(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】重合体粒子、増粘剤及び組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 20/10 20060101AFI20241028BHJP
C08F 12/08 20060101ALI20241028BHJP
C08J 3/16 20060101ALI20241028BHJP
C08F 6/04 20060101ALI20241028BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20241028BHJP
【FI】
C08F20/10
C08F12/08
C08J3/16 CER
C08F6/04
C09K3/00 103G
(21)【出願番号】P 2022511502
(86)(22)【出願日】2020-09-30
(86)【国際出願番号】 JP2020037330
(87)【国際公開番号】W WO2021199465
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2020060220
(32)【優先日】2020-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002440
【氏名又は名称】積水化成品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103975
【氏名又は名称】山本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 智之
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/056529(WO,A1)
【文献】特開平06-043693(JP,A)
【文献】特開2004-198743(JP,A)
【文献】特開平07-092729(JP,A)
【文献】特開2010-033053(JP,A)
【文献】特開2009-096182(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 20/10
C08F 12/08
C08J 3/16
C08F 6/04
C09K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
個数平均粒子径が1~50μmであり、個数基準の粒度分布における変動係数が30%以上
、80%以下である重合体粒子であって、
上記重合体粒子全体の重量平均分子量をAとし、
上記重合体粒子の個数基準の粒度分布における小径側から累積個数百分率が5%以下である小粒子の重量平均分子量をBとし、
上記重合体粒子の個数平均粒子径の5倍以上の粒子径を有する大粒子の重量平均分子量をCとした場合、
下記式(1)及び式(2)を満た
し、
0.90≦(B/A)<1.0 ・・・式(1)
1<(C/B)<1.25 ・・・式(2)
上記重合体粒子は、原料モノマーの重合体を含み、上記原料モノマー中の多官能性モノマーの含有量が、上記原料モノマーの全量に対して、0質量%であるか、又は1.0質量%以下であることを特徴とする重合体粒子。
【請求項2】
下記式(3)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の重合体粒子。
1.0<(C/A)≦1.10 ・・・式(3)
【請求項3】
上記重合体粒子の個数平均粒子径の5倍以上の粒子径を有する大粒子の含有量が、個数基準で0.1%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の重合体粒子。
【請求項4】
重合体が、アクリル系重合体を含むことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の重合体粒子。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の重合体粒子を含む増粘剤。
【請求項6】
溶解媒体、及び請求項1~4のいずれか1項に記載の重合体粒子の溶解物を含むことを特徴とする組成物。
【請求項7】
光重合開始剤を含むことを特徴とする請求項6に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体粒子、及びこれを含む増粘剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、溶解媒体(例えば、溶媒など)を含む組成物が、化粧品、医薬品、接着剤、及び塗料などとして用いられている。このような組成物では増粘剤を用いることによって、用途に応じた粘度の調整が行われる。増粘剤としては、モンモリロナイト、及びシリカなどの無機系増粘剤に比して、高い増粘効果が得られることから、有機系増粘剤が好適に用いられている。
【0003】
有機系増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、アクリル系重合体、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、及びカルボキシビニルポリマーなどの重合体からなる重合体粒子が用いられている。例えば、特許文献1では、10μm~5mmの粒子径を有するアクリル系重合体粒子が増粘剤として用いられることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
重合体粒子は、これを溶解媒体中に溶解させることで増粘効果を発揮することができる。重合体粒子は、その粒度に分布があり、粒子径が異なる複数の重合体粒子を含んでいる。これまで、重合体粒子の分子量は、重合体粒子の粒子径が異なったとしても格別に変化することはないと考えられていた。しかしながら、本発明者の検討によると、重合体粒子の粒子径ごとに重合体粒子の分子量が変動し、平均粒子径から粒子径が離れるに従って、重合体粒子の分子量の差異が大きくなり、その結果として、重合体粒子ごとに溶解性や増粘効果にも差異が生じることが分かった。
【0006】
このような重合体粒子を溶解媒体に溶解させると、組成物中に部分的に粘度の低い部分や高い部分を発生させ、組成物中の粘度が不均一となる。このような場合、組成物を長時間に亘って攪拌しても、組成物中の粘度を均一にすることが困難となる。
【0007】
一方、重合体粒子の溶解性や増粘効果を均一にするために、粒度分布が狭い重合体粒子を用いることが考えられる。しかしながら、このよう場合、重合体粒子ごとの溶解挙動が一様であるために、重合体粒子を溶解媒体中に溶解させる際に、重合体粒子が一斉に溶解を開始して組成物の急激な粘度上昇を招き、全ての重合体粒子が溶解する前に継粉(ママコ)と呼ばれるゲル状の塊を生じ易くなる。継粉は、溶解媒体中で重合体粒子の表面が部分的に溶解し、これらの重合体粒子同士が付着することで発生する。継粉表面はゲル状の層によって覆われているため、継粉内部の重合体粒子と溶解媒体との接触面積が極度に減少する。そのため、組成物を長時間に亘って攪拌しても、継粉中に含まれている重合体粒子を溶解媒体中に溶解させるのが困難となり、組成物中に継粉が存在したままとなる。
【0008】
上述の通り、組成物中に継粉が発生したり、組成物の粘度が不均一となった場合、組成物の塗工性が低下したり、厚みが均一な塗工膜の形成が困難となったり、又は、塗工膜中に白化した部分が生じて外観不良を招いたりなどの問題を生じる。
【0009】
そこで、本発明は、溶解媒体中に継粉を生じさせずに溶解することができると共に、組成物の粘度を均一に上昇させることができる重合体粒子、並びにこの重合体粒子を用いた増粘剤及び組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
[重合体粒子]
本発明者は、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、粒度分布に所定の広がりを有する重合体粒子において、分子量に所定の差異を設けることによって、重合体粒子が、組成物の急激な粘度上昇を抑制しつつ適度な速度で溶解媒体中に徐々に溶解できることを見出した。このような重合体粒子は、溶解媒体中に継粉を生じさせずに均一に溶解することができると共に、組成物の粘度を均一に上昇させることが可能となる。したがって、本発明によれば、優れた増粘安定性を発揮する重合体粒子を提供することが可能となる。さらに、本発明の重合体粒子によれば、組成物の粘度を均一に上昇させた後、この上昇させた粘度の均一な状態を安定して維持することも可能となる。
【0011】
すなわち、本発明の重合体粒子は、個数平均粒子径が1~50μmであり、個数基準の粒度分布における変動係数が30%以上であり、
上記重合体粒子全体の重量平均分子量をAとし、
上記重合体粒子の個数基準の粒度分布における小径側から累積個数百分率が5%以下である小粒子の重量平均分子量をBとし、
上記重合体粒子の個数平均粒子径の5倍以上の粒子径を有する大粒子の重量平均分子量をCとした場合、
下記式(1)及び式(2)を満たすことを特徴とする。
0.90≦(B/A)<1.0 ・・・式(1)
(C/B)<1.25 ・・・式(2)
【0012】
本発明において、重合体粒子のうち、重合体粒子の個数基準の粒度分布における小径側から累積個数百分率が5%以下である重合体粒子を「小粒子」と称する。このような小粒子は、重合体粒子の個数基準の粒度分布における小径側から累積個数百分率が5%となる粒子径(D5)以下の粒子径を有する。
【0013】
なお、本発明において、「重合体粒子の個数基準の粒度分布における小径側から累積個数百分率がX%である重合体粒子」とは、上記粒度分布において、累積個数百分率がX%となる時の粒子径を有している重合体粒子をいう。
【0014】
さらに、重合体粒子のうち、重合体粒子の個数平均粒子径の5倍以上の粒子径を有する重合体粒子を「大粒子」と称する。
【0015】
重合体粒子の個数平均粒子径は、1~50μmであるが、2~30μmが好ましく、2~20μmがより好ましい。個数平均粒子径が1μm以上であると、重合体粒子の増粘効果が向上する。また、個数平均粒子径が50μm以下であると、重合体粒子の増粘効果が向上する。
【0016】
また、重合体粒子を後述する歯科用組成物に用いる場合には、重合体粒子の個数平均粒子径は、1~50μmであるが、10~50μmが好ましく、15~48μmがより好ましく、20~48μmがより好ましい。個数平均粒子径が1μm以上であると、歯科用組成物に対する重合体粒子の増粘効果が向上する。また、個数平均粒子径が50μm以下であると、歯科用組成物に対する重合体粒子の増粘効果が向上する。
【0017】
重合体粒子の個数基準の粒度分布における変動係数は、30%以上であるが、35%以上が好ましく、40%以上がより好ましい。変動係数が30%以上であると、重合体粒子が、異なる粒子径を有する重合体粒子を幅広く含み、重合体粒子の粒子径ごとに溶解性に適度な差異を設けることができる。これにより粒子径が小さい重合体粒子から徐々に重合体粒子を溶解媒体中に溶解させることができ、全ての重合体粒子が一斉に溶解することを抑制することが可能となる。したがって、重合体粒子が継粉を生じずに溶解媒体中に溶解することができると共に、重合体粒子が組成物の粘度を均一に上昇させることができる。
【0018】
一方、重合体粒子の個数基準の粒度分布における変動係数は、80%以下が好ましく、75%以下がより好ましい。変動係数が80%以下であると、小粒子と大粒子との間における溶解性の差異を適度な範囲内にすることができる。小粒子と大粒子との間で溶解性の差異が大きすぎる場合、溶解媒体中で、小粒子は短時間で溶解する一方で、大粒子の内部にまで分散媒体が浸透するのに時間を要して、大粒子の溶解が不十分となることがある。
【0019】
重合体粒子において、小粒子の重量平均分子量(B)を、重合体粒子全体の重量平均分子量(A)で除した値(B/A)が、0.90≦(B/A)<1.0[式(1)]を満たすようにする。上記値(B/A)は、0.901≦(B/A)≦0.999を満たしていることが好ましく、0.93≦(B/A)≦0.99を満たしていることが好ましい。上記値(B/A)が上記範囲内であると、重合体粒子の分子量に所定の差異を設けることができ、粒子径が小さい重合体粒子から徐々に重合体粒子を溶解媒体中に溶解させることができ、全ての重合体粒子が一斉に溶解することを抑制することが可能となる。したがって、重合体粒子が継粉を生じずに溶解媒体中に溶解することができると共に、重合体粒子が組成物の粘度を均一に上昇させることができる。
【0020】
重合体粒子において、大粒子の重量平均分子量(C)を、小粒子の重量平均分子量(B)で除した値(C/B)が、(C/B)<1.25[式(2)]を満たすようにする。上記値(C/B)は、1<(C/B)<1.25を満たしていることが好ましく、1.02≦(C/B)≦1.23を満たしていることがより好ましく、1.05≦(C/B)≦1.21を満たしていることがより好ましい。上記値(C/B)が上記範囲内であると、重合体粒子の分子量に所定の差異を設けることができ、粒子径が小さい重合体粒子から徐々に重合体粒子を溶解媒体中に溶解させることができ、全ての重合体粒子が一斉に溶解することを抑制することが可能となる。これにより、組成物において、重合体粒子による増粘を急激な増粘を抑制しつつ経時的に安定的に行なうことができ、組成物の粘度の均一化を図ることができる。
【0021】
重合体粒子において、大粒子の重量平均分子量(C)を、重合体粒子全体の重量平均分子量(A)で除した値(C/A)が、下記式(3)を満たすことが好ましい。
1.0<(C/A)≦1.10 ・・・式(3)
【0022】
このように重合体粒子において、上記値(C/A)が、1.0<(C/A)≦1.10[式(3)]を満たすことが好ましく、1.01≦(C/A)≦1.10を満たしていることがより好ましく、1.01≦(C/A)≦1.09を満たしていることがより好ましく、1.02≦(C/A)≦1.09を満たしていることがより好ましい。上記値(C/A)が上記範囲内であると、重合体粒子の分子量に所定の差異を設けることができ、大粒子の溶解媒体への溶解を、大粒子よりも小さい粒子径を有する重合体粒子に比して遅くすることができ、全ての重合体粒子が一斉に溶解することを抑制することが可能となる。したがって、重合体粒子が継粉を生じずに溶解媒体中に溶解することができると共に、重合体粒子が組成物の粘度を均一に上昇させることができる。
【0023】
重合体粒子全体の重量平均分子量(A)は、100×103~2,000×103が好ましく、200×103~1,500×103がより好ましい。重合体粒子全体の重量平均分子量(A)が100×103以上であると、重合体粒子の増粘効果を向上させることができる。重合体粒子の増粘効果が低い場合、重合体粒子の投入量の増大を招き、これは重合体粒子を溶解媒体に投入する際に継粉を発生させる要因となり得る。また、重合体粒子全体の重量平均分子量(A)が2,000×103以下であると、溶解媒体への重合体粒子の溶解に要する時間を適度に短くすることができる。さらに、重合体粒子全体の重量平均分子量(A)が2,000×103以下であると、溶解媒体への大粒子の優れた溶解性を確保することができ、これにより小粒子と大粒子との間における溶解性の差異を適度な範囲内にすることができる。小粒子と大粒子との間で溶解性の差異が大き過ぎる場合、溶解媒体中で、小粒子は短時間で溶解する一方で、大粒子の内部にまで分散媒体が浸透するのに時間を要し、そのため大粒子の溶解が不十分となったり、大粒子同士が付着して継粉を生じたりすることがある。
