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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】斜め延伸フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 55/04 20060101AFI20241029BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20241029BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20241029BHJP
   B29K 45/00 20060101ALN20241029BHJP
【FI】
B29C55/04
G02B5/30
B29L7:00
B29K45:00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021002666
(22)【出願日】2021-01-12
(65)【公開番号】P2022107944
(43)【公開日】2022-07-25
【審査請求日】2023-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】畠山 晋平
【審査官】藤原 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-109262(JP,A)
【文献】特開2018-047593(JP,A)
【文献】特開2011-137860(JP,A)
【文献】国際公開第2010/098044(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/188160(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/111559(WO,A1)
【文献】特開2015-182844(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 55/04
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムの幅手方向の両端を一対の把持具で把持しながら、一方の把持具を相対的に先行させ、他方の把持具を相対的に遅延させて前記フィルムを搬送することにより、前記フィルムを幅手方向に対して斜め方向に延伸する斜め延伸工程、
前記フィルムを前記延伸工程によって延伸した斜め延伸フィルムの端部をトリミングするトリム工程、
及び先行側のトリミングされた前記斜め延伸フィルムの端部である先行側端部、遅延側のトリミングされた前記斜め延伸フィルムの端部である遅延側端部、及び前記斜め延伸フィルムの非トリミング領域を引取るフィルム引取り工程、を含む斜め延伸フィルムの製造方法であって、
前記先行側端部の引取り張力をTIN、及び非トリミング領域の引取り張力をTとし、前記先行側端部のフィルム端部幅を幅IN、及び非トリミング領域のフィルム幅を幅とした場合、以下式(1)を満たし、
前記遅延側端部の引取り張力をT OUT 、前記遅延側端部のフィルム端部幅を幅 OUT とした場合、以下式(2)を満たすことを特徴する斜め延伸フィルムの製造方法。
式(1):[T/幅]<[TIN/幅IN
式(2):0.8<[T /幅 ]/[T OUT /幅 OUT ]<[T IN /幅 IN ]/[T /幅 ]<4.0
【請求項2】
前記トリム工程において、前記斜め延伸フィルムの前記先行側端部のトリミング開始位置と、前記遅延側端部のトリミング開始位置との距離差が、±200mmの範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の斜め延伸フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記トリム工程において、前記斜め延伸フィルムの前記先行側端部と、前記遅延側端部を同時又は、±3秒以内にトリミングすることを特徴とする請求項1又は請求項に記載の斜め延伸フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記トリム工程において、トリミングされる前記先行側端部、前記遅延側端部及び前記非トリミング領域の各幅が、以下式(3)又は式(4)を満たすことを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の斜め延伸フィルムの製造方法。
式(3):15%<(幅IN/幅)×100(%)<40%
式(4):15%<(幅OUT/幅)×100(%)<40%
【請求項5】
前記トリム工程において、前記斜め延伸フィルムと、当該斜め延伸フィルムを支持する支持体との接触幅を接触幅Aとしたとき、以下式(5)を満たすことを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の斜め延伸フィルムの製造方法。
式(5):0%<A/(幅IN+幅+幅OUT)×100(%)<10%
【請求項6】
前記斜め延伸フィルムの厚さが、25μm以下であることを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の斜め延伸フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記斜め延伸フィルムのNZ係数が、1.3未満であることを特徴とする請求項1から請求項までのいずれか一項に記載の斜め延伸フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、斜め延伸フィルムの製造方法に関し、特に、トリム工程時及びトリム工程後に破断することなく、フィルムの切断面の品質にも優れ、生産性が高く安定して生産することができ、かつ表示ムラの発生を抑制することが可能な斜め延伸フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス表示装置や偏光サングラスの用途で求められる光学フィルムとして、偏光子層の透過軸に対してフィルムの面内遅相軸を所望の角度に傾斜させたフィルムの開発が求められている。また、近年の軽量化、フレキシブル化といったデバイスの進化に伴い、前記光学フィルムの薄膜化のニーズが増大している。
ここで、面内遅相軸を所望の角度に傾斜させたフィルムの作製方法として、斜め延伸することが知られている。斜め延伸後に、延伸中にクリップで掴んだ不要部分を切り落とすトリム工程(「スリット工程」、「切断工程」又は「トリミング工程」ともいう。)を経て、光学フィルムとして巻き取られて製品化が進む。ここで、薄膜になった斜め延伸フィルムのトリム加工の難しさが顕著になった。これは、薄膜フィルムであると、機械強度が低いために、スリット刃の状態・搬送の状態による外乱に対してトラブルが生じやすく、連続生産性に課題があった。さらに、フィルムの端面不良により次工程への切りカスを持ち込むことによる工程汚染や、上記フィルムの切断時の不均一な応力のためか、当該薄膜フィルムを表示装置に組み込んだ際に表示ムラが発生するという問題があった。
【0003】
一方、例えば、特許文献1において、フィルムの両サイドを挟圧する手段が提案されているが、非常に薄いフィルムのフィルム張力が弱いと、スリット刃の押し込み圧にフィルムが負けてしまい、フィルムに引き裂くような負荷が係り破断する事象や、破断しなくても切断面が歪むという問題が発生する。切断面が歪んだ形で巻き取りを行い、次工程で繰り出すと、歪み部を起因として応力が集中し、繰り出し時に破断が発生する事象や、歪み部が変形し、搬送中に該当部が折れ込みして破断が発生する等の問題が生じる。
また、トリム工程において、トリム幅(切断幅)が、斜め延伸フィルムの内周側と外周側とをそれぞれ異なるようにトリミングする技術が開示されているが(例えば、特許文献2及び3参照。)、トリミング後のフィルムの引取り張力についての記載は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-3368号公報
【文献】国際公開第2013/118187号
【文献】国際公開第2013/125195号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、トリム工程時及びトリム工程後に破断することなく、フィルムの切断面の品質にも優れ、生産性が高く安定して生産することができかつ、表示ムラの発生を抑制することが可能な斜め延伸フィルムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、斜め延伸フィルムの端部をトリミングする際に、フィルムの幅方向における引取り張力、すなわち、先行側端部及び非トリミング領域の引取り張力が特定範囲となるようにすることで、トリム工程時及びトリム工程後に破断することなく、フィルムの切断面の品質にも優れ、生産性の向上を図れ、かつ、表示ムラの発生を抑制することが可能なことを見いだし本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0007】
1.フィルムの幅手方向の両端を一対の把持具で把持しながら、一方の把持具を相対的に先行させ、他方の把持具を相対的に遅延させて前記フィルムを搬送することにより、前記フィルムを幅手方向に対して斜め方向に延伸する斜め延伸工程、
前記フィルムを前記延伸工程によって延伸した斜め延伸フィルムの端部をトリミングするトリム工程、
及び先行側のトリミングされた前記斜め延伸フィルムの端部である先行側端部、遅延側のトリミングされた前記斜め延伸フィルムの端部である遅延側端部、及び前記斜め延伸フィルムの非トリミング領域を引取るフィルム引取り工程、を含む斜め延伸フィルムの製造方法であって、
前記先行側端部の引取り張力をTIN、及び非トリミング領域の引取り張力をTとし、前記先行側端部のフィルム端部幅を幅IN、及び非トリミング領域のフィルム幅を幅とした場合、以下式(1)を満たし、
前記遅延側端部の引取り張力をT OUT 、前記遅延側端部のフィルム端部幅を幅 OUT とした場合、以下式(2)を満たすことを特徴する斜め延伸フィルムの製造方法。
式(1):[T/幅]<[TIN/幅IN
式(2):0.8<[T /幅 ]/[T OUT /幅 OUT ]<[T IN /幅 IN ]/[T /幅 ]<4.0
【0009】
.前記トリム工程において、前記斜め延伸フィルムの前記先行側端部のトリミング開始位置と、前記遅延側端部のトリミング開始位置との距離差が、±200mmの範囲内であることを特徴とする第1項に記載の斜め延伸フィルムの製造方法。
【0010】
.前記トリム工程において、前記斜め延伸フィルムの前記先行側端部と、前記遅延側端部を同時又は、±3秒以内にトリミングすることを特徴とする第1項又は第2項に記載の斜め延伸フィルムの製造方法。
【0011】
.前記トリム工程において、トリミングされる前記先行側端部、前記遅延側端部及び前記非トリミング領域の各幅が、以下式(3)又は式(4)を満たすことを特徴とする第1項から第項までのいずれか一項に記載の斜め延伸フィルムの製造方法。
式(3):15%<(幅IN/幅)×100(%)<40%
式(4):15%<(幅OUT/幅)×100(%)<40%
【0012】
.前記トリム工程において、前記斜め延伸フィルムと、当該斜め延伸フィルムを支持する支持体との接触幅を接触幅Aとしたとき、以下式(5)を満たすことを特徴とする第1項から第項までのいずれか一項に記載の斜め延伸フィルムの製造方法。
式(5):0%<A/(幅IN+幅+幅OUT)×100(%)<10%
【0013】
.前記斜め延伸フィルムの厚さが、25μm以下であることを特徴とする第1項から第項までのいずれか一項に記載の斜め延伸フィルムの製造方法。
【0014】
.前記斜め延伸フィルムのNZ係数が、1.3未満であることを特徴とする第1項から第項までのいずれか一項に記載の斜め延伸フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の上記手段により、トリム工程時及びトリム工程後に破断することなく、フィルムの切断面の品質にも優れ、生産性が高く安定して生産することができ、かつ、表示ムラの発生を抑制することが可能な斜め延伸フィルムの製造方法を提供することができる。
本発明の効果の発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
従来の膜厚においては大きな問題とはならなかったが、フィルムを薄膜化することにより、膜強度が低下し、トリミング後にフィルムを先行側端部IN、非トリミング領域C及び遅延側端部OUTにおいて引取り張力Tで引取ると、トリム工程時及びトリム工程後の非トリミング領域Cにおいて、フィルムの先行側端部INを起点にした非トリミング領域Cでの破断が生じやすくなる。これは、フィルムの先行側端部INにおいて、トリミング直後の張力Tは、フィルムの配向方向Hと異なる方向(配向方向Hと略垂直方向)に力が働きフィルムが裂けやすくなるためであると推察される(例えば、図1(a)参照。)。
