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特許7577757アルカリ安定性の上昇したシリカエアロゲル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】アルカリ安定性の上昇したシリカエアロゲル
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/16 20060101AFI20241028BHJP
   F16L 59/02 20060101ALI20241028BHJP
【FI】
C01B33/16
F16L59/02
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022564653
(86)(22)【出願日】2021-04-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-02
(86)【国際出願番号】 EP2021060255
(87)【国際公開番号】W WO2021219444
(87)【国際公開日】2021-11-04
【審査請求日】2022-12-05
(31)【優先権主張番号】20172350.9
(32)【優先日】2020-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウウェ ニュームリッヒ
(72)【発明者】
【氏名】ステファン バーデ
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス マリオン
(72)【発明者】
【氏名】マティアス コエベル
(72)【発明者】
【氏名】ウィム マルファイト
(72)【発明者】
【氏名】ステファニー ハウサー
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス ボゲル
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-530199(JP,A)
【文献】Win J, Malfait et al,Surface Chemistry of Hydrophobic Silica Aerogels,Chem. Mater.,2015年09月04日,Vol.27,p.6737-6745
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 - 33/193
F16L 59/02
F16L 59/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水化シリカエアロゲルを製造する方法であって、
a)アルコキシ基を含む疎水化シリカゲルを調製する工程と、
b)工程a)で得られた疎水化シリカゲルを乾燥する工程と、
c)工程b)で得られた生成物の前記アルコキシ基を、水および塩基または酸を含むガス混合物によって加水分解処理する工程と
を含み、
前記工程c)が50~250℃の温度で実施され、前記工程c)の継続時間が1~1000分であり、前記工程c)において、水の塩基または酸に対するモル比が少なくとも4である、方法。
【請求項2】
アルコキシ基が、メトキシ(OCH)、エトキシ(OC)、プロポキシ(OC)、ブトキシ(OC)、およびそれらの混合物からなる群より選択されるアルキルアルコキシ基である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程a)の前記疎水化シリカゲルが、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、オルトケイ酸テトラメチル(TMOS)、オルトケイ酸テトライソプロピル(TPOS)、およびそれらの混合物またはオリゴマーからなる群より選択される有機ケイ酸エステルの加水分解により得られる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程a)、ケイ酸ナトリウム、水ガラス、イオン交換水ガラス、ケイ酸またはコロイダルシリカ、およびそれらの混合物からなる群より選択される無機前駆体のゲル化を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記工程a)が、塩化水素、硝酸、硫酸、トリメチルクロロシラン、およびそれらの混合物からなる群より選択される酸触媒により活性化可能な疎水化剤を用いて行われる、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記工程a)が、ヘキサメチルジシロキサン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、およびそれらの混合物からなる群より選択される酸触媒により活性化可能な疎水化剤を用いて行われる、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記工程a)は、a1)シリカゾルを含む混合物を用意する工程と、a2)前記混合物をゲル化してシリカゲルを得る工程と、a3)前記シリカゲルを疎水化して疎水化シリカゲルを得る工程と、を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項8】
前記工程a3)の前に、前記工程a2)で得られたシリカゲルを、アンモニア、フッ化アンモニウム、アミノシラン、およびそれらの混合物からなる群より選択される塩基触媒の存在下で熟成させる工程含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程b)が亜臨界条件下で行われる、請求項1からのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
方法の工程c)で用いられる塩基が、アンモニア、低級脂肪族アルキルアミン、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項1からのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
