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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】燃料電池セル、及び、燃料電池スタック
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0273 20160101AFI20241029BHJP
   H01M 8/028 20160101ALI20241029BHJP
   H01M 8/0206 20160101ALI20241029BHJP
   H01M 8/0232 20160101ALI20241029BHJP
   H01M 8/0637 20160101ALI20241029BHJP
   H01M 8/2432 20160101ALI20241029BHJP
   H01M 8/2465 20160101ALI20241029BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20241029BHJP
   H01M 8/1213 20160101ALN20241029BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20241029BHJP
【FI】
H01M8/0273
H01M8/028
H01M8/0206
H01M8/0232
H01M8/0637
H01M8/2432
H01M8/2465
H01M4/86 U
H01M8/1213
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021023712
(22)【出願日】2021-02-17
(65)【公開番号】P2022125885
(43)【公開日】2022-08-29
【審査請求日】2023-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】末廣 眞人
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-043550(JP,A)
【文献】特開2009-187887(JP,A)
【文献】特開2010-073631(JP,A)
【文献】特開2004-303508(JP,A)
【文献】特開2013-218876(JP,A)
【文献】特開平09-259910(JP,A)
【文献】特開2011-009225(JP,A)
【文献】特開2013-257973(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
H01M 8/24
H01M 8/12
H01M 4/86
H01M 8/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード極層と、カソード極層と、前記アノード極層と前記カソード極層とに挟持される固体電解質層と、を積層して構成される燃料電池セルであって、
面方向に連通する複数の空孔を有する金属多孔体によって平板状に形成され、前記固体電解質層とともに前記アノード極層を挟持し、複数の前記空孔によって前記アノード極層にアノードガスを供給する第1金属多孔体層と、
前記第1金属多孔体層の外周部において電気的に接続することによって、前記第1金属多孔体層を介して前記アノード極層と電気的に接続し、かつ、前記第1金属多孔体層を支持する第1金属フレームと、
前記金属多孔体によって平板状に形成され、前記固体電解質層とともに前記カソード極層を挟持し、複数の前記空孔によって前記カソード極層にカソードガスを供給する第2金属多孔体層と、
前記第2金属多孔体層の外周部において前記第2金属多孔体層と電気的に接続することによって、前記第2金属多孔体層を介して前記カソード極層と電気的に接続し、かつ、前記第2金属多孔体層を支持する第2金属フレームと、
を備える燃料電池セル。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池セルであって、
前記第1金属多孔体層は、前記アノード極層を一様に覆うように形成され、
前記第2金属多孔体層は、前記カソード極層を一様に覆うように形成されている、
燃料電池セル。
【請求項3】
請求項1または2に記載の燃料電池セルであって、
前記第1金属多孔体層及び前記第2金属多孔体層は、前記面方向に一様な電気伝導性を有する、
燃料電池セル。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の燃料電池セルであって、
前記第1金属多孔体層及び前記第2金属多孔体層は、金属粒子の焼結体である、
燃料電池セル。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の燃料電池セルを用いて形成される燃料電池スタックであって、
前記第1金属多孔体層が露呈する前記燃料電池セルの表面をアノード面とし、前記第2金属多孔体層が露呈する前記燃料電池セルの表面をカソード面とするときに、
前記アノード面同士を対向させ、かつ、前記カソード面同士を対向させるように、表裏を反転させながら複数の前記燃料電池セルが所定間隔で交互に積み重ねられたセル配列と、
前記セル配列において隣接する前記燃料電池セル間で前記アノード面が対向する空間に形成され、前記アノードガスが流通するアノードガス流路と、
前記セル配列において隣接する前記燃料電池セル間で前記カソード面が対向する空間に形成され、前記カソードガスが流通するカソードガス流路と、
前記セル配列において隣接する前記燃料電池セルを電気的に接続するバスバーと、
を備える燃料電池スタック。
【請求項6】
請求項5に記載の燃料電池スタックであって、
前記バスバーは、前記セル配列において隣接する前記燃料電池セル間で、前記第1金属多孔体層と前記第2金属多孔体層とを電気的に接続することにより、前記燃料電池セルを直列に接続する燃料電池スタック。
【請求項7】
請求項5に記載の燃料電池スタックであって、
前記バスバーは、前記セル配列において隣接する前記燃料電池セル間で、前記第1金属多孔体層同士及び前記第2金属多孔体層同士をそれぞれ接続することにより、前記燃料電池セルを並列に接続する燃料電池スタック。
【請求項8】
請求項5~7のいずれか1項に記載の燃料電池スタックであって、
前記カソード面の間隔である前記カソードガス流路の高さが、前記アノード面の間隔である前記アノードガス流路の高さよりも大きい、
燃料電池スタック。
【請求項9】
請求項5~8のいずれか1項に記載の燃料電池スタックであって、
平行に、または、対向して流れる前記アノードガス及び前記カソードガスの流れ方向を第1方向、前記第1方向に垂直な方向を第2方向とするときに、発電が行われるアクティブエリアは、前記第2方向と比較して前記第1方向に長い、
燃料電池スタック。
【請求項10】
請求項9に記載の燃料電池スタックであって、
前記バスバーは、前記セル配列に対して前記第1方向に平行に取り付けられ、
前記バスバーの前記第1方向に沿った長さが、前記アクティブエリアの前記第1方向に沿った長さ以上である、
燃料電池スタック。
【請求項11】
請求項9に記載の燃料電池スタックであって、
前記アノードガス及び前記カソードガスが平行に流通するときに、
前記バスバーは、前記セル配列に対して前記第1方向に平行に取り付けられ、
前記バスバーの前記第1方向に沿った長さが、前記アクティブエリアの前記第1方向に沿った長さよりも短く、
前記バスバーは、前記アクティブエリアに対して、前記アノードガス及び前記カソードガスの上流側に偏在して設けられている、
燃料電池スタック。
【請求項12】
請求項11に記載の燃料電池スタックであって、
前記第1金属多孔体層は、前記バスバーがあることによって前記アクティブエリアに形成される電流集中エリアの範囲の一部または全部に、燃料を改質する改質触媒を備える、
燃料電池スタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物型燃料電池を構成する燃料電池セル及び燃料電池スタックに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、平板状に形成された電極反応体の両面に、格子状に開口が形成された集電体を接合したセルで構成した燃料電池スタックが記載されている。また、特許文献1の燃料電池スタックにおいては、各セルにおいて点対称に位置する外部引出し端子が集電体によって接続されることにより、隣接するセルが電気的に接続されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平06-060905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料電池セルの電極触媒層は、一般に、数十ミクロン程度の薄膜で形成されているので、面方向に電流が流れるときにはオーム損が大きい。そして、集電体として格子状に開口が形成された集電体を用いる場合、集電体と接続する格子部分においては集電体を電流が流れる。しかし、開口部分においては、電流は、電極触媒層内を面方向に沿って流れる。したがって、格子状に開口を形成した集電体を用いると、オーム損が大きい。その結果、燃料電池スタックの発電電力(エネルギー)が損失するという問題がある。
【0005】
