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特許7577725通信装置、通信システム、移動体、隊列走行システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】通信装置、通信システム、移動体、隊列走行システム
(51)【国際特許分類】
   H01Q 1/32 20060101AFI20241028BHJP
   H01Q 3/26 20060101ALI20241028BHJP
   H01Q 1/24 20060101ALI20241028BHJP
   H01Q 21/06 20060101ALI20241028BHJP
   G08G 1/09 20060101ALI20241028BHJP
   G08G 1/00 20060101ALI20241028BHJP
【FI】
H01Q1/32 Z
H01Q3/26 Z
H01Q1/24 Z
H01Q21/06
G08G1/09 H
G08G1/00 X
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022194188
(22)【出願日】2022-12-05
(65)【公開番号】P2024080868
(43)【公開日】2024-06-17
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】501440684
【氏名又は名称】ソフトバンク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 壽
(74)【代理人】
【識別番号】100128691
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 弘通
(72)【発明者】
【氏名】豊見本 和馬
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 歩
(72)【発明者】
【氏名】山口 良
(72)【発明者】
【氏名】宮下 真行
(72)【発明者】
【氏名】保前 俊稀
【審査官】白井 亮
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/110361(WO,A1)
【文献】特開2020-113227(JP,A)
【文献】物流の未来へ。ソフトバンクの「トラック隊列走行」実用化への挑戦,2020年03月06日
【文献】山本 将司,等間隔線形アレーアンテナにおけるヌルフィル及びコセカント2乗指向性の簡易的形成方法,電子情報通信学会論文誌B,2018年08月01日,Vol.J101-B、No.8,p.619-626
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 1/32
H01Q 3/26
H01Q 1/24
H01Q 21/06
G08G 1/09
G08G 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に設けられ、前記移動体の移動中に他の移動体との間で移動体間通信を行う通信装置であって、
垂直面内指向性がヌルフィル化されたアンテナ部により、前記他の移動体と無線通信を行う無線通信部を有することを特徴とする通信装置。
【請求項2】
請求項1に記載の通信装置において、
前記アンテナ部は、俯角方向のアンテナ利得が俯角の略コセカント二乗に沿って低減する垂直面内指向性を有することを特徴とする通信装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の通信装置において、
前記アンテナ部は、仰角方向よりも俯角方向のアンテナ利得の方が大きい垂直面内指向性を有することを特徴とする通信装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の通信装置において、
前記アンテナ部は、俯角方向よりも仰角方向のアンテナ利得の方が大きい垂直面内指向性を有することを特徴とする通信装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の通信装置において、
前記アンテナ部は、複数のアンテナ素子が配置されたアレイアンテナを備え、前記複数のアンテナ素子に対する各信号の振幅と位相を調整されて前記垂直面内指向性を有することを特徴とする通信装置。
【請求項6】
請求項5に記載の通信装置において、
