(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-25
(45)【発行日】2024-11-05
(54)【発明の名称】干渉抑圧回路、送受信回路及び無線装置
(51)【国際特許分類】
H04B 1/525 20150101AFI20241028BHJP
H04B 1/10 20060101ALI20241028BHJP
【FI】
H04B1/525
H04B1/10 N
(21)【出願番号】P 2024113935
(22)【出願日】2024-07-17
【審査請求日】2024-07-17
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和5年度 国立研究開発法人情報通信研究機構 「革新的情報通信技術研究開発委託研究/Beyond 5Gにおける超広域・大容量モバイルネットワークを実現するHAPS通信技術の研究開発 HAPS移動通信の高速大容量化技術の研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501440684
【氏名又は名称】ソフトバンク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【氏名又は名称】黒田 壽
(74)【代理人】
【識別番号】100128691
【氏名又は名称】中村 弘通
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】太田 喜元
【審査官】赤穂 美香
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0180166(US,A1)
【文献】特開2006-166277(JP,A)
【文献】特表2021-514165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/525
H04B 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
共用のアンテナを介して送受信される送信信号と受信信号を分離して処理する送受信回路に設けられる干渉抑圧回路であって、
前記送受信回路の送信経路において、サーキュレータを介して前記アンテナに向けて伝送されている送信信号の一部を抽出する信号抽出部と、
前記信号抽出部で抽出された信号のうち受信帯域の信号を選択的に通過させる帯域通過フィルタと、
環境の温度に応じて決定されたベクトル変調パラメータの制御電圧に基づいて、前記帯域通過フィルタから出力された前記受信帯域の信号をベクトル変調して干渉抑圧信号を生成するベクトル変調部と、
前記送受信回路の受信経路において、前記ベクトル変調部で生成された前記受信帯域の前記干渉抑圧信号を、前記サーキュレータを介して前記アンテナから受信した受信信号に重畳する信号重畳部と、
を備えることを特徴とする干渉抑圧回路。
【請求項2】
共用のアンテナ及びサーキュレータを介して送受信される送信信号と受信信号を分離して処理する送受信回路であって、
請求項1の干渉抑圧回路と、
共用のアンテナに接続されるサーキュレータと、
前記サーキュレータに接続された前記送信経路を含む送信回路と、
前記サーキュレータに接続された前記受信経路を含む受信回路と、
を備える、ことを特徴とする送受信回路。
【請求項3】
請求項2の送受信回路において、
前記送信回路は、前記送信経路に電力増幅器と送信帯域通過フィルタとアイソレータとを有し、
前記受信回路は、前記受信経路に第1受信帯域通過フィルタと低雑音増幅器と第2受信帯域通過フィルタとを有し、
前記信号抽出部は、前記送信経路の前記アイソレータと前記サーキュレータとの間に設けられ、
前記信号重畳部は、前記受信経路の前記第1受信帯域通過フィルタと前記低雑音増幅器との間に設けられている、
ことを特徴とする送受信回路。
【請求項4】
請求項3の送受信回路において、
前記信号抽出部は、前記送信経路に結合された方向性結合器であり、
前記信号重畳部は、前記受信経路に結合された方向性結合器である、
ことを特徴とする送受信回路。
【請求項5】
無線装置であって、
請求項2、3又は4の送受信回路と、
送信及び受信に用いられる共用のアンテナと、
前記送受信回路で送信する送信信号及び前記送受信回路で受信した受信信号を処理する信号処理部と、
を備える、ことを特徴とする無線装置。
【請求項6】
請求項5の無線装置において、
前記ベクトル変調パラメータは、前記ベクトル変調における同相信号成分に乗算する制御電圧及び直交位相信号成分に乗算する制御電圧である、
ことを特徴とする無線装置。
【請求項7】
請求項5の無線装置において、
前記送受信回路に設けられた電力増幅器の温度を検知する第1検温器を備え、
前記信号処理部は、
前記第1検温器で検知された前記電力増幅器の温度に基づいて、前記ベクトル変調パラメータの制御電圧を決定し、
前記ベクトル変調パラメータの制御電圧を前記ベクトル変調部に出力する、
ことを特徴とする無線装置。
【請求項8】
請求項7の無線装置において、
前記信号処理部は、
前記電力増幅器の複数の温度について予め作成された、前記電力増幅器の温度と前記ベクトル変調パラメータの制御電圧との関係を示すデータテーブルを記憶し、
前記データテーブルと、前記第1検温器で検知された前記電力増幅器の温度とに基づいて、前記ベクトル変調パラメータの制御電圧を決定する、
ことを特徴とする無線装置。
【請求項9】
請求項7の無線装置において、
前記電力増幅器の出力レベルを検知する出力レベル検知部を備え、
前記信号処理部は、
前記電力増幅器の複数の温度及び前記電力増幅器の複数の出力レベルの組み合わせについて予め作成された、前記電力増幅器の温度と前記電力増幅器の出力レベルと前記ベクトル変調パラメータの制御電圧との関係を示すデータテーブルを記憶し、
前記データテーブルと、前記第1検温器で検知された前記電力増幅器の温度と、前記出力レベル検知部で検知された前記電力増幅器の出力レベルとに基づいて、前記ベクトル変調パラメータの制御電圧を決定する、
ことを特徴とする無線装置。
【請求項10】
請求項5の無線装置において、
前記干渉抑圧回路の温度を検知する第2検温器を備え、
前記信号処理部は、
前記第2検温器で検知された前記干渉抑圧回路の温度に基づいて、前記ベクトル変調パラメータの制御電圧を決定し、
前記ベクトル変調パラメータの制御電圧を前記ベクトル変調部に出力する、
ことを特徴とする無線装置。
【請求項11】
請求項10の無線装置において、
前記信号処理部は、
前記干渉抑圧回路の複数の温度の組み合わせについて予め作成された、前記干渉抑圧回路の温度と前記ベクトル変調パラメータの制御電圧との関係を示すデータテーブルを記憶し、
前記データテーブルと、前記第2検温器で検知された前記干渉抑圧回路の温度とに基づいて、前記ベクトル変調パラメータの制御電圧を決定する、
