IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋鋼鈑株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-銅張積層体及びその製造方法 図1
  • 特許-銅張積層体及びその製造方法 図2
  • 特許-銅張積層体及びその製造方法 図3
  • 特許-銅張積層体及びその製造方法 図4
  • 特許-銅張積層体及びその製造方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】銅張積層体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 18/20 20060101AFI20241028BHJP
   C23C 18/38 20060101ALI20241028BHJP
   H05K 3/38 20060101ALI20241028BHJP
【FI】
C23C18/20 Z
C23C18/20 A
C23C18/38
H05K3/38 A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021542704
(86)(22)【出願日】2020-08-07
(86)【国際出願番号】 JP2020030460
(87)【国際公開番号】W WO2021039370
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2019157429
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】迎 展彰
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-254606(JP,A)
【文献】特開2017-208540(JP,A)
【文献】特開2002-256443(JP,A)
【文献】特開2016-113688(JP,A)
【文献】特開2012-214889(JP,A)
【文献】特開2010-159478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 15/08
C23C 18/20
C23C 18/28
C23C 18/48
H05K 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数10GHzにおける比誘電率が3.5以下、且つ誘電正接が0.008以下である低誘電樹脂フィルムと、
前記低誘電樹脂フィルムの少なくとも一方の面に積層された無電解銅めっき層と、
を含み、
前記無電解銅めっき層が無電解Cu-Ni合金めっき層であって、
前記低誘電樹脂フィルムのうち前記無電解Cu-Ni合金めっき層と接するめっき層側界面における平均表面粗さRaが1~150nmであり、且つ、前記樹脂フィルムと前記無電解Cu-Ni合金めっき層との90°ピール強度が4.2N/cm以上であり、
前記樹脂フィルムのめっき層側界面は、水酸基が付与されてなり、且つ、前記めっき層側界面において前記水酸基はカルボキシル基よりも多く付与され、
前記めっき層側界面のTOF-SIMSスペクトルにおいて質量数121のピーク強度が1000以上である、ことを特徴とする銅張積層体。
【請求項2】
前記樹脂フィルムのめっき層側界面における飛行時間型質量分析法(TOF-SIMS)による質量121の強度が、800以上である、請求項1に記載の銅張積層体。
【請求項3】
前記樹脂フィルムが、ポリイミド、変性ポリイミド、液晶ポリマー、フッ素系樹脂の何れか、もしくはその混成物である、請求項1又は2に記載の銅張積層体。
【請求項4】
前記無電解Cu-Ni合金めっき層におけるNiの含有率が3wt%以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の銅張積層体。
【請求項5】
前記無電解Cu-Ni合金めっき層の厚みが0.1~1.0μmの範囲である、請求項1~のいずれか一項に記載の銅張積層体。
【請求項6】
前記樹脂フィルムの、無電解Cu-Ni合金めっき層側の界面に、Cu、Ni、Pd、Agのいずれかからなる金属が存在している、請求項1~のいずれか一項に記載の銅張積層体。
【請求項7】
前記無電解Cu-Ni合金めっき層上に形成された保護層をさらに含む、請求項1~のいずれか一項に記載の銅張積層体。
【請求項8】
前記無電解Cu-Ni合金めっき層が前記樹脂フィルムの両面に形成されるとともに、
前記樹脂フィルムにはスルーホールを有し、前記スルーホールの内壁には前記無電解Cu-Ni合金めっき層の少なくとも一部が形成されてなる、請求項1~のいずれか一項に記載の銅張積層体。
【請求項9】
周波数10GHzにおける比誘電率が3.5以下、且つ、誘電正接が0.008以下である樹脂フィルムに無電解銅めっき層を形成して製造される銅張積層体の製造方法であって、
前記樹脂フィルムの表面にカルボキシル基及び水酸基を付与する第1表面改質工程と、
前記カルボキシル基及び水酸基が付与された前記表面に対して湿式方式により電荷を付与する第2表面改質工程と、
前記電荷が付与された前記表面に触媒を吸着させる触媒吸着工程と、
前記触媒が吸着された前記表面に対して無電解Cu-Ni合金めっき層を形成する無電解銅めっき工程と、
前記無電解Cu-Ni合金めっき層が形成された前記銅張積層体を加熱する加熱工程と、
を含み、
前記第1表面改質工程においてアルカリ水溶液とアミノアルコールの混合液を用い、前記混合液における混合比率は、モル比率において、-OH基と-NH 基の比率が(-NH 基/-OH基)=2.00~3.00であり
前記樹脂フィルムのめっき層側界面は、前記水酸基が付与されてなり、且つ、
前記めっき層側界面において前記水酸基は前記カルボキシル基よりも多く付与されていることを特徴とする銅張積層体の製造方法。
【請求項10】
周波数10GHzにおける比誘電率が3.5以下、且つ、誘電正接が0.008以下である樹脂フィルムとしての変性ポリイミド(MPI)に無電解銅めっき層を形成して製造される銅張積層体の製造方法であって、
前記樹脂フィルムの表面にアルカリ水溶液とアミノアルコールの混合液を用いてカルボキシル基及び水酸基を付与する第1表面改質工程と、
前記カルボキシル基及び水酸基が付与された前記表面に対して湿式方式により電荷を付与する第2表面改質工程と、
前記電荷が付与された前記表面に触媒を吸着させる触媒吸着工程と、
前記触媒が吸着された前記表面に対して無電解Cu-Ni合金めっき層を形成する無電解銅めっき工程と、
前記無電解Cu-Ni合金めっき層が形成された前記銅張積層体を加熱する加熱工程と、
を含み、
前記樹脂フィルムのめっき層側界面は、前記水酸基が付与されてなり、且つ、前記めっき層側界面において前記水酸基は前記カルボキシル基よりも多く付与されている、ことを特徴とする銅張積層体の製造方法。
【請求項11】
前記アミノアルコールは、アミノエタノールである請求項9又は10に記載の銅張積層体の製造方法。
【請求項12】
前記第2表面改質工程において、前記カルボキシル基及び水酸基が付与された表面にプラス電荷を吸着させた後に、マイナス電荷を前記表面に吸着させる、請求項9~11のいずれか一項に記載の銅張積層体の製造方法。
【請求項13】
カチオン系界面活性剤を前記表面に添加して前記プラス電荷を吸着させるとともに、アニオン系界面活性剤を前記表面に添加して前記マイナス電荷を吸着させる、請求項12に記載の銅張積層体の製造方法。
【請求項14】
