(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】熱音響装置
(51)【国際特許分類】
F25B 9/00 20060101AFI20241029BHJP
【FI】
F25B9/00 Z
(21)【出願番号】P 2020084297
(22)【出願日】2020-05-13
【審査請求日】2023-04-14
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河内 達磨
【審査官】関口 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-025340(JP,A)
【文献】特表2008-522319(JP,A)
【文献】特開昭57-124173(JP,A)
【文献】特開2016-194381(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体が封入されているループ管と、
前記ループ管内に設けられ、軸方向に延びる複数の流路を有するスタックと、
前記軸方向と交差する管断面方向に開口を形成し、前記開口の面積を調整する調整部と、
前記スタックの前記軸方向の一方側と熱交換を行う高温側熱交換器と、
前記スタックの前記軸方向の他方側と熱交換を行う低温側熱交換器と、
前記冷却対象の温度を検出する温度センサ
と、
を備え、
前記低温側熱交換器は、冷却対象と熱的に接続し、
前記高温側熱交換器は、前記冷却対象の温度よりも高い基準温度を有する基準熱源と熱的に接続し、
前記開口は、前記高温側熱交換器と前記スタックとの間に形成されており、
前記調整部は、
前記開口の面積を調整することで、前記ループ管内に設けられている前記スタックが有する複数の前記流路の少なくとも一部を塞ぐ状態と、前記スタックが有する複数の前記流路の少なくとも一部を開放する状態とを切り替え、
前記温度センサにより検出される温度に応じて、前記開口の面積を調整する
、
熱音響装置。
【請求項2】
作動流体が封入されているループ管と、
前記ループ管内に設けられ、軸方向に延びる複数の流路を有するスタックと、
前記軸方向と交差する管断面方向に開口を形成し、前記開口の面積を調整する調整部と、
を備え、
前記スタックは、複数の分割スタックに分割され、
前記調整部は、
隣接する複数の前記分割スタックの間に設けられ
、
前記開口の面積を調整することで、前記ループ管内に設けられている前記スタックが有する複数の前記流路の少なくとも一部を塞ぐ状態と、前記スタックが有する複数の前記流路の少なくとも一部を開放する状態とを切り替える、
熱音響装置。
【請求項3】
前記調整部は、前記開口の少なくとも一部を形成する遮蔽板を有し、
前記遮蔽板は、
前記ループ管内を前記管断面方向に移動可能に設けられ、
前記ループ管の周縁部側から中心へ移動することで、前記開口の面積を狭くする、
請求項1
または請求項
2に記載の熱音響装置。
【請求項4】
前記調整部は、磁力により前記遮蔽板を移動させる操作部を有し、
前記操作部は、前記ループ管の外部に設けられている、
請求項
3に記載の熱音響装置。
【請求項5】
前記調整部は、電力により前記遮蔽板を移動させる電動部を有し、
前記電動部は、前記ループ管の内部に設けられている、
請求項
3に記載の熱音響装置。
【請求項6】
作動流体が封入されているループ管と、
前記ループ管内に設けられ、軸方向に延びる複数の流路を有する第1スタックおよび第2スタックと、
前記軸方向と交差する管断面方向に開口を形成し、前記開口の面積を調整する調整部と、
前記第1スタックの前記軸方向の一方側と熱交換を行う第1高温側熱交換器と、
前記第1スタックの前記軸方向の他方側と熱交換を行う第1低温側熱交換器と、
前記第2スタックの前記軸方向の一方側と熱交換を行う第2高温側熱交換器と、
前記第2スタックの前記軸方向の他方側と熱交換を行う第2低温側熱交換器と、
を備え、
前記第1高温側熱交換器は、熱源と熱的に接続し、
前記第1低温側熱交換器は、前記熱源の温度よりも低い基準温度を有する第1基準熱源と熱的に接続し、
前記第2低温側熱交換器は、冷却対象と熱的に接続し、
前記第2高温側熱交換器は、前記冷却対象の温度よりも高い基準温度を有する第2基準熱源と熱的に接続し、
前記冷却対象の温度を検出する温度センサをさらに備え、
前記開口は、前記第1低温側熱交換器と、前記第1スタックとの間に形成され、
前記調整部は、前記温度センサにより検出される温度に応じて前記開口の面積を調整することで、複数の前記流路の少なくとも一部を塞ぐ状態と、複数の前記流路の少なくとも一部を開放する状態とを切り替える、
熱音響装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱音響装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炉等で生じた排熱を利用して、冷熱を得ることができる熱音響装置が知られている。熱音響装置は、配管の軸方向に貫通した微小流路を複数有する「スタック」を備える。熱音響装置において、スタックの軸方向の一方側の端部を熱するなどにより、スタックの両端部に温度勾配を生じさせることで、熱エネルギーから音エネルギーへの仕事変換が行われる。また、スタックへ音エネルギーが入力されると、スタックの軸方向の両端部に温度勾配が生じるため、スタックの一方側の端部を室温に維持することで、スタックの他方側の端部から冷却熱を取り出すことができる。
【0003】
特許文献1には、ループ管と、ループ管内に設けられた第1スタック及び第2スタックとを備える熱音響装置が開示されている。第1スタックは熱源側に接続され、温度勾配によってループ管内に音波を発生させる。第2スタックでは当該音波によって温度勾配が発生し、その結果、当該温度勾配の低温側に接続されている冷却対象が冷却される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
