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特許7577708二次電池の製造方法及び二次電池の製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】二次電池の製造方法及び二次電池の製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20241028BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20241028BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M10/058
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022080750
(22)【出願日】2022-05-17
(65)【公開番号】P2023169566
(43)【公開日】2023-11-30
【審査請求日】2023-05-22
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】トヨタバッテリー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】田中 克弥
(72)【発明者】
【氏名】池田 博昭
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-116604(JP,A)
【文献】特開2017-091943(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0047748(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/139
H01M 10/058
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体となる基材上に電極活物質と、結着材と、溶剤とを含んだ電極合材を塗工する工程と、該塗工された電極合材を乾燥させる工程と、を備える二次電池の製造方法であって、
前記電極合材を乾燥させる工程よりも前の製造過程で前記電極活物質の比表面積を取得するとともに、
前記取得した前記電極活物質の比表面積を取得比表面積Sdとし、
前記基材上に塗工された前記電極合材が極板を形成する状態における前記電極活物質の比表面積を極板比表面積Seとして、
予め乾燥により生ずる前記極板比表面積Seの変化量ΔSをy、乾燥温度Tをxとした場合、これらの間の関係を一次の近似式y=ax-b、(「a」「b」は係数)として求めるとともに、
予め定められた所定の乾燥条件において、その乾燥により生ずる前記極板比表面積Seの変化量ΔSを基準変化量ΔSCとし、
前記取得比表面積Sdと規格比表面積Scとの差をδとし、
その基準変化量ΔSCから、前記取得比表面積Sdと前記規格比表面積Scとの差δを減じた値を乾燥時目標変化量ΔSTとし、
当該乾燥時目標変化量ΔSTに基づいて、前記取得比表面積Sdと前記規格比表面積Scとの差δを補正するための乾燥温度Tを前記近似式により設定し、
前記取得比表面積に応じ前記電極合材の乾燥条件を設定することにより前記乾燥後の前記極板比表面積を調整する二次電池の製造方法。
【請求項2】
前記電極合材の乾燥温度を前記乾燥条件として、
前記取得比表面積が小さいほど、より高い前記乾燥温度を設定する
請求項1に記載の二次電池の製造方法。
【請求項3】
前記電極合材の乾燥時間を前記乾燥条件として、
前記取得比表面積が小さいほど、より長い前記乾燥時間を設定する
請求項1に記載の二次電池の製造方法。
【請求項4】
前記乾燥条件に応じて変化する前記極板比表面積の変化量に基づいて、前記取得比表面積と予め定められた規格比表面積との差を小さくするように前記乾燥条件を設定する
請求項1に記載の二次電池の製造方法。
【請求項5】
前記電極合材の原材料を調合する工程と、前記調合された前記電極合材を混練する工程と、を備え、前記混練された前記電極合材が前記基材上に塗工されるものであって、
前記調合前の前記電極活物質について前記取得した前記比表面積を前記取得比表面積とする請求項1に記載の二次電池の製造方法。
【請求項6】
集電体となる基材上に電極活物質と、結着材と、溶剤とを含んだ電極合材を塗工するとともに該塗工された電極合材を乾燥させる二次電池の製造装置であって、
前記電極合材を乾燥させる前の製造過程で取得した前記電極活物質の比表面積を取得比表面積Sdとし、
前記基材上に塗工された前記電極合材が極板を形成する状態における前記電極活物質の比表面積を極板比表面積Seとして、
前記取得比表面積Sdの入力を受け付ける取得比表面積入力部と、
前記乾燥後の前記極板比表面積Seを調整すべく前記入力された前記取得比表面積Sdに応じた前記電極合材の乾燥条件を演算する乾燥条件演算部と、
を備え、
前記乾燥条件演算部は、予め乾燥により生ずる前記極板比表面積Seの変化量ΔSをy、乾燥温度Tをxとした場合、これらの間の関係を一次の近似式y=ax-b、(「a」「b」は係数)として求めるとともに、
予め定められた所定の乾燥条件において、その乾燥により生ずる前記極板比表面積Seの変化量ΔSを基準変化量ΔSCとし、
前記取得比表面積Sdと規格比表面積Scとの差をδとし、
その基準変化量ΔSCから、前記取得比表面積Sdと前記規格比表面積Scとの差δを減じた値を乾燥時目標変化量ΔSTとし、
当該乾燥時目標変化量ΔSTに基づいて、前記取得比表面積Sdと前記規格比表面積Scとの差δを補正するための乾燥温度Tを前記近似式により演算する二次電池の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の製造方法及び二次電池の製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、リチウムイオン二次電池等の二次電池には、集電体となる基材上に電極活物質を含んだ電極合材を塗工することにより、その極板を形成するものがある。更に、このような二次電池においては、その電極合材に含まれる電極活物質の比表面積が、その電池性能に大きく影響する。この点を踏まえ、例えば、特許文献1には、負極を構成する電極活物質について、その好ましい比表面積の範囲が記載されている。そして、例えば、特許文献2には、その前駆体の焼成温度と電極活物質の比表面積との関係が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-19094号公報