請求項1~のいずれか一項に記載された銅張積層体による回路が形成されたフレキシブル回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信機器などに搭載されるフレキシブル回路基板用の銅張積層体と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年における電子機器の小型化・高性能化は目覚ましく、例えば携帯電話や無線LANなど電波を用いた通信機器の発達が大きく寄与している。
特に昨今ではIoTによるビッグデータに代表される情報の大容量化に伴い、電子機器間における通信信号の高周波化が進んでおり、かような通信機器に搭載される回路基板には高周波領域における伝送損失(誘電損失)の低い材料が要求される。
【0003】
ここで、この回路基板に生じる誘電損失は、「信号の周波数」、「基板材料の誘電率の平方根」および「誘電正接」で構成された3要素の積に比例することが知られている。そのため、上記した優れた誘電特性を得るには、必然的に誘電率と誘電正接が共にできるだけ低い材料が要求される。
【0004】
かような回路基板においては、一般的に銅などの金属によって回路が形成される。この回路基板における銅層は、例えば特許文献1に示されるラミネート法や、特許文献2に示されるキャスト法、あるいは特許文献3に示されるめっき法などによって形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6202905号
【文献】特許第5186266号
【文献】特開2002-256443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したとおり近年では高周波通信における伝送損失を抑えることが重要な開発要素となっており、低伝送損失を有する樹脂フィルム(以下、「低誘電フィルム」又は「低誘電樹脂フィルム」とも称する)がフレキシブル回路基板の基材として使用されつつある。
しかしながら上記した特許文献を含む従来技術では、上記した低誘電フィルムと回路を形成するための金属層(例えば銅層)との充分な密着力を確保できてはいない。例えば上記した特許文献1に例示されるラミネート法や特許文献2に例示されるキャスト法では、銅層と低誘電フィルムにおける界面を粗化しなければならず、界面の平滑性が劣化して伝送損失が生じてしまう。
【0007】
一方で特許文献3に示されるめっき法によれば、高誘電率の樹脂フィルムに対しては銅層との間で比較的良好な密着力が確保できる。しかしながら、低誘電フィルムは、分子構造が比較的剛直であり、表面の分極が少ないことから、めっき法で銅層を形成した場合には密着力の確保が課題であった。すなわち低誘電フィルムを基材とした場合、密着力を確保するための従来の手法として、界面を粗面化することが広く行われていたが、伝送損失との間でトレードオフの関係を有するため、それらの両立が望まれていた。
なお、上記以外の製法で例えばスパッタ法も例示できるが、上記の手法に比して製造工程が煩雑になる結果、その生産性やコスト面で多くの課題が残ってしまう。
【0008】
本発明は上記した課題を一例として解決することを目的としており、具体的には、基材となる低誘電フィルムと回路形成のための金属層との界面において、伝送損失を抑制するために平滑性を確保しつつ、高い密着力が確保可能な銅張積層体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決するため、本発明の一実施形態における銅張積層体は、(1)周波数10GHzにおける比誘電率が3.5以下、且つ誘電正接が0.008以下である低誘電樹脂フィルムと、前記低誘電樹脂フィルムの少なくとも一方の面に積層された無電解銅めっき層と、を含み、前記無電解銅めっき層が無電解Cu-Ni合金めっき層であって、前記低誘電樹脂フィルムのうち前記無電解Cu-Ni合金めっき層と接するめっき層側界面における平均表面粗さRaが1~150nmであり、且つ、前記樹脂フィルムと前記無電解Cu-Ni合金めっき層との90°ピール強度が4.2N/cm以上であり、前記樹脂フィルムのめっき層側界面は、水酸基が付与されてなり、且つ、前記めっき層側界面において前記水酸基はカルボキシル基よりも多く付与され、前記めっき層側界面のTOF-SIMSスペクトルにおいて質量数121のピーク強度が1000以上である、ことを特徴とする。
【0010】
なお上記した(1)に記載の銅張積層体においては、(2)前記樹脂フィルムのめっき層側界面における飛行時間型質量分析法(TOF-SIMS)による質量121の強度が、800以上であることが好ましい。
【0013】
また上記した(1)又は(2)に記載の銅張積層体においては、()前記樹脂フィルムが、ポリイミド、変性ポリイミド、液晶ポリマー、フッ素系樹脂の何れか、もしくはその混成物であることが好ましい。
【0014】
また上記した(1)~()のいずれかに記載の銅張積層体においては、(前記無電解Cu-Ni合金めっき層におけるNiの含有率が3wt%以下であることが好ましい。
【0015】
また上記した(1)~()のいずれかに記載の銅張積層体においては、()前記無電解Cu-Ni合金めっき層の厚みが0.1~1.0μmの範囲であることが好ましい。
【0016】
また上記した(1)~()のいずれかに記載の銅張積層体においては、()前記樹脂フィルムの、無電解Cu-Ni合金めっき層側の界面に、Cu、Ni、Pd、Agのいずれかからなる金属が存在していることが好ましい。
【0017】
また上記した(1)~()のいずれかに記載の銅張積層体においては、()前記無電解Cu-Ni合金めっき層上に形成された保護層をさらに含むことが好ましい。
【0018】
また上記した(1)~()のいずれかに記載の銅張積層体においては、()前記無電解Cu-Ni合金めっき層は前記樹脂フィルムの両面に形成されるとともに、前記樹脂フィルムにはスルーホールを有し、前記スルーホールの内壁には前記無電解Cu-Ni合金めっき層の少なくとも一部が形成されてなることが好ましい。
【0019】
さらに上記した課題を解決するため、本発明の一実施形態における銅張積層体の製造方法は、()周波数10GHzにおける比誘電率が3.5以下、且つ、誘電正接が0.008以下である樹脂フィルムに無電解銅めっき層を形成して製造される銅張積層体の製造方法であって、前記樹脂フィルムの表面に水酸基を付与する第1表面改質工程と、前記水酸基が付与された前記表面に対して湿式方式により電荷を付与する第2表面改質工程と、前記電荷が付与された前記表面に触媒を吸着させる触媒吸着工程と、前記触媒が吸着された前記表面に対して無電解Cu-Ni合金めっき層を形成する無電解銅めっき工程と、前記無電解Cu-Ni合金めっき層が形成された前記銅張積層体を加熱する加熱工程と、を含み、前記第1表面改質工程においてアルカリ水溶液とアミノアルコールの混合液を用い、前記混合液における混合比率は、モル比率において、-OH基と-NH 基の比率が(-NH 基/-OH基)=2.00~3.00であり前記樹脂フィルムのめっき層側界面は、前記水酸基が付与されてなり、且つ、前記めっき層側界面において前記水酸基は前記カルボキシル基よりも多く付与されていることを特徴とする。
【0020】
さらに上記した課題を解決するため、本発明の一実施形態における銅張積層体の製造方法は、(10)周波数10GHzにおける比誘電率が3.5以下、且つ、誘電正接が0.008以下である樹脂フィルムとしての変性ポリイミド(MPI)に無電解銅めっき層を形成して製造される銅張積層体の製造方法であって、前記樹脂フィルムの表面にアルカリ水溶液とアミノアルコールの混合液を用いてカルボキシル基及び水酸基を付与する第1表面改質工程と、前記水酸基が付与された前記表面に対して湿式方式により電荷を付与する第2表面改質工程と、前記電荷が付与された前記表面に触媒を吸着させる触媒吸着工程と、前記触媒が吸着された前記表面に対して無電解Cu-Ni合金めっき層を形成する無電解銅めっき工程と、前記無電解Cu-Ni合金めっき層が形成された前記銅張積層体を加熱する加熱工程と、を含み、
