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特許7578032電力変換装置及びその制御方法並びに蓄電システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】電力変換装置及びその制御方法並びに蓄電システム
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20241029BHJP
   H02J 3/32 20060101ALI20241029BHJP
   H02J 3/38 20060101ALI20241029BHJP
   H02J 7/34 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
H02M7/48 R
H02J3/32
H02J3/38 180
H02J7/34 J
H02M7/48 M
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021043373
(22)【出願日】2021-03-17
(65)【公開番号】P2022143045
(43)【公開日】2022-10-03
【審査請求日】2023-10-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 愛実
(72)【発明者】
【氏名】秋田 哲男
(72)【発明者】
【氏名】奥村 俊明
【審査官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-134592(JP,A)
【文献】特開2012-196020(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02J 3/38
H02J 3/32
H02J 7/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
商用電力系統と系統連系する電力変換装置であって、
スイッチング動作を行う電力変換部と、
前記商用電力系統と接続される交流電路の電圧を検出する電圧センサと、
前記電力変換部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記電圧の周波数偏差の経時的な変化に基づいて、前記交流電路にフリッカが発生しているか収束しているかを検出するフリッカ検出部と、
前記フリッカが収束しているときは、前記電力変換部の制御指令値に高調波成分を注入可能とし、前記フリッカの発生を検出している間は、前記制御指令値への高調波成分の注入を停止する高調波注入制御部と、
を含む電力変換装置。
【請求項2】
前記高調波注入制御部は、前記交流電路の高調波電圧及び前記周波数偏差の経時変化パターンに基づいて、前記高調波成分を注入することが可能か否かを判定する請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記高調波注入制御部は、前記周波数偏差の振動を検出してから、前記周波数偏差の振幅が低下して所定値以下になった状態が一定時間継続することを検出することにより、前記フリッカの収束を検出する請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記高調波注入制御部は、前記周波数偏差の振動を検出し、かつ、以後、一定時間、前記周波数偏差が振動しない状態を検出することにより、前記フリッカの収束を検出する請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記高調波注入制御部は、周波数偏差の第1の振動を検出した後、前記第1の振動より振幅が小さい第2の振動を検出し、かつ、前記第2の振動の振幅を超えない状態で一定時間経過したことを検出することにより、前記フリッカの収束を検出する請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記高調波注入制御部は、絶対値で所定の閾値を超える第1の極性での低振幅の前記周波数偏差を検出した後、
周波数偏差が絶対値で前記閾値以内となり、所定時間内に、検出した周波数偏差と異なる第2の極性の、前記閾値を超える周波数偏差が検出されないこと、又は、
周波数偏差が絶対値で前記閾値以内となり、絶対値で前記閾値を超えた時点の極性と同じ極性で再度、周波数偏差が前記閾値を超えること、
となった場合に、前記フリッカの収束を検出する、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれかの電力変換装置が、前記商用電力系統に対して互いに並列に、第1の電力変換装置及び第2の電力変換装置として接続されている場合、
前記第1の電力変換装置における前記高調波注入制御部は、奇数n次の高調波成分を前記商用電力系統に注入し、かつ、
前記第2の電力変換装置における前記高調波注入制御部は、前記奇数n次の高調波成分を前記商用電力系統に注入する、電力変換装置。
【請求項8】
直流電源と、
請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の電力変換装置と、を備えた蓄電システム。
【請求項9】
商用電力系統と系統連系する電力変換装置の制御方法であって、
前記商用電力系統と接続される交流電路の電圧の周波数偏差の経時的な変化に基づいて、フリッカが発生しているか収束しているかを検出し、
前記フリッカが収束しているときは、前記電力変換装置の制御指令値に高調波成分を注入可能とし、前記フリッカの発生を検出している間は、前記制御指令値への高調波成分の注入を停止する、
電力変換装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置及びその制御方法並びに蓄電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
