(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】溶融Al-Zn系めっき鋼板、表面処理鋼板、塗装鋼板及び溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 2/12 20060101AFI20241028BHJP
C22C 18/04 20060101ALI20241028BHJP
C22C 21/10 20060101ALI20241028BHJP
C23C 2/06 20060101ALI20241028BHJP
C23C 2/26 20060101ALI20241028BHJP
C23C 2/28 20060101ALI20241028BHJP
C23C 2/40 20060101ALI20241028BHJP
C23C 22/78 20060101ALI20241028BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20241028BHJP
C21D 9/46 20060101ALN20241028BHJP
C22C 38/00 20060101ALN20241028BHJP
C22C 38/06 20060101ALN20241028BHJP
【FI】
C23C2/12
C22C18/04
C22C21/10
C23C2/06
C23C2/26
C23C2/28
C23C2/40
C23C22/78
C23C28/00 C
C21D9/46 J
C22C38/00 301T
C22C38/06
(21)【出願番号】P 2023189639
(22)【出願日】2023-11-06
【審査請求日】2023-12-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000200323
【氏名又は名称】JFE鋼板株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】藤沢 英嗣
(72)【発明者】
【氏名】冨士本 憲嗣
(72)【発明者】
【氏名】飛山 洋一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 安秀
(72)【発明者】
【氏名】生井 清太郎
(72)【発明者】
【氏名】鐘ケ江 顕
(72)【発明者】
【氏名】白神 健志
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-031759(JP,A)
【文献】特開2003-213396(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C2/00-2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al:40~70質量%及びSi:0.5~3.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有するめっき層が形成された、溶融Al-Zn系めっき鋼板であって、
前記めっき層は、主としてAl初晶からなるデンドライト、及び、Al-Zn共晶を含むデンドライト間隙を有し、
前記Al初晶におけるα-Al相のマトリックス中のZn含有量が30質量%以下であり、
前記めっき層の厚さX(μm)と、前記Al初晶のビッカース硬さHV
0.01とが、以下の(1)及び(2)の関係を満足することを特徴とする、溶融Al-Zn系めっき鋼板。
HV
0.01≦-4X+205 ・・・(1)
X≧23 ・・・(2)
【請求項2】
JIS G 3322(2019年)に準拠した曲げ試験において、125mm幅で曲げの内側間隔に板を挟まずに180度密着曲げを実施し、密着曲げ部を戻して平滑にした後に、密着曲げ時に内側だった曲げ戻し部の表面に粘着テープを貼り、前記曲げ戻し部の曲げ線に直交する方向に剥がした際の、粘着テープに付着した剥離しためっき層の曲げ線に直交する方向の最大幅が1mm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の溶融Al-Zn系めっき鋼板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の溶融Al-Zn系めっき鋼板上に、化成処理皮膜を形成したことを特徴とする、表面処理鋼板。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の溶融Al-Zn系めっき鋼板上に、直接又は中間層を介して、塗膜を形成したことを特徴とする、塗装鋼板。
【請求項5】
Al:40~70質量%及びSi:0.5~3.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有するめっき浴を用いて、下地鋼板に、片面あたりのめっき厚さX(μm)のめっき層を形成する工程と、
前記めっき層が形成された鋼板を再加熱する工程と、を具え
前記再加熱時の鋼板の最高到達温度をT℃、T℃から100℃までの冷却時間をy(hr)としたとき、以下の(2)、(3)及び(4)の関係を満足し、
X≧23 ・・・(2)
160≦T≦300 ・・・(3)
0.5≦y≦5 ・・・(4)
前記最高到達温度T℃から常温までの平均冷却速度を10℃/hr以下と
し、
前記再加熱時の常温から前記最高到達温度T℃までの平均加熱速度を3℃/hr以上とすることを特徴とする、溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき付着量が多い場合であっても、曲げ戻し部のめっき密着性に優れた溶融Al-Zn系めっき鋼板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
55%Al-Zn系めっき鋼板に代表される、めっき層中にAlを20~95質量%含有する溶融Al-Zn系めっき鋼板は、Znの犠牲防食性とAlの高い耐食性とが両立できているため、溶融亜鉛めっき鋼板の中でも高い耐食性を示すことが知られている。
