(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】細胞シート形成用の細胞培養部材、細胞シート形成用の細胞培養部材の製造方法、培養容器、培養細胞の生産方法、細胞培養部材付き培養細胞
(51)【国際特許分類】
C12M 3/00 20060101AFI20241029BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241029BHJP
C12N 11/02 20060101ALI20241029BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12N5/10
C12N11/02
(21)【出願番号】P 2021058006
(22)【出願日】2021-03-30
【審査請求日】2023-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【氏名又は名称】柳井 則子
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100142309
【氏名又は名称】君塚 哲也
(72)【発明者】
【氏名】得能 寿子
(72)【発明者】
【氏名】大 紘太郎
(72)【発明者】
【氏名】篠塚 啓
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-099272(JP,A)
【文献】特開2006-325532(JP,A)
【文献】特開2019-037220(JP,A)
【文献】国際公開第2020/158481(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/158482(WO,A1)
【文献】特開2010-119304(JP,A)
【文献】特開2016-067314(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材を有する細胞培養部材であって、
前記基材の表面に、親水性領域と疎水性領域とが形成され、
前記疎水性領域が、前記基材の厚み方向で前記親水性領域に対して相対的に高低差を設けた位置にあり、
前記親水性領域は、全面が親水性コーティング層で覆われた領域であり、
前記疎水性領域
は、複数の凸部又は複数の凹部を含む微細凹凸構造
とされ、かつ少なくとも前記複数の凸部の頂部又は前記複数の凹部の間の凸部の頂部が親水性コーティング層で覆われていない領域であり、
前記細胞培養部材を平面視した際の前記親水性領域の面積と前記疎水性領域の面積との面積和に対する前記疎水性領域の面積の比が、0.02~0.95である、細胞シート形成用の細胞培養部材。
【請求項2】
前記親水性領域に加えて、前記疎水性領域の前記凸部の頂部又は前記複数の凹部の間の凸部の頂部以外が親水性コーティング層で覆われている、請求項1に記載の細胞シート形成用の細胞培養部材。
【請求項3】
前記複数の凸部の平均高さ又は前記複数の凹部の平均深さが、前記親水性コーティング層の厚みより大きい、請求項1
又は2に記載の細胞シート形成用の細胞培養部材。
【請求項4】
前記疎水性領域が、前記基材の厚み方向で前記親水性領域に対して相対的に高い位置にある、請求項1~3のいずれか一項に記載の細胞シート形成用の細胞培養部材。
【請求項5】
前記基材が、ポリエチレンテレフタラート、トリアセチルセルロース、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー、アクリル樹脂、ポリスチレン及びジメチルポリシロキサンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の樹脂を含む、請求項1~
4のいずれか一項に記載の細胞シート形成用の細胞培養部材。
【請求項6】
基材を有する細胞培養部材の製造方法であって、
前記基材の表面に、親水性領域と前記親水性領域より前記基材の厚み方向で相対的に高低差を設けた位置にある疎水性領域とを形成し、かつ、前記疎水性領域に複数の凸部又は複数の凹部を含む微細凹凸構造領域を形成し、
次いで、前記表面の全体に親水性付与液を塗布すること
により、前記複数の凸部の頂部又は前記複数の凹部の間の凸部の頂部を除いて親水性コーティング層を形成することを特徴とする、細胞シート形成用の細胞培養部材の製造方法。
【請求項7】
前記疎水性領域に形成した複数の凸部の平均高さ又は前記複数の凹部の平均深さより小さい厚みで、前記親水性付与液を、前記表面の全体に塗布する、請求項6に記載の細胞シート形成用の細胞培養部材の製造方法。
【請求項8】
前記疎水性領域を、前記基材の厚み方向で前記親水性領域に対して相対的に高い位置に形成する、請求項6又は7に記載の細胞シート形成用の細胞培養部材の製造方法。
【請求項9】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の細胞シート形成用の細胞培養部材を備えた、培養容器。
【請求項10】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の細胞シート形成用の細胞培養部材を用いて細胞を培養し、次いで、前記細胞培養部材から培養細胞を剥離する、培養細胞の生産方法。
【請求項11】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の細胞シート形成用の細胞培養部材と、
前記細胞培養部材に付着した細胞と、
を備えた、細胞培養部材付き培養細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞シート形成用の細胞培養部材、細胞シート形成用の細胞培養部材の製造方法、培養容器、培養細胞の生産方法、細胞培養部材付き培養細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞の培養技術が種々の産業分野で利用されている。例えば、特許文献1では、培養細胞の配向性を制御するための細胞培養部材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の細胞培養部材は複数の平坦部と複数の凹凸部とを有し、この凹凸部において培養細胞の伸長方向を揃えて培養細胞の配向性を制御している。
しかし、本発明者らの検討によれば、特許文献1の細胞培養部材には、培養細胞の接着領域を限定しながら、培養細胞の配向性を制御する点で改善の余地がある。加えて、細胞シート形成用の細胞培養部材には製造時の工業的な量産性も求められる。
本発明は、培養細胞の配向性と接着領域を制御でき、工業的な量産性に優れる細胞シート形成用の細胞培養部材;及びその製造方法;前記細胞シート形成用の細胞培養部材を備えた培養容器;前記細胞シート形成用の細胞培養部材を用いる培養細胞の生産方法;並びに前記細胞シート形成用の細胞培養部材を備えた細胞培養部材付き培養細胞を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は下記の態様を有する。
[1] 基材を有する細胞培養部材であって;前記基材の表面に、親水性領域と疎水性領域とが形成され;前記疎水性領域が、前記基材の厚み方向で前記親水性領域に対して相対的に高低差を設けた位置にあり;前記疎水性領域の少なくとも一部に、複数の凸部又は複数の凹部を含む微細凹凸構造領域が形成され;前記細胞培養部材を平面視した際の前記親水性領域の面積と前記疎水性領域の面積との面積和に対する前記疎水性領域の面積の比が、0.02~0.95である、細胞シート形成用の細胞培養部材。
[2] 前記親水性領域と前記疎水性領域との間の高低差が、100nm~10μmである、[1]の細胞シート形成用の細胞培養部材。
[3] 前記複数の凸部の平均高さ又は前記複数の凹部の平均深さが、100nm以上である、[1]又は[2]の細胞シート形成用の細胞培養部材。
[4] 基材を有する細胞培養部材であって;前記基材の表面に、親水性領域と疎水性領域とが形成され;前記疎水性領域の少なくとも一部に、複数の凸部又は複数の凹部を含む微細凹凸構造領域が形成され;前記複数の凸部の平均高さ又は前記複数の凹部の平均深さが、100nm以上であり;前記細胞培養部材を平面視した際の前記親水性領域の面積と前記疎水性領域の面積との面積和に対する前記疎水性領域の面積の比が、0.02~0.95である、細胞シート形成用の細胞培養部材。
[5] 前記親水性領域と前記疎水性領域との間の高低差の絶対値が、0~10μmである、[4]の細胞シート形成用の細胞培養部材。
[6] 前記親水性領域には、親水性コーティング層が設けられている、[1]~[5]のいずれかの細胞シート形成用の細胞培養部材。
[7] 前記親水性領域及び前記疎水性領域の両方に、親水性コーティング層が設けられている、[1]~[6]のいずれかの細胞シート形成用の細胞培養部材。
[8] 前記複数の凸部の平均高さ又は前記複数の凹部の平均深さが、前記親水性コーティング層の厚みより大きい、[1]~[7]のいずれかの細胞シート形成用の細胞培養部材。
[9] 前記疎水性領域の前記微細凹凸構造領域の前記複数の凸部の間の凹部に、又は前記複数の凹部の底部に、親水性層が形成されている、[1]~[8]のいずれかの細胞シート形成用の細胞培養部材。
[10] 前記基材が、ポリエチレンテレフタラート、トリアセチルセルロース、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー、アクリル樹脂、ポリスチレン及びジメチルポリシロキサンからなる群から選ばれる少なくとも1種以上の樹脂を含む、[1]~[9]のいずれかの細胞シート形成用の細胞培養部材。
