(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】地中熱・太陽光利用冷暖房システム
(51)【国際特許分類】
F24F 5/00 20060101AFI20241029BHJP
F24F 3/00 20060101ALI20241029BHJP
E03B 3/08 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
F24F5/00 101A
F24F5/00 101B
F24F3/00 B
E03B3/08 Z
(21)【出願番号】P 2020180933
(22)【出願日】2020-10-28
【審査請求日】2023-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2019209967
(32)【優先日】2019-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303032144
【氏名又は名称】有限会社かなや設計
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(72)【発明者】
【氏名】金谷 直政
【審査官】奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-185323(JP,A)
【文献】特開平11-280122(JP,A)
【文献】特開2003-160985(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 5/00
F24F 3/00
E03B 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下水揚水用井戸と、地下水浸透手段(井戸、浸透桝、浸透性舗装)と、貯水池と、太陽光発電パネルと、熱交換機と、建物内冷暖房設備とを備え、
貯水池は、少なくとも一部が地表露出している池であり、吐水口が地上部に設けられており、
建物内冷暖房設備は、輻射冷暖房用間仕切りパネルを備えており、
太陽光発電パネルで発電した電気を用いて揚水ポンプを駆動して地下水をくみ上げて貯水池に供給し、熱交換機で貯水池の水の熱を建物内冷暖房用熱に交換し、貯水池からあふれた水を地盤中に還元することを特徴とする地中熱・太陽光利用冷暖房システム。
【請求項2】
輻射冷暖房用間仕切りパネルは、パネル本体を構成するPCパネルの内部に、熱交換可能な媒体を通す配管が埋設されるとともに、PCパネルの表面に凹凸が設けられており、該凹凸の空間が空気の流路となっていることを特徴とする請求項1記載の地中熱・太陽光利用冷暖房システム。
【請求項3】
地下水揚水用井戸は、くみ上げ規制水量以上の地下水流のある水脈から取水することを特徴とする請求項1又は2記載の地中熱・太陽光利用冷暖房システム。
【請求項4】
貯水池
は、外部道路からアクセスできる位置に吐水口が設けられていることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の地中熱・太陽光利用冷暖房システム。
【請求項5】
貯水池は、1階居室に隣接して設けられていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の地中熱・太陽光利用冷暖房システム。
【請求項6】
取水量は、揚水ポンプの稼働時間を積算して、くみ上げ規制水量以下になるように制御することを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の地中熱・太陽光利用冷暖房システム。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載されている地中熱・太陽光利用冷暖房システムを、断水時に熱交換を中止して、近隣地域用に水を供給することを特徴とする災害用自立給水システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中熱を冷暖房に利用する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一年中温度が一定している地中熱を利用しようとする試みがなされている。例えば、地下水をくみ上げて路面の融雪に利用されている。地下水を路面に散水する方法や、熱交換して、揚水した地下水を還元井戸から地下に戻す方法などがある。