熱音響装置において、例えばスタックの形状(微小流路の径や、軸方向の長さ)や、ループ管の形状(管径や長さ)等の機械的な構造が決定されると、入力熱量に対する出力熱量が一意に決まる。すなわち、炉等の排熱として、一定の熱量が熱音響装置に入力される場合、熱音響装置からの冷熱の出力は一定となる。このため、冷却対象を所望の温度にするためには、熱音響装置の外部(例えば、熱音響装置と冷却対象との間)に熱量の制御装置を接続し、熱音響装置から出力される冷熱を制御する必要がある。制御装置を接続する分、熱音響装置及び冷却対象を含むシステム全体の構成が大きくなり、装置コストの増大や、装置の大型化といった課題が生じている。
【0006】
本発明は、システムの大型化を抑制しつつ、出力熱量を調整することができる熱音響装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係る熱音響装置は、作動流体が封入されているループ管と、前記ループ管内に設けられ、軸方向に延びる複数の流路を有するスタックと、前記軸方向と交差する管断面方向に開口を形成し、前記開口の面積を調整する調整部と、を備え、前記調整部は、前記開口の面積を調整することで、複数の前記流路の少なくとも一部を塞ぐ状態と、複数の前記流路の少なくとも一部を開放する状態とを切り替える、熱音響装置である。
【0008】
本発明に係る熱音響装置によれば、調整部により開口面積を調整することで、スタックの出力熱量(冷熱)を調整することができる。このため、ループ管及びスタックの機械的な構造により一意に決まっている入力熱量に対する出力熱量を、調整部により容易に調整することができる。この結果、熱音響装置の外部(例えば、熱音響装置と冷却対象との間)に熱量の制御装置を接続する必要がなく、熱音響装置及び冷却対象を含むシステム全体の構成が大きくなることを抑制することができる。
【0009】
(2)好ましくは、前記スタックの前記軸方向の一方側と熱交換を行う高温側熱交換器と、前記スタックの前記軸方向の他方側と熱交換を行う低温側熱交換器と、をさらに備え、前記開口は、前記高温側熱交換器又は前記低温側熱交換器と、前記スタックとの間に形成されている。
【0010】
(3)好ましくは、前記低温側熱交換器は、冷却対象と熱的に接続し、前記高温側熱交換器は、前記冷却対象の温度よりも高い基準温度を有する基準熱源と熱的に接続し、前記開口は、前記高温側熱交換器と前記スタックとの間に形成されている。高温側熱交換器は、基準熱源により基準温度に維持されているため、高温側熱交換器と隣接する調整部の温度も、ほとんど一定に維持される。このため、調整部は温度変化に伴う熱膨張等の影響を受けにくく、より安定的にスタックの出力を調整することができる。
【0011】
(4)好ましくは、前記冷却対象の温度を検出する温度センサをさらに備え、前記調整部は、前記温度センサにより検出される温度に応じて、前記開口の面積を調整する。このように構成することで、調整部は冷却対象の温度に対してフィードバック制御を行うことができるため、より精密に冷却対象の温度を制御することができる。
【0012】
(5)好ましくは、前記高温側熱交換器は、熱源と熱的に接続し、前記低温側熱交換器は、前記熱源の温度よりも低い基準温度を有する基準熱源と熱的に接続し、前記開口は、前記低温側熱交換器と前記スタックとの間に形成されている。低温側熱交換器は、基準熱源により基準温度に維持されているため、低温側熱交換器と隣接する調整部の温度も、ほとんど一定に維持される。このため、調整部は温度変化に伴う熱膨張等の影響を受けにくく、より安定的にスタックの出力を調整することができる。
【0013】
(6)好ましくは、前記スタックは、複数の分割スタックに分割され、前記開口は、隣接する複数の前記分割スタックの間に設けられている。このように構成することで、分割スタックと熱交換器との距離をより近くすることができる。このため、より効率的に熱交換器と分割スタックとの熱交換を行うことができ、より効率的に熱音響装置を稼働させることができる。
【0014】
(7)好ましくは、前記調整部は、前記開口の少なくとも一部を形成する遮蔽板を有し、前記遮蔽板は、前記ループ管内を前記管断面方向に移動可能に設けられ、前記ループ管の周縁部側から中心へ移動することで、前記開口の面積を狭くする。音響エネルギーは、ループ管の中心に近いほど、安定している。遮蔽板は、音響エネルギーが比較的安定している中心の開口状態を維持しつつ、音響エネルギーが比較的不安定な周縁部側から流路を塞ぐように移動することで、開口面積を狭くする。このように構成することで、遮蔽板の移動により出力熱量を調整する際、不安定な領域の流路を塞ぎ、より安定している領域の流路を開放することで、より安定的に出力を取り出すことができる。
【0015】
(8)好ましくは、前記調整部は、磁力により前記遮蔽板を移動させる操作部を有し、前記操作部は、前記ループ管の外部に設けられている。このように構成することで、ループ管内の気密性を維持しつつ、開口面積を調整することができる。これにより、ループ管外へ作動流体が漏出することを防止でき、熱音響現象を安定的に生じさせつつ、調整部により出力を調整することができる。
【0016】
(9)好ましくは、前記調整部は、電力により前記遮蔽板を移動させる電動部を有し、前記電動部は、前記ループ管の内部に設けられている。このように構成することで、ループ管内の気密性を維持しつつ、開口面積を調整することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、熱音響装置において、システムの大型化を抑制しつつ、出力熱量を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施形態に係る熱音響装置を示す概略構成図である。
【
図2】
図1に示す領域S1の内部構成を示す模式図である。
【
図3】
図2の矢印IIIの切断線により切断した断面を示す模式図である。
【
図4】
図3と同じ断面において、調整部により形成される開口を最大としたときの断面を示す模式図である。
【
図5】実施形態に係る遮蔽板による遮蔽の効果を示す説明図である。
【
図6】第1変形例に係る熱音響装置を示す概略構成図である。
【
図7】第2変形例に係る熱音響装置の内部構成を示す模式図である。
【
図8】第3変形例に係る調整部の管断面方向の断面を示す模式図である。
【
図9】
図8と同じ断面において、調整部により形成される開口を最大としたときの断面を示す模式図である。
【
図10】第4変形例に係る調整部の管断面方向の断面を示す模式図である。
【
図11】
