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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】電波吸収体、筐体、および電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20241028BHJP
   H01F 1/37 20060101ALI20241028BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20241028BHJP
   B32B 18/00 20060101ALI20241028BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20241028BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20241028BHJP
【FI】
H05K9/00 M
H05K9/00 G
H01F1/37
B32B7/025
B32B18/00 C
B32B27/18 H
H02M7/48 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022194114
(22)【出願日】2022-12-05
(65)【公開番号】P2024080836
(43)【公開日】2024-06-17
【審査請求日】2023-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100167232
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 みな
(72)【発明者】
【氏名】森 智史
(72)【発明者】
【氏名】菊地 真史
【審査官】板澤 敏明
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-088510(JP,A)
【文献】特開2005-187567(JP,A)
【文献】特開2002-158484(JP,A)
【文献】特開2019-004015(JP,A)
【文献】特開2022-126933(JP,A)
【文献】特開2019-004003(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
H01F 1/37
B32B 1/00-43/00
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波を吸収する電波吸収体であって、
軟磁性材料と第1樹脂とを備え、前記軟磁性材料は前記第1樹脂内に分散されている電波吸収層と、
前記電波吸収層の一方の面上に積層して配置された電気抵抗層であって、絶縁破壊強度が8kV/mm以上のセラミックと、空気の絶縁破壊強度よりも高い絶縁破壊強度を有する第2樹脂と、を備え、前記セラミックは前記第2樹脂内に分散されてい前記電気抵抗層と、
を備えることを特徴とする電波吸収体。
【請求項2】
請求項1に記載の電波吸収体であって、
絶縁破壊強度が3kV/mm以上であることを特徴とする
電波吸収体。
【請求項3】
請求項1に記載の電波吸収体であって、
複素比透磁率の実数成分が、1MHzから100MHzの範囲で3以上であることを特徴とする
電波吸収体。
【請求項4】
請求項1に記載の電波吸収体であって、
前記軟磁性材料は、マンガン亜鉛フェライトであることを特徴とする
電波吸収体。
【請求項5】
請求項1に記載の電波吸収体であって、
ヤング率が10MPa以下であることを特徴とする
電波吸収体。
【請求項6】
電磁波を吸収する電波吸収体であって、
軟磁性材料と樹脂とを備える電波吸収層と、
前記電波吸収層の一方の面上に配置され、絶縁破壊強度が8kV/mm以上のセラミックと、空気の絶縁破壊強度よりも高い絶縁破壊強度を有する樹脂と、を備える電気抵抗層と、
を備え、
ヤング率が10MPa以下であることを特徴とする
電波吸収体。
【請求項7】
電子部品モジュールを収納するための、導電性部材によって構成される筐体であって、
請求項1から6までのいずれか一項に記載の電波吸収体を備え、
前記電波吸収体は、前記電波吸収層が前記筐体の内壁面に対向する向きで前記筐体の内壁面に取り付けられていることを特徴とする
筐体。
【請求項8】
半導体を有するパワーモジュールと、前記パワーモジュールに電気的に接続されるハーネスと、前記パワーモジュールおよび前記ハーネスを収納すると共に導電性材料によって構成される筐体と、を備える電力変換装置であって、
前記筐体は、請求項1から6までのいずれか一項に記載の電波吸収体を備え、
前記電波吸収体は、前記電波吸収層が前記筐体の内壁面に対向する向きで前記筐体の内壁面に取り付けられていることを特徴とする
電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電波吸収体、筐体、および電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の電気回路や電子機器等から放出される電磁波の影響を抑えるために、電磁波を吸収する電波吸収体が用いられている。例えば、特許文献1には、プリント配線板の配線上に貼り付ける電磁波シールドフィルムとして、樹脂によって構成される絶縁樹脂層と導電層とを備える電磁波シールドフィルムが開示されている。ここで、上記電磁波シールドフィルムが備える導電層は、金属層として構成されて電磁波を遮断する電磁波遮断層と、金属層や導電性金属化合物層等によって構成されて電磁波を吸収する電磁波吸収層と、を備えることにより、電磁波の影響を抑えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-21837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、種々の機器において高電圧化が進み、電波吸収体における絶縁性の要求が高まるにつれて、引用文献1に記載の構成のように電波吸収体が絶縁樹脂層を備える場合であっても、電波吸収体の絶縁性能が不十分となる場合が生じるようになった。絶縁性を確保するための構成としては、例えば、高電圧機器あるいは高電圧機器に接続される高電圧配線と電波吸収体との間に空間を設けて、空気を絶縁層として用いる方策も考えられる。ただし、このような構成は、上記高電圧機器の電圧が高いほど、高電圧機器等と電波吸収体との間の距離を大きくする必要が高まり、高電圧機器を含む装置全体が大型化するため、採用し難い場合がある。そのため、装置全体の大型化を抑えつつ、耐電圧性能を確保できる電波吸収体が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
