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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20241028BHJP
   H01M 50/591 20210101ALI20241028BHJP
   H01M 50/586 20210101ALI20241028BHJP
   H01M 10/0587 20100101ALI20241028BHJP
   H01M 50/531 20210101ALI20241028BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241028BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M50/591 101
H01M50/586
H01M10/0587
H01M50/531
H01M10/052
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022129375
(22)【出願日】2022-08-15
(65)【公開番号】P2024025971
(43)【公開日】2024-02-28
【審査請求日】2023-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】トヨタバッテリー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】内山 翔太
(72)【発明者】
【氏名】吉川 和孝
(72)【発明者】
【氏名】出口 祥太郎
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-123549(JP,A)
【文献】特開2017-143003(JP,A)
【文献】特開2021-039874(JP,A)
【文献】特開2021-002422(JP,A)
【文献】特開2020-173942(JP,A)
【文献】特開2020-113486(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/058
H01M 50/572
H01M 4/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定幅の帯状の金属箔からなる負極基材と、前記負極基材の両面にそれぞれ形成された負極合材層と、前記負極基材の幅方向の一端部に形成され前記負極合材層が形成されていない負極接続部とを有する負極板と、
一定幅の帯状の金属箔からなる正極基材と、前記正極基材の両面にそれぞれ形成された正極合材層と、前記正極基材の幅方向の他端部に形成され前記正極合材層が形成されていない正極接続部と、前記正極接続部の両面において前記正極合材層に隣接して、前記負極合材層に対向する位置にそれぞれ設けられた絶縁保護層と、を有する正極板と、
前記正極板及び前記負極板の間に配設されたセパレータと
を備えて積層された積層体からなる電極体と、
前記電極体の幅方向の一端部の負極接続部が集箔され接合されている負極集電部と、前記他端部の正極接続部が集箔され接合されている正極集電部と、を備える非水電解液二次電池であって、
前記正極接続部の両面に形成された前記絶縁保護層において、前記正極接続部の両面に形成された前記絶縁保護層のうち、当該正極接続部が内側に折れ曲がる曲げモーメントが生じる際の、前記内側の面に形成された前記絶縁保護層である内側絶縁保護層より、前記絶縁保護層のうち、前記正極接続部を挟んで前記内側絶縁保護層と反対側の面に形成された前記絶縁保護層である外側絶縁保護層の厚みが厚く形成されているとともに、
前記外側絶縁保護層の厚みが、前記電極体の前記正極接続部を集箔して接合された状態から、前記電極体が厚み方向に拘束されて厚みが減少した場合に、前記外側絶縁保護層が前記正極合材層の端部を中心として設定した角度以上に外側に屈曲しない厚みとし
前記外側絶縁保護層の厚みが、同じ面の前記正極合材層の厚みから前記正極基材の厚みを減じた厚み以上であることを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項2】
前記外側絶縁保護層の厚みが、同じ面の前記正極合材層の厚み以下であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項3】
前記内側絶縁保護層の厚みが、前記正極接続部を集箔した場合に、前記内側絶縁保護層が、前記負極板の端部の位置で折れ曲がる厚みであることを特徴とする請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項4】
前記内側絶縁保護層の厚みが、11.6[μm]以下であることを特徴とする請求項3に記載の非水電解液二次電池。
【請求項5】
前記内側絶縁保護層の厚みが、前記正極接続部を集箔した場合に、前記負極板の端部の位置で前記内側絶縁保護層の絶縁が担保される厚みであることを特徴とする請求項3に記載の非水電解液二次電池。
【請求項6】
前記絶縁保護層がベーマイトからなる絶縁体粒子とPVdFからなる結着材とから構成されるとともに、ベーマイトの質量:PVdFの質量の比が、70:30から90:10の範囲である場合に、前記内側絶縁保護層の厚みが、5.0[μm]以上であることを特徴とする請求項5に記載の非水電解液二次電池。
【請求項7】
前記電極体は、扁平に捲回された捲回型電極体であることを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載の非水電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池に係り、詳しくは、絶縁保護層を有した非水電解液二次電池のセパレータ等の負担を軽減した非水電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池は、高いエネルギー密度を有し、高容量であることから、電気自動車(EV)やハイブリッド自動車(HV)等の駆動用電源として用いられている。
【0003】