本発明は、オーム損を低減した固体酸化物型の燃料電池セル及び燃料電池スタックを提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様に係る燃料電池セルは、アノード極層と、カソード極層と、アノード極層とカソード極層とに挟持される固体電解質層と、を積層して構成される燃料電池セルである。この燃料電池セルは、さらに、第1金属多孔体層と、第1金属フレームと、第2金属多孔体層と、第2金属フレームと、を備える。第1金属多孔体層は、面方向に連通する複数の空孔を有する金属多孔体によって平板状に形成され、固体電解質層とともにアノード極層を挟持し、複数の空孔によってアノード極層にアノードガスを供給する。第1金属フレームは、第1金属多孔体層の外周部において電気的に接続することによって、第1金属多孔体層を介してアノード極層と電気的に接続し、かつ、第1金属多孔体層を支持する。第2金属多孔体層は、金属多孔体によって平板状に形成され、固体電解質層とともにカソード極層を挟持し、複数の空孔によってカソード極層にカソードガスを供給する。第2金属フレームは、第2金属多孔体層の外周部において第2金属多孔体層と電気的に接続することによって、第2金属多孔体層を介してカソード極層と電気的に接続し、かつ、第2金属多孔体層を支持する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、オーム損を低減した固体酸化物型の燃料電池セル及び燃料電池スタックを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、セルスタックの外観斜視図である。
図2図2は、セルスタックの分解斜視図である。
図3図3は、セルの分解斜視図である。
図4図4は、セルの断面図である。
図5図5は、スタックの部分断面図である。
図6図6は、アノードガスの流れを示す説明図である。
図7図7は、カソードガスの流れを示す説明図である。
図8図8は、金属多孔体層を介したアノードガス及びカソードガスの供給態様を示す説明図である。
図9図9は、セル及びセルスタックにおいて電流が流れる経路を示す説明図である。
図10図10は、第1比較例のセルの断面図である。
図11図11は、第1比較例のセルを流れる電流の経路を示す説明図である。
図12図12は、格子集電体の位置ずれによる不具合を示す説明図である。
図13図13は、第2比較例に係るセルスタック及びセルの模式的な断面図である。
図14図14は、アクティブエリアの形状、バスバーの設置範囲、及び、電流の経路を示す説明図である。
図15図15は、バスバーの設置範囲と電流の経路を示す説明図である。
図16図16は、アクティブエリアの温度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0010】
[セルスタックの構造]
図1は、セルスタック100の外観斜視図である。セルスタック100は、固体酸化物型燃料電池(SOFC)に用いられる燃料電池セルスタック(固体酸化物型燃料電池セルスタック)である。セルスタック100は、複数の固体酸化物型燃料電池セル(燃料電池セル)を積み重ねるように配列し、各々の固体酸化物型燃料電池セルを電気的に接続することによって形成される。燃料電池システムは、1または複数のセルスタック100を用いて構成される。以下、セルスタック100を構成する各個の固体酸化物型燃料電池セルを、燃料電池セル、または、さらに簡単にセル10という。セル10は、一般に、単セルと称される場合がある。
【0011】
図1に示すように、セルスタック100は全体として概ね平板状である。このため、セルスタック100を構成するセル10も平板状である。また、セルスタック100は概ね直方体状であり、セル10の積み重ね方向(以下、スタック方向という)に垂直な表面は概ね長方形状に形成される。
【0012】
以下、セルスタック100及びセル10等に関して、セル10のスタック方向に垂直な表面を、表裏の区別なく単に表面という。表面の短手方向をX方向とし、長手方向をY方向とし、セル10のスタック方向をZ方向とする。そして、セルスタック100及びセル10等において、Z方向に平行な面を側面という。また、セルスタック100及びセル等に関して、X方向、Y方向、及び、Z方向を、それぞれ横方向、縦方向、及び、高さ方向(または厚さ方向)という場合がある。XYZ各方向は右手系を構成するように正方向を定める。
【0013】
また、XYZ各方向の負側の端を「基端」といい、正側の端を「先端」という。セルスタック100及びセル10等の方向に関して、「上」とはZ方向正側をいい、「下」とはZ方向負側をいう。また、セルスタック100及びセル10等の長さに関して、X方向の長さを「長さ」といい、Y方向の長さを「幅」という。本実施形態においては、アノードガス及びカソードガスがセルスタック100内を流れる方向がY方向正側である。そして、Z方向は、セルスタック100の厚み方向である。なお、以下、図4等において示す本実施形態の断面図は、図1においてA-Aで示す位置における断面である。
【0014】
セルスタック100は、インレット11、アウトレット12、アクティブエリア13、及び、バスバー14,15を備える。
【0015】
インレット11は、アノードガス及びカソードガスを、セルスタック100に供給するためのガス供給孔である。本実施形態においては、インレット11は、セルスタック100のX方向基端側に設けられている。アノードガスは、燃料または改質された燃料(改質燃料)であり、例えば、水素やメタン等の炭化水素系燃料である。カソードガスはいわゆる酸化剤であり、例えば、空気である。本実施形態では、インレット11は、ガス供給孔として、アノードガスを供給するためのアノードガス供給孔16bと、カソードガスを供給するためのカソードガス供給孔16a,16cと、を備える。本実施形態のインレット11は、カソードガス供給孔16a、アノードガス供給孔16b、及び、カソードガス供給孔16cがこの順に一列に配列されている。但し、アノードガス供給孔及びカソードガス供給孔の個数及び配列は任意である。
【0016】
アウトレット12は、アノードオフガス及びカソードオフガスを排出するためのガス排出孔である。本実施形態においては、アウトレット12は、セルスタック100のX方向先端側に設けられている。アノードオフガス及びカソードオフガスは、セルスタック100から排出されるアノードガス等及びカソードガス等である。本実施形態では、アウトレット12は、ガス排出孔として、アノードオフガスを排出するためのアノードオフガス排出孔17bと、カソードオフガスを排出するためのカソードオフガス排出孔17a,17cと、を備える。カソードオフガス排出孔17a、アノードオフガス排出孔17b、及び、カソードオフガス排出孔17cがこの順に一列に配列されている。但し、アノードオフガス排出孔及びカソードオフガス排出孔の個数及び配列は任意である。
【0017】
以下では、インレット11を構成するガス供給孔とアウトレット12を構成するガス排出孔をまとめてガス流通孔という。また、説明においてアノードガスとカソードガスの区別が不要なときには、アノードガス、アノードオフガス、カソードガス、及び、カソードオフガスをまとめて単にガスという。
【0018】
アクティブエリア13は、アノードガス及びカソードガスを使用して実際に発電が行われる領域である。アクティブエリア13は、インレット11とアウトレット12の間に、すなわちセルスタック100の中央部分に形成される。
【0019】
バスバー14,15は、セルスタック100を構成するセル10を電気的に接続することにより、セル10で発電された電力を集電する集電体である。バスバー14,15は、例えば金属製であり、少なくとも発電によって生じた電力を実質的に損失しない程度の電気伝導性を有する。バスバー14は、セルスタック100の長手方向に沿って、X方向正側の側面に取り付けられる。バスバー15は、セルスタック100の長手方向に沿って、X方向負側の側面に取り付けられる。本実施形態においては、バスバー14,15は、スタックされたセル10を直列に接続する。
【0020】
図2は、セルスタック100の分解斜視図である。図2に示すように、セルスタック100は、複数のセル10と、ガスケットアセンブリ18a,18bと、を交互に積み重ねたスタック構造を有する。
【0021】
各々のセル10は、インレット11及びアウトレット12に対応する位置に、それぞれ開口を有する。すなわち、各々のセル10は、インレット11に対応して、アノードガス供給孔16b及びカソードガス供給孔16a,16cをそれぞれ形成する複数の開口を有する。同様に、各々のセル10は、アウトレット12に対応して、アノードオフガス排出孔17b及びカソードオフガス排出孔17a,17cをそれぞれ形成する複数の開口を有する。
【0022】
各セル10の構造はいずれも同じであり、各セル10は、アクティブエリア13に、電極触媒層32が露呈する。電極触媒層32は、アノード電極、固体電解質、及び、カソード電極等が積層された積層体であり、その表面には、アノードとして機能する表面と、カソードとして機能する表面の区別がある。このため、セル10にも表裏の区別がある。以下、セル10の表面のうち、アノードとして機能する側の表面をアノード面22といい、カソードとして機能する側の表面をカソード面23という。セルスタック100は、アノード面22同士を対向させ、かつ、カソード面23同士を対向させるように、表裏を反転させながら複数のセル10が交互に積み重ねられたセル配列を有する。セル10の構造及び電極触媒層32の層構造等については、詳細を後述する。
【0023】
また、上記のセル配列において、隣接する2つのセル10は所定間隔で離間されている。セル10間の離間間隔は、セル10間に配置されるガスケットアセンブリ18a,18bの厚みによって調整される。
【0024】
