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特許7577917ナトリウムイオン二次電池及びナトリウムイオン二次電池の製造方法
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  • 特許-ナトリウムイオン二次電池及びナトリウムイオン二次電池の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】ナトリウムイオン二次電池及びナトリウムイオン二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20241029BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20241029BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20241029BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20241029BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20241029BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20241029BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241029BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20241029BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20241029BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/131
H01M4/133
H01M4/134
H01M4/136
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M10/054
H01M10/0562
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019171540
(22)【出願日】2019-09-20
(65)【公開番号】P2021048111
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】角田 啓
(72)【発明者】
【氏名】山内 英郎
【審査官】森 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-117839(JP,A)
【文献】特開平10-172573(JP,A)
【文献】特開2017-111989(JP,A)
【文献】国際公開第2018/131627(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/009228(WO,A1)
【文献】特開2008-034352(JP,A)
【文献】特開2016-091717(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
H01M 10/0562
H01M 10/054
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質粉末及び有機バインダーを含有する二次電池用電極と、固体電解質層を有するナトリウムイオン二次電池であって、
前記電極活物質粉末が、Na、M(MはCr、Fe、Mn、Co及びNiから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素)、P、Oを含む結晶、ハードカーボン、酸化チタン、SnまたはBiであり、
前記二次電池用電極は、波長532nmのラマン分光測定において蛍光を発し、
前記二次電池用電極は、前記固体電解質層の表面に接して設けられていることを特徴とするナトリウムイオン二次電池。
【請求項2】
電極活物質粉末及び有機バインダーを含有する二次電池用電極と、固体電解質層を有するナトリウムイオン二次電池であって、
前記電極活物質粉末が、Na、M(MはCr、Fe、Mn、Co及びNiから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素)、P、Oを含む結晶、ハードカーボン、酸化チタン、SnまたはBiであり、
