(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】摩擦制動体、摩擦ブレーキおよび摩擦制動体を製造する方法
(51)【国際特許分類】
F16D 65/12 20060101AFI20241028BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20241028BHJP
【FI】
F16D65/12 E
F16D65/12 R
C09K3/14 520F
C09K3/14 520G
C09K3/14 520C
(21)【出願番号】P 2022577140
(86)(22)【出願日】2021-06-10
(86)【国際出願番号】 EP2021065552
(87)【国際公開番号】W WO2021254857
(87)【国際公開日】2021-12-23
【審査請求日】2022-12-14
(31)【優先権主張番号】102020207361.9
(32)【優先日】2020-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
(73)【特許権者】
【識別番号】594072258
【氏名又は名称】ブデルス.グス.ゲゼルシャフト.ミット.ベシュレンクテル.ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Buderus Guss GmbH
【住所又は居所原語表記】Buderusstrasse 26, 35236 Breidenbach, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン シュナッテラー
(72)【発明者】
【氏名】カンジャン ウー
(72)【発明者】
【氏名】イリヤ ポタペンコ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス プファイファー
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第10342743(DE,A1)
【文献】特開2008-162036(JP,A)
【文献】特開2015-055351(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0072307(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03034902(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 65/12
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の摩擦ブレーキ(2)用の摩擦制動
体であって、
前記摩擦制動体は、基体(3)であって、その少なくとも1つの摩擦接触領域に少なくとも1つの摩耗防護層(5)を備えた基体(3)を有し、
前記摩耗防護層(5)は、前記基体(3)とは反対の側に摩擦接触表面(4)を形成している、
摩擦制動体において、
前記摩耗防護層(5)の硬さは、前記基体(3)から出発して前記摩擦接触表面(4)にまで段階的または連続的に増加して
おり、
前記摩耗防護層(5)は、前記基体(3)から前記摩擦接触表面(4)へと増加した、炭化物形成元素と炭素との割合を有することを特徴とする、摩擦制動体。
【請求項2】
前記炭化物形成元素として、バナジウム、ニオブ、タングステン、チタンおよび/またはクロムが存在することを特徴とする、請求項
1記載の摩擦制動体。
【請求項3】
前記摩耗防護層(5)内の炭素含有量は、前記基体(3)から前記摩擦接触表面(4)へと線形または逓減的に増加していることを特徴とする、請求項1
または2記載の摩擦制動体。
【請求項4】
前記炭化物形成元素と炭素との前記割合は、炭素原子が炭化物内で完全またはほぼ完全に結合されるように選択されていることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の摩擦制動体。
