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特許7577994含水ゲルシート形成用コート剤および含水ゲルシート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】含水ゲルシート形成用コート剤および含水ゲルシート
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/06 20060101AFI20241029BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20241029BHJP
   A61K 8/81 20060101ALI20241029BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20241029BHJP
   A61L 15/26 20060101ALI20241029BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20241029BHJP
   A61L 31/12 20060101ALI20241029BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20241029BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20241029BHJP
   C09D 133/00 20060101ALI20241029BHJP
   C09D 201/08 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
A61K9/06
A61K8/02
A61K8/81
A61K47/32
A61L15/26 100
A61L31/04 110
A61L31/12
A61L31/14 300
C09D5/02
C09D133/00
C09D201/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020209850
(22)【出願日】2020-12-18
(65)【公開番号】P2022096726
(43)【公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004506
【氏名又は名称】トーヨーケム株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高野 陽一
【審査官】今村 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-179605(JP,A)
【文献】特開2014-156497(JP,A)
【文献】特開2020-164471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
未中和の水溶性カルボキシル基含有ポリマー(A)、前記ポリマー(A)とイオン結合する架橋剤(B)およびpH1.0~10.5であるアクリルエマルジョン(C)を混合してなり、完全中和ないし部分中和された水溶性カルボキシル基含有ポリマーは混合されてなく、乾燥調整剤を含み得る、pH1.0以上3.0未満である、含水ゲルシート形成用コート剤であって、不揮発分(濃度)が20~80質量%で、ポリマー(A)、架橋剤(B)およびアクリルエマルジョン(C)を混合した時点の23℃における粘度が0.1Pa・s以上30Pa・s以下である、含水ゲルシート形成用コート剤
【請求項2】
ポリマー(A)、架橋剤(B)およびアクリルエマルジョン(C)を混合した後、25℃で24時間経過後の粘度上昇率が20%以下である、請求項1記載の含水ゲルシート形成用コート剤。
【請求項3】
請求項1または2記載の含水ゲルシート形成用コート剤から形成される、pH1.0以上3.0未満、水分率が1~30質量%であることを特徴とする含水ゲルシート。
【請求項4】
乾燥調整剤を、水を除く全量中10~95質量%含む、請求項3に記載の含水ゲルシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含水ゲルシート形成用コート剤および含水ゲルシートに関する。
【背景技術】
【0002】
適度な粘着力と低皮膚刺激性を有する含水ゲルシートは、基材上に積層された含水ゲルシート積層体として、医療用パップ剤、医療用電極固定材、シート状皮膚冷却材、創傷被覆材、シート状化粧用パックとして使用されている。
【0003】
