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特許7577918推定装置、推定方法、及びコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】推定装置、推定方法、及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/48 20060101AFI20241029BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20241029BHJP
   G01R 31/379 20190101ALI20241029BHJP
   G01R 31/392 20190101ALI20241029BHJP
【FI】
H01M10/48 A
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H02J7/00 Y
G01R31/379
G01R31/392
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019183332
(22)【出願日】2019-10-03
(65)【公開番号】P2021061118
(43)【公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼野 泰如
【審査官】早川 卓哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-079629(JP,A)
【文献】特開平02-109263(JP,A)
【文献】特開昭60-101867(JP,A)
【文献】特開2010-159661(JP,A)
【文献】特開2019-078572(JP,A)
【文献】特開2019-066216(JP,A)
【文献】特開2004-317256(JP,A)
【文献】特開2004-333472(JP,A)
【文献】特開2006-172748(JP,A)
【文献】特開平11-167931(JP,A)
【文献】特開2014-105995(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0033277(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/42-10/48
H02J7/00-7/12
H02J7/34-7/36
G01R31/36-31/396
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛蓄電池の電流、電圧、及び該鉛蓄電池の温度に基づく生涯有効放電電気量、生涯有効充電電気量、生涯有効過充電電気量、温度積算値、SOC0~20%滞在時間、SOC20~40%滞在時間、SOC40~60%滞在時間、SOC60~80%滞在時間、SOC80~100%滞在時間、及び、正極格子厚さのうちのいずれか複数を含む導出履歴を導出する導出部と、
導出した前記導出履歴、並びに
鉛蓄電池の電流、電圧、及び前記鉛蓄電池の温度に基づく前記導出履歴の一部である第1履歴と、正極電極材料の軟化の第1度合との第1関係、
鉛蓄電池の電流、電圧、及び前記鉛蓄電池の温度に基づく前記導出履歴の一部である第2履歴と、正極格子の腐食の第2度合との第2関係、
鉛蓄電池の電流、電圧、及び前記鉛蓄電池の温度に基づく前記導出履歴の一部である第3履歴と、負極サルフェーションの第3度合との第3関係、及び
鉛蓄電池の電流、電圧、及び前記鉛蓄電池の温度に基づく前記導出履歴の一部である第4履歴と、負極電極材料の収縮の第4度合との第4関係からなる群から選択される少なくとも2つの関係に基づいて、前記第1度合、前記第2度合、前記第3度合、及び前記第4度合のうちの少なくとも2つの度合を特定する特定部と、
前記第1履歴、前記第2履歴、前記第3履歴及び前記第4履歴は、相互に、同一又は異なるか、又は一部が共通しており、
前記特定部により特定した前記少なくとも2つの度合に基づいて、前記鉛蓄電池の劣化の度合を推定する推定部と
を備える推定装置。
【請求項2】
前記特定部は、
前記鉛蓄電池の電流、電圧、及び前記鉛蓄電池の温度に基づく前記導出履歴を入力した場合に、前記第1度合、前記第2度合、前記第3度合、及び前記第4度合のうちの少なくとも2つの度合を出力する第1学習モデルに、新たに導出した前記導出履歴を入力して、少なくとも2つの度合を特定し、
前記推定部は、
前記第1度合、前記第2度合、前記第3度合、及び前記第4度合のうちの少なくとも2つの度合を入力した場合に、前記鉛蓄電池の劣化の度合を出力する第2学習モデルに、特定した前記少なくとも2つの度合を入力して、劣化の度合を推定する、請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
前記導出履歴は、放電電気量を温度に基づく係数により補正した有効放電電気量、充電電気量を温度に基づく係数により補正した有効充電電気量、又は温度に所定の係数を乗じて積算した温度積算値を含む、請求項1又は2に記載の推定装置。
【請求項4】
前記特定部は、
前記導出履歴、及び前記鉛蓄電池の設計情報に基づいて、前記少なくとも2つの度合を特定する、請求項1から3までのいずれか1項に記載の推定装置。
【請求項5】
前記設計情報は、極板の枚数、正極活物質量、正極格子の質量、正極格子の厚さ、正極格子のデザイン、正極電極材料の密度、正極電極材料の組成、正極電極材料中の添加剤の量及び種類、正極合金の組成、正極板に当接する不織布の有無並びに厚さ、材質及び通気度、負極活物質量、負極電極材料中のカーボン量及び種類、負極電極材料中の添加剤の量及び種類、負極電極材料の比表面積、電解液の添加剤の種類及び濃度、並びに電解液の比重及び量からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項4に記載の推定装置。
【請求項6】
前記推定部は、
前記少なくとも2つの度合、及び前記鉛蓄電池の診断情報に基づいて、劣化の度合を推定する、請求項1から5までのいずれか1項に記載の推定装置。
【請求項7】
前記診断情報は、内部抵抗、開放電圧、及びSOCからなる群から選択される少なくとも1つである、請求項6に記載の推定装置。
【請求項8】
前記導出履歴と、前記特定部が特定した前記劣化の度合又は前記診断情報を記憶する記億部と、
前記劣化の度合又は前記診断情報と、閾値とに基づいて、前記鉛蓄電池が交換されたと推定した場合に、前記導出履歴、及び前記劣化の度合又は前記診断情報を消去する履歴消去部と
を備える、請求項6又は7に記載の推定装置。
【請求項9】
鉛蓄電池の電流、電圧、及び該鉛蓄電池の温度に基づく生涯有効放電電気量、生涯有効充電電気量、生涯有効過充電電気量、温度積算値、SOC0~20%滞在時間、SOC20~40%滞在時間、SOC40~60%滞在時間、SOC60~80%滞在時間、SOC80~100%滞在時間、及び、正極格子厚さのうちのいずれか複数を含む導出履歴を導出する導出部と、
鉛蓄電池の電流、電圧、及び該鉛蓄電池の温度に基づく前記導出履歴を入力した場合に、正極電極材料の軟化の第1度合、正極格子の腐食の第2度合、負極サルフェーションの第3度合、及び負極電極材料の収縮の第4度合のうちの少なくとも1つの度合を出力する学習モデルに、新たに導出した前記導出履歴を入力して、少なくとも2つの度合を特定する特定部と、
特定した前記少なくとも2つの度合に基づいて、鉛蓄電池の劣化の度合を推定する推定部と
を備える推定装置。
【請求項10】
鉛蓄電池の電流、電圧、及び該鉛蓄電池の温度に基づく生涯有効放電電気量、生涯有効充電電気量、生涯有効過充電電気量、温度積算値、SOC0~20%滞在時間、SOC20~40%滞在時間、SOC40~60%滞在時間、SOC60~80%滞在時間、SOC80~100%滞在時間、及び、正極格子厚さのうちのいずれか複数を含む導出履歴を導出し、
導出した前記導出履歴、並びに