[11] 基材を有する細胞培養部材の製造方法であって;前記基材の表面に、親水性領域と前記親水性領域より前記基材の厚み方向で相対的に高低差を設けた位置にある疎水性領域とを形成し、かつ、前記疎水性領域に複数の凸部又は複数の凹部を含む微細凹凸構造領域を形成し;次いで、前記表面の全体に親水性付与液を塗布することを特徴とする、細胞シート形成用の細胞培養部材の製造方法。
[12] 前記親水性領域と前記疎水性領域との間の高低差を前記基材の厚み方向で100nm~10μmとする、[11]の細胞シート形成用の細胞培養部材の製造方法。
[13] 前記複数の凸部の平均高さ又は前記複数の凹部の平均深さを100nm以上とする、[11]又は[12]の細胞シート形成用の細胞培養部材の製造方法。
[14] 基材を有する細胞培養部材の製造方法であって;前記基材の表面を、親水性領域と疎水性領域とに区分して、平均高さが100nm以上である複数の凸部又は平均深さが100nm以上である複数の凹部を含む微細凹凸構造領域を前記疎水性領域に形成し;次いで、前記表面の全体に親水性付与液を塗布することを特徴とする、細胞シート形成用の細胞培養部材の製造方法。
[15] 前記親水性領域と前記疎水性領域との間の高低差の絶対値を前記基材の厚み方向で0~10μmとする、[14]の細胞シート形成用の細胞培養部材の製造方法。
[16] [1]~[10]のいずれかの細胞シート形成用の細胞培養部材を備えた、培養容器。
[17] [1]~[10]のいずれかの細胞シート形成用の細胞培養部材を用いて細胞を培養し、次いで、前記細胞シート形成用の細胞培養部材から培養細胞を剥離する、培養細胞の生産方法。
[18] [1]~[10]いずれかの細胞シート形成用の細胞培養部材と;前記細胞培養部材に付着した細胞と;を備えた、細胞培養部材付き培養細胞。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、培養細胞の配向性と接着領域を制御でき、工業的な量産性に優れる細胞シート形成用の細胞培養部材;及びその製造方法;前記細胞シート形成用の細胞培養部材を備えた培養容器;前記細胞シート形成用の細胞培養部材を用いる培養細胞の生産方法;並びに前記細胞シート形成用の細胞培養部材を備えた細胞培養部材付き培養細胞が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】細胞シート形成用の細胞培養部材の一例を模式的に示す拡大平面図である。
【
図3】細胞シート形成用の細胞培養部材の一例を模式的に示す拡大平面図である。
【
図5】細胞シート形成用の細胞培養部材の一例を模式的に示す拡大平面図である。
【
図7】細胞シート形成用の細胞培養部材の一例を模式的に示す拡大平面図である。
【
図9】細胞シート形成用の細胞培養部材の一例を模式的に示す拡大平面図である。
【
図11】細胞シート形成用の細胞培養部材の一例を模式的に示す拡大平面図である。
【
図13】細胞シート形成用の細胞培養部材の一例を模式的に示す拡大平面図である。
【
図15】実施例1の細胞シート形成用の細胞培養部材を用いて培養細胞を得た観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<細胞シート形成用の細胞培養部材>
以下、一実施形態に係る細胞シート形成用の細胞培養部材について説明する。以下、本明細書において「一実施形態に係る細胞シート形成用の細胞培養部材」を単に「一実施形態に係る細胞培養部材」と記載する。
【0009】
一実施形態に係る細胞培養部材は、基材を有する。基材の材質は特に限定されないが、樹脂基材が挙げられる。中でも、基材としては、工業的な量産性の点から疎水性の基材が好ましく、成形性、製造コストの点から樹脂基材がより好ましい。
【0010】
樹脂基材を構成する樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂の硬化物、光硬化性樹脂の硬化物等が挙げられる。例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、アクリル樹脂(ポリメチルメタクリレート(PMMA)等)、ポリスチレン(PS)及びジメチルポリシロキサン(PDMS)からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の樹脂を含む基材が好ましい。
【0011】
基材の全体的な形状は特に限定されない。例えばフィルム状、シート状、プレート状、ブロック状が挙げられる。
基材の全体的な形状は培養細胞、培養細胞の用途に応じて変更してもよい。例えば、培養細胞シートを製造する場合、基材の全体的な形状はシート状が好ましい。全体的な形状がシート状である基材は「シート状基材」と称されることがある。
【0012】
基材の表面には、親水性領域と疎水性領域とが形成されている。親水性領域は細胞培養部材の表面において親水性を示す領域である。一方、疎水性領域は細胞培養部材の表面において疎水性を示す領域である。
この親水性、疎水性の表面性状の違いにより、親水性領域と疎水性領域とで細胞の接着性に差異が生じる。したがって、一実施形態に係る細胞培養部材によれば、疎水性領域に細胞を選択的に集合させることができ、疎水性領域にて培養細胞を接着させて接着領域と配向性を制御できる。
【0013】
一実施形態に係る細胞培養部材において、親水性領域、疎水性領域は以下のように定義可能である。基材に水滴を落としたときの液滴と基材の表面とで形成される接触角は、値が大きいほど当該表面は疎水性であり、値が小さいほど当該表面は親水性である。一実施形態では、基材上の性質の異なる2つの表面領域の接触角を測定し、相対的に接触角の値の大きい表面領域を疎水性領域とし、値の小さい表面領域を親水性領域とする。
一実施形態において、疎水性の基材の表面に微細凹凸構造を形成すると、その表面の接触角は、元の平坦な基材の接触角より大きくなり、さらに疎水性を示すように変化する場合がある。この場合、微細凹凸構造が形成された表面領域を疎水性領域とし、元の平坦な表面領域を親水性領域とする。
【0014】
一実施形態に係る細胞培養部材において、親水性領域には親水性コーティング層が形成されている。親水性コーティング層は親水性材料の層であり、細胞培養部材の表面に親水性を付与する。
親水性材料は、水酸基、カルボニル基、カルボキシ基等の親水性官能基を有するものであれば特に限定されない。例えば、リン脂質類似構造を持つMPCポリマー等の生体適合性ポリマーが挙げられる。細胞毒性が低く、細胞の非特異的接着を抑制できることから、生体適合性ポリマーが好ましい。生体適合性ポリマーの種類は特に限定されないが、例えば、ジメチルポリシロキサン(PDMS)、ポリエチレングリコール(PEG)、オリゴエチレングリコール(OED)、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)、ポリ(MPC-co-ブチルメタクリレート)(PMB)、ポリ(MPC-co-ドデシルメタクリレート)(PMD)等が挙げられる。
親水性材料として、PREVELEX(登録商標、日産化学社製)、LIPIDURE(登録商標、日油社製)、RX-6-GBシリーズ、RX-6-GAシリーズ(登録商標、日本触媒社製)等の市販品を使用してもよい。
【0015】
一実施形態に係る細胞培養部材において、親水性コーティング層が基材の表面の一部に設けられ、親水性領域を形成している。親水性コーティング層が設けられている場合、親水性領域の表面は親水性コーティング層の表面である。
親水性領域に設けられる親水性コーティング層の厚みは、0.005~0.500μmが好ましく、0.005~0.300μmがより好ましく、0.010~0.100μmがさらに好ましい。親水性コーティング層の厚みが前記数値範囲の下限値以上であると、親水性領域が充分な親水性を示しやすい。親水性コーティング層の厚みが前記数値範囲の上限値以下であると、生産コストを低減しやすい。
【0016】
親水性コーティング層の厚みは、基材の基底面と親水性コーティング層の上面との間の最短距離として測定する。本明細書において「基材の基底面」とは、親水性領域又は疎水性領域の基材の表面が平坦面である場合は、当該基材の平坦面そのものである。親水性領域又は疎水性領域の基材の表面に微細凹凸構造が形成されている場合は、「基材の基底面」とは、当該表面から凸部を全て除いた面、又は、当該表面の凹部をすべて埋めて形成される面である。
【0017】
一実施形態に係る細胞培養部材において、親水性領域及び疎水性領域の両方に、親水性コーティング層が形成されていてもよい。この場合、疎水性領域における微細凹凸構造領域が細胞に対する接着性を示すように、微細凹凸構造領域の複数の凸部又は複数の凹部の一部の表面に親水性コーティング層が形成されている。
【0018】
一実施形態に係る細胞培養部材においては、平面視した際の親水性領域の面積S1と疎水性領域の面積S2との面積和に対する疎水性領域の面積S2の比(S2/(S1+S2))が0.02~0.95であり、0.10~0.80が好ましく、0.30~0.70がより好ましく、0.40~0.60がさらに好ましい。前記比(S2/(S1+S2))が前記下限値以上であるため、親水性領域、疎水性領域の間で細胞に対する接着性の差異が生じ、培養細胞の配向性と接着領域の制御が可能となる。また、疎水性領域の割合が充分となり、細胞培養部材が培養細胞の接着性に優れる。
