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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】熱シールド
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/658 20140101AFI20241028BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20241028BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20241028BHJP
   H01M 10/615 20140101ALI20241028BHJP
【FI】
H01M10/658
H01M10/625
H01M10/613
H01M10/615
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021564860
(86)(22)【出願日】2020-04-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-06
(86)【国際出願番号】 EP2020061915
(87)【国際公開番号】W WO2020221808
(87)【国際公開日】2020-11-05
【審査請求日】2023-04-05
(31)【優先権主張番号】102019111353.9
(32)【優先日】2019-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】509170017
【氏名又は名称】エリコン フリクション システムズ(ジャーマニー) ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ヘリベルト ヴァルター
(72)【発明者】
【氏名】ミヒャエル マーク
(72)【発明者】
【氏名】トビアス フリッツ
(72)【発明者】
【氏名】マルクス グレートラー
(72)【発明者】
【氏名】ジェシカ ウーレマン
(72)【発明者】
【氏名】トーマス イュープラー
【審査官】田中 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-512700(JP,A)
【文献】特開2018-206605(JP,A)
【文献】実開平05-085840(JP,U)
【文献】特開2013-244118(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/658
H01M 10/625
H01M 10/613
H01M 10/615
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリまたはバッテリアセンブリ(2)のために適した熱シールド(1)であって、
前記熱シールド(1)は、前記バッテリまたはバッテリアセンブリ(2)に近い側から順に、
衝撃吸収のための耐温性エラストマーに基づく第1の層(4)と、
熱保護としての耐高温性材料からなる第2の層(5)と、
断熱材を形成するための膨張特性を有する層(6)と、
支持体プレート(7)と
からなる層構造を有する、
熱シールド(1)。
【請求項2】
前記熱シールド(1)は、前記第2の層(5)と、前記膨張特性を有する層(6)との間に熱拡散層(8)をさらに有する、請求項1記載の熱シールド。
【請求項3】
前記第2の層(5)のための前記耐高温性材料は、雲母材料、玄武岩繊維複合体、酸化物セラミック複合体およびシリカ繊維複合体から選択される、請求項1または2記載の熱シールド。
【請求項4】
前記層構造は、機械的および熱的な負荷耐性を有する材料からなるカバーによって包囲されている、請求項1から3までのいずれか1項記載の熱シールド。
【請求項5】
前記カバーは、ガラス繊維から形成されている、請求項記載の熱シールド。
【請求項6】
前記第1の層(4)は、
拡散性および/または耐温性を改善するための充填材料、
炭化、ガラス化、および/または膨張を支援するための充填材料、および/または
熱拡散性の充填材料(9)
を含む、請求項1からまでのいずれか1項記載の熱シールド。