【文献】特開平9-175825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、電極合材の原材料となる電極活物質については、通常、予め定められた公差の範囲内で、その比表面積のバラツキが許容される。しかしながら、電池性能の均一性を考慮した場合、基材上に塗工された電極合材が電極板を形成する状態における電極活物質の比表面積を極板比表面積として、この極板比表面積のバラツキが、より小さいことが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する二次電池の製造方法は、集電体となる基材上に電極活物質を含んだ電極合材を塗工する工程と、該塗工された電極合材を乾燥させる工程と、を備える二次電池の製造方法であって、前記電極合材を乾燥させる工程よりも前の製造過程で前記電極活物質の比表面積を取得するとともに、前記取得した前記電極活物質の比表面積を取得比表面積とし、前記基材上に塗工された前記電極合材が極板を形成する状態における前記電極活物質の比表面積を極板比表面積として、前記取得比表面積に応じた前記電極合材の乾燥条件を設定することにより前記乾燥後の前記極板比表面積を調整する。
【0006】
即ち、基材上に塗工された電極合材の乾燥時には、その乾燥後の極板比表面積が、乾燥前の極板比表面積よりも大きくなる。更に、この乾燥により生ずる極板比表面積の変化量は、その基材上に塗工された電極合材の乾燥条件に依存する。そして、これにより、その乾燥条件の設定に基づいて、乾燥後の極板比表面積を調整することができる。従って、上記構成によれば、簡素な構成にて、容易に、その極板比表面積のバラツキを低減することができる。そして、これにより、電池性能の均一性を確保することができる。
【0007】
上記課題を解決する二次電池の製造方法は、前記電極合材の乾燥温度を前記乾燥条件として、前記取得比表面積が小さいほど、より高い前記乾燥温度を設定することが好ましい。
【0008】
即ち、乾燥により生ずる極板比表面積の変化量は、基材上に塗工された電極合材の乾燥温度が高いほど、大きくなる。従って、上記構成によれば、電極合材の乾燥温度を、その電極活物質の取得比表面積に応じた乾燥条件の設定対象として、容易に、乾燥後の極板比表面積を調整することができる。そして、これにより、極板比表面積のバラツキを抑えて電池性能の均一性を確保することができる。
【0009】
上記課題を解決する二次電池の製造方法は、前記電極合材の乾燥時間を前記乾燥条件として、前記取得比表面積が小さいほど、より長い前記乾燥時間を設定することが好ましい。
【0010】
即ち、乾燥により生ずる極板比表面積の変化量は、基材上に塗工された電極合材の乾燥時間が長いほど、大きくなる。従って、上記構成によれば、電極合材の乾燥時間を、その電極活物質の取得比表面積に応じた乾燥条件の設定対象として、容易に、乾燥後の極板比表面積を調整することができる。そして、これにより、極板比表面積のバラツキを抑えて電池性能の均一性を確保することができる。
【0011】
上記課題を解決する二次電池の製造方法は、前記乾燥条件に応じて変化する前記極板比表面積の変化量に基づいて、前記取得比表面積と予め定められた規格比表面積との差を補正すべく前記乾燥条件を設定することが好ましい。
【0012】
上記構成によれば、精度よく、その乾燥後の極板比表面積を調整することができる。そして、これにより、効果的に、その極板比表面積のバラツキを抑えて電池性能の均一性を確保することができる。
【0013】
上記課題を解決する二次電池の製造方法は、前記電極合材の原材料を調合する工程と、前記調合された前記電極合材を混練する工程と、を備え、前記混練された前記電極合材が前記基材上に塗工されるものであって、前記調合前の前記電極活物質について前記取得した前記比表面積を前記取得比表面積とすることが好ましい。
【0014】
即ち、調合前の原材料としての電極活物質については、通常、予め定められた公差の範囲内で、その初期比表面積のバラツキが許容される。そして、これにより、原材料としての電極活物質は、その製造単位、つまりはロット毎に、その初期比表面積のバラツキを有するものとなっている。従って、上記構成によれば、効率よく、高精度に、その電極活物質の取得比表面積に応じた乾燥条件の設定によって、乾燥後の極板比表面積を調整することができる。そして、これにより、効果的に、その極板比表面積のバラツキを抑えて電性能の均一性を確保することができる。
【0015】
更に、電極活物質の初期比表面積については、例えば、仕様書やラベル等の形態で、その測定値が表示されている場合が多い。従って、上記構成によれば、特段の測定作業を行うことなく、容易に、基材上に塗工された電極合材を乾燥させる工程よりも前の製造過程において、その電極合材に含まれる電極活物質の比表面積を取得することができる。そして、これにより、効率よく、その電極活物質の取得比表面積に応じた乾燥条件の設定を行うことができる。
【0016】
上記課題を解決する二次電池の製造装置は、集電体となる基材上に電極活物質を含んだ電極合材を塗工するとともに該塗工された電極合材を乾燥させる二次電池の製造装置であって、前記電極合材を乾燥させる前の製造過程で取得した前記電極活物質の比表面積を取得比表面積とし、前記基材上に塗工された前記電極合材が極板を形成する状態における前記電極活物質の比表面積を極板比表面積として、前記取得比表面積の入力を受け付ける取得比表面積入力部と、前記乾燥後の前記極板比表面積を調整すべく前記入力された前記取得比表面積に応じた前記電極合材の乾燥条件を演算する乾燥条件演算部と、を備える。
【0017】
上記構成によれば、簡素な構成にて、容易に、極板比表面積のバラツキを抑えて電池性能の均一性を確保することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、極板比表面積のバラツキを抑えて電池性能の均一性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】二次電池の斜視図である。
図2】電極体の分解図である。
図3】二次電池の側面図である。
図4】二次電池の極板を形成する電極シートの製造工程を示すフローチャートである。
図5】電極シートの製造過程と電極活物質の比表面積との関係を示すグラフである。
図6】基材上に塗工された電極合材が乾燥する前の状態図である。
図7】基材上に塗工された電極合材が乾燥した後の状態図である。
図8】プレス後の極板比表面積と電池性能との関係を示すグラフである。
図9】電極活物質の取得比表面積に応じた乾燥条件設定の処理手順を示すフローチャートである。
図10】乾燥により生ずる極板比表面積の変化量と乾燥温度との関係を示すグラフである。
図11】取得比表面積に応じた乾燥条件の設定により乾燥後の極板比表面積を調整する方法の説明図である。