商用電力系統と系統連系する電力変換装置には、求められる保護機能が種々あり、その一つとして、単独運転検出機能がある(例えば非特許文献1参照。)。単独運転とは、商用電力系統の停電直後に、電力変換装置自身が交流電路に出力している電圧に対して連系運転している状態をいう。単独運転を検出した電力変換装置は運転を停止し、商用電力系統から自己を解列する。
【0003】
単独運転を高速に検出するには、例えば、電力変換装置のスイッチングを制御する制御信号に、高調波を注入するという方法がある(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-012971号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】JEM規格1498(日本電機工業会)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、高調波注入は、注入のタイミングが良くないと、商用電力系統の交流電路にフリッカを生じさせることがある。
そこで、本開示は、電力変換装置において、不適切なタイミングでの高調波成分の注入を、抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、以下の発明を含む。但し、本発明は、特許請求の範囲によって定められるものである。
【0008】
(電力変換装置)
これは、商用電力系統と系統連系する電力変換装置であって、
スイッチング動作を行う電力変換部と、
前記商用電力系統と接続される交流電路の電圧を検出する電圧センサと、
前記電力変換部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記電圧の周波数偏差に基づいて、前記交流電路にフリッカが発生しているか収束しているかを検出するフリッカ検出部と、
前記フリッカが収束しているときは、前記電力変換部の制御指令値に高調波成分を注入可能とし、前記フリッカの発生を検出している間は、前記制御指令値への高調波成分の注入を停止する高調波注入制御部と、
を含む電力変換装置である。
【0009】
(蓄電システム)
電力変換装置と直流電源とを備えたものが蓄電システムとなる。
【0010】
(電力変換装置の制御方法)
また、これは、商用電力系統と系統連系する電力変換装置の制御方法であって、
前記商用電力系統と接続される交流電路の電圧の周波数偏差に基づいて、フリッカが発生しているか収束しているかを検出し、
前記フリッカが収束しているときは、前記電力変換装置の制御指令値に高調波成分を注入可能とし、前記フリッカの発生を検出している間は、前記制御指令値への高調波成分の注入を停止する、
電力変換装置の制御方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電力変換装置において、不適切なタイミングで高調波成分を注入することを、抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、電力変換装置の一例と、その入出力回路とを示す回路図である。
図2図2は、制御部の内部機能としてソフトウェア及び一部ハードウェアによって構成される単独運転検出の機能ブロック図である。
図3図3は、高調波注入制御部の動作を示すフローチャートである。
図4図4は、周波数偏差の経時変化パターンに基づく、外乱検知1のフラグの、目標とする上げ下げを表す図である。
図5図5は、結果的には好ましくない参考例である。
図6図6は、周波数偏差の経時変化パターンに基づく、外乱検知1のフラグの、第1例による上げ下げを表す図である。
図7図7は、周波数偏差の経時変化パターンに基づく、外乱検知1のフラグの、第2例による上げ下げを表す図である。
図8図8は、周波数偏差の経時変化パターンに基づく、外乱検知1のフラグの、第3例による上げ下げを表す図である。
図9図9は、周波数偏差の振動と、外乱検知2のフラグの上げ下げとの関係の一例を示す波形図である。
図10図10は、参考までに、高調波注入信号を出し続けた場合のグラフの一例である。
図11図11は、フリッカが発生しているときは、高調波注入信号を停止する場合のグラフの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[実施形態の要旨]
本発明の実施形態の要旨としては、少なくとも以下のものが含まれる。
【0014】
(1)開示するのは、商用電力系統と系統連系する電力変換装置であって、スイッチング動作を行う電力変換部と、前記商用電力系統と接続される交流電路の電圧を検出する電圧センサと、前記電力変換部を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記電圧の周波数偏差に基づいて、前記交流電路にフリッカが発生しているか収束しているかを検出するフリッカ検出部と、前記フリッカが収束しているときは、前記電力変換部の制御指令値に高調波成分を注入可能とし、前記フリッカの発生を検出している間は、前記制御指令値への高調波成分の注入を停止する高調波注入制御部と、を含む電力変換装置である。
【0015】
このような電力変換装置では、交流電路にフリッカの発生を検出している間は、制御指令値への高調波成分の注入が停止される。従って、不適切なタイミングで高調波成分を注入することを、抑制することができる。
【0016】
(2)前記(1)の電力変換装置において、前記高調波注入制御部は、前記交流電路の高調波電圧及び前記周波数偏差の経時変化パターンに基づいて、前記高調波成分を注入することが可能か否かを判定するようにしてもよい。
この場合、不適切タイミングで高調波成分を注入することを、抑制することができる。
【0017】
(3)前記(1)の電力変換装置において、前記高調波注入制御部は、前記周波数偏差の振動を検出してから、前記周波数偏差の振幅が低下して所定値以下になった状態が一定時間継続することを検出することにより、前記フリッカの収束を検出するようにしてもよい。