地熱を冷暖房に利用する技術も多数提案されている。
特許文献1(特開2010-281493号公報)には、地熱水を保有する帯水層にかけて埋設される外装管と、この外装管内に帯水層の地熱水を浸入させる地熱水浸入ストレーナと、外装管内に浸入した地熱水を汲み上げる地熱水汲上ポンプと、汲み上げられた地熱水を所定の敷地に巡回させて熱源とする地熱水供給配管と、この地熱水供給配管を巡回して外装管内に返還された地熱水を帯水層へ還元する地熱水還元ストレーナと、敷地内に生じる融雪水や雨水および散水等の水を敷地外に流出させずに収集して貯留する貯留槽と、この貯留槽の水を敷地に散水する散水手段と、地熱水供給配管から貯留槽へ地熱水を散水用の水として適宜補給する地熱水補給手段とを備える地熱水環境保全型熱供給システムが提案されている。
特許文献2(特開2013-137187号公報)に記載の、空調システムは、貯水槽と、循環路と、熱交換器とを備えている。貯水槽は、建物に隣接または近接した地下空間を、雨水を貯留する貯水部として、この貯水部の上面に、水分を透過させる水分透過層が設けられている。循環路は、貯水槽に貯留された雨水を、住居内を経由して循環させるものである。熱交換器は、循環路が経由する住居に設けられ、住居内の空気と熱交換し、貯水槽は、地下空間に充填された石同士の空隙を、雨水を貯留する貯水部とし、貯水槽が建物の外壁が照り返しや輻射熱による加熱を抑えるので、建物の外壁への加熱を抑止することができる空調システムが開示されている。
特許文献3(特開2010-190435号公報)には、地中に向けて形成され、内部に上記冷媒または熱媒が循環される循環パイプが配置される熱交換井の上部に浸透升を設け、浸透升に雨水などの水を浸透させて熱交換を促す水浸透手段を設けた、雨水を地中に戻して、地中熱をより効率的に熱交換することができる雨水浸透型地中熱交換システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-281493号公報
【文献】特開2013-137187号公報
【文献】特開2010-190435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の地中熱を取り出す採熱孔は設置費用が大きく、また運用コストも高く、採算性が悪く、地中熱の利用は雪国の融雪を除き、都市部では普及していない。
設置費用、運用費用を抑えた地中熱を利用した冷暖房システムを構築することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
1.地下水揚水用井戸と、地下水浸透手段(井戸、浸透桝、浸透性舗装)と、貯水池と、
太陽光発電パネルと、熱交換機と、建物内冷暖房設備とを備え、
太陽光発電パネルで発電した電気を用いて揚水ポンプを駆動して地下水をくみ上げて貯水池に供給し、熱交換機で貯水池の水の熱を建物内冷暖房用熱に交換し、貯水池からあふれた水を地盤中に還元することを特徴とする地中熱・太陽光利用冷暖房システム。
2.建物内冷暖房設備として、輻射冷暖房用間仕切りパネルを備えており、
輻射冷暖房用間仕切りパネルは、パネル本体を構成するPCパネルの内部に、熱交換可能な媒体を通す配管が埋設されるとともに、PCパネルの表面に凹凸が設けられており、該凹凸の空間が空気の流路となっていること
を特徴とする1.記載の地中熱・太陽光利用冷暖房システム。
3.地下水揚水用井戸は、くみ上げ規制水量以上の地下水流のある水脈から取水することを特徴とする1.又は2.記載の地中熱・太陽光利用冷暖房システム。
4.貯水池は、少なくとも一部が地表露出している池であり、外部道路からアクセスできる位置に吐水口が設けられていることを特徴とする1.~3.のいずれかに記載の地中熱・太陽光利用冷暖房システム。
5.貯水池は、1階居室に隣接して設けられていることを特徴とする1.~4.のいずれかに記載の地中熱・太陽光利用冷暖房システム。
6.取水量は、揚水ポンプの稼働時間を積算して、くみ上げ規制水量以下になるように制御することを特徴とする1.~5.のいずれかに記載の地中熱・太陽光利用冷暖房システム。