比(S2/(S1+S2))が前記上限値以下であるため、親水性領域、疎水性領域の間で細胞に対する接着性の差異が生じ、培養細胞の配向性と接着領域の制御が可能となる。
【0019】
細胞培養部材を平面視した際の親水性領域の面積S1、疎水性領域の面積S2は、次のように求められる。疎水性領域は、後述の微細凹凸構造によって起こる光学干渉色の着色があるため、親水性領域と区別することができる。基材の低倍率の顕微鏡画像を撮像し、透明な親水性領域の面積S1と光学干渉色の疎水性領域の面積S2を計測することで面積を求める。
一実施形態に係る細胞培養部材において、親水性領域が2以上存在する場合、各親水性領域の面積の総和を面積S1とする。また、疎水性領域が2以上存在する場合、各疎水性領域の面積の総和を面積S2とする。
【0020】
一実施形態に係る細胞培養部材の平面視において、親水性領域及び疎水性領域の形状は特に限定されない。親水性領域及び疎水性領域の形状は、例えば、円形状でもよく、楕円形状でもよく、多角形状でもよく、帯状(ストライプ状)でもよく、不定形でもよく、これらの例示にも限定されない。
また、親水性領域及び疎水性領域の数は特に限定されない。親水性領域及び疎水性領域は少なくとも1以上それぞれ形成されていればよい。
【0021】
一実施形態に係る細胞培養部材は、細胞シート形成用である。細胞シートとは、細胞が疎水性領域において細胞培養部材と接着し、細胞同士が接着した薄膜状のシートである。細胞シートは細胞の単層膜でもよく、複数の細胞が積層された状態でもよい。シートの形状は、特に限定されないが、連続した1枚のシートでも複数の短冊状のシートでもよい。
【0022】
親水性領域と疎水性領域との間には高低差があってもよく、高低差がなくてもよい。「親水性領域と疎水性領域との間の高低差」とは、親水性領域及び疎水性領域における各基材の基底面同士の高さの差である。基底面の定義については上述の通りである。
【0023】
一実施形態に係る細胞培養部材において疎水性領域の少なくとも一部には、複数の凸部又は複数の凹部を含む微細凹凸構造領域が形成されている。複数の凸部からなる微細凹凸構造領域においては、複数の凸部同士の間に複数の凹部が形成され、複数の凹部からなる微細凹凸構造領域においては、複数の凹部同士の間に連続した凸部が形成される。
複数の凸部及び複数の凹部を含む微細凹凸構造(いわゆるモスアイ構造)は、培養時に細胞を支える構造となり得る。そのため微細凹凸構造は、細胞外マトリクスのように細胞の足場として機能し得る。したがって、微細凹凸構造領域は疎水性領域の中でも相対的に高い細胞接着性を示し得る。
【0024】
微細凹凸構造領域は疎水性領域内の少なくとも一部に形成されていればよく、疎水性領域の全体に形成されていてもよい。疎水性領域において微細凹凸構造領域の占める割合は特に限定されず、培養細胞の種類、形態、性状に応じて変更できる。
疎水性領域の一部に微細凹凸構造領域が形成されている場合には、微細凹凸構造領域の有無によって細胞に対する接着性の差異が疎水性領域の中でも生じ得る。この場合、疎水性領域の中でも微細凹凸構造領域に細胞をさらに選択的に集合させやすくなり、培養細胞の接着領域や配向性の制御がさらに容易となる。
【0025】
微細凹凸構造領域の形状は特に限定されず、所望する培養細胞の種類、形態、性状に応じて変更できる。例えば、生体組織において方向性や形態に基づいて機能を発現する細胞を培養する場合、微細凹凸構造領域の形状でその生体内の細胞の方向性や形態を再現するのが好ましいと考えられる。例えば、心筋細胞,骨格筋細胞,神経細胞等の細胞の培養においては、微細凹凸構造領域の形状を帯状、ストライプ状とするのが好ましいと考えられる。
【0026】
微細凹凸構造領域の凸部、凹部の形状は特に限定されない。凸部、凹部の形状は、円錐形状でもよく、円柱形状でもよく、円錐台形状でもよく、角錐形状でもよく、角錐台形状でもよく、釣鐘形状でもよく、これら例示した形状にも限定されない。
【0027】
複数の凸部間又は複数の凹部間の平均ピッチは50nm~5μmが好ましく、100nm~2μmがより好ましく、200nm~1μmがさらに好ましい。
前記平均ピッチが前記数値範囲の下限値以上であると、微細凹凸構造領域を形成しやすく、工業的な量産性がよくなる。前記平均ピッチが前記数値範囲の上限値以下であると、微細凹凸構造領域に対する細胞の接着性がさらによくなる。
【0028】
複数の凸部間の平均ピッチは、次のように求められる。走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて細胞培養部材を平面視で観察し、複数の凸部が50~100個撮像される倍率範囲の複数の画像において20個の凸部を無作為に選び、隣り合う2つの凸部の平面視における外接楕円の中心同士の間の最短距離の相加平均値を複数の凸部間の平均ピッチとする。
【0029】
複数の凹部間の平均ピッチは、隣り合う2つの凹部の平面視における外接楕円の中心同士の間の最短距離を測定する以外は複数の凸部間の平均ピッチと同様にして求められる。複数の凹部間の平均ピッチの詳細及び好ましい態様は、複数の凸部間の平均ピッチについて説明した内容と同様である。
【0030】
複数の凸部又は複数の凹部の平均直径は、50nm~5μmが好ましく、100nm~2μmがより好ましく、200nm~1μmがさらに好ましい。前記平均直径が前記数値範囲の下限値以上であると、微細凹凸構造領域を形成しやすく、工業的な量産性がよくなる。前記平均直径が前記数値範囲の上限値以下であると、微細凹凸構造領域に対する細胞の接着性がさらによくなる。
【0031】
複数の凸部の平均直径は、次のように求められる。走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて細胞培養部材を平面視して観察し、複数の凸部が50~100個撮像される倍率範囲の複数の画像において20個の凸部を無作為に選び、20個の凸部の平面視における外接楕円の長軸及び短軸を測定し、その長軸及び短軸の相乗平均値を複数の凸部の平均直径とする。
【0032】
複数の凹部の平均直径は、凹部の平面視における外接楕円の長軸及び短軸を測定する以外は凸部の平均直径と同様にして求められる。複数の凹部の平均直径の詳細及び好ましい態様は、複数の凸部の平均直径について説明した内容と同様である。
【0033】
一実施形態に係る細胞培養部材においては、疎水性領域の微細凹凸構造領域の複数の凸部の間の凹部又は複数の凹部の底部に、親水性層が形成されてもよい。
親水性層は親水性材料の層である。親水性材料の詳細及び好ましい態様は、親水性コーティング層について説明した内容と同様である。親水性層における親水性材料は親水性コーティング層の親水性材料と同一の材料でもよく、異なる材料でもよい。親水性層における親水性材料が親水性コーティング層の親水性材料と同一であると、工業的な量産性がさらに優れる。
【0034】
一実施形態に係る細胞培養部材においては、疎水性領域の表面には細胞の接着性を高めるために接着因子の層が設けられてもよい。接着因子としては、ラミニン、コラーゲン、ゼラチン、フィブロネクチン、ポリリシン(PDL、PLL)、ヒアルロン酸等の細胞外マトリックス、ポリマー、ゲル等が挙げられる。
【0035】
(作用効果)
一実施形態に係る細胞培養部材においては、基材の表面に少なくとも1以上の親水性領域と少なくとも1以上の疎水性領域が形成され、当該疎水性領域の少なくとも一部に微細凹凸構造領域が形成されている。そのため、親水性領域と比較して疎水性領域に細胞が相対的に接着しやすく、疎水性領域の中でも微細凹凸構造領域に細胞がさらに接着しやすい。また、疎水性領域の面積の比(S2/(S1+S2))が充分に大きいから、疎水性領域における培養細胞の接着性がよくなり、疎水性領域を細胞の接着領域とすることができる。
加えて、疎水性領域の面積の比(S2/(S1+S2))が過度に大きすぎないから、親水性領域、疎水性領域、微細凹凸構造領域の間で細胞に対する接着性の差異が充分に生じる。
したがって、一実施形態に係る細胞培養部材によれば、培養細胞の配向性と接着領域を制御できる。
【0036】
一実施形態に係る細胞培養部材は、下記の2つの実施形態に係る細胞培養部材(P1)、(P2)に関する。
第1実施形態に係る細胞培養部材(P1):疎水性領域が基材の厚み方向で親水性領域に対して相対的に高低差を設けた位置にある細胞培養部材。
第2実施形態に係る細胞培養部材(P2):微細凹凸構造領域における複数の凸部の平均高さ又は複数の凹部の平均深さが100nm以上である細胞培養部材。
【0037】
(第1実施形態に係る細胞培養部材(P1))
第1実施形態に係る細胞培養部材(P1)において、疎水性領域は基材の厚み方向で親水性領域より相対的に高低差を設けた位置にある。ここで、疎水性領域の高さ位置は、微細凹凸構造領域の基底面の高さ位置とする。したがって、細胞培養部材(P1)においては、微細凹凸構造領域の基底面が親水性領域の表面より基材の厚み方向で高い位置又は低い位置にある。
【0038】
細胞培養部材(P1)によれば、疎水性領域が親水性領域と基材の厚み方向で相対的に高低差を設けた位置にある。加えて、基材の疎水性領域には微細凹凸構造領域が形成されているから、製造時に基材の表面の全体に親水性付与液を塗布した後に、親水性付与液は表面張力(表面積)を最小化するため、疎水性領域の微細凹凸構造の高い位置から低い位置に移行し、同時に高い位置の領域から低い位置の領域に移行する。
