(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】害虫捕獲器および害虫捕獲方法
(51)【国際特許分類】
A01M 1/14 20060101AFI20241028BHJP
【FI】
A01M1/14 S
A01M1/14 Z
(21)【出願番号】P 2023066269
(22)【出願日】2023-04-14
(62)【分割の表示】P 2018152050の分割
【原出願日】2018-08-10
【審査請求日】2023-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000100539
【氏名又は名称】アース製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003029
【氏名又は名称】弁理士法人ブナ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本田 拓之
(72)【発明者】
【氏名】松本 繁
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0025184(US,A1)
【文献】実開平6-68463(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地面から立設可能であり、前記地面から立設した状態で前記地面と近接した位置に粘着剤下端がある粘着剤層を表面に設けた害虫捕獲部と、
前記害虫捕獲部の下部に設けられ、前記害虫捕獲部を前記地面から立設した状態で、少なくとも先端が地面に接し、この先端から前記害虫捕獲部の前記表面に設けた前記粘着剤層に延びる害虫誘導路と、を備え、
前記害虫誘導路は、前記地面に接する先端から前記害虫捕獲部の表面に向かって前記地面からの高さが大きくなり、前記地面に接する先端と前記害虫捕獲部の表面との間に前記地面に平行な平坦面を有しない傾斜面である害虫捕獲器。
【請求項2】
地面から立設可能であり、前記地面から立設した状態で前記地面と近接した位置に粘着剤下端がある粘着剤層を表面に設けた害虫捕獲部と、
前記害虫捕獲部の下部に設けられ、前記害虫捕獲部を前記地面から立設した状態で、少なくとも先端が地面に接し、この先端から前記害虫捕獲部の前記表面に設けた前記粘着剤層に延びる害虫誘導路と、を備え、
前記害虫誘導路は、前記地面に接する先端から前記害虫捕獲部の表面に向かって前記地面からの高さが大きくなり、前記地面に接する先端と前記害虫捕獲部の表面との間に前記地面に平行な平坦面を有しない傾斜面であり
、
前記害虫捕獲部は、前記害虫誘導路より下部に
、地中に刺して
前記地面から立設するための突き刺し部を有する害虫捕獲器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、匍匐害虫や飛翔害虫、特にコバエを捕獲するための害虫捕獲器およびこの害虫捕獲器を用いる害虫捕獲方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、コバエは、腐った植物、ゴミなどに発生し、俊敏に飛んだり、食卓や台所などを歩き回ったりする。コバエのうち、キノコバエは、腐った植物の周りを好み、幼虫は朽木や有機物の多い土壌中の腐食物などを餌とする。また、観葉植物の腐葉土に混入した卵から生育するため、コバエは園芸用プランターなどに発生しやすい。
コバエは、見た目に不快であるだけでなく、植物や糞尿にたかるため食品工場や飲食店に深刻な被害をもたらすことがある。
【0003】
そのため、従来から、コバエの捕獲器が多く提案されている。特許文献1には、害虫誘引成分を収容した容器内部へ害虫を誘引し捕獲する害虫捕獲具が記載されている。
特許文献2には、ショウジョウバエ、キノコバエ、チョウバエ等の飛翔害虫に対して、食酢や香料を含む誘引成分を飛翔害虫トラップに収容することが記載されている。
特許文献3には、キノコバエ等の飛翔害虫は風に向かって飛翔する性質を有することを利用して、送風機による風速を規定して、飛翔害虫を捕獲することが記載されている。
特許文献4には、容器色により飛翔害虫を誘引し捕獲できることが記載されている。
特許文献5には、液状の殺虫成分と揮散性誘因成分および蒸散抑制物質からなる薬剤組成物を保持した薬剤保持体を容器に収納し、容器の蓋状体に設けられた開孔部より捕獲する飛翔害虫捕獲具が記載されている。
【0004】
また、非特許文献1では、光によってキノコバエの成虫を誘引し、粘着シートで捕獲するトラップを考案し、効果的な誘引源の検討を行った旨が記載されている。
しかしながら、これらの多くの検討にも拘らず、コバエ等の捕獲効果は満足できるものではなかった。非特許文献1には、キノコバエに対する効果的な防除方法がないと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-57502号公報
【文献】特開2013-151470号公報
【文献】特開2005-204602号公報
【文献】特開2011-142876号公報