前記二次電池用電極は、前記有機バインダーの分解温度+50℃で熱処理した場合の質量減少率が5%以下であり、
前記二次電池用電極は、前記固体電解質層の表面に接して設けられていることを特徴とするナトリウムイオン二次電池。
【請求項3】
電極活物質粉末及び有機バインダーを含有する二次電池用電極と、固体電解質層を有するナトリウムイオン二次電池であって、
前記電極活物質粉末が、Na、M(MはCr、Fe、Mn、Co及びNiから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素)、P、Oを含む結晶、ハードカーボン、酸化チタン、SnまたはBiであり、
前記二次電池用電極は、DTA測定において有機バインダーの分解温度~有機バインダーの分解温度+100℃の範囲で発熱ピーク及び吸熱ピークが現れず、
前記二次電池用電極は、前記固体電解質層の表面に接して設けられていることを特徴とするナトリウムイオン二次電池。
【請求項4】
前記二次電池用電極が、電極活物質粉末及び有機バインダーを含有する材料の焼成体からなることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のナトリウムイオン二次電池。
【請求項5】
前記二次電池用電極が、有機バインダーを0.1~30質量%含有することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のナトリウムイオン二次電池。
【請求項6】
前記有機バインダーが、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、メチルセルロースナトリウム、ポリフッ化ビニリデン、スチレン-ブタジエンゴム、ポリイミド及びポリエチレンオキシドから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載のナトリウムイオン二次電池。
【請求項7】
前記二次電池用電極が、さらに固体電解質粉末を含有することを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のナトリウムイオン二次電池。
【請求項8】
固体電解質粉末が、ナトリウムイオン伝導性結晶粉末であることを特徴とする請求項7に記載のナトリウムイオン二次電池。
【請求項9】
ナトリウムイオン伝導性固体電解質粉末が、β-アルミナ、β”-アルミナ及びNASICON結晶から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項8に記載のナトリウムイオン二次電池。
【請求項10】
Na、M(MはCr、Fe、Mn、Co及びNiから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素)、P、Oを含む結晶、ハードカーボン、酸化チタン、SnまたはBiである電極活物質粉末及び有機バインダーを含有する材料を、有機バインダーの分解温度に対して-15℃~+202℃の範囲内で焼成することにより、二次電池用電極を固体電解質層の表面に接して設ける工程を含むことを特徴とするナトリウムイオン二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電子機器や電気自動車等に用いられる二次電池の構成部材である電極及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、モバイル機器や電気自動車等に不可欠な、高容量で軽量な電源としての地位を確立している。現行のリチウムイオン二次電池には、電解質として可燃性の有機系電解液が主に用いられているため、発火等の危険性が懸念されている。この問題を解決する方法として、有機系電解液に代えて固体電解質を使用したリチウムイオン全固体電池の開発が進められている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
また、リチウムは世界的な原材料の高騰の懸念があるため、リチウムに代わる材料としてナトリウムも注目されており、固体電解質としてNASICON型のNaZrSiPO12からなるナトリウムイオン伝導性結晶を使用したナトリウムイオン全固体電池が提案されている(例えば特許文献2参照)。その他、β-アルミナ(理論組成式:NaO・11Al)やβ”-アルミナ(理論組成式:NaO・5.3Al)、LiO安定化β”-アルミナ(Na1.7Li0.3Al10.717)、MgO安定化β”-アルミナ((Al10.32Mg0.6816)(Na1.68O))といったベータアルミナ系固体電解質やNaYSi12も高いナトリウムイオン伝導性を示すことが知られており、これらの固体電解質もナトリウムイオン全固体電池用として使用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-205741号公報