ガスケットアセンブリ18aは、絶縁体で形成され、上記のセル配列において、隣接するセル10のアノード面22同士が対向する箇所に配置される。すなわち、ガスケットアセンブリ18aは、アノード用である。ガスケットアセンブリ18aは、外縁封止材26、ガス流通孔封止材27、及び、通気支持材28(通ガス支持材)を含む。
【0025】
外縁封止材26は、セルスタック100が形成されたときに、隣接するセル10に当接することにより、それらのセル10間の空間(以下、セル間空間という)を封止する。したがって、外縁封止材26は、セル間空間を外界(セルスタック100の外部)から隔離する。
【0026】
ガス流通孔封止材27は、インレット11及びアウトレット12を形成するガス流通孔の一部を、その外周において封止する。より具体的には、ガス流通孔封止材27は、例えばその中央部分にガス流通孔を形成する開口を有する。このため、ガス流通孔封止材27は、スタック方向へのガスの流通を妨げない。一方、ガス流通孔封止材27は、セルスタック100が形成されたときに、上下のセル10に挟持されることで、セル間空間内外へのガスの流通を遮る。
【0027】
アノード用のガスケットアセンブリ18aにおいては、ガス流通孔封止材27は、カソードガス供給孔16a,16c及びカソードオフガス排出孔17a,17cの外周をそれぞれ封止する。すなわち、ガスケットアセンブリ18aのガス流通孔封止材27は、スタック方向へのカソードガス及びカソードオフガスの流通を許容しつつ、セル間空間内外へのカソードガスの流通を遮る。
【0028】
通気支持材28は、セルスタック100が形成されたときに、一部のガス流通孔の外周部分において上下のセル10を支持する。通気支持材28は、ガス流通孔封止材27と同様に、例えばその中央部分にガス流通孔を形成する開口を有する。このため、通気支持材28は、スタック方向へのガスの流通を妨げない。一方、通気支持材28は、ガス流通孔封止材27と異なり、例えばこの開口を中心として放射状に、複数の通気溝(通ガス溝)を有する。このため、通気支持材28はガスの流通も妨げない。したがって、通気支持材28は、通気(通ガス)可能に、上下のセル10を支持する。
【0029】
アノード用のガスケットアセンブリ18aにおいては、通気支持材28は、アノードガス供給孔16b及びアノードオフガス排出孔17bの外周において、上下のセル10を支持する。このため、セル間空間内外へのアノードガス及びアノードオフガスの流通は許容される。
【0030】
ガスケットアセンブリ18bは、前述のセル配列において、隣接するセル10のカソード面23同士が対向する箇所に配置される。すなわち、ガスケットアセンブリ18bは、カソード用である。
【0031】
カソード用のガスケットアセンブリ18bは、アノード用のガスケットアセンブリ18aと同様に、絶縁体で形成され、外縁封止材26、ガス流通孔封止材27、及び、通気支持材28を含む。但し、ガスケットアセンブリ18bでは、ガス流通孔封止材27は、アノードガス供給孔16b及びアノードオフガス排出孔17bの外周をそれぞれ封止する。また、カソード用のガスケットアセンブリ18bでは、通気支持材28は、カソードガス供給孔16a,16c及びカソードオフガス排出孔17a,17cの外周において上下のセル10を支持する。したがって、ガスケットアセンブリ18bは、セル間空間内外へのアノードガスの流通を遮り、カソードガスの流通を許容する。
【0032】
[セル及び電極触媒層の構造]
図3は、セル10の分解斜視図である。図3に示すように、セル10は、第1金属フレーム31、電極触媒層32、シールセル33、及び、第2金属フレーム34を備える。
【0033】
第1金属フレーム31は、電極触媒層32を、その外周部48(図4参照)において支持する金属製の支持体である。また、第1金属フレーム31は、電極触媒層32の外周部48(図4参照)において電極触媒層32と電気的に接続する。具体的には、第1金属フレーム31は、電極触媒層32のアノード極層41側において、電極触媒層32と電気的に接続しつつ、これを支持する。このため、第1金属フレーム31は、第1金属多孔体層45に接続される。これにより、第1金属フレーム31は、第1金属多孔体層45を介してアノード極層41と電気的に接続し、かつ、第1金属多孔体層45を支持する。その結果、第1金属フレーム31は、セル10においてアノード極となる集電体を構成する。
【0034】
また、第1金属フレーム31は、中央部に設けられた開口によって電極触媒層32を露呈する。すなわち、セル10の表面のうち、第1金属フレーム31が設けられた表面は、アノード面22であり、第1金属多孔体層45が露呈される。電極触媒層32のうち、少なくとも第1金属フレーム31から露呈される部分は、アクティブエリア13を形成する。この他、第1金属フレーム31は、ガス流通孔を形成する開口と、バスバー14,15と接続する接続部を有する。
【0035】
電極触媒層32は、アノードガスとカソードガスを隔離しつつ、所定イオンの導通を許容することにより、アノードガスとカソードガスの反応を補助する。電極触媒層32は、アノードガスとカソードガスを反応させるための基本構成として、少なくとも、アノード極層41、固体電解質層43(図4参照)、及び、カソード極層42(図4参照)を、この順に積層した積層体(以下、基本積層体44という(図4参照))を含む。
【0036】
シールセル33は、セル10を形成したときに、電極触媒層32の側面を封止する封止部材である。また、シールセル33は絶縁体で形成され、セル10を形成したときに、第1金属フレーム31と第2金属フレーム34に挟持される。このため、シールセル33は、第1金属フレーム31と第2金属フレーム34の絶縁支持体としても機能する。したがって、シールセル33には、電極触媒層32の表面を全て露呈する開口を備える。また、シールセル33は、ガス流通孔を形成する開口を備える。
【0037】
第2金属フレーム34は、電極触媒層32を支持する金属製の支持体である。また、第2金属フレーム34は、電極触媒層32の外周部49において電極触媒層32と電気的に接続する。具体的には、第2金属フレーム34は、電極触媒層32のカソード極層42側において、電極触媒層32と接続し、これを支持する。このため、第2金属フレーム34は、第2金属多孔体層46に接続される。これにより、第2金属フレーム34は、第2金属多孔体層46を介してカソード極層42と電気的に接続し、かつ、第2金属多孔体層46を支持する。その結果、第2金属フレーム34は、セル10においてカソード極となる集電体を構成する。
【0038】
また、第2金属フレーム34は、中央部に設けられた開口によって電極触媒層32を露呈する。すなわち、セル10の表面のうち、第2金属フレーム34が設けれられた表面は、カソード面23であり、第2金属多孔体層46が露呈される。電極触媒層32のうち、少なくとも第2金属フレーム34から露呈される部分は、アクティブエリア13を形成する。この他、第2金属フレーム34は、ガス流通孔を形成する開口と、バスバー14,15と接続する接続部を有する。
【0039】
図4は、セル10の断面図である。図4に示すように、電極触媒層32は、アノード極層41と、カソード極層42と、アノード極層41及びカソード極層42に挟持される固体電解質層43と、からなる基本積層体44を含む。
【0040】
アノード極層41は、いわゆる燃料極として機能する平板状の薄膜である。アノード極層41は、例えば、セラミック、または、セラミックと金属とからなるサーメット等によって形成される。アノード極層41は、燃料極として機能し得る程度に、アノードガスを透過し得るガス透過性、電気伝導性、及び、イオン電導性を有する。また、アノード極層41は、アノードガスと、固体電解質層43を伝動した酸化物イオン(例えば酸素イオン)と、の反応を促進する触媒として機能する。
【0041】
カソード極層42は、いわゆる酸化剤極(空気極)として機能する平板状の薄膜である。カソード極層42は、例えば、金属酸化物によって形成される。カソード極層42は、酸化剤極として機能し得る程度に、カソードガスを透過し得るガス透過性、電気伝導性、及び、イオン電導性を有する。また、カソード極層42は、カソードガスが含む酸化剤(例えば酸素)のイオン化を促進する触媒として機能する。
【0042】
固体電解質層43は、イオン伝導性を有する固体電解質の平板状の薄膜であり、酸化剤イオンを伝導する。固体電解質層43は、例えば、固体酸化物セラミックによって形成される。セラミックとは、無機物の焼結体をいい、非金属酸化物だけでなく、金属酸化物を含む。
【0043】
そして、本実施形態の電極触媒層32は、上記の基本積層体44に加えて、第1金属多孔体層45と、第2金属多孔体層46と、をさらに備える。
【0044】
第1金属多孔体層45は、少なくともアクティブエリア13において、アノード極層41を一様に覆うように形成された平板状の金属薄膜であり、基本積層体44をアノード極層41側から支持する。したがって、電極触媒層32の層構造においては、第1金属多孔体層45は固体電解質層43とともにアノード極層41を挟持する。また、第1金属多孔体層45は、基本積層体44を支持し得る程度に、アノード極層41よりも厚く形成される。例えば、第1金属多孔体層45は、アノード極層41よりも1桁程度厚く形成される。
【0045】
第1金属多孔体層45は、金属多孔体によって形成される。金属多孔体とは、金属製の多孔体である。第1金属多孔体層45は、例えば、ニッケルやクロム等を含有するステンレス鋼(SUS)によって形成される。また、多孔体とは、図示しない無数の微小な空孔を実質的にランダムに内包し、それらの空孔が実質的にランダムに連通している部材をいう。したがって、第1金属多孔体層45が含む複数の空孔は、面方向(XY面内方向)に連通する。また、第1金属多孔体層45が含む複数の空孔は表面間に連通しており、面内における空孔の分布は実質的に一様である。