そのため、溶融Al-Zn系めっき鋼板は、長期間屋外に曝される屋根や壁等の建材分野、ガードレール、配線配管、防音壁等の土木建築分野に多く使用されている。特に、工場建屋等の用途では、安価で施工性に優れることから、折板、角スパン、角波といった形状の長尺金属壁や屋根材として、溶融Al-Zn系めっき鋼板が好適に使用されている。
【0003】
長尺金属屋根材等に溶融Al-Zn系めっき鋼板を用いる際には、壁際、軒先等の雨仕舞い部位に適用するべく、厳しい加工を受けることがある。具体的には、一旦、鋼板を重ね合わすように180度密着曲げを施した後、その一部分を元の平滑状態に戻す曲げ戻しという作業が生じることがある。このような曲げ戻し加工があった場合には、溶融Al-Zn系めっき鋼板の曲げ戻し部(180度密着曲げが施された後に平滑状態に戻された部分)周辺のめっき層が剥離するという問題があった。
【0004】
ここで、
図1は、180℃密着曲げが施された55%Al-Zn系めっき鋼板の断面を電子顕微鏡で観察したもの、
図2は、180度密着曲げ部を元の平滑状態に戻した後の、55%Al-Zn系めっき鋼板の断面を電子顕微鏡で観察したものである。
図1から、180℃密着曲げが施された最、折り曲げ部のめっき層の内側は、圧縮歪みを受け、より内側に波打つように隆起することがわかる。そして、その圧縮応力による隆起によって、めっき層-鋼板の界面に存在するAl-Fe合金層からめっき層自体が剥離しているため、その後曲げ加工部を戻した際、
図2に示すように、曲げ戻し部のめっき層が大きく剥がれることとなる。
加えて、この曲げ戻し部のめっき層の剥離は、めっき層を厚くした場合に顕著に発生する傾向があり、3点平均の両面最小付着量が150g/m
2程度の汎用的なめっき付着量(例えば、JIS G 3322でいうところのめっき付着量表示記号AZ150)であれば、曲げ戻し部のめっき層の剥がれの問題は少ないが、高耐久性・高耐食性を目的として3点平均の両面最小付着量が170 g/m
2以上のめっき付着量(JIS G 3322でいうところのめっき付着量表示記号AZ170、AZ185、AZ200等)の溶融Al-Zn系めっき鋼板では、曲げ戻し部のめっき層の剥がれが大きな問題となっている。
【0005】
このため、従来から溶融Al-Zn系めっき鋼板の曲げ加工性や曲げ加工部の耐食性の改善を図ろうとする種々の試みがなされている(例えば、特許文献1~4を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-156729号公報
【文献】特開2001-288551号公報
【文献】特開2002-363722号公報
【文献】特願2022-113532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1は、55%Al-Zn系めっき鋼板の耐曲げ戻し性、すなわち繰り返しの曲げ戻しにおける母材鋼のネッキングによる割れの防止に関する技術であり、特許文献2は、めっき層形成前に原板表面を窒化処理することで、剥離の起因となるAl-Fe系合金層を不連続に形成させ、めっき剥離現象を抑えるという技術である。そのため、いずれも、めっき層の曲げ戻し部の剥離を抑制するものではなかった。
また、特許文献3及び4は、曲げ部表面外側の圧縮を伴わないめっきの伸び加工性改善を目的として、ビッカース硬度(HV0.01)を120以下に規定する技術であるが、めっき層の厚さの影響は考慮されておらず、厚目付の溶融Al-Zn系めっき鋼板の曲げ戻し加工部のめっき剥離現象についてはさらなる改善の必要があった。
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑み、めっき付着量が多い場合であっても、曲げ戻し部のめっき密着性に優れた、溶融Al-Zn系めっき鋼板、表面処理鋼板及び塗装鋼板、並びに、溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造方法、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、Al:40~70質量%及びSi:0.5~3.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有するめっき層が形成された、溶融Al-Zn系めっき鋼板について、上記の課題を解決すべく検討を行った結果、めっき層の厚さと、めっき層中のデンドライトを構成するAl初晶のビッカース硬さとの関係について、適正化を図ることによって、めっき付着量が多い場合であっても、曲げ戻し部のめっき密着性を高めることができることを見出した。
【0010】
本発明は、以上の知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
1.Al:40~70質量%及びSi:0.5~3.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有するめっき層が形成された、溶融Al-Zn系めっき鋼板であって、
前記めっき層は、主としてAl初晶からなるデンドライト、及び、Al-Zn共晶を含むデンドライト間隙を有し、
前記めっき層の厚さX(μm)と、前記Al初晶のビッカース硬さHV0.01とが、以下の(1)及び(2)の関係を満足することを特徴とする、溶融Al-Zn系めっき鋼板。
HV0.01≦-4X+205 ・・・(1)
X≧23 ・・・(2)
【0011】
2.JIS G 3322(2019年)に準拠した曲げ試験において、125mm幅で曲げの内側間隔に板を挟まずに180度密着曲げを実施し、密着曲げ部を戻して平滑にした後に、密着曲げ時に内側だった曲げ戻し部の表面に粘着テープを貼り、前記曲げ戻し部の曲げ線に直交する方向に剥がした際の、粘着テープに付着した剥離しためっき層の曲げ線に直交する方向の最大幅が1mm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の溶融Al-Zn系めっき鋼板。
【0012】
3.上記1又は2に記載の溶融Al-Zn系めっき鋼板上に、化成処理皮膜を形成したことを特徴とする、表面処理鋼板。
