(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】モータ温度推定システム、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
H02P 29/62 20160101AFI20241029BHJP
【FI】
H02P29/62
(21)【出願番号】P 2021064644
(22)【出願日】2021-04-06
【審査請求日】2023-09-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】井山 寛之
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-315994(JP,A)
【文献】特開2013-146155(JP,A)
【文献】特開2017-022858(JP,A)
【文献】特開2015-133890(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P4/00
21/00-25/03
25/04
25/08-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度センサ
によって事前に測定されたモータの温度
T(℃)の変化である第1の温度時系列データを生成する第1温度時系列データ生成手段と、
前記第1の温度時系列データ
に対応する期間において、前記モータに印加した電圧、前記電圧を印加することによって前記モータから取得される電流、及び回転速度に基づいて算出された抵抗値r(Ω)の変化を抵抗値時系列データ
として生成する抵抗値時系列データ生成手段と、
前記モータの温度Tを推定するための式T=αr+βにおけるパラメータα(℃/Ω)及びβ(℃)を変化させ、前記第1の温度時系列データにおける温度が一定ではない任意の時間帯ごとに異なるα及びβの候補パラメータセットを用いて、前記抵抗値時系列データ
の前記抵抗値rを前記式に代入することによって、前記モータの温度
Tを推定演算
した第2の温度時系列データを生成する第2温度時系列データ生成手段と、
事前に測定された前記第1の温度時系列データと、
推定演算された前記第2の温度時系列データとを比較
し、前記任意の時間帯ごとに両者の適合度を算出することによって、
前記任意の時間帯ごとに異なる候補パラメータセットのうち前記適合度が最も高くなる候補パラメータセットを選択し、前記
式における前記パラメータ
α及びβとして決定するパラメータ決定手段と、
を備える、モータ温度推定システム。
【請求項2】
前記パラメータを用いて前記モータの温度を推定演算する推定演算手段をさらに備える、
請求項1に記載のモータ温度推定システム。
【請求項3】
温度センサ
によって事前に測定されたモータの温度
T(℃)の変化である第1の温度時系列データを生成するステップと、
前記第1の温度時系列データ
に対応する期間において、前記モータに印加した電圧、前記電圧を印加することによって前記モータから取得される電流、及び回転速度に基づいて算出された抵抗値r(Ω)の変化を抵抗値時系列データ
として生成するステップと、
前記モータの温度Tを推定するための式T=αr+βにおけるパラメータα(℃/Ω)及びβ(℃)を変化させ、前記第1の温度時系列データにおける温度が一定ではない任意の時間帯ごとに異なるα及びβの候補パラメータセットを用いて、前記抵抗値時系列データ
の前記抵抗値rを前記式に代入することによって、前記モータの温度
Tを推定演算
した第2の温度時系列データを生成するステップと、
事前に測定された前記第1の温度時系列データと、
推定演算された前記第2の温度時系列データとを比較
し、前記任意の時間帯ごとに両者の適合度を算出することによって、
前記任意の時間帯ごとに異なる候補パラメータセットのうち前記適合度が最も高くなる候補パラメータセットを選択し、前記
式における前記パラメータ
α及びβとして決定するステップと、
を備える、モータ温度推定方法。
【請求項4】
温度センサ
によって事前に測定されたモータの温度
T(℃)の変化である第1の温度時系列データを生成する処理と、
前記第1の温度時系列データ
に対応する期間において、前記モータに印加した電圧、前記電圧を印加することによって前記モータから取得される電流、及び回転速度に基づいて算出された抵抗値r(Ω)の変化を抵抗値時系列データ
として生成する処理と、
前記モータの温度Tを推定するための式T=αr+βにおけるパラメータα(℃/Ω)及びβ(℃)を変化させ、前記第1の温度時系列データにおける温度が一定ではない任意の時間帯ごとに異なるα及びβの候補パラメータセットを用いて、前記抵抗値時系列データ