前記アンテナ部は、前記複数のアンテナ素子に対する各信号の振幅と位相を調整するアナログ回路を備えることを特徴とする通信装置。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の通信装置を複数備えることを特徴とする通信システム。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の通信装置を備え、移動方向の前方及び後方の少なくとも一方に位置する他の移動体との間で移動体間通信を行うことを特徴とする移動体。
【請求項9】
請求項8に記載の移動体を複数備え、前記複数の移動体が移動体間通信を行って隊列走行することを特徴とする隊列走行システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車車間通信などの移動体間通信を行う通信装置、その通信装置を備えた通信システム、移動体及び隊列走行システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、道路などの移動経路上を移動する車両などの移動体に設けられ、前記移動経路を移動している他の移動体との間で車車間通信を行う通信装置が知られている。
【0003】
特許文献1には、後続車両及び先行車両が車車間通信をしながら所定の車間距離で走行する隊列走行を行うシステムに用いられる通信装置が開示されている。この通信装置は、後続車両に設けられ、指向性アンテナにより先行車両に向かう指向性ビームを形成して先行車両と無線通信を行う。この通信装置では、車線変更、交差点などでの右折・左折、カーブ走行などにおいて、先行車両が指向性ビームの範囲から外れて通信切断が予測されるときに、先行車両に対する指向性ビームの追尾を開始するように制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-113227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の移動体間通信では、先行車両と後続車両との間でアンテナの高さが互いに異なる場合、受信電力が落ち込んで移動体間通信の継続が阻害されるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る通信装置は、移動体に設けられ、前記移動体の移動中に他の移動体との間で移動体間通信を行う通信装置である。この通信装置は、垂直面内指向性がヌルフィル化されたアンテナ部により、前記他の移動体と無線通信を行う無線通信部を有する。
【0007】
前記通信装置において、前記アンテナ部は、俯角方向のアンテナ利得が俯角の略コセカント二乗に沿って低減する垂直面内指向性を有してもよい。
【0008】
また、前記通信装置において、前記アンテナ部は、当該アンテナ部と対向する前記他の移動体のアンテナ部よりもアンテナ高が高くてもよく、仰角方向よりも俯角方向のアンテナ利得の方が大きい垂直面内指向性を有してもよい。
【0009】
また、前記通信装置において、前記アンテナ部は、当該アンテナ部と対向する前記他の移動体のアンテナ部よりもアンテナ高が低くてもよく、俯角方向よりも仰角方向のアンテナ利得の方が大きい垂直面内指向性を有してもよい。
【0010】
また、前記通信装置において、前記アンテナ部は、複数のアンテナ素子が配置されたアレイアンテナを備え、前記複数のアンテナ素子に対する各信号の振幅と位相を調整されて前記垂直面内指向性を有してもよい。
【0011】
また、前記通信装置において、前記アンテナ部は、前記複数のアンテナ素子に対する各信号の振幅と位相を調整するアナログ回路を備えてもよい。
【0012】
本発明の他の態様に係る通信システムは、前記いずれかの通信装置を複数備える通信システムである。
【0013】
本発明の更に他の態様に係る移動体は、前記いずれかの通信装置を備え、移動方向の前方及び後方の少なくとも一方に位置する他の移動体との間で移動体間通信を行う移動体である。
【0014】
本発明の更に他の態様に係る隊列走行システムは、上述した移動体を複数備え、前記複数の移動体が移動体間通信を行って隊列走行する隊列走行システムである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、互いに通信を行う移動体間でアンテナの高さが互いに異なる場合でも、受信電力が落ち込みを抑制して、移動体間通信の継続を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施形態に係る隊列走行中の複数の車両の側面図。