図10と同じ断面において、調整部により形成される開口を最大としたときの断面を示す模式図である。
【
図12】第5変形例に係る熱音響装置の内部構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<実施形態>
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0020】
<熱音響装置の全体構成>
図1は、実施形態に係る熱音響装置10を示す概略構成図である。熱音響装置10は、ループ管11と、第1スタック20と、第1高温側熱交換器24と、第1低温側熱交換器25と、第2スタック30と、第2高温側熱交換器34と、第2低温側熱交換器35と、調整部40と、温度センサ81と、制御部9と、を備える。
【0021】
熱音響装置10には、熱源70と、冷却対象80とが接続されている。熱源70は、例えば炉であり、第1高温側熱交換器24と熱的に接続されている。熱源70は、例えば加熱流体(常温より高い流体であり、例えば摂氏100度以上の空気、排ガス又は油)を第1高温側熱交換器24へ流すことで、第1高温側熱交換器24へ熱を供給する。冷却対象80は、第2低温側熱交換器35と熱的に接続されており、第2低温側熱交換器35に熱を吸収されることで冷却される。
【0022】
ループ管11は、環状の配管である。ループ管11は、
図1中の上辺及び下辺に相当する短尺な2個の領域と、
図1中の右辺及び左辺に相当する長尺な2個の領域と、を有する。ループ管11は、これらの短尺な領域と長尺な領域とをそれぞれ交互に接続することで構成される。ループ管11には、作動流体が封入されている。作動流体は、例えば、空気、窒素、ヘリウム、アルゴン、又はこれらのうち少なくとも2個の混合気体である。第1スタック20と第2スタック30は、ループ管11の長尺な2個の領域中にそれぞれ設けられている。
【0023】
以下、ループ管11のうち、後述の第1スタック20の第1端部22と第2スタック30の第1端部32とを接続する配管を「第1配管12」と称する。また、ループ管11のうち、後述の第1スタック20の第2端部23と第2スタック30の第2端部33とを接続する配管を「第2配管13」と称する。ループ管11の長尺な領域が延びる方向を「軸方向」と称する。また、ループ管11の軸方向と直交する方向を「管断面方向」と称する。管断面方向は、ループ管11の「径方向」と、「周方向」とを含む。
【0024】
第1スタック20及び第2スタック30は、柱状の部材であり、複数の微細流路21、31をそれぞれ有する。微細流路21は、軸方向に第1スタック20を貫通する流路である。微細流路31は、軸方向に第2スタック30を貫通する流路である。微細流路21、31は、作動流体の通路となる。微細流路21、31は、軸方向に長手となる形状を有する。第1スタック20及び第2スタック30は、それぞれ軸方向の一方側に位置する第1端部22、32と、軸方向の他方側に位置する第2端部23、33とを有する。
【0025】
第1スタック20は、例えば、微細な貫通孔が多数形成された板材を積層して得たブロックにより構成される。積層した板材の貫通孔同士が繋がることで、微細流路21が形成される。前記板材は金属製であり、本実施形態ではステンレス鋼製である。複数の微細流路21は、それぞれ正六角形状の断面を有し、複数の微細流路21が組み合わされることで第1スタック20はハニカム構造を有する。本実施形態に係る第2スタック30は、第1スタック20と同じ構造を有する。なお、第2スタック30は、例えば軸方向の長さや、微細流路31の数が第1スタック20と異なる構成であってもよい。
【0026】
第1高温側熱交換器24及び第1低温側熱交換器25は、第1スタック20の第1端部22及び第2端部23とそれぞれ隣接する位置に設けられている。本実施形態では、第1スタック20の第1端部22と第2端部23との間に温度勾配を生じさせるために、第1高温側熱交換器24により第1端部22を加熱し、第1低温側熱交換器25により第2端部23を所定の第1基準温度Tr1(例えば、常温)に維持する。すなわち、第1高温側熱交換器24は温度勾配の高温側であり、第1低温側熱交換器25は温度勾配の低温側となる。
【0027】
第1高温側熱交換器24は、ループ管11の外部に位置する熱源70と第1端部22との間で熱交換を行う。第1高温側熱交換器24は、ループ管11内に配置される管内部分と、ループ管11外に配置される管外部分とを含む。管内部分は、微細流路21を閉塞しない状態で、第1端部22と接触している。管外部分は、ループ管11の外周面のうち第1端部22に対応する位置に設けられる。第1高温側熱交換器24の管外部分は、外部の熱源70より熱(熱エネルギー)を受ける。この熱が、第1高温側熱交換器24の管外部分から管内部分を経由して、第1端部22へ伝わる。すなわち、第1高温側熱交換器24は、ループ管11の外部から、第1スタック20の第1端部22を加熱する。
【0028】
第1低温側熱交換器25は、第1高温側熱交換器24と同様に、管内部分と管外部分を有する。管内部分は第2端部23と接触し、管外部分はループ管11の外部に位置する基準熱源50へ熱を放出する。これにより、第1低温側熱交換器25は、第2端部23と熱交換を行う。基準熱源50は、熱源70から供給される加熱流体よりも低い第1基準温度Tr1(例えば、室温)の冷却流体(例えば、水)を貯めるタンクと、当該冷却流体が内部を流れる配管とを有する。基準熱源50の配管は、第1低温側熱交換器25と熱的に接続している。そして、当該配管を流れる当該冷却流体の温度が第1低温側熱交換器25を介して第2端部23へ伝わることで、第2端部23の温度は第1基準温度Tr1(又は、第1基準温度Tr1よりもわずかに高い温度)に維持される。
【0029】
第1高温側熱交換器24及び第1低温側熱交換器25によって、第1スタック20の第1端部22と第2端部23との間の温度勾配(温度差)dT1を制御することができる。第1スタック20の第1端部22が温度Th1であり、第2端部23が温度Tc1であるとき、微細流路21の延在する長さは微細流路21の第1端部22の位置と微細流路21の第2端部23の位置との差の絶対値D1なので、温度勾配dT1は、(Th1-Tc1)/D1である。
【0030】