【請求項5】
別の存在する炭化物形成元素は、付加的にクロムが添加されており、クロムよりも高い炭素親和性を有することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の摩擦制動体。
【請求項6】
自動車の摩擦ブレーキ(2)用の摩擦制動体であって、
前記摩擦制動体は、基体(3)であって、その少なくとも1つの摩擦接触領域に少なくとも1つの摩耗防護層(5)を備えた基体(3)を有し、
前記摩耗防護層(5)は、前記基体(3)とは反対の側に摩擦接触表面(4)を形成している、
摩擦制動体において、
前記摩耗防護層(5)の硬さは、前記基体(3)から出発して前記摩擦接触表面(4)にまで段階的に増加しており、
前記摩耗防護層(5)は多層
で形成されており、前記硬さは層(5_1~5_3)ごとに増加していることを特徴とする
、摩擦制動体。
【請求項7】
前記基体(3)上に配置された第1の層(5_3)は、0.2重量%未
満の炭素含有量を有することを特徴とする、請求項
6記載の摩擦制動体。
【請求項8】
前記第1の層(5_3)上に配置される第2の層(5_2)は、前記第1の層(5_3)よりも高い炭素含有
量を有することを特徴とする、請求項
7記載の摩擦制動体。
【請求項9】
前記第2の層(5_2)の、前記第1の層(5_3)とは反対の側には第3の層(5_1)が配置されており、該第3の層(5_1)は、前記層(5_1~5_3)の中で最も高い炭素含有
量を有することを特徴とする、請求項
8記載の摩擦制動体。
【請求項10】
自動車用の摩擦ブレーキ(2)であって、
少なくとも1つの
、請求項1から9までのいずれか1項記載の摩擦制動体と、
前記摩擦制動体に割り当てられた変位可能な少なくとも1つの制輪子と、
を備え
ることを特徴とする、摩擦ブレーキ(2)。
【請求項11】
自動車の摩擦ブレーキ(2)用
の摩擦制動体を製造する方法であって、
前記摩擦制動体を、基体(3)であって、その少なくとも1つの摩擦接触領域に少なくとも1つの摩耗防護層(5)を備えた基体(3)から、前記摩耗防護層(5)が、前記基体(3)とは反対の側に摩擦接触表面(4)を形成するように製作する、
方法において、
前記摩耗防護層(5)を、前記基体(3)から前記摩擦接触表面(4)にまで段階的または連続的に増加した硬さで製作
し、
このとき、前記摩耗防護層(5)を、前記基体(3)から前記摩擦接触表面(4)へと増加した、炭化物形成元素と炭素との割合を有するように制作することを特徴とする、方法。
【請求項12】
自動車の摩擦ブレーキ(2)用の摩擦制動体を製造する方法であって、
前記摩擦制動体を、基体(3)であって、その少なくとも1つの摩擦接触領域に少なくとも1つの摩耗防護層(5)を備えた基体(3)から、前記摩耗防護層(5)が、前記基体(3)とは反対の側に摩擦接触表面(4)を形成するように製作する、
方法において、
前記摩耗防護層(5)を、前記基体(3)から前記摩擦接触表面(4)にまで段階的に増加した硬さで製作し、
このとき、前記摩耗防護層(5)を多層で形成し、前記硬さは層(5_1~5_3)ごとに増加していることを特徴とする、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の摩擦ブレーキ用の摩擦制動体、特にブレーキディスクであって、この摩擦制動体は、基体であって、その少なくとも1つの摩擦接触領域に少なくとも1つの摩耗防護層を備えた基体を有し、摩耗防護層は、基体とは反対の側に摩擦接触表面を形成している、摩擦制動体に関する。
【0002】
さらに、本発明は、自動車用の摩擦ブレーキであって、前述のように形成された少なくとも1つの摩擦制動体と、この摩擦制動体に割り当てられた変位可能に配置された少なくとも1つの制輪子と、を備える、摩擦ブレーキに関する。
【0003】
さらに、本発明は、前述した摩擦制動体を製造する方法に関する。
【0004】
背景技術