この場合、外乱検知レベルの周波数偏差の振幅が低下しない場合はフリッカの収束ではないと判定し、周波数偏差の振幅が所定値以下になった状態が一定時間継続することにより、フリッカの収束と判定する。従って、高調波を注入してよい場合と、注入すべきでない場合とを、正しく判定することができる。ここで、「周波数偏差の振動を検出し」とは、例えば、周波数偏差の絶対値が閾値以上になった(又は閾値を超えた)後に、周波数偏差が0又は逆極性になる(すなわち振動している。)ことを言う。閾値とは、周波数偏差の振動とみなすか否かの境界値であり、例えば0.16[Hz]である。
【0018】
(4)前記(1)の電力変換装置において、前記高調波注入制御部は、前記周波数偏差の振動を検出し、かつ、以後、一定時間、前記周波数偏差の振動を検出しない場合に、前記フリッカの収束と判定するようにしてもよい。
この場合、外乱検知レベルの周波数偏差の振動が継続的に起きるとフリッカの収束ではないと判定し、最新の振動から一定時間、周波数偏差の振動が振動しない状態を検出することにより、フリッカの収束を検出する。従って、高調波を注入してよい場合と、注入すべきでない場合とを、正しく判定することができる。
【0019】
(5)前記(1)の電力変換装置において、前記高調波注入制御部は、周波数偏差の第1の振動を検出した後、前記第1の振動より振幅が小さい第2の振動を検出し、かつ、前記第2の振動の振幅を超えない状態で一定時間経過したことを検出することにより、前記フリッカの収束を検出するようにしてもよい。
この場合、外乱検知レベルの周波数偏差の第1の振動及びそれより振幅が小さい第2の振動のいずれかが継続的に起きるとフリッカの収束ではないと判定し、最新の第2の振動から、第2の振動の振幅を超えない状態で一定時間が経過すればフリッカの収束と判定する。従って、高調波を注入してよい場合と、注入すべきでない場合とを、正しく判定することができる。
【0020】
(6)前記(1)から(5)までのいずれかの電力変換装置において、前記高調波注入制御部は、絶対値で所定の閾値を超える第1の極性での低振幅の前記周波数偏差を検出した後、
周波数偏差が絶対値で前記閾値以内となり、所定時間内に、検出した周波数偏差と異なる第2の極性の、前記閾値を超える周波数偏差が検出されないこと、又は、
周波数偏差が絶対値で前記閾値以内となり、絶対値で前記閾値を超えた時点の極性と同じ極性で再度、周波数偏差が前記閾値を超えること、
となった場合に、前記フリッカの収束を検出するようにしてもよい。
この場合、外乱検知の第2条件である低振幅の周波数偏差の振動が収まってから高調波の注入を行うことが可能となる。
【0021】
(7)前記(1)から(6)までのいずれかの電力変換装置が、前記商用電力系統に対して互いに並列に、第1の電力変換装置及び第2の電力変換装置として接続されている場合、前記第1の電力変換装置における前記高調波注入制御部は、奇数n次の高調波成分を前記商用電力系統に注入し、かつ、前記第2の電力変換装置における前記高調波注入制御部は、前記n次の高調波成分を前記商用電力系統に注入するようにしてもよい。
この場合、奇数次の高調波は互いに打ち消し合うことがないため、高調波成分注入による単独運転検出の機能が損なわれることを抑制できる。
【0022】
(8)蓄電システムとしては、直流電源と、前記(1)から(7)までのいずれかの電力変換装置とを備えたものである。
このような蓄電システムでは、交流電路にフリッカの発生を検出している間は、制御指令値への高調波成分の注入が停止される。従って、不適切なタイミングで高調波成分を注入することを、抑制することができる。
【0023】
(9)方法の観点からは、これは、商用電力系統と系統連系する電力変換装置の制御方法であって、前記商用電力系統と接続される交流電路の電圧の周波数偏差に基づいて、フリッカが発生しているか収束しているかを検出し、前記フリッカが収束しているときは、前記電力変換装置の制御指令値に高調波成分を注入可能とし、前記フリッカの発生を検出している間は、前記制御指令値への高調波成分の注入を停止する、電力変換装置の制御方法である。
このような電力変換装置の制御方法によれば、交流電路にフリッカの発生を検出している間は、制御指令値への高調波成分の注入が停止される。従って、不適切なタイミングで高調波成分を注入することを、抑制することができる。
【0024】
[実施形態の詳細]
以下、本発明の一実施形態に係る電力変換装置について、図面を参照して説明する。
【0025】
《電力変換装置の構成例》
図1は、電力変換装置100の一例と、その入出力回路とを示す回路図である。電力変換装置100は、制御部20と、電力変換部30とを備えている。電力変換部30は主な回路要素として、DC/DCコンバータ1及びインバータ2を備えている。電力変換装置100の直流側(図の左側)には、直流電源3(例えば、蓄電池、太陽光発電パネル等)が接続されている。また、電力変換装置100の交流側(図の右側)には、交流電路4が接続されている。
電力変換装置100は、直流電源3と共に、蓄電システムを構成している。
【0026】
なお、交流電路4の2線は通常、単相3線の電圧線(U線,W線)である。実際には、電力変換装置100内で中間電位(0V)の中性線(O線)を作り出し、単相3線の商用電力系統7と3線接続することが多いが、ここでは簡略化して図示している。
交流電路4には、需要家の負荷5が接続される。また、交流電路4には連系リレー6が設けられている。連系リレー6は、商用電力系統7と接続されている。
【0027】
なお、ここでは、直流電源3からDC/DCコンバータ1までの直流系統は1系統である最も簡素な例を示しているが、これに限らず、複数系統が存在し、DCバス8にて互いに並列に接続される回路構成であってもよい。
【0028】
直流電源3とDC/DCコンバータ1との間には、直流側コンデンサ9が設けられている。DC/DCコンバータ1は、直流リアクトル10と、ローサイドのスイッチング素子Q1と、ハイサイドのスイッチング素子Q2とを図示のように接続して構成されている。各スイッチング素子Q1,Q2にはそれぞれ、逆並列にダイオードd1,d2が接続されている。DC/DCコンバータ1は、昇圧チョッパとして動作するか又は逆方向に降圧チョッパとして動作することもできる。
【0029】