7.1.~6.のいずれかに記載されている地中熱・太陽光利用冷暖房システムを、断水時に熱交換を中止して、近隣地域用に水を供給することを特徴とする災害用自立給水システム。
【発明の効果】
【0006】
1.本冷暖房システムは、地中熱を地下水として通常の井戸から揚水して貯水池に貯留し、必要な場合に建物内の冷暖房熱源として供給するシステムであって、揚水電力として太陽光発電を用いているので、揚水井戸は通常のボーリング等で設置でき、太陽光発電が稼働した時に揚水ポンプを駆動して貯水するシステムであるので、深い採熱施設や熱交換システムを構築する必要がなく、初期費用を低減でき、維持も太陽光発電を利用するので、経済的である。
本発明の冷暖房システムは、冬は温かい地下水温を利用して暖房、夏は低い地下水温を利用して冷房として年中利用することができる。
2.使用後地下水は、地上散水・浸透を行って地下に還元することを基本とするので、下水施設への負荷を増大せず、地下水位の枯渇を招かない。下水の水使用料も賦課されない。暖房時、冷房時に応じて、冷たい下層の池の水を放出あるいは温かい表層の水を放水して、冷暖房の効率を向上させることができる。オーバーフロー水を散水して、打ち水効果によって地表面温度を下げることができる。くみ上げ水量の管理は、揚水量あるいは放水量を計量することによって行うことができる。例えば、時間単位のポンプの揚水量が決まるので、くみ上げ規制水量に相当するポンプの最大稼働時間を算定して、ポンプの稼働時間を規制するタイマー管理を行う。また、貯水池の放水口に水量計を設けて、放水量からくみ上げ規制水量を算定する。
3.貯水池は、地表面に露出しているので、日常的に水があることが意識され、親水領域として活用でき、緑地散水も可能である。また、非常時用水として活用でき、太陽光発電電力を使用して揚水するので、商用電力がダウンしても、水を継続して確保できる。即ち、近隣の防災水源として活用できる。
4.表面に凹凸を備えた輻射冷暖房用間仕切りパネルを建物内の放熱機器として使用したので、室内機のような機器を設置する必要が無く、面放熱板であるので、室温との温度差が小さくても、面積として熱エネルギーを供給することができ、やさしく柔らかな熱源を実現できる。冷房時においてはパネル内を流れる熱媒体の温度が比較的高くとも、面放熱なので、十分に対応できる。この放射冷暖房は、冷房時は温度が高くても、暖房時は低くても快適感が得られる。ファンによる空気流を作らないので、風上・風下の影響による空気感染のリスクが小さい冷暖房である。
5.河川付近や河口部に立地した都市では、地下水脈は高く、数十メートル以内にあるので、浅い揚水井戸で十分であり、本発明は、日本やモンスーン地帯で地下水を利用した冷暖房システムとして適している。
6.貯水池を1階の居室に隣接させて設けることにより、窓から室内に人が侵入し難くなるので、防犯効果がある。また、水辺空間に臨んだ優れた景観を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】地中熱・太陽光利用冷暖房システムの例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、地下水脈の浅い日本における地中熱を建物の冷暖房に利用する発明であって、イニシャルコストとランニングコストを抑えて一般に活用できるシステムである。そして、地震などの災害時に断水や停電による緊急対策として近隣地域に水を供給できる災害用水供給システムに転用できるシステムである。
本発明は、通常の井戸から揚水して貯水池に地下水を貯め、その地下水の熱を熱交換して建物冷暖房用の熱源として利用するものである。揚水ポンプの駆動電力として太陽光発電パネルを利用することとし、太陽光発電による不定期発電による揚水量を貯水池に貯めることでバッファー機能を持たせることができる。また、建物の熱需要の変動にも貯水池の水量を当てることができる。熱交換後の水は浸透法によって地下に還元するので地下水の枯渇も防止される。
本発明は、通常のボーリング掘削によって井戸を作成でき、揚水電力を太陽光発電で賄い、使用後の水は地下に還元するので、初期費用、ランニング費用とも軽減できる。下水に排水しないので、排水費用も不要である。貯水池を敷地内に設けるので、貯水池に面した建物に部分へ侵入することが困難になるので防犯上も有利であり、親水効果もあって、景観の向上、心理的緊張緩和効果も期待できる。
【0009】
