびファビピラビルとのこれらの同じ3つの組み合わせも、B型インフルエンザに対して抗ウイルス活性を示す。