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特許7577755光学フィルタ、光学装置、及び光吸収性組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】光学フィルタ、光学装置、及び光吸収性組成物
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/22 20060101AFI20241028BHJP
   H01L 27/146 20060101ALI20241028BHJP
【FI】
G02B5/22
H01L27/146 D
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2022557318
(86)(22)【出願日】2021-09-22
(86)【国際出願番号】 JP2021034864
(87)【国際公開番号】W WO2022080105
(87)【国際公開日】2022-04-21
【審査請求日】2024-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2020172611
(32)【優先日】2020-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100163463
【弁理士】
【氏名又は名称】西尾 光彦
(72)【発明者】
【氏名】久保 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】新毛 勝秀
【審査官】渡邊 吉喜
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/054400(WO,A1)
【文献】特開2009-242650(JP,A)
【文献】米国特許第06284385(US,B1)
【文献】特開昭59-084920(JP,A)
【文献】特表2020-530117(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/22
H01L 27/146
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅錯体と、分子内に2個のアルコキシ基を有する第一アルコキシ基含有化合物の加水分解物の重合物と、分子内に3個又は4個のアルコキシ基を有する第二アルコキシ基含有化合物の重合物とを含む光吸収層を備え、
25℃において下記(i)、(ii)、(iii)、及び(iv)の条件を満たす第一透過スペクトルを有する、光学フィルタ。
(i)波長450nm~600nmの範囲内における透過率の最小値が70%以上である。
(ii)波長300nm~370nmの範囲内における透過率の最大値が5%以下である。(iii)波長800nm~1000nmの範囲内における透過率の最大値が5%以下である。
(iv)波長1500nm~1700nmの範囲内における透過率の最小値が60%以上である。
【請求項2】
前記第一透過スペクトルは、下記(v)の条件をさらに満たす、請求項1に記載の光学フィルタ。
(v)波長550nm~800nmの範囲内において50%の透過率を示す第一カットオフ波長が600nm~700nmの範囲内に存在する。
【請求項3】
前記第一透過スペクトルは、下記(vi)の条件をさらに満たす、請求項1又は2に記載の光学フィルタ。
(vi)波長1000nm~1800nmの範囲内において50%の透過率を示す第二カットオフ波長が1150nm~1500nmの範囲内に存在する。
【請求項4】
前記第一透過スペクトルは、下記(vii)の条件をさらに満たす、請求項1~3のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
(vii)波長350nm~450nmの範囲内において50%の透過率を示す第三カットオフ波長が360nm~430nmの範囲内に存在する。
【請求項5】
前記第一透過スペクトルにおいて、波長550nm~800nmの範囲内において50%の透過率を示す第一カットオフ波長と、波長1000nm~1800nmの範囲内において50%の透過率を示す第二カットオフ波長との差の絶対値が600nm以上、かつ、800nm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項6】
前記第一透過スペクトルにおいて、波長550nm~800nmの範囲内において50%の透過率を示す第一カットオフ波長と、波長350nm~450nmの範囲内において50%の透過率を示す第三カットオフ波長との差の絶対値が200nm以上、かつ、270nm以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項7】
前記第一透過スペクトルは、下記(viii)の条件をさらに満たす、請求項1~6のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
(viii)波長1000nm~1100nmの範囲内における透過率の最大値が10%以下である。
【請求項8】
前記第一透過スペクトルは、下記(ix)の条件をさらに満たす、請求項1~7のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
(ix)波長1700nm~1900nmの範囲内における透過率の最小値が60%以上である。
【請求項9】
前記第一透過スペクトルにおいて、波長1550nmにおける透過率が70%以上である、請求項1~8のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項10】
前記第一透過スペクトルは、下記(x)の条件をさらに満たす、請求項1~9のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
(x)波長1900nm~2200nmの範囲内における透過率の最小値が60%以上である。
【請求項11】
光吸収剤を含有し、100μm~400μmの厚みを有する光吸収層を備えた、請求項1~10のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項12】
70℃において、波長550nm~800nmの範囲内において50%の透過率を示す第四カットオフ波長を有する第二透過スペクトルを有し、
前記第四カットオフ波長と前記第一カットオフ波長との差の絶対値は15nm以下である、請求項2に記載の光学フィルタ。
【請求項13】
70℃において、波長1000nm~1800nmの範囲内において50%の透過率を示す第五カットオフ波長を有する第二透過スペクトルを有し、
前記第五カットオフ波長と前記第二カットオフ波長との差の絶対値は30nm以下である、請求項3に記載の光学フィルタ。
【請求項14】
70℃において、波長350nm~450nmの範囲内において50%の透過率を示す第六カットオフ波長を有する第二透過スペクトルを有し、
前記第六カットオフ波長と前記第三カットオフ波長との差の絶対値は15nm以下である、請求項4に記載の光学フィルタ。
【請求項15】
対象物の可視光によって認識される画像情報を取得するカメラモジュールと、
対象物との測距情報を取得するTOFセンサと、
前記カメラモジュール及び前記TOFセンサの前面に配置された請求項1~14のいずれか1項に記載の光学フィルタと、を備えた、
光学装置。
【請求項16】
前記TOFセンサは、波長1500nm~2200nmの範囲に含まれる波長の光を対象物に向けて照射する照射器と、対象物からの波長1500nm~2200nmの範囲に含まれる波長の反射光を受光する受光器と、制御部と、を含む、請求項15に記載の光学装置。
【請求項17】
銅錯体と、
分子内に2個のアルコキシ基を有する第一アルコキシ基含有化合物及び前記第一アルコキシ基含有化合物の加水分解物の少なくとも1つと、
分子内に3個又は4個のアルコキシ基を有する第二アルコキシ基含有化合物及び前記第二アルコキシ基含有化合物の加水分解物の少なくとも1つと、を含有している、
光吸収性組成物。
【請求項18】
アルコキシ基を有する化合物及び前記化合物の加水分解物を完全加水分解縮合物に換算した含有量に対する、前記第一アルコキシ基含有化合物及び前記第一アルコキシ基含有化合物の前記加水分解物を完全加水分解縮合物に換算した含有量の比は、質量基準で、0.01~0.6である、請求項17に記載の光吸収性組成物。
【請求項19】
硬化性樹脂を含み、
アルコキシ基を有する化合物及び前記化合物の加水分解物を完全加水分解縮合物に換算した含有量に対する、前記硬化性樹脂の固形分量の比は、質量基準で、0より大きく以下である、請求項17又は18に記載の光吸収性組成物。
【請求項20】
硬化性樹脂を含み、
アルコキシ基を有する化合物及び前記化合物の加水分解物を完全加水分解縮合物に換算した含有量と、前記硬化性樹脂の固形分量との和に対する、前記第一アルコキシ基含有化合物及び前記第一アルコキシ基含有化合物の前記加水分解物を完全加水分解縮合物に換算した含有量の比は、質量基準で、0.01~0.4である、請求項17~19のいずれか1項に記載の光吸収性組成物。