図12】取得比表面積との規格比表面積との差、極板比表面積の乾燥時目標変化量、及び乾燥条件として設定する乾燥温度との関係を示す表である。
図13】乾燥条件設定装置の概略構成図である。
図14】乾燥条件設定装置による乾燥温度設定の処理手順を示すフローチャートである。
図15】取得比表面積に応じた乾燥温度設定の別例を示す説明図である。
図16】別例の乾燥条件設定装置の概略構成図である。
図17】乾燥により生ずる極板比表面積の変化量と乾燥時間との関係を示す説明図である。
図18】取得比表面積に応じた乾燥時間設定の説明図である。
図19】別例の乾燥条件設定装置の概略構成図である。
図20】取得比表面積に応じた乾燥条件設定の別例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、二次電池の製造方向に関する一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、二次電池1は、正極3、負極4、及びセパレータ5を一体化した電極体10と、この電極体10を収容するケース20と、を備えている。そして、本実施形態の二次電池1は、そのケース20内の電極体10に、図示しない非水性の電解液を含浸させたリチウムイオン二次電池としての構成を有している。
【0021】
詳述すると、本実施形態の二次電池1において、正極3、負極4、及びセパレータ5は、シート状の外形を有して積層される。そして、これら正極3、負極4、及びセパレータ5の積層体を捲回することにより、正極3と負極4との間にセパレータ5を挟み込む状態で、その径方向に正負の電極とセパレータ5とが交互に並ぶ電極体10が形成されている。
【0022】
また、本実施形態のケース20は、扁平略四角箱状のケース本体21と、このケース本体21の開口端21xを閉塞する蓋部材22と、を備えている。そして、本実施形態の電極体10は、このケース20の箱形状に対応する扁平した外形を有するものとなっている。
【0023】
さらに詳述すると、図2に示すように、本実施形態の二次電池1において、正極3及び負極4は、それぞれ、シート状の外形を有した集電体31と、この集電体31上に積層された電極活物質層32とを備えた電極シート35としての構成を有する。
【0024】
具体的には、正極3用の電極シート35Pについては、その正極集電体31Pを構成するアルミニウム等を素材とした基材36P上に、正極活物質となるリチウム遷移金属酸化物を含んだ合材ペースト37Pが塗工される。また、負極4用の電極シート35Nについては、その負極集電体31Nを構成する銅等を素材とした基材36N上に、負極活物質となる炭素系材料を含んだ合材ペースト37Nが塗工される。更に、これらの合材ペースト37P,37Nには、それぞれ、結着材が含まれている。そして、本実施形態の二次電池1においては、これらの合材ペースト37P,37Nが乾燥することで、正負の電極シート35P,35Nに対して、それぞれ、その対応する正極活物質層32P及び負極活物質層32Nが形成される構成となっている。
【0025】
更に、本実施形態の二次電池1において、これら正負の電極シート35P,35Nは、それぞれ、帯状に整形される。そして、本実施形態の電極体10は、セパレータ5を挟んで積層された正負の電極シート35P,35Nが、その帯形状の幅方向(図2中、左右方向)に延びる捲回軸L周りに捲回される構成になっている。
【0026】
尚、図2中においては、その正極3を構成する電極シート35Pを内側に捲き込むかたちで、セパレータ5及び各電極シート35が捲回されている。但し、この図は、電極体10の構造を示す一例であり、その負極4を構成する電極シート35Nを内側に捲き込むかたちで、これらのセパレータ5及び各電極シート35が捲回される場合もある。そして、これにより、その電極体10の最外殻に配置される電極シート35が、正極3を構成する電極シート35Pであるか、又は負極4を構成する電極シート35Nであるかが決定される。
【0027】
また、図1図3に示すように、ケース20の蓋部材22には、ケース20の外側に突出する正極端子38P及び負極端子38Nが設けられている。更に、各電極シート35には、それぞれ、その集電体31上に電極活物質層32が形成されていない未塗工部39が形成されている。そして、本実施形態の二次電池1は、その未塗工部39を利用して、正極3を構成する電極シート35Pと正極端子38Pとが電気的に接続され、及び負極4を構成する電極シート35Nと負極端子38Nとが電気的に接続される構成となっている。
【0028】
具体的には、本実施形態の電極体10は、その捲回軸Lが長尺略矩形板状をなす蓋部材22の長手方向(図1中、左右方向)に沿う状態で、ケース20内に収容される。更に、この状態で、その正極3を構成する電極シート35Pの未塗工部39Pと正極端子38Pとが接続部材40Pを介して接続される。そして、同じく、その負極4を構成する電極シート35Nの未塗工部39Nと負極端子38Nとが接続部材40Nを介して接続される構成となっている。
【0029】
更に、このケース20内には、電解液41が注入される。本実施形態の二次電池1においては、有機溶媒中に支持塩となるリチウム塩を溶解させたフッ素系の電解液41が用いられる。そして、本実施形態の二次電池1は、これにより、そのケース20内に封缶された電極体10に対して電解液41が含浸される構成になっている。
【0030】
(電極シートの製造過程)
図4のフローチャートに示すように、本実施形態の二次電池1を形成する電極シート35の製造過程においては、先ず、電極合材50の原材料となる電極活物質、結着材、及び増粘材等の調合が行われる(ステップ101)。そして、この調合された電極合材50の混練が行われる(ステップ102)。
【0031】
次に、上記ステップ102において混練された電極合材50が、上記のような合材ペースト37P,37Nの状態で、それぞれ、その対応する基材36P,36N上に塗工される(ステップ103、図2参照)。次に、このステップ103において塗工された電極合材50の乾燥が行われる(ステップ104)。尚、本実施形態においては、これらステップ102の塗工工程及びステップ103の乾燥工程が連続的に実行される。更に、この基材36上に塗工された電極合材50が、それぞれ、その対応する正負の電極、つまりは極板51を形成する状態で、その基材36に対する電極合材50の密着強度を高めるべく、これらのプレスが実行される(ステップ105)。そして、本実施形態の二次電池1においては、このプレス工程後に実行される裁断工程(ステップ106)を経て、上記のような帯状に延びる箔状に整形された電極シート35が製造される構成となっている。
【0032】
(電極シートの製造過程と電極活物質の比表面積)