自動車用の摩擦制動体、特に摩擦ブレーキ用のブレーキディスクが、従来技術からすでに知られている。規定通りの使用時には、摩擦制動体、特にブレーキディスクは、自動車のホイールに相対回動不能に結合されていて、変位可能な制輪子に対向して配置されている。制輪子が摩擦制動体に向かって押圧されると、摩擦制動体と制輪子との間に摩擦が生じ、この摩擦により、ホイールのホイール速度が減じられ、つまり、ホイールが制動される。摩擦発生時の摩耗を減じるために、さらに、制輪子と協働する摩耗防護層を少なくとも基体の摩擦接触領域に被着することが知られている。摩耗防護層は制動動作の間に摩耗を減じ、これにより、摩擦制動体自体ならびに摩擦ブレーキ全体の耐用寿命を延長させる。
【0005】
欧州特許出願公開第3034902号明細書から、コーティングされたブレーキディスクがすでに公知であり、このブレーキディスクの場合、レーザ肉盛り溶接によってセラミックス粒子が埋め込まれた摩耗防護層が製作される。
【0006】
発明の開示
請求項1の特徴を有する本発明に係る摩擦制動体は、摩擦制動体の耐亀裂性が有利に高められているという利点を有する。本発明によれば、このことは、摩耗防護層の硬さが、基体から出発して摩擦接触表面にまで段階的または連続的に増加していることによって達成される。これにより、コーティングの耐亀裂性が、摩擦接触表面から出発して基体に向かって高められ、これにより、基体内への亀裂伝播が回避される。これにより、一方では、摩擦接触表面に特に高い硬さひいては耐摩耗性を有し、同時に、摩擦接触表面に生じる亀裂が基体内にまで伝播することを阻止する十分な延性と耐亀裂性とを有する摩擦制動体が得られる。これにより、摩擦制動体は、例えば急ブレーキ時に発生し得るような熱機械的な負荷にも曝すことができる。その際に亀裂が基体に形成されること、あるいは基体内にまで伝播することはなく、これにより、機械的な強度および堅牢性が、耐食性に関しても、総じて高められる。したがって、亀裂が生じた場合、亀裂の成長は、本発明に係る摩擦制動体では、好適には硬質材料に沿って生じる。なぜならば、この硬質材料は、含有物として、摩耗防護層の破壊靱性を低下させるが、本発明によれば、基体の領域よりも多く摩擦接触表面の領域に生じているからである。
【0007】
本発明の好適な発展形態によれば、摩耗防護層は、基体から摩擦接触表面へと増加した、炭化物形成元素と炭素との割合を有する。これによって、摩耗防護層の硬度が、前述したように、摩擦接触表面の方向で増加していることが達成される。炭化物形成元素は、特にレーザ肉盛り溶接の際に、摩耗防護層内にもたらされる。好ましくは、摩耗防護層は鉄基合金を有しており、この鉄基合金内に炭化物形成元素が取り込まれ、場合によっては融合させられる。
【0008】
好ましくは、炭化物形成元素として、バナジウム、ニオブ、チタンおよび/またはクロムが存在する。凝固の際、炭化物形成元素と基合金の炭素原子との反応によって、摩耗防護層の層硬さひいては摩耗抵抗を高める金属炭化物が、摩耗防護層内に微細に分布した状態で形成される。
【0009】
さらに、好適には、摩耗防護層内の炭素含有量が、ベース基体から摩擦接触表面へと線形または逓減的に増加していることが想定されている。線形の増加は、摩耗防護層の耐亀裂性に特に有利に作用する。炭素濃度の逓減的な増加は、炭素濃度の勾配が基体から出発してコーティング表面の方向で減少することを特徴とする。逓減的な増加によって、高められた耐亀裂性と、制動時の摩耗防護層の摩擦係数の可能な限り長い維持とが組み合わされる。
【0010】
特に好適には、摩耗防護層は多層で、特に3層で形成されており、硬さは層ごとに増加している。つまり、この場合、基体から出発して摩擦接触表面への摩耗防護層の硬さの段階的な高まりもしくは段階的な硬さ推移が保証されている。摩耗防護層は、基本的に少なくとも2つ、好ましくは3つまたは3つよりも多くの層を有することもできる。これらの層は、一緒に基体上に摩耗防護層を形成し、基体に対して平行に1層ずつ互いに重なり合って位置している。
【0011】