方法の工程c)で用いられる酸が、塩酸(HCl)、フッ化水素酸(HF)、臭化水素酸(HBr)、ヨウ化水素酸(HI)、硝酸(HNO)のような揮発性鉱酸、ギ酸および酢酸のようなカルボン酸、トリメチルクロロシランのようなハロシラン、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項1から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
トリメチルシロキシル(≡SiOSiMe)基、アルコキシシリル(≡SiOR)基、およびシラノール(≡SiOH)基を含むシリカエアロゲルにおいて、
最大で0.17g/cmのエンベロープ密度、
トリメチルシロキシル基、アルコキシシリル基、およびシラノール基の量の合計に対するトリメチルシロキシル基(≡SiOSiMe)の量の比NSiOSiMe3/(NSiOSiMe3+NSiOR+NSiOH)が0.5より大きい、ならびに
アルコキシシラン基およびシラノール基の量の合計に対するアルコキシシラン基の量の比NSiOR/(NSiOR+NSiOH)が0.05~0.30であること
を特徴とし、
Rはアルキル基であり、
トリメチルシロキシル(≡SiOSiMe)基およびアルコキシシリル(≡SiOR)基の量はH-NMRにより測定され、シラノール(≡SiOH)基の量は29Si-NMRにより測定される、シリカエアロゲル。
【請求項13】
断熱および/または遮音のための、請求項12に記載のシリカエアロゲルの使用。
【請求項14】
断熱容器、または、しっくい、モルタル、およびコンクリートの処方のようなペースト性が付与された処方品、または、断熱および/または遮音コーティングである断熱および/または遮音材のためのバルク材料としての、または、
産業用途での省エネ断熱コーティングとしての、または、
軽量建築構造物用途のための断熱繊維製品の構成材および薄膜としての、
請求項13に記載のシリカエアロゲルの使用。
【請求項15】
請求項12に記載のシリカエアロゲルを含む断熱および/または遮音用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカエアロゲルを製造する特別な方法、エトキシ基含有量の低下したシリカエアロゲル、および断熱のための、そのようなエアロゲルの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカ系エアロゲルおよびキセロゲルは、熱伝導率および物質密度が非常に低いため、非常に効率的な絶縁材として、例えば建物用断熱材においてますます使用されている。コスト効率の高いエアロゲルおよびキセロゲルの製造がますます重要になってきている。それらの製造のための数多くの方法が知られている。典型的には、出発点は水ガラス(ケイ酸ナトリウム)またはテトラアルコキシシラン(有機ケイ酸エステル)、例えばオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)およびオルトケイ酸テトラメチル(TMOS)であり、あまり広く行きわたっていない疎水性T型アルコキシシラン、例えばメチルトリメトキシシラン(MTMS)またはメチルトリエトキシシラン(MTES)がケイ素原料として用いられ、初めにシリカゾル、次いでシリカゲルを形成する。
【0003】
これまで、エアロゲルは伝統的に、もっぱら超臨界乾燥、即ち超臨界流体、典型的には低級アルコール(高温超臨界乾燥またはHTSCD)、最近では好ましくはCO(低温超臨界乾燥またはLTSCD)からの乾燥によってのみ製造されてきた。上記乾燥方法においては、用いられる溶媒に特有の臨界パラメーター、例えば温度および圧力を超えないことが必要であった。COの臨界温度および臨界圧力は、約31℃および約74barである。そのような高い処理圧力で反応を行うことは、エアロゲルの製造のために比較的コスト集約的な工程制御および設備投資が必要となる。
【0004】
同様の構造のエアロゲルまたはキセロゲルの製造における重要な飛躍的進歩は、溶媒を含有する疎水化ゲルからの標準気圧での亜臨界乾燥により実現された。この方法は、例えばUS5565142A1に記載されている。そのような亜臨界条件下での乾燥により、超臨界乾燥エアロゲルとほぼ同一の特性を有する材料を製造することが可能となった。初期には、それらは古典的定義に従ってキセロゲルと名付けられ、これは溶媒から亜臨界乾燥されたエアロゲルに今なお用いられる用語である。それらの製造の性質に基づいて用いられるエアロゲルの古典的定義よりもむしろ、本明細書の以下では代わりに、典型的な材料特性(密度が0.30g/cm未満、多孔性が85%より大きい、細孔サイズが20~80nm)に基づいた定義を用いる。したがって、亜臨界乾燥材料はなお、キセロゲルではなくエアロゲルと呼ぶ。
【0005】
WO2012/044052A2は、粒状形態の光学的に透明および不透明なシリカエアロゲルの調製に関する。これは水ガラスゾルをアルコール相に注入することにより行われ、結果としてゲルが形成される。このゲルは更にアルコールで交換され、シリル化試薬を用いて疎水化される。次いで、このゲルは標準気圧または減圧下で乾燥される。この方法の必須の工程は、ヒドロゲル相から水を除去するために必要なエタノールでの洗浄である。アルコールを用いることにより、得られるエアロゲルは必然的に少量のアルコキシ基を含有する。
【0006】
WO2013/053951A1は、キセロゲルを製造する方法であって、以下の一連の方法工程:(a)テトラエトキシシラン(TEOS)の加水分解によってアルコール含有ゾルを製造する工程、(b)~(c)上記ゾルをゲル化および熟成する工程、(d)工程(b)および(c)で製造および熟成したゾルを疎水化する工程、(e)疎水化ゾルを80℃より低い温度で予備乾燥する工程、および(f)任意に、100℃より高い温度で完全乾燥する工程を含む方法を開示している。そのような加水分解された有機ケイ酸エステル由来のエアロゲルも、かなりの量の未加水分解エトキシ基を含有する。
【0007】
