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特許7577963電池用セパレータ、電極体、非水電解質二次電池、及び電池用セパレータの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】電池用セパレータ、電極体、非水電解質二次電池、及び電池用セパレータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/451 20210101AFI20241029BHJP
   H01M 50/417 20210101ALI20241029BHJP
   H01M 50/443 20210101ALI20241029BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20241029BHJP
   H01M 50/446 20210101ALI20241029BHJP
   H01M 50/463 20210101ALI20241029BHJP
   H01M 50/46 20210101ALI20241029BHJP
   H01M 50/403 20210101ALI20241029BHJP
【FI】
H01M50/451
H01M50/417
H01M50/443 M
H01M50/434
H01M50/443 E
H01M50/443 B
H01M50/446
H01M50/463 A
H01M50/46
H01M50/403 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020172967
(22)【出願日】2020-10-14
(65)【公開番号】P2022064377
(43)【公開日】2022-04-26
【審査請求日】2023-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】薮▲さき▼ 拓真
(72)【発明者】
【氏名】辻本 潤
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-160792(JP,A)
【文献】特開2017-152268(JP,A)
【文献】特開2010-238448(JP,A)
【文献】特開2019-133934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-50/497
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン微多孔膜と、
前記ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも一方の面に積層された多孔層と、を備える電池用セパレータであって、
多孔層は有機粒子と、耐熱粒子を含み、
前記有機粒子はポリエチレンであり、
前記有機粒子は融点が60℃以上、90℃以下であり、
走査型電子顕微鏡を用いて前記多孔層の断面を観察し、耐熱粒子の存在する一方の面について耐熱粒子層の厚みが1.5μm以上、5.0μm以下であり、
前記耐熱粒子層の厚みに対する前記有機粒子の数平均粒径の倍率が1.1倍以上、2.0倍以下であり、
前記多孔層における有機粒子と耐熱粒子の合計100体積部に対して有機粒子を10体積部以上、40体積部以下含む、
電池用セパレータ。
【請求項2】
耐熱粒子がアルミナ、ベーマイトもしくは硫酸バリウムを含む請求項1に記載の電池用セパレータ。
【請求項3】
正極と、負極と、前記請求項1又は2に記載の電池用セパレータと、を備える電極体。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の電池用セパレータを用いた非水系二次電池。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の電池用セパレータの製造方法であって、以下の工程(a)~(e)を順次含む、電池用セパレータの製造方法。
(a)水を主成分とする溶媒に分散剤を添加後、更に耐熱粒子を添加して攪拌し、混合液を得る工程。
(b)前記混合液をビーズミル分散機にて分散処理を施し、マスターバッチ液を得る工程。
(c)前記マスターバッチ液に前記有機粒子、バインダーを添加し、更に、その他添加剤を添加してコーティング組成物を得る工程。
(d)ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面にコーティング組成物をコーティングする工程。
(e)前記コーティング後、溶媒をドライヤーで乾燥させ、多孔層を形成する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電池用セパレータ、電極体、非水電解質二次電池、及び電池用セパレータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池、中でも、リチウムイオン二次電池は、携帯電話や携帯情報端末等の小型電子機器に使用されて広く普及している。非水電解質二次電池の形態としては、例えば、円筒型電池、角型電池、ラミネート型電池等が挙げられる。一般に、これらの電池は、正極と負極とが電池用セパレータを介して配置された電極体と、非水電解液とが外装体に収納された構成を有する。電極体の構造としては、例えば、正極と負極とをセパレータを介して積層した積層電極体、正極と負極とを電池用セパレータを介して渦巻き状に巻回した巻回電極体などが挙げられる。
従来、電池用セパレータとしては、主にポリオレフィン樹脂からなる微多孔膜(ポリオレフィン微多孔膜ともいう)が使用されている。ポリオレフィン微多孔膜は、電解液含浸によりイオン透過性を有し、電気絶縁性、耐電解液性及び耐酸化性に優れ、電池の異常発熱時に120~150℃程度の温度においてセパレータの細孔を閉塞することにより、電流の流れを遮断して、発火などを防ぐことができる。 近年、電池用セパレータにおいて、ポリオレフィン微多孔膜の一方又は両方の面に機能層を設けることで安全性を向上させる試みがなされている。
【0003】
例えば特許文献1には、多孔膜の少なくとも片面に、無機フィラーと樹脂バインダーとを含む多孔層を備えることで140℃における熱収縮率を5.0%未満に抑制し、高い安全性を備えた非水電解液電池を提供することができるとの記載がある。
又、特許文献2には、ポリオレフィン系多孔フィルムの少なくとも片面に、セルロース系樹脂と無機粒子と融点が100~140℃の熱可塑性樹脂粒子を含む粒子含有層を設けることで耐熱性に加えて多孔膜のシャットダウン温度を低温化し、優れた電池性能と安全性を両立できることが提案されている。
【0004】
他方、リチウムイオン二次電池は充放電に伴う電極の膨潤・収縮によりセパレータと電極の界面での部分的な遊離が起こりやすい。その結果、電池の膨れ、電池内部の抵抗増大、サイクル性能の低下に繋がる。そのため、電解液を注入後の電池内での電極との接着性を発揮する電池用セパレータが近年提案されている。例えば、特許文献3には無機粒子と、電解液に対して膨潤可能なコアシェル構造を有する有機粒子を含有する非水系二次電池機能層用組成物を電池用セパレータに用いることで、保護機能と有機粒子の膨潤に伴う電極への接着機能を同時に発現させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-195564号公報
【文献】特開2011-168048号公報
【文献】WO2016/152026 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
リチウムイオン二次電池の製造工程において、捲回電極体の搬送性向上、歩留まり抑制のために電解液がない状態で電極と電池用セパレータを接着させる手法がある。そこで、電池用セパレータには従来の耐熱性に加えて電極との接着性(電解液が無い状態の接着であるためDRY接着性とも言う)が要求される。一方で、電極と電池用セパレータをDRY接着させ、その接着力が電解液注液後の電池内部でも維持されると、接着している電極活物質表面が塞がれた状態となり、リチウムイオンの移動が妨げられることで電池の出力特性低下に繋がる。
本発明は、上記課題を鑑みたものであり、耐熱性とDRY接着性の双方に優れ、且つ、電池の出力特性にも優れた電池用セパレータと電池用セパレータの製造方法、電池用セパレータを用いた電極体及び二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、耐熱粒子と特定の融点備えたポリエチレンからなる有機粒子を含む多孔層を備え、前記多孔層における有機粒子の比率、耐熱粒子層の厚み、および耐熱粒子層の厚みに対する有機粒子の平均粒径の倍率を鋭意検討することで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より詳しくは、ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも一方の面に耐熱粒子と、耐熱粒子層の厚み以上のポリエチレン粒子を用いて多孔層を構築することで、耐熱性とDRY接着性の双方を良好に発揮することができると共に、電解液注液後に接着性が喪失することで非水系二次電池に対して低抵抗を付与可能な電池用セパレータに関する。
