(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】電力変換回路の制御装置および電力変換回路の制御方法
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20241029BHJP
【FI】
H02M7/48 F
(21)【出願番号】P 2021002054
(22)【出願日】2021-01-08
【審査請求日】2023-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】大井 一伸
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-153521(JP,A)
【文献】特開昭60-200771(JP,A)
【文献】特開2018-014860(JP,A)
【文献】国際公開第2008/079148(WO,A1)
【文献】特開平03-107373(JP,A)
【文献】特開2001-069762(JP,A)
【文献】特開2007-300768(JP,A)
【文献】特開2016-082661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/42 - 7/98
H02P 4/00 - 31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相の相電圧指令値から高調波を減算した補正相電圧指令値に基づいて三相の電力変換回路の制御を行う電力変換回路の制御装置であって、
三相の前記相電圧指令値のうち最も大きい値と最も小さい値の平均値
が入力され、第1設定値の範囲となるよう制限したものを、前記高調波として出力する第1リミッタと、
三相の前記相電圧指令値から前記高調波をそれぞれ減算して補正相電圧指令値として出力する第1減算器と、
を備え
、
前記第1設定値が、前記相電圧指令値に想定される最大振幅、または、最大直流電圧に基づき、前記相電圧指令値のピークを出力相電圧振幅の√3/2倍となるよう設定されたことを特徴とする電力変換回路の制御装置。
【請求項2】
三相の相電圧指令値から高調波を減算した補正相電圧指令値に基づいて三相の電力変換回路の制御を行う電力変換回路の制御装置であって、
三相の前記相電圧指令値のうち最も大きい値と最も小さい値の平均値
が入力され、第1設定値の範囲となるよう制限して出力する第1リミッタと、
前記平均値と前記第1リミッタの出力との差分を演算する第2減算器と、
前記差分に第1ゲイン
G1(ここで、0<G1<1)を乗算する第1乗算器と、
前記第1リミッタの出力に前記第1乗算器の出力を加算して前記高調波として出力する加算器と、
三相の前記相電圧指令値から前記高調波をそれぞれ減算して補正相電圧指令値として出力する第1減算器と、
を備え
、
前記第1設定値が、前記相電圧指令値に想定される最大振幅、または、最大直流電圧に基づき、前記第1ゲインG1の影響による変動も含めて前記相電圧指令値のピークを出力相電圧振幅の√3/2倍となるよう設定されたことを特徴とする電力変換回路の制御装置。
【請求項3】
三相の相電圧指令値から高調波を減算した補正相電圧指令値に基づいて三相の電力変換回路の制御を行う電力変換回路の制御装置であって、
三相の前記相電圧指令値のうち最も大きい値と最も小さい値の平均値
が入力され、第1設定値の範囲となるよう制限して出力する第1リミッタと、
前記平均値と前記第1リミッタの出力との差分を演算する第2減算器と、
前記差分に第1ゲイン
G1(ここで、0<G1<1)を乗算する第1乗算器と、
前記第1リミッタの出力に前記第1乗算器の出力を加算する加算器と、
前記加算器の出力を
第2設定値の範囲となるように制限して前記高調波として出力する第2リミッタと、
三相の前記相電圧指令値から前記高調波をそれぞれ減算して補正相電圧指令値として出力する第1減算器と、
を備え
、
前記第1設定値が、前記相電圧指令値に想定される最大振幅、または、最大直流電圧に基づき、前記第1ゲインG1および前記第2リミッタの影響による変動も含めて前記相電圧指令値のピークを出力相電圧振幅の√3/2倍となるよう設定され、
前記第2設定値の絶対値が、前記第1設定値の絶対値よりも大きく、かつ、0.289より小さく設定されたことを特徴とする電力変換回路の制御装置。
【請求項4】
前記高調波に第2ゲイン
G2(ここで、0<G2<1)を乗算する第2乗算器を備え、
前記第1設定値は、さらに、前記第2ゲインG2を1とした場合に、前記相電圧指令値のピークを出力相電圧振幅の√3/2倍とするように設定され、
前記第1減算器は、三相の前記相電圧指令値から第2ゲイン乗算後の前記高調波をそれぞれ減算して補正相電圧指令値として出力することを特徴とする
請求項1~3のうち何れかに記載の電力変換回路の制御装置。
【請求項5】
前記第1ゲインG1の値を、前記高調波の傾き変更点における傾きの変化が均等になるよう設定したことを特徴とする
請求項2または3に記載の電力変換回路の制御装置。
【請求項6】
三相の相電圧指令値から高調波を減算した補正相電圧指令値に基づいて三相の電力変換回路の制御を行う電力変換回路の制御方法であって、
第1リミッタが、
入力された三相の前記相電圧指令値のうち最も大きい値と最も小さい値の平均値を
、第1設定値の範囲となるように制限したものを、前記高調波として出力し、
前記
第1設定値が、前記相電圧指令値に想定される最大振幅、または、最大直流電圧に基づき、前記相電圧指令値のピークを出力相電圧振幅の√3/2倍となるよう設定され、