なお、図示のスイッチング素子Q1,Q2は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)である。他のスイッチング素子Q3~Q6についても同様である。但し、IGBTに代えてMOS-FET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)等のスイッチング素子を使用することもできる。
【0030】
DCバス8の2線間には、中間コンデンサ11が設けられている。DCバス8にはインバータ2が接続されている。インバータ2は、ブリッジ回路を構成するスイッチング素子Q3,Q4,Q5,Q6を備えている。スイッチング素子Q3,Q4,Q5,Q6にはそれぞれ、逆並列にダイオードd3,d4,d5,d6が接続されている。インバータ2の交流側には、交流リアクトル12及び交流側コンデンサ13が設けられている。
【0031】
計測及び制御に関する回路要素については、まず、電圧センサ14は、直流側コンデンサ9の両端電圧を検出し、検出出力を制御部20に送る。電流センサ15は、DC/DCコンバータ1に流れる電流を検出し、検出出力を制御部20に送る。電圧センサ16は、DCバス8の2線間の電圧を検出し、検出出力を制御部20に送る。電流センサ17は、交流リアクトル12に流れる電流を検出し、検出出力を制御部20に送る。電圧センサ18は、交流電路4の2線間の電圧を検出し、検出出力を制御部20に送る。
【0032】
制御部20は、各センサからの検出出力に基づいて、スイッチング素子Q1~Q6を制御する。また、制御部20は、連系リレー6の開閉を制御する。電力変換装置100の通常運転時は、連系リレー6は閉路している。商用電力系統7が停電し、電力変換装置100が単独運転の状態となったことを検出したときは、制御部20は、連系リレー6を開路する。
制御部20は例えば、コンピュータを含み、ソフトウェア(コンピュータプログラム)をコンピュータが実行することで、必要な制御機能を実現する。ソフトウェアは、制御部20の記憶装置(図示せず。)に格納される。
【0033】
なお、上記電力変換装置100は、双方向性があり、直流から交流への電力変換の他、直流電源3が蓄電池である場合には、交流から直流への電力変換を行って蓄電池を充電することもできる。
【0034】
《通常の制御の一例》
通常運転時は、前述のように、制御部20は、各センサからの検出出力に基づいて、スイッチング素子Q1~Q6を制御することにより電力変換装置100の系統連系運転を行うことができる。
【0035】
電力変換装置100が、商用電力系統7と、その交流電圧の絶対値のピーク値より低い電圧の直流電源3との間に設けられている場合、好ましい既知の制御の一例としては、交流半サイクル内で、交流の位相に応じて、DC/DCコンバータ1及びインバータ2の一方にスイッチング動作を行わせ、他方は休止させる期間を生じさせる。そして、制御部20は、交流電力の電圧、交流リアクトル12を流れる電流及び交流リアクトル12のインピーダンスによる電圧変化、中間コンデンサ11及び交流側コンデンサ13をそれぞれ流れる無効電流、並びに、直流電力の電圧に基づいて、DC/DCコンバータ1の電流指令値を、交流電力の電流と同期するように設定する。また、交流電力の電圧として、商用電力系統7の交流電圧検出値に基づいて抽出した基本波に、検出や制御系の遅れを考慮して位相を補足した電圧を用いることができる。
【0036】
このような電力変換装置100では、制御部20により、交流半サイクル内で、交流の位相に応じて、DC/DCコンバータ1及びインバータ2の一方にスイッチング動作を行わせ、他方は休止させる期間を生じさせる、という「最小スイッチング変換方式」を実行することができる。この方式を高い変換効率で実現すべく、交流電力の電圧、交流リアクトル12を流れる電流及び交流リアクトル12のインピーダンスによる電圧変化、中間コンデンサ11及び交流側コンデンサ13をそれぞれ流れる無効電流、並びに、直流電力の電圧に基づいて、DC/DCコンバータ1の電流指令値を、交流電力の電流と同期するように設定する。
【0037】
そして、交流電力の電圧として、商用電力系統7の交流電圧検出値(電圧センサ18が検出する交流電圧)に基づいて抽出した基本波に、検出や制御系の遅れを考慮して位相を補足した電圧を用いることで、電圧位相に対する制御の遅延を抑制し、また、商用電力系統7の系統電圧の擾乱の影響を排除して、安定した、歪の少ない交流電流を得ることができる。
【0038】
具体的には、負荷5への出力電流指令値をIa*、交流側コンデンサ13の静電容量をCa、交流電路4の交流電圧をVa、直流電源3側の電圧をVDC、ラプラス演算子をsとする。この場合、制御部20は、電流センサ17に流れるべき交流出力電流指令値Iinv*を、
Iinv*=Ia*+s CaVa ・・・(1)
に設定する。
【0039】
さらに、交流リアクトル12のインピーダンスをZaとするとき、制御部20は、インバータ2の出力端(インバータ2と交流リアクトル12との相互接続箇所)での交流出力電圧指令値Vinv*を、
Vinv*=Va+ZaIinv* ・・・(2)
に設定する。
【0040】
また、制御部20は、電圧VDC、及び、交流出力電圧指令値Vinv*の絶対値のいずれか大きい方を、DC/DCコンバータ1の出力電圧指令値Vo*に設定し、中間コンデンサ11の静電容量をCとするとき、DC/DCコンバータ1の電流指令値Iin*は、
Iin*={(Iinv* × Vinv*)+(s C Vo*)×Vo*}/VDC
・・・(3)
に設定する。そして、交流電圧Vaは、実効値をVa_rms、スイッチング動作の指令をするタイミングの位相をωtとして、
Va=√2 Va_rms×sin(ωt) ・・・(4)
とすることができる。
【0041】
上記のような制御によれば、DC/DCコンバータ1の電流指令値Iin*は、交流電力の電圧、交流リアクトル12を流れる電流と交流リアクトル12のインピーダンスによる電圧変化、中間コンデンサ11や交流側コンデンサ13を流れる無効電流、及び直流電力の電圧を全て反映している。従って、直流電源3の電圧や、交流出力電流が変化したときでも、常に交流出力電流に同期した電力を出力することができる。