また、太陽光発電を用いるので、停電時でも稼働することができ、近隣地域への災害時給水施設としても活用できる。
地下水は一年をとおして温度変化が少ないので冷房用、暖房用として通年利用が可能である。
また、日本の都市の多くは河川付近や河口部に立地しており、地下水脈は高く、数十メートル以内にあるので、浅い揚水井戸で十分であり、本発明は、日本やモンスーン地帯で地下水を利用した冷暖房システムとして適している。
【0010】
さらに、貯水池の温度と熱交換した熱媒体の温度差が小さい場合でも、本発明では面放熱パネルを建物内の放熱手段として用いることによって、必要な熱量を提供することができる。
建物内の放熱手段としては、放熱パネルを間仕切り壁パネルとして用い、面する両方の部屋に熱量を供給することもできる。また、放熱パネルは、プレキャスト板として既成品サイズを準備すること、あるいは、コンクリートを現場打ちして、施工する建物ごとに製造することもできる。
放熱パネルには、家具がパネルの表面に密着しないように、隙間が生ずるようにパネル表面に凹凸を設ける、あるいは凸状のリブを設けることが適している。
【0011】
本発明の地中熱・太陽光利用冷暖房システム10の構成例を
図1に示す。
地中熱・太陽光利用冷暖房システム10は、地下水の揚水用井戸1と、地下水浸透手段(井戸、浸透桝、浸透性舗装)2と、貯水池3と、太陽光発電パネル4と、熱交換機5と、放熱機能を持つ間仕切りパネル7などを有する建物内冷暖房設備6とを備えている。
太陽光発電パネル4で発電した電気を用いて揚水ポンプ11を駆動して地下水をくみ上げて貯水池3に供給し、熱交換機5で貯水池の水31の熱を建物内冷暖房用熱に交換し、熱交換後の水を散水などの地下水浸透手段2を用いて地盤中に還元する。
【0012】
地下水の揚水用井戸1は、地下水の水脈Wに到達する井戸をボーリングなどで掘削する。地下水脈は、日本の都市や住宅地では一般的に浅く、地下10~50m程度である。日本の都市や住宅地は、河川流域に立地しており、伏流水として常に更新されているので、新しい水を取水することができる。
揚水ポンプ11を利用して、揚水用井戸1から取水して、貯水池3に貯留する。
揚水ポンプ11は、太陽光発電パネル4を利用して得られた電力を利用して駆動する。
発電量が一定しないが、貯水池3に貯水することにより、建物内冷暖房に必要な水量を確保できる。貯水池は、不安定な太陽光発電によって駆動される揚水ポンプ11による揚水量と建物61の熱需要とのアンバランスを調整する機能も果たすことになる。
【0013】
貯水池3は、揚水用井戸1から揚水ポンプ11で取水した水を貯留する設備である。地中熱・太陽光利用冷暖房システム10を適用する建物61の敷地内に設けることを原則とする。貯水池3は、地上あるいは地下に設置することができるが、地上に設置することにより、熱交換機5への送水や散水する場合に、落差を利用することができるので、省エネになる。非常時に給水する場合も、同様である。
地下に設置した場合は、その上面を庭や駐車スペースに活用できる。
本発明では、非常時用に近隣に提供する非常用水も兼ねるので、貯水池を地下設置とした場合でも、一部が露出するようにして、日常的に近隣住民が認知できるようにすることが望ましい。
貯水池3の貯水量は、建物61の冷暖房需要により設計されるが、揚水ポンプ11の稼働は太陽光発電パネル4の発電に依拠するので、ポンプの稼働率を見込んで余裕を持った容量に設定する。
池の水の管理を冷房用と暖房用で調整すると冷暖房の効率を向上させることができる。
池の水の温度は、冷たい水が底側にたまるので、暖房の季節には池の水を底側(下層側)から排出して冷たい下層水を放出するようにし、冷房の季節には池の上側(表層側)から排出すると、それぞれの用途に適した、冷たい水又は温かい水を池に貯めておくことができる。
調整用にポンプを使用することができ、あるいは、自然放流によることもできる。
調整用ポンプでは、吸引口を池の上下に設け、吸引口を切り分けて利用することになる。
自然放流では、上側に設けられている吐水口からオーバーフローさせて、温かい水を放流し、池の側面の下方に放水口を設けて冷たい水を放流することができる。下方の放水口は、開閉弁を設けて、手動あるいは自動で制御することができる。