W.J.Malfaitらは、Chem.Mater.2015、第27巻、6737頁~6745頁において、NMR手法を用いた種々の種類の疎水化エアロゲルおよび関連するシリカフォームの表面化学の特性評価について記載している。したがって、テトラエトキシシラン(TEOS)、ポリエトキシジシロキサン(PEDS)、または水ガラス前駆体から調製された試料は、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、トリメチルクロロシラン(TMSCl)、またはヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)を用いてトリメチルシリル(TMS)基で疎水化された。この刊行物の表2は、NMR手法で測定されたトリメチルシリル(Si-O-TMS)基、エトキシ(Si-O-Et)基、およびシラノール(Si-OH)基の含有量を示している。TMS基で改変された全ての調製されたエアロゲル試料は、比較的高いトリメチルシリル基含有量(2.9~3.8mmol/g)を含んでいた。試料1、2および4のエトキシ基およびシラノール基の含有量は、それぞれ0.3、0.6、0.9、および1.0、1.0、1.8mmol/gであった。
【0008】
したがって、前駆体系においてアルコキシ基、特にエトキシ基を含有する前駆体から調製された、またはかなりの量のエタノールなどのアルコールを含有する溶媒系におけるゾル-ゲルおよび/もしくは溶媒交換プロセスに由来する、シリカエアロゲルおよび同様の材料は、常にかなりの量の未加水分解エトキシ基を含有するであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許公開番号第5565142A1
【文献】国際公開番号第2012/044052A2
【文献】国際公開番号第2013/053951A1
【文献】米国特許番号3562177
【文献】国際公開番号第2015/014813A1
【非特許文献】
【0010】
Chem.Mater.2015、第27巻、6737頁~6745頁 W.J.Malfaitら
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この通常残っているエトキシ基含有量が、そのようなシリカエアロゲルの実際の使用の間、特に無機バインダー系処方に統合される場合に、いくつかの顕著な不利益をもたらすことが見出された。そのような場合、未反応エトキシ基は、いくつかの断熱組成物、例えばエアロゲル含有下塗り、セメントまたは他のモルタル組成物における石灰系またはセメント系バインダーのアルカリ成分の存在下ですばやく加水分解する傾向にある。得られる断熱無機組成物は次いで、機械的完全性、耐久性、および結局のところ断熱特性についても大きな低下を示す。
【0012】
本発明が取り組む技術的課題は、そのようなアルカリ成分に対する安定性が上昇したシリカエアロゲルを提供することである。本発明の別の目的は、そのようなシリカエアロゲルを製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の目的は、疎水化シリカエアロゲルを製造する方法であって、
a)アルコキシ基を含む疎水化シリカゲルを調製する工程と、
b)工程a)で得られた疎水化シリカゲルを乾燥する工程と、
c)工程b)で得られた生成物を、水および塩基または酸を含むガス混合物によって処理する工程と
を含む、方法である。
【0014】
US3,562,177は、水ガラス水溶液から得られたシリカエアロゲルをアンモニアと反応させることにより調製された、0.10重量%~2.5重量%のアンモニアを含有する親水性シリカエアロゲル粒子を含む増粘剤を開示している。しかしながらUS3,562,177には、疎水化シリカエアロゲルを水およびアンモニアで処理することについては記載されていない。
【0015】
驚くべきことに、本発明の方法は、アルカリ成分を含有する断熱組成物の調製に特に適した、残留アルコキシ基の含有量が低下した疎水化シリカエアロゲルを提供することが見出された。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の方法の工程a)において、疎水化シリカゲルが得られる。工程a)は、好ましくは更に、a1)シリカゾルを含む混合物を用意する工程と、a2)工程a1)で得られた混合物をゲル化する工程と、任意に、a3)工程a2)で得られたゲルを熟成する工程と、a4)工程a2)で得られたゲルを疎水化する工程と、任意に、a5)工程a2)で既に得られ任意に工程a3)で熟成されたゲルにおいて、溶媒交換を行う工程とを含む。
【0017】
上記アルコキシ基は、好ましくは、低分子C1~C4脂肪族アルコキシ基であり、メトキシ(OCH)、エトキシ(OC)、プロポキシ(OC)、ブトキシ(OC)、およびそれらの混合物からなる群より選択されうる。最も好ましくは、アルコキシ基はエトキシ基である。
【0018】
上記シリカゾルは、ケイ酸ナトリウム(水ガラス)溶液、イオン交換水ガラス、ケイ酸またはコロイダルシリカ、およびそれらの混合物から開始する方法の工程a1)において調製されうる。アルコールが、上記ゾルの調製の間またはゲル化の間に存在してもよく、その後の、得られたシリカエアロゲルの乾燥前の溶媒交換の間および/または疎水化の間に添加されてもよい。この場合、得られたシリカエアロゲルは通常、残留している未加水分解アルコキシ基を含む。
【0019】
上記シリカゲルは、そのままの形態またはアルコール溶液として、有機ケイ酸エステルSi(OR)の加水分解により工程a1)において製造された対応するシリカゾルから得られうる。上記有機ケイ酸エステルは、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS、R=C)、オルトケイ酸テトラメチル(TMOS、R=CH)、オルトケイ酸テトライソプロピル(TPOS、R=i-Pr)、およびそれらの混合物またはオリゴマーからなる群より選択されてよい。
【0020】
有機ケイ酸エステルの水との反応は、結果としてそれらの加水分解となり、ケイ素に結合したアルコキシ基(OR)が部分的または完全にシラノール基Si-OHで置き換えられ、これは次いで互いに反応していわゆる重縮合反応を介してシロキサン結合(Si-O-Si)を形成しうる。加水分解および縮合は、触媒、例えば酸および塩基により強く影響を受ける、多くの相互につながった化学平衡を含む動的反応である。かなりの残留割合の未加水分解アルコキシ基Si-ORを有する無定形シリカから構成されるナノスケールのコロイド粒子からなる、有機ケイ酸エステルのそのような加水分解物は、通常、粘度が低く、二酸化ケイ素ゾルまたはシリカゾルと呼ばれる。