ことを特徴とする無線装置。
【請求項12】
請求項10の無線装置において、
前記送受信回路に設けられた電力増幅器の出力レベルを検知する出力レベル検知部を備え、
前記信号処理部は、
前記干渉抑圧回路の複数の温度及び前記電力増幅器の複数の出力レベルの組み合わせについて予め作成された、前記干渉抑圧回路の温度と前記電力増幅器の出力レベルと前記ベクトル変調パラメータの制御電圧との関係を示すデータテーブルを記憶し、
前記データテーブルと、記第2検温器で検知された前記干渉抑圧回路の温度と、前記出力レベル検知部で検知された前記電力増幅器の出力レベルとに基づいて、前記ベクトル変調パラメータの制御電圧を決定する、
ことを特徴とする無線装置。
【請求項13】
請求項5の無線装置において、
前記送受信回路に設けられた電力増幅器の温度を検知する第1検温器と、
前記干渉抑圧回路の温度を検知する第2検温器と、を備え、
前記信号処理部は、
前記第1検温器で検知された前記電力増幅器の温度と前記第2検温器で検知された前記干渉抑圧回路の温度とに基づいて、前記ベクトル変調パラメータの制御電圧を決定し、
前記ベクトル変調パラメータの制御電圧を前記ベクトル変調部に出力する、
ことを特徴とする無線装置。
【請求項14】
請求項13の無線装置において、
前記信号処理部は、
前記電力増幅器の複数の温度及び前記干渉抑圧回路の複数の温度の組み合わせについて予め作成された、前記電力増幅器の温度と前記干渉抑圧回路の温度と前記ベクトル変調パラメータの値との関係を示すデータテーブルを記憶し、
前記データテーブルと、前記第1検温器で検知された前記電力増幅器の温度と、前記第2検温器で検知された前記干渉抑圧回路の温度とに基づいて、前記ベクトル変調パラメータの制御電圧を決定する、
ことを特徴とする無線装置。
【請求項15】
請求項13の無線装置において、
前記電力増幅器の出力レベルを検知する出力レベル検知部を備え、
前記信号処理部は、
前記電力増幅器の複数の温度、前記干渉抑圧回路の複数の温度及び前記電力増幅器の複数の出力レベルの組み合わせについて予め作成された、前記電力増幅器の温度と前記干渉抑圧回路の温度と前記電力増幅器の出力レベルと前記ベクトル変調パラメータの制御電圧との関係を示すデータテーブルを記憶し、
前記データテーブルと、前記第1検温器で検知された前記電力増幅器の温度と、前記第2検温器で検知された前記干渉抑圧回路の温度と、前記出力レベル検知部で検知された前記電力増幅器の出力レベルとに基づいて、前記ベクトル変調パラメータの制御電圧を決定する、
ことを特徴とする無線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、干渉抑圧回路、送受信回路及び無線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、FDD(周波数複信)方式や全二重方式などの無線通信における送信信号と受信信号を分離して処理する無線装置として、デュプレクサ、アイソレータ、サーキュレータ、帯域フィルタ等の回路要素を用いて構成された送受信回路を備えた無線装置が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、アンテナに接続されたデュプレクサと、デュプレクサの出力信号を増幅する低雑音増幅回路と、送信信号を増幅する電力増幅器と、デュプレクサと電力増幅器との間に挿入されたアイソレータと、を備えた送受信装置(無線装置)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記送受信回路において、温度の変動がある場合でも送信経路から受信経路への受信帯域の雑音回り込みによる干渉を低減したい、という課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る干渉抑圧回路は、共用のアンテナを介して送受信される送信信号と受信信号を分離して処理する送受信回路に設けられる干渉抑圧回路である。この干渉抑圧回路は、前記送受信回路の送信経路において、サーキュレータを介して前記アンテナに向けて伝送されている送信信号の一部を抽出する信号抽出部と、前記信号抽出部で抽出された信号のうち受信帯域の信号を選択的に通過させる帯域通過フィルタと、環境の温度に応じて決定されたベクトル変調パラメータの制御電圧に基づいて、前記帯域通過フィルタから出力された前記受信帯域の信号をベクトル変調して干渉抑圧信号を生成するベクトル変調部と、前記送受信回路の受信経路において、前記ベクトル変調部で生成された前記受信帯域の前記干渉抑圧信号を、前記サーキュレータを介して前記アンテナから受信した受信信号に重畳する信号重畳部と、を備える。
【0007】
本発明の他の態様に係る送受信回路は、共用のアンテナ及びサーキュレータを介して送受信される送信信号と受信信号を分離して処理する送受信回路である。この送受信回路は、前記干渉抑圧回路と、共用のアンテナに接続されるサーキュレータと、前記サーキュレータに接続された前記送信経路を含む送信回路と、前記サーキュレータに接続された前記受信経路を含む受信回路と、を備える。
【0008】
前記送受信回路において、前記送信回路は、前記送信経路に電力増幅器と送信帯域通過フィルタとアイソレータとを有し、前記受信回路は、前記受信経路に第1受信帯域通過フィルタと低雑音増幅器と第2受信帯域通過フィルタとを有し、前記信号抽出部は、前記送信経路の前記アイソレータと前記サーキュレータとの間に設けられ、前記信号重畳部は、前記受信経路の前記第1受信帯域通過フィルタと前記低雑音増幅器との間に設けられていてもよい。
【0009】
前記送受信回路において、前記信号抽出部は、前記送信経路に結合された方向性結合器であり、前記信号重畳部は、前記受信経路に結合された方向性結合器であってもよい。
【0010】
本発明の更に他の態様に係る無線装置は、前記送受信回路と、送信及び受信に用いられる共用のアンテナと、前記送受信回路で送信する送信信号及び前記送受信回路で受信した受信信号を処理する信号処理部と、を備える。
【0011】
前記無線装置において、前記ベクトル変調パラメータは、前記ベクトル変調における同相信号成分に乗算する制御電圧及び直交位相信号成分に乗算する制御電圧であってもよい。
【0012】
前記無線装置において、前記送受信回路に設けられた電力増幅器の温度を検知する第1検温器を備え、前記信号処理部は、前記第1検温器で検知された前記電力増幅器の温度に基づいて、前記ベクトル変調パラメータの制御電圧を決定し、前記ベクトル変調パラメータの制御電圧を前記ベクトル変調部に出力してもよい。
【0013】
前記無線装置において、前記信号処理部は、前記電力増幅器の複数の温度について予め作成された、前記電力増幅器の温度と前記ベクトル変調パラメータの制御電圧との関係を示すデータテーブルを記憶し、前記データテーブルと、前記第1検温器で検知された前記電力増幅器の温度とに基づいて、前記ベクトル変調パラメータの制御電圧を決定してもよい。
