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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】蛍光体粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/08 20060101AFI20241028BHJP
   C09K 11/64 20060101ALI20241028BHJP
【FI】
C09K11/08 B
C09K11/64
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021533942
(86)(22)【出願日】2020-07-10
(86)【国際出願番号】 JP2020026998
(87)【国際公開番号】W WO2021015004
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2023-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2019134712
(32)【優先日】2019-07-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】赤羽 雅斗
(72)【発明者】
【氏名】江本 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】吉松 良
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-095769(JP,A)
【文献】特開2012-082269(JP,A)
【文献】特開2008-274254(JP,A)
【文献】特開2015-193857(JP,A)
【文献】特開平08-236035(JP,A)
【文献】特開2018-090819(JP,A)
【文献】特開2015-224339(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sr、Mg、CaおよびBaからなる群より選択される少なくとも1種の元素M、Li、およびNaからなる群より選択される少なくとも1種の元素M、Eu、およびCeからなる群より選択される少なくとも1種の元素M、Al、及びNからなる群を含む組成
を有する蛍光体粒子の製造方法であって、
前記蛍光体粒子に含まれる蛍光体が、一般式M Al 4-d (ただし、M はSr、Mg、CaおよびBaから選ばれる1種以上の元素であり、M はLiおよびNaから選ばれる1種以上の元素であり、M はEuおよびCeから選ばれる1種以上の元素である。)で表される組成を有し、前記a、b、c、およびdが次の各式を満たすものであり、
0.850≦a≦1.150
0.850≦b≦1.150
0.001≦c≦0.015
0≦d≦0.40
0≦d/(a+d)<0.30
前記組成を構成する各元素を含む原料混合物とLiFとを混合して混合物を得る混合工程と、
前記混合物を焼成する焼成工程と、
前記焼成工程後の前記混合物を、粉砕して粉砕物を得る粉砕工程と、
前記粉砕物に、酸とアルコールと含む混合液を用いて酸処理を施す酸処理工程と、
前記酸処理工程後の前記粉砕物に、フッ酸処理を施すフッ酸処理工程と、
前記フッ酸処理工程後の前記粉砕物を、大気中で加熱する加熱処理工程と、
を有する蛍光体粒子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の蛍光体粒子の製造方法であって、
前記混合工程において、前記LiFの添加量は、前記LiFと前記原料混合物との合計100質量%に対して、1質量%以上である、蛍光体粒子の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の蛍光体粒子の製造方法であって、
前記アルコールが、MeOH、EtOHおよびIPAからなる群より選ばれる一種以上を含む、蛍光体粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の蛍光体粒子の製造方法であって、
前記酸処理工程において、前記酸が無機酸を含む、蛍光体粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の蛍光体粒子の製造方法であって、