【文献】特開2010-15782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
二次電池における電極層として、電極活物質粉末を含む原料粉末の焼結体からなるものが挙げられる。しかしながら、原料粉末の焼結性が不十分となり緻密な焼結体が得られず、その結果、十分な充放電容量が得られない場合がある。そこで、原料粉末を有機バインダーで結着して、粉末同士の密着性を高める方法も提案されている。しかしながら、有機バインダー自体はイオン伝導性に劣るため、依然として所望の充放電容量が得られない場合がある。
【0006】
以上に鑑み、本発明は、優れた充放電容量を得ることが可能な二次電池用電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等が鋭意検討した結果、電極活物質粉末及び有機バインダーを含有する二次電池用電極において、特定波長のラマン分光測定において蛍光を発する場合に、上記課題を解消できることを見出した。
【0008】
即ち、本発明の二次電池用電極は、電極活物質粉末及び有機バインダーを含有し、波長532nmのラマン分光測定において蛍光を発することを特徴とする。後述するように、電極活物質粉末及び有機バインダーを含有する二次電池用電極において、有機バインダーを所定温度で焼成して一部分解させることにより変性させた場合に、波長532nmのラマン分光測定において蛍光を発することがわかった。またこのように、有機バインダーが変性して構造変化が起こった状態では、有機バインダーのイオン伝導性に優れ、所望の充放電容量が得られることを見出した。
【0009】
本発明の別の局面の二次電池用電極は、電極活物質粉末及び有機バインダーを含有する二次電池用電極であって、有機バインダーの分解温度+50℃で熱処理した場合の質量減少率が5%以下であることを特徴とする。通常、有機バインダーの分解温度+50℃で熱処理した場合は、有機バインダーの分解が進んで、COガス、COガス、HOガス等が発生して質量が大きく低下する。一方、本発明の二次電池用電極は、有機バインダーの分解温度+50℃で熱処理した場合の質量減少率が5%以下と少ないことを特徴とする。これは有機バインダーが、既に一部分解して変性した状態であるため、さらなる分解がほとんど進まない状態であることを意味する。この場合、上述したように有機バインダーのイオン伝導性に優れ、所望の充放電容量を得ることが可能となる。
【0010】
本発明のさらなる別の局面の二次電池用電極は、電極活物質粉末及び有機バインダーを含有する二次電池用電極であって、DTA(示差熱分析)測定において有機バインダーの分解温度~有機バインダーの分解温度+100℃の範囲で発熱ピーク及び吸熱ピークが現れないことを特徴とする。上述したように、通常、有機バインダーの分解温度より高い温度で熱処理した場合は、有機バインダーの分解が進んで、COガス、COガス、HOガス等が発生するが、この場合にDTA測定において発熱ピークまたは吸熱ピークが現れる。一方、本発明の二次電池用電極は、DTA測定において有機バインダーの分解温度~有機バインダーの分解温度+100℃の範囲で発熱ピーク及び吸熱ピークが現れないことを特徴とする。これは有機バインダーが、既に一部分解して変性した状態であるため、さらなる分解がほとんど進まない状態であることを意味する。この場合、上述したように有機バインダーのイオン伝導性に優れ、所望の充放電容量を得ることが可能となる。
【0011】
本発明の二次電池用電極は、電極活物質粉末及び有機バインダーを含有する材料の焼成体からなることが好ましい。
【0012】
本発明の二次電池用電極は、有機バインダーを0.1~30質量%含有することが好ましい。
【0013】
本発明の二次電池用電極は、有機バインダーが、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、メチルセルロースナトリウム、ポリフッ化ビニリデン、スチレン-ブタジエンゴム、ポリイミド及びポリエチレンオキシドから選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0014】
本発明の二次電池用電極は、電極活物質粉末が、グラファイト、ハードカーボン、酸化チタン、Si、SnまたはBiであることが好ましい。
【0015】
本発明の二次電池用電極は、さらに固体電解質粉末を含有させてもよい。このようにすれば、電極内にイオン導電パスを形成することができる。
