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特許7577716二酸化炭素除去装置、二酸化炭素脱離判定方法、及び二酸化炭素分離方法
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  • 特許-二酸化炭素除去装置、二酸化炭素脱離判定方法、及び二酸化炭素分離方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】二酸化炭素除去装置、二酸化炭素脱離判定方法、及び二酸化炭素分離方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/04 20060101AFI20241028BHJP
   C01B 32/50 20170101ALI20241028BHJP
【FI】
B01D53/04
C01B32/50
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022155119
(22)【出願日】2022-09-28
(65)【公開番号】P2024048937
(43)【公開日】2024-04-09
【審査請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 敏行
(72)【発明者】
【氏名】星野 守門
(72)【発明者】
【氏名】高沢 正信
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-239330(JP,A)
【文献】特開2016-131920(JP,A)
【文献】特開2023-145852(JP,A)
【文献】特開2021-148044(JP,A)
【文献】特開2007-322223(JP,A)
【文献】特開2009-143807(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/02-53/12
53/34-53/73
53/74-53/85
53/92
53/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化炭素吸着モジュールと、前記二酸化炭素吸着モジュールの吸気部に設けられた第1のバルブと、前記二酸化炭素吸着モジュールの排気部に設けられた第2のバルブと、前記排気部と前記第2のバルブとの間には、分岐があり、前記分岐からの配管に接続された第3のバルブと、前記第3のバルブを介して前記二酸化炭素吸着モジュールに接続された真空ポンプと、加熱装置と、制御部とを備え、
前記二酸化炭素吸着モジュールは、圧力測定部及び吸着材を備え、
前記制御部は、前記圧力測定部が測定した圧力に基づいて、前記吸着材からの二酸化炭素の脱離の有無の判定、及び、異常の検知のうちの少なくとも一方を行う、
前記制御部は、前記圧力測定部が測定した圧力の上昇度合いに応じて異なる異常を検知する、
二酸化炭素除去装置。
【請求項2】
前記の圧力の上昇度合いは、圧力の測定を開始した後に所定の時間が経過した時点での圧力値、及び、圧力の測定を開始した後の所定期間内の圧力の上昇率のうちの少なくとも一方を含む、
請求項1に記載の二酸化炭素除去装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記圧力測定部が測定した圧力の上昇度合いが、あらかじめ定められた値より高い場合、前記二酸化炭素吸着モジュールに圧漏れがあると判定し、
前記圧力測定部が測定した圧力の上昇度合いが、あらかじめ定められた値より低い場合、前記吸着材に劣化があると判定する、
請求項1又は2に記載の二酸化炭素除去装置。
【請求項4】
前記吸気部と前記排気部とにおいて、前記吸気部の側を上流とし、前記排気部の側を下流とした場合、前記真空ポンプの下流には二酸化炭素センサーが備えられており、
前記制御部は、前記圧力測定部が測定した圧力と、前記二酸化炭素センサーの検知結果とを比較して、前記二酸化炭素センサーの故障の有無を判定する、
請求項1に記載の二酸化炭素除去装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記圧力測定部の測定結果に基づいて、前記第3のバルブの開閉、及び真空ポンプの作動を制御する、