一般的にリチウムイオン二次電池は、正極板及び負極板がセパレータを介して積層されて電極体を構成し、この電極体を電解液が充填された電池ケース内に収容されて構成される。特に近年は、帯状の正極板及び帯状の負極板がセパレータを介して積層され、この状態で積層体が長手方向に捲回され圧縮された状態の電極体が電池ケースに収容される捲回型のリチウムイオン二次電池が、効率が良く、コンパクトであるため、多く採用されている。
【0004】
特許文献1に記載された発明では、このような正極板及び負極板がセパレータを介して積層された電極体は、図6(a)に示すように、負極接続部103と正極接続部113のそれぞれの先端部が揃えられている。そして、図6(b)に示すように集電体である電極体10の幅方向Wの一端部の負極接続部103が集箔され負極集電部13に接合される。同様に他端部の正極接続部113が集箔され正極集電部15に接合される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2021-089857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、接続部の先端を揃えても、接続部を集箔するときには、外周部の接続部が中心部に向かって急激に折り曲げられることになる。急激に折り曲げられると、折り曲げ部分に応力が集中し、金属箔からなる基材、樹脂を含む合材層、薄い樹脂製のセパレータ等に負担をかけることになるという問題がある。
【0007】
本発明の非水電解液二次電池が解決しようとする課題は、正極接続部を集箔するときの正極接続部、正極基材、正極合材層、セパレータ等の集箔における負担を軽減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の非水電解液二次電池は、一定幅の帯状の金属箔からなる負極基材と、前記負極基材の両面にそれぞれ形成された負極合材層と、前記負極基材の幅方向の一端部に形成され前記負極合材層が形成されていない負極接続部とを有する負極板と、一定幅の帯状の金属箔からなる正極基材と、前記正極基材の両面にそれぞれ形成された正極合材層と、前記正極基材の幅方向の他端部に形成され前記正極合材層が形成されていない正極接続部と、前記正極接続部の両面において前記正極合材層に隣接して、前記負極合材層に対向する位置にそれぞれ設けられた絶縁保護層と、を有する正極板と、前記正極板及び前記負極板の間に配設されたセパレータとを備えて積層された積層体からなる電極体と、前記電極体の幅方向の一端部の負極接続部が集箔され接合されている負極集電部と、前記他端部の正極接続部が集箔され接合されている正極集電部と、を備える非水電解液二次電池であって、前記正極接続部の両面に形成された前記絶縁保護層において、積層された前記電極体の積層方向において前記正極集電部より遠い面に形成された外側絶縁保護層が、前記電極体の積層方向において前記正極集電部に近い面に形成された内側絶縁保護層より厚みが厚く形成されていることを特徴とする。
【0009】
前記内側絶縁保護層の厚みは、前記正極接続部を集箔した場合に、前記内側絶縁保護層が、前記負極板の端部の位置で折れ曲がる厚みであることが好ましい。この場合、前記内側絶縁保護層の厚みが、11.6[μm]以下とすることができる。
【0010】
前記内側絶縁保護層の厚みは、前記正極接続部を集箔した場合に、前記負極板の端部の位置で前記内側絶縁保護層の絶縁が担保される厚みであることが好ましい。この場合、前記絶縁保護層がベーマイトからなる絶縁体粒子とPVdFからなる結着材とから構成されるとともに、ベーマイトの質量:PVdFの質量の比が、70:30から90:10の範囲である場合に、前記内側絶縁保護層の厚みが、5.0[μm]以上とすることができる。
【0011】
前記外側絶縁保護層の厚みは、前記電極体の前記正極接続部を集箔して接合された状態から、前記電極体が厚み方向に拘束されて厚みが減少した場合に、前記外側絶縁保護層が前記正極合材層の端部を中心として設定した角度以上に外側に屈曲しない厚みとすることが好ましい。この場合、前記外側絶縁保護層の厚みが、同じ面の前記正極合材層の厚みから前記正極基材の厚みを減じた厚み以上とすることができる。また、前記外側絶縁保護層の厚みが、同じ面の前記正極合材層の厚み以下とすることができる。
【0012】
前記電極体は、扁平に捲回された捲回型電極体において好適に適用できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の非水電解液二次電池によれば、正極接続部を集箔するときの正極接続部、正極基材、正極合材層、セパレータ等の集箔における負担を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】リチウムイオン二次電池のセル電池の斜視図である。
図2】捲回される電極体の構成を示す模式図である。
図3】捲回された電極体の幅方向の端部を示す斜視図である。
図4】リチウムイオン二次電池の電極体の構成を示す模式図である。
図5】積層した電極体の正極板の正極基材、正極合材層、絶縁保護層の寸法を示す模式図である。
図6】(a)従来のリチウムイオン二次電池の電極体の製造工程において、負極板、正極板、セパレータを積層した電極体の状態を、図3のA-A方向から見た断面の模式図である。(b)従来のリチウムイオン二次電池の電極体の製造工程において、負極接続部と正極接続部を、負極集電体を集箔して負極集電部、正極接続部を集箔して正極集電部に溶接した状態を、図3のA-A方向から見た断面の模式図である。
図7】本実施形態の正極接続部の集箔基点位置を示す模式図である。
図8】従来技術の正極接続部の集箔基点位置を示す模式図である。
図9】正極接続部を集箔して正極集電部に溶接した状態の幅方向Wの断面の模式図である。
図10】正極接続部を集箔して正極集電部に溶接したあとに、リチウムイオン二次電池を電池スタックとして圧力を掛けて拘束し、電極体の全体を厚み方向に圧縮した状態の幅方向の断面の模式図である。
図11】本実施形態の外側絶縁保護層とセパレータの接触を示す模式図である。
図12】従来技術の外側絶縁保護層とセパレータの接触を示す模式図である。
図13】絶縁保護層の塗工機を示す斜視図である。
図14】外側絶縁保護層の塗工を示す模式図である。