第1減算器が、三相の前記相電圧指令値から前記高調波をそれぞれ減算して補正相電圧指令値として出力することを特徴とする電力変換回路の制御方法。
【請求項7】
三相の相電圧指令値から高調波を減算した補正相電圧指令値に基づいて三相の電力変換回路の制御を行う電力変換回路の制御方法であって、
第1リミッタが、
入力された三相の前記相電圧指令値のうち最も大きい値と最も小さい値の平均値を
、第1設定値の範囲となるように制限し、
第2減算器が、前記平均値と前記第1リミッタの出力との差分を演算し、
第1乗算器が、前記差分に第1ゲイン
G1(ここで、0<G1<1)を乗算し、
前記第1設定値が、前記相電圧指令値に想定される最大振幅、または、最大直流電圧に基づき、前記第1ゲインG1による変動も含めて前記相電圧指令値のピークを出力相電圧振幅の√3/2倍となるよう設定され、
加算器が、前記第1リミッタの出力に前記第1乗算器の出力を加算して前記高調波として出力し、
第1減算器が、三相の前記相電圧指令値から前記高調波をそれぞれ減算して補正相電圧指令値として出力することを特徴とする電力変換回路の制御方法。
【請求項8】
三相の相電圧指令値から高調波を減算した補正相電圧指令値に基づいて三相の電力変換回路の制御を行う電力変換回路の制御方法であって、
第1リミッタが、
入力された三相の前記相電圧指令値のうち最も大きい値と最も小さい値の平均値を
、第1設定値の範囲となるように制限し、
第2減算器が、前記平均値と前記第1リミッタの出力との差分を演算し、
第1乗算器が、前記差分に第1ゲイン
G1(ここで、0<G1<1)を乗算し、
加算器が、前記第1リミッタの出力に前記第1乗算器の出力を加算し、
第2リミッタが、
入力された前記加算器の出力を
、第2設定値の範囲となるように制限して前記高調波として出力し、
前記第1設定値が、前記相電圧指令値に想定される最大振幅、または、最大直流電圧に基づき、前記第1ゲインG1及び前記第2リミッタの影響による変動も含めて前記相電圧指令値のピークを出力相電圧振幅の√3/2倍となるよう設定され、
前記第2設定値の絶対値が、前記第1設定値の絶対値より大きく、かつ、0.289より小さく設定され、
第1減算器が、三相の前記相電圧指令値から前記高調波をそれぞれ減算して補正相電圧指令値として出力することを特徴とする電力変換回路の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三相の電力変換回路(以下、インバータと称する)の制御装置において、出力相電圧指令値に3次高調波を重畳することで電圧指令値のピークを下げ、より大きな振幅かつ重畳した3次高調波の影響を受けない線間電圧を出力する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
図11に本願発明を適用する3相のインバータの回路図を示す。直流電源Vdcの一端と他端との間に、スイッチングデバイスSU,SXが直列接続される。また、直流電源Vdcの一端と他端との間に、スイッチングデバイスSV,SYが直列接続される。さらに、直流電源Vdcの一端と他端との間に、スイッチングデバイスSW,SZが直列接続される。スイッチングデバイスSU,SXの接続点、スイッチングデバイスSV,SYの接続点、スイッチングデバイスSW,SZの接続点にはフィルタリアクトルLがそれぞれ接続される。
【0003】
図12は
図11の3相のインバータのゲート指令を出力する制御装置のブロック線図である。相電圧指令値vu,vv,vwは振幅が等しく120degずつ位相のずれた正弦波として与えられる場合や、電流フィードバック制御や電圧フィードバック制御により与えられる場合などがある。
【0004】
3次高調波重畳部1は、相電圧指令値vu,vv,vwを入力し、補正相電圧指令値を出力する。本願発明の技術はこの3次高調波重畳部1に適用するものである。
【0005】
PWM変調器2は、キャリア三角波と補正相電圧指令値を入力し、デッドタイムを付与してゲート信号GU,GX,GV,GY,GW,GZをスイッチングデバイスSU,SX,SV,SY,SW,SZに出力する。
【0006】
相電圧指令値vu,vv,vwが振幅1の各相120degずつずれた平衡な正弦波の場合、通常出力できる相電圧振幅の最大値はVdc/2までである。しかし、3次高調波重畳技術を適用することにより、出力できる相電圧振幅の最大値をVdc/√3,線間電圧振幅の最大値をVdcまで増加することができる。
【0007】
図13に、非特許文献1で開示されている3次高調波の重畳技術を示す。上段は三相のインバータの相電圧指令値vu,vv,vwの波形で、振幅1の各相120degずつずれた平衡な正弦波を想定している。下段は、上段の相電圧指令値vu,vv,vwに各相同じ3次高調波を加算した補正相電圧指令値vu3,vv3,vw3である。
【0008】
補正相電圧指令値vu3,vv3,vw3は歪むがその差分となる線間電圧は歪まない。一般的に負荷には相電圧ではなく線間電圧が印加されるため、負荷は3次高調波重畳の影響を受けない。さらに、3次高調波の重畳により相電圧指令値のピークが減少する。このため、同じ振幅の線間電圧を出力するならば、3次高調波重畳によりインバータの直流電圧を下げることができる。また、同じ直流電圧ならばより大きな振幅の線間電圧を出力できる。
【0009】
重畳すべき3次高調波の振幅を求める。対象となる重畳前の相電圧指令値vu,vv,vwを以下の(1)式のように定義する。ここで、Vは振幅、ωが角周波数、tは時間を示す。