なお、フィルムの遅延側端部OUTにおいては、トリミング直後の張力Tは、フィルムの配向方向Hと同じ方向(配向方向Hに略平行な方向)に力が働くためフィルムの破断が防止される。
そこで、本発明では、トリム工程において、斜め延伸フィルムの先行側端部及び非トリミング領域の引取り張力が前記式(1)を満たすように制御する。すなわち、先行側端部INの引取り張力TINを非トリミング領域Cの引取り張力Tよりも高くなるようにトリミングすることで、フィルムの先行側端部INを起点にした非トリミング領域Cでの破断を防止でき、フィルムの切断面の品質にも優れ、生産性が向上すると推察される(例えば、図1(b)参照。)。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明におけるフィルムの先行側端部、非トリミング領域及び遅延側端部の引取り張力と、フィルムの配向方向を説明するための模式図
図2】斜め延伸装置の概略上面図
図3】斜め延伸装置の概略側面図
図4】斜め延伸テンターのレールパターンの一例を示す概略図
図5】トリミング装置の概略図
図6】トリミング装置の概略図
図7】トリミング装置の概略図
図8】偏光板の概略の構成を示す分解斜視図である。
図9】有機EL表示装置の概略の構成を分解して示す断面図である。
図10】液晶表示装置の概略の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の斜め延伸フィルムの製造方法は、フィルムの幅手方向の両端を一対の把持具で把持しながら、一方の把持具を相対的に先行させ、他方の把持具を相対的に遅延させて前記フィルムを搬送することにより、前記フィルムを幅手方向に対して斜め方向に延伸する斜め延伸工程、前記フィルムを前記延伸工程によって延伸した斜め延伸フィルムの端部をトリミングするトリム工程、及び先行側のトリミングされた前記斜め延伸フィルムの端部である先行側端部、遅延側のトリミングされた前記斜め延伸フィルムの端部である遅延側端部、及び前記斜め延伸フィルムの非トリミング領域を引取るフィルム引取り工程、を含む斜め延伸フィルムの製造方法であって、前記先行側端部の引取り張力をTIN、及び非トリミング領域の引取り張力をTとし、前記先行側端部のフィルム端部幅を幅IN、及び非トリミング領域のフィルム幅を幅とした場合、以下式(1)を満たすことを特徴する。
式(1):[T/幅]<[TIN/幅IN] この特徴は、下記各実施形態に共通又は対応する技術的特徴である。
【0018】
本発明の実施態様としては、前記遅延側端部の引取り張力をTOUT、前記遅延側端部のフィルム端部幅を幅OUTとした場合、前記式(2)を満たすことが、フィルムの切断時の不均一な応力を防止できる点で好ましい。
【0019】
前記トリム工程において、前記斜め延伸フィルムの前記先行側端部のトリミング開始位置と、前記遅延側端部のトリミング開始位置との距離差が、±200mmの範囲内であることが好ましい。先行側端部と、遅延側端部のトリミング開始位置の距離差を±200mmの範囲内とすることにより、設備的スペースを減らすことができる。また、フィルムの端部をクリップで掴んだフィルムの搬送性は、端部の規制力が高い状態となる(該当部は延伸されていない箇所なのでフィルムが厚い)ため、2段階でトリミングすると、1段階目をトリミングした後はトリミングした方とは反対側にフィルムが斜行しようとする。そのため、2段階目のトリミングした断裁部の搬送安定性が不安定となるという問題が生じるが、上記のように、先行側端部と遅延側端部のトリミング開始位置との距離差を±200mmの範囲内とすることによって、前記問題が生じない。特に、トリミング開始位置の距離差を前記の範囲内とすることは、薄いフィルムに対して有効である。
また、前記トリム工程において、前記斜め延伸フィルムの前記先行側端部と、前記遅延側端部を同時又は、±3秒以内にトリミングすることが、前記距離差を±200mmの範囲内とすることができる点で好ましい。
【0020】
前記トリム工程において、トリミングされる前記先行側端部、前記遅延側端部及び前記非トリミング領域の各幅が、前記式(3)又は式(4)を満たすことが、トリミング直後のフィルム端部の安定性に優れ、斜め延伸フィルムの生産安定性も向上する。
【0021】
前記トリム工程において、前記斜め延伸フィルムと、当該斜め延伸フィルムを支持する支持体との接触幅を接触幅Aとしたとき、前記式(5)を満たすことが好ましい。トリム工程において、斜め延伸フィルムに張力を付与する際に、フィルムと当該フィルムを支持する支持体との接触が多いと、支持体が規制力を与えるため、斜め延伸フィルムにおけるトリム部に前記式(1)を満たす張力を伝搬し難くなる。したがって、トリム工程において、フィルムと支持体とを前記式(5)を満たすようにすること、すなわち、フィルムと支持体との接触を減らすことで、前記トリム部に安定して前記張力を伝搬することができる。
【0022】
また、前記斜め延伸フィルムの厚さが、25μm以下であることが、デバイスの軽量化及びフレキシブル化に対応できる点で好ましい。
さらに、前記斜め延伸フィルムのNZ係数が、1.3未満であることが、視野角の向上の点で好ましい。
【0023】
以下、本発明とその構成要素及び本発明を実施するための形態・態様について説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0024】
[斜め延伸フィルムの製造方法の概要]
本発明の斜め延伸フィルムの製造方法は、フィルムの幅手方向の両端を一対の把持具で把持しながら、一方の把持具を相対的に先行させ、他方の把持具を相対的に遅延させて前記フィルムを搬送することにより、前記フィルムを幅手方向に対して斜め方向に延伸する斜め延伸工程、前記フィルムを前記延伸工程によって延伸した斜め延伸フィルムの端部をトリミングするトリム工程、及び先行側のトリミングされた前記斜め延伸フィルムの端部である先行側端部、遅延側のトリミングされた前記斜め延伸フィルムの端部である遅延側端部、及び前記斜め延伸フィルムの非トリミング領域を引取るフィルム引取り工程、を含む斜め延伸フィルムの製造方法であって、前記先行側端部の引取り張力をTIN、及び非トリミング領域の引取り張力をTとし、前記先行側端部のフィルム端部幅を幅IN、及び非トリミング領域のフィルム幅を幅とした場合、以下式(1)を満たすことを特徴する。
式(1):[T/幅]<[TIN/幅IN
【0025】
また、本発明の斜め延伸フィルムの製造方法は、前記遅延側端部の引取り張力をTOUT、前記遅延側端部のフィルム端部幅を幅OUTとしたとき、以下式(2)を満たすことが、フィルムの切断時の不均一な応力を防止できる点で好ましい。
式(2):0.8<[T/幅]/[TOUT/幅OUT]<[TIN/幅IN]/[T/幅]<4.0
より好ましくは、下記式(2-1)の関係を満たす。
式(2-1):1.0<[T/幅]/[TOUT/幅OUT]<[TIN/幅IN]/[T/幅]<3.0
【0026】
前記「先行側端部IN」とは、フィルムの幅方向両端部のうち、後述する把持具の走行距離が短い方の端部、すなわちフィルムの内側部分をいう。
前記「遅延側端部OUT」とは、フィルムの幅方向両端部のうち、後述する把持具の走行距離が長い方の端部、すなわちフィルムの外側部分をいう。
前記「非トリミング領域C」とは、前記先行側端部IN及び前記遅延側端部OUTを除いた、トリミングされないフィルムの領域をいう。
【0027】
ここで、図4は、斜め延伸テンターのレールパターンを示す概略図であり、左右の把持具Ci、Coが斜め延伸テンター入口(図4中のAの位置)から延伸終了時の位置(図4のB)までを結ぶ非対称なレールRi及びRo上を走行する。図4のレールパターンは右に旋回した場合であるため、内周側はレールRi側であり、外周側はRo側である。また、レールパターンが左に旋回した場合においては前記Ri及びRoは反対に変わることになる。
【0028】
また、前記「先行側端部の引取り張力(TIN)」とは、トリム工程後のフィルム引取り工程において、トリミングした前記先行側端部を引取る際の張力をいう。
前記「非トリミング領域の引取り張力(T)」とは、トリム工程後のフィルム引取り工程において、前記非トリミング領域を引取る際の張力をいう。
さらに、前記「遅延側端部の引取り張力(TOUT)」とは、トリム工程後のフィルム引取り工程において、前記遅延側端部を引取る際の張力をいう。
【0029】
前記各引取り張力(TIN、T、TOUT)の測定方法としては、例えば、ロールにかかる荷重を測定する方法が挙げられ、具体的には、ロールの軸受部にロードセルを取り付け、ロールに加わる荷重、すなわちフィルムの張力を測定する方法が挙げられる。
ロードセルとしては、引張型や圧縮型の公知のものを用いることができる。そのほか、公知の各種測定方法を適用することができる。
【0030】
前記「先行側端部のフィルム端部幅(幅IN)」とは、前記トリム工程における、トリミングされた先行側端部のフィルム幅をいう。すなわち、トリミングされた先行側端部の幅方向の最端部からトリミングした位置までの距離をいう。
なお、「幅方向」とは、トリミングされるフィルムの短辺方向、すなわち、フィルムの横の端から端へ向かう方向をいう。
前記「遅延側端部のフィルム端部幅(幅OUT)」とは、前記トリム工程における、トリミングされた遅延側端部のフィルム幅をいう。すなわち、トリミングされた遅延側端部の幅方向の最端部から切断した位置までの距離をいう。
前記「非トリミング領域のフィルム幅(幅)」とは、前記トリム工程における、トリミングされた非トリミング領域のフィルム幅をいう。すなわち、トリミングされた非トリミング領域の幅方向の最両端部間の距離をいう。
【0031】
また、本発明における前記トリム工程では、トリミングされる前記先行側端部、前記遅延側端部及び前記非トリミング領域の各幅(幅IN、幅、幅OUT)が、下記式(3)又は式(4)を満たすことが、トリミング直後のフィルム端部の安定性に優れ、斜め延伸フィルムの生産安定性も向上する点で好ましい。
式(3):15%<(幅IN/幅)×100(%)<40%
式(4):15%<(幅OUT/幅)×100(%)<40%
【0032】
[斜め延伸装置]
図2及び図3は本発明の一実施形態に係る斜め延伸フィルムの製造方法の各工程に用いる斜め延伸装置を模式的に示した図である。ただし、これは一例であって本発明はこれに限定されるものではない。
【0033】
図2及び図3中、符号は以下の部材、装置等を表す。1:斜め延伸装置、2:斜め延伸テンター、3:フィルム繰り出し装置、4a:先行側端部のフィルム引取り装置、4b:非トリミング領域のフィルム引取り装置、4c:遅延側端部のフィルム引取り装置、5及び8:搬送ローラー、6:内側のガイドレール、7:外側のガイドレール、9a:先行側スリット、9b:遅延側スリット、11及び12:ガイドレール開始位置、13及び14:ガイドレール終了位置、15:長尺フィルム(原反フィルム)又は斜め延伸フィルム。
【0034】
<製膜工程>
本発明の斜め延伸フィルムの製造方法は、前記斜め延伸工程前に、樹脂を含有する長尺フィルム(以下、「原反フィルム」ともいう。)を製膜する工程を有することが好ましい。
製膜工程は、樹脂の種類等によって種々の手段で行われるが、詳細は後述する。
本発明において、「長尺」とは、フィルムの幅に対し、少なくとも5倍程度以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍もしくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻回されて保管又は運搬される程度の長さを有するもの(フィルムロール)である。
【0035】
<斜め延伸工程>
本発明の製造方法に係る斜め延伸工程は、延伸後のフィルムの引取り方向とは異なる特定の方向からフィルム繰り出し装置から繰り出し、前記原反フィルムの幅手方向の両端部を斜め延伸テンターの把持具によって把持して搬送しつつ、原反フィルムを斜め延伸することによって、フィルムの幅手方向に対して0°を超え90°未満の任意の角度に面内遅相軸を付与する工程である。
ここで、フィルムの幅手方向に対する角度とは、フィルム面内における角度である。遅相軸は、通常延伸方向又は延伸方向に直角な方向に発現するため、本発明に係る製造方法では、フィルムの搬送方向に直交する方向に対して0°を超え90°未満の角度で、所望の角度に任意に設定して延伸を行うことにより、かかる遅相軸を有する斜め延伸フィルムを製造することができる。
【0036】
(繰り出し装置)
図2及び図3に示すように、フィルム繰り出し装置3は、斜め延伸テンター入口に対して所定角度でフィルムを送り出せるように、スライド及び旋回可能となっていることが好ましい。そして、フィルム繰り出し装置3は、スライド可能となっており、搬送方向変更装置により斜め延伸テンター入口に前記フィルムを送り出せるようになっていることが好ましい。前記フィルム繰り出し装置3、及び搬送方向変更装置をこのような構成とすることにより、フィルムの送り出し位置及び角度を細かく制御することが可能となり、膜厚、光学値のバラツキが小さい斜め延伸フィルムを得ることが可能となる。また、前記フィルム繰り出し装置3、及び搬送方向変更装置を移動可能とすることにより、把持具のフィルムへの噛込み不良を有効に防止することができる。
