(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/22 20160101AFI20241029BHJP
H02P 27/06 20060101ALI20241029BHJP
H02P 21/24 20160101ALI20241029BHJP
【FI】
H02P21/22
H02P27/06
H02P21/24
(21)【出願番号】P 2021058852
(22)【出願日】2021-03-30
【審査請求日】2023-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長田 侑大
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第03/030348(WO,A1)
【文献】特開2001-197797(JP,A)
【文献】特開2015-154532(JP,A)
【文献】特開2013-215064(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P6/00-6/34
21/00-25/03
25/04
25/10-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源から供給される直流電圧を交流電圧に変換し、前記交流電圧をモータに印加するスイッチングモジュールと、
前記直流電源と前記スイッチングモジュールとの間に接続された抵抗を用いて前記スイッチングモジュールの母線電流を検出する検出部と、
前記モータにおける固定座標の3相電流を前記母線電流に基づいて算出する第一算出部と、
前記3相電流を回転座標の2相電流に変換する変換部と、
前記2相電流の予測値を算出する予測部と、
前記2相電流と前記予測値とに基づいて、前記2相電流または前記予測値の何れを前記モータの制御に用いるかを決定する決定部と、を具備し、
前記予測部は、前記決定部が前記モータの制御に用いると決定した前記2相電流または前記予測値である決定値にフーリエ変換を施すことにより前記決定値を複数の次数の周波数成分に分離し、前記複数の次数の周波数成分を合成することにより前記予測値を算出
し、
前記2相電流と前記予測値との間の差分を算出する第二算出部、をさらに具備し、
前記決定部は、前記差分が定常的な前記差分のボトム値よりも小さい負の第一所定値以上、かつ、定常的な前記差分のピーク値よりも大きい正の値の第二所定値未満のときに前記2相電流を前記モータの制御に用いると決定し、前記差分が前記第一所定値未満、または、前記第二所定値以上のときに前記予測値を前記モータの制御に用いると決定する、
モータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モータの駆動を制御するモータ制御装置は、モータに印加される3相の交流電圧(以下では「3相電圧」と呼ぶことがある)を生成するスイッチングモジュールを有する。スイッチングモジュールは、複数のスイッチング素子から構成される。スイッチングモジュールは、インバータと呼ばれることもある。
【0003】
また、モータ制御装置に対してベクトル制御を用いる場合、モ-タ制御装置は、モータの回転速度が速度指令値(目標速度)に一致するようにd軸電流指令値及びq軸電流指令値を生成し、d軸電流指令値及びq軸電流指令値からd軸電圧指令値及びq軸電圧指令値を生成する。さらに、モータ制御装置は、d軸電圧指令値及びq軸電圧指令値を3相の電圧指令値へ変換する。
【0004】
3相の電圧指令値に基づいてスイッチングモジュールを制御する技術としてPWM(Pulse Width Modulation)が知られている。PWMは、スイッチングモジュールを構成する複数のスイッチング素子のオン/オフ時間の長さを調節することによりスイッチングモジュールの出力電圧(つまり、3相電圧)を変化させる技術である。スイッチング素子のオン/オフを制御する信号(以下では「PWM信号」と呼ぶことがある)は、PWMの搬送波であるキャリア信号と比較値との比較結果に基づいて生成される。PWM信号に応じてスイッチング素子のオン/オフが制御されることにより、モータに3相電圧が印加されてモータの駆動が制御される。
【0005】
また、モータのロータの回転位置(以下では「ロータ位置」と呼ぶことがある)を検出するためのセンサ(以下では「位置センサ」と呼ぶことがある)を使用せずにモータの駆動を制御する技術(以下では「位置センサレス方式」と呼ぶことがある)が知られている。位置センサレス方式では、モータに流れる3相の電流(以下では「モータ電流」と呼ぶことがある)を検出することにより、位置センサを使用せずに、ロータ位置を推定する。