すなわち、本発明は、以下の構成を有する。
(1)ポリオレフィン微多孔膜と、
前記ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも一方の面に積層された多孔層と、を備える電池用セパレータであって、
多孔層は有機粒子と、耐熱粒子を含み、
前記有機粒子はポリエチレンであり、
前記有機粒子は融点が60℃以上90℃以下であり、
走査型電子顕微鏡を用いて前記多孔層の断面を観察し、耐熱粒子の存在する一方の面について耐熱粒子層の厚みが1.5μm以上、5.0μm以下であり、
前記耐熱粒子層の厚みに対する前記有機粒子の平均粒径の倍率が1.1倍以上、2.0倍以下であり、
前記多孔層における有機粒子と耐熱粒子の合計100体積部に対して有機粒子が10体積部以上、40体積部以下である。
(2)耐熱粒子がアルミナ、ベーマイトもしくは硫酸バリウムを含む。
(3)正極と、負極と、前記(1)又は(2)に記載の電池用セパレータと、を備える電極体。
(4)前記(1)、又は(2)に記載の電池用セパレータを用いた非水系二次電池。
(5)前記(1)又は(2)に記載の電池用セパレータの製造方法であって、以下の工程(a)~(e)を順次含む、電池用セパレータの製造方法。
(a)水を主成分とする溶媒に分散剤を添加後、更に耐熱粒子を添加して攪拌し、混合液を得る工程。
(b)前記混合液をビーズミル分散機にて分散処理を施し、マスターバッチ液を得る工程。
(c)前記マスターバッチ液に前記有機粒子、バインダーを添加し、更に、その他添加剤を添加してコーティング組成物を得る工程。
(d)ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面にコーティング組成物をコーティングする工程。
(e)前記コーティング後、溶媒をドライヤーで乾燥させ、多孔層を形成する工程。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、耐熱性及び電極とセパレータとのDRY接着性に優れ、且つ、電池の出力特性に優れた電池用セパレータ、電池用セパレータを用いた電極体及び二次電池及び電池用セパレータの製造方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.電池用セパレータ
[ポリオレフィン微多孔膜]
本発明の実施形態におけるポリオレフィン微多孔膜の厚さは、電池用セパレータの機能を有する限りにおいて特に制限されるものではないが、25μm以下が好ましい。より好ましくは7μm以上、20μm以下であり、更に好ましくは9μm以上、16μm以下である。ポリオレフィン微多孔膜の厚さが25μm以下であると、実用的な膜強度と孔閉塞機能を両立させることができ、電池ケースの単位容積当たりの面積が制約されず、電池の高容量化に適する。
【0010】
ポリオレフィン微多孔膜の透気抵抗度は300sec/100ccAir以下が好ましい。より好ましくは200sec/100ccAir以下であり、更に好ましくは150sec/100ccAir以下である。好ましい下限は特に限定するものではない。透気抵抗度が300sec/100ccAir以下であると、十分な電池の充放電特性、特にイオン透過性(充放電作動電圧)及び電池の寿命(電解液の保持量と密接に関係する)において十分であり、電池としての機能を十分に発揮することができ、十分な機械的強度と絶縁性が得られることで充放電時に短絡が起こる可能性が低くなる。
【0011】
ポリオレフィン微多孔膜の空孔率は30%以上、70%以下が好ましい。より好ましくは35%以上、60%以下であり、更に好ましくは40%以上、55%以下である。空孔率が30%以上、70%以下であると、十分な電池の充放電特性、特にイオン透過性(充放電作動電圧)及び電池の寿命(電解液の保持量と密接に関係する)において十分であり、電池としての機能を十分に発揮することができ、十分な機械的強度と絶縁性が得られることで充放電時に短絡が起こる可能性が低くなる。
【0012】
ポリオレフィン微多孔膜を構成するポリオレフィン樹脂は特に制限されるものではないが、ポリエチレンやポリプロピレンが好ましい。又、単一物又は2種以上の異なるポリオレフィン樹脂の混合物、例えばポリエチレンとポリプロピレンとの混合物であってもよいし、異なるオレフィンの共重合体であってもよい。電気絶縁性、及びイオン透過性等の基本特性に加え、電池異常昇温時において、電流を遮断し、過度の昇温を抑制する孔閉塞効果を具備しているからである。
【0013】
中でも、ポリエチレンが優れた孔閉塞性能の観点から特に好ましい。以下、本発明で用いるポリオレフィン樹脂としてポリエチレンを例に詳述するが、本発明の実施形態はこれに限定されるものではない。
【0014】
ポリエチレンとしては、例えば、超高分子量ポリエチレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン及び低密度ポリエチレン等が挙げられる。又、重合触媒にも特に制限はなく、チーグラー・ナッタ系触媒やフィリップス系触媒やメタロセン系触媒等が挙げられる。これらのポリエチレンはエチレンの単独重合体のみならず、他のα-オレフィンを少量含有する共重合体であってもよい。エチレン以外のα-オレフィンとしてはプロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のエステル、スチレン等が好適である。
【0015】
ポリエチレンは単一物でもよいが、2種以上のポリエチレンからなる混合物であることが好ましい。ポリエチレン混合物としては重量平均分子量(Mw)の異なる2種類以上の超高分子量ポリエチレン同士の混合物、同様な高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン及び低密度ポリエチレンの混合物を用いてもよいし、超高分子量ポリエチレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン及び低密度ポリエチレンからなる群から選ばれる2種以上ポリエチレンの混合物を用いてもよい。
【0016】
ポリオレフィン微多孔膜は、充放電反応の異常時に孔が閉塞する機能を有することが必要である。従って、構成する樹脂の融点は70℃以上、150℃以下が好ましい。より好ましくは80℃以上、140℃以下、更に好ましくは100℃以上、130℃以下である。構成する樹脂の融点が70℃以上、150℃以下であると、正常使用時に孔閉塞機能が発現してしまって電池が使用不可になることがなく、又、異常反応時に孔閉塞機能が発現することで安全性を確保できる。
【0017】
[ポリオレフィン微多孔膜の製造方法]
ポリオレフィン微多孔膜の製造方法としては、所望の特性を有するポリオレフィン微多孔膜が製造できれば、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。ポリオレフィン微多孔膜の製造方法は、例えば、日本国特許第2132327号公報および日本国特許第3347835号公報、国際公開2006/137540号等に記載された方法を用いることができる。以下、ポリオレフィン微多孔膜の製造方法の一例について、説明する。尚、ポリオレフィン微多孔膜の製造方法は、下記の方法に限定されない。
【0018】
ポリオレフィン微多孔膜の製造方法は、下記の工程(1)~(5)を含むことができ、更に下記の工程(6)~(8)の少なくとも1つの工程を含むこともできる。
【0019】
(1)前記ポリオレフィン樹脂と成膜用溶剤とを溶融混練し、ポリオレフィン溶液を調製する工程
(2)前記ポリオレフィン溶液を押出し、冷却しゲル状シートを形成する工程
(3)前記ゲル状シートを延伸する第1の延伸工程
(4)前記延伸後のゲル状シートから成膜用溶剤を除去する工程
(5)前記成膜用溶剤除去後のシートを乾燥する工程
(6)前記乾燥後のシートを延伸する第2の延伸工程
(7)前記乾燥後のシートを熱処理する工程
(8)前記延伸工程後のシートに対して架橋処理及び/又は親水化処理する工程
以下、各工程についてそれぞれ説明する。
【0020】
(1)ポリオレフィン溶液の調製工程
ポリオレフィン樹脂に、それぞれ適当な成膜用溶剤を添加した後、溶融混練し、ポリオレフィン溶液を調製する。溶融混練方法として、例えば日本国特許第2132327号公報および日本国特許第3347835号公報に記載の二軸押出機を用いる方法を利用することができる。溶融混練方法は公知であるので説明を省略する。
【0021】
ポリオレフィン溶液中、ポリオレフィン樹脂と成膜用溶剤との配合割合は、特に限定されるものではないが、ポリオレフィン樹脂20~30質量部に対して、成膜用溶剤70~80質量部であることが好ましい。ポリオレフィン樹脂の割合が上記範囲内であると、ポリオレフィン溶液を押し出す際にダイ出口でスウェルやネックインが防止でき、押出し成形体(ゲル状成形体)の成形性及び自己支持性が良好となる。