図2】実施形態のアンテナ部の構成を示す説明図。
図3】(a)は、同アンテナ部における各アンテナ素子に対応する振幅の重み付けの一例を示すグラフ。(b)は、同アンテナ部における各アンテナ素子に対応する位相の重み付けの一例を示すグラフ。
図4】同アンテナ部の垂直面内指向性を示すグラフ。
図5】実施形態における車間距離と受信電力との関係を示すグラフ。
図6】実施形態に係る車両の主要な構成の一例を示す機能ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
本書に記載された実施形態に係る通信装置は、車両などの移動体に設けられ、当該移動体の移動中に他の移動体との間で移動体間通信を行う通信装置である。この通信装置は、垂直面内指向性がヌルフィル化されたアンテナ部により無線通信を行うことで、当該移動体と他の移動体との間でアンテナの高さが互いに異なる場合に生じ得る受信電力の落ち込みを抑制できるものである。
【0018】
図1は、本実施形態に係る隊列走行中の複数の車両10,20の側面図である。
本実施形態において、移動経路である道路90の路面上の走行車線を、後方の移動体(第1車両)としての車両(以下「後続車両」ともいう。)10と先行の移動体(第2車両)としての車両(以下「先行車両」ともいう。)20が互いに同じ方向に走行している。後続車両10及び先行車両20は移動体間通信である車車間通信しながら所定の車間距離で走行する隊列走行を行っている。これらの車両10,20により隊列走行システムが構成される。
【0019】
なお、本実施形態における車両10,20は、例えば乗用車、トラック、バスなどの自動車であり、本発明は車両の種類及び数に制限されない。また、本発明は、移動体が上空や水上などに設定された移動経路を移動する飛行体、船舶などの車両以外の移動体である場合にも適用することができる。
【0020】
後続車両10と先行車両20との間の車車間通信には、例えばマイクロ波、ミリ波等の電波が用いられる。車車間通信の周波数は、例えば、1GHzよりも低い数百MHzでもよいし、1GHz以上の高周波数帯であってもよい。また、車車間通信の周波数は、ITS(Intelligent Transport Systems)やCACC(Cooperative Adaptive Cruise Control)で使用される700MHz帯(715MHz~725MHz)、5.8GHz帯(5770MHz~5850MHz)等であってもよい。
【0021】
車両10,20それぞれの前面部には、前方の車両と車車間通信を行うためのアンテナ部11f,21fが設けられている。同様に、車両10,20それぞれの後面部には、後方の車両と車車間通信ためのアンテナ部11b,21bが設けられている。アンテナ部11f,21f,11b,21bは、構成の簡略化のため、それぞれの車両10,20に固定配置されている。
【0022】
車両10,20それぞれのアンテナ部11f,21f,11b,21bは、複数のアンテナ素子を2次元的に配置したアレイアンテナからなる平面アンテナを用いるものであるが、1次元又は3次元的に配置したアレイアンテナを用いるものであってもよい。
【0023】
先行車両20と後続車両10との車車間通信では、伝搬損失を補償するために高利得特性のアンテナ部を使用する場合が多い。車車間通信に用いられるアンテナ部の垂直面内指向性は、おおよそ、水平方向のアンテナ利得が最大であり、アンテナ間を結ぶ方向と水平方向とのなす角度θ(以下、上方側の角度を「仰角」といい、下方側の角度を「俯角」という。)が大きくなるほどアンテナ利得が小さくなる。そのため、先行車両20のアンテナ部21bの高さと後続車両10のアンテナ部11fの高さが略同じであれば、受信電力が安定し、車車間通信を安定して継続することができる。
【0024】
しかしながら、車両10,20には、それぞれアンテナ部の設置箇所の制約がある場合があり、必ずしも同じ高さにアンテナ部が設置されるとは限らない。そのため、先行車両20のアンテナ部21bの高さと後続車両10のアンテナ部11fの高さが互いに異なる場合が起こり得る。この場合、アンテナ間のビームずれが生じて受信電力が落ち込み、車車間通信の継続が阻害されるおそれがある。
【0025】