鉛蓄電池の電流、電圧、及び前記鉛蓄電池の温度に基づく前記導出履歴の一部である第1履歴と、正極電極材料の軟化の第1度合との第1関係、
鉛蓄電池の電流、電圧、及び前記鉛蓄電池の温度に基づく前記導出履歴の一部である第2履歴と、正極格子の腐食の第2度合との第2関係、
鉛蓄電池の電流、電圧、及び前記鉛蓄電池の温度に基づく前記導出履歴の一部である第3履歴と、負極サルフェーションの第3度合との第3関係、及び
鉛蓄電池の電流、電圧、及び前記鉛蓄電池の温度に基づく前記導出履歴の一部である第4履歴と、負極電極材料の収縮の第4度合との第4関係からなる群から選択される少なくとも2つの関係に基づいて、前記第1度合、前記第2度合、前記第3度合、及び前記第4度合のうちの少なくとも2つの度合を特定し、
前記第1履歴、前記第2履歴、前記第3履歴及び前記第4履歴は、相互に、同一又は異なるか、又は一部が共通しており、
特定した前記少なくとも2つの度合に基づいて、前記鉛蓄電池の劣化の度合を推定する、推定方法。
【請求項11】
鉛蓄電池の電流、電圧、及び該鉛蓄電池の温度に基づく生涯有効放電電気量、生涯有効充電電気量、生涯有効過充電電気量、温度積算値、SOC0~20%滞在時間、SOC20~40%滞在時間、SOC40~60%滞在時間、SOC60~80%滞在時間、SOC80~100%滞在時間、及び、正極格子厚さのうちのいずれか複数を含む導出履歴を導出し、
導出した前記導出履歴、並びに
鉛蓄電池の電流、電圧、及び前記鉛蓄電池の温度に基づく前記導出履歴の一部である第1履歴と、正極電極材料の軟化の第1度合との第1関係、
鉛蓄電池の電流、電圧、及び前記鉛蓄電池の温度に基づく前記導出履歴の一部である第2履歴と、正極格子の腐食の第2度合との第2関係、
鉛蓄電池の電流、電圧、及び前記鉛蓄電池の温度に基づく前記導出履歴の一部である第3履歴と、負極サルフェーションの第3度合との第3関係、及び
鉛蓄電池の電流、電圧、及び前記鉛蓄電池の温度に基づく前記導出履歴の一部である第4履歴と、負極電極材料の収縮の第4度合との第4関係からなる群から選択される少なくとも2つの関係に基づいて、前記第1度合、前記第2度合、前記第3度合、及び前記第4度合のうちの少なくとも2つの度合を特定し、
前記第1履歴、前記第2履歴、前記第3履歴及び前記第4履歴は、相互に、同一又は異なるか、又は一部が共通しており、
特定した前記少なくとも2つの度合に基づいて、前記鉛蓄電池の劣化の度合を推定する
処理をコンピュータに実行させるコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池の劣化を推定する推定装置、推定方法、及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用、産業用の他、様々な用途で使用されている。例えば車載用の鉛蓄電池等の二次電池(蓄電素子)は、例えば自動車,バイク,フォークリフト,ゴルフカー等の車両の移動体に搭載され、エンジン始動時におけるスタータモータへの電力供給源、及びライト等の各種電装品への電力供給源として使用されている。例えば、産業用の鉛蓄電池は、非常用電源やUPSへの電力供給源として使用されている。
【0003】
鉛蓄電池は様々な要因によって劣化が進行することが知られている。鉛蓄電池の予期せぬ機能喪失による電力の供給停止を防ぐため、劣化の度合を適切に判定する必要がある。
特許文献1には、鉛蓄電池の電流及び電圧に基づいて内部抵抗を算出し、内部抵抗に基づいて劣化を判定する劣化判定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-109639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鉛蓄電池の主要な劣化要因は、正極電極材料の軟化、正極格子の腐食、負極サルフェーション、負極電極材料の収縮である。劣化要因が複数存在する場合、対応する劣化要因の劣化の度合を推定して、良好に鉛蓄電池の劣化の度合を推定することが求められている。
【0006】
本発明は、鉛蓄電池の劣化の度合を推定することができる推定装置、推定方法、及びコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る推定装置は、鉛蓄電池の電流、電圧、及び該鉛蓄電池の温度に基づく導出履歴を導出する導出部と、導出した前記導出履歴、並びに電流、電圧、及び前記鉛蓄電池の温度に基づく第1履歴と、正極電極材料の軟化の第1度合との第1関係、電流、電圧、及び前記鉛蓄電池の温度に基づく第2履歴と、正極格子の腐食の第2度合との第2関係、電流、電圧、及び前記鉛蓄電池の温度に基づく第3履歴と、負極サルフェーションの第3度合との第3関係、及び電流、電圧、及び前記鉛蓄電池の温度に基づく第4履歴と、負極電極材料の収縮の第4度合との第4関係からなる群から選択される少なくとも2つの関係に基づいて、第1度合、第2度合、第3度合、及び第4度合のうちの少なくとも2つの度合を特定する特定部と、特定した前記少なくとも2つの度合に基づいて、前記鉛蓄電池の劣化の度合を推定する推定部とを備える。
【0008】
本発明に係る推定装置は、鉛蓄電池の電流、電圧、及び該鉛蓄電池の温度に基づく導出履歴を導出する導出部と、鉛蓄電池の電流、電圧、及び該鉛蓄電池の温度に基づく導出履歴を入力した場合に、正極電極材料の軟化の第1度合、正極格子の腐食の第2度合、負極サルフェーションの第3度合、及び負極電極材料の収縮の第4度合のうちの少なくとも1つの度合を出力する学習モデルに、導出した前記導出履歴を入力して、少なくとも1つの度合を特定する特定部と、特定した前記少なくとも1つの度合に基づいて、鉛蓄電池の劣化の度合を推定する推定部とを備える。
【0009】
本発明に係る推定方法は、鉛蓄電池の電流、電圧、及び該鉛蓄電池の温度に基づく導出履歴を導出し、導出した前記導出履歴、並びに電流、電圧、及び前記鉛蓄電池の温度に基づく第1履歴と、正極電極材料の軟化の第1度合との第1関係、電流、電圧、及び前記鉛蓄電池の温度に基づく第2履歴と、正極格子の腐食の第2度合との第2関係、電流、電圧、及び前記鉛蓄電池の温度に基づく第3履歴と、負極サルフェーションの第3度合との第3関係、及び電流、電圧、及び前記鉛蓄電池の温度に基づく第4履歴と、負極電極材料の収縮の第4度合との第4関係からなる群から選択される少なくとも2つの関係に基づいて、第1度合、第2度合、第3度合、及び第4度合のうちの少なくとも2つの度合を特定し、特定した前記少なくとも2つの度合に基づいて、前記鉛蓄電池の劣化の度合を推定する。
【0010】
本発明に係るコンピュータプログラムは、鉛蓄電池の電流、電圧、及び該鉛蓄電池の温度に基づく導出履歴を導出し、導出した前記導出履歴、並びに電流、電圧、及び前記鉛蓄電池の温度に基づく第1履歴と、正極電極材料の軟化の第1度合との第1関係、電流、電圧、及び前記鉛蓄電池の温度に基づく第2履歴と、正極格子の腐食の第2度合との第2関係、電流、電圧、及び前記鉛蓄電池の温度に基づく第3履歴と、負極サルフェーションの第3度合との第3関係、及び電流、電圧、及び前記鉛蓄電池の温度に基づく第4履歴と、負極電極材料の収縮の第4度合との第4関係からなる群から選択される少なくとも2つの関係に基づいて、第1度合、第2度合、第3度合、及び第4度合のうちの少なくとも2つの度合を特定し、特定した前記少なくとも2つの度合に基づいて、前記鉛蓄電池の劣化の度合を推定する処理をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、鉛蓄電池の劣化の度合を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態1に係る充放電システム、負荷、及びサーバの構成を示すブロック図である。
図2】BMUの構成を示すブロック図である。
図3】電池の外観構成を示す斜視図である。
図4図3のIV-IV線断面図である。
図5】劣化度合DBのレコードレイアウトの一例を示す説明図である。