含水ゲルシートは、架橋や不溶化が施された親水性ポリマーを水で膨潤させたものであり、親水性ポリマーの種類、架橋や不溶化の方法などにより様々な種類のものが存在する。含水ゲルシートに用いられるポリマーとして、非架橋型のポリアクリル酸又はその塩、架橋型のポリアクリル酸又はその塩や、カルボキシメチルセルロース又はその塩などのカルボキシル基含有ポリマーが知られている。カルボキシル基含有ポリマーを架橋する方法としては、水酸化アルミニウムや硫酸アルミニウムなどの多価金属陽イオンとの間でイオン結合コンプレックスを形成させる方法が知られており、この方法が工業的に多く用いられている。
【0004】
しかしながら、従来一般に用いられている上記の多価金属陽イオンをカルボキシル基含有ポリマーの水溶液に混合した場合、室温にて速やかに架橋反応が進行しゲルが生じるため、多価金属陽イオンとカルボキシル基含有ポリマーを含む含水ゲルシート形成用混合物(以下、コート剤と称す)を流動性のある状態で保存できる期間(以下、ポットライフと称す)が短くなる。したがって、ロールコータなどを用いてこのコート剤を支持体上にシート状に塗工しようとしても、既に架橋反応が進行し流動性が消失しているために塗工ができなくなるという問題があった。
【0005】
この問題を解決するために、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)又はこのナトリウム塩などに代表されるキレート剤などをゲル化速度調整剤としてコート剤に添加することが行われている。ゲル化速度調整剤が添加されたコート剤は、ゲル化反応が遅延され塗工時に十分な流動性を有するようになるために、ロールコータなどを用いて支持体上に塗工することが可能になる。しかし、塗工後もゲル化反応の遅延効果が残るため、塗工物を変形させずに長時間保つこと(以下、シーズニングと称す)が必要といった問題があった。
従って、枚葉の支持体にコート剤を塗工する場合、塗工後の枚葉状態の含水ゲルシート積層体を変形させずに架橋反応の終了を待つための生産設備が必要になるという問題があった。
枚葉ではなく、ウエブ状の長尺の支持体上にコート剤を塗工する場合、塗工後の長尺の含水ゲルシート積層体を長尺のまま巻き取ることなく変形させずに架橋反応の終了を待つためのさらに大掛かりな特別な生産設備が必要になるという問題があった。塗工後の長尺の含水ゲルシート積層体を架橋が完全でない状態でロール状に巻き取ろうとすると、巻き取り時の圧力により含水ゲルシートがロール状の積層体端からはみ出してしまうという問題もあった。
ウエブ状の長尺の含水ゲルシート積層体をシーズニングせずにロール状に巻き取ることが可能となれば、スリッティングや打ち抜きなどの次の加工工程へロール状で搬送できるため製造工程が簡略化され、製品をロール状で供給することも可能になるなど、枚葉の含水ゲルシート積層体に比較して格段に生産性が向上する。
【0006】
特許文献1には、塗工時に十分なポットライフを有することで生産性に優れ、かつゲル化が十分に進行することで被着体への転着がなく、被着体への追従性が良好な含水ゲルシートとして、カルボキシル基含有ポリマーと、前記カルボキシル基含有ポリマーとイオン結合する架橋剤とを含有し、pHが1以上3未満であり、水分率が1~30質量%であることを特徴とする含水ゲルシートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6593566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、コート剤を支持体上に塗工して加熱し、水分の一部を揮発除去することにより含水ゲルシート積層体を得る方法としては、以下の2通りの方法がある。
(1)直接塗工:樹脂フィルム等の支持体上にコート剤を塗工し、乾燥工程後、必要に応じて、形成された含水ゲルシートを保護する目的で、表面が剥離処理された剥離シートを貼り合わせる方法。
(2)転写塗工:塗工の際の支持体である剥離シート上にコート剤を塗工し、乾燥工程後、その表面に樹脂フィルム等の基材を貼り合わせ、形成された含水ゲルシートと基材とを一体化する方法。
【0009】
上記(2)の転写塗工は、基材に熱がかかることがなく、また塗工機の構造に由来する強い張力が基材に加えられることがないため、特にポリウレタン、不織布といった熱可塑性、高伸縮性の基材を用いる製品の製造で多く利用されている。
【0010】