前記樹脂フィルムのめっき層側界面は、前記水酸基が付与されてなり、且つ、前記めっき層側界面において前記水酸基は前記カルボキシル基よりも多く付与されている、ことを特徴とする。
【0021】
また、上記した(又は(10)に記載の銅張積層体の製造方法においては、(11)前記アルコールは、アミノエタノールであることが好ましい。
【0023】
また、上記した()~(11)のいずれかに記載の銅張積層体の製造方法においては、(12)前記第2表面改質工程において、前記カルボキシル基及び水酸基が付与された表面にプラス電荷を吸着させた後に、マイナス電荷を前記表面に吸着させることが好ましい。
【0024】
また、上記した(12)に記載の銅張積層体の製造方法においては、(13)カチオン系界面活性剤を前記表面に添加して前記プラス電荷を吸着させるとともに、アニオン系界面活性剤を前記表面に添加して前記マイナス電荷を吸着させることが好ましい。
【0025】
さらに上記した課題を解決するため、本発明の一実施形態におけるフレキシブル回路基板は、上記した(1)~()のいずれかに記載の銅張積層体による回路が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、低誘電フィルムと無電解銅めっき層との界面を粗化することなく高い密着力を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本実施形態の銅張積層体10を示す模式断面図である。
図2】本実施形態の銅張積層体10において、樹脂フィルム1と無電解銅めっき層の界面の状態を示す模式図である。
図3】本実施形態の銅張積層体10において、スルーホールHを示す模式図である。
図4】本実施形態の銅張積層体10の製造方法の流れを示す図である。
図5】本実施形態の銅張積層体20を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図1を用いて本実施形態の銅張積層体10について説明する。
<銅張積層体>
本実施形態に係る銅張積層体10は、基材となる樹脂フィルム1と、当該樹脂フィルム1の少なくとも一方の面に積層されてなる無電解銅めっき層2を有する。本実施形態において、基材となる樹脂フィルム1は、高周波域の電気特性に優れるいわゆる低誘電樹脂フィルムを用いることが好ましい。
具体的には、より誘電損失の低いそれぞれ公知の液晶ポリマー、フッ素系樹脂、ポリイミド樹脂、変性ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂等のフィルムが好ましく用いられる。これらの樹脂はモノポリマーであってもよいし、コポリマーであってもよい。また、樹脂は単独で使用してもよいし、複数樹脂をブレンドし混成物として使用してもよい。
【0029】
基材となる樹脂フィルム1の電気特性としては、具体的には、周波数10GHzにおける比誘電率が3.5以下、且つ誘電正接が0.008以下であることが好ましい。
樹脂フィルム1の厚みとしては、特に制限はないが、実用上においては5μm~100μmであることが好ましい。
【0030】
次に、樹脂フィルム1の少なくとも一方の面に積層されてなる無電解銅めっき層2について説明する。本実施形態における無電解銅めっき層2は無電解銅めっきにより形成されることが好ましい。すなわち、樹脂フィルム1が絶縁性を有するため、無電解めっきにより銅めっき層を形成させる。なおこの無電解銅めっき層2は、フレキシブル回路基板をセミアディティブ法(SAP法又はMSAP法)、サブトラクティブ法や、フルアディティブ法などにより製造する際のシード層となるものであってもよい。
【0031】
本実施形態において無電解銅めっき層2は、Cu単体のめっきであってもよいし、銅の量が所定量以上含有される銅合金めっきであってもよい。銅合金としては、Cu-Ni合金、Cu-Zn合金、Cu-Sn合金、等を挙げることができる。
【0032】
なお、無電解銅めっき層2がCu-Ni合金で形成されている場合において、Niの含有率としては3wt%以下であり、好ましくは0.01~3wt%、より好ましくは0.01~1.5wt%、さらに好ましくは0.01~0.3wt%であることが好ましい。
無電解銅めっき層2をCu-Ni合金とした場合、Cuよりめっき析出性の高いNiを含有させることで、めっき層中の内部応力も抑制されることから、フクレが抑制されると考えられるため、好ましい。一方でCu-Ni合金中のNi量が3wt%を超えると、Cu回路に磁性が発生し、伝送損失が高まる可能性があるとともに、銅配線形成時のエッチング性が煩雑になるおそれがあるため、Cu-Ni合金中のNi量は3wt%以下であることが好ましい。また、Cu-Ni合金中のNi量が0.01wt%を下回ると、めっき析出性が悪化する。
なお、無電解めっき層2中のNi含有率を測定する手法としては、例えば蛍光X線装置(XRF)やプラズマ発光分光分析装置(ICP)等の公知の手法を用いることができる。
【0033】
本実施形態において、無電解銅めっき層2を形成させるための無電解銅めっきの方法としては、所定の厚みを有する無電解銅めっき層2を形成できる限りにおいて公知の方法を用いてよい。なお無電解銅めっきの方法については詳細には、後述する製造方法の項目について説明する。
なお本実施形態において、無電解銅めっき層2の厚みとしては0.1μm~1.0μmの範囲であることが、製造上の効率やコストの観点からは好ましい。
【0034】
無電解銅めっき層2の厚みが0.1μm未満である場合には、フレキシブル回路基板をセミアディティブ法により製造する際のシード層としての機能を発揮し得ない可能性があるため好ましくない。一方で、無電解銅めっき層2の厚みが1.0μmを超える場合には、フレキシブル回路基板を製造する際に、微細な回路パターンの形成等が困難となる可能性があるため、好ましくない。
【0035】
なお、上記無電解銅めっき層2の厚みとしては、0.1μm~0.8μmであることがさらに好ましい。特にSAP法での回路形成において、エッチング時間が短い方(厚みが薄い方)が、微細かつ、回路の断面方向へのインピーダンスのばらつきが小さいパターンの形成が可能となるためである。
【0036】
本実施形態の銅張積層体10において、上記した樹脂フィルム1の、無電解銅めっき層2と接するめっき層側界面における平均表面粗さRaは、1~150nmであり、好適には20~150nmであることを特徴とする。特に樹脂フィルム1が液晶ポリマーである場合においては、無電解銅めっき層2と接するめっき層側界面における平均表面粗さRaは、20~150nmであることが望ましい。また、特に樹脂フィルム1が変性ポリイミド(MPI)である場合においては、無電解銅めっき層2と接するめっき層側界面における平均表面粗さRaは、1~150nmであることが望ましく、より好ましくは1~50nmが望ましい。
この理由としては以下のとおりである。
【0037】
すなわち、本実施形態の銅張積層体においては、上述したように高周波対応の回路基板に好適に適用可能とするため、GHz帯以上の高周波における伝送特性が高いことが望まれる。
【0038】
一般的に、伝送信号は表皮効果により高周波になるほど導体表面を伝搬するようになり、導体表面の粗さが大きいほど、伝送損失が増大することが知られている。そのため本実施形態において、表皮効果による伝送損失の影響を小さくするためには、配線導体を形成する無電解銅めっき層2の、樹脂フィルム1との界面における平均表面粗さRaを低減することが好ましい。