【0010】
【0011】
この相電圧指令値vu,vv,vwに3次高調波を重畳した補正相電圧指令値vu3,vv3,vw3が以下の(2)式である。βは3次高調波の重畳量である。
【0012】
【0013】
補正相電圧指令値vu3を以下の(3)式のように時間tで微分する。
【0014】
【0015】
補正相電圧指令値vu3は、時間tが以下の(4)式を満たすときに極大となる。
【0016】
【0017】
ただし、それぞれ0以上1以下を満たす必要があるため、β≦-1/9である。また、sinωt=0,すなわち時間t=0でもvu3の傾きは零になるが、β>-1/9において極大となり、β≦-1/9では極小となる。補正相電圧指令値vu3に以上の値を代入すると、以下の(5)式となる。
【0018】
【0019】
これを重畳量βで微分すると、以下の(6)式となりβ=-1/6で補正相電圧指令値vu3は極小となる。
【0020】
【0021】
このときの位相はωt=±30deg、振幅は以下の(7)式となる。
【0022】
【0023】
以上より、相電圧指令値vu,vv,vwの振幅が1の時に3次高調波を1/6重畳すると相電圧指令値のピークを最小にでき、このとき相電圧指令値ピークは√3/2≒0.866となる。非特許文献1にも3次高調波の重畳量を1/6にすべきことが記載されている。これにより、相電圧指令値vu,vv,vwの振幅を最大2/√3までなら増加しても過変調にならず、出力できる相電圧振幅の最大値はVdc/√3になる。
【0024】
しかし、非特許文献1の方法は演算負荷が高いという問題がある。まず3次高調波の発生手段が必要となり、テーブルを作成するなどしなければならない。次に、重畳する3次高調波の位相は相電圧指令値の位相と同期させる必要がある。さらに、3次高調波の振幅を相電圧指令値の1/6にする必要がある。
【0025】
そのためPLLや振幅の検出手段が必要となる。PLLの応答が早ければ不安定になる恐れがあり、遅ければ電圧急変に対応できない。振幅の検出も平方根は演算負荷が高く、電圧歪みの大きな系統に連系するインバータでは基本波成分の抽出に時間がかかり、電圧急変への対応が困難となる。
【0026】
これに対し、特許文献1の技術が開示されている。
図14上段に特許文献1にて重畳する高調波の波形を、
図14下段に特許文献1適用後の補正相電圧指令値の波形を示す。特許文献1も非特許文献1と同様に相電圧指令値のピークを減少させる効果がある。
【0027】
図15に特許文献1にて高調波を重畳した補正相電圧指令値vu3m,vv3m,vw3mの演算ブロック(3次高調波重畳部1)を示す。特許文献1で行う演算は負荷が小さいもののみで構成されている。また、演算ブロックにはフィードバックやフィルタなど遅延要素がないため、電圧急変にも対応することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【文献】特開平3-107373号公報
【文献】特開2001-69762号公報
【文献】特開2007-300768号公報
【文献】特開2016-82661号公報
【非特許文献】
【0029】
【文献】電気学会・センサレスベクトル制御の整理に関する調査専門委員会:「ACドライブシステムのセンサレスベクトル制御」,オーム社,pp.54、2016年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
特許文献1で高調波が重畳された後の相電圧指令値を定量的に評価する。対象となる重畳前の相電圧指令値vu,vv,vwを以下の(1)式ように定義する。
【0031】
【0032】
特許文献1の技術で重畳する高調波vMは以下の(8)式で表される。
【0033】
【0034】
図14の波形より、高調波vMは60degの整数倍でピークとなり、このとき±1/4である。非特許文献1では3次高調波の振幅は1/6、ピークも1/6であり特許文献1では1.5倍に増加する。
【0035】
高調波が重畳されたU相の補正相電圧指令値vu3mは以下の(9)式で表される。
【0036】
【0037】
まず、特許文献1の効果を確認する。
図14の波形より、補正相電圧指令値vu3mは位相0deg~60degの範囲で最大となることが明らかである。0deg~60degの範囲で補正相電圧指令値vu3mを時間tで微分すると、以下の(10)式となる。
【0038】
【0039】
この(10)式は位相30degで零となる。よって、補正相電圧指令値vu3mは位相30degで最大となり、振幅(補正相電圧指令値Vu3mのピークVu3mpeak)は、以下の(11)式となる。
【0040】
【0041】
このことから、特許文献1は非特許文献1と同様に相電圧指令値ピークを√3/2≒0.866にできることがわかる。
【0042】
次に、補正相電圧指令値vu3mの高調波を確認する。補正相電圧指令値vu3mをフーリエ級数展開すると、以下の(12)式となる。
【0043】
【0044】
anは、n=1または3の奇数倍である値を持つ。(12)式のn=6m+3、n≠6m+3のmは零または自然数、非負整数である。表1にV=1において非特許文献1、特許文献1、後述する実施形態1、2,3を適用したときの相電圧指令値に含まれる高調波の周波数成分を示す。特許文献1では、非特許文献1よりも3次高調波が大きく、また9次,15次,21次といった3の奇数倍の高調波が含まれることがわかる。
【0045】
【0046】