詳しくは、車車間通信に用いられる従来のアンテナ部の垂直面内指向性は、一般に、垂直面内においてアンテナ利得が大きく落ち込む方向(ヌル点)が存在する。一方、車両10,20間のアンテナ高さが互いに異なる場合、アンテナ間を結ぶ方向の仰角又は俯角は、車両10,20間の距離(車間距離)によって変動する。そのため、アンテナ間を結ぶ方向の仰角又は俯角がヌル点の角度に一致するような車間距離になったとき、いわゆるビームずれが生じて受信電力が大きく落ち込み、車車間通信の継続が阻害されるおそれがある。特に、車間距離が短い範囲では、アンテナ間を結ぶ方向の仰角又は俯角がヌルの角度に一致しやすいため、受信電力の落ち込みが生じやすく、車車間通信の継続が阻害されやすい。
【0026】
なお、アンテナ部のビーム方向を変化させる構成(例えば、アンテナ部の向きを変更する駆動機構、ビームフォーミング又はビームステアリング構成)を採用し、アンテナ間を結ぶ方向の仰角又は俯角がヌル点の角度に一致しないようにアンテナ部のビーム方向を制御する構成を採用すれば、車両間間でアンテナ高さが互いに異なる場合でも、受信電力の落ち込みの発生を抑制し、車車間通信の継続を実現することが可能である。しかしながら、このような構成を採用するには、各車両に搭載する通信装置のハードウェアコスト(設備費用)が高騰してしまうというデメリットがある。
【0027】
そこで、本実施形態の通信装置は、垂直面内指向性がヌルフィル化されたアンテナ部11f,21f,11b,21bにより無線通信を行うものである。これによれば、アンテナ部11f,21f,11b,21bの垂直面内指向性において、アンテナ利得が大きく落ち込む方向(ヌル点)を無くすことができる。よって、アンテナ部11f,21f,11b,21bのビーム方向を変化させる構成を備えていなくても、アンテナ間を結ぶ方向の仰角又は俯角がヌル点の角度に一致するような事態を回避することができる。その結果、各車両に搭載する通信装置のハードウェアコストを抑制しつつ、車両間でアンテナ高さが互いに異なる場合における受信電力の落ち込みの発生を抑制でき、安価な構成で車車間通信の継続を実現できる。
【0028】
図2は、本実施形態のアンテナ部11fの構成を示す説明図である。
なお、他のアンテナ部21f,11b,21bについても同様の構成であるため、その説明は省略する。
【0029】
本実施形態のアンテナ部11fは、複数のアンテナ素子を2次元的に配置した平面アンテナ30を備え、図2には、鉛直方向に並んだ1列分のアンテナ素子31-1,31-2,・・・,31-(N-1),31-Nが示されている。鉛直方向にN個のアンテナ素子が並んだ平面アンテナ30には、各アンテナ素子の信号を送受信するための送受信回路32が接続されている。各アンテナ素子31-1~31-Nに対応する各信号には、アナログ回路である送受信回路32によって、それぞれ対応する振幅と位相の重みW1~WNが与えられる。各アンテナ素子31-1~31-Nの信号に与えられる振幅と位相の重みW1~WNによって、垂直面内指向性がヌルフィル化されたアンテナ部11fが得られる。
【0030】
図3(a)は、各アンテナ素子31-1~31-Nに対応する振幅の重み付けの一例を示すグラフである。
図3(b)は、各アンテナ素子31-1~31-Nに対応する位相の重み付けの一例を示すグラフである。
【0031】
本実施形態では、各アンテナ素子31-1~31-Nの番号1~Nを鉛直方向上側から順に付している。振幅の重みは、図3(a)に示すように、鉛直方向最上位に位置するアンテナ素子31-1が最も大きく、下方のアンテナ素子ほど振幅の重みが線形的に減少するように設定されている。
【0032】
一方、位相の重みは、図3(b)に示すように、鉛直方向中央に位置するアンテナ素子の位相を基準にして、上方に位置するアンテナ素子の位相を進ませ、下方に位置するアンテナ素子の位相を遅らせている。そして、図3(b)に示す位相変化の外形がS字状になるように、位相の重みを設定している。
【0033】
図4は、アンテナ部11fの垂直面内指向性(仰角及び俯角ごとのアンテナ利得)を示すグラフである。
このグラフには、本実施形態のアンテナ部11fのほか、振幅の重み付けを行わずに図3(b)に示す位相の重み付けだけを行った比較例1と、振幅も位相も重み付けを行っていない比較例2についても、重ねて示してある。なお、図4のグラフにおける垂直面内指向性の角度は、水平方向に一致する角度を0°とし、下方に向く角度(俯角)をプラスとし、上方に向く角度(仰角)をマイナスとしている。
【0034】
比較例1及び比較例2では、振幅の重み付けを行っていないため、図4に示すように、複数の特定角度においてアンテナ利得が大きく落ち込むヌル点が存在している。そのため、上述したとおり、互いに車車間通信を行う先行車両20及び後続車両10のアンテナ間を結ぶ方向の角度がヌル点の角度に一致するような車間距離になったとき、ビームずれが生じて、受信電力が大きく落ち込み、車車間通信の継続が阻害されるおそれがある。
