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  • 特許-ガラス組成物及び封着材料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】ガラス組成物及び封着材料
(51)【国際特許分類】
   C03C 8/02 20060101AFI20241029BHJP
   C03C 8/24 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
C03C8/02
C03C8/24
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020166642
(22)【出願日】2020-10-01
(65)【公開番号】P2022059118
(43)【公開日】2022-04-13
【審査請求日】2023-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 将行
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-031403(JP,A)
【文献】特開2019-001692(JP,A)
【文献】特開2019-123637(JP,A)
【文献】特開2019-206458(JP,A)
【文献】特開2020-117421(JP,A)
【文献】特開2020-040848(JP,A)
【文献】特開2020-059615(JP,A)
【文献】特開2021-035896(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 - 14/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成として、下記酸化物基準のモル%で、TeO 40~85%、MoO 0~20%、LiO+NaO+KO 1~20%、MgO+CaO+SrO+BaO 1~20%、MnO+Cr+Fe+Co 0.1~8%を含有するガラス組成物からなるガラス粉末とセラミック粉末とを含有する封着材料であって、
ガラス粉末の含有量が60~100質量%、セラミック粉末の含有量が0~40質量%であり、
通信用同軸コネクタ端子の封着に用いることを特徴とする封着材料
【請求項2】
実質的にセラミック粉末を含まないことを特徴とする請求項に記載の封着材料。
【請求項3】
顆粒形状であることを特徴とする請求項又はに記載の封着材料。
【請求項4】
焼結体であることを特徴とする請求項又はに記載の封着材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス組成物及び封着材料に関し、特に通信用途等に使用される同軸コネクタ端子の封着に好適なガラス組成物及び封着材料に関する。
【背景技術】
【0002】
通信用途の同軸コネクタ端子は、外殻と中心導体の絶縁性を維持するために、金属シェルと金属ピンを樹脂やガラス等の絶縁体で封着することにより作製される。特に、高い信頼性や耐熱性を求められる品種では、絶縁体にガラス粉末を含む封着材料が用いられる。
【0003】
封着材料は、以下のようにして作製、使用される。まずガラス原料を溶融、成形し、成形後のガラスをボールミルで粉砕した後、所定の篩を通過させることによって微粉のガラス粉末にし、得られたガラス粉末に対して、必要に応じてセラミック粉末を添加、混合して、粉末材料(封着材料)とする。次いで、この粉末材料をバインダーと混合して造粒し、顆粒を作製する。その後、この顆粒を打錠成型して貫通孔を有する圧粉体を作製し、これを常温から昇温して、バインダーの分解除去と焼結を行い、焼結体とする。次に、得られた焼結体の貫通孔に金属ピンを挿入し、更にこの焼結体を環状の金属シェル内に収容した後、電気炉に投入し、不活性雰囲気下において、作業点より高い温度で固着した後、室温まで冷却する。
【0004】
ガラス粉末を作業点以上まで加熱すると、十分な流動性が得られる。これにより、金属部材と封着材料の間に過分な空隙を生ずることなく密着させることができ、同軸コネクタ端子の気密信頼性を高めることができる。なお、ガラス粉末の作業点は一般的に900℃以上であるため、封着時の焼成温度は一般的に900℃以上である。また、金属シェル及び金属ピンの融点は一般的に1400℃以上である。
【0005】