(1)本開示の一形態によれば、電磁波を吸収する電波吸収体が提供される。この電波吸収体は、軟磁性材料と樹脂とを備える電波吸収層と、前記電波吸収層の一方の面上に配置され、絶縁破壊強度が8kV/mm以上のセラミックと、空気の絶縁破壊強度よりも高い絶縁破壊強度を有する樹脂と、を備える電気抵抗層と、を備える。
この形態の電波吸収体によれば、電波吸収性能を有する電波吸収体の耐電圧性能を高めることができる。
(2)上記形態の電波吸収体において、絶縁破壊強度が3kV/mm以上であることとしてもよい。このような構成とすれば、電波吸収体の絶縁破壊強度が空気の絶縁破壊強度以上となるため、絶縁性を確保するために電波吸収体上に設ける空気層を削減しつつ、電波吸収体の絶縁破壊を抑えることができる。
(3)上記形態の電波吸収体において、複素比透磁率の実数成分が、1MHzから100MHzの範囲で3以上であることとしてもよい。このような構成とすれば、1MHzから100MHzの電磁波に対して、電波吸収体として機能することができる。
(4)上記形態の電波吸収体において、前記軟磁性材料は、マンガン亜鉛フェライトであることとしてもよい。このような構成とすれば、1MHzから100MHzの電磁波に対する電波吸収体としての機能を高めることができる。
(5)上記形態の電波吸収体において、ヤング率が10MPa以下であることとしてもよ
い。このような構成とすれば、電波吸収体の柔軟性や可撓性を高めることができるため、電波吸収体を曲げることなどにより、任意の形状の部材表面に電波吸収体を配置することが容易になる。
(6)上記形態の電波吸収体において、大気中において100℃で1000時間処理した後のヤング率が、11MPa以下であることとしてもよい。このような構成とすれば、電波吸収体を、比較的高温になる装置内に配置して長時間用いた場合であっても、電波吸収体の柔軟性を確保することができ、電波吸収体の耐熱性および耐久性を高めることができる。
(7)本開示の他の一形態によれば、電子部品モジュールを収納するための、導電性部材によって構成される筐体が提供される。この筐体は、(1)から(6)までのいずれか一項に記載の電波吸収体を備え、前記電波吸収体は、前記電波吸収層が前記筐体の内壁面に対向する向きで前記筐体の内壁面に取り付けられている。
この形態の筐体によれば、筐体の内壁面に上記電波吸収体が取り付けられることにより、電子部品モジュールに係る電磁波の影響を抑えると共に、筐体と電子部品モジュールとの間の絶縁性を確保することができる。このとき、電波吸収層が筐体の内壁面に対向する向きとなるように、電波吸収体が筐体の内壁面に取り付けられるため、電気抵抗層によって電波吸収層の絶縁破壊を抑えることができる。
(8)本開示のさらに他の一形態によれば、半導体を有するパワーモジュールと、前記パワーモジュールに電気的に接続されるハーネスと、前記パワーモジュールおよび前記ハーネスを収納すると共に導電性材料によって構成される筐体と、を備える電力変換装置が提供される。この電力変換装置において、前記筐体は、(1)から(6)までのいずれか一項に記載の電波吸収体を備え、前記電波吸収体は、前記電気電波吸収層が前記筐体の内壁面に対向する向きで前記筐体の内壁面に取り付けられている。
この形態の電力変換装置によれば、筐体の内壁面に上記電波吸収体が取り付けられることにより、パワーモジュールに係る電磁波の影響を抑えると共に、筐体とパワーモジュールとの間の絶縁性を確保することができる。このとき、電波吸収層が筐体の内壁面に対向する向きとなるように、電波吸収体が筐体の内壁面に取り付けられるため、電気抵抗層によって電波吸収層の絶縁破壊を抑えることができる。
本開示は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、電波吸収シート、電波吸収体の製造方法、電子機器における電磁波の放出や侵入の防止方法、などの形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】第1実施形態の電波吸収体の概略構成を表す断面模式図。
図2】高電圧機器を収納する筐体内壁面近傍の様子を示す説明図。
図3】第2実施形態の電波吸収体の概略構成を表す断面模式図。
図4】電波吸収体の構成と性能を調べた結果とをまとめて示す説明図。
図5】電波吸収体の評価結果をまとめて示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
A.第1実施形態:
図1は、本開示の第1実施形態としての電波吸収体10の概略構成を表す断面模式図である。電波吸収体10は、電波吸収層12と、電波吸収層12の一方の面上に配置される電気抵抗層14と、を備える。
【0008】
電波吸収層12は、軟磁性材料と樹脂とを備える。電波吸収層12が備える樹脂のことを、以下では「第1樹脂」とも呼ぶ。電波吸収層12において、軟磁性材料は、粉末粒子の状態で第1樹脂中に分散されている。
【0009】
軟磁性材料は、例えば、軟磁性合金、あるいは金属酸化物のうちの少なくとも1種とす
ることができる。軟磁性合金としては、例えば、Fe-Si合金、Fe-Si-Cr合金、センダスト(Fe-Si-Al合金)、パーマロイ(Fe-Ni合金)などが挙げられる。金属酸化物としては、Ni-Znフェライト(ニッケル亜鉛フェライト)やMn-Znフェライト(マンガン亜鉛フェライト)等のフェライト、あるいは、マグネタイトやマグヘマイト等の酸化鉄などが挙げられる。