【0006】
また、モータ電流の検出方式として「1シャント検出方式」が知られている。1シャント検出方式では、3相電圧を生成するスイッチングモジュールと直流電源との間に流れる母線電流に基づいてモータ電流のうちの2相分の電流を検出し、残りの1相分の電流を、2相分の電流からキルヒホッフの法則を用いて算出する。
【0007】
ここで、母線電流検出用のシャント抵抗の両端に発生する電圧を増幅した増幅電圧を第1A/D変換器に伝送する第1接続線と、オフセット電圧生成部で生成されるオフセット電圧を第2A/D変換器に伝送する第2接続線とを、できる限り等しくノイズの影響を受けるように配置する先行技術が提案されている。この先行技術では、第1接続線にノイズが重畳した場合には第2接続線にもノイズが重畳するため、オフセット電圧が所定の範囲外の電圧であるか否かを判定することにより、母線電流に大きなノイズが重畳されているか否かの判定(以下では「ノイズ判定」と呼ぶことがある)を行っている。また、この先行技術では、オフセット電圧が所定の範囲外の電圧であるときは、ノイズによる影響が大きいと判定し、オフセット電圧と同時に検出された母線電流としての増幅電圧を破棄し、オフセット電圧が所定の範囲内であるときに、オフセット電圧と同時に検出された母線電流に基づいてPWM信号が生成される。こうすることで、ノイズによる影響が小さい電流値(つまり、精度の高い電流値)を用いてモータを制御することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の先行技術では、ノイズ判定を行うにあたり、増幅電圧のサンプリングと同時にオフセット電圧のサンプリングを行う必要があるため、オフセット電圧を取得するための回路や、オフセット電圧をサンプリングするための第2A/D変換器が別途必要になる。このため、上記の先行技術では、精度の高い電流値を用いてモータの制御を行う際に、モータ制御装置における部品点数が増加してしまう。
【0010】
そこで、本開示では、モータ制御装置における部品点数の増加を抑えつつ、精度の高い電流値を用いてモータの制御を行うことができる技術を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示のモータ制御装置は、スイッチングモジュールと、検出部と、第一算出部と、変換部と、予測部と、決定部とを有する。前記スイッチングモジュールは、直流電源から供給される直流電圧を交流電圧に変換し、前記交流電圧をモータに印加する。前記検出部は、前記直流電源と前記スイッチングモジュールとの間に接続された抵抗を用いて前記スイッチングモジュールの母線電流を検出する。前記第一算出部は、前記モータにおける固定座標の3相電流を前記母線電流に基づいて算出する。前記変換部は、前記3相電流を回転座標の2相電流に変換する。前記予測部は、前記2相電流の予測値を算出する。前記決定部は、前記2相電流と前記予測値とに基づいて、前記2相電流または前記予測値の何れを前記モータの制御に用いるかを決定する。また、前記予測部は、前記決定部が前記モータの制御に用いると決定した前記2相電流または前記予測値である決定値にフーリエ変換を施すことにより前記決定値を複数の次数の周波数成分に分離し、前記複数の次数の周波数成分を合成することにより前記予測値を算出する。
【発明の効果】
【0012】
開示の技術によれば、モータ制御装置における部品点数の増加を抑えつつ、精度の高い電流値を用いてモータの制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本開示の実施例のモータ制御装置の構成例を示す図である。
【
図2】
図2は、本開示の実施例のノイズ判定部の構成例を示す図である。
【
図3】
図3は、本開示の実施例の電流予測部の動作例の説明に供する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施例を図面に基づいて説明する。以下の実施例において同一の構成には同一の符号を付す。
【0015】
[実施例]
<モータ制御装置の構成>
図1は、本開示の実施例のモータ制御装置の構成例を示す図である。
図1に示すモータ制御装置100は、位置センサレス方式、1シャント検出方式、及び、PWMを用いてモータMの駆動を制御する。
図1において、モータ制御装置100は、減算部46,47,52と、d軸電流設定部48と、速度制御部49と、d軸q軸電圧設定部45と、dq/3φ変換部43と、PWM部41と、スイッチングモジュール10と、直流電源E