【0016】
本発明の二次電池用電極は、固体電解質粉末が、ナトリウムイオン伝導性結晶粉末であることが好ましい。
【0017】
本発明の二次電池用電極は、ナトリウムイオン伝導性固体電解質粉末が、β-アルミナ、β”-アルミナ及びNASICON結晶から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0018】
本発明の二次電池用電極の製造方法は、電極活物質粉末及び有機バインダーを含有する材料を、有機バインダーの分解温度に対して-50℃~+250℃の範囲内で焼成する工程を含むことを特徴とする。このようにすれば、有機バインダーが変性して構造変化が生じ、完全に焼き飛ばずに電極中に一部が残存する。この場合、得られた電極は、波長532nmのラマン分光測定において蛍光を発し、上述の通り、有機バインダーのイオン伝導性に優れ、所望の充放電容量を得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、優れた充放電容量を得ることが可能な二次電池用電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例におけるNo.4の試験電池の初回充放電曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の二次電池用電極は、電極活物質粉末及び有機バインダーを含有する。以下に各構成要素について説明する。
【0022】
(電極活物質粉末)
電極活物質粉末には、正極活物質粉末と負極活物質粉末がある。
【0023】
正極活物質粉末としては、NaCrO、Na0.7MnO、NaFe0.2Mn0.4Ni0.4、NaFeP、NaFePO、Na(PO、NaCoP、NaNiP、Na2/3Ni2/3Mn2/3等の、Na、M(MはCr、Fe、Mn、Co及びNiから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素)、P、Oを含むナトリウムイオン二次電池用の活物質粉末が挙げられる。特に、Na、M、P及びOを含む結晶は、高容量で化学的安定性に優れるため好ましい。なかでも、空間群P1またはP-1に属する三斜晶系結晶、特に一般式NaMyP(1.20≦x≦2.80、0.95≦y≦1.60)で表される結晶が、サイクル特性に優れるため好ましい。
【0024】
また正極活物質粉末として、LiCoO、LiFePO、LiMn等のリチウムイオン二次電池用の活物質粉末が挙げられる。
【0025】
負極活物質粉末としては、グラファイトやハードカーボン等の炭素粉末や、酸化チタン(アナターゼ型またはルチル型)等のセラミック粉末、Si、Sn、Bi等の金属粉末が挙げられる。なお、グラファイト、ハードカーボン、セラミック粉末、Si等は熱により軟化変形しにくく、緻密な焼結体を得るために基本的に有機バインダーの添加が必要となる。よって、このような熱により軟化変形しにくい電極活物質粉末を使用する場合は、本発明の効果を享受しやすい。
【0026】
(有機バインダー)
有機バインダーとしては、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、メチルセルロースナトリウム、ポリフッ化ビニリデン、スチレン-ブタジエンゴム、ポリイミド、ポリエチレンオキシドが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
【0027】
本発明の二次電池用電極は、波長532nmのラマン分光測定において蛍光を発することを特徴とするが、これは有機バインダーが焼成により変性して構造変化している状態(ゴム状化状態)を示している。このように有機バインダーが変性して構造変化が起こった状態では、有機バインダーがイオン伝導性に優れ、充放電容量が向上しやすくなる。
【0028】
なお本発明の別の局面の二次電池用電極は、有機バインダーの分解温度+50℃で熱処理した場合の質量減少率が5%以下であることを特徴とするが、これも有機バインダーが焼成により変性しており、さらなる分解がほとんど進まない状態であることを示している。この場合も、有機バインダーがイオン伝導性に優れ、充放電容量が向上しやすくなる。なお、有機バインダーの分解温度+50℃で熱処理した場合の質量減少率は3%以下、1%以下、特に0%であることが好ましい。
【0029】
また本発明のさらなる別の局面の二次電池用電極は、DTA測定において有機バインダーの分解温度~有機バインダーの分解温度+100℃の範囲で発熱ピーク及び吸熱ピークが現れないことを特徴とするが、これも有機バインダーが焼成により変性して構造変化が生じている状態を示している。この場合も、有機バインダーがイオン伝導性に優れ、充放電容量が向上しやすくなる。