上記のように、第1低温側熱交換器25により第2端部23の温度が第1基準温度Tr1に維持されている状態(すなわち、Tc1=Tr1)で、第1高温側熱交換器24により第1端部22が十分に加熱され、温度勾配dT1が所定の臨界点C1以上になると、第1スタック20は自励発振をする。換言すれば、温度勾配dT1が所定の臨界点C1以上になると、第1スタック20は熱エネルギーを音エネルギーに変換し、これにより第1スタック20内の作動流体が振動する。この結果、ループ管11内に定在波を含む音波が発生する。
【0031】
すなわち、第1スタック20、第1高温側熱交換器24及び第1低温側熱交換器25は、熱源70の熱をループ管11内の作動流体の振動に変換することで音波を発生させる熱音響原動機(熱音響エンジン)として機能する。
【0032】
第2高温側熱交換器34及び第2低温側熱交換器35は、第2スタック30の第1端部32及び第2端部33とそれぞれ隣接する位置に設けられている。第2高温側熱交換器34及び第2低温側熱交換器35は、第1端部32及び第2端部33とそれぞれ熱交換を行う。ここで、第2高温側熱交換器34と第1端部32との間には、調整部40が挿入されている。
【0033】
第2高温側熱交換器34は、管内部分と管外部分とを有する。第2高温側熱交換器34の管内部分は、調整部40を介して、第1端部32と熱交換を行う。第2高温側熱交換器34の管外部分は、ループ管11の外部に位置する基準熱源60へ熱を放出する。
【0034】
基準熱源60は、冷却対象80の冷却温度よりも高い第2基準温度Tr2(例えば、室温)の冷却流体(例えば、水)を貯めるタンクと、冷却流体が内部を流れる配管とを有する。基準熱源60の配管は、第2高温側熱交換器34の管外部分と熱的に接続している。そして、当該配管を流れる当該冷却流体の温度が第2高温側熱交換器34を介して第1端部32へ伝わることで、第1端部32の温度は第2基準温度Tr2(又は、第2基準温度Tr2よりもわずかに高い温度)に維持される。
【0035】
ここで、基準熱源60は、基準熱源50と同一の熱源を共有するように構成されてもよいし、基準熱源50とは別体の熱源により構成されてもよい。基準熱源60と基準熱源50が同一の熱源となる場合、第1基準温度Tr1と第2基準温度Tr2とが同じ温度となる(Tr1=Tr2)。すなわち、第1基準温度Tr1及び第2基準温度Tr2は、いずれも熱源70の温度より低く、冷却対象80の冷却温度よりも高い基準温度となる。
【0036】
第2低温側熱交換器35は、管内部分と管外部分を有する。第2低温側熱交換器35の管内部分は第2端部33と接触し、管外部分はループ管11の外部に位置する冷却対象80と熱的に接続されている。
【0037】
第1スタック20の発振によるループ管11内の作動流体の振動が、第2スタック30に伝わると、第2スタック30は、音エネルギーを熱エネルギーに変換する。これにより、第2スタック30において、第1端部32を高温側、第2端部33を低温側とする温度勾配が生じる。第1端部32は、上記のように第2高温側熱交換器34により所定の第2基準温度Tr2に維持されているため、第2低温側熱交換器35は、当該温度勾配を維持するために管外部分から冷却対象80の熱を吸収し、管内部分を経由して第2スタック30の第2端部33を加熱する。これにより、冷却対象80を冷却することができる。
【0038】
すなわち、第2スタック30、第2高温側熱交換器34及び第2低温側熱交換器35は、音波(作動流体の振動)から温度勾配を発生させる熱音響ヒートポンプとして機能する。
【0039】
<調整部とその周辺の構成>
図2は、
図1に示す領域S1の内部構成を示す模式図である。
図2において、断面として示す部分にはハッチングを付す。ここで、ループ管11の管断面方向の中心(すなわち、ループ管11の内周面の中心)を、「中心C1」と称する。また、ループ管11のうち、第2高温側熱交換器34と第2低温側熱交換器35との間に位置し、第2スタック30と、調整部40の一部とを内部に収容している配管を、「第3配管14」と称する。
【0040】
第3配管14は、単一部材から構成されていてもよいし、複数の部材を継ぎ合わせることで構成されていてもよい。複数の部材により第3配管14を構成する場合、例えば複数の部材にそれぞれフランジ部分を設け、当該フランジ部分をボルト及びナットにより繋ぎ合わせることで1個の第3配管14を構成するようにしてもよい。
【0041】
第3配管14は、軸方向一方側において第1配管12と連通しており、軸方向他方側において第2配管13と連通している。また、第1配管12、第2配管13及び第3配管14の内部空間は密閉されている。第3配管14の材質は、非磁性体である。より具体的には、第3配管14は、例えば、ステンレス又は樹脂(例えば、塩化ビニル)により構成されている。第3配管14は、第1配管12及び第2配管13と異なる材質により構成されていてもよいし、同じ材質により構成されていてもよい。第3配管14のうち、調整部40を収容している部分(以下、「収容部分14a」と称する。)の内径は、第2スタック30を収容している部分よりも拡幅している。
【0042】
調整部40は、第1端部32の軸方向一方側に隣接して設けられている。調整部40は、枠体41と、遮蔽板42と、操作部43と、レバー44と、を有する。収容部分14aには、枠体41と、遮蔽板42と、レバー44とが収容されている。操作部43は、第3配管14の外周面に外側から取付けられている。操作部43は、制御部9と電気的に接続されており、制御部9の動作指令により動作する。枠体41は、環状の部材であり、遮蔽板42を支持している。枠体41の内周面の内径は、第3配管14の内径と同じ大きさであり、第2スタック30の外径よりも大きい。なお、枠体41の内周面の内径は、第3配管14の内径より大きくてもよい。
【0043】
図3は、
図2の矢印IIIの切断線により切断した断面(すなわち、管断面方向に切断した断面)を示す模式図である。
図3は、調整部40により形成される開口Ap1を最小としたときの断面を示している。
図4は、
図3と同じ断面において、調整部40により形成される開口Ap1を最大としたときの断面を示している。
図3及び
図4において、断面として示す部分にはハッチングを付す。
【0044】