【0022】
(2)ゲル状シートの形成工程
ポリオレフィン溶液を押出機からダイに送給し、シート状に押し出す。同一又は異なる組成の複数のポリオレフィン溶液を、押出機から一つのダイに送給し、そこで層状に積層し、シート状に押出してもよい。
【0023】
押出方法はフラットダイ法及びインフレーション法のいずれでもよい。押出し温度は140~250℃好ましく、押出速度は0.2~15m/分が好ましい。ポリオレフィン溶液の各押出量を調節することにより、膜厚を調節することができる。押出方法としては、例えば日本国特許第2132327号公報および日本国特許第3347835号公報に開示の方法を利用することができる。
【0024】
得られた押出し成形体を冷却することによりゲル状シートを形成する。ゲル状シートの形成方法として、例えば日本国特許第2132327号公報および日本国特許第3347835号公報に開示の方法を利用することができる。冷却は少なくともゲル化温度までは50℃/分以上の速度で行うのが好ましい。冷却は25℃以下で行うのが好ましい。冷却により、成膜用溶剤によって分離されたポリオレフィンのミクロ相を固定化することができる。冷却速度が上記範囲内であると結晶化度が適度な範囲に保たれ、延伸に適したゲル状シートとなる。冷却方法としては冷風、冷却水等の冷媒に接触させる方法、冷却ロールに接触させる方法等を用いることができるが、冷媒で冷却したロールに接触させて冷却させることが好ましい。
【0025】
(3)第1の延伸工程
次に、得られたゲル状シートを少なくとも一軸方向に延伸する。ゲル状シートは成膜用溶剤を含むので、均一に延伸できる。ゲル状シートは、加熱後、テンター法、ロール法、インフレーション法、又はこれらの組合せにより所定の倍率で延伸するのが好ましい。延伸は一軸延伸でも二軸延伸でもよいが、二軸延伸が好ましい。二軸延伸の場合、同時二軸延伸、逐次延伸及び多段延伸(例えば、同時二軸延伸及び逐次延伸の組合せ)のいずれで
もよい。
【0026】
本工程における延伸倍率(面積延伸倍率)は、9倍以上が好ましく、16倍以上がより好ましく、25倍以上が特に好ましい。又、機械方向(MD)及び幅方向(TD)での延伸倍率は、互いに同じでも異なってもよい。尚、本工程における延伸倍率とは、本工程直前の微多孔膜を基準として、次工程に供される直前の微多孔膜の面積延伸倍率のことをいう。
【0027】
本工程の延伸温度は、ポリオレフィン樹脂の結晶分散温度(Tcd)~Tcd+30℃の範囲内にするのが好ましく、結晶分散温度(Tcd)+5℃~結晶分散温度(Tcd)+28℃の範囲内にするのがより好ましく、Tcd+10℃~Tcd+26℃の範囲内にするのが特に好ましい。例えば、ポリオレフィン樹脂としてポリエチレン系樹脂を用いる場合は、延伸温度を90~140℃とするのが好ましく、より好ましくは100~130
℃にする。結晶分散温度(Tcd)は、ASTM D4065による動的粘弾性の温度特性測定により求められる。
【0028】
以上のような延伸によりポリオレフィンラメラ間に開裂が起こり、ポリオレフィン相が微細化し、多数のフィブリルが形成される。フィブリルは三次元的に不規則に連結した網目構造を形成する。延伸により機械的強度が向上するとともに細孔が拡大するが、適切な条件で延伸を行うと、貫通孔径を制御し、更に薄い膜厚でも高い空孔率を有する事が可能となる。
【0029】
所望の物性に応じて、膜厚方向に温度分布を設けて延伸してもよく、これにより機械的強度に優れた微多孔膜が得られる。その方法の詳細は日本国特許第3347854号公報に記載されている。
【0030】
(4)成膜用溶剤の除去
洗浄溶媒を用いて、成膜用溶剤の除去(洗浄)を行う。ポリオレフィン相は成膜用溶剤相と相分離しているので、成膜用溶剤を除去すると、微細な三次元網目構造を形成するフィブリルからなり、三次元的に不規則に連通する孔(空隙)を有する多孔質の膜が得られる。洗浄溶媒およびこれを用いた成膜用溶剤の除去方法は公知であるので説明を省略する。例えば日本国特許第2132327号公報や特開2002-256099号公報に開示
の方法を利用することができる。
【0031】
(5)乾燥
成膜用溶剤を除去した微多孔膜を、加熱乾燥法又は風乾法により乾燥する。乾燥温度はポリオレフィン樹脂の結晶分散温度(Tcd)以下であることが好ましく、特にTcdより5℃以上低いことが好ましい。乾燥は、微多孔膜を100質量部(乾燥質量)として、残存洗浄溶媒が5質量部以下になるまで行うのが好ましく、3質量部以下になるまで行うのがより好ましい。残存洗浄溶媒が上記範囲内であると、後段の微多孔膜の延伸工程及び
熱処理工程を行ったときに微多孔膜の空孔率が維持され、イオン透過性の悪化が抑制される。
【0032】
(6)第2の延伸工程
乾燥後の微多孔膜を、少なくとも一軸方向に延伸することが好ましい。微多孔膜の延伸は、加熱しながら上記と同様にテンター法等により行うことができる。延伸は一軸延伸でも二軸延伸でもよい。二軸延伸の場合、同時二軸延伸及び逐次延伸のいずれでもよい。本工程における延伸温度は、特に限定されるものではないが、通常90~135℃が好ましく、より好ましくは95~130℃である。
【0033】
本工程における微多孔膜の延伸の一軸方向への延伸倍率(面積延伸倍率)は、一軸延伸の場合、機械方向又は幅方向に1.0~2.0倍とする。二軸延伸の場合、面積延伸倍率は、下限値が1.0倍であるのが好ましく、より好ましくは1.1倍、更に好ましくは1.2倍である。上限値は、3.5倍が好適である。機械方向及び幅方向に各々1.0~2.0倍とし、機械方向と幅方向での延伸倍率が互いに同じでも異なってもよい。尚、
本工程における延伸倍率とは、本工程直前の微多孔膜を基準として、次工程に供される直前の微多孔膜の延伸倍率のことをいう。
【0034】
(7)熱処理
又、乾燥後の微多孔膜は、熱処理を行うことができる。熱処理によって結晶が安定化し、ラメラが均一化される。熱処理方法としては、熱固定処理及び/又は熱緩和処理を用いることができる。熱固定処理とは、膜の寸法が変わらないように保持しながら加熱する熱処理である。熱緩和処理とは、膜を加熱中に機械方向や幅方向に熱収縮させる熱処理である。熱固定処理は、テンター方式又はロール方式により行うのが好ましい。例えば、熱
緩和処理方法としては特開2002-256099号公報に開示の方法が挙げられる。熱処理温度はポリオレフィン樹脂のTcd~Tmの範囲内が好ましく、微多孔膜の延伸温度±5℃の範囲内がより好ましく、微多孔膜の第2の延伸温度±3℃の範囲内が特に好ましい。
【0035】
(8)架橋処理、親水化処理
又、乾燥後の微多孔膜に対して、更に、架橋処理および親水化処理を行うこともできる。例えば、微多孔膜に対して、α線、β線、γ線、電子線等の電離放射線の照射をすることにより、架橋処理を行う。電子線の照射の場合、0.1~100Mradの電子線量が好ましく、100~300kVの加速電圧が好ましい。架橋処理により微多孔膜のメルトダウン温度が上昇する。又、親水化処理は、モノマーグラフト、界面活性剤処理、
コロナ放電等により行うことができる。モノマーグラフトは架橋処理後に行うのが好ましい。
【0036】
2.多孔層
本発明の実施形態に係る電池用セパレータは、上記ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に多孔層が設けられており、耐熱粒子、有機粒子、分散剤、バインダー及び界面活性剤を含む。
【0037】
[耐熱粒子]
本発明の実施形態における耐熱粒子としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム 、非晶性シリカ、結晶性のガラスフィラー、カオリン、タルク、二酸化チタン、アルミナ 、シリカーアルミナ複合酸化物粒子、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム 、ゼオライト、硫化モリブデン、マイカ、ベーマイトなどが挙げられる。中でもアルミナ、ベーマイト、硫酸バリウムが安価に入手しやすく好適である。
耐熱粒子の平均粒径は特に限定されるものではないが、上限は1.5μm以下が好ましく、より好ましくは1.2μm以下更に好ましくは1.0μm以下である。耐熱粒子の平均粒径が1.5μmを超えると、多孔層中の個々の耐熱粒子の隙間が広くなることで、多孔層の構造が脆くなり、熱によるポリオレフィン微多孔膜の収縮を抑制することが困難となる場合がある。又、耐熱粒子の平均粒径の下限は0.3μm以上が好ましく、より好ましくは0.4μm以上、更に好ましくは0.5μm以上である。耐熱粒子の平均粒径が0.3μm未満であると、多孔層中の個々の耐熱粒子の隙間が狭くなることで、多孔層の厚さ1μmあたりの透気抵抗度の上昇幅が10.0sec/100ccAir以上となる場合がある。耐熱粒子の平均粒径が0.3μm以上であり、1.5μm以下であると、多孔層の厚さ1μmあたりの透気抵抗度の上昇幅が10.0sec/100ccAir以下となり、又、熱によるポリオレフィン微多孔膜の収縮を抑制することができる。