請求項1に記載の二酸化炭素除去装置。
【請求項6】
圧力測定部及び吸着材を備えた二酸化炭素吸着モジュールと、前記二酸化炭素吸着モジュールの吸気部に設けられた第1のバルブと、前記二酸化炭素吸着モジュールの排気部に設けられた第2のバルブと、前記排気部と前記第2のバルブとの間には、分岐があり、前記分岐からの配管に接続された第3のバルブと、前記第3のバルブを介して前記二酸化炭素吸着モジュールに接続された真空ポンプと、加熱装置とを備えた二酸化炭素除去装置における二酸化炭素脱離判定方法であって、
前記第1のバルブ、前記第2のバルブ及び前記第3のバルブを閉じる工程と、
前記圧力測定部により、前記二酸化炭素吸着モジュールの圧力を測定する工程と、
測定された圧力に基づいて、前記吸着材からの二酸化炭素の脱離の有無の判定、及び、異常の検知のうちの少なくとも一方を行う工程と、を有
前記圧力測定部が測定した圧力の上昇度合いに応じて異なる異常を検知する、
二酸化炭素脱離判定方法。
【請求項7】
圧力測定部及び吸着材を備えた二酸化炭素吸着モジュールと、前記二酸化炭素吸着モジュールの吸気部に設けられた第1のバルブと、前記二酸化炭素吸着モジュールの排気部に設けられた第2のバルブと、前記排気部と前記第2のバルブとの間には、分岐があり、前記分岐からの配管に接続された第3のバルブと、前記第3のバルブを介して前記二酸化炭素吸着モジュールに接続された真空ポンプと、加熱装置とを備えた二酸化炭素除去装置によって、空気から二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離方法であって、
空気中の二酸化炭素を前記吸着材に吸着させる吸着工程と、
前記第1のバルブ及び前記第2のバルブを閉じ、かつ前記第3のバルブを開いた状態で、前記二酸化炭素吸着モジュール内の圧力を前記真空ポンプにより減圧する減圧工程と、
前記第1のバルブ、前記第2のバルブ及び前記第3のバルブを閉じた状態とし、加熱装置による前記吸着材の昇温を行ないながら、前記圧力測定部により、前記二酸化炭素吸着モジュールの圧力を測定する圧力測定工程と、
前記圧力測定部により測定された圧力に基づいて、前記第3のバルブを開いて、前記真空ポンプによる前記二酸化炭素吸着モジュール内の減圧を開始し、前記吸着材に吸着した二酸化炭素を脱離する脱離工程と、を有する、
二酸化炭素分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素除去装置、二酸化炭素脱離判定方法、及び二酸化炭素分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、気候変動の緩和または影響軽減を目的とした取り組みが継続され、この実現に向けて二酸化炭素の排出量低減に関する研究開発が行われている。その取り組みの一つとして、大気中の二酸化炭素を捕獲し、捕獲した二酸化炭素を地中などに気体や液体などの形態で貯蔵する技術や、捕獲した二酸化炭素を炭素源として燃料や化成品などの有価物に変換し活用する技術などが提案されている。なかでも、直接空気回収(DAC:Direct Air Capture)による二酸化炭素の捕獲では、吸着による二酸化炭素の捕獲が提案されている。例えば、特許文献1には、二酸化炭素を吸着する吸着材を、吸着材保持部材に複数層配置する技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2019/0255480号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、直接空気回収による二酸化炭素の排出量低減において、二酸化炭素の濃度を測定することは容易ではない。直接空気回収において、吸着材からの二酸化炭素の脱離は真空下で行われる。これに対して、二酸化炭素センサーは、通常、大気圧下で使用するように設計されている。そのため、吸着材から二酸化炭素を脱離させる場面において、二酸化炭素の濃度を測定することは困難である。これは、吸着材から二酸化炭素が脱離したか否かを判定することが困難であることを意味する。
