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  • 特許-電圧変換装置 図1
  • 特許-電圧変換装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】電圧変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/155 20060101AFI20241029BHJP
【FI】
H02M3/155 H
H02M3/155 W
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021007021
(22)【出願日】2021-01-20
(65)【公開番号】P2022111535
(43)【公開日】2022-08-01
【審査請求日】2023-02-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】梅原 孝宏
【審査官】間宮 嘉誉
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-182839(JP,A)
【文献】特許第3906843(JP,B2)
【文献】特開2011-91937(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧変換装置であって、
前記電圧変換装置は、リアクトル、スイッチング素子、ダイオード、電流センサ、及び、制御部を備え、
前記電流センサは、前記リアクトルを流れる電流値を取得し、
前記制御部は、前記スイッチング素子へのON指令とOFF指令とを切り替えることにより、前記スイッチング素子のON・OFF制御を行い、
前記制御部は、スイッチング周期内に、前記リアクトルの電流値を複数回検出し、
前記制御部は、前記スイッチング周期内で検出した前記リアクトルの電流値の推移から、推定実行ON時間長さを算出し、
前記制御部は、前記推定実行ON時間長さと当該制御部が指令した指令ON時間長さとの差分を算出し、
前記制御部は、前記差分を用いて、所定の指令ON時間上限値を超えない範囲で次回以降の任意の回の前記ON指令を行う際の前記指令ON時間長さを補正し、
前記制御部は、前記スイッチング周期内のON時間中に前記リアクトルの電流値を複数点サンプリングして、前記ON時間中の前記リアクトルの電流値の最小値と最大値の差分Aから前記推定実行ON時間長さを算出するか、又は、前記スイッチング周期内の前記ON時間中及びOFF時間中に前記リアクトルの電流値を複数点サンプリングして得られる前記ON時間中の前記リアクトルの複数の電流値を通る直線と、前記OFF時間中の前記リアクトルの複数の電流値を通る直線と、の交点から前記推定実行ON時間長さを算出し、
前記制御部は、前記指令ON時間長さよりも前記推定実行ON時間長さの方が長い場合は、所定の前記指令ON時間上限値を超えない範囲で、次回以降の任意の回の前記ON指令を行う際の前記指令ON時間長さが短くなるように前記指令ON時間長さを補正し、
前記制御部は、前記指令ON時間長さよりも前記推定実行ON時間長さの方が短い場合は、所定の前記指令ON時間上限値を超えない範囲で、次回以降の任意の回の前記ON指令を行う際の前記指令ON時間長さが長くなるように前記指令ON時間長さを補正することを特徴とする電圧変換装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記差分を用いて、所定の前記指令ON時間上限値を超えない範囲で次回のON指令を行う際の前記指令ON時間長さを補正する請求項1に記載の電圧変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電圧変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池車両等の車両に車載されて用いられるシステムに備えられるコンバータに関して種々の研究がなされている。様々な電子機器等に用いられるDC/DCコンバータには、リアクトル、スイッチング素子、ダイオードおよびコンデンサ等から構成される回路がよく用いられる。スイッチのON/OFF信号によって、リアクトルに流れる電流の増加や減少を制御する。