図6】使用履歴DBのレコードレイアウトの一例を示す説明図である。
図7】制御部による劣化度合の推定処理の手順を示すフローチャートである。
図8】実施形態2に係る制御装置の構成を示すブロック図である。
図9】使用履歴DBのレコードレイアウトの一例を示す説明図である。
図10】第1学習モデルの一例を示す模式図である。
図11】制御部による第1学習モデルの生成処理の手順を示すフローチャートである。
図12】第2学習モデルの一例を示す模式図である。
図13】制御部による劣化度合の推定処理の手順を示すフローチャートである。
図14】学習モデルA、B、C、Dの一例を示す模式図である。
図15】制御部による劣化度合の推定処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態の概要)
実施形態に係る推定装置は、鉛蓄電池の電流、電圧、及び該鉛蓄電池の温度に基づく導出履歴を導出する導出部と、導出した前記導出履歴、並びに電流、電圧、及び前記鉛蓄電池の温度に基づく第1履歴と、正極電極材料の軟化の第1度合との第1関係、電流、電圧、及び前記鉛蓄電池の温度に基づく第2履歴と、正極格子の腐食の第2度合との第2関係、電流、電圧、及び前記鉛蓄電池の温度に基づく第3履歴と、負極サルフェーションの第3度合との第3関係、及び電流、電圧、及び前記鉛蓄電池の温度に基づく第4履歴と、負極電極材料の収縮の第4度合との第4関係からなる群から選択される少なくとも2つの関係に基づいて、第1度合、第2度合、第3度合、及び第4度合のうちの少なくとも2つの度合を特定する特定部と、特定した前記少なくとも2つの度合に基づいて、前記鉛蓄電池の劣化の度合を推定する推定部とを備える。
【0014】
ここで、第1履歴、第1履歴、第2履歴、第3履歴、第4履歴は同一であっても異なっていてもよい。一部が共通していてもよい。例えば、第1履歴の場合、生涯有効放電電気量、温度蓄積値、使用期間等の履歴を含む。第2履歴は、生涯有効過充電電気量、温度積算値、使用期間等の履歴を含む。第3履歴は、生涯有効充電電気量、温度積算値、使用期間、放置時間、各SOC区分における滞在時間等の履歴を含む。第4履歴は、生涯有効充電電気量、温度積算値、使用期間等の履歴を含む。
【0015】
鉛蓄電池の劣化要因としては、正極電極材料の軟化、正極格子の腐食、負極サルフェーション、負極電極材料の収縮等がある。これらの劣化要因を個別に推定するだけでは、劣化の度合を適正に推定できないことがある。
例えば、上記劣化要因のいずれかの1つが極端に進行していると推定される場合に、劣化要因に影響する因子の計測結果に基づいて鉛蓄電池の交換を促すことが考えられる。
しかし、現実には各劣化要因の度合はそれ程大きくないという場合でも、これらの劣化要因の組み合わせによって、鉛蓄電池全体としては劣化が進行していると判断すべきことがあることを本願発明者は見出した。
従来、これらの劣化要因の相互の関係性や影響については、十分な検討がなされていなかった。
【0016】
上記構成によれば、電流、電圧、及び温度に基づく履歴を導出し、予め求めてある、履歴と正極格子の腐食,正極電極材料の軟化,負極サルフェーション,負極電極材料の収縮との関係に基づいて、2以上の劣化要因の度合を特定し、これに基づいて鉛蓄電池の劣化の度合を推定する。
【0017】
2以上の劣化要因の度合の組み合わせによって、良好に鉛蓄電池の劣化を推定できる。
例えば、正極板と負極板の劣化が同時進行することによる、鉛蓄電池の急速な劣化を良好に予測できる。また、一つの劣化要因のみに悪影響となる使用履歴ののちに、異なる劣化要因にのみに悪影響となる使用履歴が起こる場合や、上記の二種類の使用履歴パターンが繰り返される場合においても、鉛蓄電池の劣化を良好に予測できる。
劣化を予測することにより、故障リスクを推定し、突然の使用不能状態に陥ることを回避できる。
【0018】
上述の推定装置において、前記特定部は、鉛蓄電池の電流、電圧、及び前記鉛蓄電池の温度に基づく導出履歴を入力した場合に、第1度合、第2度合、第3度合、及び第4度合のうちの少なくとも2つの度合を出力する第1学習モデルに、導出した前記導出履歴を入力して、少なくとも2つの度合を特定し、前記推定部は、第1度合、第2度合、第3度合、及び第4度合のうちの少なくとも2つの度合を入力した場合に、鉛蓄電池の劣化の度合を出力する第2学習モデルに、特定した前記少なくとも2つの度合を入力して、劣化の度合を推定してもよい。前記推定部の第2学習モデルに、第1学習モデルに入力された情報を入力してもよい。
【0019】
上記構成によれば、第1学習モデルを用いて、容易に、良好に2以上の劣化要因の度合を特定し、第2学習モデルを用いて、容易に、良好に鉛蓄電池の劣化を推定できる。
【0020】
上述の推定装置において、前記導出履歴は、放電電気量を温度に基づく係数により補正した有効放電電気量、充電電気量を温度に基づく係数により補正した有効充電電気量、又は温度に所定の係数を乗じて積算した温度積算値を含んでもよい。
補正係数には、温度だけでなく、放電量、電流値、電気量を含んでもよい。
上記構成によれば、良好に劣化要因の度合を特定できる。
【0021】
上述の推定装置において、前記特定部は、導出履歴、及び前記鉛蓄電池の設計情報に基づいて、前記少なくとも2つの度合を特定してもよい。
上記構成によれば、劣化要因の度合と設計情報とに基づいて、良好に劣化要因の度合を特定できる。
【0022】
上述の推定装置において、前記設計情報は、極板の枚数、正極活物質量、正極格子の質量、正極格子の厚さ、正極格子のデザイン、正極電極材料の密度、正極電極材料の組成、正極電極材料中の添加剤の量及び種類、正極合金の組成、正極板に当接する不織布の有無並びに厚さ、材質及び通気度、負極活物質量、負極電極材料中のカーボン量及び種類、負極電極材料中の添加剤の量及び種類、負極電極材料の比表面積、電解液の添加剤の種類及び濃度、並びに電解液の比重及び量からなる群から選択される少なくとも1つであってもよい。
上記構成によれば、良好に劣化要因の度合を特定できる。
【0023】
上述の推定装置において、前記推定部は、前記少なくとも2つの度合、及び前記鉛蓄電池の診断情報に基づいて、劣化の度合を推定してもよい。例えば、特定された劣化度合と診断情報を比較し、差が確認される場合、その原因を電池設計からのばらつき、または履歴情報のデータ欠損として補正を行ってもよい。
上記構成によれば、劣化要因の度合と診断情報とに基づいて、良好に劣化度合を推定できる。
【0024】
上述の推定装置において、前記診断情報は、内部抵抗、開放電圧、及びSOC(State Of Charge)からなる群から選択される少なくとも1つであってもよい。
上記構成によれば、良好に劣化要因の度合を特定できる。
【0025】
上述の推定装置において、前記導出履歴と、前記特定部が特定した前記劣化の度合又は前記診断情報を記憶する記憶部と、前記劣化の度合又は前記診断情報と、閾値とに基づいて、前記鉛蓄電池が交換されたと推定した場合に、前記導出履歴、及び前記劣化の度合又は前記診断情報を消去する履歴消去部とを備えてもよい。
【0026】
劣化の度合又は診断情報により、鉛蓄電池が交換されたと判定した場合に、例えば後述する使用履歴DBのデータを消去することができる。
【0027】
実施形態に係る推定装置は、鉛蓄電池の電流、電圧、及び該鉛蓄電池の温度に基づく導出履歴を導出する導出部と、鉛蓄電池の電流、電圧、及び該鉛蓄電池の温度に基づく導出履歴を入力した場合に、正極電極材料の軟化の第1度合、正極格子の腐食の第2度合、負極サルフェーションの第3度合、及び負極電極材料の収縮の第4度合のうちの少なくとも1つの度合を出力する学習モデルに、導出した前記導出履歴を入力して、少なくとも1つの度合を特定する特定部と、特定した前記少なくとも1つの度合に基づいて、鉛蓄電池の劣化の度合を推定する推定部とを備える。
上記構成によれば、学習モデルを用いて、容易に、良好に劣化要因の度合を特定し、特定した劣化要因の度合に基づいて、良好に鉛蓄電池の劣化を推定できる。