【0014】
前記無線装置において、前記電力増幅器の出力レベルを検知する出力レベル検知部を備え、前記信号処理部は、前記電力増幅器の複数の温度及び前記電力増幅器の複数の出力レベルの組み合わせについて予め作成された、前記電力増幅器の温度と前記電力増幅器の出力レベルと前記ベクトル変調パラメータの制御電圧との関係を示すデータテーブルを記憶し、前記データテーブルと、前記第1検温器で検知された前記電力増幅器の温度と、前記出力レベル検知部で検知された前記電力増幅器の出力レベルとに基づいて、前記ベクトル変調パラメータの制御電圧を決定してもよい。
【0015】
前記無線装置において、前記干渉抑圧回路の温度を検知する第2検温器を備え、前記信号処理部は、前記第2検温器で検知された前記干渉抑圧回路の温度に基づいて、前記ベクトル変調パラメータの制御電圧を決定し、前記ベクトル変調パラメータの制御電圧を前記ベクトル変調部に出力してもよい。
【0016】
前記無線装置において、前記信号処理部は、前記干渉抑圧回路の複数の温度の組み合わせについて予め作成された、前記干渉抑圧回路の温度と前記ベクトル変調パラメータの制御電圧との関係を示すデータテーブルを記憶し、前記データテーブルと、前記第2検温器で検知された前記干渉抑圧回路の温度とに基づいて、前記ベクトル変調パラメータの制御電圧を決定してもよい。
【0017】
前記無線装置において、前記送受信回路に設けられた電力増幅器の出力レベルを検知する出力レベル検知部を備え、前記信号処理部は、前記干渉抑圧回路の複数の温度及び前記電力増幅器の複数の出力レベルの組み合わせについて予め作成された、前記干渉抑圧回路の温度と前記電力増幅器の出力レベルと前記ベクトル変調パラメータの制御電圧との関係を示すデータテーブルを記憶し、前記データテーブルと、記第2検温器で検知された前記干渉抑圧回路の温度と、前記出力レベル検知部で検知された前記電力増幅器の出力レベルとに基づいて、前記ベクトル変調パラメータの制御電圧を決定してもよい。
【0018】
前記無線装置において、前記送受信回路に設けられた電力増幅器の温度を検知する第1検温器と、前記干渉抑圧回路の温度を検知する第2検温器と、を備え、前記信号処理部は、前記第1検温器で検知された前記電力増幅器の温度と前記第2検温器で検知された前記干渉抑圧回路の温度とに基づいて、前記ベクトル変調パラメータの制御電圧を決定し、前記ベクトル変調パラメータの制御電圧を前記ベクトル変調部に出力してもよい。
【0019】
前記無線装置において、前記信号処理部は、前記電力増幅器の複数の温度及び前記干渉抑圧回路の複数の温度の組み合わせについて予め作成された、前記電力増幅器の温度と前記干渉抑圧回路の温度と前記ベクトル変調パラメータの値との関係を示すデータテーブルを記憶し、前記データテーブルと、前記第1検温器で検知された前記電力増幅器の温度と、前記第2検温器で検知された前記干渉抑圧回路の温度とに基づいて、前記ベクトル変調パラメータの制御電圧を決定してもよい。
【0020】
前記無線装置において、前記電力増幅器の出力レベルを検知する出力レベル検知部を備え、前記信号処理部は、前記電力増幅器の複数の温度、前記干渉抑圧回路の複数の温度及び前記電力増幅器の複数の出力レベルの組み合わせについて予め作成された、前記電力増幅器の温度と前記干渉抑圧回路の温度と前記電力増幅器の出力レベルと前記ベクトル変調パラメータの制御電圧との関係を示すデータテーブルを記憶し、前記データテーブルと、前記第1検温器で検知された前記電力増幅器の温度と、前記第2検温器で検知された前記干渉抑圧回路の温度と、前記出力レベル検知部で検知された前記電力増幅器の出力レベルとに基づいて、前記ベクトル変調パラメータの制御電圧を決定してもよい。
【0021】
なお、前記データテーブルの作成、前記算出式の作成及び前記クトル変調パラメータの値の決定の少なくとも一つの処理を行うプログラムは、機械学習済みモデルを含んでもよい。
【0022】
また、前記送受信装置を備える無線装置は、FDD(周波数分割複信)方式の無線通信又は全二重方式の無線通信を行う無線装置であってもよい。また、前記送受信装置を備える無線装置は、上空に移動して飛行したり滞在したりすることができる飛行体又は浮揚体に搭載された無線装置であってもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、共用のアンテナを介して送受信される送信信号及び受信信号を分離して処理する送受信回路において、温度の変動がある場合でも送信経路から受信経路への受信帯域の雑音回り込みによる干渉を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、実施形態に係る無線装置の概略構成の一例を示す説明図である。
【
図2】
図2(a)は上空中継型の無線中継装置における無線装置で用いる周波数帯が900MHz帯(Band8)の場合の送信帯域(DL Band8)と受信帯域(UL Band8)と電力増幅器の相互変調歪の信号(IM11,IM9)との関係の一例を示す説明図である。
図2(b)は同無線装置で用いる周波数帯が1700MHz帯(Band3)の場合の送信帯域(DL Band3)と受信帯域(UL Band3)と電力増幅器の相互変調歪の信号(IM21,IM19)との関係の一例を示す説明図である。
【
図3】送信回路(送信系)における電力増幅器(送信系電力増幅器)による受信回路(受信系)への与干渉を含む送信信号のスペクトラムの一例を示す周波数特性のグラフである。
【
図4】送信回路(送信系)における電力増幅器(送信系電力増幅器)による受信回路(受信系)への与干渉を抑圧する干渉抑圧回路(干渉キャンセラ)の効果の評価結果の一例を示す周波数特性のグラフである。
【
図5】
図5(a)は送信回路における電力増幅器の温度変化に対する利得の変化の一例を示すグラフである。
図5(b)は同電力増幅器の温度変化に対する位相の変化の一例を示すグラフである。
図5(c)は干渉信号と干渉抑圧信号とのレベル差と干渉抑圧量(キャンセル量)との関係の一例を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施形態に係る無線装置の全体構成の一例を示す説明図である。
【
図7】
図7は、無線装置における信号処理部で用いられる制御データテーブルの一例を示す説明図である。
【
図8】
図8は、無線装置における干渉抑圧回路の他の構成例を示す説明図である。
【
図9】
図9は、無線装置における干渉抑圧回路の更に他の構成例を示す説明図である。
【
図10】
図10は、干渉抑圧回路におけるベクトル変調器の回路の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
