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特許7577902弾性波RFフィルターをIDTの共振周波数モジュレーションによる通過域での周波数応答変化に堅牢にするように設計する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】弾性波RFフィルターをIDTの共振周波数モジュレーションによる通過域での周波数応答変化に堅牢にするように設計する方法
(51)【国際特許分類】
   H03H 3/08 20060101AFI20241029BHJP
   H03H 9/145 20060101ALI20241029BHJP
   H03H 9/64 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
H03H3/08
H03H9/145 Z
H03H9/64 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022208469
(22)【出願日】2022-12-26
(65)【公開番号】P2024063712
(43)【公開日】2024-05-13
【審査請求日】2022-12-26
(31)【優先権主張番号】10-2022-0139078
(32)【優先日】2022-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】510035761
【氏名又は名称】ウィパム,インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】WIPAM, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユ、ダエ キュ
(72)【発明者】
【氏名】ミン、キョウン ジョーン
(72)【発明者】
【氏名】キム、キュン オー
【審査官】福田 正悟
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-110542(JP,A)
【文献】特開2012-156741(JP,A)
【文献】特開2018-64270(JP,A)
【文献】国際公開第2005/067141(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/047112(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/131170(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 3/08
H03H 9/145
H03H 9/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性波RFフィルターをIDTの共振周波数モジュレーションによる通過域での周波数応答変化に堅牢にするように設計する方法として、
複数のフィンガーが非周期的な構造を持つIDT電極で構成することによって、前記IDT電極が周期的な構造を持つ時の共振周波数を前記非周期的な構造のIDT電極に対する共振周波数でモジュレーションする段階として、前記非周期的な構造のIDT電極として互いに異なる周期長さを持つ複数のサブIDT電極で構成し、前記周期的な構造のIDT電極に対する共振周波数を前記互いに異なる周期長さを持つ前記複数のサブIDT電極による複数の共振周波数に分割し、前記周期的な構造のIDT電極に対する反共振周波数を前記互いに異なる周期長さを持つ前記複数のサブIDT電極による反共振周波数に移動させるモジュレーションを行う段階と
前記弾性波RFフィルターにおいて並列連結される弾性波共振器のIDT電極に対する共振周波数のモジュレーションされた周波数の量と、前記弾性波RFフィルターにおいて直列連結される弾性波共振器のIDT電極に対する反共振周波数のモジュレーションされた周波数の量がそれぞれ最大になる時の前記複数のサブIDT電極それぞれの周期長さを前記非周期的な構造のIDT電極に対するパラメータとして決定する段階と、
前記決定されたパラメータによるIDT電極を有する弾性波共振器複数それぞれ直列連結及び並列連結して前記弾性波RFフィルターを構成する段階と、
を含む、弾性波RFフィルターをIDTの共振周波数モジュレーションによる通過域での周波数応答変化に堅牢にするように設計する方法。