本実施形態において、複数の(例えば、6枚以上の)遮蔽板42は、それぞれ絞り羽根である。レバー44は、複数の遮蔽板42とそれぞれ接続し、複数の遮蔽板42を管断面方向に移動させる。例えば、レバー44は、複数の遮蔽板42にそれぞれ設けられているカムと対応するピンを有し、カムへピンをそれぞれ係合させることで、複数の遮蔽板42を移動させる。レバー44により、複数の遮蔽板42は、それぞれ第3配管14の周方向及び径方向を含む斜め方向に移動する。
【0045】
図4に示すように、レバー44がループ管11(具体的には、第3配管14)の周方向一方側に位置するとき、遮蔽板42は枠体41に完全に収容され、管断面方向の開口Ap1は、枠体41の内周面により形成されている。この状態から、
図3に示すように、レバー44がループ管11(具体的には、第3配管14)の周方向他方側へ移動すると、遮蔽板42がループ管11の管断面方向の周縁部から中心C1へ移動することで、開口Ap1が狭くなる。
図3の状態において、開口Ap1は複数の遮蔽板42の端部により形成されている。
【0046】
以下、
図3に示す調整部40の状態を、「最小開口状態」と称する。最小開口状態において、遮蔽板42は、
図2に示すように第2スタック30の複数の微細流路31の一部を塞いでいる。遮蔽板42により塞がれている微細流路31では、作動流体の振動が停止する。すなわち、第2スタック30のうち、遮蔽板42により微細流路31が塞がれている部分は、熱音響ヒートポンプとして機能しなくなる。この状態において第2スタック30に生じる温度勾配は、遮蔽板42により微細流路31が塞がれていない状態の第2スタック30に生じる温度勾配よりも小さくなる。
【0047】
また、
図4に示す調整部40の状態を、「最大開口状態」と称する。最大開口状態において、第2スタック30の複数の微細流路31は、すべて開放されている。すなわち、調整部40は、管断面方向の開口Ap1の面積を調整することで、第2スタック30に発生する温度勾配を調整する機能を有する。より具体的には、調整部40は、開口Ap1の面積を狭くするほど、第2スタック30に発生する温度勾配を小さくする機能を有する。
【0048】
なお、本実施形態において、最大開口状態の開口Ap1は、
図4に示すように枠体41の内周面により形成され、複数の微細流路31はすべて開放されているが、本発明の実施に関してはこれに限られず、最大開口状態の開口Ap1は、複数の遮蔽板42の端部により形成されてもよい。また、最大開口状態において、複数の微細流路31のうち周縁部に位置する一部の微細流路31が塞がれていてもよい。すなわち、最小開口状態から最大開口状態に至るまで、いずれの状態であっても塞がれたままの微細流路31が第2スタック30の周縁部に存在していてもよい。
【0049】
また、本実施形態において、最小開口状態の開口Ap1は、
図2及び
図3に示すように、すべての微細流路31を塞ぐわけではなく、開口Ap1よりも外周側に位置する一部の微細流路31のみを塞いでいる。すなわち、中心C1を含む第2スタック30の一部の微細流路31は、開口Ap1よりも内側に位置することで開放されている。なお、最小開口状態において、遮蔽板42がまったく開口せず、開口Ap1の面積がゼロとなってもよい。この場合、最小開口状態においてすべての微細流路31が塞がれ、第2スタック30では熱音響現象による温度勾配は発生しない。
【0050】
操作部43とレバー44は、間に収容部分14aが介在するため、互いに非接触の状態となっている。操作部43は、制御部9の動作指令により収容部分14aの外周面に沿って移動するアクチュエータを含む。また、操作部43及びレバー44の一方は、磁石により形成されている。操作部43及びレバー44の他方は、磁石又は鉄等の磁性体により形成されている。このような構成により、操作部43とレバー44は、磁力により引き合うように構成されている。また、上記のとおり第3配管14は非磁性体であるため、操作部43及びレバー44は、第3配管14に磁着することはない。
【0051】
図3及び
図4に示すように、操作部43が収容部分14aの外周面に沿って移動すると、レバー44も操作部43の移動に伴って移動する。すなわち、操作部43は、磁力により、第3配管14の外部からレバー44を介して遮蔽板42を移動させる。これにより、収容部分14aの内部の気密性を維持しつつ、収容部分14aの外部から、収容部分14aの内部に位置する遮蔽板42を移動させることができる。
【0052】
図2を参照する。冷却対象80には、冷却対象80の冷却温度を検出する温度センサ81が設けられている。温度センサ81により検出された温度は、制御部9に入力される。制御部9は、演算部(例えば、CPU、GPU等)と、記憶部(例えば、SSD、HDD等)を有するコンピュータ装置を含む。制御部9は、入力された温度センサ81の温度に基づいて、操作部43に対して動作指令を行い、操作部43のアクチュエータを動作させる。
【0053】
例えば、温度センサ81により検出された温度Td1が、所望の冷却温度Ts1(以下、「設定温度Ts1」と称する。)よりも高い場合、温度Td1を低くするために、第2スタック30においてより大きい温度勾配を生じさせる必要がある(すなわち、第2スタック30における出力冷熱を高くする必要がある)。このため、制御部9は操作部43に対して動作指令を行い、開口Ap1の面積が大きくなる方向に遮蔽板42を移動させる。すなわち、操作部43は、制御部9の動作指令に基づき、最大開口状態となる方向に遮蔽板42を移動させる。
【0054】
また、温度センサ81により検出された温度Td1が、設定温度Ts1よりも低い場合、温度Td1を高くするために、第2スタック30においてより小さい温度勾配を生じさせる必要がある(すなわち、第2スタック30における出力冷熱を低くする必要がある)。このため、制御部9は操作部43に対して動作指令を行い、開口Ap1の面積が小さくなる方向に遮蔽板42を移動させる。すなわち、操作部43は、制御部9の動作指令に基づき、最小開口状態となる方向に遮蔽板42を移動させる。
【0055】
<熱音響装置の作用と効果>
以上に説明したように、本実施形態に係る熱音響装置10は、作動流体が封入されているループ管11と、ループ管11内に設けられ、軸方向に延びる複数の微細流路31を有する第2スタック30と、軸方向と交差する管断面方向に開口Ap1を形成し、開口Ap1の面積を調整する調整部40と、を備え、調整部40は、開口Ap1の面積を調整することで、複数の微細流路31の少なくとも一部を塞ぐ状態(最小開口状態)と、開放する状態(最大開口状態)とに切り替える。