【0042】
このような最小スイッチング変換方式の制御によって、DC/DCコンバータ1及びインバータ2は、必要最低限の回数の高周波スイッチングで、直流/交流の変換を行うことができる。その結果、半導体スイッチング素子のスイッチング損失、交流及び直流リアクトルの鉄損が大幅に低減され、高い変換効率を得ることができる。さらに、系統電圧Vaをこのように設定することで、低歪みの交流電流を得ることができる。
なお、制御方式は、上記の最小スイッチング変換方式に限定される訳ではない。DC/DCコンバータ1は、常時スイッチングを行い、交流波形のピーク電圧を超えるDCバス電圧を生成し、インバータ2は、常時スイッチングを行い、目標とする交流波形を生成する、という伝統的なスイッチング方式でもよい。
【0043】
《制御部の内部機能》
次に、制御部20の内部機能について説明する。
図2は、制御部20の内部機能としてソフトウェア及び一部ハードウェアによって構成される単独運転検出の機能ブロック図である。図において、電圧センサ18(図1)によって検出された交流電路4(図1)の交流電圧(系統電圧)の検出信号は、A/D変換され(f1)、交流電圧として検出される(f2)。この交流電圧に基づいて、周波数(f3)、基本波電圧(f4)、高調波電圧(f5)がそれぞれ検出される。
【0044】
周波数は、移動平均の処理(f6,f7)を経て、周波数偏差となる(f8)。周波数偏差とは、最新の40msの間の移動平均周波数を、200ms前の320msの間の移動平均周波数から差し引いた値である。周波数偏差が0.01Hzを超えている場合は周波数フィードバック機能が働き(f11)、注入する無効電力の指令値が決まる(f13)。一方、周波数偏差が0.01Hzを超えていない場合には、処理は、ステップ注入機能の方へ行く(f8からf9へ)。そして、基本波電圧及び高調波電圧に基づいて、ステップ注入機能(f9,f12)が働き、注入する無効電力の指令値が決まる(f13)。
なお、上記の0.01Hzは、交流出力の周波数偏差に応じて、無効電力を交流出力に注入する周波数偏差の閾値である。JEM規格1498では、単独運転検出のために「交流出力の周波数偏差に応じて無効電力を交流出力に注入する機能」があり、周波数偏差0.01[Hz]未満は0[Var],周波数偏差0.01[Hz]以上で周波数偏差に比例した無効電力を注入する。
【0045】
また、別途、有効電力の指令値が決定される(f14,f15)。有効電力の指令値及び無効電力の指令値に基づいて、電流制御(f16)が行われる。電流制御(f16)に基づいて、DC/DCコンバータ1及びインバータ2のそれぞれについて、パルス幅変調制御(f17,f18)が行われる。
制御部20内の以上の機能は、既知の機能であり、DC/DCコンバータ1及びインバータ2のスイッチングを制御するとともに、商用電力系統7(図1)の停電時には、電力変換装置100の単独運転を防止すべく、DC/DCコンバータ1及びインバータ2をゲートブロックし、連系リレー6を開路させる。
【0046】
《フリッカと高調波注入》
図2において、高調波電圧検出(f5)により検出された高調波電圧は、フリッカ検出部f19及び高調波注入制御部f20に与えられている。フリッカ検出部f19には、周波数偏差(f8)が与えられている。フリッカ検出部f19は、高調波注入制御部f20に対して高調波注入の可否の指令を与える。高調波注入が可能なとき、高調波注入制御部f20は、DC/DCコンバータ1及びインバータ2をそれぞれ制御する制御指令値に、高調波を注入することができる。高調波の注入により、単独運転の状態を迅速に検出することができる。
【0047】
図3は、高調波注入制御部f20の動作を示すフローチャートである。この処理は、一定時間(例えば数m秒)ごとに繰り返される。ステップS1において、高調波注入制御部f20は、高調波注入の条件が成立するか否かを判定する。「NO」であれば、処理は終了となる。「YES」であれば、高調波注入制御部f20は、フリッカが発生しているか収束しているかを判定する(ステップS2)。「YES」の場合は、処理終了となる。フリッカが発生していない(収束している。)場合は、高調波注入制御部f20は、高調波の注入を行う(ステップS3)。
【0048】
フリッカが収束したといえるには、「外乱検知1」としての、周波数偏差急変を検出しないこと、及び、「外乱検知2」としての、低振幅の周波数偏差の振動が継続していないこと、が必要である。以下、この外乱検知が発生し、その後収束した場合のフラグの上げ下げについて説明する。
【0049】
《外乱検知1のフラグの下げ方》
まず、「フラグを上げる」とは、JEM規格1498(2017年12月15日改定(第3回、以下同様。))による、外乱検知1を検知したことである。「フラグを下げる」とは、フリッカの収束を検出したことを意味する。
図4は、周波数偏差の経時変化パターンに基づく、外乱検知1のフラグの、目標とする上げ下げを表す図である。周波数偏差の数値の単位はHzである。
まず、図4の(a)では、振幅0.16を超える周波数偏差の振動が継続している。なお、0.16[Hz]という数値は、JEM規格1498に基づく値である。この場合、最初に振幅が0.16を超えた直後のゼロクロスでフラグが上がる。それ以後も、振幅0.16を超える振動が継続するので、フラグは上がったまま維持される。周波数偏差のゼロクロスにおける図中の黒丸は、振幅が0.16を超えたことを検出する時点を意味する(以下、図5図8でも同様。)。
【0050】
次に、図4の(b)では、振幅0.16を超える周波数偏差の振動が起きるが、その後、振幅が迅速に減少している。この場合、最初に振幅が0.16を超えた直後のゼロクロスでフラグが上がる。次に極性がマイナス側になり、振幅が0.16を超えた(-0.16を下回った)直後のゼロクロスでもフラグが上がっているべきである。その後、数百m秒の間、振幅が0近傍に収束しているので、フラグが下がる。
【0051】