【0024】
重合体粒子に含まれている小粒子の重量平均分子量(B)は、90×103~1,800×103が好ましく、180×103~1,500×103がより好ましく、180×103~1,430×103がより好ましく、180×103~1,400×103が特に好ましい。小粒子の重量平均分子量(B)が90×103以上であると、小粒子の溶解速度が高くなりすぎるのを低減することができる。小粒子の溶解速度が高過ぎると、小粒子が溶解媒体中に均一に分散するよりも早く溶解媒体中に溶解してしまい、組成物中に粘度が高い部分が局所的に発生することがある。このような場合、小粒子よりも粒子径が大きい重合体粒子が、完全に溶解する前に、組成物中の局所的に粘度が高い部分に捕らえられてしまい、継粉を生じることがある。また、小粒子の重量平均分子量(B)が1,800×103以下であると、粒子径が小さい重合体粒子から徐々に重合体粒子を溶解媒体中に溶解させることが可能となる。
【0025】
重合体粒子に含まれている大粒子の重量平均分子量(C)は、110×103~2,200×103が好ましく、220×103~1,600×103がより好ましい。大粒子の重量平均分子量(C)が110×103以上であると、重合体粒子の粒子径ごとに溶解性に差異を設けることができ、これにより粒子径が小さい重合体粒子から徐々に重合体粒子を溶解媒体中に溶解させることが可能となる。また、大粒子の重量平均分子量(C)が2,200×103以下であると、溶解媒体への大粒子の優れた溶解性を確保することができ、これにより小粒子と大粒子との間における溶解性の差異を適度な範囲内にすることができる。
【0026】
重合体粒子は、上述した通り、相互に粒子径が異なる複数の重合体粒子を含んでいる。重合体粒子は、上記式(1)及び式(2)の関係を満たすことにより重合体粒子中の重合体の分子量に所定の差異を設けているが、このような粒子において、上記式(1)及び(2)の関係を満たしつつ、重合体粒子の粒子径が大きくなるにつれて、重合体粒子に含まれている重合体の分子量も高くなっていることが好ましい。このように重合体の分子量に所定の差異を設けつつ、粒子径が大きくなるにつれて、重合体の分子量が徐々に高くなっている重合体粒子は、溶解媒体中に重合体粒子を溶解させて増粘させるにあたって、得られる組成物の粘度の急激な上昇を抑制し、適度な速度で組成物の粘度を上昇させることができ、より優れた増粘安定性を発揮できる。
【0027】
重合体粒子の個数基準の粒度分布における小径側から累積個数百分率が20%を超え且つ50%以下である第一中粒子の重量平均分子量をDとした場合、重合体粒子において、第一中粒子の重量平均分子量(D)を、重合体粒子全体の重量平均分子量(A)で除した値(D/A)が、下記式(4)を満たしていることが好ましい。
0.93<(D/A)<1.00 ・・・式(4)
【0028】
重合体粒子において、上記値(D/A)が、0.93<(D/A)<1.00[式(4)]を満たすことが好ましく、0.96<(D/A)<1.00を満たすことがより好ましく、0.97≦(D/A)<1.00を満たしていることがより好ましく、0.97<(D/A)<1.00を満たしていることがより好ましい。上記値(D/A)が上記範囲内であると、重合体粒子の分子量に所定の差異を設けることができ、粒子径が小さい重合体粒子から徐々に重合体粒子を溶解媒体中に溶解させることができ、全ての重合体粒子が一斉に溶解することを抑制することが可能となる。したがって、重合体粒子が継粉を生じずに溶解媒体中に溶解することができると共に、重合体粒子が組成物の粘度を均一に上昇させることができる。
【0029】
重合体粒子において、第一中粒子の重量平均分子量(D)は、小粒子の重量平均分子量(B)よりも大きいことが好ましい。第一中粒子の重量平均分子量(D)を小粒子の重量平均分子量(B)で除した値(D/B)が、下記式(5)を満たしていることが好ましい。
1.0<(D/B)<1.1 ・・・式(5)
【0030】
重合体粒子において、上記値(D/B)が、1.0<(D/B)<1.1を満たすことが好ましく、1.001<(D/B)<1.081を満たすことがより好ましい。上記値(D/B)が上記式(5)を満たすことによって、粒子径が小さい重合体粒子から徐々に重合体粒子を溶解媒体中に溶解させることができ、全ての重合体粒子が一斉に溶解することを抑制することが可能となる。
【0031】
重合体粒子の個数基準の粒度分布における小径側から累積個数百分率が50%を超え且つ80%以下である第二中粒子の重量平均分子量をEとした場合、重合体粒子において、第二中粒子の重量平均分子量(E)を、重合体粒子全体の重量平均分子量(A)で除した値(E/A)が、下記式(6)を満たしていることが好ましい。
1.00<(E/A)<1.08 ・・・式(6)
【0032】
重合体粒子において、上記値(E/A)が、1.00<(E/A)<1.08[式(6)]を満たすことが好ましく、1.00<(E/A)≦1.07を満たしていることがより好ましく、1.01≦(E/A)≦1.06を満たしていることがより好ましい。上記値(E/A)が上記範囲内であると、重合体粒子の分子量に所定の差異を設けることができ、粒子径が小さい重合体粒子から徐々に重合体粒子を溶解媒体中に溶解させることができ、全ての重合体粒子が一斉に溶解することを抑制することが可能となる。したがって、重合体粒子が継粉を生じずに溶解媒体中に溶解することができると共に、重合体粒子が組成物の粘度を均一に上昇させることができる。
【0033】
また、重合体粒子において、第二中粒子の重量平均分子量(E)は、第一中粒子の重量平均分子量(D)よりも大きくなっていることが好ましい。第二中粒子の重量平均分子量(E)を第一中粒子の重量平均分子量(D)で除した値(E/D)が、下記式(7)を満たすことが好ましい。
1.0<(E/D)<1.2 ・・・式(7)
【0034】
重合体粒子において、上記値(E/D)が、1.0<(E/D)<1.2を満たすことが好ましく、1.01≦(E/D)<1.15を満たすことがより好ましく、1.01≦(E/D)<1.10を満たすことがより好ましい。上記値(E/D)が上記式(7)を満たすことによって、粒子径が小さい重合体粒子から徐々に重合体粒子を溶解媒体中に溶解させることができ、全ての重合体粒子が一斉に溶解することを抑制することが可能となる。
【0035】
また、重合体粒子において、大粒子の重量平均分子量(C)は、第二中粒子の重量平均分子量(E)よりも大きくなっていることが好ましい。大粒子の重量平均分子量(C)を第二中粒子の重量平均分子量(E)で除した値(C/E)が、下記式(8)を満たすことが好ましい。
1.0<(C/E)<1.1 ・・・式(8)
【0036】
重合体粒子において、上記値(C/E)が、1.0<(C/E)<1.1を満たすことが好ましく、1.00<(C/E)<1.06を満たすことがより好ましい。上記値(C/E)が上記式(8)を満たすことによって、粒子径が小さい重合体粒子から徐々に重合体粒子を溶解媒体中に溶解させることができ、全ての重合体粒子が一斉に溶解することを抑制することが可能となる。
【0037】
本発明において、上記式(1)における値(B/A)、上記式(2)における値(C/B)、上記式(3)における値(C/A)、上記式(4)における値(D/A)、上記式(5)における値(D/B)、上記式(6)における値(E/A)、上記式(7)における値(E/D)、及び上記式(8)における値(C/E)をそれぞれ算出する際、算出された値が割り切れる場合には割り切れた値を用い、算出された値が割り切れない場合には、割り切れない値を小数点以下等を四捨五入せずに実際に算出された値を用いて、上記式(1)~(8)をそれぞれ満たしているか否かを判断する。なお、後述する実施例における表1及び2においては、便宜上、上記値(B/A)、上記値(C/B)、上記値(C/A)、上記値(D/A)、上記値(D/B)、上記値(E/A)、上記値(E/D)、及び上記値(C/E)のそれぞれを小数第4位において四捨五入した値を記載した。
【0038】
本発明において、重合体粒子のうち、重合体粒子の個数基準の粒度分布における小径側から累積個数百分率が20%を超え且つ50%以下である重合体粒子を「第一中粒子」と称する。また、重合体粒子の個数基準の粒度分布における小径側から累積個数百分率が50%を超え且つ80%以下である重合体粒子を「第二中粒子」と称する。
【0039】
第一中粒子の重量平均分子量(D)は、95×103~1,900×103が好ましく、185×103~1,450×103がより好ましい。第一中粒子の重量平均分子量(D)が上記範囲内であると、重合体粒子の粒子径ごとに溶解性に差異を設けることができ、これにより粒子径が小さい重合体粒子から徐々に重合体粒子を溶解媒体中に溶解させることが可能となる。
【0040】
第二中粒子の重量平均分子量(E)は、115×103~2,100×103が好ましく、210×103~1,550×103がより好ましい。第二中粒子の重量平均分子量(E)が上記範囲内であると、重合体粒子の粒子径ごとに溶解性に差異を設けることができ、これにより粒子径が小さい重合体粒子から徐々に重合体粒子を溶解媒体中に溶解させることが可能となる。
【0041】
重合体粒子の粒子径(D5)は、1~10μmが好ましく、1~7μmが好ましく、1~5μmがより好ましい。粒子径(D5)が1μm以上であると、小粒子の単位体積当たりの表面積が適度に大きくなり溶解媒体との接触度合いを大きくし、重合体粒子を継粉を生じさせずに溶解媒体へ溶解させ易くなる。また、粒子径(D5)が10μm以下であると、小粒子内部へ溶解媒体が浸透し易くなる。なお、重合体粒子の粒子径(D5)とは、重合体粒子の個数基準の粒度分布において小径側から累積個数百分率が5%に相当する粒子径を意味する。
【0042】
重合体粒子中における大粒子の含有量は、個数基準で、0.1%以下が好ましく、0.08%以下がより好ましく、0.05%以下がより好ましい。大粒子の含有量を0.1%以下とすることにより、大粒子によって組成物中に粘度の高い部分が発生することを低減することができる。これによって組成物の粘度をより均一に上昇させることができ、さらに、上昇させた粘度の均一な状態を安定して維持することが可能となる。なお、大粒子の含有量は、個数基準の百分率、すなわち、重合体粒子の総数に対する大粒子の個数の割合を百分率で示した値(100×大粒子の個数/重合体粒子の総数)とする。
【0043】
重合体粒子中における大粒子の含有量は、個数基準で、0.005%以上が好ましく、0.01%以上がより好ましい。大粒子の含有量を0.005%以上とすることにより、小粒子と大粒子との間における溶解性の差異を適度な範囲内にすることができる。これにより粒子径が小さい重合体粒子から徐々に重合体粒子を溶解媒体中に溶解させることができ、全ての重合体粒子が一斉に溶解することを抑制することが可能となる。
【0044】
大粒子は、重合体粒子の個数基準の粒度分布において小径側から累積個数百分率が95%以上の範囲内に含まれていることが好ましい。
【0045】
重合体粒子の個数基準の粒度分布は、汎用の測定装置を用いて測定されればよい。重合体粒子の個数基準の粒度分布は、例えば、コールターMultisizer(登録商標)3(ベックマン・コールター株式会社製測定装置)により測定する。測定は、ベックマン・コールター株式会社発行のMultisizer(登録商標)3ユーザーズマニュアルに従って校正されたアパチャーを用いて実施するものとする。
【0046】
なお、測定に用いるアパチャーは、測定する重合体粒子の大きさによって、適宜選択する。Current(アパチャー電流)及びGain(ゲイン)は、選択したアパチャーのサイズによって、適宜設定する。例えば、50μmのサイズを有するアパチャーを選択した場合、Current(アパチャー電流)は-800、Gain(ゲイン)は4と設定する。
【0047】
測定用試料としては、重合体粒子0.1gを0.1質量%ノニオン性界面活性剤水溶液10mL中にタッチミキサー(ヤマト科学株式会社製、「TOUCHMIXER MT-31」)及び超音波洗浄器(株式会社ヴェルヴォクリーア製、「ULTRASONIC CLEANER VS-150」)を用いて分散させ、分散液としたものを使用する。測定中はビーカー内を気泡が入らない程度に緩く攪拌しておき、重合体粒子を10万個測定した時点で測定を終了し、個数基準の粒度分布を得る。
【0048】
そして、得られた粒度分布に基づいて、小径側から個数基準の累積個数百分率が5%に相当する粒子径(D5)を算出する。
【0049】
また、得られた粒度分布に基づいて、小径側から個数基準の累積個数百分率が50%に相当する粒子径を「重合体粒子の個数平均粒子径」として算出する。そして、得られた粒度分布に基づいて、重合体粒子の個数基準の粒度分布における変動係数(CV)を、下記式に基づいて算出する。
変動係数(%)=(重合体粒子の個数基準の粒度分布の標準偏差
÷重合体粒子の個数平均粒子径)×100
【0050】
また、得られた粒度分布に基づいて、個数平均粒子径の5倍以上の粒子径を有する大粒子の含有量(%)を算出する。
【0051】
重合体粒子全体の重量平均分子量は、重合体粒子全体に含まれている重合体の重量平均分子量であり、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて測定することができる。ここで言う重量平均分子量はポリスチレン換算重量平均分子量を意味する。具体的には、試料として重合体粒子0.003gをテトラヒドロフラン(THF)10mLに室温で24時間以上かけて溶解した後、非水系0.45μmのクロマトディスクで濾過したものを測定液とし、予め作成しておいた標準ポリスチレンの検量線から重合体粒子全体の重量平均分子量を求める。そして、上記の要領に従って、測定液を5個作製し、各測定液についてGPC測定を行って、各測定液に含まれていた重合体粒子全体の重量平均分子量を測定する。これにより得られた5個の測定値の相加平均値を求め、相加平均値を百の位において四捨五入した値を「重合体粒子全体の重量平均分子量(A)」とする。なお、クロマトグラフの測定条件は下記の通りとする。
・装置:高速GPC装置
・商品名:東ソー社製 HLC-8320GPC EcoSEC-WorkStatio
n(RI検出器内蔵)
・分析条件
カラム:TSKgel SuperHZM-H×2本(4.6mmI.D×15cmL×2本)
ガードカラム:TSKguardcolumn SuperHZ-H×1本(4.6mmID×2cmL)
流量:試料側 0.175mL/min、リファレンス側 0.175mL/min
検出器:内蔵RI検出器
濃度:0.3g/L
注入量:50μL
カラム温度:40℃
システム温度:40℃
溶離液:THF
【0052】
(検量線の作成)