図5に示すように、二次電池1に用いられる電極活物質の比表面積は、その電極シート35の製造過程において変化する。
【0033】
詳述すると、原材料の調合前(図4参照、ステップ101)における電極活物質の比表面積Sを初期比表面積S0とした場合、混練工程(ステップ102)の実行により、その電極活物質の比表面積Sは、この初期比表面積S0よりも小さくなる。尚、一般的な「電極活物質の比表面積」の語用法としては、この初期比表面積S0を指す場合が多い。また、基材36上に塗工された電極合材50が極板51を形成する状態における電極活物質の比表面積Sを極板比表面積Seとした場合、基材36に対する塗工直後の値(ステップ103)、つまり乾燥前の極板比表面積Se1は、混練後の値に等しい。更に、乾燥工程(ステップ104)の実行後における電極活物質の比表面積Sの値、つまり乾燥後の極板比表面積Se2は、この乾燥前の極板比表面積Se1よりも大きくなる。そして、プレス工程(ステップ105)の実行後における電極活物質の比表面積Sをプレス後の極板比表面積Se3とすると、このプレス後の極板比表面積Se3は、その乾燥後の極板比表面積Se2よりも大きくなる。
【0034】
尚、電極活物質のような多孔質粉体の比表面積は、例えば、BET式を用いた気体吸着測定法、つまりはBET法により測定される。単位は「平方メール/グラム」である。また、BET法により測定された比表面積は、「BET比表面積」と呼称される。そして、本実施形態においては、その吸着気体に窒素を用いたBET法によって、その電極活物質の比表面積Sが測定されている。
【0035】
さらに詳述すると、図6に示すように、混練工程の実行により、電極合材50中において、その電極活物質55に対して結着材56が付着する。そして、これにより電極合材50の比表面積Sが減少することで、この電極合材50が基材36とともに極板51を形成する状態においても、その乾燥前の極板比表面積Se1が、混練前の値、即ち初期比表面積S0よりも小さくなる(図5参照、S0>Se1)。
【0036】
また、図7に示すように、基材36上に塗工された電極合材50が乾燥する際には、図示しない溶剤の蒸発に伴い、その電極合材50中に含まれる結着材56の移動、つまりは所謂マイグレーションが発生する。即ち、電極合材50中の溶剤は、その基材36上に塗工された電極合材50の表面50s(図7中、上側)から蒸発する。更に、このとき、その電極合材50中を移動する溶剤とともに、同じく電極合材50中に含まれる結着材56が、その付着した電極活物質55から脱離して、基材36に近い位置から電極合材50の表面50sに近い位置に移動する(図7中、上側)。そして、このマイグレーションの発生に伴う結着材56の脱離により、その電極合材50中に含まれる電極合材50の比表面積Sが増加することで、乾燥後の極板比表面積Se2が、乾燥前の極板比表面積Se1よりも大きくなる(図5参照、Se1<Se2)。
【0037】
尚、通常、マイグレーションにより表面50s側に移動した結着材56は、電極活物質55間の隙間に凝集する。そして、このようなマイグレーションにより生じた結着材56の偏析状態を、「マイグレーション指数」として、その基材36上に塗工された電極合材50を表面50s側と基材36側とに二分した場合の「比率(表面側/基材側)」に表すことがある。
【0038】
更に、プレス工程の実行により電極合材50中の電極活物質55が押し潰されることで、その比表面積Sが増加する。そして、これにより、そのプレス後の極板比表面積Se3が、乾燥後の極板比表面積Se2よりも大きくなる(図5参照、Se2<Se3)。
【0039】
また、図5に示すように、本実施形態の二次電池1においては、電極シート35の製造時、予め、その電極活物質55の比表面積Sを規格する値として、規格比表面積Scが設定されている。具体的には、本実施形態の二次電池1において、この規格比表面積Scは、原材料の調合前における電極活物質55の比表面積Sである初期比表面積S0について設定された規定値となっている。そして、本実施形態の二次電池1においては、この規格比表面積Scを規格センター値として、予め定められた公差αの範囲内で、その初期比表面積S0のバラツキが許容されている(S0=Sc±α)。
【0040】
即ち、図5中の波形61は、その初期比表面積S0が規格比表面積Scに一致する場合において、電極シート35の製造過程で変化する電極活物質55の比表面積Sを示すグラフとなっている。また、同図中の波形62は、初期比表面積S0が許容範囲の下限に相当する場合において(S0=Sc-α)、その電極シート35の製造過程で変化する電極活物質55の比表面積Sを示すグラフとなっている。そして、同図中の波形63は、初期比表面積S0が許容範囲の上限に相当する場合において(S0=Sc+α)、その電極シート35の製造過程で変化する電極活物質55の比表面積Sを示すグラフとなっている。
【0041】
また、図8に示すように、本実施形態の二次電池1において、プレス後の極板比表面積Se3は、その基材36上に塗工された電極合材50が略完成した極板51を形成する状態における電極活物質55の比表面積Sになる。そして、このプレス後の極板比表面積Se3によって、その電池性能が決定される。
【0042】
即ち、図8のグラフにおいて、その縦軸に示す「電池抵抗」は、電池性能を表す指標の一つである。そして、この「電池抵抗」は、所謂「交流インピーダンス法」によって、電池状態で計測された値となっている。
【0043】
更に、図5に示すように、原材料の調合前における電極活物質55の比表面積Sである初期比表面積S0と予め定められた規格比表面積Scとの間に乖離がある場合、同一の製造条件であれば、上記各製造過程を経た後においても、その差δが維持されやすい。このため、二次電池1の原材料となる電極活物質55については、その初期比表面積S0に公差αを設定する構成が一般的となっている。
【0044】
しかしながら、電池性能の均一性を考慮した場合、その電極合材50中に含まれる電極活物質55の比表面積Sについては、そのバラツキが、より小さいことが好ましい。この点を踏まえ、本実施形態の二次電池1においては、電極シート35の製造過程において、その電極活物質55の比表面積Sに基づいた製造条件を設定する。具体的には、本実施形態においては、電極合材50の乾燥条件のうち、その乾燥温度Tを対象として、取得比表面積Sdが小さいほど、より高い乾燥温度Tが設定される。そして、これにより、基材36上に塗工された電極合材50が極板51を形成する状態における電極活物質55の比表面積Sを調整することで、電池性能の均一性を確保することが可能になっている。
【0045】