【0005】
そこで本発明は、二酸化炭素センサーを用いることなく、吸着材から二酸化炭素が脱離したか否かを判定することが可能な二酸化炭素除去装置及び二酸化炭素脱離判定方法を提供することを課題とする。そして、延いては気候変動の緩和または影響軽減に寄与するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)二酸化炭素吸着モジュールと、前記二酸化炭素吸着モジュールの吸気部に設けられた第1のバルブと、前記二酸化炭素吸着モジュールの排気部に設けられた第2のバルブと、前記排気部に接続された第3のバルブと、前記第3のバルブを介して前記二酸化炭素吸着モジュールに接続された真空ポンプと、制御部とを備え、前記二酸化炭素吸着モジュールは、圧力測定部及び吸着材を備え、前記制御部は、前記圧力測定部が測定した圧力に基づいて、前記吸着材からの二酸化炭素の脱離の有無の判定、及び、異常の検知のうちの少なくとも一方を行う。
【0007】
このような二酸化炭素除去装置によれば、二酸化炭素センサーを用いることなく、吸着材から二酸化炭素が脱離したか否かを判定することが可能になる。さらには、簡易な機構で、装置の異常を検知することが可能になる。
【0008】
(2)また、本発明の二酸化炭素除去装置では、前記制御部は、前記圧力測定部が測定した圧力の上昇度合い応じて異なる異常を検知することが好ましい。
【0009】
このような二酸化炭素除去装置によれば、1つの測定部により、複数種類の異常を検知することができる。
【0010】
(3)また、本発明の二酸化炭素除去装置では、前記の圧力の上昇度合いは、圧力の測定を開始した後に所定の時間が経過した時点での圧力値、及び、圧力の測定を開始した後の所定期間内の圧力の上昇率のうちの少なくとも一方を含むことが好ましい。
【0011】
このような二酸化炭素除去装置によれば、物性の簡易な評価により、複数種類の異常を検知することができる。
【0012】
(4)また、本発明の二酸化炭素除去装置では、前記制御部は、前記圧力測定部が測定した圧力の上昇度合いが、あらかじめ定められた値より高い場合、前記二酸化炭素吸着モジュールに圧漏れがあると判定し、前記圧力測定部が測定した圧力の上昇度合いが、あらかじめ定められた値より低い場合、前記吸着材に劣化があると判定することが好ましい。
【0013】
このような二酸化炭素除去装置によれば、あらかじめ定めた値と比較することのみで、複数種類の異常の内容を判定することができる。
【0014】
(5)また、本発明の二酸化炭素除去装置は、前記吸気部と前記排気部とにおいて、前記吸気部の側を上流とし、前記排気部の側を下流とした場合、前記真空ポンプの下流には二酸化炭素センサーが備えられており、前記制御部は、前記圧力測定部が測定した圧力と、前記二酸化炭素センサーの検知結果とを比較して、前記二酸化炭素センサーの故障の有無を判定することが好ましい。
【0015】
このような二酸化炭素除去装置によれば、センサーの故障の有無を、簡素な機構で判定することができる。
【0016】
(6)また、本発明の二酸化炭素除去装置では、前記制御部は、前記圧力測定部の測定結果に基づいて、前記第3のバルブの開閉、及び真空ポンプの作動を制御することが好ましい。
【0017】
このような二酸化炭素除去装置によれば、バルブやポンプを、より実情に即して制御することができる。それにより、消費電力などを抑制することができる。
【0018】
(7)また、本発明の二酸化炭素脱離判定方法は、圧力測定部及び吸着材を備えた二酸化炭素吸着モジュールと、前記二酸化炭素吸着モジュールの吸気部に設けられた第1のバルブと、前記二酸化炭素吸着モジュールの排気部に設けられた第2のバルブと、前記排気部に接続された第3のバルブと、前記第3のバルブを介して前記二酸化炭素吸着モジュールに接続された真空ポンプと、を備えた二酸化炭素除去装置における二酸化炭素脱離判定方法であって、前記第1のバルブ、前記第2のバルブ及び前記第3のバルブを閉じる工程と、前記圧力測定部により、前記二酸化炭素吸着モジュールの圧力を測定する工程と、測定された圧力に基づいて、前記吸着材からの二酸化炭素の脱離の有無の判定、及び、異常の検知のうちの少なくとも一方を行う工程と、を有する。