【0028】
実施形態に係る推定方法は、鉛蓄電池の電流、電圧、及び該鉛蓄電池の温度に基づく導出履歴を導出し、導出した前記導出履歴、並びに電流、電圧、及び前記鉛蓄電池の温度に基づく第1履歴と、正極活物質の軟化の第1度合との第1関係、電流、電圧、及び前記鉛蓄電池の温度に基づく第2履歴と、正極格子の腐食の第2度合との第2関係、電流、電圧、及び前記鉛蓄電池の温度に基づく第3履歴と、負極サルフェーションの第3度合との第3関係、及び電流、電圧、及び前記鉛蓄電池の温度に基づく第4履歴と、負極電極材料の収縮の第4度合との第4関係からなる群から選択される少なくとも2つの関係に基づいて、第1度合、第2度合、第3度合、及び第4度合のうちの少なくとも2つの度合を特定し、特定した前記少なくとも2つの度合に基づいて、前記鉛蓄電池の劣化の度合を推定する。
【0029】
上記構成によれば、電流、電圧、及び温度に基づく履歴を導出し、予め求めてある、履歴と正極格子の腐食,正極電極材料の軟化,負極サルフェーション,負極電極材料の収縮との関係に基づいて、2以上の劣化要因の度合を特定し、これに基づいて鉛蓄電池の劣化の度合を推定する。
【0030】
実施形態に係るコンピュータプログラムは、鉛蓄電池の電流、電圧、及び該鉛蓄電池の温度に基づく導出履歴を導出し、導出した前記導出履歴、並びに電流、電圧、及び前記鉛蓄電池の温度に基づく第1履歴と、正極電極材料の軟化の第1度合との第1関係、電流、電圧、及び前記鉛蓄電池の温度に基づく第2履歴と、正極格子の腐食の第2度合との第2関係、電流、電圧、及び前記鉛蓄電池の温度に基づく第3履歴と、負極サルフェーションの第3度合との第3関係、及び電流、電圧、及び前記鉛蓄電池の温度に基づく第4履歴と、負極電極材料の収縮の第4度合との第4関係からなる群から選択される少なくとも2つの関係に基づいて、第1度合、第2度合、第3度合、及び第4度合のうちの少なくとも2つの度合を特定し、特定した前記少なくとも2つの度合に基づいて、前記鉛蓄電池の劣化の度合を推定する処理をコンピュータに実行させる。
【0031】
(実施形態1)
図1は実施形態1に係る充放電システム1、負荷13、及びサーバ9の構成を示すブロック図、図2はBMU3の構成を示すブロック図である。
充放電システム1は、鉛蓄電池(以下、電池という)2と、BMU(Battery Management Unit)3と、電圧センサ4と、電流センサ5と、温度センサ6と、制御装置7とを備える。
【0032】
BMU3は、制御部31、記憶部32、入力部36、及び通信部37を備える。BMU3は、電池ECUであってもよい。
制御装置7は充放電システム1全体を制御し、制御部71、記憶部72、及び通信部77を備える。
サーバ9は、制御部91、及び通信部92を備える。
制御装置7の制御部71は、通信部77、ネットワーク10、及び通信部92を介し、制御部91と接続されている。
電池2は、端子11,12を介して負荷13と接続している。
【0033】
制御部31、71、及び91は、例えばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等により構成され、BMU3、制御装置7、及びサーバ9の動作を制御する。
記憶部32、記憶部72は、例えばハードディスクドライブ(HDD)等により構成され、各種のプログラム及びデータを記憶する。
通信部37、77、及び92は、ネットワークを介して他の装置との間で通信を行う機能を有し、所要の情報の送受信を行うことができる。
【0034】
BMU3の記憶部32には、劣化推定のプログラム33が格納されている。プログラム33は、例えばCD-ROMやDVD-ROM、USBメモリ等のコンピュータ読み取り可能な記録媒体40に格納された状態で提供され、BMU3にインストールすることにより記憶部32に格納される。また、通信網に接続されている図示しない外部コンピュータからプログラム33を取得し、記憶部32に記憶させることにしてもよい。
【0035】
記憶部32には、履歴と、各劣化要因の度合と、電池2の劣化度合とを記憶した劣化度合DB34、及び各電池2につき、導出履歴と、各劣化要因の度合と、劣化度合とを記憶した使用履歴DB35も記憶している。劣化度合DB34及び使用履歴DB35の詳細は後述する。
入力部36は、電圧センサ4、電流センサ5、及び温度センサ6からの検出結果の入力を受け付ける。
【0036】
実施形態においては、BMU3が本発明の推定装置として機能する。制御装置7、及びサーバ9のいずれかが、推定装置として機能してもよい。BMU3が推定装置とし機能する場合においても、プログラム33及び劣化度合DB34、使用履歴DB35は必ずしもすべてが記憶部32に含まれる必要はなく、実施形態に応じて、プログラム33及び劣化度合DB34、使用履歴DB35のいずれかは、あるいは、これらすべては、制御装置7に含まれてもよく、サーバ9に含まれてもよい。なお、サーバ9が推定装置として機能しない場合、充放電システム1がサーバ9に接続されていなくてもよい。
【0037】
電圧センサ4は、電池2に並列に接続されており、電池2の全体の電圧に応じた検出結果を出力する。
電流センサ5は、電池2に直列に接続されており、電池2の電流に応じた検出結果を出力する。なお、電流センサ5は、例えばクランプ式電流センサのように、電池2に電気的に接続していないものを用いることもできる。
温度センサ6は、電池2の近傍に配置されており、電池2の温度に応じた検出結果を出力する。なお、劣化の予測には、電池2の温度として、電池2の電解液の温度を用いるのが好ましい。そのため、温度センサ6が配置される位置に応じて、温度センサ6が検出した温度を、電解液の温度となるように温度補正してもよい。
【0038】
図3は、一例としての自動車用液式電池である、電池2の外観構成を示す斜視図、図4図3のIV-IV線断面図である。
図3及び図4に示すように、電池2は、電槽20と、正極端子28と、負極端子29と、複数の極板群23とを備える。
【0039】
電槽20は、電槽本体201と、蓋202とを有する。電槽本体201は、上部が開口した直方体状の容器であり、例えば合成樹脂等により形成されている。例えば合成樹脂製の蓋202は、電槽本体201の開口部を閉塞する。蓋202の下面の周縁部分と電槽本体201の開口部の周縁部分とは例えば熱溶着によって接合される。電槽20内の空間は、隔壁27によって、電槽20の長手方向に並ぶ複数のセル室21に区画されている。
【0040】
電槽20内の各セル室21には、1つの極板群23が収容されている。電槽20内の各セル室21には、希硫酸を含む電解液22が収容されており、極板群23の全体が電解液22中に浸漬している。電解液22は、蓋202に設けられた注液口(図示せず)からセル室21内に注入される。
【0041】
極板群23は、複数の正極板231と、複数の負極板235と、セパレータ239とを備える。複数の正極板231及び複数の負極板235は、交互に並ぶように配置されている。
【0042】
正極板231は、正極格子232と、正極格子232に支持された正極電極材料234とを有する。正極格子232は、略格子状又は網目状に配置された骨部を有する導電性部材であり、例えば鉛又は鉛合金により形成されている。正極格子232は、上端付近に、上方に突出する耳233を有する。正極電極材料234は、酸化還元反応により容量を発現する負極活物質(二酸化鉛もしくは硫酸鉛)を含んでいる。正極電極材料234は、さらに公知の添加剤を含んでもよい。
【0043】
負極板235は、負極格子236と、負極格子236に支持された負極電極材料238とを有する。負極格子236は、略格子状又は網目状に配置された骨部を有する導電性部材であり、例えば鉛又は鉛合金により形成されている。負極格子236は、上端付近に、上方に突出する耳237を有する。負極電極材料238は、酸化還元反応により容量を発現する負極活物質(鉛もしくは硫酸鉛)を含んでいる。負極電極材料238は、さらに公知の添加剤を含んでもよい。
【0044】