【文献】特開2011-101613号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】石谷栄次ら、「ツクリタケを加害するクロバネキノコバエ成虫に対する光誘引粘着トラップの考案とその誘引性」、日本応用動物昆虫学会誌、第41巻 第3号;141-146(1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
飛翔害虫であるショウジョウバエやノミバエのようなコバエ類と異なり、キノコバエはベイトトラップなどで捕獲が困難な害虫であることが知られている。そのため、本発明者らは精緻にキノコバエの生態行動を観察することで、キノコバエは他のコバエのように飛翔するよりも地面を歩き回る個体のほうが多いことを発見した。
【0008】
従って、本発明は、飛翔害虫のみならず、歩行する匍匐害虫をも効率よく捕獲できる害虫捕獲器および害虫捕獲方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)地面から立設された害虫捕獲部を有し、この捕獲部は下端が地面に接し、さらに地面と近接した位置に粘着剤下端がある粘着剤層を備えた害虫捕獲器。
(2)前記害虫捕獲部の下部に設けられ、少なくとも先端が地面に接し、この先端から前記害虫捕獲部の表面に延びる害虫誘導路をさらに備えた(1)に記載の害虫捕獲器。
(3)前記害虫誘導路の表面は、地面に接する先端から前記害虫捕獲部の表面に向かって地面からの高さが大きくなる傾斜面である(2)に記載の害虫捕獲器。
(4)前記害虫誘導路が複数の突条である(2)または(3)に記載の害虫捕獲器。
(5)上記(1)~(4)のいずれかに記載の害虫捕獲器を用いる害虫捕獲方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、地面から立設された害虫捕獲部は、粘着剤層を備えているので、害虫捕獲部に飛んでくる飛翔害虫を直接捕獲することができ、また地面と近接した位置に粘着剤下端がある粘着剤層を備えているので、地面を歩き回る匍匐害虫は地面から害虫捕獲部に這い上がり粘着剤層にて粘着捕獲することができる。したがって、飛翔および匍匐のいずれか、あるいは両方の行動をとるコバエ等の害虫を効率よく捕獲することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る害虫捕獲器を示す斜視図である。
【
図4】
図2に示す害虫捕獲器のA-A線断面図である。
【
図5】本発明の他の実施形態に係る害虫捕獲器を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係る害虫捕獲器を図面に基づいて詳細に説明する。
【0013】
図1に示すように、本実施形態に係る害虫捕獲器1は、害虫捕獲部(以下、捕獲部という)2と、この捕獲部2の下部に設けられた害虫誘導路(以下、誘導路という)3とを備える。
【0014】
捕獲部2は、
図1および
図2に示すように、木の葉形の板状で構成され、表面には害虫を捕獲するための粘着剤層4が設けられている。捕獲部2の背面は、
図3に示すように、木の葉のデザインであることを示す溝5が形成されている。なお、溝5に代えて、突起であってもよい。
【0015】
捕獲部2における粘着剤層4を設けた表面には、粘着剤層4を囲む壁部6が形成されている。すなわち、板状の捕獲部2とその表面に設けた壁部6とで粘着剤を注入し収容するための、いわば受け皿となっている。壁部6の下部は誘導路3を構成している。
【0016】
本実施形態における粘着剤層4は、壁部6で囲まれた領域全面に形成されているが、領域の一部のみであってもよい。粘着剤層4は、例えば、塗布、流し込み、貼着などの手段で形成することができる。粘着剤層4の材質は、特に制限されず、例えば、ゴム系、アクリル系などの各種粘着剤が挙げられる。
【0017】
壁部6の上部および両側部の内面には複数の突起8が形成されている。これらの突起8を設けているのは、壁部6内の粘着剤層4に手が触れるのを防止するためである。突起8は壁部6の外面にあってもよい。
【0018】
さらに、捕獲部2には、誘導路3より下部に、害虫捕獲器1を地中に刺して立設するための突き刺し部7が形成されている。突き刺し部7には補強リブ71が一体に形成されている。
図2および
図4は、突き刺し部7を地面Gに突き刺して捕獲部2をほぼ鉛直姿勢で固定した様子を示している。
【0019】
誘導路3は、壁部6の下端直線部61上に形成された平行な複数の突条31からなる。なお、本実施形態では、説明の便宜上、突条31と壁部6の下端直線部61とを含めて誘導路3ということがある。
【0020】
誘導路3は、下端直線部61が地面Gに接し、誘導路3の先端から捕獲部2の表面に延びている。このとき、誘導路3の表面、すなわち複数の突条31の表面は、地面Gに接する先端から捕獲部2の表面に向かって地面Gからの高さが大きくなる傾斜面となっている。
【0021】