DCと、シャント抵抗Rsとを有する。また、モータ制御装置100は、DC電圧検出部31と、電流検出部21と、AD変換部71,72と、3φ電流算出部61と、DC電圧算出部32と、3φ/dq変換部42と、位置・速度推定部44と、1/Pn処理部51と、ノイズ判定部80とを有する。
【0016】
減算部46,47,52、d軸電流設定部48、速度制御部49、d軸q軸電圧設定部45、dq/3φ変換部43、PWM部41、DC電圧検出部31、電流検出部21、AD変換部71,72、3φ電流算出部61、DC電圧算出部32、3φ/dq変換部42、位置・速度推定部44、1/Pn処理部51、及び、ノイズ判定部80は、ハードウェアとして、例えばMCU(Micro Control Unit)により実現される。
【0017】
また、スイッチングモジュール10は、上アームのスイッチング素子SWup,SWvp,SWwpと、下アームのスイッチング素子SWun,SWvn,SWwnとを有する。
【0018】
モータ制御装置100において、d軸電流設定部48は、所定値のd軸電流指令値id*を減算部46へ出力する。
【0019】
減算部46には、d軸電流設定部48からd軸電流指令値id*が入力され、ノイズ判定部80からd軸電流idが入力される。減算部46は、d軸電流指令値id*からd軸電流idを減算することによりd軸電流偏差Δidを算出し、算出したd軸電流偏差Δidをd軸q軸電圧設定部45へ出力する。
【0020】
速度制御部49は、減算部52から入力される速度偏差Δωがゼロに近づくようにq軸電流指令値iq*を算出し、算出したq軸電流指令値iq*を減算部47へ出力する。
【0021】
減算部47には、速度制御部49からq軸電流指令値iq*が入力され、ノイズ判定部80からq軸電流iqが入力される。減算部47は、q軸電流指令値iq*からq軸電流iqを減算することによりq軸電流偏差Δiqを算出し、算出したq軸電流偏差Δiqをd軸q軸電圧設定部45へ出力する。
【0022】
d軸q軸電圧設定部45には、減算部46からd軸電流偏差Δidが入力され、減算部47からq軸電流偏差Δiqが入力され、ノイズ判定部80からd軸電流id及びq軸電流iqが入力される。d軸q軸電圧設定部45は、d軸電流偏差Δid及びq軸電流偏差Δiqがゼロに近づくようにd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を算出し、算出したd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を位置・速度推定部44及びdq/3φ変換部43へ出力する。d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*は、3φ電流算出部61により算出されるモータ電流であるU相電流iu、V相電流iv及びW相電流iwに応じても変化する。
【0023】
位置・速度推定部44には、ノイズ判定部80からd軸電流id及びq軸電流iqが入力され、d軸q軸電圧設定部45からd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*が入力される。位置・速度推定部44は、d軸電流id、q軸電流iq、d軸電圧指令値Vd*、及び、q軸電圧指令値Vq*に基づいて、モータMの電気的な角速度ωeと、回転座標(dq座標)でのモータMの電気角位相θe及び機械角位相θmを推定する。位置・速度推定部44は、推定した角速度ωeを1/Pn処理部51へ出力し、推定した電気角位相θeを3φ/dq変換部42及びdq/3φ変換部43へ出力し、推定した機械角位相θmをノイズ判定部80へ出力する。
【0024】
1/Pn処理部51は、角速度ωeをモータMの極対数で除することにより、電気的な角速度ωeをモータMが有するロータの機械的な角速度ωmに変換し、変換後の角速度ωmを減算部52へ出力する。
【0025】
減算部52には、1/Pn処理部51から角速度ωmが入力され、モータ制御装置100の外部から(例えば、モータ制御装置100の上位のコントローラから)速度指令値ωm*が入力される。減算部52は、速度指令値ωm*から角速度ωmを減算することにより速度偏差Δωを算出し、算出した速度偏差Δωを速度制御部49へ出力する。
【0026】