【0019】
このような二酸化炭素脱離判定方法によれば、二酸化炭素センサーを用いることなく、吸着材から二酸化炭素が脱離したか否かを判定することを可能にする。さらには、簡易な機構で、装置の異常を検知することを可能にする。
【0020】
(8)また、本発明の二酸化炭素分離方法は、圧力測定部及び吸着材を備えた二酸化炭素吸着モジュールと、前記二酸化炭素吸着モジュールの吸気部に設けられた第1のバルブと、前記二酸化炭素吸着モジュールの排気部に設けられた第2のバルブと、前記排気部に接続された第3のバルブと、前記第3のバルブを介して前記二酸化炭素吸着モジュールに接続された真空ポンプと、加熱装置とを備えた二酸化炭素除去装置によって、空気から二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離方法であって、空気中の二酸化炭素を前記吸着材に吸着させる吸着工程と、前記第1のバルブ及び前記第2のバルブを閉じ、かつ前記第3のバルブを開いた状態で、前記二酸化炭素吸着モジュール内の圧力を前記真空ポンプにより減圧する減圧工程と、前記第1のバルブ、前記第2のバルブ及び前記第3のバルブを閉じた状態とし、加熱装置による前記吸着材の昇温を行ないながら、前記圧力測定部により、前記二酸化炭素吸着モジュールの圧力を測定する圧力測定工程と、前記圧力測定部により測定された圧力に基づいて、前記第3のバルブを開いて、前記真空ポンプによる前記二酸化炭素吸着モジュール内の減圧を開始し、前記吸着材に吸着した二酸化炭素を脱離する脱離工程と、を有する。
【0021】
このような二酸化炭素分離方法によれば、二酸化炭素センサーを用いることなく、適切なタイミングで、バルブ及びポンプの制御などを行うことができる。これにより、簡素な装置構成で、効率的な二酸化炭素の分離を行うことができる。
【0022】
なお、上述の(1)から(8)は、適宜組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、二酸化炭素センサーを用いることなく、吸着材から二酸化炭素が脱離したか否かを判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の二酸化炭素除去装置の概略構成を示す図である。
図2】時間の経過と、二酸化炭素吸着モジュールの温度及び圧力などを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(二酸化炭素処理装置の概要)
本発明の二酸化炭素除去装置1の実施形態の一例について、図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態の二酸化炭素除去装置1の概略構成を示す図である。以下の説明において、図1に示す「吸気」から「排気」への気体の流れを、上流から下流への流れとする。二酸化炭素除去装置1は、二酸化炭素吸着モジュール20から直接排気される経路と、二酸化炭素吸着モジュール20から、真空ポンプ14、二酸化炭素センサー16及び流量計18を介して排気される経路と、を備えている。直接排気される経路は、後に説明する吸着工程で用いられる。真空ポンプ14を介する経路は、後に説明する離脱工程で用いられる。なお、二酸化炭素吸着モジュール20には吸着材42及び加熱プレート50が備えられている。また、これらの各部は、配管90などによって接続されている。
【0026】
詳しくは、二酸化炭素吸着モジュール20の上流側には、吸気部22が設けられている。また、二酸化炭素吸着モジュール20の下流側には、排気部24が設けられている。吸気部22の上流側には、第1のバルブ91が設けられている。排気部24の下流側には、第2のバルブ92が設けられている。また、排気部24と第2のバルブ92との間には、分岐が設けられている。この分岐からの配管90に、上流から下流に向かって順に、第3のバルブ94、並びに前述の真空ポンプ14、二酸化炭素センサー16及び流量計18が設けられている。このように、排気部24からの排気ラインは分岐しており、第2のバルブ92は第1の排気ラインに配置され、第3のバルブは第2の排気ラインに配置されている。すなわち、第3のバルブ94は、第2のバルブ92と並列に配置されている。さらに、二酸化炭素吸着モジュール20には、圧力測定部26が設けられている。これらについては、後に説明する。