【請求項21】
前記銅錯体は、アリール基を有するホスホン酸を含む第一銅錯体と、アルキル基を有するホスホン酸を含む第二銅錯体と、を含み、
アリール基を有するホスホン酸の含有量Cf及びアルキル基を有するホスホン酸の含有量Csは、質量基準で、Cf:Cs=50:50~100:0の関係を満たす、請求項17~20のいずれか1項に記載の光吸収性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルタ、光学装置、及び光吸収性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
CCD(Charge Coupled Device)又はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の固体撮像素子を用いた撮像装置において、良好な色再現性を有する画像を得るために様々な光学フィルタが固体撮像素子の前面に配置されている。一般的に、固体撮像素子は紫外線領域から赤外線領域に至る広い波長範囲で分光感度を有する。一方、人間の視感度は可視光の領域にのみに存在する。このため、撮像装置における固体撮像素子の分光感度を人間の視感度に近づけるために、固体撮像素子の前面に赤外線又は紫外線の一部の光を遮蔽する光学フィルタを配置する技術が知られている。
【0003】
従来、そのような光学フィルタとしては、誘電体多層膜による光反射を利用して赤外線又は紫外線を遮蔽するものが一般的であった。一方、近年、光吸収剤を含有する膜を備えた光学フィルタが注目されている。光吸収剤を含有する膜を備えた光学フィルタの透過率特性は入射角の影響を受けにくいので、撮像装置において光学フィルタに斜めに光が入射する場合でも色味の変化が少ない良好な画像を得ることができる。また、光反射膜を用いない光吸収型の光学フィルタは、光反射膜による多重反射を原因とするゴーストやフレアの発生を抑制することができるので、逆光状態や夜景の撮影において良好な画像を得るのに有利である。加えて、光吸収剤を含有する膜を備えた光学フィルタは、撮像装置の小型化及び薄型化の点でも有利である。そのような光吸収剤として、例えば、ホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤が知られている。
【0004】
例えば、特許文献1には、フェニル基又はハロゲン化フェニル基を有するホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤を含有している光学フィルタが記載されている。
【0005】
特許文献2には、赤外線及び紫外線を吸収可能なUV‐IR吸収層を備えた光学フィルタが記載されている。UV‐IR吸収層は、ホスホン酸と銅イオンとによって形成されたUV‐IR吸収剤を含んでいる。
【0006】
特許文献3には、有機色素含有層と、ホスホン酸銅含有層とを備えた赤外線カットフィルタが記載されている。
【0007】
特許文献4には、光吸収膜を備えた光学フィルタが記載されている。光吸収膜は、アリール基を有するホスホン酸と銅イオンとによって形成された光吸収剤を含有している液状組成物の硬化物によって形成されている。特許文献4には、波長300nm~2200nmにおける光学フィルタの透過スペクトルが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第6339755号公報
【文献】特許第6232161号公報
【文献】特許第6281023号公報
【文献】特許第6639764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1~4に記載の技術によれば、紫外線の一部の光及び波長700~1000nmの範囲の赤外線に属する光を吸収できる。一方、特許文献1~4に記載の技術は、より長い波長を有する特定の波長範囲において光学フィルタの透過率を高める観点から再検討の余地を有する。そこで、本発明は、紫外線の一部の光及び波長700~1000nmの範囲の赤外線に属する光を遮蔽するとともに、可視光域及びより長い波長を有する特定の波長範囲において高い透過率を有する光学フィルタを提供する。また、このような光学フィルタを作製するのに有利な光吸収性組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
25℃において下記(i)、(ii)、(iii)、及び(iv)の条件を満たす第一透過スペクトルを有する、光学フィルタを提供する。
(i)波長450nm~600nmの範囲内における透過率の最小値が70%以上である。
(ii)波長300nm~370nmの範囲内における透過率の最大値が5%以下である。
(iii)波長800nm~1000nmの範囲内における透過率の最大値が5%以下である。
(iv)波長1500nm~1700nmの範囲内における透過率の最小値が60%以上である。
【0011】
また、本発明は、
対象物の可視光によって認識される画像情報を取得するカメラモジュールと、
対象物との測距情報を取得するTOFセンサと、
前記カメラモジュール及び前記TOFセンサの前面に配置された上記の光学フィルタと、を備えた、
光学装置を提供する。
【0012】
また、本発明は、
銅錯体と、
分子内に2個のアルコキシ基を有する第一アルコキシ基含有化合物及び前記第一アルコキシ基含有化合物の加水分解物の少なくとも1つと、
分子内に3個又は4個のアルコキシ基を有する第二アルコキシ基含有化合物及び前記第二アルコキシ基含有化合物の加水分解物の少なくとも1つと、を含有している、
光吸収性組成物を提供する。
【発明の効果】
【0013】
上記の光学フィルタは、紫外線の一部の光及び波長700~1000nmの範囲の光を遮蔽するとともに、可視光域及びより長い波長を有する特定の波長範囲において高い透過率を有する。また、上記の光吸収性組成物によれば、このような光学フィルタを作製できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明に係る光学フィルタの一例を示す断面図である。
図2図2は、本発明に係る光学フィルタの別の一例を示す断面図である。
図3図3は、本発明に係る光学フィルタを備えた機器の一例を示すブロック図である。
図4図4は、実施例1に係る光学フィルタの透過スペクトルである。
図5図5は、実施例2に係る光学フィルタの透過スペクトルである。
図6図6は、実施例6に係る光学フィルタの透過スペクトルである。
図7図7は、実施例7に係る光学フィルタの透過スペクトルである。
図8図8は、透明ガラス基板の透過スペクトルである。
図9図9は、実施例8に係る光学フィルタの透過スペクトルである。
図10図10は、実施例11に係る光学フィルタの透過スペクトルである。
図11図11は、実施例16に係る光学フィルタの透過スペクトルである。
図12図12は、実施例19に係る光学フィルタの透過スペクトルである。
図13図13は、実施例20に係る光学フィルタの透過スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明は、本発明の一例に関するものであり、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0016】
図1に示す光学フィルタ1aは、25℃において第一透過スペクトルを有する。第一透過スペクトルは、下記(i)、(ii)、(iii)、及び(iv)の条件を満たす。
(i)波長450nm~600nmの範囲内における透過率の最小値Tmin 450-600が70%以上である。
(ii)波長300nm~370nmの範囲内における透過率の最大値Tmax 300-370が5%以下である。
(iii)波長800nm~1000nmの範囲内における透過率の最大値Tmax 800-1000が5%以下である。
(iv)波長1500nm~1700nmの範囲内における透過率の最小値Tmin 1500-1700が60%以上である。
【0017】
ここで、波長Xnm~Ynmの範囲内における透過率の最小値Tmin X-YがA%以上であるということは、波長Xnm~Ynmの範囲の全域において透過率がA%以上であることと同義である。加えて、波長X’nm~Y’nmの範囲内における透過率の最大値Tmax X’-Y’がB%以下であるということは、波長X’nm~Y’nmの範囲の全域において透過率がB%以下であることと同義である。
【0018】
光学フィルタ1aの第一透過スペクトルが(i)の条件を満たすことにより、光学フィルタ1aが可視光域において高い透過率を有する。最小値Tmin 450-600は、望ましくは75%以上であり、より望ましくは80%以上である。
【0019】
光学フィルタ1aの第一透過スペクトルが(ii)の条件を満たすことにより、紫外線の一部の光を遮蔽できる。最大値Tmax 300-370は、望ましくは3%以下であり、より望ましくは1%以下である。
【0020】