次に、図4の(c)では、振幅の若干の減少はあるが、周波数偏差の振動が継続している。この場合、最初に振幅が0.16を超えた直後のゼロクロスでフラグが上がる。次に極性がマイナス側になり、振幅が0.16を超えた直後のゼロクロスでもフラグが上がっているべきである。それ以後も、0.16未満ではあるが比較的大きな振幅で振動が続くので、フラグは上がったまま維持される。
【0052】
次に、図4の(d)では、振幅0.16を超える周波数偏差の振動が起こり、その後、周波数偏差は0近傍に収束しないものの、極性反転は起きていない。この場合、最初に振幅が0.16を超えた直後のゼロクロスでフラグが上がる。次に極性がマイナス側になり、振幅が0.16を超えた直後のゼロクロスでもフラグが上がっているべきである。その後、数百m秒の間、極性反転は起きず、振動が止まっているので、フラグが下がる。
【0053】
図4に示したようなフラグの上げ下げを実現するために、具体的にどのような条件を課すかについて、以下、説明する。なお、図4の(a),(b),(c),(d)のフラグの上げ下げのうち、(a)及び(b)は、必ず実現すべきである。(c)及び(d)は、必須ではないが、実現することが、より好ましい。
【0054】
(参考例)
まず、図5は、結果的には好ましくない参考例である。外乱検知1のフラグを下げるための設定条件は、最初の外乱検知1でフラグを上げた後、一定時間が経過したことである。一定時間とは例えば数百m秒である。図中の(a),(b),(c),(d)の各々においては、周波数偏差の振動と、外乱検知1のフラグの状態と、周波数偏差状態(周波数偏差が、その時、示している状態)とを示している。周波数偏差状態における「未」は外乱検知でないことを示し、「+」はプラス側に周波数偏差が出ている状態を示し、「-」はマイナス側に周波数偏差が出ている状態を示している。
【0055】
図5の(a)では、振幅0.16を超える周波数偏差の振動が継続している。この場合、最初に振幅が0.16を超えた直後のゼロクロスでフラグが上がる。それ以後も、振幅0.16を超える振動が継続するが、最初にフラグが上がってから数百m秒が経過したことで一旦、フラグが下がる。その後再び、最初に振幅が0.16を超えた直後のゼロクロスでフラグが上がる。それ以後も、振幅0.16を超える振動が継続するが、2度目の最初にフラグが上がってから数百m秒が経過したことで、また、フラグが下がる。このように、振幅0.16を超える周波数偏差の振動が継続しているにも関わらずフラグが下がることがあるので、好ましくない。
【0056】
次に、図5の(b)では、振幅0.16を超える周波数偏差の振動が起きるが、その後、振幅が迅速に減少している。この場合、最初に振幅が0.16を超えた直後のゼロクロスでフラグが上がる。次に極性がマイナス側になり、振幅が0.16を超えた(-0.16を下回った)直後のゼロクロスでもフラグが上がっている。その後、最初の外乱検知から数百m秒が経過すると、フラグが下がる。結果的には図4の(b)と同様であるが、振動の継続時間によっては、フラグを下げるタイミングが不適切となる場合も十分想定される。
【0057】
次に、図5の(c)では、振幅の若干の減少はあるが、周波数偏差の振動が継続している。この場合、最初に振幅が0.16を超えた直後のゼロクロスでフラグが上がる。次に極性がマイナス側になり、振幅が0.16を超えた直後のゼロクロスでもフラグが上がっている。それ以後も、0.16未満ではあるが明らかに振動が続くが、最初の外乱検知から数百m秒が経過すると、フラグが下がる。これは不適切に、フラグを下げたことになる。
【0058】
次に、図5の(d)では、振幅0.16を超える周波数偏差の振動が起こり、その後、周波数偏差は0近傍に収束しないものの、極性反転は起きていない。この場合、最初に振幅が0.16を超えた直後のゼロクロスでフラグが上がる。次に極性がマイナス側になり、振幅が0.16を超えた直後のゼロクロスでもフラグが上がっている。その後、フラグの立ち上がりから数百m秒の間、極性反転は起きず、振動が止まっているので、フラグが下がる。これは、適切に、フラグを下げたことになる。
【0059】
上記参考例に示すフラグの上げ下げは、必須の(a)、(b)が適切でないので、採用できない。
【0060】
(第1例)
図6は、周波数偏差の経時変化パターンに基づく、外乱検知1のフラグの、第1例による上げ下げを表す図である。第1例における、外乱検知1のフラグを下げるための設定条件は、最初の外乱検知1でフラグを上げた後、周波数偏差の振幅0.08以下の状態で一定時間経過したこと、である。一定時間とは、例えば数百m秒である。振幅0.08及び一定時間としての数百秒は、例示に過ぎず、これらの数値に限定される訳ではない。
【0061】
まず、図6の(a)では、振幅0.16を超える周波数偏差の振動が継続している。この場合、最初に振幅が0.16を超えた直後のゼロクロスでフラグが上がる。それ以後も、振幅0.08を超える振動が継続するので、フラグは上がったまま維持される。
【0062】
次に、図6の(b)では、振幅0.16を超える周波数偏差の振動が起きるが、その後、振幅が迅速に減少している。この場合、最初に振幅が0.16を超えた直後のゼロクロスでフラグが上がる。ここから時間のカウントが開始される。次に極性がマイナス側になり、振幅が0.16を超えた直後のゼロクロスで時間がリセットされ、ここから新たに時間のカウントが開始される。そして、以後のゼロクロスで振幅が0.08以内に収束していることが確認され続けて数百m秒が経過した時点で、フラグが下がる。
【0063】
次に、図6の(c)では、振幅の若干の減少はあるが、周波数偏差の振動が継続している。この場合、最初に振幅が0.16を超えた直後のゼロクロスでフラグが上がる。次に極性がマイナス側になり、振幅が0.16を超えた直後のゼロクロスでもフラグが上がっている。それ以後も、振幅が0.08以内にならないので、フラグは上がったまま維持される。
【0064】