【0027】
(制御部)
また、二酸化炭素除去装置1には、制御部10が備えられている。制御部10は、各部の動作を制御すること、及び各部から情報を取得することなどを行う。例えば、制御部10は、ポンプの動作を制御すること、及びバルブの開閉を制御することなどを行う。また、制御部は、センサーや測定部などが取得した値を取得することなどを行う。
【0028】
(二酸化炭素除去の概要)
二酸化炭素除去装置1による二酸化炭素除去の概要について説明する。二酸化炭素除去装置1は、吸着材に二酸化炭素を吸着させることで、空気中の二酸化炭素を収集する(吸着工程)。収集の後に、吸着された二酸化炭素を吸着材から脱離させる(脱離工程)。そして、脱離した二酸化炭素を圧縮してボンベに貯めることで、空気中から二酸化炭素を除去する。以下、具体的に説明する。
【0029】
(吸着工程)
吸着工程では、第1のバルブ91及び第2のバルブ92を開き、第3のバルブ94を閉じる。そして、例えば、図示しない真空ポンプまたはファンなどを用いて空気を吸気し、空気を二酸化炭素吸着モジュール20に通す。二酸化炭素吸着モジュール20には、吸着材42が備えられている。空気中の二酸化炭素は、二酸化炭素吸着モジュール20を通過する際に、吸着材42に吸着される。
【0030】
(脱離工程)
脱離工程では、吸着工程で吸着材42に吸着させた二酸化炭素を、吸着材42から脱離させる。その際、第1のバルブ91及び第2のバルブ92は閉じ、第3のバルブ94を開ける。そして、真空ポンプ14を駆動させ、フレームの内部を減圧する。さらに、加熱プレート50などのような加熱装置により、二酸化炭素吸着モジュール20を加熱する。これにより、二酸化炭素が吸着材42から脱離し、下流側に流れる。脱離した二酸化炭素は、二酸化炭素センサー16及び流量計18を流れる。これにより、脱離した二酸化炭素の量を把握することができる。
【0031】
脱離した二酸化炭素は、図示しない圧縮機などにより圧縮され、ボンベなどに充填される。ボンベなどに充填された二酸化炭素は、例えば地中に埋められる。これにより、二酸化炭素除去装置11による、二酸化炭素の空気からの除去が完了する。
【0032】
図2に基づいて、吸着工程及び脱離工程について具体的に説明する。図2は時間の経過にともなう、二酸化炭素吸着モジュール20の温度及び圧力などの変化を示す図である。以下、時系列で説明する。
【0033】
(期間T1)
期間T1は、吸着工程から脱離工程に移行する期間である。期間T1では、吸着工程から脱離工程に移行するにあたり、二酸化炭素吸着モジュール20の中の排気が行われる。そのため、期間T1では、INバルブ、すなわち第1のバルブ91、及びOUTバルブ、すなわち第2のバルブ92は「閉」になっている。一方、第3のバルブ94「開」になっている。また、真空ポンプ14は「オン」になっている。
【0034】
本実施形態の二酸化炭素除去装置1では、二酸化炭素吸着モジュール20に圧力測定部26が備えられている。そのため、二酸化炭素吸着モジュール20の内部の圧力を測定することが可能である。図2には、圧力測定部26で測定された二酸化炭素吸着モジュール20の内部の圧力が、モジュール内圧力として示されている。
【0035】
図2に示すように、期間T1において、モジュール内圧力は低下する。第1のバルブ91及び第2のバルブ92が「閉」であり、第3のバルブ94が「開」であり、真空ポンプ14が「オン」になっているからである。期間T1の半ばにおいて、モジュール内圧力は、ほぼゼロとなる。
【0036】
二酸化炭素吸着モジュール20には、吸着材42を加熱するための加熱装置である加熱プレート50が備えられている。期間T1においては、加熱プレートは「オフ」になっている。そのため、加熱プレート温度及び吸着材温度は、いずれもほぼ室温である。
【0037】
(期間T2)