【0039】
一方で、無電解銅めっき層2と、樹脂フィルム1との間で、界面の粗化によってアンカー効果を得ることは、金属と樹脂との密着性を確保するために従来広く行われている。このように、本実施形態の銅張積層体では、無電解銅めっき層2と、樹脂フィルム1との間において、粗さ(密着性)と伝送損失とがトレードオフの関係である。
本発明者らは、上記両方の特性をより高度な次元で両立させるために、鋭意検討を行った。その結果、本実施形態においては上記した樹脂フィルム1の、無電解銅めっき層2と接するめっき層側界面における平均表面粗さRaを、1nm~150nmとすることが好ましいとの知見に至ったものである。
【0040】
本発明者の継続した検討の結果、平均表面粗さRaが1nm未満である場合には、無電解銅めっき層2と樹脂フィルム1との間で好ましい密着性を得ることができないことに帰結した。一方で、平均表面粗さRaが150nmを超える場合には、上記したように無電解銅めっき層2により回路基板上に配線導体が形成された場合において、表皮効果による伝送損失により、高周波における好ましい伝送特性を得ることができない可能性がある。
【0041】
本実施形態においては、上記したように無電解銅めっき層2と樹脂フィルム1との間で粗さ低減(伝送損失の低減)と密着性の両立を目的としているものである。
無電解銅めっき層2と樹脂フィルム1との間の具体的な密着強度としては、4.2N/cm以上であることが実用上においては好ましい。さらには、上記した密着強度として、5.0N/cm以上であることがより好ましく、6.4N/cm以上であることがさらに好ましい。
【0042】
本実施形態において、無電解銅めっき層2と樹脂フィルム1との間において上記した密着性を確保するためには、さらに以下の特徴を有することが好ましい。
図2に、本実施形態の銅張積層体10において、樹脂フィルム1と無電解銅めっき層の界面の状態を模式的に示す。すなわち、樹脂フィルム1の無電解銅めっき層2側の界面には、水酸基及びカルボキシル基が付与されることが好ましい。これは以下の理由によるものである。
【0043】
図1に示されるように、本実施形態の銅張積層体10において、樹脂フィルム1の少なくとも片面に無電解めっきにより無電解銅めっき層2を形成させる際には、樹脂フィルム1表面上にめっき形成の核となる金属パラジウムが付与されることが一般に知られている。この金属パラジウムは、パラジウム触媒により生成したものを適用することができる。
【0044】
本実施形態においては、樹脂フィルム1の表面に、水酸基とカルボキシル基のうちの少なくとも一方を付与することにより、樹脂フィルム1表面上に金属パラジウムの吸着を強固にすることが可能となる。それゆえ、樹脂フィルム1と無電解銅めっき層2との密着性を向上させることが可能となる。
【0045】
なお、樹脂フィルム1と無電解銅めっき層2の界面における水酸基及びカルボキシル基の存在については、公知の表面分析方法により確認することが可能である。例えば、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)、X線光電子分光(ESCA)、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)、等の公知の分析方法を用いることが可能である。
【0046】
特に本実施形態においては、樹脂フィルム1と無電解銅めっき層2の界面において、無電解銅めっき層2の側の飛行時間型質量分析法(TOF-SIMS)による分析の結果、質量121におけるピーク強度が800(0.12amu bin)以上であることが好ましい。
すなわち本実施形態においては、TOF-SIMSにより分析した結果において、質量121であり水酸基及びカルボキシル基を含む官能基が樹脂フィルム1と無電解銅めっき層2の界面に存在することが好ましい。なお、質量121の官能基としては下記構造式1又は構造式2のいずれかであることが好ましいが、特に構造式1であることが好ましい。
【0047】
<構造式1>
【0048】
<構造式2>
【0049】
なお、樹脂フィルム1と無電解銅めっき層2の界面に付与されている「水酸基及び/又はカルボキシル基を含む官能基」としては、上述したものに限られない。また、「水酸基を含む官能基」が付与されていれば「カルボキシル基を含む官能基」は付与されていなくてもよい。またその逆でもよい。さらには「水酸基を含む官能基」と「カルボキシル基を含む官能基」の両方が付与されていてもよい。
【0050】
特に本実施形態においては、樹脂フィルム1と無電解銅めっき層2の界面には「水酸基を含む官能基」が「カルボキシル基を含む官能基」よりも多く付与されていることが好ましい。あるいは「水酸基を含む官能基」が付与されており「カルボキシル基を含む官能基」は付与されていない状態であることが好ましい。
【0051】
なお、本実施形態の銅張積層体は、図5に示すように、上記した無電解銅めっき層2の上に、さらに電解銅めっき層4が形成されていてもよい。すなわち、フレキシブル回路基板をセミアディティブ法により製造する際には、無電解銅めっき層2をシード層として、さらに無電解銅めっき層2の上にさらに電解めっき層を形成させることも可能である。
【0052】
なお、本実施形態の銅張積層体を用いてフレキシブル回路基板を形成する方法としては、上記したセミアディティブ法に限られず、他の公知の方法を適用可能である。
【0053】
また、本実施形態の銅張積層体においては、樹脂フィルムの両面に無電解銅めっき層が形成されたうえで、図3に示すようにスルーホールHが形成されていることが好ましい。すなわち、樹脂フィルム1がその断面において貫通孔を有するとともに、無電解銅めっき層2の少なくとも一部がその貫通孔の内面を被覆するように当該スルーホールHが形成されていることが好ましい。かようなスルーホールHを形成することが、本実施形態の銅張積層体をフレキシブル回路基板用途として用いる場合には好ましい。
なお、スルーホールHの位置や大きさ等は製造するフレキシブル回路基板により適宜決定可能であるため、詳細な説明は省略する。
【0054】
本実施形態における銅張積層体は、上記したように樹脂フィルム1と無電解銅めっき層2を含んでなるものであるが、さらに無電解銅めっき層2の表面(樹脂フィルム1とは反対側)に、無電解銅めっき層2の酸化を防止するための公知の保護層が形成されていてもよい。なお、無電解銅めっき層2の保護としては、酸化の抑制を目的としたもので、公知の方法により防錆処理を行うことにより形成される。
【0055】
<銅張積層体の製造方法>
次に、本実施形態の銅張積層体10の製造方法について図4を用いて説明する。
本実施形態における銅張積層体10の製造方法としては、樹脂フィルム1の少なくとも一方の表面上にカルボキシル基及び水酸基を付与する第1表面改質工程(ステップ1)と、前記カルボキシル基及び水酸基が付与された前記表面に対して湿式方式により電荷を付与する第2表面改質工程(ステップ2)と、前記電荷が付与された前記表面に触媒を吸着させる触媒吸着工程(ステップ3)と、前記触媒が吸着された前記表面に対して無電解銅めっき層2を形成する無電解銅めっき工程(ステップ4)と、前記無電解銅めっき層が形成された前記銅張積層体を加熱する加熱工程(ステップ5)を含む。
【0056】
まず第1表面改質工程(ステップ1)について説明すると、用いられる樹脂フィルム1は、上述したように、いわゆる低誘電樹脂フィルムであることが好ましい。具体的な樹脂フィルム1の電気特性としては、周波数10GHzにおける比誘電率が3.5以下、且つ、誘電正接が0.008以下であることが好ましい。