【0013】
4.上記1又は2に記載の溶融Al-Zn系めっき鋼板上に、直接又は中間層を介して、塗膜を形成したことを特徴とする、塗装鋼板。
【0014】
5.Al:40~70質量%及びSi:0.5~3.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有するめっき浴を用いて、下地鋼板に、片面あたりのめっき厚さX(μm)のめっき層を形成する工程と、
前記めっき層が形成された鋼板を再加熱する工程と、を具え
前記再加熱時の鋼板の最高到達温度をT℃、T℃から100℃までの冷却時間をy(hr)としたとき、以下の(2)、(3)及び(4)の関係を満足することを特徴とする、溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造方法。
X≧23 ・・・(2)
150≦T≦300 ・・・(3)
0.5≦y≦24 ・・・(4)
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、めっき付着量が多い場合であっても、曲げ戻し部のめっき密着性に優れた、溶融Al-Zn系めっき鋼板、表面処理鋼板及び塗装鋼板、並びに、溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造方法、を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】180度密着曲げを施した55%Al-Zn系めっき鋼板の断面を電子顕微鏡で観察した際の写真である。
【
図2】180度密着曲げを施した後、元の平滑状態の戻した際にめっき層の剥がれが発生した55%Al-Zn系めっき鋼板の断面を電子顕微鏡で観察した際の写真である。
【
図3】180度密着曲げを施した後、元の平滑状態の戻した際にめっき層の剥がれが抑制された55%Al-Zn系めっき鋼板の断面を電子顕微鏡で観察した際の写真である。
【
図4】実施例及び比較例で作製した塗装鋼板の各サンプルについて、めっき層の厚さ、めっき層中のAl初晶のビッカース硬さHV
0.01及び曲げ戻し部のめっき層の剥離の有無の関係を示したグラフである。
【
図5】剥離しためっき層の曲げ線に直交する方向の最大幅を測定するため、Al-Zn系めっき鋼板の曲げ戻し部の表面に粘着テープを貼った状態を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(溶融Al-Zn系めっき鋼板)
本発明の溶融Al-Zn系めっき鋼板は、鋼板表面にめっき層を有する。
ここで、前記めっき層は、Al:40~70質量%及びSi:0.5~3.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有する。前記溶融めっき鋼板のめっき層が、上述した組成を有することによって、良好な耐食性を実現できる。
なお、該めっき層は、下地鋼板との界面側に存在する界面合金層と該界面合金層の上に存在する主層とからなる。
【0018】
前記めっき層中のAl含有量は、耐食性と操業面のバランスから、40~70質量%とし、好ましくは50~60質量%である。
前記めっき層中のAl含有量が、少なくとも40質量%あれば、Al初晶のデンドライト凝固が生じ、Alがデンドライト凝固した部分(α-Al相のデンドライト相)と残りのデンドライト間隙の部分(インターデンドライト相)からなり、デンドライト相がめっき層の膜厚方向に積層する構造を得ることができる。前記デンドライト凝固組織がめっき層の膜厚方向に積層する構造を取ることで、めっき層の腐食進行経路が複雑になり、耐食性を向上させることができる。また、このデンドライトが多く積層するほど、腐食進行経路が複雑になり、腐食が容易に下地鋼板に到達しにくくなって、耐食性が向上する。
一方、前記めっき層中のAl含有量が70質量%を超えると、Feに対して犠牲防食作用を有するZnの含有量が少なくなり、耐食性が劣化する。このため、前記めっき層中のAl含有量は70質量%以下とする。また、前記めっき層中のAl含有量が60質量%以下であれば、めっきの付着量が少なくなり、下地鋼板が露出しやすくなった場合にもFeに対して犠牲防食作用を有し、十分な耐食性が得られる。そのため、めっき主層のAl含有量は60質量%以下とすることが好ましい。
【0019】
前記めっき層中のSiは、下地鋼板との界面に生成する界面合金層の成長を抑制するとともに、前記めっき層と下地鋼板との密着性、耐食性、加工性等の向上目的で添加される。
本発明の溶融Al-Zn系めっき鋼板の場合、Siを含有したAl-Zn系めっき浴に鋼板を浸漬させると、鋼板表面のFeと、めっき浴中のAlやSiが合金化反応し、Fe-Al系及び/又はFe-Al-Si系の金属間化合物が、下地鋼板とめっき層との界面に、層状に生成し(界面合金層が形成される)、このFe-Al-Si系合金はFe-Al系合金よりも成長速度が遅いので、Fe-Al-Si系合金の比率が高いほど、合金相全体の成長を抑制できる。そのため、前記めっき層中のSi含有量は0.5質量%以上であることを要する。
一方、前記界面合金層の形成で消費されずに余剰となったSiは、めっき層中にSi相として析出するが、Si相はAl初晶やAl-Zn共晶よりも電気化学的に貴であり、カソードとして作用するため、めっき層の腐食を促進して耐食性を低下させる作用がある。具体的には、前記めっき層中のSi含有量が3.0質量%を超えると、前述した合金相の成長抑制効果が飽和するだけでなく、Si相の量が増加して腐食が促進されるため、Si含有量は3.0質量%以下とする。
同様の観点から、前記めっき層中のSi含有量は、2.5質量%以下であることがより好ましい。
【0020】
なお、前記めっき層は、該めっき層の主成分としてZnを含む。前記めっき層にZnを含有することで、犠牲防食作用を得ることができ、耐食性の向上を図ることが可能となる。前記Znの含有量については、特に限定はされないが、80質量%以下の場合には、Al含有量を確保でき、上述したデンドライト相とインターデンドライト相による耐食性を実現できる点で好ましい。