前記無機酸が、硝酸を含む、蛍光体粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の蛍光体粒子の製造方法であって、
前記酸処理工程において、0.5時間以上5時間以下の間、前記粉砕物を前記混合液中に入れる、蛍光体粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の蛍光体粒子の製造方法であって、
前記フッ酸処理工程において、フッ化水素の濃度が20質量%以上40質量%以下のフッ酸を、前記粉砕物に処理する、蛍光体粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項1~に記載の蛍光体粒子の製造方法であって、
前記Mは、少なくともSrを含み、前記Mは、少なくともLiを含み、前記Mは、少なくともEuを含む、蛍光体粒子の製造方法。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載の蛍光体粒子の製造方法であって、
前記焼成工程において、1時間以上10時間以下の間、加熱時間を900℃以上1300℃以下の範囲の一定温度で保つ、蛍光体粒子の製造方法。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項に記載の蛍光体粒子の製造方法であって、
前記加熱処理工程において、加熱温度が220℃以上380℃以下である、蛍光体粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで蛍光体について様々な開発がなされてきた。この種の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1には、SrLiAl:Eu(SLAN蛍光体)の製造方法について記載されている(特許文献1の請求項1、段落0113など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2013/175336号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が検討した結果、上記特許文献1に記載の蛍光体粒子の製造方法において、内部量子効率の点で改善の余地があることが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は検討したところ、蛍光体粒子の製造過程で生じる異相によって、内部量子効率などの蛍光体の発光特性が低下することがあることを見出した。
このような知見に基づきさらに鋭意研究したところ、蛍光体粒子の原料混合物に混合するフラックスの種類を適切に選択し、製造過程中に酸とアルコールとを含む混合液を用いた酸処理を行うことによって、内部量子効率に優れた蛍光体粒子を実現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
詳細なメカニズムは定かではないが、LiFが適切なフラックスとして機能するため、粒成長が促進し蛍光体粒子の光学特性を向上させることができる、そして、酸処理を施すことで、LiFを使用したときに生じる異相を除去することが可能であるため、と考えられる。
【0007】
一方、フラックスとしてSrFを使用した場合、反応後に残存する異相の残存量がLiFと比べて多くなるため、たとえ酸処理を施したとしても、その除去が困難になるため、内部量子効率が低下する結果が得られている。
【0008】
本発明によれば、
Sr、Mg、CaおよびBaからなる群より選択される少なくとも1種の元素M、Li、およびNaからなる群より選択される少なくとも1種の元素M、Eu、およびCeからなる群より選択される少なくとも1種の元素M、Al、及びNからなる群を含む組成
を有する蛍光体粒子の製造方法であって、
前記組成を構成する各元素を含む原料混合物とLiFとを混合して混合物を得る混合工程と、
前記混合物を焼成する焼成工程と、
前記焼成工程後の前記混合物を、粉砕して粉砕物を得る粉砕工程と、
前記粉砕物に、酸とアルコールと含む混合液を用いて酸処理を施す酸処理工程と、
前記酸処理工程後の前記粉砕物に、フッ酸処理を施すフッ酸処理工程と、
前記フッ酸処理工程後の前記粉砕物を、大気中で加熱する加熱処理工程と、