したがって、親水性領域及び疎水性領域の形成に際し、親水性付与液を基材の表面の全面に塗工するという一体的な処理が可能となる。その結果、親水性付与液を特定の領域のみに選択塗布する必要性がなくなり、細胞培養部材の生産性が向上し、工業的な量産性が向上する。
【0039】
細胞培養部材(P1)において、親水性領域と疎水性領域との間の高低差は100nm~10μmが好ましく、300nm~5μmがより好ましく、400nm~1μmがさらに好ましい。高低差が前記数値範囲の下限値以上であると、製造時に親水性付与液が高い位置の領域から低い位置の領域にさらに移行しやすくなる。そのため細胞培養部材をさらに製造しやすく、工業的な量産性がさらに優れる。高低差が前記数値範囲の上限値以下であると、疎水性領域への細胞の移動が妨げられにくい。
【0040】
細胞培養部材(P1)における微細凹凸構造領域において、複数の凸部の平均高さ又は複数の凹部の平均深さは100nm以上が好ましく、200nm~2μmがより好ましく、400nm~1μmがさらに好ましい。複数の凸部の平均高さ又は複数の凹部の平均深さが前記数値範囲の下限値以上であると、微細凹凸構造領域の凸部及び凹部を形成しやすく、工業的な量産性がさらによくなる。また、製造時に塗布した親水性付与液が疎水性領域の微細凹凸構造の高い位置から低い位置に流出しやすくなることで、複数の微細凹凸構造の凸部の頂部や凹部の基底面では親水性付与液の塗布層の厚さが薄くなり細胞が接着しやすくなる。
一方、複数の凸部の平均高さ又は複数の凹部の平均深さが前記数値範囲の上限値以下であると、微細凹凸構造領域に対する細胞の接着性がさらによくなる。
【0041】
複数の凸部の平均高さ又は複数の凹部の平均深さは親水性コーティング層の厚みより大きいことが好ましい。複数の凸部の頂部又は複数の凹部の基底面が、製造時に塗布した親水性付与液の塗布層の厚さが薄くなり細胞が接着しやすくなっていたことが推測されるからである。
【0042】
複数の凸部の平均高さと複数の凹部の平均深さは、次のように求められる。細胞培養部材をミクロトーム又はCP加工(イオンミリング)等によって任意の位置で表面に対して垂直に切り出し、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察する。凸部又は凹部が20~50個撮像される倍率範囲の複数の画像において20個の凸部又は凹部を無作為に選び、凸部の高さ又は凹部の深さを測定し、その相加平均値を複数の凸部の平均高さ又は複数の凹部の平均深さとする。ここで各凸部の高さは、凸部の頂点と微細凹凸構造領域の基底面との間の基材の厚み方向の最短距離として測定し、各凹部の高さは、凹部の頂点と基材表面間の基材の厚み方向の最短距離として測定する。
【0043】
細胞培養部材(P1)において、複数の凸部の平均直径に対する複数の凸部の平均高さのアスペクト比、又は、複数の凹部の平均直径に対する複数の凹部の平均深さのアスペクト比は、0.5~5.0が好ましく、0.6~4.0がより好ましく、0.8~3.0がさらに好ましい。
前記アスペクト比が前記数値範囲の下限値以上であると、微細凹凸構造領域に対する細胞の接着性がさらによくなる。前記アスペクト比が前記数値範囲の上限値以下であると、微細凹凸構造領域を形成しやすく、工業的な量産性がさらによくなる。
【0044】
(第2実施形態に係る細胞培養部材(P2))
第2実施形態に係る細胞培養部材(P2)において、微細凹凸構造領域における複数の凸部の平均高さ又は複数の凹部の平均深さは100nm以上である。
細胞培養部材(P2)においては、微細凹凸構造領域の存在により、製造時に基材の表面の全体に親水性付与液を塗布した後に、親水性付与液は疎水性領域の表面に留まりにくく、親水性領域へと容易に流出する。
加えて、細胞培養部材(P2)において、微細凹凸構造領域における複数の凸部の平均高さ又は複数の凹部の平均深さが100nm以上である。そのため、塗布層の親水性付与液が疎水性領域の微細凹凸構造の高い位置から低い位置に流出することで、複数の凸部の頂部又は複数の凹部の基底面において親水性付与液の塗布層の厚さが薄くなり、細胞が接着しやすくなる。
したがって、親水性領域及び疎水性領域の形成に際し、親水性付与液を基材の表面の全面に塗工するという一体的な処理が可能となる。その結果、細胞培養部材の生産性が向上し、工業的な量産性が優れる。
【0045】
細胞培養部材(P2)において、複数の凸部の平均高さは100nm~2μmが好ましく、200nm~2μmがより好ましく、400nm~1μmがさらに好ましい。複数の凸部の平均高さ又は複数の凹部の平均深さが前記数値範囲の下限値以上であると、微細凹凸構造領域の凸部及び凹部を形成しやすく、工業的な量産性がさらによくなるという利点もある。一方、複数の凸部の平均高さ又は複数の凹部の平均深さが前記数値範囲の上限値以下であると、微細凹凸構造領域に対する細胞の接着性がさらによくなる。
【0046】
細胞培養部材(P2)においても、複数の凸部の平均高さ又は複数の凹部の平均深さは親水性コーティング層の厚みより大きいことが好ましい。複数の凸部の頂部又は複数の凹部の基底面が、製造時に塗布した親水性付与液の塗布層の厚さが薄くなり、細胞が接着しやすくなることが推測されるからである。
細胞培養部材(P2)においても、複数の凸部の平均高さ又は複数の凹部の平均深さは細胞培養部材(P1)と同様にして求められる。また、細胞培養部材(P2)における複数の凸部又は複数の凹部のアスペクト比の詳細及び好ましい態様も、細胞培養部材(P1)と同様である。
【0047】
細胞培養部材(P2)において、疎水性領域と親水性領域との高さ方向(すなわち、基材の厚み方向)の位置関係は特に限定されない。すなわち細胞培養部材(P2)において、疎水性領域は親水性領域より基材の厚み方向で高い位置にあってもよく、親水性領域より低い位置にあってもよく、親水性領域と疎水性領域とが同じ高さ位置にあってもよい。
【0048】
細胞培養部材(P2)に工業的な量産性のさらなる向上を求めるなら、疎水性領域が基材の厚み方向で親水性領域と高低差がある位置にあるとよい。製造時に基材の表面の全体に親水性付与液を塗布した後に、親水性付与液が高い位置の領域から低い位置の領域に移行しやすく、製造しやすいからである。
【0049】
細胞培養部材(P2)において、親水性領域と疎水性領域との間の高低差の絶対値は0~10μmが好ましく、300nm~5μmがより好ましく、500nm~1μmがさらに好ましい。高低差が前記数値範囲の範囲内であると、製造時に基材の表面の全体に親水性付与液を塗布した後に、親水性付与液は表面張力を最小化するため(表面積を最小化するため)、高い位置の領域から低い位置の領域に移行しやすい。そのため細胞培養部材を製造しやすく、工業的な量産性がさらに優れる。高低差が前記数値範囲の上限値以下であると、疎水性領域への細胞の移動が妨げられにくい。
【0050】
親水性領域と疎水性領域との間の高低差が0である場合、親水性領域における基材の表面の高さが疎水性領域における微細凹凸構造領域の基底面と一致する。この場合、微細凹凸構造領域の複数の凸部の高さは、親水性コーティング層の厚みより大きいことが好ましい。
【0051】
(実施形態例)
以下、一実施形態に係る細胞培養部材について実施形態例を例示して適宜図面を参照しながら説明する。ただし、一実施形態に係る細胞培養部材は、以下の実施形態例に限定されない。
図1~
図14における寸法比は、説明の便宜上のものであり、実際のものとは異なったものである。また、以下の図面において、同一の構成については同じ符号を用いて示し、重複する構成について説明を省略することがある。
【0052】
[実施形態例1]
図1は、細胞培養部材の一例を模式的に示す拡大平面図である。
図2は、
図1のII-II断面図である。
図1、
図2に示す細胞培養部材1Aにおいては、基材2の表面2aに親水性領域3Aと疎水性領域4Aとが形成されている。
【0053】
細胞培養部材1Aの平面視において、疎水性領域4A,4Aが帯状に形成されている。帯状の各疎水性領域の外側には親水性領域3Aが形成され、疎水性領域4A,4Aの間にも親水性領域3Aが形成されている。
【0054】
各親水性領域3Aは基材2の表面2aに設けられた親水性コーティング層5Aでそれぞれ覆われている。各親水性領域3Aはこの親水性コーティング層5Aによって親水性を示す。
親水性コーティング層5Aの厚みは、0.005~0.500μmが好ましく、0.005~0.300μmがより好ましく、0.010~0.100μmがさらに好ましい。
【0055】
細胞培養部材1Aにおいては、疎水性領域4Aの全体が凸型の微細凹凸構造領域6Aとなっている。疎水性領域4Aは、基材2の表面2aに形成された微細凹凸構造領域6Aにより疎水性を示す。
微細凹凸構造領域6Aは複数の円錐形状の凸部7Aを含む。微細凹凸構造領域6Aの複数の凸部7Aの間の凹部9Aには、親水性層8が形成されている。
【0056】
微細凹凸構造領域6Aにおける微細凹凸構造により、製造時に使用する親水性付与液は微細凹凸構造領域6Aの表面に留まりにくく、親水性領域3Aへと容易に流出する。
その結果、親水性付与液の塗布層は複数の凸部7Aの頂部ではより薄い膜を形成している。その後、親水性付与液が複数の凸部7Aの間の凹部9Aを部分的に満たした状態で固化すると、疎水性の複数の凸部7Aの頂部と凸部7Aの間の凹部9Aでは厚さの異なる親水化層8が形成される。
【0057】
このように親水性層8は、基材2の表面2aの全体に塗布した親水性付与液のうち、親水性領域3Aに移行せずに微細凹凸構造領域6Aに残存した液が固化したものであるとも言える。