【請求項2】
弾性波RFフィルターをIDTの共振周波数モジュレーションによる通過域での周波数応答変化に堅牢にするように設計する方法として、
周期長pを持つ複数のフィンガーを備えるIDT電極を互いに異なる周期長p1~pmを持つm個のサブIDT電極で構成する段階と、
前記周期長pのIDT電極の共振周波数frを前記周期長p1~pmのm個の周期のサブIDTにモジュレーションすることによって分割された共振周波数fr1~frmと、前記周期長pのIDT電極の反共振周波数fa(p)を前記周期長p1~pmを持つm個のサブIDTにモジュレーションすることによって移動された反共振周波数fa(m)を生成する段階と、
前記弾性波RFフィルターは、複数の弾性波共振器がそれぞれ並列連結及び直列連結されて構成され、前記並列連結される複数の前記サブIDTを持つ複数の弾性波共振器それぞれに対する共振周波数frと分割された共振周波数の差値及び前記直列連結される複数のサブIDTを持つ複数の弾性波共振器それぞれに対する反共振周波数fa(p)と移動された反共振周波数fa(m)の差値がそれぞれ最大になる時の複数の前記サブIDT電極それぞれの周期長さを決定する段階と、
前記決定された各周期長に応じたサブIDT電極を持つ弾性波共振器複数それぞれ直列連結及び並列連結して弾性波RFフィルターを構成する段階と、
を含む、弾性波RFフィルターをIDTの共振周波数モジュレーションによる通過域での周波数応答変化に堅牢にするように設計する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はモバイル通信機器などに使われる帯域フィルターで、圧電材料の圧電効果を利用して電気信号を圧電材料の弾性波(Acoustic Wave)に変換し、その変換された弾性波を再び電気信号に変換する弾性波フィルターに関するものであり、さらに詳しくは共振周波数モジュレーションを通じてフィルターの通過域での周波数応答変化に堅牢な弾性波RFフィルター設計方法に関するものである。
国策課題情報
[課題固有番号]2020-0-00845
[省庁名]科学技術情報通信部
[研究管理専門機関]情報通信企画評価院
[研究事業名]5Gベースの装備端末部品及びデバイス技術開発
[研究課題名]5G‐NR端末用高効率LPAMiD開発
[寄与率]1/1
[主管機関]ウィパム,インコポレイテッド
[研究期間]3次年度(2022.1.1~2022.12.31)
【背景技術】
【0002】
スマートフォン、タブレットのようなモバイル機器は小さいサイズのRFフィルターを必要とするため、EM waveより電波速度がはるかに遅い表面弾性波(Surface Acoustic Wave:SAW)や体積弾性波(Bulk Acoustic Wave:BAW)を利用した弾性波フィルター(Acoustic Filter)が主に利用される。
【0003】
次世代モバイルシステムでは100個以上のフィルターが小さく制限された領域に統合されなければならず、また数百MHzから約6GHzの周波数帯域に70個以上の周波数スペクトル帯域が割り当てられている。 したがって、次世代RFシステムに対するフィルター設計仕様は今よりはるかに厳しくなっている。
【0004】
フィルター設計において重要に考慮すべき部分はRF装置の物理的特性に相当な影響を及ぼす様々な要因、例えばProcess variations、marginal band、temperature variationsなどに対して堅牢なフィルターを設計することである。
【0005】
図1は従来の弾性波フィルターとしてSAWフィルターに対して温度変化によるフィルターの応答周波数変化を示す。 図1に示したように、温度による共振器の中心周波数の変化はフィルターの設計失敗につながりかねない。
【0006】
一般的に通常のSAW共振器基盤フィルターの中心周波数は2GHz範囲で-30℃から85℃まで+/-5MHz程度変わることができるが、これはRFフィルターで収容するにはかなり大きな周波数変化である。
【0007】
温度による中心周波数変動を緩和するためにIDT電極に追加処理段階で二酸化ケイ素(SiO2)をオーバーレイする温度補償SAW、即ちTC-SAW(Temperature Compensation SAW)が開発された。
【0008】