【0021】
上記シリカゾルは続いて、アルコール、好ましくは酸触媒により活性化可能な疎水化剤、および水からなる有機溶媒混合物を用いて希釈されてもよい。
【0022】
アルコール、シリカゾル、および疎水化剤に加えて、工程a)で用いられるシリカゾル混合物が少しの割合の水、不可避不純物、およびシリカゾルの製造において慣習となっている一定の添加剤を含有してもよいことは言うまでもない。この混合物は、更に、少なくとも1つの重合可能な官能性シラン、および任意にまた、製造されるエアロゲル材料内にポリマー構造を形成可能な1つまたは複数のモノマーを含んでもよい。上記重合可能な官能性シランは、有利には、従来のビニルトリアルコキシシラン、例えばビニルトリエトキシシランおよびビニルトリメトキシシラン、または3-トリアルコキシシリルプロピルメタクリレート、例えばトリメトキシシリルプロピルメタクリレートまたはトリエトキシシリルプロピルメタクリレートの場合のように、遊離基により重合可能な基を含有する。好ましいモノマーは同様に、遊離基により重合可能な物質、例えばアクリレート、塩化ビニル、スチレンまたはジビニルベンゼンの群から選択される。更に、または別に、機械的な補強を提供する添加剤、例えば短繊維、例えばガラス繊維または鉱物繊維が、シリカゾルを含有する混合物に添加されてもよい。更に、上記ゾルはまた、少なくとも1つの、例えば疎水性基を持つ有機官能性シランを含有してもよい。そのような有機官能性シランは、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、n-オクチルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、n-ブチルトリエトキシシラン、n-ブチルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシランであることができる。
【0023】
本発明の方法の工程a1)は、上記前駆体がアルコキシシランまたは有機ケイ酸エステルである場合、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、およびそれらの混合物からなる群より選択されるアルコールの存在下で行われてもよい。
【0024】
本発明の方法の工程a1)は、上記前駆体が水ガラスまたはケイ酸ナトリウム、イオン交換ケイ酸ナトリウムまたはオリゴマーケイ酸溶液である場合、大部分の水、ならびにメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、およびそれらの混合物からなる群より選択されるアルコールの任意の少ない画分の存在下で行われてもよい。
【0025】
本発明の方法において、上記シリカゲルは、ケイ酸ナトリウム、水ガラス、イオン交換水ガラス、ケイ酸またはコロイダルシリカ、およびそれらの混合物からなる群より選択される無機前駆体のゲル化により得られうる。
【0026】
この場合、工程a)とb)との間の処理操作のいずれかの間に用いられる溶媒系は、アルコール系溶媒系であることができる。
【0027】
上記シリカゾルの製造においては、触媒量の酸、および不足当量の水が好ましくは有機ケイ酸エステルのアルコール溶液に添加され、ここで、1:1~3.5:0.0001~0.01、より好ましくは1:1~2.5:0.0005~0.005の有機ケイ酸エステル/水/酸のモル比が守られる。用いることができる酸の例は、硫酸、塩酸または硝酸である。
【0028】
疎水化剤は、酸化物表面に疎水撥水性を与える成分を意味するものと理解される。これは、疎水化剤のシリカ表面との反応により実現される。シリカについての典型的な疎水化剤の例は、オルガノシラン、オルガノシロキサン、およびオルガノシラザンである。WO2015/014813A1から、これらの疎水化剤のいくつかは酸触媒により活性化されうることが知られており、これは、触媒量の一定の酸の存在下で、それらは触媒がない場合よりも低い温度でおよび/または迅速にシリカ表面と反応できることを意味する。好ましくは本発明の方法において用いられる、酸触媒により活性化可能なそのような疎水化剤の例として、オルガノシロキサンおよび他のアルキルアルコキシシランが挙げられる。酸触媒により活性化可能な疎水化剤として特に適するのは、ヘキサメチルジシロキサンおよびトリアルキルアルコキシシラン、特にトリメチルアルコキシシラン、例えばトリメチルエトキシシランおよびトリメチルメトキシシランである。本発明における酸触媒により活性化可能な疎水化剤は、非常に特に好ましくは、ヘキサメチルジシロキサン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、およびそれらの混合物からなる群より選択される。
【0029】
本発明の方法の工程a)は、好ましくは、塩化水素、硝酸、硫酸、トリメチルクロロシラン、およびそれらの混合物からなる群より選択される酸触媒により活性化可能な疎水化剤を用いて行われる。
【0030】
工程a1)で形成されたシリカゾルを含む混合物に塩基を添加し、好ましくは続いて混合することによって、本発明の方法の工程a2)におけるゲル化プロセスが開始されてもよく、その少し後に、最終的なゲル化、および工程a2)で形成されたゲルの任意の熟成が工程a3)において行われてもよい。
【0031】
既に形成されたコロイド粒子の表面の例えば有機ケイ酸エステル基の加水分解により形成された、前述したSi-OHシラノール基は、工程a2)において縮合し、塩基の添加、任意に更なる加熱により今度は触媒されて、二酸化ケイ素ゲルまたはシリカゲルと呼ばれる三次元粒子ネットワークが形成される。したがって、上記ゲルはアルコール/疎水化剤媒体中で形成し、これはまた「アルコゲル」または「オルガノゲル」とも呼ぶことができ、溶媒混合物にアルコールとも疎水化剤とも異なる第2の共溶媒が存在する場合は典型的には更なる熟成工程に供され、ここで上記粒子ネットワーク構造は、粒子間のネック(neck)領域の間の新たな化学的シロキサン結合の形成により機械的に補強される。実際には、上記ゾル系および添加される塩基の量は通常、ゲル化時間が5から15分の間となるように選択される。
【0032】