なお、地域によって地下水の利用に制限がある場合は、放水量を計測して、制限内に抑えるようにコントロールする。又は、揚水ポンプ側に揚水量の計測機器を設けて、制限内にコントロールすることもできる。揚水量は、ポンプの稼働時間管理でも行うことができ、累積稼働時間をタイマー管理することで、揚水ポンプの稼働を制限して、くみ上げ量を許容内に抑えることができる。
【0014】
池を建物に隣接して設けることにより、池越しに建物へ侵入することが難しくなるので、防犯設計にも役立つ。
地下水をくみ上げる井戸側から池の水を放流する流出口側に淀みない水流を形成することにより、落ち葉や藻の堆積を防止して、池をきれいに保つことができる。水流の形成は、例えば、三角形にして、角に流出口を設け、対辺部分に井戸からの給水口を設けることにより、流出口に向かって流速が早くなる水流を設けることができる。また井戸からの給水を、給水穴を複数設けた給水パイプを使うことによって、水流をコントロールすることができる。
また、池には、鯉や金魚などの魚や、蓮や浮草などの水草を設けて、親水効果を付加することもできる。
【0015】
太陽光発電パネル4は、建物61の屋上などの空きスペースに設置する。太陽光で発電した電力は少なくとも揚水ポンプ11の駆動に供される。揚水ポンプ11は発電に従って随時駆動とすることもでき、貯水池の水31がオーバーフローした場合は、地下水浸透手段2を通じて、地下還元してもよい。また、貯水池3に貯水量センサーを設けて、揚水ポンプ11の駆動を制御して必要以上を取水しないようにすることもできる。
本発明の揚水ポンプの駆動は、自家用の太陽光発電なので、自立しており、非常時でも駆動することができる。
【0016】
熱交換機5は、ヒートパイプやヒートポンプ、採熱管などを用いることができる。これらの熱交換手段は、数多く提案されている。
【0017】
建物内冷暖房設備6は、熱交換機5を通して得られた、冷熱や温熱を建物61内へ供給する設備である。室内への放熱は、エアコンや放熱板を利用することができる。
図1の例では、間仕切りパネル7を放熱板に利用している。熱媒体を循環させるパイプを内蔵した間仕切りパネル7から放熱することにより、全体に柔らかな熱環境を作ることができる。
また、間仕切りパネルには、凸状のリブを並列に配置する、あるいは、多数の溝を形成して表面を凹凸にすることにより、パネルに家具が密着せず放熱空間を確保できるようにすることもできる。
【0018】
地下水浸透手段2は、熱交換した貯水池の水31を地下に還元する手段である。例えば、還元用の井戸、浸透桝、浸透性舗装などがある。一部を庭への散水などに使用して、夏季の打ち水効果、冬季の融雪に利用することもできる。
ビオトープの設置や散水することにより、近隣住民に対して、地下水の活用を普段から認知させることができ、非常時用水源として活用を期待できる。
【0019】
本発明は、日本の住宅地に適した浅い地下水源を熱源に利用した冷暖房システムである。その揚水エネルギーとして太陽光発電を活用しているので、自立型で運用することができ、商用電力を必要としないので省エネである。不安定な太陽光発電で駆動される揚水ポンプによる地下水の供給と建物の熱需要との不均衡を、貯水池を設けることにより調整することができる。
地上に設けた貯水池は、地表付近に水があることで、都市緑化や、防災時の消火用水、生活用水としての防災利用が可能となるため、導入のインセンティヴが高く、社会インフラとしても普及が期待される。
採熱管を地下100m程度の地中深く敷設する欧米型の地中熱利用は、均一で堅い地層が分布する地域では低コストでの設置が容易であるが、日本のような複雑な地層では採熱井戸を掘削するコストが高く、普及しない。本発明は、浅い地下水をくみ上げて地表の貯水池に貯めた水を利用して採熱するので、低コストで設置、運用することができる。
東京都区部では、10~20m3/日の地下水取水が可能なため、これを冷暖房に利用することにより、大幅に二酸化炭素を削減することができる。使用後の地下水は、浸透性アスファルトなどから地中に還元することで、下水に負荷をかけることは無い。
本発明は、建物敷地内でポンプの駆動電源を太陽光発電から確保し、地下水を採取し、還元するので、自己完結型で、他者への負担をかけず、かつ、近隣の非常時用水源、あるいは電源として地域貢献ができるシステムである。
【0020】
図2に放熱パネルAの例を示す。