【0056】
本実施形態に係る熱音響装置10によれば、調整部40により開口Ap1の面積を調整することで、第2スタック30の出力熱量(冷熱)を調整することができる。このため、ループ管11、第1スタック20及び第2スタック30の機械的な構造により一意に決まっている入力熱量に対する出力熱量を、調整部40により容易に調整することができる。この結果、熱音響装置10の外部(例えば、熱音響装置10と冷却対象80との間)に熱量の制御装置を接続する必要がなく、熱音響装置10及び冷却対象80を含むシステム全体の構成が大きくなることを抑制することができる。
【0057】
図5は、遮蔽板42による遮蔽の効果を示す説明図である。
図5(a)は、第2スタック30において熱音響現象(音エネルギーを熱エネルギーに変換する現象)が生じている際の管断面方向の作動流体の振動の振幅分布を示すグラフである。
図5(a)の横軸は第3配管14の管断面方向(半径方向)の位置であり、横軸の原点は第3配管14の中心C1である。また、
図5(a)の縦軸は第3配管14内に発生する作動流体の振動の振幅を示す。
【0058】
図5(a)において、第3配管14の半径は、「r1」である。また、
図5(a)において、調整部40は最大開口状態と最小開口状態の間の状態であり、開口Ap1の内半径は「r2」である。開口Ap1の内径の中心は、第3配管14の中心C1と一致しており、開口Ap1の内半径r2は、第3配管14の半径r1よりも小さい。
【0059】
図5(a)に示すように、熱音響現象時、第3配管14の配管壁(±r1)近傍では、作動流体の振動の振幅はゼロに近くなる。また、領域Re2に示すように、第3配管14の配管壁から中心C1に向かうにつれて、当該振幅は増加する。そして、中心C1付近の領域Re1では、当該振幅はほぼ一定となる。すなわち、音響エネルギーは、中心C1に近いほど、安定している。
【0060】
本実施形態に係る調整部40は、開口Ap1の少なくとも一部を形成する遮蔽板42を有する。遮蔽板42は、ループ管11内を管断面方向に移動可能に設けられている。また、遮蔽板42は、ループ管11の周縁部側から中心C1へ移動することで、開口Ap1の面積を狭くする。すなわち、遮蔽板42は、音響エネルギーが比較的安定している中心C1の開口状態を維持しつつ、音響エネルギーが比較的不安定な周縁部側から微細流路31を塞ぐように移動することで、開口Ap1の面積を狭くする。このように構成することで、遮蔽板42の移動により出力熱量を調整する際、不安定な領域Re2の微細流路31を塞ぎ、より安定している領域Re1の微細流路31を開放することで、より安定的に出力を取り出すことができる。
【0061】
図5(b)は、第2スタック30において熱音響現象が生じている際の管断面方向の第2スタック30の第2端部33における温度分布を示すグラフである。
図5(b)の横軸は、
図5(a)と同様に、第3配管14の管断面方向(半径方向)の位置である。
図5(b)の縦軸は第2端部33の温度を示す。
【0062】
図5(b)に示すように、熱音響現象時、第3配管14の配管壁(±r1)近傍では、第3配管14の外部へ第2端部33の熱が放出されるため、第2端部33の温度が低くなっている。また、第3配管14の配管壁から中心C1に向かうにつれて、当該温度は増加し、中心C1付近において当該温度は最も高くなる。このため、第1端部32と第2端部33の間の温度勾配は、第3配管14の配管壁(±r1)近傍で低くなり、中心C1付近において最も高くなる。すなわち、中心C1に近いほど、第2スタック30はループ管11の外部からの影響を受けにくく、熱音響ヒートポンプとして安定して機能する。
【0063】
本実施形態に係る調整部40は、遮蔽板42が周縁部側から中心C1へ移動することで、開口Ap1の面積を狭くする。このように構成することで、遮蔽板42の移動により出力熱量を調整する際、外部からの影響を受けやすい(すなわち、ノイズの多い)領域Re2の微細流路31を塞ぎ、よりノイズの少ない領域Re1の微細流路31を開放することで、より安定的に出力を取り出すことができる。
【0064】
また、本実施形態に係る調整部40は、複数の遮蔽板42としてそれぞれ絞り羽根を用い、レバー44により複数の遮蔽板42をそれぞれ周方向及び径方向を含む斜め方向に移動させながら、複数の遮蔽板42により形成される内周面を周縁部から中心C1へ移動することで、開口Ap1の面積を狭くする。このように、遮蔽板42として複数の遮蔽板42を用いるため、最大開口状態時に遮蔽板42を収容する枠体41の管断面方向の大きさを、1枚の遮蔽板42を用いる場合と比べ、小型化することができる。これにより、枠体41及び遮蔽板42を収容する収容部分14aを小型化することができ、熱音響装置10の大型化を抑制することができる。
【0065】
また、本実施形態に係る調整部40の開口AP1は、基準熱源60と熱的に接続する第2高温側熱交換器34と、第2スタック30との間に形成されている。第2高温側熱交換器34は、基準熱源60により第2基準温度Tr2に維持されているため、第2高温側熱交換器34と隣接する調整部40の温度も、ほとんど一定に維持される。このため、調整部40は温度変化に伴う熱膨張等の影響を受けにくく、より安定的に第2スタック30の出力を調整することができる。
【0066】
また、本実施形態に係る熱音響装置10は、冷却対象80の冷却温度を検出する温度センサ81をさらに備え、調整部40は、温度センサ81により検出される冷却温度に応じて、開口Ap1の面積を調整する。このように構成することで、調整部40は冷却温度に対してフィードバック制御を行うことができるため、より精密に冷却対象80の冷却温度を制御することができる。
【0067】
また、調整部40は、磁力により遮蔽板42を移動させる操作部43を有する。操作部43は、ループ管11の外部に設けられている。このように構成することで、ループ管11内の気密性を維持しつつ、開口Ap1の面積を調整することができる。これにより、ループ管11外へ作動流体が漏出することを防止でき、熱音響現象を安定的に生じさせつつ、調整部40により出力を調整することができる。