図1(a)は、同軸コネクタ端子1を示す概念図であり、同軸コネクタ端子1は、金属シェル11、金属ピン12及び封着材料13を有している。図1(b)は、図1(a)の同軸コネクタ端子1の要部について、焼成前の金属シェル11、金属ピン12及び封着材料13の状態を示す概念図であり、図1(c)は、図1(a)の同軸コネクタ端子1の要部について、焼成後の金属ステム11、金属ピン12及び封着材料13の状態を示す概念図である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-175069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、通信用の同軸コネクタでは嵌合時の密着度を向上させて信号の伝達効率を高めるために、金属ピンに対して高いバネ性が求められることがある。この場合、金属ピンには、一般的に、リン青銅、黄銅、ベリリウム銅等が用いられる。そして、これらの金属の融点は通常900℃以下であり、また熱膨張係数は160~190×10-7/℃である。
【0008】
しかし、従来の封着材料では、900℃以下の温度で流動性が低く、これらの金属を金属ピンに用いた場合に気密信頼性を確保できなかった。このため、絶縁体として樹脂を用いなければならず、耐熱性や気密信頼性を確保が困難であった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、その技術的課題は、900℃以下の温度で良好に流動し得るガラス組成物及び封着材料を提供することにより、通信用同軸コネクタ端子等の気密信頼性を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、種々の実験を繰り返した結果、TeOを主成分とするガラスを用いることにより、上記技術的課題を解決し得ることを見出し、本発明として、提案するものである。本発明のガラス組成物は、ガラス組成として、下記酸化物基準のモル%で、TeO 40~85%、MoO 0~20%、LiO+NaO+KO 1~20%、MgO+CaO+SrO+BaO 1~20%、MnO+Cr+Fe+Co 0.1~8%を含有することを特徴とする。このようにすれば、作業点が900℃以下、特に850℃以下に低下させることができる。その結果、バネ性が高い金属部材の封着材料として好適に用いることができる。ここで、「下記酸化物基準」とは、多価酸化物の場合に、成分の価数に依らず、表記の酸化物に換算して表記するものとする。例えば、酸化鉄は、FeOやFe等があるが、本発明では、Feの価数に依らず、「Fe」に換算して表記するものとする。「LiO+NaO+KO」は、LiO、NaO及びKOの合量を指す。「MgO+CaO+SrO+BaO」は、MgO、CaO、SrO及びBaOの合量を指す。「MnO+Cr+Fe+Co」は、MnO、Cr、Fe及びCoの合量を指す。
【0011】
本発明の封着材料は、上記のガラス組成物からなるガラス粉末とセラミック粉末とを含有する封着材料であって、ガラス粉末の含有量が60~100質量%、セラミック粉末の含有量が0~40質量%であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の封着材料では、実質的にセラミック粉末を含まないことが好ましい。ここで、「実質的にセラミック粉末を含まない」は、封着材料中のセラミック粉末の含有量が0.1質量%未満であることを意味する。
【0013】
また、本発明の封着材料では、顆粒形状であることが好ましい。
【0014】
また、本発明の封着材料では、焼結体であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】(a)は、同軸コネクタ端子を示す概念図である。(b)は、焼成前の金属シェル、金属ピン及び封着材料の状態を示す概念図であり、(c)は、焼成後の金属シェル、金属ピン及び封着材料の状態を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のガラス組成物は、ガラス組成として、下記酸化物基準のモル%で、TeO 40~85%、MoO 0~20%、LiO+NaO+KO 1~20%、MgO+CaO+SrO+BaO 1~20%、MnO+Cr+Fe+Co 0.1~8%を含有する。上記のように各成分の含有量を限定した理由を下記に説明する。なお、各成分の含有量の説明箇所において、%表示は、モル%を指す。
【0017】
