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  • 特許-電磁波シールド材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】電磁波シールド材
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20241028BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20241028BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20241028BHJP
【FI】
H05K9/00 W
B32B5/18
B32B15/08 E
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023044401
(22)【出願日】2023-03-20
(62)【分割の表示】P 2018203416の分割
【原出願日】2018-10-30
(65)【公開番号】P2023076507
(43)【公開日】2023-06-01
【審査請求日】2023-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100112472
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100202223
【弁理士】
【氏名又は名称】軸見 可奈子
(72)【発明者】
【氏名】植村 浩行
【審査官】中田 誠二郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-111285(JP,A)
【文献】特開2007-299907(JP,A)
【文献】特開2003-175565(JP,A)
【文献】特開2017-118046(JP,A)
【文献】特開昭62-299312(JP,A)
【文献】特開昭58-106899(JP,A)
【文献】特開平05-347493(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
B32B 5/18
B32B 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質なシート状基材と、前記シート状基材の表面に金属が溶射されて形成された金属溶射層と、を有し、
前記シート状基材の表層部には、表皮層が形成され、前記金属溶射層は、前記表皮層の上に形成されており、
JIS L 1096A法に準拠してフラジール形通気性試験機を用いて測定した前記表皮層の通気度が80ml/(cm /s)未満であり、
KEC法に準拠した磁界シールド効果が、周波数100MHz帯において、30dB以上である電磁波シールド
【請求項2】
KEC法に準拠した電界シールド効果が、周波数100MHz帯において、30dB以上である請求項1に記載の電磁波シールド材。
【請求項3】
ホットメルト樹脂で構成されて前記金属溶射層を覆う保護層をさらに有する請求項1又は2に記載の電磁波シールド材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性を有する電磁波シールド材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、不織布シートの表面に金属を溶射して形成された金属溶射層を有する電磁波シールド材が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-347493号(段落[0016]、図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の電磁波シールド材において、シールド性能の向上が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するためになされた発明の第1態様は、多孔質体で構成されてフレキシブルなシート状基材と、前記シート状基材の表面に金属が溶射されて形成された金属溶射層と、を有し、前記シート状基材の表層部には、表皮層が形成され、前記金属溶射層は、前記表皮層の上に形成されている、電磁波シールド材である。
【0006】
発明の第2態様は、前記シート状基材は、前記表皮層としてスキン層を有する発泡シートで構成されている、第1態様に記載の電磁波シールド材である。
【0007】
発明の第3態様は、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂及びこれらのブレンドからなる群より選ばれた樹脂の発泡体で構成されている、第2態様に記載の電磁波シールド材である。
【0008】
発明の第4態様は、前記金属溶射層の目付量が、90g/m以上である、第1態様から第3態様のうち何れか1の態様に記載の電磁波シールド材である。