【0068】
<変形例>
以上、本発明の実施形態に係る熱音響装置を説明した。しかしながら、本発明の実施に関してはこれに限られず、種々の変形を行うことができる。以下、本発明の変形例について、説明する。なお、以下の説明において、実施形態から変更のない部分については同じ符号を付し、説明を適宜省略する。
【0069】
<第1変形例>
図6は、第1変形例に係る熱音響装置10aを示す概略構成図である。本変形例において、調整部40は、第1スタック20と第1低温側熱交換器25の間に設けられている点で、上記の実施形態と相違し、その他の点では共通する。
【0070】
第1変形例に係る調整部40は、開口Ap1の面積を調整することで、第1スタック20の複数の微細流路21の少なくとも一部を塞ぐ状態と、開放する状態とに切り替える。調整部40により塞がれている微細流路21では作動流体の振動が生じないため、調整部40により第1スタック20の振動を調整することができる。その結果、第2スタック30へ伝わる振動を調整でき、第2スタック30において生じる温度勾配を調整することができる。このため、第1変形例に係る調整部40は、第2スタック30における出力熱量(冷熱)を調整することができる。
【0071】
また、第1変形例に係る調整部40の開口Ap1は、基準熱源50と熱的に接続する第1低温側熱交換器25と、第1スタック20との間に形成されている。第1低温側熱交換器25は、基準熱源50により第1基準温度Tr1に維持されているため、第1低温側熱交換器25と隣接する調整部40の温度も、ほとんど一定に維持される。このため、調整部40は温度変化に伴う熱膨張等の影響を受けにくく、より安定的に第2スタック30の出力を調整することができる。
【0072】
<第2変形例>
図7は、第2変形例に係る熱音響装置の内部構成を示す模式図である。
図7は、
図2と同様の領域S1における内部構成を示している。本変形例において、第2スタック30は、軸方向他方側の分割スタック30aと、軸方向一方側の分割スタック30bと、に分割されている。また、本変形例に係る調整部40の開口Ap1は、隣接する分割スタック30a、30bの間に設けられている。より具体的には、調整部40の遮蔽板42は、分割スタック30aの軸方向一方側の第1端部32aと対向し、かつ分割スタック30bの軸方向他方側の第2端部33bと対向している。
【0073】
分割スタック30aに含まれている複数の微細流路31aと、分割スタック30bに含まれている複数の微細流路31bの数及び形状は同じであり、複数の微細流路31a、31bは軸方向に1個ずつ対応して配置されている。調整部40は、分割スタック30a、30bの間において、開口Ap1の面積を調整することで、複数の微細流路31a、31bの少なくとも一部をそれぞれ塞ぐ状態と、それぞれ開放する状態とに切り替える。塞がれている微細流路31a、31bにおいて、作動流体の振動は生じないため、本実施形態に係る調整部40は、第2スタック30において生じる温度勾配を調整することができる。
【0074】
また、本変形例に係る調整部40の開口Ap1は、分割スタック30a、30bの間に設けられているため、上記の実施形態と比べて、分割スタック30bの軸方向一方側の第1端部32bと第2高温側熱交換器34との距離をより近くすることができる。例えば、第2高温側熱交換器34の管内部分を第1端部32bに接触させることができる。このため、より効率的に基準熱源60の温度を第1端部32bへ伝えることができ、より効率的に熱音響装置を稼働させることができる。
【0075】
<第3変形例>
図8は、第3変形例に係る調整部40aの管断面方向の断面を示す模式図である。
図8は、調整部40aにより形成される開口Ap2を最小としたときの断面を示している(最小開口状態)。
図9は、
図8と同じ断面において、調整部40aにより形成される開口Ap2を最大としたときの断面を示している(最大開口状態)。
【0076】
調整部40aは、枠体41aと、2枚の遮蔽板42aと、2個の操作部43aと、2個のレバー44aとを有する。枠体41a、2枚の遮蔽板42a及び2個のレバー44aは、収容部分14aに収容されている。上記の実施形態に係る遮蔽板42は、6枚以上の絞り羽根であり、レバー44により第3配管14の周方向及び径方向を含む斜め方向に移動することで、開口Ap1を調整する。本変形例では、遮蔽板42に代えて、径方向にのみ移動する遮蔽板42aを用いる。
【0077】
2枚の遮蔽板42aは、それぞれ管断面方向に半円状又は長方形状(
図8及び
図9の例では、長方形状)の断面形状を有する板状部材である。2枚の遮蔽板42aは、互いの弦又は辺となる部分を対向させた状態で、それぞれ枠体41aに支持されている。2個のレバー44aは、2枚の遮蔽板42aとそれぞれ接続しており、遮蔽板42aをそれぞれ管断面方向のうち第3配管14の径方向に移動する。
【0078】
2個のレバー44aは、2個の操作部43aとそれぞれ磁力により引き合うように構成されている。操作部43aは、制御部9の動作指令により収容部分14aの外周面に沿って移動するアクチュエータを含む。
図8及び
図9に示すように、操作部43aが収容部分14aの外周面に沿って移動すると、磁力によりレバー44aも移動する。
【0079】
図9に示すように、最大開口状態のとき、遮蔽板42aは枠体41aに完全に収容され、管断面方向の開口Ap2は、枠体41aの内周面により形成されている。この状態から、
図8に示すように、2個のレバー44aがループ管11(具体的には、第3配管14)の径方向内側へそれぞれ移動すると、遮蔽板42aがループ管11の管断面方向の周縁部から中心C1へ移動することで、開口Ap2が狭くなる。
図8の状態において、開口Ap2は遮蔽板42aの内周面及び枠体41aの内周面の両方により形成されている。
【0080】
なお、本変形例では、2個の操作部43a及び2個のレバー44aを用いるが、例えばカム及びピンを用いて2個のレバー44aを連結し、1個の操作部43aにより2個のレバー44aを操作するように構成してもよい。
【0081】
<第4変形例>
図10は、第4変形例に係る調整部40bの管断面方向の断面を示す模式図である。
図10は、調整部40bにより形成される開口Ap3を最小としたときの断面を示している(最小開口状態)。