【0010】
軟磁性材料は、電波吸収体10を用いて吸収すべき電磁波の周波数帯に応じて適宜選択すればよい。一般的な電子機器から放出される電磁波の周波数帯がkHz~MHzであるため、kHz~MHzまでの幅広い周波数帯で機能する軟磁性材料が好ましい。既述したNi-Znフェライト、Mn-Znフェライト、マグネタイト、Fe-Si合金、Fe-Si-Cr合金、センダスト、パーマロイ等は、このような周波数帯の電磁波に対して有用であるが、特に、Mn-Znフェライトは、kHz~MHzにわたる周波数帯における透磁率が比較的高く、好ましい。また、電波吸収体10を高電圧機器に近接して用いる場合には、軟磁性材料は、電気抵抗がより大きい材料であることが望ましい。電気抵抗が大きいという観点から、Ni-ZnフェライトやMn-Znフェライト等のフェライトが好ましく、特に、Ni-Znフェライトが好ましい。電波吸収層12における軟磁性材料の添加量は、電波吸収体10における複素比透磁率の実数成分μ’を高める観点から、40体積%~60体積%であることが好ましい。
【0011】
第1樹脂は、電気抵抗が比較的大きい樹脂であることが望ましく、絶縁性樹脂であることがより望ましい。このようにすれば、電波吸収体10を、電子機器や電子機器に接続される配線に近接して、あるいは接触するように配置して用いる場合であっても、電波吸収体10の絶縁破壊を抑えることができる。第1樹脂の絶縁破壊強度は、空気の絶縁破壊強度以上、具体的には3kV/mm以上であることが望ましい。このような樹脂としては、アクリル樹脂、ブチラール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられ、特に耐熱性や柔軟性の観点からシリコーン樹脂が好ましい。
【0012】
電気抵抗層14は、電波吸収体10全体の電気抵抗を高めるための層であり、セラミックと樹脂とを備える。電気抵抗層14が備えるセラミックのことを、以下では「高抵抗セラミック」とも呼ぶ。電気抵抗層14において、高抵抗セラミックは、粉末粒子の状態で第2樹脂中に分散されている。また、電気抵抗層14が備える樹脂のことを、以下では「第2樹脂」とも呼ぶ。
【0013】
高抵抗セラミックとして、本実施形態では絶縁破壊強度が8kV/mm以上のセラミックを用いている。電気抵抗層14および電波吸収体10全体の電気抵抗を高める観点から、高抵抗セラミックの絶縁破壊強度は10kV/mm以上であることが望ましい。このような高抵抗セラミックとして、例えば、アルミナ(Al)、ジルコニア(ZrO)、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、ムライト(3Al・2SiO~2Al・SiOで表されるアルミノケイ酸塩)等を用いることができる。高抵抗セラミックは、充填材料として第2樹脂中に混合して用いるため、粒子径や形状制御の容易なアルミナとすることが特に好ましい。電気抵抗層14における高抵抗セラミックの添加量は、40体積%~60体積%であることが好ましい。
【0014】
第2樹脂は、第1樹脂と同様に、電気抵抗が比較的大きい樹脂であることが望ましく、絶縁性樹脂であることがより望ましい。本実施形態では、第2樹脂の絶縁破壊強度は、空気の絶縁破壊強度(3kV/mm)よりも高い。第2樹脂としては、既述した第1樹脂の説明において記載した樹脂と同様の樹脂を用いることができる。第1樹脂と第2樹脂とは同種の樹脂であってもよく、異なる種類の樹脂であってもよい。第1樹脂と第2樹脂とを同種の樹脂とすれば、電波吸収層12と電気抵抗層14との固着強度を確保することが容易になるため望ましい。
【0015】
電波吸収体10において、電波吸収層12と電気抵抗層14とを合わせた電波吸収体10全体の絶縁破壊強度は、空気の絶縁破壊強度以上であることが望ましく、具体的には3kV/mm以上であることが望ましい。このように、電波吸収体10の絶縁破壊強度を空気の絶縁破壊強度以上にすることで、高電圧機器の近傍で電波吸収体10を用いる際に、高電圧機器と電波吸収体10との間で絶縁性を高めるための空気層をさらに確保すること無く、電波吸収体10の絶縁破壊を抑えることができる。
【0016】
図2は、筐体20内に高電圧機器を収納した装置における、筐体20の内壁面近傍の様子を示す説明図である。図2では一例として、高電圧機器に接続された配線22と筐体20との間を拡大して示している。図2(A)は、電波吸収体を配置しない場合を示し、図2(B)は、筐体20の内壁面に、電波吸収層12のみによって構成される電波吸収体を配置した様子を示し、図2(C)は、筐体20の内壁面に、電波吸収層12および電気抵抗層14を備える電波吸収体10を配置した様子を示す。
【0017】
図2(A)に示すように、筐体20と配線22との間の距離は、筐体20と配線22との間の絶縁性を確保可能となるように、距離αを設定すればよい。このような装置において、図2(B)に示すように筐体20の内壁面に電波吸収層12を配置すると、電波吸収層12と配線22との間の距離は、距離αよりも短い距離βとなる。このとき、所望の電波吸収性能が得られるように設計された電波吸収層12の絶縁破壊強度が不十分であると、電波吸収層12と筐体20の内壁面との距離が距離αよりも短くなることにより、電波吸収層12において絶縁破壊が起こる可能性が生じる。これに対して、図2(C)に示すように、さらに電気抵抗層14を備える電波吸収体10を用いる場合には、電波吸収体10と配線22との間の距離が、距離βよりもさらに短い距離γとなっても、電波吸収体10全体の絶縁破壊強度が空気の絶縁破壊強度以上であることにより、筐体20と配線22との間の絶縁性を確保することができる。すなわち、筐体20の内壁面と配線22との間の距離αを変更することなく、装置全体の大型化を抑えつつ、筐体20と配線22との間の絶縁性を確保することができる。
【0018】