本書に記載された実施形態に係る送受信回路は、共用のアンテナを介して送受信される送信信号と受信信号を分離して処理する送受信回路であり、送信経路から受信経路への受信帯域(受信周波数の帯域)の雑音回り込みによる干渉を低減するための干渉抑圧回路を備える。干渉抑圧回路の一例では、送信経路のサーキュレータを介してアンテナに向けて伝送されている送信信号の一部を抽出し、抽出された信号のうち帯域通過フィルタを通過した受信帯域の信号を、環境の温度に応じて決定されたベクトル変調パラメータの値又は制御電圧に基づいてベクトル変調して干渉抑圧信号を生成し、生成した受信帯域の干渉抑圧信号を、サーキュレータを介してアンテナから受信した受信信号に重畳する。これにより、温度の変動がある場合でも送信経路から受信経路への受信帯域の雑音回り込みによる干渉を低減することができる。
【0026】
図1は、本実施形態に係る無線装置10の概略構成の一例を示す説明図である。
図1において、無線装置10は、アンテナ20とサーキュレータ30と送受信回路40と信号処理部50とを備える。送受信回路40は、サーキュレータ30に接続された送信経路を含む送信回路410と、サーキュレータに接続された受信経路を含む受信回路420とを備える。送信回路410は、信号処理部50から出力されアンテナ20及びサーキュレータ30を介して送信される送信信号を増幅する電力増幅器(PA)411を有する。受信回路420は、アンテナ20及びサーキュレータ30を介して受信されて信号処理部50に入力される前の受信信号を増幅する低雑音増幅器(LNA)422を有する。
【0027】
サーキュレータ30は、隣り合うポート間で一方向伝送されるように循環配置された3つのポートを有する。サーキュレータ30において、送信回路410とアンテナ20と受信回路420とが、その順に、循環配置の3つのポートに接続されている。
【0028】
信号処理部50は、例えば、送信データを変調してデジタルの送信信号を生成する変調部、変調部から出力されたデジタルの送信信号を送信回路へ渡すアナログの送信信号に変換するDA変換器、受信回路420から受けたアナログの受信信号をデジタルの受信信号に変換するAD変換器、デジタルの受信信号を復調して受信データを生成する復調部,各部を制御するための制御部など、を備える。信号処理部50は、送信系の周波数変換部及び受信系の周波数変換部を備えてもよい。送信系の周波数変換部は、信号処理部50で生成した送信信号のベースバンド周波数又は中間周波数を送信回路410で処理されてアンテナ20から送信される送信信号の所定周波数帯の高周波数に変換する。受信系の周波数変換部は、アンテナ20から受信された受信信号の所定周波数帯の高周波数を、信号処理部50で処理される受信信号のベースバンド周波数又は中間周波数に変換する。
【0029】
無線装置10は、アンテナ20を介して、モバイル通信等で用いられる高周波の無線信号を送受信する装置である。無線信号の周波数帯は、例えば、20GHz未満のマイクロ波の周波数帯(例えば、ローバンド、ミッドバンド又はSub6帯)であってもよく、又は、20GHz以上300GHz以下のミリ波の周波数帯(例えば、28GHz帯、31GHz帯、38GHz帯、39GHz帯)であってもよい。ここで、ローバンドは3.5GHz以下の周波数帯(例えば、900MHz帯(Band8)、1.7GHz帯(Band3))であり、ミッドバンドは3.5GHzよりも高く6GHz以下の周波数帯(例えば、3.7GHz帯、4.5GHz帯)である。ローバンド及びミッドバンドを合わせてSub6帯とも呼ばれる。
【0030】
無線装置10は、例えば、上空プラットフォームを構成する上空中継型の無線中継装置を有する高高度プラットフォーム局(HAPS)(「高高度疑似衛星」、「成層圏プラットフォーム」ともいう。)に搭載され、サービスリンク及びフィーダリンクの少なくとも一方の無線通信を行う無線装置であってもよい。また、無線装置10は、地上(又は海上等)に設けられたHAPS用のゲートウェイ装置(「フィーダ局」ともいう。以下「GW局」という。)に搭載され、HAPSの無線中継装置との間でフィーダリンクの無線通信を行う無線装置であってもよい。また、無線装置10は、上空中継型の無線中継装置や地上基地局との間でサービスリンクの無線通信を行う端末装置(ユーザ装置)に搭載される無線装置であってもよい。
【0031】
HAPSは、上空滞在型又は空中浮揚型の通信プラットフォームであり、所定高度の空域に位置して、対象のサービスエリアに向けた所定高度のセル形成目標空域に3次元セル(3次元エリア)を形成する。
【0032】
HAPSは、自律制御又は外部から制御により地面又は海面から100[km]以下の高高度の空域(浮揚空域)に浮遊あるいは飛行して位置するように制御される飛行体又は浮揚体の機体に、本実施形態の無線装置を有する無線中継装置(以下「中継通信局」ともいう。)が搭載されたものである。HAPSが位置する空域は、例えば、高度が18[km]以上及び50[km]以下の成層圏の空域であってもよい。この空域は、気象条件が比較的安定している高度15[km]以上25[km]以下の空域であってもよく、特に高度がほぼ20[km]の空域であってもよい。
【0033】
上空プラットフォームとして機能するHAPSにより、高度18[km]以上及び50[km]以下(特に20[km]程度)の成層圏から直接地上のUE(端末装置)等に超広域の移動通信サービスを提供することができる。また、HAPSからなる上空プラットフォームは、大規模災害等を用途とした新たな通信フォームとして注目されている。
【0034】
HAPSは、例えばバッテリー及び太陽光発電システムの少なくとも一方を備え電力で飛行することができる。HAPSは、ソーラープレーン型のHAPSのほか、飛行船型のHAPSであってもよい。また、HAPSは、人工衛星(例えば、通信衛星)、気球、又は、ドローン、UAS(Unmanned Aircraft Systems)等の無人航空機(UAV:Unmanned Aerial Vehicle)であってもよい。また、HAPSは、動力源として、バッテリー及びエンジンの少なくとも一方を備えて飛行してもよい。UAVは、例えば、燃料で飛行する無人飛行機、又は、バッテリー等で飛行するドローンであってもよい。
【0035】
上記構成の無線装置10では、装置の小型化及び軽量化という課題がある。特に、UAVやHAPS等の上空プラットフォームを対象とした無線装置10では装置の小型化及び軽量化が重要である。本実施形態では、無線装置10のアンテナ20として送受信共用のアンテナを使用するとともに、アンテナ20に接続される送信経路及び受信経路の切換回路として、キャビティフィルタやデュプレクサよりも小型化及び軽量化を図ることができるサーキュレータ30を使用している。
【0036】