光学フィルタ1aの第一透過スペクトルが(iii)の条件を満たすことにより、波長800~1000nmの範囲の光を遮蔽できる。最大値Tmax 800-1000は、望ましくは3%以下であり、より望ましくは1%以下である。
【0021】
光学フィルタ1aの第一透過スペクトルが(iv)の条件を満たすことにより、光学フィルタ1aは、より長い波長を有する特定の波長範囲、例えば、1500nm~2000nmの範囲において高い透過率を有する。
【0022】
光学フィルタ1aは、可視光域及び1500nm以上の所定の赤外線域において高い透過率を有する。このため、例えば、デジタルカメラ又はスマートフォン等の携帯型端末に搭載されるカメラモジュールにおいて、ヒトの視感度曲線の有効範囲以外の波長である、赤外線の一部の波長の光を遮蔽するための近赤外線カットフィルタとして使用できる。加えて、光学フィルタ1aは、Light detection and ranging(LiDAR)等の測距装置をはじめ、Time Of Flight(TOF)方式の測距装置又はその周辺機器に適用されてもよい。LiDAR等においてTOF方式のセンサを用いる場合、これまでは900nm前後の近赤外線域に属する波長を有するレーザー等の光を用いることがあった。しかし、900nm前後の波長の光を用いる場合、センサなどの受光器が太陽光などの影響を受ける可能性がある。太陽光には波長900nmの光も多く含まれており、バックグランドノイズの影響により、測距精度等が悪化する可能性がある。
【0023】
そこで、波長1550nm前後のレーザー等の光を用いるTOF方式やそれを用いたLiDARが検討されている。太陽光のスペクトルにおいて、波長1550nmにおける光強度及び光量は、波長900nmにおける光強度及び光量より小さい。このため、1550nm前後の波長の光を用いるために、その波長域に対応するように受光器又はその周辺の素子等を設計できれば、昼間でもLiDARの測定結果において太陽光によるノイズが軽減され、さらに測定におけるS/Nが向上することが期待される。
【0024】
ヒトが認識しうる可視光域の光によって形成される画像の撮影用のカメラモジュールと、LiDARをはじめとしたTOF方式の測距装置を搭載した機器、又は、上述のカメラモジュールにTOF方式の測距機能の一部を組み込んだ機器が登場することが想定される。例えば、上述したカメラモジュール等で撮影した動画又は静止画等の画像を取得する一方で、LiDAR等のTOF方式の測距装置等による高精度の距離情報を含む画像も取得しうる機能を備えた機器が想定される。また、詳細な距離情報を含む動画又は静止画等の画像を取得する機能を備えた機器が想定される。このような機器において、光学フィルタ1aを適用すると、画像形成に必要なヒトの視感度の範囲に対応した波長の光を透過させ、かつ、測距装置に用いられる波長1550nm前後の光又はより長い波長を有する波長2000nmまでの光を透過させることができる。加えて、紫外線に属する光と、波長700nm~1000nm又は波長700nm~1100nmに係る光を遮蔽でき、光学フィルタ1aは、利便性、簡易性、及び光学特性に優れる。
【0025】
光学フィルタ1aは、例えば、吸収により一部の光を遮蔽する。このため、光学フィルタ1aは、カメラモジュール又は測距装置の内部で問題となるフレア及びゴーストの発生を抑制する観点から有利である。
【0026】
波長1550nmにおけるレーザー及びLED等の強い光のヒトの眼に対する影響は、波長900nmにおける場合よりも小さい。例えば、国際電気標準会議が策定した規格IEC60825に示されたレーザー製品の安全基準によれば、MPE(The maximum permissible exposure)は、1マイクロ秒(μs)のパルス幅において、波長900nmの場合は1×10-6J/cm2であるのに対し、波長1550nmの場合1J/cm2である。レーザー光に対するヒトの安全は絶対に確保されなければならない事項であり、1550nm前後の波長の光を用いることにより安全性を確保するためのハードルが下がることは、測定対象を広げる観点から有利である。LiDARをはじめTOF方式の測距装置では、光を照射して測定対象物等によって反射した光の飛行時間に基づいて距離の計測を行う。TOF方式の測距装置をヒトが保持する場合、対象測定物等からの反射光が、そのヒトに戻ってくる。そのような場合、TOF方式の測距装置が、波長1550nm前後の波長の光を出射する発光器等を含む場合、TOF方式の測距装置等をヒトの眼、顔面、若しくは上半身に近い場所、又は、それらの高さ付近に配置する場合には、これらの安全性に関する事情が光学フィルタ1aの採用に有利に働くと考えられる。
【0027】
光学フィルタ1aの第一透過スペクトルにおいて、最小値Tmin 1500-1700は、望ましくは70%以上であり、より望ましくは75%以上である。
【0028】
光学フィルタ1aの第一透過スペクトルにおいて、波長1550nmにおける透過率は、例えば70%以上であり、望ましくは80%以上であり、より望ましくは85%以上である。
【0029】
光学フィルタ1aの第一透過スペクトルは、例えば、下記(v)の条件をさらに満たす。これにより、波長550nm~800nmの範囲内において第一スペクトルがヒトの視感度と整合しやすい。
(v)波長550nm~800nmの範囲内において50%の透過率を示す第一カットオフ波長λC1が600nm~700nmの範囲内に存在する。
【0030】
第一カットオフ波長λC1は、望ましくは620nm~680nmの範囲内に存在する。
【0031】
光学フィルタ1aの第一透過スペクトルは、例えば、下記(vi)の条件をさらに満たす。これにより、光学フィルタ1aは、1500nm以上の所定の赤外線域において高い透過率を有しやすい。
(vi)波長1000nm~1800nmの範囲内において50%の透過率を示す第二カットオフ波長λC2が1150nm~1500nmの範囲内に存在する。
【0032】
第二カットオフ波長λC2は、望ましくは1200nm~1430nmの範囲内に存在する。
【0033】
さらに、光学フィルタ1aの第一透過スペクトルにおいて、第二カットオフ波長λC2と第一カットオフ波長λC1との差の絶対値|λC2-λC1|の値は、例えば600nm以上であり、望ましくは650nm以上であってもよく、より望ましくは700nm以上であってもよい。さらに、|λC2-λC1|の値は、例えば800nm以下であり、望ましくは780nm以下であってもよく、より望ましくは760nm以下であってもよい。
【0034】
光学フィルタ1aの第一透過スペクトルは、例えば、下記(vii)の条件をさらに満たす。これにより、波長350nm~450nmの範囲内において第一スペクトルがヒトの視感度と整合しやすい。
(vii)波長350nm~450nmの範囲内において50%の透過率を示す第三カットオフ波長λC3が360nm~430nmの範囲内に存在する。
【0035】
また、光学フィルタ1aの第一透過スペクトルにおいて、第一カットオフ波長λC1と第三カットオフ波長λC3との差の絶対値|λC1-λC3|の値は、例えば200nm以上であり、望ましくは210nm以上であってもよく、より望ましくは220nm以上であってもよい。さらに、|λC1-λC3|の値は、例えば270nm以下であり、望ましくは260nm以下であってもよく、より望ましくは250nm以下であってもよい。
【0036】
光学フィルタ1aの第一透過スペクトルは、例えば、下記(viii)の条件をさらに満たす。これにより、光学フィルタ1aは、波長1000nm~1100nmを有する赤外線の一部を遮蔽できる。
(viii)波長1000nm~1100nmの範囲内における透過率の最大値Tmax 1000-1100が10%以下である。
【0037】
最大値Tmax 1000-1100は、望ましくは5%以下である。
【0038】
光学フィルタ1aの第一透過スペクトルは、例えば、下記(ix)の条件をさらに満たす。これにより、例えば、波長1700nm~1900nmの範囲内における光を用いて測距を行う機器に光学フィルタ1aを利用できる。
(ix)波長1700nm~1900nmの範囲内における透過率の最小値Tmin 1700-1900が60%以上である。
【0039】
最小値Tmin 1700-1900は、望ましくは65%以上であり、より望ましくは70%以上である。
【0040】
光学フィルタ1aの第一透過スペクトルは、例えば、下記(x)の条件をさらに満たす。これにより、例えば、波長1900nm~2200nmの範囲内における光を用いて測距を行う機器に光学フィルタ1aを利用できる。
(x)波長1900nm~2200nmの範囲内における透過率の最小値Tmin 1900-2200が60%以上である。
【0041】
最小値Tmin 1900-2200は、望ましくは65%以上であり、より望ましくは70%以上である。
【0042】