の前記抵抗値rを前記式に代入することによって、前記モータの温度
Tを推定演算
した第2の温度時系列データを生成する処理と、
事前に測定された前記第1の温度時系列データと、
推定演算された前記第2の温度時系列データとを比較
し、前記任意の時間帯ごとに両者の適合度を算出することによって、
前記任意の時間帯ごとに異なる候補パラメータセットのうち前記適合度が最も高くなる候補パラメータセットを選択し、前記
式における前記パラメータ
α及びβとして決定する処理と、
をコンピュータに実行させるモータ温度推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ温度推定システム、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機において、ロータの高速回転に起因する磁石渦電流により、モータが発熱する。モータの発熱は、回転モータのトルク低下等の動作不良が生じさせる虞がある。そのため、モータ温度を常時監視する必要がある。回転電機のロータは、構造上モータ温度を直接計測することができない場合が多い。そのため、様々なモータ温度の推定方法が提案されている。特許文献1において、モータ温度を直接計測せず、モータの電流値と、モータ温度の変化値に基づいてモータ温度の推定を行う装置に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1において開示された技術を用いてモータ温度の推定を行う場合、モータの前回測定した温度と現在の温度との差分に基づいて温度を推定する。このとき、例えば外部熱源によるモータ温度の変化等の影響により、モータ温度の推定精度の十分な向上を望めない虞がある。
【0005】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、モータ温度の推定精度を高めたモータ温度推定システム、方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るモータ温度推定システムは、モータの温度を測定する温度センサが取得した温度データに基づいて、第1の温度時系列データを生成する第1温度時系列データ生成手段と、前記第1の温度時系列データに基づいて、抵抗値時系列データを生成する抵抗値時系列データ生成手段と、前記抵抗値時系列データに基づいて、前記モータの温度を推定演算するためのパラメータを変化させることによって、第2の温度時系列データを生成する第2温度時系列データ生成手段と、前記第1の温度時系列データと、前記第2の温度時系列データと、を比較することによって、前記パラメータを決定するパラメータ決定手段を備える。
【0007】
本発明の一態様に係るモータ温度推定方法は、モータの温度を測定する温度センサが取得した温度データに基づいて、第1の温度時系列データを生成するステップと、前記第1の温度時系列データに基づいて、抵抗値時系列データを生成するステップと、前記抵抗値時系列データに基づいて、前記モータの温度を推定演算するためのパラメータを変化させることによって、第2の温度時系列データを生成するステップと、前記第1の温度時系列データと、前記第2の温度時系列データとを比較することによって、前記パラメータを決定するステップを備える。
【0008】
本発明の一態様に係るプログラムは、モータの温度を測定する温度センサが取得した温度データに基づいて、第1の温度時系列データを生成する処理と、前記第1の温度時系列データに基づいて、抵抗値時系列データを生成する処理と、前記抵抗値時系列データに基づいて、前記モータの温度を推定演算するためのパラメータを変化させることによって、第2の温度時系列データを生成する処理と、前記第1の温度時系列データと、前記第2の温度時系列データとを比較することによって、前記パラメータを決定する処理と、をコンピュータに実行させる。
【0009】
前記パラメータを用いて前記モータの温度を推定演算する推定演算手段をさらに備えてもよい。このような構成により、モータ温度の推定の精度を向上できる。
【0010】
抵抗値時系列データ生成手段は、前記モータに電圧を印加することによって取得した電流値と、回転速度と、に基づいて、前記抵抗値時系列データを生成してもよい。このような構成により、モータ外部からの熱源に起因する温度変化は抵抗値の変化として現れるため、モータ温度の推定の精度を向上できる。
【0011】