【0035】
これに対し、本実施形態では、主に振幅の重み付けを行うことにより、図4に示すように、比較例1や比較例2で存在していたアンテナ利得が大きく落ち込むヌル点、すなわち、車車間通信の有効距離内において通信の継続ができないほどのアンテナ利得の落ち込みが生じ得るヌル点を、解消している。よって、互いに車車間通信を行う先行車両20及び後続車両10のアンテナ間を結ぶ方向の角度がヌル点の角度に一致するような事態が生じず、車車間通信の継続を安定して実現することができる。
【0036】
また、本実施形態においては、振幅の重み付けだけでなく、位相の重み付けも行うことにより、対向する相手車両のアンテナ部よりもアンテナ高が高いアンテナ部(例えば図1の例では後続車両10の上部に配置されるアンテナ部11f)については、図4に示すように、仰角方向(マイナス角度方向)のアンテナ利得よりも俯角方向(プラス角度方向)のアンテナ利得の方が大きくなるようにしている。具体的には、仰角方向(マイナス角度方向)のアンテナ利得の平均値よりも俯角方向(プラス角度方向)のアンテナ利得の平均値の方が大きくなるように、重み付けが設定されている。このような構成により、垂直面内指向性が水平方向に一致する0°を中心に上下非対称となり、送信時には上方よりも下方に対して大きな送信電力で電波が送信され、受信時には上方よりも下方に対して大きな受信電力で電波が受信される。
【0037】
一方、対向する相手車両のアンテナ部よりもアンテナ高が低いアンテナ部(例えば図1の例では先行車両20の下部に配置されるアンテナ部21b)については、俯角方向(プラス角度方向)のアンテナ利得よりも仰角方向(マイナス角度方向)のアンテナ利得の方が大きくなるようにしている。具体的には、俯角方向(プラス角度方向)のアンテナ利得の平均値よりも仰角方向(マイナス角度方向)のアンテナ利得の平均値の方が大きくなるように、重み付けが設定されている。このような構成により、垂直面内指向性が水平方向に一致する0°を中心に上下非対称となり、送信時には下方よりも上方に対して大きな送信電力で電波が送信され、受信時には下方よりも上方に対して大きな受信電力で電波が受信される。
【0038】
一般に、道路90の路面上を走行する車両10,20の場合、例えば、後続車両10のアンテナ部11fから放射されて先行車両20のアンテナ部21bに到達する電波には、直接到達する直接波のほか、路面で反射して到達する反射波もある。この反射波は、直接波の干渉波となり、受信電力の低減を引き起こし、安定した通信を阻害する可能性がある。そのため、この反射波を抑圧することで、受信電力を低減することが可能である。
【0039】
一方で、屋外で走行する車両10,20の場合、上方には電波を反射させる反射面が存在しない。そのため、後続車両10のアンテナ部11fから上方に向けて放射される電波が先行車両20のアンテナ部21bに到達することはない。また、先行車両20のアンテナ部21bには後続車両10のアンテナ部11fからの電波が上方から到達することもない。
【0040】
したがって、対向する相手車両のアンテナ部よりもアンテナ高が高いアンテナ部11fについては、車車間通信を行う相手車両のアンテナ部21bが相対的に低い位置にあり、上方に向けて放射される電波又は上方から到来する電波は利用されない。そのため、本実施形態のように、利用されない上方(仰角方向)に放射される電波又は上方から到来する電波に対するアンテナ利得を相対的に小さくし、その分を下方(俯角方向)へ放射される電波又は下方から到来する電波に対するアンテナ利得に振り向けることで、車車間通信においてより高い受信電力を確保することができる。[0]
【0041】
また、対向する相手車両のアンテナ部よりもアンテナ高が低いアンテナ部21bについては、車車間通信を行う相手車両のアンテナ部21bが相対的に高い位置にあり、下方に向けて放射される電波又は下方から到来する電波は路面に反射して直接波の干渉波となる。そのため、本実施形態のように、干渉波となる下方(俯角方向)に放射される電波又は下方から到来する電波に対するアンテナ利得を相対的に小さくし、その分を上方(仰角方向)へ放射される電波又は上方から到来する電波に対するアンテナ利得に振り向けることで、受信電力の変動を引き起こす路面からの反射波(干渉波)を抑圧でき、車車間通信においてより高い受信電力を確保することができる。
【0042】