を有する蛍光体粒子の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、内部量子効率に優れた蛍光体粒子の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態の蛍光体粒子の製造方法について説明する。
【0011】
蛍光体粒子の製造方法は、Sr、Mg、CaおよびBaからなる群より選択される少なくとも1種の元素M、LiおよびNaからなる群より選択される少なくとも1種の元素M、EuおよびCeからなる群より選択される少なくとも1種の元素M、Al、及びNからなる群を含む組成を有する蛍光体粒子(蛍光体粒子)を製造するものである。
【0012】
蛍光体粒子の製造方法は、混合工程、焼成工程、粉砕工程、酸処理工程、フッ酸処理工程、及び加熱処理工程を含むことができる。
各工程について詳述する。
【0013】
(混合工程)
混合工程は、蛍光体の組成を構成する各元素を含む原料混合物と、フラックスとしてLiFとを混合して混合物を得る。例えば、目的とする蛍光体粒子が得られるように秤量した各原料を混合して粉末状の混合物を得てもよい。
【0014】
原料を混合する方法は、特に限定されないが、たとえば、乳鉢、ボールミル、V型混合機、遊星ミルなどの混合装置を用いて十分に混合する方法がある。
なお、空気中の水分や酸素と激しく反応する窒化ストロンチウム、窒化リチウム等は、内部が不活性雰囲気で置換されたグローブボックス内や混合装置を用いて取り扱うことが適切である。
【0015】
混合工程において、Alのモル比を3としたときのMの仕込み量がモル比で1.10以上であることが好ましい。Mの仕込み量をモル比で1.10以上とすることにより、焼成工程中のMの揮発などにより蛍光体中のMが不足することが抑制され、Mに欠陥が生じにくくなり、結晶性が良好に保たれる。この結果、狭帯域の蛍光スペクトルが得られ、発光強度を高めることができると推測される。また、混合工程において、Alのモル比を3としたときのMの仕込み量がモル比で1.20以下であることが好ましい。Mの仕込み量をモル比で1.20以下とすることにより、Mを含む異相の増加を抑制し、酸処理工程により異相の除去が容易になり、発光強度を高めることができる。
【0016】
混合工程において用いられる各原料は、蛍光体の組成に含まれる金属元素の金属単体および当該金属元素を含む金属化合物からなる群より選ばれる1種以上を含むことができる。金属化合物としては、窒化物、水素化物、フッ化物、酸化物、炭酸塩、塩化物等が挙げられる。このうち、蛍光体の発光強度を向上させる観点から、MおよびMを含む金属化合物として窒化物が好ましく用いられる。具体的には、Mを含む金属化合物として、Sr、SrN、SrNなどが挙げられる。Mを含む金属化合物として、LiN、LiNなどが挙げられる。Mを含む金属化合物としては、Eu、EuN、EuFが挙げられる。Alを含む金属化合物としては、AlN、AlH、AlF、LiAlHなどが挙げられる。
【0017】
混合工程において、LiFの添加量の下限は、LiFと原料混合物との合計100質量%に対して、例えば、1質量%以上、好ましくは2質量%以上、より好ましくは4質量%以上である。これにより、内部量子効率に優れた蛍光体粒子を実現できる。一方、LiFの添加量の上限は、LiFと原料混合物との合計100質量%に対して、例えば、10質量%以下でもよく、好ましくは5質量%以下でもよい。
フラックスとして、LiF単独で使用してもよいが、他のフラックスと併用して使用してもよい。
混合工程で使用されるフラックス中のLiFの含有量は、例えば、50質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは100質量%である。
【0018】
(焼成工程)
焼成工程は、上述した混合物を焼成する。例えば焼成容器の内部に充填した混合物を焼成してもよい。
【0019】
焼成容器は、気密性を高められる構造を備えていることが好ましい。焼成容器は、高温の雰囲気ガス下において安定で、原料の混合体及びその反応生成物と反応しにくい材質で構成されることが好ましく、たとえば、窒化ホウ素製、カーボン製の容器や、モリブデンやタンタルやタングステン等の高融点金属製の容器を使用することが好ましい。
【0020】
焼成容器の内部はアルゴン、ヘリウム、水素、窒素等の非酸化性ガスの雰囲気ガスで満たすことが好ましい。
【0021】
[焼成温度]