【請求項7】
前記膨張特性を有する層(6)は、膨張材料を含む支持体構造から形成されている、請求項1からまでのいずれか1項記載の熱シールド。
【請求項8】
少なくとも前記膨張特性を有する層(6)は、その下および/または上に配置されている層と縫合されている、請求項1からまでのいずれか1項記載の熱シールド。
【請求項9】
バッテリ駆動式の装置における、請求項1からまでのいずれか1項記載の熱シールドの使用。
【請求項10】
前記バッテリ駆動式の装置は、自動車である、請求項記載の使用。
【請求項11】
前記バッテリは、リチウムイオンバッテリである、請求項または10記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッテリによって、今日では通常、リチウムイオンバッテリによって駆動される電気的な設備および装置において使用するための熱シールドに関する。とりわけ、本発明は、電気自動車のための熱シールドに関する。
【0002】
バッテリ駆動式の車両は、内燃機関を有する従来の車両に代わる環境に優しい代替品としてますます普及している。電気自動車を駆動するために、今日では主として充電式のリチウムイオンバッテリ(LIB)が使用されている。このために、複数のバッテリセルが組み合わされてモジュールとなり、これらのモジュールが組み合わされてパッケージとなり、このパッケージが車両内に取り付けられる。
【0003】
1つの問題は、セルおよびセルパッケージの動作安全性である。一般的に、バッテリセルを15~35℃の温度範囲内に保つように努力され、このことは、バッテリシステムの動作状態に応じて適切な冷却または加熱によって実現可能である。極端な場合には、例えばセル内の過充電、過熱、または短絡によっていわゆる「熱暴走(Thermal Runaway)」、すなわちセルの発火および爆発に至るまでの制御不能な加熱が発生する可能性がある。これは、相互に影響を与える物理的プロセスおよび化学的プロセスが相互に発生するカスケードプロセスであり、このことは、セル内の継続的な温度上昇をもたらす。これにより、とりわけ電解質の成分がその沸点に応じて気相に変換され、このことは、セル内の圧力上昇をもたらす。電解質は、複数の異なる成分から構成されており、これらの成分のいくつかは、わずか90.5℃の(炭酸ジメチル、DMC)、または100℃をわずかに超える(炭酸エチルメチル、EMC:107.5℃;酪酸メチル、MB:102℃)比較的低い沸点を有することができる。
【0004】
バッテリハウジングには安全弁が設けられており、この安全弁は、セル圧力が上昇すると開弁され、これにより、バッテリセル内での過熱時に発生する反応ガスを排出することができる。高温ガスと一緒に、固体の分解生成物からの粒子流が高速で連行される。これらの固体の分解生成物は、典型的にはアルミニウムからなる集電体の溶融、および電極コーティングの分解に起因して発生する。
【0005】
開弁により生じる圧力解放により、差し当たり400℃~700℃の温度と、最大400m/秒の高速の速度とを有する易燃性のガス粒子混合物がセルから急激に放出される。粒子流は、セルの寸法に応じて最初の1分間で最大100gである。流出したガスは、通常、空気中で着火し、これによって温度は、約30~60秒間で800℃~1400℃まで急速に上昇する可能性がある。その後、燃え尽きたセルの緩慢な冷却が開始する。
【0006】
ガス流および粒子流の極端な熱および高速の衝撃速度は、高い安全性リスクであり、断熱材料に対する大きな課題となっている。
【0007】
したがって、このようなバッテリシステムを車両において使用するためには、バッテリ蓋部と、ひいては間接的に乗員室とを、極端な高温および粒子流の激突の勢いから保護して、乗客の安全を確保することが絶対に必要である。通常、熱保護は、例えばモジュール被覆部としてセルの安全弁の上方で、または一般的にセルの上方で使用されるか、または直接的にバッテリ蓋部の下方で、またはバッテリ蓋部と組み合わせて使用され、そのタスクは、主として、バッテリシステムの上方に位置する乗員室を高い熱的負荷から保護することである。目標は、「熱暴走」が発生した場合に車両の床に対して作用する温度をできるだけ低く、理想的には200℃未満に保ち、直接的な炎の侵入を阻止することである。さらに、とりわけ乗員室への損傷を阻止するために、高速の衝撃速度に起因する粒子の衝突力を遮断する必要がある。