更に、本実施形態においては、図4に示すように、俯角方向(プラス角度方向)のアンテナ利得が、俯角θの略コセカント二乗(cosecθ)に沿って低減するように、重み付けが調整されている。このようにアンテナ利得が俯角θ に応じてcosecθに比例するように変化することで、路面からの反射波(干渉波)を抑圧することが可能となり、車間距離が変化しても受信電波の強度を一定とすることができる。これにより、車車間通信を行う車両間の距離が変化しても受信電波の強度が安定し、車車間通信の更なる安定した継続を実現される。
【0043】
図5は、本実施形態における車間距離と受信電力との関係を示すグラフである。
このグラフには、上述した比較例2のグラフも併せて示されている。
【0044】
比較例2では、複数の特定角度においてアンテナ利得が大きく落ち込むヌル点が存在しているため、互いに車車間通信を行う先行車両20及び後続車両10のアンテナ間を結ぶ方向の角度がヌル点の角度に一致するような車間距離になったときに、受信電力が大きく落ち込んでいる。特に、車間距離が短い範囲では受信電力の落ち込みが大きいことがわかる。
【0045】
これに対し、本実施形態では、比較例2で存在していたアンテナ利得が大きく落ち込むヌル点を解消したことで、図5に示すように、受信電力が大きく落ち込む箇所がなくなっている。そのため、受信電力の落ち込みによって車車間通信の継続が阻害されるという不具合が抑制されている。
【0046】
また、本実施形態では、少なくとも俯角方向(プラス角度方向)のアンテナ利得が、俯角θの略コセカント二乗(cosecθ)に沿って低減する垂直面内指向性をもったアンテナ部が使用されている。その結果、図5に示すように、車間距離が変化しても受信電力の変動が小さくなっており、車車間通信の更なる安定した継続を実現することができる。
【0047】
図6は、本実施形態に係る車両(後続車両)10の主要な構成の一例を示す機能ブロック図である。なお、車両10の前方を走行している先行車両20の構成は、図6の後続車両10の構成と同様であるので、説明を省略する。
【0048】
図6において、車両10は、先方又は後方の車両と車車間通信を行うための通信装置100と、車両10を駆動する車両駆動部150とを備える。車両駆動部150は、例えば、車両10を駆動するエンジン、モータなどの駆動源、駆動源の動力をタイヤ等の駆動出力部に伝える駆動伝達装置、車両10の進行方向を変える操舵装置などである。
【0049】
通信装置100は、無線通信部110と、走行状態情報取得部124と、制御部140とを備える。隊列走行する後続車両10の通信装置と先行車両20の通信装置により、車車間通信の通信システムが構成される。
【0050】
無線通信部110は、前方アンテナ部11f及び後方アンテナ部11bと、通信処理部112と備える。無線通信部110は、前方アンテナ部11f又は後方アンテナ部11bにより前方又は後方の通信相手である他の車両との車車間通信を行う。通信処理部112は、前方アンテナ部11f及び後方アンテナ部11bを介して送受信される信号を増幅したり、所定の符号化・変調方式でデータを符号化・変調して送信信号を生成したり、受信信号を復号化・復調してデータを生成したりする。
【0051】
走行状態情報取得部124は、自車両10の車両駆動部150から、自車両10の走行速度情報、ブレーキ情報、舵角情報、ウィンカー情報等の走行状態を示す情報を取得する。
【0052】
制御部140は、CPU等のプロセッサ、メモリなどで構成され、所定の制御プログラムが読み込まれて実行されることにより、無線通信部110、車両駆動部150などの各種制御を行う。制御部140は、先行車両20と隊列走行するための各種制御を行う。
【0053】
以上、本実施形態によれば、隊列走行等を行っている複数の車両10,20間での車車間通信では、アンテナ部11f,21f,11b,21bの垂直面内指向性において、アンテナ利得が大きく落ち込むヌル点を無くすことができる。これにより、予めこのような垂直面内指向性をもつように設定されたアンテナ部11f,21f,11b,21bを固定配置するという低コストな構成であっても、アンテナ間を結ぶ方向の仰角又は俯角がヌル点の角度に一致するような事態が生じない。すなわち、アンテナのビーム方向を変化させるコスト高な構成を採用せずとも、アンテナ間を結ぶ方向の仰角又は俯角がヌル点の角度に一致するような事態が生じない。よって、各車両に搭載する通信装置のハードウェアコストを抑制しつつ、車両間でアンテナ高さが互いに異なる場合における受信電力の落ち込みの発生を抑制でき、安価な構成で車車間通信の継続を実現することができる。