前記抵抗値をr、前記パラメータをα及びβとしたとき、前記モータの温度TはT=αr+βによって推定演算してもよい。このような構成により、前回温度を利用しない推定方式となるため、モータの電源の再投入等による初期温度の影響を受けずにモータ温度の推定ができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、モータ温度の推定精度を高めたモータ温度推定システム、方法及びプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明にかかる実施形態1におけるモータ制御装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明にかかる実施形態1におけるモータ温度推定装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】本発明にかかる実施形態1におけるモータのd軸の電流値及び回転速度の時系列グラフの図である。
【
図4】本発明にかかる実施形態1におけるモータのq軸の電流値及び回転速度の時系列グラフの図である。
【
図5】本発明にかかる実施形態1における事前にモータ温度を測定した結果と、モータ温度を推定した結果のグラフを示した図である。
【
図6】本発明にかかる実施形態1におけるモータの温度を求める処理のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、実施の形態について説明する。なお、図面は簡略的なものであるから、この図面の記載を根拠として実施の形態の技術的範囲を狭く解釈してはならない。また、同一の要素には、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。また、以下の実施の形態において、要素の数等(個数、数値、量、範囲等を含む。)に言及する場合、特に明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でもよい。
【0015】
<実施形態1>
図1を用いて、本実施形態のモータ制御装置1について説明する。
図1は、本実施形態にかかるモータ制御装置1の構成を示すブロック図である。モータ制御装置1は、3相交流モータ20を制御する。
【0016】
3相交流モータ20は、例えば回転子及び固定子を有し、U相、V相およびW相を備える。3相交流モータ20は、ロータの回転角θを検出する角度センサ(不図示)を備えてもよい。
【0017】
モータ制御装置1は、モータ温度推定装置10、固定座標変換部21、空間ベクトル変換部22、ドライバ部23、電流検出部24、3相2相変換部25、回転座標変換部26及び回転角処理部27を備える。
【0018】
モータ温度推定装置10は、3相交流モータ20の回転速度ω、dq軸電圧Vd、Vq及びdq軸電流Id、Iqを取得し、これらの値に基づいて、モータ温度Tを推定演算する。
【0019】
固定座標変換部21は、3相交流モータ20への入力電圧に対して、座標変換処理を行う。座標変換処理は、dq回転座標系の信号から、3相交流モータ20の回転角θに基づいてαβ直交座標系の信号に変換する逆Park変換によるものでもよい。3相交流モータ20への入力電圧は、dq軸電圧Vd、Vqとする。固定座標変換部21は、算出した直交座標系の電圧を、空間ベクトル変換部22に対して出力する。なお、出力されたα軸及びβ軸電圧を、以下、αβ軸電圧Vα、Vβという。
【0020】
空間ベクトル変換部22は、固定座標変換部21からαβ軸電圧Vα、Vβを入力する。空間ベクトル変換部22は、αβ軸電圧Vα、Vβに対して座標変換処理を行う。座標変換処理は、αβ直交座標系の信号を、三相座標系の時間領域の信号に変換する逆Clarke変換によるものでもよい。空間ベクトル変換部22は、3相交流モータ20の3相に対応する電圧、すなわち、U相電圧、V相電圧及びW相電圧に座標変換処理した相電圧Vu、Vv、Vwを算出する。空間ベクトル変換部22は、算出した相電圧Vu、Vv、Vwをドライバ部23に対して出力する。
【0021】
ドライバ部23は、3相交流モータ20を回転させる。ドライバ部23は、交流に変換した3相の相電流を、3相交流モータ20に出力する。ドライバ部23は、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やMOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)等の複数のスイッチング素子及びシャント抵抗を備えてもよい。
【0022】
電流検出部24は、電流検出手段の一態様である。電流検出部24は、ドライバ部23から3相交流モータ20の各相に出力される相電流を検出する。電流検出部24は、検出した各相の相電流ia、ib及びicを3相2相変換部25に出力する。