図1に示す通り、光学フィルタ1aは、例えば、光吸収層10を備えている。光吸収層10は、光吸収剤を含有している。光吸収層10の厚みは特定の値に限定されない。光吸収層10は、例えば、100μm~400μmの厚みを有する。これにより、光学フィルタ1aを備えた機器を低背位化しやすい。光吸収層10の厚みは、望ましくは120μm~350μmであり、より望ましくは140μm~300μmである。
【0043】
光学フィルタ1aは、例えば、70℃において、波長550nm~800nmの範囲内において50%の透過率を示す第四カットオフ波長λC4を有する第二透過スペクトルを有する。第四カットオフ波長λC4と第一カットオフ波長λC1との差の絶対値|λC4-λC1|は、特定の値に限定されず、例えば15nm以下である。この場合、光学フィルタ1aにおいて、波長550nm~800nmの範囲で透過帯域と遮蔽帯域との境界であるカットオフ波長は、光学フィルタ1aの環境の温度が変動しても変わりにくい。
【0044】
絶対値|λC4-λC1|は、望ましくは10nm以下であり、より望ましくは8nm以下であり、さらに望ましくは5nm以下である。
【0045】
光学フィルタ1aは、例えば、70℃において、波長1000nm~1800nmの範囲内において50%の透過率を示す第五カットオフ波長λC5を有する第二透過スペクトルを有する。第五カットオフ波長λC5と第二カットオフ波長λC2との差の絶対値|λC5-λC2|は、特定の値に限定されないが、例えば30nm以下である。この場合、光学フィルタ1aにおいて、波長1000nm~1800nmの範囲で透過帯域と遮蔽帯域との境界であるカットオフ波長は、光学フィルタ1aの環境の温度が変動しても変わりにくい。
【0046】
絶対値|λC5-λC2|は、望ましくは20nm以下である。
【0047】
光学フィルタ1aは、例えば、70℃において、波長350nm~450nmの範囲内において50%の透過率を示す第六カットオフ波長λC6を有する第二透過スペクトルを有する。第六カットオフ波長λC6と第三カットオフ波長λC3との差の絶対値|λC6-λC3|は、特定の値に限定されないが、例えば15nm以下である。この場合、光学フィルタ1aにおいて、波長350nm~450nmの範囲で透過帯域と遮蔽帯域との境界であるカットオフ波長は、光学フィルタ1aの環境の温度が変動しても変わりにくい。
【0048】
絶対値|λC6-λC3|は、望ましくは10nm以下であり、より望ましくは8nm以下である。
【0049】
光学フィルタ1aの第一透過スペクトルにおいて、波長1530nm~1570nmの範囲における透過率の平均値は、例えば70%以上であり、望ましくは75%以上であり、より望ましくは80%以上である。光学フィルタにおいて、可視光域の光に対する透過率が高く、かつ、波長1550nm前後の光に対する透過率が高いことは、TOF方式による測距機能により得られた距離情報を含む画像の取得に有利である。
【0050】
光学フィルタ1aの第一透過スペクトルにおいて、波長450nm~600nmの範囲における透過率の平均値に対する波長1530nm~1570nmの範囲における透過率の平均値の比Tr(1)は、例えば0.8以上であり、望ましくは0.85以上である。比Tr(1)は、例えば1.2以下であり、望ましくは1.1以下である。
【0051】
光学フィルタ1aの第一透過スペクトルにおいて、波長1800nm~2100nmにおける透過率の平均値は、例えば80%以上であり、望ましくは82%以上であり、より望ましくは85%以上である。この波長範囲における光学フィルタ1aの透過率が高くなることは、波長1800nm~2100nmの範囲の光を吸収する官能基又はそのような官能基を有する化合物の含有量が光吸収層10において少ないことに由来すると考えられる。
【0052】
光学フィルタ1aは、例えば、特許文献4に記載の光学フィルタと比べて、特定の波長範囲における吸収が少なく、その波長範囲における透過率が高いという特徴を有する。光学フィルタ1aの第一透過スペクトルは、例えば、波長1600nm~1800nmの範囲及び波長2100nm~2200nmの範囲に極小値(吸収ピーク)を有していてもよい。この場合、光学フィルタ1aの第一透過スペクトルの波長1600nm~1800nmの範囲における透過率の極小値は、例えば70%以上であり、望ましくは75%以上である。光学フィルタ1aの第一透過スペクトルの波長2100nm~2200nmの範囲における透過率の最小値は、例えば70%以上であり、望ましくは75%以上である。
【0053】
光学フィルタ1aの第一透過スペクトルにおいて、波長1800nm~2100nmの範囲における透過率の平均値に対する波長1600nm~1800nmの範囲における透過率の最小値の比Tr(2)は、例えば0.8以上であり、望ましくは0.85以上である。また、比Tr(2)は、例えば1.1以下であり、望ましくは1.0以下である。
【0054】
光学フィルタ1aの第一透過スペクトルにおいて、波長1800nm~2100nmの範囲における透過率の平均値に対する波長2100nm~2200nmの範囲における透過率の最小値の比Tr(3)は、例えば0.8以上であり、望ましくは0.85以上である。また、Tr(3)は、例えば1.1以下であり、望ましくは1.0以下である。
【0055】
光学フィルタ1aの第一透過スペクトルが上記(i)、(ii)、(iii)、及び(iv)の条件を満たす限り、光学フィルタ1aにおける光吸収層10をなす材料は、特定の材料に限定されない。光吸収層10は、例えば、所定の光吸収性組成物を硬化させることによって形成されてもよい。この場合、光吸収性組成物は、例えば、銅錯体と、第一アルコキシ基含有化合物及び第一アルコキシ基含有化合物の加水分解物の少なくとも1つと、第二アルコキシ基含有化合物及び第二アルコキシ基含有化合物の加水分解物の少なくとも1つとを含有している。第一アルコキシ基含有化合物は、分子内に2個のアルコキシ基を有する化合物である。第一アルコキシ基含有化合物は、例えば、加水分解縮合可能な化合物である。第二アルコキシ基含有化合物は、分子内に3個又は4個のアルコキシ基を有する化合物である。第二アルコキシ基含有化合物は、例えば、加水分解縮合可能な化合物である。このような光吸収性組成物を硬化させることにより、上記(i)、(ii)、(iii)、及び(iv)の条件を満たす光学フィルタを作製できる。このような光吸収性組成物の使用により、上記(i)、(ii)、(iii)、及び(iv)の条件を満たす光学フィルタを作製できる理由は定かではない。第一アルコキシ基含有化合物の添加及びその添加量の調整により、周囲と三次元的に結合する官能基又は官能基群が減少し、硬化の過程及び硬化後において層の中の重合物の構成が比較的疎になると考えられる。このため、赤外線領域に吸収を有する可能性がある官能基を有する一部の分子の量が蒸発又は昇華により層の中から減少すると考えられる。それらの分子又は一部の官能基が波長1500nm~2000nmの光を吸収するので、結果的に当該波長範囲において光学フィルタの透過率が高いものと考えられる。
【0056】
光吸収性組成物の硬化物の透過スペクトルは、例えば、上記(i)、(ii)、(iii)、及び(iv)の条件を満たす。光吸収性組成物の硬化物の透過スペクトルは、光学フィルタ1aの第一透過スペクトルが満たす上記の他の条件の少なくとも1つをさらに満たしていてもよい。この場合、光吸収性組成物の硬化物の厚みは、例えば、100μm~400μmである。
【0057】
銅錯体は、例えば、ホスホン酸と銅成分とを含有している。銅錯体は、例えば、アリール基を有するホスホン酸と銅成分とを含む化合物及びアルキル基を有するホスホン酸と銅成分とを含む化合物からなる群から選択される少なくとも1つであってもよい。銅錯体は、それら両方の化合物を含んでいてもよい。銅錯体がホスホン酸と銅成分とを含有していることにより、光学フィルタによって、波長450nm~650nmを含む可視光域における透過率を高めつつ、可視光域より短い波長の紫外線の一部を含む光と、700nmを超える波長の光を吸収できる。このため、光学フィルタ1aの透過スペクトルがヒトの視感度に整合しやすい。銅錯体は、例えば、光吸収層10において樹脂等の透明な物質に内包されている。
【0058】
銅錯体がアリール基を有するホスホン酸と銅成分とを含む化合物である場合、銅錯体は主に波長300nm~400nmの範囲の光と、波長800nm~1000nmの範囲の光を吸収する作用を発揮しやすい。一方、銅錯体がアルキル基を有するホスホン酸と銅成分とを含む化合物である場合、銅錯体は主に波長300nm~360nmの範囲の光と、波長800nm~1100nmの範囲の光を吸収する作用を発揮しやすい。
【0059】
光吸収性組成物において、アリール基を有するホスホン酸と銅成分とを含む化合物の含有量と、アルキル基を有するホスホン酸と銅成分とを含む化合物の含有量との比を所定の範囲に調節することにより、光学フィルタ1aにおいて、波長1500nm~1700nmの範囲における光の透過率を高くしやすい。また、光吸収性組成物におけるアリール基を有するホスホン酸の添加量とアルキル基を有するホスホン酸の添加量との比を所定の範囲に調節することにより、光学フィルタ1aにおいて、波長1500nm~1700nmの範囲における光の透過率を高くしやすい。