特に好適には、基体上に配置された摩耗防護層の第1の層は、0.2重量%未満、特に0.1重量%未満の炭素含有量を有する。したがって、第1の層は、主に、炭化物割合を全く有していないかまたは僅かな炭化物割合しか有しておらず、かつ僅かな炭素含有量しか有していない延性のバッファ層として働く。
【0012】
第1の層上には、好適には第2の層が配置されている。第2の層の炭素含有量は第1の層における炭素含有量よりも高く、炭素含有量は、0.2重量%~1.5重量%、特に0.1重量%~1.0重量%である。第2の層は、このとき、第2の層の、第1の層とは反対の側に位置する第3の層への移行領域を成している。移行層の導入により、第1の層と第3の層との間の付着が改善されるだけでなく、制動時の摩耗防護層の層列における熱機械的な応力も減じられる。
【0013】
好ましくは、すでに上述したように、第2の層の、第1の層とは反対の側に位置するかまたは配置されている第3の層は、層の中で最も高い炭素含有量、特に1.0重量%超の炭素含有量を有する。したがって、第3の層は、最も高い層硬さおよび耐摩耗性を有する本来の摩耗防護層として機能する。
【0014】
好ましくは、炭素含有量と炭化物形成元素との比は、炭素原子が炭化物内で完全またはほぼ完全に結合されるように選択されている。炭化物形成金属原子の含有量は、好ましくは、コーティング内の炭素含有量に類似して構成される。なぜならば、金属炭化物の形成のためには、炭素のほかに、炭化物形成金属原子、例えばバナジウム、チタン、ニオブまたはクロムも必要とされるからである。
【0015】
さらに、好適には、存在する炭化物形成元素は、クロムよりも高い炭素親和性を有することが想定されている。これにより、摩耗防護層の耐食性を高めるために有利であるクロムを任意選択的に付加的に添加した場合に、このクロムが炭化物形成物として機能せず、ひいては、摩耗防護層の防食のために使用されることが保証される。
【0016】
請求項11の特徴を有する本発明に係る摩擦ブレーキは、摩擦制動体の本発明による形成の点で優れている。これによって、すでに挙げた利点が得られる。
【0017】
請求項12の特徴を有する本発明に係る方法は、摩耗防護層が、基体から摩擦接触表面まで段階的または連続的に増加した硬さで製作される点で優れている。このために、特に、炭化物形成元素と炭素との割合が、基体から摩擦接触表面に向かって高められる。このとき、特に炭化物形成元素として、バナジウム、チタン、ニオブおよび/またはクロムが用いられ、炭素含有量は、好適にはベース基体から摩擦接触表面へと線形または逓減的に増加する。特に、摩耗防護層は多層で、特に3層で、層ごとに増加する硬さを備えて製作される。
【0018】
更なる利点および好適な特徴ならびに特徴の組合せは、特に前述した記載ならびに特許請求の範囲から明らかとなる。以下に本発明を図面に基づき詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】摩擦制動体の有利な構造ならびに有利な製作法を説明するための摩擦制動体の概略的な断面図である。
【0020】
図1には、自動車の摩擦ブレーキ2(同図には詳細に示さず)のブレーキディスク1として形成された摩擦制動体が簡単な斜視図で示してある。ブレーキディスク1は円環状に形成されていて、摩擦ブレーキの、ブレーキディスク1の両方の端面のうちの少なくとも一方の端面に向かって押圧可能である変位可能な制輪子と協働するために用いられる。任意選択的に存在するブレーキディスクハットは、
図1に示していない。
【0021】
ブレーキディスク1は基体3を有している。この基体3は円環状に形成されていて、その端面にそれぞれ1つの摩擦接触表面4を有している。この摩擦接触表面4は、基体3に設けられた摩耗防護層5によって形成されている。基体3は、好ましくはねずみ鋳鉄から製作されており、摩耗防護層5は、少なくとも基体3の各々の端面の摩擦接触領域にわたって延在している。摩耗防護層は、例えばレーザ肉盛り溶接法によって基体3に製作されている。
【0022】
摩耗防護層5は、基体3から出発して露出した摩擦接触表面4にまで増加する硬さを有している点で優れている。特に、摩耗防護層は、軸線方向にもしくは基体3から摩擦接触表面4に向かって段階的または連続的な硬さ推移を有している。