なお、電波吸収体10全体の絶縁破壊強度には、電波吸収層12および電気抵抗層14の各々の、絶縁破壊強度、静電容量、および厚さが影響する。各層の絶縁破壊強度が高い方が電波吸収体10全体の絶縁破壊強度が高まり、また、絶縁破壊強度がより高い電気抵抗層14が厚い方が電波吸収体10全体の絶縁破壊強度が高まる。各層の絶縁破壊強度は、使用するフィラー(電波吸収層12の軟磁性材料や電気抵抗層14の高抵抗セラミック)の種類と添加量によって調節できる。静電容量は比誘電率の影響を受けるが、例えば各層で同種の樹脂を使用した場合には各層の静電容量は同程度となるため、この場合には各層の絶縁破壊強度と厚さとが、電波吸収体10全体の絶縁破壊強度への大きな影響要因となる。また、各層の作製時に発生するボイド(気泡の噛みこみ)やクラック等の欠陥も、絶縁破壊強度に影響する。そのため、電波吸収体10の製造時には、上記欠損の影響を抑えるために、各層の成形前に材料(ペースト)の脱泡処理を行うことや、フィラーの2次凝集を抑えるための十分な攪拌処理を行うことが望ましい。
【0019】
電波吸収体10における複素比透磁率の実数成分μ’は、1MHzから100MHzの範囲で3以上であることが望ましい。このようにすることで、電波吸収体10は、上記周波数帯の電磁波に対して電波吸収体として良好に機能することができる。電波吸収体10における複素比透磁率の実数成分μ’は、例えば、電波吸収層12に含まれる軟磁性材料の種類や添加量等によって調整することができる。また、電波吸収層12と電気抵抗層14とが積層された電波吸収体10における電波吸収層12の厚さ分率も、上記実数成分μ’に影響する。電波吸収層12の厚さ分率が大きい方が、電波吸収体10における複素比透磁率の実数成分μ’は大きくなる。
【0020】
上記複素比透磁率の実数成分μ’を3以上にするには、電波吸収層12が備える軟磁性材料として、Mn-Znフェライトを用いることが望ましい。Mn-Znフェライトは、kHz~MHzにわたる周波数帯における透磁率が比較的高いため、軟磁性材料としてMn-Znフェライトを用いることで、1MHzから100MHzの範囲で複素比透磁率の実数成分μ’を3以上にすることが容易になる。
【0021】
また、電波吸収体10のヤング率は、15MPa以下であることが好ましく、10MPa以下であることがより好ましい。これにより、電波吸収体10の柔軟性を確保することができる。電波吸収体10の柔軟性を確保することにより、電波吸収体10を、平坦面とは異なる形状に沿って取り付けることが容易になる。例えば、電磁波を放出し、あるいは電磁波の影響を受ける機器を収納する筐体の内壁面の少なくとも一部に電波吸収体10を貼り付けるときに、貼り付け部位が曲面であっても、電波吸収体10を容易に貼り付けることが可能になる。なお、電波吸収体10のヤング率は、0.5MPa以上であることが好ましく、1MPa以上であることがより好ましい。
【0022】
電波吸収体10のヤング率は、例えば、第1樹脂や第2樹脂の種類、分子量、あるいは架橋密度等により調整することができる。例えば、上記樹脂の分子量が小さいと、架橋密度が高くなりやすく、ヤング率は大きくなりやすい。特に、エポキシ樹脂のように架橋密度が高い樹脂は、ヤング率が大きくなりやすい。また、電波吸収体10のヤング率は、電波吸収層12における軟磁性材料の種類や含有率、あるいは、電気抵抗層14における高抵抗セラミックの種類や含有率によって調整することができる。各層におけるフィラーの含有率を抑えるほど、電波吸収体10のヤング率を低くすることができる。
【0023】
さらに、電波吸収体10は、大気中において100℃で1000時間処理した後のヤング率が、15MPa以下であることが好ましく、11MPa以下であることがより好ましい。これにより、電波吸収体10を、比較的高温になる装置内に配置して長時間用いた場合であっても、電波吸収体10の柔軟性を確保することができ、電波吸収体の耐熱性および耐久性を高めることができる。上記した熱処理後の電波吸収体10のヤング率は、例えば、第1樹脂や第2樹脂の種類、架橋密度、あるいは、樹脂を硬化する際の温度等により調整することができる。例えば、官能基量が同一と仮定した場合、第1樹脂や第2樹脂の分子量が大きいほど、架橋密度が低くなりやすく、加熱処理後のヤング率は小さくなりやすい。例えば、上記樹脂としてシリコーン樹脂を用いる場合には、シリコーン樹脂の主剤の分子量は2万以上とすることが好ましく、5万以上とすることがより好ましく、7万以上とすることがさらに好ましい。また、エポキシ樹脂やアクリル樹脂等は比較的低温で硬化するものの、低温で硬化を行った場合には、その後に高温環境下に長期間配置したときに、ヤング率が上昇して大きく変化し得る。なお、上記した熱処理後の電波吸収体10のヤング率は、0.5MPa以上であることが好ましく、1MPa以上であることがより好ましい。
【0024】
電波吸収体10の一方の面側(電波吸収層12における電気抵抗層14と接する面とは異なる面であり、図1において接着面13として示す面側)に、接着層を設けることとしてもよい。この接着層は、図2に示した高電圧機器を収納する筐体20の内壁面のように、電波吸収体10を配置したい箇所に電波吸収体10を貼り付けるための構造である。接着層は、例えば、シリコーン系樹脂やアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂等の接着剤もしくは粘着剤を塗布することにより構成することができる。なお、電波吸収体10を、貼り付けではなく、例えば留め具などを用いて機械的に固定して配置する場合には、上記した接着層を設けないこととしてもよい。
【0025】
また、電波吸収体10を貼り付けにより配置する場合に、接着層を設けることなく、例
えば、電波吸収層12を構成する第1樹脂にシランカップリング剤等のアルコキシドを添加し、電波吸収体10を接着シートとして使用してもよい。この場合には、第1樹脂の一部分を硬化させた状態で電波吸収体10を用意した後に、所望の箇所(筐体の内壁面などの被着体)に電波吸収体10を貼り付けて熱硬化させることで、上記被着体に電波吸収体10を接合することができる。第1樹脂に添加するシランカップリング剤としては、特に制限は無く、例えば、有機反応性基としてビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、メルカプト基、イソシアネート基のいずれかを有するものなど、従来知られるシランカップリング剤の中から適宜選択することができる。