シリカゾルをゲル化する工程、すなわち方法の工程a2)、および任意に、得られたシリカゲルを熟成する工程、すなわち方法の工程a3)は、好ましくは、アンモニア、低級脂肪族アルキルアミン、アミノシラン、フッ化アンモニウム、アルカリ金属水酸化物(特に、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウム)、アルカリ土類金属水酸化物、およびそれらの混合物からなる群より選択される塩基触媒の存在下で行われる。低級脂肪族アミンは、500g/mol未満のモル質量を有する一級、二級、または三級アルキルアミンを意味するものと理解される。特に適したアミノシランの例は、アミノプロピルトリメトキシシランまたはアミノプロピルトリエトキシシランである。上記塩基触媒は、特に好ましくは、アンモニア、フッ化アンモニウム、またはアミノシランからなる群より選択される。溶媒中の上記塩基触媒の希釈溶液、例えば希釈アルコールアンモニア溶液を添加することが好ましい。
【0033】
工程a2)は、好ましくは、工程a3)の前に1時間以内、好ましくは30分以内、より好ましくは10分以内で行われる。
【0034】
本発明の特定の実施形態において、工程a2)およびa3)は1つの工程において行われ、上記塩基触媒の添加およびその後の上記シリカゾルの熟成は同じ反応器内で行われる。
【0035】
工程a3)は、好ましくは、60℃~130℃、より好ましくは80℃~120℃の温度で行われてよい。この工程の通常の継続時間は、5~240分、好ましくは10~180分である。より好ましくは、本発明の方法の工程a3)は、90~115℃の温度で20~75分以内に行われる。操作は通常、混合物の沸点より高い温度(エタノールが溶媒として用いられる場合、約80℃)で行われることから、工程b2)およびc)を行うためには圧力容器の使用が好ましい。
【0036】
本発明の方法の工程a4)においては、疎水化触媒の添加によって、工程a2)で製造されたシリカゲルの疎水化が開始されてもよい。上記疎水化触媒は上記ゲルに添加されてもよく、あるいは上記シリカゲルにおいて直接放出されてもよい。
【0037】
酸触媒により活性化可能な疎水化剤が、本発明の方法において好ましく用いられる。そのような疎水化剤は、伝統的にはHまたはHイオンを発生するブレンステッド酸の存在下で活性化される。したがって、わずかに塩基性の条件下で進むゲル化プロセス、および酸性条件下で進む上記疎水化プロセスは、同じオルガノゲルにおいて別々の操作として明確に時間を分離して行われてよい。
【0038】
本発明の特に好ましい実施形態において、疎水化触媒は、塩化水素(ガス状または溶液として)、硝酸、硫酸、トリメチルクロロシラン、およびそれらの混合物からなる群より選択される。疎水化触媒として塩化水素、硝酸、硫酸またはトリメチルクロロシランのアルコール溶液を用いることが特に好ましい。
【0039】
本発明の更なる実施形態において、上記疎水化触媒は、フリーラジカル分解プロセスによりゲルにおいてそこで形成される。上記疎水化触媒は、有利には、既に添加された有機塩素化合物、例えば安定性の低いまたは不安定なPVC、トリクロロメタン、クロロアセトン、またはテトラクロロエチレンのフリーラジカル分解により形成される。上記疎水化触媒は有利にはHClであって、したがって望まれる時点において放出されてよく、放出は電磁放射(UV、X線)または従来のラジカル開始剤のいずれかによりもたらされる。光学的な透明性が高厚みの少ないゲルのためには、光化学フリーラジカル分解プロセスが好ましい。
【0040】
本発明の更なる実施形態において、上記疎水化触媒は持続放出剤によりゲルにおいて放出され、放出は熱活性化により任意に開始されるかまたは速められる。この場合、疎水化触媒として、上記ゾルに存在する「持続放出」または「制御放出」添加剤、例えばマイクロカプセル、ナノカプセルまたは粒子から放出される、塩化水素、硝酸、もしくは硫酸、またはそれらの前駆体を用いることが好ましい。これらの添加剤は、理想的には、外部から制御可能な処理パラメーター、例えば圧力、温度または電磁放射(光、電波、マイクロ波)により活性化される。
【0041】
本発明の方法の工程a3)および/またはa4)は、好ましくは、圧力容器において1~20barの圧力、より好ましくは1.1~10bar(絶対圧)の圧力、最も好ましくは1.2~5bar(絶対圧)の圧力で行われる。標準気圧では、用いられる溶媒混合物の沸点は通常、80から100℃の間である。圧力鍋の例から類推して、圧力容器における操作により本発明の工程a4)を80~130℃の範囲のかなり高い温度で行うことが可能となり、このことは反応速度を上昇させる。このことは熟成時間および疎水化時間の両方を大幅に低下させ(例えば、65℃で24時間から90℃でちょうど3時間への熟成時間の減少)、結果として処理効率がかなり上昇する。
【0042】
本発明の特に好ましい実施形態においては、工程a4)のシリカの疎水化は80~130℃の温度、1.2~4barの圧力で20~180分以内に行われる。
【0043】
本発明の方法の工程b)においては、工程a)で得られた疎水化シリカゲルの乾燥が行われる。この工程b)は、亜臨界条件下または超臨界条件下で、好ましくは亜臨界条件下で行われてもよい。
【0044】
「亜臨界条件」下では、用いられる溶媒に特有の臨界パラメーター、例えば温度および圧力を超えないことが理解される。これに対して、「超臨界条件」下ではこれらのパラメーターを超えなければならない。したがって、超臨界条件下では、用いられる溶媒混合物(細孔液)は乾燥の間に超臨界流体として存在する。例えば、COの臨界温度および臨界圧力は約31℃および約74barである。
【0045】
本発明の方法の工程b)においては、疎水化シリカゲルに存在する揮発性成分、例えばアルコールおよび残留している疎水化剤は例えば、蒸発乾燥により除去され、最終的なエアロゲル構造が残される。この工程においては、好ましくは95%を超え、より好ましくは98%を超える全ての揮発性成分が除去される。混合物の揮発性成分は、標準気圧で200℃未満の沸点を有する全ての成分を意味するものと理解される。
【0046】