繰り出されるフィルムに関しては、前述した製膜工程と連続的につながってもよいが、製膜工程でロール状に巻回されて作製されたものを繰り出す事が好ましい。製膜工程と斜め工程を独立にさせることで、装置がコンパクトとなる。また巻回されたロールを繰り出す際は、旧フィルムと新フィルムを連続的につなげることで高い生産性を確保できる。フィルムをつなげる手段としては公知のものを使え、接合テープ、熱溶着、超音波溶着、レーザー溶着などが挙げられるが、熱溶着による接合が好ましい。
【0037】
(搬送ローラー)
搬送ローラー5は、前記繰り出し装置3から繰り出されたフィルムを、ガイドレール開始位置11及び12まで送るローラーである。
前記搬送ローラー5の数は特に特定されない。また、搬送ローラーの配置前後や、複数の搬送ローラーの間に、フィルムの除電を行うための除電装置を設けてもよい。前記除電装置は後述するトリム工程で用いられる除電装置と同様のものが使用できる。
【0038】
(斜め延伸テンター)
本実施形態に係る製造方法においては、原反フィルムに斜め方向の配向を付与するために斜め延伸テンターを用いる。本実施形態で用いられる斜め延伸テンターは、レールパターンを多様に変化させることにより、フィルムの配向角を自在に設定できるフィルム延伸装置であることが好ましい。さらに、フィルムの配向軸をフィルム幅方向に渡って左右均等に高精度に配向させることができ、かつ、高精度でフィルム厚さやリターデーションを制御できるフィルム延伸装置であることが好ましい。
【0039】
図4は、本発明の実施形態に係る斜め延伸フィルムの製造方法に用いられる斜め延伸テンターのレールパターンの一例を示した概略図である。ただし、これは一例であって本発明はこれに限定されるものではない。
原反フィルムの繰出方向D1は、延伸後の斜め延伸フィルムの巻取方向D2と異なっており、繰出角度θiを成している。繰出し角度θiは0°を超え90°未満の範囲で、所望の角度に任意に設定することができる。
原反フィルムは斜め延伸テンター入口(図4中Aの位置)においてその両端を左右の把持具によって把持され、把持具の走行に伴い走行される。左右の把持具は、斜め延伸テンター入口(図4中Aの位置)で、フィルムの進行方向(繰出方向D1)に対して略垂直な方向に相対している左右の把持具Ci及びCoは、左右非対称なレールRi及びRo上を走行し、延伸終了時の位置(図4中Bの位置)で把持したフィルムを解放する。
このとき、斜め延伸テンター入口(図4中Aの位置)で相対していた左右の把持具は、左右非対称なレールRi及びRo上を走行するにつれて、Ri側を走行する把持具Ciは、Ro側を走行する把持具Coに対して進行する位置関係となる。
すなわち、斜め延伸テンター入口(フィルムの把持具による把持開始位置)Aでフィルムの繰出方向D1に対して略垂直な方向に相対していた把持具Ci及びCoがフィルムの延伸終了時の位置Bにある状態で、該把持具Ci及びCoを結んだ直線がフィルムの巻取方向D2に対して略垂直な方向に対して角度θLだけ傾斜している。
以上のようにして、フィルムがθLの方向に斜め延伸されることとなる。ここで略垂直とは、90±1°の範囲にあることを示す。
【0040】
前記斜め延伸テンターは、原反フィルムを、延伸可能な任意の温度に加熱することができる。前記斜め延伸テンターは加熱ゾーンと、フィルムを搬送するための把持具が走行する左右で一対のレールと、該レール上を走行する多数の把持具とを備えている。テンターの入口部に順次供給されるフィルムの両端を、把持具で把持し、加熱ゾーン内にフィルムを導き、テンターの出口部で把持具からフィルムを開放する。把持具から開放されたフィルムは引取り工程で引取られる。一対のレールは、それぞれ無端状の連続軌道を有し、テンターの出口部でフィルムの把持を開放した把持具は、外側を走行して順次入口部に戻されるようになっている。
【0041】
なお、テンターのレールパターンは左右で非対称な形状となっており、製造すべき斜め延伸フィルムに与える配向角θ及び延伸倍率等に応じて、そのレールパターンは手動で又は自動で調整できるようになっている。本発明の実施形態に係る製造方法で用いられる斜め延伸テンターでは、各レール部及びレール連結部の位置を自由に設定し、レールパターンを任意に変更できることが好ましい。
本発明の実施形態において、テンターの把持具は、前後の把持具と一定間隔を保って、一定速度で走行するようになっている。
【0042】
前記把持具の走行速度は適宜選択できるが、通常、1~100m/分の範囲内である。高速生産条件下であると、内周側の配向角の傾きがより大きくなってしまうため、スリット時のキズや凹みの課題がより顕著になってくる。したがって、走行速度が4~75m/分である範囲で本発明を実施すると本発明の効果をより向上させることができ、前記走行速度が10~50m/分である範囲で実施すると本発明の効果をさらに向上させることができる。
【0043】
左右一対の把持具の走行速度の差は、走行速度の通常1%以下、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.1%以下である。これは、延伸工程出口でフィルムの左右に進行速度差があると、延伸工程出口におけるシワ、寄りが発生するため、左右の把持具の速度差は、実質的に同速度であることが求められるためである。一般的なテンター装置等では、チェーンを駆動するスプロケットの歯の周期、駆動モーターの周波数等に応じ、秒以下のオーダーで発生する速度ムラがあり、しばしば数%のムラを生ずるが、これらは本発明の実施形態で述べる速度差には該当しない。
【0044】
本発明の実施形態に係る製造方法で用いられる斜め延伸テンターにおいて、特にフィルムの搬送が斜めになる箇所において、把持具の軌跡を規制するレールには、しばしば大きい屈曲率が求められる。急激な屈曲による把持具同士の干渉、又は局所的な応力集中を避ける目的から、屈曲部では把持具の軌跡が曲線を描くようにすることが望ましい。
【0045】
本発明の実施形態において、原反フィルムは斜め延伸テンター入口(図4中Aの位置)において、その両端を左右の把持具によって順次把持されて、把持具の走行に伴い走行される。斜め延伸テンター入口(図4中Aの位置)で、フィルム進行方向D1に対して略垂直な方向に相対している左右の把持具は、左右非対称なレール上を走行し、予熱ゾーン、延伸ゾーン、熱固定ゾーンを有する加熱ゾーンを通過する。
【0046】
予熱ゾーンとは、加熱ゾーン入口部において、両端を把持した把持具の間隔が一定の間隔を保ったまま走行する区間をさす。
また、延伸ゾーンとは、両端を把持した把持具の間隔が開きだし、所定の間隔になるまでの区間をさす。
このとき、上述のような斜め延伸が行われるが、必要に応じて斜め延伸前後において横方向に延伸してもよい。
熱固定ゾーンとは、延伸ゾーンより後の把持具の間隔が再び一定となる期間において、両端の把持具が互いに平行を保ったまま走行する区間をさす。
熱固定ゾーンを通過した後に、ゾーン内の温度がフィルムを構成する熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg℃以下に設定される区間(冷却ゾーン)を通過してもよい。
このとき、冷却によるフィルムの縮みを考慮して、予め対向する把持具間隔を狭めるようなレールパターンとしてもよい。
【0047】
各ゾーンの温度は、熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tgに対し、予熱ゾーンの温度はTg~Tg+30℃、延伸ゾーンの温度(延伸温度)はTg~Tg+50℃、熱固定ゾーンの温度はTg-40~Tg+50℃、冷却ゾーンの温度はTg-80~Tg℃に設定することが好ましい。
なお、幅方向の厚さムラの制御のために延伸ゾーンにおいて幅方向に温度差を付けてもよい。延伸ゾーンにおいて幅方向に温度差をつけるには、温風を恒温室内に送り込むノズルの開度を幅方向で差を付けるように調整する方法や、ヒーターや熱風発生装置を幅方向に並べて加熱制御するなどの公知の手法を用いることができる。予熱ゾーン、延伸ゾーン、熱固定ゾーン及び冷却ゾーンの長さは適宜選択でき、延伸ゾーンの長さに対して、予熱ゾーンの長さが通常25~150%、熱固定ゾーンの長さが通常50~200%、冷却ゾーンの長さは通常25~150%である。
【0048】
前記斜め延伸工程における延伸倍率(W/W0)は、好ましくは1.1~3.0、より好ましくは1.5~2.8の範囲内である。延伸倍率がこの範囲にあると幅方向厚さムラが小さくなるので好ましい。斜め延伸テンターの延伸ゾーンにおいて、幅方向で延伸温度に差を付けると幅方向厚さムラをさらに良好なレベルにすることが可能になる。なお、W0は延伸前の原反フィルムの幅、Wは延伸後の斜め延伸フィルムの幅を表す。
【0049】
<トリム工程>
本発明の製造方法に係るトリム工程は、前記した斜め延伸工程後の斜め延伸フィルムの両端部をトリミング装置にてトリミング(切断)する工程である。
斜め延伸フィルムの両端部は、斜め延伸工程で把持具によって変形が生じているため、形状が不安定な両端部分を切除する必要がある。
また、本発明に係るトリム工程では、後述するフィルム引取り工程における前記先行側端部の引取り張力をTINとし、非トリミング領域の引取り張力をTとし、前記先行側端部のフィルム端部幅を幅INとし、及び非トリミング領域のフィルム幅を幅としたとき、下記式(1)を満たす。
式(1):[T/幅]<[TIN/幅IN
【0050】
図5は、本発明に係るトリム工程を説明するためのトリミング装置の概略図であり、図5(a)は搬送方向から見た際の正面図であり、図5(b)は斜視図である。
本実施形態のトリミング装置は、斜め延伸フィルム15の両端部を搬送方向(図5(b)中、矢印F方向)に沿う方向にトリミングする装置である。なお、トリミング装置は、図5に示すトリミング装置90に限らず、斜め延伸フィルムの両端部を搬送方向にトリミングできる装置であればよい。具体的には、シャーカット、レザーカット、スコアカット、ヒートカット、超音波カット、レーザーカット等が挙げられる。
【0051】
図5に示すように、トリミング装置90は、斜め延伸テンター2の内側のガイドレール6と外側のガイドレール7の延長線上に(図2及び図3参照。)、それぞれ配置される先行側スリット9a及び遅延側スリット9bと、斜め延伸フィルム15を下側から支持するための支持体10を備えて構成されている。
先行側スリット9aは、斜め延伸フィルム15の内側における上側に配置され、遅延側スリット9bは、斜め延伸フィルム15の外側における上側に配置されている。
【0052】
先行側スリット9a及び遅延側スリット9bは、回転可能に軸支された円形刃であることが好ましい。ここでは、先行側スリット9a及び遅延側スリット9bは、斜め延伸フィルム15の搬送に従って受動的に回転するように回転自在に軸支されており、後述する支持体10が不図示の駆動モーターによって、斜め延伸フィルム15の搬送速度と一致するように斜め延伸フィルム15の搬送に従って回転駆動される。
【0053】
また、先行側スリット9a及び遅延側スリット9bと、支持体10の両者を斜め延伸フィルム15の搬送速度と概略一致するように回転駆動するようにしてもよい。また、先行側スリット9a及び遅延側スリット9bと、支持体10の一方又は双方を逆回転駆動するようにしてもよい。
【0054】
先行側スリット9a及び遅延側スリット9bとしては、いわゆる皿型刃や椀型刃、その他の形状の円形刃のいずれでもよいが、ここでは、先行側スリット9a及び遅延側スリット9bは皿形刃であるものとする。
【0055】
先行側スリット9a及び遅延側スリット9bの素材としては、金属製でもセラミック製でもよいが、超硬合金やハイス鋼を用いることが好ましい。切りカスの発生量及び切断面の滑らかさの観点からは、超硬合金からなる超硬刃を用いることが好ましい。
先行側スリット9a及び遅延側スリット9bの直径は、90~150mmの範囲内、厚さは1~5mmの範囲内であることが好ましい。
レーザー式の切断装置は、レーザー光照射方向に垂直な方向の断面形状が円形となるレーザー光を照射することができるものであることが好ましい。また、レーザー光照射方向前方に焦点を設けて、この焦点に向けて前記円形の径を縮径させてレーザー光を照射し得るもの等も好ましく用いられる。このレーザー光の円形の径を縮径する手段としては、特に限定されるものではなく、例えば、レンズ、プリズム、ミラーなどによる一般に用いられている手段を挙げることができる。
前記レーザー光としては特に限定はなく、公知のものが使用できる。例えば、COレーザー、YAGレーザー、UVレーザー等が挙げられる。前記レーザー光を照射する際には、レーザー光照射時間、照射強度、スポット径は特に制限されず、フィルム加熱時に照射部が溶けたり、変形したりしない範囲で適宜レーザー照射条件を選択でき、前記照射手段としては、一回の照射で加熱しても、複数の照射で加熱してもよい。前記レーザー照射の出力は、例えば、1W~300Wであって、好ましくは5W~50Wの範囲で照射することが好ましい。
【0056】
前記支持体10は、斜め延伸フィルム15を下側から支持する部材であり、例えばロール状であることが好ましい。支持体10は、前記したように、駆動モーターによって、斜め延伸フィルム15の搬送速度と一致するように回転駆動される。