以上確認したように、特許文献1の技術では重畳する高調波が非特許文献1のものよりも大きい。これにより、コモンモード電流が流れる経路が存在する回路では、特許文献1を適用すると非特許文献1よりも大きなコモンモード電流が流れ、部品の発熱増加、効率低下といった問題が生じる。また、スイッチング素子など大電流に対応した部品選定が必要となりコスト増加の要因となる。
【0047】
回路の例としては、特許文献2,3に示すようなフィルタがある。これは、インバータ直近にインピーダンスの小さい帰還経路を設け、インバータから流出するコモンモード電流を優先的に帰還経路に流し、装置の外部に流出するコモンモード電流を低減するものである。
【0048】
また、特許文献4に示すようなトランスレスUPSの並列接続構成では、他の並列UPSにより循環経路が形成され、コモンモードの循環電流が流れる恐れがある。特に特許文献1と特許文献2のフィルタを併用する際は、フィルタの共振周波数が3の奇数倍の高調波にならないよう注意して設計する必要がある。特許文献1と特許文献3のフィルタを併用する場合、ある程度の高さの次数までの3の奇数倍の高調波をブロックする必要があり、必要なリアクトルやコンデンサが増加しコストや重量、サイズ増加の要因となる。
【0049】
以上示したようなことから、電力変換回路の制御装置において、簡単な演算で、重畳する3次高調波および9次・15次・21次など3次の奇数倍の高調波を低減することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0050】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、その一態様は、三相の相電圧指令値から高調波を減算した補正相電圧指令値に基づいて三相の電力変換回路の制御を行う電力変換回路の制御装置であって、三相の前記相電圧指令値のうち最も大きい値と最も小さい値の平均値を第1設定値に制限し、前記高調波として出力する第1リミッタと、三相の前記相電圧指令値から前記高調波をそれぞれ減算して補正相電圧指令値として出力する第1減算器と、を備えたことを特徴とする。
【0051】
また、他の態様として、三相の相電圧指令値から高調波を減算した補正相電圧指令値に基づいて三相の電力変換回路の制御を行う電力変換回路の制御装置であって、三相の前記相電圧指令値のうち最も大きい値と最も小さい値の平均値を第1設定値に制限する第1リミッタと、前記平均値と前記第1リミッタの出力との差分を演算する第2減算器と、前記差分に第1ゲインを乗算する第1乗算器と、前記第1リミッタの出力に前記第1乗算器の出力を加算して前記高調波として出力する加算器と、三相の前記相電圧指令値から前記高調波をそれぞれ減算して補正相電圧指令値として出力する第1減算器と、を備えたことを特徴とする。
【0052】
また、他の態様として、三相の相電圧指令値から高調波を減算した補正相電圧指令値に基づいて三相の電力変換回路の制御を行う電力変換回路の制御装置であって、三相の前記相電圧指令値のうち最も大きい値と最も小さい値の平均値を第1設定値に制限する第1リミッタと、前記平均値と前記第1リミッタの出力との差分を演算する第2減算器と、前記差分に第1ゲインを乗算する第1乗算器と、前記第1リミッタの出力に前記第1乗算器の出力を加算する加算器と、前記加算器の出力を第2設定値に制限して前記高調波として出力する第2リミッタと、三相の前記相電圧指令値から前記高調波をそれぞれ減算して補正相電圧指令値として出力する第1減算器と、を備えたことを特徴とする。
【0053】
また、その一態様として、前記第1ゲインの値を0より大きく1未満としたことを特徴とする。
【0054】
また、その一態様として、前記第1ゲインの値を、前記高調波の傾き変更点における傾きの変化が均等になるよう設定したことを特徴とする。
【0055】
また、その一態様として、前記高調波に第2ゲインを乗算する第2乗算器を備え、前記第1減算器は、三相の前記相電圧指令値から第2ゲイン乗算後の前記高調波をそれぞれ減算して補正相電圧指令値として出力することを特徴とする。
【0056】
また、その一態様として、前記第2ゲインの値を0より大きく1未満としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0057】
本発明によれば、電力変換回路の制御装置において、簡単な演算で、重畳する3次高調波および9次・15次・21次など3次の奇数倍の高調波を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【
図1】実施形態1の3次高調波重畳部を示すブロック図。
【
図2】実施形態1の重畳する高調波と重畳後の補正相電圧指令値を示す図。
【
図3】実施形態2の3次高調波重畳部を示すブロック図。
【
図4】実施形態2の重畳する高調波と重畳後の補正相電圧指令値を示す図。
【
図5】実施形態3の3次高調波重畳部を示すブロック図。
【
図6】実施形態3の重畳する高調波と重畳後の補正相電圧指令値を示す図。
【
図7】実施形態3の3次高調波重畳部の他例を示すブロック図。
【
図8】実施形態4の3次高調波重畳部を示すブロック図。
【
図9】非特許文献1における高調波の重畳量と相電圧指令のピークの関係を示す図。
【
図10】特許文献1における高調波の重畳量と相電圧指令値のピークの関係を示す図。
【
図12】3相のインバータの制御装置を示すブロック図。
【
図13】非特許文献1の相電圧指令値と3次高調波重畳後の補正相電圧指令値を示す図。