焼成工程における焼成温度の下限は、900℃以上が好ましく、1000℃以上がより好ましく、1100℃以上がさらに好ましい。一方、焼成温度の上限は、1500℃以下が好ましく、1400℃以下がより好ましく、1300℃以下がさらに好ましい。焼成温度を上記範囲とすることにより、焼成工程終了後の未反応原料を少なくでき、また主結晶相の分解を抑制することができる。
【0022】
[焼成雰囲気ガスの種類]
焼成工程における焼成雰囲気ガスの種類としては、例えば元素としての窒素を含むガスを好ましく用いることができる。具体的には、窒素および/またはアンモニアを挙げることができ、特に窒素が好ましい。また同様に、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスも好ましく用いることができる。なお焼成雰囲気ガスは1種類のガスで構成されていても、複数の種類のガスの混合ガスであっても構わない。
【0023】
[焼成雰囲気ガスの圧力]
焼成雰囲気ガスの圧力は、焼成温度に応じて選択されるが、通常0.1MPa・G以上10MPa・G以下の範囲の加圧状態である。焼成雰囲気ガスの圧力が高いほど、蛍光体の分解温度は高くなるが、工業的生産性を考慮すると0.5MPa・G以上1MPa・G以下とすることが好ましい。
【0024】
[焼成時間]
焼成工程における焼成時間は、未反応物が多く存在したり、蛍光体の粒子が成長不足であったり、或いは生産性の低下という不都合が生じない時間範囲が選択される。焼成時間の下限は、0.5時間以上が好ましく、1時間以上がより好ましく、2時間以上がさらに好ましい。また、焼成時間の上限は、48時間以下が好ましく、36時間以下がより好ましく、24時間以下がさらに好ましい。
【0025】
(粉砕工程)
粉砕工程は、焼成工程後の原料混合物(焼成物)を、粉砕して粉砕物を得る。
【0026】
焼成工程により得られる焼成物の状態は、原料配合や焼成条件によって、粉体状、塊状と様々である。解砕・粉砕工程及び/又は分級操作工程によって、焼成物を、所定のサイズの粉末状にできる。
【0027】
上述の解砕・粉砕工程では、その処理に由来する不純物の混入を防ぐため、焼成物と接触する機器の部材が、窒化ケイ素、アルミナ、サイアロンといったセラミックス製であることが好ましい。
【0028】
なお、粉砕物の平均粒子径は、蛍光体粒子の平均粒子径が5μm以上30μm以下となるように調整されてもよい。これによって、蛍光体粒子は、励起光の吸収効率および発光効率に優れたものとなるため、LED用等に好適に用いることができる。
【0029】
(酸処理工程)
酸処理工程は、粉砕物に対して、酸とアルコールと含む混合液を用いて酸処理する。
酸処理は、酸とアルコールと含む混合液中に粉砕物に加えてもよく、アルコール中の粉砕物に酸を加えてもよい。酸処理中、混合液を静置してもよいが、適当な条件で攪拌してもよい。
また、酸処理後、必要に応じて、アルコールを用いてデカンテーション(固液分離処理)を施してもよい。デカンテーションは、1回又は2回以上行ってもよい。これにより、粉砕物中から酸を洗浄除去できる。
その後、粉砕物に対して、ろ過、乾燥する。
【0030】
酸は、例えば、無機酸を使用してもよく、具体的には、硝酸、塩酸、酢酸、硫酸、蟻酸、及びリン酸等が挙げられる。無機酸の中でも、硝酸または塩酸の少なくとも一方を含むことが好ましい。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
混合液は、水溶媒を含んでもよい。
【0032】
アルコールとしては、例えば、脂肪族アルコール、具体的には、MeOH、EtOH、IPAなどが用いられる。
【0033】
混合液中の酸の濃度が、例えば、0.1質量%~5質量%、好ましくは0.5質量%~3質量%となるようにアルコールと酸とを混合してもよい。
【0034】
酸処理によって、原料に含まれる不純物元素、焼成容器に由来する不純物元素、焼成工程で生じた異相、粉砕工程にて混入した不純物元素を溶解除去できる。すなわち、酸処理は、異物等を洗浄できる。これにより、蛍光体の内部量子効率を向上できる。
【0035】
酸処理の一例として、酸とアルコールとを含む混合液に、例えば0.5時間以上5時間以下程度、粉砕物を分散・浸漬させてもよい。
【0036】
(フッ酸処理工程)
フッ酸処理は、酸処理工程後の粉砕物に、フッ酸処理を施す。
【0037】