【0008】
したがって、熱シールドが効果的に作用するものとなるためには、少なくとも3つの機能を果たすことができなければならない:
1.熱シールドは、700℃~1400℃の温度での粒子衝撃を吸収できなければならない。
2.熱シールドは、ブローアウトの進行中、少なくとも120秒間にわたって最高1000℃~1400℃の高耐温性を有していなければならない。
3.熱シールドは、ブローアウト中に生じる高温を、熱シールドのうちのバッテリとは反対の側の温度、すなわち車両における乗員室が載置されている側の温度が400℃を超えないように、理想的には200℃未満の値を維持することができるように放散させることができなければならない。
【0009】
例えば電気自動車において使用するためのさらなる要件は、利用可能なスペースが限られていることから生じる。したがって、熱シールドは、できるだけ小さなスペースしか必要としないながらも、必要な保護を提供することができることが望ましい。
【0010】
本発明によれば、上記の課題は、効果的なブローアウト保護のために課せられる上述した種々の要件を、組み合わせて満たすことができる、それぞれ異なる材料からなる複数の層から形成された熱シールドによって解決される。
【0011】
本発明による熱シールドは、耐熱性エラストマーまたはエラストマーマトリクスを有する繊維複合体からなる第1の層を有し、この第1の層は、高速の衝撃速度で衝突する粒子の激突の勢いを弾性変形によって補償することができ、さらに、粒子の衝突に起因する後続の層への機械的な損傷を阻止する。この第1の層は、通常、バッテリセルに最も近い層である。
【0012】
これに続いて、最高1400℃の温度に約60秒間にわたって耐久することができる耐高温性を有する材料からなる第2の層と、熱影響下で膨潤または膨張する挙動を有し、膨張に起因して熱ブレーキとして機能する絶縁層を形成する膨張性材料からなる第3の層とが後続する。
【0013】
好ましい実施形態として、第2の層と第3の層との間に熱拡散層を配置することができ、この熱拡散層は、第2の層から到来した熱をより広範囲にわたって分散させることができ、したがって、より広範囲にわたって膨張層に熱的負荷を加え、それによって膨張効果を増幅させることができる。
【0014】
さらに、スタックの安定性を高めるために、機能層のための支持体層を最上層として設けることができる。
【0015】
層の長さおよび幅は、弁からガスが噴出したときのガス流および粒子流の飛行軌道を考慮して、バッテリアセンブリの寸法に従っている。
【0016】
熱シールド複合体の全体厚さ、ひいては個々の層の厚さは、実質的に、利用可能なスペースによって規定されている。電気自動車において使用する場合には、一般的に、1.5mm以下の全体厚さが望ましい。
【0017】
獲得したい熱シールド複合体の1.5mmの全体厚さから出発して、個々の層の平均厚さは、0.2mm~0.5mmの間の変動を伴って0.3mmである。
【0018】
個々の層の厚さは、スタック内での各層の機能によって適切に定められている。例えば、熱保護層の厚さは、どちらかといえば比較的広い範囲内にあり、熱拡散層の厚さは、どちらかといえば比較的狭い範囲内にある。
【0019】
例えば、意図しない剥離を阻止するために、必要に応じて層同士または個々の層を縫合することができる。膨張に起因する剥離を阻止するために、膨張層を、その下および/または上に配置されている層と縫合することが有利であることが判明した。縫合材料として、防火から知られているような耐熱糸を使用することができる。その例は、Kevlar(登録商標)またはNomex(登録商標)という製品名で販売されているようなアラミド糸である。
【0020】
本発明による熱シールド複合体スタックの顕著な利点は、その非常に優れた3D変形可能性である。このことは、つまり、シールドが良好に変形し、これによってシールドの使用場所または使用目的の構造要件および空間条件に適合可能であることを意味する。
【0021】