【0057】
本実施形態の第1表面改質工程では、樹脂フィルム1の少なくとも一方の表面上に、カルボキシル基及び水酸基が付与される。このカルボキシル基及び水酸基を付与する方法としては、アルカリ水溶液とアミノアルコールの混合液を樹脂フィルム1の少なくとも一方の表面上に接触する方法が挙げられる。
【0058】
第1表面改質工程に用いられるアルカリ水溶液としては、無機アルカリ又は有機アルカリのいずれであってもよい。無機アルカリとしては例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、等のアルカリ金属水酸化物又はその炭酸塩等が挙げられる。有機アルカリとしては例えば、テトラアルキルアンモニウムヒドロキシド等を挙げることができる。
上記したアルカリは、単独で使用してもよいし、複数を混合して使用してもよい。
【0059】
一方で、第1表面改質工程に用いられるアミノアルコールとしては、具体的には、脂肪族アミノアルコールであってもよいし、芳香族アミノアルコールであってもよい。また、それらの誘導体であってもよい。
【0060】
アミノアルコールとしては具体的には、エタノールアミン、ヘプタミノール、イソエタリン、ブタノールアミン、プロパノールアミン、スフィンゴシン、メタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン等を用いることが可能である。このうち、アミノエタノールを適用することが特に好ましい。
【0061】
第1表面改質工程のアルカリ水溶液とアミノアルコールの混合液における混合比率は、モル比率において、-OH基と-NH基の比率が(-NH基/-OH基)=2.00~3.00となるように調整することが好ましい。
モル比率を上記範囲内とすることにより、本発明の目的とする無電解銅めっき層2と樹脂フィルム1との間での粗さ低減(伝送損失の低減)と密着性の両立を達成し得る。その理由は現時点では明らかではないが、発明者らが検討した結果、以下のような理由によるものと推定される。
【0062】
すなわち、(-NH基/-OH基)のモル比率が上記範囲内の混合液により、上記した誘電損失の低い樹脂(液晶ポリマー、変性ポリイミド樹脂など)を用いた樹脂フィルム1に対して第1表面改質工程を施した場合、樹脂フィルム1表面の状態としては、無電解銅めっき層2側の表面の平均表面粗さRaを1nm~150nmとすることができると考えられる。そのため、無電解銅めっき層により回路基板上に配線導体が形成された場合において、表皮効果による伝送損失が抑制され、好ましい伝送特性を発揮することが可能となる。それに加えて、無電解銅めっき層2側の表面の平均表面粗さRaが1nm~150nmの範囲内であれば、樹脂フィルム1と無電解銅めっき層2の密着性も担保できる。
それ故、本発明者らは、上述したような第1表面改質工程を経ることにより、本発明の目的を達成することに想到したものである。
【0063】
なお、第1表面改質工程において混合液中の(-NH基/-OH基)のモル比率を上記範囲とすることにより、樹脂フィルム1の表面上に、カルボキシル基よりも水酸基を多く付与することができる。
【0064】
第1表面改質工程において、アルカリ水溶液とアミノアルコールの混合液を樹脂フィルム1の表面に接触させる方法としては、公知の方法を適宜適用可能である、例えば、樹脂フィルム1を混合液に浸漬させる方法や、スプレー等で樹脂フィルム1に混合液を噴霧する方法等が挙げられる。これらの方法に限られず、樹脂フィルム1の表面にカルボキシル基及び水酸基を付与できる方法であれば、上記した方法以外の方法を適用してもよい。
【0065】
なお、前記第1表面改質工程において、フィルム表面の接触角を調整することによってめっきの析出性およびめっきの密着性を向上させることができる。特に樹脂フィルム1が液晶ポリマーである場合においては、無電解銅めっき層2と接するめっき層側界面における接触角は30°以下が好ましい。また、特に樹脂フィルム1が変性ポリイミド(MPI)である場合においては、無電解銅めっき層2と接するめっき層側界面における接触角は45°以下が好ましい。
【0066】
次に、本実施形態の第2表面改質工程(ステップ2)について説明する。本実施形態における第2表面改質工程は、上記した第1表面改質工程の後に行う工程であることが好ましい。
第2表面改質工程は、上記第1表面改質工程において樹脂フィルム1の表面上にカルボキシル基及び水酸基を付与した後に、さらに電荷を付与する工程である。電荷の付与により、樹脂フィルム1と無電解銅めっき層2との密着性を向上させることが可能であるため好ましい。
【0067】
すなわち上述したように、無電解銅めっき層2の形成のためには、めっき成長の核となる金属パラジウムが樹脂フィルム1上に存在することが好ましい。そして、この金属パラジウムが樹脂フィルム1上に強固に付着するためには、樹脂フィルム1の表面が少なくともマイナスの電荷を有していることが好ましい。
【0068】
好ましくは、本実施形態の第2表面改質工程では、さらに、樹脂フィルム1の表面上にプラス電荷を付与する工程と、前記プラス電荷を付与した表面にさらにマイナス電荷を付与する工程と、を含むことが好ましい。これらの工程を経ることにより、樹脂フィルム1の表面にマイナスの電荷を確実に付着させることが可能となるので、上記した金属パラジウムの付着、及び、無電解銅めっき層2の密着性の観点からは好ましい。
【0069】
上記した、樹脂フィルム1の表面上にプラス電荷を付与する工程において、具体的な方法としては、表面にカルボキシル基及び水酸基を付与した後の樹脂フィルム1を、さらに公知のカチオン系界面活性剤に浸漬する方法や、またはスプレー噴霧により公知のカチオン系界面活性剤を樹脂フィルム1に接触させる方法等を適用することが可能である。
【0070】
また、樹脂フィルム1の表面上にマイナス電荷を吸着させる工程においても同様に、公知のアニオン系界面活性剤に浸漬する方法や、スプレー噴霧等の方法を適用することが可能である。
なお、本実施形態の第2表面改質工程は、上述したように湿式方式により行うことが好ましい。湿式で行うことにより、リールtoリール等による大量生産に好適であり、また、低コスト化が可能となるメリットがある。
【0071】
次に、本実施形態における製造方法における、触媒吸着工程(ステップ3)について説明する。
本実施形態の触媒吸着工程については、上述した第2表面改質工程により表面に少なくともマイナスの電荷が付与された樹脂フィルム1に対して、樹脂フィルム1の表面にさらに触媒を吸着させる工程である。
【0072】
触媒吸着工程において、樹脂フィルム1の表面にさらに触媒を吸着させる方法としては例えば、公知の触媒液を樹脂フィルム1の表面に公知の方法により接触させることにより行うことが可能である。触媒としては、Cu、Ni、Pd、Agなどを用いることができる。公知の触媒液としては例えば、錫-パラジウム系又はパラジウムコロイド系の触媒液等を使用することができるが、これらに限られるものではない。
【0073】
触媒吸着工程において、樹脂フィルム1上に付与する触媒の量としては、金属パラジウムとして15μg/dm以下であることが好ましい。触媒の下限値については、回路形成時のエッチングを考慮すると少なければ少ないほどよいが、無電解銅めっき層が良好に形成される程度に付与される必要があり、1μg/dm以上あることが好ましい。
樹脂フィルム1上に付与する金属パラジウムの量が上記数値を超えた場合、フレキシブル回路基板とした際の回路間の絶縁信頼性が低下する可能性があるため好ましくない。