また、図5に示す支持体10は、斜め延伸フィルム15の幅方向に沿って長尺状をなし、支持体10には、先行側スリット9a及び遅延側スリット9bに対応する位置に、先行側スリット9a及び遅延側スリット9bが挿入可能な溝部10c及び溝部10dがそれぞれ形成されており、斜め延伸フィルム15をトリミングする際に各溝部10c及び10dに先行側スリット9a及び遅延側スリット9bが挿入されるようになっている。
【0057】
また、本発明では、斜め延伸フィルム15と、当該斜め延伸フィルム15を支持する支持体10との接触幅を接触幅Aとしたとき、下記式(5)を満たすことが好ましい。
式(5):0%<A/(幅IN+幅+幅OUT)×100(%)<10%
より好ましくは、式(5-1)の関係を満たす。
式(5-1):1%<A/(幅IN+幅+幅OUT)×100(%)<5%
【0058】
ここで、前記「接触幅A」とは、支持体10と斜め延伸フィルム15とが接触している幅(長さ)をいい、図5(a)における符号Aで示される幅をいう。
【0059】
上記のように式(5)を満たすことが好ましいことから、支持体としては、例えば図6に示す形態であることがより好ましい。図6は、本発明に係るトリミング装置の他の実施形態の概略図であり、図6(a)は搬送方向から見た際の正面図であり、図6(b)は斜視図である。
図6に示すトリミング装置90では、前記式(5)で表されるA/(幅IN+幅+幅OUT)×100が、10%の場合であり、図5に示すトリミング装置90では、前記式(5)で表されるA/(幅IN+幅+幅OUT)×100が、100%の場合とした。
【0060】
図6に示すトリミング装置90では、斜め延伸フィルム15の幅方向に沿って平行となるように、内側支持体10aが先行側スリット9aに対応する位置に設けられ、外側支持体10bが遅延側スリット9bに対応する位置に設けられている。そして、2つの支持体10a及び10bと、斜め延伸フィルム15とが接触している接触幅Aが、前記式(5)を満たしている。
【0061】
前記支持体10(内側支持体10a及び外側支持体10b)の素材としては、金属やゴムであることが好ましく、特に金属であることが好ましい。また、支持体10、10a及び10bが金属である場合には、その表面が鏡面、溝付き、又はマット加工されていることが好ましく、鏡面加工がより好ましい。その場合支持体10、10a及び10bの表面は、Ra(算術平均粗さ)が10nm以下で、かつ、ピンホールや突起が存在しないことが好ましい。
【0062】
また、本発明では、前記トリム工程において、前記斜め延伸フィルムの前記先行側端部のトリミング開始位置と、前記遅延側端部のトリミング開始位置との距離差が、±200mmの範囲内であることが好ましい。
【0063】
図6(b)は、先行側端部のトリミング開始位置と遅延側端部のトリミング開始位置との距離差が0mmの場合を示した図であり、図7は、先行側端部のトリミング開始位置と遅延側端部のトリミング開始位置との距離差が+200mm未満の場合を示した図である。
【0064】
ここで、先行側端部のトリミング開始位置とは、図6(b)及び図7に示すように、先行側端部に設けられた内側支持体10aにおいて、軸方向に垂直な高さ方向における頂点Xをいう。また、遅延側端部のトリミング開始位置とは、図6(b)及び図7に示すように、遅延側端部に設けられた外側支持体10bにおいて、軸方向に垂直な高さ方向における頂点Yをいう。
したがって、「前記先行側端部のトリミング開始位置と、前記遅延側端部のトリミング開始位置との距離差」とは、前記頂点Xと前記頂点Yとの間隔における搬送方向Fに沿った最短距離mをいう。
また、「距離差が±200mmの範囲内」とは、先行側端部のトリミング開始位置(すなわち、頂点X)を基準として、フィルムの搬送方向Fに対して反対方向をプラス(+)側とし、フィルムの搬送方向Fをマイナス(-)側と定義して、頂点Xからフィルム搬送方向Fに対して反対方向に向けて200mmの位置から、フィルム搬送方向Fに向けて200mmの位置までの範囲をいう。
前記斜め延伸フィルムは、先行側と遅延側が同時又は、±3秒以内にトリミングされることが好ましい。これによって、前記距離差を±200mmの範囲内とすることができる。
【0065】
図6(b)では、頂点Xと頂点Yとにおける搬送方向Fに沿った最短距離が、0mmであり、内側支持体10aと外側支持体10bとが、搬送方向において同じ位置に配置されている。
【0066】
一方、図7では、頂点Xと頂点Yとにおける搬送方向Fに沿った最短距離mが、+200mm未満であり、内側支持体10aと外側支持体10bとが、搬送方向Fにおいてずれた位置に配置されている。
【0067】
さらに、本発明では、トリミングされる前記先行側端部、前記遅延側端部及び前記非トリミング領域の各幅(幅IN、幅、幅OUT)が、下記式(3)又は式(4)を満たすことが、トリミング直後のフィルム端部の安定性に優れ、斜め延伸フィルムの生産安定性も向上する。
式(3):15%<(幅IN/幅)×100(%)<40%
式(4):15%<(幅OUT/幅)×100(%)<40%
【0068】
また、本発明におけるトリム工程では、斜め延伸フィルムの温度が室温より高い温度の条件下でトリミングすることが好ましい。つまりスリット刃がフィルムに接する前までに、スリット刃が当たるフィルム位置を加熱することにより、斜め延伸フィルムのトリミングを高い温度の条件下で行うことが可能となり、スリット刃にフィルム片やカスが付着しにくくなる。
【0069】
前記温度の調節は切断前にCOレーザー光照射装置や熱発生装置によって加温することによって行われることが好ましい。前記熱発生装置は搬送する樹脂フィルムを所定の温度まで加熱できるものであれば特に限定はなく、例えば、赤外線ヒーターを用いたり、又は加熱した一定温度の空気を循環させて、所定の温度としてもよい。
【0070】
前記トリミング装置は、前記斜め延伸フィルムの延伸方向に応じて追随する機構を有していることが好ましい。前記した斜め延伸テンターでは、フィルムの幅方向に対して配向軸が必要に応じた傾斜を有する斜め延伸フィルムを得るために、延伸方向及び巻き取り方向を任意に設定することができる。したがって、本発明に係るトリミング装置についても、前記延伸方向及び巻き取り方向への搬送に伴い追随して動作する機構を有することが求められる。
このように、トリミング装置が前記追随機構を有することで、斜め延伸フィルム両端の切断を容易に行うことができる。特に、本発明のように、先行側端部と遅延側端部の幅に応じてトリミング張力を変更する場合には、延伸方向及び引取り方向の傾斜角度を変更する際に、トリミング装置を取り外したり、再構築したりする必要がなくなることから生産性に優れることとなる。
【0071】
前記追随機構の具体例としては、例えば、搬送ローラー8と先行側スリット9a及び遅延側スリット9bを含む、13、14のガイドレール終端位置からフィルム引取り装置4a、4b及び4cまでを移動可能な板状の上に固定したり、移動可能なレール上の上に固定したりと、移動可能な1つのユニットとすることが挙げられる。つまり、13、14のガイドレールの終端位置からフィルム引取り装置4a、4b及び4cまでが一緒に移動できるようにすることなどの方法があるが、特に限定されない。
【0072】
また、前記トリミング装置は、前記斜め延伸フィルムの延伸方向とスリット刃の進行方向との角度の位置を確認できる機構を有することが好ましい。このような確認機構を有することで、より簡便にトリミング装置が延伸方向への搬送に伴って動作することができる。
前記確認機構の具体例としては、先行側スリット9a及び遅延側スリット9bに光源を設置して、フィルム引取り装置4a、4b及び4c、又は加熱ゾーン2等に設置したセンサーに、光源からの光を検出させて位置を確認するものである。光源としてはレーザー等、市販されているものでよく、特に限定されない。
【0073】
また、前記トリミング装置は図2及び図3に図示されているように、搬送ローラー8の間に設けてよく、搬送ローラー8の間のどこに設置してもよい。
前記搬送ローラー8の数は特に規定されず、また、搬送ローラーの配置途中において、斜め延伸フィルムを保護する保護シートを貼る工程を設けてよい。また、フィルムを巻取前までに、フィルム左右両端部に、エンボスリング及びバックロールによってナーリング加工を施して、フィルム端部にエンボス部(図示せず)を付与する工程を設けてよい。
【0074】
なお、搬送ローラー配置途中において、オンライン測定の可能な膜厚計や光学値測定機などを配置してもよい。また、搬送ローラーの配置前後や、複数の搬送ローラーの間に、斜め延伸フィルムの除電を行うための除電装置を設けてもよい。
【0075】
除電装置は、元巻を再繰り出しした際の帯電電位が±2kV以下となるように、巻取時に除電装置又は強制帯電装置により逆電位を与える構成で行うことができるが、強制帯電電位が、1~150Hzで正負交互に変換される除電器により除電する構成とすることもできる。また、上記の除電器に代えて、イオン風を発生させるイオナイザーや除電バーを利用することができる。ここで、イオナイザー除電は、エンボス加工装置から搬送ローラーを経て巻き取られていくフィルムに向けてイオン風を吹き付けることによって行われる。イオン風は、除電器により発生される。除電器としては、公知のものを制限なく用いることができる。
【0076】
<フィルム引取り工程>
本発明の製造方法に係るフィルム引取り工程(以下、単に「引取り工程」ともいう。)は、前記トリム工程後の斜め延伸フィルムを引取る工程であり、具体的には、トリム工程後の斜め延伸フィルムのうち、トリミングされた先行側端部、遅延側端部及び非トリミング領域のそれぞれを独立して引取って巻き取る工程である。
以下に、フィルム引取り工程に用いられる引取り装置について説明する。
【0077】
(引取り装置)
図2及び図3に示すように、トリム工程でトリミングされた先行側端部、非トリミング領域及び遅延側端部のフィルムは、それぞれ先行側端部のフィルム引取り装置4a、非トリミング領域のフィルム引取り装置4b及び遅延側端部のフィルム引取り装置4cによって、それぞれ独立して引取られる。
これら引取り装置4a、4b及び4cは、斜め延伸テンター出口に対して所定角度でフィルムを引取れるように形成することにより、フィルムの引取り位置及び角度を細かく制御することが可能となり、膜厚、光学値のバラツキが小さい斜め延伸フィルムを得ることが可能となる。そのため、フィルムのシワの発生を有効に防止することができる。
【0078】
フィルム引取り装置4bは、フィルムを巻き取り可能なロールであることが好ましい。
各フィルム引取り装置4a及び4cは、フィルムを巻き取り可能なロールであってもよいし、引取りのみでもよく、特に限定されない。
【0079】
ここで、本発明における引取り工程では、トリミングされた前記先行側端部の引取り張力をTINとし、非トリミング領域の引取り張力をTとし、前記先行側端部のフィルム端部幅を幅INとし、及び非トリミング領域のフィルム幅を幅としたとき、下記式(1)を満たすように、先行側端部、遅延側端部及び非トリミング領域の各フィルムを引取る。
式(1):[T/幅]<[TIN/幅IN
【0080】
また、前記遅延側端部の引取り張力をTOUT、前記遅延側端部のフィルム端部幅を幅OUTとしたとき、下記式(2)の関係を満たすように引取ることがより好ましい。
式(2):0.8<[T/幅]/[TOUT/幅OUT]<[TIN/幅IN]/[T/幅]<4.0
【0081】
具体的には、前記非トリミング領域の引取り張力Tは、0.01~0.2N/mmの範囲内、さらに好ましくは、0.02~0.15N/mm、特に好ましくは0.03~0.1N/mmの範囲内である。なお、前記数値に関しては使用する厚み・樹脂に応じて適宜変更して行われる。
【0082】
前記引取り張力TIN、引取り張力T及び引取り張力TOUTを上記範囲内に制御する方法としては、ロールにかかる荷重、すなわちフィルムの張力を測定し、その値が上記範囲内となるように、一般的なPID制御方式により引取ロールの回転速度を制御する方法が挙げられる。前記荷重を測定する方法としては、ロールの軸受部にロードセルを取り付け、ロールに加わる荷重、すなわちフィルムの張力を測定する方法が挙げられる。ロードセルとしては、引張型や圧縮型の公知のものを用いることができる。
【0083】
延伸後の斜め延伸フィルムは、把持具による把持が開放され、テンター出口から排出され、フィルムの両端(両側)がトリミングされた後に、トリミングされた先行側端部、遅延側端部及び非トリミング領域に分割されてそれぞれ独立して順次、引取り装置に引取られる。非トリミング領域は順次巻き取られて巻回体にすることができる。
このようにして巻き取ったフィルムの非トリミング領域が、斜め延伸フィルムとして偏光板や有機EL表示装置等の種々の製品に用いられる。
【0084】
また、巻き取る前に、フィルム同士のブロッキングを防止する目的で、マスキングフィルムを重ねて同時に巻き取ってもよいし、斜め延伸フィルムの少なくとも一方、好ましくは両方の端にテープ等を張り合わせながら巻き取ってもよい。マスキングフィルムとしては、上記フィルムを保護することができるものであれば特に制限されず、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルムなどが挙げられる。