図15】実験例の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1~15を参照して、本発明の非水電解液二次電池を、リチウムイオン二次電池1の実施形態を例に説明する。
(本実施形態の特徴)
本実施形態のリチウムイオン二次電池1は、正極接続部113を集箔するときの正極基材111、正極合材層112、セパレータ120等の集箔における負担を軽減することを目的としている。
【0016】
<本実施形態の背景技術>
ここで、背景技術となる従来の電極体10を具体的に説明する。
図2は捲回される電極体10の構成を示す模式図である。電極体10は、負極板100、正極板110、セパレータ120を積層して捲回される。図3は、捲回された電極体10の幅方向Wの端部を示す斜視図である。捲回された電極体10の全体は扁平な形状となっており、幅方向Wから見ると、競技用トラックのような形状である。
【0017】
図6(a)は、このような従来の捲回型のリチウムイオン二次電池1の電極体10の製造工程において、負極板100、正極板110、セパレータ120を積層した電極体10の状態を、図3のA-A方向から見た断面の模式図である。図6(a)に示すように、負極板100と正極板110は、積層される際に、負極板100と正極板110とが幅方向Wにずらされて積層される。その結果、幅方向Wの一端(図において左側)には、負極合材層102が設けられていない金属箔が露出した負極接続部103が多数突出する。また、幅方向Wの他端(図において右側)には、正極合材層112が設けられていない正極接続部113が多数突出する。この正極接続部113には、正極合材層112と隣接するように、絶縁保護層114がセパレータ120を介して負極合材層102に対向する位置に形成されている。従来は、負極接続部103と正極接続部113のそれぞれの先端部が幅方向Wにおいて同じ位置になるように揃えられていた。
【0018】
図6(b)は、従来のリチウムイオン二次電池1の電極体10の製造工程において、負極接続部103を集箔して負極集電部13に溶接し、正極接続部113を集箔して正極集電部15に溶接した状態を、図3のA-A方向から見た断面の模式図である。図6(b)に示すように、負極接続部103の先端103aと正極接続部113の先端113aとは、それぞれその厚み方向Dに圧縮されて集箔される。集箔された負極接続部103は一対の負極集電部13に挟まれた状態で溶接される。集箔された正極接続部113は一対の正極集電部15に挟まれた状態で溶接される。図1に示すように負極集電部13は、蓋体12を介して電池ケース11の外部へ露出してリチウムイオン二次電池1の外部において負極外部端子14と接続される。正極集電部15も、蓋体12を介して電池ケース11の外部へ露出してリチウムイオン二次電池1の外部において正極外部端子16と接続される。
【0019】
図4は、リチウムイオン二次電池1の電極体10の構成を示す模式図である。負極板100は、Cu箔などからなる負極基材101の両面に負極合材層102が形成されている。負極合材層102の一端部(図において左)には、負極合材層102が形成されず負極基材101が露出した負極接続部103が一端方向に延びるように備えられる。
【0020】
この負極板100に対してセパレータ120を介して、正極板110が配置される。正極板110は、Al箔などからなる正極基材111の両面に正極合材層112が形成されている。正極合材層112の他端部(図において右)には、正極合材層112が形成されず正極基材111が露出した正極接続部113が他端方向に延びるように備えられる。正極合材層112は、幅方向Wにおいて負極合材層102の両端部より短く、その内側の範囲に形成される。このため、Al箔が露出した正極接続部113の一部は、セパレータ120を介して、負極合材層102に対向することとなる。そこで、本実施形態のリチウムイオン二次電池1では、正極接続部113の両面において正極合材層112に隣接して、負極合材層102に対向する位置にそれぞれ絶縁保護層114が設けられている。
【0021】
ここで、正極接続部113の両面に形成された絶縁保護層114において、電極体10の積層方向において正極集電部15より遠い面に形成された絶縁保護層114を「外側絶縁保護層114a」とする。また、電極体10の積層方向において正極集電部15に近い面に形成された絶縁保護層114を「内側絶縁保護層114b」とする。
【0022】
<本実施形態の絶縁保護層114の構成の特徴>
図5は、積層した電極体10の正極板110の正極基材111、正極合材層112、絶縁保護層114の寸法を示す模式図である。正極基材111の厚みD[μm]は、概ね10~20[μm]の厚みであり、正極基材111が露出した正極接続部113も同一の厚みである。
【0023】
正極基材111に形成された正極合材層112の片面の厚みD[μm]は、片面で、概ね15~30[μm]である。
外側絶縁保護層114aの厚みDOUT[μm]と内側絶縁保護層114bの厚みDIN[μm]の関係は、以下の式(1)の関係となっている。
【0024】
IN<DOUT…式(1)
また、内側絶縁保護層114bの厚みDIN[μm]は、例えば、5.0[μm]以上、11.6[μm]以下である。
【0025】
外側絶縁保護層114aの厚みDOUT[μm]は、正極基材111の厚みD[μm]と、正極合材層112の厚みD[μm]に依拠しており、以下の式(2)の関係となっている。
【0026】
-D≦DOUT≦D…式(2)
(本実施形態の作用)
このように構成された本実施形態の作用を説明する。
【0027】
<内側絶縁保護層114bの厚みDIN[μm]が薄いことによる作用>
外側絶縁保護層114aの厚みDOUT[μm]より内側絶縁保護層114bの厚みDIN[μm]が薄いため、以下のような作用がある。
【0028】
絶縁保護層114に挟まれた正極接続部113は、内側絶縁保護層114bの厚みDIN[μm]を薄くすることで、正極接続部113が内側に折れ曲がる曲げモーメントが生じるが、外側には折れ曲がりにくくなる。また、内側絶縁保護層114bの厚みDIN[μm]を所定値以下とすることで、さらに内側に折れ曲がりやすくなる。