なお、金属パラジウムの量としては、公知の測定方法により得ることができる。例えば、樹脂フィルム1から銅のみを剥離した後、樹脂フィルム1上のパラジウム残渣を硝酸により溶解し、ICPにより残渣量を測定する等の方法で得ることが可能である。
【0074】
次に、本実施形態の製造方法における、無電解銅めっき工程(ステップ4)について説明する。
無電解銅めっき工程は、上記触媒吸着工程を経た後に行われることが好ましい。ここで本実施形態における無電解めっきの条件として、一例を以下に挙げる。
[無電解銅めっき条件の一例]
浴組成:硫酸銅 5~10g/L
硫酸ニッケル 0.5~1.0g/L
ロッシェル塩 10~30g/L
水酸化ナトリウム 3~8g/L
pH:7~13
浴温:29~35℃
【0075】
なお、樹脂フィルム1のめっき浴への浸漬時間としては、無電解銅めっき層2の厚みが0.1~1.0μmとなるように適宜決定すればよい。
【0076】
また、この無電解銅めっき工程において形成されるめっき層としては、Cu単体のめっきに限られず、銅合金めっきであってもよい。例えば、Cu-Ni合金、Cu-Zn合金、Cu-Sn合金等を形成するものであってもよい。
この場合のめっき浴としては、公知のめっき浴を適宜適用することが可能である。
【0077】
本実施形態の製造方法においては、樹脂フィルム1上に無電解銅めっき層2を形成した後、無電解銅めっき層の内部応力を解放する目的や組織の変態を起こす目的などのために、無電解銅めっき層が形成された前記銅張積層体全体を加熱する加熱工程(ステップ5)を有することが好ましい。
なお、応力緩和のための加熱の温度としては、100~200℃が好ましく、120~150℃がより好ましい。応力緩和のための加熱時間としては、5~60分が好ましく、10~30分がより好ましい。また、組織を変態させるための加熱の温度としては、150~350℃が好ましく、150~300℃がより好ましい。組織を変態させるための加熱時間としては、5~180分が好ましく、10~30分がより好ましい。
また、加熱雰囲気としては、例えば大気中でもよいし、窒素などの不活性ガス雰囲気中であってもよい。
当該加熱工程を行うことで、無電解銅めっき層2が樹脂フィルム1から剥離することを抑制することができ、無電解銅めっき層2と樹脂フィルム1との密着性も確保することができる。また、無電解銅めっき層2の結晶子が成長することで、後述する電解銅めっき層4を積層した後の銅めっき層(無電解銅めっき層2及び電解銅めっき層4)と樹脂フィルム1との密着性を向上できる。
【0078】
なお、本実施形態の銅張積層体の製造方法において、無電解銅めっき工程による無電解銅めっき層2の形成の後に、電解めっき工程により、電解銅めっき層4を形成させる電解銅めっき工程を有していてもよい。電解銅めっき工程としては、公知の硫酸銅浴やピロリン酸銅浴などを適用することができ、また、電解めっき条件(pH、温度、電流密度、浸漬時間等)は、電解めっき層の厚さなどに基づいて適宜選択可能である。
以上の工程を経ることで、本実施形態における銅張積層体20が製造される。
【0079】
なお本実施形態の製造方法においては、上記したステップ5は、樹脂フィルム1上に電解銅めっき層4を形成した後で(すなわち無電解銅めっき層および電解銅めっき槽が形成された後)銅張積層体全体を加熱(焼鈍)してもよい。換言すれば、本実施形態においては、樹脂フィルム1上に電解銅めっき層4を形成した後で上記した加熱工程を実行してもよいし、樹脂フィルム1上に無電解銅めっき層2を形成した後で且つ電解銅めっき層4を形成する前に銅張積層体全体を加熱する加熱工程を実行してもよい。なお、電解銅めっき層4を形成する前に上記したステップ5を実行する場合には、後述するレジストパターニング工程より前に実行することがより好ましい。
【0080】
<フレキシブル回路基板>
次に、本実施形態のフレキシブル回路基板について説明する。
本実施形態におけるフレキシブル回路基板は、上述の銅張積層体10の無電解銅めっき層2により回路が形成されてなるフレキシブル回路基板であることが好ましい。
上述したように、本実施形態の銅張積層体10は樹脂フィルム1と無電解銅めっき層2との間の表面粗さRaが所定の値以下であるため、フレキシブル回路基板としての伝送損失を抑制することが可能である。
また、樹脂フィルム1と無電解銅めっき層2との密着性を向上させることが可能であるため、セミアディティブ法を採用した場合でも、微細な回路パターンの形成が可能となるため好ましい。
【0081】
より具体的に、例えばSAP法又はMSAP法による場合には、本実施形態におけるフレキシブル回路基板の製造方法として、上述したステップ1~ステップ5(図4も参照)を経た後に、無電解めっき層2上にレジストの塗布及びパターニングを行う公知のレジストパターニング工程を行い、さらにその後に上記した電解銅めっき工程を経ることでパターニングされたレジスト間に電解めっき層4が形成される。
なお、本実施形態のフレキシブル回路基板を形成する方法としては、上記したセミアディティブ法に限られず、フルアディティブ法やサブトラクティブ法などの他の公知の方法を適用可能である。
【実施例
【0082】
次に実施例を挙げて本発明についてより具体的に説明する。
【0083】
<実施例1>
まず樹脂フィルム1として液晶ポリマーフィルム(ベクスターCTQLCP、株式会社クラレ製、厚さ:50μm)を準備した。電気特性としては、10GHzでの比誘電率が3.3、10GHzでの誘電正接が0.002であった。
【0084】
次に、準備した樹脂フィルム1の両面に対して、第1表面改質工程として、水酸化カリウム水溶液とモノエタノールアミンの混合液に5分間浸漬し、両方の表面にカルボキシル基及び/又は水酸基を導入し、浸漬水洗を行った。用いた混合液の温度は30℃であり、-OH基と-NH基のモル比率(-NH基/-OH基)が2.29であった。またTOF-SIMSの質量121のピーク強度は、1000であった。
【0085】
次いで、第2表面改質工程として、樹脂フィルム1の両面に、カチオン系界面活性剤10g/Lの水溶液中に2分浸漬しプラス電荷を吸着させた。浸漬水洗した後に、アニオン系界面活性剤3g/Lの水溶液中に1分間浸漬した。このようにして、プラス電荷を吸着させた後に、マイナス電荷を吸着させた。
さらに、触媒吸着工程及び無電解銅めっき工程として、めっき触媒として塩化パラジウム(PdCl)水溶液(2g/l、pH12、40℃)に5分間浸漬後、浸漬水洗した。さらに、触媒活性剤(還元剤)としてジメチルアミンボラン(DMAB)1g/Lとホウ酸6g/Lを添加した水溶液(25℃)に5分間浸漬後、浸漬水洗した。
その後、無電解めっき浴により、無電解Cu-Niめっき層を0.3μm形成させた。無電解めっき条件としては以下のとおりとした。なお、得られた無電解Cu-Niめっき層におけるNi含有率を、上記したプラズマ発光分光分析装置(ICP)を用いて求めたところ、1.18wt%であった。
【0086】
[無電解めっき条件]
浴組成:硫酸銅 7.5g/L
硫酸ニッケル 0.7g/L
ロッシェル塩 20g/L
水酸化ナトリウム 5g/L
pH:9
浴温:32℃
【0087】
その後、電解めっき浴により、上記の銅張積層体における無電解Cu-Niめっき層の上に、さらに電解銅めっき層を18μmの厚みで形成させた。電解銅めっき条件としては以下のとおりとした。
浴組成:硫酸銅6水和物 200g/L
硫酸 50g/L
塩化物イオン 50ppm
光沢剤 5ml/L(奥野製薬製添加剤トップルチナー)
浴温:20~25℃
pH:1以下
電流密度:2~3A/dm
【0088】
[加熱(焼鈍)処理]
本実施例では、無電解銅めっき層を形成した後に、下記加熱条件にて第1加熱処理を行うとともに、電解銅めっき層を形成した後で下記加熱条件にて第2加熱処理を行った。