検量線用標準ポリスチレン試料としては、東ソー社製商品名「TSK standard POLYSTYRENE」の重量平均分子量が、500、2630、9100、37900、102000、355000、3840000、及び5480000である標準ポリスチレン試料と、昭和電工社製商品名「Shodex STANDARD」の重量平均分子量が1030000である標準ポリスチレン試料を用いる。
【0053】
検量線の作成方法は以下の通りである。まず、上記検量線用標準ポリスチレン試料をグループA(重量平均分子量が1030000のもの)、グループB(重量平均分子量が500、9100、102000及び3480000のもの)及びグループC(重量平均分子量が2630、37900、355000及び5480000のもの)にグループ分けする。グループAに属する重量平均分子量が1030000である標準ポリスチレン試料を5mg秤量した後にTHF20mLに溶解し、得られた溶液50μLを試料側カラムに注入する。グループBに属する重量平均分子量が500、9100、102000及び3480000である標準ポリスチレン試料をそれぞれ10mg、5mg、5mg、及び5mg秤量した後にTHF50mLに溶解し、得られた溶液50μLを試料側カラムに注入する。グループCに属する重量平均分子量が2630、37900、355000及び5480000である標準ポリスチレン試料をそれぞれ5mg、5mg、5mg、及び1mg秤量した後にTHF40mLに溶解し、得られた溶液50μLを試料側カラムに注入する。これら標準ポリスチレン試料の保持時間から較正曲線(三次式)をHLC-8320GPC専用データ解析プログラムGPCワークステーション(EcoSEC-WS)にて作成し、これをポリスチレン換算重量平均分子量測定の検量線として用いる。
【0054】
また、小粒子の重量平均分子量は、小粒子に含まれている重合体の重量平均分子量である。大粒子の重量平均分子量は、大粒子に含まれている重合体の重量平均分子量である。小粒子及び大粒子の重量平均分子量はそれぞれGPCを用いて測定された値をいう。重合体粒子を汎用の要領で分級して、重合体粒子中に含まれている小粒子又は大粒子を採取した後、上述した重合体粒子全体の重量平均分子量の測定方法と同様にして、小粒子の重量平均分子量又は大粒子の重量平均分子量を測定することができる。
【0055】
また、第一中粒子の重量平均分子量は、第一中粒子に含まれている重合体の重量平均分子量である。第二中粒子の重量平均分子量は、第二中粒子に含まれている重合体の重量平均分子量である。第一中粒子及び第二中粒子の重量平均分子量はそれぞれGPCを用いて測定された値をいう。重合体粒子を汎用の要領で分級して、重合体粒子中に含まれている第一中粒子又は第二中粒子を採取した後、上述した重合体粒子全体の重量平均分子量の測定方法と同様にして、第一中粒子の重量平均分子量又は第二中粒子の重量平均分子量を測定することができる。
【0056】
本発明の重合体粒子は、重合体を含む。重合体としては、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、及びヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース系重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、及びポリビニルベンジルエーテル共重合体などのポリビニル系重合体、アクリル系重合体、スチレン系重合体などが挙げられる。なかでも、増粘効果、耐溶剤性、耐水性及び/又は耐薬品性などに優れる重合体粒子が得られることから、アクリル系重合体及びスチレン系重合体が好ましく、アクリル系重合体がより好ましい。なお、重合体は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0057】
アクリル系重合体は、アクリル系モノマーを好ましくは50質量%以上含む原料モノマーの重合体である。アクリル系モノマーとしては、特に限定されず、例えば、アクリレート、アクリル酸、メタクリレート、メタクリル酸などが挙げられる。アクリル系モノマーは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0058】
アクリレートとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレートなどのアルキルアクリレートが挙げられる。メタクリレートとしては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレートなどのアルキルメタリレートが挙げられる。なかでも、メタクリレートが好ましく、アルキルメタリレートがより好ましく、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、及びイソブチルメタクリレートがより好ましい。
【0059】
アクリル系重合体中におけるアクリル系モノマー成分の含有量は、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、95質量%以上がより好ましい。
【0060】
また、アクリル系重合体は、上記アクリル系モノマーとこのアクリル系モノマーと共重合可能なビニル系モノマーとの共重合体であってもよい。すなわち、アクリル系重合体は、上記アクリル系モノマーとこのアクリル系モノマーと共重合可能なビニル系モノマーとを含む原料モノマーの共重合体であってもよい。このようなビニル系モノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、エチルスチレン、i-プロピルスチレン、ジメチルスチレン、ブロモスチレンなどのスチレン系モノマー、酢酸ビニル、アクリルニトリルなどのビニル基を有するモノマーなどが挙げられる。
【0061】
アクリル系重合体としては、アクリル系モノマーの重合体、及びアクリル系モノマーとスチレン系モノマーとの共重合体が好ましく、アクリル系モノマーの重合体がより好ましい。
【0062】
アクリル系重合体としては、アルキルメタリレートの重合体が好ましく、メチルメタクリレートの重合体、エチルメタクリレートの重合体、及びメチルメタクリレートとエチルメタクリレートとの共重合体が好ましい。これらのアクリル系重合体を含む重合体粒子を後述する歯科用組成物に用いることにより、歯科用組成物の硬化物の機械的強度を向上させることができる。
【0063】
重合体粒子がアクリル系重合体を含む場合、重合体粒子中におけるアクリル系重合体の含有量は、70質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がより好ましい。アクリル系重合体の含有量を70質量%以上とすることにより、増粘効果、耐溶剤性、耐水性及び/又は耐薬品性などに優れる重合体粒子が得られる。
【0064】
スチレン系重合体は、スチレン系モノマーを好ましくは50質量%超えて含む原料モノマーの重合体である。スチレン系モノマーとしては、特に限定されず、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、エチルスチレン、i-プロピルスチレン、ジメチルスチレン、ブロモスチレンなどが挙げられる。なかでも、スチレンが好ましい。スチレン系モノマーは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0065】
また、スチレン系重合体は、上記スチレン系モノマーとこのスチレン系モノマーと共重合可能なビニル系モノマーとの共重合体であってもよい。すなわち、上記スチレン系モノマーとこのスチレン系モノマーと共重合可能なビニル系モノマーとを含む原料モノマーの共重合体であってもよい。このようなビニル系モノマーとしては、例えば、アクリル系モノマー、(メタ)アクリロニトリル、ジメチルマレエート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、エチルフマレート、ジビニルベンゼン、アルキレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの二官能性モノマーが挙げられる。なお、(メタ)アクリロニトリルとは、アクリロニトリル又はメタクリロニトリルを意味する。
【0066】
スチレン系重合体中におけるスチレン系モノマー成分の含有量は、50質量%を超過することが好ましく、80質量%以上がより好ましく、95質量%以上がより好ましい。
【0067】
重合体粒子がスチレン系重合体を含む場合、重合体粒子中におけるスチレン系重合体の含有量は、70質量%以上が好ましく、85質量%以上がより好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がより好ましい。スチレン系重合体の含有量を70質量%以上とすることにより、増粘効果、耐溶剤性、耐水性及び/又は耐薬品性などに優れる重合体粒子が得られる。
【0068】
重合体粒子に含まれている重合体は、多官能性モノマーによって架橋されていてもよい。したがって、原料モノマーが多官能性モノマーを含んでいてもよい。しかしながら、重合体粒子の溶解媒体に対する溶解性が向上するので、重合体粒子に含まれている重合体は、多官能性モノマーによって僅かに架橋されていることが好ましく、多官能性モノマーによって架橋されていないことがより好ましい。
【0069】
多官能性モノマーは、重合可能な官能基(例えば、ビニル基、エポキシ基、イソシアネート基など)を複数個有するモノマーである。多官能性モノマーは、官能基として、ビニル基を複数個有することが好ましい。多官能性モノマーとしては、例えば、1,10-デカンジオールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、デカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタコンタヘクタエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレンジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレートなどのアクリル系多官能性モノマー、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン又はこれらの誘導体などの芳香族ジビニル化合物などが挙げられる。本発明において、(メタ)アクリレートは、アクリレート又はメタクリレートを意味する。多官能性モノマーは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0070】
原料モノマー中の多官能性モノマーの含有量は、原料モノマーの全量に対して、1.0質量%以下が好ましく、0.6質量%以下がより好ましく、0質量%が特に好ましい。多官能性モノマーの含有量が1.0質量%以下であると、重合体粒子の溶解媒体に対する溶解性を向上させることができ、これにより溶解媒体中に継粉を生じさせずに重合体粒子を均一に溶解することが可能となる。
【0071】
[重合体粒子の製造方法]
本発明の重合体粒子の製造方法は、個数平均粒子径、個数基準の粒度分布における変動係数、並びに、式(1)及び(2)を満たす重合体粒子を製造することができれば、特に限定されず、原料モノマーを必要に応じて重合開始剤の存在下にて汎用の要領で重合させることにより製造することができる。重合方法としては、特に制限されず、懸濁重合、シード重合、塊重合、溶液重合などの汎用の重合方法を用いることができる。なかでも、得られる重合体粒子の分子量に所定の差異を設け易いことから、懸濁重合が好ましい。乳化重合は、後述する水性媒体に原料モノマーを分散させて重合開始剤及び乳化剤の存在下にて重合させる重合方法であり、懸濁重合に含まれる。
【0072】
重合開始剤としては、原料モノマーの重合を開始できるものであれば、特に限定されない。重合開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、t-ブチルパーオキシ2-エチルヘキサノエートなどの有機過酸化物、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)などのアゾ系ニトリル化合物などが挙げられる。重合開始剤の10時間半減期温度は40~80℃が好ましい。重合開始剤は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0073】
重合開始剤の使用量は、原料モノマーの重合を円滑に開始させることができるので、原料モノマー100質量部に対して、0.01~10質量部が好ましく、0.01~7質量部がより好ましく、0.01~5質量部が特に好ましい。
【0074】
本発明の重合体粒子の製造方法は、原料モノマーを重合開始剤の存在下で水性媒体中にて懸濁重合させて、重合体粒子を製造する重合工程を含んでいることが好ましい。懸濁重合は、水性媒体(水相)中に、原料モノマーと重合開始剤とを含む原料混合物(油相)の液滴を分散させて分散液を得、この分散液中で原料モノマーを重合させることによって行われることが好ましい。原料モノマーは、ビニル基を含有するモノマーを含有していることが好ましく、アクリル系モノマー及び/又はスチレン系モノマーを含有していることがより好ましく、アクリル系モノマーを含有していることがより好ましい。原料モノマーは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0075】
得られる重合体粒子の重量平均分子量を調整するために、原料混合物が分子量調整剤を含んでいてもよい。分子量調整剤としては、n-オクチルメルカプタン、tert-ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類;α-メチルスチレン、α-メチルスチレンダイマー;γ-テルピネン、ジペンテン等のテルペン類;クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類などが挙げられる。分子量調整剤の含有量を調整することにより、重合体粒子の重量平均分子量を調整することができる。分子量調整剤は、一種単独で用いられてもよく、二種以上を併用してもよい。分子量調整剤の使用量は、原料モノマー100質量部に対して、0.01~1質量部が好ましく、0.05~1質量部がより好ましい。
【0076】
水性媒体としては、特に限定されず、例えば、水、水溶性有機媒体(メタノール、エタノールなどの低級アルコール(炭素数5以下のアルコール))、及び、水と水溶性有機媒体との混合媒体などが挙げられ、水を含むことが好ましい。水性媒体の使用量は、重合の安定化を図るために、原料モノマー100質量部に対して100~1000質量部が好ましい。
【0077】