【0060】
アリール基を有するホスホン酸は、特定のホスホン酸に限定されず、例えば、フェニルホスホン酸、ニトロフェニルホスホン酸、ヒドロキシフェニルホスホン酸、ブロモフェニルホスホン酸、ジブロモフェニルホスホン酸、フルオロフェニルホスホン酸、ジフルオロフェニルホスホン酸、クロロフェニルホスホン酸、ジクロロフェニルホスホン酸、ヨードフェニルホスホン酸、ジヨードフェニルホスホン酸、ベンジルホスホン酸、ブロモベンジルホスホン酸、ジブロモベンジルホスホン酸、フルオロベンジルホスホン酸、ジフルオロベンジルホスホン酸、クロロベンジルホスホン酸、ジクロロベンジルホスホン酸、ヨードベンジルホスホン酸、又はジヨードベンジルホスホン酸である。
【0061】
アルキル基を有するホスホン酸は、特定のホスホン酸に限定されず、例えば、1~8個の炭素原子を有するアルキル基を有するホスホン酸である。
【0062】
光吸収性組成物において、アリール基を有するホスホン酸の含有量Cf及びアルキル基を有するホスホン酸の含有量Csは特定の関係に限定されない。光吸収性組成物において、Cf:Csは、質量基準で、例えば40:60~100:0であり、望ましくは50:50~100:0である。これにより、光吸収性組成物を用いて作製された光学フィルタが所望の透過特性を有しやすい。
【0063】
光吸収性組成物において、含有量Ctcに対する含有量Cfcの比は、特定の値に限定されない。含有量Ctcは、アルコキシ基を有する化合物及びその化合物の加水分解物を完全加水分解縮合物に換算した含有量である。含有量Cfcは、第一アルコキシ基含有化合物及び第一アルコキシ基含有化合物の加水分解物を完全加水分解縮合物に換算した含有量である。含有量Ctcに対する含有量Cfcの比は、質量基準で、例えば0.01~0.6である。上記の通り、第一アルコキシ基含有化合物により、周囲と三次元的に結合する官能基又は官能基群が減少し、硬化の過程及び硬化後において層の中の重合物の構成が比較的疎になりやすいと考えられる。比較的疎な構造は、溶媒又は副生成物の除去に役立つものと考えられる。一方、含有量Ctcに対する含有量Cfcの比が0.6以下であることにより、層の中でネットワークの形成が促されやすい。これにより、タックフリーな光吸収層を形成でき、光吸収性組成物が所望の状態で硬化しやすい。また、光吸収性組成物の硬化物の機械的強度が次工程における物理的処理又は化学的処理に耐えやすい。
【0064】
含有量Ctcに対する含有量Cfcの比は、質量基準で、望ましくは0.02~0.5であり、より望ましくは0.03~0.4である。
【0065】
光吸収性組成物は、硬化性樹脂を含有していてもよいし、硬化性樹脂を含有していなくてもよい。光吸収性組成物において、アルコキシ基を有する化合物及びその化合物の加水分解物を完全加水分解縮合物に換算した含有量Ctcに対する、硬化性樹脂の固形分量Crsの比は、特定の値に限定されない。含有量Ctcに対する固形分量Crsの比は、質量基準で、例えば0~2である。硬化性樹脂は、光吸収層10の緻密性と機械的強度とを向上させうる。一方、含有量Ctcに対する固形分量Crsの比が2以下であることにより、第一アルコキシ基含有化合物が層の中の重合物の構成を比較的疎にする働きが硬化性樹脂によって阻害されることを抑制できる。
【0066】
含有量Ctcに対する固形分量Crsの比は、質量基準で、望ましくは0~1.5であり、より望ましくは0~1.3であり、さらに望ましくは0~1.28である。このように光吸収性組成物における硬化性樹脂の含有量は比較的少なくてもよい。
【0067】
光吸収性組成物において、和Ctrに対する含有量Cfcの比は、特定の値に限定されない。和Ctrは、アルコキシ基を有する化合物及びその化合物の加水分解物を完全加水分解縮合物に換算した含有量Ctcと、硬化性樹脂の固形分量Crsとの和である。含有量Cfcは、第一アルコキシ基含有化合物及び第一アルコキシ基含有化合物の加水分解物を完全加水分解縮合物に換算した含有量である。和Ctrに対する含有量Cfcの比は、質量基準で、例えば0.01~0.4である。これにより、硬化の過程及び硬化後において層の中の重合物の構成が比較的疎になりやすいと考えられる。一方、和Ctrに対する含有量Cfcの比が0.4以下であることにより、タックフリーな光吸収層を形成でき、光吸収性組成物が所望の状態で硬化する。光吸収性組成物の硬化物の機械的強度が次工程における物理的処理又は化学的処理に耐えることができる。和Ctrに対する含有量Cfcの比は、質量基準で、望ましくは0.02~0.35であり、より望ましくは0.02~0.3であり、さらに望ましくは0.04~0.26である。
【0068】
光吸収性組成物において、第一アルコキシ基含有化合物及び第二アルコキシ基含有化合物のそれぞれは、例えば、シリコンアルコキシド(アルコキシシラン)であってもよく、Ti及びAl等の金属のアルコキシドであってもよい。分子内に2つのアルコキシ基を有するアルコキシドを2官能アルコキシドといい、分子内に3つのアルコキシ基を有するアルコキシドを3官能アルコキシドといい、分子内に4つのアルコキシ基を有するアルコキシドを4官能アルコキシドという。2~4個のアルコキシ基を有するアルコキシシランをそれぞれ、2~4官能アルコキシシランという。
【0069】
アルコキシシランは、水及び酸触媒等が存在する条件で加水分解して重合し、ポリマー又は無機的な化合物を形成する。四官能アルコキシシランは加水分解して重合することで、SiO2で表される固形の化合物を形成する。三官能アルコキシシランは加水分解して重合することで、R-SiO1.5で表される固形の化合物を形成する。なお、本明細書において、「R-」は、有機成分を意味する。これらの化合物は立体的なネットワークを構成しうる。光吸収組成物は、三官能アルコキシシラン、三官能アルコキシシランの加水分解物、四官能アルコキシシラン、四官能アルコキシシランの加水分解物からなる群より選択される少なくとも1つを含有していてもよい。二官能アルコキシシランは、一分子あたり二個のみの反応性官能基を有する。光吸収性組成物が二官能アルコキシシランを含有する場合、周囲と三次元的に結合する官能基又は官能基群が減少し、硬化の過程および硬化後の層の重合体の構成が比較的疎になりやすいと考えられる。このため、光吸収性組成物の硬化の過程で、溶媒又は反応によって生成される酢酸若しくはアルコールが効率良く外部に排出されやすいと考えられる。その結果、赤外線領域の所定の波長範囲の光を吸収しうる官能基を有する一部の分子が蒸発及び昇華等により層から減少し、当該波長範囲における光の吸収が抑制されうると考えられる。
【0070】
四官能アルコキシシランは、特定のアルコキシシランに限定されず、例えば、テトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランである。三官能アルコキシシランは、特定のアルコキシシランに限定されない。三官能アルコキシシランは、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、又は3-イソシアネートプロピルトリメトキシシランである。二官能アルコキシシランは、特定のアルコキシシランに限定されない。二官能アルコキシシランは、例えば、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、又は3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシランである。
【0071】
光吸収性組成物において、硬化性樹脂は、銅錯体を内包していてもよい。硬化性樹脂は、アルコキシ基を有する化合物、その化合物の加水分解物、又はその化合物の重合物を内包していてもよい。光吸収性組成物を硬化させて光学フィルタを作製するとき、硬化性樹脂の存在により光吸収性組成物が硬化して形成された層又はフィルムの緻密性が向上し、層又はフィルムのリジッド性を高めやすいという利点がある。一方、光吸収性組成物における硬化性樹脂の含有量を調整することにより、第一アルコキシ基含有化合物が層の構造を適度に疎にする働きが低下しにくい。
【0072】
硬化性樹脂は、特定の樹脂に限定されない。硬化性樹脂は、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン系樹脂、及びシリコーン樹脂からなる群より選択される少なくとも1つである。
【0073】
光吸収性組成物は、リン酸エステルをさらに含有していてもよい。光吸収性組成物を用いて形成された光吸収層において、アルコキシ基を有する化合物又はその化合物の加水分解物は、リン酸エステルに比べて光吸収層に対して高い耐湿性を付与しつつ銅錯体を適切に分散させうる。このため、光吸収性組成物がアルコキシ基を有する化合物又はその化合物の加水分解物を含有していることにより、リン酸エステルの使用量を低減できる。光吸収性組成物は、リン酸エステルを含有していなくてもよい。
【0074】