【0038】
[有機粒子]
本発明の実施形態における有機粒子は融点が60℃以上90℃以下のポリエチレン粒子であり、水分散性樹脂であることが好ましく、ポリエチレン粒子の水分散体であることが好ましい。融点が60℃以上90℃以下であるポリエチレン粒子を選択することで電極とのDRY接着性が発揮できる。尚且つ電極活物質との相互作用は低く、電解液との相互作用が高いことで、電池内ではDRY接着している多孔層/電極界面に電解液が浸透し、DRY接着力の喪失及び電池の出力特性向上に貢献できる。例えば、有機粒子としてアクリル粒子を選択した場合、電極との相互作用が高くなることで電解液が多孔層/電極界面へ浸透しづらくなり、接着が維持されることで電極活物質表面がリチウムイオンの透過性低下、及び出力特性低下が懸念される。
【0039】
有機粒子の平均粒径は特に限定されるものではないが、耐熱粒子層の厚みを超える範囲であることが好ましい。有機粒子の平均粒径が耐熱粒子層の厚み以下となると、多孔層表面に有機粒子が突出できなくなり、DRY接着力を損なう場合がある。
有機粒子の融点の上限は90℃以下が好ましく、より好ましくは85℃以下、更に好ましくは80℃以下である。融点が90℃を超える場合、電池の組み立て工程において電極と電池用セパレータを熱圧着する際の温度が上昇し、工程に影響を及ぼす場合がある。又、有機粒子の融点の下限は60℃以上が好ましく、より好ましくは65℃以上、更に好ましくは70℃以上である。有機粒子の融点が60℃未満の場合、塗工における乾燥工程で有機粒子が軟化、溶融しやすくなり搬送ロールに付着し、電池用セパレータの外観が悪化する場合がある。加えて、有機粒子が溶融することでポリオレフィン微多孔膜と多孔層の空孔を塞いでしまい、電池内でのリチウムイオン透過性が低下し、抵抗が上昇する場合がある。
【0040】
[分散剤]
本発明の実施形態における分散剤は、例えば、セルロース系樹脂、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、及びシリコーン系界面活性剤等を使用することができる。セルロース系樹脂の代表例としては、カルボキシメチルセルロース及びその誘導体が挙げられる。具体的には、ダイセルファインケム(株)製 1120、1220、SP200、SE400、DN-100L、日本製紙(株)製“サンローズ”(登録商標)FJ08HC、A04SH、第一工業製薬(株)製“セロゲン”(登録商標)7A、及びWS-C等である。アニオン系界面活性剤としては、具体的には、日本触媒(株)製DL-40、TL-37、東亜合成(株)製“アロン”(登録商標)A-6012、及びA-6114等が挙げられる。カチオン系界面活性剤としては、具体的には、サンノプコ(株)製SNディスパーサント4215、及びノプコスパース092等が挙げられる。両性界面活性剤としては、具体的には、花王ケミカル(株)製 アンヒトール20BS、及びアンヒトール20N等が挙げられる。ノニオン系界面活性剤としては、具体的には、花王ケミカル(株)製 エマルゲン103、及びエマルゲン705等が挙げられる。シリコーン系界面活性剤としては、具体的には、サンノプコ(株)製SNウエット125等が挙げられる。その中でも分散剤を効率よく耐熱粒子および有機粒子に作用させるには水溶性高分子が好ましい。中でも耐酸化性があり、入手しやすく、更に耐熱性の向上にも寄与するカルボキシメチルセルロース誘導体がより好ましい。
前記分散剤の多孔層中の含有量は特に規定するものではないが、耐熱粒子、有機粒子、分散剤およびバインダーの合計を100体積部として、好ましくは0.8体積部以上、より好ましくは1.4体積部以上、更に好ましくは2.0体積部以上であり、5.9体積部以下、より好ましくは4.5体積部以下、更に好ましくは3.0体積部以下である。
分散剤の含有量が0.8体積部未満であると、分散過程で個々の耐熱粒子の凝集体を十分に分散できず、多孔層中に凝集粒子が残るため、多孔層の構造に耐熱粒子の粒径よりも大きな隙間ができやすくなり、熱によるポリオレフィン微多孔膜の収縮を抑制できない場合がある。分散剤の添加量が5.9体積部より多いと、前記工程(b)で、一度、解砕した個々の耐熱粒子が分散剤を介して再度凝集し、多孔層中に未分散の凝集体が残るため、多孔層の構造に耐熱粒子の粒径よりも大きな隙間ができやすくなり、熱によるポリオレフィン微多孔膜の収縮を抑制できない場合がある。
【0041】
[バインダー]
本発明の実施形態におけるバインダーは多孔層を構成する耐熱粒子同士が結着する効果、及び多孔層をポリオレフィン微多孔膜と密着させる効果を兼ね備えている。具体的には、アクリル系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリ-N-ビニルアセトアミド等を使用することができ、市販されている水溶液又は水分散体を使用することができる。アクリル系樹脂としては、具体的には、東亜合成(株)製“ジュリマー”(登録商標)AT-210,ET-410,“アロン”(登録商標)A-104、AS-2000、NW-7060、トーヨーケム(株)製“LIOACCUM”(登録商標)シリーズ、JSR(株)製 TRD202A、TRD102A、荒川化学(株)製“ポリストロン”117、705、1280、昭和電工(株)製“コーガム”(登録商標)シリーズ、大成ファインケミカル(株)製 WEM-200U、及びWEM-3000等が挙げられる。ポリビニルアルコールとしては、具体的には、クラレ(株)製“クラレポバール”(登録商標)3-98、3-88、三菱ケミカル(株)製“ゴーセノール”(登録商標)N-300、GH-20等が挙げられる。ポリ-N-ビニルアセトアミドとしては、具体的には、昭和電工(株)製 GE191-104が挙げられる。中でも汎用性が高く、耐熱粒子同士の結着がしやすいアクリル系樹脂が好ましい。
多孔層におけるバインダーの含有量は特に規定するものではないが、耐熱粒子、有機粒子、分散剤及びバインダーの合計を100体積部として、好ましくは3.2体積部以上、より好ましくは5.6体積部以上、更に好ましくは8.0体積部以上であり、24.0体積部以下、より好ましくは、18.5体積部以下、更に好ましくは12.1体積部以下である。
【0042】
バインダーの含有量が3.2体積部未満であると、個々の耐熱粒子及び有機粒子をつなぎ留めているバインダーが不足し、多孔層としての構造が保てなくなることで、熱によるポリオレフィン微多孔膜の収縮を抑制することが困難となる場合がある。
【0043】
バインダーの含有量が24.0体積部より多いと、多孔層中の耐熱粒子及び有機粒子の隙間がバインダーで目詰まりしてしまうため、多孔層の厚さ1μmあたりの透気抵抗度の上昇幅を10.0sec/100ccAir以下にできなくなる。加えて、電池用セパレータが熱にさらされた時に、耐熱粒子及び有機粒子の隙間に存在するバインダーが収縮してしまい、熱によるポリオレフィン微多孔膜の収縮を抑制することが困難となる場合がある。
【0044】
[溶媒]
本発明において溶媒とは、水溶性樹脂又は水分散性樹脂を溶解する液だけではなく、水溶性樹脂又は水分散性樹脂を粒子状に分散させるために用いる分散媒も広義的に含むものである。本発明の実施形態における溶媒とは水を主体とする。本発明で用いる水はイオン交換水又は蒸留水を用いるのが好ましい。溶媒は水のみであってもよいが必要に応じてアルコール類などの水溶性有機溶媒を混合して用いることができる。これら水溶性有機溶媒を用いることによって、乾燥速度、塗工性を向上させることができる。水溶性有機溶媒としては、例えばエタノール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール類を、全塗布液に占める割合が0.1~10質量部の範囲で混合した混合液が好ましい。更に、1質量部未満であれば、アルコール類以外の有機溶媒を溶解可能な範囲で混合してもよい。ただし、塗布液中、アルコール類とその他の有機溶媒との合計は、10質量部未満とする。又、更に必要に応じて微粒子と水溶性樹脂又は水分散性樹脂以外の成分を本発明の目的を損なわない範囲で含んでいてもよい。そのような成分として、例えば、分散剤、pH調製剤などが挙げられる。
【0045】
[界面活性剤]
コーティング組成物にはポリオレフィン微多孔膜上に、より均一な厚さで多孔層を形成するために、適宜、界面活性剤を含んでもよい。界面活性剤とは濡れ剤、レベリング剤、及び消泡剤等のことである。前記界面活性剤は耐熱粒子の分散状態を崩さないために、バインダーが十分に混ざった状態で最後に添加することが好ましい。
【0046】
[耐熱粒子層の厚み]