水性媒体中に分散安定剤を含有させてもよい。分散安定剤としては、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛などのリン酸塩、ピロリン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム、ピロリン酸アルミニウム、ピロリン酸亜鉛などのピロリン酸塩、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、メタケイ酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、コロイダルシリカなどの難水溶性無機化合物、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコールなどの水溶性高分子などが挙げられる。これらの中でも、酸により分解して水に溶解するもの(例えば、炭酸カルシウム、第三リン酸カルシウム、水酸化マグネシウム、ピロリン酸マグネシウム、ピロリン酸カルシウム)を使用すると、重合工程後に、容易に分散安定剤を除去することが可能となるので好ましい。なお、分散安定剤は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0078】
分散安定剤の使用量は、重合体粒子を含む懸濁液の流動性を確保しつつ、懸濁液中における重合体粒子の分散性に優れていることから、原料モノマー100質量部に対して0.1~20質量部が好ましく、0.5~10質量部がより好ましい。
【0079】
原料モノマーと重合開始剤とを含む原料混合物(油相)の液滴を懸濁重合させて得られる重合体粒子同士が凝集を生じるため、水性媒体中に水溶性の重合安定剤を含有させることが好ましい。重合安定剤としては、特に限定されず、例えば、亜硝酸ナトリウムなどの亜硝酸塩類、亜硫酸塩類、ハイドロキノン類、アスコルビン酸類、水溶性ビタミンB類、クエン酸、ポリフェノール類などが挙げられ、亜硝酸塩類が好ましく、亜硝酸ナトリウムがより好ましい。なお、重合安定剤は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0080】
重合安定剤の使用量は、重合体粒子同士の凝集をより効果的に抑制することができることから、水性媒体100質量部に対して0.005~0.1質量部が好ましく、0.005~0.05質量部がより好ましい。
【0081】
懸濁重合時において懸濁液(反応液)をより安定化させるために、水性媒体中に界面活性剤を含有させてもよい。界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤及び両性イオン界面活性剤の何れも用いることができる。なお、界面活性剤は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0082】
アニオン性界面活性剤としては、例えば、オレイン酸ナトリウム;ヒマシ油カリなどの脂肪酸油;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウムなどのアルキル硫酸エステル塩;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸塩;アルキルナフタレンスルホン酸塩;アルカンスルホン酸塩;ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムなどのジアルキルスルホコハク酸塩;アルケニルコハク酸塩(ジカリウム塩);アルキルリン酸エステル塩;ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩;ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩などが挙げられる。
【0083】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、ラウリルアミンアセテート、ステアリルアミンアセテートなどのアルキルアミン塩;ラウリルトリメチルアンモニウムクロライドなどの第四級アンモニウム塩などが挙げられる。
【0084】
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステル、オキシエチレン-オキシプロピレンブロックポリマーなどが挙げられる。
【0085】
両性イオン界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミンオキサイド、リン酸エステル系界面活性剤、亜リン酸エステル系界面活性剤などが挙げられる。
【0086】
重合工程では、原料モノマーと重合開始剤とを含む原料混合物(油相)の液滴を分散させた分散液中で、原料モノマーの重合を行うことが好ましい。重合工程は、分散液を汎用の加熱装置を用いて加熱し、分散液を予め設定された重合基準温度にできるだけ維持して原料モノマーの重合を行なう。重合工程において、分散液の温度は、温度幅を有していてもよいが、可能な限り、略一定の温度とすることが好ましい。
【0087】
重合工程において、分散液の重合基準温度は、特に制限されないが、50~110℃が好ましく、60~100℃がより好ましい。分散液の重合基準温度が50℃以上であると、適度な速度で重合が進行し、所定の分子量を有する重合体粒子を得ることができる。このような重合体粒子を溶解媒体中に分散させて組成物を作製する時に、組成物の粘度が急激に上昇することを抑制し、組成物の粘度が不均一となることなく、組成物の増粘を安定的に行なうことができる。分散液の重合基準温度が110℃以下であると、原料モノマーの重合体が解重合によって分解するのを抑制して、分子量に所定の差異を有する重合体粒子を得ることができる。これにより、重合体粒子を溶解媒体に投入する際に溶解媒体中に継粉を生じさせずに溶解することができると共に、組成物の粘度を均一に上昇させることができる。
【0088】
重合工程において、分散液の温度をできるだけ重合基準温度に維持するために、加熱装置による分散液の加熱及びその停止を繰り返しているが、重合工程の全工程において分散液の温度を重合基準温度に維持することは難しく、分散液の温度は、例えば、sinカーブのような波形を描きながら、重合基準温度を中心として上下に変動を繰り返している。
【0089】
重合工程における分散液の温度(重合温度)は、上述の通り、重合基準温度を中心にして上下に変動している。重合温度は、後述する発熱工程を除いて、(重合基準温度-0.5℃)≦重合温度<(重合基準温度+0.5℃)に制御することが好ましく、(重合基準温度-0.3℃)≦重合温度≦(重合基準温度+0.3℃)に制御することがより好ましい。このように、重合温度を制御することによって、各重合体粒子の分子量の差異が大きくなり過ぎるのを抑制しつつ、原料モノマーの重合を安定的に進行させることができる。
【0090】
なお、重合基準温度は、分散液中の原料モノマーを重合させる温度であり、予め設定されるが、重合温度は、上述の通り、通常は、同程度の振れ幅でもって上下に変動していることから、原料モノマーの重合転化率が10%以上且つ50%未満の重合が安定した状態において、分散液の最低温度と最高温度の相加平均値が重合基準温度とみなすことができる。
【0091】
一方、原料モノマーの重合後半、即ち、重合転化率が50%以上において、原料モノマーの重合速度の増加と分散液の粘度上昇に起因した内部発熱を急激に生じる(発熱工程)。なお、本発明において、重合転化率は、下記式に基づいて算出された値をいう。
重合転化率(%)
=100×重合によって消費された原料モノマー量/原料モノマー全量
【0092】
従来の温度制御では、重合工程において、発熱工程及びこの発熱工程前において同様の温度制御を行なっていたため、発熱工程における発熱を十分に制御することができず、分散液の急激な温度上昇を招き、未反応の原料モノマーが短時間のうちに急速に反応して分散液の粘度が急激に上昇する。その結果、分散液の粘度上昇に起因して、加熱装置による分散液の加熱が不均一となり、各重合体粒子の分子量の差異が大きくなり過ぎる。その結果、重合体粒子ごとに溶解性や増粘効果にも大きな差異が生じ、その結果、重合体粒子を溶解媒体に投入する際に継粉が生じたり、重合体粒子によって増粘させた組成物の粘度が全体的に不均一となったりする問題点を生じる。
【0093】
そこで、本発明では、原料モノマーの重合終点付近において生じる発熱工程において、重合温度が、好ましくは(重合基準温度+2.0℃)以下となるように、より好ましくは(重合基準温度+1.5℃)以下となるように、より好ましくは(重合基準温度+1.0℃)以下となるように、分散液を冷却することによって制御している。この冷却効果は、小粒子の方が大粒子よりも全体の表面積の合計が大きいので冷却効果が高くなる。そのため、上記冷却による重合反応の抑制効果は、大粒子よりも小粒子において大きく、小粒子に含まれている重合体の分子量を大粒子に含まれている重合体の分子量よりも小さくし、重合体の分子量に適度な差異を形成することができる。即ち、重合温度を(重合基準温度+2.0℃)以下に制御することによって、粒子径の違いによって冷却効果に差異が生じすぎるのを抑制し、各重合体粒子の分子量に適度な差異を設けることができる。
【0094】
また、発熱工程において、重合温度が(重合基準温度+0.5℃)以上となるように、分散液の冷却を制御することが好ましい。重合温度を(重合基準温度+0.5℃)以上とすることによって、粒子径の違いによって粒子内における重合速度に適度な差異を生じさせて、各重合体粒子の分子量に適度な差異を設けることができる。
【0095】
なお、発熱工程は、重合後半で生じるため、重合反応が安定して行なわれている重合転化率が10%以上且つ50%未満の範囲における分散液の最高温度を超えた時点で発熱工程が生じたと判断することができ、発熱工程における温度制御を開始すればよい。
【0096】
そして、発熱工程における発熱が終了した後は、発熱工程前と同様の温度制御を行ない、原料モノマーの重合反応を十分に行なうことが好ましく、これにより、分子量に所定の差異が設けられた重合体粒子を得ることができる。
【0097】
発熱工程における発熱が終了したとの判断は、上述の通り、発熱工程の開始の判断と同様にして行なうことができる。具体的には、重合反応が安定して行なわれている重合転化率が10%以上且つ50%未満の範囲における分散液の最高温度を下回った時点で発熱工程が終了した判断すればよい。
【0098】
発熱工程開始後の重合工程の継続時間は、60分以上が好ましく、120分以上がより好ましく、180分以上がより好ましい。発熱工程後の重合工程の継続時間は、360分以下が好ましく、300分以下がより好ましく、240分以下がより好ましい。発熱工程後の重合工程の継続時間が60分以上であると、原料モノマーの重合反応を概ね終了させることによって重合発熱を除去し、分子量に所定の差異が設けられた重合体粒子を得ることができる。
【0099】
本発明の重合体粒子の製造方法は、重合工程後に、得られた重合体粒子を分級する工程を含んでいることが好ましい。この分級工程において、重合工程後の重合体粒子のうち粒子径が小さい微小粒子及び粒子径が大きい粗大粒子を除去し、これにより重合体粒子の個数平均粒子径及び変動係数が所定の範囲となるように調整することができる。
【0100】
粗大粒子を分級により除去する程度は、特に制限されないが、分級後の重合体粒子中における個数平均粒子径の5倍以上の粒子径を有する大粒子の含有量が個数基準で、0.1%以下、好ましくは0.08%以下、より好ましくは0.05%以下となるまで、分級前の重合体粒子から分級によって粗大粒子の少なくとも一部を除去することが好ましい。
【0101】
微小粒子を分級により除去する程度は、特に制限されないが、分級後の重合体粒子における個数基準の粒度分布において小径側から累積個数百分率が5%に相当する粒子径(D5)が、分級前の重合体粒子における個数基準の粒度分布において小径側から累積個数百分率が5%に相当する粒子径(D5’)の1.03倍以上、好ましくは1.03~1.5倍、より好ましくは1.05~1.5倍となるまで、分級前の重合体粒子から分級によって微小粒子の少なくとも一部を除去することが好ましい。
【0102】
重合体粒子の分級方法としては、分級によって微小粒子及び粗大粒子を除去することができれば、特に限定されず、例えば、気流分級(風力分級)、スクリーン分級(篩分級)などが挙げられる。なかでも、微小粒子及び粗大粒子による目詰まりを生じさせることなく分級を精度良く行うことができるので、気流分級が好ましい。気流分級とは、空気の流れを利用して粒子を分級する方法をいう。スクリーン分級とは、スクリーン上に粒子を供給し、スクリーンを振動させることによって、スクリーン上の粒子を、スクリーンの網目を通過する粒子と通過しない粒子とに分級する方法をいう。
【0103】
上記気流分級としては、(1)重合体粒子を空気の流れにのせて、重合体粒子をスクリーンに衝突させ、スクリーンの網目を通過する重合体粒子と通過しない重合体粒子とに分級する方法、(2)重合体粒子を旋回気流の流れにのせて、旋回気流により重合体粒子に与えられる遠心力と、気流の旋回中心に向かう気流の流れとの相互作用によって大小二つの粒子径のグループに分級する方法、(3)コアンダ効果を利用した分級方法が挙げられる。
【0104】
上記(1)の気流分級を行う気流分級機としては、例えば、ユーグロップ株式会社から商品名「ブロワシフター」、東洋ハイテック株式会社から商品名「ハイボルター」、槇野産業株式会社から商品名「ミクロシフター」にて市販されている気流分級機が挙げられる。上記(2)の気流分級を行う気流分級機としては、日清エンジニアリング株式会社から商品名「ターボクラシファイア(登録商標)」、株式会社セイシン企業から商品名「スペディック・クラシファイアー」にて市販されている気流分級機が挙げられる。上記(3)の気流分級を行う気流分級機としては、株式会社マツボーから市販されているコアンダ型気流分級機(エルボージェット分級機)が挙げられる。上記3つの分級方法は、分級する重合体粒子の性状や、粗大粒子及び微小粒子を除去する程度によって使い分けることができる。粗大粒子を精度良く除去するためには、(1)の気流分級機を用いることが好ましい。また、微小粒子を精度良く除去するためには、(2)の気流分級機を用いることが好ましい。
【0105】
本発明の重合体粒子は、優れた増粘効果を有するだけでなく、溶解媒体中に継粉を生じさせずに均一に溶解することができると共に、組成物の粘度を均一に上昇させることが可能となる。さらに、本発明の重合体粒子によれば、組成物の粘度を均一に上昇させた後、この上昇させた粘度の均一な状態を安定して維持することも可能となる。したがって、本発明の重合体粒子は、優れた増粘効果を有していることから、化粧品、医薬品、接着剤、及び塗料などの増粘剤として好適に用いられる。
【0106】
[組成物]
本発明の組成物は、溶解媒体中に上述した重合体粒子を溶解させることにより得られる。溶解媒体中に重合体粒子を溶解させることにより、得られる組成物の粘度を上昇させることができる。この組成物は、溶解媒体中に重合体粒子を溶解させた重合体を含んでいる。すなわち、この組成物は、溶解媒体と、重合体粒子の溶解物とを含んでいる。
【0107】
溶解媒体は、組成物に含まれている成分のうち少なくとも重合体粒子を溶解させることができるものであれば、特に制限されない。溶解媒体としては、例えば、溶媒、及び電離放射線の照射によって重合するモノマーが挙げられる。溶解媒体は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0108】