リン酸エステルは、例えば、ポリオキシアルキル基を有するリン酸エステルである。ポリオキシアルキル基を有するリン酸エステルは、特定のリン酸エステルに限定されない。ポリオキシアルキル基を有するリン酸エステルは、例えば、プライサーフA208N:ポリオキシエチレンアルキル(C12、C13)エーテルリン酸エステル、プライサーフA208F:ポリオキシエチレンアルキル(C8)エーテルリン酸エステル、プライサーフA208B:ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル、プライサーフA219B:ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル、プライサーフAL:ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルリン酸エステル、プライサーフA212C:ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステル、又はプライサーフA215C:ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステルである。これらはいずれも第一工業製薬社製の製品である。また、リン酸エステルは、例えば、NIKKOL DDP-2:ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、NIKKOL DDP-4:ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、又はNIKKOL DDP-6:ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステルであってもよい。これらは、いずれも日光ケミカルズ社製の製品である。
【0075】
図1に示す通り、光学フィルタ1aは、透明基板20をさらに備えている。透明基板20は、互いに平行な一対の主面を有する。光学フィルタ1aにおいて、透明基板20の一方の主面上に光吸収層10が配置されている。光学フィルタ1aは、透明基板20の両方の主面上に光吸収層10が配置されているように変更されてもよい。光吸収層10は、例えば、透明基板20の一方の主面上又は両方の主面上に、上記の光吸収性組成物を塗布して硬化させることによって形成できる。なお、光吸収層10と透明基板20の主面とは接触していてもよい。一方、光学フィルタ1aの第一透過スペクトルが上記(i)、(ii)、(iii)、及び(iv)の条件を満たす限り、光吸収層10と透明基板20の主面との間に他の機能層が形成されていてもよい。他の機能層は、特定の層に限定されず、例えば光吸収層10と透明基板20との密着性を向上させる層又は上記の光吸収性組成物を硬化させて得られる層以外の層である。透明基板20が有する透明性は、光学フィルタ1aの第一透過スペクトルが上記(i)、(ii)、(iii)、及び(iv)の条件を満たす限り、特定の水準に限定されない。例えば、透明基板20として、0.2mmの厚みを有する場合に波長400nm~700nmにおいて75%以上の透過率を示す基板を使用できる。加えて、透明基板20は、波長1400nm~2200nmにおいて75%以上の透過率を示す透過スペクトルを有する基板であってもよい。
【0076】
透明基板20は、特定の基板に限定されない。透明基板20は、ガラスを含む透明ガラス基板であってもよいし、樹脂を含む透明樹脂基板であってもよい。透明ガラス基板は、高い透明性を有するとともに著しく平滑な主面を有し、非常に安価である。加えて、透明ガラス基板は、高い硬度及び高いヤング率を有するので、その厚みが小さい場合でも製造工程又は流通に十分に耐えうる。透明樹脂基板は、高い透明性を有し、軽量であり、多様な生産に向いており、透明基板20が透明樹脂基板である場合、例えば、多様な形状の基板を安価に供給できる。透明樹脂基板の材質は、特定の材質に限定されない。透明樹脂基板の材質は、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリ塩ビ樹脂、ポリスチレン樹脂、又はシリコーン樹脂である。
【0077】
光学フィルタ1aは、レンズ、回折格子、及び偏光素子等の光学素子の面上に光吸収層を配置した構成を有するように変更されてもよい。例えば、レンズ等の光学素子の面上に、上記の光吸収性組成物を塗布して硬化させて、光学素子と光吸収層とを備えた光学フィルタを提供できる。例えば、カメラモジュールに含まれるレンズ系のうち、少なくとも1つのレンズを含むように光学フィルタが構成されていると、光学フィルタを別途作製して配置することなく、所望の透過スペクトルを有する光を撮像素子に入射させることができる。このように、例えば、機能的な光学素子が有する少なくとも1つの面上に光吸収層10を形成することにより、光学素子本来の機能と光吸収性の機能とを兼ね備えた光学フィルタを提供できる。光学素子は、上記に挙げた素子に限られない。光学素子に含まれる材質は、特定の材質に限定されず、例えば、透明基板20の材質の例として挙げた材質を含みうる。
【0078】
光学フィルタ1aは、図2に示す光学フィルタ1bのように変更されてもよい。光学フィルタ1bは、光吸収層10を備えたフィルム状のフィルタである。光学フィルタ1bは、例えば、平滑な主面を有する基板の当該主面の上に、上記の光吸収性組成物を塗布して硬化させて光吸収層10を形成し、その光吸収層10を基板から脱離させることによって得られる。基板の平滑な主面は、光学フィルタ1bが上記(i)、(ii)、(iii)、及び(iv)の条件を満たすように構成されている。光学フィルタ1bの製造のための基板として、上記の透明基板20を用いてもよいし、金属製基板又はセラミック製基板を用いてもよい。光学フィルタ1bは、フィルム状のフィルタであり、基板レスのフィルタとして構成される。このため、光学フィルタ1bは薄型化に適しており、光学フィルタ1bの製造コストが低くなりやすい。光学フィルタ1bは、基板上に光吸収層10を形成した後に、基板から光吸収層10を剥がすことによって得られてもよい。光吸収性組成物を基板に塗布する前に、基板の平滑な主面にフッ素樹脂コーティングを施してもよい。これにより、基板から光吸収層10を容易に剥離できる。
【0079】
曲面又は格子状の構造若しくは凹凸を有する面を含む基体上に、上記の光吸収性組成物を塗布し硬化させて光吸収層10を形成し、その光吸収層10を基体から脱離させることによって光学フィルタを得てもよい。この場合、光吸収層10は、基体の面に沿って形成されるので、基体の面に対応した形状を有する。このため、基体の面の特性に応じた光学フィルタを作製できる。
【0080】
光学フィルタ1a又は1bは、光吸収層10に加えて、可視光又は波長1500nm以上の光の反射率を低下させる反射防止膜又は反射低減膜をさらに備えるように変更されてもよい。これにより、撮像素子に到達する当該波長の光の光量が大きくなりやすい。光学フィルタが反射防止膜又は反射低減膜をさらに備えることにより、例えば、光学フィルタから反射される光の反射率を5%未満にすることができる。
【0081】
反射防止膜又は反射低減膜は、例えば一種類以上の材料で一層以上の層を有するように光吸収層10の少なくとも一方の面に形成される。反射防止膜又は反射低減膜を構成する材料は、特定の材料に限定されない。反射防止膜又は反射低減膜は、例えば、SiO2やSiO1.5を主成分とするゾルゲル法などによって形成された膜であってもよく、その主成分中に中空微粒子又は低屈折率材料の微粒子が分散している膜であってもよい。反射防止膜又は反射低減膜は、TiO2、Ta23、SiO2、Nb25、ZnS、MgF、又はこれらの混合物を含み、蒸着法、スパッタ法、又はイオンプレーティング法等の方法によって形成された膜であってもよい。蒸着法は、イオンビームアシスト蒸着法であってもよい。反射防止膜又は反射低減膜は、上記の材料を含む一層の構成の膜であってもよく、異なる材料の膜が交互に積層された多層膜であってもよい。また、反射防止膜又は反射低減膜は、光吸収層10に接して形成されていてもよく、光吸収層10に接して形成された他の機能層に接して形成されていてもよい。
【0082】
光学フィルタ1a又は1bは、光吸収層10に加えて、遮蔽すべき波長範囲の光に対して高い反射率を有する膜、いわゆる光反射膜を備えていてもよい。この場合、光学フィルタは、光吸収層10と光反射膜との協働により、上記の透過スペクトルに関する条件を満たしていてもよい。光反射膜のスペクトルを効果的に調整することによって、例えば、光吸収層10の厚みを薄くすることもできる。光反射膜は、例えば一種類以上の材料で一層以上の層を有するように光吸収層10の少なくとも一方の面に形成できる。光反射膜を構成する材料は、特定の材料に限定されない。光反射膜は、SiO2やSiO1.5を主成分とするゾルゲル法などによって形成された膜であってもよく、その主成分中に中空微粒子又は低屈折率材料の微粒子が分散している膜であってもよい。光反射膜は、TiO2、Ta23、SiO2、Nb25、ZnS、MgF、又はこれらの混合物を含み、蒸着法、スパッタ法、又はイオンプレーティング法等の方法によって形成された膜であってもよい。蒸着法は、イオンビームアシスト蒸着法であってもよい。光反射膜は、上記の材料を含む一層の構成の膜であってもよく、異なる材料の膜が交互に積層された多層膜であってもよい。光反射膜は、光吸収層10に接して形成されていてもよく、光吸収層10に接して形成された他の機能層に接して形成されていてもよく、透明基板20の少なくとも一方の主面に接して形成されていてもよい。