TC-SAWの温度係数(TCF)は約-20ppm/℃で、従来のSAWの温度係数が約-40ppm/℃である点に比べてはるかに少ないため、TC-SAWを使用する温度によるフィルターの中心周波数変化を実質的に減少させる効果はある。
【0009】
しかし、マルチプレクサやスイッチのような今日の統合RFフィルターは、はるかに厳格な帯域間干渉制限を指定しなければならないため、TC-SAWを利用しても温度変化のような要因による周波数変化を減少させる必要性は依然としてあり、プロセス変化、隣接バンド、温度変化のような要因に堅牢な特性はフィルター設計において非常に重要な問題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】日本公開特許公報第2021-500838号
【文献】韓国公開特許公報第2014-0077463号
【文献】韓国公開特許公報第2006-0120007号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は弾性波フィルターを構成する共振器のIDT電極に対する共振周波数をモジュレーションし、それに基づいてIDT電極に対する設計パラメータを決定することによってフィルターの通過域でスカート特性を向上させて温度変化による影響はもちろん、他の色々な要因による影響で周波数応答変化が発生してもこれを補償できる、IDTの共振周波数モジュレーションによる通過域での周波数応答変化に堅牢な弾性波RFフィルターを設計する方法を提供するためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一実施例による弾性波RFフィルターをIDTの共振周波数モジュレーションによる通過域での周波数応答変化に堅牢にするように設計する方法は、複数のフィンガーが非周期的な構造を持つIDT電極で構成することによって、前記IDT電極が周期的な構造を持つ時の共振周波数を前記非周期的な構造のIDT電極に対する共振周波数でモジュレーションする段階と、並列連結される前記モジュレーションされたIDT電極の弾性波共振器の共振周波数の変化と直列連結される前記モジュレーションされたIDT電極の弾性波共振器の共振周波数の変化から前記非周期的な構造のIDT電極に対するパラメータを決定する段階と、前記決定されたパラメータによるIDT電極を有する弾性波共振器を直列連結及び並列連結して弾性波RFフィルターを構成する段階を含む。
【0013】
好ましくは、前記共振周波数でモジュレーションする段階は、前記非周期的な構造のIDT電極として互いに異なる周期長を持つ複数のサブIDT電極で構成する段階と、前記周期的構造のIDT電極に対する共振周波数を前記複数の異なる周期を持つ複数のサブIDT電極による複数の共振周波数に分割し、前記周期的構造のIDT電極の反共振周波数を前記複数の異なる周期を持つ複数のサブIDT電極による反共振周波数に移動させるモジュレーションをする段階を含む。
【0014】
好ましくは、 前記IDT電極に対するパラメータを決定する段階は、前記並列連結される弾性波共振器の共振周波数のモジュレーションされた周波数の量と、前記直列連結される弾性波共振器の反共振周波数のモジュレーションされた周波数の量がそれぞれ最大になる時の前記複数のサブIDT電極それぞれの周期長を前記パラメータとして決定する段階を含む。
【0015】
本発明の一実施例による弾性波RFフィルターをIDTの共振周波数モジュレーションによる通過域での周波数応答変化に堅牢にするように設計する方法は、周期長pを持つ複数のフィンガーを備えるIDT電極を互いに異なる周期長p1~pmを持つm個のサブIDT電極で構成する段階と、前記p周期のIDT電極の共振周波数frを前記p1~pmのm個の周期のサブIDTにモジュレーションすることによって分割された共振周波数fr1~frmと、前記p周期のIDT電極の反共振周波数fa(p)を前記p1~pmを持つm個のサブIDTにモジュレーションすることによって移動された反共振周波数fa(m)を生成する段階と、並列連結される前記複数のサブIDTを持つ弾性波共振器に対する共振周波数frと分割された共振周波数の差値及び直列連結される複数のサブIDTを持つ弾性波共振器に対する反共振周波数fa(p)と移動された反共振周波数fa(m)の差値がそれぞれ最大になる時の前記複数のサブIDT電極それぞれの周期長さを決定する段階と、前記決定された各周期長に応じたサブIDT電極を持つ弾性波共振器を直列連結及び並列連結して弾性波RFフィルターを構成する段階を含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明によるIDTの共振周波数モジュレーションによる通過域での周波数応答変化に堅牢な弾性波RFフィルターを設計する方法は、弾性波フィルターを構成する共振器のIDT電極に対する共振周波数をモジュレーションし、それに基づいてIDT電極に対する設計パラメータを決定することによってフィルターの通過域でスカート特性を向上させて温度変化による影響はもちろん、他の色々な要因による影響で周波数応答変化が発生してもこれを補償できる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】従来のSAWフィルターに対して温度変化によるフィルターの応答周波数変化を示した図面である。
図2】通常の形態のSAW共振器の構成について説明するための図面。
図3】SAW共振器の微分区間に対して4ポートネットワークパラメータで表現されたSAW IDT伝送線モデルを示した図面である。
図4】本発明の一実施例によるIDTの共振周波数モジュレーションを通じた通過域での周波数応答変化に堅牢な弾性波RFフィルター設計方法に関して示した順序図である。
図5】(a)は複数のフィンガーが単一周期長を持つIDT電極のSAW共振器を示したもので、(b)はモジュレーションによるSAW共振器として複数のフィンガーが互いに異なる周期長を持つ複数のサブIDT電極からなるSAW共振器について示したものである。
図6】周期長pであるn個のフィンガーで構成されるIDTを二つの互いに区別される周期長(p、p)によってモジュレーションした時の周波数特性に関して示したグラフである。
図7】複数の共振器を並列連結した並列網と複数の共振器を直列連結した直列網を持つSAWフィルターと、並列網と直列網の各共振器をモジュレーションしたSAWフィルターの各周波数特性を示したグラフである。
図8】既存の均一な単一周期長さのSAW共振器で設計されたSAWフィルターとそれによる周波数特性を示した図面である。
図9】本発明による共振周波数のモジュレーション技法を適用したSAW共振器で設計されたSAWフィルターとそれによる周波数特性を示した図面である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明によるIDTの共振周波数モジュレーションによる通過域での周波数応答変化に堅牢にするように弾性波RFフィルターを設計する方法に関する具体的な内容を図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
本発明による弾性波RFフィルター設計方法は、XBAW、XBAR、SAWなどIDT(Inter Digital Transducer)構造を活用した弾性波RFフィルターを利用した素子全般に適用可能であり、以下では本発明による方法がSAWフィルターに適用された場合を代表的な例として説明する。
【0020】
SAWフィルターは複数のSAW共振器を組み合わせて設計されるが、図2は通常の形態のSAW共振器に対して示している。
【0021】
図2に示したようなSAW共振器100は、圧電基板110上にIDT(InterDigital Transducers)電極200を形成してIDT電極200に伝達された電気的信号から圧電基板110の表面に表面弾性波(SAW)を生成する。 この時、圧電基板110上にIDT電極200の両端にそれぞれ反射器300を備え、IDT電極200で発生したSAWが外部に漏れずに各反射器300で反射されるように構成することができる。
【0022】
圧電基板110上に備えられたIDT電極200は金属で形成でき、図2に示したようにIDT電極200は入力IDT電極部210と出力IDT電極部220に区分される。 入力IDT電極部210はpositive potentialを有し、出力IDT電極部220はnegative potentialを有する。
【0023】
入力IDT電極部210は多数の入力IDTフィンガー211を含み、出力IDT電極部220は多数の出力IDTフィンガー221を含む。
【0024】
各入力IDTフィンガー211と各出力IDTフィンガー221は一つずつ交互に配置され、入力IDTフィンガー間の長さまたは出力IDTフィンガー間の長さを周期長(p)という。
【0025】