<第1加熱処理における加熱条件>
加熱温度:150℃
加熱時間:10分
加熱雰囲気:大気中
<第2加熱処理における加熱条件>
加熱温度:230℃
加熱時間:10分
加熱雰囲気:大気中
以上の工程を経ることで、実施例1における銅張積層体10を得た。
【0089】
[評価]
<TOF-SIMS及びESCA>
樹脂フィルム1と無電解銅めっき層2の界面におけるカルボキシル基及び/又は水酸基の存在を確認するため、表面状態の確認を行った。
まず、得られた銅張積層体10について、熱処理を行わずに、無電解銅めっき層2を42ボーメのFeCl溶液(50℃)に浸漬し、無電解銅めっき層2が消えたことを目視で確認したタイミングで取り出すことで無電解銅めっき層2を剥離し、樹脂フィルムを露出させた。露出した樹脂フィルム表面を、20mm×20mmの大きさに切り出して測定サンプルとした。この測定サンプルを、X線光電子分光分析機(日本電子株式会社製、JPS-9200、X線源:Mg、分析領域:φ3mm)で測定し、C1sスペクトルを得た。そして、束縛エネルギー288.8eVに表れるカルボキシル基(COO(H)結合)に由来するピークの強度と束縛エネルギー284.7eVに現れるC-C結合に由来するピークの強度を算出した。
【0090】
上記ESCAでの測定結果によれば、カルボキシル基の存在が確認できなかった。次いで、TOF-SIMSにより、上記測定サンプルの表面状態を確認した。
【0091】
上記測定サンプルの表面を、TOF-SIMS TRIFT-II(アルバックファイ株式会社製)により分析を行った。また、コントロールとして未処理の樹脂フィルムサンプルを使用した。測定条件は以下のとおりである。
一次イオン:69Ga
加速電圧:15kV
測定範囲:100μm×100μm
マスレンジ:0.5~300(m/z)
【0092】
得られた結果は解析ソフトWin Cadence(Physical Electronics社製)にて解析した。TOF-SIMSスペクトルにおいて無電解銅めっきを剥離したサンプルの表面からのみ、質量121に特徴的なピークが観察されることを確認した。未処理のサンプル表面からは質量121に特徴的なピークは確認されなかった。
ESCAでの測定結果によれば、カルボキシル基の存在が確認できなかったことより、第1表面改質工程及び第2表面改質工程を施した後は、CO(-CH-CH-C-OH)基が導入されたと判断した。
【0093】
<めっき層剥離後Ra>
得られた銅張積層体10(無電解銅めっき層の厚さ:0.3μm(実施例1~5、実施例11、および比較例1~8の場合)又は0.2μm(実施例6~10および比較例9の場合))に対して前述と同様の方法でFeCl溶液を用いて無電解銅めっき層2を剥離し、樹脂フィルムを露出させた。露出した樹脂フィルムの表面粗さ(Ra)を、レーザー顕微鏡(オリンパス OLS3500)のAFMモード、視野角5μm×5μmにて測定した。得られた値を表2に示す。
【0094】
<接触角>
得られた銅張積層体10について、前述と同様の方法でFeCl溶液を用いて無電解銅めっき層2を剥離し、樹脂フィルムを露出させた。露出した樹脂フィルム表面を、20mm×20mmに切り出して測定サンプルとした。このサンプル表面に純水を2.0μL滴下し、接触角を接触角測定器(協和界面科学株式会社製、DropMaster)で測定した。なお、実施例1に使用した未処理の樹脂表面の接触角は、65°であり、実施例5で使用した未処理の樹脂表面の接触角は、58°であった。
【0095】
<テープ剥離強度>
得られた銅張積層体10(無電解銅めっき層の厚さ:0.3μm(実施例1~5、実施例11、および比較例1~8の場合)又は0.2μm(実施例6~10、および比較例9の場合))に対して無電解銅めっき層2の表面に粘着テープ(ニチバン社製)を貼付した後、引き剥がすことによりテープ剥離試験を実施し、目視にて無電解銅めっき層2の剥離が確認されなかった場合には、評価結果を〇とした。結果を表2に示す。
【0096】
<90°ピール強度>
電解銅めっきが形成されて230℃、10分間の第2加熱処理を経た銅張積層体20を、40mm×40mmの大きさの試片を切り出し、切り出した試片をポリイミドテープでアルミ板に張り付けた。樹脂フィルムと無電解銅めっき層の接着力として90°ピール強度を以下のようにして測定した。
【0097】
すなわち、各供試材に電解銅めっき層を形成させた面に、5mmの間隔で銅めっき面にカッターで短冊状に切り込みを入れ、次いで短冊状の端部を強制剥離し剥離のきっかけを作り、剥離した樹脂フィルムと銅めっき部を作った。次いで、剥離した樹脂フィルムと銅めっき層をテンシロンのチャックで挟んで、オートグラフにより、90°ピール強度を測定した。なお、90°ピール強度はN/cm(幅)に換算した。これらの結果を表2に示す。
【0098】
<めっき性(外観検査)>
得られた銅張積層体について、無電解銅めっき層の外観を目視で観察し、剥がれや膨れのないものを○として表2に示した。
【0099】
<無電解銅めっき層2のNi含有率測定>
表1に示す条件で無電解銅めっき層2を形成後に2cm×2cmを30%硝酸(常温)に浸漬して無電解銅めっき層2を溶解し、得られた液をプラズマ発光分光分析装置(ICP)(島津製作所製ICPE-9820)を用いて、Cu(銅)およびNi(ニッケル)の重量を測定し、Ni重量/Cu重量+Ni重量を算出して無電解銅めっき層2のNi含有率を算出した。
【0100】
<総合評価>
上記評価項目を総合的に判断し、実用上問題ないものは○、実用不可能なものは×として表2に示した。
【0101】
<実施例2>
第1表面改質工程における混合液の温度を表1に示す温度に変更した以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1及び表2に示す。
【0102】
<実施例3>
第1表面改質工程における混合液の-OH基と-NH基のモル比率(-NH基/-OH基)を表1に示す数値に変更した以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1及び表2に示す。
【0103】
<実施例4>
第1表面改質工程における混合液の温度を表1に示す温度に変更した以外は、実施例1と同様に行った。結果を表1及び表2に示す。
【0104】
<実施例5>
樹脂フィルム1として変性ポリイミド(MPI)樹脂(SKCコーロンPI製FS-L、厚さ:50μm)を準備した。電気特性としては、10GHzでの比誘電率が3.4、10GHzでの誘電正接が0.0035であった。
【0105】
次に、準備した樹脂フィルム1の両面に対し、第1表面改質工程として、水酸化ナトリウム水溶液とモノエタノールアミンの混合液に5分間浸漬し、両方の表面にカルボキシル基及び/又は水酸基を導入し、浸漬水洗を行った。このとき用いた混合液の温度は40℃であり、-OH基と-NH基のモル比率(-NH基/-OH基)が0.19であった。
【0106】
次いで、第2表面改質工程として、実施例1と同様の手法によって樹脂フィルム1の両面に、プラス電荷を吸着させた後で更にマイナス電荷を吸着させた。
さらに、触媒吸着工程及び無電解銅めっき工程として、めっき触媒として塩化パラジウム(PdCl)水溶液(2g/l、pH12、40°)に5分間浸漬後、浸漬水洗した。さらに、触媒活性剤(還元剤)としてジメチルアミンボラン(DMAB)1g/Lとホウ酸6g/Lを添加した水溶液(25℃)に5分間浸漬後、浸漬水洗した。
【0107】
その後、無電解めっき浴により、無電解Cu-Niめっき層を0.3μm形成させた。無電解めっき条件としては以下のとおりとした。このとき、無電解Cu-Niめっき層におけるNi含有率は、1.18wt%であった。