また、上記構成の無線装置10では、送信回路410の送信経路から受信回路420の受信経路への受信帯域の雑音回り込みによる干渉の課題がある。モバイル通信等で使用される送信信号と受信信号を周波数軸上で分割するFDD(周波数分割複信)方式の無線通信を行う無線装置では、送信及び受信で異なる時間スロットを利用するTDD方式の無線通信とは異なり、送信帯域と受信帯域の周波数離隔が狭い場合、送信回路410から受信回路420への受信帯域の雑音回り込み干渉が発生するおそれがある。上記構成の無線装置10では、送信回路410の電力増幅器411で増幅されて送信される高周波の送信信号の電力(RF送信電力)が高く、受信回路420で受信される受信信号の電力(受信電力)が低い。更に、送信回路410及び受信回路420が接続されるサーキュレータ30は、キャビティフィルタやデュプレクサよりもポート間のアイソレーションが小さい。送信回路410に設けられた高利得の電力増幅器411は非線形の入出力特性を有するため、電力増幅器411によって発生した相互変調歪の信号(高次の高調波信号と基本波信号又は高次の高調波信号との間で発生する信号)が雑音として受信回路420に回り込む受信帯域の雑音回り込みが発生する。相互変調歪は、非線形の入出力特性を有する増幅器に周波数が異なる複数の信号が入力したときに発生する歪である。この電力増幅器411で発生した相互変調歪の受信回路420への影響は、送信帯域の帯域幅が同じ場合、無線装置10で用いる周波数帯の基本周波数が低いほど大きい。例えば、
図2(a)に示すように、上空中継型の無線中継装置の無線装置10で用いる周波数帯が900MHz帯(Band8)、帯域幅10MHzの送信帯域(DL Band8)が945~960MHz、受信帯域(UL Band8)が900~915MHzの場合、電力増幅器411の信号レベルが比較的高い11次の相互変調歪の信号(IM11)及び9次の相互変調歪の信号(IM9)が受信帯域(UL Band8)に位置する。一方、
図2(b)に示すように、上空中継型の無線中継装置の無線装置10で用いる周波数帯が1700MHz帯(Band3)、帯域幅10MHzの送信帯域(DL Band3)が1845~1860MHz、受信帯域(UL Band3)が1750~1765MHzの場合、電力増幅器411の信号レベルが比較的低い21次の相互変調歪の信号(IM21)及び19次の相互変調歪の信号(IM19)が受信帯域(UL Band8)に位置する。
図2(a)及び
図2(b)に示すように、電力増幅器411で発生した相互変調歪の信号による受信回路420への影響は、送信帯域(DL Band8,DL Band3)の帯域幅がともに10MHzの場合、無線装置10で用いる周波数帯が低いBand8のほうがBand3よりも大きい。
【0037】
以上示したように、
図1のアンテナ20へ接続する送受信ポートが同一である無線装置(無線機)10において、送信回路(送信系)410の受信経路から受信回路(受信系)420の受信経路への雑音の回り込みは受信信号の復調性能の劣化を引き起こす。雑音の回り込みを防止するために、送信回路(送信系)410の最終段の電力増幅器411からの出力に、受信帯域(受信周波数帯域)に対して急峻に抑圧するバンドパスフィルタ(BPF)などを実装することが考えられるが、前述のHAPS等に用いるHAPS用無線機向け等で重量の制約や、送受信でのRF電力レベル差が大きい等の理由で、実装が困難なRF部構成が存在する。
【0038】
そこで、本実施形態では、上記送信回路410の送信経路から受信回路420の受信経路への受信帯域の雑音回り込みによる干渉を低減するために、無線装置10の送受信回路40における送信回路410と受信回路420との間に、当該干渉を抑圧する干渉抑圧回路(干渉キャンセラ)を設けている。この干渉抑圧回路(干渉キャンセラ)は、送信回路(送信系)410に帯域通過特性が急峻なBPFを実装する代わりに、ベクトル変調器を用いて受信帯域の雑音信号の逆位相を受信回路(受信系)420に足し合わせることで上記回り込みの雑音を抑圧(キャンセル)する。
【0039】
図3は、送信回路(送信系)410における電力増幅器(送信系電力増幅器)411による受信回路(受信系)420への与干渉を含む送信信号のスペクトラムの一例を示すグラフである。ここで、実際の無線装置(無線機)10への実装を踏まえて、電力増幅器411から出力される干渉雑音は、電力増幅器411の歪を低減する歪補償を行うDPD(デジタル・プリディストーション)制御を実行した場合の出力レベルで考える。
図3中の符号S101で示す電力値はDPD制御を行わない場合における電力増幅器411の送信信号の出力レベルであり、
図3中の符号S102で示す電力値はDPD制御を行った場合における電力増幅器411の送信信号の出力レベルである。
図3中のS103に示す周波数範囲が受信帯域である。この受信帯域の信号がサーキュレータ(CIR)30を経由して回り込んだ予干渉の信号成分を、受信回路(受信系)420で抑圧(キャンセル)する。この抑圧(キャンセル)に用いられる干渉抑圧信号(キャンセル信号)は、後で例示するように受信回路(受信系)420の方向性結合器の結合ポートを経由して、受信信号に合成される。
【0040】
図4は、送信回路(送信系)410における電力増幅器(送信系電力増幅器)411による受信回路(受信系)420への与干渉を抑圧する干渉抑圧回路(干渉キャンセラ)の効果の評価結果の一例を示す周波数特性のグラフである。
図4は、送受信周波数の周波数帯はBand8(送信側:945~960MHz,受信側:900~915MHz)をターゲットに評価を行った結果である。
図4中の符号S201で示す結果は、干渉抑圧回路(干渉キャンセラ)による与干渉抑圧をオフにした場合の干渉信号のレベルであり、
図4中の符号S202で示す結果は、干渉抑圧回路(干渉キャンセラ)による与干渉抑圧をオンにした場合の干渉信号のレベルである。
図4に示すように、与干渉抑圧をオンにして干渉抑圧の補正がある場合は、干渉抑圧の補正がない場合と比較して、周波数905MHzで最大20.6dBだけ回り込みをキャンセルできることが確認できた。また、一例として受信信号に中心周波数905MHz、帯域幅10MHzの変調波を-43dBm入力して変調精度(EVM:Error Vector Magnitude)を測定したところ、干渉抑圧の補正がないときのEVMは41.5%であり、干渉抑圧の補正があるときのEVMは16.1%と25.4%(8.23dB)改善できることを確認した。
【0041】
このような効果を有する上記回り込みの雑音を抑圧(キャンセル)する干渉抑圧回路(干渉キャンセラ)を設けた場合について本願発明者らが更に実験、シミュレーション及び検討を行った結果、装置の環境温度の変化(例えば、送信回路410の電力増幅器411の温度の変化)に対する利得及び位相の変化を考慮して干渉抑圧回路(干渉キャンセラ)を調整する必要があることがわかった。例えば、
図5(a)及び