【0021】
また、前記めっき層は、不可避的不純物を含有する。
前記不可避的不純物としては、めっき処理中にめっき浴と下地鋼板の反応でめっき中に取り込まれる下地鋼板成分や、めっき浴を建浴する際に使用するインゴット中に含有されている不可避的不純物、浴中機器から若干溶出する不可避的不純物がある。
前記めっき中に取り込まれる下地鋼板成分としては、Feが数%程度含まれることがある。めっき浴中の不可避的不純物の種類としては、例えば、前記下地鋼板成分としては、Fe、Mn、P、S、C、Nb、Ti、B等が挙げられる。また、前記インゴット中の不純物としては、Fe、Pb、Sb、Cd、As、Ga、V等が挙げられる。さらに、前記浴中機器からの不純物としては、Cr、Ni、W、Coなどが挙げられる。
なお、前記めっき層中のFeについては、下地鋼板から取り込まれるものと、めっき浴中にあるものとを区別して定量することはできない。前記不可避的不純物の総含有量は、特に限定はしないが、めっきの耐食性と均一な溶解性を維持するという観点から、Feを除いた不可避的不純物量は合計で1.0質量%以下であることが好ましい。
さらに、前記不可避的不純物のFeを加えた総含有量については、特に限定はされないが、過剰に含有した場合、めっき鋼板の各種特性に影響を及ぼす可能性があるため、合計で5.0質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以下であることがより好ましい。
【0022】
また、本発明の溶融Al-Zn系めっき鋼板では、上述した各成分に加えて、任意添加成分を5質量%以下含有することもできる。
前記任意添加成分としては、めっき層に要求される性能に応じて適宜選択することが可能である。例えば、CaやMg等のアルカリ土類金属や、Mn、V、Cr、Mo、Ti、Sr、Ni、Co、Sb及びB等の添加成分が挙げられる。
これらの任意添加成分については、耐食性をより向上できる等の効果が得られるものの、めっき層の加工性が低下し、溶融Al-Zn系めっき鋼板の限界伸び率を悪化させるおそれがあるため、任意添加の含有量は、5質量%以下とすることが好ましい。
【0023】
前記任意添加成分としてのMg及びCaは、前記めっき層が腐食した際、腐食生成物中にMg及び/又はCaが含まれることとなり、腐食生成物の安定性が向上し、腐食の進行が遅延する結果、耐食性が向上するという効果が得られる。
前記めっき層におけるCa及び/又はMgの合計含有量は、5質量%以下であれば特に限定はされないが、0.01~5質量%であることが好ましい。合計含有量を0.01質量%以上とすることで、十分な腐食遅延効果が得られ、一方、合計含有量を5質量%以下とすることで、効果が飽和することなく、製造コストの上昇を抑え、めっき浴の組成管理を容易に行えるためである。
【0024】
さらに、前記めっき層は、前記任意添加成分として、Mgを少なくとも含有することが好ましい。前記めっき層がMgを含有することで、上述したSiとともにMg2Siを生成できるようになり、腐食遅延効果を得ることができるからである。ここで、前記めっき層中のMgの含有量は、0.01~5質量%であることが好ましく、2~4.9質量%であることがより好ましい。
【0025】
なお、下地鋼板上に前記めっき層を形成する手段としては、特に限定はされず、通常の連続式溶融めっき設備を用いることができる。
例えば、下地鋼板を、還元性雰囲気に保持された焼鈍炉内で所定温度に加熱し、焼鈍と同時に鋼板表面に付着する圧延油等を除去し、酸化膜の還元除去を行った後、下端がめっき浴に浸漬されたスナウト内を通って所定濃度のAl及びZnを含有した溶融亜鉛めっき浴中に浸漬する。その後、めっき浴に浸漬された鋼板を、シンクロールを経由してめっき浴の上方に引き上げた後、めっき浴上に配置されたガスワイピングノズルから鋼板の表面に向けて加圧した気体を噴射することにより、めっき付着量を調整し、次いで冷却装置により冷却することで、めっき層を形成できる。
なお、めっき後(鋼板をめっき浴から出した後)の冷却速度に関しては、特に限定されるものではなく、通常の条件(例えば、12℃/s以上)とすることができる。
【0026】
また、前記めっき層の成分組成は、例えば、めっき層を塩酸等に浸漬して溶解させ、その溶液をICP発光分光分析や原子吸光分析等で確認することができる。この方法はあくまでも一例であり、めっき層の成分組成を正確に定量できる方法であればどのような方法でも良く、特に限定するものではない。
【0027】
なお、本発明により得られた溶融Al-Zn系めっき鋼板のめっき層は、全体としてはめっき浴の組成とほぼ同等となる。そのため、前記めっき層の組成の制御は、めっき浴組成を制御することにより精度良く行うことができる。
【0028】
そして、本発明の溶融Al-Zn系めっき鋼板では、前記めっき層の厚さX(μm)と、前記めっき層中のデンドライトを構成するAl初晶のビッカース硬さHV0.01とが、以下の(1)及び(2)の関係を満足することを特徴とする。
HV0.01≦-4X+205 ・・・(1)
X≧23 ・・・(2)
【0029】
上述した溶融Al-Zn系めっき鋼板の曲げ戻し部におけるめっき層の密着性については、前記めっき層の厚さXと、前記めっき層の硬度との間に相関があることがわかった。
本発明では、前記めっき層の硬度に大きな影響があるAl初晶のビッカース硬さHV0.01について、めっき層の厚さに応じて適宜制御する、つまり式(1)を満足することで、鋼板に180度密着曲げを実施した際、折り曲げ部の内面側で、折り曲げられためっき層が圧縮歪みを生じることによって生じる、めっき層がより内側に隆起しようとする反力(めっきの剥離に直結する反力)を抑えることができる。その結果、本発明の溶融Al-Zn系めっき鋼板は、めっき付着量が多い場合であっても、曲げ戻し部のめっき密着性を高いレベルで維持できる。
【0030】
具体的には、本発明の溶融Al-Zn系めっき鋼板では、JIS G 3322(2019年)に準拠した曲げ試験において、125mm幅で曲げの内側間隔に板を挟まずに180度密着曲げを実施し、密着曲げ部を戻して平滑にした後に、