【0030】
本発明の二次電池用電極における有機バインダーの含有量は0.1~30質量%、0.2~20質量%、0.3~10質量%、特に0.5~5質量%であることが好ましい。有機バインダーの含有量が少なすぎると、電極活物質粉末同士や、電極活物質粉末と固体電解質粉末との結着性が得られず、イオン伝導パスを確保できないことから、充放電容量が低下しやすくなる。あるいは、全固体電池の場合は、電極と固体電解質層との結着性が得にくくなり、電極が固体電解質層から剥離する恐れがある。一方、有機バインダーの含有量が多すぎると、電極の内部抵抗が高くなり、充放電容量が著しく低下する恐れがある。また電極中に占める電極活物質の体積が低下することから、エネルギー密度が低下する。
【0031】
(その他の成分)
本発明の二次電池用電極には、上記成分の他に固体電解質粉末や導電助剤を含有させることができる。
【0032】
なお、電極内にイオン伝導パスを形成するため、固体電解質粉末を含有させてもよい。固体電解質粉末としては、β-アルミナ、β”-アルミナ、NASICON結晶等のナトリウムイオン伝導性結晶粉末や、LLZ(Ga-doped LiLaZr12)等のリチウムイオン伝導性結晶粉末等が挙げられる。
【0033】
導電助剤を含有させることにより、電極内の導電性が向上し、優れた充放電容量を得ることができる。またハイレート化を達成することができる。導電助剤の具体例としては、アセチレンブラックやケッチェンブラック等の高導電性カーボンブラック、黒鉛、コークス等や、Ni粉末、Cu粉末、Ag粉末等の金属粉末等が挙げられる。なかでも、極少量の添加で優れた導電性を発揮する高導電性カーボンブラック、Ni粉末、Cu粉末のいずれかを用いることが好ましい。
【0034】
(二次電池用電極の製造方法)
本発明の二次電池用電極は、例えば電極活物質粉末及び有機バインダーを含有する材料を、所定温度で焼成することにより製造することができる。
【0035】
具体的には、まず電極活物質粉末と有機バインダーを混練することによりスラリー化する。スラリー化する際、N-メチルピロリドンや水等の溶媒を添加してもよい。また、必要に応じて、導電助剤や固体電解質粉末も添加する。
【0036】
材料(固形材料)中に占める有機バインダーの含有量は0.1~50質量%、1~40質量%、5~30質量%、特に10~25質量%であることが好ましい。有機バインダーの含有量が少なすぎると、電極活物質粉末同士や、電極活物質粉末と固体電解質粉末との結着性が得られず、イオン伝導パスを確保できないことから、充放電容量が低下しやすくなる。あるいは、全固体電池の場合は、電極と固体電解質層との結着性が得にくくなり、電極が固体電解質層から剥離する恐れがある。一方、有機バインダーの含有量が多すぎると、電極の内部抵抗が高くなり、充放電容量が著しく低下する恐れがある。また電極中に占める電極活物質の体積が低下することから、エネルギー密度が低下する。
【0037】
次に、得られたスラリーを膜状に成形することにより二次電池用電極前駆体を得る。例えば全固体電池の場合は、固体電解質層の表面にスラリーを所望の厚みに塗布することにより二次電池用電極前駆体を形成すればよい。
【0038】
なお、スラリーをPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム等の基材上に塗布し、乾燥させることによりグリーンシートを作製し、二次電池用電極前駆体としてもよい。全固体電池の場合は、得られたグリーンシートを固体電解質層の表面に積層、圧着することにより、二次電池用電極前駆体を形成する。
【0039】
あるいは、電極活物質粉末と粉末状の有機バインダーを混合し、加圧成形してペレット化することにより、二次電池用電極前駆体としてもよい。このようにすれば、スラリー化の工程を省略できるため、製造コスト削減に繋がる。
【0040】
さらに二次電池用電極前駆体を焼成することにより二次電池用電極を得る。焼成温度は、有機バインダーの分解温度に対して-50℃~+250℃の範囲内であり、有機バインダーの分解温度に対して-30℃~+180℃の範囲内であることが好ましく、有機バインダーの分解温度に対して-10℃~+160℃の範囲内であることがより好ましく、有機バインダーの分解温度~有機バインダーの分解温度+140℃の範囲内であることがさらに好ましく、有機バインダーの分解温度に対して+10℃~+120℃の範囲内であることが特に好ましい。焼成温度が低すぎると、有機バインダーの変性が不十分となり、上述したような所望の特性を有する二次電池用電極を得にくくなる。一方、焼成温度が高すぎると、有機バインダーが完全に分解・炭化して結着力を失うため、電極活物質同士や、電極層と固体電解質層の結着性が低下し、充放電容量が著しく低下する傾向がある。