本発明の好ましい実施形態において、工程b)は、少なくとも部分的には減圧下で、より好ましくは0.1~1barの絶対圧で行われる。減圧下での乾燥は、それが低い温度で、即ち低減した熱エネルギー要求にて行われうるという利点を有する。したがって、減圧下で作業すると、特に乾燥終了時に、同じ温度においてエアロゲル材料中の残留溶媒(残留水分)の含有量を低くすることができる。一方で処理手法の観点からは、対流ガス交換を介した乾燥する材料との熱の伝導は、圧力の上昇とともに増大し、これは続いて乾燥時間を減らし、処理効率を上げる。本発明の方法の工程b)は、特に好ましくは100~200℃の温度、0.1~4barの圧力で行われる。
【0047】
本発明の更に好ましい実施形態において、工程b)を実施する間、キャリアガスは連続的に反応器に入り、反応器のガス状成分と混合した後、次いで反応器を出る。このことは、乾燥工程をかなり短縮し、および/または少ない残留水分のエアロゲル材料の製造を可能にする。用いられるキャリアガスは、例えば窒素であってよい。用いられるキャリガスは、特に好ましくは50~200℃の温度に予熱される。予熱されたキャリアガスは、有利には、1~4barへの圧力調整により反応器に導入されうる。このことは、導入されたガスと反応器における固体/液体反応混合物の間の熱の伝導を促進する。単位時間あたりの反応器へのガス流入および反応器体積が、150~1500h-1のガス毎時空間速度(gas hourly space velocity)(GHSV)に対応する場合に特に有利であることが見出された。
GHSV[h-1]=単位時間あたりの反応器へのガス流入L/反応器体積L
【0048】
本発明の方法の工程c)においては、工程b)で得られた生成物の水および塩基または酸を含むガス混合物、好ましくは充分に揮発性のガス混合物による、処理が行われる。方法のこの工程c)の目的は、方法の工程b)で得られた疎水化シリカゲルに存在する残留アルコキシ基、例えばエトキシ基の加水分解度を最大にするために、反応物としての水と酸または塩基触媒とが共同するのを最適化することである。
【0049】
方法の工程c)で用いられる塩基または酸は、好ましくは、アルコキシシラン基Si-O-Rの加水分解を触媒するのに適しており、ここで、Rは例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、または他のアルキル基であることができる。そのような塩基または酸触媒は、好ましくは、立体的にかさ高いシロキシル基、例えばSi-O-SiR の加水分解は引き起こさず、ここで、Rは好ましくはメチルである。
【0050】
方法の工程c)で用いられる塩基は、好ましくは、アンモニア、低級脂肪族アルキルアミン、例えばトリメチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、およびそれらの混合物からなる群より選択される。
【0051】
方法の工程c)で用いるのに適した酸は、塩酸(HCl)、フッ化水素酸(HF)、臭化水素酸(HBr)、ヨウ化水素酸(HI)、硝酸(HNO)のような揮発性鉱酸、ギ酸および酢酸のようなカルボン酸、トリメチルクロロシランのようなハロシラン、およびそれらの混合物からなる群より選択されうる。
【0052】
水および塩基または酸は、方法の工程c)においてガス(蒸気)の形態で存在する。このことは、工程c)におけるアルコキシ基の加水分解を促進し、かつ処理されたエアロゲルのその後の乾燥を不要にすることができる。
【0053】
方法の工程c)において、水の塩基または酸に対するモル比は、好ましくは少なくとも4、より好ましくは少なくとも5、より好ましくは少なくとも10である。
【0054】
本発明の方法の工程c)で用いられるガス混合物は、更に、キャリアガス、例えば窒素、空気、アルゴンを含むことができる。
【0055】
塩基、例えばアンモニア、または酸、例えば塩酸の水溶液を、キャリアガス、例えば窒素または空気をこの溶液に導入することにより気化させることができ、それによりキャリアガス、水および塩基または酸のガス混合物が得られ、これは本発明の方法の工程c)において直接用いることができる。
【0056】
本発明の方法の工程c)の間に維持される温度は、好ましくは50℃~250℃、より好ましくは75℃~200℃、より好ましくは100℃~180℃、より好ましくは120℃~170℃である。
【0057】
本発明の方法の工程c)の継続時間は、好ましくは1分~1000分、より好ましくは2分~500分、より好ましくは3分~200分、より好ましくは4分~100分、より好ましくは5分~30分である。
【0058】
本発明は、更に、トリメチルシロキシル(≡SiOSiMe)基、アルコキシシリル(≡SiOR)基、およびシラノール(≡SiOH)基を含むシリカエアロゲルにおいて、
最大で0.17g/cmのエンベロープ密度、
0.5より大きい、好ましくは0.6より大きい、より好ましくは0.7より大きい、トリメチルシロキシル基(≡SiOSiMe)の量のトリメチルシロキシル基、アルコキシシリル基、およびシラノール基の量の合計に対する比NSiOSiMe3/(NSiOSiMe3+NSiOR+NSiOH)、ならびに
0.05~0.35、好ましくは0.10~0.32、より好ましくは0.15~0.30の、アルコキシシラン基の量のアルコキシシラン基およびシラノール基の量の合計に対する比NSiOR/(NSiOR+NSiOH
を特徴とし、
Rはアルキル基、好ましくはアルキルアルコキシ基、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、より好ましくはメチルまたはエチルであり、
好ましくはW.J.Malfaitら、Chem.Mater.2015、第27巻,6737頁~6745頁に記載されたプロトコルに従って、トリメチルシロキシル(≡SiOSiMe)基およびアルコキシシリル(≡SiOR)基の量はH-NMRにより測定され、シラノール(≡SiOH)基の量は29Si-NMRにより測定される、シリカエアロゲルを提供する。
【0059】
本発明のシリカエアロゲルのエンベロープ密度は、最大で0.17g/cmであり、好ましくは0.05g/cm~0.160g/cm、より好ましくは0.07g/cm~0.150g/cm、より好ましくは0.08g/cm~0.140g/cmである。
【0060】