【0029】
ここで、正極接続部113が正極集電部15に向けて折れ曲がる位置を「集箔基点位置P」という。
図8は、従来技術の正極接続部113の集箔基点位置Pを示す模式図である。図8は、発明を概念的に説明するため、図6(b)に示す中心C-Cより下の部分及び左側を省略している。また積層数は、極端に少なくしている。なおこれは、図7~10において共通である。
【0030】
図8に示すように、従来技術の絶縁保護層114は、外側絶縁保護層114aの厚みDOUT[μm]と内側絶縁保護層114bの厚みDIN[μm]が同一の厚みである。また、絶縁性を担保するため、本実施形態の内側絶縁保護層114bの厚みDIN[μm]よりも厚く形成されていた。このため、正極接続部113が内側に折れ曲がりにくくなり、集箔した場合に、正極接続部113が折れ曲がる集箔基点位置Pは、金属箔が露出する絶縁保護層114の塗工端部である絶縁保護層端114eとなる。
【0031】
図7は、本実施形態の正極接続部113の集箔基点位置Pを示す模式図である。図7に示すように、絶縁保護層114が形成された正極接続部113が電極体10の正極集電部15に集箔される。この場合に、内側絶縁保護層114bの厚みDIN[μm]が薄い。 具体的には、内側絶縁保護層114bの厚みDIN[μm]は、例えば、11.6[μm]以下である。このため、正極接続部113は、絶縁保護層114に拘わらず、その集箔基点位置Pが、負極板100の負極スリット端100eとなる。
【0032】
このため、本実施形態における正極接続部113が正極集電部15に集箔されるのに必要な正極接続部113の長さよりも、従来技術の正極接続部113の長さが少なくなる。言い換えると、図7に示す正極接続部113の先端113tの位置は、図8に示す正極接続部113の先端113tの位置よりも先端方向(図7において右側)に移動する。そうすると、従来技術の正極集電部15における正極接続部113と接触する長さW2より、本実施形態の正極集電部15における正極接続部113と接触する長さW1を長く取ることができる。このため、正極接続部113の先端における正極集電部15の集電接合面積においてより大きな面積が確保できる。このため、導電性が向上して内部抵抗DC-IRを小さくする作用を奏するとともに、溶接の機械的な強度も大きくすることができる。
【0033】
なお、本実施形態の内側絶縁保護層114bは、屈曲時に負極スリット端100eとセパレータ120を介して接触する。このため、セパレータ120が破損した場合の負極合材層102との絶縁を確保する必要がある。そのため、内側絶縁保護層114bの厚みDINが、正極接続部113を集箔した場合に、負極板100の負極スリット端100eの位置で内側絶縁保護層114bの絶縁が担保される厚みであることが要求される。
【0034】
本実施形態では、具体的に、絶縁保護層114がベーマイトからなる絶縁体粒子とPVdFからなる結着材とから構成されている。このベーマイトの質量:PVdFの質量の比が、70:30から90:10の範囲である。このような場合であれば、内側絶縁保護層114bの厚みDINを、5.0[μm]以上とすることで絶縁を担保することができる。
【0035】
<外側絶縁保護層114aの厚みDIN[μm]が厚いことによる作用>
本実施形態のリチウムイオン二次電池1の外側絶縁保護層114aの厚みDIN[μm]が厚いことにより以下のような作用を奏する。
【0036】
図9は、正極接続部113を集箔して正極集電部15に溶接した状態を、幅方向Wの断面の模式図である。
図7で説明したように、正極接続部113を集箔すると、本実施形態では、負極板100の負極スリット端100eを集箔基点位置Pとして、正極接続部113が屈曲する。このとき、内側絶縁保護層114bは、セパレータ120を介して負極スリット端100eと接触する。
【0037】
図10は、正極接続部113を集箔して正極集電部15に溶接したあとに、リチウムイオン二次電池1を電池スタックとして圧力を掛けて拘束し、電極体10の全体を厚み方向Dに圧縮した状態の幅方向Wの断面の模式図である。正極接続部113を集箔して正極集電部15に溶接し、リチウムイオン二次電池1を組み立てた後、リチウムイオン二次電池1のセル電池を複数個重ね合わせて積層した状態で、拘束具で積層方向に圧力を掛けて拘束する。その後エージング工程などで高温の状態で維持する。
【0038】
図9に示すように正極接続部113を集箔して正極集電部15に溶接した直後の電極体10は厚みDE1となっている。その後エージング工程などで高温状態で拘束すると、図10に示すように、電極体10は圧縮されて厚みDE2となっている。このとき、電極体10の厚みDE1は圧縮されて厚みDE2となるが、正極接続部113の長さは変化がないため、外側絶縁保護層114aの屈曲した外側屈曲点P2が、電極体10に対して相対的に上方に押し上げられる。このため、図9に示す外側屈曲点Pが、図10に示すように上側(外側)のセパレータ120と接触する。
【0039】
図12は、従来技術の本実施形態の外側絶縁保護層114aとセパレータ120の接触を示す模式図である。従来は、内側絶縁保護層114bの厚みDINと外側絶縁保護層114aの厚みDOUTが同一で、かつ外側絶縁保護層114aの厚みDOUTが、本実施形態の厚みDOUTより薄くなっている。このため、屈曲前の外側屈曲点Pとセパレータ120との距離が大きくなるため、屈曲後に外側屈曲点Pがセパレータ120に接触すると正極基材111の正極接続部基端113eを中心とした屈曲角θが比較的大きくなる。このため、外側絶縁保護層114a、正極基材111に大きな負担を掛ける。
【0040】
図11は、本実施形態の外側絶縁保護層114aとセパレータ120の接触を示す模式図である。本実施形態では、内側絶縁保護層114bの厚みDINより外側絶縁保護層114aの厚みDOUTが厚くなっており、かつ外側絶縁保護層114aの厚みDOUTが、従来技術の厚みDOUTより厚くなっている。このため、屈曲前の外側屈曲点Pとセパレータ120との距離が小さくなる。このため、屈曲後に外側屈曲点Pがセパレータ120に接触しても正極基材111の正極接続部基端113eを中心とした屈曲角θが屈曲角θと比較して小さくなる。このため、外側絶縁保護層114a、正極基材111に大きな負担を掛けることがない。