尚、リチウムイオン二次電池としての構成を有する本実施形態の二次電池1においては、充電時、正極3側から移動するリチウムイオンを受け入れる負極4側の電極活物質55について、その比表面積Sのバラツキが電池性能に影響を与えやすい。このため、本実施形態では、負極4を構成する電極シート35Nの製造過程において、その電極活物質55の比表面積Sに基づいた製造条件が設定されるようになっている。
【0046】
(取得比表面積に応じた乾燥条件の設定)
次に、本実施形態の二次電池1を製造する際に実行される電極活物質55の取得比表面積に応じた乾燥条件の設定について説明する。
【0047】
図9に示すように、本実施形態の二次電池1を製造する際には、基材36上に塗工された電極合材50を乾燥させる工程(図4参照、ステップ104)よりも前の製造過程において、その電極活物質55の比表面積Sを取得する(ステップ201)。具体的には、本実施形態において、この比表面積Sの取得は、電極合材50の原材料を調合する工程(図4参照、ステップ101)において、その電極活物質55の初期比表面積S0について行われる。更に、本実施形態においては、このステップ201で取得した電極活物質55の比表面積S、つまりは初期比表面積S0を、その電極活物質55の取得比表面積Sdとする(図5参照)。そして、この取得比表面積Sdに応じて、基材36上に塗工された電極合材50の乾燥条件として、その乾燥温度Tが設定される(ステップ202)。
【0048】
即ち、図5図7に示すように、基材36上に塗工された電極合材50を乾燥させることにより、その乾燥後の極板比表面積Se2が、乾燥前の極板比表面積Se1よりも大きくなる(Se1<Se2)。更に、この乾燥前後における極板比表面積Seの変化は、上記のように、その乾燥時に生ずるマイグレーションを要因とするものであることから、その進行の程度は、基材36上に塗工された電極合材50の乾燥条件に依存する。そして、これにより、その乾燥により生ずる極板比表面積Seの変化量ΔSもまた、この電極合材50の乾燥条件に応じたものとなる。
【0049】
例えば、図10に示すように、乾燥時間等、その他の乾燥条件を同一とし、異なる複数の乾燥温度Tを設定した場合、乾燥前後における極板比表面積Seの変化量ΔSは、その乾燥温度Tに略比例したものとなる。尚、この図10に示す例においては、乾燥温度Tを「175℃」に設定した場合と「180℃」に設定した場合とで、それぞれ、複数回、その基材36上に塗工された電極合材50の乾燥試験が行われている。そして、この試験結果から、乾燥により生ずる極板比表面積Seの変化量ΔSを「y」、乾燥温度Tを「x」とした場合、これらの間に、一次の近似式「y=ax-b、(「a」「b」は係数)」に表されるような相関があることを確認することができる。
【0050】
この点を踏まえ、本実施形態の二次電池1においては、取得比表面積Sdに応じた乾燥温度Tを設定することで、その乾燥後の極板比表面積Se2を調整する。そして、これにより、基材36上に塗工された電極合材50中に含まれる電極活物質55について、その比表面積Sのバラツキを低減する構成になっている。
【0051】
詳述すると、例えば、図11に示すように、取得比表面積Sdとしての初期比表面積S0が規格比表面積Scに一致する場合に、その乾燥前の極板比表面積Se1を「Se1C」、乾燥後の極板比表面積Se2を「Se2C」とする(図5参照)。そして、取得比表面積Sdが規格比表面積Scよりも小さい場合に、その乾燥前の極板比表面積Se1を「Se1L」、乾燥後の極板比表面積Se2を「Se2L」とする。
【0052】
このような場合においても、その乾燥条件を含め、同一の製造条件であれば、上記のように、その乾燥により生ずる極板比表面積Seの変化量ΔSは、これらの何れにおいても略等しい値となる(図5参照)。そして、取得比表面積Sdが規格比表面積Scよりも小さい場合において、乾燥前の極板比表面積Se1Lとその規格センター値に対応するSe1Cとの差δLは、その取得比表面積Sdと規格比表面積Scとの差δと略等しい。
【0053】
更に、これらの関係から、基材36上に塗工された電極合材50の乾燥により生ずる極板比表面積Seの変化量ΔSについて、その取得比表面積Sdと規格比表面積Scとの差δを補正するための乾燥時目標変化量ΔSTを演算することができる。そして、これにより、乾燥後の極板比表面積Se2について、その取得比表面積Sdである初期比表面積S0の差異を要因としたバラツキを低減するための乾燥温度Tを設定することができる。
【0054】
即ち、予め定められた所定の乾燥条件において、その乾燥により生ずる極板比表面積Seの変化量ΔSを基準変化量ΔSCとする。更に、例えば、取得比表面積Sdと規格比表面積Scとの差δを「δ=Sd-Sc」として、その基準変化量ΔSCから、この取得比表面積Sdと規格比表面積Scとの差δを減じた値を乾燥時目標変化量ΔSTとする(ΔST=ΔSC-δ)。そして、この乾燥時目標変化量ΔSTに基づいて、その取得比表面積Sdと規格比表面積Scとの差δを補正するための乾燥温度Tを設定することができる。
【0055】
具体的には、例えば、図10に示す例において、基材36上に塗工された電極合材50の乾燥により生ずる極板比表面積Seの変化量ΔSと乾燥温度Tとの関係を示す近似式は「y=0.0429x-7.4072」となっている。更に、取得比表面積Sdが規格比表面積Scに一致する場合、つまりは初期比表面積S0が規格センター値にある場合に対応する標準の乾燥温度Tは「175℃」となっている。尚、この例において、規格比表面積Scの値は「4.2」である。そして、この「175℃」を上記の近似式に代入することにより、その乾燥により生ずる極板比表面積Seの基準変化量ΔSCとして、約「0.1」が導出される。
【0056】
また、この例においては、その取得比表面積Sdとなる初期比表面積S0の公差αとして、「±0.4」のバラツキが許容される。このため、例えば、その初期比表面積S0のバラツキが許容範囲の下限に相当する場合(δ=-0.4)、その乾燥時目標変化量ΔSTは「ΔST=0.5」となる(図5参照)。尚、この場合、取得比表面積Sdの値は「3.8」になる。更に、この乾燥時目標変化量ΔSTの値「0.5」を上記の近似式に代入する。そして、これにより、その取得比表面積Sdと規格比表面積Scとの差「δ=-0.4」を補正するための乾燥温度Tとして、約「184℃」を導き出すことができる。
【0057】
このように、本実施形態においては、乾燥条件に応じて変化する極板比表面積Seの変化量ΔSに基づいて、取得比表面積Sdと規格比表面積Scとの差δを補正すべく、その乾燥条件としての乾燥温度Tが設定される。
【0058】
(乾燥条件設定装置)
次に、二次電池1の製造に用いられる乾燥条件設定装置について説明する。