以下では本発明を、個々の層の構成および組成を含めて、添付の図面を参照しながらより詳細に説明する。図面は、本発明による熱シールドの実施形態の例を示す。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】バッテリモジュールの上方の、本発明による熱シールドの配置を示す図である。
図2図1の熱シールドの分解図である。
図3】本発明による熱シールドのさらなる実施形態を示す図である。
図4】バッテリが故障した場合における、熱シールドのうちのバッテリの方を向いた側と、バッテリから離れる方を向いた側とにおける経時的な温度推移を比較した線図である。
【0023】
衝撃吸収層は、熱シールド複合体のうちのバッテリアセンブリに最も近い層である。したがって、衝撃吸収層は、スタックの「第1の」層または「最下」層とも呼ばれる。
【0024】
図1による配置では、熱シールド1は、バッテリモジュール2のうちの安全弁3を有する面の上方に位置している。バッテリ集合体が、例えば発火に起因して故障した場合には、発生した高温ガスが、同様に発生した分解生成物の粒子と一緒に、破裂した安全弁3を通って熱シールド1の方向へと漏出する。
【0025】
図1では、ガス流および粒子流は、安全弁3から熱シールド1の方向に上昇する線状の暗雲によって示されている。
【0026】
熱シールド1は、熱シールド1の下側に高速で衝突する高温ガス流および粒子流の衝撃力を抑制し、それと同時に、バッテリとは反対の側、例えば車両の場合には乗員室を有する側を高温から保護する。
【0027】
図2は、図1に示されている熱シールド1の層構造を示す。熱シールド1は、それぞれ異なる材料からなる複数の層から形成されており、これらの複数の層が組み合わされて、一方では高温のガス流および粒子流の激突の勢いを補償し、他方では熱を放散し、これによって熱シールド1のうちの高温流とは反対の側が、熱シールド1の衝突側での高温から保護されている。
【0028】
第1の層4は、衝撃吸収特性を有する耐高温性エラストマーから形成されており、このエラストマーは、弾性変形により、高速で衝突するガス流および粒子流の衝撃を補償することができ、それと同時に、最高約400℃~450℃の高い熱的負荷に耐久することができる。したがって、この第1の層4は、本発明によれば「衝撃吸収層」とも呼ばれる。
【0029】
適切なエラストマーの例は、シリコーンエラストマーであり、例えば、フッ素-ビニル-メチル-シリコーンゴム(FVMQ)、メチル-フェニル-シリコーンゴム(PMQ)、メチル-フェニル-ビニル-シリコーンゴム(PVMQ)、メチル-シリコーンゴム、メチル-ビニル-シリコーンゴム(VMQ)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、天然ゴム(NR)、ブチルゴム、イソブテン-イソプレンゴム(IIR)、およびイソプレンゴム(IR)である。特に効果的な実施形態として、このエラストマー層に鉱物繊維を組み込むことができる。適切な例は、100~600g/m2の単位面積当たり重量を有する玄武岩繊維またはケイ酸塩繊維織物である。
【0030】
衝撃吸収層4の主な目的は、衝突するガス流および粒子流の、最初は非常に高い粒子負荷を遮断することである。一般的に、最初の粒子衝突によるこの非常に高い負荷により、層4が少なくとも部分的に削り取られる。しかしながら、最初の衝撃後には粒子負荷が格段に減少するので、後続の熱吸収層5によってさらなる層の十分な保護が保証される。
【0031】
次の第2の層5は、制御されていないガス噴出の高温段階中における極端な温度からの熱保護として使用される。乗員室を効果的に保護するために、第2の層5は、最高1400℃の著しく高い熱的負荷に約60秒間にわたって耐久可能でなければならない。したがって、この第2の層5は、本発明によれば「熱保護層」とも呼ばれる。
【0032】
したがって、第2の層5は、高耐温性を有する材料から形成されている。そのような耐高温性材料の例は、雲母材料、玄武岩繊維複合体、酸化物セラミック複合体、シリカ繊維複合体である。
【0033】
それと同時に、熱保護層5は、第1の層4によって粒子を十分に遮断することができない場合に、粒子衝撃による損傷から後続の層を保護する。
【0034】
