(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-28
(45)【発行日】2024-11-06
(54)【発明の名称】電池冷却装置
(51)【国際特許分類】
H01M 10/6556 20140101AFI20241029BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20241029BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20241029BHJP
H01M 10/653 20140101ALI20241029BHJP
H01M 10/6568 20140101ALI20241029BHJP
【FI】
H01M10/6556
H01M10/613
H01M10/625
H01M10/653
H01M10/6568
(21)【出願番号】P 2021068379
(22)【出願日】2021-04-14
【審査請求日】2024-01-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川内野 大樹
(72)【発明者】
【氏名】越川 友彰
(72)【発明者】
【氏名】富田 充朗
(72)【発明者】
【氏名】古賀 毅
【審査官】宮本 秀一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-107442(JP,A)
【文献】特開2001-263877(JP,A)
【文献】特開平11-40211(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/52-10/667
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池を冷却する電池冷却装置において、
前記電池を冷却するための冷却器に冷却水を循環させるための冷却水循環回路と、
前記冷却水循環回路に冷却水を循環させるポンプと、
前記冷却水循環回路に配置されたリザーブタンクと、
前記リザーブタンクの内外に連通する連通部に設置された水素吸蔵合金と、
前記リザーブタンクの内部と前記水素吸蔵合金との間に介在するように設置された水素透過膜と、
を備えることを特徴とする電池冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池冷却装置に係り、特に、車両に搭載された電池を冷却するための冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、過充電等の際に電池内部で発生する水素ガスが冷却経路内に放出されることによる不具合を解消するための技術が開示されている。この技術では、電池から発生する水素ガスを選択的に吸着する吸着部材を冷却経路に備えることとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電池を冷却対象とした冷却装置では、冷却水の漏れによる漏電対策として、絶縁LLCと呼ばれる絶縁性能の高い冷却水が用いられる場合がある。絶縁LLCは、絶縁性を高めるというその性格上、各種の腐食抑制剤の添加に制限が生じることがある。このため、絶縁LLCを用いた冷却装置では、冷却水系の金属機器の腐食反応によって水素ガスが発生し、冷却水系に残留してしまうことがある。
【0005】
冷却水系に残留した水素を取り除く方法として、例えば特許文献1の技術を適用することが考えられる。しかし、特許文献1の技術では、吸着部材によって水素ガスを吸着できるものの、当該吸着部材の被水対策については検討されていない。吸着部材が冷却水に被水すると、信頼性の面において問題が生じるおそれがある。
【0006】
本開示は、上述のような課題に鑑みてなされたもので、電池を冷却するための冷却水系で発生した水素を系内から取り除くことのできる信頼性の高い電池冷却装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本開示は、電池を冷却する電池冷却装置に適用される。電池冷却装置は、電池を冷却するための冷却器に冷却水を循環させるための冷却水循環回路と、冷却水循環回路に冷却水を循環させるポンプと、冷却水循環回路に配置されたリザーブタンクと、リザーブタンクの内外に連通する連通部に設置された水素吸蔵合金と、リザーブタンクの内部と水素吸蔵合金との間に介在するように設置された水素透過膜と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
冷却水の腐食反応によって冷却水循環回路内で水素が発生した場合、発生した水素ガスはリザーブタンクから水素透過膜を透過した後に水素吸蔵合金に吸蔵される。このような構造を採用することにより、絶縁性の高い冷却水を利用した電池の冷却において、水素ガスを大気へ開放せずに冷却水循環回路内に水素が多量に溜まることを防ぐことができる。また、水素透過膜によって水素吸蔵合金への被水を防ぎながら水素ガスを吸着することができるので、信頼性の高い冷却装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の実施の形態の電池冷却装置の構成を説明するための図である。
【
図2】リザーブタンクの構造を説明するための図である。
【
図3】リザーブタンクに設置された水素吸蔵装置の構造を模式的に示した断面図である。
【
図4】水素吸蔵合金の温度と解離圧との関係を示す図である。
【
図5】本開示の実施の形態の水素吸蔵装置の変形例を示す図である。
【
図6】本開示の実施の形態の水素吸蔵装置の他の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本開示の実施の形態について説明する。ただし、以下に示す実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、この開示が限定されるものではない。また、以下に示す実施の形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、この開示に必ずしも必須のものではない。
【0011】
実施の形態.