図11は、
図10と同じ断面において、調整部40bにより形成される開口Ap3を最大としたときの断面を示している(最大開口状態)。
【0082】
調整部40bは、枠体41bと、2枚の遮蔽板42bと、2個の操作部43bと、2個のレバー44bとを有する。枠体41b、2枚の遮蔽板42b及び2個のレバー44bは、収容部分14aに収容されている。本変形例では、第3変形例の遮蔽板42aに代えて、くし形状を有する遮蔽板42bを用いる。
【0083】
2枚の遮蔽板42bは、それぞれ管断面方向に矩形凸状の「歯」と、矩形凹状の「溝」とが交互に配列するくし状の断面形状を有する板状部材である。歯及び溝の幅は、1個の微細流路31の管断面方向の幅よりもそれぞれ大きい。2枚の遮蔽板42bは、歯及び溝を互い違いに対向させた状態で、それぞれ枠体41bに支持されている。2個のレバー44bは、2枚の遮蔽板42bとそれぞれ接続しており、遮蔽板42bをそれぞれ管断面方向のうち第3配管14の径方向に移動する。2個の操作部43bは磁力により2個のレバー44bをそれぞれ操作する。
【0084】
図11に示すように、最大開口状態のとき、遮蔽板42bは枠体41bに完全に収容され、管断面方向の開口Ap3は、枠体41bの内周面により形成されている。この状態から、
図10に示すように、2個のレバー44bがループ管11(具体的には、第3配管14)の径方向内側へそれぞれ移動すると、遮蔽板42bがループ管11の管断面方向の周縁部から中心C1へ移動することで、開口Ap3が狭くなる。
図10の状態において、開口Ap3は、2枚の遮蔽板42bの複数の歯及び複数の溝にそれぞれ囲まれることで、複数領域に形成されている。また、一部の開口Ap3は、遮蔽板42bの及び枠体41bの内周面の両方により形成されている。
【0085】
本変形例では、上記の実施形態と同様に、遮蔽板42bがループ管11の管断面方向の周縁部から中心C1へ移動する。しかしながら、上記の実施形態では、中心C1に位置する微細流路31は遮蔽板42により塞がれないか、又は中心C1に位置する微細流路31が塞がれる場合には開口Ap1の面積がゼロになる。すなわち、最大開口状態から最小開口状態へ遷移する際、中心C1に位置する微細流路31は最後に塞がれている。
【0086】
これに対し、本変形例では、
図10に示すように、最小開口状態において遮蔽板42bの歯により開口Ap3が形成されている状態で中心C1に位置する微細流路31が塞がれている。このような構成であっても、調整部40bにより開口Ap3の面積を調整することで、第2スタック30の出力熱量(冷熱)を調整することができる。
【0087】
<第5変形例>
図12は、第5変形例に係る熱音響装置の内部構成を示す模式図である。
図12は、
図2と同様の領域S1における内部構成を示している。本変形例では、上記の実施形態に係る調整部40に代えて、調整部40cを用いる。調整部40cは、枠体41cと、遮蔽板42cと、電源部43cと、電動部44cと、配線45とを有する。枠体41c、遮蔽板42c、及び電動部44cは、収容部分14aに収容されている(すなわち、ループ管11内に設けられている)。電源部43cは、ループ管11の外部に設けられている。
【0088】
配線45は、収容部分14aを径方向に貫通する貫通孔に設けられ、電動部44cと電源部43cとを電気的に接続している。当該貫通孔は、配線45により塞がれており、第3配管14の内部は密閉された領域となっている。なお、当該貫通孔は、配線45に加えて、シーリング材により塞がれていてもよい。枠体41c及び遮蔽板42cは、上記の実施形態に係る枠体41及び遮蔽板42と同様の構成を有する。開口Ap4は、枠体41c及び遮蔽板42cの少なくとも一方により形成されている開口である。
【0089】
上記の実施形態に係る操作部43とレバー44は、磁力により引き合うように構成され、操作部43とレバー44とが非接触の状態で、操作部43の移動に伴い、レバー44が移動する。これに対し、本変形例に係る電動部44cは、遮蔽板42cと連結し、電力により遮蔽板42cを移動させる部材である。電動部44cは、例えばモーターを含む。電源部43cは配線45を介して電動部44cへ電力を供給する。
【0090】
本変形例に係る調整部40cによれば、電源部43cが電動部44cへ電力を供給し、電動部44cが当該電力により遮蔽板42cを移動させることができる。このため、収容部分14aの内部の気密性を維持しつつ、収容部分14aの外部から、収容部分14aの内部に位置する遮蔽板42cを移動させることができる。
【0091】
なお、電源部43cとして例えば電池を用いる場合、電源部43c及び電動部44cを両方ともループ管11内に収容するように構成してもよい。この場合、電動部44cは例えば無線通信によりループ管11の外部から制御される。このように構成することで、ループ管11を貫通する配線45を設ける必要がなくなり、収容部分14aの気密性をさらに高めることができる。
【0092】
以上のとおり開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。つまり、本発明の熱音響装置は、図示する形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであってもよい。
【符号の説明】
【0093】
10、10a 熱音響装置 11 ループ管 12 第1配管
13 第2配管 14 第3配管 14a 収容部分
20 第1スタック 21 微細流路 22 第1端部
23 第2端部 24 第1高温側熱交換器
25 第1低温側熱交換器 30 第2スタック
30a、30b 分割スタック 31、31a、31b 微細流路
32、32a、32b 第1端部 33、33a、33b 第2端部
34 第2高温側熱交換器 35 第2低温側熱交換器
40、40a、40b、40c 調整部
41、41a、41b、41c 枠体
42、42a、42b、42c 遮蔽板
43、43a、43b 操作部 44、44a、44b レバー
43c 電源部 44c 電動部 45 配線
50 基準熱源 60 基準熱源 70 熱源
80 冷却対象 81 温度センサ 9 制御部
Tr1 第1基準温度 Tr2 第2基準温度 C1 中心
Ap1、Ap2、Ap3、Ap4 開口