dq/3φ変換部43は、電気角位相θeを用いて、回転座標の2相のd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を、固定座標(UVW座標)の3相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に変換する。dq/3φ変換部43は、変換後の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*をPWM部41へ出力する。
【0027】
PWM部41には、dq/3φ変換部43から電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*が入力され、DC電圧算出部32からDC電圧Vdcが入力される。また、PWM部41には、モータ制御装置100の外部から(例えば、モータ制御装置100の上位のコントローラから)、PWMの搬送波であるキャリア信号が入力される。PWM部41は、電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*と、DC電圧Vdcと、キャリア信号とに基づいて、3相のPWM信号Up,Un,Vp,Vn,Wp,Wnを生成し、生成したPWM信号Up,Un,Vp,Vn,Wp,Wnをスイッチングモジュール10及び3φ電流算出部61へ出力する。
【0028】
スイッチングモジュール10には、直流電源EDCから直流電圧が供給され、PWM部41からPWM信号Up,Un,Vp,Vn,Wp,Wnが入力される。スイッチングモジュール10は、直流電源EDCから供給される直流電圧をPWM信号Up~Wnに従って3相の交流電圧に変換し、変換後の3相の交流電圧をモータMに印加する。3相の交流電圧がモータMに印加されることによりモータMが駆動される。スイッチングモジュール10では、PWM信号Up,Un,Vp,Vn,Wp,Wnに従って各スイッチング素子SWup,SWun,SWvp,SWvn,SWwp,SWwnがオン/オフされることにより、直流電圧が3相電圧に変換される。各スイッチング素子SWup,SWun,SWvp,SWvn,SWwp,SWwnの両端には、還流ダイオードDup,Dun,Dvp,Dvn,Dwp,Dwnが接続されている。
【0029】
電流検出部21は、直流電源EDCとスイッチングモジュール10との間に接続されているシャント抵抗Rsを用いて、スイッチングモジュール10の母線電流Isを検出する。シャント抵抗Rsは、直流電源EDCにおけるN側端子とスイッチングモジュール10との間のDCラインであるNラインLN上に配置されている。なお、シャント抵抗Rsは、直流電源EDCにおけるP側端子とスイッチングモジュール10との間のDCラインであるPラインLP上に配置されても良い。シャント抵抗Rsには、モータ電流であるU相電流、V相電流、W相電流と、PWM信号とに応じた母線電流Isが流れ、シャント抵抗Rsに母線電流Isが流れるときに、シャント抵抗Rsの両端に電圧降下が生じる。電流検出部21は、この電圧降下の大きさとシャント抵抗Rsの抵抗値とから、シャント抵抗Rsに流れる母線電流Isを検出する。さらに、電流検出部21は、シャント抵抗Rsと母線電流Isとに基づいて、式(1)によって表されるアナログ電圧VA1を算出し、算出したアナログ電圧VA1をAD変換部72へ出力する。式(1)における“k”は所定の増幅率を示す。
VA1=k×(Rs・Is) …(1)
【0030】
AD変換部72は、アナログ電圧VA1に対してサンプリングを行うことにより、アナログ電圧VA1をデジタル電圧値VA2へ変換し、変換後のデジタル電圧値VA2を3φ電流算出部61へ出力する。
【0031】
3φ電流算出部61は、1シャント検出方式を用いてモータ電流を算出する。3φ電流算出部61は、シャント抵抗Rsの抵抗値と、増幅率kと、デジタル電圧値VA2と、PWM信号Up~Wnとに基づいて、モータ電流であるU相電流iu、V相電流iv及びW相電流iwを算出し、算出したモータ電流iu,iv,iwを3φ/dq変換部42へ出力する。
【0032】
3φ/dq変換部42は、位置・速度推定部44から入力される電気角位相θeを用いて、固定座標の3相の電流ベクトルを示すモータ電流iu,iv,iwを、回転座標の2相の電流ベクトルを示すd軸電流及びq軸電流に変換する。以下では、3φ/dq変換部42での変換後のd軸電流を「検出d軸電流」と呼び、3φ/dq変換部42での変換後のq軸電流を「検出q軸電流」と呼ぶことがある。3φ/dq変換部42は、検出d軸電流id_det及び検出q軸電流iq_detをノイズ判定部80へ出力する。
【0033】