特許文献1に記載されるコート剤は、転写塗工において、表面が剥離処理されたPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムなどの剥離シート上にコート剤を塗工するとハジキが生じ、均一なゲルシートが得られないという問題があった。さらに、塗工後に樹脂フィルム等の基材を貼り合わせ、含水ゲルシートと基材とを一体化した場合に、基材に対する十分な密着性が得られないという問題もあった。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、塗工時に十分なポットライフを有し、剥離シートに対する濡れ性に優れ、良好なゲル化度を有しつつ、基材に対する十分な密着性を有する含水ゲルシート積層体を形成できるコート剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記の課題を解決するため鋭意検討の結果、上記課題を解決できることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、未中和の水溶性カルボキシル基含有ポリマー(A)、前記ポリマー(A)とイオン結合する架橋剤(B)およびpH1.0~10.5であるアクリルエマルジョン(C)を混合してなり、完全中和ないし部分中和された水溶性カルボキシル基含有ポリマーは混合されてなく、乾燥調整剤を含み得る、pH1.0以上3.0未満である、含水ゲルシート形成用コート剤に関する。
【0014】
また、本発明は、ポリマー(A)、架橋剤(B)およびアクリルエマルジョン(C)を混合した後、25℃で24時間経過後の粘度上昇率が20%以下である、上記含水ゲルシート形成用コート剤に関する。
【0015】
さらに、本発明は、上記含水ゲルシート形成用コート剤から形成される、pH1.0以上3.0未満、水分率が1~30質量%であることを特徴とする含水ゲルシートに関する。
【0016】
さらにまた、本発明は、乾燥調整剤を、水を除く全量中10~95質量%含む、上記含水ゲルシートに関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によって、塗工時に十分なポットライフを有し、剥離シートに対する濡れ性に優れ、良好なゲル化度を有しつつ、基材に対する十分な密着性を有する含水ゲルシート積層体を形成できるコート剤を提供できるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0019】
本発明の含水ゲルシート形成用コート剤(以下、コート剤ということもある)は、未中和の水溶性カルボキシル基含有ポリマー(A)、前記ポリマー(A)とイオン結合する架橋剤(B)およびpH1.0~10.5であるアクリルエマルジョン(C)を混合してなり、完全中和ないし部分中和された水溶性カルボキシル基含有ポリマーは混合されてなく、乾燥調整剤を含み得る、pH1.0以上3.0未満である、含水ゲルシート形成用コート剤である。
【0020】
本発明に用いる未中和の水溶性カルボキシル基含有ポリマー(A)は、カルボキシル基を有するポリマーであって、水溶性、即ち水に溶けるポリマーの未中和物である。
なお、水に溶けるポリマーとは、水に膨潤または分散するポリマーに対する表現であり、濃度10質量%、23℃の液が透明であるものをいう。水に膨潤または分散するポリマーは、濃度10質量%、23℃の液が白濁するものをいう。濃度10質量%とは、10質量部のポリマーを90質量部の水に添加した場合を指す。白濁とは、光路長10mmのセルで測定した際のヘイズが50%以上のものをいう。
【0021】
本発明に用いる未中和の水溶性カルボキシル基含有ポリマー(A)としては、(メタ)アクリル酸のホモポリマーおよび共重合体などの合成ポリマー、ヒアルロン酸、キサンタンガム、ジェランガム、ペクチン、カラギナンなどの多糖類、グリシニン(大豆たんぱく)などのタンパク質が挙げられる。カルボキシル基含有ポリマーは1種または2種以上の成分を用いることができる。なかでも、ポリアクリル酸が好適に用いられる。
【0022】
水溶性カルボキシル基含有ポリマーの質量平均分子量は、2万以上が好ましく、15万以上がより好ましい。また、質量平均分子量の上限は、特に制限はないが、概ね500万以下である。質量平均分子量2万以上の水溶性カルボキシル基含有ポリマーの未中和物を用いることでシート化に必要なゲル強度を得ることができる。
【0023】
前記未中和の水溶性カルボキシル基含有ポリマー(A)とイオン結合する架橋剤(B)としては、塩化アルミニウム、塩化ジルコニウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、塩化チタンなどの多価金属陽イオンを生成する無機化合物や、1,3-ジアミノエタン、4,4’―ジアミノジフェニルメタン、メラミンなど多価陽イオンを生成する有機化合物が挙げられる。架橋剤(B)は1種または2種以上の成分を用いることができる。なかでも、アルミニウム塩であるミョウバンが好適に用いられる。
【0024】
前記架橋剤(B)は、任意の量を使用できるが、未中和の水溶性カルボキシル基含有ポリマー(A)100質量部に対して0.1~50質量部であることが好ましく、0.5~50質量部であることがより好ましい。架橋剤(B)の添加量が0.1質量部以上であることでコート剤の水分率低下に伴いゲル化が速やかに進行し、50質量部以下であることで透明性の高い外観に優れたゲルシートが作製できる。