図13に示すように、本実施形態の二次電池1を製造する際、その製造装置70を構成する乾燥条件設定装置71は、電極合材50に含まれる電極活物質55について、その取得比表面積Sdの入力を受け付ける取得比表面積入力部73を備えている。そして、本実施形態の乾燥条件設定装置71は、乾燥後の極板比表面積Se2を調整すべく、その入力された電極活物質55の取得比表面積Sdに応じた電極合材50の乾燥温度Tを演算する乾燥条件演算部75としての乾燥温度演算部76を備えている。
【0059】
詳述すると、本実施形態の乾燥条件設定装置71に対しては、その取得比表面積Sdとして、その調合工程(図4参照、ステップ201)において取得した電極活物質55の初期比表面積S0が入力される。更に、本実施形態の乾燥条件設定装置71は、上記のような取得比表面積Sdと規格比表面積Scとの差δ、乾燥時目標変化量ΔST、及び乾燥条件として設定する乾燥温度Tとの関係を、データテーブル77として、その記憶領域78に保持する(図12参照)。そして、本実施形態の乾燥温度演算部76は、このデータテーブル77を参照することにより、その入力された取得比表面積Sdに応じた電極合材50の乾燥温度Tを演算する構成となっている。
【0060】
具体的には、図14に示すように、本実施形態の乾燥条件設定装置71は、取得比表面積Sdが入力されると(ステップ301)、続いて、記憶領域78に保持した規格比表面積Scを読み出す(ステップ302)。次に、乾燥条件設定装置71は、取得比表面積Sdと規格比表面積Scとの差δを演算する(ステップ303、δ=Sd-Sc)。更に、乾燥条件設定装置71は、記憶領域78に保持した基準変化量ΔSCを読み出す(ステップ304)。そして、本実施形態の乾燥条件設定装置71は、この基準変化量ΔSC及び上記ステップ303において演算した取得比表面積Sdと規格比表面積Scとの差δに基づいて、その乾燥時目標変化量ΔSTを演算する(ステップ305、ΔST=ΔSC-δ)。
【0061】
次に、乾燥条件設定装置71は、記憶領域78に保持したデータテーブル77を参照することにより、その取得比表面積Sdと規格比表面積Scとの差δを補正するための乾燥温度Tを演算する(ステップ306)。そして、本実施形態の乾燥条件設定装置71は、このステップ306において演算された乾燥温度Tの設定出力を実行する構成となっている(ステップ307)。
【0062】
(作用)
即ち、基材36上に塗工された電極合材50の乾燥時には、その乾燥後の極板比表面積Se2が、乾燥前の極板比表面積Se1よりも大きくなる。更に、この乾燥により生ずる極板比表面積Seの変化量ΔSは、基材36上に塗工された電極合材50の乾燥条件に依存する。そして、これにより、乾燥条件の設定に基づいて、その乾燥後の極板比表面積Se2を調整することが可能になる。
【0063】
次に、本実施形態の効果について説明する。
(1)二次電池1の極板51を形成する電極シート35の製造時には、集電体31となる基材36上に電極活物質55を含んだ電極合材50を塗工する工程、及び、その基材36上に塗工された電極合材50を乾燥させる工程が実行される。また、基材36上に塗工された電極合材50を乾燥させる工程よりも前の製造過程において、その電極合材50に含まれる電極活物質55の比表面積Sが取得される。更に、この取得した電極活物質55の比表面積Sを取得比表面積Sdとするとともに、基材36上に塗工された電極合材50が極板51を形成する状態における電極活物質55の比表面積Sを極板比表面積Seとする。そして、その取得比表面積Sdに応じた電極合材50の乾燥条件を設定することにより、その乾燥後の極板比表面積Se2が調整される。
【0064】
上記構成によれば、簡素な構成にて、容易に、その基材36上に塗工された電極合材50が極板51を形成する状態における電極活物質55の比表面積S、即ち極板比表面積Seのバラツキを低減することができる。そして、これにより、電池性能の均一性を確保することができる。
【0065】
(2)電極合材50の乾燥時には、取得比表面積Sdが小さいほど、より高い乾燥温度Tを設定する。
即ち、乾燥により生ずる極板比表面積Seの変化量ΔSは、基材36上に塗工された電極合材50の乾燥温度Tが高いほど、大きくなる。従って、上記構成によれば、電極合材50の乾燥温度Tを、その電極活物質55の取得比表面積Sdに応じた乾燥条件の設定対象として、容易に、乾燥後の極板比表面積Se2を調整することができる。そして、これにより、極板比表面積Seのバラツキを抑えて、電池性能の均一性を確保することができる。
【0066】
(3)電極合材50の乾燥時には、乾燥条件に応じて変化する極板比表面積Seの変化量ΔSに基づいて、取得比表面積Sdと規格比表面積Scとの差δを補正すべく、その乾燥温度Tが設定される。
【0067】
上記構成によれば、精度よく、その乾燥後の極板比表面積Se2を調整することができる。そして、これにより、効果的に、その極板比表面積Seのバラツキを抑えて、電池性能の均一性を確保することができる。
【0068】
(4)電極シート35の製造時には、電極合材50の原材料を調合する工程、及び、その調合された電極合材50を混練する工程が実行される。更に、塗工工程においては、この混練された電極合材50が基材36上に塗工される。そして、乾燥温度Tの設定に際しては、調合前の電極活物質55について取得した初期比表面積S0を、その取得比表面積Sdに用いる。
【0069】
即ち、調合前の原材料としての電極活物質55については、通常、予め定められた公差αの範囲内で、その初期比表面積S0のバラツキが許容されている。そして、これにより、原材料としての製造単位、つまりはロット毎に、その初期比表面積S0のバラツキを有するものとなっている。従って、上記構成によれば、効率よく、高精度に、その電極活物質55の取得比表面積Sdに応じた乾燥条件の設定によって、乾燥後の極板比表面積Se2を調整することができる。そして、これにより、効果的に、その極板比表面積Seのバラツキを抑えて、電池性能の均一性を確保することができる。
【0070】
更に、電極活物質55の初期比表面積S0については、例えば、仕様書やラベル等の形態で、その測定値が表示されている場合が多い。従って、上記構成によれば、特段の測定作業を行うことなく、容易に、基材36上に塗工された電極合材50を乾燥させる工程よりも前の製造過程において、その電極合材50に含まれる電極活物質55の比表面積Sを取得することができる。そして、これにより、効率よく、その電極活物質55の取得比表面積Sdに応じた乾燥条件の設定を行うことができる。
【0071】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0072】