製膜巻取り時の除電は、スリット工程で記載した除電方法及び除電装置を使用してよい。
【0085】
<原反フィルムに用いられる樹脂>
本発明に係る原反フィルムとしては、特に限定されず、熱可塑性樹脂から構成されているフィルムであれば何でも良いが、例えば、延伸後のフィルムを光学用途に使用する場合には、所望の波長に対して透明な性質を有する樹脂からなるフィルムが好ましい。
このような樹脂としては、ポリカーボネート系樹脂(PC)、ポリエステル系樹脂、脂環構造を有するオレフィンポリマー系樹脂(シクロオレフィン系樹脂、COP)、ポリエーテルスルフォン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリメチルメタクリレート系樹脂、ポリスルフォン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、セルロースエステル系樹脂などが挙げられる。
【0086】
ポリカーボネート系樹脂とは、炭酸とグリコール又は2価フェノールとのポリエステルで、-O-CO-O-のカーボネート結合を有する高分子で、ビスフェノールと炭酸エステルの高分子が最も実用的に用いられており、帝人株式会社(パンライト(登録商標)、ピュアエース(登録商標))、株式会社カネカ(エルメック(登録商標))、三菱エンジニアリングプラスチック株式会社(ユーピロン(登録商標))などから市販されている。勿論、これにフルオレン基を有したモノマーを共重合したポリマー(例えば特開2005-189632号公報参照)は位相差の逆波長分散を示すので、このようなポリカーボネートも用途によっては好んで用いることができる。
【0087】
ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等が挙げられ、また、これにフルオレン基を有したモノマーを共重合したポリマーは位相差の逆波長分散を示すので、このようなポリエステルも用途によっては好んで用いることができる。
【0088】
ポリエチレンナフタレート系樹脂としては、例えば、ナフタレンジカルボン酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとを重縮合させて製造したポリエチレンナフタレートを好適に用いることができる。市販品としては、テオネックス(帝人社製)等を好適に用いることができる。
【0089】
シクロオレフィン系樹脂としては、環状オレフィン(シクロオレフィン)からなるモノマーのユニットを有する樹脂であれば特に限定されるものではない。シクロオレフィン系樹脂は、シクロオレフィンポリマー(COP)又はシクロオレフィンコポリマー(COC)のいずれであってもよい。シクロオレフィンコポリマーとは、環状オレフィンとエチレン等のオレフィンとの共重合体である非結晶性の環状オレフィン系樹脂のことをいう。
【0090】
上記環状オレフィンとしては、多環式の環状オレフィンと単環式の環状オレフィンとが存在している。このような多環式の環状オレフィンとしては、ノルボルネン、メチルノルボルネン、ジメチルノルボルネン、エチルノルボルネン、エチリデンノルボルネン、ブチルノルボルネン、ジシクロペンタジエン、ジヒドロジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエン、ジメチルジシクロペンタジエン、テトラシクロドデセン、メチルテトラシクロドデセン、ジメチルシクロテトラドデセン、トリシクロペンタジエン、テトラシクロペンタジエンなどが挙げられる。また、単環式の環状オレフィンとしては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロオクテン、シクロオクタジエン、シクロオクタトリエン、シクロドデカトリエンなどが挙げられる。
【0091】
シクロオレフィン系樹脂は、市販品としても入手可能であり、例えば、日本ゼオン社製「ZEONOR」、JSR社製「ARTON」、ポリプラスチック社製「TOPAS」、三井化学社製「APEL」などが挙げられる。
【0092】
その他、原反フィルムを構成する樹脂としては、特開2006-45369号公報に記載の樹脂組成物や、特開2016-108544号公報に記載のアルコキシケイ皮酸エステル系重合体も用いることができる。
シクロオレフィン樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば特開平9-221577号公報、特開平10-287732号公報に記載されている、特定の炭化水素系樹脂、又は公知の熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、ゴム質重合体、有機微粒子、無機微粒子などを配合してもよく、特定の波長分散剤、糖エステル化合物、酸化防止剤、剥離促進剤、ゴム粒子、可塑剤、紫外線吸収剤などの添加剤を含んでもよい。
【0093】
<原反フィルムの製膜法>
原反フィルムの製膜方法としては、以下に示す溶液流延製膜法や溶融流延製膜法がある。以下、各製膜法について説明する。
【0094】
(溶液流延製膜法)
溶液流延製膜法では、樹脂及び添加剤を溶剤に溶解させてドープを調製する工程、ドープをベルト状もしくはドラム状の金属支持体上に流延する工程、流延したドープを流延膜(ウェブ)として乾燥する工程、金属支持体からウェブを剥離する工程、ウェブを延伸又は幅保持する工程、さらにウェブを乾燥する工程、仕上がったフィルムを巻き取る工程が行われる。
【0095】
流延工程の金属支持体は、表面を鏡面仕上げしたものが好ましく、ステンレススティールベルト若しくは鋳物で表面をメッキ仕上げしたドラムが好ましく用いられる。金属支持体の表面温度は、-50℃~溶剤が沸騰して発泡しない温度以下に設定される。支持体温度が高いほうがウェブの乾燥速度が速くできるので好ましいが、余り高すぎるとウェブが発泡したり、平面性が劣化したりする場合がある。
【0096】
好ましい支持体温度としては、0~100℃で適宜決定され、5~30℃がさらに好ましい。又は、冷却することによってウェブをゲル化させて残留溶媒を多く含んだ状態でドラムから剥離することも好ましい方法である。金属支持体の温度を制御する方法は特に制限されないが、温風又は冷風を吹きかける方法や、温水を金属支持体の裏側に接触させる方法がある。温水を用いるほうが、熱の伝達が効率的に行われ、金属支持体の温度が一定になるまでの時間が短くなるため、好ましい。
【0097】
温風を用いる場合は、溶媒の蒸発潜熱によるウェブの温度低下を考慮して、溶媒の沸点以上の温風を使用しつつ、発泡も防ぎながら目的の温度よりも高い温度の風を使う場合がある。
【0098】
特に、流延から剥離するまでの間で支持体の温度及び乾燥風の温度を変更し、効率的に乾燥を行うことが好ましい。
【0099】
製膜される樹脂フィルムが良好な平面性を示すためには、金属支持体からウェブを剥離する際の残留溶媒量が所望の範囲であることが好ましい。ここで、残留溶媒量は、下記式で定義される。
残留溶媒量(質量%又は%)={(M-N)/N}×100
なお、Mはウェブ又はフィルムを製造中又は製造後の任意の時点で採取した試料の質量(g)であり、NはMを115℃で1時間の加熱した後の質量(g)である。
【0100】
フィルム乾燥工程では、一般にロール乾燥方式(上下に配置した多数のロールにウェブを交互に通し乾燥させる方式)やテンター方式でウェブを搬送させながら乾燥する方式が採られる。
【0101】
(溶融流延製膜法)
溶融流延製膜法は、樹脂及び可塑剤などの添加剤を含む樹脂組成物を、流動性を示す温度まで加熱溶融し、その後、流動性を有する溶融物を流延してフィルムを製膜する方法である。溶融流延によって形成される方法は、溶融押出(成形)法、プレス成形法、インフレーション法、射出成形法、ブロー成形法、延伸成形法などに分類できる。これらの中で、機械的強度及び表面精度などに優れるフィルムが得られる溶融押出法が好ましい。また、溶融押出法で用いる複数の原材料は、通常、予め混錬してペレット化しておくことが好ましい。
【0102】
ペレット化は、公知の方法で行えばよい。例えば、乾燥樹脂や可塑剤、その他添加剤をフィーダーで押出し機に供給し、1軸や2軸の押出し機を用いて混錬し、ダイからストランド状に押出し、水冷又は空冷し、カッティングすることでペレット化できる。
【0103】
添加剤は、押出し機に供給する前に樹脂に混合しておいてもよいし、添加剤及び樹脂をそれぞれ個別のフィーダーで押出し機に供給してもよい。また、粒子や酸化防止剤等の少量の添加剤は、均一に混合するため、事前に樹脂に混合しておくことが好ましい。
【0104】
押出し機は、剪断力を抑え、樹脂が劣化(分子量低下、着色、ゲル生成等)しないようにペレット化可能でなるべく低温で加工することが好ましい。例えば、2軸押出し機の場合、深溝タイプのスクリューを用いて、同方向に回転させることが好ましい。混錬の均一性から、噛み合いタイプが好ましい。
【0105】
以上のようにして得られたペレットを用いてフィルム製膜を行う。勿論、ペレット化せず、原材料の粉末をそのままフィーダーで押出し機に供給し、そのままフィルム製膜することも可能である。
【0106】
上記ペレットを1軸や2軸タイプの押出し機を用いて、押出す際の溶融温度を200~300℃程度とし、リーフディスクタイプのフィルターなどで濾過して異物を除去した後、Tダイからフィルム状に流延し、冷却ロールと弾性タッチロールとでフィルムをニップし、冷却ロール上で固化させる。
【0107】
供給ホッパーから押出し機へ上記ペレットを導入する際は、真空下又は減圧下や不活性ガス雰囲気下にして酸化分解等を防止することが好ましい。
【0108】
押出し流量は、ギヤポンプを導入するなどして安定に行うことが好ましい。また、異物の除去に用いるフィルターは、ステンレス繊維焼結フィルターが好ましく用いられる。ステンレス繊維焼結フィルターは、ステンレス繊維体を複雑に絡み合った状態を作り出した上で圧縮し接触箇所を焼結し一体化したもので、その繊維の太さと圧縮量により密度を変え、濾過精度を調整できる。
【0109】
可塑剤や粒子などの添加剤は、予め樹脂と混合しておいてもよいし、押出し機の途中で練り込んでもよい。均一に添加するために、スタチックミキサーなどの混合装置を用いることが好ましい。
【0110】
冷却ロールと弾性タッチロールとでフィルムをニップする際のタッチロール側のフィルム温度は、フィルムのTg(ガラス転移温度)以上Tg+110℃以下にすることが好ましい。このような目的で使用する弾性体表面を有するロールは、公知のロールを使用できる。
【0111】
弾性タッチロールは挟圧回転体ともいう。弾性タッチロールとしては、市販されているものを用いることもできる。
【0112】
冷却ロールからフィルムを剥離する際は、張力を制御してフィルムの変形を防止することが好ましい。
【0113】
なお、上記した各製膜法で製膜される原反フィルムは、単層若しくは2層以上の積層フィルムであってもよい。積層フィルムは共押出成形法、共流延成形法、フィルムラミネイション法、塗布法などの公知の方法で得ることができる。これらのうち共押出成形法、共流延成形法が好ましい。
【0114】
<原反フィルムの仕様>
本発明に係る延伸前の原反フィルムの厚さは、好ましくは10~200μm、より好ましくは20~100μmの範囲内である。また、本実施形態では、後述する延伸ゾーンに供給される原反フィルムの流れ方向(搬送方向)の厚さムラσmは、後述する斜め延伸テンター入口でのフィルムの引取張力を一定に保ち、配向角やリターデーションといった光学特性を安定させる観点から、0.30μm未満、好ましくは0.25μm未満、さらに好ましくは0.20μm未満であることが好ましい。原反フィルムの流れ方向の厚さムラσmが0.30μm以上となると、斜め延伸フィルムのリターデーションや配向角といった光学特性のバラツキが悪化する場合がある。
【0115】
また、原反フィルムとして、幅方向の厚さ勾配を有するフィルムが供給されてもよい。原反フィルムの厚さの勾配は、後工程の延伸が完了した位置におけるフィルム厚さを最も均一なものとしうるよう、実験的に厚さ勾配を様々に変化させたフィルムを延伸することにより、経験的に求めることができる。原反フィルムの厚さの勾配は、例えば、厚さの厚い側の端部の厚さが、厚さの薄い側の端部よりも0.5~3%程度厚くなるように調整することができる。
【0116】
原反フィルムの幅は、特に限定されないが、600~2500mm、好ましくは800~2000mmの範囲内とすることができる。
【0117】
原反フィルムの斜め延伸時の延伸温度での好ましい弾性率は、ヤング率で表して、0.01MPa以上5000MPa以下、さらに好ましくは0.1MPa以上500MPa以下である。弾性率が低すぎると、延伸時・延伸後の収縮率が低くなり、皺が消えにくくなる。また、弾性率が高すぎると、延伸時にかかる張力が大きくなり、フィルムの両側縁部を保持する部分の強度を高くする必要が生じ、後工程のテンターに対する負荷が大きくなる。
【0118】