本実施の形態について図を参照して説明する。
【0012】
1.実施の形態の構成
図1は、本開示の実施の形態の電池冷却装置の構成を説明するための図である。本実施の形態の電池冷却装置10は、車両を駆動するトルクを出力する電動機と、当該電動機へ電力を供給する電池と、を備えた車両に搭載される。実施の形態1では、上記の電動機とエンジンとを備えるハイブリッド車両を例に説明するが、エンジンを備えないEV車両や、外部充電機能を更に備えるプラグインハイブリッド車両でもよい。
【0013】
電池冷却装置10は、車両に搭載された電池を冷却するためのシステムである。電池は、例えば単電池を複数個積層した組電池として構成されている。電池の内部には、電池冷却用の冷却水が流通するための冷却水通路を含む冷却器14が設けられている。
【0014】
電池冷却装置10は、冷却水循環回路8を備えている。冷却水循環回路8には、冷却器14に冷却水を循環させる冷却水系の構成として、ポンプ12、リザーブタンク16、及び熱交換器18が搭載されている。これらの冷却水系の部品が冷却水配管によって環状に接続されることにより、冷却水循環回路8が形成されている。冷却水には、絶縁LLCと呼ばれる絶縁性能の高い冷却水が用いられる。
【0015】
熱交換器18は、空気又は冷媒との熱交換によって冷却水を冷却するためのものである。熱交換器18は、冷却器14の下流側の冷却水配管に配置されている。ポンプ12は、熱交換器18の下流側の冷却水配管に配置されている。ポンプ12は、冷却水循環回路8の冷却水を、冷却器14、リザーブタンク16、及び熱交換器18へと循環させる。
【0016】
冷却水循環回路8には、完全密閉型のリザーブタンク16が配置されている。
図2は、リザーブタンクの構造を説明するための図である。
図2に示すように、リザーブタンク16は、上面に注水口160と水素吸蔵装置20とを備えている。注水口160は、冷却水を注水するためのものである。水素吸蔵装置20は、リザーブタンク16内に溜まった水素を吸蔵するための装置である。以下、水素吸蔵装置20について更に詳細に説明する。
【0017】
2.水素吸蔵装置の特徴的構成
【0018】
図3は、リザーブタンクに設置された水素吸蔵装置の構造を模式的に示した断面図である。リザーブタンク16の上面には、リザーブタンク16の内外に連通する円筒状に突出した連通部161が形成されている。連通部161の端部には円環状のフランジ部162が形成されている。
図3は、リザーブタンク16の連通部161の中心軸を通る垂直面で水素吸蔵装置20が取り付けられた連通部161を切断したときの断面を模式的に図示している。
【0019】
図3に示すように、水素吸蔵装置20は、有蓋円筒状のキャップ22と、キャップ22の内部に設けられた水素吸蔵合金32と、Oリング24と、水素透過膜30と、を備える。キャップ22の側面には、円環状に張り出したフランジ部222と、溝部223と、が設けられている。溝部223には、Oリング24が取り付けられる。Oリング24は、水素吸蔵装置20のキャップ22を連通部161に嵌め込んだ際に、リザーブタンク16の内部を密閉するためのものである。水素吸蔵装置20のキャップ22を連通部161に嵌め込むと、フランジ部222がリザーブタンク16のフランジ部162に接触する。キャップ22のフランジ部222とリザーブタンク16のフランジ部162とは、ボルト26等の締結部材によって締結される。
【0020】
水素吸蔵合金32は、水素ガスを吸蔵し、吸蔵した水素を可逆的に放出することが可能な合金である。
図4は、水素吸蔵合金の温度と解離圧との関係を示す図である。一般的に、水素吸蔵合金は、低温又は高圧の状態において水素を吸蔵し、高温又は低圧の状態において水素を放出する傾向がある。水素吸蔵装置20で用いる水素吸蔵合金32の具体的な種類に限定はない。この図において実線枠で囲まれた範囲は、車載状態での水素吸蔵合金32の温度及び解離圧の範囲を例示している。例えば、水素吸蔵合金32は、この実線枠の範囲において水素を吸蔵し且つ放出しない、Mg系、Ti系、Ca系の水素吸蔵合金を採用することが好ましい。水素吸蔵合金32は、キャップ22の内部空間に配置される。
【0021】