次に、図6の(d)では、振幅0.16を超える周波数偏差の振動が起こり、その後、周波数偏差は0近傍に収束しないものの、極性反転は起きていない。この場合、最初に振幅が0.16を超えた直後のゼロクロスでフラグが上がる。次に極性がマイナス側になり、振幅が0.16を超えた直後のゼロクロスでもフラグが上がっている。その後、振幅は0.08以上となり、また、振動していないのでゼロクロスが表れず、フラグは上がったままになる。
【0065】
上記第1例に示すフラグの上げ下げは、(a)、(b)、(c)が図4と同様の結果であり、適切である。(d)は、図4とは異なる結果であるが、全体として、必須の(a)及び(b)を満足し、(c)も満たすので、良好な結果である。
【0066】
(第2例)
図7は、周波数偏差の経時変化パターンに基づく、外乱検知1のフラグの、第2例による上げ下げを表す図である。第2例における、外乱検知1のフラグを下げるための設定条件は、最新(最後)の外乱検知1でフラグを上げている後、一定時間経過したことである。一定時間とは、例えば数百m秒である。
【0067】
まず、図7の(a)では、振幅0.16を超える周波数偏差の振動が継続している。この場合、最初に振幅が0.16を超えた直後のゼロクロスでフラグが上がる。それ以後も、振幅0.16を超える振動が継続するので、フラグは上がったまま維持される。
【0068】
次に、図7の(b)では、振幅0.16を超える周波数偏差の振動が起きるが、その後、振幅が迅速に減少している。この場合、最初に振幅が0.16を超えた直後のゼロクロスでフラグが上がる。次に極性がマイナス側になり、振幅が0.16を超えた直後にゼロクロスとなった時、再び外乱検知1となり、この時点が最新(最後)の外乱検知1となる。その後のゼロクロスでは振幅が0.16を超えなかったことが確認され続け、結局、最新の外乱検知からカウントされた時間が、数百m秒を経過した時点で、フラグが下がる。
【0069】
次に、図7の(c)では、振幅の若干の減少はあるが、周波数偏差の振動が継続している。この場合、最初に振幅が0.16を超えた直後のゼロクロスでフラグが上がる。次に極性がマイナス側になり、振幅が0.16を超えた直後にゼロクロスとなった時、再び外乱検知1となり、この時点が最新(最後)の外乱検知1となる。その後のゼロクロスでは振幅が0.16以内であったことが確認され続け、結局、最新の外乱検知1からカウントされた時間が、数百m秒を経過した時点で、フラグを上げた状態が維持できず、フラグが下がる。
【0070】
次に、図7の(d)では、振幅0.16を超える周波数偏差の振動が起こり、その後、周波数偏差は0近傍に収束しないものの、極性反転は起きていない。この場合、最初に振幅が0.16を超えた直後のゼロクロスでフラグが上がる。次に極性がマイナス側になり、振幅が0.16を超えた直後にゼロクロスとなった時、再び外乱検知1となり、この時点が最新(最後)の外乱検知1となる。その後、振幅が0.16以内になるが、ゼロクロスは無く、結局、最新の外乱検知1から数百m秒経過した時点で、フラグが下がる。
【0071】
上記第2例に示すフラグの上げ下げは、(a)、(b)、(d)が図4と同様の結果であり、適切である。(c)は、図4とは異なる結果であるが、全体として、必須の(a)及び(b)を満足し、(d)も満たすので、良好な結果である。
【0072】
(第3例)
図8は、周波数偏差の経時変化パターンに基づく、外乱検知1のフラグの、第3例による上げ下げを表す図である。第3例における、外乱検知1のフラグを下げるための設定条件は、周波数偏差の振幅が0.16を超えた直後のゼロクロスで最新(最後)の外乱検知1としてフラグを上げたか又は上げている後、振幅が0.16未満の例えば0.08以上となって、外乱収束開始の状態から一定時間経過したこと、である。一定時間とは、例えば数百m秒である。外乱収束開始の状態とは、振幅が0.08以上であったが0.16未満であったことを直後のゼロクロスで検出した時であり、そこから一定時間経過すると、外乱収束となる。
【0073】
まず、図8の(a)では、振幅0.16を超える周波数偏差の振動が継続している。この場合、最初に振幅が0.16を超えた直後のゼロクロスでフラグが上がる。それ以後も、振幅0.16を超える振動が継続するので、外乱検知1が続き、フラグは上がったまま維持される。
【0074】
次に、図8の(b)では、振幅0.16を超える周波数偏差の振動が起きるが、その後、振幅が迅速に減少している。この場合、最初に振幅が0.16を超えた直後のゼロクロスで外乱検知1となり、フラグが上がる。次に極性がマイナス側になり、振幅が0.16を超えた後のゼロクロスでも外乱検知1が続く。さらに、次に極性がプラス側になり、振幅が0.08を超えるが0.16未満となった後のゼロクロスで外乱収束開始の状態となる。この時から後は、振幅が0.08以内に収まるので、外乱収束開始からカウントされた時間が数百m秒に達した時点で、フラグが下がる。
【0075】
次に、図8の(c)では、振幅の若干の減少はあるが、周波数偏差の振動が継続している。この場合、最初に振幅が0.16を超えた直後のゼロクロスでフラグが上がる。次に極性がマイナス側になり、振幅が0.08を超えた直後のゼロクロスでもフラグが上がっている。それ以後も、振幅が0.08以内にならずに振動するので、フラグは上がったまま維持される。
【0076】
次に、図8の(d)では、振幅0.16を超える周波数偏差の振動が起こり、その後、周波数偏差は0近傍に収束しないものの、極性反転は起きていない。この場合、最初に振幅が0.16を超えた直後のゼロクロスで外乱検知1となりフラグが上がる。次に極性がマイナス側になり、振幅が0.16を超えた直後のゼロクロスでも外乱検知1となりフラグが上がっている。その後、振幅が0.08を超えるが0.16未満になった直後のゼロクロスで外乱収束開始の状態となる。ここから後、振幅は0.16を超えず、かつ、振動しないので、数百m秒が経過した時点でフラグが下がる。
【0077】
上記第3例に示すフラグの上げ下げは、(a)、(b)、(c)、(d)の全てにおいて、図4と同様の結果であり、最も適切である。
【0078】
《ここまでのまとめ》