間仕切りパネル7は、建物の床62と天井63との間において、左右の部屋R1、R2を間仕切るように設置されるものである。この間仕切りパネル7は、本体部分がPC(プレキャストコンクリート)パネルあるいは現場打ちコンクリートによって構成されている。
本発明では、この間仕切りパネル7の内部中央には断熱材76をはさんで、冷水または温水を循環させるための冷温水管(配管)72を埋め込んで、輻射冷暖房用間仕切りパネル7を形成している。
間仕切りの例として、幅Wが2,000mm、高さHが2,000mmのPCパネルに、冷温水管72として内径7mm、外径10mmの架橋ポリエチレン管を約27m配管し、かつ直径6mmのワイヤーにより形成されたワイヤーメッシュを配筋した場合には、パネルの厚さを90mmとすることができた。この場合、冷温水管72と表面との間のコンクリート厚(表面側の配管かぶり厚)と、冷温水管72と裏面との間のコンクリート厚(裏面側の配管かぶり厚)のそれぞれは40mmとした。そして、室温26℃の環境下において、このパネルの冷温水管72に、13℃の冷水を流量2.5(l/min)で循環させた場合に、両面からの放熱量は360(kcal/h)、部屋R1の表面7aは18.8~19.5℃となり、部屋R2側の表面7bは19.5~20.0℃となった。
中心に断熱材76を設けてあるので、冷温水管72を片面側だけ設けることもできる。
【0021】
上記構成からなる輻射冷暖房用間仕切りパネル7によれば、パネルの両面に別々の系統の冷温水管72a、72bを設け、冷水または温水を別々に通すことにより、パネルの表面7aと裏面7bとが個別に放熱または吸熱する。この結果、部屋R1、R2を、互いに異なる温度に調整することができる。
【0022】
図2に示すパネルの表面7aは、冷輻射運転時における結露の発生防止上の観点から、凹凸形状が設けられている。パネルの冷輻射運転時に、その表面7aが家具などと面接触した場合には、その接触面において結露が生じるおそれがある。この点、表面7aにリブや波形などの凹凸形状を設けてあるので、家具などとの間に隙間ができ、PCパネル表面と家具裏面の間に存在する空気に気流を生起せしめて空気の滞留をなくすことで結露の発生を防止することができる。また、表面7aを凹凸形状とすることにより、その熱交換面積が大きくなり、特に、空調機と併用した場合には、表面7aの近傍の気流による熱伝達により、冷暖房効果を増大させることも可能になる。
【0023】
図3にパネル表面に凸状のリブを間隔を置いて設けた放熱パネルBの例を示す。(a)平面、(b)断面、(c)配管図、(d)拡大断面を示している。
図示の放熱パネルBは、基本的なサイズは他の壁パネルと混交使用できるように同程度のサイズに構成されている。例えば、床から天井までの高さ(約2500mm)があり、幅は通常の基準壁パネルと同様に1800mm程度である。厚みは120mm程度である。
放熱パネルBは、コンクリート製プレキャスト板(PC板)である。中心部に冷温水管82が位置し、その両側に溶接金網86が配置されており、これらを埋め込むようにコンクリート81が充填され、硬化されている。コンクリート製の表面8aに凸条のリブ83が水平に多数設けられている。リブ83は、細長い材であるリブヘッド83aが点付材であるリブ足(ビス等)83bでコンクリート表面に取り付けられている。図示の例では、リブ足83bは、6個/1列設けられている。例えば、リブヘッド83aは、幅25mm、厚み20mm、リブ足83bが20mmである。したがって、家具などを壁に押し付けてもリブヘッド83aに当接して、空間が生ずることとなり、リブ足83bの長さ20mmの隙間を空気が上下に流通できることとなる。
なお、放熱パネルを現場打ちコンクリートで形成する場合も、凸状のリブを放熱パネルBのように後付け施工することができる。
【0024】
パネル内への冷温水管82の配置は、図(c)に図示するように蛇行配置し、上部隅に示される入り口82aから出口82bにかけて連続するように、平行に設けられている。
管のサイズと材質は放熱パネルAに使用されているサイズと同様である。
【実施例】
【0025】
東京都区部の東部エリアで、床面積約100m
2の建物例である。
図4に建物配置図を示す。
ほぼ長方形の敷地に半円形の5階建ての建物である。
地熱利用に関する設備は次のとおりである。
貯水池:24m
2、貯水量13m
3
揚水用井戸:深さ20m