【0026】
以上のように構成された本実施形態の電波吸収体10によれば、軟磁性材料および第1樹脂を備える電波吸収層12と、電波吸収層12の一方の面上に配置され、高抵抗セラミックおよび第2樹脂を備える電気抵抗層14と、を備えている。このように、電波吸収体10が、高抵抗セラミックを含む電気抵抗層14を備えるため、電波吸収体10の耐電圧性能を高めることができる。このとき、電磁波を放出し、あるいは電磁波の影響を受ける機器を収納する筐体の内壁面に電波吸収体10を配置して用いる場合には、電気抵抗層14によって絶縁性が確保されるため、電波吸収体10と上記機器との間で絶縁性を高めるために設ける空間を削減することができる。その結果、上記機器および筐体を備える装置全体の大型化を抑えることが可能になる。
【0027】
装置の大型化を抑える効果について、さらに以下に説明する。既述したように、電気抵抗層14の絶縁破壊強度は、高抵抗セラミックの種類や含有率等によって調節することができ、例えば、アルミナのように10kV/mm以上の絶縁破壊強度を有する高抵抗セラミックを用いる場合には、70kV/mm以上の絶縁破壊強度を有する電気抵抗層14を得ることができる。このような電気抵抗層14を、高電圧機器を収納する筐体20の内壁面上に配置して耐電圧性能を確保すると仮定すると、高電圧機器の使用電圧に応じて定められる耐電圧の要求が例えば1kVであるならば、1kVの耐電圧を実現するために必要な電気抵抗層14(絶縁破壊強度は70kV/mm)の厚みは、0.015mm程度となる。これに対して、既述した特許文献1に記載の電磁波シールドフィルムのように、樹脂によって構成される絶縁樹脂層を筐体20の内壁面に配置して用いる場合には、樹脂層の絶縁破壊強度は一般に10~20kV/mmと考えられるため、1kVの耐電圧を実現するために必要な絶縁樹脂層の厚みは、0.05~0.1mmとなる。このように、本実施形態の電気抵抗層14を採用することで、所望の耐電圧を実現するために必要な絶縁層の厚みを大きく削減することができるため、装置の大型化を抑える効果が得られる。上記のような配置箇所を考慮すると、電波吸収体10の厚さは2mm以下であることが好ましい。
【0028】
上記のような高電圧機器を備える装置としては、例えば、モータを利用して走行するハイブリッド車両や電気自動車において、電力をコントロールするために搭載されるパワーコントロールユニット(Power Control Unit:PCU)等の、電力変換装置を挙げることができる。PCUは、一般に、バッテリ電圧を昇圧する昇圧コンバータ、高電圧を降圧する降圧コンバータ、および、モータへの電力供給に先立って直流を交流に変換して周波数制御を行う3相インバータ等を備える。また、PCUは、一般に、アルミニウムのような導電性材料によって構成される筐体を備えている。このような装置は、一般に、高電圧機器や配線と筐体との間にスペースがほとんど設けられていない。そのため、本実施形態の電波吸収体10を適用することで、装置の大型化を抑える効果が顕著に得られる。すなわち、電波吸収体10と高電圧機器や配線22とが接触する場合であっても、高電圧機器や配線22と筐体20との間の絶縁性を確保することが可能になる。
【0029】
このような電力変換装置では、例えば、インバータが直流を交流に変換する際に、数MHz~数百MHzの周波数の電磁ノイズを発生する。電波吸収層12が備える軟磁性材料
は、吸収・減衰すべき電磁波の周波数帯に応じて適宜選択すればよく、上記のような電磁ノイズを吸収するためには、Mn-Znフェライトや軟磁性合金が適している。このように、例えばNi-Znフェライトに比べると比較的電気抵抗が低い軟磁性材料を用いる場合であっても、電気抵抗層14を設けることにより、電波吸収体10全体として、上記のような電力変換装置に適した絶縁性を確保することが可能になる。
【0030】
本実施形態の電波吸収体10を適用する装置は、上記したPCU以外であってもよく、半導体を有するパワーモジュールと、パワーモジュールに電気的に接続される配線であるハーネスと、パワーモジュールおよびハーネスを収納すると共に導電性材料によって構成される筐体と、を備える種々の電力変換装置とすることができる。このような他の電力変換装置としては、例えば、太陽光パネルで発電した電圧を変換して蓄電池に送るためのSCU(Solar Charging Unit)を挙げることができる。このとき、電波吸収体10は、電
波吸収層12が筐体20の内壁面に対向する向きとなるように、筐体20の内壁面に取り付けられることとすればよい。これにより、電波吸収層12の絶縁破壊を抑えることができる。また、本実施形態の電波吸収体10は、上記のような高電圧機器とは異なる機器(使用電圧が比較的低い電子部品モジュール)を備える装置に用いてもよく、例えば装置を収納する筐体の内壁面に電波吸収体10を配置することで、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0031】
B.第2実施形態:
図3は、第2実施形態の電波吸収体130の概略構成を表す断面模式図である。第2実施形態の電波吸収体130は、第1実施形態と同様の電波吸収体10に加えて、さらに、電波吸収体10の一方の面(被着体に接する電波吸収層12側の面)上に、反射層116を備えている。
【0032】
反射層116は、電波吸収体10を透過した電磁波を反射する層である。反射層116は、電磁波を反射可能であればよく、例えば、銅、ニッケル、鉄、ステンレス鋼、金や銀等の貴金属、アルミニウム等の金属により形成することができる。反射層116は、例えば、予め作製した金属膜を、電波吸収体10の一方の面に貼り付けることにより形成することができる。このとき、反射層116と電波吸収体10との貼り付けは、接着剤を用いてもよく、あるいは、電波吸収層12を構成する第1樹脂にシランカップリング剤等を添加して電波吸収体10を接着シートにして、反射層116と電波吸収体10とを接合することとしてもよい。また、反射層116の材料としてめっき皮膜を形成可能な金属を用いる場合には、電解めっきや無電解めっき等のめっき処理を電波吸収体10の表面に施すことにより、反射層116を形成してもよい。第2実施形態の電波吸収体10を所望の被着体上に配置する際には、例えば、電波吸収体10に貼り付けられた反射層116と被着体とを、接着剤を用いて固定すればよい。