熱保護層5と膨張層6との間には、図2に示されているように、好ましくは熱拡散層8が設けられている。熱拡散層8は、熱シールドの熱的負荷を軽減するために、熱をより広範囲にわたって分散させるために使用される。
【0035】
高熱伝導率を有するこの層が、できるだけ強力な異方性熱特性を有すると有利であり、これにより、熱拡散層8から到来した熱が、より広範囲にわたって分散されながらその次に配置されている膨張特性を有する層6に導入され、それと同時に、この膨張特性を有する層6は、広範囲にわたって発泡することができ、これによって一続きの断熱層を形成することができる。
【0036】
さらに、層6の膨張効果を支援するために、熱拡散層8ができるだけ気密であると有利である。気密性は、膨張層6が活性化された際に発生した膨張ガスが、熱拡散層8を介して漏出可能となって層6を膨張させるためにもはや利用できなくなるということを阻止する。
【0037】
熱拡散層8を形成するための高熱伝導率と所望の強力な異方性熱特性とを有する適切な材料の例は、例えば、六方晶窒化ホウ素(HBN)に基づくグラファイト箔、炭素繊維、セラミック箔であり、特に好ましいのはグラファイト箔である。
【0038】
膨張層6は、膨張性材料から形成されているか、または膨張性材料を含む。この層は、熱影響時に膨張し、追加的な熱保護としての絶縁層を形成する。
【0039】
断熱層として鉱物フリース、炭素フリース、またはガラスフリース、またはフェルトを使用することが知られているが、これらは、一般的に層厚さが比較的厚いので、熱シールドの全体厚さと、ひいては熱シールドの所要スペースとを増加させてしまう。
【0040】
これとは異なり、本発明に従って使用される膨張性材料は、薄層の形態でのみ被着可能であり、この薄層は、熱影響時に必要な場合には、例えば窒素、二酸化炭素、またはアンモニウムガスのような不燃性の膨張ガスを放出することによって膨張する。
【0041】
本発明に従って使用することもできる膨張性材料は、一般的に火炎保護から知られている。その例は、膨張性グラファイト、イライト群からの粘土鉱物のようなケイ酸アルミニウム粘土鉱物に基づくシートケイ酸塩などである。これらの膨張性材料は、通常、ポリマーマトリクスの中に埋め込まれ、ポリマーマトリクスは、存在する高温の影響下で炭化またはガラス化され、可能な限り迅速に硬い表面を形成する。マトリクスのためのポリマー材料の例は、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、エチレン酢酸ビニルなどである。
【0042】
膨張性材料とマトリクス材料とからなる複合体は、薄層へと加工可能であり、そのために、例えば薄箔のスクリーン印刷、スキージ、被着などのような通用の技術を使用することができる。
【0043】
特別な実施形態によれば、膨張性材料およびマトリクス材料からなる膨張性の複合体を支持構造に導入することができる。これにより、機械的な剛性を改善することができる。さらに、必要に応じてより厚い層厚さ、ひいてはより大きな膨張効果を達成することができる。支持構造は、開放または閉鎖された中空チャンバ構造である。その例は、必要に応じてハニカムの幾何形状が選択可能であるようなハニカム構造、ならびに樹脂強化された開気孔性のフリースおよびフェルトなどである。
【0044】
膨張効果を、樹脂システムとその熱分解とを使用することによって達成することも可能である。このために、とりわけSi樹脂、エラストマー、エポキシ樹脂などを使用することができる。
【0045】
熱保護層5と、気密な熱拡散層8と、膨張層6とからなる組み合わせが、特に有利であることが判明した。上述したように層8の気密性は、層6が活性化される際に発生する膨張ガスの漏出を阻止し、熱保護層5は、ガス流および粒子流の粒子による機械的な損傷および気密性の阻害から熱拡散層8を保護する。
【0046】
さらに、発生した膨張ガスによって層6が剥離するのを回避するために、膨張層6を、その下および/または上に配置されている層と縫合することができる。例えば、図2に示されている実施形態では、層6を、熱拡散層8および/または後続の支持体プレート7と縫合することができる。縫合材料として、前述したアラミド繊維を使用することができる。
【0047】