【0083】
本発明に係る光学フィルタは、上記の態様に限定されず、光学フィルタに関する上記の各特徴は技術的に矛盾しない限り適宜組み合わせられてもよい。
【0084】
光学フィルタ1aを用いて、例えば、図3に示す機器50を提供できる。機器50は、光学フィルタ1aに加えて、TOFセンサ部30と、カメラモジュール部40とを備えている。カメラモジュール部40は、可視光域又は赤外域の光を認識して画像を形成するための要素である。カメラモジュール部40は、例えば、可視光又は赤外域の光によって認識される画像情報を取得する。なお、図3は、説明に必要な最小限の要素又は機能のみを記載している。機器50は、他の要素を備えていてもよい。
【0085】
TOFセンサ部30は、例えば、対象物との測距情報を取得する。TOFセンサ部30は、照射器31と、受光器33と、制御部35とを備えている。照射器31は、波長1550nm前後又は波長1500nm~2200nmの範囲に含まれる波長の光を照明光LIとして出射して測定対象物Gに照射する。受光器33は、測定対象物Gからの反射光LRを受光する。反射光LRの波長は波長1500nm~2200nmの範囲に含まれうる。制御部35は、照射器31及び受光器33を制御する。TOFセンサ部30からの出力画像として測距情報画像Idが得られる。測距情報画像Idにおいて、例えば、測定対象物Gとの距離の遠近が濃淡又は色の違いによって表されている。
【0086】
照射器31は、例えば、発光素子と、光学素子とを含んでいる。発光素子は、上記の範囲に含まれる波長の光を出射するレーザ及びLED等の素子である。光学素子は、発光素子からの光を測定対象物Gに照射するための素子である。照射器31に含まれる光学素子は、複数のレンズ、プリズム等の屈折器若しくは偏向器、又は光を拡散するための拡散素子等を含んでいてもよい。図3において、照射器31における発光素子及び光学素子の図示を省略している。
【0087】
受光器33は、例えば、光学素子と、受光素子とを含んでいる。光学素子は、測定対象物Gからの反射光LR等を受光するための素子である。受光器33に含まれる光学素子は、複数のレンズや、プリズムなどの屈折器若しくは偏向器、又は光を拡散するための拡散素子などを含んでいてもよい。光学素子は、測定対象物Gからの反射光LR等を、受光素子に集光する。受光素子は、CCD又はCMOS方式のイメージセンサであってもよく、アバランシェ・フォトダイオード(APD)であってもよい。図3において、受光器33における光学素子及び受光素子の図示を省略している。
【0088】
カメラモジュール部40は、参照光によって照射された対象物の画像を取得する。参照光は、太陽光であってもよく、カメラモジュールの近傍に配置した照明器により照射された赤外域に属する光であってもよい。カメラモジュール部40は、例えば、カメラモジュール43と、カメラモジュール43を制御するための制御部45とを備えている。カメラモジュール43は、例えば、光学素子と、受光素子とを備えている。光学素子は、対象物からの光を受光するための素子である。制御部45は、例えば、光学素子及び受光素子を制御する。カメラモジュール部40からの出力画像は、例えば、図3に示す対象物の通常画像Iuである。通常画像Iuは、可視光で認識できる対象物の形及び色等を含む画像でありうる。赤外光に属する光を参照光として用いる場合は、機器50は、暗視カメラとして機能しうる。一方、この場合、TOFセンサ部30で使用される光の波長域と、参照光の波長域との重複、又は、その重複によって生じるノイズについて注意が必要となる場合がある。
【0089】
カメラモジュール43に含まれる光学素子は、複数のレンズ、又は、プリズム等の屈折器若しくは偏向器等を含んでいてもよい。光学素子は、対象物からの光をカメラモジュール43に含まれる受光素子に集光する。受光素子は、CCD又はCMOS方式のイメージセンサであってもよい。図3において、カメラモジュール43の光学素子及び受光素子の図示を省略している。
【0090】
図3に示す通り、光学フィルタ1aは、例えばTOFセンサ部30の受光器33及びカメラモジュール43と、測定対象物Gとの間に配置される。光学フィルタ1aは、TOFセンサ部30の照射器31、受光器33、及びカメラモジュール43と、測定対象物Gとの間に配置されていてもよい。換言すると、光学フィルタ1aは、TOFセンサ部30とカメラモジュール43とを備える機器の前面に配置されてもよい。光学フィルタ1aは、例えば、可視光域に属する波長の光と、波長1550nm前後又は波長1500nm~2200nmの範囲に属する波長の光とを高い透過率で透過させつつ、紫外線及び波長700nm~1100nmの範囲内の光を遮蔽することができる。このため、光学フィルタ1a単独でTOFセンサ部30及びカメラモジュール部40における機能の発揮に必要な波長の光のみを透過させることができる。
【0091】
TOFセンサ及びカメラモジュールの双方を搭載するこのようなデバイスが増えることが想定される。例えば、TOFセンサ及びカメラモジュールの双方がスマートフォン及びタブレット型情報端末に搭載されることが想定される。このようなデバイスは、小さくかつ薄型であるので、TOFセンサとカメラモジュールとが近接して配置される可能性がある。光学フィルタ1aの使用により、TOFセンサ及びカメラモジュール周辺をより簡単な構成にすることが可能である。
【0092】
機器50は、機器50の保護のためのカバーガラス(図示省略)をさらに備えていてもよい。このカバーガラスは、光学フィルタ1aの前面、すなわち、光学フィルタ1aよりも測定対象物Gに近い位置に配置されてもよい。カバーガラスにより、光学フィルタ1a、TOFセンサ部30、及びカメラモジュール部40を外的な衝撃又は温度変化から保護できる。なお、例えば、リジッドなガラス又はサファイアなどの硬質な透明基板20に光吸収層10を形成して光学フィルタ1aを作製できる。サファイア等は特に硬度が高いので、例えば、透明基板20の光吸収層10が形成された主面がカメラモジュールを向くように光学フィルタ1aを配置することによって、保護的な機能を同時に備える光学フィルタ1aを提供できる。
【実施例
【0093】
実施例により、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0094】
<実施例1>
酢酸銅一水和物4.500gとテトラヒドロフラン(THF)240gとを混合して、3時間撹拌し酢酸銅溶液を得た。次に、得られた酢酸銅溶液に、リン酸エステル化合物であるプライサーフA208N(第一工業製薬社製)を1.646g加えて30分間撹拌し、A1液を得た。フェニルホスホン酸0.706gにTHF40gを加えて30分間撹拌し、B1α液を得た。4‐ブロモフェニルホスホン酸4.230gにTHF40gを加えて30分間撹拌し、B1β液を得た。次に、B1α液とB1β液とを混ぜて1分間撹拌し、メチルトリエトキシシラン(MTES)(信越化学工業社製、製品名:KBE-13)8.664gと、テトラエトキシシラン(TEOS)(キシダ化学社製 特級)2.840gとをこの混合液に加えて、さらに1分間撹拌し、B1液を得た。A1液を撹拌しながらA1液にB1液を加え、室温で1分間撹拌した。次に、この溶液にトルエン100gを加えた後、室温で1分間撹拌し、C1液を得た。このC1液をフラスコに入れてオイルバス(東京理化器械社製、型式:OSB-2100)で加温しながら、ロータリーエバポレータ(東京理化器械社製、型式:N-1110SF)によって、脱溶媒処理を行った。オイルバスの設定温度は105℃に調整した。その後、フラスコの中から脱溶媒処理後のD1液を取り出した。このようにしてアリール基を有するホスホン酸と銅成分を含む光吸収性化合物を含有しているD1液を得た。
【0095】
酢酸銅一水和物4.500gと、THF240gとを混合して3時間撹拌し酢酸銅溶液を得た。次に、得られた酢酸銅溶液に、リン酸エステル化合物であるプライサーフA208Nを2.573g加えて30分間撹拌し、E1液を得た。また、n‐ブチルホスホン酸2.885gにTHF40gを加えて30分間撹拌し、F1液を得た。E1液を撹拌しながらE1液にF1液を加え、室温で1分間撹拌した。次に、この溶液にトルエンを100g加えた後、室温で1分間撹拌し、G1液を得た。このG1液をフラスコに入れてオイルバスで加温しながら、ロータリーエバポレータによって、脱溶媒処理を行った。オイルバスの設定温度は105℃に調整した。その後、フラスコの中から脱溶媒処理後のH1液を取り出した。このようにしてアルキル基を有するホスホン酸と銅成分を含む光吸収性化合物を含有するH1液を得た。
【0096】