【0033】
このような構成とすれば、第1実施形態の電波吸収体10と同様の効果が得られると共に、反射層116を電波吸収体10に重ねて設けることで、電波吸収体10を透過する電磁波を遮断することができる。したがって、電磁波を放出し、あるいは電磁波の影響を受ける機器を収納する筐体が、金属のように電磁波を反射する材料とは異なる材料によって構成される場合であっても、電波吸収体130を用いることで、電波吸収体10によって電磁波を吸収しつつ、反射層116によって筐体外への電磁波の漏洩を抑えることができる。
【0034】
C.他の実施形態:
上記した各実施形態では、電波吸収体はシート状に形成したが、異なる形状としてもよい。ただし、シート状にすることで、任意の形状の被着体の表面に沿って電波吸収体を配置することが容易になる。
【実施例
【0035】
図4は、サンプルS1~サンプルS13までの13種類の電波吸収体を作製し、それらの構成と性能を調べた結果をまとめて示す説明図である。図5は、サンプルS1~サンプルS13の電波吸収体についての評価結果をまとめて示す説明図である。以下に、各サンプルの構成および製造方法と、性能を評価した結果について説明する。各サンプルは、用いた材料の種類や材料の混合割合が、それぞれ異なっている。なお、サンプルS10~サンプルS13は、実施形態で説明した軟磁性材料や高抵抗セラミックに係る条件を満たさない比較例のサンプルである。また、以下に説明する各サンプルでは、電波吸収層を構成する第1樹脂と電気抵抗層を構成する第2樹脂とは、共通する樹脂を用いた。
【0036】
<各サンプルの作製>
[サンプルS1]
アクリル樹脂(分子量約200000)に、50体積%となるMn-Znフェライト(算術平均粒子径:約1.5μm)と、アクリル系分散材(分子量約10000)と、消泡材と、分散溶媒としての水とを添加し、湿式混合してペーストを作製した。得られたペーストの粘度を調整したのち、厚みが900μmとなるようドクターブレード法によってシ
ート状に成形し、100℃以下の温度で溶媒を揮発させて電波吸収層を得た。図4では、サンプルS1を含む各サンプルにおいて、シート状に成形した際の上記シートの厚みを、「層12厚」と記載している。
【0037】
同様に、アクリル樹脂(分子量約200000)に、45体積%となるアルミナ(算術平均粒子径:約10μm)と、アクリル系分散材(分子量約10000)と、消泡材と、
分散溶媒としての水とを添加し、湿式混合してペーストを作製した。得られたペーストの粘度を調整したのち、 厚みが100μmとなるようドクターブレード法によってシート
状に成形し、100℃以下の温度で溶媒を揮発させて電気抵抗層を得た。図4では、サンプルS1を含む各サンプルにおいて、シート状に成形した際の上記シートの厚みを、「層14厚」と記載している。
【0038】
上記のように作製した電波吸収層と電気抵抗層とを積層し、100℃で熱圧着を行うことで一体化して、サンプルS1の電波吸収体を得た。
【0039】
[サンプルS2]
液状エポキシ樹脂に、50体積%となるようMn-Znフェライト(算術平均粒子径:約1.5μm)を添加し、攪拌羽根を用いる攪拌機および3本ロールミルによって混合してペーストを得た。そこへ硬化剤を添加して混合した後、得られたペーストを厚み900μmとなるようドクターブレード法によってシート状に成形し、60℃以下の温度で熱硬化させて電波吸収層を得た。
【0040】
同様に、液状エポキシ樹脂に、45体積%となるようアルミナ(算術平均粒子径:約10μm)を添加し、攪拌羽根を用いる攪拌機および3本ロールミルによって混合してペーストを得た。そこへ硬化剤を添加して混合した後、得られたペーストを厚み100μmとなるようドクターブレード法によってシート状に成形し、60℃以下の温度で熱硬化させて電気抵抗層を得た。
【0041】
上記のように作製した電波吸収層と電気抵抗層との間にエポキシ接着剤を塗布して両者を積層して一体化し、サンプルS2の電波吸収体を得た。
【0042】
[サンプルS3]
官能基としてビニル基を有するシリコーン樹脂(分子量約30000)に、50体積%
となるMn-Znフェライト(算術平均粒子径:約1.5μm)と、シランカップリング剤と、架橋剤と、金属触媒とを添加し、攪拌羽根を用いる攪拌機および3本ロールミルによって混合してペーストを得た。得られたペーストを厚み900μmとなるようドクターブレード法によってシート状に成形し、100℃以下の温度で熱硬化(半硬化)させて電波吸収層を得た。
【0043】
同様に、官能基としてビニル基を有するシリコーン樹脂(分子量約30000)に、45体積%となるアルミナ(算術平均粒子径:約10μm)と、シランカップリング剤と、架橋剤と、金属触媒とを添加し、攪拌羽根を用いる攪拌機および3本ロールミルによって混合してペーストを得た。得られたペーストを厚み100μmとなるようドクターブレード法によってシート状に成形し、100℃以下の温度で熱硬化(半硬化)させて電気抵抗層を得た。
【0044】
上記のように作製した電波吸収層と電気抵抗層とを積層し、100℃以上でさらに熱硬化を行うことで一体化して、サンプルS3の電波吸収体を得た。
【0045】
[サンプルS4]
電波吸収層の作製には、サンプルS3の電波吸収層のために作製したペーストを使用した。このペーストを厚み450μmとなるようドクターブレード法によってシート状に成形し、100℃以下の温度で熱硬化させて電波吸収層を得た。
【0046】
電気抵抗層の作製には、サンプルS3の電気抵抗層のために作製したペーストを使用した。このペーストを厚み50μmとなるようドクターブレード法によってシート状に成形し、100℃以下の温度で熱硬化させて電気抵抗層を得た。
【0047】