フッ酸処理には、フッ素元素を含む化合物として、フッ化水素を含む水溶液、いわゆるフッ酸が好ましく用いられる。
フッ酸処理は、例えば、フッ酸中に粉砕物を加えてもよい。
フッ酸中のフッ化水素(HF)の濃度の下限は、20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。一方、フッ酸中のフッ化水素の濃度の上限は、40%質量以下が好ましく、38質量%以下がより好ましく、35質量%以下がさらに好ましい。
フッ化水素の濃度を上記下限値以上とすることにより、蛍光体を含む粒子の最表面の少なくとも一部に(NHAlFを含む被覆部を形成することができる。一方、フッ化水素の濃度を上記上限値以下とすることにより、粒子とフッ酸との反応が激しくなり過ぎることを抑制することができる。
【0038】
粉砕物とフッ酸との混合は、スターラーなどの攪拌手段により行うことができる。
上記粉砕物とフッ酸との混合時間の下限は、5分以上が好ましく10分以上がより好ましく、15分以上がさらに好ましい。一方、上記焼成物とフッ酸との混合時間の上限は、30分以下が好ましく、25分以下がより好ましく、20分以下がさらに好ましい。
上記粉砕物とフッ酸との混合時間を上記範囲とすることにより、蛍光体を含む粒子の最表面の少なくとも一部に(NHAlFを含む被覆部を安定的に形成することができる。
【0039】
本実施形態において、酸処理工程における酸および溶媒の種類、酸の濃度、フッ酸処理工程における、フッ酸の濃度、フッ酸処理の時間、フッ酸処理後に行う加熱処理工程における加熱温度および加熱時間等を適切に調整することにより、蛍光体を含む粒子の表面を被覆する被覆部を形成できる。
【0040】
(加熱処理工程)
加熱処理は、フッ酸処理後の粉砕物を、大気中で加熱する。
【0041】
フッ酸処理により得られる結果物が被覆部として(NHAlFを含む場合、加熱処理工程を実施することにより、(NHAlFの一部または全部を、AlFに変更できる。
【0042】
加熱処理工程における加熱温度の下限は220℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましい。一方、上記加熱温度の上限は、380℃以下が好ましく、350℃以下がより好ましく、330℃以下がさらに好ましい。
【0043】
加熱温度を上記下限以上とすることにより、下記反応式(1)を進行させることにより、(NHAlFをAlFに変えることができる。
(NHAlF→AlF+3NH+3HF・・・(1)
【0044】
一方、加熱温度を上記上限以下とすることにより、蛍光体の結晶構造を良好に維持し、発光強度を高めることができる。
【0045】
加熱時間の下限は、1時間以上が好ましく、1.5時間以上がより好ましく、2時間以上がさらに好ましい。一方、加熱時間の上限は、6時間以下が好ましく、5.5時間以下がより好ましく、5時間以下がさらに好ましい。加熱時間を上記範囲とすることにより、(NHAlFを耐湿性がより高いAlFに確実に変えることができる。
【0046】
なお、加熱処理工程は大気中あるいは窒素雰囲気下で実施することが好ましい。これによれば、加熱雰囲気の物質自身が上記の反応式(1)を阻害することなく、目的の物質を生成することができる。
【0047】
本実施形態の蛍光体粒子について説明する。
【0048】
本実施形態の蛍光体粒子は、蛍光体を含む粒子と、粒子の表面を被覆する被覆部と、を含む表面被覆蛍光体粒子で構成されてもよい。
【0049】
蛍光体粒子に含まれる蛍光体は、一般式M Al4-dで表される組成を有する。一般式中、MはSr、Mg、CaおよびBaから選ばれる1種以上の元素であり、MはLiおよびNaから選ばれる1種以上の元素であり、MはEuおよびCeから選ばれる1種以上の元素である。一般式中、a、b、c、4-d、およびdは、各元素のモル比を示す。
【0050】
一般式中のa、b、c、およびdが次の各式を満たすものである。
0.850≦a≦1.150
0.850≦b≦1.150
0.001≦c≦0.015
0≦d≦0.40
0≦d/(a+d)<0.30
【0051】
は、Sr、Mg、CaおよびBaから選ばれる1種以上の元素であり、好ましくは、少なくともSrを含む。Mのモル比aの下限は、0.850以上が好ましく、0.950以上がより好ましい。一方、Mのモル比aの上限は、1.150以下が好ましく、1.100以下がより好ましく、1.050以下がさらに好ましい。Mのモル比aを上記範囲とすることにより、結晶構造安定性を向上させることができる。