本発明による熱シールド複合体スタック1の上端は、さらなる層を機械的に支持する支持体プレート7によって形成されている。支持体プレート7は、ガラス繊維複合体、炭素繊維複合体、玄武岩繊維複合体、SMC(シートモールディングコンパウンド)複合体、または雲母ベースのプレートであり得る。支持体プレート7のために、十分な高耐温性を有する機械的に負荷可能なプラスチックを使用することもできる。
【0048】
さらに、さらなる機械的安定化のために、本発明による熱シールド複合体スタック1を、対応する機械的および熱的な負荷耐性を有するガラス繊維または別の材料からなる薄層によって包囲することもできる。
【0049】
材料特性を所期のように調整するために、必要に応じて、衝撃吸収性のエラストマー層4に充填材料を添加することができる。充填材料の添加によるポリマーの材料特性の調整と、適切な充填度の選択とは、当業者には知られている。
【0050】
層4の内部の熱放散性および耐温性を改善することができる充填材料を使用することができる。その例は、グラファイト、六方晶窒化ホウ素(HBN)、炭化ケイ素(SIC)、水酸化アルミニウム(ATH)、金属粒子、炭素繊維織物、C-短カット繊維、C-ミルド繊維などである。高温範囲での層4の炭化、ガラス化、および膨張を支援する充填材料、例えば、水酸化アルミニウム(ATH)、水酸化マグネシウム(MGH,Mg(OH))、赤リン、ホウ砂のような酸化物(Na[B(OH)]×8 HO)、酸化アンチモン(Sb)、膨張性グラファイト、イライト群からの粘土鉱物などを添加することができる。
【0051】
さらなる実施形態によれば、衝撃吸収性の第1の層4内に熱拡散性の充填材料を設けることができる。熱拡散性の充填材料は、第1の層4の面全体にわたる高温のガス流および粒子流の熱の分散を支援し、したがって、とりわけ高温のガス流および粒子流が最初に衝突する箇所における熱緩和をもたらす。
【0052】
図3には、層4に対して熱拡散性の充填材料を添加することによる実施形態の例が示されており、熱拡散性の充填材料9は、面全体にわたって分散配置された複数の六角形からなるパターンとして示されている。これに続いて、図2による実施形態のように、耐高温性の層5、熱拡散層8、膨張層6、および支持体プレート7が後続する。
【0053】
実施例
本発明による熱シールドの温度推移が測定され、バッテリアセンブリに最も近い側(衝撃吸収層4)での推移が、バッテリアセンブリから最も遠い側(支持体プレート7)での推移と対比された。
【0054】
熱シールド複合体スタックの構造は、最下層4から最上層7の順序で、以下の通りであった:
【0055】
衝撃吸収層4:400g/m2の単位面積当たり重量で、エラストマーマトリクス(ショアA 25/40)を有する、厚さ0.3mmの玄武岩繊維織物からなる繊維複合材、
熱保護層5:300g/m2の単位面積当たり重量で、エラストマーマトリクスを有する、厚さ0.3mmのケイ酸塩繊維織物からなる繊維複合材、
熱拡散層8:厚さ0.2mmのグラファイト箔、
膨張層6:厚さ0.4mmであり、約300℃の温度で分解するエラストマー材料からなる、
支持体プレート7:厚さ0.3mm、
層6と層8とは、アラミド糸によってX方向およびY方向に50mm×50mmの大きさの領域が生成されるような形態で互いに縫合された。
【0056】
縫合により、発生した膨張ガスによる熱拡散層8および支持体層7の部分的な剥離が阻止される。
【0057】
図4には、その結果が線図で示されている。衝撃吸収層4を有する側での温度(表側の温度)は、120秒後でも依然として1000℃を格段に上回っていたが、その一方で、裏側(支持体プレート7)での温度は、わずか340℃であった。この結果は、本発明による熱シールド複合体スタックを用いると、1200℃の開始温度を有する「熱暴走」の場合に、熱シールドの裏側での温度を、120秒の期間が経過してもわずか340℃のオーダーに抑えることができることを示しており、したがって、この側、例えば車両の乗員室の側での顕著な保護を保証することが可能となる。
【符号の説明】
【0058】
1 熱シールド
2 バッテリ
3 破裂弁または安全弁
4 衝撃吸収性の第1の層
5 耐高温性の層(熱保護層)
6 膨張層(絶縁層)
7 支持体プレート
8 熱拡散層
9 熱拡散性の充填材料
図1
図2
図3
図4