例えば特許文献1では、電流検出回路に不具合があっても、過大電流に対する回路の保護機能を維持できるDC/DCコンバータを提供するために、DC/DCコンバータのリアクトルに流れる電流が検出される時間の遅延に基づき、スイッチングのデューティ比(指令ON時間)の上限を設定し、当該デューティ比の上限を超えないようにスイッチングを制御する、という技術が開示されている。
また、特許文献2では、定常点灯時における効率を向上させるとともに、始動時などの連続モード動作時に発生するノイズを容易に低減できる放電灯点灯装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-162939号公報
【文献】特開2002-216986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
昇圧動作はスイッチングのON/OFFの繰り返しにより実現されるため、OFF時間がゼロにならないよう、指令ON時間の上限値は設定される。一方コンバータを構成する部品のバラツキや経時劣化によって、スイッチングの指令ON時間の長さに対し、実行ON時間の長さがばらつくことがわかっている。上記特許文献1の技術は、部品のバラツキや経時劣化を考慮して、指令ON時間に対して想定される実行ON時間が最も長くなる個体に合わせ、OFF時間がゼロにならないよう、指令ON時間を設定するというものである。この特許文献1の技術では、実行ON時間が短くなる個体で同様の指令ON時間の上限値を設定すると、十分なON時間が得られず、期待の電圧変換比を得られなくなる虞がある。
【0005】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、電圧変換比の個体バラツキを抑制し、高い電圧変換比を実現することができる電圧変換装置を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の電圧変換装置は、電圧変換装置であって、
前記電圧変換装置は、リアクトル、スイッチング素子、ダイオード、電流センサ、及び、制御部を備え、
前記電流センサは、前記リアクトルを流れる電流値を取得し、
前記制御部は、前記スイッチング素子へのON指令とOFF指令とを切り替えることにより、前記スイッチング素子のON・OFF制御を行い、
前記制御部は、スイッチング周期内に、前記リアクトルの電流値を複数回検出し、
前記制御部は、前記スイッチング周期内で検出した前記リアクトルの電流値の推移から、推定実行ON時間長さを算出し、
前記制御部は、前記推定実行ON時間長さと当該制御部が指令した指令ON時間長さとの差分を算出し、
前記制御部は、前記差分を用いて、所定の指令ON時間上限値を超えない範囲で次回以降の任意の回の前記ON指令を行う際の前記指令ON時間長さを補正することを特徴とする。
【0007】
本開示の電圧変換装置においては、前記制御部は、前記差分を用いて、所定の前記指令ON時間上限値を超えない範囲で次回のON指令を行う際の前記指令ON時間長さを補正してもよい。
【発明の効果】
【0008】
本開示の電圧変換装置によれば、電圧変換比の個体バラツキを抑制し、高い電圧変換比を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、昇圧コンバータの昇圧回路の構成の一例を示す図である。
図2図2は、スイッチング素子のON/OFF切り替えの指令と実際のタイミングとリアクトル電流値のタイムチャートを示す図である。
図3図3は、リアクトル電流値の多点サンプリングから、指令ON時間長さの補正までの流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の電圧変換装置は、電圧変換装置であって、
前記電圧変換装置は、リアクトル、スイッチング素子、ダイオード、電流センサ、及び、制御部を備え、
前記電流センサは、前記リアクトルを流れる電流値を取得し、
前記制御部は、前記スイッチング素子へのON指令とOFF指令とを切り替えることにより、前記スイッチング素子のON・OFF制御を行い、
前記制御部は、スイッチング周期内に、前記リアクトルの電流値を複数回検出し、
前記制御部は、前記スイッチング周期内で検出した前記リアクトルの電流値の推移から、推定実行ON時間長さを算出し、
前記制御部は、前記推定実行ON時間長さと当該制御部が指令した指令ON時間長さとの差分を算出し、
前記制御部は、前記差分を用いて、所定の指令ON時間上限値を超えない範囲で次回以降の任意の回の前記ON指令を行う際の前記指令ON時間長さを補正することを特徴とする。