本発明の実施形態における耐熱粒子層の厚みは1.5以上、5.0μm以下であることが好ましく、これは走査型電子顕微鏡を用いて電池用セパレータの多孔層の断面を観察し、耐熱粒子の存在する一方の面について耐熱粒子のみで構成された部分の平均値である。耐熱粒子層の厚みの上限は5.0μm以下であり、4.5μm以下、更に好ましくは4μm以下である。耐熱粒子層の厚みが5.0μmを超えると、電池用セパレータとしての厚みも増加し、電池内における電極間距離が長くなることで出力特性が低下する恐れがある。更には、電池用セパレータの厚みが増加することで、円筒型電池、角型電池、ラミネート型電池等の非水電解質二次電池における体積エネルギー密度を損なう場合がある。耐熱粒子層の厚みの下限は1.5μm以上であり、より好ましくは2μm以上、更に好ましくは3.0μm以上である。耐熱粒子層の厚みが1.5μm未満であると、熱によるポリオレフィン微多孔膜の収縮を抑制することが困難となる場合がある。
【0047】
[耐熱粒子層の厚みに対する有機粒子の平均粒径の倍率]
本発明の実施形態における耐熱粒子層の厚みに対する有機粒子の平均粒径の倍率は1.1倍以上、2.0以下であることが好ましく、これは、前記耐熱粒子層の厚みに対する有機粒子の平均粒径の比を示す。耐熱粒子層の厚みに対する有機粒子の平均粒径の倍率の上限は2.0倍以下であり、好ましくは1.8倍以下、更に好ましくは1.5倍以下である。耐熱粒子層の厚みに対して有機粒子の平均粒径の倍率が2.0倍を超えると、搬送工程で有機粒子が脱落する恐れがある。耐熱粒子層の厚みに対する有機粒子の平均粒径の倍率の下限は1.1倍以上であり、好ましくは1.2倍以上、更に好ましくは1.3倍以上である。耐熱粒子層の厚みに対して有機粒子の平均粒径の倍率が1.1倍未満となると、有機粒子が耐熱粒子に被覆され多孔層表面に露出することができず、DRY接着性を損失する恐れがある。
【0048】
[多孔層における有機粒子の体積比率]
多孔層における有機粒子の体積比率の上限は、耐熱粒子と有機粒子の合計100体積部に対して40体積部以下あり、好ましくは35体積部以下、更に好ましくは30体積部以下であることが好ましい。有機粒子の体積比率が、耐熱粒子と有機粒子の合計100体積部に対して40体積部を超えると、多孔層内の熱可塑部分の割合が増加し耐熱性を損なう場合がある。多孔層における有機粒子の体積比率の下限は、耐熱粒子と有機粒子の合計100体積部に対して10体積部以上であり、好ましくは15体積部以上、更に好ましくは20体積部以上である。有機粒子の体積比率が、耐熱粒子と有機粒子の合計100体積部に対して10体積部未満となると、電池の組み立て工程において電極と電池用セパレータを熱圧着した際にDRY接着力が十分得られず、生産性低下に繋がる。
尚、有機粒子であるポリエチレン粒子の密度は0.91g/cm、耐熱粒子であるアルミナは4.0g/cm、硫酸バリウムは4.5g/cm、ベーマイトは3.07g/cmで計算した。
【0049】
[多孔層の空孔率]
多孔層の空孔率は30以上、90%以下が好ましく、より好ましくは40以上、70%以下である。 改質多孔層の空孔率が上記好ましい範囲であると、改質多孔層を積層して得られた電池用セパレータは膜の電気抵抗が低く、大電流が流れやすく、又、膜強度が維持される。
【0050】
[電池用セパレータのDRY接着力]
電池用セパレータのDRY接着力の上限は20N/m以下であることが好ましく、より好ましくは18N/m以下であり、更に好ましくは16N/m以下である。DRY接着力が20N/mを超えると、電池の組み立て工程でDRY接着させた電池用セパレータ及び電極を捲回又は積層する等の加工が困難となり、生産性低下する場合がある。電池用セパレータのDRY接着力の下限は2N/m以上であることが好ましく、より好ましくは4N/m以上、更に好ましくは6N/m以上である。DRY接着が2N/m未満であると、電池の組み立て工程において電極と電池用セパレータを熱圧着した際に接着力が十分得られず、生産性低下に繋がる。
電池用セパレータは、電極とDRY接着させた後に電解液を注液した際、電極との接着力が2N/m以下に低下することが好ましく、より好ましくは1.8N/m以下、更に好ましくは1.5N/m以下に低下することが好ましい。電解液注液後の接着力が2N/mを超えるとDRY接着している電極表面が塞がれた状態なり、リチウムイオンの移動が妨げられることで電池の出力特性を損なう場合がある。
【0051】
[コーティング組成物製造方法]
本発明の実施形態における多孔層を得るためのコーティング組成物製造方法は以下の工程を有する。すなわち、
(a)水を主成分とする溶媒に分散剤を添加後、更に耐熱粒子を添加して攪拌し、混合液を得る工程。
(b)前記混合液をビーズ粒径が1.0mm以下のセラミック製ビーズを使用したビーズミル分散機にて分散処理を施し、マスターバッチ液を得る工程。
(c)前記マスターバッチ液に前記有機粒子、バインダーを添加し、更に、その他添加剤を添加してコーティング組成物を得る工程。 前記工程(a)において、攪拌方法は特に限定されるものではないが、ディスパー羽根による攪拌、自転公転ミキサー、ペイントシェイカー、ボールミル、超音波分散機、ホモジナイザー、及びプラネタリーミキサー等を用いてもよい。又、溶媒中で分散剤を効果的に耐熱粒子に作用させるには、分散剤が溶媒に十分に溶解している状態で耐熱粒子を投入することが重要である。従って、溶媒に対して分散剤、次いで耐熱粒子の順番で添加することが好ましい。
【0052】
前記工程(b)はビーズミル分散機を用い、混合液に含まれる耐熱粒子の凝集体にセラミック製ビーズを衝突させることで、個々の耐熱粒子に解砕する工程である。本発明ではビーズミル分散機を使用し、ビーズ粒径、ビーズ充填率を好適な条件に合わせることで砕けやすい粒子を適度に分散させることが可能である。又、硫酸バリウムのような砕けやすい粒子を解砕する場合は、セラミック製ビーズを使用しないメディアレス分散機が、粒子へのダメージが少なく、適しているとされている。
【0053】
[ビーズ粒径]
前記セラミック製ビーズのビーズ粒径は特に限定されるものではないが、数平均値が0.3mm以上、1.0mm以下が好ましい。より好ましくは0.4mm以上、0.8mm以下であり、更に好ましくは0.5mm以上0.7mm以下である。
【0054】
ビーズ粒径が0.3mm未満であると、セラミック製ビーズ1個あたりの質量が小さく、セラミック製ビーズ間に発生するずり応力が小さくなるため、耐熱粒子の凝集体を十分に解砕できず、コーティング組成物中に多孔層の厚さよりも大きな凝集体が残る。すると、多孔層の構造に耐熱粒子の粒径よりも大きな隙間ができやすくなり、熱によるポリオレフィン微多孔膜の収縮を抑制できなくなることや、電池セルの正極と負極の極間距離が大きくなることで電池セル容量に占めるセパレータの割合が多くなり、電池の容量密度が低下する場合がある。
【0055】
ビーズ粒径が1.0mmより大きいと、セラミック製ビーズ間の接触点が少なくなり、コーティング組成物中に多孔層の厚さよりも大きな凝集体が残る。すると、多孔層の構造に耐熱粒子の粒径よりも大きな隙間ができやすくなり、熱によるポリオレフィン微多孔膜の収縮を抑制できなくなることや、電池セルの正極と負極の極間距離が大きくなることで電池セル容量に占めるセパレータの割合が多くなり、電池の容量密度が低下する場合がある。
【0056】
ここでセラミック製ビーズの材質は特に限定されるものではないが、アルミナ、ジルコニア、窒化ケイ素から選ばれる少なくとも1種類を使用できる。
【0057】
[ビーズ充填率]
前記セラミック製ビーズのビーズ充填率は特に限定されるものではないが、65%以上、85%以下が好ましい。より好ましくは70%以上、80%以下である。ここでビーズ充填率とは、使用するセラミック製ビーズの重量(g)を、充填密度(g/cm)で除して得られた体積(cm)を、更にヴェッセル容量(cm)で除した、セラミック製ビーズの体積占有率である。
【0058】
ビーズ充填率が65%未満であると、前記ヴェッセル内でのセラミック製ビーズの存在量が少ないため、セラミック製ビーズ間の接触点が少なくなり、耐熱粒子の凝集体が残存しやすくなる。すると、多孔層から耐熱粒子の凝集体が脱落することや、電池セルの正極と負極の極間距離が大きくなることで電池セル容量に占めるセパレータの割合が多くなり、電池の容量密度が低下する場合がある。
【0059】
ビーズ充填率が85%より大きいと、セラミック製ビーズ間の接触点が過剰に多くなることで、すでに解砕された個々の耐熱粒子を、より細かい粒子に粉砕してしまい、多孔層を形成する耐熱粒子同士の隙間に細かい粒子が入ることで、耐熱性塗工層の厚さ1μmあたりの透気抵抗度の上昇幅が10.0sec/100ccAirより大きくなる場合がある。
【0060】
前記工程(c)において、攪拌方法は特に限定されるものではないが、ディスパー羽根による攪拌、自転公転ミキサー、ペイントシェイカー、ボールミル、超音波分散機、ホモジナイザー、及びプラネタリーミキサー等を用いてもよい。前記有機粒子、バインダーは、前記工程(b)でビーズミル分散処理の前に混合液に添加しないことが重要である。つまり、混合液にはビーズミル分散処理により発生する熱、及び高いせん断力がかかるため、有機粒子の解砕やバインダーがゲル化や凝集を起こす可能性がある。すると、多孔層表面に有機粒子のみを突出させた構造を得ることが困難となり、耐熱性とDRY接着性の双方を発揮できない場合がある。従って、前記バインダーは工程(c)で添加するのが好ましい。