【0046】
このため、第1金属多孔体層45は、面方向(XY面内方向)及び厚さ方向(Z方向)に一様な電気伝導性を有する良導体であり、全体として実質的に連続的な金属板として振る舞う。その上で、第1金属多孔体層45は、複数の空孔によって、一方の露呈した表面(Z方向負側の表面)からアノード極層41に接合する他方の表面(Z方向正側の表面)に、実質的に一様にアノードガスを透過する。したがって、一方の露呈した表面にアノードガスが供給されたときには、第1金属多孔体層45は、複数の空孔によってアノード極層41にアノードガスを供給する。
【0047】
第2金属多孔体層46は、少なくともアクティブエリア13において、カソード極層42を一様に覆うように形成された平板状の金属薄膜であり、基本積層体44をカソード極層42側から支持する。したがって、電極触媒層32の層構造においては、第2金属多孔体層46は、固体電解質層43とともにカソード極層42を挟持する。また、第1金属多孔体層45は、基本積層体44を支持し得る程度に、カソード極層42よりも厚く形成される。例えば、第2金属多孔体層46は、カソード極層42よりも1桁程度厚く形成される。
【0048】
第2金属多孔体層46は、第1金属多孔体層45と同様に、金属多孔体によって形成される。したがって、第2金属多孔体層46は、面方向(XY面内方向)及び厚さ方向(Z方向)に一様な電気伝導性を有する良導体であり、全体として実質的に連続的な金属板として振る舞う。また、第2金属多孔体層46が含む複数の空孔は、面方向(XY面内方向)に連通している。そして、第2金属多孔体層46が含む複数の空孔は表面間に連通しており、面内における空孔の分布は実質的に一様である。このため、第2金属多孔体層46は、複数の空孔によって、一方の露呈した表面(Z方向正側の表面)からカソード極層42に接合する他方の表面(Z方向負側の表面)に、実質的に一様にカソードガスを透過する。したがって、一方の露呈した表面にカソードガスが供給されたときには、第2金属多孔体層46は、複数の空孔によってカソード極層42にカソードガスを供給する。
【0049】
上記のように、電極触媒層32は、第1金属多孔体層45及び第2金属多孔体層46によって基本積層体44を両面から支持する構造を有する。また、電極触媒層32は、第1金属多孔体層45及び第2金属多孔体層46によって、第1金属フレーム31及び第2金属フレーム34に接合する。具体的には、第1金属多孔体層45は、その外周部48の一部または全部において第1金属フレーム31と電気的に接続する。本実施形態においては、接続部分における電気抵抗(オーム損)をより良く低減するために、第1金属多孔体層45と第1金属フレーム31は、外周部48のほぼ全部において、溶接等の金属接合の方法によって接合される。同様に、第2金属多孔体層46は、その外周部49の一部または全部において第2金属フレーム34と電気的に接続する。本実施形態においては、接続部分における電気抵抗(オーム損)をより良く低減するために、第2金属多孔体層46と第2金属フレーム34は、外周部49のほぼ全部において溶接等の金属接合の方法によって接合される。
【0050】
上記のように、セル10は、いわゆるメタルサポートセルである。従来の典型的なメタルサポートセルは、アノード極層41側またはカソード極層42側のいずれか一方だけを金属製の支持体によって支持する。一方、本実施形態におけるセル10は、アノード側及びカソード側の両方が金属製の支持体によって支持されている。したがって、従来の典型的なメタルサポートセルが片側メタルサポートセルであるのに対して、本実施形態のセル10は、いわば両側メタルサポートセルである。
【0051】
なお、第1金属多孔体層45及び第2金属多孔体層46を形成する具体的な方法は任意である。したがって、第1金属多孔体層45及び第2金属多孔体層46は、金属繊維からなるフェルトや不織布、または、金属粒子の焼結体等によって形成することができる。但し、第1金属多孔体層45及び第2金属多孔体層46は、金属粒子の焼結体であることが好ましい。他の方法による場合と比較して、金属粒子の焼結体は電気伝導性や剛性(強度)が優れる。このため、第1金属多孔体層45及び第2金属多孔体層46は、金属粒子の処決体であることが好ましい。
【0052】
本実施形態では、第1金属多孔体層45及び第2金属多孔体層46は、共焼成によって、基本積層体44と一体の焼結体として形成される。具体的には、まず、電極触媒層32の各層を形成するためのスラリーとして、第1金属多孔体スラリー、アノードスラリー、電解質スラリー、カソードスラリー、及び、第2金属多孔体スラリーが調製される。次に、各スラリーはシート状に成形され、電極触媒層32における積層順に合わせて積層して貼り合わせられ、成形スラリー積層体が形成される。その後、この成形スラリー積層体が脱脂及び共焼成されることにより、電極触媒層32が形成される。
【0053】
[セルスタックの詳細な構造]
図5は、セルスタック100の部分断面図である。図5に示すように、アノード面22同士を対向させ、かつ、カソード面23同士を対向させるセル配列と、ガスケットアセンブリ18a,18bの内部構造によって、アノード面22同士が対向するセル間空間は、アノードガスが流通するアノードガス流路FPaとなる。同様に、カソード面23同士が対向するセル間空間は、カソードガスが流通するカソードガス流路FPcとなる。
【0054】
アノードガス流路FPaは、隣接した2つのセル10に対してアノードガスを供給する。すなわち、セルスタック100においては、アノードガス流路FPaは2つのセル10に供用される。アノードガス流路FPaの高さH1は、ガスケットアセンブリ18aの厚さによって任意に調節可能である。このため、アノードガス流路FPaの断面積は任意に調節可能である。
【0055】
カソードガス流路FPcは、隣接した2つのセル10に対してカソードガスを供給する。すなわち、セルスタック100においては、カソードガス流路FPcは2つのセル10に供用される。カソードガス流路FPcの高さH2は、ガスケットアセンブリ18bの厚さによって任意に調節可能である。このため、カソードガス流路FPcの断面積も任意に調節可能である。
【0056】
なお、セルスタック100が発電をするときには、例えば、通常、カソードガスの流量は、アノードガスの流量よりも大きい。このため、本実施形態においては、アノードガス及びカソードガスの各流量等に応じて、アノードガス流路FPaにおけるアノードガスの圧力損失と、カソードガス流路FPcにおけるカソードガスの圧力損失と、がそれぞれ個別に調節される。具体的には、カソードガス流路FPcの高さH2は、アノードガス流路FPaの高さH1よりも高く設定される。すなわち、ガスケットアセンブリ18bはガスケットアセンブリ18aよりも厚く形成されており、その結果、H2>H1となっている。これにより、セルスタック100では、カソードガス流路FPcの断面積は、アノードガス流路FPaの断面積よりも大きくなっている。このように、アノードガス流路FPa及びカソードガス流路FPcにおける圧力損失が各々に低減されると、図示しないブロアやポンプ等、アノードガス及びカソードガスをセルスタック100に供給する機器が省電力化される。また、アノードガス及びカソードガスの圧力損失が適切に調整されたときには、アクティブエリア13における発電反応等がほぼ均一に生じる。このため、アノードガス及びカソードガスの圧力損失が低減されることによって、アクティブエリア13に温度分布が生じ難くなる。
【0057】
バスバー14,15は、溶接等の金属接合によって、各セル10の第1金属フレーム31及び第2金属フレーム34と接合される。これにより、バスバー14,15は、隣接するセル10を電気的に接続する。
【0058】
本実施形態においては、バスバー14は、あるセル10(図5中段のセル10)のアノード極である第1金属フレーム31と、このセル10に隣接する図5上段のセル10に、カソード極である第2金属フレーム34において接続する。そして、バスバー15は、バスバー14が第1金属フレーム31に接続する図5中段のセル10と、そのカソード極である第2金属フレーム34において接続する。さらに、バスバー15は、バスバー14が第2金属フレーム34に接続する図5下段のセル10と、アノード極である第1金属フレーム31において接続する。すなわち、バスバー14は隣接する2つのセル10を直列に接続し、バスバー15は、バスバー14によって直列に接続されたセル10の組をさらに直列に接続する。逆に、バスバー15が隣接する2つのセル10を直列に接続しており、バスバー14が、バスバー15によって直列に接続されたセル10の組をさらに直列に接続しているともいえる。
【0059】
[アノードガス及びカソードガスの流れ]
図6は、アノードガスの流れを示す説明図である。図6において太線矢印で示すように、アノードガス供給孔16bを流れるアノードガスは、通気支持材28の通気溝から放射状にアノードガス流路FPaに噴出する。これにより、アノードガスは、アノードガス流路FPaに供給される。そして、アノードガス流路FPa内において、アノードガスは、アノード面22に沿ってほぼ平行かつほぼ一様にX方向正側に向けて流れる。その後、アノードガスは、アノードオフガス排出孔17bに対応して設けられた通気支持材28の通気溝を介して、アノードオフガス排出孔17bに排出される。
【0060】