【0009】
発明の第5態様は、ホットメルト樹脂で構成されて前記金属溶射層を覆う保護層をさらに有する、第1態様から第4態様のうち何れか1の態様に記載の電磁波シールド材である。
【0010】
発明の第6態様は、前記金属溶射層の目付量が、280g/m以下である、第5態様に記載の電磁波シールド材である。
【発明の効果】
【0011】
発明の第1態様では、シート状基材の金属溶射層が形成される側の表層部に、表皮層が形成され、その表皮層の上に金属溶射層が形成される。この表皮層は、低通気性であるか又はシート状基材の内層部よりも通気性が低くなっている。ここで、多孔質体の上に金属溶射層を形成する場合には、多孔質体の空孔に起因して、金属溶射層が薄くなったり、金属溶射層に金属が存在しない領域が発生して金属溶射層の厚みが不均一となったりすることがあった。しかしながら、発明の第1態様の構成では、シート状基材に溶射される金属がシート状基材の内部に浸透することが抑えられ、多孔質体の上に金属溶射層が形成されるときのような金属溶射層の目付量の低減が抑制され、金属溶射層の厚みの均一化が図られる。これにより、電磁波シールド材のシールド性能の向上が図られる。ところで、金属溶射層が表皮層の上に形成されると、電磁波シールド材を曲げ変形させたときに、金属溶射層にクラックが生じて電磁波シールド材が損傷することが考えられる。そこで、金属溶射層がホットメルト樹脂で構成された保護層で覆われた構成(発明の第5態様)にすると、金属溶射層の一部が脱落したり、電磁波シールド材が曲げ変形されたときに金属溶射層にクラックが発生したりすることが抑えられ、電磁波シールド材の劣化が抑制される。
【0012】
シート状基材は、不織布シートや発泡シートの上に面材として樹脂フィルムが貼り付けられた構造であってもよいし、表面と裏面のうち少なくとも一方の面にスキン層を有する発泡シートであってもよい(発明の第2態様)。後者の場合、発泡シートが、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂及びこれらのブレンドからなる群より選ばれた樹脂の発泡体で構成されていると、金属溶射層の形成が容易となる(発明の第3態様)。
【0013】
金属溶射層の目付量は、90g/m以上であることが好ましい(発明の第4態様)。目付量が90g/mより少ないと、シールド性能が低くなる。また、金属溶射層が保護層で覆われる場合には、金属溶射層の目付量は、280g/m以下であることが好ましい(発明の第6態様)。目付量が280g/mより多いと、電磁波シールド材のフレキシブル性が損なわれ、屈曲させたときに金属溶射層にクラックが発生し易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】電磁波シールド材の(A)断面図、(B)金属溶射層の拡大断面図
図2】確認実験の結果を示すデータテーブル
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1(A)に示されるように、本実施形態の電磁波シールド材10は、フレキシブルで柔軟なシート状基材11と、金属溶射層21と、保護層31と、が積層されてなる。
【0016】
シート状基材11は、多孔質体で構成されている。シート状基材11の表側と裏側のうち少なくとも一方の表層部には、表皮層12が形成されている。表皮層12は、低通気性であるか又はシート状基材11の内層部13よりも密度が高くなって通気性が低くなっている。ここで、表皮層12が低通気性であるとは、JIS L 1096A法に準拠してフラジール形通気性試験機を用いて測定した表皮層12の通気度が80ml/(cm/s)未満であることを意味する。なお、表皮層12の通気度は、2ml/(cm/s)以上50ml/(cm/s)以下であることが好ましい。
【0017】
具体的には、シート状基材11は、発泡シートで構成され、表皮層12は、発泡シートの表層部に形成されたスキン層によって構成されている。発泡シートを構成する樹脂は、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂又はこれらのブレンド等である。なお、シート状基材11が低通気性の表皮層12を有する発泡シートで構成される場合、その発泡シートには、半連続気泡構造の発泡シートが含まれる。ここで、「半連続気泡構造」とは、独立気泡と異なり、気泡に小さな気孔を有する構造であって、連続気泡構造と比較して、隣り合う気泡どうしの気孔が小さい構造のものを意味し、具体的には、JIS L 1096A法のフラジール形法による通気度が2ml/(cm/s)以上80ml/(cm/s)未満となる構造をいう。
【0018】