【0023】
3相2相変換部25は、電流検出部24から相電流ia、ib及びicを取得する。3相2相変換部25は、相電流ia、ib及びicを座標変換処理によって2相の電流iα及びiβを算出する。座標算出処理は、座標変換処理は、三相座標系の時間領域の信号を、αβ直交座標系の信号に変換するClarke変換によって行われてもよい。3相2相変換部25は、算出した2相の電流iα及びiβを、回転座標変換部26に出力する。
【0024】
回転座標変換部26は、3相2相変換部25から2相の電流iα及びiβを取得する。また、回転座標変換部26は、座標変換処理によって、直交座標系の信号を回転座標系の信号に変換する。座標変換処理は、3相交流モータ20の回転角θに基づいてαβ直交座標系の電流iα、iβをdq回転座標系の電流Id、Iqの各電流に変換するPark変換によるものでもよい。
【0025】
回転角処理部27は、3相交流モータ20から取得したロータの回転角θに基づいて、ロータの回転速度ωを算出する。回転角処理部27は、算出したロータの回転速度ωを、モータ温度推定装置10に出力する。
【0026】
モータ温度推定装置10の構成について、
図2を用いて説明する。
図2は、本実施形態における温度推定装置10の構成を示すブロック図である。
図2に示すように、モータ温度推定装置10は、モータ制御部11、第1温度時系列データ生成部12、抵抗値時系列データ生成部13、第2温度時系列データ生成部14、パラメータ決定部15及び温度推定部16を備える。
【0027】
モータ制御部11は、3相交流モータ20に対してdq軸電圧Vd、Vqを出力して、3相交流モータ20を制御する。ここで、dq軸電圧Vd、Vqは、抵抗値時系列データ生成部13にも入力される。なお、モータ制御部11は、モータ温度推定装置10の外部に設けられてもよい。
【0028】
第1温度時系列データ生成部12は、温度センサTSから取得した3相交流モータ20の温度データに基づいて、第1の温度時系列データを生成する。なお、温度センサTSは、熱電対や赤外線センサ等、様々なセンサを用いることができる。
【0029】
抵抗値時系列データ生成部13は、3相交流モータ20に印加したdq軸電圧Vd、Vq、dq軸電圧Vd、Vqを印加することによって取得した3相交流モータ20の電流値であるdq軸電流Id、Iq、及び回転速度ωに基づいて、3相交流モータ20の抵抗rの時系列データを生成する。すなわち、抵抗値時系列データ生成部13は、測定した3相交流モータ20の温度変化に伴う抵抗rの変化を、時系列データ(抵抗値時系列データ)として生成する。
【0030】
第2温度時系列データ生成部14は、生成された3相交流モータ20の抵抗値時系列データに基づいて、第2の温度時系列データを生成する。具体的には、3相交流モータ20の温度Tを推定演算するための式1(T=αr+β)におけるパラメータα及びβを変化させることによって、第2の温度時系列データを生成する。式1おいて、パラメータα及びβは定数であり、抵抗rが変数である。パラメータα及びβの値を決定するため、第2温度時系列データ生成部14は、抵抗値時系列データ生成部13が生成した抵抗値時系列データの値を式1における抵抗rに代入しつつ、パラメータα及びβを変化させる。式1の詳細については後述する。
【0031】
温度推定部16は、パラメータα及びβが決定した式1を用いて、実際に使用している3相交流モータ20の温度Tを推定演算する。その際、式1における変数である抵抗rは、上述の通り、3相交流モータ20に印加したdq軸電圧Vd、Vq、3相交流モータ20から取得されるdq軸電流Id、Iq、及び回転速度ωに基づいて、抵抗値時系列データ生成部13において算出される。そのため、温度推定部16は、抵抗rを抵抗値時系列データ生成部13から取得する。
【0032】
温度推定部16は、パラメータα及びβが決定した式1を用いて、実際に動作している3相交流モータ20の温度Tを推定演算する。その際、式1における変数である抵抗rは、上述の通り、3相交流モータ20に印加したdq軸電圧Vd、Vq、3相交流モータ20から取得されるdq軸電流Id、Iq、及び回転速度ωに基づいて、抵抗値時系列データ生成部13において算出される。そのため、温度推定部16は、抵抗rを抵抗値時系列データ生成部13から取得する。
【0033】
なお、モータ温度推定装置10が行うモータ温度推定処理のフローについては、以下で詳述する。また、モータ温度推定装置10は、モータ温度推定システムの一態様であり、モータ温度推定装置10が備える各機能は、複数の装置に分散されてもよい。
【0034】