モジュール内圧力がほぼゼロになった後、一定の時間が経過した後に期間T1が終了し、期間T2に移行する。期間T2は、脱離工程の準備期間である。具体的には、吸着材42の温度を上げて、二酸化炭素が吸着材42から脱離しやすいようにする。そのため、期間T2では、加熱プレート50を「オン」にする。これにより、図2に示すように、加熱プレート温度が上昇する。そして、加熱プレート温度の上昇に対して少し遅れて吸着材温度が上昇する。
【0038】
本実施形態の二酸化炭素除去装置1では期間T2において、第1のバルブ91及び第2のバルブ92を「閉」のまま、第3のバルブ94を「閉」にする。また、真空ポンプ14を「オフ」にする。すなわち、期間T1の後半においてモジュール内圧力がゼロになった状態を維持する。そして、この状態で、モジュール内圧力を測定し、その変化の様子を観察する。
【0039】
期間T2において、モジュール内圧力は、通常、徐々に上昇していく。吸着材42に吸着されていた二酸化炭素が徐々に吸着材42から脱離してくためである。図2の丸囲みAがその部分を示している。
【0040】
(期間T3)
期間T3は、脱離工程に対応する期間である。期間T3では、第1のバルブ91及び第2のバルブ92を「閉」のまま、真空ポンプ14を「オン」してから第3のバルブ94を開にする。また、加熱プレート50は引き続き「オン」とする。これにより、吸着材42からの二酸化炭素の脱離が促進され、二酸化炭素の収集が進む。
【0041】
(期間T3における温度)
期間T3において加熱プレート温度は、所定温度まで上昇した後、ほぼその温度で制御により維持される。また、吸着材温度も、加熱プレート温度とほぼ同様の温度まで上昇し、ほぼその温度で維持される。
【0042】
(期間T3における圧力)
モジュール内圧力は、期間T2から期間T3に切り替わった時点で降下する。これは、真空ポンプを「オン」にし第3のバルブ94が閉から開に切り替わったためである。モジュール内圧力は、その後徐々にさらに降下し、期間T3の後半では、モジュール内圧力はほぼゼロになる。これは、吸着材42からの二酸化炭素は脱離が終了し、真空ポンプ14が「オン」であるため、圧力は徐々に低下していくというものである。
【0043】
(期間T3における二酸化炭素濃度)
次に、二酸化炭素濃度について説明する。二酸化炭素濃度は、二酸化炭素センサー16で測定される。ここでの二酸化炭素濃度の測定は、真空下ではなく、大気圧下で測定される。そのため、通常の二酸化炭素センサーで二酸化炭素濃度を測定することができる。
【0044】
二酸化炭素濃度は、期間T2から期間T3に切り替わった直後から上昇する。これは、期間T2において、二酸化炭素が吸着材42からある程度脱離していたためである。その後、二酸化炭素濃度は、線L1に示すように、97%という高い値を保つ。これは、第1のバルブが「閉」であるため、新たに外気が導入されることがないためである。
【0045】
(期間T3における二酸化炭素流量)
次に二酸化炭素流量について説明する。二酸化炭素流量は、流量計18で測定される。二酸化炭素流量は、期間T2から期間T3に切り替わった直後に上昇する。これは、期間T2において、二酸化炭素が吸着材42からある程度脱離していたためである。その後、二酸化炭素流量は徐々に低下する。そして、期間T3の終了時近くにはゼロになる。これは、二酸化炭素の吸着材42からの脱離が終了したためである。以上のようにして、脱離工程は進行し、終了する。
【0046】
(二酸化炭素脱離の判定)
本実施形態の二酸化炭素除去装置1では、二酸化炭素吸着モジュール20に二酸化炭素センサーを配置することなく、吸着材42からの二酸化炭素の脱離の有無の判定を行うことができる。すなわち、真空下で二酸化炭素の濃度を測定することなく、二酸化炭素脱離の判定を行うことができる。二酸化炭素脱離の判定は、二酸化炭素吸着モジュール20に備えられた圧力測定部26によって行うことができる。
【0047】
本実施形態では、前述のように脱離工程の前に、二酸化炭素吸着モジュール20が減圧された状態で、第1のバルブ91、第2のバルブ92及び第3のバルブ94を「閉」にして、二酸化炭素吸着モジュール20の圧力を測定する期間がある。この期間が、前述の期間T2である。この期間T2に二酸化炭素吸着モジュール20の圧力が上昇した場合には、二酸化炭素吸着モジュール20の中に備えられた吸着材42から二酸化炭素が脱離したと判定することができる。閉じられた二酸化炭素吸着モジュール20において、二酸化炭素の脱離以外に圧力を上昇させる要因がないためである。