親水性層8の厚みは複数の凸部7Aの平均高さより小さい。
微細凹凸構造領域6Aにおいては、複数の凸部7A及び複数の凹部9Aの上側の1/2~1/3には親水性層が付着していない場合もある。また、凸部7Aの側面は親水性層8によって薄く被覆され、凹部9Aの底部に近づくほど、親水性層8が厚くなる。
親水性層8の厚みは複数の凸部7Aの平均高さに対して80%以下が好ましく、50%以下が望ましい。親水性層8の厚みは、凹部9Aにおける最大厚みとする。
【0058】
また、疎水性領域4Aの面積の比(S2/(S1+S2))は、0.02~0.95であり、0.10~0.80が好ましく、0.30~0.70がより好ましく、0.40~0.60がさらに好ましい。面積の比(S2/(S1+S2))が前記数値の範囲内であるから、親水性領域3A、疎水性領域4Aにおける細胞の接着性に差異が生じる。その結果、培養細胞の伸長方向を疎水性領域4Aで制御して培養細胞の配向性と接着領域の制御が可能となる。
加えて細胞培養部材1Aにおいては、培養細胞が帯状の微細凹凸構造領域6Aの凸部7の表面に集まりやすい。そのため培養細胞の配向性を帯状に制御できる。
【0059】
細胞培養部材1Aにおいては、疎水性領域4Aは基材2の厚み方向で親水性領域3Aより高い位置にある。また、基材の疎水性領域には微細凹凸構造領域6Aが形成されているから、製造時に基材の表面の全体に親水性付与液を塗布した後に、親水性付与液が疎水性領域4Aから親水性領域3Aに移行する。
したがって、親水性領域3A及び疎水性領域4Aの形成に際し、親水性付与液を基材2の表面2aの全面に塗工するという一体的な処理が可能となる。その結果、生産性が向上するから、細胞培養部材1Aは工業的な量産性に優れる。
【0060】
細胞培養部材1Aにおいて、親水性領域3Aと疎水性領域4Aとの間の高低差hは100nm~10μmが好ましく、300nm~5μmがより好ましく、500nm~1μmがさらに好ましい。
細胞培養部材1Aにおいて「高低差h」とは、親水性領域3Aにおける基材2の表面2aと疎水性領域4Aにおける微細凹凸構造領域6Aの基底面との間の高さの差とする。
【0061】
帯状の微細凹凸構造領域6Aの幅Wは0.5~100μmが好ましく、1~50μmがより好ましく、5~30μmがさらに好ましい。幅Wが前記数値範囲の下限値以上であると、帯状の微細凹凸構造領域6Aを形成しやすく、工業的な量産性がよくなる。幅Wが前記数値範囲の上限値以下であると、培養細胞の配向性を容易に制御できる。
【0062】
細胞培養部材1Aにおいて、複数の凸部7Aの平均高さ又は複数の凹部9Aの平均深さは100nm以上が好ましく、200nm~2μmがより好ましく、400nm~1μmがさらに好ましい。
【0063】
[実施形態例2]
図3は、細胞培養部材の一例を模式的に示す拡大平面図である。
図4は、
図3のIV-IV断面図である。
図3、4に示す細胞培養部材1Bにおいては、基材2の表面2aに親水性領域3Bと疎水性領域4Bとが形成されている。疎水性領域4Bの外側にそれぞれ親水性領域3Bが形成されている。細胞培養部材1Bにおいて「高低差h」とは、親水性領域3Bにおける基材2の表面2aと疎水性領域4Bにおける微細凹凸構造領域6Bの基底面との間の高さの差とする。
【0064】
細胞培養部材1Bにおいても、面積の比(S2/(S1+S2))が所定の範囲内であるから、培養細胞の伸長方向を疎水性領域4Bで制御して培養細胞の配向性と接着領域の制御が可能となる。
加えて、疎水性領域4Bが基材2の厚み方向で親水性領域3Bより高い位置にあり、疎水性領域4Bには微細凹凸構造領域6Bが形成されているから、製造時に基材の表面の全体に親水性付与液を塗布した後に、親水性付与液が疎水性領域4Bから親水性領域3Bに移行する。
したがって、親水性領域3B及び疎水性領域4Bの形成に際し、親水性付与液を基材2の表面2aの全面に塗工するという一体的な処理が可能となる。その結果、生産性が向上するから、細胞培養部材1Bは工業的な量産性に優れる。
【0065】
[実施形態例3]
図5は、細胞培養部材の一例を模式的に示す拡大平面図である。
図6は、
図5のVI-VI断面図である。
図5、
図6に示す細胞培養部材1Cは、以下の3点で細胞培養部材1Bと相違し、その他の点では細胞培養部材1Bと共通の構成を備える。
・疎水性領域4Cが、基材2の表面2aより基材2の厚み方向で低い位置にある点。
・微細凹凸構造領域6Cの複数の凸部7Cの平均高さ又は複数の凹部9Cの平均深さが、100nm以上である点。
・親水性コーティング層5Cの厚みが、親水性コーティング層5B(
図4)の厚みより小さい点。
【0066】
細胞培養部材1Cにおいては、微細凹凸構造領域6Cにおける複数の凸部7Cの平均高さ又は複数の凹部9Cの平均深さが100nm以上である。そのため、複数の凸部7Cの頂部が、製造時に親水性付与液の塗布層の厚さが複数の凸部7Cの頂部において薄くなる。したがって、親水性領域及び疎水性領域の形成に際し、親水性付与液を基材の表面の全面に塗工するという一体的な処理が可能となる。その結果、細胞培養部材の生産性が向上し、工業的な量産性が優れる。
【0067】
疎水性領域4Cが基材2の表面2aより基材2の厚み方向で低い位置にある細胞培養部材1Cの製造においては、親水性付与液の塗布量が細胞培養部材1Bの製造と比較して少なくなる。その結果として、親水性コーティング層5Cの厚みが親水性コーティング層5Aの厚みより小さくなる。
【0068】
細胞培養部材1Cにおいて、親水性領域3Cと疎水性領域4Cとの間の高低差hは100nm~10μmが好ましく、300nm~5μmがより好ましく、500nm~1μmがさらに好ましい。
細胞培養部材1Cにおいて「高低差h」とは、親水性領域3Cにおける基材2の表面2aと疎水性領域4Cにおける微細凹凸構造領域6Cの基底面との間の高さの差とする。
【0069】
[実施形態例4]
図7は、細胞培養部材の一例を模式的に示す拡大平面図である。
図8は、
図7のVIII-VIII断面図である。
図7、
図8に示す細胞培養部材1Dは、以下の2点で細胞培養部材1Bと相違し、その他の点では細胞培養部材1Bと共通する構成を備える。
・親水性領域3Dに微細凹凸構造領域6Dが形成されている点。
細胞培養部材1Dにおいても、細胞培養部材1Bと同様の作用効果が得られる。
【0070】
微細凹凸構造領域6Dの複数の凸部7Dの平均高さ、凹部9Dの平均深さ、凸部7D及び凹部9Dの平均直径、平均ピッチは微細凹凸構造領域6Bと同一でもよく、異なっていてもよい。ただし、微細凹凸構造領域6Dの複数の凸部7Dの平均高さは親水性コーティング層5Dの厚みより小さい。そのため、微細凹凸構造領域6Dはコーティング層5Dの内部にある。
【0071】
細胞培養部材1Dにおいて、親水性領域3Dと疎水性領域4Bとの間の高低差hは100nm~10μmが好ましく、300nm~5μmがより好ましく、500nm~1μmがさらに好ましい。
細胞培養部材1Dにおいて「高低差h」とは、親水性領域3Dにおける微細凹凸構造領域6Dの基底面と疎水性領域4Bにおける微細凹凸構造領域6Bの基底面との間の高さの差とする。
【0072】
親水性領域3Dにおける親水性コーティング層5Dの厚みは、0.005~1.000μmが好ましく、0.050~0.700μmがより好ましく、0.100~0.500μmがさらに好ましい。親水性コーティング層5Dの厚みは、親水性領域3Dの表面と微細凹凸構造領域6Dの基底面との間の高さとする。
【0073】
[実施形態例5]
図9は、細胞培養部材の一例を模式的に示す拡大平面図である。
図10は、
図9のX-X断面図である。
図9、
図10に示す細胞培養部材1Eは、以下の2点で細胞培養部材1Aと相違し、その他の点では細胞培養部材1Aと共通の構成を備える。
・凹型の微細凹凸構造領域6Eが形成されている点。
・微細凹凸構造領域6Eの複数の凹部9Eの間に親水性層8が形成されている点。
【0074】
微細凹凸構造領域6Eにおいては、複数の凸部7及び複数の凹部9Eの上側の1/2~1/3には親水性層が付着していない。また、凸部の側面は親水性層8によって薄く被覆され、凹部の底部に近づくほど、親水性層8が厚くなる。
【0075】
細胞培養部材1Eにおいて「高低差h」とは、親水性領域3Aにおける基材2の表面2aと疎水性領域4Eにおける微細凹凸構造領域6Eの基底面との間の高さの差とする。微細凹凸構造領域6Eの基底面は、複数の凹部9Eをすべて埋めて形成される面である。
細胞培養部材1Eにおいても、細胞培養部材1Aと同様の作用効果が得られる。
【0076】
[実施形態例6]
図11は、細胞培養部材の一例を模式的に示す拡大平面図である。
図12は、
図11のXII-XII断面図である。
図11、
図12に示す細胞培養部材1Fは、以下の2点で細胞培養部材1Bと相違し、その他の点では細胞培養部材1Bと共通の構成を備える。
・凹型の微細凹凸構造領域6Fが形成されている点。
・微細凹凸構造領域6Fの複数の凹部9Fの間に親水性層8が形成されている点。
【0077】
細胞培養部材1Fにおいて「高低差h」とは親水性領域3Bにおける基材2の表面2aと疎水性領域4Fにおける微細凹凸構造領域6Fの基底面との間の高さの差とする。微細凹凸構造領域6Fの基底面は、複数の凹部9Fをすべて埋めて形成される面である。
細胞培養部材1Fにおいても、細胞培養部材1Bと同様の作用効果が得られる。
【0078】
[実施形態例7]
図13は、細胞培養部材の一例を模式的に示す拡大平面図である。
図14は、