モータ温度推定装置10は、例えば、演算処理、制御処理等と行うCPU(Central Processing Unit)、CPUによって実行される演算プログラム、制御プログラム等が記憶されたROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)からなるメモリ、外部と信号の入出力を行うインタフェイス部(I/F)、などからなるマイクロコンピュータを中心にして、ハードウェア構成されてもよい。この場合、モータ温度推定装置10が備えるCPU、メモリ及びインタフェイス部は、データバスなどを介して相互に接続される。
【0035】
なお、モータ温度推定装置10は、モータ温度推定システムの一態様であり、モータ温度推定装置10が備える各機能は、複数の装置に分散されてもよい。
【0036】
<モータ温度推定処理のフロー>
ここで、モータ温度推定装置10が行うモータ温度推定方法について、以下のとおり説明する。
【0037】
3相交流モータ20のモータ温度Tと、3相交流モータ20の抵抗rとの関係は、定数であるパラメータα及びβを用いて、式1のように表される。モータ温度推定装置10では、式1を用いて3相交流モータ20のモータ温度Tを推定する。
【数1】
【0038】
3相交流モータ20に交流電流を流すことによって、3相交流モータ20のモータ温度Tが変化する。モータ温度Tが変化すると、3相交流モータ20の抵抗rも変化する。そのため、3相交流モータ20の抵抗rを取得することによって、式1を用いて3相交流モータ20のモータ温度Tを推定できる。
【0039】
モータ温度推定装置10では、式1におけるパラメータα及びβを決定するために以下の処理を行う。まず、3相交流モータ20の抵抗rを求める方法について説明する。
図2に示すように、モータ温度推定装置10の抵抗値時系列データ生成部13は、3相交流モータ20の電流を、dq軸電流I
d及びI
qとする電圧方程式を用いて抵抗rを算出する。L
dをd軸インダクタンス、L
qをq軸インダクタンス、φを誘起電圧定数、回転速度ωを3相交流モータ20の回転速度とする。このとき、抵抗rは電圧方程式として以下の式2及び式3のように表される。
【0040】
まず、3相交流モータ20の抵抗rを求める方法について説明する。モータ温度推定装置10は、3相交流モータ20の電流を、dq軸電流I
d及びI
qとする電圧方程式を用いて抵抗rを算出する。L
dをd軸インダクタンス、L
qをq軸インダクタンス、φを誘起電圧定数、回転速度ωを3相交流モータ20の回転速度とする。このとき、抵抗rは電圧方程式として以下の式2及び式3のように表される。
【数2】
【数3】
【0041】
式2及び式3において、dq軸インダクタンスL
d、L
q及び誘起電圧定数φは未知の値である。ところで、式2及び式3を変形することによって、dq軸電圧V
d及びV
qは、それぞれ以下の式4及び式5のように表される。dq軸インダクタンスL
d、L
q及び誘起電圧定数φを求めるために、dq軸電圧V
d及びV
qの時系列データ及び式4又は式5を用いる。
【数4】
【数5】
【0042】
ここで、
図3及び
図4を用いて、3相交流モータ20にdq軸電圧V
d、V
qを印加することによって得られるdq軸電流I
d及びI
q及び回転速度ωの時系列データについて説明する。
図3は、3相交流モータ20にd軸電圧V
dを印加した場合のdq軸電流I
d及びI
q及び回転速度ωの時系列データを示すグラフである。また、
図4は、3相交流モータ20にq軸電圧V
qを印加した場合のdq軸電流I
d及びI
q及び回転速度ωの時系列データを示すグラフである。
【0043】
モータ温度推定装置10の抵抗値時系列データ生成部13は、3相交流モータ20に印加したdq軸電圧Vd、Vqの時系列データ、取得した3相交流モータ20のdq軸電流Id及びIq及び回転速度ωの時系列データに基づいて、抵抗rを算出する。
【0044】
より具体的には、
図3(d)に示すq軸電圧V
qを3相交流モータ20に印加することによって、
図3(a)に示すq軸電流I
q、
図3(b)に示す回転速度ω、
図3(c)に示すd軸電流I
dの各時系列データを得ることができる。また、
図4(d)に示す時系列データによって表されるd軸電圧V
dを3相交流モータ20に印加することによって、
図4(a)に示すd軸電流I
d、
図4(b)に示す回転速度ω、
図4(c)に示すq軸電流I
qの各時系列データを得ることができる。
【0045】
図3(a)に示すq軸電流I
q、
図3(b)に示す回転速度ω、
図3(c)に示すd軸電流I
dの各時系列データに基づいて、重回帰分析を行うことよって、q軸インダクタンスL