セパレータ239は、例えばガラスまたは合成樹脂等の絶縁性材料により形成されている。セパレータ239は、互いに隣り合う正極板231と負極板235との間に介在する。セパレータ239は、一体の部材として構成されてもよく、正極板231と負極板235との間に各別に設けてもよい。セパレータ239は正極板231及び負極板235のいずれかを包装するように配置してもよい。
【0045】
複数の正極板231の耳233は、例えば鉛又は鉛合金により形成されたストラップ24に接続されている。複数の正極板231は、ストラップ24を介して電気的に接続されている。同様に、複数の負極板235の耳237は、例えば鉛又は鉛合金により形成されたストラップ25に接続されている。複数の負極板235は、ストラップ25を介して電気的に接続されている。
【0046】
電池2において、一のセル室21内のストラップ25は、例えば鉛又は鉛合金により形成された中間ポール26を介して、前記一のセル室21に隣接する一方のセル室21内のストラップ24に接続されている。また、前記一のセル室21内のストラップ24は、中間ポール26を介して、前記一のセル室21に隣接する他方のセル室21内のストラップ25に接続されている。即ち、電池2の複数の極板群23は、ストラップ24,25及び中間ポール26を介して電気的に直列に接続されている。なお、図4に示すように、セルCが並ぶ方向の一端に位置するセル室21に収容されたストラップ24は、中間ポール26ではなく、後述する正極柱282に接続されている。セルCが並ぶ方向の他端に位置するセル室21に収容されたストラップ25は、中間ポール26ではなく、負極柱292に接続されている(不図示)。
【0047】
正極端子28は、セルCが並ぶ方向の一端部に配置されており、負極端子29は、前記方向の他端部付近に配置されている。
【0048】
図4に示すように、正極端子28は、ブッシング281と、正極柱282とを含む。ブッシング281は、略円筒状の導電性部材であり、例えば鉛合金により形成されている。ブッシング281の下側部分は、インサート成形により蓋202に一体化されており、ブッシング281の上部は、蓋202の上面から上方に突出している。正極柱282は、略円柱状の導電性部材であり、例えば鉛合金により形成されている。正極柱282は、ブッシング281の孔に挿入されている。正極柱282の上端部は、ブッシング281の上端部と略同じ位置に位置しており、例えば溶接によりブッシング281に接合されている。正極柱282の下端部は、ブッシング281の下端部より下方に突出し、さらに、蓋202の下面より下方に突出しており、セルCが並ぶ方向の一端部に位置するセル室21に収容されたストラップ24に接続されている。
負極端子29は、正極端子28と同様に、ブッシング291と、負極柱292とを含み(図3参照)、正極端子28と同様の構成を有する。
【0049】
電池2の放電の際には、正極端子28のブッシング281及び負極端子29のブッシング291に負荷(図示せず)が接続され、各極板群23の正極板231での反応(二酸化鉛から硫酸鉛が生ずる反応)及び負極板235での反応(鉛(海綿状鉛)から硫酸鉛が生ずる反応)により生じた電力が該負荷に供給される。また、電池2の充電の際には、正極端子28のブッシング281及び負極端子29のブッシング291に電源(図示せず)が接続され、該電源から供給される電力によって各極板群23の正極板231での反応(硫酸鉛から二酸化鉛が生ずる反応)及び負極板235での反応(硫酸鉛から鉛(海綿状鉛)が生ずる反応)が起こり、電池2が充電される。
【0050】
図5は、上述の劣化度合DB34のレコードレイアウトの一例を示す説明図である。
劣化度合DB34は、No.列、生涯有効放電電気量列,生涯有効充電電気量列,生涯有効過充電電気量列、温度積算値列、及びSOC0~20%滞在時間列,SOC20~40%滞在時間列,SOC40~60%滞在時間列,SOC60~80%滞在時間列,及びSOC80~100%滞在時間列等の履歴列、正極格子厚さ列等の設計情報列、診断情報列、第1度合列,第2度合列,第3度合列,及び第4度合列等の劣化要因度合列、並びに劣化度合列を対応付けて記憶している。
【0051】
No.列は、複数の異なる電池2の劣化度合のNo.、同一の電池2の異なるタイミングでの劣化度合のNo.を記憶している。生涯有効放電電気量列は、例えば1分毎に電池2の放電電気量を測定し、該放電電気量に、その時点の電池2の温度に基づく係数を乗じた有効放電電気量の積算値を記憶している。生涯有効充電電気量列は、例えば1分毎に電池2の充電電気量を測定し、該充電電気量に、その時点の電池2の温度に基づく係数を乗じた有効充電電気量の積算値を記憶している。生涯有効過充電電気量列は、有効充電電気量から有効放電電気量を減じた有効過充電電気量の積算値を記憶している。
温度積算値列は、例えば-20℃から80℃まで、10℃間隔毎に、各温度間隔の中心温度に所定の係数及び時間を乗じた積算値を記憶している。
【0052】
SOC0~20%滞在時間列は、例えば1時間単位で平均SOCを求め、平均SOCが0~20%の範囲内であった時間の積算値を記憶している。同様に、SOC20~40%滞在時間列、SOC40~60%滞在時間列、SOC60~80%滞在時間列、SOC80~100%滞在時間列は、平均SOCが20~40%の範囲内、40~60%の範囲内、60~80%の範囲内、80~100%の範囲内であった時間の積算値を記憶している。
正極格子厚さ列は、正極格子の厚さを記憶している。
診断情報列は、内部抵抗、SOC、OCV等の診断情報を記憶している。
【0053】
第1度合列は、正極電極材料の軟化の度合である第1度合を記憶している。第1度合は0から5までの6段階の数値の評価で表される。評価は、軟化による正極電極材料の脱落量や正極電極材料の軟化度合等により行う。0が良好であり、数字が大きくなるに従って悪くなる。
【0054】
第2度合列は、正極格子の腐食の度合である第2度合を記憶している。第2度合は6段階の評価で表す。評価は上記と同様の数値で表される。評価は、腐食によって減少した正極格子質量や、残存している正極格子質量等により行う。
第3度合列は、負極サルフェーションの度合である第3度合を記憶している。第3度合は6段階の評価で表す。評価は上記と同様の数値で表される。評価は、負極電極材料中の硫酸鉛量等により行う。
第4度合列は、負極電極材料の収縮の度合である第4度合を記憶している。第4度合は6段階の評価で表す。評価は上記と同様の数値で表される。評価は、電極材料の収縮によるクラックの度合や比表面積の低下度等により行う。
なお、第1度合、第2度合、第3度合及び第4度合の評価は、6段階に限定されるものではなく、100段階でもよく、それぞれの度合と関連する物理量の値を用いてもよい。
【0055】
劣化度合列は、10段階の評価で表した劣化度合を記憶している。劣化度合の1~10の数値は、SOH(State of Health)の範囲に基づいて定める。「1」が、下記割合をSOHと定めた場合、90~100%の範囲であり、「10」は0~10%の範囲である。SOHは、鉛蓄電池に期待される特性に基づいて定めることができる。例えば、使用可能期間を基準とし、評価の時点において残存する使用可能期間の割合をSOHと定めてもよい。また、常温ハイレート放電時の電圧を基準とし、評価の時点における常温ハイレート放電時の電圧をSOHの評価に用いてもよい。いずれの場合においても、SOHが0のときは、鉛蓄電池の機能が喪失した状態を表す。
【0056】
図5のNo.3の場合、第1度合及び第3度合の評価値は夫々3であるが、この第1度合及び第3度合の組み合わせにより、劣化度合が大きくなっていることが分かる。これは、正負極板それぞれにおける劣化度合は、中程度であるにも関わらず、放電時または充電時に電流が流れる経路上に、劣化によって抵抗成分が増加した領域が広がっているため、電池全体としての内部抵抗が増大したためと考えられる。
【0057】
劣化度合DB34に記憶される情報は上述の場合に限定されない。