【0041】
具体的には、外側絶縁保護層114aの厚みDOUT[μm]は、正極基材111の厚みD[μm]と、正極合材層112の厚みD[μm]に依拠しており、以下の式(2)の関係となっている。
【0042】
-D≦DOUT≦D…式(2)
(第1の実施形態の構成)
以上のような特徴を備えた本実施形態のリチウムイオン二次電池1の構成について、詳細に説明する。
【0043】
<リチウムイオン二次電池1の基本構成>
図1は、リチウムイオン二次電池1の斜視図である。図1に示すようにリチウムイオン二次電池1は、セル電池として構成される。リチウムイオン二次電池1は、上側に開口部を有する直方体形状の電池ケース11を備える。電池ケース11は、電池ケース11を封止する蓋体12を備える。電池ケース11の内部には電極体10が収容される。電池ケース11内には図示しない注液孔から非水電解液17が注入される。電池ケース11及び蓋体12はアルミニウム合金等の金属で構成されている。リチウムイオン二次電池1は、電池ケース11に蓋体12を取り付けることで密閉された電槽が構成される。またリチウムイオン二次電池1は、蓋体12に、電力の充放電に用いられる負極外部端子14、正極外部端子16を備えている。
【0044】
<電極体10>
図2は、捲回される電極体10の構成を示す模式図である。電極体10は、負極板100と正極板110とそれらの間に配置されたセパレータ120とが扁平に捲回されて形成されている。負極板100は、負極基材101上に負極合材層102が形成される。捲回される方向(捲回方向L)に直交する幅方向W(捲回軸方向)の一端側に負極合材層102が形成されておらず負極基材101が露出した負極接続部103が設けられている。正極板110は、正極基材111上に正極合材層112が形成される。正極基材111が捲回される方向(捲回方向L)に直交する幅方向W(捲回軸方向)の他端側に正極合材層112が形成されておらず正極基材111が露出した正極接続部113が設けられている。
【0045】
<電極体10の端部構成>
図3は、捲回された電極体10の幅方向の端部を示す斜視図である。このような負極板100、正極板110、セパレータ120が捲回されて、幅方向Wから見て、競技用トラックのような形状の扁平な電極体10が形成される。上端及び下端は半円弧状で、負極板100及び正極板110により「曲面部R」が形成されている。また、中央部は直線状で、負極板100及び正極板110により「平面部F」が形成されている。ここで、本実施形態では、捲回軸に相当する部分の直線を「中心C」という。
【0046】
そして、図3に示す幅方向Wの他端部(図において右端)は、正極接続部113が集箔されて正極集電部15に溶接により電気的かつ機械的に固定されている。なお、図3は一例であり、その形状は問わない。
【0047】
<電極体10の積層体>
図4は、リチウムイオン二次電池1の電極体10の積層体の構成を示す模式図である。図4に示すように、リチウムイオン二次電池1の電極体10は、負極板100と正極板110とセパレータ120を備える。負極板100は、負極基材101の両面に負極合材層102を備える。正極板110は、正極基材111の両面に正極合材層112を備える。負極板100と正極板110は、セパレータ120を介して重ね合わせて積層体が構成される。この積層体が捲回軸を中心に長手方向に捲回され、扁平に整形されてなる電極体10を構成する。
【0048】
<負極板100>
図4に示すように、負極基材101の両面に負極合材層102が形成されて負極板100が構成されている。負極基材101は、実施形態ではCu箔から構成されている。負極基材101は、負極合材層102の骨材としてのベースとなるとともに、負極合材層102から電気を集電する集電部材の機能を有している。負極板100は、金属製の負極基材101上に負極合材層102が形成される。第1の実施形態では負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な材料であり、黒鉛(グラファイト)等からなる粉末状の炭素材料を用いる。
【0049】
負極板100は、例えば、負極活物質と、溶媒と、結着材(バインダー)とを混練し、混練後の負極合材を負極基材101に塗布して乾燥することで作製される。
<正極板110>
図4に示すように、正極基材111の両面に正極合材層112が形成されて正極板110が構成されている。正極基材111は、本実施形態ではAl箔やAl合金箔から構成されている。正極基材111は、正極合材層112の骨材としてのベースとなるとともに、正極合材層112から電気を集電する集電部材の機能を有している。
【0050】
正極板110は、正極基材111の表面に正極合材層112が形成されている。正極合材層112は正極活物質を有する。正極活物質は、リチウムを吸蔵・放出可能な材料であり、例えばコバルト酸リチウム(LiCoO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)等を用いることができる。また、LiCoO、LiMn、LiNiOを任意の割合で混合した材料を用いてもよい。
【0051】
また、正極合材層112は、導電材を含む。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、黒鉛(グラファイト)を用いることができる。
【0052】
正極板110は、例えば、正極活物質と、導電材と、溶媒と、結着材(バインダー)とを混練し、混練後の正極合材を正極基材111に塗布して乾燥することで作製される。
<セパレータ120>
セパレータ120は、負極板100及び正極板110の間に非水電解液17を保持するためのポリプロピレン製等の不織布である。また、セパレータ120としては、多孔性ポリエチレン膜、多孔性ポリオレフィン膜、および多孔性ポリ塩化ビニル膜等の多孔性ポリマー膜、又は、リチウムイオンもしくはイオン導電性ポリマー電解質膜を、単独、又は組み合わせて使用することもできる。非水電解液17に電極体10に浸漬させるとセパレータ120の端部から中央部に向けて非水電解液17が浸透する。
【0053】
<絶縁保護層114>