金属溶射層21は、シート状基材11の表面に金属が溶射されることで形成されている。金属溶射層21の目付量は、電磁波シールド材10のシールド性能の観点から、90g/m以上であることが好ましく、電磁波シールド材10のフレキシブル性の観点から、280g/m以下であることが好ましい。
【0019】
金属溶射では、シート状基材11の表面に多数の金属粒子22を衝突させ、金属溶射層21は、扁平に潰れた金属粒子22が堆積することで形成される(図1(B)参照)。金属溶射で用いられる金属の種類は、例えば、亜鉛、アルミニウム、銅又はこれらの金属の合金等である。金属溶射としては、燃焼ガスを熱源とするフレーム式溶射、高速フレーム式溶射、爆発溶射や電気を熱源とするアーク式溶射、プラズマ溶射、RFプラズマ溶射、線爆溶射等を用いることができる。なかでもアーク溶射は、金属溶射層21の形成速度が速く、金属溶射層21の目付量を精度高く制御できる点で好ましい。
【0020】
保護層31は、ホットメルト樹脂によって構成されている。保護層31を構成するホットメルト樹脂は、例えば、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリエチレンとエチレン・アクリル酸共重合体のブレンド(PE/EAA)等である。なお、保護層31の厚みは、金属溶射層21のシールド性能には影響を及ぼさないが、電磁波シールド材10のフレキシブル性の観点から、80μm以下であることが好ましく、35μm以下であることがより好ましい。
【0021】
図1(B)に示されるように、保護層31を構成するホットメルト樹脂の一部は、金属溶射層21に侵入し、金属溶射層21のうちシート状基材11と反対側の表層部において、金属粒子22どうしの隙間に入り込んでいる。これにより、電磁波シールド材10が曲げ変形されたときに、金属粒子22の剥離や金属粒子22間でのクラックの発生が抑えられる。保護層31は、例えば、金属溶射層21にホットメルトフィルムを重ね、加熱圧着することで形成されてもよいし、金属溶射層21にホットメルト樹脂を塗布することで形成されてもよい。
【0022】
このように、本実施形態の電磁波シールド材10では、シート状基材11の表層部に、表皮層12が形成され、表皮層12は、低通気性であるか又はシート状基材11の内層部13より通気性が低くなっていて、その表皮層12の上に金属溶射層21が形成されるので、シート状基材11に溶射される金属粒子22がシート状基材11の内部に浸透することが抑えられ、金属溶射層21が多孔質体の上に形成される場合よりも金属溶射層21の目付量の低減が抑制され、金属溶射層21の厚みの均一化が図られる。その結果、電磁波シールド材10のシールド性能の向上が図られる。
【0023】
また、金属溶射層21は、ホットメルト樹脂で構成された保護層31で覆われているので、金属溶射層21の一部が脱落したり、電磁波シールド材10が曲げ変形されたときに金属溶射層21にクラックが発生したりすることが抑えられ、電磁波シールド材10の劣化が抑制される。
【0024】
[確認実験]
1.実験例
上記実施形態の電磁波シールド材10の構造を適宜変更して、図2に示される実験例1~12及び比較実験例1,2を作成し、各実験例について、シールド性(電界シールド性と磁界シールド性)と屈曲性の評価実験を行った。実験例1~12では、シート状基材として、スキン層有りの軟質ポリウレタン発泡シート(具体的には、ピュアセルUC 150PR(株式会社イノアックコーポレーション製、厚さ1.0mm、通気度10ml/(cm/s)))を用いた。実験例1~11では、ホットメルトフィルムとして、PE/EAA(エンシュー化成工業株式会社製)を用い、実験例12では、ホットメルトフィルムを用いなかった。比較実験例1では、シート状基材として、不織布(具体的には、ポリプロピレン系のスパンボンド不織布(前田工繊株式会社製、目付量50g/m、通気度175ml/(cm/s)))を用いた。比較実験例2では、電磁波シールド材としてアルミシート(厚さ40μm)を用いた。なお、通気度の測定値は、JIS L 1096A法のフラジール形法によるものである。
【0025】
2.シールド効果の評価
実験例1~12及び比較実験例1について、シート状基材11の表皮層12の上に金属溶射により金属溶射層21を形成し、120mm×120mmの試験片にカットした。その後、実験例1~11については、試験片の外周部(詳細には、外縁から10mmの範囲)をマスキングして、ホットメルトフィルムを積層、加熱することで、100mm×100mmの保護層31が積層された試験片を作成した。比較実験例2では、アルミシートを120mm×120mmにカットして、試験片を作成した。
実験例1~12及び比較実験例1,2の試験片をKEC法に準拠して近傍電界10MHz~1GHzの領域における電磁波シールド効果(電界シールド効果・磁界シールド効果)を測定した。図2には、100MHzにおける電界シールド効果及び磁界シールド効果の値と評価が示されている。各シールド効果の評価は、シールド効果の値が40dB以上であると良(「○」)とし、30dB以上40dB未満であると可(「△」)とし、30dB未満であると不可(「×」)とした。なお、溶射金属の目付量(g/m)は、溶射前後の重量変化から求めた。