揚水ポンプ:深井戸用水平ポンプ
熱交換機
太陽光発電パネル(屋上設置)
輻射放熱パネル:
図2記載のパネル
【0026】
図4には1階平面配置図が示されている。
扇形の建物61の北西に貯水池3を設け、中央部に島32を設けて、揚水用井戸1と井戸の下部に揚水ポンプを設置した。貯水池3の東端と南端は池の水をオーバーフローさせる吐水口34を設置している。
敷地の西、北、北東は浸透性アスファルト舗装21とし、建物の周囲は貯水池と浸透性舗装となっている。外部道路からの出入り口と玄関廻りは通常の舗装としている。
熱交換機5を建物61の南西端に設置している。この熱交換機の設置箇所は、制限されるものではなく、任意である。
建物61は5階建てで、1階には4つの住室が設けられ、住室間の間仕切り壁に輻射冷暖房用間仕切りパネル7を採用している。本例では、一部が構造壁となっている部分には輻射冷暖房用間仕切りパネルを使用していない。
【0027】
貯水池3は、1階の住室2、3、4に接した形に形成してあるので、各住室の窓64から水面を眺めることができ、親水感と開放感を与えることができる。また、池に面しているので、窓から侵入することは難しく、池は防犯機能を発揮する。一般的には、1階の住戸価格は低めに評価されるが、このような効果によって、住戸価値を高めることができる。
【0028】
図5に貯水池3に設けた島32を通る南北断面を模式的に示している。
貯水池3に設けた島32に揚水用井戸1を設け、揚水管には揚水ポンプ11を設置してある。揚水ポンプの駆動源は、建物の屋上に設置した太陽光発電パネルで発電された電力を使用する。
貯水池3は池壁33で囲まれており、池壁33は、ポリスチレンフォーム材のような断熱材で形成された断熱層33aを外巻きにしたコンクリート33bで構成して、水温の変動を抑制している。
揚水用井戸の深さは、十分な水量が確保できる水脈とする。この地区の地下水位は高く、くみ上げ量が10m
3/日と規定されているので、この規定値の水量を確保できる水脈をめどに井戸の深さを設定する。
池内には、採熱管51がめぐらされている。採熱管51から熱交換機へ熱媒体が送られて、熱交換されて、輻射冷暖房用間仕切りパネルなどへ供給される。
【0029】
図6に貯水池からオーバーフローする貯水池の水の落とし口の構成を示している。吐水口34の下に水受35を設け、地面に水鉢36が設けられている。この落とし口の下部には冷水放水口37を設けている。水受35あるいは水鉢36に受け網38を設けることにより、落ち葉や浮き藻などの浮遊物を受け止めて、除去し、オーバーフロー水からごみを取り除き、散水面をきれいに保つことができる。なお、受け網は、冷水放水口37にも設けることができる。
オーバーフローした水は、水受35や水鉢36で利用可能になっており、水鉢36から流れでた水は、浸透性アスファルト舗装部分に広がり、地面に吸収される。一部の水は浸透性アスファルト舗装から蒸散して、打ち水効果を発揮して、周囲の温度を緩和する。表面側の温かい水が放出されて、比較的冷たい水が池に残るので、冷房効果を効率的に発揮することができる。
寒い季節には、冷水放水口37から池の底の冷たい水を放水して、池には比較的温かい水が残るので、暖房効果を効率的に発揮することができる。
【0030】
また、この東京都東部エリアでは、10m3/日の水量をくみ上げることが許容されている。この貯水池は、ほぼ一日で水を入れ替えることができる設定である。揚水ポンプはくみ上げ量を計測し、10m3/日を上限に設定している。くみ上げ量はポンプの稼働時間に比例するので、稼働時間の上限を設定したタイマー管理によって、制御することができる。即ち、単位時間当たりのポンプの揚水能力(Am3/h)×累積稼働時間(Xt)≦制限水量(Maxm3)となるので、稼働限度時間(Bt)=制限水量(Maxm3)/揚水能力(Am3/h)と設定することとなる。なお、タイマーを稼働制限時間(Bt)以内に任意に設定して、必要くみ上げ量を確保することができる。
また、放水量を計測して、放水制限し、揚水ポンプ側をコントロールすることもできる。
【0031】
図7に水流を制御した貯水池の例と、散水を制御した例を示す。
図7に示す貯水池の形状は、
図4に示す貯水と同じものを援用しているが、これに限るものではないことは言うまでもない。