【0041】
なお、上述の通り焼成を行って二次電池用電極を得た後は、例えば電極活物質同士を焼結するための焼成等の高温の焼成(具体的には、有機バインダーの分解温度+250℃超の焼成)を行わないことが好ましい。二次電池用電極を得た後にそのような焼成を行うと、有機バインダーの分解や炭化が促進され、所望の特性を有する二次電池用電極を得にくくなるためである。
【実施例
【0042】
以下に本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
表1~4は実施例(No.3~6、9~23)及び比較例(No.1、2、7、8)を示す。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
【表4】
【0048】
(試料No.1~8)
質量%で、電極活物質粉末(負極活物質粉末)としてハードカーボン粉末(ATエレクトロード株式会社製 ベルファイン(R) LN-0001、D50=1μm)80%、導電助剤としてアセチレンブラック(TIMCAL社製SUPER C65)5%、有機バインダーとしてポリアクリル酸(和光純薬工業社製PAH、架橋度0%)15%となるように秤量し、原料を得た。原料に対してN-メチルピロリドンを等量添加し、自転公転ミキサーを用いて十分に撹拌することによりスラリー化した。なお、上記の操作はすべて露点-50℃以下の環境で行った。なお、No.8については有機バインダーを添加せず、電極活物質粉末と導電助剤を表1に示す割合で添加した。
【0049】
得られたスラリーを、β”-アルミナ(Ionotec社製、組成式:Na1.7Li0.3Al10.717)からなる厚み0.5mmの固体電解質層の一方の表面に、1cmの面積、100μmの厚さで塗布し、70℃にて1時間乾燥させた。その後、大気中にて表1に記載の焼成温度で15分間保持することにより、固体電解質層の一方の表面に電極(負極層)を形成した。なお、No.1については焼成を行わなかった。
【0050】
得られた電極についてラマン分光測定を行い、蛍光の有無を確認した。具体的には、レーザーラマン顕微鏡RAMAN touch(ナノフォトン株式会社製、レーザー光源532nm、1500mW)を用いて、電極中央部にレーザー光を照射し、レーザーパワー 10W/cmで波長51~2630cm-1の範囲で測定を行った。
【0051】
また得られた電極について、有機バインダーの分解温度+50℃で熱処理した場合の、下記式で算出される質量減少率を求めた。
【0052】
質量減少率=((焼成前の電極の質量-焼成後の電極の質量)/焼成前の電極の質量)×100(%)
【0053】
さらに得られた電極についてDTA測定を行い、有機バインダーの分解温度~有機バインダーの分解温度+100℃の範囲での発熱ピーク及び吸熱ピークの有無を確認した。
【0054】
次に、電極層の表面にスパッタ装置(サンユー電子株式会社製 SC-701AT)を用いて厚さ300nmの金電極からなる集電体を形成した。続いて、露点-60℃以下のアルゴン雰囲気中にて、対極となる金属ナトリウムを固体電解質層の他方の表面に圧着し、コインセルの下蓋に載置した後、上蓋を被せてCR2032型試験電池を作製した。
【0055】
得られた試験電池を用いて充放電試験を行い、初回の充放電容量及び平均放電電圧を測定した。結果を表1に示す。また、No.4の初回充放電曲線を図1に示す。充放電試験は、開回路電圧(OCV)から0.001VまでのCC(定電流)充電(負極活物質へのナトリウムイオン吸蔵)を行い、0.001Vから2.5VまでCC放電(負極活物質からのナトリウムイオン放出)を行った。Cレートは0.1Cとし、60℃で試験を行った。なお、充放電容量は、負極層に含まれる負極活物質の単位質量あたりに対して充放電された電気量とした。
【0056】
(No.9)
有機バインダーとして20%架橋されたポリアクリル酸(和光純薬工業社製 20CLPAH)を使用したこと以外、No.4と同様にして試験電池を作製し、充放電試験を行った。結果を表2に示す。
【0057】
(No.10)
有機バインダーとして100%架橋されたポリアクリル酸(和光純薬工業社製 100CLPAH)を使用し、N-メチルピロリドンの添加量を2倍にしたこと以外、No.4と同様にして試験電池を作製し、充放電試験を行った。結果を表2に示す。