【0025】
本発明に用いるアクリルエマルジョン(C)は、pH1.0~10.5の任意のアクリルエマルジョンを使用できるが、安全性を鑑みてヒト皮膚に対し使用実績のあるアクリルエマルジョンが好ましい。
例えば、水を主成分とする分散媒中で、例えばn-ブチル(メタ)アクリレートや2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレートを主モノマーとし、該主モノマーと共重合可能な(メタ)アクリル酸〔「アクリル酸」と「メタクリル酸」とをあわせて「(メタ)アクリル酸」と表記する。以下同様。〕などのカルボキシル基含有モノマー、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの水酸基含有モノマー、ジメチルアクリルアミドなどのアミド基含有モノマーなどを副モノマーとして、常法により、主モノマーを単独で乳化重合するか、または主モノマーと副モノマーとを乳化重合することにより得られる。
アクリルエマルジョン(C)のpHや含水ゲルシート形成用コート剤のpHは、探針、ドーム、平面など任意形状のセンサを有するpHメータを用いて測定することができる。装置は市販のものが使用可能であり、例えばLAQUAtwin <pH-22B>(堀場製作所社製)などが使用できる。
【0026】
前記アクリルエマルジョン(C)として、より具体的には、医薬品添加物規格に収載されているアクリル酸メチル・アクリル酸-2-エチルヘキシル共重合樹脂エマルジョン、医薬部外品原料規格に収載されているアクリル酸アルキル共重合体エマルション(2)、INCI(化粧品原料国際命名法)に登録されているアクリル酸アルキルコポリマーアンモニウム、(アクリレーツ/ジアセトンアクリルアミド)コポリマー、(ジメチルアクリルアミド/アクリル酸ヒドロキシエチル/アクリル酸メトキシエチル)コポリマーなどが挙げられ、なかでもアクリル酸メチル・アクリル酸-2-エチルヘキシル共重合樹脂エマルジョン、アクリル酸アルキル共重合体エマルション(2)が特に好ましい。
【0027】
前記アクリルエマルジョン(C)は、任意の量を使用できるが、未中和の水溶性カルボキシル基含有ポリマー(A)100質量部に対して、固形分換算で10~2000質量部であることが好ましく、50~2000質量部であることがより好ましい。10質量部以上であることで、転写塗工の際の剥離シートに対する濡れ性と、基材に対する十分な密着性を確保でき、2000質量部以下であることで十分なゲル感を有する含水ゲルシートを形成できる。
【0028】
コート剤は、必要に応じて(A)~(C)成分以外の親水性ポリマーやその他添加剤を更に含有していてもよい。
【0029】
親水性ポリマーとしては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアリルアミン又はその塩、ポリエチレンイミン又はその塩、ポリアクリルアミド又はその塩、ポリジアリルジメチルアンモニウム、ポリビニルピリジンなどの合成ポリマー、デンプン、ローカストビーンガム、グァーガム、タマリンドシードガム、キトサン、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸、カラヤガムなどの多糖類が挙げられる。これらの親水性ポリマーは添加するポリマーの種類や量に応じてコート剤のレオロジーおよび得られる含水ゲルシートのゲル強度や粘着力などの物性を調節することができる。
【0030】
その他添加剤としては、乾燥調整剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、紫外線吸収剤、滑剤、着色剤(染料ないし顔料)、薬剤、フィラー(粒子状ないし繊維状)、導電性付与剤などが挙げられる。
【0031】
乾燥調整剤としては、コート剤粘度に与える影響が小さい、質量平均分子量1万以下の親水性化合物を用いることができる。例えば、グリセリンやポリエチレングリコールといった常温液体の化合物、糖類などが挙げられる。乾燥調整剤を用いることで、乾燥工程における過剰な水分蒸発による含水ゲルシートの使用感低下を抑制することができ、更に含水ゲルシート作製後の水分率変化を抑制することができる。
【0032】
前記乾燥調整剤の添加量は、形成される含水ゲルシートの水を除く全量中10~95質量%であることが好ましく、15~92質量%であることがより好ましい。10質量%以上であることで過乾燥が抑止でき、95質量%以下であることで十分な強度を有する含水ゲルシートとなる。言い換えると、乾燥調整剤は、コート剤に含まれる水以外の成分の合計100質量%中、10~95質量%含むことができる。