上記のように作製した電波吸収層と電気抵抗層とを積層し、100℃以上でさらに熱硬化を行うことで一体化して、サンプルS4の電波吸収体を得た。
【0048】
[サンプルS5]
官能基としてビニル基を有するシリコーン樹脂(分子量約70000)に、50体積%となるMn-Znフェライト(算術平均粒子径:約1.5μm)と、シランカップリング剤と、架橋剤と、金属触媒とを添加し、攪拌羽根を用いる攪拌機および3本ロールミルによって混合してペーストを得た。得られたペーストを厚み450μmとなるようドクターブレード法によってシート状に成形し、100℃以下の温度で熱硬化(半硬化)させて電波吸収層を得た。
【0049】
同様に、官能基としてビニル基を有するシリコーン樹脂(分子量約70000)に、45体積%となるアルミナ(算術平均粒子径:約10μm)と、シランカップリング剤と、架橋剤と、金属触媒とを添加し、攪拌羽根を用いる攪拌機および3本ロールミルによって混合してペーストを得た。得られたペーストを厚み50μmとなるようドクターブレード法によってシート状に成形し、100℃以下の温度で熱硬化(半硬化)させて電気抵抗層を得た。
【0050】
上記のように作製した電波吸収層と電気抵抗層とを積層し、100℃以上でさらに熱硬化を行うことで一体化して、サンプルS5の電波吸収体を得た。
【0051】
[サンプルS6]
電波吸収層は、サンプルS3の電波吸収層と同様にして作製した。電気抵抗層は、高抵抗セラミックとして、45体積%となるアルミナ(算術平均粒子径:約10μm)に代えて、45体積%となる窒化アルミニウム(算術平均粒子径:約15μm)を用いたこと以
外は、サンプルS3の電気抵抗層と同様にして作製した。上記のように作製した電波吸収層と電気抵抗層とを積層し、100℃以上でさらに熱硬化を行うことで一体化して、サンプルS6の電波吸収体を得た。
【0052】
[サンプルS7]
電波吸収層は、サンプルS3の電波吸収層と同様にして作製した。電気抵抗層は、高抵抗セラミックとして、45体積%となるアルミナ(算術平均粒子径:約10μm)に代えて、45体積%となるジルコニア(算術平均粒子径:約2μm)を用いたこと以外は、サンプルS3の電気抵抗層と同様にして作製した。上記のように作製した電波吸収層と電気抵抗層とを積層し、100℃以上でさらに熱硬化を行うことで一体化して、サンプルS7の電波吸収体を得た。
【0053】
[サンプルS8]
電波吸収層は、軟磁性材料として、50体積%となるMn-Znフェライト(算術平均粒子径:約1.5μm)に代えて、50体積%となるNi-Znフェライト(算術平均粒子径:約1.5μm)を用いたこと以外は、サンプルS5の電波吸収層と同様にして作製した。電気抵抗層は、サンプルS5の電気抵抗層と同様にして作製した。上記のように作製した電波吸収層と電気抵抗層とを積層し、100℃以上でさらに熱硬化を行うことで一体化して、サンプルS8の電波吸収体を得た。
【0054】
[サンプルS9]
電波吸収層は、軟磁性材料として、50体積%となるMn-Znフェライト(算術平均粒子径:約1.5μm)に代えて、50体積%となるFe-Si-Cr合金(算術平均粒子径:約9μm)を用いたことと、シート状に成形する際の厚みを、450μmではなく900μmとしたこと以外は、サンプルS5の電波吸収層と同様にして作製した。電気抵抗層は、シート状に成形する際の厚みを、50μmではなく100μmとしたこと以外は、サンプルS5の電気抵抗層と同様にして作製した。上記のように作製した電波吸収層と電気抵抗層とを積層し、100℃以上でさらに熱硬化を行うことで一体化して、サンプルS9の電波吸収体を得た。
【0055】
[サンプルS10]
サンプルS10は、電波吸収層を有することなく、電気抵抗層のみを備えている。電気抵抗層の作製には、サンプルS5の電気抵抗層のために作製したペーストを使用した。このペーストを厚み100μmとなるようドクターブレード法によってシート状に成形し、100℃以下の温度で熱硬化させて、サンプルS10を得た。
【0056】
[サンプルS11]
サンプルS11は、電気抵抗層を有することなく、電波吸収層のみを備えている。電波吸収層の作製には、サンプルS5の電波吸収層のために作製したペーストを使用した。このペーストを厚み900μmとなるようドクターブレード法によってシート状に成形し、100℃以下の温度で熱硬化させて、サンプルS11を得た。
【0057】
[サンプルS12]
官能基としてビニル基を有するシリコーン樹脂(分子量約30000)に、シランカップリング剤と、架橋剤と、金属触媒とを添加し、攪拌羽根を用いる攪拌機および3本ロールミルによって混合してペーストを得た。得られたペーストを厚み100μmとなるようドクターブレード法によってシート状に成形し、100℃以下の温度で熱硬化(半硬化)させて電波吸収層を得た。すなわち、サンプルS12の電波吸収層は、軟磁性材料を含んでいない。
【0058】
電気抵抗層は、サンプルS3の電気抵抗層と同様にして作製した。上記のように作製した電波吸収層と電気抵抗層とを積層し、100℃以上でさらに熱硬化を行うことで一体化して、サンプルS12の電波吸収体を得た。
【0059】
[サンプルS13]
電波吸収層は、サンプルS3の電波吸収層と同様にして作製した。電気抵抗層は、高抵抗セラミックを含まないこと以外は、サンプルS3の電気抵抗層と同様にして作製した。上記のように作製した電波吸収層と電気抵抗層とを積層し、100℃以上でさらに熱硬化を行うことで一体化して、サンプルS9の電波吸収体を得た。
【0060】
<絶縁破壊強度の測定>
絶縁破壊強度は、JIS C 2110-1:2016に従い測定した。測定の際には、各サンプルは、100mm×100mmの矩形形状に切り出した。厚みが1mmのサンプルはそのまま測定し、絶縁破壊強度の値を得た。異なる厚みのサンプルは、絶縁破壊電圧の測定後に、厚さ1mm当たりの絶縁破壊強度を算出した。
【0061】
<複素比透磁率の導出>
複素比透磁率の実数成分μ’は、E4991Bインピーダンス・アナライザ(キーサイト・テクノロジー社製)を用いて測定した。測定の際には、各サンプルは、外径20mm、内径10mmのトロイダル形状となるように切り出して使用した。複素比透磁率の実数成分は、μ’の値が一定となる領域の値を読み取った。