図7は、カソードガスの流れを示す説明図である。図7において太破線矢印で示すように、カソードガス供給孔16a,16cを流れるカソードガスは、2つの通気支持材28から、各々の通気溝を介して放射状に噴出する。これにより、カソードガスは、カソードガス流路FPcに供給される。そして、カソードガス流路FPc内において、カソードガスは、カソード面23に沿ってほぼ平行かつほぼ一様にX方向正側に向けて流れる。その後、カソードガスは、カソードオフガス排出孔17a,17cにそれぞれ対応して設けられた2つの通気支持材28の通気溝を介して、カソードオフガス排出孔17a及びカソードオフガス排出孔18cに排出される。
【0061】
図8は、金属多孔体層を介したアノードガス及びカソードガスの供給態様を示す説明図である。図8に示すように、アノードガスは、上記のようにアノードガス流路FPaを流通する間に、第1金属多孔体層45と当接する。これにより、アノードガスは、第1金属多孔体層45の空孔を通り、アノード極層41に供給される。第1金属多孔体層45の極微小な空孔は一様に形成されているので、少なくともアクティブエリア13の範囲内においては、アノードガスは、アノード極層41の全面に一様に供給される。すなわち、少なくともアクティブエリア13においては、第1金属多孔体層45の存在によってアノードガスがアノード極層41に到達しない部分はない。このため、アノードガスは、アノード極層41の全面に実質的に一様に到達する。
【0062】
また、カソードガスは、上記のようにカソードガス流路FPcを流通する間に、第2金属多孔体層46と当接する。これにより、カソードガスは、第2金属多孔体層46の空孔を通り、カソード極層42に供給される。第2金属多孔体層46の極微小な空孔は一様に形成されているので、少なくともアクティブエリア13の範囲内においては、カソードガスは、カソード極層42の全面に一様に供給される。すなわち、少なくともアクティブエリア13においては、第2金属多孔体層46の存在によってカソードガスがカソード極層42に到達しない部分はない。このため、カソードガスは、カソード極層42の全面に実質的に一様に到達する。
【0063】
[セル及びセルスタックにおける電流の流れ]
図9は、セル10及びセルスタック100において電流が流れる経路を示す説明図である。図9に太線矢印で示すように、図9下段のあるセル10においては、電流が、バスバー14を介して、カソード極である第2金属フレーム34に流入する。この電流は、第2金属フレーム34に接続された第2金属多孔体層46に沿って、その面方向に流れる。これは、第2金属多孔体層46が良導体であり、カソード極層42よりも電気抵抗が低いからである。
【0064】
また、太破線矢印で示すように、このセル10が発電することによって、第2金属多孔体層46に流入した電流及び発電によって生じる電流は、基本積層体44(カソード極層42、固体電解質層43、及び、アノード極層41)を通って、第1金属多孔体層45に流入する。
【0065】
ここで、基本積層体44が第1金属多孔体層45及び第2金属多孔体層46に比べて薄く、導電性が悪い。このため、基本積層体44の面方向の電気抵抗が第1金属多孔体層45及び第2金属多孔体層46の面方向の電気抵抗が大きい。また、第1金属多孔体層45及び第2金属多孔体層46がそれぞれアノードガス及びカソードガスをアクティブエリア13にほぼ一様に供給するので、アクティブエリア13においては、その全範囲においてほぼ一様に発電が行われる。これらのことから、面方向への電流の伝搬は専ら第1金属多孔体層45及び第2金属多孔体層46によって行われる。したがって、セル10においては、基本積層体44における電流の流れは、電極触媒層32の表面にほぼ垂直な方向となる。
【0066】
第1金属多孔体層45に流入した電流は、第1金属多孔体層45に沿って面方向に伝搬する。その後、バスバー15を伝搬して、図9上段の隣接するセル10の第2金属フレーム34に流入する。
【0067】
隣接するセル10に流入した電流は、太線矢印で示すように、図9下段のセル10と同様にして、第2金属多孔体層46に流入し、その面方向に流れる。そして、この隣接するセル10が発電することによって、流入した電流及び発電により生じた電流は、太破線矢印で示すように、基本積層体44の部分をほぼ垂直に流れ、第1金属多孔体層45に流入する。第1金属多孔体層45に流入した電流は、その面方向に伝搬し、第1金属フレーム31及びバスバー14を伝搬して、次のセル10の第2金属フレーム34に流入する。以降は上記の繰り返しである。
【0068】
[セル及びセルスタックの作用]
以下、第1比較例及び第2比較例の対比により、上記のように構成されるセル10及びセルスタック100の作用を説明する。
【0069】
(1)第1比較例との対比
図10は、第1比較例のセル210の断面図である。第1比較例のセル210は、上記実施形態に係るセル10の第1金属多孔体層45及び第2金属多孔体層46を、格子状の開口を有する格子集電体211に置き換えたものであり、その他の構成は上記実施形態と同様であるとする。また、第1比較例では、このセル210を上記実施形態と同様のセル配列によってセルスタックを構成するものとする。
【0070】
格子集電体211は、金属薄板に複数の開口を設けることにより形成される。このため、アノードガス及びカソードガスは、格子集電体211によって遮られる。すなわち、図10に示すように、アノードガスは、格子集電体211の開口部分においてのみアノード極層41に到達する。同様に、カソードガスは、格子集電体211の開口部分においてのみカソード極層42に到達する。したがって、2つの格子集電体211は、開口の位置を揃えるように位置合わせして配置される。そして、第1比較例のセル210におけるアクティブエリアは、Z方向において、2つの格子集電体211の開口が揃った範囲に限られる。
【0071】
図11は、第1比較例のセル210を流れる電流の経路を示す説明図である。図11に示すように、あるセル210においては、電流は、太線矢印で示すように、第2金属フレーム34を介して、カソード極層42側の格子集電体211に流入し、この格子集電体211に沿って伝搬する。但し、格子集電体211は開口が設けられているので、面方向への電流の伝搬は、格子集電体211だけでなく、カソード極層42を介して行われる。すなわち、格子集電体211を用いると、少なからず、カソード極層42を面方向に流れる電流が生じる。カソード極層42は、極めて薄く形成されるので、面方向の電気抵抗は非常に高い。このため、カソード極層42を面方向に流れる電流には、この高い電気抵抗によって、エネルギー損(いわゆるオーム損)が生じる。
【0072】
また、第1比較例のセル210は、アクティブエリアは開口部分に限られるので、カソード極層42側の格子集電体211に流入した電流及び発電によって生じた電流は、太破線矢印で示すように、格子集電体211の開口部分においてアノード極層41に向けて流れる。このため、アノード極層41に到達した電流は、アノード極層41を面方向に伝搬し、アノード極層41側に設けられた格子集電体211に流入する。そして、アノード極層41は、カソード極層42と同様に極めて薄く形成されるので、面方向の電気抵抗は非常に高い。したがって、アノード極層41に到達した電流には、この高い電気抵抗によって、さらにオーム損が生じる。
【0073】
そして、第1比較例のセル210を用いてセルスタックを構成するときには、各々のセル210において上記のオーム損が生じる。特に、所望の出力電圧を確保するために、直列に接続するセル210の数が多いほど、オーム損が大きくなる。
【0074】
本実施形態に係るセル10と、第1比較例のセル210と、を比較すると、本実施形態に係るセル10は、第1金属多孔体層45及び第2金属多孔体層46を用いているので、第1比較例のセル210で生じるようなオーム損はほぼ発生しない。すなわち、本実施形態に係るセル10によれば、第1比較例のセル210と比較して、オーム損が低減される。セルスタックは複数のセルで構成されるので、この特徴はセルスタックにおいて、より顕著に現れる。すなわち、本実施形態に係るセルスタック100は、セル10を用いて構成されるので、第1比較例のセル210によって構成するセルスタックと比較して、顕著にオーム損が低減される。特に、本実施形態に係るセルスタック100は、セル10を直列に接続するので、第1比較例のセル210を直列に接続するセルスタックと比較して、特に顕著にオーム損が低減される。
【0075】
また、本実施形態に係るセル10は、第1金属多孔体層45及び第2金属多孔体層46が露呈される領域の全部がアクティブエリア13である。このため、本実施形態に係るセル10は、第1比較例のセル210よりも、発電に寄与する電極触媒層32の面積が大きい。その結果、本実施形態に係るセル10は、第1比較例のセル210よりも、面積当たりの発電効率、すなわち発電性能が良い。セルスタック100を構成することにより、この特徴はより顕著になる。
【0076】
図12は、格子集電体211の位置ずれによる不具合を示す説明図である。図12に示すように、第1比較例のセル210において、製造誤差等によって、表裏の格子集電体211に位置ずれがあるとする。第1比較例のセル210においては、アクティブエリアが2つの格子集電体211の開口が揃った範囲に限られる中、このように2つの格子集電体211に位置ずれがあると、実効的なアクティブエリアAEは、格子集電体211の開口よりもさらに狭くなる。
【0077】