履歴情報として、生涯有効放電電気量、生涯有効充電電気量、生涯有効過充電電気量、温度積算値以外に、例えば放置時間等を記憶してもよい。
設計情報として、正極格子厚さ以外に、正極板及び負極板の枚数、極板の枚数、正極活物質量、正極格子の質量、正極格子のデザイン、正極電極材料の密度、正極電極材料の組成、正極電極材料中の添加剤の量及び種類、正極合金の組成、正極板に当接する不織布の有無並びに厚さ、材質及び通気度、負極活物質量、負極電極材料中のカーボン量及び種類、負極電極材料中の添加剤の量及び種類、負極電極材料の比表面積、電解液の添加剤の種類及び濃度、並びに電解液の比重及び量からなる群から選択される少なくとも1つを設計情報として記憶してもよい。
診断情報として内部抵抗や開放電圧等を記憶してもよい。なお、内部抵抗や開放電圧は、SOCに依存するため、別途取得したSOCによって内部抵抗や開放電圧を補正してもよい。
【0058】
図6は、上述の使用履歴DB35のレコードレイアウトの一例を示す説明図である。
使用履歴DB35は、電池2毎に、各推定時点の導出履歴、劣化要因の度合、及び劣化度合を記憶している。図6はIDNo.1の電池2の使用履歴を示している。使用履歴DB35は、No.列、生涯有効放電電気量列、生涯有効充電電気量列、生涯有効過充電電気量列、温度積算値列、SOC0~20%滞在時間列、SOC20~40%滞在時間列、SOC40~60%滞在時間列、SOC60~80%滞在時間列、SOC80~100%滞在時間列、正極格子厚さ列、診断情報列、第1度合列、第2度合列、第3度合列、第4度合列、及び劣化度合列を記憶している。No.列は、各推定時点のNo.を記憶している。生涯有効放電電気量列、生涯有効充電電気量列、生涯有効過充電電気量列、温度積算値列、SOC0~20%滞在時間列、SOC20~40%滞在時間列、SOC40~60%滞在時間列、SOC60~80%滞在時間列、SOC80~100%滞在時間列、正極格子厚さ列、及び診断情報列は、劣化度合DB34の生涯有効放電電気量列、生涯有効充電電気量列、生涯有効過充電電気量列、温度積算値列、SOC0~20%滞在時間列、SOC20~40%滞在時間列、SOC40~60%滞在時間列、SOC60~80%滞在時間列、SOC80~100%滞在時間列、正極格子厚さ列、及び診断情報列と同様の内容を記憶している。
【0059】
第1度合列、第2度合列、第3度合列、第4度合列は、後述するように、各推定時点の使用履歴に基づいて特定した第1度合、第2度合、第3度合、第4度合を記憶している。 劣化度合列は、特定した第1度合、第2度合、第3度合、第4度合に基づいて推定した劣化度合を記憶している。
使用履歴DB35に記憶される情報は上述の場合に限定されない。
【0060】
以下、劣化度合の推定方法について説明する。
図7は、制御部31による劣化度合の推定処理の手順を示すフローチャートである。制御部31は所定の推定時点で、以下の処理を行う。
制御部31は、IDNo.1の電池2につき、推定時点で取得した電圧、電流、温度に基づいて生涯有効放電電気量等の導出履歴を導出し、使用履歴DB35に記憶する(S1)。
【0061】
制御部31は劣化度合DB34を読み出し、劣化度合DB34のデータから導出される、上述の第1履歴と第1度合との第1関係に基づいて、第1度合を特定し、使用履歴DB35に記憶する(S2)。同様に、劣化度合DB34のデータから導出される、第2履歴と第2度合との第2関係に基づいて第2度合を特定し、第3履歴と第3度合との第3関係に基づいて第3度合を特定し、第4履歴と第4度合との第4関係に基づいて第4度合を特定し、使用履歴DB35に記憶する。
【0062】
制御部31は、劣化度合DB34のデータから導出される、第1度合、第2度合、第3度合、及び第4度合と、劣化度合との関係に基づいて、特定した劣化要因の度合から劣化度合を推定し、使用履歴DB35に記憶し(S3)、処理を終了する。
劣化度合DB34に設計情報又は診断情報も記憶している場合、S2において、第1履歴と設計情報又は診断情報と、第1度合との第1関係に基づいて、第1度合を特定する。第2度合、第3度合、第4度合も、履歴、及び、設計情報又は診断情報と、度合との関係に基づいて特定する。
本実施形態においては、第1度合、第2度合、第3度合、及び第4度合の全てを特定し、これらを用いて劣化度合を推定する場合につき説明しているがこれに限定されない。第1度合、第2度合、第3度合、及び第4度合のうちの少なくとも2つを特定し、これらを用いて劣化度合を推定すればよい。
劣化度合DB34には、第1関係、第2関係、第3関係、及び第4関係の関数を記憶してもよい。
【0063】
制御部31は、推定した劣化度合、又は診断情報と、予め設定した閾値とに基づいて、電池2が交換されたと判定した場合に、使用履歴DB35のデータを消去し、リセットしてもよい。なお、制御部31は、電池2が交換されたと判定した場合に、使用履歴DBのデータをリセットする以外の動作を行ってもよい。すなわち、制御部31は、電池2が交換されたと判定した場合に、使用履歴DBに記憶される、履歴情報の積算の開始時点を、電池2が交換されたと判定した時点としてもよい。
【0064】
本実施形態によれば、電流、電圧、及び温度に基づく導出履歴を導出し、予め求めてある、履歴と正極格子の腐食,正極電極材料の軟化,負極サルフェーション,負極電極材料の収縮との関係に基づいて、2以上の劣化要因の度合を特定し、これに基づいて、良好に電池2の劣化の度合を推定する。
【0065】
(実施形態2)
図8は、実施形態2に係る制御装置7の構成を示すブロック図である。
実施形態2に係る充放電システム1は、制御装置7が、記憶部72に、劣化推定のためのプログラム73、劣化度合DB74、使用履歴DB75、学習モデルDB76を記憶していること以外は、実施形態1に係る充放電システム1と同様の構成を有する。
学習モデルDB76は、後述する第1学習モデルと第2学習モデルとを記憶している。
劣化度合DB74は、劣化度合DB34と同様の構成を有する。
【0066】
図9は、使用履歴DB75のレコードレイアウトの一例を示す説明図である。
使用履歴DB75は、電池2毎に、各推定時点の導出履歴、診断情報、設計情報、劣化要因の度合、実測の劣化要因の度合、劣化度合、及び実測に基づく劣化度合を記憶している。図9はIDNo.1の電池2の使用履歴を示している。使用履歴DB75は、No.列、生涯有効放電電気量列、生涯有効充電電気量列、生涯有効過充電電気量列、温度積算値列、SOC0~20%滞在時間列、SOC20~40%滞在時間列、SOC40~60%滞在時間列、SOC60~80%滞在時間列、SOC80~100%滞在時間列、正極格子厚さ列、診断情報列、第1度合列、第2度合列、第3度合列、第4度合列、実測第1度合列、実測第2度合列、実測第3度合列、実測第4度合列、劣化度合列、及び実測劣化度合列を記憶している。No.列は、推定時点のNo.を記憶している。生涯有効放電電気量列、生涯有効充電電気量列、生涯有効過充電電気量列、温度積算値列、SOC0~20%滞在時間列、SOC20~40%滞在時間列、SOC40~60%滞在時間列、SOC60~80%滞在時間列、SOC80~100%滞在時間列、正極格子厚さ列、及び診断情報列は、劣化度合DB34の生涯有効放電電気量列、生涯有効充電電気量列、生涯有効過充電電気量列、温度積算値列、SOC0~20%滞在時間列、SOC20~40%滞在時間列、SOC40~60%滞在時間列、SOC60~80%滞在時間列、SOC80~100%滞在時間列、正極格子厚さ列と同様の内容を記憶している。
【0067】
第1度合列、第2度合列、第3度合列、第4度合列は、後述するように、各推定時点の導出履歴を第1学習モデルに入力して特定した第1度合、第2度合、第3度合、第4度合を記憶している。
劣化度合列は、特定した第1度合、第2度合、第3度合、第4度合を第2学習モデルに入力して推定した劣化度合を記憶している。
【0068】