図1の実施例によれば、摩耗防護層5は多層で、つまり、2層で形成されており、これによって、摩耗防護層5は2つの層5_1,5_2から形成されている。この場合、外側に位置する層5_1は、この層5_1と基体3との間に位置する層5_2よりも高い硬さを有している。特に、両方の層5_1,5_2の互いに異なる硬度は、炭化物形成元素と炭素との互いに異なる割合によって保証される。摩耗防護層の硬さが、基体3から出発して摩擦接触表面4における層表面にまで高められることによって、ブレーキディスク1の改善された耐亀裂性が得られる。特に、有利な構成によって、基体3内への亀裂伝播が回避されることが保証される。このことは、摩耗防護層5の内部での炭素と炭化物形成元素、例えばバナジウム、チタン、ニオブまたはクロムとの段階的な分布によって達成される。凝固の際、炭化物形成元素と炭素原子との反応によって、摩耗防護層5の各々の層5_1,5_2の層硬さひいては摩耗抵抗を高める金属炭化物が、摩耗防護層5内に微細に分布した状態で形成される。炭素と炭化物形成元素との含有量は、摩擦接触表面4の方向で増加していて、
図1の本実施例によれば、層5_2から層5_1に段階的に増加している。代替的な実施形態によれば、摩耗防護層5の硬さもしくは炭素と炭化物形成元素との含有量は、基体3から摩擦接触表面4にまで連続的に増加している。
【0023】
摩耗防護層5は、特に鉄基合金を含んでいる。摩耗防護層5の内部での鉄基合金の炭素含有量は、基体から出発して摩擦接触表面4にまで増加傾向にある。このことは、例えば、コーティング材料を変えることによって達成される。炭素含有量は、好適には、少なくとも実質的に線形または逓減的に増加する。この場合、線形の増加は、耐亀裂性を改善し、逓減的な増加は、摩擦接触表面4における摩擦係数の可能な限り長い維持を保証する。
【0024】
図2には、ブレーキディスク1の別の実施例が示してある。
図2には、ブレーキディスク1の一部の縦断面図が示してある。前述した実施例と異なり、摩耗防護層5は、この実施例では3層で形成されている。この場合、基体3とこれまでの層5_2との間に3つ目の層5_3が存在している。炭素含有量は、摩擦接触表面4の方向への段階的な増加を保証するために、層ごとに変化している。
【0025】
基体3上の第1の層5_3は、主に、炭化物割合を全く有していないかまたは僅かな炭化物割合しか有していない延性のバッファ層として働き、したがって、好ましくは0.1重量%未満の僅かな炭素含有量しか有していない。
【0026】
第2の層5_2は、摩擦接触表面4を形成する外側の層5_1への移行領域を成している。層5_2によって、層5_1と層5_3との間の付着が改善されるだけでなく、ブレーキディスク1による制動時の層列における熱機械的な応力も減じられる。このために、層5_2は、第1の層5_3よりも高い炭素含有量、好適には0.1重量%~1.0重量%の炭素含有量を有している。
【0027】
第3の層5_1は、本来の摩耗防護層として機能し、したがって、摩擦接触表面4を形成している。第3の層5_1は、最も高い炭素含有量ひいては最も高い層硬さの点で優れている。したがって、層5_1の炭素含有量は、好ましくは1.0重量%よりも高い。
【0028】
金属炭化物を形成するためには、炭素のほかに、すでに前述したように、炭化物形成元素、例えばバナジウム、チタン、ニオブまたはクロムも使用されるので、この炭化物形成元素の含有量は、好ましくは、層5_1~5_3内の炭素含有量に類似して分布もしくは変化している。好ましくは、炭素含有量と炭化物形成金属原子との比は、各々の層5_1~5_3内で炭素原子が炭化物内で完全に結合されるように選択される。さらに、添加される炭化物形成金属原子が、クロムよりも高い炭素親和性を有していると好適である。これによって、摩耗防護層の耐食性を高めるために有利であるクロムを付加的に添加した場合に、このクロムが炭化物形成物として機能せず、ひいては、摩耗防護層5の防食のために使用されることが達成される。