これに対し、本実施形態に係るセル10は、実質的に一様な第1金属多孔体層45及び第2金属多孔体層46を用いているので、格子集電体211のような位置ずれは生じない。このため、本実施形態に係るセル10では、露呈された電極触媒層32のほぼ全面がアクティブエリア13となる。このため、本実施形態に係るセル10は、第1比較例のセル210と比較して、極僅かな製造誤差等には依存せずに良好な発電性能が得られる。
【0078】
また、第1比較例のセル210においては、表裏の格子集電体211の位置ずれによって、局所的な応力が発生する。このため、基本積層体44にクラック212が生じる場合がある(図11参照)。クラック212が生じると、その程度によって、セル210の一部または全部が機能しなくなる。クラック212は、格子集電体211を基本積層体44に張り合わせるとき等、製造時に生じる場合があるほか、セル210の使用及び使用終了の繰り返しによる熱伸縮によっても生じ得る。
【0079】
これに対し、本実施形態に係るセル10は、第1金属多孔体層45及び第2金属多孔体層46はそれぞれ一様にアノード極層41及びカソード極層42を覆っている。このため、第1金属多孔体層45及び第2金属多孔体層46は、基本積層体44に対して局所的な応力を発生させない。したがって、本実施形態に係るセル10は、製造時に、及び、繰り返しの使用において、第1金属多孔体層45及び第2金属多孔体層46に起因したクラックが基本積層体44にほぼ生じることがない。このため、本実施形態に係るセル10は、第1比較例のセル210に対して、製造適正に優れる。その上、本実施形態に係るセル10は、熱伸縮に対して耐久性が高く、繰り返しの使用に対して安定である。
【0080】
なお、本実施形態に係るセル10は、基本積層体44を、基本積層体44よりも1桁程度厚い第1金属多孔体層45及び第2金属多孔体層46によって挟持する層構造を有する。そして、電極触媒層32の伸縮するときには、第1金属多孔体層45及び第2金属多孔体層46の伸縮が支配的である。また、第1金属多孔体層45及び第2金属多孔体層46は、基本積層体44に対して対称に配置されており、伸縮や反り等に関する性質は実質的に同質のものである。このため、第1金属多孔体層45及び第2金属多孔体層46を有するセル10は、製造時または繰り返し使用時において、基本積層体44に反り(曲げ)を生じさせるような内部応力が発生し難い。この観点においても、本実施形態に係るセル10は、製造適正に優れ、かつ、繰り返しの使用に対して安定である。
【0081】
(2)第2比較例との対比
図13は、第2比較例に係るセルスタック300及びセル310の模式的な断面図である。第2比較例に係るセルスタック300及びセル310は、従来の典型的な形態のものである。図13に示すように、セル310は、いわゆる片側メタルサポートセルである。すなわち、セル310は、本実施形態に係るセル10から、第1金属多孔体層45及び第1金属フレーム31を除いた構成となっている。このため、セル310では、アノード極層41側において、第1金属多孔体層45ではなく、アノード極層41の表面が露呈される。一方、カソード極層42側においては、本実施形態に係るセル10と同様に、第2金属多孔体層46が露呈される。
【0082】
セルスタック300は、セパレータ311を介して複数のセル310が積み重ねられることによって形成される。また、セルスタック300においては、セル310は、表裏の関係を一定にしてスタックされる。例えば、図13においては、下段のセル310はZ方向負側に第2金属多孔体層46を向け、Z方向正側にアノード極層41を向けて配置される。そして、上段のセル310は、その向きは、下段のセル310と同様に、Z方向負側に第2金属多孔体層46を向け、Z方向正側にアノード極層41を向けて、下段のセル310に積み重ねれられれる。
【0083】
セパレータ311は、Y方向に向けて平行に延伸する複数の溝が設けられている。そして、これら複数の溝によって形成されるセパレータ311の頂部311a,311cは、セルスタック300を形成したときに、隣接するセル310のアノード極層41と第2金属多孔体層46に当接する。これにより、隣接するセル310間に形成されるセル間空間は、セパレータ311によって複数の平行な区間に区切られる。これらの区間のうち、アノード極層41に隣接する区間は、アノードガス流路FPaとして用いられる。一方、第2金属多孔体層46(カソード極層42)に隣接する区間は、カソードガス流路FPcとして用いられる。
【0084】
また、セパレータ311は例えば金属製である。このため、セパレータ311は、頂部311aが第2金属多孔体層46に当接することによって、第2金属多孔体層46を介して、あるセル310(図13上段のセル310)のカソード極層42に電気的に接続する。また、セパレータ311は、頂部311cがアノード極層41と当接することによって、隣接するセル310(図13下段のセル310)のアノード極層41と電気的に接続する。そして、セパレータ311の端部は、セル間空間の外部に延伸して設けられる。このため、セパレータ311は、集電体として機能する。
【0085】
本実施形態に係るセル10と、上記のように構成される第2比較例のセル310と、を比較すると、本実施形態に係るセル10は、アノード極層41側に第1金属多孔体層45が設けられているのに対し、第2比較例のセル310はこれを有しない点が異なる。このため、本実施形態に係るセル10は、アノード極層41側を面方向に伝搬する電流が、電気抵抗が低い第1金属多孔体層45を流れるのに対し、第2比較例のセル310では、セパレータ311に流入する前に電気抵抗が高いアノード極層41を流れる。このため、本実施形態に係るセル10では、第2比較例のセル310と比較しても、オーム損が低減される。
【0086】
また、本実施形態に係るセルスタック100と、第2比較例のセルスタック300と、を比較すると、第2比較例のセルスタック300はセパレータ311を用いているのに対し、本実施形態に係るセルスタック100はセパレータ311を用いない。そして、第2比較例のセルスタック300では、セパレータ311を用いる結果、アノードガス流路FPa及びカソードガス流路FPcが狭窄された複数の流路に分断されている。これに対し、本実施形態に係るセルスタック100では、セル間空間の全部が1つのアノードガス流路FPaまたはカソードガス流路FPcとして機能するので、第2比較例のセルスタック300よりもこれらの流路の断面積が大きい。したがって、本実施形態に係るセルスタック100は、第2比較例のセルスタック300と比較して、アノードガス流路FPaを流通するアノードガスの圧力損失、及び、カソードガス流路FPcを流通するカソードガスの圧力損失が低減されている。その結果、本実施形態に係るセルスタック100によれば、図示しないブロアやポンプ等、アノードガス及びカソードガスをセルスタック100に供給する機器が省電力化される。
【0087】
また、第2比較例のセルスタック300では、各々のアノードガス流路FPa及びカソードガス流路FPcは、それぞれ1つのセル310に対してアノードガス及びカソードガスを供給する。これに対し、本実施形態に係るセルスタック100では、1つのアノードガス流路FPa及びカソードガス流路FPcは、隣接する2つのセル10に、それぞれアノードガス及びカソードガスを供給する。すなわち、本実施形態に係るセルスタック100は、第2比較例のセルスタック300において必要な2つ分の流路を1つの流路にまとめた構成となっている。このため、本実施形態に係るセルスタック100は、第2比較例のセルスタック300と比較して、薄く、小型に形成することができる。また、本実施形態に係るセルスタック100は、第2比較例のセルスタック300と比較して、高集積化できる。
【0088】
特に、本実施形態に係るセルスタック100は、アノードガス流路FPa及びカソードガス流路FPcが細く分断されていない。また、アノードガス及びカソードガスの圧力損失が低減されている。このため、アノードガス流路FPa及びカソードガス流路FPcの高さH1,H2を、第2比較例よりも低く設定することができる。このことも、本実施形態に係るセルスタック100の薄型化、小型化、及び、高集積化に寄与する。
【0089】
[アクティブセルの形状及びバスバーの設置範囲]
上記実施形態に係るセル10及びセルスタック100においては、アクティブエリア13の形状、及び、バスバー14,15の設置範囲は任意である。但し、アクティブエリア13の形状や、バスバー14,15の設置範囲は、以下のように定めることが好ましい。
【0090】
図14は、アクティブエリア13の形状、バスバー14,15の設置範囲、及び、電流の経路を示す説明図である。図14に示すように、アクティブエリア13の幅を「W1」、アクティブエリア13の長さを「L1」とする。このとき、アクティブエリア13の形状を、長さL1と幅W1の比であるアスペクト比L1/W1が1よりも大きい高アスペクト比の形状にすることが好ましい。例えば、アクティブエリア13は、概ね、長さL1が幅W1よりも大きい長方形状であることが特に好ましい。
【0091】
すなわち、アノードガス及びカソードガスの流れ方向(Y方向)を第1方向とし、この第1方向に垂直な方向(X方向)を第2方向とするときに、アクティブエリア13は、第2方向(X方向)と比較して第1方向(Y方向)に長い形状であることが好ましい。
【0092】
このように、アクティブエリア13の形状を高アスペクト比の形状にすると、アノードガス流路FPaにおけるアノードガスの分配性が良く、アノードガス流路FPa内でアノードガスがほぼ均一に流通する。同様に、カソードガス流路FPcにおけるカソードガスの分配性が良く、カソードガス流路FPc内でカソードガスがほぼ均一に流通する。
【0093】