図5(b)に示すように、電力増幅器411の温度が上昇すると、電力増幅器411の利得が減少し、位相が変化する。特に、前述の高度の空域を水平方向及び上下方向に移動する上空中継型の無線中継装置に無線装置10を搭載する場合、無線装置10の環境温度が変化し、無線装置10の電力増幅器411の利得及び位相が変化しやすい。このように電力増幅器411の温度変化に対して電力増幅器411の利得及び位相が変化すると、例えば、受信総合に含まれる雑音回り込みによる干渉信号と、干渉抑圧回路(干渉キャンセラ)が受信信号に適用する干渉抑圧信号との間に、レベル差が発生し、干渉抑圧回路(干渉キャンセラ)によって抑圧する干渉抑圧量(キャンセル量)が減少する。例えば、
図5(c)に示すように、雑音回り込みによる干渉信号と干渉抑圧信号が1dB違うと、干渉抑圧量(キャンセル量)が20dB以上減少する。
【0042】
以上の背景のもと、本実施形態の無線装置10では、環境温度(例えば、電力増幅器の温度、干渉抑圧回路の構成要素の温度)を検知し、その検温結果に基づいて、上記受信帯域の雑音回り込みによる干渉を低減する干渉抑圧回路(干渉キャンセラ)を調整している。これにより、無線装置の環境の温度の変動がある場合でも送信回路410の送信経路から受信回路420の受信経路への受信帯域の雑音回り込みによる干渉を低減している。
【0043】
図6は、実施形態に係る無線装置10の全体構成の一例を示す説明図である。なお、
図6において、
図1と共通する構成については同じ符号を付し、説明を省略する。
図6の無線装置10において、送信回路410は、送信経路410Aに、信号処理部50からサーキュレータ30に向かって順に、電力増幅器411と送信帯域通過フィルタ(以下「送信帯域BPF」ともいう。)412とアイソレータ413とを有する。電力増幅器411は、信号処理部50から受けた送信信号を所定の信号電力レベルまで増幅する。送信帯域BPF412は、電力増幅器411から出力された信号のうち所定の送信帯域の送信信号を選択的に通過させる。アイソレータ413は、送信経路410Aの所定の伝送方向とは逆方向(サーキュレータ30から電力増幅器411に向かう方向)の信号の伝送を阻止する。
【0044】
受信回路420は、受信経路420Aに、サーキュレータ30から信号処理部50に向かって順に、第1受信帯域通過フィルタ(以下「受信帯域BPF」)421と低雑音増幅器422と第2受信帯域通過フィルタ(以下「受信帯域BPF」)423とを有する。受信帯域BPF421は、サーキュレータ30から受けた信号のうち所定の受信帯域の受信信号を選択的に通過させる。低雑音増幅器422は、受信帯域BPF421を通過した受信信号を所定の信号電力レベルまで増幅する。更に、受信帯域BPF423は、低雑音増幅器422から出力された信号のうち所定の受信帯域の受信信号を選択的に通過させる。
【0045】
送信回路410の送信経路410Aから受信回路420の受信経路420Aへの受信帯域の雑音回り込みによる干渉を低減する干渉抑圧回路430は、送信経路410Aと受信経路420Aとの間に設けられている。干渉抑圧回路430は、信号抽出部としての方向性結合器431と、帯域通過フィルタ(以下「受信帯域BPF」という。)432と、ベクトル変調部433と、信号重畳部としての方向性結合器434と、を有する。
【0046】
方向性結合器(信号抽出部)431は、送信経路410Aにおいて、サーキュレータ30を介してアンテナ20に向けて伝送されている送信信号の一部を抽出する。受信帯域BPF432は、方向性結合器(信号抽出部)431で抽出された信号のうち受信帯域の信号を選択的に通過させる。受信帯域BPF432から出力される信号は、送信経路410Aからサーキュレータ30を介して受信経路420Aに回り込む受信帯域の雑音回り込みの信号(抑圧対象の干渉信号)に対応する信号であり、ベクトル変調部433で調整して干渉抑圧信号を生成する前の干渉レプリカ信号である。
【0047】
ベクトル変調部433は、環境の温度に応じて決定されたベクトル変調パラメータの値又はそのベクトル変調パラメータの値に対応する制御電圧に基づいて、受信帯域BPF432から出力された受信帯域の信号をベクトル変調して干渉抑圧信号を生成する。干渉抑圧信号は、抑圧対象の干渉信号のレプリカの位相を反転させた信号である。ベクトル変調部433としては、例えば市販のデバイス(例えば、アナログデバイセズ社のHMC630LP3)を用いることができる。
【0048】
方向性結合器(信号重畳部)434は、受信経路420Aにおいて、ベクトル変調部433で生成された受信帯域の干渉抑圧信号(干渉レプリカの位相を反転させた信号)を、サーキュレータ30を介してアンテナ20から受信した受信信号に重畳する。
【0049】
方向性結合器(信号抽出部)431は、送信経路410Aのアイソレータ413とサーキュレータ30との間に設けられ、方向性結合器(信号重畳部)434は、受信経路420Aの受信帯域BPF(第1受信帯域通過フィルタ)と低雑音増幅器422との間に設けられている。
【0050】
本実施形態において、無線装置10は、送信回路410の電力増幅器411の温度を検知する第1検温器(以下「アンプ検温器」ともいう。)415を備える。更に、無線装置10は、干渉抑圧回路430の温度を検知する第2検温器として、ベクトル変調部433の温度を検知する第2検温器(以下「モジュレータ検温器」ともいう。)435を備えてもよい。アンプ検温器415及びモジュレータ検温器435としては、各種の温度センサを用いることができる。
【0051】
本実施形態において、無線装置10は、送信回路410の電力増幅器411の出力レベルを検知する出力レベル検知部としての方向性結合器414を備える。方向性結合器414で抽出された検知された電力増幅器411の出力レベルの検知信号は、所定のフィードバック経路(例えばDPD(デジタル・プリディストーション)用フィードバックパス)を介して信号処理部50に入力され、ベクトル変調部433を制御するためのベクトル変調パラメータの値又は制御電圧の生成、電力増幅器411の歪を低減するDPD(デジタル・プリディストーション)の制御、等に用いられる。
【0052】
図6において、信号処理部50は、送信回路410に送信する送信信号を処理する送信信号処理部510と、受信回路420から受信した受信信号を処理する受信信号処理部520とを備える。更に、信号処理部50は、記憶部530と制御電圧決定部540と制御電圧出力部550とを備える。
【0053】
記憶部530は、温度と、ベクトル変調部433におけるベクトル変調に用いられるベクトル変調パラメータの制御電圧との関係を示すデータテーブルを記憶する。データテーブルは、例えば、次のA1~A6のいずれかのデータテーブルである。
A1:電力増幅器411の複数の温度について予め作成された、電力増幅器411の温度とベクトル変調パラメータ(I,Q)の制御電圧との関係を示すデータテーブル