ノイズ判定部80には、3φ/dq変換部42から検出d軸電流id_det及び検出q軸電流iq_detが入力され、位置・速度推定部44から機械角位相θmが入力される。ノイズ判定部80は、ノイズ判定を行い、ノイズ判定の判定結果に基づいて、位置・速度推定部44、d軸q軸電圧設定部45及び減算部46へ出力するd軸電流idと、位置・速度推定部44、d軸q軸電圧設定部45及び減算部47へ出力するq軸電流iqとを決定する。ノイズ判定部80の詳細については後述する。
【0034】
DC電圧検出部31は、PラインLPとNラインLNとの間の母線電圧を検出し、検出したアナログの母線電圧VB1をAD変換部71へ出力する。
【0035】
AD変換部71は、アナログの母線電圧VB1に対してサンプリングを行うことにより、アナログの母線電圧VB1をデジタルの母線電圧値VB2へ変換し、変換後のデジタルの母線電圧値VB2をDC電圧算出部32へ出力する。
【0036】
DC電圧算出部32は、デジタルの母線電圧値VB2からDC電圧Vdcを算出し、算出したDC電圧VdcをPWM部41へ出力する。
【0037】
<ノイズ判定部の構成>
図2は、本開示の実施例のノイズ判定部の構成例を示す図である。
図2において、ノイズ判定部80は、電流予測部81と、差分算出部82と、電流決定部83とを有する。電流予測部81には、後述するようにして電流決定部83によって決定されたd軸電流id及びq軸電流iqが入力されるとともに、位置・速度推定部44から機械角位相θmが入力される。差分算出部82及び電流決定部83には、3φ/dq変換部42から検出d軸電流id_det及び検出q軸電流iq_detが入力される。
【0038】
電流予測部81は、制御タイミング毎に電流決定部83によって決定され電流決定部83から入力されるd軸電流idと、制御タイミング毎に電流決定部83によって決定され電流決定部83から入力されるq軸電流iqと、位置・速度推定部44から入力される機械角位相θmとを用いて、d軸電流の予測値である予測d軸電流id_preと、q軸電流の予測値である予測q軸電流iq_preとを算出する。電流予測部81は、算出した予測d軸電流id_pre及び予測q軸電流iq_preを差分算出部82及び電流決定部83へ出力する。電流予測部81の詳細については後述する。
【0039】
差分算出部82は、式(2.1)及び式(2.2)に従って、検出d軸電流id_detと予測d軸電流id_preとの差分(以下では「d軸差分」と呼ぶことがある)id_dif、及び、検出q軸電流iq_detと予測q軸電流iq_preとの差分(以下では「q軸差分」と呼ぶことがある)iq_difを算出する。差分算出部82は、算出したd軸差分id_dif及びq軸差分iq_difを電流決定部83へ出力する。
id_dif=id_det-id_pre …(2.1)
iq_dif=iq_det-iq_pre …(2.2)
【0040】
d軸差分id_dif及びq軸差分iq_difは、d軸電流及びq軸電流における検出値と予測値との差分である。検出値と予測値とが大きく乖離する場合には、d軸電流及びq軸電流における検出値にノイズが重畳している可能性が考えられる。また、d軸差分id_dif及びq軸差分iq_difは、重畳するノイズによって正の値となる場合と負の値となる場合とが考えられる。電流決定部83は、d軸差分id_dif及びq軸差分iq_difを負の値である所定の閾値TH1及び正の値である所定の第二閾値TH2と比較することによりノイズ判定を行って、今回の制御タイミングでのd軸電流id及びq軸電流iqを決定する。
【0041】
ここで、第一閾値TH1は、検出d軸電流id_det及び検出q軸電流iq_detにノイズが重畳されていないとき、または、検出d軸電流id_det及び検出q軸電流iq_detに重畳されているノイズが小さいときの定常的なd軸差分id_dif及びq軸差分iq_difのボトム値よりも小さい負の値に設定される。例えば定常的なd軸差分id_dif及びq軸差分iq_difのボトム値は試験により予め求めておくことができる。定常的なd軸差分id_dif及びq軸差分iq_difのボトム値が-0.8[A]であるとき、第一閾値TH1は、ボトム値よりも小さい負の値として、例えば-1[A]に設定される。
【0042】
同様に、第二閾値TH2は、検出d軸電流id_det及び検出q軸電流iq_detにノイズが重畳されていないとき、または、検出d軸電流id_det及び検出q軸電流iq_detに重畳されているノイズが小さいときの定常的なd軸差分id_dif及びq軸差分iq_difのピーク値よりも大きい正の値に設定される。例えば定常的なd軸差分id_dif及びq軸差分iq_difのピーク値は試験により予め求めておくことができる。定常的なd軸差分id_dif及びq軸差分iq_difのピーク値が0.8[A]であるとき、第二閾値TH2は、ピーク値よりも大きい正の値として、例えば1[A]に設定される。