以上のように、フラグの上げ下げを適切に行うことにより、フリッカが発生していないときは、電力変換部30の制御指令値に高調波成分を注入可能とし、フリッカの発生を検出している間は、制御指令値への高調波成分の注入を停止する。
このような電力変換装置100では、交流電路4にフリッカの発生を検出している間は、制御指令値への高調波成分の注入が停止される。従って、不適切な高調波成分の注入を抑制することができる。
【0079】
《外乱検知2のフラグの下げ方》
外乱検知2は、低振幅周波数振動継続検知である。
外乱検知2の条件は、前述のように、
周波数偏差の絶対値が所定の閾値(例えば0.01Hz)を超える状態の検出後、所定時間内(例えば165m秒以内)に極性が異なる前記閾値を超える周波数偏差を検出したことをカウントし続け、
その検出回数が例えば12回となったこと、である。
【0080】
外乱検知2のフラグの下げ方の条件は、
周波数偏差が絶対値で前記閾値(0.01Hz)以内となり、所定時間(165m秒)内に、検出した周波数偏差と異なる極性の、前記閾値(0.01Hz)を超える周波数偏差が検出されないこと、又は、
周波数偏差が絶対値で前記閾値(0.01Hz)以内となり、絶対値で前記閾値(0.01Hz)を超えた時点の極性と同じ極性で再度、周波数偏差が前記閾値(0.01Hz)を超えること、
である。
【0081】
図9は、周波数偏差の振動と、外乱検知2のフラグの上げ下げとの関係の一例を示す波形図である。なお、この図の一部は、JEM規格1498より引用したものである。全体的には、フリッカ波形から大きな周波数振動に変わり、その後低周波の揺れを生じた後、揺れが収束する。
【0082】
具体的には、まず、低振幅周波数偏差の検出回数が12回となったとき、低振幅周波数偏差の検出回数は、リセットされ、0になる。この時点でフラグが上がる。その後、絶対値で0.01Hzを超える周波数偏差が3回検出された後、+0.01Hzを超える時点で上記(c)の条件が成立し、外乱検知フラグ2は下がる。低振幅周波数偏差の検知回数は1に戻り、マイナス側に振れないで次に同極性で+0.01Hzを超える。ここで、低振幅周波数偏差の検出回数は再び1になり、以後、低周波の揺れが続く。
【0083】
低周波の揺れの範囲内で、+0.01Hz以下になってから165m秒経過すると、低振幅周波数偏差の検出回数はリセットされ、0になる。以後、一旦は絶対値で0.01Hzを超えるが、その後、絶対値で0.01Hzの範囲内に入ると、165m秒経過すると、低振幅周波数偏差の検出回数はリセットされ、0になる。こうして、揺れは収束する。
【0084】
図9において、特徴的なのは以下の点である。
0.01Hzを超える第1の極性(プラス)での低振幅の周波数偏差を最初に検出した後、低振幅周波数偏差の検出回数が12に達するとき、フラグが上がる。そして、(b)周波数偏差が0.01Hz以内となり、所定時間内に、第2の極性(マイナス)で0.01Hzを超える周波数偏差が検出されない状態となり、また、(c)周波数偏差がマイナス側に0.01Hz以内となり、その後、第1の極性(プラス)で再度、周波数偏差が0.01Hzを超える状態、となった場合に、フラグを下げる。このようなフラグの下げ方により、フリッカ発生中に高調波を注入することを、抑制することができる。
【0085】
《効果の確認について》
上記のように、フリッカが発生しているときは高調波注入を停止することにより、フリッカにどうような結果が出るかを調べた。
図10は、参考までに、高調波注入信号を出し続けた場合のグラフの一例である。高調波信号が出力されているときHレベル、出力されていないときLレベルである。図10の場合、交流電圧実効値のフリッカは、収まらず、継続している。
【0086】
図11は、フリッカが発生しているときは、高調波注入信号を停止する場合のグラフの一例である。高調波信号が出力されているときHレベル、出力されていないときLレベルである。図11の場合、最初にフリッカを検出するまでの初期段階で1度、高調波注入を行ってしまう場合がある。しかし、その後の高調波注入は停止される。これにより、交流電圧実効値のフリッカは、約2.5秒後には、収束する。
【0087】
電力変換装置が複数台並列に接続されている場合、偶数次の高調波注入は互いに打ち消しあうため、奇数次数の高調波を注入する。具体的には、3次、5次、又は7次の高調波注入を行う。図1の電力変換装置100は、交流202Vを2線で出力する回路図としているが、2線間に一対のバリスタ又はコンデンサの直列体を設け、当該直列体の相互接続点を中性線(O線)とすれば、U線、O線、W線の単相3線出力とすることができる。この場合、例えば2台の電力変換装置の出力を互いに並列に接続し、かつ、第1の電力変換装置は3線をU線、O線、W線の順で商用電力系統と接続し、第2の電力変換装置は3線をW線、O線、U線の順で商用電力系統と接続してもよい。ここで、同じ次数の高調波を注入する場合、奇数なら打ち消し合わないが、偶数なら打ち消し合う。実際には、同じ電力変換装置2台を接続する際に、個別に高調波の次数を変えるのは難しいため、同じ奇数の次数の高調波を注入すればよい。従って、2台共に、奇数n次の高調波成分を商用電力系統に注入すればよい。
【0088】
《補記》
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0089】
1 DC/DCコンバータ
2 インバータ
3 直流電源
4 交流電路
5 負荷
6 連系リレー
7 商用電力系統
8 DCバス
9 直流側コンデンサ
10 直流リアクトル
11 中間コンデンサ
12 交流リアクトル
13 交流側コンデンサ
14 電圧センサ
15 電流センサ
16 電圧センサ
17 電流センサ
18 電圧センサ
20 制御部
30 電力変換部
100 電力変換装置
d1,d2,d3,d4,d5,d6 ダイオード
f19 フリッカ検出部
f20 高調波注入制御部
Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6 スイッチング素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11