【0054】
なお、本明細書で説明された処理工程並びに通信装置の構成要素は、様々な手段によって実装することができる。例えば、これらの工程及び構成要素は、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、又は、それらの組み合わせで実装されてもよい。
【0055】
ハードウェア実装については、実体(例えば、各種無線通信装置、Node B、端末、ハードディスクドライブ装置、又は、光ディスクドライブ装置)において上記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、1つ又は複数の、特定用途向けIC(ASIC)、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、デジタル信号処理装置(DSPD)、プログラマブル・ロジック・デバイス(PLD)、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)、プロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、電子デバイス、本明細書で説明された機能を実行するようにデザインされた他の電子ユニット、コンピュータ、又は、それらの組み合わせの中に実装されてもよい。
【0056】
また、ファームウェア及び/又はソフトウェア実装については、上記構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、本明細書で説明された機能を実行するプログラム(例えば、プロシージャ、関数、モジュール、インストラクション、などのコード)で実装されてもよい。一般に、ファームウェア及び/又はソフトウェアのコードを明確に具体化する任意のコンピュータ/プロセッサ読み取り可能な媒体が、本明細書で説明された上記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段の実装に利用されてもよい。例えば、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば制御装置において、メモリに記憶され、コンピュータやプロセッサにより実行されてもよい。そのメモリは、コンピュータやプロセッサの内部に実装されてもよいし、又は、プロセッサの外部に実装されてもよい。また、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、不揮発性ランダムアクセスメモリ(NVRAM)、プログラマブルリードオンリーメモリ(PROM)、電気的消去可能PROM(EEPROM)、FLASH(登録商標)メモリ、フロッピー(登録商標)ディスク、コンパクトディスク(CD)、デジタルバーサタイルディスク(DVD)、磁気又は光データ記憶装置、などのような、コンピュータやプロセッサで読み取り可能な媒体に記憶されてもよい。そのコードは、1又は複数のコンピュータやプロセッサにより実行されてもよく、また、コンピュータやプロセッサに、本明細書で説明された機能性のある態様を実行させてもよい。
【0057】
また、前記媒体は非一時的な記録媒体であってもよい。また、前記プログラムのコードは、コンピュータ、プロセッサ、又は他のデバイス若しくは装置機械で読み込んで実行可能であれよく、その形式は特定の形式に限定されない。例えば、前記プログラムのコードは、ソースコード、オブジェクトコード及びバイナリコードのいずれでもよく、また、それらのコードの2以上が混在したものであってもよい。
【0058】
また、本明細書で開示された実施形態の説明は、当業者が本開示を製造又は使用するのを可能にするために提供される。本開示に対するさまざまな修正は当業者には容易に明白になり、本明細書で定義される一般的原理は、本開示の趣旨又は範囲から逸脱することなく、他のバリエーションに適用可能である。それゆえ、本開示は、本明細書で説明される例及びデザインに限定されるものではなく、本明細書で開示された原理及び新規な特徴に合致する最も広い範囲に認められるべきである。
【符号の説明】
【0059】
10 :後続車両
11f,11b:アンテナ部
20 :先行車両
21f,21b:アンテナ部
30 :平面アンテナ
31 :アンテナ素子
32 :送受信回路
90 :道路
100 :通信装置
110 :無線通信部
112 :通信処理部
124 :走行状態情報取得部
140 :制御部
150 :車両駆動部
図1
図2
図3
図4
図5
図6