【0062】
<ヤング率の測定>
ヤング率は、引張試験機(島津製作所製オートグラフ(AG-IS))を使用して室温にて測定した。各サンプルを、幅1cm×長さ7cmの短冊状の試験片として切り出し、両端から2cmの位置を治具で保持して、中間の長さ3cmの部分で引張試験を行い、S-Sカーブ(応力-ひずみ曲線)からヤング率を得た。具体的には、各試験片を破断するまで引っ張りながら、サンプル長と荷重の変化を経時的に測定した。このとき、測定した荷重を試験片の引張試験前の断面積で除すことにより、引張応力を算出した。ヤング率は、以下の(1)式により算出される歪みを横軸とし、上記引張応力を縦軸とするグラフ(応力-ひずみ曲線)において、弾性変形領域における傾きとして算出した。
【0063】
歪み(%)=[引っ張り中のサンプル長 - 元のサンプル長]/元のサンプル長 ・・・(1)
【0064】
<耐熱試験>
各サンプルを、大気中100℃の乾燥機に投入し、1000時間の連続耐熱試験を行った。耐熱後の各サンプルについて、上記した「ヤング率の測定」と同様の方法により、ヤング率を測定した。
【0065】
<評価方法>
図5に示すように、各項目について、基準値との比較により評価を行った。「MHz帯性能」は、MHz帯用の電磁波吸収体として特に適していることに係る評価項目であり、各サンプルにおいて、電波吸収層が軟磁性材料としてMn-Znフェライトを含む場合には「○」、Mn-Znフェライトを含まない場合には「×」とした。「絶縁破壊強度」は、各サンプルの絶縁破壊強度が3kV/mm以上であれば「○」、3kV/mm未満であれば「×」とした。「μ’」は、各サンプルの1MHzから100MHzの範囲の複素比透磁率の実数成分μ’が3以上であれば「○」、3未満であれば「×」とした。「ヤング率」は、各サンプルのヤング率が10MPa以下であれば「○」、10MPaを超えていれば「×」とした。「耐熱後ヤング率」は、各サンプルの耐熱試験後のヤング率が11M
Pa以下であれば「○」、11MPaを超えていれば「×」とした。
【0066】
図5では、さらに、総合評価の結果を示している。「総合評価」は、本開示の電波吸収体が奏する効果に係る基本性能に対応する評価項目、すなわち、「絶縁破壊強度」と「μ’」のうちの少なくとも一方が「×」の場合には「×」とした。また、総合評価が「×」以外の場合であって、残余の評価項目において「×」の評価項目が無い場合に「◎」、「×」の評価項目が1つの場合に「○」、「×」の評価項目が2つ以上の場合に「△」とした。
【0067】
<評価結果>
図5に示すように、「軟磁性材料と樹脂とを備える電波吸収層12」と、「電波吸収層12の一方の面上に配置され、絶縁破壊強度が8kV/mm以上のセラミックと、空気の絶縁破壊強度よりも高い絶縁破壊強度を有する樹脂と、を備える電気抵抗層14」と、を備えることで、1MHzから100MHzの範囲の電磁波に対する電波吸収能を確保しつつ、絶縁性を高めることができることが確認された(サンプルS1~S9と、サンプルS10~S13の対比)。また、電波吸収体を構成する樹脂としてシリコーン樹脂を用いることにより、電波吸収体の柔軟性を高める効果が得られると共に、このような効果が、高温条件下で長時間処理することによっても持続することが確認された(例えば、サンプルS3とサンプルS1,2との対比)。また、電波吸収体を構成する樹脂の分子量が大きいほど、ヤング率および耐熱試験後のヤング率が小さくなり、電波吸収体の柔軟性および耐熱性が高まることが確認された(例えば、サンプルS4とS5との対比)。
【0068】
本開示は、上述の実施形態等に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0069】
本開示は、以下の形態としても実現することが可能である。
[適用例1]
電磁波を吸収する電波吸収体であって、
軟磁性材料と樹脂とを備える電波吸収層と、
前記電波吸収層の一方の面上に配置され、絶縁破壊強度が8kV/mm以上のセラミックと、空気の絶縁破壊強度よりも高い絶縁破壊強度を有する樹脂と、を備える電気抵抗層と、
を備えることを特徴とする電波吸収体。
[適用例2]
適用例1に記載の電波吸収体であって、
絶縁破壊強度が3kV/mm以上であることを特徴とする
電波吸収体。
[適用例3]
適用例1または2に記載の電波吸収体であって、
複素比透磁率の実数成分が、1MHzから100MHzの範囲で3以上であることを特徴とする
電波吸収体。
[適用例4]
適用例1から3までのいずれか一項に記載の電波吸収体であって、
前記軟磁性材料は、マンガン亜鉛フェライトであることを特徴とする
電波吸収体。
[適用例5]
適用例1から4までのいずれか一項に記載の電波吸収体であって、
ヤング率が10MPa以下であることを特徴とする
電波吸収体。
[適用例6]
適用例1から5までのいずれか一項に記載の電波吸収体であって、
大気中において100℃で1000時間処理した後のヤング率が、11MPa以下であることを特徴とする
電波吸収体。
[適用例7]
電子部品モジュールを収納するための、導電性部材によって構成される筐体であって、
適用例1から6までのいずれか一項に記載の電波吸収体を備え、
前記電波吸収体は、前記電波吸収体が前記筐体の内壁面に対向する向きで前記筐体の内壁面に取り付けられていることを特徴とする
筐体。
[適用例8]
半導体を有するパワーモジュールと、前記パワーモジュールに電気的に接続されるハーネスと、前記パワーモジュールおよび前記ハーネスを収納すると共に導電性材料によって構成される筐体と、を備える電力変換装置であって、
前記筐体は、適用例1から6までのいずれか一項に記載の電波吸収体を備え、
前記電波吸収体は、前記電波吸収体が前記筐体の内壁面に対向する向きで前記筐体の内壁面に取り付けられていることを特徴とする
電力変換装置。
【符号の説明】
【0070】
10,130…電波吸収体
12…電波吸収層
13…接着面
14…電気抵抗層
20…筐体
22…配線
116…反射層
図1
図2
図3
図4
図5