溶媒としては、特に限定されず、例えば、水、及び有機溶媒などが挙げられる。有機溶媒としては、特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、tert-ブタノール、2-エチルヘキシルアルコールなどの1価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコールなどの多価アルコール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルなどの多価アルコールのモノエーテル、テトラヒドロフランなどの環状エーテル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソドデカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、流動パラフィンなどの脂肪族又は芳香族の炭化水素、四塩化炭素、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素、ヒマワリ油、オリーブ油、大豆油、コーン油、ヒマシ油、牛脂、ホホバ油、スクワランなどの動植物油、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサンなどのシリコーン、酢酸ブチル、オレイン酸オクチルドデシル、オクタン酸セチル、エチルヘキサン酸セチル、グリセリルトリイソオクタネート、ネオペンチルグリコールジイソオクタネート、トリカプリリンなどのエステルなどが挙げられる。溶媒は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0109】
電離放射線の照射によって重合するモノマーおいて、電離放射線としては、例えば、X線、γ線、紫外線、可視光線、及び電子線などが挙げられる。電離放射線の照射によって重合するモノマーとしては、アクリル系単官能性モノマー、アクリル系多官能性モノマー、スチレン系単官能性モノマーなどが挙げられる。なかでも、アクリル系単官能性モノマー、及びアクリル系多官能性モノマーが好ましく、アクリル系単官能性モノマーがより好ましい。アクリル系単官能性モノマーとしては、特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、(メタ)アクリレートなどが挙げられる。電離放射線の照射によって重合するモノマーは、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0110】
電離放射線の照射によって重合するモノマーにおける(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-(N,N-ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、2,3-ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10-ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、エリトリトールモノ(メタ)アクリレート、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-(ジヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルピリジニウムクロライド、及び(メタ)アクリロイルオキシデシルアンモニウムクロライドなどが挙げられる。なかでも、アルキル(メタ)アクリレートが好ましく、アルキルメタリレートがより好ましく、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、及びイソブチルメタクリレートがより好ましい。なお、(メタ)アクリルアミドとは、アクリルアミド又はメタクリルアミドを意味する。
【0111】
電離放射線の照射によって重合するモノマーにおけるアクリル系多官能性モノマーとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の脂肪族アクリル系多官能性モノマー;2,2-ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシフェニル)]プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン等の芳香族アクリル系多官能性モノマー;11-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ウンデカンジカルボン酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸及びその無水物、2-メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、ビス(2-メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェート、10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート等の酸性基を含有するアクリル系多官能性モノマー;N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート等の塩基性基を含有するアクリル系多官能性モノマー等が挙げられる。なお、(メタ)アクリロイルオキシとは、アクリロイルオキシ又はメタクリロイルオキシを意味する。
【0112】
本発明の組成物は、溶解媒体中に重合体粒子を溶解させることにより得られる。溶解媒体の溶解度パラメーターと、重合体粒子に含まれている重合体の溶解度パラメーターとの差は小さいが好ましい。これにより、溶解媒体に対して重合体粒子が馴染み易くなり、溶解媒体中に継粉を発生させずに重合体粒子を均一に溶解させ易くなる。さらに、重合体粒子により、組成物の粘度を均一に上昇させた後、この上昇させた粘度の均一な状態をより安定して維持することも可能となる。
【0113】
重合体粒子がアクリル系重合体及び/又はスチレン系重合体を含んでいる場合、組成物に含まれる溶解媒体としては、トルエン、nヘプタン、メチルメタクリレート、酢酸ブチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、アセトン、シクロヘキサンが好ましく挙げられ、トルエン、シクロヘキサン、メチルメタクリレートがより好ましく挙げられる。これらの溶解媒体の溶解度パラメーターは、アクリル系重合体及び/又はスチレン系重合体の溶解度パラメーターに対する差が小さい。
【0114】
組成物における重合体粒子の配合量は、溶解媒体100質量部に対して、0.1~100質量部が好ましく、1~50質量部がより好ましい。組成物中における重合体粒子の溶解物の含有量は、溶解媒体100質量部に対して、0.1~100質量部が好ましく、1~50質量部がより好ましい。
【0115】
組成物は、合成樹脂、又は、電離放射線の照射によって重合するオリゴマーを含んでいることが好ましい。組成物が合成樹脂を含んでいることにより、組成物を塗膜などの所望形状に形成することができる。合成樹脂としては、電離放射線硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、又は、熱硬化性樹脂の何れであってもよい。合成樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂などが挙げられる。なかでも、透明性に優れていることから、アクリル系樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル系樹脂、及びポリスチレン系樹脂が好ましい。なお、熱可塑性樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0116】
上記熱硬化性樹脂としては、アクリルポリオールとイソシアネートプレ重合体とからなる熱硬化型ウレタン樹脂、フェノール樹脂、尿素メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂などが挙げられる。
【0117】
上記電離放射線硬化性樹脂とは、電離放射線の照射により硬化する樹脂を意味する。電離放射線としては、例えば、X線、γ線、紫外線、可視光線、及び電子線などが挙げられる。電離放射線硬化性樹脂としては、多官能(メタ)アクリレート樹脂;ジイソシアネート、多価アルコール、及びヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルなどから合成されるような多官能ウレタンアクリレート樹脂などが挙げられる。電離放射線硬化性樹脂としては、多官能(メタ)アクリレート樹脂が好ましく、1分子中に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多価アルコール多官能(メタ)アクリレートから合成された多官能(メタ)アクリレート樹脂がより好ましい。1分子中に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多価アルコール多官能(メタ)アクリレートとしては、具体的には、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、1,2,4-シクロヘキサンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタグリセロールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールトリアクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサアクリレートなどが挙げられる。電離放射線硬化性樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸又はメタクリル酸を意味する。(メタ)アクリロイルとは、アクリロイル又はメタクリロイルを意味する。
【0118】
上記電離放射線硬化性樹脂としては、上記以外にも、アクリレート系の官能基を有するポリエーテル樹脂、アクリレート系の官能基を有するポリエステル樹脂、アクリレート系の官能基を有するエポキシ樹脂、アクリレート系の官能基を有するアルキッド樹脂、アクリレート系の官能基を有するスピロアセタール樹脂、アクリレート系の官能基を有するポリブタジエン樹脂、アクリレート系の官能基を有するポリチオールポリエン樹脂などが挙げられる。
【0119】
上記電離放射線硬化性樹脂を紫外線の照射により硬化させる場合には、組成物は光重合開始剤を含んでいることが好ましい。光重合開始剤を用いることにより、紫外線照射によって電離放射線硬化性樹脂を硬化させることができる。また、組成物が、電離放射線の照射によって重合するモノマー又は電離放射線の照射によって重合するオリゴマーを含んでいる場合には、組成物が光重合開始剤を含んでいることが好ましい。光重合開始剤を用いることにより、電離放射線の照射によって重合するモノマーや電離放射線の照射によって重合するオリゴマーを紫外線照射によって重合させて、組成物を硬化させることができる。
【0120】
光重合開始剤は、特に限定されない。光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン類、ベンゾイン類、ベンゾフェノン類、ホスフィンオキシド類、ケタール類、α-ヒドロキシアルキルフェノン類、α-アミノアルキルフェノン、アントラキノン類、チオキサントン類、アゾ化合物、過酸化物類(特開2001-139663号公報等に記載)、2,3-ジアルキルジオン化合物類、ジスルフィド化合物類、フルオロアミン化合物類、芳香族スルホニウム類、オニウム塩類、ボレート塩、活性ハロゲン化合物、α-アシルオキシムエステルなどが挙げられる。
【0121】
上記アセトフェノン類としては、例えば、アセトフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、p-ジメチルアセトフェノン、1-ヒドロキシジメチルフェニルケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-4-メチルチオ-2-モルフォリノプロピオフェノン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノンなどが挙げられる。ベンゾイン類としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインベンゾエート、ベンゾインベンゼンスルホン酸エステル、ベンゾイントルエンスルホン酸エステル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどが挙げられる。ベンゾフェノン類としては、例えば、ベンゾフェノン、2,4-ジクロロベンゾフェノン、4,4-ジクロロベンゾフェノン、p-クロロベンゾフェノンなどが挙げられる。ホスフィンオキシド類としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドなどが挙げられる。ケタール類としては、例えば、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オンなどのベンジルメチルケタール類などが挙げられる。α-ヒドロキシアルキルフェノン類としては、例えば、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどが挙げられる。α-アミノアルキルフェノン類としては、例えば、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-(4-モルホリニル)-1-プロパノンなどが挙げられる。
【0122】
市販の光重合開始剤としては、BASFジャパン株式会社製の商品名「イルガキュア(登録商標)651」(2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン)、BASFジャパン株式会社製の商品名「イルガキュア(登録商標)184」、BASFジャパン株式会社製の商品名「イルガキュア(登録商標)907」(2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン)などが好ましい例として挙げられる。
【0123】
上記光重合開始剤の使用量は、電離放射線硬化性樹脂のモノマー及びオリゴマーの総量100質量部に対し0.5~20質量部が好ましく、1~10質量部がより好ましく、1~8質量部が特に好ましい。
【0124】
本発明の組成物は、顔料を含んでいてもよい。顔料としては、酸化チタン、炭酸カルシウム、アルミニウム、銅、雲母、酸化鉄、及びカーボンブラックなどの無機顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ジオキサジンバイオレット、トルイジンレッド、ペリレン、キナクリドン、及びベンジジンイエローなどの有機顔料が挙げられる。顔料は、単独で用いられても2種以上を併用してもよい。
【0125】