【0052】
はLiおよびNaから選ばれる1種以上の元素であり、好ましくは、少なくともLiを含む。Mのモル比bの下限は、0.850以上が好ましく、0.950以上がより好ましい。一方、Mのモル比bの上限は、1.150以下が好ましく、1.100以下がより好ましく、1.050以下がさらに好ましい。Mのモル比aを上記範囲とすることにより、結晶構造安定性を向上させることができる。
【0053】
は、母体結晶に添加される賦活剤、すなわち蛍光体の発光中心イオンを構成する元素であり、EuおよびCeから選ばれる1種以上の元素である。Mは、求められる発光波長によって選択することができ、好ましくは少なくともEuを含む。
のモル比cの下限は0.001以上が好ましく、0.005以上がより好ましい。一方、Mのモル比cの上限は0.015以下が好ましく、0.010以下がより好ましい。Mのモル比cの下限を上記範囲とすることにより、十分な発光強度を得ることができる。また、Mのモル比cの上限を上記範囲とすることにより、濃度消光を抑制し、発光強度を十分な値に保つことができる。
【0054】
酸素(O)のモル比dの下限は0以上が好ましく、0.05以上がより好ましい。一方、酸素のモル比dの上限は、0.40以下が好ましく、0.35以下がより好ましい。酸素のモル比dを上記範囲とすることにより、蛍光体の結晶状態を安定化させ、発光強度を十分な値に保つことができる。
また、蛍光体中の酸素元素の含有量は2質量%未満が好ましく、1.8質量%以下がより好ましい。酸素元素の含有量を2質量%未満とすることにより、蛍光体の結晶状態を安定化させ、発光強度を十分な値に保つことができる。
【0055】
および酸素のモル比、即ちa、dから算出されるd/(a+d)の値の下限は、0以上が好ましく、0.05以上がより好ましい。一方、d/(a+d)の値の上限は、0.30未満が好ましく、0.25以下がより好ましい。d/(a+d)を上記範囲とすることにより、蛍光体の結晶状態を安定化させ、発光強度を十分な値に保つことができる。
【0056】
被覆部は、上述した蛍光体を含む粒子の最表面の少なくとも一部を構成する。当該被覆部は、フッ素元素およびアルミニウム元素を含有するフッ素含有化合物を含む。
【0057】
フッ素含有化合物において、フッ素元素とアルミニウム元素とが直接に共有結合していることが好ましく、より具体的には、フッ素含有化合物は、(NHAlFまたはAlFのいずれか一方または両方を含むことが好ましい。なお、フッ素含有化合物は、フッ素元素およびアルミニウム元素を含有する単一の化合物により構成されていてもよい。
【0058】
フッ素含有化合物を含む被覆部が蛍光体を含む粒子の最表面の少なくとも一部を構成することにより、粒子を構成する蛍光体の耐湿性を向上させることができる。なお、蛍光体の耐湿性をより一層向上させる観点から、被覆部がAlFを含むことがより好ましい。
【0059】
被覆部の態様は特に制限されない。被覆部の態様として、たとえば、粒子状のフッ素含有化合物が蛍光体を含む粒子の表面に多数分布している態様や、フッ素含有化合物が蛍光体を含む粒子の表面を連続的に被覆する態様が挙げられる。被覆部は、粒子表面の一部または全体を覆うように構成してもよい。
【0060】
以下、蛍光体粒子の特性について説明する。
【0061】
蛍光体粒子において、波長300nmの光照射に対する拡散反射率が、例えば、56%以上、好ましくは65%以上、より好ましくは70%以上である。
また、蛍光体粒子において、蛍光スペクトルのピーク波長における光照射に対する拡散反射率が、例えば、80%以上、好ましくは83%以上、より好ましくは85%以上である。
このような拡散反射率を備えることにおり、さらに発光効率が高くなり発光強度が向上する。
【0062】
波長455nmの青色光で励起したとき、蛍光体粒子は、ピーク波長が、例えば640nm以上670nm以下の範囲にあり、その半値幅が、例えば、45nm以上60nm以下を満たすように構成されてもよい。このような特性を備えることにより、優れた演色性や色再現性が期待できる。
【0063】
波長455nmの青色光で励起した場合、蛍光体粒子は、CIE-xy色度図におけるx値が、例えば、0.680≦x<0.735を満たすように構成されてもよい。