実測第1度合列、実測第2度合列、実測第3度合列、実測第4度合列は夫々、実測により求めた第1度合、第2度合、第3度合、第4度合を記憶している。
実測劣化度合列は、実測によりSOHを求めて、判定した劣化度合を記憶している。
実測による劣化要因の度合、及び実測による劣化度合は、後述する再学習に用いるために求めており、全ての推定時点において求める必要はない。
【0069】
図10は、第1学習モデルの一例を示す模式図である。
第1学習モデルは、人工知能ソフトウェアの一部であるプログラムモジュールとしての利用が想定される学習モデルであり、多層のニューラルネットワーク(深層学習)を用いることができ、例えば畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network:CNN)を用いることができるが、リカレントニューラルネットワーク(Recurrent Neural Network:RNN)を用いてもよい。決定木、ランダムフォレスト、サポートベクターマシン等の他の機械学習を用いてもよい。制御部71が、第1学習モデルからの指令に従って、第1学習モデルの入力層に入力された導出履歴情報に対し演算を行い、第1度合、第2度合、第3度合、第4度合の組み合わせとその確率とを出力するように動作する。図10では、便宜上、2つ中間層を図示しているが、中間層の層数は2つに限定されず、3つ以上であってもよい。CNNの場合、コンボリューション層及びプーリング層を含む。ノード(ニューロン)の数も図10の場合に限定されない。
【0070】
入力層、出力層及び中間層には、1又は複数のノードが存在し、各層のノードは、前後の層に存在するノードと一方向に所望の重みで結合されている。入力層のノードの数と同数の成分を有するベクトルが、第1学習モデルの入力データ(学習用の入力データ及び劣化要因の度合特定用の入力データ)として与えられる。入力データには、導出履歴情報として、生涯の有効放電電気量、生涯の有効充電電気量、生涯の有効過充電電気量、温度積算値、SOC滞在時間、放置時間等が挙げられる。入力情報はこの場合に限定されない。上述の設計情報又は診断情報を入力してもよい。
【0071】
入力層の各ノードに与えられたデータは、最初の中間層に入力して与えられると、重み及び活性化関数を用いて中間層の出力が算出され、算出された値が次の中間層に与えられ、以下同様にして出力層の出力が求められるまで次々と後の層(下層)に伝達される。なお、ノードを結合する重みのすべては、学習アルゴリズムによって計算される。
【0072】
第1学習モデルの出力層は、出力データとして第1度合、第2度合、第3度合、第4度合を組み合わせた情報を生成する。出力層のノードの数は第1度合、第2度合、第3度合、第4度合の組み合わせの数に対応する。例えば、第1度合、第2度合、第3度合、第4度合が夫々0から5までの数値で表される場合、各度合の組み合わせは1296通りになるが、実用的な組み合わせに限定して、ノードの数を設定してもよい。出力層は、各組み合わせと、各組み合わせの確率とを出力する。
出力層は、
例えば、第1度合1、第2度合3、第3度合3、第4度合0…0.91
第1度合1、第2度合2、第3度合2、第4度合1…0.08
・・・
のように出力する。
【0073】
また、出力層は、第1度合、第2度合、第3度合、第4度合夫々の評価値と確率とを出力する4つのノードを有してもよい。例えば第1度合のノードからは、0~5までの数値と、夫々についての確率とが出力される。制御部71は、確率の値が上位から所定の数の組み合わせの度合と確率を取得する。また、各度合につき、確率が最大である評価値を取得してもよい。
【0074】
なお、学習モデル156がCNNであるものとして説明したが、上述したようにRNNを用いることができる。RNNでは、前の時刻の中間層を次の時刻の入力層と合わせて学習に用いる。
【0075】
図11は、制御部71による第1学習モデルの生成処理の手順を示すフローチャートである。
制御部71は、劣化度合DB74を読み出し、各行の履歴と、第1度合、第2度合、第3度合、及び第4度合とを対応付けた教師データを取得する(S11)。
【0076】
制御部71は教師データを用いて、導出履歴を入力した場合に第1度合、第2度合、第3度合、第4度合の組み合わせを出力する第1学習モデル(学習済みモデル)を生成する(S12)。具体的には、制御部71は、教師データを入力層に入力し、中間層での演算処理を経て、出力層から組み合わせと確率とを取得する。
制御部71は、出力層から出力された各度合の特定結果を、教師データにおいて履歴情報に対しラベル付けされた情報、即ち正解値と比較し、出力層からの出力値が正解値に近づくように、中間層での演算処理に用いるパラメータを最適化する。該パラメータは、例えば上述の重み(結合係数)、活性化関数の係数等である。パラメータの最適化の方法は特に限定されないが、例えば制御部71は誤差逆伝播法を用いて各種パラメータの最適化を行う。
制御部71は、劣化度合DB74に含まれる各教師データの履歴情報について上記の処理を行い、第1学習モデルを生成する。制御部71は、生成した第1学習モデルを記憶部72に格納し、一連の処理を終了する。
【0077】
図12は、第2学習モデルの一例を示す模式図である。
第2学習モデルは、人工知能ソフトウェアの一部であるプログラムモジュールとしての利用が想定される学習モデルであり、例えばCNNを用いることができるが、RNNを用いてもよい。RNNを用いる場合、劣化要因の度合の経時的な変動を入力する。他の機械学習を用いてもよい。制御部71が、学習モデルからの指令に従って、第2学習モデルの入力層に入力された第1度合、第2度合、第3度合、第4度合に対し演算を行い、電池2の劣化度合とその確率とを出力するように動作する。図12では、便宜上、2つ中間層を図示しているが、中間層の層数は2つに限定されず、3つ以上であってもよい。ノードの数も図12の場合に限定されない。また、第1学習モデルで入力したデータを入力データとして含んでもよい。
【0078】
入力データには、第1度合、第2度合、第3度合、第4度合が入力される。入力データは少なくとも2以上の度合を含む。
【0079】
第2学習モデルの出力層は、出力データとして劣化度合を生成する。出力層のノードの数は劣化度合の数に対応する。例えば、劣化度合が1から10までの数値で表される場合、ノードの数を10に設定できる。出力層は、各劣化度合と、各劣化度合の確率とを出力する。
出力層は、
例えば、劣化度合1…0.01
劣化度合2…0.07
劣化度合3…0.88
・・・
のように出力する。
第2学習モデルは、第1学習モデルと同様にして生成される。
【0080】
図13は、制御部71による劣化度合の推定処理の手順を示すフローチャートである。
制御部71は、IDNo.1の電池2につき、推定時点で、生涯有効放電電気等の導出履歴を導出し、使用履歴DB75に記憶する(S21)。設計情報及び診断情報も導出してもよい。
制御部71は、学習モデルDB76を読み出し、導出履歴を第1学習モデルに入力する(S22)。
制御部71は、第1学習モデルが出力した第1度合、第2度合、第3度合、第4度合の組み合わせのうち、確率が高いものを特定する(S23)。
制御部71は、特定した第1度合、第2度合、第3度合、第4度合の組み合わせを第2学習モデルに入力する(S24)。
制御部71は、第2学習モデルが出力した劣化度合に基づき、期待値[Σ(劣化度×確率)]を取得して総合劣化度合を推定し(S25)、処理を終了する。
【0081】
本実施形態によれば、第1学習モデルを用いて、容易に、良好に劣化要因の度合を特定し、特定した劣化要因の度合に基づいて、第2学習モデルを用い、容易に、良好に電池2の劣化を推定できる。前記実施形態においては、第1度合、第2度合、第3度合、及び第4度合を特定して、電池2の劣化度合を推定する場合につき説明しているが、これに限定されない。