原反フィルムとしては、無配向なものを用いてもよいし、あらかじめ縦方向又は横方向に配向を有するフィルムが供給されてもよい。また、必要であれば原反フィルムの配向の幅手方向の分布が弓なり状、いわゆるボウイングを成していてもよい。要は、原反フィルムの配向状態を、後工程の延伸が完了した位置におけるフィルムの配向を所望なものとしうるよう、調整することができる。
【0119】
<斜め延伸フィルムの仕様>
本発明の製造方法により得られた斜め延伸フィルム(すなわち、非トリミング領域のフィルム)は、厚さがデバイスの軽量化及びフレキシブル化に対応できる観点で25μm以下であることが好ましく、1~20μmの範囲内であることがより好ましい。
【0120】
また、本発明に係る斜め延伸フィルムの幅は、特に限定されないが、1500~3000mm、好ましくは1700~2400mmの範囲内であることが好ましい。
【0121】
さらに、本発明に係る斜め延伸フィルムのNZ係数が、1.3未満であることが、視野角の向上という効果が得られる点で好ましい。
本願において、「NZ係数」とは、位相差フィルムの面内の最大(遅相軸方向)の屈折率、位相差フィルム面内で遅相軸に直角な方向(進相軸方向)の屈折率、及び厚さ方向における位相差フィルムの屈折率、をそれぞれnx、ny、nzとしたとき、NZ係数=(nx-nz)/(nx-ny)で定義される値である。すなわち、RoとRtとの比(Rt/Ro+0.5)の値である。
【0122】
上記範囲内にNZ係数を調製する手段としては、添加材を加える、もしくは材料の配合比を変える、フィルムの製膜方法(流延方法、延伸温度、倍率、製膜速度など)を変える、等の手段が挙げられる。
【0123】
また、本発明の製造方法により得られた斜め延伸フィルムにおいては、配向角θが巻取方向に対して、例えば0°より大きく90°未満の範囲に傾斜しており、少なくとも1300mmの幅において、幅手方向の、面内リターデーションRoのバラツキが3nm以下、配向角θのバラツキが0.6°未満であることが好ましい。
【0124】
すなわち、斜め延伸フィルムにおいて、面内リターデーションRoのバラツキは、幅手方向の少なくとも1300mmにおいて、3nm以下であり、1nm以下であることが好ましい。面内リターデーションRoのバラツキを上記範囲にすることにより、斜め延伸フィルムを偏光子層と貼り合せて円偏光板とし、これを有機EL表示装置に適用したときに、黒表示時の外光反射光の漏れによる色ムラを抑えることができる。また、斜め延伸フィルムを例えば液晶表示装置用の位相差フィルムとして用いた場合に表示品質を良好なものにすることも可能になる。
【0125】
また、前記斜め延伸フィルムにおいて、配向角θのバラツキは、幅手方向の少なくとも1300mmにおいて、0.6°未満であり、0.4°未満であることが好ましい。配向角θのバラツキが0.6°以上の長尺状の斜め延伸フィルムを偏光子層と貼り合せて円偏光板とし、これを有機EL表示装置などの画像表示装置に据え付けると、光漏れが生じ、明暗のコントラストを低下させることがある。
【0126】
また、前記斜め延伸フィルムの面内リターデーションRoは、用いられる表示装置の設計によって最適値が選択される。なお、前記Roは、面内遅相軸方向の屈折率nxと面内で前記遅相軸に直交する方向の屈折率nyとの差にフィルムの平均厚さdを乗算した値(Ro=(nx-ny)×d)である。
【0127】
<偏光板>
図8は、本実施形態の偏光板50の概略の構成を示す分解斜視図である。偏光板50は、偏光板保護フィルム51、偏光子層(単に「偏光子」ともいう。)52、位相差フィルム53をこの順で積層して構成されている。偏光板保護フィルム51は、例えばセルロースエステルフィルムで構成されているが、他の透明な樹脂フィルム(例えばシクロオレフィン系樹脂)で構成されてもよい。また、偏光板保護フィルム51は、視野角拡大などの光学的な特性を補償する光学補償フィルムで構成されてもよい。
【0128】
偏光子層52としては、ヨウ素又は二色性染料をドープしたポリビニルアルコールを延伸したものを使用できる。偏光子層の層厚は、5~40μm、好ましくは5~30μmであり、特に好ましくは5~20μmである。
【0129】
位相差フィルム53は、本発明の製造方法で得られた斜め延伸フィルムで構成されている。位相差フィルム53の遅相軸は、フィルム面内で、矩形状のフィルムの外形の一辺(例えば辺53a)に対して10~80°傾いている。なお、上記辺53aは、長尺状の斜め延伸フィルムの幅手方向に対応する辺である。フィルム面内で辺53aに対する遅相軸の傾き角の望ましい範囲は、30~60°であり、より望ましくは45°である。また、位相差フィルム53の遅相軸と偏光子層52の吸収軸(又は透過軸)とのなす角度は、例えば10~80°であり、望ましくは15~75°であり、より望ましくは30~60°であり、さらに望ましくは45°である。
【0130】
位相差フィルム53の偏光子層52とは反対側の面には、用途に合わせて、他の層(例えばハードコート層、低屈折率層、反射防止層、液晶(ポジティブC型プレート)が適宜設けられてもよい。また、位相差フィルム53の偏光子層52側の面には、易接着層が設けられてもよい。
【0131】
本実施形態の偏光板50は、長尺状の偏光板保護フィルム51、長尺状の偏光子層52、長尺状の位相差フィルム53(長尺状の斜め延伸フィルム)がこの順で積層された長尺状の偏光板であってもよく、長尺状の偏光板50を長手方向に垂直な幅手方向に沿って切断したシート状の偏光板であってもよい。
【0132】
偏光板50は、一般的な方法で作製することができる。例えば、偏光子層52と位相差フィルム53とを紫外線硬化型接着剤(UV接着剤)で接着して、偏光板50を作製することができる。また、アルカリ鹸化処理した位相差フィルム53は、ポリビニルアルコール系フィルムをヨウ素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子層52の一方の面に、完全鹸化型ポリビニルアルコール水溶液(水糊)を用いて貼り合わされてもよい。また、偏光子層52と偏光板保護フィルム51との接着についても、紫外線硬化型接着剤又は水糊を用いることができる。
【0133】
(紫外線硬化型接着剤の組成)
偏光板用の紫外線硬化型接着剤組成物としては、光ラジカル重合を利用した光ラジカル重合型組成物、光カチオン重合を利用した光カチオン重合型組成物、並びに光ラジカル重合及び光カチオン重合を併用したハイブリッド型組成物が知られている。
【0134】
光ラジカル重合型組成物としては、特開2008-009329号公報に記載のヒドロキシ基やカルボキシ基等の極性基を含有するラジカル重合性化合物及び極性基を含有しないラジカル重合性化合物を特定割合で含む組成物)等が知られている。特に、ラジカル重合性化合物は、ラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する化合物であることが好ましい。ラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する化合物の好ましい例には、(メタ)アクリロイル基を有する化合物が含まれる。(メタ)アクリロイル基を有する化合物の例には、N置換(メタ)アクリルアミド系化合物、(メタ)アクリレート系化合物などが含まれる。(メタ)アクリルアミドは、アクリアミド又はメタクリアミドを意味する。
【0135】
また、光カチオン重合型組成物としては、特開2011-028234号公報に開示されているような、(α)カチオン重合性化合物、(β)光カチオン重合開始剤、(γ)380nmより長い波長の光に極大吸収を示す光増感剤、及び(δ)ナフタレン系光増感助剤の各成分を含有する紫外線硬化型接着剤組成物が挙げられる。ただし、これ以外の紫外線硬化型接着剤が用いられてもよい。
【0136】
(1)前処理工程
前処理工程は、位相差フィルム及び偏光板保護フィルム(ここでは、これらをまとめて「保護フィルム」と称する)における偏光子層との接着面に易接着処理を行う工程である。易接着処理としては、コロナ処理、プラズマ処理等が挙げられる。
【0137】
(紫外線硬化型接着剤の塗布工程)
紫外線硬化型接着剤の塗布工程としては、偏光子層及び保護フィルムの少なくとも一方の接着面に、上記紫外線硬化型接着剤を塗布する。偏光子層又は保護フィルムの表面に直接、紫外線硬化型接着剤を塗布する場合、その塗布方法に特段の限定はない。例えば、ドクターブレード、ワイヤーバー、ダイコーター、カンマコーター、グラビアコーター等、種々の湿式塗布方式が利用できる。また、偏光子層と保護フィルムとの間に紫外線硬化型接着剤を塗布(流延)した後、ローラー等で加圧して紫外線硬化型接着剤を均一に押し広げる方法も利用できる。
【0138】
(2)貼合工程
上記の方法により紫外線硬化型接着剤を塗布した後は、貼合工程で処理される。この貼合工程では、例えば、先の塗布工程で偏光子層の表面に紫外線硬化型接着剤を塗布した場合、そこに保護フィルムが重ね合わされる。また、保護フィルムの表面に紫外線硬化型接着剤を塗布する方式の場合には、そこに偏光子層が重ね合わされる。また、偏光子層と保護フィルムとの間に紫外線硬化型接着剤を流延させた場合は、その状態で偏光子層と保護フィルムとが重ね合わされる。そして、通常は、この状態で両面の保護フィルム側から加圧ローラー等で挟んで加圧することになる。加圧ローラーの材質は、金属やゴム等を用いることが可能である。両面に配置される加圧ローラーは、同じ材質であってもよいし、異なる材質であってもよい。
【0139】
(3)硬化工程
硬化工程では、未硬化の紫外線硬化型接着剤に紫外線を照射して、カチオン重合性化合物(例えば、エポキシ化合物やオキセタン化合物)やラジカル重合性化合物(例えば、アクリレート系化合物、アクリルアミド系化合物等)を含む紫外線硬化型接着剤層を硬化させ、紫外線硬化型接着剤を介して重ね合わせた偏光子層と保護フィルムを接着させる。偏光子層の両面に保護フィルムを貼合する本実施形態の構成においては、偏光子層の両面にそれぞれ紫外線硬化型接着剤を介して保護フィルムを重ね合わせた状態で、紫外線を照射し、両面の紫外線硬化型接着剤を同時に硬化させるのが有利である。
【0140】
紫外線の照射条件は、紫外線硬化型接着剤を硬化しうる条件であれば、任意の適切な条件を採用できる。紫外線の照射量は積算光量で50~1500mJ/cm2の範囲であることが好ましく、100~500mJ/cm2の範囲であるのがさらに好ましい。
【0141】
偏光板の製造工程を連続ラインで行う場合、ライン速度は、接着剤の硬化時間によるが、好ましくは1~500m/minの範囲、より好ましくは5~300m/minの範囲、さらに好ましくは10~100m/minの範囲である。ライン速度が1m/min以上であれば、生産性を確保することができ、又は保護フィルムへのダメージを抑制することができ、耐久性に優れた偏光板を作製することができる。また、ライン速度が500m/min以下であれば、紫外線硬化型接着剤の硬化が十分となり、目的とする硬度を備
え、接着性に優れた紫外線硬化型接着剤層を形成することができる。
【0142】
<有機EL表示装置>
図9は、本実施形態の表示装置の一例である有機EL表示装置100の概略の構成を分解して示す断面図である。なお、有機EL表示装置100の構成は、これに限定されるものではない。
【0143】
有機EL表示装置100は、表示セルとしての有機EL素子101上に、接着層201を介して偏光板301を形成することによって構成されている。有機EL素子101は、ガラスやポリイミド等を用いた基板111上に、順に、金属電極112、発光層113、透明電極(ITO等)114、封止層115を有して構成されている。なお、金属電極112は、反射電極と透明電極とで構成されていてもよい。
【0144】
偏光板301は、有機EL素子101側から順に、λ/4位相差フィルム311、接着層312、偏光子層313、接着層314、保護フィルム315を積層してなり、偏光子層313がλ/4位相差フィルム311と保護フィルム315とによって挟持されている。偏光子層313の透過軸(又は吸収軸)と、本発明の製造方法で得られた斜め延伸フィルムからなるλ/4位相差フィルム311の遅相軸とのなす角度が約45°(又は135°)となるように両者を貼り合わせることで、偏光板301(円偏光板)が構成されている。なお、偏光板301の保護フィルム315、偏光子層313、λ/4位相差フィルム311は、図8の偏光板50の偏光板保護フィルム51、偏光子層52、位相差フィルム53にそれぞれ対応している。
【0145】
上記の保護フィルム315には硬化層が積層されていることが好ましい。硬化層は、有機EL表示装置の表面のキズを防止するだけではなく、偏光板301による反りを防止する効果を有する。さらに、硬化層上には、反射防止層を有していてもよい。上記有機EL素子101自体の厚さは1μm程度である。
【0146】
上記の構成において、金属電極112と透明電極114とに電圧を印加すると、発光層113に対して、金属電極112及び透明電極114のうちで陰極となる電極から電子が注入され、陽極となる電極から正孔が注入され、両者が発光層113で再結合することにより、発光層113の発光特性に対応した可視光線の発光が生じる。発光層113で生じた光は、直接又は金属電極112で反射した後、透明電極114及び偏光板301を介して外部に取り出されることになる。