【0061】
[多孔層の形成方法]
本発明を得るための多孔層の形成方法は以下の構成を有する。すなわち、
(d)ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面にコーティング組成物をコーティングする工程。
(e)前記コーティング後、溶媒をドライヤーで乾燥させ、多孔層を形成する工程。
である。
【0062】
前記工程(d)において、ポリオレフィン微多孔膜の少なくとも片面に多孔層をコーティングする方法は公知の方法を用いることができる。例えば、リバースロール・コート法、グラビア・コート法、小径グラビアコーター法、キス・コート法、ロールブラッシュ法、エアナイフコート法、マイヤーバーコート法、パイプドクター法、ブレードコート法及びダイコート法等が挙げられ、これらの方法は単独又は組み合わせて行うことができる。
【0063】
前記工程(e)において、ドライヤーの乾燥温度は特に規定されるものではないが、40℃以上、90℃以下が好ましい。より好ましくは45℃以上、80℃以下であり、更に好ましくは50℃以上、70℃以下である。乾燥温度が40℃未満であると溶媒を十分に乾燥させることができないため、多孔層中に溶媒が残存し、特に溶媒が水である場合は、電池用セパレータの水分率が高くなる場合がある。乾燥温度が90℃より高いと、多孔層が形成される前に、ポリオレフィン微多孔膜が熱により収縮してしまう場合がある。
加えて、乾燥温度は上記乾燥温度範囲で有機粒子の融点未満の温度に設定することが好ましい。有機粒子の融点以上の温度で乾燥すると、有機粒子の軟化あるいは溶融しやすくなり搬送ロールに付着し、電池用セパレータの外観が悪化する場合がある。加えて、有機粒子が溶融することでポリオレフィン微多孔膜と多孔層の空孔を塞いでしまい、電池内でのリチウムイオン透過性が低下し、抵抗が上昇する場合がある。
【0064】
本発明の実施形態に係る電池用セパレータは、ニッケル-水素電池、ニッケル-カドミウム電池、ニッケル-亜鉛電池、銀-亜鉛電池、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池、及びリチウム-硫黄電池等の二次電池等の電池用セパレータとして用いることができる。特に、リチウムイオン二次電池のセパレータとして用いるのが好ましい。
【実施例
【0065】
以下、本発明を実施例により、更に詳細に説明するが、本発明の実施態様は、これらの実施例に限定されるものではない。尚、実施例で用いた評価法、分析の各法及び材料は、以下の通りである。
【0066】
(有機粒子の融点)
有機粒子の分散液を60℃で乾燥させ、有機粒子の乾燥体を得た。次に、前記有機粒子の乾燥体約6mgに対して、DSC装置PYR IS Diamond DSC(Perkin Elmer社製)を用いて昇温過程のDSC測定を行った。ここで測定温度範囲は30-230℃、昇温速度は10℃/minである。上記測定により得られた熱流曲線のピーク温度を有機粒子の融点とした。
【0067】
(有機粒子の平均粒径)
走査電子顕微鏡(日本電子(株)製JSM6701F)を用いて、多孔層表面のLEI像を倍率1000倍で撮影した(加速電圧2.0kV)。次いで任意の有機粒子100個の長径を測定し、その数平均値を平均粒径とした。尚、有機粒子の添加比率が低く、倍率1000倍で撮影したLEI像の多孔層表面に有機粒子が100個存在しない場合は、積算して100個の有機粒子を測定できるように前記と同倍率のLEI像を複数枚撮影した。
【0068】
(耐熱粒子層の厚み測定)
走査電子顕微鏡(日本電子(株)製JSM6701F)を用いて、イオンミリングで切断したセパレータ断面のLEI像を倍率3000倍で撮影した(加速電圧2.0kV)。次いで、耐熱粒子の存在する一方の面について耐熱粒子のみで構成された部分の10点の厚みを測定し、その平均値を耐熱粒子層の厚みとした。
(耐熱粒子層の厚みに対する有機粒子の平均粒径の倍率)
耐熱粒子層の厚みに対する有機粒子の平均粒径の倍率は以下の式より算出した。
【0069】
耐熱粒子層の厚みに対する有機粒子の平均粒径の倍率(倍)=有機粒子の平均粒径(μm)/耐熱粒子層の厚み(μm)
(DRY接着性)
カルボキシメチルセルロースを1.5質量部含む水溶液を人造黒鉛96.5質量部に加えて混合し、更に固形分として2質量部のスチレンブタジエンラテックスを加えて混合して負極合剤含有スラリーとした。この負極合剤含有スラリーを、厚みが8μmの銅箔からなる負極集電体の両面に均一に塗付して乾燥して負極層を形成し、その後、ロールプレス機により圧縮成形して集電体を除いた負極層の密度を1.5g/cmにして、負極を作製した。
上記で作製された負極(幅40mm、長さ50mm)、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(幅60mm、長さ70mm)を用意し、電池用セパレータと負極を短辺同士の中心軸が揃い且つ互いの短辺が重なるように積層し、更にPETフィルムを重ね、更にもう1枚の負極を最初に準備した負極とちょうど重なるように積層させた。上記積層物を精密加熱加圧装置(新東工業株式会社製、CYPT-10)を用いて85℃、2MPa、1秒の条件で熱プレスし電池用セパレータと負極を接着させた。
【0070】
PETフィルム及び接着されていない負極を取り除き試験片を、両面テープ(ニチバン ナイスタック(R)15mm幅)を用い試験片負極面とアルミ板を張り合わせた。更に2kgのゴムローラ(テスター産業 SA-1003-B)を試験片上で2往復させ固定化した。負極と接着していない電池用セパレータ短辺に測定用冶具固定用の補助紙(幅50mm、長さ80mm)を短辺が合うように取り付けた。
【0071】
引張用測定冶具を取り付けた卓上型精密万能試験機(SHIMAZU AGS-X)に取り付け、補助紙を引張り上げることで180度剥離試験(剥離速度300mm/min)を実施し、引張り上げた変位が20mmから80mmの間の電池用セパレータと負極の180度剥離に伴う応力の平均値をDRY接着力とした。平均値が2.0N/m以上となる場合にDRY接着性があると判断した。
【0072】
(電解液注液後の接着力)
カルボキシメチルセルロースを1.5質量部含む水溶液を人造黒鉛96.5質量部に加えて混合し、更に固形分として2質量部のスチレンブタジエンラテックスを加えて混合して負極合剤含有スラリーとした。この負極合剤含有スラリーを、厚みが8μmの銅箔からなる負極集電体の両面に均一に塗付して乾燥して負極層を形成し、その後、ロールプレス機により圧縮成形して集電体を除いた負極層の密度を1.5g/cmにして、負極を作製した。
上記で作製された負極(幅10mm、長さ100mm)、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(幅25mm、長さ120mm)を用意し、電池用セパレータ(幅17mm、長さ110mm)と負極を短辺同士の中心軸が揃い且つ互いの短辺の一辺が重なるように積層し、更にPETフィルムを重ね、更にもう1枚の負極を最初に準備した負極とちょうど重なるように積層させた。上記積層物を精密加熱加圧装置(新東工業株式会社製、CYPT-10)を用いて85℃、2MPa、1秒の条件で熱プレスし電池用セパレータと負極を接着させた。
幅90mm、長さ135mmのアルミラミネートを用意し、幅45mm、長さ135mmとなるように二つ折りにした。上記アルミラミネート上にDRY接着させた電池用セパレータと負極の積層物を設置し、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートを体積比3:7で混合した溶媒にLiPFを1mol/Lの割合で溶解させた電解液を100μL滴下した。電解液がなじんだ後、真空シーラーでアルミラミネート開口部の三辺を封止した。
次に、精密加熱加圧装置(新東工業株式会社製、CYPT-10)を用いて90℃、0.7MPa、150秒の条件でアルミラミネート内の電池用セパレータと負極の積層物を熱プレスした。
アルミラミネートを開封して電池用セパレータ/負極の積層物を取り出し、メンディングテープ(幅25mm、長さ18mm)を10mmほど飛び出している電池用セパレータのみの部分に対して5-6mm被るように張り付けた。
引張用測定冶具を取り付けた卓上型精密万能試験機(SHIMAZU AGS-X)に上側が電極、下側が電池用セパレータとなるように取り付け、負極を引張り上げることで180度剥離試験(剥離速度300mm/min)を実施した。引張り上げた変位が20mmから60mmの間の電池用セパレータと負極の180度剥離に伴う応力の平均値を電解液注液後の接着力とし、平均値が2.0N/mを超える場合に電解液注液後の接着性があると判断した。
【0073】
(耐熱性試験)
50mm角の試料を3枚用意し、予め150度に過熱したオーブンに投入し、1時間経過後に取り出し冷却する。冷却後のMD(縦)、TD(横)寸法を予め計測していたMD、TDの初期寸法で割り算出し熱収縮率とした。