図5に示すように、密着曲げ時に内側だった曲げ戻し部の表面に粘着テープを貼り、その後、前記曲げ戻し部の曲げ線に直交する方向に剥がした際の、粘着テープに付着した剥離しためっき層の曲げ線に直交する方向の最大幅Aが1mm以下となることが好ましく、めっき層の剥離がないことがより好ましい。なお、溶融Al-Zn系めっき鋼板の曲げ戻し部に貼る粘着テープの範囲については、特に限定はされないが、より確実にめっき層の剥がれの有無を確認できる観点からは、貼り付けた粘着テープの曲げ戻し部の曲げ線に沿った方向の幅Wが18mm以上であることが好ましい。さらに粘着テープを複数枚、平行に貼り、評価範囲を広げることがより好ましい。
これによって、実際の使用に十分適用できるレベルの曲げ戻し部のめっき密着性を得ることができる。
【0031】
本発明の溶融Al-Zn系めっき鋼板では、前記めっき層の厚さXが23μm以上である(式(2):X≧23を満たす)。本発明で問題としている溶融Al-Zn系めっき鋼板の曲げ戻し部周辺のめっき層の剥離は、めっき層が厚くなると顕著に発生する傾向があることから、前記めっき層の厚さXが23μm以上と厚い場合に、本発明による曲げ戻し部のめっき密着性向上効果をより享受できる。
【0032】
前記めっき層の厚さは、例えば溶融Al-Zn系めっき鋼板の断面を、常乾樹脂に埋め込み、切断、研磨した後、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することによって測定できる。その際、溶融Al-Zn系めっき鋼板の幅方向(通常は1,000mm前後)に沿って、例えば5点程度の複数点からサンプリングし、平均値を算出することにより、精度を上げることもできる。
また、前記めっき層の厚さを算出する他の方法として、JIS H 0401記載の付着量試験方法で、一定面積のサンプル(70mmφ前後)の塗膜をリムーバー等で除去し、秤量後、1+1の塩酸1リットルにヘキサメチレンテトラミンを3.5g溶解した試験液でめっき層を溶解し、再び秤量することで単位面積あたりのめっき付着量が算出でき、その値を溶融Al-Zn系めっき鋼板のめっき層比重3.7g/μm・m2で割ることによって、めっき厚さを算出できる。この場合も、例えば3点程度の複数点からサンプリングすることにより精度が上げられる。
【0033】
前記めっき層の厚さについては、JIS G 3321に記載されているめっき付着量表示記号AZ170以上の付着量の場合、本発明での厚目付としている。AZ170の3点平均最小付着量は、170 g/m2であり、この時の片面あたりのめっき厚さは、
170 g/m2÷2÷3.7 g/μm・m2より、23μmとなる。
同様に、
AZ185:185 g/m2÷2÷3.7 g/μm・m2より、約25μm
AZ200:20 g/m2÷2÷3.7 g/μm・m2より、約27μm
となり、本発明で問題としている溶融Al-Zn系めっき鋼板の内曲げ側の曲げ戻し部周辺のめっき層の剥離は、めっき層が厚くなると顕著に発生する傾向があることから、(2)式でX≧23と規定している。
【0034】
ここで、前記ビッカース硬さについては、10gの押し込み荷重(HV0.01)で試験を実施している。
例えば、溶融Al-Zn系めっき鋼板のサンプルについて、樹脂に埋め込み、研磨し、サンプルの断面を観察できるようにし、その後、断面のAl初晶部をビッカース試験機で圧子を用いて、試験力98.07mN、保持時間10秒でできた圧痕の水平長さと垂直長さの平均値から、ビッカース硬さを算出することができる。
【0035】
なお、前記めっき層は、主として、Al初晶からなるデンドライト及びAl-Zn共晶を含むデンドライト間隙を有しており、該Al初晶は、α-Al相のマトリックス及びZnの析出物を含み、前記マトリックス中のZn含有量が、30質量%以下であることが好ましい。
本発明では、めっき層を再加熱することによるめっき層の軟質化による加工性改善を行っているが、この軟質化は先述のようにAl初晶からのZnの晶出によって起こり、この際のAl初晶マトリックスのZn濃度は、Znの晶出のために熱処理前に比べて低下することになり、具体的には30質量%以下となることが好適である。
【0036】
前記Al初晶のビッカース硬さHV0.01を制御する方法については、特に限定はされず、溶融めっき後の冷却条件や、後述するめっき層の再加熱処理によって、めっき層を軟質化させ、上記式(1)を満足するよう前記Al初晶のビッカース硬さHV0.01を制御できる。
【0037】
なお、前記めっき層中の界面合金層については、前記めっき層のうち、下地鋼板との界面に存在する層であり、Fe、Al、Si、Zn及び不可避的不純物を含む層状の界面合金層である。上述したように、前記界面合金層は、下地鋼板表面のFeと、めっき浴中のAlやSiが合金化反応して必然的に形成される。
この界面合金層は、硬くて脆いため、厚く成長すると加工時のクラック発生の起点となることから、できるだけ薄くする必要がある。そのため、本発明の溶融Al-Zn系めっき鋼板では、前記界面合金層の厚さが2μm以下であることを要し、1μm以下であることが好ましい。前記界面合金層の厚さが2μmを超えると、曲げ戻し部のめっき密着性を低下させることになる。
【0038】
なお、前記界面合金層は、走査電子顕微鏡(SEM)等を用いて前記めっき層の断面を3視野以上観察したときに、各視野内に存在する界面合金層の平均厚さの、測定値の平均をとった値である。
また、前記界面合金層の厚さを抑える方法については、特に限定はされない。例えば、上述したように、めっき層中のSiの含有量を調整する方法や、後述するように、めっき層を形成した後に熱履歴を付与する際の冷却時間を調整する方法等が挙げられる。
【0039】
(表面処理鋼板)
また、本発明の表面処理鋼板は、本発明の溶融Al-Zn系めっき鋼板上に、化成処理皮膜を形成したことを特徴とする。