【0011】
本開示では、リアクトルに流れる電流値の推移をモニタして多点サンプルを用いて実行されたON時間を推定する。そして推定したON時間と指令ON時間との差分を用いて指令ON時間を適切に補正する。これにより、実行ON時間の上限値が、フォトカプラ及びコンデンサ等の回路部品ごとの個体バラツキに依らず一定とすることができる。これにより、電圧変換比の個体バラツキを抑制し、高い電圧変換比を実現することができる。
【0012】
図1は、昇圧コンバータの昇圧回路の構成の一例を示す図である。
図1の左側は電源に接続され、図1の右側は負荷に接続される。電源としては、例えば燃料電池等が挙げられる。燃料電池は単セルを1つのみ有するものであってもよく、単セルを複数個積層した燃料電池スタックであってもよい。負荷としては、例えばインバータを介したモータ等が挙げられる。
昇圧コンバータ20は、内部が互いに並列に接続された6つの昇圧回路を備え、6つの昇圧回路のうち、2つずつが互いに磁気結合されていてもよい。図1では、昇圧回路を6相備える構成を示しているが、相数は特に限定されない。
昇圧回路は、リアクトル21、電流センサ22、スイッチング素子23、ダイオード24、コンデンサ25を備える。各昇圧回路において、スイッチング素子23がONされるとリアクトル21を流れる電流は増加し、スイッチング素子23がOFFされるとリアクトル21を流れる電流は減少し、電流がゼロに到達した場合にはゼロが維持される。電流センサ22は、リアクトル21を流れる電流値を取得する。
制御部30が、スイッチング素子23をON/OFF制御することにより、コンバータ20での昇圧比、及び電源からの出力電流値を制御する。
【0013】
電圧変換装置(コンバータ)は、電源の出力電圧の昇圧及び降圧からなる群より選ばれる少なくとも一つを行う。コンバータは、昇圧コンバータであってもよく、降圧コンバータであってもよく、昇降圧コンバータであってもよい。
電圧変換装置は、リアクトル、スイッチング素子、ダイオード、電流センサ、及び、制御部を備え、必要に応じて、フォトカプラ、及び、コンデンサ等を備えていてもよい。
【0014】
リアクトルは、コイル及びコアを有する。
コアには1つ又は複数のコイルが巻回されていてもよい。
リアクトルが有するコア及びコイルは、従来公知のコンバータに用いられているコア及びコイルを採用してもよい。
【0015】
スイッチング素子としては、IGBT、及び、MOSFET等であってもよい。
ダイオードは、従来公知のコンバータに用いられているダイオードを採用してもよい。
【0016】
電流センサは、リアクトルを流れる電流値(リアクトル電流)を取得することができるものであれば、特に限定されず、従来公知の電流計等を用いることができる。
【0017】
制御部は、電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)等であってもよい。ECUは、CPU(Central Processing Unit)と、メモリと、入出力バッファとを含んで構成される。
【0018】
制御部は、スイッチング素子へのON指令とOFF指令とを周期的に切り替えることにより、スイッチング素子のON・OFF制御を行う。これにより電源からの出力電流値を制御してもよい。
制御部は、スイッチング周期内に、リアクトルに流れる電流値を複数回検出する。
制御部は、リアクトルに流れる電流値を電流センサからの信号により検出してもよい。
本開示において、スイッチングの周期(スイッチング周期)とは、スイッチング素子がオフからオンに切り替わった時点から、再度スイッチング素子がオフからオンに切り替わる時点までの期間を意味する。
制御部がスイッチング周期内で検出するリアクトルの電流値は少なくとも2回以上であればよく、実行ON時間長さの推定方法に応じて適宜設定することができる。
【0019】
[実行ON時間長さの推定]
制御部は、スイッチング周期内で検出したリアクトルの電流値の推移から、推定実行ON時間長さを算出する。
実行ON時間長さの推定方法は、例えば以下の方法等が挙げられる。
(例1):制御部は、スイッチング周期のON時間中にリアクトル電流値を複数点サンプリングして、ON時間中のリアクトル電流値の最小値と最大値の差分Aから実行ON時間長さを推定してもよい。なおこの場合は、スイッチング周期のON時間中にリアクトル電流値を少なくとも2点サンプリングすればよい。