TeOは、ガラス骨格を形成するための主成分であり、その含有量は40~85%であり、好ましくは55~80%、より好ましく60~75%である。TeOの含有量が少なくなると、作業点が高くなり過ぎる虞がある。一方、TeOの含有量が多くなると、ガラスの安定性を維持し難くなる。
【0018】
MoOは、ガラスを安定化させる成分であり、その含有量は0~20%であり、好ましくは6~15%、より好ましくは8~12%である。MoOの含有量が多くなると、溶融時にガラス化し難くなる。
【0019】
アルカリ金属酸化物(LiO、NaO、KO)は、溶融性を高めると共に、固着温度を低下させる成分である。LiO+NaO+KOの含有量は1~20%であり、好ましくは2~17%、より好ましくは3~13%である。LiOの含有量は、好ましくは0~10%、より好ましくは0.1~8%、更に好ましくは1~5%である。NaOの含有量は、好ましくは0~10%、より好ましくは0.1~8%、更に好ましくは1~5%である。KOの含有量は、好ましくは0~10%、より好ましくは0.1~8%、更に好ましくは1~5%である。アルカリ金属酸化物の含有量が少なくなると、溶融性が低下し、また固着温度が高くなり、封着時に金属部材との間に応力が残留し易くなる。一方、アルカリ金属酸化物の含有量が多くなると、耐水性が低下し易くなる。
【0020】
アルカリ土類金属酸化物(MgO、CaO、SrO、BaO)は、ガラスを安定化させる成分であり、その含有量の合量は1~20%、好ましくは3~15%、特に好ましくは5~12%である。MgOの含有量は、好ましくは0~10%、より好ましくは0~5%、更に好ましくは0~2%である。CaOの含有量は、好ましくは0~12%、より好ましくは1~9%、更に好ましくは3~7%である。SrOの含有量は、好ましくは0~10%、より好ましくは0~5%、更に好ましくは0~2%である。BaOの含有量は、好ましくは0~12%、より好ましくは0.1~7%、更に好ましくは1~5%である。アルカリ土類金属酸化物の含有量が少なくなると、不安定なガラス構造になり、ガラスを溶融し難くなる。一方、アルカリ土類金属酸化物の含有量が多くなると、溶融時にガラス化し難くなる。
【0021】
MnO、Cr、Fe及びCoは、ガラスと金属部材の密着性を高める成分である。MnO+Cr+Fe+Coの含有量は0.1~8%、好ましくは0.3~7%、より好ましくは0.5~6%、更に好ましくは1.5~5%である。MnOの含有量は、好ましくは0~7%、より好ましくは0~5%、更に好ましくは0.1~3%である。Crの含有量は、好ましくは0~7%、より好ましくは0~5%、更に好ましくは0.1~3%である。Feの含有量は、好ましくは0~7%、より好ましくは0~5%、更に好ましくは0.1~3%である。Coの含有量は、好ましくは0~7%、より好ましくは0~5%、更に好ましくは0.1~3%である。これらの成分の含有量が少なくなると、ガラスと金属部材の密着性が不足して、同軸コネクタ端子等の気密信頼性が低下し易くなる。一方、これらの成分の含有量が多くなると、ガラス中に失透ブツが発生する虞がある。
【0022】
本発明の封着材料は、上記のガラス組成物からなるガラス粉末とセラミック粉末とを含有する封着材料であって、ガラス粉末の含有量が60~100質量%、セラミック粉末の含有量が0~40質量%であることが好ましく、ガラス粉末の含有量が80~100質量%、セラミック粉末の含有量が0~20質量%であることがより好ましく、ガラス粉末の含有量が95~100質量%、セラミック粉末の含有量が0~5質量%であることが更に好ましく、ガラス粉末の含有量が99.9超~100質量%、セラミック粉末の含有量が0~0.1質量%未満であること、つまりセラミック粉末を実質的に含まないことが特に好ましい。ガラス粉末が少なくなると、焼成時に封着材料が流動し難くなる。
【0023】
セラミック粉末は、種々の材料を使用可能であるが、封着材料を高膨張化する観点から、コーディエライト、クリストバライト、トリジマイト、フッ化カルシウムの何れが好ましい。
【0024】
本発明の封着材料において、温度範囲30℃~380℃での熱膨張係数は、好ましくは150×10-7~200×10-7/℃、より好ましくは160×10-7~190×10-7/℃、更に好ましくは165×10-7~185×10-7/℃である。熱膨張係数が高過ぎると、同軸コネクタ端子の作製後に、封着材料が金属シェルによって十分に圧縮された状態にならず、封着強度を維持し難くなる。一方、熱膨張係数が低過ぎると、同軸コネクタ端子の作製後に、封着材料が金属ピンによって過度に引っ張られた状態になり、金属ピンとの界面において、封着材料にクラックが発生し易くなる。なお、「熱膨張係数」は、押棒式熱膨張係数測定装置(TMA)で測定した平均線熱膨張係数を指す。