【0048】
このように、本実施形態では、二酸化炭素センサーを用いることなく、より詳しくは、真空下において二酸化炭素センサーを用いることなく、吸着材42からの二酸化炭素脱離の有無を判定することができる。
【0049】
図2に示す例では、期間T2の丸囲みAに示すように、第3のバルブ94が「閉」の状態において、モジュール内圧力が上昇している。そのため、吸着材42から二酸化炭素の脱離が有ると判定することができる。なお、この判定は、例えば制御部10が行うことができる。
【0050】
(異常の検知)
また、本実施形態の二酸化炭素除去装置1では、圧力測定部26が測定した圧力の上昇度合い応じて異なる異常を検知することができる。圧力測定部26が測定した圧力とは、二酸化炭素吸着モジュール20の圧力を意味する。また、圧力の上昇度合いとは、圧力の測定を開始した後に所定の時間が経過した時点での圧力値、及び、圧力の測定を開始した後の所定期間内の圧力の上昇率のうちの少なくとも一方を含むものである。
【0051】
具体的には、例えば圧力測定部26が測定した圧力の上昇度合いが、あらかじめ定められた値より高い場合には、二酸化炭素吸着モジュール20に圧漏れがあると判定することができる。
【0052】
一方、圧力測定部26が測定した圧力の上昇度合いが、あらかじめ定められた値より低い場合には、吸着材42に劣化があると判定することができる。
【0053】
これらの判定は、制御部10が行うことができる。前述のあらかじめ定められた値とは、期間T2における典型的な圧力の上昇の仕方を参考にして定めることができる。
【0054】
(圧漏れ)
図2に、二酸化炭素吸着モジュール20の圧漏れの判定に用いる基準線を線L4で示す。期間T2における圧力の上昇が線L4を超える場合には、その圧力の上昇は、二酸化炭素の吸着材42から脱離のみではなく、他の要因にもよると考えられる。そして、この他の要因は、二酸化炭素吸着モジュール20からの圧漏れである蓋然性が高い。そこで、制御部10は、圧力の上昇が線L4を超える場合には、二酸化炭素吸着モジュール20に圧漏れがあると判定する。
【0055】
(吸着材の劣化)
図2に、吸着材42の劣化の判定に用いる基準線を線L3で示す。期間T2における圧力の上昇が線L3を超えない場合には、吸着材42からの二酸化炭素の脱離が不十分であることが考えられる。そこで、制御部10は、圧力の上昇が線L3を超えない場合には、吸着材42に劣化があると判定する。
【0056】
(故障の検知)
次に故障の検知について説明する。以下の例では、二酸化炭素センサー16の故障の有無を判定について説明する。二酸化炭素センサー16は、前述のように、期間T3において、二酸化炭素の流出を確認するために用いられる。ここで、期間T2にて、モジュール内圧力が通常と同様のレベルの上昇を見せたのにもかかわらず、期間T3において二酸化炭素センサー16が二酸化炭素濃度の上昇を示さない場合には、二酸化炭素センサー16が故障していると判定することができる。期間T2でのモジュール内圧力の上昇により、二酸化炭素の脱離が生じていたと考えられるのにも関わらず、二酸化炭素センサー16がそれを検知していないためである。
【0057】
また、本実施形態の二酸化炭素除去装置1では、圧力測定部26の故障を検知することもできる。例えば、圧力測定部26が測定値として示す圧力の値が、L3を下回る、L4を上回る、又は、L3及びL4を超えて上昇下降を繰返す、などの場合、圧力測定部26が故障していることが考えられる。
【0058】
(バルブ制御)
本実施形態の二酸化炭素除去装置1では、圧力測定部26の測定結果に基づいて、第3のバルブ94の開閉、及び真空ポンプ14の作動を制御することができる。この制御は、例えば制御部10が行うことができる。前述のように、期間T2では、第3のバルブ94は「閉」であり、真空ポンプ14は「オフ」である。これに対して、脱離工程に対応する期間T3では、第3のバルブ94は「開」であり、真空ポンプ14は「オン」である。この、期間T2から期間T3への切り替えのタイミングを、圧力測定部26の測定結果に基づいて定めることができる。すなわち、制御部10は、圧力測定部26の測定結果に基づいて、第3のバルブ94の開閉、及び真空ポンプ14の作動を制御することができる。