・上記実施形態では、電極合材50の調合工程において、その原材料としての電極活物質55の比表面積Sである初期比表面積S0が取得される。そして、この初期比表面積S0を取得比表面積Sdとして、その取得比表面積Sdに応じた乾燥条件が設定されることとした。しかし、これに限らず、取得比表面積Sdについては、基材36上に塗工された電極合材50を乾燥させる工程よりも前の製造過程において、その電極活物質55の比表面積Sを取得したものであればよい。例えば、乾燥前の極板比表面積Se1を測定して、その値を取得比表面積Sdとしてもよい。また、基材36に対する塗工前に、その混練後の比表面積Sを測定して、その値を取得比表面積Sdとする等としてもよい。そして、規格比表面積Scについてもまた、その取得時点の値を規定するものであればよい。
【0073】
・規格比表面積Scの値は、任意に設定してもよく、公差αの値についてもまた、任意に設定してもよい。例えば、規格比表面積Scの上下で公差αの値が異なっていてもよい。つまり、規格比表面積Scは、必ずしも規格センター値でなくともよい。
【0074】
・また、上記実施形態では、一例として、規格センター値となる規格比表面積Scが「4.2」、この規格比表面積Scに取得比表面積Sdが一致する場合に対応する標準の乾燥温度Tを「175℃」として、その基準変化量ΔSCの値「0.1」を求めた。しかし、これに限らず、基準変化量ΔSCは、予め定められた所定の乾燥条件において、その乾燥により生ずる極板比表面積Seの変化量ΔSを示す値であればよい。つまり、基準変化量ΔSCを設定する際の乾燥条件については、標準とする乾燥温度Tを含め、任意に変更してもよい。
【0075】
・上記実施形態では、乾燥条件設定装置71は、記憶領域78に保持したデータテーブル77を参照することにより、その取得比表面積Sdと規格比表面積Scとの差δを補正するための乾燥温度Tを演算する。そして、このデータテーブル77には、予め、その取得比表面積Sdと規格比表面積Scとの差δ、乾燥時目標変化量ΔST、及び乾燥条件として設定する乾燥温度Tとの関係が記録されているものとした。
【0076】
しかし、これに限らず、例えば、図15に示すように、取得比表面積Sdと乾燥条件として設定する乾燥温度Tとの関係が記録されたデータテーブル77Bを用いる。そして、このデータテーブル77Bを参照することにより、その取得比表面積Sdに応じた乾燥温度Tを演算する構成としてもよい。即ち、取得比表面積Sdと乾燥条件として設定する乾燥温度Tとの関係についてもまた、実験やシミュレーション等により、その乾燥温度Tに応じて変化する極板比表面積Seの変化量ΔSに基づいて、予め把握することが可能である。そして、これにより、構成の簡素化を図ることができる。
【0077】
・また、例えば、取得比表面積Sdと規格比表面積Scとの差δと乾燥条件として設定する乾燥温度Tとの関係が記録されたデータテーブル77を用いる構成であってもよい。そして、乾燥時目標変化量ΔSTと乾燥条件として設定する乾燥温度Tとの関係が記録されたデータテーブル77を用いる構成であってもよい。即ち、結果的に、取得比表面積Sdに応じた環境条件として設定する乾燥温度Tを演算することが可能であれば、データテーブル77を参照する前の数式を用いた演算処理については任意である。
【0078】
・更に、乾燥条件設定装置71が、予め、その乾燥により生ずる極板比表面積Seの変化量ΔSと乾燥温度Tとの関係を示す数式を保持する。尚、この場合における数式は、必ずしも、上記のような「y=ax-b」に表される一次の近似式でなくともよい。そして、データテーブル77を用いることなく、上記の例に示したように、このような数式を用いることにより、その取得比表面積Sdに応じた乾燥温度Tを演算する構成としてもよい。
【0079】
・上記実施形態では、乾燥後の極板比表面積Se2を調整すべく、電極合材50の乾燥条件として、その取得比表面積Sdに応じた乾燥温度Tを設定することとした。しかし、これに限らず、乾燥温度T以外の乾燥条件を変更することで、その乾燥後の極板比表面積Se2を調整する構成としてもよい。
【0080】
例えば、図16に示す乾燥条件設定装置71Cのように、その乾燥条件演算部75Cとして、乾燥時間演算部79を備える。そして、これにより、取得比表面積Sdに応じた乾燥時間tを設定する構成としてもよい。
【0081】
即ち、図17に示すように、電極合材50の乾燥により生ずる極板比表面積Seの変化は、乾燥時に生ずるマイグレーションを要因とするものであることから(図6及び図7参照)、乾燥温度Tと同様に、乾燥時間tもまた、その進行に影響を与える因子となる。尚、図17は、その乾燥により生ずる極板比表面積Seと乾燥時間tとの間に相関があることを示すための説明図であり、実測データを示すグラフではない。しかしながら、実際の電極合材50においてもまた、同図中に示すモデルのように、乾燥時間tが長いほど、そのマイグレーションが進行する。そして、これにより、その乾燥により生ずる極板比表面積Seの変化量ΔSもまた、増加することになる。
【0082】
従って、電極合材50の乾燥時には、取得比表面積Sdが小さいほど、より長い乾燥時間tを設定するとよい。このような構成としても、容易に、その乾燥後の極板比表面積Se2を調整することができる。そして、これにより、極板比表面積Seのバラツキを抑えて、電池性能の均一性を確保することができる。
【0083】
また、図18に示すように、乾燥時間演算部79による取得比表面積Sdに応じた乾燥時間tの演算については、例えば、取得比表面積Sdと乾燥条件として設定する乾燥時間tとが関係付けられたデータテーブル77Cを用いるとよい。そして、このように乾燥時間tを電極活物質55の取得比表面積Sdに応じた乾燥条件の設定対象とする場合についてもまた、そのデータテーブル77Cの設計は、任意に変更してもよい。
【0084】
例えば、データテーブル77Cは、取得比表面積Sdと規格比表面積Scとの差δ、乾燥時目標変化量ΔST、及び乾燥条件として設定する乾燥時間tを関係付けるものであってもよい。また、その取得比表面積Sdと規格比表面積Scとの差δと乾燥条件として設定する乾燥時間tとを関係付けるものであってもよい。そして、その乾燥時目標変化量ΔSTと乾燥条件として設定する乾燥時間tとを関係付けるものであってもよい。
【0085】
即ち、この場合もまた、取得比表面積Sdに応じた環境条件として設定する乾燥時間tを演算することが可能であれば、そのデータテーブル77Cを参照する前の数式を用いた演算処理については任意である。そして、データテーブル77Cに変えて、その乾燥により生ずる極板比表面積Seの変化量ΔSと乾燥時間tとの関係を示す近似式を保持する構成であってもよい。
【0086】