(例2):制御部は、スイッチング周期のON時間中及びOFF時間中にリアクトル電流値を複数点サンプリングして得られるON時間中のリアクトルの複数の電流値を通る直線と、OFF時間中のリアクトルの複数の電流値を通る直線と、の交点から実行ON時間長さを推定してもよい。なおこの場合は、スイッチング周期のON時間中にリアクトル電流値を少なくとも2点サンプリングし、且つ、スイッチング周期のOFF時間中にリアクトル電流値を少なくとも2点サンプリングすればよい。
コンバータが磁気結合コンバータの場合は、各回路で、上記(例1)又は(例2)の方法により実行ON時間長さを推定してもよい。
本開示においては、1つの独立したコイルが巻回されたコアを有するリアクトルを非磁気結合リアクトルと称する。本開示においては、非磁気結合リアクトルを備えるコンバータを非磁気結合コンバータと称する。本開示においては、2以上の独立したコイルが巻回されたコアを有するリアクトルを磁気結合リアクトルと称する。本開示においては、磁気結合リアクトルを備えるコンバータを磁気結合コンバータと称する。
本開示において独立したコイルとは、1つ以上の渦巻部と、2つの端子部を備えるコイルを意味する。
【0020】
制御部は、推定実行ON時間長さと当該制御部が指令した指令ON時間長さとの差分を算出する。
【0021】
[指令ON時間の補正]
制御部は、前記差分を用いて、所定の指令ON時間上限値を超えない範囲で次回以降の任意の回の前記ON指令を行う際の前記指令ON時間長さを補正する。
補正をする指令ON時間長さは、次回以降の任意の回のON指令を行う際の指令ON時間長さであればよい。電力変換精度を向上させる観点から、補正をする指令ON時間長さは、次回のON指令を行う際の指令ON時間長さであってもよい。
所定の指令ON時間上限値は、デューティ比が100%にならない値であれば、特に限定されない。所定の指令ON時間上限値は、例えば、デューティ比が99.9%になる値であってもよい。デューティ比(%)は、以下の式で表されてもよい。
デューティ比(%)={指令ON時間÷(指令ON時間+指令OFF時間)}×100
指令ON時間の補正方法は、例えば指令ON時間と推定実行ON時間の差分に応じた以下の方法等が挙げられる。
指令ON時間よりも推定実行ON時間の方が長い場合は、推定実行OFF時間が指令OFF時間よりも短い状態である。この場合は、デューティ比100%となって短絡することのないように、所定の指令ON時間上限値を超えないように、指令ON時間長さが短くなるように指令ON時間長さを補正してもよい。差分を用いて補正することにより所定の指令ON時間上限値を超える場合には、指令ON時間を補正しなくてもよい。また、差分を用いて補正することにより所定の指令ON時間上限値を超える場合には、所定の指令ON時間上限値に補正してもよい。
指令ON時間よりも推定実行ON時間の方が短い場合は、推定実行OFF時間が指令OFF時間よりも長い状態である。この場合は、実行されるON時間が短いため狙いの電力変換比を確保できない状態である。そのため、狙いの電力変換比を確保できるように所定の指令ON時間上限値を超えないように、指令ON時間長さが長くなるように指令ON時間長さを補正すればよい。
【0022】
図2は、スイッチング素子のON/OFF切り替えの指令と実際のタイミングとリアクトル電流値のタイムチャートを示す図である。
図3は、リアクトル電流値の多点サンプリングから、指令ON時間長さの補正までの流れを示すフローチャートである。
スイッチのON/OFF切り替えの信号入力と、実際の切り替え操作との間には、伝達経路に構成されるコンデンサやフォトカプラ等の部品のバラツキにより、各個体で信号遅延量の大小が生まれる。
従来は、上記の部品のバラツキによる信号遅延量の大小を考慮し、最悪の場合でも実行OFF時間が0にならないように、指令ON時間の上限値、すなわちデューティ比の上限値が決められている。
本実施形態では、スイッチング周期の間でリアクトル電流値を複数点サンプリングし、その値を元に実際の実行ON時間長さを推定し、指令ON時間と実行ON時間の差分Aを導出し、差分Aを用いて指令ON時間長さを補正する。
【符号の説明】
【0023】
20:昇圧コンバータ
21:リアクトル
22:電流センサ
23:スイッチング素子
24:ダイオード
25:コンデンサ
30:制御部
図1
図2
図3