本発明の組成物は、充填材を含んでいてもよい。充填剤としては、無機充填材が挙げられる。無機充填材としては、例えば、非晶質シリカ、石英、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化バリウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、及び酸化イッテルビウムなどの金属酸化物;シリカ-ジルコニア、シリカ-チタニア、シリカ-チタニア-酸化バリウム、及びシリカ-チタニア-ジルコニアなどのシリカ系複合酸化物;ホウ珪酸ガラス、アルミノシリケートガラス、及びフルオロアルミノシリケートガラスなどのガラス類;フッ化バリウム、フッ化ストロンチウム、フッ化イットリウム、フッ化ランタン、及びフッ化イッテルビウムなどの金属フッ化物;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、及び炭酸バリウムなどの無機炭酸塩;硫酸マグネシウム、及び硫酸バリウムなどの金属硫酸塩などが挙げられる。充填材は、単独で用いられても2種以上を併用してもよい。
【0126】
無機充填材は、シランカップリング剤による表面処理が施されていてもよい。シランカップリング剤としては、例えば、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0127】
本発明の組成物は、粘度調整剤、消泡剤、耐光安定剤、耐候安定剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、レベリング剤、顔料分散剤、pH調整剤、重合禁止剤、抗菌剤、X線造影剤、蛍光剤などの他の添加剤を含んでいてもよい。これらの他の添加剤は、一種単独で用いられてもよく、二種以上を併用してもよい。
【0128】
本発明の組成物は、塗料組成物として用いられることが好ましい。本発明では、上述した重合体粒子を増粘剤として用いることによって、組成物の粘度を所望の範囲に容易に調整することができると共に、組成及び粘度が均一な組成物を得ることができる。したがって、本発明の組成物は塗工性に優れ、均一な厚みを有する塗膜を形成することができる。
【0129】
さらに、本発明の重合体粒子は、溶解媒体中に継粉を生じさせずに均一に溶解することができると共に、組成物の粘度を均一に上昇させることができる。組成物中の粘度が不均一であると、このような組成物を塗工した際に、得られる塗膜中に白化した部分が生じて、これが外観不良を招く。しかしながら、このような外観不良の発生を本発明の重合体粒子は低減することができる。
【0130】
したがって、本発明の組成物によれば、厚みや組成が均一であり、外観不良の発生が低減された塗膜を形成することができる。
【0131】
本発明の塗装体は、基材と、上記基材の一面に積層一体化された塗膜とを有する。この塗膜として、上述した組成物の塗膜を用いることができる。基材の材質としては、セメント、タイル、金属、合成樹脂、及びガラスなどが挙げられる。基材に用いられる合成樹脂としては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、トリアセチルセルロース樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、シクロオレフィン系樹脂などが挙げられる。
【0132】
塗膜は、組成物を、基材などの任意の塗工面に塗工して塗工膜を作製し、この塗工膜を乾燥させた後、必要に応じて塗工膜を硬化させることによって形成することができる。なお、塗工面に組成物を塗工する方法としては、リバースロールコート法、グラビアコート法、ダイコート法、コンマコート法、スプレーコート法などの公知の方法を用いることができる。
【0133】
また、本発明の組成物は、歯科用組成物として用いられることが好ましい。本発明の組成物が歯科用組成物として用いられる場合、歯科用組成物は、電離放射線の照射によって重合するモノマーを含む溶解媒体と、重合体粒子の溶解物とを含んでいることが好ましい。歯科用組成物は、光重合開始剤をさらに含んでいることが好ましい。
【0134】
なお、上述した本発明の組成物の用途を、好適な一実施形態として歯科用途に限定したものが歯科用組成物である。したがって、歯科用組成物に含まれる成分(溶解媒体、重合体粒子の溶解物、光重合開始剤など)については、本発明の組成物において上述したものと同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0135】
歯科用組成物は、歯の欠損部や虫歯を治療するためのコンポジットレジンとして好適に用いられる。歯科治療において歯の欠損部や虫歯を治療する際に、歯の一部分を削ることで歯に窩洞が形成される。この窩洞に歯科用組成物を充填した後に硬化させることで、歯を歯科治療前の元の形状に修復することができる。
【0136】
本発明では、上述した重合体粒子を増粘剤として用いることによって、歯科用組成物の粘度を所望の範囲に調整することができ、これにより好ましくはペースト状の歯科用組成物を得ることができる。重合体粒子は、上述した通り、溶解媒体中に継粉を生じさせずに均一に溶解することができると共に、歯科用組成物の粘度を均一に上昇させることができる。さらに、重合体粒子によれば、歯科用組成物の粘度を均一に上昇させた後、この上昇させた粘度の均一な状態を安定して維持することも可能となる。このような歯科用組成物は、充填性及び伸び流動性に優れていると共に、べとつきや糸引きの発生も低減されている。
【0137】
本発明の歯科用組成物は充填性が優れており、これにより歯に形成された窩洞内に気泡の形成を低減しつつ歯科用組成物を充填することが可能となる。窩洞内部表面は一般的に微細な凹凸を有しており、歯の窩洞内に歯科用組成物を充填する際に、窩洞内部表面の微細な凹凸の凹部内にも歯科用組成物が十分に流動する必要がある。しかしながら、歯科用組成物が継粉を含んでいたり、歯科用組成物の粘度が不均一である場合、このような歯科用組成物は窩洞内部表面の微細な凹凸の凹部内に十分に流動することができず、歯の窩洞内部表面と充填された歯科用組成物との間に気泡が形成されることがある。このような気泡は、歯の窩洞内部表面と充填された歯科用組成物との密着強度を低下させて、硬化後の歯科用組成物が歯から脱落する要因となり得る。しかしながら、本発明の歯科用組成物は優れた充填性を有しており、この歯科用組成物を歯の窩洞内に充填する際に、歯の窩洞内部表面における凹部内にも十分に流動して気泡の形成を低減することができる。
【0138】
また、歯科用組成物は伸び流動性が優れており、均一に伸びて流動することができる。歯科用組成物が継粉を含んでいる場合、歯科用組成物の流動を継粉が部分的に阻害するため、歯科用組成物の伸び流動性が不均一となり、歯の窩洞内に歯科用組成物を均一に充填することが困難となることがある。また、歯科用組成物の粘度が不均一である場合、歯科用組成物の伸び流動性も不均一となり、歯の窩洞内に歯科用組成物を均一に充填することが困難となることがある。しかしながら、本発明の歯科用組成物は、伸び流動性に優れており、均一に伸びて流動することができることから、このような歯科用組成物は歯の窩洞内に容易に且つ均一に充填することが可能となる。
【0139】
さらに、歯科用組成物は、べとつきや糸引きの発生も低減されおり、操作性に優れている。歯科用組成物が継粉を含んでいる場合、歯科用組成物にべとつきが発生することがある。また、歯科用組成物の粘度が不均一である場合、歯科用組成物に糸引きと呼ばれる現象を生じることがある。歯科治療において、歯科用組成物を充填する前に歯科用組成物をヘラや探針などの歯科用器具ですくい取ったり、歯科用組成物の充填後に過剰に充填された歯科用組成物を歯科用器具で除去するなどの操作が行われる。歯科用組成物にべとつきや糸引きが発生した場合、歯科治療における上記操作を行うことが困難となる。しかしながら、本発明の歯科用組成物は、べとつきや糸引の発生も低減されており、歯科治療における上記操作を容易に行うことができる。
【0140】
さらに、本発明の歯科用組成物は、継粉の形成が低減されていると共に、均一に上昇された粘度を有している。したがって、このような歯科用組成物は、硬化後に、均一であり且つ高い機械的強度を有する硬化物を形成することができる。これにより、歯科用組成物の硬化物に応力が負荷された場合であっても、上記硬化物に欠けや割れなどの損傷が発生することを低減することができる。
【0141】
歯科用組成物は、溶解媒体を含んでいる。溶解媒体は、電離放射線の照射によって重合するモノマーを含むことが好ましい。溶解媒体が電離放射線の照射によって重合するモノマーを含んでいることにより、歯科用組成物に電離放射線を照射することで、電離放射線の照射によって重合するモノマーを重合させて、歯科用組成物を硬化させることができる。また、溶解媒体は、溶媒を含んでいてもよい。歯科用組成物に含まれる電離放射線の照射によって重合するモノマー及び溶媒については、本発明の組成物においてそれぞれ上述した通りであるため、詳細な説明を省略する。
【0142】
歯科用組成物中における重合体粒子の溶解物の含有量は、溶解媒体100質量部に対して、10~100質量部が好ましく、30~100質量部がより好ましい。すなわち、歯科用組成物は、溶解媒体100質量部中に、重合体粒子を、好ましくは10~100質量部、より好ましくは30~100質量部溶解させた溶解物を含んでいることが好ましい。重合体粒子の溶解物の含有量を上記範囲とすることによって、好ましくはペースト状の歯科用組成物が得られる。これにより、充填性、伸び流動性、及び操作性に優れる歯科用組成物が得られる。
【0143】
歯科用組成物は光重合開始剤を含んでいることが好ましい。歯科用組成物における光重合開始剤の含有量は、電離放射線の照射によって重合するモノマー100質量部に対して、0.1~20質量部が好ましく、0.5~10質量部がより好ましく、0.5~8質量部が特に好ましい。歯科用組成物に含まれる光重合開始剤については、本発明の組成物において上述した通りであるため、詳細な説明を省略する。
【0144】
歯科用組成物は、合成樹脂、電離放射線の照射によって重合するオリゴマー、顔料、充填材、粘度調整剤、消泡剤、耐光安定剤、耐候安定剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、レベリング剤、顔料分散剤、pH調整剤、重合禁止剤、抗菌剤、X線造影剤、又は蛍光剤などをさらに含んでいてもよい。これらについては、本発明の組成物においてそれぞれ上述した通りであるため、詳細な説明を省略する。
【0145】
歯科用組成物の製造方法としては、特に制限されないが、例えば、電離放射線の照射によって重合するモノマーを含む溶解媒体、及び重合体粒子、並びに、必要に応じて光重合開始剤を混合して、溶解媒体中に重合体粒子を溶解させることにより、歯科用組成物を得る方法が挙げられる。
【0146】
歯科用組成物は、上述した通り、均一であり且つ高い機械的強度を有している硬化物を形成することができる。歯科用組成物の硬化物の形成方法としては、特に制限されないが、例えば、歯科用組成物に電離放射線を照射して歯科用組成物の硬化物を得る方法が挙げられる。
【0147】
また、歯科用組成物をコンポジットレジンとして使用する場合、歯科用組成物の硬化物の形成方法としては、特に制限されないが、例えば、歯科用組成物を歯の窩洞に充填した後、歯科用組成物に電離放射線を照射して歯科用組成物の硬化物を得る方法が挙げられる。
【0148】
歯科用組成物に照射する電離放射線としては、X線、γ線、紫外線、可視光線、及び電子線などが挙げられるが、紫外線、及び可視光線が好ましく、紫外線が好ましい。電離放射線は、単独で用いられても二種以上を併用してもよい。
【0149】
本発明の歯科用組成物の用途としては、上述したコンポジットレジンが好適に挙げられる。しかしながら、本発明の歯科用組成物は他の用途に用いることもできる。他の用途としては、歯列矯正用接着材、窩洞塗布用接着材及び裂溝封鎖材等の歯科用接着材、義歯床用材料、義歯床用粘膜調整材、フィッシャーシーラント、歯面や歯科用補綴物へのコーティング材、歯科用マニキュア等の歯科材料などが挙げられる。また、本発明の歯科用組成物の硬化物を成型加工して、人工歯、義歯、CAD/CAM用レジンブロック等としても用いることができる。
【発明の効果】
【0150】
本発明の重合体粒子は、溶解媒体中に継粉を生じさせずに溶解することができると共に、組成物の粘度を均一に上昇させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0151】
【発明を実施するための形態】
【0152】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本実施例に何ら限定されるものでない。
【実施例】
【0153】
(実施例1)
原料モノマーとしてメタクリル酸メチル(MMA)100質量部、及び重合開始剤としての過酸化ベンゾイル0.4質量部を含む原料混合物を用意した。一方、水性媒体としての脱イオン水200質量部に、酸可溶性の難水溶性無機化合物からなる分散安定剤としての複分解ピロリン酸マグネシウム(複分解生成法により得られたピロリン酸マグネシウム)5質量部、水系重合安定剤として亜硝酸ナトリウム0.02質量部、及び界面活性剤としてのラウリル硫酸ナトリウム0.10質量部を加えて混合して水性媒体混合物を作製した。
【0154】
高速乳化分散機ホモミクサー(プライミクス株式会社製、商品名「MARKII2.5型」)に、原料混合物及び水性媒体混合物を供給し、水性媒体(水相)中の原料混合物(油相)の液滴径が3~5μmとなるように調整しながら、水性媒体を攪拌混合し、水性媒体中に原料混合物が液滴状に分散してなる分散液を得た。
【0155】
撹拌機と、加熱装置を含む温度制御装置とを備えた重合反応器(オートクレーブ)に分散液を供給し、撹拌機で攪拌しながら分散液を加熱装置を用いて重合基準温度である70℃に加熱して原料モノマーを懸濁重合させた(重合工程)。重合工程において、分散液の温度は、温度制御装置による温度制御によって70℃を中心として周期的に上下に変動していた。重合工程において、原料モノマーの重合転化率が10%以上且つ50%未満の時の分散液の温度は、最低温度が69.7℃、最高温度が70.3℃であった。
【0156】
原料モノマーの重合転化率が98%以上となった重合終点付近において、分散液の温度が70.3℃を上回り、発熱工程を生じたため、温度制御装置によって分散液の温度が71℃以下となるように制御した。分散液の温度が70.3℃を下回った時点で発熱工程が終了したと判断した。発熱工程が終了してからも懸濁重合を継続して行った。発熱工程終了後の重合工程においても、分散液の温度は、最低温度が69.7℃、最高温度が70.3℃であった。発熱工程が開始されてから3時間に亘って懸濁重合を行なって、重合体粒子としてのポリメタクリル酸メチル粒子が水中に分散した懸濁液を得た。
【0157】
得られた懸濁液を室温まで冷却した後、懸濁液に塩酸を加えて分散安定剤(複分解ピロリン酸マグネシウム)を分解した。その後、加圧式分離機によって重合体粒子を水性媒体から分離し、得られた重合体粒子をイオン交換水を用いて洗浄した。洗浄した重合体粒子を真空乾燥機に入れ、加熱乾燥させた。
【0158】