A2:電力増幅器411の複数の温度及び電力増幅器の複数の出力レベル(RF出力レベル)の組み合わせについて予め作成された、電力増幅器411の温度と電力増幅器の出力レベル(RF出力レベル)とベクトル変調パラメータ(I,Q)の制御電圧との関係を示すデータテーブル(
図7参照)
A3:ベクトル変調部433の複数の温度について予め作成された、ベクトル変調部433の温度とベクトル変調パラメータ(I,Q)の制御電圧との関係を示すデータテーブル
A4:ベクトル変調部433の複数の温度及び電力増幅器411の複数の出力レベル(RF出力レベル)の組み合わせについて予め作成された、ベクトル変調部433の温度と電力増幅器411の出力レベル(RF出力レベル)とベクトル変調パラメータ(I,Q)の制御電圧との関係を示すデータテーブル
A5:電力増幅器411の複数の温度及びベクトル変調部433の複数の温度について予め作成された、電力増幅器411の温度とベクトル変調部433の温度とベクトル変調パラメータ(I,Q)の制御電圧との関係を示すデータテーブル
A6:電力増幅器411の複数の温度、ベクトル変調部433の複数の温度及び電力増幅器411の複数の出力レベル(RF出力レベル)の組み合わせについて予め作成された、電力増幅器411の温度とベクトル変調部433の温度と電力増幅器411の出力レベル(RF出力レベル)とベクトル変調パラメータ(I,Q)の制御電圧との関係を示すデータテーブル
【0054】
制御電圧決定部540は、例えば、次のB1~B6のいずれかの方法により、ベクトル変調部433に適用するベクトル変調パラメータ(I,Q)の制御電圧を決定する。
B1:上記A1のデータテーブルと、アンプ検温器415で検知された電力増幅器411の温度とに基づいて、ベクトル変調パラメータ(I,Q)の制御電圧を決定する。
B2:上記A2のデータテーブルと、アンプ検温器415で検知された電力増幅器411の温度と、方向性結合器(出力レベル検知部)414で検知された電力増幅器411の出力レベルとに基づいて、ベクトル変調パラメータ(I,Q)の制御電圧を決定する。
B3:上記A3のデータテーブルと、モジュレータ検温器435で検知されたベクトル変調部433の温度とに基づいて、ベクトル変調パラメータ(I,Q)の制御電圧を決定する。
B4:上記A4のデータテーブルと、モジュレータ検温器435で検知されたベクトル変調部433の温度と、方向性結合器(出力レベル検知部)414で検知された電力増幅器411の出力レベルとに基づいて、ベクトル変調パラメータ(I,Q)の制御電圧を決定する。
B5:上記A5のデータテーブルと、アンプ検温器415で検知された電力増幅器411の温度と、モジュレータ検温器435で検知されたベクトル変調部433の温度とに基づいて、ベクトル変調パラメータ(I,Q)の制御電圧を決定する。
B6:上記A6のデータテーブルと、アンプ検温器415で検知された電力増幅器411の温度と、モジュレータ検温器435で検知されたベクトル変調部433の温度と、方向性結合器(出力レベル検知部)414で検知された電力増幅器411の出力レベルとに基づいて、ベクトル変調パラメータ(I,Q)の制御電圧を決定する。
【0055】
制御電圧出力部550は、制御電圧決定部540で決定したベクトル変調パラメータ(I,Q)の制御電圧を、干渉抑圧回路430のベクトル変調部433に出力する。
【0056】
なお、本実施形態に無線装置10において、アンプ検温器415で検知された電力増幅器411の温度と、方向性結合器(出力レベル検知部)414で検知された電力増幅器411の出力レベルとに基づいて、電力増幅器411の利得の補正量を決定してもよい。
【0057】
図8及び
図9はそれぞれ、干渉抑圧回路430の他の構成例を示す説明図である。
図8に示すように、干渉抑圧回路430は、受信帯域BPF432とベクトル変調部433との間に、信号レベル調整部436を備えてもよい。信号レベル調整部436は、ベクトル変調部433に入力される調整前の干渉レプリカ信号の信号レベルを、所定レベルに調整する。信号レベル調整部436は、例えば、インピーダンス素子(アッテネータ)又は電力増幅器で構成することができる。更に、
図9に示すように、干渉抑圧回路430は、信号レベル調整部436とベクトル変調部433との間に、受信帯域雑音信号モニター用の信号検知部としての方向性結合器437を備えてもよい。方向性結合器(信号検知部)437は、信号レベル調整部436から出力されてベクトル変調部433に入力される信号(受信帯域雑音信号)を検知する。方向性結合器(信号検知部)437の検知結果により、ベクトル変調部433に入力される信号(受信帯域雑音信号)をモニターすることができる。方向性結合器(信号検知部)437の検知結果は、信号レベル調整部436における信号レベルの調整量の制御に用いてもよい。例えば、信号レベル調整部436を複数のインピーダンス素子(アッテネータ)を切り換え可能に構成した場合、その切り換えを、方向性結合器(信号検知部)437の検知結果に基づいて、ベクトル変調部433に入力される信号(受信帯域雑音信号)が所定レベル範囲になるように制御してもよい。また、信号レベル調整部436を電力増幅器で構成した場合、その電力増幅器の利得を、方向性結合器(信号検知部)437の検知結果に基づいて、ベクトル変調部433に入力される信号(受信帯域雑音信号)が所定レベル範囲になるように制御してもよい。また、方向性結合器(信号検知部)437の検知結果は、制御電圧決定部540にフィードバックし、電力増幅器411の出力レベルとともに、又は、電力増幅器411の出力レベルに代えて、ベクトル変調パラメータ(I,Q)の制御電圧の決定に用いてもよい。
【0058】
図10は、ベクトル変調器(ベクトル変調部)433の回路の一例を示す説明図である。
図10において、ベクトル変調器(ベクトル変調部)433は、入力トランス4331とIQ信号生成器4332と乗算器4333,4334と加算器4335とを備える。入力トランス4331は、高周波の入力信号から、互いに等振幅で反転した位相0°の第1信号と位相-180°又は+180°の第2信号とを生成する。IQ信号生成器4332は、入力トランス4331から出力された互いに反転した第1信号及び第2信号に基づいて、所定の直交座標において互いに直交する入力信号の同相(I)信号成分と入力信号の直交位相(Q)信号成分とを生成する。乗算器4333は、IQ信号生成器4332から出力された同相(I)信号成分と、信号処理部50から受信した温度に対応した同相(I)制御電圧とを乗算し、調整後の同相(I)信号成分を出力する。乗算器4334は、IQ信号生成器4332から出力された直交位相(Q)信号成分と、信号処理部50から受信した温度に対応した直交位相(Q)制御電圧とを乗算し、調整後の直交位相(Q)信号成分を出力する。加算器4335は、調整後の同相(I)信号成分と調整後の直交位相(Q)信号成分とを加算し、温度に応じて振幅及び位相が調整された調整後の干渉抑圧信号(干渉レプリカ信号を位相反転した信号)を出力する。