【0058】
(No.11)
有機バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を使用したこと以外、No.4と同様にして試験電池を作製し、充放電試験を行った。結果を表2に示す。
【0059】
(No.12、13)
有機バインダーとしてメチルセルロースナトリウム(ダイセルファインケム株式会社 No.1350またはNo.2200(表中にはCMC1350またはCMC2200と表記))を使用し、N-メチルピロリドンの代わりに純水を用いたこと以外、No.4と同様にして試験電池を作製し、充放電試験を行った。結果を表2に示す。
【0060】
(No.14)
焼成雰囲気をNガス中としたこと以外、No.4と同様にして試験電池を作製し、充放電試験を行った。結果を表2に示す。
【0061】
(No.15~19)
負極活物質を表3に記載のものとしたこと以外、No.4と同様にして試験電池を作製し、充放電試験を行った。結果を表3に示す。
【0062】
(No.20、21)
電極活物質として表3に記載の正極活物質を使用したこと以外、No.4と同様にして試験電池を作製した。作製した試験電池について充放電試験を行った。充放電試験は、開回路電圧(OCV)から4.5VまでのCC(定電流)充電(正極活物質からのナトリウムイオン放出)を行い、4.5Vから2.0VまでCC放電(正極活物質へのナトリウムイオン吸蔵)を行った。Cレートは0.1Cとし、60℃で試験を行った。なお、充放電容量は、正極層に含まれる正極活物質の単位質量あたりに対して充放電された電気量とした。
【0063】
(No.22)
電極活物質(負極活物質)としてグラファイト粉末(日立化成工業株式会社製、MAGD)、固体電解質層としてLLZ(Ga-doped LiLaZr12 豊島製作所製、厚み0.5mm)、対極として金属リチウムを使用したこと以外、No.4と同様にして試験電池を作製し、充放電試験を行った。結果を表3に示す。
【0064】
(No.23)
質量%で、負極活物質としてハードカーボン粉末70%、導電助剤としてアセチレンブラック5%、バインダーとしてポリアクリル酸15%、固体電解質粉末としてβ“-アルミナ10%を含有する原料を使用したこと以外、No.4と同様にして試験電池を作製し、充放電試験を行った。結果を表4に示す。
【0065】
表1に示すように、実施例であるNo.3~6は、電極層について波長532nmのラマン分光測定を行った結果、蛍光が確認され、有機バインダーの分解温度+50℃で熱処理した場合の質量減少率が0.1%未満であり、DTA測定において有機バインダーの分解温度~有機バインダーの分解温度+100℃で発熱ピーク及び吸熱ピークのいずれも現れなかった。そのため、No.3~6は平均放電電圧0.07~0.2V、初回充電容量102~483mAh/g、初回放電容量19~290mAh/gと各特性に優れていた。
【0066】
一方、比較例であるNo.1、2は、電極層について波長532nmのラマン分光測定を行った結果、蛍光が確認されず、有機バインダーの分解温度+50℃で熱処理した場合の質量減少率が12.8%以上と大きく、DTA測定において有機バインダーの分解温度~有機バインダーの分解温度+100℃の範囲で発熱ピークまたは吸熱ピークが現れた。そのため、No.1、2は平均放電電圧0.01~0.03V、初回充電容量2~4mAh/g、初回放電容量1~2mAh/gと各特性に劣っていた。No.7では有機バインダーが焼成により完全に分解・炭化したため、電極中に有機バインダーが残存していなかった。そのため、電極層が固体電解質層から剥離し、電池作動しなかった。またNo.8では有機バインダーを使用せずに電極層を作製したため、固体電解質層への結着力がなく、乾燥時に電極層が固体電解質層から剥離し、電池作動しなかった。
【0067】
また表2~4に示すように、No.4をベースに有機バインダーを変更したNo.9~13、焼成雰囲気を変更したNo.14、電極活物質(及び固体電解質層、対極)を変更したNo.15~22、電極中に固体電解質粉末を配合したNo.23についても、電極層について波長532nmのラマン分光測定を行った結果、蛍光が確認され、有機バインダーの分解温度+50℃で熱処理した場合の質量減少率が0.1%未満であり、DTA測定において有機バインダーの分解温度~有機バインダーの分解温度+100℃の範囲で発熱ピーク及び吸熱ピークのいずれも現れなかった(No.11については一部未測定)。そのため、平均放電電圧0.08~3.17V、初回充電容量82~750mAh/g、初回放電容量50~723mAh/gと各特性に優れていた。
図1