【0025】
本発明の封着材料において、作業温度は、好ましくは900℃以下、より好ましくは850℃以下、更に好ましくは820℃以下、特に好ましくは800℃以下である。作業温度が高過ぎると、バネ性が高い金属部材の融点を上回る温度で封着しなければ流動性を確保できず、同軸コネクタ端子の気密信頼性が低下し易くなる。なお、「作業温度」は、高温粘度が1×107.6poiseになる温度を指す。
【0026】
本発明の封着材料は、顆粒形状であることが好ましい。このようにすれば、打錠成型により、所定形状の圧粉体、特に金属ピンを通すための貫通孔を有する圧粉体を容易に作製することができる。
【0027】
本発明の封着材料は、焼結体であることが好ましい。このようにすれば、金属ピンを挿入した後、金属シェル内に収容する際に、封着材料の欠けを防止することができる。
【0028】
焼結体の焼結密度は、好ましくは82%以上、85%以上、88%以上、92%以上、特に95~99%である。焼結体の封着密度は、焼結体中の泡の割合を反映している。焼結密度が小さい程、焼結体中の泡の割合が大きくなり、封着不良が発生し易くなる。ここで、「焼結密度」は、{(焼結体の密度)/(泡なしのガラスバルクの密度)}×100の式で算出した値を指す。
【実施例1】
【0029】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、以下の実施例は単なる例示である。本発明は、以下の実施例に何ら限定されない。
【0030】
表1は、本発明の実施例(試料No.1~3)及び比較例(試料No.4、5)を示している。
【0031】
【表1】
【0032】
まず表中のガラス組成になるように、ガラス原料を調合したガラスバッチを白金坩堝に入れ、900℃で2時間溶融した。ガラスバッチの溶解に際しては、白金スターラーを用いて攪拌し、均質化を行った。次いで、溶融ガラスをカーボン板上に流し出し、フィルム上または板状に成形した。板状試料については、徐冷点より20℃程度高い温度から、3℃/分で常温まで徐冷した。
【0033】
熱膨張係数は、30~380℃の温度範囲において、押棒式熱膨張係数測定装置(TMA)で測定した平均線熱膨張係数である。
【0034】
作業温度は、板状試料を用いて、白金球引き上げ法により測定されたガラス粘性より算出したものであり、高温粘性が107.6poiseになる温度である。
【0035】
次に、フィルム状ガラス試料を平均粒径D50=20~30μmに粉砕、分級して、ガラス粉末を得た。必要に応じて、セラミック粉末(試料No.3ではコーディエライトを使用)を表中に記載の割合で添加して、複合粉末を得た。
【0036】
密着性は、得られた粉末試料を圧粉体としてボタン状に成型し、黄銅製の板の上に置いて作業温度で15分間焼成した後に室温まで冷却し、得られた焼結体が指の力で剥がれない場合を「○」、剥がれる場合を「×」として、評価したものである。
【0037】
表1から明らかなように、試料No.1~3は、作業温度が819℃以下であり、密着性の評価も良好であった。よって、試料No.1~3は、同軸コネクタ端子の封着に使用する際に良好な気密信頼性が得られるものと考えられる。一方、試料No.4では作業温度が868℃であった。試料No.5では密着性の評価で焼結体に失透が認められた。よって、試料No.4、5は、同軸コネクタ端子の封着に使用する際に良好な気密信頼性が得られないものと考えられる。
【実施例2】
【0038】
試料No.1に係るガラス粉末に対して、セラミック粉末(コーディエライトを使用)を表中に記載の割合で添加して、試料No.6に係る複合粉末を得た。試料No.6に対して、上記の通り、熱膨張係数、作業温度及び密着性の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
表2から明らかなように、試料No.1は、密着性の評価が良好であった。一方、試料No.6では密着性の評価で焼結体が流動しなかった。よって、試料No.6は、同軸コネクタ端子の封着に使用する際に良好な気密信頼性が得られないものと考えられる。
【符号の説明】
【0041】
1 同軸コネクタ端子
11 金属ステム
12 金属ピン
13 封着材料
図1