このような特性を備えることにより、優れた演色性や色再現性が期待できる。x値が0.680以上であれば色純度の良い赤色発光をさらに期待でき、x値が0.735以上の値はCIE-xy色度図内の最大値を超えるため、上記範囲を満たすことが好ましい。
【0064】
以下、本実施形態に係る発光装置について説明する。
本実施形態に係る発光装置は、蛍光体粒子と発光素子とを有する。
【0065】
発光素子として、紫外LED、青色LED、蛍光ランプの単体又はこれらの組み合わせを用いることができる。発光素子は、250nm以上550nm以下の波長の光を発するものが望ましく、なかでも420nm以上500nm以下の青色LED発光素子が好ましい。
【0066】
蛍光体粒子として、蛍光体粒子の他に、他の発光色を持つ蛍光体粒子を併用してもよい。
他の発光色の蛍光体粒子として、青色発光蛍光体粒子、緑色発光蛍光体粒子、黄色発光蛍光体粒子、橙色発光蛍光体粒子、赤色蛍光体があり、例えば、CaScSi12:Ce、CaSc:Ce、β-SiAlON:Eu、YAl12:Ce、TbAl12:Ce、(Sr、Ca、Ba)SiO:Eu、LaSi11:Ce、α-SiAlON:Eu、SrSi:Eu等が挙げられる。
【0067】
他の蛍光体粒子は、特に限定されるものではなく、発光装置に要求される輝度や演色性等に応じて適宜選択可能である。蛍光体粒子と他の発光色の蛍光体粒子とを混在させることにより、昼白色や電球色などの様々な色温度の白色を実現することができる。
【0068】
発光装置の具体例として、例えば、照明装置、バックライト装置、画像表示装置、信号装置等が挙げられる。
【0069】
発光装置は、蛍光体粒子を備えることにより、高い発光強度を実現しつつ、信頼性を高めることができる。
【0070】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例
【0071】
以下、本発明について実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0072】
<蛍光体粒子の作製>
(比較例1)
[混合工程]
大気中で、AlN(トクヤマ社製)、Eu(信越化学工業社製)およびLiF(和光純薬製)を秤量、混合したのち、目開き150μmのナイロン篩で凝集を解砕し、プレ混合物を得た。
プレ混合物を、水分1ppm以下、酸素1ppm以下とした窒素雰囲気を保持しているグローブボックス中に移動させた。その後、化学量論比(a=1、b=1)でaの値が15%過剰、bの値が20%過剰になるように、Sr(太平洋セメント社製)およびLiN(Materion社製)を秤量後、追加配合して混合後、目開き150μmのナイロン篩で凝集を解砕して蛍光体の原料混合物を得た。SrおよびLiは焼成中に飛散しやすいため、理論値より多めに配合した。
ここで、Alのモル比を3としたときのSrの仕込み量をモル比で1.15とするとともに、Euの仕込み量をモル比で0.01とした。前記原料混合物とフラックスの合計量100質量%に対して、5質量%のLiFをフラックスとして添加した。なお、Euは前述したようにAlのモル比を3としたときの仕込み量をモル比で0.01とした。
【0073】
[焼成工程]
次いで、原料混合物を蓋付きの円筒型BN製容器(デンカ社製)に充填した。
次いで、蛍光体の原料混合物を充填した容器をグローブボックスから取り出した後、グラファイト断熱材を備えたカーボンヒーター付きの電気炉(富士電波工業社製)にセットし、焼成工程を実施した。
焼成工程の開始にあっては、電気炉内を真空状態まで一旦脱ガスしたのち、室温から0.8MPa・Gの加圧窒素雰囲気下で焼成を開始した。電気炉内の温度が1100℃に到達後は、8時間温度を保ちながら焼成を続け、その後室温まで冷却した。
【0074】
[粉砕工程]
得られた焼成物は乳鉢で粉砕後、目開き75μmのナイロン篩で分級し、比較例1の蛍光体粉末を得た。
【0075】
(実施例1)
比較例1と同様にして得られた蛍光体粉体5gを、500mlのMeOH(純度99%)(国産化学社製)に10mlの硝酸(HNO濃度60%)(和光純薬社製)を加えた混合溶液中に加えて3時間撹拌した後、MeOHによるデカンテーションで中性とした後、ろ過、乾燥し、蛍光体粉末を得た。
[フッ酸処理工程]
得られた蛍光体粉末を、フッ化水素の濃度が30%のフッ酸中に加え、15分間撹拌することでフッ酸処理工程を実施した。フッ酸処理工程の後、目開き45μmの篩を全通させることで、凝集を解いた。