水素透過膜30は、水素透過性を有する材料で形成されている。このような材料としては、シリコンゴム(VMQ)が例示される。水素透過膜30は、リザーブタンク16の内部と水素吸蔵合金32との間に介在するように設置される。典型的には、水素透過膜30は、キャップ22の開口端の溶着部221に溶着される。なお、水素透過膜30の膜厚に限定はない。冷却水系に発生する水素発生量と水素透過膜30からの水素透過量とが釣り合うように、水素透過膜30の仕様を設定すればよい。
【0022】
3.水素吸蔵装置の作用及び効果
本実施の形態の電池冷却装置10では、電池の漏電対策として絶縁LLCが使用されている。絶縁LLCは腐食抑制剤の添加が制限されるため、熱交換器18及び冷却器14において金属部品の腐食反応が起こり易い。腐食反応が起こるとアルカリ化によって水素が発生する。発生した水素は、冷却水循環回路8を流れてリザーブタンク16へと溜まる。
【0023】
水素吸蔵装置20の水素透過膜30は、リザーブタンク16に溜まった水素を透過させ、絶縁LLCを透過させない。水素吸蔵合金32は、水素透過膜30を透過して浸入した水素ガスを吸着する。このように、水素吸蔵装置20によれば、水素吸蔵合金32が絶縁LLCに被水することによる性能低下を防ぎながら、電池冷却装置10の冷却水循環回路8に水素が溜まることを防ぐことができる。これにより、信頼性の高い電池冷却装置10を提供することが可能となる。
【0024】
4.電池冷却装置の変形例
本実施の形態の電池冷却装置10は、以下のように変形した形態を採用してもよい。
【0025】
図5は、本実施の形態の水素吸蔵装置の変形例を示す図である。
図5に示す水素吸蔵装置20は、ボルト26に替えて、溶着によってキャップ22をリザーブタンク16に取り付けている。典型的には、フランジ部222の下面側の溶着部224がリザーブタンク16のフランジ部162の上面に溶着される。このような構成によれば、
図3に示すボルト26やOリング24の構成を備えることなくリザーブタンク16を密閉することができるので、部品点数の削減が図れる。
【0026】
図6は、本実施の形態の水素吸蔵装置の他の変形例を示す図である。
図6に示すリザーブタンク16の上面には、リザーブタンク16の内外に連通する円形の連通部163が形成されている。連通部163の外面側の端部には、Oリング24を配置するための溝が形成されている。水素吸蔵装置20は、キャップ22と、キャップ22の内部に設けられた水素吸蔵合金32と、Oリング24と、水素透過膜30と、爪部材28とを備える。キャップ22は、下端にフランジ部222が設けられている点を除き
図3に示すキャップ22と同様である。キャップ22の内部には水素吸蔵合金32が配置される。水素透過膜30は、フランジ部222の下面側の溶着部224に溶着される。
【0027】
爪部材28は、円筒状の部材の上端側にフランジ部281が設けられ、下端側に爪282が設けられた部品である。フランジ部281の上面側の溶着部283が水素吸蔵合金32の下面側に溶着されることにより、キャップ22及び水素透過膜30と一体化される。爪282は、水素吸蔵装置20を連通部163に挿入した際に、リザーブタンク16の内面側に篏合する。水素吸蔵装置20がリザーブタンク16に取り付けられると、爪部材28と連通部163との間を密閉するOリング24の効果により、リザーブタンク16が密閉される。このような構成によれば、
図3に示すボルト26の構成を備えることなくリザーブタンク16を密閉することができるので、部品点数の削減が図れる。また、水素吸蔵装置20はリザーブタンク16から容易に取り外すことができるので、メンテナンス性に優れている。
【0028】
本実施の形態の電池冷却装置10による冷却対象の電池に限定はない。すなわち、冷却対象の電池は、蓄電池のほか、燃料電池や太陽電池などにも適用することができる。
【符号の説明】
【0029】
8 冷却水循環回路
10 電池冷却装置
12 ポンプ
14 冷却器
16 リザーブタンク
18 熱交換器
20 水素吸蔵装置
22 キャップ
24 Oリング
26 ボルト
28 爪部材
30 水素透過膜
32 水素吸蔵合金
160 注水口
161 連通部
162 フランジ部
163 連通部
221 溶着部
222 フランジ部
223 溝部
224 溶着部
281 フランジ部
282 爪
283 溶着部