通常、SAW共振器のIDT電極は多数のフィンガーを含み、IDT電極が単一の周期長を持つ。
【0026】
SAW共振器のIDT電極は周期的なビット(comb)構造であるため、周期的な境界条件を持つ波動方程式を近似的に解いて共振特性を決定することになるが、これをCMA(coupled mode approach)という。単一の周期長の周期的構造(periodic structure)の場合、相対的に低い作動周波数で非常に有用で正確だが、非周期的構造(non-periodic structure)の場合、根本的な限界がある。
【0027】
代案として、SAW-IDTの圧電材料内の音波挙動は牽引力(tractional force)と音速の間の一対のテンソル方程式(tensor equations)で物理的にモデリングできる。 適切な決定方向を縦方向にとると、方程式は伝送線方程式と数学的に同じ一対の微分方程式になる。
【0028】
したがって、電磁波に対する分散ネットワーク理論を利用して一次元弾性波方程式を解くことができるので、この技法を「Electromagnetic-AcousticAnalogy(EAA)」という。 EAA(CMAと比較)の最大の長所は非対称または非周期的なIDT構造の分析にはるかに柔軟であることにある。
【0029】
即ち、IDTフィンガーは伝送線モデルの微分区間(differential section)で表現できるので、分散回路モデルでよく説明できる。 本発明によるSAW共振器の共振周波数モジュレーションは、非周期的IDT特性を活用するものであるため、EAAアプローチを使用することができる。
【0030】
電気機械的結合効果と音響伝送線モデルを結合すれば、IDT伝送線モデルの微分区間(differential section)は図3のように4ポートネットワークパラメータで表現できる。微分長(lu)として定義される単位区間に対する4ポートカスケード-マトリックスは、下記の式1のように表すことができる。
【0031】
(式1)
【数1】
【0032】
ここで、各パラメータは次のように定義できる。
γu = α+jβ: 電波定数
Ei : i番目のポート電圧
ii : i番目のポート電流
Ti : i番目のポートでの応力
vi : i番目のポートの粒子速度
ω : 角加速度
zu : 音響特性インピーダンス
φi : 変形率
【0033】
図3に示したように、SAW伝送線モデルは五つのモデルパラメータ、即ちM={vo, vm, k2, α, Co}から構成され、ここで、「vo」と「vm」はそれぞれ金属負荷効果のない弾性波の位相速度と金属負荷効果のある弾性波の位相速度である。
【0034】
弾性波は「τ ≡ vo / vm」で定義される弾性波速度比で表され、α は弾性波の電波損失を表す。 k2 は電気機械的結合係数であり、Co はIDT のフィンガー当たりキャパシタンスである。
【0035】
一方、図4を参照して本発明の一実施例によるIDTの共振周波数モジュレーションによる通過域での周波数応答変化に堅牢にするように設計する方法について説明する。図4は本発明の一実施例による弾性波RFフィルター設計方法に関して示した順序図である。
【0036】
図2に示したような周期的な構造を持つIDT電極、即ち複数のフィンガーが単一の周期長に形成されたIDT電極を持つ一般的な形態のSAW共振器とは異なり、本発明はIDT電極を非周期的な構造で構成して共振周波数と反共振周波数をモジュレーションすることによってSAWフィルターを温度変化に堅固にするように設計できる方法を提供する。
【0037】
図4に示したように、複数のフィンガーが互いに異なる周期長を持つ複数のサブIDT電極でSAW共振器のIDT電極を構成する(S100)。
【0038】
複数のフィンガーが単一の周期長を持つときのIDT電極の共振周波数と反共振周波数を複数のサブIDT電極による複数の共振周波数と反共振周波数でモジュレーションする(S110)。
【0039】
ここで、「モジュレーション」は、前述のようにSAW共振器のIDT電極を単一の周期長ではなく、互いに異なる周期長を持つ複数のサブIDT電極で構成することによって、既存の共振周波数を複数の異なる共振周波数に分割し、既存の反共振周波数を移動させるなどの周波数変化を意味する。
【0040】