アリール基を有するホスホン酸の含有量Cf及びアルキル基を有するホスホン酸の含有量Csが質量基準でCf:Cs=71:29となるようにD1液及びH1液を混合し、さらに、硬化性樹脂(信越化学工業社製、製品名:KR-300)と、触媒(信越化学工業社製、製品名:CAT-AC)と、三官能アルコキシシランとしてのメチルトリエトキシシラン(MTES)(信越化学工業社製、製品名:KBE-13)と、四官能アルコキシシランとしてのテトラエトキシシラン(TEOS)(キシダ化学社製 特級)と、二官能アルコキシシランとしてのジメチルジエトキシシラン(DMDES)(信越化学工業社製、製品名:KBE-22)とを表1に示す量で混合した。この混合物を30分間撹拌し、実施例1に係る光吸収性組成物を得た。実施例1に係る光吸収性組成物における各アルコキシシランを完全加水分解縮合物に換算した固形分量及び硬化性樹脂の固形分量を表2に示す。表1において、他の実施例及び比較例においても、主として混合時又は光吸収性組成物の作製時の各原料の混合量(添加量)が示されている。
【0097】
表面防汚コーティング剤(ダイキン工業社製、製品名:オプツールDSX、有効成分の濃度:20質量%)0.1gと、ハイドロフルオロエーテル含有液(3M社製、製品名:ノベック7100)19.9gを混合し、5分間撹拌して、フッ素処理剤(有効成分の濃度:0.1質量%)を調製した。このフッ素処理剤を、130mm×100mm×0.70mmの寸法を有するホウケイ酸ガラス(SCHOTT社製、製品名:D263 T eco)の一方の主面に塗布した。その後、そのガラス基板を室温で24時間放置してフッ素処理剤の塗膜を乾燥させ、その後、ノベック7100を含んだ無塵布で軽くガラス表面を拭きあげて余分なフッ素処理剤を取り除いた。このようにしてフッ素処理基板を作製した。
【0098】
フッ素処理基板の一方の主面の中心部の80mm×80mmの範囲にディスペンサを用いて実施例1に係る光吸収性組成物を塗布して塗膜を形成した。得られた塗膜を室温で十分に乾燥させた後、オーブンに入れて室温~45℃の範囲で6時間かけて温度を上げながら溶媒及び副生成物を除去しつつ、さらに、45℃から85℃まで8時間かけて温度を上げながらさらに溶媒及び副生成物の除去を行った。その後、フッ素処理基板から塗膜を引き剥がし、得られた膜を、温度85℃かつ相対湿度85%の環境下にさらに24時間置いてポストキュアを行い、反応を完了させた。膜がある程度乾燥した後で、基板から剥離させ、さらに反応を促進させつつ、膜中に残存する溶媒や副生成物などを除去することができた。実施例1に係る光吸収性組成物は、加水分解性の所定量のアルコキシシランを含んでいた。ポストキュアの条件は、アルコキシシランの加水分解及び重合並びに重合物の結合等を促進させる目的で設定した。このようにして実施例1に係る光学フィルタを得た。
【0099】
<実施例2~7>
各原料の添加量を表1に示す通りに調整した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~7に係る光吸収性組成物を得た。実施例1に係る光吸収性組成物を用いる代わりに、実施例2~7に係る光吸収性組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、それぞれ、実施例2~7に係る光学フィルタを得た。
【0100】
<実施例8>
二官能アルコキシシランとしてジメチルジメトキシシラン(DMDMS)(信越化学工業社製、製品名:KBM-22)を用い、各原料の添加量を表1に示す通りに調整した以外は、実施例1と同様にして、実施例8に係る光吸収性組成物を得た。
【0101】
130mm×100mm×0.70mmの寸法を有するホウケイ酸ガラス(SCHOTT社製、製品名:D263 T eco)の一方の主面の中心部の80mm×80mmの範囲にディスペンサを用いて実施例8に係る光吸収性組成物を塗布して塗膜を形成した。得られた塗膜を室温で十分に乾燥させた後、オーブンに入れて室温~45℃の範囲で6時間かけて温度を上げながら溶媒及び副生成物を除去しつつ、さらに、45℃から85℃まで8時間かけて温度を上げながらさらに溶媒及び副生成物の除去を行った。その後、温度85℃かつ相対湿度85%の環境下に24時間置いて塗膜のポストキュアを行い、反応を完了させた。このようにして、透明基板としてガラス基板とともに光吸収層を備える実施例8に係る光学フィルタを得た。
【0102】
<実施例9~21>
各原料の添加量を表1に示す通りに調整した以外は、実施例1と同様にして、実施例9~21に係る光吸収性組成物を得た。実施例1に係る光吸収性組成物を用いる代わりに、実施例9~21に係る光吸収性組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、それぞれ、実施例9~21に係る光学フィルタを得た。
【0103】
<比較例1>
各原料の添加量を表1に示す通りに調整した以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係る光吸収性組成物を得た。実施例1に係る光吸収性組成物を用いる代わりに、比較例1に係る光吸収性組成物を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係る光学フィルタを得た。
【0104】
<透過スペクトルの測定>
日本分光社製の紫外可視近赤外分光光度計V-770を用いて、実施例1~15に係る光学フィルタ、実施例17~21に係る光学フィルタ、及び比較例1に係る光学フィルタの0°の入射角における透過スペクトルを測定した。透過スペクトルの測定は、特段に断りのない限り、光学フィルタの周囲の環境の温度を25℃にして行った。実施例1、2、6、7、8、11、19、及び20に係る光学フィルタの透過スペクトルの測定結果をそれぞれ図4、5、6、7、9、10、12、及び13に示す。また、各実施例に係る光学フィルタの透過スペクトルの測定結果及び比較例1に係る光学フィルタの透過スペクトルの測定結果に基づいて導かれる波長及び透過率に関するいくつかの特性を表3及び4に示す。なお、実施例8で用いた透明基板としてのホウケイ酸ガラスのガラス基板単体の0°の入射角における透過スペクトルを同様に測定した。その結果を図8に示す。図8に示す通り、ガラス基板は、少なくとも波長360nm~2500nmの範囲において90%以上の透過率を有していた。
【0105】
OPTQUEST社製の小型恒温槽の内部に実施例16に係る光学フィルタを設置し、小型恒温槽の内部の温度を25℃に調節した。この状態で、日立製作所社製の紫外可視分光光度計U-4100を用いて、実施例16に係る光学フィルタの0°の入射角における透過スペクトルを測定した。さらに、小型恒温槽の内部の温度を70℃に調節した状態で、同様にして、実施例16に係る光学フィルタの0°の入射角における透過スペクトルを測定した。各温度における実施例16に係る透過スペクトルを図11に示す。図11において、実線のグラフが25℃における透過スペクトルを示し、破線のグラフが70℃における透過スペクトルを示す。実施例16に係る光学フィルタの透過スペクトルの測定結果に基づいて導かれる波長及び透過率に関するいくつかの特性を表3及び4に示す。
【0106】
<厚み測定>
キーエンス社製のレーザー変位計LK-H008を用いて、各実施例及び比較例1に係る光学フィルタの厚みを測定した。結果を表3に示す。なお、実施例8に係る光学フィルタの厚みにはガラス基板の厚みは考慮されていない。
【0107】
表3に示す通り、各実施例に係る光学フィルタにおいて上記(i)、(ii)、(iii)、(iv)、(v)、(vi)、(vii)、(viii)、(ix)、及び(x)の条件が満たされていた。実施例8に係る光学フィルタによれば、光吸収性組成物が硬化性樹脂を含有していなくても所望の光学フィルタが得られることが理解される。一方、比較例1に係る光学フィルタでは、(ii)の条件が満たされていなかった。
【0108】
実施例21に係る光学フィルタ及び比較例1に係る光学フィルタでは、波長1500nm~1700nmの範囲内における透過率の最小値が、実施例1~20に係る光学フィルタのその最小値と比べて低かった。このため、光吸収性組成物において、アリール基を有するホスホン酸の含有量Cf及びアルキル基を有するホスホン酸の含有量Csが、質量基準で、Cf:Cs=50:50~100:0の関係を満たすことが波長1500nm~1700nmの範囲内における透過率の最小値を高めるうえで有利であることが示唆された。
【0109】
図11並びに表3によれば、実施例16に係る光学フィルタの透過スペクトルの波長550nm~800nmの範囲内のカットオフ波長、波長1000nm~1800nmの範囲内のカットオフ波長、及び波長350nm~450nmの範囲内のカットオフ波長は、光学フィルタの温度が25℃から70℃に変化しても大きくは変動しないことが理解される。
【0110】
【表1】
【0111】
【表2】
【0112】
【表3】
【0113】
【表4】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13