・また、図19及び図20に示す乾燥条件設定装置71Dのように、取得比表面積Sdに応じた乾燥温度T及び乾燥時間tを演算する乾燥条件演算部75Dを備える構成としてもよい。例えば、取得比表面積Sdと乾燥条件として設定する乾燥温度T及び乾燥時間tとが関係付けられたデータテーブル77Dを用いるとよい。尚、この場合についてもまた、取得比表面積Sdに応じた環境条件として設定する乾燥温度T及び乾燥時間tを演算することが可能であれば、そのデータテーブル77Dを参照する前の数式を用いた演算処理については任意である。そして、このような構成を採用することで、より精度よく、その乾燥後の極板比表面積Se2を調整することができる。
【0087】
・上記実施形態では、取得比表面積Sdが規格比表面積Scよりも小さい場合を例として、取得比表面積Sdと規格比表面積Scとの差δを補正すべく、その取得比表面積Sdに応じた乾燥温度Tの演算方法について説明した。しかし、これに限らず、取得比表面積Sdが規格比表面積Scよりも大きい場合についても同様に、その取得比表面積Sdと規格比表面積Scとの差δを補正する乾燥温度Tを演算してもよい。
【0088】
例えば、上記実施例の場合、乾燥温度Tが、標準値の「175℃」より低い温度域でも、その近似式が成立する範囲においては、同様の手順で規格比表面積Scよりも大きい取得比表面積Sdに対応した乾燥温度Tが演算可能である(図10図12参照)。
【0089】
ここで、乾燥時のマイグレーション現象を利用した乾燥温度Tの設定変更による極板比表面積Seの調整限界は、乾燥時、この極板比表面積Seが増加する範囲となる(図11参照)。例えば、上記実施例においては、取得比表面積Sdが規格比表面積Scと一致する場合、その乾燥により生ずる極板比表面積Seの変化量ΔS、即ち基準変化量ΔSCは「0.1」である。従って、上記実施例の場合、乾燥温度Tの設定変更による極板比表面積Seの調整限界、つまり乾燥時目標変化量ΔSTの下限は、「-0.1」となる。
【0090】
また、上記実施例の場合、このような乾燥時目標変化量ΔSTが調整限界に近い領域においては、その乾燥により生ずる極板比表面積Seの変化量ΔSと乾燥温度Tとの関係が、上記の近似式から外れる可能性がある。但し、このような場合についても、実験やシミュレーション等の実行により、予め、その調整限界に近い領域を含めた乾燥時における極板比表面積Seの変化量ΔSと乾燥温度Tとの関係を把握することで対処することが可能である。
【0091】
即ち、この場合についてもまた、例えば、予め、実験やシミュレーション等により、調整限界に近い領域を含めた近似式やデータテーブル77を作成しておくとよい。尚、この場合における近似式は、必ずしも上記のような「y=ax-b」に示される一次の近似式に限らない。そして、データテーブル77についてもまた、必ずしも、その取得比表面積Sdと設定する乾燥条件とが線形状の関係を有するものでなくともよい。このような構成を採用することで、乾燥後の極板比表面積Se2を適切に調整することのできる範囲を広げることができる。
【0092】
尚、乾燥条件の設定変更による極板比表面積Seの調整限界、つまり乾燥時目標変化量ΔSTの下限は、その製造する電極シート35の仕様に応じたものとなる。即ち、調整限界については、必ずしも上記実施例における乾燥時目標変化量ΔSTの下限値「-0.1」に一致するとは限らない。従って、取得比表面積Sdが規格比表面積Scよりも大きい場合についても、その乾燥条件の設定変更による調整限界を超えない限り、その許容される公差αの全範囲で取得比表面積Sdと規格比表面積Scとの差δを補正することが可能となる場合がある。
【0093】
・上記実施形態では、電極合材50の乾燥時には、乾燥条件に応じて変化する極板比表面積Seの変化量ΔSに基づいて、取得比表面積Sdと規格比表面積Scとの差δを補正すべく、その取得比表面積Sdの乾燥温度Tが設定されることとした。しかし、これに限らず、その取得比表面積Sdに応じた取得比表面積Sdの設定は、必ずしも取得比表面積Sdと規格比表面積Scとの差δを完全に補正するものでなくともよい。つまり、乾燥後の極板比表面積Se2を調整することにより極板比表面積Seのバラツキを抑えることができればよく、その補正の程度は問わない。そして、規格比表面積Scもまた、必ずしも定めなくともよい。
【0094】
・上記実施形態では、電極活物質55の比表面積Sが、吸着気体に窒素を用いたBET法により測定されることとした。しかし、これに限らず、窒素以外の吸着気体を用いて測定された値を用いてもよい。そして、BET比表面積に限らず、その他の方法を用いて測定された電極活物質55の比表面積Sを用いてもよい。
【0095】
・上記実施形態では、負極4を構成する電極シート35Nの製造過程において、その電極活物質55の取得比表面積Sdに応じた乾燥条件の設定を行うこととした。しかし、これに限らず、正極3を構成する電極シート35Pの製造過程において、その取得比表面積Sdに応じた乾燥条件の設定を行う構成としてもよい。
【0096】
・上記実施形態では、セパレータ5を挟んで積層された正負の電極シート35P,35Nが捲回された状態で二次電池1の電極体10を形成する構成に具体化した。しかし、これに限らず、例えば、平面積層状の電極体10を備える二次電池1について適用してもよい。
【0097】
・また、上記実施形態では、リチウムイオン二次電池としての構成を有した二次電池1の製造方法に具体化した。しかし、これに限らず、リチウムイオン二次電池以外の二次電池1についての製造方法に適用してもよい。
【0098】
・正極端子38P及び負極端子38Nの端子形状については、図1中に示す形状に限らず任意に変更してもよい。そして、二次電池1の外形となるケース20の形状についてもまた、必ずしも扁平四角箱状に限らず、例えば円筒形状等、任意に変更してもよい。
【0099】
次に、上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について記載する。
(イ)前記比表面積としてBET比表面積を用いる。
(ロ)前記乾燥により生ずる前記極板比表面積の変化量と前記乾燥条件との関係を示す数式を保持する。
【0100】
(ハ)前記取得比表面積と前記設定する前記乾燥条件とが関連付けられたデータテーブルを保持する。
(ニ)前記取得比表面積と前記規格比表面積との差と前記設定する前記乾燥条件とが関連付けられたデータテーブルを保持する。
【符号の説明】
【0101】
1…二次電池
31…集電体
36…基材
50…電極合材
51…極板
55…電極活物質
S…比表面積
Sd…取得比表面積
Se,Se1,Se2…極板比表面積
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図15
図16
図17
図18
図19
図20