なお、前記化成処理皮膜については、特に限定はされず、要求される性能に応じて適宜選択することができる。例えば、クロメート化成処理皮膜及びクロメートフリー化成処理皮膜のいずれも用いることができる。例えばクロメートフリー化成処理皮膜であれば、樹脂成分と無機成分の複合体であり、硬化剤を含有したウレタン樹脂とエポキシ樹脂の混合物を70~90質量%含有し、無機成分として、リン系酸化物を2~10質量%、及びジルコニウム酸化物を8~20質量%含有するもの等を用いることができる。
【0040】
また、前記化成処理皮膜の付着量については、0.025~0.5g/m2であることが好ましい。0.025 g/m2未満では下地のアルミニウム-亜鉛系合金めっき鋼板及び上層のプライマー塗膜との密着性の低下や耐食性の低下が生じ得る。0.5 g/m2を超えると厳しい曲げ加工を受けた場合に化成処理皮膜が破壊(剥離)しやすくなり、やはり耐食性が低下することがある。
【0041】
なお、前記化成処理皮膜は、溶融Al-Zn系めっき鋼板に化成処理液をロールコーターなどで連続的に塗装し、その後、熱風や誘導加熱などを用いて、60℃~200℃程度の最高到達板温(Peak Metal Temperature:PMT)で乾燥させることにより得られる。
【0042】
(塗装鋼板)
また、本発明の塗装鋼板は、本発明の溶融Al-Zn系めっき鋼板上に、直接又は中間層を介して、塗膜を形成したことを特徴とする。
前記塗膜を形成することで、美観を付与することができ、加工性、耐候性、耐薬品性、耐汚染性、耐水性、耐食性などの各種性能を高めることもできる。
【0043】
なお、前記塗膜の種類や、塗膜を形成する方法については、特に限定はされず、要求される性能に応じて適宜選択することができる。
前記塗膜の形成に用いられる塗料としては、例えば、ポリエステル樹脂系塗料、シリコンポリエステル樹脂系塗料、ポリウレタン樹脂系塗料、アクリル樹脂系塗料、フッ素樹脂系塗料などが挙げられるが、特に耐食性、耐候性の点からはフッ素樹脂系塗料が好ましい。
【0044】
前記塗膜の厚さについては、特に限定はされない。例えば、前記塗膜の厚さを5~30μmとすることができる。5μm以上とすることで、色調外観を安定させることができ、30μm以下とすることで、加工性の低下(塗膜のクラック発生)をより確実に抑えることができる。
【0045】
なお、前記塗膜には、目的、用途に応じて、クロメート系化合物以外の、酸化チタン、弁柄、マイカ、カーボンブラック、その他の各種着色顔料やアルミニウム粉やマイカ等のメタリック顔料、炭酸塩や硫酸塩などからなる体質顔料、あるいは、シリカ微粒子、ナイロン樹脂ビーズ、アクリル樹脂ビーズなど各種微粒子、p-トルエンスルホン酸、ジブチル錫ジラウレート等の硬化触媒、ワックスその他の添加剤を適量配合することができる。
【0046】
また、前記塗膜を形成するための塗料組成物の塗装方法に特に制約はないが、好ましくは塗料組成物をロールコーター塗装、カーテンフロー塗装などの方法で塗布することができる。塗料組成物を塗装後、熱風加熱、赤外線加熱、誘導加熱等の加熱手段により焼き付け、塗膜を得る。焼付処理は、通常、最高到達板温を180~270℃程度とし、この温度範囲で約30秒~3分行うことができる。
【0047】
また、前記中間層については、溶融めっき鋼板のめっき層と前記塗膜との間に形成される層であれば特に限定はされない。例えば、塗装下地化成処理皮膜や、接着層等のプライマーが挙げられる。前記塗装下地化成処理皮膜については、例えば、クロメート塗装下地処理液又はクロムフリー塗装下地化成処理液を塗布し、水洗することなく、鋼板温度として80~300℃となる乾燥処理を行うクロメート塗装下地処理又はクロムフリー塗装下地化成処理により形成することが可能である。これら塗装下地化成処理皮膜は単層でも複層でもよく、複層の場合には複数の塗装下地化成処理を順次行えばよい。
【0048】
(溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造方法)
本発明の溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造方法(以下、「本発明の製造方法」ということがある。)は、Al:40~70質量%及びSi:0.5~3.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有するめっき浴を用いて、下地鋼板に、片面あたりのめっき厚さX(μm)のめっき層を形成する工程と、
前記めっき層が形成された鋼板を再加熱する工程と、を具える。
【0049】
なお、前記下地鋼板に前記めっき層を形成する工程における、めっきの形成手段については、特に限定はされない。例えば、連続式溶融めっき設備で、前記下地鋼板を、洗浄、加熱、めっき浴浸漬することによって製造できる。
【0050】
本発明の製造方法に用いられる下地鋼板の種類については、特に限定はされない。例えば、酸洗脱スケールした熱延鋼板若しくは鋼帯、又は、それらを冷間圧延して得られた冷延鋼板若しくは鋼帯を用いることができる。
さらに、鋼中成分としても本発明では特にこれを限定するものではないが、例えば、C:0.01~0.10質量%のもの等を用いることができる。ただし、C:0.01%未満の鋼板も本発明では除くものではない。また、成分元素としてC、Al、Si、Mn、P以外に微量添加元素としてN、S、O、B、V、Nb、Ti、Cu、Mo、Cr、Co、Ni、Ca、Sr、In、Sn、Sb等を含有することも可能である。
【0051】
加えて、前記下地鋼板を得る方法についても、特に限定はされない。例えば、前記熱延鋼板の場合、熱間圧延工程、酸洗工程を経たものを使用することができ、前記冷延鋼板の場合には、さらに冷間圧延工程を加えて製造できる。さらに、鋼板の特性を得るために溶融めっき工程の前に、再結晶焼鈍工程等を経ることも可能である。
【0052】
前記めっき層を形成する際に用いるめっき浴については、上述したように、前記めっき層の組成が全体としてはめっき浴の組成とほぼ同等となることから、Al:40~70質量%及びSi:0.5~3.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有するものを用いる。
【0053】