qを得ることができる。また、
図4(a)に示すd軸電流I
d、
図4(b)に示す回転速度ω、
図4(c)に示すq軸電流I
qの各時系列データに基づいて、重回帰分析を行うことよって、d軸インダクタンスL
d及び誘起電圧定数φの値を算出することができる。
【0046】
上述の方法により算出されたdq軸インダクタンスLd、Lq及び誘起電圧定数φの値に基づいて、式2又は式3を用いて抵抗rを求めることができる。この結果、抵抗値時系列データ生成部13において、抵抗rの時系列データ(抵抗値時系列データ)が生成される。なお、抵抗rを求めるにあたって、式2又は式3のいずれを用いるかは動作領域によって選択してもよい。動作領域は、例えば、d軸電流Id=0の場合は、分母が0となり、式3を用いることができないため、式2を用いることになる。
【0047】
ここで、パラメータα及びβを求める方法について、
図5を用いて説明する。
図5は、事前に測定したモータ温度Tの時系列データと、式1においてパラメータα及びβを変化させて推定演算したモータ温度Tの時系列データとを示すグラフである。
図5の縦軸はモータ温度T(℃)、横軸は時間(秒)を示す。
【0048】
図5におけるモータ温度Tの推定演算は、抵抗rの時系列と、任意の時間帯ごとに変化させたパラメータα及びβとを用いて、式1によって行ったものである。
図5の縦軸はモータ温度T(℃)、横軸は時間(秒)を示す。点線は事前にモータ温度を測定した結果を表し、実線はモータ温度Tを推定した結果を表す。
【0049】
事前に測定したモータ温度Tの時系列データは、
図2に示すモータ温度推定装置10の第1温度時系列データ生成部12が生成する第1の温度時系列データであり、
図5において、点線で示されている。式1においてパラメータα及びβを変化させて推定演算したモータ温度Tの時系列データは、
図2に示すモータ温度推定装置10の第2温度時系列データ生成部14が生成する第2の温度時系列データであり、
図5において、実線で示されている。上述の通り、第2の温度時系列データは、抵抗値時系列データ生成部13が生成した抵抗rの時系列データを式1に代入しつつ、パラメータα及びβを任意の時間帯ごとに変化させることによって得られる。
【0050】
図2に示すモータ温度推定装置10のパラメータ決定部15は、
図5に示す第1の温度時系列データと、第2の温度時系列データとを比較する。そして、両者を適合処理することによって、パラメータα及びβを決定する。
【0051】
より具体的には、次のようにパラメータα及びβを求める。
図5に示すように、160秒から190秒の間において、点線と実線が概ね一致している。このとき、パラメータα及びβの値は正しいものとして推定できる。したがって、
図5の場合における160秒から190秒の間におけるパラメータα及びβの値を用いて、モータ温度Tの演算を行えば、モータ温度の推定精度が高いといえる。
【0052】
上述した方法によってパラメータα及びβを求めることによって、モータ温度Tを推定することができる。
【0053】
ここで、上述の方法によって3相交流モータ20の抵抗rを求めたうえで、モータ温度Tを求める処理のフローについて、
図6を用いて説明する。
図6は、本実施形態におけるモータ温度Tを求める処理のフロー図である。
【0054】
まず、
図2に示す第1温度時系列データ生成部12は、温度センサTSによって測定された3相交流モータ20の温度変化に基づいて、第1の温度時系列データを生成する(ステップ101)。3相交流モータ20を所定の場所に設置し、実際に使用する段階では、温度センサTSを用いた測定はできない。そのため、少なくともステップ101は、例えば3相交流モータ20を所定の場所に設置する前に行う。
【0055】
次に、
図2に示す抵抗値時系列データ生成部13は、3相交流モータ20に印加したdq軸電圧V
d及びV
qの時系列データと、取得したdq軸電流I
d及びI
q及び回転速度ωの時系列データとを用いて、式4又は式5に示す電圧方程式から3相交流モータ20の抵抗rの時系列データを生成する(ステップ102)。
【0056】
次に、
図2に示す第2温度時系列データ生成部14は、ステップ102において得られた抵抗rの時系列データを用いて、パラメータα及びβを変化させることによって、式1からモータ温度の第2の温度時系列データを生成する(ステップ103)。
【0057】
なお、
図5の実線に示す第2の温度時系列データは、パラメータα及びβを一定時間ごとに変化させて生成したものである。パラメータα及びβは、
図5の点線によって示す第1の温度時系列データにおいて、温度が一定ではない時間帯において変化させる。
【0058】