次に、乾燥後の重合体粒子を気流分級した。具体的には、重合体粒子を分級ローター型気流分級機(商品名「ターボクラシファイア(登録商標)TC-25」、日清エンジニアリング株式会社製)に供給し、分級ローターとして微粉ローターを使用して分級を行って、個数基準の粒度分布における変動係数が30%未満とはならないように粒径が小さい微小粒子を除去した(微小粒子除去工程)。続いて、重合体粒子を、ブロースルー式高性能ふるい機(東洋ハイテック株式会社製 商品名「ハイボルター」)に供給して分級を行って、個数基準の粒度分布における変動係数が30%未満とはならないように粒径が大きい粗大粒子を除去した(粗大粒子除去工程)。これにより分級後の重合体粒子を得た。
【0159】
(実施例2)
界面活性剤としてのラウリル硫酸ナトリウムの配合量を0.05質量部としたこと、水性媒体(水相)中の原料混合物(油相)の液滴径が3μmを超え且つ5μm以下となるように調整しながら水性媒体を攪拌混合したこと以外は実施例1と同様にして、分級後の重合体粒子を得た。
【0160】
(実施例3)
界面活性剤としてのラウリル硫酸ナトリウムの配合量を0.05質量部としたこと、水性媒体(水相)中の原料混合物(油相)の液滴径が7μmを超え且つ9μm以下となるように調整しながら水性媒体を攪拌混合したこと以外は実施例1と同様にして、分級後の重合体粒子を得た。
【0161】
(実施例4)
原料モノマーとして、メタクリル酸メチルに代えてメタクリル酸エチル(EMA)を用いたこと、界面活性剤としてのラウリル硫酸ナトリウムの配合量を0.05質量部としたこと、水性媒体(水相)中の原料混合物(油相)の液滴径が3μmを超え且つ5μm以下となるように調整しながら水性媒体を攪拌混合したこと以外は実施例1と同様にして、分級後の重合体粒子を得た。
【0162】
(実施例5)
原料モノマーとして、メタクリル酸メチルに代えてメタクリル酸エチルを用いたこと、界面活性剤としてのラウリル硫酸ナトリウムの配合量を0.05質量部としたこと、水性媒体(水相)中の原料混合物(油相)の液滴径が17~20μmとなるように調整しながら水性媒体を攪拌混合したこと以外は実施例1と同様にして、分級後の重合体粒子を得た。
【0163】
(実施例6)
原料モノマーとしてメタクリル酸イソブチル(IBMA)100質量部、分子量調整剤としてα-メチルスチレンダイマー0.05質量部、及び重合開始剤として過酸化ベンゾイル0.4質量部を含む原料混合物を用意したこと、界面活性剤としてのラウリル硫酸ナトリウムの配合量を0.02質量部としたこと、水性媒体(水相)中の原料混合物(油相)の液滴径が45~50μmとなるように調整しながら水性媒体を攪拌混合したこと以外は実施例1と同様にして、分級後の重合体粒子を得た。
【0164】
(実施例7)
原料モノマーとしてメタクリル酸メチル50質量部及びメタクリル酸エチル50質量部、分子量調整剤としてα-メチルスチレン0.6質量部、及び重合開始剤として過酸化ベンゾイル0.4質量部を含む原料混合物を用意したこと、界面活性剤としてのラウリル硫酸ナトリウムの配合量を0.02質量部としたこと、水性媒体(水相)中の原料混合物(油相)の液滴径が30~35μmとなるように調整しながら水性媒体を攪拌混合したこと以外は実施例1と同様にして、分級後の重合体粒子を得た。
【0165】
(実施例8)
原料モノマーとしてメタクリル酸メチル50質量部及びメタクリル酸エチル50質量部、分子量調整剤としてα-メチルスチレン0.6質量部、及び重合開始剤として過酸化ベンゾイル0.4質量部を含む原料混合物を用意したこと、界面活性剤としてのラウリル硫酸ナトリウムの配合量を0.02質量部としたこと、水性媒体(水相)中の原料混合物(油相)の液滴径が45~50μmとなるように調整しながら水性媒体を攪拌混合したこと以外は実施例1と同様にして、分級後の重合体粒子を得た。
【0166】
(実施例9)
原料モノマーとして、メタクリル酸メチルに代えてスチレン(St)を用いたこと、界面活性剤としてのラウリル硫酸ナトリウムの配合量を0.05質量部としたこと、水性媒体(水相)中の原料混合物(油相)の液滴径が17~20μmとなるように調整しながら水性媒体を攪拌混合したこと以外は実施例1と同様にして、分級後の重合体粒子を得た。
【0167】
(比較例1)
粗大粒子除去工程、及び微小粒子除去工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、重合体粒子を得た。
【0168】
(比較例2)
微小粒子除去工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、分級後の重合体粒子を得た。
【0169】
(比較例3)
粗大粒子除去工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、分級後の重合体粒子を得た。
【0170】
(比較例4)
粗大粒子除去工程及び微小粒子除去工程において、個数基準の粒度分布における変動係数が30%以下となるように粗大粒子及び微小粒子を除去したこと以外は、実施例2と同様にして、分級後の重合体粒子を得た。
【0171】
(比較例5)
〔種粒子の製造〕
攪拌機、温度計及び還流コンデンサーを備えたセパラブルフラスコに、水性媒体としての脱イオン水900質量部と、メタクリル酸エチル160質量部と、分子量調整剤としてのn-オクチルメルカプタン3.2質量部とを供給し、セパラブルフラスコの内容物を攪拌しながらセパラブルフラスコの内部を窒素置換し、セパラブルフラスコの内温を65℃に昇温した。さらに、セパラブルフラスコの内温を65℃に保ちながら、重合開始剤としての過硫酸カリウム1.0質量部を水100質量部に溶解させた水溶液を、セパラブルフラスコ内の内容物に添加した後、12時間重合反応させた。重合後の反応液を400メッシュ(目開き32μm)の金網で濾過し、固形分としてポリメタクリル酸エチルからなる種粒子を14質量%含有する原料スラリーを作製した。この原料スラリーに含まれる種粒子は、体積平均粒子径が0.76μmの真球状粒子であった。
【0172】
〔重合体粒子の製造〕
メタクリル酸メチル(MMA)1000質量部に、重合開始剤として2,2’-アゾイソブチロニトリル4質量部及び過酸化ベンゾイル4質量部を溶解して原料混合物を作製した。
【0173】
アニオン性界面活性剤としてのジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム8gを水性媒体としての脱イオン水800gに溶解させて水性媒体混合物を作製した。
【0174】
水性媒体混合物と原料混合物とを混合して得られた混合液をホモミクサーに供給して10000rpmの回転速度で10分間攪拌処理して乳化液を作製した。この乳化液に、上記原料スラリーを、固形分(種粒子)として4.2gとなるように加え、30℃で5時間撹拌し、分散液を得た。
【0175】
この分散液に、高分子分散安定剤としてのポリビニルアルコール(日本合成化学株式会社製の「ゴーセノール(登録商標)GM-14L」)を4質量%含む水溶液2400質量部と、重合禁止剤としての亜硝酸ナトリウム0.64質量部とを加え、その後60℃で5時間、次いで105℃で3時間攪拌して重合反応を行い、重合体粒子を含むスラリー(以下、スラリー(1)という)を得た。
【0176】
その後、スラリー(1)から加圧式分離機によって重合体粒子を分離し、得られた重合体粒子をイオン交換水を用いて洗浄した。洗浄した重合体粒子を真空乾燥機に入れ、加熱乾燥させた。
【0177】
次に、粗大粒子除去工程及び微小粒子除去工程において、個数基準の粒度分布における変動係数が30%以下となるように粗大粒子及び微小粒子を除去したこと以外は、実施例1と同様の要領で、乾燥後の重合体粒子を気流分級した。これにより分級後の重合体粒子を得た。
【0178】
(比較例6)
発熱工程において、温度制御装置によって分散液の温度が72.7℃以下となるように制御し、発熱工程における分散液の最高温度を72.7℃とした以外は、実施例1と同様にして、分級後の重合体粒子を得た。
【0179】
実施例1~9及び比較例2~6で得られた分級前の重合体粒子について、個数平均粒子径、個数基準の粒度分布における変動係数(CV)、個数基準の粒度分布において小径側から累積個数百分率が5%に相当する粒子径(D5’)を、それぞれ表1の「分級前」の欄に示した。
【0180】
実施例1~9及び比較例2~6で得られた分級後の重合体粒子、並びに比較例1で得られた分級前の重合体粒子について、個数平均粒子径、個数基準の粒度分布における変動係数(CV)、個数基準の粒度分布において小径側から累積個数百分率が5%に相当する粒子径(D5)、個数平均粒子径の5倍の粒子径(単に「5倍粒子径」とも称する)、重合体粒子中における大粒子の含有量を、それぞれ表1の「分級後」の欄に示した。
【0181】
なお、実施例1~9及び比較例2~6で得られた分級後の重合体粒子、並びに比較例1で得られた分級前の重合体粒子のそれぞれについて、重合体粒子に含まれている大粒子は、重合体粒子の個数基準の粒度分布において小径側から累積個数百分率が95%以上の範囲内に含まれていた。
【0182】
また、実施例1~9及び比較例2~6で得られた分級後の重合体粒子、並びに比較例1で得られた分級前の重合体粒子について、重合体粒子全体の重量平均分子量(A)、小粒子の重量平均分子量(B)、及び大粒子の重量平均分子量(C)を、それぞれ表1に示した。
【0183】
[重合体粒子に含まれている粒子毎の重量平均分子量及び個数平均粒子径の測定]
実施例で得られた分級後の重合体粒子、及び比較例1で得られた分級前の重合体粒子のうちのいずれか一種を測定対象の重合体粒子として選択した。選択した重合体粒子を分級ローター型気流分級機(商品名「ターボクラシファイア(登録商標)TC-25」、日清エンジニアリング株式会社製)に供給することにより分級し、下記に示した粒子径範囲を有する重合体粒子[粒子(1)、第一中粒子、第二中粒子、粒子(4)]に分級した。
粒子(1)・・重合体粒子の個数基準の粒度分布において小径側から累積個数百分率が20%以下である重合体粒子
第一中粒子・・重合体粒子の個数基準の粒度分布において小径側から累積個数百分率が20%を超え且つ50%以下である重合体粒子
第二中粒子・・重合体粒子の個数基準の粒度分布において小径側から累積個数百分率が50%を超え且つ80%以下である重合体粒子
粒子(4)・・重合体粒子の個数基準の粒度分布において小径側から累積個数百分率が80%を超え且つ100%以下である重合体粒子
【0184】
粒子(1)、第一中粒子、第二中粒子、及び粒子(4)のそれぞれの個数平均粒子径を、上述した重合体粒子の個数平均粒子径の測定方法と同様にして測定した。得られた結果を、表2のそれぞれの重合体粒子の個数平均粒子径の欄に示した。さらに、粒子(1)の重量平均分子量、第一中粒子の重量平均分子量(D)、第二中粒子の重量平均分子量(E)、及び粒子(4)の重量平均分子量のそれぞれを、上述した重合体粒子全体の重量平均分子量の測定方法と同様にして測定した。得られた結果を、表2のそれぞれの重合体粒子の重量平均分子量の欄に記載した。
【0185】
そして、第一中粒子の重量平均分子量(D)を重合体粒子全体の重量平均分子量(A)で除した値(D/A)、第二中粒子の重量平均分子量(E)を重合体粒子全体の重量平均分子量(A)で除した値(E/A)、第一中粒子の重量平均分子量(D)を小粒子の重量平均分子量(B)で除した値(D/B)、第二中粒子の重量平均分子量(E)を第一中粒子の重量平均分子量(D)で除した値(E/D)、及び大粒子の重量平均分子量(C)を第二中粒子の重量平均分子量(E)で除した値(C/E)を、表2にそれぞれ示した。
【0186】
[増粘効果の評価]
実施例及び比較例で得られた分級後の重合体粒子、並びに比較例1で得られた分級前の重合体粒子について、下記手順に従って、溶解媒体としてトルエン、メタクリル酸メチル、又はシクロヘキサンを用いた場合の増粘効果を評価した。
【0187】
(重合体粒子を含む組成物(1)の粘度測定:トルエン)
重合体粒子20g及びトルエン100gを含む組成物(1)と、回転子(アズワン社製、商品名「高速対応クロス回転子58947-828」)とを200mLのビーカーに入れた。その後、ビーカーをマグネチックスターラー(アズワン社製、商品名「REXIMアナログタイプ4連RS-4AN」)に設置し、25℃雰囲気下、回転子により組成物(1)を撹拌させた。撹拌を始めてから、0.5時間経過後の組成物(1)の粘度V1、1時間経過後の組成物(1)の粘度V2、1.5時間経過後の組成物(1)の粘度V3、及び2時間経過後の組成物(1)の粘度V4を、25℃にて、B型粘度計(Brookfield AMETEK社製 商品名「LVDV-II」)及び回転子としてローターNo.LV-2を用い、回転数を60rpmとして、それぞれ測定した。得られた結果を表3に示した。
【0188】
撹拌を始めてから、1.5時間経過後の組成物(1)及び2時間経過後の組成物(1)について、目視観察により、ゲル状の未溶解物(継粉)の発生の有無を確認した。得られた結果を表3に示した。
【0189】
(小粒子を含む組成物(2)の粘度測定:トルエン)
重合体粒子を、分級ローター型気流分級機(商品名「ターボクラシファイア(登録商標)TC-25」、日清エンジニアリング株式会社製)に供給して分級を行って、個数基準の粒度分布において小径側から累積個数百分率が5%以下である小粒子を得た。次に、小粒子20g及びトルエン100gを含む組成物(2)を、上述した組成物(1)の粘度測定と同様にして、攪拌させ、撹拌を始めてから、1.5時間経過後の組成物(2)の粘度V5、及び2時間経過後の組成物(2)の粘度V6をそれぞれ測定した。得られた結果を表3に示した。
【0190】
(大粒子を含む組成物(3)の粘度測定:トルエン)
重合体粒子を、分級ローター型気流分級機(商品名「ターボクラシファイア(登録商標)TC-25」、日清エンジニアリング株式会社製)に供給して分級を行って、個数基準の粒度分布において小径側から累積個数百分率が95%以上である重合体粒子(I)を得た。次に、重合体粒子(I)20g及びトルエン100gを含む組成物(3)を、上述した組成物(1)の粘度測定と同様にして、攪拌させ、撹拌を始めてから、1.5時間経過後の組成物(3)の粘度V7、及び2時間経過後の組成物(3)の粘度V8をそれぞれ測定した。得られた結果を表3に示した。
【0191】
撹拌を始めてから1.5時間経過後の、組成物(2)の粘度V5に対する組成物(3)の粘度V7の比[V7/V5]が0.9~1.1の範囲内であれば、重合体粒子が優れた増粘安定性を有していると評価できる。上記比[V7/V5]が上記範囲を外れた場合、このような重合体粒子を溶解媒体に溶解させた際に、組成物中に部分的に粘度の低い部分や高い部分を発生させ、組成物中で粘度に偏りが生じて不均一となる。
【0192】
(重合体粒子を含む組成物(4)の粘度測定:メタクリル酸メチル)
重合体粒子20g及びメタクリル酸メチル100gを含む組成物(4)と、回転子(アズワン社製、商品名「高速対応クロス回転子58947-828」)とを200mLのビーカーに入れた。その後、ビーカーをマグネチックスターラー(アズワン社製、商品名「REXIMアナログタイプ4連RS-4AN」)に設置し、25℃雰囲気下、回転子により組成物(4)を撹拌させた。撹拌を始めてから、0.5時間経過後の組成物(4)の粘度V9、1時間経過後の組成物(4)の粘度V10、1.5時間経過後の組成物(4)の粘度V11、及び2時間経過後の組成物(4)の粘度V12を、25℃にて、B型粘度計(Brookfield AMETEK社製 商品名「LVDV-II」)及び回転子としてローターNo.LV-2を用い、回転数を60rpmとして、それぞれ測定した。得られた結果を表4に示した。