本発明の製造方法では、前記めっき層の厚さが、以下の式(2)を満足するように制御する。
X ≧ 23(μm) ・・・(2)
前記めっき層の厚さや、付着量は、連続式溶融めっき設備にて鋼板が溶融めっき浴に浸漬後引き上げられる際、エアーワイピングという方式で、鋼板の両面からスリットノズルから噴出される空気圧を調整し、掻き落とす量を変えることで、制御することができる。なお、前記エアーワイピングに用いられるガスは、特に限定はされず、例えば、空気や窒素等が用いられる。
【0054】
そして、本発明の製造方法では、前記めっき層が形成された鋼板を再加熱する工程を具え、前記再加熱時の鋼板の最高到達温度をT℃、T℃から100℃までの冷却時間をy(hr)としたとき、以下の(3)及び(4)の関係を満足する。
150≦T≦300 ・・・(3)
0.5≦y≦24 ・・・(4)
【0055】
上記(3)式では、前記めっき層が形成された鋼板を再加熱する際の最高到達温度Tの範囲を規定している。前記最高到達温度Tを150℃以上としたのは、この温度以上でないと前記めっき層の十分な軟質化が起こらないため、溶融Al-Zn系めっき鋼板の十分な曲げ加工性が得られないためである。同様の観点から、前記最高到達温度Tは、160℃以上であることが好ましい。一方、前記最高到達温度Tを300℃以下としたのは、この温度以上では、めっきと鋼板の界面に生じる界面合金層の厚みが厚くなる結果、曲げ加工性が低下するためである。同様の観点から、前記最高到達温度Tは280℃以下であることが好ましい。
【0056】
上記(4)式は、形成しためっき層の厚さT及び再加熱時の最高到達温度Tを考慮した上で、曲げ戻し部のめっき密着性や生産性を高いレベルで維持するために規定したものである。上記(4)における冷却時間(滞留時間)yが、0.5hr未満の場合には、めっき層が十分軟質化できず良好な曲げ加工性ひいては曲げ戻し部のめっき密着性を確保できない。一方、前記冷却時間(滞留時間)yが24hrを超えると、生産性が低下する。
同様の観点から、前記冷却時間(滞留時間)yは、好ましくは、0.5≦y≦12である。
【0057】
また、本発明の製造方法では、特に限定されるものではないが、前記鋼板を再加熱する際の常温から最高到達温度T℃までの平均加熱速度を、3℃/hr以上とすることが好ましく、4℃/hrとすることがより好ましく、5℃/hrとすることがさらに好ましい。加工性改善のため、高温域での滞留時間が過度に長くなるのを抑えるためである。
さらにまた、前記再加熱した鋼板を冷却する際の最高到達温度T℃から常温までの平均冷却速度を、20℃/hr以下とすることが好ましく、15℃/hr以下とすることがより好ましく、10℃/hr以下とすることがさらに好ましい。加工性改善のための高温域での必要最低の滞留時間を確保するためである。
【0058】
また、本発明の製造方法では、前記めっき層上に化成処理皮膜を形成する場合、該化成処理皮膜の形成は前記再加熱の前でも後でも構わない。ただし、前記再加熱前に化成処理皮膜を形成する場合には、前記化成処理皮膜の樹脂成分を少なくしたり、骨材を添加したり、コイルで再加熱する際に化成処理皮膜同士が密着しないようにすることが好ましい。
【0059】
なお、本発明の製造方法では、上述したように、めっき層を形成する工程、及び、めっき層が形成された鋼板を再加熱する工程における条件を満たせばよく、その他の製造条件については、特に限定はされない。要求される性能に応じて、公知の溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造条件から、適宜選択することができる。
【0060】
また、上述した本発明の溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造方法によって得られた溶融Al-Zn系めっき鋼板の上に、化成処理皮膜を形成する工程をさらに具えることもできる。
なお、化成処理皮膜の種類や形成方法については、本発明の表面処理鋼板の中で説明した内容と同様である。
【0061】
さらに、上述した本発明の溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造方法によって得られた溶融Al-Zn系めっき鋼板の上に、直接又は中間層を介して、塗膜を形成する工程をさらに具えることもできる。
なお、前記塗膜及び前記中間層の種類や形成方法については、本発明の塗装鋼板の中で説明した内容と同様である。
【実施例】
【0062】
<サンプル1~14>
(1)めっき層の形成、再加熱
常法で製造した板厚0.35mmの冷延鋼板を下地鋼板(C:0.06質量%、Si:0.02質量%、Mn:0.3質量%、Al:0.05質量%、P:0.02質量%、S:0.02質量%、N:0.01質量%、残部Fe及び不可避的不純物からなる鋼板)として用い、連続式溶融めっき設備で焼鈍処理、めっき処理、スキンパス処理を行った。なお、いずれのサンプルにおいても、めっき処理時の、めっき浴の浴温は590℃、侵入板温は600℃、スキンパス圧下率は0.5%の条件で実施した。
その後、バッチ式の加熱炉にて、表1に示す条件で熱処理(再加熱処理)を施した。なお、再加熱処理時の鋼板温度は、鋼板に付けた熱電対で測定した。さらに、このコイルに連続式塗装ラインで、塗装下地化成処理を施し、プライマー、トップコートを塗装した。また、一部のサンプルについては、塗装後テンションレベラーで0.1%の伸び率を鋼板に付与した。
【0063】
(2)めっき層の厚さ、Al初晶のビッカース硬さHV0.01
各サンプルのめっき層の厚さについては、めっき層のSEMによる断面観察(X1000)によって測定し、10箇所の平均値を算出した。
また、各サンプルのめっき層中のデンドライト相のAl初晶のビッカース硬さHV0.01ビッカース硬さについては、各サンプルを常温乾燥樹脂で埋め込み、研磨し、断面からめっき層のデントライト相を選択し、微小硬度計(島津製作所製、島津微小硬度計HMV-G21)を用いて、選択したデンドライト相のビッカース硬さを測定した。測定方法はJIS Z 2244に準拠した方法で行い、押し込み荷重は10gfで実施した。