【
図14】特許文献1の高調波と高調波重畳後の補正相電圧指令値を示す図。
【
図15】特許文献1の3次高調波重畳部を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下、本願発明における電力変換回路の制御装置の実施形態1~4を
図1~
図12に基づいて詳述する。
【0060】
[実施形態1]
本実施形態1の電力変換回路の主回路構成は、例えば、
図11に示すものである。また、制御装置は、例えば、
図12に示すものである。ただし、電力変換回路の主回路構成は三相の電力変換回路であれば他の構成でもよく、制御装置は相電圧指令値vu,vv,vwから高調波を減算した補正相電圧指令値に基づいてゲート信号を生成するものであれば他の構成でもよい。
【0061】
図1に本実施形態1における3次高調波重畳部1のブロック図を示す。本実施形態1は特許文献1で求めた高調波vMにリミッタを適用し、新たに重畳する高調波vM1とする。
【0062】
最大値選択部3は、相電圧指令値vu,vv,vwの中から最も大きい値を選択して出力する。最小値選択部4は、相電圧指令値vu,vv,vwの中から最も小さい値を選択して出力する。
【0063】
加算器5は、最大値選択部3の出力と最小値選択部4の出力を加算する。乗算器6は、加算器5の出力に0.5を乗算して平均値を出力する。乗算器6の出力が特許文献1の高調波vMである。
【0064】
本実施形態1では、第1リミッタ8において、高調波vMを第1設定値に制限する。第1リミッタ8の出力が本実施形態1の高調波vM1となる。
【0065】
第1減算器7u,7v,7wは、相電圧指令値vu,vv,vwから高調波vM1をそれぞれ減算して、補正相電圧指令値vu31,vv31,vw31として出力する。
【0066】
非特許文献1,特許文献1の効果は、両方とも振幅1の相電圧指令値のピークを√3/2に低減することである。この効果を得るためには、重畳する高調波のピークは±(1-√3/2)で十分である。そのため、本実施形態1では重畳する高調波にリミッタを設けた。
【0067】
図2に本実施形態1で重畳する高調波vM1と重畳後の補正相電圧指令値vU31,vV31,vW31を示す。高調波vM1は三角波から台形波になり、特許文献1よりも正弦波に近づく。補正相電圧指令値vU31,vV31,vW31のピークは増加せず、非特許文献1,特許文献1の効果を損なわずに得ることができる。
【0068】
第1リミッタ8の第1設定値について説明する。相電圧指令値の振幅が1ならば第1設定値を±(1-√3/2)≒±0.134以上に設定すると、相電圧指令値のピークを√3/2に低減することができる。相電圧指令値の振幅が1以下であれば第1設定値の絶対値を、相電圧指令値の最大振幅に(1-√3/2)≒0.134をかけた値以上に設定すると相電圧指令値のピークを√3/2以下に低減することができる。
【0069】
振幅が2/√3ならば設定値は±(2/√3-1)≒±0.155以上となる。振幅が2/√3を超える場合は第1リミッタ8の第1設定値をどのように設定しても補正相電圧指令値vU31,vV31,vW31のピークは1を越え過変調になり、非特許文献1,特許文献1でも過変調になるため、±0.155が第1リミッタ8の第1設定値の目安となる。
【0070】
最大直流電圧に余裕があり、最大振幅が小さければ第1リミッタ8の第1設定値の絶対値を少し小さくしてもよい。相電圧指令値の歪みが大きい場合は、さらに少しだけ大きくすることも考えられる。ただし、特許文献1で重畳する高調波のピークは、振幅1の正弦波において±1/4、振幅2/√3の正弦波において±1/(2√3)≒±0.289である。第1リミッタ8の第1設定値が±0.289を超えると特許文献1と同等になり重畳する高調波を低減することはできない。そのため高調波を低減するためには、第1リミッタ8の第1設定値の絶対値を0.289以下にすればよい。
【0071】
相電圧指令値の最大振幅が既知で過変調を回避できればよい場合は、相電圧指令値の最大振幅がV(ただし2/√3≧V>1)において、第1リミッタ8の第1設定値の絶対値をV-1以上にすればよい。最大振幅が1以下ならば第1リミッタ8の第1設定値を0にしても、すなわち、本実施形態1の技術に限らず非特許文献1,特許文献1を適用しなくても過変調にはならない。最大振幅が2/√3の場合は、第1リミッタ8の第1設定値は先に述べた値と同じ±(2/√3-1)≒±0.155になる。
【0072】
以上を踏まえて、第1リミッタ8の第1設定値は例えば以下の(1)~(5)のように設定する。
(1)第1リミッタ8の第1設定値の絶対値は、0よりも大きく、1/2√3≒0.289よりも小さい値とする。
(2)第1リミッタ8の第1設定値の絶対値を、相電圧指令値の最大振幅が1を超える場合は最大振幅から1を引いた値、最大振幅が1以下の場合は0を下限、1/(2√3)≒0.289を上限として、下限から上限までの間の値に設定する。
(3)第1リミッタ8の第1設定値の絶対値を、相電圧指令値の最大振幅に(1-√3/2)≒0.134をかけた値以上0.155以下の値に設定する。
(4)第1リミッタ8の第1設定値の絶対値を、0.134以上0.155以下に設定する。
(5)第1リミッタ8の第1設定値の絶対値を、0.155に設定する。
【0073】
以上示したように、本実施形態1によれば、非特許文献1や特許文献1と同様、相電圧指令値ピークを√3/2倍に低減できる。また、演算負荷は特許文献1に対してはわずかな増加ですみ、非特許文献1に対しては小さい。