前述したようなモジュレーションによるIDT電極を持つSAW共振器を並列連結及び直列連結してSAWフィルターを構成することができる。この時、並列連結されたSAW共振器の共振周波数のモジュレーションされた周波数の量と、直列連結されたSAW共振器の反共振周波数のモジュレーションされた周波数の量がそれぞれ最大になる時の複数のサブIDT電極それぞれの周期長を決定することができる(S120)。そのように決定された周期長を持つ複数のサブIDT電極を持つSAW共振器を直列連結及び並列連結させることによって、本発明の一実施例によるSAWフィルターを設計することができる(S130)。
【0041】
このようにIDT電極に対するモジュレーションを通じてSAWフィルターの応答周波数でスカート特性を向上させることで温度変化に対する補償がなされるようにして温度変化に堅牢なSAWフィルターを製作することができる。
【0042】
前述したような本発明の一実施例によるSAWフィルター設計方法については、図5から図9を参照して、より具体的に説明する。
【0043】
図5の(a)は複数のフィンガーが単一の周期長を持つIDT電極のSAW共振器について示し、図5の(b)はモジュレーションによるSAW共振器として複数のフィンガーが互いに異なる周期長を持つ複数のサブIDT電極からなるSAW共振器について示す。
【0044】
基本的なSAW IDT構造は、図5の(a)に示すように、陽のフィンガーと陰のフィンガーが周期的なパターンで配列された構造、即ち周期的な構造である。 SAW共振器モジュレーションの数学的公式化のためにSAW IDTを記号表記法で表すことができるが、SAW-IDTにn個のフィンガーがあり、周期長がpの場合、 下記の式2のように表記することができる。
【0045】
(式2)
【数2】
【0046】
ここで、「Π」はIDTを表し、偽添者である「n」はフィンガーの個数を表し、下添者である「p」はIDTの周期長を表す。
【0047】
IDTのモジュレーションは、図5の(b)に示すように、周期長がpであるn個のフィンガーの均一な配列が複数の周期長を持つ他のIDT構造に再構成されることを意味する。
【0048】
したがって、周期長pと総フィンガー個数がn個のIDTをm個の異なる周期長で異なるIDTでモジュレーションすれば、下記の式3のように表示することができる。
【0049】
(式3)
【数3】
【0050】
前述した式3の左側部分は周期長pであるn個のフィンガーで構成されたIDT電極がm個のサブIDT電極にモジュレーションされることを意味し、右側部分はm個のサブIDT電極を表し、周期長p1であるk1個のフィンガーで構成されたサブIDT電極、周期長p2であるk2個のフィンガーで構成されたサブIDT電極、周期長pmであるkm個のフィンガーで構成されたサブIDT電極をそれぞれ表す。
【0051】
図5の(a)のような均一なSAW共振器のIDTは周期長pによって二つの共振周波数を生成することができ、アドミタンス(admittance)を考慮すればこれを「共振周波数(fr)」と「反共振周波数(fa)」で表すことができる。
【0052】
最も簡単な構造である二つの互いに区別される周期長でモジュレーションされれば、前述した式3は
【数4】
で表すことができ、周期長pに対応する既存の共振周波数(fr p)は二つの周期長(p1、p2)を持つIDTでモジュレーションされることによって、二つの派生共振周波数(fr1、fr2)に分割される。
【0053】
モジュレーションされた二つの共振周波数は、低い方の周波数(fr1≡fr(low))と高い方の周波数(fr2≡fr(high))に区分される。
【0054】
これとは異なり、反共振周波数(fa p)は分割されない代わりに周波数の移動が発生し、移動された周波数fa1を生成する。
【0055】
したがって、二つの異なる周期長(p1、p2)を使用したモジュレーション後に二つの共振周波数と一つの反共振周波数が生成され、下記の式4のように表記することができる。
【0056】
(式4)
【数5】
【0057】
図6は周期長pであるn個のフィンガーで構成されるIDTを二つの互いに区別される周期長(p1、p2)によってモジュレーションした時、即ち
【数6】
の場合のそれぞれの周波数特性に関して示したグラフである。
【0058】
即ち、図6の(a)は
【数7】
のp2>p>p1の場合において、周期長pに対応するSAW共振器複数個を並列に連結した時の周波数応答特性曲線(均一なIDTs)並列と、周期長p1、p2でモジュレーションされたSAW共振器複数個を並列に連結した時の周波数応答特性曲線(モジュレーションされたIDTs)並列を示したものである。