【0064】
(3)塗装下地化成処理皮膜、プライマー、塗膜の形成
(3-1)塗装下地化成処理皮膜
その後、得られた各サンプルの溶融Al-Zn系めっき鋼板に、塗装下地化成処理皮膜、プライマー、塗膜を順次形成した。
塗装下地化成処理皮膜における樹脂成分としては、ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂としての吉村油化学(株)製「ユカレジンRE-1050」を塗装下地化成処理皮膜中の固形分比で43質量%になるように用いた。
塗装下地化成処理皮膜中に含まれるバナジウム化合物としては、アセチルアセトンでキレート化した有機バナジウム化合物を6質量%、塗装下地化成処理皮膜中に含まれるジルコニウム化合物としては、炭酸ジルコニウムアンモニウムを50質量%、塗装下地化成処理皮膜中に含まれるフッ素化合物としては、フッ化アンモニウムをフッ素原子換算で1質量%を、それぞれ塗装下地化成処理皮膜中の固形分比で用いた。
これらの原料を混合して化成処理液を得た。塗装下地化成処理液のpHは8~10とした。
この塗装下地化成処理液をロールコーターで塗布し、続けて200℃のオーブンで2秒加熱後に風乾させることによって、付着量0.1g/m2の塗装下地化成処理皮膜を形成した。
(3-2)プライマー
プライマーを形成するための塗料は、以下の方法で作製した。
プライマーの樹脂成分としては、ウレタン結合を有するエポキシ樹脂である、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名「JER 1009」、三菱化学(株)製)をブロック化ポリイソシアネート化合物(商品名「デスモジュール BL-3175」、住化バイエルウレタン(株)製)と質量比で85 :15 の比率で反応させたものと、メラミン樹脂である、n-ブチル化メラミン樹脂(商品名「ユーバン122」、三井化学(株)製)とを9:1の比率で配合したものを用いた。
また、プライマー中に含まれる防錆顔料のバナジウム化合物としては、バナジン酸マグネシウムを用い、プライマー中に含まれるリン酸化合物としては、リン酸カルシウムを、各々塗膜中に12質量%となるように用いた。
上記樹脂に溶剤と防錆顔料を添加した後、反応触媒としてジブチルスズジラウリレート(DBTDL)0.3部を加えて均一に混合し、クロムフリーのプライマー用塗料組成物を得た。
(3-3)塗膜
塗膜としては、以下の塗料を用いた。
メラミン硬化ポリエステル塗料(黒色)「プレカラーHD-0030HR」(アクゾノーベルコーティング(株)製)
上記塗膜用塗料は、形成されたプライマー上にロールコーターで塗布し、PMT260℃、焼き付け時間40秒で焼き付け、水冷した後に、焼き付け後の膜厚が17μmに示す膜厚となるように塗膜を形成した。
【0065】
<評価>
上記のように得られた塗装鋼板の各サンプルについて、以下の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0066】
(1)曲げ戻し密着性
各サンプルの塗装鋼板について、JIS G 3322(2019年)に準拠した曲げ試験を実施した。125mm幅に切り出した後、塗膜が形成された面が内側となるよう、曲げの内側間隔に板を挟まずに180度密着曲げ(以下、「0T曲げ」ということがある)を実施した。その後、曲げ部の内面側にスクレーパーを差し込んで密着部を開き、ある程度平滑にした後に万力で圧し、曲げ部を完全平滑にすることで、曲げ戻し部を形成した。その後、内面側の曲げ戻し部全面にセロファン粘着テープを貼り、前記曲げ戻し部の曲げ線に直交する方向へ剥がした。その後、剥がした粘着テープに付着している剥離しためっき層の曲げ線に直交する方向の幅を測定し、最大幅を得た。この測定を、コイル幅方向5点で実施し、その平均値を以下の基準で評価した。
〇:テープに剥離片の付着なし、若しくは、1mm未満の微細な剥離片のみあり
△:テープに1~2mmの剥離片あり
×:テープに3mm以上の剥離片あり
また、各サンプルについて、めっき層の厚さ及びめっき層中のAl初晶のビッカース硬さHV
0.01と、曲げ戻し部のめっき層の剥離の評価との関係を示したグラフを作成し、
図4に示す。
【0067】
(2)曲げ戻し部の耐食性
各サンプルの塗装鋼板について、上述したように、JIS G 3322(2019年)に準拠した180度密着曲げを実施し、平滑に戻した後(曲げ戻し部を形成した後)、千葉市中央区で屋外暴露試験を行った。4年8ヶ月暴露試験を行った後の曲げ戻し部を目視観察し、以下の基準で評価を行った。評価結果を表1に示す。
(評価基準)
1点: 明確に赤錆あり
2点: 微かに赤錆あり
3点: 赤錆なし
【0068】
【0069】
表1及び
図4の結果から、本発明例の各サンプルは、比較例の各サンプルに比べて、曲げ戻し部のめっき密着性及び曲げ戻し部の耐食性のいずれについてもバランスよく優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明によれば、めっき付着量が多い場合であっても、曲げ戻し部のめっき密着性に優れた、溶融Al-Zn系めっき鋼板、表面処理鋼板及び塗装鋼板、並びに、溶融Al-Zn系めっき鋼板の製造方法、を提供できる。
【要約】
【課題】めっき付着量が多い場合であっても、曲げ戻し部のめっき密着性に優れた、溶融Al-Zn系めっき鋼板を提供することを目的とする。
【解決手段】上記目的を達成するべく、本発明は、Al:40~70質量%及びSi:0.5~3.0質量%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物からなる組成を有するめっき層が形成された、溶融Al-Zn系めっき鋼板であって、前記めっき層は、主としてAl初晶からなるデンドライト、及び、Al-Zn共晶を含むデンドライト間隙を有し、前記めっき層の厚さX(μm)と、前記Al初晶のビッカース硬さHV
0.01とが、以下の(1)及び(2)の関係を満足することを特徴とする。
HV
0.01≦-4X+205 ・・・(1)
X≧23 ・・・(2)
【選択図】
図4