[無電解めっき条件]
浴組成:硫酸銅 7.5g/L
硫酸ニッケル 0.7g/L
ロッシェル塩 20g/L
水酸化ナトリウム 5g/L
pH:12.5
温度:32℃
処理時間:10分
【0108】
その後、実施例1と同様の手法にて、電解めっき浴により、上記の銅張積層体における無電解Cu-Niめっき層の上にさらに電解銅めっき層を18μmの厚みで形成させた。
【0109】
[加熱(焼鈍)処理]
実施例5では、無電解銅めっき層を形成した後に、以下の加熱条件にてドライオーブン(ヤマト科学社製DY300)を用いて第1加熱処理を行った。なお、上記した電解めっき後の第2加熱処理は省略した。
<第1加熱処理における加熱条件>
加熱温度:150℃
加熱時間:60分
加熱雰囲気:大気中
以上の工程を経ることで、実施例5における銅張積層体10を得た。
このようにして、実施例5の銅張積層体10を得た上で、実施例1と同様にこの銅張積層体を評価した。これら実施例5の結果を表1及び表2に示す。
【0110】
<実施例6>
無電解Cu-Niめっき層におけるめっき厚を0.2μmとしたこと、真空乾燥装置(佐藤真空社製DQ-46P-LP)を用いて焼鈍(加熱処理)を不活性(窒素)ガス中に280℃で180分とし、且つこの焼鈍(加熱処理)を無電解銅めっき後で且つ電解銅めっき前に行ったこと以外は、実施例2と同様にして銅張積層体を得た。なお電解銅めっき後については熱処理を行っていない。
そして実施例1と同様に、この実施例6の銅張積層体を評価した。これら実施例6の結果を表1及び表2に示す。
【0111】
<実施例7>
無電解Cu-Niめっき浴における硫酸ニッケルの含有量を0.32g/Lとしたこと以外は、実施例6と同様にして銅張積層体を得た。得られた無電解Cu-Niめっき層におけるNi含有率は0.74wt%であった。そして実施例1と同様に、この実施例7の銅張積層体を評価した。これら実施例7の結果を表1及び表2に示す。
【0112】
<実施例8>
無電解Cu-Niめっき浴における硫酸ニッケルの含有量を0.13g/Lとしたこと以外は、実施例6と同様にして銅張積層体を得た。得られた無電解Cu-Niめっき層におけるNi含有率は0.41wt%であった。そして実施例1と同様に、この実施例8の銅張積層体を評価した。これら実施例8の結果を表1及び表2に示す。
【0113】
<実施例9>
無電解Cu-Niめっき浴における硫酸ニッケルの含有量を0.065g/Lとしたこと以外は、実施例6と同様にして銅張積層体を得た。得られた無電解Cu-Niめっき層におけるNi含有率は0.18wt%であった。そして実施例1と同様に、この実施例9の銅張積層体を評価した。これら実施例9の結果を表1及び表2に示す。
【0114】
<実施例10>
無電解Cu-Niめっき浴における硫酸ニッケルの含有量を0.013g/Lとしたこと以外は、実施例6と同様にして銅張積層体を得た。得られた無電解Cu-Niめっき層におけるNi含有率は0.14wt%であった。そして実施例1と同様に、この実施例10の銅張積層体を評価した。これら実施例10の結果を表1及び表2に示す。
【0115】
<実施例11>
無電解Cu-Niめっき浴における硫酸ニッケルの含有量を0.0065g/Lとしたこと、無電解Cu-Niめっき層の厚みを0.3μmとしたこと以外は、実施例6と同様にして銅張積層体を得た。得られた無電解Cu-Niめっき層におけるNi含有率は0.09wt%であった。そして実施例1と同様に、この実施例11の銅張積層体を評価した。これら実施例11の結果を表1及び表2に示す。
【0116】
<比較例1>
まず樹脂フィルム1としてポリイミドフィルム(カプトン、東レ・デュポン株式会社製、厚さ:50μm)を準備した。電気特性としては、1MHzでの比誘電率が3.4、1MHzでの誘電正接が0.0024であった。
次に、準備した樹脂フィルム1を30℃の水酸化カリウム水溶液(200g/L)に10分間浸漬し、浸漬水洗した。
【0117】
触媒吸着工程及び無電解めっき工程として、めっき触媒に塩化パラジウム(PdCl)水溶液に浸漬後、触媒活性剤(還元剤)としてジメチルアミンボラン(DMAB)水溶液に浸漬し、浸漬水洗後、無電解ニッケル-リンめっき浴により、0.5μmの無電解ニッケル-リンめっき層を形成させた。無電解めっき条件としては以下のとおりとした。なお、触媒吸着工程の条件は実施例1と同様にした。また、その後における電解銅めっき及び焼鈍(加熱処理)については実施例1と同様にした。
【0118】
[無電解めっき条件]
浴組成:硫酸ニッケル 27g/L
次亜燐酸ナトリウム 30g/L
リンゴ酸 30g/L
乳酸 15g/L
安定剤 0.6ppm
pH:4.5
温度:89℃
処理時間:5分
【0119】
<比較例2>
樹脂フィルムとして、実施例1で使用した液晶ポリマーフィルムを用いた以外は、比較例1と同様に行った。結果を表1及び表2に示す。
【0120】
<比較例3>
無電解めっき層を、無電解銅めっき層とした以外は、比較例2と同様に行った。
[無電解めっき条件]
浴組成:硫酸銅 6g/L
ロッシェル塩 20g/L
ホルマリン 5g/L
pH:11.5
温度:30℃
処理時間:10分
【0121】
<比較例4>
実施例1と同様の条件で第2表面改質工程を施した以外は、比較例3と同様に行った。
【0122】
<比較例5>
第1表面改質工程として使用した混合液の-OH基と-NH基のモル比率(-NH基/-OH基)を0.23とした以外は、実施例1と同様に行った。
【0123】
<比較例6>
第1表面改質工程として使用した混合液の-OH基と-NH基のモル比率(-NH基/-OH基)を0.45とした以外は、実施例1と同様に行った。
【0124】
<比較例7>
第1表面改質工程として使用した混合液の-OH基と-NH基のモル比率(-NH基/-OH基)を0.92とした以外は、実施例1と同様に行った。
【0125】
<比較例8>
第1表面改質工程として使用した混合液の-OH基と-NH基のモル比率(-NH基/-OH基)を1.83とした以外は、実施例1と同様に行った。
【0126】
<比較例9>
樹脂フィルム上に形成する無電解めっきを銅めっき(Ni含有率を0)としたこと、比較例3と同様のめっき液を用いてこの無電解Cuめっきのめっき厚を0.2μmとしたこと、実施例6と同じ装置を用いて焼鈍(加熱処理)を不活性(窒素)ガス中に280℃で180分とし、且つこの焼鈍(加熱処理)を無電解銅めっき後で且つ電解銅めっき前に行ったこと以外は、実施例2と同様に行った。なお、この比較例9においては、無電解Cuめっき層が局所的に不めっきであったため、無電解Cuめっき層が形成されている箇所にのみ電解Cuめっきを実施し、ピール強度の測定以外の評価を行った。
【0127】
【表1】
【0128】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明の銅張積層体は樹脂フィルムと無電解銅めっき層との間の表面粗さRaが所定の値以下であるため、フレキシブル回路基板としての伝送損失を抑制することが可能であり、高周波における高い伝送特性を提供することができる。また、樹脂フィルムと無電解銅めっき層との密着性を向上させることが可能であるため、回路形成の方法としてフルアディティブ法又はセミアディティブ法を採用した場合でも、微細な回路パターンの形成が可能である。
本発明の銅張積層体よれば、多層構造の微細配線が求められる配線板等に好適に適用されることが明らかである。
【符号の説明】
【0130】
1 樹脂フィルム
2 無電解銅めっき層
4 電解めっき層
10 銅張積層体
20 銅張積層体
図1
図2
図3
図4
図5