【0033】
pH調整剤としては、硫酸などの強酸のほか、コート剤ないしは形成される含水ゲルシートのpHを3.0未満に低下させることが可能なpKaを持つりん酸などの弱酸を用いることができる。pH調整剤は、任意の量を添加できる。
【0034】
本発明の含水ゲルシート形成用コート剤のpHは1.0以上3.0未満である。pH3.0未満であることで架橋反応に寄与するイオン型カルボキシル基の生成が抑止され、コート剤のポットライフが担保できる。具体的には、ポリマー(A)、架橋剤(B)およびアクリルエマルジョン(C)を混合した後、25℃で24時間経過後の粘度上昇率が20%以下であり、含水ゲルシートの製造にあたって塗工性を維持できる。なお粘度上昇率とは、([24時間経過後の粘度]-[初期粘度])÷[初期粘度]×100(%)である。例えば初期粘度が10Pa・s、24時間経過後の粘度が12Pa・sの場合、粘度上昇率は20%である。
また、pH1.0以上であることでゲル化に必要なイオン型カルボキシル基が確保でき、過剰な酸の添加が不要になる。
【0035】
本発明の含水ゲルシート形成用コート剤は、水で希釈可能であるが、不揮発分(濃度)が20~80質量%で、ポリマー(A)、架橋剤(B)およびアクリルエマルジョン(C)を混合した時点の23℃における粘度が0.1Pa・s以上30Pa・s以下であることが好ましく、0.2Pa・s以上20Pa・s以下であることがより好ましい。
低粘度過ぎると、剥離シートに塗工した際、ハジキ等の生ずるおそれがあり、高粘度過ぎると、攪拌が困難になり、また塗工時に液輸送性の低下、塗工面荒れなどの問題が生じる。
本発明では、含水ゲルシート形成用コート剤、ポリマー(A)、アクリルエマルジョン(C)等の粘度は、B型粘度計を用いて測定することができる。装置は市販のものが使用可能であり、例えば TVB10形粘度計(東機産業社製)などが使用できる。測定条件は25℃で、測定対象の粘度に適した回転数およびロータを設定する。例えば、粘度10Pa・sのコート剤を測定する際は、回転数12rpm、M3ロータを用いることができる。
【0036】
本発明のコート剤を使用して、前記した直接塗工または転写塗工によって支持体(基材または剥離シート)上に塗工し、乾燥して水分の一部を揮発除去することにより、基材上に含水ゲルシートが設けれた含水ゲルシート積層体が得られる。
【0037】
前記含水ゲルシートのpHは1.0以上3.0未満である。含水ゲルシートのpHは、それを形成するコート剤のpHが反映される。含水ゲルシートのpHは、平面センサを有するpHメータを用いて測定することができる。装置は市販のものが使用可能であり、例えばLAQUAtwin <pH-22B>(堀場製作所社製)などが使用できる。
【0038】
コート剤により形成される含水ゲルシートの水分率は、1~30質量%であり、2~25質量%であることがより好ましい。含水ゲルシートの水分率が1質量%以上であることで含水ゲルシートの柔軟性が担保できる。また、水分率が30質量%以下となることでゲル化が速やかに進行する。含水ゲルシートの水分率は、カールフィッシャー水分計を用いて測定することができる。装置は市販のものが使用可能であり、例えば電量法カールフィッシャー水分計CA-200型(三菱化学アナリテック社製)などが使用できる。
【0039】
本発明の含水ゲルシートは、コート剤を使用して、直接塗工または転写塗工により得ることができる。
基材としては、樹脂フィルム、天然繊維、半合成繊維、合成繊維、又はこれらの複合繊維からなる布帛又は編物、不織布、紙、並びに合成紙などを用いることができる。これらの基材はプライマー処理や撥水/親水処理などの表面処理が施されていてもよく、同種又は異種基材と複合化されていてもよい。なかでもポリウレタンや不織布およびこれらの複合基材は、コート剤により形成される含水ゲルシートとの密着性が良いので好ましく使用されるが、前記したように、これらのものを基材として使用する場合には、転写塗工によることが好ましい。
なお剥離シートの種類は特に制限はなく、シリコーン樹脂などにより表面が剥離処理されたシートなどを使用することができる。基材および剥離シートの厚さは特に制限はないが、5~3000μmであることが好ましい。
【0040】
コート剤を基材または剥離シートに塗工する方法としては、流動性を有する材料を塗工できる方法であれば特に制限はないが、例えば、ロールコータ、ナイフコータ、グラビアコータ、バーコータ、ダイコータなどを用いる方法が挙げられる。塗工されるコート剤の量は特に制限はないが、10~2000g/mであることが好ましい。