図13のXIV-XIV断面図である。
図13、
図14に示す細胞培養部材1Gは、以下の2点で細胞培養部材1Dと相違し、その他の点では細胞培養部材1Dと共通の構成を備える。
・凹型の微細凹凸構造領域6Gが形成されている点。
・微細凹凸構造領域6Gの複数の凹部9の間に親水性層8が形成されている点。
【0079】
細胞培養部材1Gにおいて「高低差h」とは、親水性領域3Gにおける微細凹凸構造領域6Gの基底面と疎水性領域4Gにおける微細凹凸構造領域6Gの基底面との間の高さの差とする。微細凹凸構造領域6Gの基底面は、複数の凹部9Gをすべて埋めて形成される面である。
細胞培養部材1Gにおいても、細胞培養部材1Dと同様の作用効果が得られる。
【0080】
さらなる図示は省略するが、他の実施形態例においては、微細凹凸構造領域6の形状は任意の多角形、不定形等の幾何学的形状でもよい。
【0081】
<細胞培養部材の製造方法>
以下、一実施形態に係る細胞培養部材について説明する。
一実施形態に係る細胞培養部材の製造方法は、基材を有する細胞培養部材の製造方法である。基材の詳細及び好ましい態様は一実施形態に係る細胞培養部材の項で説明した内容と同様である。
【0082】
一実施形態に係る細胞培養部材の製造方法は、基材の表面の全体に親水性付与液を塗布することを特徴とする。親水性付与液の塗布層が乾燥して固化することで、基材の表面に親水性コーティング層が設けられ、親水性コーティング層の表面が親水性領域の表面となる。このとき、疎水性領域の微細凹凸構造領域の複数の凸部の間の凹部の間には親水性層が形成される。
親水性付与液は親水性材料を少なくとも含む液体である。親水性付与液は基材の表面に親水性を付与できる範囲内であれば、親水性材料以外の成分をさらに含んでもよい。親水性材料の詳細は、一実施形態に係る細胞培養部材の項で説明した内容と同様である。
【0083】
一実施形態に係る細胞培養部材の製造方法において基材の表面の全体に親水性付与液を塗布する際には、親水性付与液の塗布層の厚みが複数の凸部の平均高さより小さくなるように、親水性付与液の塗布量を調整することが好ましい。複数の凸部の頂部又は複数の凹部の基底面における塗布層の厚さが薄くなるからである。
【0084】
塗布方法は、基材の表面の全体に親水性付与液を塗布できれば特に限定されない。例えば、スピンコート、バーコート、スリットコート、ダイコート、ディップコート、スプレーコート、のほかマイクロコンタクトプリンティング、スクリーン印刷法等の各種印刷法等が挙げられる。ただし、塗布方法はこれらの例示に限定されない。
親水性付与液の塗布後には自然乾燥で親水性付与液を乾燥してもよく、加熱乾燥で親水性付与液を乾燥してもよく、乾燥方法は特に限定されない。
【0085】
一実施形態に係る細胞培養部材の製造方法は、下記の2つの実施形態に係る細胞培養部材の製造方法に関する。
第1実施形態に係る細胞培養部材の製造方法:基材の表面に、親水性領域と親水性領域より基材の厚み方向で高低差を設けた位置にある疎水性領域とを形成し、かつ、疎水性領域に複数の凸部又は複数の凹部を含む微細凹凸構造領域を形成し;次いで、基材の表面の全体に親水性付与液を塗布することを特徴とする細胞培養部材(Q1)の製造方法。
第2実施形態に係る細胞培養部材の製造方法:基材の表面を、親水性領域と疎水性領域とに区分して、疎水性領域に平均高さが100nm以上である複数の凸部を含む微細凹凸構造領域を形成し;次いで、基材の表面の全体に親水性付与液を塗布することを特徴とする、細胞培養部材(Q2)の製造方法。
【0086】
(第1実施形態に係る細胞培養部材の製造方法)
第1実施形態に係る細胞培養部材の製造方法では、基材の表面に、親水性領域と親水性領域より基材の厚み方向で相対的に高低差を設けた位置にある疎水性領域とを形成し、かつ、疎水性領域に複数の凸部又は複数の凹部を含む微細凹凸構造領域を形成する。そのため、基材の表面の全体に親水性付与液を塗布した後に、親水性付与液が厚み方向で高い位置の領域から低い位置の領域に移行する。
したがって、親水性領域及び疎水性領域の形成に際し、親水性付与液を基材の表面の全面に塗工するという一体的な処理が可能となる。その結果、細胞培養部材の生産性が向上し、工業的な量産性が優れる。
【0087】
第1実施形態に係る細胞培養部材の製造方法においては、親水性領域と疎水性領域との間の高低差を基材の厚み方向で100nm~10μmとするのが好ましく、300nm~5μmとするのがより好ましく、500nm~1μmとするのがさらに好ましい。親水性領域と疎水性領域との間の高低差を前記数値範囲の下限値以上にすると、親水性付与液が高い位置の領域から低い位置の領域にさらに移行しやすくなる。そのため細胞培養部材をさらに製造しやすく、工業的な量産性がさらに優れる。親水性領域と疎水性領域との間の高低差を前記数値範囲の上限値以下にすると、細胞培養部材(Q1)を細胞培養に使用した際に疎水性領域への細胞の移動が妨げられにくい。
【0088】
第1実施形態に係る細胞培養部材の製造方法においては、複数の凸部又は複数の凹部の平均高さを100nm以上とするのが好ましく、200nm~2μmがより好ましく、400nm~1μmとするのがさらに好ましい。複数の凸部の平均高さを前記数値範囲の下限値以上にすると、微細凹凸構造領域の凸部及び凹部を形成しやすく、工業的な量産性がさらによくなる。また、製造時に塗布した親水性付与液が疎水性領域の微細凹凸構造の高い位置から低い位置に流出することで、複数の凸部の頂部又は複数の凹部の基底面において親水性付与液の塗布層の厚さが薄くなり、細胞が接着しやすくなる。
一方、複数の凸部の平均高さを前記数値範囲の上限値以下にすると、細胞培養部材(Q1)を細胞培養に使用した際に微細凹凸構造領域に対する細胞の接着性がさらによくなる。
【0089】
基材の表面に、親水性領域と親水性領域より基材の厚み方向で高低差を設けた位置にある疎水性領域とを形成する方法は特に限定されない。例えば、細胞培養部材(Q1)と表面の微細凹凸構造、親水性領域と疎水性領域との間の高低差の位置関係が一致する原版(X1)を作製し、原版(X1)の表面形状及び表面構造を反転させたモールド(Y1)を原版(X1)から作製する方法が好ましい。モールド(Y1)をスタンパーとして繰り返し用いて基材に微細凹凸構造、親水性領域及び疎水性領域の間の高低差を転写できる点で、工業的な量産性がさらに優れるからである。この手法では原版(X1)の作製時に、親水性領域と疎水性領域の区分、厚み方向の位置関係が決定され得る。
【0090】
原版(X1)の作製方法は特に限定されない。気相エッチング、コロイダルリソグラフィー、陽極酸化、干渉露光等の手法によって基板(例えばSi基板)の表面に微細凹凸構造、親水性領域及び疎水性領域の間の高低差を形成してもよい。
原版(X1)の作製には、例えば、特開2009-034630号公報に記載のコロイダルシリカからなる単粒子膜エッチングマスクを用いてもよい。当該単粒子膜エッチングマスクを用いた気相エッチングによって基材に微細凹凸構造を均一にかつ高精度で形成できる。
【0091】
モールド(Y1)の作製方法は特に限定されない。例えば、微細凹凸構造等が形成された原版(X1)の表面に金属層を形成し、金属層に微細構造等を転写する。
金属層の形成方法としては、例えば、無電解メッキ又は金属蒸着によって金属層を原版(X1)の表面に設け、電解メッキによって金属層の厚さを増加させる方法が挙げられる。ただし、金属層の形成方法はこの方法に何ら限定されない。
また、金属層の材質は特に限定されない。例えば、ニッケル、銅、金、銀、白金、チタン、コバルト、錫、亜鉛、クロム、金コバルト合金、金ニッケル合金、はんだ、銅/ニッケル/クロム合金、錫ニッケル合金、ニッケルパラジウム合金、ニッケル/コバルト/りん合金等が挙げられる。
【0092】
金属層を形成した後、原版(X1)から金属層を分離すると、原版(X1)の表面形状及び表面構造を反転させたモールド(Y1)が得られる。このモールド(Y1)をナノインプリント、射出成型等に使用して、基材の表面に、親水性領域と親水性領域より基材の厚み方向で高低差を設けた位置にある疎水性領域とを形成し、かつ、疎水性領域に複数の凸部又は複数の凹部を含む微細凹凸構造領域を形成してもよい。その後、基材の表面の全体に親水性付与液を塗布し、塗布層を乾燥して固化させると、細胞培養部材(Q1)が製造される。
【0093】
(第2実施形態に係る細胞培養部材の製造方法)
第2実施形態に係る細胞培養部材の製造方法では、基材の表面を、親水性領域と疎水性領域とに区分して、平均高さが100nm以上である複数の凸部又は平均深さが100nm以上である複数の凹部を含む微細凹凸構造領域を疎水性領域に形成する。
【0094】
微細凹凸構造領域は、平均高さが100nm以上である複数の凸部又は平均深さが100nm以上である複数の凹部を含む。そのため、塗布層の親水性付与液は疎水性領域の微細凹凸構造の高い位置から低い位置に流出し、複数の凸部の頂部又は複数の凹部の基底面において親水性付与液の塗布層の厚さが薄くなり、細胞が接着しやすくなる。
したがって、親水性領域及び疎水性領域の形成に際し、親水性付与液を基材の表面の全面に塗工するという一体的な処理が可能となる。その結果、細胞培養部材の生産性が向上し、工業的な量産性が優れる。
第2実施形態に係る細胞培養部材の製造方法においては、複数の凸部の平均高さ又は複数の凹部の平均深さを100nm以上とするのが好ましく200nm~2μmがより好ましく、400nm~1μmとするのがさらに好ましい。
【0095】