第1度合、第2度合、第3度合、及び第4度合のうちの少なくとも2つを特定し、これらを用いて劣化度合を推定すればよい。上述したように、第1学習モデルの出力層が、第1度合、第2度合、第3度合、第4度合夫々の評価値と確率とを出力する4つのノードを有する場合、確率に対し閾値を設けて特定することで、特定する度合が選択される。第1学習モデルの出力層が、第1度合、第2度合、第3度合、第4度合の組み合わせを出力する場合、各度合につき、0~5までの評価値と「不明」のいずれかを対応させる。最も確率が高い組み合わせにおいて、「不明」の度合を含む場合、該度合は特定されないことになる。
【0082】
制御部71は、第1学習モデル及び第2学習モデルを用い、導出履歴を入力して推定した劣化度合と、実測により得られた劣化度合とに基づいて、劣化度合の推定の信頼度が向上するように、第1学習モデル及び第2学習モデルを再学習させることができる。例えば図9の使用履歴DB35のNo.2では、第1学習モデルにより推定した劣化要因の度合と実測の度合とが一致しているので、No.2の導出履歴に対し前記度合とが対応付けられた教師データを多数入力して再学習させることで、前記度合の確率を上げることができる。同様に、No.2では、第2学習モデルにより推定した劣化度合と実測の劣化度合とが一致しているので、No.2の前記劣化要因の度合に対し前記劣化度合とが対応付けられた教師データを多数入力して再学習させることで、前記劣化度合の確率を上げることができる。No.3の場合、第3度合と実測第3度合とが一致せず、劣化度合と実測劣化度合とが一致していない。導出履歴に対し、実測第1度合、実測第2度合、実測第3度合、実測第4度合とが対応付けられた教師データを入力して再学習させる。
【0083】
制御部71は、推定した劣化度合、又は診断情報と、予め設定した閾値とに基づいて、電池2が交換されたと判定した場合に、使用履歴DB75のデータを消去し、リセットしてもよい。制御部71は、電池2が交換されたと判定した場合に、使用履歴DB75に記憶される、履歴情報の積算の開始時点を、電池2が交換されたと判定した時点としてもよい。
また、前記データのうち、実測劣化度合を含む行のデータは、劣化度合DB74に記憶してもよい。
【0084】
(実施形態3)
実施形態3に係る充放電システム1は、学習モデルDB76が、導出履歴を入力して、夫々第1度合、第2度合、第3度合、第4度合の評価の確率を出力する学習モデルA、B、C、Dを記憶していること以外は、実施形態2に係る充放電システム1と同様の構成を有する。
【0085】
図14は、学習モデルA、B、C、Dの一例を示す模式図である。
学習モデルAは、人工知能ソフトウェアの一部であるプログラムモジュールとしての利用が想定される学習モデルであり、例えばCNNを用いることができるが、RNNを用いてもよい。他の機械学習を用いてもよい。制御部71が、学習モデルAからの指令に従って、学習モデルAの入力層に入力された導出履歴に対し演算を行い、電池2の第1度合とその確率とを出力するように動作する。図14では、便宜上、2つ中間層を図示しているが、中間層の層数は2つに限定されず、3つ以上であってもよい。ノードの数も図14の場合に限定されない。
【0086】
学習モデルAの入力層には、生涯有効放電電気量、温度積算値、使用期間等の導出履歴が入力される。
学習モデルAの出力層は、第1度合を出力する。出力層のノードの数は第1度合の数に対応する。例えば、第1度合が0から5までの数値で表される場合、ノードの数を6に設定できる。出力層は、第1度合の評価値と、各評価値の確率とを出力する。
出力層は、
例えば、第1度合0…0.01
第1度合1…0.87
第1度合2…0.08
・・・
のように出力する。
制御部71は、劣化度合DB74を読み出し、導出履歴に、第1度合を対応させた教師データを取得し、該教師データを用いて学習モデルAを生成する。
【0087】
学習モデルBの入力層には、生涯有効過充電電気量、温度積算値、使用期間等の導出履歴が入力される。
学習モデルBの出力層は、第2度合を出力する。出力層のノードの数は第2度合の数に対応する。例えば、第2度合が0から5までの数値で表される場合、ノードの数を6に設定できる。出力層は、第2度合の評価値と、各評価値の確率とを出力する。
制御部71は、劣化度合DB74を読み出し、導出履歴に、第2度合を対応させた教師データを取得し、該教師データを用いて学習モデルBを生成する。
【0088】
学習モデルCの入力層には、生涯有効充電電気量、温度積算値、使用期間、放置時間、各SOC区分における滞在時間等の導出履歴が入力される。
学習モデルCの出力層は、第3度合を出力する。出力層のノードの数は第3度合の数に対応する。例えば、第3度合が0から5までの数値で表される場合、ノードの数を6に設定できる。出力層は、第3度合の評価値と、各評価値の確率とを出力する。
制御部71は、劣化度合DB74を読み出し、導出履歴に、第3度合を対応させた教師データを取得し、該教師データを用いて学習モデルCを生成する。
【0089】
学習モデルDの入力層には、生涯有効充電電気量、温度積算値、使用期間、等の導出履歴が入力される。
学習モデルDの出力層は、第4度合を出力する。出力層のノードの数は第4度合の数に対応する。例えば、第4度合が0から5までの数値で表される場合、ノードの数を6に設定できる。出力層は、第4度合の評価値と、各評価値の確率とを出力する。
制御部71は、劣化度合DB74を読み出し、導出履歴に、第4度合を対応させた教師データを取得し、該教師データを用いて学習モデルDを生成する。
【0090】
以下、劣化度合の推定方法について説明する。
図15は、制御部71による劣化度合の推定処理の手順を示すフローチャートである。制御部71は所定の推定時点で、以下の処理を行う。
制御部71は、IDNo.1の電池2につき、推定時点で取得した電圧、電流、温度に基づいて生涯有効放電電気量、温度積算値等の導出履歴を導出し、使用履歴DB75に記憶する(S31)。
【0091】
制御部71は学習モデルDB76を読み出し、導出履歴を学習モデルAに入力する(S32)。
制御部71は、学習モデルAが出力した第1度合のうち、最も確率が高いものを特定し、使用履歴DB75に記憶する(S33)。
制御部71は、特定した第1度合に基づいて劣化度合を推定し(S34)、使用履歴DB75に記憶し、処理を終了する。制御部71は、劣化度合DB74から導出される、第1度合と劣化度合との関係に基づいて、劣化度合を推定することができる。第1度合に対し劣化度合を対応させた教師データを用いて学習モデルを生成し、該学習モデルに特定した第1度合を入力して、劣化度合を取得してもよい。
【0092】
第2度合、第3度合、第4度合についても、上記と同様に、導出履歴を夫々学習モデルB、C、Dに入力して、特定し、特定した劣化要因の度合に基づいて、劣化度合を推定することができる。実施形態1及び2のように、第1度合、第2度合、第3度合、及び第4度合を用いて劣化度合を推定してもよい。
【0093】
本実施形態によれば、学習モデルA~Dを用いて、容易に、良好に劣化要因の度合を特定し、特定した劣化要因の度合に基づいて、良好に電池2の劣化を推定できる。学習モデルA~Dは上述した場合に限定されない。また、学習モデルA~Dには、導出履歴に加えて、設計情報又は診断情報を入力してもよい。
【0094】
本発明は上述した実施の形態の内容に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。即ち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0095】
1 充放電システム
2 電池(蓄電素子)
3 BMU
31、71、91 制御部(導出部、特定部、推定部、履歴消去部)
32、72 記憶部
33、73 プログラム
34、74 劣化度合DB
35、75 使用履歴DB
36 入力部
37、77、92 通信部
7 制御装置
76 学習モデルDB
9 サーバ
10 ネットワーク
13 負荷
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15