[加熱処理]
凝集を解いた蛍光体粉末に対して、大気雰囲気下で300℃、4時間の加熱処理を実施して、実施例1の蛍光体粉末を得た。
【0076】
(実施例2)
比較例1と同様にして得られた蛍光体粉体を、EtOHに硝酸(HNO濃度60%)(和光純薬社製)を加えた混合溶液中に加えて3時間撹拌した以外は、実施例1と同様な原料の仕込み量および手順にて実施例2の蛍光体粉末を得た。
【0077】
(実施例3)
比較例1と同様にして得られた蛍光体粉体を、IPAに硝酸(HNO濃度60%)(和光純薬社製)を加えた混合溶液中に加えて3時間撹拌した以外は、実施例1と同様な原料の仕込み量および手順にて実施例3の蛍光体粉末を得た。
【0078】
(比較例2)
フラックスとして、LiFに代えて、SrFを使用した以外は、実施例1と同様な原料の仕込み量および手順にて比較例2の蛍光体粉末を得た。
【0079】
実施例1~3、比較例1で得られた蛍光体粉末について、Cu-Kα線を用いた粉末X線回折測定(XRD測定)により結晶相を調べたところ、結晶相は、いずれも、SrLiEuAl4-dで表される組成を有する蛍光体であることを確認した。
【0080】
得られた蛍光体粒子について、SrLiEuAl4-dの各元素の添字a~dを求めた。具体的に、Sr、Li、Al及びEuについて、ICP発光分光分析装置(SPECTRO社製、CIROS-120)を用い、O及びNについて、酸素窒素分析計(堀場製作所社製、EMGA-920)を用いた分析結果を用いて、添字a~dを算出した。
各蛍光体粒子のa~dの数値を表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
得られた蛍光体粒子について、以下の評価項目に基づいて評価を行った。
【0083】
(内部量子効率、ピーク波長、半値幅、色度x)
積分球(φ60mm)の側面開口部(φ10mm)に反射率が99%の標準反射板(Labsphere社製、スペクトラロン)をセットした。この積分球に、発光光源としてのXeランプから455nmの波長に分光した単色光を光ファイバーにより導入し、反射光のスペクトルを分光光度計(大塚電子社製、MCPD-7000)により測定した。その際、450~465nmの波長範囲のスペクトルから励起光フォトン数(Qex)を算出した。次に、凹型のセルに表面が平滑になるように蛍光体を充填したものを積分球の開口部にセットし、波長455nmの単色光を照射し、励起の反射光及び蛍光のスペクトルを分光光度計により測定した。得られたスペクトルデータから励起反射光フォトン数(Qref)及び蛍光フォトン数(Qem)を算出した。励起反射光フォトン数は、励起光フォトン数と同じ波長範囲で、蛍光フォトン数は、465~800nmの範囲で算出した。得られた三種類のフォトン数から内部量子効率=Qem/(Qex-Qref)×100を求めた。
また、この測定で得られた蛍光スペクトルからピーク波長、半値幅及び色度x値を求めた。尚、色度はJIS Z 8724(色の測定方法-光源色-)に準じた方法で、JIS Z 8701に規定されるXYZ表色系における算出法により、色度座標(x、y)を算出した。但し、色度座標算出に用いる波長範囲は550~780nmとした。
【0084】
(700nmの吸収率)
発光光源としてのXeランプから700nmの波長に分光した単色光を用いた以外は前記と同様の測定を行った。標準反射板及び蛍光体の反射スペクトルに対して、695~710nmの波長範囲のスペクトルからそれぞれQex、Qrefを算出し、吸収率=(Qex-Qref)/Qex×100を求めた。
【0085】
(拡散反射率)
拡散反射率は、紫外可視分光光度計(日本分光社製、V-550)に積分球装置(ISV-469)を取り付けて測定した。標準反射板(スペクトラロン)でベースライン補正を行い、得られた蛍光体粒子を充填した固体試料ホルダーを取り付けて、300nmおよびピーク波長の光に対する拡散反射率の測定を行った。
【0086】
実施例1~3の粉末状の蛍光体粒子において、比較例1、2と比べて、内部量子効率が向上するという結果が示された。
【0087】
この出願は、2019年7月22日に出願された日本出願特願2019-134712号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。