【0074】
また、表1に示すように、非特許文献1や特許文献1に比べ、相電圧指令値に重畳される3次高調波を低減できる。また、特許文献1に比べ、相電圧指令値に重畳される9次以降の高調波を低減できる。このように、特許文献1に比べ、相電圧指令値に重畳される高調波を低減できるため、インバータの出力するコモンモード電流を小さくでき、部品の発熱増加、効率低下といった問題を低減できる。
【0075】
さらに、特許文献1に比べ、3の奇数倍の高調波での共振が起こりにくくなる。
【0076】
また、本実施形態1は、後述する実施形態2,3に比べて演算負荷が小さく、調整要素は1つのみである。
【0077】
[実施形態2]
図3に本実施形態2における3次高調波重畳部1のブロック図を示す。実施形態1と同様の箇所は同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0078】
第2減算器9は、平均値(特許文献1の高調波vM)と第1リミッタ8の出力との差分を演算する。第1乗算器10は、第2減算器9の出力に第1ゲインG1をかける。加算器11は、第1リミッタ8の出力と第1乗算器10の出力を加算する。加算器11の出力が、本実施形態2の高調波vM2となる。第1減算器7u,7v,7wは、三相の相電圧指令値vu,vv,vwから、加算器11の出力である高調波VM2をそれぞれ減算する。
【0079】
本実施形態2では、実施形態1の第1リミッタ8を超過した値vM-vM1に第1ゲインG1をかけ、高調波vM1に加算する。
【0080】
図4に本実施形態2で重畳する高調波vM2と重畳後の補正相電圧指令値vU32,vV32,vW32を示す。高調波vM2は実施形態1の高調波vM1よりもさらに正弦波に近づく。本実施形態2においても重畳後の補正相電圧指令値vU32,vV32,vW32のピークは増加しない。
【0081】
第1ゲインG1と第1リミッタ8の第1設定値を説明する。G1=1の場合は重畳する高調波vM2は特許文献1の高調波vMに等しくなり、G1=0の場合はvM2=vM1で実施形態1と同じ動作となる。そのため、第1ゲインG1は0<G1<1の範囲で設定する。
【0082】
第1設定値の例として、特許文献1の高調波vMを傾きの絶対値が一定の三角波と見なした場合、G1=1/3とすれば高調波vM2の折れた点(傾きの変更点)における傾きの変化を均等にできる。G1=1/3,第1リミッタ8の第1設定値をd2とした場合の補正相電圧指令値vu32は以下の(13)式で表される。
【0083】
【0084】
これを時間tで微分すると、以下の(14)式となる。
【0085】
【0086】
補正相電圧指令値vu32は以下の(15)式を満たすときに極値をとる。
【0087】
【0088】
補正相電圧指令値vu32の極値は、先ほど求めたωtを補正相電圧指令値vu32に代入して以下の(16)式のように求めることができる。
【0089】
【0090】
d2を求めると、以下の(17)式となる。
【0091】
【0092】
よって、相電圧指令値の最大振幅が1のときは第1リミッタ8の第1設定値の絶対値を0.093以上とすれば、相電圧指令値のピークを√3/2にできる。相電圧指令値の振幅が1以下であれば第1設定値の絶対値を、相電圧指令値の最大振幅に(√31-3√3)/4≒0.093をかけた値以上に設定すると相電圧指令値のピークを√3/2以下に低減することができる。
【0093】
相電圧指令値の最大振幅が2/√3のときの第1リミッタ8の第1設定値の絶対値は0.107以上である。
【0094】
本実施形態2においてG1=1/3の場合、0.107が第1リミッタ8の第1設定値の絶対値の最大の目安となる。最大振幅が小さければ第1リミッタ8の第1設定値の絶対値を少し小さくしてもよく、歪みが大きい場合は余裕を見て実施形態1同様に0.155まで大きくするといった設定ができる。ただし、第1リミッタ8の第1設定値の絶対値の上限は実施形態1同様0.289であり、これを超えると重畳する高調波は特許文献1に等しくなる。
【0095】
以上を踏まえて、第1ゲインG1は例えば以下の(1)~(3)のように設定する。
(1)第1ゲインG1の値を0より大きく1未満に設定する。
(2)第1ゲインG1の値を、重畳する高調波の傾き変更点における傾きの変化が均等になるよう設定する。
(3)第1ゲインG1の値を1/3に設定する。
【0096】
また、第1リミッタ8の第1設定値の絶対値を例えば以下の(1)~(4)のように設定する。
(1)第1リミッタ8の第1設定値の絶対値は、実施形態1~4と同様に、0よりも大きく、1/2√3≒0.289よりも小さい値とする。
(2)第1リミッタ8の第1設定値の絶対値を、実施形態1と同様に、相電圧指令値の最大振幅が1を超える場合は最大振幅から1を引いた値、最大振幅が1以下の場合は0を下限、1/(2√3)≒±0.289を上限として、下限から上限までの間の値に設定する。
(3)第1リミッタ8の第1設定値の絶対値を、相電圧指令値の最大振幅に(√31-3√3)/4≒0.093をかけた値以上0.155以下の間に設定する。
(4)第1リミッタ8の第1設定値の絶対値を、0.093以上0.107以下に設定する。
【0097】
以上示したように、本実施形態2によれば、実施形態1と同様の作用効果を奏する。また、本実施形態2は、実施形態1と後述する実施形態3の中間の効果が得られる。
【0098】
[実施形態3]