【0074】
熱収縮率(%)={初期寸法(mm)―収縮度の寸法(mm)}/初期寸法(mm)×100
この時、熱収縮率が5.0%未満であるものを特に良好、5%以上10%未満を良好、10%以上であるものを不良とし表記した。
【0075】
(電池評価)
正極の作製
バインダーとしてPVDFを1.2質量部含むNMP溶液を、活物質としてのコバルト酸リチウム97質量部、カーボンブラック1.8質量部に加えて混合し、正極合剤含有スラリーとした。この正極合剤含有スラリーを、厚みが20μmのアルミ箔からなる正極集電体の両面に均一に塗布して乾燥して正極層を形成し、その後、ロールプレス機により圧縮成型して集電体を除いた正極層の密度を3.6g/cmにして正極を作製した。
負極の作製
カルボキシメチルセルロースナトリウムを1.0質量部含む水溶液を、活物質としての人造黒鉛98質量部に加えて混合し、更にバインダーとして固形分として1.0質量部含むスチレンブタジエンラテックスを加えて混合して負極合剤含有スラリーとした。この負極合剤含有スラリーを、厚みが10μmの銅箔からなる負極集電体の両面に均一に塗付して乾燥して負極層を形成し、その後、ロールプレス機により圧縮成形して集電体を除い
た負極層の密度を1.45g/cmにして、負極を作製した。
試験用電池の作製
上記正極、負極にタブ付けされたものと各電池用セパレータを使用して巻回体を作製した。次いで、平板プレス機(新東工業 CYPT-20特)を用いて捲回体を85℃、2MPa、10秒の条件で熱プレスし電池用セパレータと正極、負極を接着させた。アルミラミネート袋内に熱プレスした巻回体を設置し、電解液(1.1mol/L,LiPF,エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート/ジエチレンカーボネート=3/5/2(体積比)に0.5重量%ビニレンカーボネート、2重量%フルオロエチレンカーボネートを添加したもの)を750μL滴下し真空ラミネータにて封止した。次いで0.2C(Cは電池が1時間で満充電できる電流値をあらわし、本電池の場合300mAとしている)にて全容量の10%を充電後、一晩放置し、ガス抜きの為にラミネートの1辺を開けすぐに再度真空シーラーで封止した。次いで0.1C、4.35V、カットオフ電流0.05Cの定電流定電圧充電し、更に0.1Cで3Vまで定電流放電した。その後、0.2C、4.35V、カットオフ電流0.05Cの定電流定電圧充電しその後0.2C、3V定電流放電した。この0.2Cの充放電を3回繰り返した。これを300mAh級の試験用電池とした。
出力特性試験
上記試験用電池を用いて出力特性試験を実施した。0.2C、4.35V、カットオフ電流0.05Cの定電流定電圧充電したのち、0.2Cで3Vまで定電流放電しこの容量を0.2C放電容量として記録した。次いで0.2C、4.35V、カットオフ電流0.05Cの定電流定電圧充電し、その後3Cで3Vまで定電流放電しこの容量を3C放電容量として記録した。
【0076】
3C放電容量維持率を以下の式にて算出した。
【0077】
3C放電容量維持率=[3C放電容量]/[0.2C放電容量]
これを計3個の試験用電池で同様の処理をし、3C放電容量維持率の平均値を出力特性とした。
【0078】
この時、3C放電容量維持率の平均値が75%以上であるものを特に良好、65%以上75%未満を良好、65%未満であるものを不良とし表記した。
【0079】
[実施例1]
脱イオン水49.0質量部に対してアルミナ粒子(平均粒径0.5μm、密度4.0g/cm)50質量部、カルボキシメチルセルロース1質量部をディスパーで攪拌し、ビーズミル分散機(浅田鉄工(株)製ピコミルPCM-LR)を用いて周波数50Hz、流量10Kg/毎時の条件下で7回処理し、アルミナ分散液を得た。
【0080】
上記アルミナ分散液100質量部に対してポリエチレン粒子分散体ケミパールA100(三井化学(株)製、固形分濃度40%、融点83℃)7.11質量部を、ディスパー羽根を取り付けたスリーワンモーター(東機産業(株)製)にて攪拌しながら加え、更に10分撹拌した。次いで、アルミナ分散液100質量部に対して固形分濃度40%のアクリル樹脂水分散体4.69質量部を撹拌しながら加え更に10分撹拌した。次いで、アルミナ分散液100質量部に対して固形分濃度50%のフッ素系界面活性剤0.38質量部を撹拌しながら加え、更に10分撹拌してコーティング組成物を得た。
前記コーティング組成物を、厚さ12μmのポリオレフィン微多孔膜の片面に、マイクログラビア法にて乾燥温度50℃、搬送速度5m/毎分の条件にてコーティングし、電池用セパレータを得た。前記電池用セパレータについて、耐熱粒子層の厚みは3.0μm、耐熱粒子層の厚みに対する有機粒子の平均粒径の倍率が1.3倍であり、前記電池用セパレータの多孔層中のアルミナとケミパールA100の合計を100体積部とした時、アルミナ粒子/ケミパールA100=80/20体積部であった。
【0081】
[実施例2]
ポリエチレン粒子分散体(平均粒径4.0μm、融点60℃、固形分濃度40%)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして電池用セパレータを得た。
【0082】
[実施例3]
ポリエチレン粒子分散体(平均粒径4.0μm、融点90℃、固形分濃度40%)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして電池用セパレータを得た。
【0083】
[実施例4]
実施例1で調製したコーティング組成物を用いて耐熱粒子層の厚みが3.6μm、耐熱粒子層の厚みに対する有機粒子の平均粒径の倍率が1.1倍となるよう塗工した以外は、実施例1と同様にして電池用セパレータを得た。
【0084】
[実施例5]
実施例1で調製したコーティング組成物を用いて耐熱粒子層の厚みが2.0μm、耐熱粒子層の厚みに対する有機粒子の平均粒径の倍率が2.0倍となるよう塗工した以外は、実施例1と同様にして電池用セパレータを得た。
【0085】
[実施例6]
ポリエチレン粒子分散体(平均粒径2.0μm、融点83℃、固形分濃度40%)を用いて、実施例1と同様にして電池用セパレータを得た。得られた電池用セパレータの耐熱粒子層の厚みは3.0μmであった。
【0086】
[実施例7]
ポリエチレン粒子分散体(平均粒径6.5μm、融点83℃、固形分濃度40%)を用いて、実施例1と同様にして電池用セパレータを得た。得られた電池用セパレータの耐熱粒子層の厚みは5.0μmであった。
【0087】
[実施例8]
請求項1と同様にして得られたアルミナ分散液100質量部に対して、ポリエチレン粒子ケミパールA100(三井化学(株)製、固形分濃度40%、融点83℃)3.16質量部を、ディスパー羽根を取り付けたスリーワンモーターにて攪拌しながら加え、更に10分撹拌した。次いで、アルミナ分散液100質量部に対して固形分濃度40%のアクリル樹脂水分散体4.17質量部を撹拌しながら加え更に10分撹拌した。次いで、アルミナ分散液100質量部に対して固形分濃度50%のフッ素系界面活性剤0.33質量部を撹拌しながら加え、更に10分撹拌してコーティング組成物を得た。
前記コーティング組成物を、厚さ12μmのポリオレフィン微多孔膜の片面に、マイクログラビア法にて乾燥温度50℃、搬送速度5m/毎分の条件にてコーティングし、電池用セパレータを得た。前記電池用セパレータについて、耐熱粒子層の厚みは3.0μm、耐熱粒子層の厚みに対する有機粒子の平均粒径の倍率が1.3倍であり、前記電池用セパレータの多孔層中のアルミナとケミパールA100の合計を100体積部とした時、アルミナ粒子/ケミパールA100=90/10体積部であった。
【0088】
[実施例9]
請求項1と同様にして得られたアルミナ分散液100質量部に対して、ポリエチレン粒子ケミパールA100(三井化学(株)製、固形分濃度40%、融点83℃)18.96質量部を、ディスパー羽根を取り付けたスリーワンモーターにて攪拌しながら加え、更に10分撹拌した。次いで、アルミナ分散液100質量部に対して固形分濃度40%のアクリル樹脂水分散体6.25質量部を撹拌しながら加え更に10分撹拌した。次いで、アルミナ分散液100質量部に対して固形分濃度50%のフッ素系界面活性剤0.5質量部を撹拌しながら加え、更に10分撹拌してコーティング組成物を得た。
前記コーティング組成物を、厚さ12μmのポリオレフィン微多孔膜の片面に、マイクログラビア法にて乾燥温度50℃、搬送速度5m/毎分の条件にてコーティングし、電池用セパレータを得た。前記電池用セパレータについて、耐熱粒子層の厚みは3.0μm、耐熱粒子層の厚みに対する有機粒子の平均粒径の倍率が1.3倍であり、前記電池用セパレータの多孔層中のアルミナとケミパールA100の合計を100体積部とした時、アルミナ粒子/ケミパールA100=60/40体積部であった。
【0089】
[実施例10]