【0059】
以上、本実施形態によれば、無線装置10の小型化及び軽量化を図ることができるとともに、装置の温度の変動がある場合でも、装置の温度に応じて、電力増幅器411を有する送受信回路40の送信経路410Aから受信経路420Aへの受信帯域の雑音回り込みによる干渉を低減することができる。
【0060】
また、本発明は、小型化及び軽量化を図ることができるとともに送受信回路40の送信経路410Aから受信経路420Aへの受信帯域の雑音回り込みによる干渉を低減することができる干渉抑圧回路を有する送受信回路及び無線装置を提供できるため、持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」の達成に貢献できる。
【0061】
なお、本明細書で説明された処理工程並びに干渉抑圧回路、送受信回路、送信回路、受信回路、無線装置及び通信システムの構成要素は、様々な手段によって実装することができる。例えば、これらの工程及び構成要素は、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、又は、それらの組み合わせで実装されてもよい。
【0062】
ハードウェア実装については、実体(例えば、各種回路要素、送信機、受信機、送受信機、増幅器、フィルタ、制御装置、アンテナ、ハードディスクドライブ装置、又は、光ディスクドライブ装置)において上記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、1つ又は複数の、特定用途向けIC(ASIC)、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、デジタル信号処理装置(DSPD)、プログラマブル・ロジック・デバイス(PLD)、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)、プロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、電子デバイス、本明細書で説明された機能を実行するようにデザインされた他の電子ユニット、コンピュータ、又は、それらの組み合わせの中に実装されてもよい。
【0063】
また、ファームウェア及び/又はソフトウェア実装については、上記構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、本明細書で説明された機能を実行するプログラム(例えば、プロシージャ、関数、モジュール、インストラクション、などのコード)で実装されてもよい。一般に、ファームウェア及び/又はソフトウェアのコードを明確に具体化する任意のコンピュータ/プロセッサ読み取り可能な媒体が、本明細書で説明された上記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段の実装に利用されてもよい。例えば、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば制御装置において、メモリに記憶され、コンピュータやプロセッサにより実行されてもよい。そのメモリは、コンピュータやプロセッサの内部に実装されてもよいし、又は、プロセッサの外部に実装されてもよい。また、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、不揮発性ランダムアクセスメモリ(NVRAM)、プログラマブルリードオンリーメモリ(PROM)、電気的消去可能PROM(EEPROM)、フラッシュメモリ、フロッピー(登録商標)ディスク、コンパクトディスク(CD)、デジタルバーサタイルディスク(DVD)、磁気又は光データ記憶装置、などのような、コンピュータやプロセッサで読み取り可能な媒体に記憶されてもよい。そのコードは、1又は複数のコンピュータやプロセッサにより実行されてもよく、また、コンピュータやプロセッサに、本明細書で説明された機能性のある態様を実行させてもよい。
【0064】
また、前記媒体は非一時的な記録媒体であってもよい。また、前記プログラムのコードは、コンピュータ、プロセッサ、又は他のデバイス若しくは装置機械で読み込んで実行可能であればよく、その形式は特定の形式に限定されない。例えば、前記プログラムのコードは、ソースコード、オブジェクトコード及びバイナリコードのいずれでもよく、また、それらのコードの2以上が混在したものであってもよい。
【0065】
また、本明細書で開示された実施形態の説明は、当業者が本開示を製造又は使用するのを可能にするために提供される。本開示に対するさまざまな修正は当業者には容易に明白になり、本明細書で定義される一般的原理は、本開示の趣旨又は範囲から逸脱することなく、他のバリエーションに適用可能である。それゆえ、本開示は、本明細書で説明される例及びデザインに限定されるものではなく、本明細書で開示された原理及び新規な特徴に合致する最も広い範囲に認められるべきである。
【符号の説明】
【0066】
10 :無線装置
20 :アンテナ(共用アンテナ)
30 :サーキュレータ
40 :送受信回路
50 :信号処理部
410 :送信回路
410A :送信経路
411 :電力増幅器
412 :送信帯域BPF
413 :アイソレータ
414 :方向性結合器
415 :検温器
420 :受信回路
420A :受信経路
421 :受信帯域BPF
422 :低雑音増幅器
423 :受信帯域BPF
430 :干渉抑制回路
431 :方向性結合器(信号抽出部)
432 :受信帯域BPF
433 :ベクトル変調部
434 :方向性結合器(信号重畳部)
435 :検温器
436 :信号レベル調整部
437 :方向性結合器(受信帯域雑音信号モニター用の信号検知部)
510 :送信信号処理部
520 :受信信号処理部
530 :記憶部
540 :制御電圧決定部
550 :制御電圧出力部
【要約】
【課題】共用のアンテナを介して送受信される送信信号及び受信信号を分離して処理する送受信回路において、温度の変動がある場合でも送信経路から受信経路への受信帯域の雑音回り込みによる干渉を低減することができる干渉抑圧回路を提供する。
【解決手段】干渉抑圧回路は、送受信回路の送信経路においてサーキュレータを介してアンテナに向けて伝送されている送信信号の一部を抽出する信号抽出部と、抽出された信号のうち受信帯域の信号を選択的に通過させる帯域通過フィルタと、環境の温度に応じて決定されたベクトル変調パラメータの値又はベクトル変調パラメータの値に対応する制御電圧に基づいて、帯域通過フィルタから出力された受信帯域の信号をベクトル変調して干渉抑圧信号を生成するベクトル変調部と、送受信回路の受信経路においてサーキュレータを介してアンテナから受信した受信信号に受信帯域の干渉抑圧信号を重畳する信号重畳部と、を備える。
【選択図】
図6