【0043】
電流決定部83は、d軸差分id_difが第一閾値TH1以上、かつ、第二閾値TH2未満であるときは、検出d軸電流id_detにノイズが重畳されていない、または、検出d軸電流id_detに重畳されているノイズが小さいと判定し、検出d軸電流id_detを今回の制御タイミングでのモータMの制御に用いるd軸電流idとして決定し、検出d軸電流id_det及び予測d軸電流id_preのうち検出d軸電流id_detを位置・速度推定部44、d軸q軸電圧設定部45、減算部46及び電流予測部81へ出力する。一方で、電流決定部83は、d軸差分id_difが第一閾値TH1未満、または、第二閾値TH2以上であるときは、検出d軸電流id_detに重畳されているノイズが大きいと判定し、予測d軸電流id_preを今回の制御タイミングでのモータMの制御に用いるd軸電流idとして決定し、検出d軸電流id_det及び予測d軸電流id_preのうち予測d軸電流id_preを位置・速度推定部44、d軸q軸電圧設定部45、減算部46及び電流予測部81へ出力する。
【0044】
また、電流決定部83は、q軸差分iq_difが第一閾値TH1以上、かつ、第二閾値TH2未満であるときは、検出q軸電流iq_detにノイズが重畳されていない、または、検出q軸電流iq_detに重畳されているノイズが小さいと判定し、検出q軸電流iq_detを今回の制御タイミングでのモータMの制御に用いるq軸電流iqとして決定し、検出q軸電流iq_det及び予測q軸電流iq_preのうち検出q軸電流iq_detを位置・速度推定部44、d軸q軸電圧設定部45、減算部47及び電流予測部81へ出力する。一方で、電流決定部83は、q軸差分iq_difが第一閾値TH1未満、または、第二閾値TH2以上であるときは、検出q軸電流iq_detに重畳されているノイズが大きいと判定し、予測q軸電流iq_preを今回の制御タイミングでのモータMの制御に用いるq軸電流iqとして決定し、検出q軸電流iq_det及び予測q軸電流iq_preのうち予測q軸電流iq_preを位置・速度推定部44、d軸q軸電圧設定部45、減算部47及び電流予測部81へ出力する。
【0045】
<電流予測部の動作>
図3は、本開示の実施例の電流予測部の動作例の説明に供する図である。以下では、d軸電流及びq軸電流を「2相電流」と総称することがある。また、以下では、サンプリングされた2相電流に基づいて電流予測部81によって予測される2相電流を「予測電流」と呼ぶことがある。
【0046】
電流予測部81は、機械角位相θmが0から2πまで変化する積分区間において、制御タイミング毎に電流決定部83によって決定され電流決定部83から入力されるd軸電流idにフーリエ変換を施す。すなわち、電流予測部81は、式(3.2)及び式(3.3)に従って、d軸フーリエ余弦係数an_d及びd軸フーリエ正弦係数bn_dを算出することにより、d軸電流idを複数の次数の周波数成分に分離する。そして、電流予測部81は、式(3.1)に従って、d軸電流idの複数の次数の周波数成分を合成することにより予測d軸電流id_preを算出する。ここで、式(3.1)におけるa
0/2はd軸電流idの平均値である。
【数1】
【0047】
同様に、電流予測部81は、機械角位相θmが0から2πまで変化する積分区間において、制御タイミング毎に電流決定部83によって決定され電流決定部83から入力されるq軸電流iqにフーリエ変換を施す。すなわち、電流予測部81は、式(4.2)及び式(4.3)に従って、q軸フーリエ余弦係数an_q及びq軸フーリエ正弦係数bn_qを算出することにより、q軸電流iqを複数の次数の周波数成分に分離する。そして、電流予測部81は、式(4.1)に従って、q軸電流iqの複数の次数の周波数成分を合成することにより予測q軸電流iq_preを算出する。ここで、式(4.1)におけるa
0/2はq軸電流iqの平均値である。
【数2】
【0048】
式(3.1)~(4.3)におけるnは次数であり、nには1,2,3,4,…が代入される。つまり、電流予測部81は、式(3.2)、式(3.3)、式(4.2)、式(4.3)において、d軸電流id及びq軸電流iqをn個の次数の周波数成分に分離する。
【0049】