エンベロープ密度は、大きな粒状(典型的には1~2mmより大きい)の多孔質材料について、前記材料内の大きな内部細孔体積により、例えば単純な浮力手法を用いた直接的な測定が除外される場合に測定されうる。この場合、測定される粒状材料試料は、細孔に入ることはないものの不規則な表面の外形に従ってぴったりと合う「エンベロープ」を形成する媒体、例えば自由に流れる乾燥粉末媒体により取り囲まれる。
【0061】
エンベロープ密度は、例えばGeoPyc 1360装置(Micromeritics)を用いた粉末比重瓶法により測定されうる。
【0062】
上記トリメチルシロキシル(≡SiOSiMe)基および上記アルコキシシリル(≡SiOR)基の量は、H-NMR分析により測定される。特に、定量化のために公知の物質を参照する定量的固体NMRマジック角回転(MAS)手法が用いられる。上記トリメチルシロキシル(≡SiOSiMe)基のメチルのシグナルに対応するピークが測定される。アルコキシシリル(≡SiOR)基の測定については、そのシグナルがHスペクトルにおける他のプロトンと大きく重なることのないアルコキシ基のいずれかのプロトンを用いることができる。メトキシ基またはエトキシ基については、メチル基のプロトンが用いられる。
【0063】
H-NMRスペクトルは、249.9ppmのスペクトル幅および328msの取得時間を用い、400.2MHzのラーモア周波数に対応するワイドボア9.4T磁石で記録することができる。2.5mmジルコニアローターで24kHz MAS速度の適用を用いてライン幅を最小化することができる。全てのスペクトルは、飽和回復法実験で測定される場合、通常、T1緩和時間の少なくとも5倍のリサイクルディレイ(recycle delay)で収集され、それらの定量的性質を保証する。アダマンタンおよびオクタキス(トリメチルシロキシ)シルセスキオキサン(Q8M8)の完全緩和スペクトルを、絶対的なNMRシグナル強度のキャリブレーションのために用いることができる。
【0064】
上記シラノール(≡SiOH)基の量は、それぞれのQ種がアルコキシ基または水酸基のいずれかと連結していると仮定して、Q種とアルコキシ基の差から固体MAS-29Si-NMRにより測定される。
【0065】
29Si-NMRスペクトルは、349.3ppmのスペクトル幅および74msの取得時間を用い、79.5MHzのラーモア周波数に対応するワイドボア9.4T磁石で記録することができる。7mmジルコニアローターで4kHz MAS速度を適用したBruker Avance III HD装置を用いてライン幅を最小化することができる。
【0066】
全てのNMRスペクトル(Hおよび29Si)は、飽和回復法実験で測定される場合、通常、T1の少なくとも5倍のリサイクルディレイで収集され、それらの定量的性質を保証する。アダマンタンおよびオクタキス(トリメチルシロキシ)シルセスキオキサン(Q8M8)の完全緩和H-NMRスペクトルを、絶対的なH-NMRシグナル強度のキャリブレーションのために用いることができ、オクタキス(トリメチルシロキシ)シルセスキオキサン(Q8M8)の29Si-NMRスペクトルは29Si-NMRスペクトルのキャリブレーションのためである。
【0067】
全ての試料および標準は、好ましくは完全に満たされたローターで測定され、強度キャリブレーションの間に、均一な励起を保証するために充分強いパルスで、周波数比(RF)磁界強度の勾配による感度の潜在的な不均一性が打ち消されることを保証する:それぞれ、Hについては83kHz、29Siについては45kHz。
【0068】
NMR手法による疎水化シリカエアロゲルの表面官能基の定量的測定の詳細は、Chem.Mater.2015、第27巻、6737頁~6745頁におけるW.J.Malfaitらの記載に見出されうる。固体NMR分析に関するこの刊行物の内容は、本明細書により参照により援用される。
【0069】
本発明のシリカエアロゲルは、本発明の方法により調製されうる。
【0070】
本発明のシリカエアロゲルは、好ましくは、例えば粉末または顆粒を示す、粒子形態を有する。粉末の場合、これは50μmまでの平均数粒径を有する粒子を意味するものと理解され、一方で顆粒は通常、50μm~10mmの平均数粒径を有する粒子からなる。
【0071】
本発明のシリカエアロゲルは、粉末の形態、または好ましくは、例えば50μm~10mm、より好ましくは100μm~5mmの平均数粒径d50を有する顆粒の形態であることができる。粉末または顆粒の数平均粒径は、レーザー回折粒径分析によりISO13320:2009に従って測定されうる。結果として測定された粒径分布は、全粒子の50%が超えない粒径を数平均粒径として表す、平均d50を規定するために用いられる。
【0072】
本発明のシリカエアロゲルの熱伝導率は、好ましくは、標準気圧および20℃で12mW/(mK)~25mW/(mK)である。粉末または顆粒の形態のエアロゲルバルク材料の熱伝導率は、20℃の平均測定温度、空気雰囲気下、および標準気圧にて、EN 12667:2001に従って測定されうる。
【0073】
本発明のシリカエアロゲルは、300m/gより大きく、好ましくは400m/g~1000m/g、より好ましくは450m/g~900m/g、より好しくは550m/g~850m/gのBET表面積を有することができる。比表面積は単にBET表面積とも呼ばれ、Brunauer-Emmett-Teller法に従う窒素吸着により、DIN 9277:2014に従って測定されうる。
【0074】
本発明は更に、断熱および/または遮音のための、本発明のシリカエアロゲルの使用を提供する。
【0075】
本発明のシリカエアロゲルは、例えば断熱容器における;しっくい、モルタル、およびコンクリートの処方のようなペースト性が付与された処方における;断熱および/または遮音コーティングにおける、例えば産業用途での省エネ断熱コーティングとしての、軽量建築構造物用途のための断熱繊維製品の構成材および薄膜としての、断熱および/または遮音のためのバルク材料として用いることができる。
【0076】
本発明の別の目的は、本発明のシリカエアロゲルを含む断熱および/または遮音用組成物である。
【0077】
そのような断熱および/または遮音用組成物は、本発明のシリカエアロゲル材料から形成された断熱および/または遮音用パネルの形態であってよい。
【0078】