また、バスバー14,15は、セル配列に対して、アノードガス及びカソードガスの流れ方向である第1方向(Y方向)に平行に取り付けられる。そして、バスバー14,15は、第1方向(Y方向)に沿った長さL2が、アクティブエリア13の第1方向(Y方向)に沿った長さL1以上であることが好ましい。
【0094】
このように、バスバー14,15の長さL2をアクティブエリア13の長さL1以上にすると、図14に太線矢印で示すように、発電された電気(電流)は、アクティブエリア13を、一方のバスバー14から他方のバスバー15に向けて、概ね第2方向(X方向)に対して平行に、かつ、第1方向(Y方向)に関して均一に流れる。すなわち、バスバー14からバスバー15に流れる電流の電流密度は、アクティブエリア13の全体においてほぼ均一(一定)である。このため、電流が流れることによって生じる熱はアクティブエリア13に均一に生じるので、アクティブエリア13における局所的あるいは全体的な熱分布の発生が抑制される。したがって、バスバー14,15をアクティブエリア13の長さL1以上にすると、アクティブエリア13の全面を用いて、均一に効率良く発電が行われる。
【0095】
特に、前述のように、アクティブエリア13が高アスペクト比の形状であるときには、アクティブエリア13の幅W1が長さL1に比べて短いので、発電によって生じる電気がアクティブエリア13を伝達する距離が短い。このため、アクティブエリア13におけるオーム損が低減される。その結果、発電によって生じる電気の回収率(利用率)が高い。すなわち、バスバー14,15の長さL2をアクティブエリア13の長さL1以上にすると、セルスタック100の発電性能が向上する。
【0096】
なお、バスバー14,15の長さL2は、アクティブエリア13の長さL1と概ね等しいことが特に好ましい。これは、上記のようにセルスタック100の発電性能を向上しつつ、セル10及びセルスタック100の長さを必要最小限に短く形成できるからである。バスバー14,15の長さL2がアクティブエリア13の長さL1と「概ね等しい」とは、バスバー14,15の長さL2が、上記のようにセルスタック100の発電性能を向上し得る程度の長さを有することをいう。したがって、バスバー14,15の長さL2が、アクティブエリア13の長さL1よりも若干短いことも許容される。
【0097】
図15は、バスバー14,15の設置範囲と電流の経路を示す説明図である。図15に示すように、セルスタック100において、アノードガス及びカソードガスが平行に流通するときには、バスバー14,15の長さL2が、アクティブエリア13の長さL1よりも短くてもよい。この場合、バスバー14,15は、アクティブエリア13に対して、アノードガス及びカソードガスの上流側(Y方向負側)に偏在して設けられていることが好ましい。なお、アノードガス及びカソードガスの流れに関して「平行」とは、アノードガス及びカソードガスの各流路が概ね平行であって、かつ、同じ方向に向けてアノードガス及びカソードガスが流れることをいう。
【0098】
このように、アノードガス及びカソードガスの上流側にバスバー14,15を偏在させると、太線矢印で示すように、アクティブエリア13をバスバー14からバスバー15に向けて流れる電流は、アクティブエリア13の一部に集中する。このように電流が集中する電流集中エリア401では、相対的に電流が過疎である電流過疎エリア402と比較して、発熱(ジュール熱)が大きい。そして、アノードガス及びカソードガスが平行に流通するときには、アクティブエリア13に温度分布が生じる場合があるが、上記のようにバスバー14,15を偏在させることで、その温度分布が是正される。
【0099】
図16は、アクティブエリア13の温度分布を示すグラフである。図16に一点鎖線で示すように、アノードガス及びカソードガスが平行かつ同じ方向に向けて流れるときには、アクティブエリア13には、インレット11からアウトレット12にかけて温度が上昇する温度分布が生じる場合がある。このため、バスバー14,15をアノードガス及びカソードガスの上流に偏在させることによって、アクティブエリア13の上流側に電流集中エリア401を生じさせると、電流集中エリア401の温度が上昇する。その結果、実線で示すように、アクティブエリア13の温度分布が是正される。なお、図16に二点鎖線で示すラインは、発電効率が最も良くなる理想的な温度を示す。
【0100】
したがって、上記のように、アノードガス及びカソードガスが平行に流れるときに、その上流側にバスバー14,15を偏在させると、セル10及びセルスタック100の発電性能が向上する。
【0101】
アクティブエリア13の長さL1に対するバスバー14,15の長さL2は、実験またはシミュレーション等に基づいて、適合により定められる。また、アクティブエリア13よりもバスバー14,15を短くするときには、バスバー14,15は、アクティブエリア13の基端から設置されていることが好ましい。但し、バスバー14,15の設置位置がアクティブエリア13の基端から多少ずれており、アクティブエリア13の基端部分にも電流過疎エリア402が生じた場合でも、上記の発電性能向上効果を奏する。したがって、バスバー14,15は、例えば、先端側の電流過疎エリア402と基端側の電流過疎エリア402(図示しない)を比較したときに、先端側の電流過疎エリア402の方が大きく(長く)なるように設置されていればよい。
【0102】
また、セル10がいわゆる内部改質型であるときには、燃料を改質する改質触媒は、電流集中エリア401の範囲の一部または全部に設けられていることが好ましい。具体的には、各セル10の第1金属多孔体層45が、バスバー14,15があることによってアクティブエリア13に形成される電流集中エリア401の範囲の一部または全部に、改質触媒を備えるように構成する。改質触媒は、例えば塗布または含浸等の方法によって、第1金属多孔体層45に備えることができる。
【0103】
燃料の改質反応は吸熱反応であるから、図16において一点鎖線で示す温度分布が、より顕著になる。このため、上記のように、改質触媒が電流集中エリア401の範囲に設けられていると、改質反応による温度低下を電流の集中による発熱で補い、セル10及びセルスタック100の温度分布を理想的な温度分布に近づけることができる。これにより、セル10を内部改質型とする場合でも、セル10及びセルスタック100の発電性能が向上する。
【0104】
なお、上記実施形態においては、セルスタック100を構成するときに、バスバー14,15によって複数のセル10を直列に接続しているが、発電によって得るべき所望の電流及び電圧に応じて、セルスタック100を構成する複数のセル10の一部または全部が並列に接続されていてもよい。セル10を並列に接続するときには、バスバー14,15によって、隣接するセル10の第1金属フレーム31同士、及び、隣接するセル10の第2金属フレーム34同士がそれぞれ接続される。また、セル10を並列に接続するときには、ガスケットアセンブリ18a,18bの一部または全部を、金属等の導電性材料によって形成することで、バスバー14,15を省略することができる。例えば、ガスケットアセンブリ18a,18bの外縁封止材26を導電性材料で形成することにより、隣接するセル10の第1金属フレーム31同士、及び、第2金属フレーム34同士がそれぞれ電気的に接続される。このように、バスバー14,15を省略すれば、より容易に、かつ、より低コストに、セル10及びセルスタック100を形成することができる。
【0105】
なお、上記実施形態では、セルスタック100において、アノードガス及びカソードガスの流れ方向が平行であるが、アノードガス及びカソードガスを対向して流すことができる。例えば、アノードガスが上記実施形態と同様にアノードガス供給孔16bからアノードオフガス排出孔17bに流れるように、セル10に対してアノードガス供給機器(図示しない)を接続する。一方で、カソードガスは、上記実施形態とは逆に、カソードオフガス排出孔17a,17cからカソードガス供給孔16a,16cが流れるように、セル10に対してカソードガス供給機器(図示しない)を接続する。これにより、セル10内においては、アノードガスとカソードガスが対向して流れる。アノードガス及びカソードガスの流れに関して「対向」とは、アノードガス及びカソードガスの各流路が概ね平行であって、かつ、互いに逆向きにアノードガス及びカソードガスが流れることをいう。ここでいう「対向」は、逆平行と称される場合がある。
【0106】
以上のように、本実施形態に係る燃料電池セル(セル10)は、アノード極層41と、カソード極層42と、アノード極層41とカソード極層42とに挟持される固体電解質層43と、を積層して構成される燃料電池セルである。この燃料電池セル(セル10)は、さらに、第1金属多孔体層45と、第1金属フレーム31と、第2金属多孔体層46と、第2金属フレーム34と、を備える。第1金属多孔体層45は、面方向に連通する複数の空孔を有する金属多孔体によって平板状に形成され、固体電解質層とともにアノード極層を挟持し、複数の空孔によってアノード極層にアノードガスを供給する。第1金属フレーム31は、第1金属多孔体層45の外周部48において電気的に接続することによって、第1金属多孔体層45を介してアノード極層41と電気的に接続し、かつ、第1金属多孔体層45を支持する。第2金属多孔体層46は、金属多孔体によって平板状に形成され、固体電解質層43とともにカソード極層42を挟持し、複数の空孔によってカソード極層42にカソードガスを供給する。第2金属フレーム34は、第2金属多孔体層46の外周部49において第2金属多孔体層46と電気的に接続することによって、第2金属多孔体層46を介してカソード極層42と電気的に接続し、かつ、第2金属多孔体層46を支持する。