【0193】
撹拌を始めてから、1.5時間経過後の組成物(4)及び2時間経過後の組成物(4)について、目視観察により、ゲル状の未溶解物(継粉)の発生の有無を確認した。得られた結果を表4に示した。
【0194】
(小粒子を含む組成物(5)の粘度測定:メタクリル酸メチル)
重合体粒子を、分級ローター型気流分級機(商品名「ターボクラシファイア(登録商標)TC-25」、日清エンジニアリング株式会社製)に供給して分級を行って、個数基準の粒度分布において小径側から累積個数百分率が5%以下である小粒子を得た。次に、小粒子20g及びメタクリル酸メチル100gを含む組成物(5)を、上述した組成物(4)の粘度測定と同様にして、攪拌させ、撹拌を始めてから、1.5時間経過後の組成物(5)の粘度V13、及び2時間経過後の組成物(5)の粘度V14をそれぞれ測定した。得られた結果を表4に示した。
【0195】
(大粒子を含む組成物(6)の粘度測定:メタクリル酸メチル)
重合体粒子を、分級ローター型気流分級機(商品名「ターボクラシファイア(登録商標)TC-25」、日清エンジニアリング株式会社製)に供給して分級を行って、個数基準の粒度分布において小径側から累積個数百分率が95%以上である重合体粒子(I)を得た。次に、重合体粒子(I)20g及びメタクリル酸メチル100gを含む組成物(6)を、上述した組成物(4)の粘度測定と同様にして、攪拌させ、撹拌を始めてから、1.5時間経過後の組成物(6)の粘度V15、及び2時間経過後の組成物(6)の粘度V16をそれぞれ測定した。得られた結果を表4に示した。
【0196】
撹拌を始めてから1.5時間経過後の、組成物(5)の粘度V13に対する組成物(6)の粘度V15の比[V15/V13]が0.9~1.1の範囲内であれば、重合体粒子が優れた増粘安定性を有していると評価できる。上記比[V15/V13]が上記範囲を外れた場合、このような重合体粒子を溶解媒体に溶解させた際に、組成物中に部分的に粘度の低い部分や高い部分を発生させ、組成物中で粘度に偏りが生じて不均一となる。
【0197】
(重合体粒子を含む組成物(7)の粘度測定:シクロヘキサン)
重合体粒子20g及びシクロヘキサン100gを含む組成物(7)と、回転子(アズワン社製、商品名「高速対応クロス回転子58947-828」)とを200mLのビーカーに入れた。その後、ビーカーをマグネチックスターラー(アズワン社製、商品名「REXIMアナログタイプ4連RS-4AN」)に設置し、25℃雰囲気下、回転子により組成物(7)を撹拌させた。撹拌を始めてから、0.5時間経過後の組成物(7)の粘度V17、1時間経過後の組成物(7)の粘度V18、1.5時間経過後の組成物(7)の粘度V19、及び2時間経過後の組成物(7)の粘度V20を、25℃にて、B型粘度計(Brookfield AMETEK社製 商品名「LVDV-II」)及び回転子としてローターNo.LV-2を用い、回転数を60rpmとして、それぞれ測定した。得られた結果を表5に示した。
【0198】
撹拌を始めてから、1.5時間経過後の組成物(7)及び2時間経過後の組成物(7)について、目視観察により、ゲル状の未溶解物(継粉)の発生の有無を確認した。得られた結果を表5に示した。
【0199】
(小粒子を含む組成物(8)の粘度測定:シクロヘキサン)
重合体粒子を、分級ローター型気流分級機(商品名「ターボクラシファイア(登録商標)TC-25」、日清エンジニアリング株式会社製)に供給して分級を行って、個数基準の粒度分布において小径側から累積個数百分率が5%以下である小粒子を得た。次に、小粒子20g及びシクロヘキサン100gを含む組成物(8)を、上述した組成物(7)の粘度測定と同様にして、攪拌させ、撹拌を始めてから、1.5時間経過後の組成物(8)の粘度V21、及び2時間経過後の組成物(8)の粘度V22をそれぞれ測定した。得られた結果を表5に示した。
【0200】
(大粒子を含む組成物(9)の粘度測定:シクロヘキサン)
重合体粒子を、分級ローター型気流分級機(商品名「ターボクラシファイア(登録商標)TC-25」、日清エンジニアリング株式会社製)に供給して分級を行って、個数基準の粒度分布において小径側から累積個数百分率が95%以上である重合体粒子(I)を得た。次に、重合体粒子(I)20g及びシクロヘキサン100gを含む組成物(9)を、上述した組成物(7)の粘度測定と同様にして、攪拌させ、撹拌を始めてから、1.5時間経過後の組成物(9)の粘度V23、及び2時間経過後の組成物(9)の粘度V24をそれぞれ測定した。得られた結果を表5に示した。
【0201】
撹拌を始めてから1.5時間経過後の、組成物(8)の粘度V21に対する組成物(9)の粘度V23の比[V23/V21]が0.9~1.1の範囲内であれば、重合体粒子が優れた増粘安定性を有していると評価できる。上記比[V23/V21]が上記範囲を外れた場合、このような重合体粒子を溶解媒体に溶解させた際に、組成物中に部分的に粘度の低い部分や高い部分を発生させ、組成物中で粘度に偏りが生じて不均一となる。
【0202】
[塗料組成物の評価]
さらに、実施例及び比較例で得られた分級後の重合体粒子、並びに比較例1で得られた分級前の重合体粒子について、下記手順に従って、塗料組成物及び塗膜を作製して評価を行った。
【0203】
重合体粒子20質量部、トルエン100質量部、及び回転子(アズワン社製、商品名「高速対応クロス回転子58947-828」)を200mLのビーカーに入れた。その後、ビーカーをマグネチックスターラー(アズワン社製、商品名「REXIMアナログタイプ4連RS-4AN」)に設置し、25℃雰囲気下、2時間に亘って回転子を回転させ、これによりトルエン中に重合体粒子を溶解させた後、回転子を除去して、塗料組成物を得た。得られた塗料組成物を、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚み100μm、富士フイルム株式会社製、商品名「複写機用FUJIX(登録商標) OHPフィルム」)上に、スリットコーターを使用して、塗工後の膜厚が75μmとなるように塗工して、塗工膜を得た。塗工膜を、温度を70℃に保った乾燥機に入れて10分間乾燥させて塗膜を得た。これにより、PETフィルムと、このPETフィルムの表面に積層一体化された塗膜とを有する塗装体を得た。その後、塗装体を切断して、一辺が10cmの平面正方形状の試験体を得た。試験体中のPETフィルムの裏面に蛍光灯によって光を照射し、この時の塗膜の表面を目視観察し、下記基準にて評価した。結果を表3の「塗膜評価」の欄に示す。
A:白点や塗り斑の発生なし。
B:白点及び塗り斑の発生が合計で1~5か所あった。
C:白点及び塗り斑の発生が合計で6か所以上ある。
【0204】
塗料組成物中に継粉が含まれていた場合、この継粉は塗膜中に白点を生じさせて、外観不良の要因となる。また、塗料組成物中の粘度が不均一であった場合、塗膜において厚みが不均一な部分(塗り斑)を生じさせて、塗膜を透過する光が不均一となり、外観不良の要因となる。
【0205】
[歯科用組成物の評価]
さらに、実施例及び比較例で得られた分級後の重合体粒子、又は比較例1で得られた分級前の重合体粒子について、下記手順に従って、歯科用組成物を作製し、歯科用組成物について操作性、歯科用組成物の硬化物について1%圧縮強度のバラツキ及び曲げ強度を評価した。
【0206】
(歯科用組成物の作製)
重合体粒子30質量部、電離放射線の照射によって重合するモノマーとしてメタクリル酸メチル70質量部、及び光重合開始剤として2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン(BASFジャパン社製 商品名「イルガキュア(登録商標)907」)0.5質量部を5分間に亘って混合して、メタクリル酸メチルに重合体粒子を溶解させることによりペースト状の歯科用組成物を得た。
【0207】
(操作性の評価)
アルミニウム容器(東洋アルミエコープロダクツ株式会社製 製品名「A1070-D」)を用意した。アルミニウム容器は、平面形状が円形である底部と、上記底部の周縁の全周に、上方に且つ斜め外側に向かって一体的に形成された周壁部とからなる。周壁部は、周方向に複数のΛ状の山折れ部とV字状の谷折れ部とが交互に繰り返された横断面ノコギリ刃形状に形成されている。そして、上記で作製した歯科用組成物をアルミニウム容器に、薬さじを用いて、充填後の歯科用組成物の厚みが5mmとなるように充填した。充填時の歯科用組成物の操作性について、下記基準にて評価した。結果を表6の「操作性評価」の欄に示す。
5:歯科用組成物の充填性が特に優れ、歯科用組成物の伸び流動性が良く、且つ歯科用組成物にべとつきや糸引きが発生せずに歯科用組成物を操作可能であった。
4:歯科用組成物の充填性が優れ、歯科用組成物の伸び流動性が良く、且つ歯科用組成物にべとつきや糸引きが発生せずに歯科用組成物を操作可能であった。
3:歯科用組成物の充填性が十分であり、歯科用組成物の伸び流動性が十分であり、且つ歯科用組成物にべとつきや糸引きが発生せずに歯科用組成物を操作可能であった。
2:歯科用組成物の充填性及び伸び流動性が不十分であり、且つ歯科用組成物にべとつきや糸引きが発生して歯科用組成物の操作が不十分であった。
1:歯科用組成物の充填性及び伸び流動性が特に不十分であり、且つ歯科用組成物にべとつきや糸引きが強く発生して歯科用組成物の操作が特に不十分であった。
【0208】
歯科用組成物の充填性の評価は、アルミニウム容器に歯科用組成物を充填する際に、アルミニウム容器の周壁部内面に形成されている複数の横断面V字状の凹部内に歯科用組成物が気泡を形成することなく流動して、アルミニウム容器内に全体的に均一に歯科用組成物が充填されているかを目視により観察することにより行った。また、歯科用組成物の伸び流動性の評価は、アルミニウム容器に歯科用組成物を充填する際に、歯科用組成物が均一に伸びて流動することができたかを評価することにより行った。
【0209】
(1%圧縮強度のバラツキの評価)
上記で作製した歯科用組成物に対して、紫外線を、照射強度0.1W/cm2、積算光量0.1J/cm2にて1時間に亘って照射して、歯科用組成物を硬化させることにより、歯科用組成物の硬化物からなる試験片を得た。この試験片の形状は、直径が40mm、厚みが5mmの平面円形状とした。
【0210】
試験片の1%圧縮強度を、株式会社島津製作所製の微小圧縮試験機「MCTM-200」を用いて、次の測定条件にて測定した。下部加圧板上に試験片を載置し、試験片上に配設された上部加圧圧子を下記負荷速度で降下させることにより、最大荷重が50gfとなるまで徐々に試験片を圧縮する。そして、試験片を、圧縮前の試験片の厚みに対して1%圧縮した時点における荷重P(kgf)を測定し、下記式(I)に基づいて1%圧縮強度(kgf/mm2)を算出した。なお、1%圧縮強度を測定する際、上部加圧圧子の負荷速度及び試験片に負荷する最大荷重は試験片の硬さに応じて適宜調整することができる。
【0211】
(1%圧縮強度の測定条件)
測定機:株式会社島津製作所製の微小圧縮試験機「MCTM-200」
測定環境:20~25℃雰囲気下、相対湿度65%の環境下
上部加圧圧子:直径0.5mmの平面圧子(材質:ダイヤモンド)
下部加圧板:SKS平板
試験種類:圧縮試験(MODE1)
負荷速度:0.0746gf/sec
(1%圧縮強度の算出式)
1%圧縮強度(kgf/mm2)
=荷重P(kgf)/(0.5mm×0.5mm) 式(I)
【0212】
上記と同様の手順にて、試験片の任意の20カ所に対して1%圧縮強度の測定を行った。測定された20カ所の1%圧縮強度の測定値について、最も高い測定値、2番目に高い測定値、最も低い測定値及び2番目に低い測定値を除いた、14個の測定値の相加平均値Sを算出した。
【0213】
最も高い1%圧縮強度(最大値)と上記相加平均値Sとの差の絶対値T1を算出した。最も低い1%圧縮強度(最小値)と上記相加平均値Sとの差の絶対値T2を算出した。絶対値T1及びT2のうち、値の大きい方の絶対値を選択した。選択した絶対値と上記相加平均値Sを用いて下記式に基づいて「偏差」を算出した。偏差を下記評価基準にて評価した。結果を表6に示す。
偏差=選択した絶対値/相加平均値S
【0214】
(1%圧縮強度の偏差の評価基準)
A:偏差が0.10未満であった。
B:偏差が0.10以上で且つ0.20以下であった。
C:偏差が0.20を超えていた。
【0215】
(曲げ強度の評価)
上記で作製した歯科用組成物に対して、紫外線を、照射強度0.1W/cm2、積算光量0.1J/cm2にて1時間に亘って照射して、歯科用組成物を硬化させることにより、歯科用組成物の硬化物からなる試験片を得た。この試験片の形状は、長さが40mm、幅が10mm、厚みが5mmの平面長方形状とした。
【0216】
試験片10を水平台Jに載置した。
図1に示すように、水平台J上の試験片10は、一端縁Xから長辺方向に30mmまでの部分を支持具(図示せず)を用いて固定して固定部とする一方、残余部分を遊離片部とし、遊離片部を上下方向に折り曲げ可能となるようにした。
【0217】
試験片10の固定部表面の接線(L1)と、試験片10の遊離片部表面の接線(L2)とが交わる角度θが60°となるまで、試験片10の遊離片部を下方に折り曲げて2秒間保持した後、遊離片部を水平方向となるように元の状態に復帰させた。この操作を1サイクルとして5サイクル行った。試験片10の遊離片部を目視により観察し、下記基準にて評価した。結果を表6の「曲げ強度評価」の欄に示す。
A:試験片の遊離片部にクラック及び白色化した部分の双方が発生していなかった。
B:試験片の遊離片部にクラック又は白色化した部分が発生していた。
C:試験片の遊離片部にクラック及び白色化した部分の双方が発生していた。
【0218】
歯科用組成物が継子を含んでいる場合、歯科用組成物の硬化物に曲げ応力が負荷された際に、継子が起点となってクラックが発生し得る。歯科用組成物の粘度が不均一であった場合、歯科用組成物の硬化物に曲げ応力が負荷された際に、上記硬化物の曲げ応力の追従性に乱れが生じて、白色化した部分が発生する。
【0219】
【0220】
【0221】
【0222】
【0223】
【0224】
【産業上の利用可能性】
【0225】
本発明の重合体粒子は、溶解媒体中に継粉を生じさせずに溶解することができると共に、組成物の粘度を均一に向上できる。このような重合体粒子を用いることにより、厚みや組成が均一であり、外観不良の発生が高く低減された塗膜を形成することが可能な組成物を提供することができる。
【0226】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2020年3月30日に出願された日本国特許出願第2020-60220号に基づく優先権を主張し、この出願の開示はこれらの全体を参照することにより本明細書に組み込まれる。
【符号の説明】
【0227】
10 試験片
J 水平台
X 一端縁
L1 接線
L2 接線