【0147】
一般に、有機EL表示装置においては、透明基板上に金属電極と発光層と透明電極とを順に積層して発光体である素子(有機EL素子)が形成されている。ここで、発光層は、種々の有機薄膜の積層体であり、例えばトリフェニルアミン誘導体等からなる正孔注入層と、アントラセン等の蛍光性の有機固体からなる発光層との積層体や、このような発光層とペリレン誘導体等からなる電子注入層との積層体や、これらの正孔注入層、発光層、電子注入層の積層体等、種々の組み合わせをもった構成が知られている。
【0148】
有機EL表示装置は、透明電極と金属電極とに電圧を印加することによって、発光層に正孔と電子とが注入され、これら正孔と電子との再結合によって生じるエネルギーが蛍光物質を励起し、励起された蛍光物質が基底状態に戻るときに光を放射する、という原理で発光する。途中の再結合というメカニズムは、一般のダイオードと同様であり、このことからも予想できるように、電流と発光強度は印加電圧に対して整流性を伴う強い非線形性を示す。
【0149】
有機EL表示装置においては、発光層での発光を取り出すために、少なくとも一方の電
極が透明でなくてはならず、通常酸化インジウムスズ(ITO)などの透明導電体で形成した透明電極を陽極として用いている。一方、電子注入を容易にして発光効率を上げるには、陰極に仕事関数の小さな物質を用いることが重要で、通常Mg-Ag、Al-Liなどの金属電極を用いている。
【0150】
このような構成の有機EL表示装置において、発光層は、厚さ10nm程度ときわめて薄い膜で形成されている。このため、発光層も透明電極と同様、光をほぼ完全に透過する。その結果、非発光時に透明基板の表面から入射し、透明電極と発光層とを透過して金属電極で反射した光が、再び透明基板の表面側へと出るため、外部から視認したとき、有機EL表示装置の表示面が鏡面のように見える。
【0151】
本実施形態の円偏光板は、このような外光反射が特に問題となる有機EL表示装置に適している。
【0152】
すなわち、有機EL素子101の非発光時に、室内照明等により有機EL素子101の外部から入射した外光は、偏光板301の偏光子層313によって半分は吸収され、残りの半分は直線偏光として透過し、λ/4位相差フィルム311に入射する。λ/4位相差フィルム311に入射した光は、偏光子層313の透過軸とλ/4位相差フィルム311の遅相軸とが45°(又は135°)で交差しているため、λ/4位相差フィルム311を透過することにより円偏光に変換される。
【0153】
λ/4位相差フィルム311から出射された円偏光は、有機EL素子101の金属電極112で鏡面反射する際に、位相が180度反転し、逆回りの円偏光として反射される。この反射光は、λ/4位相差フィルム311に入射することにより、偏光子層313の透過軸に垂直(吸収軸に平行)な直線偏光に変換されるため、偏光子層313で全て吸収され、外部に出射されないことになる。つまり、偏光板301により、有機EL素子101での外光反射を低減することができる。
【0154】
<液晶表示装置>
図10は、本実施形態の表示装置の他の例である液晶表示装置400の概略の構成を示す断面図である。液晶表示装置400は、液晶セル401の一方の面側に、偏光板402を配置して構成されている。
【0155】
液晶セル401は、一対の基板で液晶層を挟持した表示セルである。なお、液晶セル401に対して偏光板402とは反対側には、偏光板402とクロスニコル状態で配置される別の偏光板と、液晶セル401を照明するバックライトとが設けられるが、図10では、それらの図示を省略している。
【0156】
また、液晶表示装置400は、偏光板402に対して液晶セル401とは反対側に、フロントウィンドウ403を有していてもよい。フロントウィンドウ403は、液晶表示装置400の外装カバーとなるものであり、例えばカバーガラスで構成されている。フロントウィンドウ403と偏光板402との間には、例えば紫外線硬化型樹脂からなる充填材404が充填されている。充填材404がない場合は、フロントウィンドウ403と偏光板402との間に空気層が形成されるため、フロントウィンドウ403及び偏光板402と空気層との界面での光の反射により、表示画像の視認性が低下する場合がある。しかし、上記の充填材404により、フロントウィンドウ403と偏光板402との間に空気層が形成されないため、上記界面での光の反射による表示画像の視認性の低下を回避することができる。
【0157】
偏光板402は、所定の直線偏光を透過する偏光子層411を有している。偏光子層411
の一方の面側(液晶セル401とは反対側)には、接着層412を介して、λ/4位相差フィルム413と、紫外線硬化型樹脂からなる硬化層414とがこの順で積層されている。また、偏光子層411の他方の面側(液晶セル401側)には、接着層415を介して保護フィルム416が貼り合わされている。
【0158】
偏光子層411は、例えばポリビニルアルコールフィルムを二色性色素で染色し、高倍率延伸することで得られるものである。偏光子層411は、アルカリ処理(鹸化処理ともいう)された後、一方の面側にλ/4位相差フィルム413が接着層412を介して貼り合わされ、他方の面側に保護フィルム416が接着層415を介して貼り合わされる。なお、偏光板402の保護フィルム416、偏光子層411、λ/4位相差フィルム413は、図8の偏光板50の偏光板保護フィルム51、偏光子層52、位相差フィルム53にそれぞれ対応している。接着層412・415は、例えばポリビニルアルコール接着剤(PVA接着剤、水糊)からなる層であるが、紫外線硬化型の接着剤(UV接着剤)からなる層であってもよい。
【0159】
λ/4位相差フィルム413は、透過光に対して波長の1/4程度の面内位相差を付与する層であり、本発明の製造方法で得られた斜め延伸フィルムで構成される。また、λ/4位相差フィルム413の遅相軸と偏光子層411の吸収軸とのなす角度(交差角)は、例えば30~60°であり、より望ましくは45°である。これにより、偏光子層411からの直線偏光は、λ/4位相差フィルム413によって円偏光又は楕円偏光に変換される。
【0160】
硬化層414(ハードコート層とも言う)は、活性エネルギー線硬化型樹脂(例えば紫外線硬化型樹脂)で構成されている。
【0161】
保護フィルム416は、例えばセルロース系樹脂(セルロース系ポリマー)、アクリル樹脂、環状ポリオレフィン(COP)、ポリカーボネート(PC)からなる樹脂フィルムで構成される。保護フィルム416は、単に偏光子層411の裏面側を保護するフィルムとして設けられているが、所望の光学補償機能を有する位相差フィルムを兼ねた光学フィルムとして設けられてもよい。
【0162】
なお、液晶表示装置の場合、液晶セル401(液晶セル)に対して偏光板402とは反対側に配置される別の偏光板は、偏光子層の表面を2つの光学フィルムで挟持して構成されるが、上記の偏光子層及び光学フィルムとしては、偏光板402の偏光子層411及び保護フィルム416と同様のものを用いることができる。
【0163】
なお、λ/4位相差フィルム413の接着層412側に、λ/4位相差フィルム413の接着性を向上させるための易接着層が設けられてもよい。易接着層は、λ/4位相差フィルム413の接着層412側に易接着処理を行うことによって形成される。易接着処理としては、コロナ(放電)処理、プラズマ処理、フレーム処理、イトロ処理、グロー処理、オゾン処理、プライマー塗布処理等があるが、このうち少なくとも1種が実施されればよい。これらの易接着処理のうち、生産性の観点からは、コロナ処理、プラズマ処理が易接着処理として好ましい。
【0164】
このように、偏光板402が液晶セル401に対して視認側に位置しており、偏光板402のλ/4位相差フィルム413が、偏光子層411に対して液晶セル401とは反対側に位置する液晶表示装置400の構成では、液晶セル401から出射されて視認側の偏光子層411を透過した直線偏光は、λ/4位相差フィルム413にて円偏光又は楕円偏光に変換される。このため、観察者が偏光サングラスを装着して液晶表示装置400の表示画像を観察する場合に、偏光子層411の透過軸と、偏光サングラスの透過軸とがどのような角度をなしていても、偏光サングラスの透過軸に平行な光の成分を観察者の眼に導いて表示画像を観察させることができる。
【実施例
【0165】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)で行われた。また、特記しない限り、「%」及び「部」は、それぞれ、「質量%」及び「質量部」を意味する。
【0166】
[斜め延伸フィルム1の製造]
<原反フィルムB1の作製>
原反フィルムB1としての脂環式オレフィンポリマー系樹脂フィルム(COPフィルム)を、以下の製造方法(溶融流延製膜法)によって作製した。
【0167】
窒素雰囲気下、脱水したシクロヘキサン500質量部に、1-ヘキセン1.2質量部、ジブチルエーテル0.15質量部、トリイソブチルアルミニウム0.30質量部を室温で反応器に入れ混合した後、45℃に保ちながら、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3,7-ジエン(ジシクロペンタジエン、以下、DCPと略記)20質量部、1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレン(以下、MTFと略記)140質量部および8-メチル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-ドデカ-3-エン(以下、MTDと略記)40質量部からなるノルボルネン系モノマー混合物と、六塩化タングステン(0.7%トルエン溶液)40質量部とを、2時間かけて連続的に添加し重合した。重合溶液にブチルグリシジルエーテル1.06質量部とイソプロピルアルコール0.52質量部を加えて重合触媒を不活性化し重合反応を停止させた。
【0168】
次いで、得られた開環重合体を含有する反応溶液100質量部に対して、シクロヘキサン270質量部を加え、さらに水素化触媒としてニッケル-アルミナ触媒(日揮触媒化成(株)製)5質量部を加え、水素により5MPaに加圧して攪拌しながら温度200℃まで加温した後、4時間反応させ、DCP/MTF/MTD開環重合体水素化ポリマーを20%含有する反応溶液を得た。
【0169】
濾過により水素化触媒を除去した後、軟質重合体((株)クラレ製;セプトン2002)及び酸化防止剤(チバスペシャリティ・ケミカルズ(株)製;イルガノックス1010)を、得られた溶液にそれぞれ添加して溶解させた(いずれも重合体100質量部あたり0.1質量部)。次いで、溶液から、溶媒であるシクロヘキサンおよびその他の揮発成分を、円筒型濃縮乾燥器((株)日立製作所製)を用いて除去し、水素化ポリマーを溶融状態で押出機からストランド状に押出し、冷却後ペレット化して回収した。重合体中の各ノルボルネン系モノマーの共重合比率を、重合後の溶液中の残留ノルボルネン類組成(ガスクロマトグラフィー法による)から計算したところ、DCP/MTF/MTD=10/70/20でほぼ仕込組成に等しかった。この開環重合体水素添加物の、重量平均分子量(Mw)は31,000、分子量分布(Mw/Mn)は2.5、水素添加率は99.9%、ガラス転移温度Tgは134℃であった。
【0170】
得られた開環重合体水素添加物のペレットを、空気を流通させた熱風乾燥器を用いて70℃で2時間乾燥して水分を除去した。次いで、前記ペレットを、コートハンガータイプのTダイを有する短軸押出機(三菱重工業(株)製:スクリュー径90mm、Tダイリップ部材質は炭化タングステン、溶融樹脂との剥離強度44N)を用いて溶融押出成形し、厚さが50μmで、残留溶媒量が10ppmの脂環式オレフィンポリマー系樹脂フィルム(COPフィルム)を原反フィルムB1として得た。
【0171】
<斜め延伸工程>
上記にて得られた原反フィルムB1を、本発明に係る斜め延伸装置を用いて、以下に示す方法により延伸し、斜め延伸フィルム1を得た。
【0172】
まず、フィルムの繰り出し方向と巻き取り方向とがなす角度(旋回角)を47°とした。そして、フィルム繰り出し装置から送られてくる原反フィルムB1の両端を、第1クリップ(レールの内周側)及び第2クリップ(レールの外周側)で把持した。
【0173】
なお、原反フィルムを把持する際には、第1、第2クリップのクリップレバーを、クリップクローザーにより動かすことにより原反フィルムを把持する。また、クリップ把持時の際は、原反フィルムの両端を同時に第1、第2クリップで同時に把持し、かつフィルムの横方向に平行な軸に対して、両端の把持位置を結ぶ線画並行となるように把持する。
【0174】
次いで、把持した未延伸の原反フィルムを上記第1、第2クリップにより、加熱ゾーン内の予熱ゾーン、延伸ゾーン及び熱固定ゾーンを通過させることにより加熱し、幅方向に延伸し、斜め延伸フィルムを得た。なお、加熱及び延伸する際におけるフィルム搬送速度は、15m/分とし、延伸温度を厚みに応じて、Tg+10~Tg+30℃の範囲で適宜選択して実施した
【0175】