【0059】
図6の(b)は、
【数8】
のp2>p1=pの場合において、周期長pに対応するSAW共振器複数個を直列に連結した時の周波数応答特性曲線(均一なIDTs)直列と周期長p1、p2でモジュレーションされたSAW共振器複数個を直列に連結した時の周波数応答特性曲線(モジュレーションされたIDTs)直列を示したものである。
【0060】
周期長pのSAW共振器複数個を直列連結すれば周波数fa pより高い高周波信号を通過させることができないようにし、逆に並列連結すれば周波数fr pより低い低周波信号を通過させることができないようにする。
【0061】
したがって、図6の(a)のようにフィルターの通過域の左側のフィルタースカート特性は並列連結された共振器と関連があり、図6の(b)のようにフィルターの通過域の右側のフィルタースカート特性は直列連結された共振器と関連がある。
【0062】
前述したようにSAW共振器を二つの異なる周期長((p1,p2)∀(p2>p>p1))にモジュレーションすると、図6の(a)に示したように共振周波数(fr p)は二つの派生共振周波数fr1(fr(low))とfr2(fr(high))に分割される。
【0063】
ここで、「モジュレーションされた周波数の量」を「Δfm」で表し、二つの派生共振周波数の差で定義すれば、並列連結された共振器のモジュレーションされた周波数は下記の式5のように定義できる。
【0064】
(式5)
【数9】
【0065】
また、直列連結された共振器の反共振周波数(fa p)のモジュレーションされた周波数(fa(m))は、下記の式6のように定義することができる。
【0066】
(式6)
【数10】
【0067】
ここでΔfm seriesは、図6の(b)に示したように、モジュレーションによって反共振周波数が移動した移動量を意味する。
【0068】
したがって、本発明においてSAWフィルターの設計で重要なことは共振周波数のモジュレーションによって適切なΔfm parallelとΔfm seriesの両方を探すことである。
【0069】
最適な並列連結された共振器のモジュレーション(例えば、
【数11】
)に対する二つの異なる周期長(p1、p2)は、モジュレーションされたIDT電極が前述の式5による「k1Δfm parallel」を最大化できるように決定されることが望ましい。
【0070】
低い方の共振周波数fr(low)に該当するp2を選択すれば、p1は「k1Δfm parallel」を最大化する周期長にならなければならない。これは下記の式7で表すことができる。
【0071】
(式7)
【数12】
【0072】
例えば、p1はモジュレーションされたIDTに対する階段式ネットワークモデルを使用して数回の反復計算で簡単に決定できる。
【0073】
図7は複数の共振器を並列連結した並列網と複数の共振器を直列連結した直列網を持つSAWフィルターと、並列網と直列網の各共振器をモジュレーションしたSAWフィルターの各周波数特性(挿入損失(Insertion loss)に対する周波数特性)を示したグラフとして、図7の(a)は通過域の左側の周波数特性を、図7の(b)は通過域の右側の周波数特性をそれぞれ示したものである。
【0074】
図7の(a)に示したように、SAWフィルターの通過域の左側のフィルタースカート特性は前述の「k1Δfm parallel」の量だけ実質的に改善されることがわかる。
【0075】
同様に、最適な直列連結された共振器のモジュレーションのためには、モジュレーションされたIDT電極がモジュレーションされた周波数fa(m)を最小化できるようにIDT電極の周期長(p1、p2)が決定されることが望ましい。
【0076】
反共振周波数(fap)に該当するp1を選択すれば、p2はΔfm seriesを最大化する周期長にならなければならず、これは下記の式8で表すことができる。
【0077】
(式8)
【数13】
【0078】
例えば、p2はモジュレーションされたIDTに対する階段式ネットワークモデルを使用して数回の反復計算で簡単に決定できる。
【0079】
図7の(b)に示したように、SAWフィルターの通過域の右側のフィルタースカート特性は前述の「Δfm series」の量だけ実質的に改善されることがわかる。
【0080】