【0026】
3.屈曲性の評価
実験例1~11では、シート状基材11の上に金属溶射により金属溶射層21を形成し、その後、ホットメルトフィルムを積層、加熱して、保護層31が積層された積層体を作成した。そして、その積層体をカットして120mm×20mmの試験片を作成した。実験例12及び比較実験例1では、シート状基材11の上に金属溶射により金属溶射層21を形成したものを120mm×20mmにカットして試験片を作成した。比較実験例2では、アルミシートを120mm×20mmにカットして、試験片を作成した。
実験例1~12及び比較実験例1,2について、試験片の長手方向の一端部(10mm)を固定し、その後、他端部(10mm)を掴んで、一端部との距離が50mmとなるまで一端部に近づけ、元の位置に戻すという伸縮動作を20回繰り返した。そして、この20回の伸縮動作の後、金属溶射層21(図1参照)に割れ及び折れがないものを良好(「○」)とし、割れ又は折れがあるものを不良(「×」)とした。
【0027】
4.実験結果
図2には、実験例1~12の実験結果が示されている。電界シールド効果に着目すると、実験例1~12の何れの実験例においても40dBより大きくなっている。一方、磁界シールド効果に着目すると、実験例3~12では、40dBより大きくなっているが、実験例1,2では、40dBより小さくなっている。電界シールド効果及び磁界シールド効果の何れにおいても、金属溶射層21の目付量が多くなると、シールド効果が高くなっている。そして、金属溶射層の目付量が90g/m以上であると、磁界シールド効果が良(「○」)であることが分かる。
【0028】
また、例えば、実験例3と実験例4の比較から、保護層31の厚みは、電解シールド効果と磁界シールド効果の何れにも影響を及ぼさないことが分かる。なお、保護層31を備えない実験例12においても、金属溶射層21の目付量が同じである実験例3,4と同様の電界シールド効果及び磁界シールド効果を示す。このことから、保護層31を備えない構成であっても優れた電界シールド効果及び磁界シールド効果を発揮することが分かる。
【0029】
金属溶射層21の目付量が同じである実験例5~7と比較実験例1を比較すると、シート状基材としてスキン層有りの軟質ポリウレタン発泡シートを用いたときの方が、シート状基材として不織布を用いたときよりも磁界シールド効果が良くなることが分かる。また、比較実験例2では、電界シールド効果は40dBより大きくなっているが、磁界シールド効果は40dBより小さくなっている。また、金属溶射層21の目付量が少ない実施例12と比較実験例1を比較しても、シート状基材11としてスキン層有りの軟質ポリウレタン発泡シートを用いたときの方が、シート状基材11として不織布を用いたときよりも磁界シールド効果が良くなることが分かる。以上から、スキン層有りの軟質ポリウレタン発泡シートに金属溶射層を形成したものは、磁界シールド性に優れることが分かる。
【0030】
次に、屈曲性に着目すると、実験例1~9では、屈曲性が良好(「○」)となっていて、実験例10~11では、屈曲性が不良(「×」)となっている。このことから、シート状基材としてスキン層有りの軟質ポリウレタン発泡シートを用いた場合、金属溶射層21の目付量が280g/mを超えると、金属溶射層21に割れ又は折れが発生することが分かる。また、実験例12では、屈曲性が不良(「×」)となっていることから、金属溶射層21の目付量が280g/m以下であっても、保護層31が無ければ、金属溶射層21に割れ又は折れが発生することが分かる。
【0031】
なお、実験例1~12が「実施例」に相当し、比較実験例1,2が「比較例」に相当する。
【0032】
[他の実施形態]
(1)シート状基材11は、連続気泡構造の発泡シートの表面を溶融、固化することで形成されてもよい。
【0033】
(2)シート状基材11は、連続気泡構造の発泡シートに半連続気泡構造の面材が貼り合わされた構造であってもよい。この場合、発泡シートが内部層13を構成し、面材が表皮層12を構成する。
【0034】
(3)保護層31は、金属溶射層21の全体を覆うものに限らず、金属溶射層21の少なくとも一部を覆っていればよい。
【0035】
(4)シート状基材11の表裏の両面に表皮層12が形成されてもよい。
【0036】
(5)電磁波シールド材10を、保護層31を備えない構造にしてもよい。この構造であっても、確認実験の結果に示されるように、良好な電界シールド効果及び磁界シールド効果を発揮できる。
【符号の説明】
【0037】
10 電磁波シールド材
11 シート状基材
12 表皮層
21 金属溶射層
31 保護層
図1
図2