ここで、nはできるだけ大きい値であることが好ましい。つまり、電流予測部81がd軸電流id及びq軸電流iqにフーリエ変換を施す際には、d軸電流id及びq軸電流iqをできるだけ高次の成分まで分離するのが好ましい。分離可能な次数は、電流予測部81の処理能力や、電流予測部81の処理に許容される時間等に基づいて決定される。
【0050】
ここで、例えば2相電流をそのままコピーすることにより予測電流を算出する場合には、サンプリング周期で2相電流のデータをメモリに蓄積する必要がある。例えば、1周期分の予測電流を算出する場合には、d軸電流id及びq軸電流iqのそれぞれについて「2相電流の周期/サンプリング周期[個]」のデータをメモリに蓄積する必要がある。このため、2相電流の周期が長い場合、予測電流の算出に多くのメモリ領域が使用されることになる。例えば、200msの周期の2相電流を0.125msの周期でサンプリングする場合、d軸電流id及びq軸電流iqを合わせたデータの個数は3200個となる。
【0051】
一方で、上記のようにフーリエ変換を用いて予測電流を算出する場合には、2相電流の周期の長さにかかわらず、分離後の各次数のデータを次数毎に同一のメモリ領域に積分することにより予測電流を算出することが可能になる。すなわち、次数毎に得られるd軸フーリエ余弦係数an_d、d軸フーリエ正弦係数bn_d、q軸フーリエ余弦係数an_q及びq軸フーリエ正弦係数bn_qを算出するためのメモリ領域があれば良く、メモリに蓄積するデータの個数は「次数の数×4[個]」となる。例えば、次数の数が30個である場合、データの個数は120個となる。よって、フーリエ変換を用いて予測電流を算出することにより、予測電流の算出に使用されるメモリ領域を削減することができる。
【0052】
以上、実施例について説明した。
【0053】
以上のように、本開示のモータ制御装置(実施例のモータ制御装置100)は、スイッチングモジュール(実施例のスイッチングモジュール10)、検出部(実施例の電流検出部21)と、第一算出部(実施例の3φ電流算出部61)と、変換部(実施例の3φ/dq変換部42)と、予測部(実施例の電流予測部81)と、決定部(実施例の電流決定部83)とを有する。スイッチングモジュールは、直流電源から供給される直流電圧を交流電圧に変換し、交流電圧をモータ(実施例のモータM)に印加する。検出部は、直流電源とスイッチングモジュールとの間に接続された抵抗(実施例のシャント抵抗Rs)を用いてスイッチングモジュールの母線電流を検出する。第一算出部は、モータにおける固定座標の3相電流を母線電流に基づいて算出する。変換部は、固定座標の3相電流を回転座標の2相電流(実施例の検出d軸電流id_det,検出q軸電流iq_det)に変換する。予測部は、2相電流の予測値(実施例の予測d軸電流id_pre,予測q軸電流iq_pre)を算出する。決定部は、回転座標の2相電流と2相電流の予測値とに基づいて、2相電流または予測値の何れをモータの制御に用いるかを決定する。また、予測部は、決定部がモータの制御に用いると決定した2相電流または予測値である決定値(実施例のd軸電流id,q軸電流iq)にフーリエ変換を施すことにより決定値を複数の次数の周波数成分に分離し、複数の次数の周波数成分を合成することにより予測値を算出する。
【0054】
例えば、本開示のモータ制御装置は、2相電流と予測値との間の差分(実施例のd軸差分id_dif,q軸差分iq_dif)を算出する第二算出部(実施例の差分算出部82)を有する。決定部は、差分が第一閾値(実施例の第一閾値TH1)以上、かつ、第二閾値(実施例の第二閾値TH2)未満のときに2相電流をモータの制御に用いると決定し、差分が第一閾値未満、または、第二閾値以上のときに予測値をモータの制御に用いると決定する。
【0055】
こうすることで、精度の高い電流値を用いてモータの制御を行うにあたり、上記の先行技術が必要としたオフセット電圧が不要になるため、オフセット電圧を取得するための回路や、オフセット電圧をサンプリングするためのA/D変換器が不要になる。よって、モータ制御装置における部品点数の増加を抑えつつ、精度の高い電流値を用いてモータの制御を行うことができる。また、オフセット電圧をサンプリングするためのA/D変換器が不要になるため、オフセット電圧のサンプリングに用いていたA/D変換器を別の用途に使用することが可能になる。
【符号の説明】
【0056】
100 モータ制御装置
10 スイッチングモジュール
21 電流検出部
42 3φ/dq変換部
61 3φ電流算出部
80 ノイズ判定部
81 電流予測部
82 差分算出部
83 電流決定部