【0107】
このように、本実施形態に係る燃料電池セル(セル10)は、良導体であってガス透過性を有する第1金属多孔体層45及び第2金属多孔体層46によって、アノード極層41側とカソード極層42側の両側が支持されている。このため、燃料電池セルが発電することにより、その面方向に電流が流れるときには、電流は、電気抵抗が高いアノード極層41やカソード極層42ではなく、専ら、電気抵抗が低い第1金属多孔体層45及び第2金属多孔体層46を流れる。このため、少なからずアノード極層41やカソード極層42を面方向に電流が流れる従来の燃料電池セルと比較して、本実施形態に係る燃料電池セルはオーム損が低減される。したがって、本実施形態に係る燃料電池セルは、発電によって生じる電気を低損失で取り出すことができる点で発電性能が良い。
【0108】
また、第1金属多孔体層45及び第2金属多孔体層46は、アノード極層41へのアノードガスの供給及びカソード極層42へのカソードガスの供給を妨げない。このため、本実施形態に係る燃料電池セル(セル10)は、アクティブエリア13が広い。したがって、本実施形態に係る燃料電池セルは、発電量が多いという点で発電性能が良い。
【0109】
さらに、第1金属多孔体層45及び第2金属多孔体層46は金属製であり、アノード極層41、固体電解質層43、及び、カソード極層42からなる基本積層体44を挟み込む形態でこれらを支持するので、本実施形態に係る燃料電池セルは強度が高い。このため、本実施形態に係る燃料電池セルは、例えば熱伸縮を伴う繰り返しの使用によってもクラック212等の不具合を生じ難い。
【0110】
本実施形態に係る燃料電池セル(セル10)においては、第1金属多孔体層45は、アノード極層41を一様に覆うように形成され、第2金属多孔体層46は、カソード極層42を一様に覆うように形成されている。このため、アクティブエリア13には、アノード極層41及びカソード極層42が露呈される部分(開口等)がない。すなわち、アノード極層41やカソード極層42を面方向に電流が流れざるを得ない箇所がない。このため、本実施形態に係る燃料電池セルでは、アクティブエリア13の全面においてオーム損が低減される。したがって、本実施形態に係る燃料電池セルは発電性能が良い。
【0111】
本実施形態に係る燃料電池セル(セル10)においては、第1金属多孔体層45及び第2金属多孔体層46は、面方向に一様な電気伝導性を有する。すなわち、第1金属多孔体層45及び第2金属多孔体層46は、それぞれ全体として、実質的に一様な金属板として機能する。このため、発電によって生じた電気が、第1金属多孔体層45及び第2金属多孔体層46を伝って面方向に流れるとしても、殆どオーム損がない。したがって、本実施形態に係る燃料電池セルは発電性能が良い。
【0112】
本実施形態に係る燃料電池セル(セル10)においては、第1金属多孔体層45及び第2金属多孔体層46は、金属粒子の焼結体である。金属粒子の焼結によって形成される金属多孔体は、他の方法で製造される金属多孔体と比較して、電気伝導性が優れる。このため、第1金属多孔体層45及び第2金属多孔体層46が金属粒子の焼結体で形成されていることで、本実施形態に係る燃料電池セルは、オーム損が特に低減されている。したがって、本実施形態に係る燃料電池セルは発電性能が良い。
【0113】
本実施形態に係る燃料電池スタック(セルスタック100)は、上記の燃料電池セル(セル10)を用いて形成される。この燃料電池スタックは、第1金属多孔体層45が露呈する燃料電池セルの表面をアノード面22とし、第2金属多孔体層46が露呈する燃料電池セルの表面をカソード面23とするときに、アノード面22同士を対向させ、かつ、カソード面23同士を対向させるように、表裏を反転させながら複数の燃料電池セルが所定間隔で交互に積み重ねられたセル配列を備える。また、燃料電池スタックでは、上記のセル配列において隣接する燃料電池セル間でアノード面22が対向する空間(セル間空間)に、アノードガスが流通するアノードガス流路FPaが形成される。また、燃料電池スタックでは、上記のセル配列において隣接する燃料電池セル間でカソード面23同士が対向する空間(セル間空間)に、カソードガスが流通するカソードガス流路FPcが形成される。そして、燃料電池スタックは、上記のセル配列において隣接する燃料電池セルを電気的に接続するバスバーを備える。
【0114】
上記のように、本実施形態に係る燃料電池スタック(セルスタック100)は、前述の燃料電池セル(セル10)を用いて形成されるので、各々の燃料電池セルにおいてオーム損が少ない。また、発電量が多く、強度が高い。このため、セルスタック100は発電性能が良い。
【0115】
本実施形態に係る燃料電池スタック(セルスタック100)においては、バスバー14,15は、上記のセル配列において隣接する燃料電池セル間で、第1金属多孔体層45と第2金属多孔体層46とを電気的に接続することにより、燃料電池セルを直列に接続する。このため、本実施形態に係る燃料電池スタックは、高電圧を発生させることができる点において発電性能が良い。
【0116】
また、本実施形態に係る燃料電池スタック(セルスタック100)においては、バスバー14,15は、上記のセル配列において隣接する燃料電池セル間で、第1金属多孔体層同士及び第2金属多孔体層46同士をそれぞれ接続することにより、燃料電池セルを並列に接続することができる。このため、本実施形態に係る燃料電池スタックは、大電流を発生させることができる点において発電性能が良い。
【0117】
本実施形態に係る燃料電池スタック(セルスタック100)では、カソード面23の間隔であるカソードガス流路FPcの高さH2が、アノード面22の間隔であるアノードガス流路FPaの高さH1よりも大きい。このため、本実施形態に係る燃料電池スタックは、アノードガス流路FPaにおけるアノードガスの圧力損失と、カソードガス流路FPcにおけるカソードガスの圧力損失が各々に低減されている。その結果、アノードガス及びカソードガスをセルスタック100に供給する機器が省電力化される。
【0118】
本実施形態に係る燃料電池スタック(セルスタック100)では、平行に、または、対向して流れるアノードガス及びカソードガスの流れ方向を第1方向(Y方向)、第1方向に垂直な方向を第2方向(X方向)とするときに、発電が行われるアクティブエリア13は、第2方向と比較して第1方向に長い。このように、アクティブエリア13の形状を高アスペクト比の形状にすると、アノードガス流路FPaにおけるアノードガスの分配性、及び、カソードガス流路FPcにおけるカソードガスの分配性が良い。その結果、本実施形態に係る燃料電池スタック(セルスタック100)は、発電性能が良い。
【0119】
本実施形態に係る燃料電池スタック(セルスタック100)では、バスバー14,15は、前述のセル配列に対して第1方向(Y方向)に平行に取り付けられ、バスバー14,15の第1方向に沿った長さL2が、アクティブエリア13の第1方向に沿った長さL1以上である。このため、アクティブエリア13の全体において電流密度が均一である。その結果、アクティブエリア13における局所的あるいは全体的な熱分布の発生が抑制され、アクティブエリア13の全面を用いて、均一に効率良く発電が行われる。
【0120】
本実施形態に係る燃料電池スタック(セルスタック100)では、アノードガス及びカソードガスが平行に流通するときに、バスバー14,15は、前述のセル配列に対して第1方向(Y方向)に平行に取り付けられ、バスバー14,15の第1方向に沿った長さL2が、アクティブエリア13の第1方向に沿った長さL1よりも短く形成される場合がある。この場合、バスバー14,15は、アクティブエリア13に対して、アノードガス及びカソードガスの上流側に偏在して設けられる。このように、アノードガス及びカソードガスが平行に流れるときに、その上流側にバスバー14,15を偏在させると、アクティブエリア13に生じる温度分布が是正される。その結果、本実施形態にっかる燃料電池スタックは、発電性能が良い。
【0121】
特に、上記のケースにおいて燃料電池セルを内部改質型とするときには、第1金属多孔体層45は、バスバー14,15があることによってアクティブエリア13に形成される電流集中エリア401の範囲の一部または全部に、燃料を改質する改質触媒を備える。このように、改質触媒が電流集中エリア401の範囲に設けられていると、改質反応による温度低下を電流の集中による発熱で補い、燃料電池スタックの温度分布を理想的な温度分布に近づけることができる。これにより、燃料電池セル(セル10)を内部改質型とする場合でも、燃料電池スタック(セルスタック100)の発電性能が向上する。
【0122】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態及び各変形例で説明した構成は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0123】
10 :セル
11 :インレット
12 :アウトレット
13 :アクティブエリア
14 :バスバー
15 :バスバー
18a :ガスケットアセンブリ
18b :ガスケットアセンブリ
31 :第1金属フレーム
32 :電極触媒層
34 :第2金属フレーム
41 :アノード極層
42 :カソード極層
43 :固体電解質層
45 :第1金属多孔体層
46 :第2金属多孔体層
100 :セルスタック
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16