このように、誘導路3を複数の突条31で構成したのは、本発明者らが、キノコバエ等の匍匐害虫は地面Gを歩き回ることが多く、特に突条31のように細い通路の縁に沿って歩行する習性を有することを見出したことに基づく。すなわち、地面Gを歩行する匍匐害虫は、地面Gから突条31に移り、突条31に沿って捕獲部2へと誘導され、粘着剤層4で捕獲される。
【0022】
図4に示すように、地面Gに対する突条31の表面の傾斜角度αは、匍匐害虫が地面Gから突条31の表面に這い上がるのを阻害しない角度であるのがよく、通常、地面Gから1°~90°、好ましくは5°~45°、さらに好ましくは10°~40°程度であるのがよい。
【0023】
誘導路3は、少なくとも先端が地面Gに接していることが必要である。これにより、匍匐害虫を突条31の表面に円滑に誘導することができる。本実施形態では、誘導路3の下部にある下端直線部61の下面全体が地面Gに接している。突条31の幅や個数はとくに制限されるものではなく、害虫捕獲器1の大きさ等に応じて適宜決定することができる。
【0024】
捕獲部2は地面Gに対してほぼ鉛直姿勢(すなわち
図4に示す地面Gに対する角度θが90°程度)であるのが、飛翔害虫の捕獲や省スペース化のうえで好ましいが、捕獲部2が地面Gに対して鉛直姿勢である必要はなく、地面Gに対して傾斜していてもよい。すなわち、捕獲部2の表面(粘着面)の地面Gに対する角度θは地面Gに対して30°~150°、好ましくは40°~135°、さらに好ましくは60°~120°程度であるのがよい。
【0025】
本実施形態の害虫捕獲器1は、例えば、園芸用プランターなどの地面Gに捕獲部2を立設させてコバエ等の害虫を捕獲するために使用される。害虫捕獲器1は、表面に粘着剤層4を有する捕獲部2と、少なくとも先端が地面に接する誘導路3とを備えるので、地面を這い回る害虫は誘導路3から捕獲部2へと誘導して捕獲できると共に、飛翔害虫は捕獲部2の粘着剤層4で直接捕獲することができる。特に、キノコバエのように、飛翔するよりも、地面を歩行する個体が多い害虫に対して有効である。
【0026】
従って、本実施形態の害虫捕獲器1は、種々の飛翔害虫や匍匐害虫に適用可能であり、特にショウジョウバエ、キノコバエ、チョウバエ等のコバエに好適であり、なかでもキノコバエの防除に最適である。
【0027】
本発明の他の実施形態に係る害虫捕獲器1´を
図5に示す。この害虫捕獲器1´は、上記の実施形態における誘導路3を設けずに、表面に粘着剤層4を有する板状の捕獲部2で構成されている。そのため、匍匐害虫は地面Gから直接、捕獲部2に這い上がることになる。その他は、前述の実施形態と同じであるので、同一符号を付し、説明を省略する。
【0028】
地面Gから粘着剤層4の下端までの距離としては、害虫が容易に這い上がれる距離であるのがよく、具体的には0~30mm、好ましくは0~20mm、さらに好ましくは0~10mm程度がよい。この距離は、前述の実施形態にも適用可能である。
【0029】
以上の説明では、表面に粘着剤層4を有する捕獲部2と、少なくとも先端が地面に接する誘導路3を有する害虫捕獲器1について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の改良や改変が可能である。
例えば、捕獲部2の外観形状は木の葉状に限定する必要はない。また、捕獲部2の表面の壁部6および突起8は省略することができ、更には、突刺し部7や溝5も省略することができる。
さらに、粘着剤層4は、捕獲部2の片面のみならず、両面に設けてもよい。その際、害虫誘導路3や壁部6も両面に設けてもよい。
【実施例】
【0030】
以下、試験例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの試験例に限定されるものではない。
【0031】
[試験例]
誘導路の有無による害虫捕獲力の違いを評価した。
(供試虫)
キノコバエ
(検体)
検体1:
図1~4に示す本発明の実施形態に係る害虫捕獲器1
検体2:本発明の実施形態に係る害虫捕獲器1において、害虫誘導路3を切除した害虫捕獲器1´
(試験方法)
1.キノコバエが自然発生している部屋に培養土を敷き詰めたバット(50×30×10 cm)を設置した。
2.バットの中心にキノコバエの温床となっているシイタケの菌床(5×10×10 cm)を設置した。
3.バットの対角に検体1,2を2つずつ(すなわち、バットの四隅に検体1,2を1つずつ、合計4つ)ほぼ鉛直姿勢で捕獲部下端が地面と接する状態で設置した。このとき、地面と粘着剤下端との距離はいずれも約7mmとした。設置から6時間後の検体1,2のそれぞれの合計捕獲頭数を計測し、さらに、その合計捕獲頭数を検体数(すなわち2)で除して、平均値を求めた。
(試験結果)
試験は4回行い、その平均値を求めた。その結果を表1に示す。
【表1】
表1から、検体1,2のいずれであっても、効率よくキノコバエを捕獲できることがわかる。とりわけ、検体1のように、害虫誘導路3を有する場合は、捕獲頭数が向上していた。
【符号の説明】
【0032】
1 害虫捕獲器
2 害虫捕獲部
3 害虫誘導路
31 突条
4 粘着剤層
5 溝
6 壁部
7 突き刺し部
8 突起
9、9´ 検体
61 下端直線部
71 補強リブ
G 地面