【0059】
期間T3における真空ポンプ14の作動は、吸着材温度が十分に上昇するなど、吸着材42からの二酸化炭素の脱離の条件が整ってから行うことが好ましい。二酸化炭素の脱離の条件が整っていない期間に真空ポンプ14を作動させることは、動力の無駄につながるからである。
【0060】
そこで、期間T2におけるモジュール内圧力の上昇について、あらかじめ閾値を設定しておく。そして、期間T2におけるモジュール内圧力がこの閾値に到達することで期間T2を終了し、期間T3に移行するようにすることができる。具体的には、モジュール内圧力が閾値に達すると、真空ポンプ14を「オン」にし第3のバルブ94を「開」にする。これにより、真空ポンプ14を無駄に作動させることなく、効率的に脱離工程を進めることができる。
【0061】
図2に制御の例を示す。期間T2におけるモジュール内圧力の閾値をL2で示す。そして、モジュール内圧力が閾値L2に到達した点を星印Pで示す。モジュール内圧力が星印Pに到達したことにより、期間T2から期間T3に移行させる。このように、モジュール内圧力の上昇に基づいて期間T2から期間T3へ移行することで、例えば、加熱プレート温度や吸着材温度に基づいて期間T3への移行を制御する場合に比べて、より精度の高い制御を行うことができる。
【0062】
(二酸化炭素分離方法)
また、上述の技術をもちいて空気から二酸化炭素の分離を行う場合、例えば以下のような工程を含む方法を採用することができる。すなわち、圧力測定部26及び吸着材42を備えた二酸化炭素吸着モジュール20と、二酸化炭素吸着モジュール20の吸気部22に設けられた第1のバルブ91と、二酸化炭素吸着モジュール20の排気部24に設けられた第2のバルブ92と、排気部24に接続された第3のバルブ94と、第3のバルブ94を介して二酸化炭素吸着モジュール20に接続された真空ポンプ14と、加熱装置とを備えた二酸化炭素除去装置1によって、空気から二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離方法であって、空気中の二酸化炭素を吸着材42に吸着させる吸着工程と、第1のバルブ91及び第2のバルブ92を閉じ、かつ第3のバルブ94を開いた状態で、二酸化炭素吸着モジュール20内の圧力を真空ポンプ14により減圧する減圧工程と、第1のバルブ91、第2のバルブ92及び第3のバルブ94を閉じた状態で加熱装置によって加熱し、圧力測定部26により、二酸化炭素吸着モジュール20の圧力を測定する圧力測定工程と、圧力測定部26により測定された圧力に基づいて、第3のバルブ94を開いて、真空ポンプ14による二酸化炭素吸着モジュール20内の減圧を開始し、吸着材42に吸着した二酸化炭素を脱離する脱離工程と、を有する、二酸化炭素分離方法を採用することができる。
【0063】
このような方法によれば、真空下で二酸化炭素センサーを用いることなく、適切に各工程の移行を進めることができる。特には、減圧工程から圧力測定工程を介しての離脱工程への移行を、適切なタイミングで行うことができる。これにより、真空ポンプの駆動などでの非効率な電力の消費を抑制することができ、ひいては効率的な二酸化炭素の分離を行うことができる。
【0064】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前述した実施形態に限定されることなく、種々の変更、変形及び組み合わせが可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 二酸化炭素除去装置
10 制御部
14 真空ポンプ
16 二酸化炭素センサー
18 流量計
20 二酸化炭素吸着モジュール(吸着材保持部材)
22 吸気部
24 排気部
26 圧力測定部
42 吸着材
50 加熱プレート(加熱装置)
90 配管
91 第1のバルブ
92 第2のバルブ
94 第3のバルブ
X方向 横幅方向
Y方向 高さ方向
Z方向 奥行き方向
図1
図2