また、延伸前後におけるフィルムの延伸倍率を2倍とし、延伸後のフィルムの厚さが25μm、幅が1530mmとなるようにした。前記延伸後のフィルムの厚さとは、フィルム幅手方向20mmピッチで測定した平均膜厚である。
また、延伸後のフィルムの、フィルム幅手方向50mmピッチで測定した平均配向角は、45°であった。
【0176】
<トリム工程>
前記斜め延伸工程により得られた斜め延伸フィルム1をトリミング装置に送り、当該斜め延伸フィルム1の両端をトリミングした。
トリミング装置としては、前記した図5に示す装置を用い、先行側スリット9a及び遅延側スリット9bは、回転可能に軸支された円形刃であり、先行側スリット9a及び遅延側スリット9bは、斜め延伸フィルムの搬送に従って受動的に回転するように回転自在に軸支され、支持体10が駆動モーターによって斜め延伸フィルムの搬送速度と一致するように斜め尺延伸フィルムの搬送に従って回転駆動する。先行側スリット9a及び遅延側スリット9bの素材としては、超鋼鋼材であり、直径が100mmであった。
また、支持体(支持ロール)10は、フィルムの幅方向に沿って長尺状をなし、支持体10の素材としては、金属製とした。なお、ここで使用した支持体は、鏡面加工やマット加工は施していない。
また、フィルムと支持体との接触幅を接触幅Aとしたとき、A/(幅IN+幅+幅OUT)×100(%)の値が下記表Iに示すとおりとなるように設定した。
このようなトリミング装置を用いて、フィルムの先行側端部、非トリミング領域及び遅延側端部の各幅(幅IN、幅、幅OUT)と、斜め延伸フィルム1の先行側端部のトリミング開始位置と、遅延側端部のトリミング開始位置との距離差が、下記表Iに示すとおりとなるようにトリミングした。
【0177】
<フィルム引取り工程>
前記トリム工程でトリミングされた斜め延伸フィルムの、先行側端部、非トリミング領域及び遅延側端部をそれぞれフィルム引取り装置によって引取った。
ここで、斜め延伸フィルムの先行側端部、非トリミング領域及び遅延側端部の各引取り張力(TIN、T、TOUT)が下記表Iに示すとおりとなるように、ロールにかかる荷重を制御してフィルムを引取った。
【0178】
[斜め延伸フィルム2~15及び19~21の製造]
前記斜め延伸フィルム1の製造において、以下の点を変更した以外は同様に行った。
斜め延伸工程において、延伸後の斜め延伸フィルムの厚さ・フィルムの幅が下記表Iに示すとおりとなるように延伸した。なお、斜め延伸フィルム2、20及び21の製造においては、原反フィルムB1の厚さが、それぞれ30μm、90μm、24μm(すなわち、斜め延伸フィルムの厚さの2倍の厚さ)となるように作製したものを用いた。
トリム工程において、フィルムの先行側端部、非トリミング領域及び遅延側端部の各幅(幅IN、幅、幅OUT)と、斜め延伸フィルムの先行側端部のトリミング開始位置と、遅延側端部のトリミング開始位置との距離差が、下記表Iに示すとおりとなるようにトリミングした。
フィルム引取り工程において、斜め延伸フィルムの先行側端部、非トリミング領域及び遅延側端部の各引取り張力(TIN、T、TOUT)が下記表Iに示すとおりとなるようにフィルムを引取った。
【0179】
[斜め延伸フィルム16及び18の製造]
前記斜め延伸フィルム2~15及び19~21の製造において、以下の点を変更した以外は同様に行った。
トリミング装置の支持体(支持ロール)として、金属製で鏡面加工されたロール(下記表I中、「支持体A」と表記。)を使用し、かつ、フィルムと支持体との接触幅を接触幅Aとしたとき、A/(幅IN+幅+幅OUT)×100(%)の値が下記表Iに示すとおりとなるように設定した。
【0180】
[斜め延伸フィルム17の製造]
前記斜め延伸フィルム2~15及び19~21の製造において、以下の点を変更した以外は同様に行った。
トリミング装置の支持体(支持ロール)は、金属製でマット加工されたロール(下記表I中、「支持体B」と表記。)を使用し、かつ、フィルムと支持体との接触幅を接触幅Aとしたとき、A/(幅IN+幅+幅OUT)×100(%)の値が下記表Iに示すとおりとなるように設定した。
【0181】
[斜め延伸フィルム22の製造]
前記斜め延伸フィルム2~15及び19~21の製造において、以下の点を変更した以外は同様に行った。
先行側スリット9a及び遅延側スリット9bでのトリミング方法をCOレーザー光照射装置(波長10.6μm、レーザー光出力30W)を用いてフィルムを切断した。
【0182】
[斜め延伸フィルム23の製造]
前記斜め延伸フィルム13の製造において、以下の原反フィルムB2を用いた以外は同様に行った。
<原反フィルムB2の作製>
(シクロオレフィン樹脂)
シクロオレフィン樹脂として、以下のようにして合成したクロオレフィン樹脂COP1を用意した。
【0183】
【化1】
【0184】
(シクロオレフィン樹脂COP1の合成)
上記構造式で表される8-メトキシカルボニル-8-メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン50g、分子量調節剤の1-へキセン2.3g及びトルエン100gを、窒素置換した反応容器に仕込み、80℃に加熱した。これにトリエチルアルミニウム(0.6モル/L)のトルエン溶液0.09ml、メタノール変性WCl6のトルエン溶液(0.025モル/L)0.29mlを加え、80℃で3時間反応させることにより重合体を得た。
次いで、得られた開環共重合体溶液をオートクレーブに入れ、さらにトルエンを100g加えた。水添触媒であるRuHCl(CO)[P(C)]をモノマー仕込み量に対して2500ppm添加し、水素ガス圧を9~10MPaとし、160~165℃にて3時間の反応を行った。反応終了後、多量のメタノール溶液に沈殿させることにより水素添加物を得た。得られた開環重合体の水素添加物であるシクロオレフィン樹脂COP1は、ガラス転移温度(Tg)=167℃、重量平均分子量(Mw)=13.5×10、分子量分布(Mw/Mn)=3.06であった。
【0185】
(微粒子分散液の調製)
12質量部の微粒子(アエロジル R972V、日本アエロジル(株)製)と、88質量部のエタノールとを、ディゾルバーで50分間撹拌混合した後、マントンゴーリーで分散し、微粒子分散液を調製した。
次に、溶解タンク中で撹拌されているジクロロメタン(100質量部)に、100質量部の微粒子分散液を、ゆっくりと添加した。さらに、二次粒子の粒径が所定の大きさとなるようにアトライターにて分散を行った。これを日本精線(株)製のファインメットNFで濾過し、微粒子添加液を調製した。
【0186】
(主ドープの調製)
下記組成の主ドープを調製した。まず加圧溶解タンクにジクロロメタン及びエタノールを添加した。ジクロロメタンの入った加圧溶解タンクに、シクロオレフィン樹脂COP1、微粒子添加液を撹拌しながら投入した。これを加熱し、撹拌しながら樹脂を溶解し、これを安積濾紙(株)製の安積濾紙No.244を使用して濾過して、主ドープを調製した。
〈主ドープの組成〉
シクロオレフィン樹脂COP1 100質量部
ジクロロメタン 302質量部
エタノール 18質量部
微粒子添加液 10質量部
【0187】
(原反フィルムB2の製膜)
上記ドープを用い、溶液流延製膜法によって、膜厚50μmの原反フィルムB2を製膜した。つまり、80m/minの速度で駆動するSUS316製の厚み2mmからなる支持体上に、流延ダイからドープを流延し、支持体上でドープを乾燥させて流延膜を形成した後、支持体の移動によって搬送される上記流延膜を、支持体から剥離して原反フィルムB2を得た。
【0188】
【表1】
【0189】
[円偏光板1~23の作製]
前記斜め延伸フィルム1~23の製造において、フィルム引取り工程で引取られたフィルムの非トリミング領域を用いて、以下のようにして円偏光板1~23をそれぞれ作製した。
厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムを、一軸延伸し(温度110℃、延伸倍率5倍)、ヨウ素0.075g、ヨウ化カリウム5g、水100gからなる水溶液に60秒間浸漬し、次いでヨウ化カリウム6g、ホウ酸7.5g、水100gからなる68℃の水溶液に浸漬した。浸漬後のフィルムを水洗、乾燥し、偏光子層を得た。
続いて、作製した斜め延伸フィルム1を、ポリビニルアルコール5%水溶液を粘着剤として、上記偏光子層の片面に貼合した。その際、偏光子層の透過軸と斜め延伸フィルム1の遅相軸とが45°の向きになるように貼合した。そして、偏光子層のもう一方の面に、アルカリケン化処理をしたコニカミノルタタックフィルムKC4UAH(コニカミノルタ(株)製)を、同様に貼り合わせて円偏光板1を作製した。円偏光板2~23においても、各斜め延伸フィルム2~22を用いて同様にして作製した。
【0190】
[有機EL表示装置1~23の作製]
ガラス基板上にスパッタリング法によって厚さ80nmのクロムからなる反射電極を製膜した。次に、反射電極上に陽極としてITO(酸化インジウムスズ)をスパッタリング法で厚さ40nmで製膜した。続いて、陽極上に正孔輸送層としてポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)-ポリスチレンスルホネート(PEDOT:PSS)をスパッタリング法で厚さ80nmで製膜した。その後、正孔輸送層上にシャドーマスクを用いて、RGBそれぞれの発光層を100nmの膜厚で形成した。
さらに、発光層上に電子が効率的に注入できるような仕事関数の低い第1の陰極としてカルシウムを真空蒸着法により4nmの厚さで製膜した。その後、第1の陰極上に第2の陰極としてアルミニウムを2nmの厚さで製膜した。ここで、第2の陰極として用いたアルミニウムは、その上に形成される透明電極をスパッタリング法により製膜する際に、第1の陰極であるカルシウムが化学的変質をすることを防ぐ役割がある。以上のようにして、有機発光層を得た。
次に、陰極上にスパッタリング法によって透明導電膜を80nmの厚さで製膜した。ここで透明導電膜としてはITOを用いた。さらに、透明導電膜上にCVD法(化学蒸着法)によって窒化珪素を200nm製膜することで、絶縁膜とした。これにより、有機EL素子を作製した。上記作製した有機EL素子の大きさは、1296mm×784mmであった。
上記作製した有機EL素子の絶縁膜上に、上述のようにして作製した円偏光板1~23を、100m間隔で複数枚、斜め延伸フィルムの面が有機EL素子の絶縁膜の面に向くように、粘着剤で固定化する。これにより、有機EL表示装置1~23を作製した。
【0191】
[評価]
<破断頻度>
前記原反フィルムの繰り出し工程から前記フィルム引取り工程までを連続して100000m加工した際の、フィルムの破断頻度を下記の基準にしたがい評価した。ランク2~4を実用上問題ないレベルとした。
(基準)
ランク1:連続100000mで破断頻度が10回以上
ランク2:連続100000mで破断頻度が4回以上~10回未満
ランク3:連続100000mで破断頻度が1~3回
ランク4:連続100000mで破断頻度が0回
【0192】
<色味>
前記で作製した各有機EL表示装置において、以下の基準に基づいて、黒表示時の色味評価を行った。ランク2~4を実用上問題ないレベルとした。
(基準)
ランク1:10枚中、6枚以上が画面上での色味にやや差が見られる又は、10枚中、1枚以上、画面上での色味に顕著に差が見られる。
ランク2:10枚中、3~5枚が、画面上での色味に差がやや見られる。
ランク3:10枚中、1~2枚が、画面上での色味に差がやや見られる。
ランク4:10枚中全てが画面上での色味に差が見られない。
【0193】
【表2】
【0194】
上記結果に示されるように、本発明の製造方法を用いて得られた斜め延伸フィルムは、フィルムの破断頻度が比較例の場合に比べて非常に少なく、トリム工程後の破断防止に効果的で、生産性高く安定して生産できることが認められる。また、このような斜め延伸フィルムを用いて作製した有機EL表示装置においても、品質が良好であることが分かる。
【符号の説明】
【0195】
1 斜め延伸装置
2 斜め延伸テンター
3 フィルム繰り出し装置
4a 先行側端部のフィルム引取り装置
4b 非トリミング領域のフィルム引取り装置
4c 遅延側端部のフィルム引取り装置
5、8 搬送ローラー
6 内側のガイドレール
7 外側のガイドレール
9a 先行側スリット
9b 遅延側スリット
10支持体
10a 内側支持体
10b 外側支持体
10c、10d 溝部
11、12 ガイドレール開始位置
13、14 ガイドレール終了位置
15 原反フィルム又は斜め延伸フィルム
90 トリミング装置
Ci、Co 把持具
A 接触幅
X 先行側端部における支持体の頂点
Y 遅延側端部における支持体の頂点
IN 先行側端部
C 非トリミング領域
OUT 遅延側端部
50 偏光板
52 偏光子層
53 位相差フィルム(斜め延伸フィルム)
100 有機EL表示装置
101 有機EL素子(表示セル)
301 偏光板
311 λ/4位相差フィルム(斜め延伸フィルム)
313 偏光子層
400 液晶表示装置
401 液晶セル(表示セル)
402 偏光板
411 偏光子層
413 λ/4位相差フィルム(斜め延伸フィルム)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10