本実施形態の正極板110では、上述のとおり絶縁保護層114が形成されている。絶縁保護層114は、絶縁体粒子が結着材(バインダー)により分散された状態で固定されている。絶縁保護層114は、絶縁保護ペーストを正極基材111の表面に、正極合材層112の端部に沿って塗工、乾燥されることで形成される。
【0054】
絶縁保護ペーストは、結着材に溶媒を添加して液状にし、絶縁体粒子を分散させたペーストである。また、絶縁体粒子がペースト内で均等に分散させるために分散剤を添加している。
【0055】
絶縁体粒子は、負極合材層102と正極基材111(正極接続部113)との間に配置して電気的な絶縁を図るものである。高い絶縁性と、異物の進入を阻止する硬度を備えた、例えば金属酸化物を焼成したセラミックスなどが例示できる。具体的には、ベーマイトやアルミナなどの粒子が用いられる。本実施形態では、ベーマイトを用いている。
【0056】
<ベーマイト>
ベーマイトは、水酸化アルミニウム(γ-AlO(OH))鉱物であり、アルミニウム鉱石ボーキサイトの成分である。ガラス質から真珠のような光沢を示し、モース硬度3~3.5、比重3.00~3.07である。絶縁性、耐熱性、硬度が高く、工業的には、耐火性ポリマー用の安価な難燃性添加剤として使用することができる。
【0057】
ベーマイトは、AlO(OH)又はAl・HOの化学組成で示され、一般的にアルミナ3水和物を空気中で加熱処理又は水熱処理することにより製造される化学的に安定なアルミナ1水和物である。ベーマイトは、脱水温度が450~530℃と高く、製造条件を調整することにより板状ベーマイト、針状ベーマイト、六角板状ベーマイトなど種々の形状に制御できる。また、製造条件を調整することにより、アスペクト比や粒径の制御ができる。
【0058】
結着材には、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸、ポリアクリレート等を用いることができる。本実施形態では、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を用いている。
【0059】
<絶縁体粒子と結着材の配合>
本実施形態は、絶縁保護層114がベーマイトからなる絶縁体粒子とPVdFからなる結着材とから構成される。そして、ベーマイトの質量:PVdFの質量の比が、70:30から90:10の範囲としている。また、本実施形態では、内側絶縁保護層114bの厚みDIN[μm]が、5.0[μm]以上としている。この範囲であれば、セパレータ120が破壊された場合に、内側絶縁保護層114bが負極スリット端100eの負極合材層102と直接接触した場合でも、絶縁性を担保して、短絡を回避することができる。
【0060】
<非水電解液17>
図13に示す非水電解液17は、非水溶媒に支持塩が含有された組成物である。ここで、非水溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)を用いることができる。また、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等からなる群から選択された一種または二種以上の材料でもよい。また、支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO、LiCSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiI等から選択される一種または二種以上のリチウム化合物(リチウム塩)を用いることができる。
【0061】
(絶縁保護層114の塗工方法)
以下、本実施形態の絶縁保護層114の塗工方法の一例を示す。本実施形態の絶縁保護層114では、外側絶縁保護層114aの厚みDOUTと内側絶縁保護層114bの厚みDINが異なる厚さとなっている。厚みの差をつけるには、ペーストの粘度、固形分率NV、塗工機5の吐出量、吐出速度、正極基材111の搬送速度のなどの調整により達成できる。また、以下に述べるように、ダイノズル51のギャップの差を利用することもできる。もちろん、適正な厚みとするためにこれらの方法を適宜組み合わせて実施できることは言うまでもない。
【0062】
<塗工機5の構成>
図13は、本実施形態の塗工工程の塗工機5を示す斜視図である。図13に示すように、塗工機5は、基台となるステージ57を備えている。ステージ57には、長尺帯状に形成されたAl箔からなる切断前の正極基材111を搬送するための位置決めのガイド58を備える。正極基材111は、図示を省略した供給リールから引き出され、搬送手段により、ステージ57上で搬送される。ステージ57の正極基材111の搬送方向上流側の端部には、搬送方向と直交する向きで、正極基材111を跨ぐような門型のダイノズル51が設けられる。ダイノズル51は、正極合材ペーストを貯留する第1のダイ52を備える。第1のダイ52は、正極合材層112が形成される位置に対応した位置に設けられる空間である。第1のダイ52には、正極合材ペーストが図示を省略した供給手段から供給されて貯留される。また、第2のダイ54は、絶縁保護層114が形成される位置に対応した位置に設けられる空間である。第2のダイ54には、絶縁保護ペーストが図示を省略した供給手段から供給されて貯留される。第1のダイ52と第2のダイ54は、隣接した形で、同一直線状に並べられる。
【0063】
第1のノズル53は、第1のダイ52の下部からステージ57上の正極基材111の正極合材層112が形成される位置まで連通するノズルである。図示しない加圧手段で第1のダイ52の内圧が高められると、正極合材ペーストは、第1のノズル53から正極基材111の正極合材層112が形成される位置に正極合材ペーストを所定量吐出する。
【0064】
第2のノズル55は、第2のダイ54の下部からステージ57上の正極基材111の絶縁保護層114が形成される位置まで連通するノズルである。図示しない加圧手段で第2のダイ54の内圧が高められると、絶縁保護ペーストは、第2のノズル55から正極基材111の絶縁保護層114が形成される位置に絶縁保護ペーストを所定量吐出する。このようにして、正極基材111の内側となる面に正極合材層112と内側絶縁保護層114bを形成する。
【0065】