脱イオン水49.0質量部に対して硫酸バリウム(平均粒径1.2μm、密度4.5g/cm)50質量部、カルボキシメチルセルロース1質量部をディスパーで攪拌し、ビーズミル分散機(浅田鉄工(株)製ピコミルPCM-LR)を用いて周波数50Hz、流量10Kg/毎時の条件下で1回処理し、アルミナ分散液を得た。
【0090】
上記アルミナ分散液100質量部に対してポリエチレン粒子ケミパールA100(三井化学(株)製、固形分濃度40%、融点83℃)6.32質量部を、ディスパー羽根を取り付けたスリーワンモーター(東機産業(株)製)にて攪拌しながら加え、更に10分撹拌した。次いで、アルミナ分散液100質量部に対して固形分濃度40%のアクリル樹脂水分散体4.17質量部を撹拌しながら加え更に10分撹拌した。次いで、アルミナ分散液100質量部に対して固形分濃度50%のフッ素系界面活性剤0.33質量部を撹拌しながら加え、更に10分撹拌してコーティング組成物を得た。
前記コーティング組成物を、厚さ12μmのポリオレフィン微多孔膜の片面に、マイクログラビア法にて乾燥温度50℃、搬送速度5m/毎分の条件にてコーティングし、電池用セパレータを得た。前記電池用セパレータについて、耐熱粒子層の厚みは3.0μm、耐熱粒子層の厚みに対する有機粒子の平均粒径の倍率が1.3倍であり、前記電池用セパレータの多孔層中の硫酸バリウムとケミパールA100の合計を100体積部とした時、硫酸バリウム/ケミパールA100=80/20体積部であった。
【0091】
[実施例11]
脱イオン水49.0質量部に対してベーマイト(平均粒径1.2μm、密度3.07g/cm)50質量部、カルボキシメチルセルロース1質量部をディスパーで攪拌し、ビーズミル分散機(浅田鉄工(株)製ピコミルPCM-LR)を用いて周波数50Hz、流量10Kg/毎時の条件下で1回処理し、アルミナ分散液を得た。
【0092】
上記アルミナ分散液100質量部に対してポリエチレン粒子ケミパールA100(三井化学(株)製、固形分濃度40%、融点83℃)9.26質量部を、ディスパー羽根を取り付けたスリーワンモーター(東機産業(株)製)にて攪拌しながら加え、更に10分撹拌した。次いで、アルミナ分散液100質量部に対して固形分濃度40%のアクリル樹脂水分散体6.11質量部を撹拌しながら加え更に10分撹拌した。次いで、アルミナ分散液100質量部に対して固形分濃度50%のフッ素系界面活性剤0.49質量部を撹拌しながら加え、更に10分撹拌してコーティング組成物を得た。
前記コーティング組成物を、厚さ12μmのポリオレフィン微多孔膜の片面に、マイクログラビア法にて乾燥温度50℃、搬送速度5m/毎分の条件にてコーティングし、電池用セパレータを得た。前記電池用セパレータについて、耐熱粒子層の厚みは3.0μm、耐熱粒子層の厚みに対する有機粒子の平均粒径の倍率が1.3倍であり、前記電池用セパレータは多孔層中のベーマイトとケミパールA100の合計を100体積部とした時、ベーマイト/ケミパールA100=80/20体積部であった。
【0093】
[比較例1]
アクリルモノマー100質量部に油溶性重合開始剤0.5質量部を添加し溶解させることでモノマー溶液を得た。又、水100質量部に対して界面活性剤を1質量部添加することで界面活性剤水溶液を得た。得られた界面活性剤水溶液100質量部にモノマー溶液10質量部を添加した後、ホモジナイザーにて高速攪拌することで、モノマーエマルションを得た。得られたモノマーエマルションを窒素雰囲気下にて攪拌しながら70℃にて8時間重合することでアクリル粒子が分散したスラリーを得た。得られたスラリーを5μmメッシュフィルターにかけて5μm以上の粒子を除去し、溶媒を純水に置換し再分散させて固形分濃度が15%であるアクリル粒子分散体を得た。
請求項1と同様にして得られたアルミナ分散液100質量部に対して、アクリル粒子分散体25質量部を、ディスパー羽根を取り付けたスリーワンモーターにて攪拌しながら加え、更に10分撹拌した。次いで、アルミナ分散液100質量部に対して固形分濃度40%のアクリル樹脂水分散体4.69質量部を撹拌しながら加え更に10分撹拌した。次いで、アルミナ分散液100質量部に対して固形分濃度50%のフッ素系界面活性剤0.38質量部を撹拌しながら加え、更に10分撹拌してコーティング組成物を得た。
前記コーティング組成物を、厚さ12μmのポリオレフィン微多孔膜の片面に、マイクログラビア法にて乾燥温度50℃、搬送速度5m/毎分の条件にてコーティングし、電池用セパレータを得た。前記電池用セパレータについて、耐熱粒子層の厚みは3.0μm、耐熱粒子層の厚みに対する有機粒子の平均粒径の倍率が1.3倍であり、前記電池用セパレータの多孔層中のアルミナとアクリル粒子の合計を100体積部とした時、アルミナ粒子/アクリル粒子=80/20体積部であった。
【0094】
[比較例2]
ポリエチレン粒子分散体(平均粒径4.0μm、融点55℃、固形分濃度40%)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして電池用セパレータを作製したが、塗工時に搬送ロールへ塗膜が転写してしまい正常な電池用セパレータ―を得ることができなかった。
【0095】
[比較例3]
ポリエチレン粒子分散体(平均粒径4.0μm、融点110℃、固形分濃度40%)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして電池用セパレータを得た。
【0096】
[比較例4]
実施例1で調製したコーティング組成物を用いて耐熱粒子層の厚みが4.0μm、耐熱粒子層の厚みに対する有機粒子の平均粒径の倍率が1.0倍となるよう塗工した以外は、実施例1と同様にして電池用セパレータを得た。
【0097】
[比較例5]
実施例1で調製したコーティング組成物を用いて耐熱粒子層の厚みが1.9μm、耐熱粒子層の厚みに対する有機粒子の平均粒径の倍率が2.1倍となるよう塗工した以外は、実施例1と同様にして電池用セパレータを得た。ポリエチレン粒子の平均粒径を算出するために走査電子顕微鏡を用いて多孔層表面のLEI像を撮影すると、ポリエチレン粒子の脱落が確認され、正常な電池用セパレータ―を得ることができなかった。
【0098】
[比較例6]
ポリエチレン粒子分散体(平均粒径1.5μm、融点83℃、固形分濃度40%)を用いて、実施例1と同様にして電池用セパレータを得た。得られた電池用セパレータの耐熱粒子層の厚みは1.4μmであった。
【0099】
[比較例7]
ポリエチレン粒子分散体(平均粒径6.6μm、融点83℃、固形分濃度40%)を用いて、実施例1と同様にして電池用セパレータを得た。得られた電池用セパレータの耐熱粒子層の厚みは6.0μmであった。
【0100】
[比較例8]
請求項1と同様にして得られたアルミナ分散液100質量部に対して、ポリエチレン粒子分散体ケミパールA100(三井化学(株)製、固形分濃度40%、融点83℃)2.47質量部を、ディスパー羽根を取り付けたスリーワンモーターにて攪拌しながら加え、更に10分撹拌した。次いで、アルミナ分散液100質量部に対して固形分濃度40%のアクリル樹脂水分散体4.08質量部を撹拌しながら加え更に10分撹拌した。次いで、アルミナ分散液100質量部に対して固形分濃度50%のフッ素系界面活性剤0.33質量部を撹拌しながら加え、更に10分撹拌してコーティング組成物を得た。
前記コーティング組成物を、厚さ12μmのポリオレフィン微多孔膜の片面に、マイクログラビア法にて乾燥温度50℃、搬送速度5m/毎分の条件にてコーティングし、電池用セパレータを得た。前記電池用セパレータについて、耐熱粒子層の厚みは3.0μm、耐熱粒子層の厚みに対する有機粒子の平均粒径の倍率が1.3倍であり、前記電池用セパレータの多孔層中のアルミナとケミパールA100の合計を100体積部とした時、アルミナ粒子/ケミパールA100=92/8体積部であった。
【0101】
[比較例9]
請求項1と同様にして得られたアルミナ分散液100質量部に対して、ポリエチレン粒子分散体ケミパールA100(三井化学(株)製、固形分濃度40%、融点83℃)28.44質量部を、ディスパー羽根を取り付けたスリーワンモーターにて攪拌しながら加え、更に10分撹拌した。次いで、アルミナ分散液100質量部に対して固形分濃度40%のアクリル樹脂水分散体7.5質量部を撹拌しながら加え更に10分撹拌した。次いで、アルミナ分散液100質量部に対して固形分濃度50%のフッ素系界面活性剤0.6質量部を撹拌しながら加え、更に10分撹拌してコーティング組成物を得た。
前記コーティング組成物を、厚さ12μmのポリオレフィン微多孔膜の片面に、マイクログラビア法にて乾燥温度50℃、搬送速度5m/毎分の条件にてコーティングし、電池用セパレータを得た。前記電池用セパレータについて、耐熱粒子層の厚みは3.0μm、耐熱粒子層の厚みに対する有機粒子の平均粒径の倍率が1.3倍であり、前記電池用セパレータの多孔層中のアルミナとケミパールA100の合計を100体積部とした時、アルミナ粒子/ケミパールA100=50/50体積部であった。
【0102】
【表1】