図5に本実施形態3における3次高調波重畳部1のブロック図を示す。本実施形態3は、実施形態2にて重畳する高調波vM2に第2リミッタ12を適用したものである。実施形態1、2と同様の箇所は同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0099】
第2リミッタ12は、加算器11の出力を第2設定値に制限して高調波vM3として出力する。第1減算器7u,7v,7wは、三相の相電圧指令値vu,vv,vwから第2リミッタ12の出力である高調波vM3をそれぞれ減算する。
【0100】
図6に本実施形態3で重畳する高調波vM3と重畳後の補正相電圧指令値vU33,vV33,vW33を示す。高調波vM3は実施形態2の高調波vM2よりもさらになめらかになる。実施形態3においても重畳後の補正相電圧指令値vU33,vV33,vW33のピークは増加しない。
【0101】
第1ゲインG1と第1リミッタ8の第1設定値と第2リミッタ12の第2設定値を説明する。高調波vM3を出力する第2リミッタ12の第2設定値の絶対値は実施形態1と同じく0以上0.289以下の範囲で設定し、0.155が設定の目安である。
【0102】
第1ゲインG1は実施形態2と同じく0<G1<1の範囲で設定する。ただし、実施形態2とは異なりG1=1/2とすることで高調波vM3の折れた点(傾き変更点)における傾きの変化を均等にできる。G1=1/2において高調波vMに適用する第1リミッタ8の第1設定値をd3とした場合の補正相電圧指令値vu33は以下の(18)式で表される。
【0103】
【0104】
後は、実施形態2と同様にしてd3を求めることができる。極値をとる条件は以下の(19)式となる。
【0105】
【0106】
d3を求めると、以下の(20)式となる。
【0107】
【0108】
よって、相電圧指令値の最大振幅が1のときは第1リミッタ8の第1設定値の絶対値を0.0707以上とすれば、相電圧指令値のピークを√3/2にできる。相電圧指令値の振幅が1以下であれば第1設定値の絶対値を、相電圧指令値の最大振幅に(√13/2-√3)≒0.0707をかけた値以上に設定すると相電圧指令値のピークを√3/2以下に低減することができる。
【0109】
相電圧指令値の振幅が2/√3の場合、d3≒0.0817となり、これが高調波vMに適用する第1リミッタ8の第1設定値の目安である。ただし、高調波vMに適用する第1リミッタ8の第1設定値の絶対値は、高調波vM3を出力する第2リミッタ12の第2設定値の絶対値よりも小さくする必要がある。大きくすると、実施形態1と同じ高調波が出力される。
【0110】
以上を踏まえて、第2リミッタ12の第2設定値は例えば以下の(1)、(2)のように設定する。
(1)第2リミッタ12の設定値の絶対値を、第1リミッタ8の第1設定値の絶対値より大きく1/(2√3)≒0.289より小さい値に設定する。
(2)第2リミッタ12の第2設定値の絶対値を、第1リミッタ8の第1設定値の絶対値より大きく0.155以下の間の値に設定する。
【0111】
以上を踏まえて、第1ゲインG1は例えば以下の(1)~(3)のように設定する。
(1)第1ゲインG1の値を0より大きく1未満に設定する。
(2)第1ゲインG1の値を、重畳する高調波の傾き変更点における傾きの変化が均等になるよう設定する。
(3)第1ゲインG1の値を1/2に設定する。
【0112】
以上を踏まえて、第1リミッタ8の第1設定値は例えば以下の(1)~(4)のように設定する。
(1)第1リミッタ8の第1設定値の絶対値は、実施形態1と同様に、0よりも大きく、1/2√3≒0.289よりも小さい値とする。
(2)第1リミッタ8の第1設定値の絶対値を、実施形態1と同様に、相電圧指令値の最大振幅が1を超える場合は最大振幅から1を引いた値、最大振幅が1以下の場合は0を下限、1/(2√3)≒±0.289を上限として、下限から上限までの間の値に設定する。
(3)第1リミッタ8の第1設定値の絶対値を、相電圧指令値の最大振幅に{(√13)/2-√3}≒0.0707をかけた値以上0.155以下の間の絶対値に設定する。
(4)第1リミッタ8の第1設定値の絶対値を、0.0707以上0.0817以下に設定する。
【0113】
図7に傾き調整を多段にした3次高調波重畳部1のブロック図を示す。1段目の第1リミッタ8a、1段目の第2減算器9a、1段目の第1乗算器10a、1段目の加算器11aの後段に、2段目の第1リミッタ8b、2段目の第2減算器9b、2段目の第1乗算器10b、2段目の加算器11bが設けられている。2段目の加算器11bの出力が第2リミッタ12にかけられる。
図7では、2段の構成を示しているが、3段以上の構成でもよい。
【0114】
図7に示すように傾き調整を多段に行うことにより、重畳する高調波はよりなめらかになり低減効果も高くなる。しかし、複雑な演算は使用しないが演算回数が多く負荷が高くなり、またリミッタやゲインといった調整要素も増加するため適用は難しくなる。
【0115】
以上示したように、本実施形態3によれば、実施形態1,2と同様の作用効果を奏する。また、実施形態3は、実施形態1,2に比べて重畳する高調波を小さくできる。調整要素は3つあるが、先に述べた値を目安として用いることができる。
【0116】
表1に各実施形態1~3を適用したときの相電圧指令値に含まれる高調波を示す。非特許文献1,特許文献1は数式から求めているが、実施形態1,2,3は数値計算結果である。計算条件として、相電圧指令値の振幅は1、実施形態1では第1リミッタ8の第1設定値を±0.134に設定した。実施形態2では第1リミッタ8の第1設定値を±0.0939に、G1=1/3とした。実施形態3では第2リミッタ12の第2設定値を±0.134に、第1リミッタ8の第1設定値を±0.0707に、G1=1/2に設定した。どの実施形態においても3次高調波は非特許文献1よりも低減できている。