加熱工程における雰囲気温度は特に制限はないが、50℃~200℃が好ましく、80℃~120℃であることがより好ましい。加熱工程における雰囲気温度が50℃以上であることで時間的に効率良くコート剤を乾燥でき、200℃以下であることで急激な水分率変化を抑止し、気泡の発生による外観不良、ゲルの不均一化を防ぐことができる。
【0041】
塗工され、加熱乾燥により水分の一部が除去された塗膜に、直接塗工の場合には剥離シートを貼り合わせ、転写塗工の場合には基材を貼り合わせることにより、含水ゲルシートの積層体が得られ、必要に応じてこれらをロール状に巻き取ることができる。巻き取りにあたっては、通常のワインダーを使用することができる。
【実施例
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<原料>
表1、2に示した実施例および比較例で用いたコート剤の原料は以下のとおりである。
<<カルボキシル基を有する水溶性ポリマー>>
・ジュリマーAC-10SH:非架橋型ポリアクリル酸、質量平均分子量100万、不揮発分濃度10質量%の水溶液、東亜合成株式会社製
・ジュリマーAC-10L:非架橋型ポリアクリル酸、質量平均分子量2.5万、不揮発分濃度40質量%の水溶液、東亜合成株式会社製
・ジュリマーAC-10H:(非架橋型ポリアクリル酸、質量平均分子量15万、不揮発分濃度20質量%の水溶液、東亜合成株式会社製
・アクアリックAS58:非架橋型ポリアクリル酸、質量平均分子量80万、日本触媒株式会社製
・アクアリックHL-415:非架橋型ポリアクリル酸、質量平均分子量1万、日本触媒株式会社製
・アロンビスSX:非架橋型ポリアクリル酸ナトリウム、質量平均分子量450万、東亜合成株式会社製
【0043】
<<アクリルエマルジョン>>
・ニカゾールTS-620(アクリル酸メチル・アクリル酸-2-エチルヘキシル共重合樹脂エマルジョン、不揮発分濃度60質量%、pH2.5)、日本カーバイド工業製
・BPW HW-2(アクリル酸メチル・アクリル酸-2-エチルヘキシル共重合樹脂エマルジョン、不揮発分濃度60質量%、pH2.4)、トーヨーケム株式会社製
・TOCRYL FSK-6649T(アクリル酸アルキル共重合体エマルション、不揮発分濃度58質量%、pH7.1)、トーヨーケム株式会社製
【0044】
<<乾燥調整剤>>
・マクロゴール400:ポリエチレングリコール、質量平均分子量400、三洋化成工業株式会社
<<親水性ポリマー>>
・ゴーセノールEG-40:ポリビニルアルコール、粘度43mPa・s、不揮発成分濃度4質量%、20℃、日本合成化学株式会社製
・PAA-HCL-10L:ポリアリルアミン塩酸塩、質量平均分子量15万、不揮発分濃度40質量%、5質量%水溶液としてpH2.5、ニットーボーメディカル株式会社製
【0045】
[実施例1]
ジュリマーAC-10SH:50部(不揮発分5部を含む)、ジュリマーAC-10L:12.5部(不揮発分5部を含む)、硫酸アルミニウムカリウム12水和物:1部、ニカゾールTS-620:17部(不揮発分10部を含む)、グリセリン:60部、及び水を混合し、粘度10Pa・sのコート剤を得、後述する方法に従ってポットライフを評価した。
得られたコート剤を、剥離シートであるシリコーン剥離処理ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に塗膜量が約200g/mになるようにナイフコータで塗工後、加熱乾燥し、含水率10%のゲルシートを得た。後述する方法に従って塗工性を評価した。
これを、下記2種類の基材にそれぞれ貼り合わせ、2種類の含水ゲルシート積層体を得、ロール状に巻き取った。後述する方法に従って基材に対する含水ゲルシートの密着性を評価した。
基材1:DN-11U:ポリウレタンフィルム、平均厚み11μm、日本資材株式会社製
基材2:ソンタラ:不織布、平均厚み180μm、帝人デュポン株式会社製
【0046】
[実施例2~3]
表1に示すようにニカゾールTS-620の代わりに、アクリルエマルジョンとしてBPW HW-2、TOCRYL FSK-6649Tをそれぞれ不揮発分として10部を含むように用いた以外は実施例1と同様にして、粘度10Pa・sのコート剤を得、加熱乾燥条件を適宜変更し含水率10%のゲルシート積層体を得、同様に評価した。
【0047】
[比較例1]
表1に示すようにニカゾールTS-620を混合しなかった以外は実施例1と同様にして、粘度10Pa・sのコート剤、および含水率10%の含水ゲルシート積層体を得、同様に評価した。
【0048】
[比較例2]
表1に示すように、未中和の水溶性カルボキシル基含有ポリマーの代わりに、ナトリウム中和物であるアロンビス SXを10部混合した以外は実施例3と同様にして、粘度10Pa・sのコート剤、および含水率10%の含水ゲルシート積層体を得、同様に評価した。なおゲル化により均一なコート剤が得られない場合は、含水ゲルシート積層体の作製ができないため、塗工不可と判断した。