最後に、
図2に示すパラメータ決定部15は、生成した第1及び第2の温度時系列データを比較することによって、パラメータα及びβを決定する(ステップ104)。
図5の例によれば、160秒から190秒の間において、第1及び第2の温度時系列データが概ね一致している。そのため、
図5における160秒から190秒の間におけるパラメータα及びβの値を採用することができる。以上の処理によって、式1におけるパラメータα及びβを決定できる。すなわち、モータ温度Tを推定演算するための式1を決定できる。
【0059】
そして、
図2に示す温度推定部16は、パラメータα及びβが決定した式1を用いて、実際に使用している3相交流モータ20の抵抗rからモータ温度Tを推定する。
【0060】
特許文献1において開示された関連技術によれば、モータ温度Tの推定は、前回温度と温度変化値に基づいて行われる。そのため、モータの電源を再投入が必要な場合に、モータの電源を切っていた間の温度変化分が反映されず、モータ外部からの熱源に起因する温度変化が考慮されないため、モータ温度Tの推定の精度が正確に行われない虞がある。
【0061】
これに対し、本実施形態におけるモータ温度Tの推定方法は、前回温度を利用しない推定方式である。具体的には、モータに印加したdq軸電圧Vd、Vq、並びにモータから取得されるdq軸電流Id、Iq及び回転速度ωから算出可能な抵抗rのみを変数とする式1(T=αr+β)を用いてモータ温度Tを逐次算出する。そのため、本実施形態におけるモータ温度Tの推定方法は、モータの電源の再投入等による初期温度の影響を受けない。また、モータ外部からの熱源に起因する温度変化は、式1における抵抗rの変化として現れるため、モータ温度Tの推定結果に反映される。このように、本開示におけるモータ温度推定装置10によれば、モータ温度Tの推定精度を高めることができる。
【0062】
<その他の実施形態>
本発明におけるモータ温度推定装置10は、例えば、モータ温度推定方法としての実施形態を備える。すなわちモータ温度推定方法は、モータの温度を測定する温度センサが取得した温度データに基づいて、第1の温度時系列データを生成するステップと、前記第1の温度時系列データに基づいて、抵抗値時系列データを生成するステップと、前記抵抗値時系列データに基づいて、前記モータの温度を推定演算するためのパラメータを変化させることによって、第2の温度時系列データを生成するステップと、前記第1の温度時系列データと、前記第2の温度時系列データとを比較することによって、前記パラメータを決定するステップを備える。
【0063】
上記の例において、プログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体は、例えば、磁気記録媒体、光磁気記録媒体、CD-ROM(Read Only Memory)、CD-R、CD-R/W、半導体メモリを含む。半導体メモリは、例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(Random Access Memory)などである。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
【0064】
上記プログラムは、モータの温度を測定する温度センサが取得した温度データに基づいて、第1の温度時系列データを生成する処理と、前記第1の温度時系列データに基づいて、抵抗値時系列データを生成する処理と、前記抵抗値時系列データに基づいて、前記モータの温度を推定演算するためのパラメータを変化させることによって、第2の温度時系列データを生成する処理と、前記第1の温度時系列データと、前記第2の温度時系列データとを比較することによって、前記パラメータを決定する処理と、をコンピュータに実行させるモータ温度推定プログラムである。
【0065】
以上、本発明を上記実施形態に即して説明したが、本発明は上記実施形態の構成にのみ限定されるものではなく、本願特許請求の範囲の請求項の発明の範囲内で当業者であればなし得る各種変形、修正、組み合わせを含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0066】
1 モータ制御装置
10 モータ温度推定装置
11 モータ制御部
12 第1温度時系列データ生成部
13 抵抗値時系列データ生成部
14 第2温度時系列データ生成部
15 パラメータ決定部
16 温度推定部
20 3相交流モータ
21 固定座標変換部
22 空間ベクトル変換部
23 ドライバ部
24 電流検出部
25 3相2相変換部
26 回転座標変換部
27 回転角処理部
TS 温度センサ