次に、正極基材111の外側となる部分に、正極合材層112と外側絶縁保護層114aを形成する。
図14は、外側絶縁保護層114aの塗工の一例を示す模式図である。外側絶縁保護層114aの塗工は、基本的に内側絶縁保護層114bの塗工と共通である。但し、ステージ57に替えてバックアップロール59で背面を支持している。外側の面の外側絶縁保護層114aを塗工する場合、図14に示すように、正極基材111の内側の面には、正極合材層112と内側絶縁保護層114bが既に形成されている。このときステージ57に替えてバックアップロール59などに正極基材111の内側の面を接触させて、ダイノズル51を所定のギャップGだけ離間してセットする。このとき、内側絶縁保護層114bの厚みDINは、正極合材層112の厚みDよりも薄い。そのため、正極合材層112の部分でギャップGをセットした場合、内側絶縁保護層114bの部分では、内側絶縁保護層114bがバックアップロール59に張り付いて、内側絶縁保護層114bの部分のギャップGがギャップGより大きくなる。このギャップG2を利用して、外側絶縁保護層114aの厚みDOUTを内側絶縁保護層114bの厚みDINよりも厚い所定の厚さとする。なお、塗工工程は、この同時塗工の方法に限定されるものではなく、正極合材層112と絶縁保護層114を別々に形成してもよい。
【0066】
(本実施形態の実験例)
図15は、実験例の結果を示す表である。この実験では実験例1~5は共通して、正極基材111は厚みDが12[μm]のものを、正極合材層112の片面の厚みDが24.8[μm]のものを使用した。このため、[片側の正極合材層112の厚みDA-正極基材111の厚みD]の値は、共通して12.8[μm]となっている。
【0067】
実験は、以下の4つの基準値を基準として評価した。
・基準1:本実施形態のリチウムイオン二次電池1では、外側絶縁保護層114aの厚みDOUT[μm]と内側絶縁保護層114bの厚みDIN[μm]の関係は、DIN<DOUTとなることを基準としている。
【0068】
・基準2:内側絶縁保護層114bの厚みDIN[μm]は、11.6[μm]以下を基準値としている。
・基準3:内側絶縁保護層114bの厚みDIN[μm]は、5.0[μm]以上を基準値としている。
【0069】
・基準4:外側絶縁保護層114aの厚みDOUT[μm]は、D-D≦DOUT≦Dの関係を基準とする。
なお、この基準1~4は本発明の好ましい範囲を示すものであり、その発明を限定することを意図するものではない。
【0070】
<実験例1>
絶縁保護層総厚みが22.4[μm]、内側絶縁保護層114bの厚みDINが9.9[μm]、外側絶縁保護層114aの厚みDOUTが12.5[μm]となっている。
【0071】
このため、基準1、基準2、基準3を満たしており、集箔基点位置Pも負極スリット端100eに位置している。しかし、外側絶縁保護層114aの厚みDOUTが12.8[μm]未満であるため、基準4を満たしていない。その結果、十分な屈曲抑制ができておらず正極基材111、セパレータ120に負荷が掛かっている。
【0072】
<実験例2>
絶縁保護層総厚みが24.1[μm]、内側絶縁保護層114bの厚みDINが10.9[μm]、外側絶縁保護層114aの厚みDOUTが13.2[μm]となっている。
【0073】
このため、基準1、基準2、基準3、基準4をすべて満たしている。その結果、集箔基点位置Pも負極スリット端100eに位置しているため、集箔経路を短縮することができている。また、十分な屈曲抑制ができており、正極基材111、セパレータ120に負荷が掛かっていない。
【0074】
<実験例3>
絶縁保護層総厚みが26.8[μm]、内側絶縁保護層114bの厚みDINが11.6[μm]、外側絶縁保護層114aの厚みDOUTが15.2[μm]となっている。
【0075】
このため、基準1、基準2、基準3、基準4をすべて満たしている。その結果、集箔基点位置Pも負極スリット端100eに位置しているため、集箔経路を短縮することができている。また、十分な屈曲抑制ができており、正極基材111、セパレータ120に負荷が掛かっていない。
【0076】
<実験例4>
絶縁保護層総厚みが25.2[μm]、内側絶縁保護層114bの厚みDINが12.0[μm]、外側絶縁保護層114aの厚みDOUTが13.2[μm]となっている。
【0077】
このため、基準1、基準3、基準4を満たしている。その結果、十分な屈曲抑制ができており、正極基材111、セパレータ120に負荷が掛かっていない。一方、内側絶縁保護層114bの厚みDINが基準値11.6[μm]を超えているため、集箔基点位置Pが絶縁保護層端114eに位置しており、集箔経路を短縮することができず、正極集電部15において、接触面積が減少している。
【0078】
<実験例5>
絶縁保護層総厚みが24.7[μm]、内側絶縁保護層114bの厚みDINが13.5[μm]、外側絶縁保護層114aの厚みDOUTが11.2[μm]となっている。
【0079】
また、内側絶縁保護層114bの厚みDINが外側絶縁保護層114aの厚みDOUTより厚くなっている。
このため、基準3を満たしているが、基準1、基準2、基準4は満たしていない。
【0080】
その結果、集箔基点位置Pが絶縁保護層端114eに位置しているため、集箔経路を短縮することができず、正極集電部15において、接触面積が減少している。また、十分な屈曲抑制ができておらず正極基材111、セパレータ120に負荷が掛かっている。
【0081】
<実験まとめ>
以上の実験から導かれることは、基準1~4を満たした場合には、集箔基点位置Pが負極スリット端100eに位置しているため集箔経路を短縮することができる。また、十分な屈曲抑制ができており、正極基材111、セパレータ120に負荷が掛かっていない。
【0082】
基準1を満たさない場合は、前提として曲げモーメントが外側になるため、絶縁保護層114が、内側に屈曲しにくくなることが物理的に明らかである。
また、基準2を満たさない場合は、内側絶縁保護層114bが曲がりにくくなる。このため集箔基点位置Pが絶縁保護層端114eに位置するようになり、集箔経路を短縮することができない。その結果、正極集電部15において接触面積が減少することが分かった。