【0117】
9次以降の高調波は特許文献1同様ある程度重畳してしまうが、特許文献1よりも小さい。特に、9次高調波は実施形態2,3ならば特許文献1の半分以下である。基本的には実施形態1の高調波低減効果は小さく、実施形態3の方が高い効果を得られる。しかし、21次高調波は各実施形態の中では実施形態2が最も大きいが、それでも特許文献1よりも小さい。逆に27次高調波は実施形態2が非特許文献1に次いで最小である。
【0118】
[実施形態4]
図8に本実施形態4における3次高調波重畳部1のブロック図を示す。実施形態1~3と同様の箇所は同一の符号を付して、その説明は省略する。本実施形態4は、実施形態2にて重畳する高調波vM2に第2乗算器13において、第2ゲインG2をかけたものである。第1減算器7u,7v,7wでは、三相の相電圧指令値vu,vv,vwから第2乗算器13の出力を減算する。
【0119】
本実施形態4の説明の前に、非特許文献1で重畳量を調整することを考える。重畳量βとピークVU3peakの関係式は(5)式で求めている。
図9にV=1における重畳量βと補正相電圧指令値のピークVU3peakの関係を示す。重畳量βが0~-1/9の範囲では重畳量βとピークVU3peakの関係は線形であり、3次高調波を重畳すればするほど補正相電圧指令値のピークが小さくなる。β=-1/9において、VU3peakは8/9である。
【0120】
しかし、これ以上の3次高調波を重畳してもVU3peakの傾きは小さくなり、電圧指令値ピークの低減効果は小さくなる。β=-1/6で補正相電圧指令値のピークは最小の√3/2≒0.866になるが、このとき補正相電圧指令値のピークVU3peakの傾きは零である。そのため、重畳量βの絶対値を少し小さくすれば、その分重畳する高調波を小さくでき、かつ、補正相電圧指令値のピークVU3peakの増加は非常に小さい。β=-1/6とβ=-1/9における補正相電圧指令値のピークVU3peakの差は、わずか0.023である。
【0121】
特許文献1においても重畳量を調整することを考える。高調波vMにゲインαをかけると以下の(21)式となる。ただし、0≦α≦1である。
【0122】
【0123】
これを時間tで微分すると、以下の(22)式となる。
【0124】
【0125】
vU3αは、tが以下の(23)式を満たすときに極大となる。
【0126】
【0127】
この式は、0≦α≦1において0≦ωt<π/3を満たす。すなわち、極大点が位相0deg~60degにあることを示している。vU3αに求めたtを代入すると、以下の(24)式となる。
【0128】
【0129】
図10にゲインαとピークVU3αpeakの関係を示す。α=1におけるVU3αpeakの傾きは零であり、特許文献1においてもゲインαを少し小さくしてもVU3αpeakへの影響は小さく、その分重畳する高調波を低減できる。例えば、非特許文献1のβ=-1/9と同じ相電圧指令値ピークであるVU3αpeak=8/9とする場合、α=1-√13/9≒0.599となる。
【0130】
以上の高調波重畳量を少し低減してもピークへの影響が小さいという点は、実施形態1~3においても同様と考えられる。そこで、本実施形態4では実施形態1~3で重畳する高調波vM1,vM2,vM3に第2ゲインG2をかけ、重畳量を調整する。
【0131】
第2ゲインG2の設定可能な範囲は0<G2<1であるが、第2ゲインG2は1に近い範囲で減少させることで相電圧指令値のピークをほとんど増加させることなく重畳する高調波を低減することができる。第2ゲインG2を零に近づけるほど、重畳する高調波の低減効果が小さく、相電圧指令値ピーク増加の悪影響が大きくなる。
【0132】
第2ゲインG2の目安としては、高調波重畳前の相電圧指令値ピークが2/√3に近い場合でも0.9~0.95程度に設定、高調波重畳前の相電圧指令値ピークが1を少し超える程度であれば0.6程度に設定することが考えられる。
【0133】
図8では実施形態2の高調波vM2に第2ゲインG2をかけた例であるが、
図1や
図5に対しても同様に高調波vM1,高調波vM3に第2ゲインG2をかけ、本実施形態4を適用することができる。
【0134】
以上を踏まえて、第2ゲインG2は例えば以下の(1)、(2)のように設定する。
(1)第2ゲインG2の値を0より大きく1未満に設定する。
(2)第2ゲインG2の値を1-√13/9≒0.599から1の範囲内に設定する。
【0135】
第1リミッタ8の第1設定値、第1ゲインG1、第2リミッタ12の第2設定値は、実施形態1~3と同様である。
【0136】
以上示したように、本実施形態4によれば、相電圧指令値ピークは非特許文献1,特許文献1や実施形態1~3に比べてわずかに増加してしまうが、それ以上に相電圧指令値に重畳される高調波を低減できる。
【0137】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【符号の説明】
【0138】
1…3次高調波重畳部
2…PWM変調器
3…最大値選択部
4…最小値選択部
5…加算器
6…乗算器
7u,7v,7w…第1減算器
8…第1リミッタ
9…第2減算器
10…第1乗算器
11…加算器
12…第2リミッタ
13…第2乗算器