断熱および/または遮音用組成物、あるいは対応するパネルは、熱および/または音の伝達を抑え、それにより断熱および/または遮音特性を有することができる。
【実施例
【0079】
(比較例1)
二酸化ケイ素ゾル濃縮物を、室温で、エタノール中、1:3.0:0.001のTEOS/水/硫酸のモル比を用い、35℃で20wt.%のSiOとして表される同等のシリカ含有量で、TEOSのアルコール加水分解により調製した。次いで、ゾル濃縮物を使用前に一晩置いた。次いで、ゾル中のHMDSO含有量が30wt.%となるように、ゾル濃縮物をHMDSOおよびエタノールで希釈し、5.7wt.%SiO等量の最終ゾル濃度とした。その後、2体積%の希釈エタノールアンモニア溶液をこのゾルに添加したところ、8~10分以内にゲル化した。出来立てのオルガノゲルを密封鋼管圧力容器の中に置き、少量のエタノールで覆い、95℃で2時間熟成した。
【0080】
熟成後、密閉した管を室温まで冷却し、注意深く開けた。次いで、熟成ゲルを機械的に粉砕し、ゲル顆粒粒子を再度鋼管の中に置いた。続いて、希釈硝酸、エタノールおよびHMDSOの混合物を添加し、ゲル粒子をかろうじて覆った。鋼管を再度密封し、100℃のオイルバスの中に置き、そこで2時間疎水化のために維持した。疎水化の完了および45℃への冷却後、ゲル粒子を取り出し、続いて150℃で窒素下の対流乾燥オーブンにおいて乾燥した。
【0081】
最終的なエアロゲル材料は、0.115g/cmのエンベロープ密度、および0.0184W/(mK)の顆粒試料の典型的な充填層熱伝導率を有していた。エアロゲルの他の化学的データを表1にまとめる。
【0082】
(実施例1)
実験室規模でのエアロゲル顆粒材料の製造
比較例1で得られた残ったアルコキシ基を有するエアロゲル材料を、次いで同様のオーブンの中に維持し、オーブンの温度を165℃に上昇させた。新たに設定した温度に達したらオーブンをすぐに開け、シリンジポンプにつながった薄いキャピラリー管をエアロゲル試料の下に配置し、ドアを再度閉めた。300mL/hの速度で6M水酸化アンモニウム水溶液を添加することにより、今度はエトキシ基の加水分解を開始した。40分後に添加を停止し、オーブンの中の残った水/アンモニア混合物を更に10分にわたって窒素流でパージした。次いで、最終的なエアロゲル材料を取り出して特性評価したところ、0.118g/cmのエンベロープ密度、および0.0184W/(mK)の顆粒試料の典型的な充填層熱伝導率を有していた。エアロゲルの他の化学的データを表1にまとめる。
【0083】
(実施例2)
手順は、乾燥温度が160℃であったこと、およびエトキシ基加水分解工程を、乾燥工程のはじめに置かれたキャピラリーで水酸化アンモニウム水溶液を添加し始めることにより乾燥工程の直後に行ったことを除いて、実施例1に記載されたものと同一であった。エアロゲルの物理化学的データを表1にまとめた。
【0084】
(実施例3)
手順は、エトキシ基加水分解工程を、3Mトリフルオロ酢酸水溶液の200mL/hの速度での注入により実施し、添加を25分の時間にわたり維持したことを除いて、実施例1に記載されたものと同一であった。エアロゲルの物理化学的データを表1にまとめた。
【0085】
(実施例4)
エアロゲル顆粒材料の産業生産
用いたパイロットプラントは、ゾルの製造のための撹拌バッチ反応器、および頂部と底部に密閉用蓋がある管束反応器、ならびに下流の更に加熱される疎水化反応器、相分離ユニット、およびハイブリッド対流/接触乾燥ユニットから構成された。装置の周辺は、適切な補助ユニット(加熱器、熱交換器、凝縮器)および溶媒タンク、ならびに種々の試薬の保存器で構成された。管束反応器は、それぞれ内径が23mmの平行管の熱交換器、および熱伝導流体媒体でパージされうるカバーで構成された。反応器を、水平に対して19°の固定角度で工場敷地の床に取り付けた。
【0086】
初めに、30kgのエタノール、30kgのゾル濃縮物、4.3kgの水、および25.8kgのHMDSOから構成される76Lのゾルを、45℃に予熱された撹拌反応器においてPEDSゾル濃縮物をエタノールおよびHMDSOで希釈することにより調製した。次いで、希釈エタノールアンモニア溶液を添加し、それにより活性化されたゾルを、圧力を均等にしながら、60℃に予熱された両方の蓋が閉じられた管束反応器へと移送ラインを介して移した。ゾルを移した後、反応器への頂部と底部のバルブもまた閉じ、その結果として熱交換管を、形成されたゲルロッドとともにきっちりと閉められた反応器の中に単離した。
【0087】
次いで、反応器の温度を、熱交換媒体を加熱することにより112℃に上昇させた。圧力は2.5barの値に急速に上昇した。60分の熟成時間後、頂部と底部のバルブを注意深く開け、合成流体を放出器へと放出させた。今度は管束熱交換器の加熱を102℃まで下げた。今度は撹拌バッチ反応器の中で混合され60℃に予熱された18.5lの希釈硫酸エタノール溶液を、反応器に注入し、4l/分の一定の流れで循環させた。次いで、疎水化触媒を同じ温度で更に75分間注入した。
【0088】
疎水化が完了したら反応器をすぐに73℃の温度に冷却し、周囲圧力に排気した。反応器の底部の蓋を開き、得られた疎水化ゲルバーを相分離ユニットにより液相から分離し、乾燥ユニットに移し、ここでゲルを160℃の窒素流下で一定重量まで乾燥させた。乾燥ユニット後、エアロゲル顆粒を、17分の滞留時間の1.1vol%のアンモニアの大気および350mbarの水蒸気を含む加熱されたトンネルを通って送った。このトンネルの最後で、最終的なエアロゲル材料を、ロードロック装置を介して取り出した。
【0089】
材料の分析により、0.108g/cmのエンベロープ密度、および17.9mW/(mK)の層の熱伝導率が示された。エアロゲルの他の化学的データを表1にまとめる。
【0090】
【表1】
【0091】
エンベロープ密度を、GeoPyc 1360装置(Micromeritics)を用いた粉末比重瓶法により測定した。
【0092】
Chem.Mater.2015、第27巻,6737頁~6745頁のW.J.Malfaitらの記載において説明しているように、トリメチルシロキシル(≡SiOSiMe)基およびアルコキシシリル(≡SiOR)基の量をH-NMRにより測定し、シラノール(≡SiOH)基の量を29Si-NMRにより測定した。