基材の表面を、親水性領域と疎水性領域とに区分して、疎水性領域に平均高さが100nm以上である複数の凸部を含む微細凹凸構造領域を形成する方法は特に限定されない。例えば、細胞培養部材(Q2)と表面の微細凹凸構造が一致する原版(X2)を作製し、原版(X2)の表面形状及び表面構造を反転させたモールド(Y2)を原版(X2)から作製する方法が好ましい。
原版(X2)の作製方法の詳細は複数の凸部の平均高さ又は複数の凹部の平均深さを100nm以上とする点以外は原版(X1)について説明した内容と同様である。
【0096】
第2の実施形態においては、親水性領域と疎水性領域との間に高低差を設けてもよく、設けなくてもよい。工業的な量産性のさらなる向上を求めるなら、親水性領域より基材の厚み方向で相対的に高低差を設けた位置に疎水性領域を形成するとよい。第2の実施形態においても原版(X2)の作製時に、親水性領域と疎水性領域の区分、厚み方向の位置関係が決定され得る。
【0097】
第2実施形態に係る細胞培養部材の製造方法においては、親水性領域と疎水性領域との間の高低差の絶対値を基材の厚み方向で0~10μmとするのが好ましく、300nm~5μmとするのがより好ましく、500nm~1μmとするのがさらに好ましい。親水性領域と疎水性領域との間の高低差を前記数値範囲の下限値以上にすると、親水性付与液が高い位置の領域から低い位置の領域に移行しやすくなる。親水性領域と疎水性領域との間の高低差を前記数値範囲の上限値以下にすると、細胞培養部材(Q2)を細胞培養に使用した際に疎水性領域への細胞の移動が妨げられにくい。
【0098】
親水性領域と疎水性領域との間の高低差を基材の厚み方向で0とした場合においては、基材の表面の全体に親水性付与液を塗布する際に、親水性コーティング層の厚みが複数の凸部の平均高さより小さくなるように調整する。
【0099】
細胞培養部材(Q2)においては、親水性領域と疎水性領域の基材の厚み方向の位置関係は任意であり、疎水性領域は親水性領域より低い位置にあってもよい。そのため、細胞培養部材(Q2)の製造においては、細胞培養部材(Q1)をモールドとして使用してもよい(ただし、複数の凸部の平均高さ又は複数の凹部の平均深さが100nm未満の細胞培養部材(Q1)の使用を除く。)。
細胞培養部材(Q1)をモールドとして使用することで、細胞培養部材(Q1)の表面形状及び表面構造を反転させて基材に転写して、基材の表面を親水性領域と疎水性領域とに区分できる。この場合、原版(X2)、モールド(Y2)の作製を省略し得る点で工業的な量産性に有利である。
その他、モールド(Y2)の作製方法、使用方法はモールド(Y1)について説明した内容と同様である。
【0100】
以上説明した第1、第2の実施形態に係る製造方法でそれぞれ得られる細胞培養部材(Q1)及び細胞培養部材(Q2)は互いに異なる物であり、上述の細胞培養部材(P1)、細胞培養部材(P2)とも異なる物である。
ただし、細胞培養部材(P1)は第1実施形態に係る細胞培養部材の製造方法で好適に製造され得る。また、細胞培養部材(P2)は第2実施形態に係る細胞培養部材の製造方法で好適に製造され得る。細胞培養部材(P1)、細胞培養部材(P2)を製造する場合においては、原版の作製時に面積の比(S2/(S1+S2))を0.02~0.95の範囲内とすればよい。
以下の本明細書の説明において「一実施形態に係る細胞培養部材」とは、少なくとも細胞培養部材(P1)、細胞培養部材(P2)、細胞培養部材(Q1)、細胞培養部材(Q2)を包含する。
【0101】
一実施形態に係る細胞培養部材においては、培養細胞の剥離、回収を容易にするために、刺激応答性材料を細胞培養部材の表面に塗布してもよい。刺激応答性材料としては、温度変化によって水親和性が変化する温度応答性ポリマーが好ましく、ポリ-N-イソプロピルアクリルアミド(PIPAAm)が好ましい。
【0102】
一実施形態に係る細胞培養部材においては、刺激応答性材料を基材にさらに塗布してもよい。この場合、刺激応答性材料を基材に塗布した後に微細凹凸構造領域を形成してもよく、微細凹凸構造領域を形成した後に刺激応答性材料を基材に塗布してもよい。ただし、微細凹凸構造領域を形成した後に刺激応答性材料を基材に塗布する場合、親水化処理の前に刺激応答性材料を基材に塗布することが好ましい。
【0103】
<培養容器>
一実施形態に係る培養容器は一実施形態に係る細胞培養部材を備えるため、培養細胞の配向性を制御でき、工業的な量産性にも優れる。
培養容器として、例えば、細胞を含む培養液を収容する容器本体の内壁面に細胞培養部材を備えたものが挙げられる。容器本体の内壁面は、培養液と接触し得る面であれば特に限定されず、容器本体の底面でもよく、容器本体の内側の側面でもよい。細胞培養部材は接着剤を介して容器本体の内壁面に設けられていてもよい。
【0104】
培養容器の形状、大きさは特に限定されない。培養容器としては、1つ又は複数のウェル(穴)を備える培養プレート;ディッシュ(シャーレ)、培養フラスコ、スライドガラス形状の培養プレート等が挙げられる。
培養プレートのウェルの数は、特に限定されず、培養細胞の用途、使用する分析装置等に応じて設定される。ウェルの平面視の形状は特に限定されない。例えば、真円、楕円、三角形、正方形、長方形、五角形等が挙げられる。ウェルの底面の形状も特に限定されない。平底、丸底、凹凸等が挙げられる。
【0105】
培養容器の材質は特に限定されない。高分子材料、金属材料、無機材料が挙げられる。高分子樹脂としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリイソプレン、シクロオレフィンポリマー、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、(メタ)アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン等が挙げられる。
金属材料としては、ステンレス、銅、鉄、ニッケル、アルミ、チタン、金、銀、白金等が挙げられる。
無機材料としては、各種無機混合物からなるガラス、酸化ケイ素(石英ガラス)、酸化アルミ、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化鉄、窒化ケイ素等が挙げられる。
【0106】
<培養細胞の生産方法>
一実施形態に係る培養細胞の生産方法では、一実施形態に係る細胞培養部材を用いて、細胞を培養し、次いで、細胞培養部材から培養細胞を剥離する。培養細胞の生産方法では上述の一実施形態に係る細胞培養部材を用いて培養するため、疎水性領域に細胞が集まりやすく、培養細胞の配向性を制御できる。
【0107】
培養細胞の生産方法においては、細胞培養部材の疎水性領域及び親水性領域が形成された表面に細胞を播種して細胞培養部材の表面に付着させることが好ましい。
細胞は特に限定されない。生体内で配向性、形態に基づいた機能を発現し得るものが好適に選択され得る。例えば、筋芽細胞、線維芽細胞、心筋細胞、神経細胞、血管内皮細胞、肝細胞、骨芽細胞、軟骨細胞が挙げられる。
細胞としてiPS細胞等の幹細胞、幹細胞から分化した分化細胞、腫瘍細胞を用いてもよい。
細胞、幹細胞、分化細胞、腫瘍細胞の動物種は特に限定されない。例えば、ヒト、ブタ、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ヤギ等の哺乳類が挙げられる。
【0108】
培養条件は特に限定されず、細胞種、培養細胞の用途等に応じて変更できる。
コンフルエントになった培養細胞を剥離する際には細胞剥離剤を使用してもよい。細胞剥離剤は、細胞培養に一般的に使用される剥離剤であれば、特に限定されない。
【0109】
<細胞培養部材付き培養細胞>
一実施形態に係る細胞培養部材付き培養細胞は、一実施形態に係る細胞培養部材と;細胞培養部材の疎水性領域に付着した培養細胞と;を備える。
一実施形態に係る細胞培養部材付き培養細胞は、上述の細胞培養部材を用いて、細胞が細胞培養部材の表面に付着した状態で培養することで生産したものである。そのため、細胞接着領域や配向性が制御された培養細胞が細胞培養部材の表面に付着し得る。
細胞の種類は特に限定されない。培養細胞の生産方法の項で例示したものと同様の細胞が挙げられる。
【0110】
以上、一実施形態について説明したが、本発明は本明細書に開示の実施形態に限定されず、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施できる。本明細書に開示の実施形態は、その他の様々な形態で実施可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置換、変更が可能である。
【実施例】
【0111】
以下、実施例を用いて一実施形態をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0112】
<実施例1>
特開2009-034630号公報に記載の方法でコロイダルシリカからなる単粒子膜エッチングマスクを一般的なフォトリソグラフィー法を利用したストライプパターン(幅10μm、高さ1μm、フォトレジスト層が10μm間隔で配列)付きSiウェハ上に作製した。この単粒子膜エッチングマスクを用いた気相エッチング法によって微細凹凸構造をSi基板に形成し、残ったフォトレジストを除去することで、複数の平坦部(親水性領域となる)と複数の凸部集合体部(疎水性領域となる)を交互にストライプ状に配列させた凸型のSi製表面微細構造原版(1)を作製した。凸型のSi製表面微細構造原版(1)において、ストライプ状の配列の距離は、平坦部の短軸方向が10μm、凸部集合体部の短軸方向が10μmであった。また、疎水性領域となる凸部集合体部の面積の比(S2/(S1+S2))は0.5であった。また、微細凹凸構造には略円錐形状の複数の凸部が含まれ、複数の凸部の平均ピッチが600nmであり、複数の凸部の平均高さが500nmであった。疎水性領域は親水性領域より低い位置にあり、高低差は、550nmであった。