したがって、並列連結されたSAW共振器の共振周波数のモジュレーションされた周波数の量と、直列連結されたSAW共振器の反共振周波数のモジュレーションされた周波数の量がそれぞれ最大になる時の複数のサブIDT電極それぞれの周期長を決定することによって、フィルターの左スカート特性と右スカート特性を全て向上させることができる。
【0081】
前述したようなフィルタースカート特性の向上は周波数応答変化に対する補償を提供するので、前述したような方法で設計された弾性波RFフィルターはプロセスの変化、周辺バンド、温度変化などに堅牢な特性を持つことができる。
【0082】
前述したような共振周波数のモジュレーションによるフィルターのスカート特性の向上を後押しできる比較データに関して、図8図9を参照して説明する。
【0083】
図8は既存の均一な単一周期長のSAW共振器で設計されたSAWフィルターとそれによる周波数特性を示したものであり(以下「既存設計」という)、図9は前述のような共振周波数のモジュレーション技法を適用したSAW共振器で設計されたSAWフィルターとそれによる周波数特性を示したものである(以下「モジュレーション基盤設計」という)。
【0084】
既存設計による帯域通過フィルタは、中心周波数(2GHz)、通過域(196MHz~2035MHz)、不通過要件(‐40dB)、左と右のガードバンドに対する非帯域幅(1.5%、すなわち30MHz)、そして挿入損失(‐2.5dB未満)と特定されるテストフィルターである。
【0085】
図8の(a)に示したように、3.5段はしご型回路構造を使用して前述のテストフィルターを設計した。フィルターに使用されたすべての共振器のレイアウト寸法は下表1で示している。
【0086】
[表1]
【表1】
【0087】
図8の(a)と、上記の表1において、「SAW(s)」は直列接続されたSAW共振器を意味し、「SAW(p)」は並列接続されたSAW共振器を意味する。
【0088】
既存設計で設計されたフィルターの挿入損失対比周波数特性は図8の(b)に示すようになる。
【0089】
図8の(b)に示すように、‐30℃から85℃までの温度変化による周波数帯域移動は周波数の特性に決定的な影響を及ぼすことがわかる。
【0090】
即ち、フィルターの左バンドは85℃で‐23dBで左ガードバンドと交差する反面、フィルターの右バンドは‐30℃で‐32dBで右ガードバンドと交差するので、既存設計で設計されたフィルターは常温で設計仕様を満足しても温度変化によって致命的な設計失敗につながりかねない。
【0091】
一方、図9はモジュレーション基盤設計によって設計されたフィルターについて示しているが、図8に示す既存設計ですべての共振器を
【数14】
によってモジュレーションされた共振器で設計したものである。モジュレーションによる共振器のレイアウト寸法は下表2で示している。
【0092】
[表2]
【表2】
【0093】
前述したようにモジュレーションされた共振器を既存の共振器と区別して表記するために、図9の(a)に図示されたフィルターで各共振器(Modulated resonator)をダイヤモンドで表示した。
【0094】
図9の(a)および上記の表2において、「mSAW(s)」は直列接続された変調SAW共振器を意味し、「mSAW(p)」は並列接続された変調SAW共振器を意味する。
【0095】
このようなモジュレーション基盤設計で設計されたフィルターの挿入損失対比周波数特性は、図9の(b)に示したようになる。
【0096】
図9の(b)に示したように、モジュレーション基盤設計で設計されたフィルターのスカート特性は、左で4MHz、右で3MHz向上していることが分かり、それによって‐30℃~85℃の温度変化でも左と右の各ガードバンドと交差しないことが分かる。
【0097】
即ち、 図9の(b)で見られるように、モジュレーション基盤設計によって設計されたSAWフィルターはフィルタースカート特性を向上させ温度変化を補償することで温度変化に堅牢なSAWフィルターで設計することが可能だということを示している。
【0098】
さらに、前述したようなフィルターのスカート特性向上は温度変化による影響はもちろん、他の色々な要因による影響に対しても補償をすることで弾性波RFフィルターを通過域での周波数応答変化に堅固にするように設計できることを示している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9