【0083】
基準3を満たさない場合は、この実験では確認していないが、内側絶縁保護層114bの強度に問題が生じることがわかっている。
また、基準4を満たさない場合は、十分な屈曲抑制ができず、正極基材111、セパレータ120に負荷が掛かることが分かった。
【0084】
なお、絶縁保護層総厚みDIN+DOUT[μm]の大小自体は、結果の良否には直接関係がなく、結果の良否は内側絶縁保護層114bの厚みDIN及び外側絶縁保護層114aの厚みDOUTに依拠していることがわかる。
【0085】
以上のように本実験を通じて、基準1~4を満たす実験例2、3が、本実施形態の好ましい実施例となり、実験例1、4、5は、本実施の比較例となる。但し、本発明を限定するものではない。
【0086】
(本実施形態の効果)
(1)本実施形態のリチウムイオン二次電池1によれば、正極接続部113を集箔するときの正極基材111、正極合材層112、セパレータ120等の集箔における負担を軽減することができるという効果がある。
【0087】
(2)電極体10の積層方向において正極集電部15より遠い面に形成された外側絶縁保護層114aの厚みDOUTが、正極集電部15に近い面に形成された内側絶縁保護層114bの厚みDINより厚く形成されている。このため、正極板110は、正極集電部15に近づけるように曲げやすくなるという効果がある。
【0088】
(3)特に、内側絶縁保護層114bの厚みDINが、正極接続部113を集箔した場合に、内側絶縁保護層114bが、負極板100の端部の位置で折れ曲がる厚みとしている。具体的には、内側絶縁保護層114bの厚みDINが、11.6[μm]以下である。このため、正極集電部15までの経路を短くすることができるという効果がある。その結果、正極集電部15における接触面積を拡大することができるという効果がある。
【0089】
(4)内側絶縁保護層114bの厚みDINが、正極接続部113を集箔した場合に、負極板100の端部の位置で内側絶縁保護層114bの絶縁が担保される厚みである。具体的には、絶縁保護層114がベーマイトからなる絶縁体粒子とPVdFからなる結着材とから構成されるとともに、ベーマイトの質量:PVdFの質量の比が、70:30から90:10の範囲とした。この場合に、内側絶縁保護層114bの厚みDINが、5.0[μm]以上とした。そのため、セパレータ120の絶縁がなくなった場合でも、負極板100の端部の位置で内側絶縁保護層114bの絶縁が担保されるという効果がある。
【0090】
(5)外側絶縁保護層114aの厚みDOUTが、電極体10の正極接続部113を集箔して接合された状態から、電極体10が厚み方向Dに拘束されて厚みが減少する。この場合に、外側絶縁保護層114aが正極合材層112の端部を中心として設定した角度θ以上に外側に屈曲しない厚みとした。そのため、十分な屈曲抑制ができており、正極基材111やセパレータ120に負荷が掛からないという効果がある。
【0091】
(6)外側絶縁保護層114aの厚みDOUTを、同じ面の正極合材層112の厚みDから正極基材111の厚みDを減じた厚み以上とした。そのため、効果的な屈曲抑制ができるという効果がある。
【0092】
(7)外側絶縁保護層114aの厚みDOUTが、同じ面の正極合材層112の厚みD以下とした。このため、外側絶縁保護層114aが正極合材層112よりも厚くなることがないという効果がある。
【0093】
(8)本実施形態の絶縁保護層114は電極体10が扁平に捲回された捲回型電極体である場合に、好適に実施できるという効果がある。
(その他の別例)
○本実施形態の絶縁保護層114の塗工方法は、例示であり、このような方法に限定されるものではない。
【0094】
図1~14に例示した図面は説明のため模式的に簡略化若しくはデフォルメされており、電極体10の捲回数、積層数の省略や、厚み・幅・長さのバランス、ずれ量、角度等は例示であり、本発明を限定するものではない。
【0095】
○また、実施形態において好ましい範囲として例示した数値範囲は一例であり、電池の構成、材質などにより当業者が適宜最適化を図ることができる。
○実施形態では、積層体が捲回されたのちに扁平に整形されたものを例示したが、必ずしも捲回型のリチウムイオン二次電池1は扁平に整形されたものに限定されるものではない。例えば、円柱形に捲回された電極体10においても実施できる。さらに、電極体10が概ね同形状の長方形の正極板、負極板、セパレータを多数積層したようないわゆる積層型の電極体10においても好適に実施できるものである。
【0096】
○本実施形態のリチウムイオン二次電池1は本発明の一実施形態であり、特許請求の範囲を逸脱しない限り、実施形態に限定されず当業者によりその構成を付加し、削除し、若しくは変更して実施できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0097】
1…リチウムイオン二次電池
10…電極体
11…電池ケース
12…蓋体
13…負極集電部
14…負極外部端子
15…正極集電部
16…正極外部端子
17…非水電解液
100…負極板
100e…負極スリット端
101…負極基材
102…負極合材層
103…負極接続部
110…正極板
111…正極基材
112…正極合材層
113…正極接続部
113e…正極接続部基端
114…絶縁保護層
114a…外側絶縁保護層
114b…内側絶縁保護層
114e…絶縁保護層端
120…セパレータ
C…中心
R…曲面部
F…平面部
L…捲回方向(長手方向)
W…幅方向
D…厚み方向
E1、DE2[mm]…電極体厚み
[μm]…正極基材111の厚み
[μm]…正極合材層112の片面の厚み
OUT[μm]…外側絶縁保護層114aの厚み
IN[μm]…内側絶縁保護層114bの厚み
…集箔基点位置
…外側屈曲点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図9
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図12
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図15