図示の例では、貯水池3の形状は、図示左上の直角とする略直角三角形状である。斜辺は、建物の外形に沿って内側に湾曲している。貯水池3には、揚水井戸1が設置された島32が、図示された貯水池3の左手に配置されており、鋭角部には、吐水口34、34bが設けられている。吐水口34、34bからオーバーフローした水が拡散した状態を散水拡散24、24bと模試している。外気温35℃の盛夏日には、揚水された地下水温は18℃で、散水面26℃、木陰アスファルト面41℃、外路面(日照面)60℃と計測されており、散水による温度低下効果を確認することができた。
揚水井戸1から多数の放水穴を開けた放水管22を設けて給水して、吐水口34、34bに向かう水流が池の全面にできるようにしてある。落ち葉や浮き藻などの浮遊物が生じた池の水の流れを制御して、吐水口34、34bからオーバーフロー水を排出して池をきれいに保つことができる。そして、吐水口34、34bに受け網を設けることにより、散水面を汚すことを防止できる。
なお、貯水池の形状は敷地や建物の形状によって異なるので、貯水池の形状と吐水口の位置に応じて、水流を制御するように、放水管を設けることになる。
放水管22は、池の形状と設定する水流に合わせて配置と放水穴を設計する。本例では、貯水池3の短辺側に伸ばして、複数の放水穴を設けてある。また、島の後ろ側にも放水管を設けて島の後ろ側にも淀みができないようにしている。きれいな地下水が供給されるので、よどみのない水流を形成することにより、ボウフラの発生や夏場の藻の発生などを抑制することができる。
蓮を植え、魚を放流することにより、趣が一段と向上する。魚はボウフラ退治にも有効である。
【0032】
散水拡散24、24bは、吐水口34、34bから自然にオーバーフローした場合の水の拡散状態を示している。しかし、敷地の形状や気候によって、遠くまで水が拡散しない場合がある。例えば、盛夏には、遠くまで広がることが望ましいが、水の蒸発が早く、干上がってしまうことがある。このような場合に、吐水口から遠い敷地のところまで届くように散水管25、25bを配管しておくことができる。散水管は、フレキシブルチューブなどを使用することができる。散水管は、植栽の近くを通すことにより灌水を行うこともできる。
また、冬季や寒冷地では、散水された水が氷る場合があり、歩行などが危険になることがあるので、不必要なオーバーフロー水を地下に戻す還元穴26を設け、還元管26bを貯水池3から水を導入する。還元穴は、揚水する水脈に達する深さは必要はなく、十分な浸透力があれば十分である。浸透力を確保するために、透水性にある地層までの深さ、さらに、還元穴から浸透管を複数埋設することができる。還元穴の大きさは、散水管を多数設けることで、大きな直径は必要なくなる。還元穴は、地下に設けることができ、敷地面の利用を制限しない。
【0033】
大規模地震などの災害時には、独立した太陽光発電で揚水ポンプを駆動することができ、地下水をくみ上げて、吐水口などを利用して、周辺住民にも水を供給することができる。また、太陽光発電の電力も供給することができる。実施例に示す地中熱・太陽光利用冷暖房システムは、断水時に熱交換を中止して、近隣地域用に水を供給する災害用自立給水システムとしても機能する。
【符号の説明】
【0034】
1 :揚水井戸
11 :揚水ポンプ
2 :地下水浸透手段
21 :浸透性アスファルト舗装
22 :放水管
23 :水流
24、24b:散水拡散
25、25b:散水管
26 :還元穴
26b:還元管
3 :貯水池
31 :貯水池の水
32 :島
33 :池壁
33a:断熱層
33b:コンクリート
34、34b:吐水口
35 :水受
36 :水鉢
37 :冷水放水口
38 :受け網
4 :太陽光発電パネル
5 :熱交換機
51 :採熱管
6 :建物内冷暖房設備
61 :建物
62 :床
63 :天井
64 :窓
7 :輻射冷暖房用間仕切りパネルA(放熱パネルA)
7a、7b:表面
72 :配管
72a、72b:冷温水管
76 :断熱材
8 :輻射冷暖房用間仕切りパネルB(放熱パネルB)
8a :表面
81 :コンクリート
82 :冷温水管
82a:入り口
82b:出口
83 :リブ
83a:リブヘッド
83b:リブ足
84 :リブ間の空間
85 :空気の流路
86 :溶接金網
10 :地中熱・太陽光利用冷暖房システム
P :ポンプ
W :水脈
R1 :部屋
R2 :部屋