[比較例3~5]
表1に示すように、未中和の水溶性カルボキシル基含有ポリマーとナトリウム中和物とをアクリルエマルジョン等と混合した以外は実施例3と同様にして、粘度10Pa・sのコート剤、および含水率10%の含水ゲルシート積層体を得、同様に評価した。なおゲル化により均一なコート剤が得られない場合は、含水ゲルシート積層体の作製ができないため、塗工不可と判断した。
【0049】
[比較例6、7]
実施例3で配合した水の代わりに、表1に示すように、水に水酸化ナトリウムを溶解させた水溶液を配合した以外は実施例3と同様にして、粘度10Pa・sのコート剤、および含水率10%の含水ゲルシート積層体を得、同様に評価した。なおゲル化により均一なコート剤が得られない場合は、含水ゲルシート積層体の作製ができないため、塗工不可と判断した。
【0050】
[実施例4~10]
実施例3の組成を基準に、表1に示すように、アクリルエマルジョンの混合量を変えた以外は実施例3と同様にして、粘度10Pa・sのコート剤、および含水率10%の含水ゲルシート積層体を得、同様に評価した。
【0051】
[実施例11~18]
表2に示すように、未中和の水溶性カルボキシル基含有ポリマーとして、アクアリックAS58:アクアリックHL-415を不揮発分で8:2となる割合で、異なる量や種類の架橋剤と、アクリルエマルジョンとを混合し、粘度10Pa・sのコート剤、および含水率10%の含水ゲルシート積層体を得、同様に評価した。
【0052】
[実施例19~26]
実施例14の組成を基準に、表2に示すように、乾燥調整剤の量や種類を変えた以外は実施例14と同様にして、粘度10Pa・sのコート剤、および含水率10%の含水ゲルシート積層体を得、同様に評価した。
【0053】
[実施例27~31]
表2に示すように、未中和の水溶性カルボキシル基含有ポリマーの種類を変えたり、親水性ポリマーをさらに混合し、粘度10Pa・sのコート剤、および含水率10%の含水ゲルシート積層体を得、同様に評価した。
【0054】
[比較例8]
実施例13の組成を基準にアクリルエマルジョンを混合しなかった以外は実施例13と同様にして、粘度10Pa・sのコート剤、および含水率10%の含水ゲルシート積層体を得、同様に評価した。
[比較例9]
実施例27の組成を基準にアクリルエマルジョンを混合しなかった以外は実施例27と同様にして、粘度10Pa・sのコート剤、および含水率10%の含水ゲルシート積層体を得、同様に評価した。
【0055】
(コート剤のポットライフ)
調製後25℃で24時間放置したコート剤の粘度上昇率を評価した。評価は以下の基準で行った。
◎:上昇率10%以下。(極めて良好)
○:上昇率が10%より大きく、20%以下。(良好)
×:上昇率が20%より大きい、またはゲル化し塗工不可。(不良)
【0056】
(コート剤の剥離処理PETフィルムに対する塗工性)
コート剤を剥離処理PETフィルムに塗工した際の塗工性を目視観察した。評価は以下の基準で行った。
◎:中央および端部にハジキや耳高が見られず膜の厚みが全体に均一である。(極めて良好)
○:端部にやや耳高が見られるが塗工面の他の部分は厚みが均一である。(良好)
△:端部が明らかな耳高となるが膜の大部分は想定膜厚を保ち許容範囲内である。(実用下限)
×:ハジキが塗膜全体に広がり膜厚不均一となる、またはランダムに円状のハジキが形成される。(不良)
【0057】
(含水ゲルシート積層体における基材との密着性)
形成された含水ゲルシートと、基材としてのポリウレタンフィルムまたは不織布との密着性を評価した。
評価は、剥離シートを剥離後、以下の基準で行った。
◎:含水ゲルシート面を指で擦っても基材から剥がれることが無い。(極めて良好)
○:含水ゲルシート面を指で擦ると基材とゲルシートが界面剥離するが、シートを皮膚に貼付して剥離しても皮膚に対してゲルが残らない。(良好)
×:含水ゲルシート面を皮膚に貼付後剥離しようとするとゲルが皮膚に糊残りする。もしくは剥離シートを剥離する際に、含水ゲルシートの一部ないし全部が基材から剥離して剥離シート上に付着した状態となる。(不良)
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
なお、表中、カルボキシル基含有ポリマーおよびアクリルエマルジョンの配合部数は、樹脂分の部数(質量部)として表記してある。
また、表1中、「%」とあるのは「質量%」を表す。
【0061】
実施例1~30はいずれも、コート剤のポットライフは十分に長く、塗工工程での剥離シート上の塗工不良が無く、基材と十分密着する含水ゲルシートを作製することができた。一方、比較例1~9は、コート剤のポットライフ、剥離シート上の塗工性、基材への密着性のいずれかに不具合が見られた。