続いて、凸型のSi製表面微細構造原版(1)から凹型のNi製電鋳スタンパー(1)を作製した。その後、凹型のNi製電鋳スタンパー(1)を用いて、熱ナノインプリント法によって、厚さ150μmのポリスチレンシート表面に載置部となる凸構造を転写し、凸型の樹脂転写部材(1)を作製した。具体的には、厚さ150μmのポリスチレンシートの表面に、凹型のNi製電鋳スタンパー(1)の構造面を対向させ、ナノインプリント装置加圧部にセットした。その状態で昇温を開始し、130℃で5分間、4MPaの加圧を行った。5分間経過後、加圧部を室温まで冷却した後に、凹型のNi製電鋳スタンパー(1)をポリスチレンシートの表面から離型した。
得られた凸型の樹脂転写部材(1)にUVオゾン法により親水化処理を行った後に、PREVELEX AP1(登録商標、日産化学社製)をコーティングし、親水性領域に平均厚み5nmの親水性コーティング層が設けられた実施例1の凸型の細胞培養部材を得た。
【0113】
<実施例2>
実施例1で作製した凸型のSi製表面微細構造原版(1)から熱ナノインプリント法によって、厚さ188μmのシクロオレフィンポリマーフィルム表面に載置部となる凸構造を転写し、凹型の樹脂原版(1)を作製した。凹型の樹脂原版(1)から凸型のNi製電鋳スタンパー(1R)を作製した。その後、凸型のNi製電鋳スタンパー(1R)を用いた以外は、実施例1と同様の作製方法によって実施例2の凹型の細胞培養部材を作製した。
【0114】
<実施例3>
特開2009-034630号公報に記載の方法でコロイダルシリカからなる単粒子膜エッチングマスクを一般的なフォトリソグラフィー法を利用したストライプパターン(幅10μm、高さ1μm、フォトレジスト層が5μm間隔で配列)付きSiウェハ上に作製した。この単粒子膜エッチングマスクを用いた気相エッチング法によって微細凹凸構造をSi基板に形成し、残ったフォトレジストを除去することで、複数の平坦部(親水性領域となる)と複数の凸部集合体部(疎水性領域となる)を交互にストライプ状に配列させた凸型のSi製表面微細構造原版(2)を作製した。凸型のSi製表面微細構造原版(2)において、ストライプ状の配列の距離は、平坦部の短軸方向が10μmであり、凸部集合体部の短軸方向が5μmであった。また、疎水性領域となる凸部集合体部の面積の比(S2/(S1+S2))は0.33であった。また、微細凹凸構造には略円錐形状の複数の凸部が含まれ、複数の凸部の平均ピッチが600nmであり、複数の凸部の平均高さ500nmであった。疎水性領域は親水性領域より低い位置にあり、高低差は、550nmであった。
続いて、凸型のSi製表面微細構造原版(2)から凹型のNi製電鋳スタンパー(2)を作製した。その後、凹型のNi製電鋳スタンパー(2)を用いて、実施例1と同様の作製方法によって、実施例3の凸型の細胞培養部材を作製した。
【0115】
<実施例4>
実施例3で作製した凸型のSi製表面微細構造原版(2)から実施例2と同様の方法で、厚さ188μmのシクロオレフィンポリマーフィルムからなる凹型の樹脂原版(2)を作製した。凹型の樹脂原版(2)から凸型のNi製電鋳スタンパー(2R)を作製した。その後、凸型のNi製電鋳スタンパー(2R)を用いた以外は、実施例1と同様の作製方法によって実施例4の凹型の細胞培養部材を作製した。
【0116】
<実施例5>
特開2009-034630号公報に記載の方法でコロイダルシリカからなる単粒子膜エッチングマスクを一般的なフォトリソグラフィー法を利用したストライプパターン(幅10μm、高さ1μmのフォトレジスト層が10μm間隔で配列)付きSiウェハ上に作製した。この単粒子膜エッチングマスクを用いた気相エッチング法によって微細凹凸構造をSi基板に形成し、実施例1とは異なり、微細凹凸構造が形成されたフォトレジストを除去せずそのまま使用した。形状の異なる2数類の凸部集合体部を交互にストライプ状に配列させた凸型のSi製表面微細構造原版(3)を作製した。凸型のSi製表面微細構造原版(3)において、ストライプ状の配列の距離は、平坦部の短軸方向が10μm、凸部集合体部の短軸方向が10μmであった。また、フォトレジストからなる微細凹凸構造には略円錐形状の複数の凸部が含まれ、複数の凸部の平均ピッチが600nmであり、複数の凸部の平均高さが300nmであり、Siからなる微細凹凸構造には略円錐形状の複数の凸部が含まれ、複数の凸部の平均ピッチが600nmであり、複数の凸部の平均高さが500nmであり、あった。2数類の凸部集合体部の高低差は、800nmであった。
続いて、凸型のSi製表面微細構造原版(3)から凹型のNi製電鋳スタンパー(3)を作製した。その後、凹型のNi製電鋳スタンパー(3)を用いて、平均厚み300nmの親水性コーティング層を設けた以外、実施例1と同様の作製方法によって、実施例5の凸型の細胞培養部材を作製した。また、疎水性領域となる凸部集合体部の面積の比(S2/(S1+S2))は0.5であった。
【0117】
<実施例6>
実施例5で作製した凸型のSi製表面微細構造原版(3)から実施例2と同様の方法で、厚さ188μmのシクロオレフィンポリマーフィルムからなる凹型の樹脂原版(2)を作製した。凹型の樹脂原版(3)から凸型のNi製電鋳スタンパー(3R)を作製した。その後、凸型のNi製電鋳スタンパー(3R)を用いた以外は、実施例5と同様の作製方法によって実施例6の凹型の細胞培養部材を作製した。
【0118】
<マウス筋芽細胞の培養>
実施例1~6の細胞培養基材を使用し、マウス由来の筋芽細胞(C2C12細胞)の培養を行った。前培養として、細胞培養用フラスコ(25cm
2)を使用し、FBS(ウシ胎児血清)10%を添加したDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)を用いてC2C12細胞を37℃、5%CO
2雰囲気下にて培養した。
細胞の回収はトリプシンを用いた。血球計算版を用いて細胞数を計測した後、7.6×10
4細胞/mlの濃度の細胞懸濁液を調製した。
細胞培養用マルチウェルプレート(24孔)の底面に、10mm角に裁断した実施例1~6の基材を設置した。リン酸緩衝生理食塩水で細胞培養部材を洗浄後、調製した細胞懸濁液を0.5mlずつ分注し、細胞を播種した。細胞を播種したマルチウェルプレートは37℃、5%CO
2雰囲気下で48時間培養した。
さらに、細胞が付着した細胞培養部材をパラホルムアルデヒドで固定し、ファロイジンを用いてアクチンを、DAPIを用いて細胞核を染色し、オールインワン蛍光顕微鏡(BZ-X800、キーエンス社)により2次元画像を取得した。いずれの細胞培養部材においても、培養細胞が微細凹凸構造領域に接着し、培養細胞は各微細凹凸構造に沿ってストライプ状に伸長した。一方、平坦な親水性領域の表面には培養細胞がほとんど接着しなかった。
図15に実施例1の2次元画像を示す。
実施例1~6の細胞培養基材によれば、微細凹凸構造領域に特異的にC2C12細胞が接着して培養細胞の配向性を制御できることを確認した。
【0119】
<ヒト臍帯静脈内皮細胞の培養>
実施例1~6の細胞培養部材を使用し、ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)の培養を行った。細胞と専用培地はScienCell Research Laboratories社から購入した。
ヒト臍帯静脈内皮細胞は、フィブロネクチンでコーティングした細胞培養用フラスコ(25cm2)を使用し、専用培地を用いて37℃、5%CO2雰囲気下にて培養した。コンフルエントになるまで2日毎に培地交換を行った。細胞の回収はトリプシンを用いた。血球計算版を用いて細胞数を計測した後、2.8×104細胞/mlの濃度の細胞懸濁液を調製した。
細胞培養用マルチウェルプレート(24孔)の底面に、10mm角に裁断した実施例1~6の基材を設置し、フィブロネクチンのコーティングを1時間行った。フィブロネクチンを除去し、滅菌水で基材シートを洗浄後、調製した細胞懸濁液を0.5mlずつ分注し、細胞を播種した。細胞を播種したマルチウェルプレートは37℃、5%CO2雰囲気下で4日間培養した。いずれの細胞培養部材においても、培養細胞が微細凹凸構造領域に接着し、培養細胞は各微細凹凸構造に沿ってストライプ状に伸長した。一方、平坦な親水性領域の表面には培養細胞がほとんど接着しなかった。
実施例1~6の細胞培養基材によれば、微細凹凸構造領域に特異的にヒト臍帯静脈内皮細胞が接着して培養細胞の配向性を制御できることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0120】
一実施形態によれば、培養細胞の配向性と接着領域を制御でき、工業的な量産性に優れる細胞培養部材;及びその製造方法;前記細胞培養部材を備えた培養容器;前記細胞培養部材を用いる培養細胞の生産方法;並びに前記細胞培養部材を備えた細胞培養部材付き培養細胞が提供される。
【符号の説明】
【0121】
1…細胞培養部材、2…基材、3…親水性領域、4…疎水性領域、5…親水性コーティング層、6…微細凹凸構造領域、7…凸部、8…親水性層、9…凹部。